説明

車輛のサイドドア

【課題】MDB側突時におけるOFF要件での加速度レベルが上がることを抑制しつつ、ポール側突時におけるON要件での加速度レベルを上げる車輛のサイドドアの提供。
【解決手段】リインホースメント40の一部はドアアウタパネル10のドア下モール締結部14と車輛側面視にてラップする。該ラップ部分にリインホースメント40はポール側突時にクリップ68と当接するクリップ当接部50を有する。クリップ当接部50はMDB側突時にドアインナパネル側に変形するドアアウタパネル部分より下方に設定される。これによりOFF要件での加速度レベルを上げずにON要件での加速度レベルを上げることができる。リインホースメント40にはフランジ48が追加形成される。クリップ当接部50はフランジ48に形成されたビード52のクリップ対向壁か、またはフランジ48のドアアウタパネル側端部に追加形成された断面L型フランジ56の縦壁からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輛のサイドドアに関し、とくにサイドエアバッグを開かせないOFF要件での側面衝突検出センサの加速度レベルを上げずに、サイドエアバッグを開かせるON要件での側面衝突検出センサの加速度レベルを上げることができる車輛のサイドドアに関する。
【背景技術】
【0002】
側面衝突(以下、「側突」ともいう)には車輛が静止したポールに衝突するポール側突と相手車輛が衝突してくる側突とがある。相手車輛が衝突してくる側突は、側突試験において相手車輛を模擬したMDB(Moving Deformable Barrier )を台車に載せて試験車輛に衝突させるので、MDB側突ともいう。
加速度センサの検出加速度が大きい側面衝突、たとえば高速の側面衝突では、ポール側突とMDB側突ともサイドエアバッグ、たとえば頭部保護用カーテン式サイドエアバッグは展開される。
加速度センサの検出加速度が小さい側面衝突、たとえば低速の側面衝突では、MDBがBピラーにラップするMDB側突の場合、サイドドアの室内側への進入量が小さくカーテン式サイドエアバッグは展開されず、サイドドアが局部的に変形されるポール側突の場合、サイドドアの室内側への進入量が大きくカーテン式サイドエアバッグは展開される。また、ポール側突では加速度センサのセンサ出力が小さくなりかつセンシングが遅れるので、サイドドアにリインホースメントが追加される。
【0003】
側面衝突時にサイドエアバッグを展開させるON要件と、展開させないOFF要件との切分けは、従来、サイドドアに設けた加速度センサからの信号を車輛搭載のECU(電子制御装置)に入力して演算処理し、該処理値をECUに設定した所定値と比較することによって行っている。この場合、ON要件の加速度レベルとOFF要件の加速度レベルとのレベル差が十分でないと、検出値のばらつきを考慮した時にON・OFFの切分けができなくなる。たとえば、ON要件の検出加速度の幅とOFF要件の検出加速度の幅とが一部重なり、この重なり域にECUに設定した所定値がくると、ON・OFFの切分けができなくなり、エアバッグの誤展開や非展開などの不具合が生じる。
【0004】
特許文献1は、図11、図12に示すように、サイドドア101のドアアウタパネル110とドアインナパネル120との間の空間部の下部にリインホースメント140を追加し、リインホースメント140とドアインナパネル120とで閉断面空間部Sを形成したサイドドアを開示している。上記リインホースメント140を追加したサイドドアでは、ON要件で、ドアアウタパネル110の下部に加わる衝撃がドアインナパネル120のドアトリム側(車室側と同じ、以下、車室側ともいう)表面に取り付けられた側面衝突検出センサ170に比較的十分に伝達され、センサ170がON要件で大きな加速度を出力できるという効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−170066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、図11、図12に示す構造には、車輛によってはエアバッグのON・OFFを切分ける加速度レベル差が未だ不十分な場合があるという問題がある。
図11、図12の構造における、ON要件での加速度レベルを上げるために、図13の比較例に示すように、リインホースメント140にリインホースメント140の上下方向全長にわたってドアアウタパネル110側に突出するビード152を追加形成することが考えられる。ただし、図13の比較例は従来公知ではない。
【0007】
しかし、図13の比較例にも、以下の問題がある。
