説明

車輪駆動装置

【課題】車輪がハブベアリングの摩耗で変位したとき、この変位を、モータ駆動ユニット内に至らしめることなく吸収し得るような車輪駆動装置を提供する。
【解決手段】モータ13の回転は出力軸14を経てホイールハブ5(車輪1)に達する。モータ駆動ユニット11は、出力軸14の両端を軸受15,16でユニットケース12に支持して構成し、出力軸14の突出端14aをホイールハブ5に剛結合する。ユニットケース12の内端中心部から径方向外方へ延在して車輪支持部材2の内端開口部2bに至る弾性円環体21でモータ駆動ユニット11を車輪支持部材2に取り付ける。ハブベアリング4のガタでホイールハブ5(車輪1)が変位すると、これに連動して弾性円環体21がモータ駆動ユニット11(出力軸14およびユニットケース12)を介し弾性変形する。よって、ホイールハブ5(車輪1)の変位がモータ駆動ユニット11の内部に至ることがなく、モータ13のロータ13rがステータ13sと干渉する不具合を回避し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を個々の電動モータにより駆動して走行可能な電気自動車に用いられる、車輪駆動装置の改良提案に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかる車輪駆動装置としては従来、例えば特許文献1に記載のようなものが知られている。
この車輪駆動装置は、電動モータと、該電動モータからの回転を取り出す出力軸とから成るモータ駆動ユニットを具え、該モータ駆動ユニットの出力軸を車輪に駆動結合し、各車輪を個々のモータ駆動ユニットにより駆動して、電気自動車を走行させるものである。
【0003】
ところで上記の車輪駆動装置にあっては、車輪を回転自在に支持するハブベアリングのガタや寸法公差に起因して、車輪が揺動したり、軸線方向へ移動したとき、これら車輪の変位を何処かで吸収する必要がある。
特許文献1のものに代表される従来の車輪駆動装置では、モータ駆動ユニットのモータ軸および出力軸間に、上記した車輪の変位を吸収可能な変位吸収式駆動結合機構を介挿し、この変位吸収式駆動結合機構を介しモータ駆動ユニット内でモータ軸と出力軸との間を駆動結合を行っていた。
【0004】
かかる変位吸収式駆動結合機構は、ハブベアリングのガタや寸法公差に起因した車輪の変位を吸収可能で、車輪の変位により伝動系が「こじり」等の弊害を受けるのを回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−190440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のものに代表される従来の車輪駆動装置では、変位吸収式駆動結合機構をモータ軸と出力軸との間に介在させるため、変位吸収式駆動結合機構が上記車輪の変位を吸収するときモータ軸および出力軸間に軸交角を発生させることとなり、上記車輪の変位がモータ駆動ユニット内に及ぶのを免れない。
【0007】
上記車輪の変位がモータ駆動ユニットに至ってモータ軸および出力軸間に軸交角を発生させると、電動モータのロータがステータと干渉する現象や、モータ伝動系を成す歯車組がギヤの噛み合い不良を生じて音振上および耐久上の不利益をもたらすだけでなく、車輪を減速させる現象も生ずる。
【0008】
また、上記の変位吸収式駆動結合機構を、モータ駆動ユニットのモータ軸および出力軸間の軸線方向位置に配列してタンデムに設置するため、そして変位吸収式駆動結合機構が軸線方向に大型化し易いこともあり、モータ駆動ユニット、ひいては車輪駆動装置が軸線方向に長大化するという問題や、重量が重くなるという問題を生ずる。
【0009】
更に、変位吸収式駆動結合機構がハブベアリングに近い軸線方向位置に存在することとなり、ハブベアリングのガタや寸法公差に起因した車輪の揺動変位を吸収するのに、変位吸収式駆動結合機構が大きな揺動変位吸収角を必要とし、大型で重くなるのを免れないという問題も生ずる。
【0010】