すなわち、図14に示すように、OFF要件において、MDB188からの側突によって変形されたドアアウタパネル110とビード152との接触タイミングがビード152を設けない場合に比べて早くなり、加速度レベルが上がってしまう。ON要件での加速度レベルを上げるためにビード152を設けたにもかかわらず、OFF要件での加速度レベルも上がってしまうので、ON・OFFを切分ける加速度レベル差を拡大することが困難となる。
【0008】
また、ドア下のドアインナパネル120とドアアウタパネル110との合わせ部の上端部には水分で下方が錆びるのを防止するためにシール用ワックスが塗布されるが、この塗布工程で、ビード152が邪魔になる。すなわち、ワックス塗布用ノズル190をドアインナパネル120のサービスホールを通してドアインナパネル120とドアアウタパネル110との間の空間部に挿入しドアインナパネル120とドアアウタパネル110との合わせ部上端に沿って車輛前後方向に移動させる時に、図15に示すように、ノズル190がビード152に干渉する。
【0009】
本発明の目的は、MDB側突におけるOFF要件での加速度レベルが上がることを抑制したまま、ポール側突におけるON要件での加速度レベルを上げることができる車輛のサイドドアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記課題を解決する本発明の車輛のサイドドアは、下端部にモール取付部を有するドアアウタパネルと、内側縦壁と段部をもつ底壁とを有するドアインナパネルと、モール取付部の外面に取り付けられるドア下モールおよびドア下モールをモール取付部に締結しモール取付部の内面よりドアインナパネル側に位置する先端をもつクリップと、ドアインナパネルの内側縦壁のドアトリム側面に取り付けられた側面衝突検出センサと、ドアインナパネルに側面衝突検出センサ取付部のドアアウタパネル側面にて取り付けられる第1の縦壁と底壁の段部のドアアウタパネル側面にて取り付けられる第2の縦壁と該第2の縦壁と第1の縦壁とを連結しドアインナパネルとで閉断面を形成する連結部とを含むリインホースメントと、を備える。
リインホースメントは少なくとも一部にドアアウタパネルのモール取付部と車輛側面視にてラップするラップ部分を有している。
リインホースメントは上記ラップ部分に通常時にはクリップから隔たっておりポール側突時にクリップと当接するクリップ当接部を有しており、該クリップ当接部はMDB側突時に該クリップ当接部よりもドアインナパネル側に変形するドアアウタパネル部分より下方に設定されている。
【0011】
(2)上記(1)の車輛のサイドドアにおいて、クリップ当接部は、車輛左右方向に、リインホースメントの第2の縦壁よりドアアウタパネル側でかつドアアウタパネルより第2の縦壁側に隔たっており、上下方向に、前記リインホースメントの第2の縦壁の上端より下方に位置している。
【0012】
(3)上記(1)または(2)の車輛のサイドドアにおいて、リインホースメントには、第2の縦壁の下端に、該第2の縦壁の下端から車輛左右方向にドアアウタパネルに向かってドアアウタパネルからドアインナパネル側に隔たった位置まで延びるフランジが追加形成され、該フランジから上記クリップ当接部が上方または下方に延びている。
【0013】
(4)上記(3)の車輛のサイドドアにおいて、リインホースメントには、フランジと第2の縦壁の下端部とにまたがってビードが形成されており、該ビードのクリップに対向する対向壁がクリップ当接部を構成する。
【0014】
(5)上記(3)の車輛のサイドドアにおいて、リインホースメントには、フランジのドアアウタパネル側端部から下方に延びる縦壁と該縦壁の下端から車輛左右方向にドアアウタパネル側にかつドアアウタパネルからドアインナパネル側に隔たった位置まで延びる横壁とをもつ断面L型フランジが追加形成されており、該断面L型フランジの上記縦壁がクリップ当接部を構成する。
【発明の効果】
【0015】
上記(1)の車輛のサイドドアによれば、リインホースメントは少なくとも一部にドアアウタパネルのモール取付部と車輛側面視にてラップするラップ部分を有しており、該ラップ部分に通常時にはクリップから隔たっておりポール側突時にクリップと当接するクリップ当接部を有しているので、ポール側突時に、クリップの先端をクリップ当接部に早期に当接させることができ、ON要件で側面衝突検出センサが出力する加速度レベルを上げることができる。
【0016】
また、クリップ当接部はMDB側突時に該クリップ当接部よりもドアインナパネル側に変形するドアアウタパネル部分より下方位置に設定されているので、MDB側突時に、MDBがドアアウタパネルを変形させながら、該変形により生じたドアアウタパネルの傾斜面上を滑り、クリップ先端がクリップ当接部を直接押さないため、OFF要件で側面衝突検出センサが出力する加速度レベルが上がることを抑制できる。
【0017】
上記(2)の車輛のサイドドアによれば、クリップ当接部が、車輛左右方向に、リインホースメントの第2の縦壁よりドアアウタパネル側でかつドアアウタパネルより第2の縦壁側に隔たっており、上下方向に、リインホースメントの第2の縦壁の上端より下方に位置しているので、ワックス塗布時にワックス塗布ノズルがクリップ当接部に当たらず、クリップ当接部がワックス塗布作業の邪魔にならないようにすることができる。
【0018】
上記(3)の車輛のサイドドアによれば、リインホースメントが、該リインホースメントの第2の縦壁の下端に追加形成されたフランジを有しているので、第2の縦壁とフランジとを含む車輛前後方向に延びる梁の車輛左右方向曲げ剛性が上がる。該梁は、その上方にある車輛左右方向曲げ剛性が高い、リインホースメント連結部とドアインナパネルとの閉断面構造部分と協働して、側面衝突時にクリップ当接部を介してフランジにかかった荷重を側面衝突検出センサに十分に伝達することができる。その結果、ポール側面衝突時の側面衝突検出センサの加速度レベルを上げることができる。
【0019】
上記(4)の車輛のサイドドアによれば、フランジと第2の縦壁の下端部とにまたがってビードが形成されており、該ビードのクリップに対向する対向壁がクリップ当接部を構成するので、リインホースメントの下端部にクリップ当接部を形成することができる。その結果、ポール側突でクリップ先端がクリップ当接部を押し、MDB側面衝突でクリップ先端がクリップ当接部を直接押さないようにすることができる。
また、ビードがリインホースメントの全高にわたって形成されていないため、および、ドア下のシール用ワックスはドア下モールをクリップで取り付ける前に塗布されるため、ワックス塗布ノズルを車輛前後方向に移動させる時にクリップ当接部やクリップが塗布ノズルの移動を邪魔することがなくワックス塗布の作業性がよい。
【0020】
上記(5)の車輛のサイドドアによれば、フランジのドアアウタパネル側端部に断面L型フランジが形成され該断面L型フランジの縦壁がクリップ当接部を構成するので、リインホースメントの下端部にクリップ当接部を形成することができる。その結果、ポール側突でクリップ先端がクリップ当接部を押し、MDB側突でクリップ先端がクリップ当接部を直接押さないようにすることができる。
また、断面L型フランジの縦壁をクリップ当接部としておりリインホースメントの全高にわたるビードが無いため、および、ドア下のシール用ワックスはドア下モールをクリップで取り付ける前に塗布されるため、塗布ノズルを車輛前後方向に移動させる時にクリップ当接部やクリップが塗布ノズルの移動を邪魔することがなくワックス塗布の作業性がよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1に係る車輛のサイドドアのサイドウィンドウより下方の部分の、ドアアウタパネルを外した状態でドアアウタパネル側から見た斜視図である。
【図2】側面衝突試験時のポールおよびMDBを合わせて示した、図1のA−A線に沿って見たサイドドアの拡大断面図である。
【図3】図1のB−B線に沿って見たサイドドアの一部の拡大断面図である。
【図4】図1のサイドドアのうち、リインホースメントとその近傍の拡大斜視図である。
【図5】図4のC−C線に沿って見たサイドドアの一部の断面図である。
【図6】図5のサイドドア部分のポール側突での変形を示す断面図である。
【図7】図5のサイドドア部分のMDB側突での変形を示す断面図である。
【図8】図5のサイドドア部分のシール用ワックス塗布時の断面図である。
【図9】本発明の実施例2に係る車輛のサイドドアのサイドウィンドウより下方の部分の、リインホースメントとその近傍の斜視図である。
【図10】図9のD−D線に沿って見たサイドドアの一部の断面図である。
【図11】特許文献1のサイドドアのリインホースメントとその近傍部分の、ドアアウタパネルを外した状態でドアアウタパネル側から見た斜視図である。
【図12】図11のE−E線に沿って見たサイドドアの断面図である。
【図13】図11のサイドドアで、リインホースメントに全高にわたってビードを設けた比較例に係る車輛のサイドドアの斜視図である。
【図14】図13のサイドドアの、MDB側突での変形を示す断面図である。
【図15】図13のサイドドアの、シール用ワックス塗布時の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る車輛のサイドドアを図1〜図10を参照して説明する。図1〜図8は本発明の実施例1に係り、図9および図10は本発明の実施例2に係る。実施例1と実施例2に共通する部分は両実施例にわたって同じ符号を付してある。図中、「UP」は車輛上下方向上側を示し、「FR」は車輛前後方向前側を示し「OUT」は車輛左右方向外側を示す。