また変位吸収式駆動結合機構を、モータ駆動ユニットのモータ伝動系に挿置することになるため、モータ伝動系の捩り剛性が低下してトルク制御の応答性が悪化したり、モータ伝動系の捩り振動固有値が低下して低周波振動領域での乗り心地が悪化するという問題も生ずる。
【0011】
本発明は、車輪が軸受部のガタや寸法公差に起因して変位するとき、この変位にモータ駆動ユニットが全体的に連動し得るよう浮動支持すれば、この浮動支持部で当該変位を吸収し得て、この変位がモータ駆動ユニットの内部伝動系に至るのを防止し得るとの観点から、この着想を具体化して上記の諸問題を生ずることのないようにした車輪駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のため、本発明の車輪駆動装置は、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となる車輪駆動装置を説明するに、これは、
電動モータをユニットケース内に内蔵すると共に、該電動モータからの回転を取り出す出力軸が上記ユニットケースから突出しているモータ駆動ユニットと、車輪を回転自在に支持した車輪支持部材とを具え、上記ユニットケースから突出する出力軸の突出端により上記車輪を駆動するものである。
【0013】
本発明は、上記のような車輪駆動装置において、上記出力軸の突出端を上記車輪に駆動結合し、上記ユニットケースを上記車輪支持部材に対し相対変位可能に取り付けた構成に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0014】
かかる本発明の車輪駆動装置によれば、モータ駆動ユニットのユニットケースを車輪支持部材に対し相対変位可能に取り付けたため、
車輪が軸受部の摩耗や公差に起因して変位するとき、この変位にモータ駆動ユニットが全体的に連動して、当該変位を吸収し得ることとなり、この変位が電動モータを含むモータ駆動ユニットの内部伝動系に至ることがない。
【0015】
従って、車輪が変位したときも、電動モータの回転体が他部品と干渉する現象や、モータ回転伝動系の構成部品が相互に干渉し合うなどの不具合が発生するのを防止することができる。
【0016】
また、モータ駆動ユニットのユニットケースを車輪支持部材に対し相対変位可能に取り付けるためのユニットケース取り付け構造は、それ自身が軸線方向寸法の小さなものである上に、必ずしもユニットケースに対し軸線方向に並べて配置する必要がなく、ユニットケースの外周に配置することさえ可能であることから、
車輪駆動装置が軸線方向に長大化したり、重量を増大されることがなく、従来の構造よりも、車輪駆動装置の小型化および軽量化を実現することができる。
【0017】
更に本発明によれば、上記のユニットケース取り付け構造が、車輪支承部から遠い軸線方向位置に存在することとなる。
従って、車輪支承部のガタや寸法公差に起因した車輪の揺動変位を吸収するのに必要なユニットケース取り付け構造の揺動変位吸収角が小さく、このユニットケース取り付け構造が、小型で軽量なもので足りることとなって、この点においても車輪駆動装置を小型化および軽量化することができる。
【0018】
またユニットケース取り付け構造は、モータ駆動ユニットの伝動系に何ら関与しないため、モータ伝動系の捩り剛性が低下してトルク制御の応答性が悪化するという問題を生じないし、モータ伝動系の捩り振動固有値が低下して低周波振動領域での乗り心地が悪化するという問題も生ずることがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施例になる車輪駆動装置の実体構造を示す縦断側面図である。
【図2】図1における車輪駆動装置の概略を示す概略縦断側面図である。
【図3】図1,2においてインホイールモータ駆動ユニットを車輪支持部材に取り付けるのに用いた弾性円環体の正面図である。
【図4】本発明の第2実施例になる車輪駆動装置を示す概略縦断側面図である。
【図5】本発明の第3実施例になる車輪駆動装置を示す概略縦断側面図である。
【図6】図5においてインホイールモータ駆動ユニットを車輪支持部材に取り付けるのに用いた相対変位吸収式取り付け構造の正面図である。