【0023】
〔実施例1〕
本発明の実施例1の構成を図1〜図8を参照して説明する。
本発明の実施例1に係る車輛のサイドドア1は、図1〜図5に示すように、ドアアウタパネル10と、ドアインナパネル20と、リインホースメント40と、ドア下モール60およびクリップ68と、加速度センサである側面衝突検出センサ70と、を有する。ドアアウタパネル10と、ドアインナパネル20と、リインホースメント40はたとえば鋼板製等の金属製または繊維強化樹脂製であり、ドア下モール60およびクリップ68はたとえば樹脂製または繊維強化樹脂製である。
【0024】
ドアアウタパネル10は、上下方向に延びる壁(以下、「上下方向に延びる壁」を「縦壁」という)12と、縦壁12の下端部に連なり下方に延びるモール取付部14と、モール取付部14の下端部に連なり上方に折り返される折り返し部16を有する。モール取付部14の外面にはドア下モール60が締結される。ドアアウタパネル10はモール取付部14と折り返し部16との間にドアインナパネル20の下端部を挟み、このヘミング部位でドアインナパネル20と連結される。
【0025】
ドアインナパネル20はドアアウタパネル10の車輛左右方向内側(以下、車室側ともいう)に位置する。ドアインナパネル20とドアアウタパネル10との間には空間がある。ドアインナパネル20は、内側縦壁22と、内側縦壁22より車輛左右方向外側にあり上端が内側縦壁22の下端かそれより低い位置にある外側縦壁32と、内側縦壁22の下端と外側縦壁30の上端との間に車輛左右方向に延び車輛左右方向の途中に段部28をもつ底壁24とを有する。底壁24はドアインナパネル20とドアアウタパネル10との間の空間を下側から覆う。外側縦壁32はサイドドア閉時にロッカ80の外面に対向する。ドアインナパネル20とドアアウタパネル10との間の空間には車輛前後方向に延びるインパクトビーム82が配置され、側面衝突時にドアアウタパネル10が車室側に変形した時にドアアウタパネル10に当たってドアアウタパネル10が大きく変形することを抑制する。また、ドアインナパネル20にはサービスホール36が形成されている。
【0026】
外側縦壁32の下端部が上述したドアアウタパネル10のモール取付部14と折り返し部16との間に挟まれる。ドアアウタパネル10とドアインナパネル20との合わせ部の上端部には、シール用ワックスがワックス塗布ノズル90によって塗布される。ワックスはドアアウタパネル10とドアインナパネル20との間の空間部側からドアアウタパネル10とドアインナパネル20との合わせ部に塗布される。ワックス塗布ノズル90はドアインナパネル20のサービスホール36からドアアウタパネル10とドアインナパネル20との間の空間部に挿入され、ドアアウタパネル10とドアインナパネル20との合わせ部に沿って車輛前後方向に移動される。ワックスの塗布はドア下モール60のクリップ68による取り付け前に行われる。
【0027】
底壁24は、ドアインナパネル20の内側縦壁22の下端から横方向にかつ車輛左右方向外側にドアインナパネル20とドアアウタパネル10との中間位置まで延びる内側横壁26と、内側横壁26の車輛左右方向外側端から折れ曲がって下方に延びる上記段部28と、段部28の下端から斜め下方にかつ車輛左右方向外側に外側縦壁32の上端まで延び外側縦壁32に連なる外側横壁30と、を有する。ドアインナパネル20の内側縦壁22の下部でかつ車輛前後方向中間部は、車輛左右方向内側面すなわちドアトリム側面に側面衝突検出センサ70が取り付けられるセンサ取付部34となっている。
【0028】
リインホースメント40は、ドアインナパネル20の下部で、車輛前後方向中間部に設けられる。リインホースメント40は、ドアインナパネル20のセンサ取付部34のドアアウタパネル側面に取り付けられる第1の縦壁42と、ドアインナパネル20の底壁段部28のドアアウタパネル側面に取り付けられる第2の縦壁44と、第2の縦壁44と第1の縦壁42とを連結する連結部46とを含む。ドアインナパネル20およびリインホースメント40が金属製の場合、リインホースメント40の第1の縦壁42および第2の縦壁44はドアインナパネル20にスポット溶接にて固定される。図4において、「×」はスポット溶接部84を示す。なお、丸で囲んだ「×」は後述する3枚重ねのスポット溶接部84を示している。
【0029】
連結部46は車輛前後方向に見た時に断面が屈曲するかまたは湾曲している。図示例では、連結部46の断面が屈曲しており、たとえば第1の縦壁42の下端からドアアウタパネル10側に斜め下方に延びる第1の傾斜壁46aと、該第1の傾斜壁46aの下端から第1の傾斜壁46aの傾斜より急な傾斜でドアアウタパネル10側に斜め下方に第2の縦壁44の上端まで延びる第2の傾斜壁46bとを有する。
【0030】
リインホースメント40の連結部46はドアインナパネル20の内側縦壁22の下端部および内側横壁26と協働して閉断面空間部Sを内部に有する梁を形成する。閉断面の空間部Sは車輛前後方向に延び前後端で開放している。閉断面構成とすることによって、車輛前後方向に延びる閉断面梁の車輛左右方向曲げ剛性が向上し、リインホースメント40の第2の縦壁44に側面衝突荷重がかかった時にその荷重がセンサ取付部34に効果的に伝達され、側面衝突検出センサ70が検出する加速度が大きくなる。
【0031】
ドア下モール60は、クリップ68によりドアアウタパネル10のモール取付部14に取り付けられる。ドア下モール60は外側部62と内側部64とインテグラルヒンジ66を有する。外側部62は内側部64に対してインテグラルヒンジ66部位で屈曲可能である。外側部62が内側部64下端につり下がった状態で内側部64をクリップ68によりモール取付部14に取り付け、ついで外側部62をインテグラルヒンジ66まわりに回動させて内側部64外面に対向する位置に持ち上げ内側部64に係合させて内側部64に固定する。
【0032】
クリップ68は、車輛左右方向内側端が閉じ車輛左右方向外側端にフランジをもつフランジ付き外筒68aと頭部付きピン68bを有する。ドア下モール60の内側部64はモール取付部14につぎのように取り付けられる。まず、フランジ付き外筒68aの車輛左右方向内側端を車輛左右方向内側に向けてフランジ付き外筒68aをモール取付部14のクリップ取り付け孔に挿通させフランジ付き外筒68aのフランジをドアアウタパネル10のモール取付部14の外面に密着させる。ついで、ドア下モール60の内側部64に形成した孔とフランジ付き外筒68aの軸芯とが一致するように、ドア下モール60の内側部64をフランジ付き外筒68aのフランジ外面に当て、頭部付きピン68bをドア下モール60の内側部64に形成した孔を挿通させてフランジ付き外筒68aに挿入し、ドア下モール60の内側部64の孔周辺部をフランジ付き外筒68aのフランジと頭部付きピン68bの頭部とで挟む。ついで、ドア下モール60の外側部62を内側部64に対してインテグラルヒンジ66まわりに回動させ、外側部62を内側部64に係合させ、固定する。
【0033】
フランジ付き外筒68aがモール取付部14に取り付けられた状態では、フランジ付き外筒68aの先端はドアアウタパネル10のモール取付部14を挿通してドアインナパネル20側に突出しており、フランジ付き外筒68aの車輛左右方向内側端はモール取付部14のドアインナパネル20側面よりドアインナパネル20側にある。
【0034】
側面衝突検出センサ(以下、単に「側突センサ」という)70は加速度を検出して電気信号を発する加速度センサである。側突センサ70は、ドアインナパネル20のセンサ取付部34の車輛左右方向内側面(ドアトリム側面)に固定されたブラケット72に取り付けられる。図3に示すように、ブラケット72は、センサ取付部34と平行に延びる部分と該部分に対して折れ曲がってセンサ取付部34まで延びる部分とを有するU字状部72aと、U字状部72aの両端から互いに反対方向にかつセンサ取付部34と平行に延びるフランジ部72bを有する。フランジ部72bとドアインナパネル20とリインホースメント40は3枚重ねでスポット溶接にてドアインナパネル20に固定される。
【0035】
側突センサ70には該センサの一端部からセンサ長手方向に延びる延設部70aが設けられており、該延設部70aをボルト74、ナットにてブラケット72のU字状部72aに固定することにより、側突センサ70がブラケット72に固定される。側突センサ70からワイヤハーネス76が図示略のECU(電子制御装置)まで延びており、このワイヤハーネス76を介して側突センサ70の出力がECUに入力される。ECUは、側突センサ70からの入力を演算処理し、演算値がECUに予め設定しておいた所定値以上で図示略のカーテン式サイドエアバッグを展開させ、該所定値より小ではカーテン式サイドエアバッグを展開させない。
【0036】
停止しているポール86に車輛が側面衝突していくポール側突時は、車体が急に止まって乗員頭部が慣性でサイドウインドガラスに向かって移動するのでカーテン式サイドエアバッグを展開させなければならないため、エアバッグを展開させるON要件に対応し、側面衝突してくる相手車輛をMDB88で模擬したMDB側突時は、MDBがドアアウタパネル10を変形させながら変形させたドアアウタパネル10上を滑りMDB88が直接でリインホースメント40下端部を押さないため、エアバッグを展開させないOFF要件に対応する。
【0037】