【図7】本発明の第4実施例になる車輪駆動装置を示す概略縦断側面図である。
【図8】本発明の第5実施例になる車輪駆動装置を示す概略縦断側面図である。
【図9】本発明の第6実施例になる車輪駆動装置の実体構造を示す縦断側面図である。
【図10】図9における車輪駆動装置の概略を示す概略縦断側面図である。
【図11】本発明の第7実施例になる車輪駆動装置を示す概略縦断側面図である。
【図12】本発明の第8実施例になる車輪駆動装置を示す概略縦断側面図である。
【図13】本発明の第9実施例になる車輪駆動装置を示す概略縦断側面図である。
【図14】本発明の第10実施例になる車輪駆動装置を示す概略縦断側面図である。
【図15】図14においてインホイールモータ駆動ユニットの出力軸をホイールハブに駆動結合するのに用いた相対変位吸収式駆動結合機構の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、本発明の第1実施例になる車輪駆動装置の実体構造を示す縦断側面図、図2は、その概略を示す概略縦断側面図である。
これらの図において、1は、車輪を示し、2は、車輪1を回転自在に支持する車輪支持部材を示す。
【0021】
車輪支持部材2は、車幅方向内方の内端を上下サスペンションメンバ3a,3bにより、図示せざる車体に連結し、これらサスペンションメンバ3a,3bを含むサスペンション装置で車輪支持部材2を車体に対し上下方向へサスペンションストローク可能に懸架する。
車輪支持部材2は、車幅方向外方の外端における中心開口2aに、複列アンギュラベアリングを可とするハブベアリング4を具え、このハブベアリング4を介して車輪支持部材2の外端中心開口2aにホイールハブ5を回転自在に支持する。
【0022】
ホイールハブ5の外端に同心に、ブレーキディスク6を一体結合して設け、これらホイールハブ5の外端およびブレーキディスク6を貫通して軸線方向に突出するよう複数個のホイールボルト7を植設する。
【0023】
ホイールハブ5に対する車輪1の取り付けに際しては、車輪1のホイールディスクに穿ったボルト孔にホイールボルト7が貫通するよう当該ホイールディスクをブレーキディスク6の側面に密接させ、この状態でホイールボルト7にホイールナット8を緊締螺合し、ホイールハブ5に対する車輪1の取り付けを行う。
従って車輪1は、ホイールハブ5およびハブベアリング4を介して車輪支持部材2に回転自在に支承される。
【0024】
ブレーキディスク6の外周に跨るよう配してブレーキキャリパ9を設け、このブレーキキャリパ9を車輪支持部材2に取着する。
ブレーキキャリパ9は、ブレーキペダル操作に応じて発生したブレーキ液圧に応動し、ブレーキディスク6の外周を軸線方向両側から挟圧することで、車輪1を制動するものとする。
【0025】
車輪支持部材2は、インホイールモータ駆動ユニット11(モータ駆動ユニット)を内蔵するハウジングとしても作用する形状となす。
インホイールモータ駆動ユニット11は車輪1(ホイールハブ5)に同心に配置して車輪支持部材2内に内蔵する。
そしてインホイールモータ駆動ユニット11は、ユニットケース12を具え、このユニットケース12内に電動モータ13を収納する。
【0026】
電動モータ13は、ユニットケース12内に固設したステータ13sと、その内周にラジアルギャップ(径方向隙間)を持たせて同心に配置したロータ13rとで構成する。
ロータ13r は内周部を、インホイールモータ駆動ユニット11の出力軸14に駆動結合し、この出力軸14をモータ軸としても機能させる。
出力軸14は、ロータ13rの軸線方向両側に配置した軸受15,16によりユニットケース12に回転自在に支承する。
【0027】
出力軸14は、車輪1(ホイールハブ5)に近い外端14aをユニットケース12から突出させ、該出力軸14の突出端14aをホイールハブ5の中心孔内にセレーション嵌合すると共に、ロックナット17により抜け止めして、出力軸14をホイールハブ5(車輪1)に剛結合する。
【0028】