ECUは側突センサ70からの入力を演算処理することにより、側面衝突時にカーテン式サイドエアバッグを展開させる、させないの切り分けを行う。この場合、サイドエアバッグを展開させるON要件とサイドエアバッグを展開させないOFF要件との加速度のレベル差が十分でないと、検出加速度のバラツキを考慮した場合ON、OFFの切り分けができなくなる。
【0038】
本発明では、ON要件での加速度レベルとOFF要件での加速度レベルとの差を十分にとるために、以下の構成をとる。
リインホースメント40は少なくとも一部にドアアウタパネル10のモール取付部14と車輛側面視にてラップするラップ部分を有している。このラップ部分は、リインホースメント40の第2の縦壁44の下部を含む。
【0039】
リインホースメント40は、上記ラップ部分に、通常時(側面衝突時ではない時)にはクリップ68から車輛左右方向内側に隔たっていてクリップ68に当接せずポール側突時にドアアウタパネル10の変形を伴って車輛左右方向内側にかつ若干斜め上方に移動してくるクリップ68の先端と当接するクリップ当接部50を有している。クリップ当接部50はリインホースメント40に一体に形成されてリインホースメント40の一部を構成する。
【0040】
クリップ当接部50は上下方向に延びる。クリップ当接部50は通常時に車輛左右方向にクリップ68に対向するクリップ対向壁から構成されている。
クリップ当接部50は、ドアアウタパネル10に取り付けられたクリップ68の先端と同じ高さ位置かまたはそれより若干上方に位置する。ただし、クリップ当接部はモール取付部14の上端よりは下方にある。
【0041】
クリップ当接部50はMDB側突時にMDB88によって押されてクリップ当接部50よりもドアインナパネル20側に変形するドアアウタパネル部分より下方に設定されている。MDB側突時にドアインナパネル20側に変形するドアアウタパネル部分はクリップ68より上方にあり、MDB側突時にはクリップ68はクリップ当接部50側にクリップ当接部50を押す位置にまでは移動しない。
【0042】
クリップ当接部50は、車輛左右方向に、リインホースメント40の第2の縦壁44よりドアアウタパネル10側でかつドアアウタパネル10より第2の縦壁44側に隔たっている。クリップ当接部50は、上下方向に、リインホースメント40の第2の縦壁44の上端より下方に位置しており、望ましくはリインホースメント40の第2の縦壁44の下部かそれより下方に位置している。したがって、クリップ当接部50はリインホースメント40の全高さにわたって形成されるものではない。
【0043】
リインホースメント40には、第2の縦壁44の下端に、該第2の縦壁44の下端から車輛左右方向にドアアウタパネル10に向かってドアアウタパネル10からドアインナパネル20側に隔たった位置まで延びるフランジ48が追加形成されている。クリップ当接部50は、第2の縦壁44からドアアウタパネル10側に隔たった位置で、フランジ48から上方または下方に延びている。フランジ48はリインホースメント40に一体に形成されてリインホースメント40の一部を構成する。
以上までの構成は後述する本発明の実施例2にも共通する。
【0044】
本発明の実施例1においては、リインホースメント40に、フランジ48と第2の縦壁44の下端部とにまたがってビード52が形成されている。ビード52はクリップ68に対向する対向壁と、該対向壁の上端と第2の縦壁44との間に延びるビード天井壁54とを有し、該ビード52のクリップ68に対向する対向壁が上記のクリップ当接部52を構成する。ビード52のドアインナパネル段部28側は第2の縦壁44によって覆われておらず、段部28に向かって開放している。ビード52の車輛前後方向両側はビード天井壁54とフランジ48との間にわたって延びる側壁によって覆われている。ただし、この側壁はなくてもよい。ビード52は図15の比較例と異なりリインホースメント40の全高にわたっては形成されない。ビード52はリインホースメント40のプレス成形時に同時にプレス成形によって形成される。
【0045】
クリップ68が車輛前後方向に複数個互いに間隔をおいて設けられるので、クリップ68に対向する位置に、ビード52もリインホースメント40に複数個互いに間隔をおいて設けられる。ただし、クリップ68に対向する位置にビードが設けられていれば車輛前後方向に連続する1つのビード52としてもよい。
【0046】
つぎの本発明の実施例1の作用、効果を説明する。
リインホースメント40が少なくとも一部にドアアウタパネル10のモール取付部14と車輛側面視にてラップするラップ部分を有しており、該ラップ部分に通常時にはクリップ68から隔たっておりポール側突時にクリップ68と当接するクリップ当接部50を有している。そのため、図6に示すように、ON要件すなわちポール86との側面衝突で、ドアアウタパネル10が一様にドアインナパネル20側に変形する時に、クリップ68の先端をクリップ当接部50に側面衝突時の早いタイミングで当接させることができ、ON要件で側突センサ70が出力する加速度レベルを上げることができる。