インホイールモータ駆動ユニット11を車輪支持部材2に取り付けるに際しては、ホイールハブ5(車輪1)から遠いユニットケース12の内端中心部から径方向外方へ延在して車輪支持部材2に至る弾性円環体21で、車輪支持部材2に対するインホイールモータ駆動ユニット11の取り付けを行う。
【0029】
弾性円環体21は、金属製またはゴム製などの弾性板を図3に示すような円環状に形成して造り、その内周部に複数個の透孔21aを穿設し、外周部に複数個の透孔21bを穿設する。
かかる弾性円環体21は、内周部を、透孔21aに挿通したボルト22によりユニットケース12の内端中心部に取着し、外周部を、透孔21bに挿通したボルト23により車輪支持部材2の内端開口部2bに取着する。
【0030】
かくして弾性円環体21は、円周方向および径方向に所定の剛性でインホイールモータ駆動ユニット11(ユニットケース12)を車輪支持部材2に対し固定することができる。
ところで、ハブベアリング4のガタや寸法公差に起因して車輪1(ホイールハブ5)が車輪支持部材2に対し傾斜方向や軸線方向へ相対変位すると、弾性円環体21はインホイールモータ駆動ユニット11を介し当該傾斜方向変位や軸線方向変位に連動して弾性変形することにより、この変位を吸収することができる。
【0031】
従って弾性円環体21は、インホイールモータ駆動ユニット11(ユニットケース12)を車輪支持部材2に対し相対変位可能に取り付けるための相対変位吸収式取り付け構造を構成する。
しかし相対変位吸収式取り付け構造は同様に機能するものであれば、上記のような弾性円環体21に限られず、バネなどを用いた他の型式の撓み継手型のものでもよいし、或いは、フルードカップリングやガスショックなどを用いた流体継手型のものや、ボールスプラインやセレーションなどの隙間継手型のものでもよい。
【0032】
<第1実施例の作用>
電動モータ13のステータ13sに通電すると、これからの電磁力でロータ13rが回転駆動される。
電動モータ13からの回転駆動力は出力軸14を経てホイールハブ5に達し、車輪1を出力軸14と一体回転させることで、電気自動車の走行を可能にする。
【0033】
<第1実施例の効果>
ハブベアリング4のガタや寸法公差、更に撓みに起因して、ホイールハブ5(車輪1)が車輪支持部材2に対し相対的に揺動(傾斜方向に変位)したり、軸線方向に変位すると、弾性円環体21がインホイールモータ駆動ユニット11(出力軸14およびユニットケース12)を介し上記傾斜方向変位や軸線方向変位に連動して弾性変形することにより、この変位を吸収することができる。
【0034】
よって、ホイールハブ5(車輪1)の上記傾斜方向変位や、軸線方向変位によっても、この変位にモータ駆動ユニット11が全体的に連動して変位するだけで、この変位がインホイールモータ駆動ユニット11内の電動モータ13およびモータ伝動系に至ることがない。
そのため、ホイールハブ5(車輪1)の上記変位によっても、電動モータ13のロータ13rがステータ13sと干渉するなどの不具合を発生することがない。
【0035】
また、インホイールモータ駆動ユニット11のユニットケース12を車輪支持部材2に対し相対変位可能に取り付けるための弾性円環体21は、それ自身が軸線方向寸法の小さなものである上に、必ずしも図示のごとくユニットケース12に対し軸線方向に並べて配置する必要がなく、ユニットケース12の外周に配置することさえ可能であることから、
車輪駆動装置が軸線方向に長大化したり、重量を増大されることがなく、前記した従来の構造よりも、車輪駆動装置の小型化および軽量化を実現することができる。
【0036】
更に本実施例によれば、インホイールモータ駆動ユニット11のユニットケース12を車輪支持部材2に対し相対変位可能に取り付けるための弾性円環体21が、ハブベアリング4から遠い軸線方向位置に存在している。
従って、ハブベアリング4のガタや寸法公差に起因したホイールハブ5(車輪1)の傾斜方向変位を吸収するのに必要な弾性円環体21の揺動変位吸収角が小さく、この弾性円環体21が、小型で軽量なもので足りることとなって、この点においても車輪駆動装置を小型化および軽量化することができる。