【0047】
また、クリップ当接部50はMDB側突時に車輛左右方向に該クリップ当接部50よりもドアインナパネル20側に変形するドアアウタパネル部分より下方位置に設定されている。そのため、図7に示すように、MDB側突では、MDB88がドアアウタパネル10のクリップ68より上にある部分を変形させながら、変形したドアアウタパネル部分の傾斜面上を滑り、クリップ50先端がクリップ当接部50を直接押さないため、OFF要件で側突センサ70が出力する加速度レベルが上がることを抑制できる。
【0048】
図11および図12の従来例では、ON要件での加速度レベルが低いためON要件での加速度レベルとOFF要件での加速度レベルとの差を十分に出すことができなかった。図13および図14の比較例では、ON要件での加速度レベルが上がるがOFF要件での加速度レベルも上がるので、ON要件での加速度レベルとOFF要件での加速度レベルとの差を十分に出すことができない。
これに対し、本発明では、MDB側突時におけるOFF要件での加速度レベルを上げないでポール側突時におけるON要件での加速度レベルのみを上げるため、ON要件での加速度レベルとOFF要件での加速度レベルとの差を十分に出すことができる。ON要件でのバラツキを考慮した加速度レベル域の最小値とOFF要件でのバラツキを考慮した加速度レベル域の最大値との間にECUのカーテン式サイドエアバッグのON、OFFの切り分けの所定値を設定することにより、側面衝突時にカーテン式サイドエアバッグのON、OFFを切り分けることができる。
【0049】
また、クリップ当接部50が、車輛左右方向に、リインホースメント40の第2の縦壁44よりドアアウタパネル10側でかつドアアウタパネル10より第2の縦壁44側に隔たっており、上下方向に、リインホースメント40の第2の縦壁44の上端より下方に位置している。このため、図8に示すように、ワックス塗布時にワックス塗布ノズル90がクリップ当接部50に当たらず、クリップ当接部50がワックス塗布作業の邪魔にならないようにすることができる。なお、ワックス塗布はクリップ68取付前に行うので、クリップ68がワックス塗布作業の邪魔になることはない。これを、図15の比較例と比較すると、比較例ではクリップ当接部がリインホースメントの上端まで延びているので、クリップ当接部が車輛前後方向に移動するワックス塗布ノズルと干渉し、ワックス塗布作業の邪魔になる。
【0050】
リインホースメント40が、該リインホースメント40の第2の縦壁44の下端に追加形成されたフランジ48を有しているので、第2の縦壁44とフランジ48とを含む車輛前後方向に延びる梁の車輛左右方向曲げ剛性が上がる。該梁は、その上方にある車輛左右方向曲げ剛性が高い、リインホースメント連結部46とドアインナパネル20との閉断面構造部分と協働して、側面衝突時にクリップ当接部50を介してフランジ48にかかった荷重を側突センサ70に十分に伝達することができる。その結果、ポール側突時の側突センサ70の加速度レベルを上げることができる。
以上までの作用、効果は後述する本発明の実施例2にも共通する。
【0051】
本発明の実施例1では、フランジ48と第2の縦壁44の下端部とにまたがってビード52が形成されており、該ビード52のクリップ68に対向する対向壁がクリップ当接部50を構成するので、リインホースメント40の下端部にクリップ当接部50を形成することができる。
その結果、ポール側突でクリップ先端がクリップ当接部50を押し、MDB側突でクリップ先端がクリップ当接部50を直接押さないようにすることができる。
また、ビード52がリインホースメント40の全高にわたって形成されていないため、および、ドア下のシール用ワックスがドア下モール60をクリップ68で取り付ける前に塗布されるため、ワックス塗布ノズル90を車輛前後方向に移動させる時にクリップ当接部50やクリップ68が塗布ノズル90の移動を邪魔することがなくワックス塗布の作業性がよい。
【0052】
〔実施例2〕
つぎに、本発明の実施例2を説明する。本発明の実施例1で実施例2にも共通するとした構成、作用、効果部分は実施例2にも適用されるので、本発明の実施例1と異なる部分のみを、以下に説明する。
構成については、図9および図10に示すように、リインホースメント40には、フランジ48のドアアウタパネル10側端部から下方に延びる縦壁50と該縦壁の下端から車輛左右方向にドアアウタパネル10側にかつドアアウタパネル10からドアインナパネル20側に隔たった位置まで延びる横壁58とをもつ断面L型フランジ56が追加形成されている。該断面L型フランジ56の縦壁がクリップ当接部50を構成する。断面L型フランジ56はドアインナパネル20の外側横壁30の上方に位置する。断面L型フランジ56は車輛前後方向にリインホースメント40と同じ長さかまたはほぼ同じ長さで延びている。断面L型フランジ56はフランジ48に一体に形成されてリインホースメント40の一部を構成する。
【0053】
作用、効果については、フランジ48のドアアウタパネル10側端部に断面L型フランジ56が形成され該断面L型フランジ56の縦壁がクリップ当接部50を構成するので、リインホースメント40の下端部にクリップ当接部50を形成することができる。その結果、ポール側突でクリップ68先端がクリップ当接部50を押し、MDB側突でクリップ68先端がクリップ当接部50を直接押さないようにすることができる。
また、断面L型フランジ56の縦壁をクリップ当接部50としておりリインホースメント40の全高にわたるビードが無いため、および、シール用ワックスはドア下モール60をクリップ68で取り付ける前に塗布されるため、ワックス塗布ノズル90を車輛前後方向に移動させる時にクリップ当接部50やクリップ68がワックス塗布ノズル90の移動を邪魔することがなくワックス塗布の作業性がよい。
【符号の説明】
【0054】
1 サイドドア
10 ドアアウタパネル
14 モール取付部
20 ドアインナパネル
22 内側縦壁
24 底壁
28 段部
40 リインホースメント
42 第1の縦壁
44 第2の縦壁
46 連結部
48 フランジ
50 クリップ当接部
52 ビード
56 断面L型フランジ
60 ドア下モール
68 クリップ
70 側突センサ
86 ポール
88 MDB
S 閉断面空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端部にモール取付部を有するドアアウタパネルと、
内側縦壁と段部をもつ底壁とを有するドアインナパネルと、
前記モール取付部の外面に取り付けられるドア下モールおよびドア下モールをモール取付部に取り付け前記モール取付部の内面よりドアインナパネル側に位置する先端をもつクリップと、
前記ドアインナパネルの内側縦壁のドアトリム側面に形成されたセンサ取付部に取り付けられた側面衝突検出センサと、
前記ドアインナパネルに前記センサ取付部のドアアウタパネル側面にて固定される第1の縦壁と前記底壁の段部のドアアウタパネル側面にて固定される第2の縦壁と該第2の縦壁と前記第1の縦壁とを連結し前記ドアインナパネルとで閉断面を形成する連結部とを含むリインホースメントと、
を備えた車輛のサイドドアであって、
前記リインホースメントは少なくとも一部に前記ドアアウタパネルのモール取付部と車両側面視にてラップするラップ部分を有しており、
前記リインホースメントは前記ラップ部分に通常時にはクリップから隔たっておりポール側突時にクリップと当接するクリップ当接部を有しており、該クリップ当接部はMDB側突時に該クリップ当接部よりもドアインナパネル側に変形するドアアウタパネル部分より下方に設定されている、
車輛のサイドドア。
【請求項2】
前記クリップ当接部は、車両左右方向に、前記リインホースメントの第2の縦壁よりドアアウタパネル側でかつドアアウタパネルより第2の縦壁側に隔たっており、上下方向に、前記リインホースメントの第2の縦壁の上端より下方に位置している、請求項1記載の車輛のサイドドア。
【請求項3】
前記リインホースメントには、前記リインホースメントの第2の縦壁の下端に、該第2の縦壁の下端から車両左右方向に前記ドアアウタパネルに向かって前記ドアアウタパネルから前記ドアインナパネル側に隔たった位置まで延びるフランジが追加形成され、該フランジから前記クリップ当接部が上方または下方に延びている請求項1または請求項2記載の車輛のサイドドア。
【請求項4】
前記リインホースメントには、前記フランジと前記第2の縦壁の下端部とにまたがってビードが形成されており、該ビードの前記クリップに対向する対向壁が前記クリップ当接部を構成する、請求項3記載の車輛のサイドドア。
【請求項5】
前記リインホースメントには、前記フランジのドアアウタパネル側端部から下方に延びる縦壁と該縦壁の下端から車両左右方向にドアアウタパネル側にかつドアアウタパネルからドアインナパネル側に隔たった位置まで延びる横壁とをもつ断面L型フランジが追加形成されており、該断面L型フランジの前記縦壁が前記クリップ当接部を構成する、請求項3記載の車輛のサイドドア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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