【0037】
また上記の弾性円環体21は、インホイールモータ駆動ユニット11の伝動系に何ら関与しないため、当該伝動系の捩り剛性が低下してトルク制御の応答性が悪化するという問題を生じないし、伝動系の捩り振動固有値が低下して低周波振動領域での乗り心地が悪化するという問題も生ずることがない。
【0038】
<第2実施例の構成>
図4は、本発明の第2実施例になる車輪駆動装置を示し、この図中、図1,2におけると同様なものを同一符号により示した。
本実施例においては、インホイールモータ駆動ユニット11を、図1,2と異なる以下の構成とする。
【0039】
つまり、図1,2ではインホイールモータ駆動ユニット11内における電動モータ13の回転が出力軸14にそのまま伝達されるようにしたが、本実施例では電動モータ13の回転が遊星歯車式減速歯車組31を介して出力軸14に伝達されるようインホイールモータ駆動ユニット11を構成する。
【0040】
このため、出力軸14に同軸に突き合わせて入力軸32を設け、出力軸14は、軸受33を介してユニットケース12に回転自在に支持し、入力軸32は、軸受34を介してユニットケース12に回転自在に支持する。
そして入力軸32および出力軸14の同軸突き合わせ端部同士を相互に嵌合し、この嵌合部に軸受35を介在させて入力軸32および出力軸14を相対回転可能となす。
【0041】
軸受34,35間において入力軸32に電動モータ13のロータ13rを結合し、この電動モータ13(ロータ13r)から入力軸32へのモータ回転を出力軸14に伝達する遊星歯車式減速歯車組31はサンギヤ36と、リングギヤ37と、プラネタリピニオン38と、キャリア39とで構成する。
【0042】
サンギヤ36は、入力軸32に結合してこれと共に回転するよう設け、リングギヤ37は、サンギヤ36から出力軸14寄りの軸線方向にオフセットさせてユニットケース12に固定する。
プラネタリピニオン38は、サンギヤ36に噛合する大径ピニオン部38aと、リングギヤ37の内周歯に噛合する小径ピニオン部38bとを一体化した段付きプラネタリピニオンとする。
【0043】
段付きプラネタリピニオン38は、4個一組として入力軸32の周囲に等間隔に配置し、キャリア39は、この等間隔を保ってプラネタリピニオン38を回転自在に支持するためのものである。
このキャリア39は、入力軸32に近い出力軸14の内端に一体的に設け、出力軸14の外端14aはユニットケース12から突出させてホイールハブ5に剛結合する。
【0044】
上記の構成になるインホイールモータ駆動ユニット11を車輪支持部材2に取り付けるに際しては、図1,2につき前述した第1実施例と同様に、ホイールハブ5(車輪1)から遠いユニットケース12の内端中心部から径方向外方へ延在して車輪支持部材2の内端開口部2bに至る弾性円環体21(図3と同様なもの)で、車輪支持部材2に対するインホイールモータ駆動ユニット11の取り付けを行う。
【0045】
<第2実施例の作用>
電動モータ13(ロータ13r)から入力軸32への回転動力は、遊星歯車式減速歯車組31のサンギヤ36に伝達される。
これによりサンギヤ36は、大径ピニオン部38aを介して段付きプラネタリピニオン38を回転させるが、このとき固定のリングギヤ37が反力受けとして機能するため、段付きプラネタリピニオン38は、小径ピニオン部38bがリングギヤ37の内周に沿って転動し、また大径ピニオン部38aがサンギヤ36の外周に沿って転動するような遊星運動を行う。
【0046】
かかる段付きプラネタリピニオン38の遊星運動は、キャリア39を経て出力軸14に至り、ホイールハブ5(車輪1)の回転駆動によって電気自動車の走行を可能にする。
上記の伝動作用により減速歯車組31は、電動モータ13から入力軸32への回転を、サンギヤ36の歯数およびリングギヤ37の歯数により決まる比で減速してホイールハブ5(車輪1)に伝達することができる。
【0047】
<第2実施例の効果>
本実施例においても、ハブベアリング4のガタや寸法公差、更に撓みに起因して、ホイールハブ5(車輪1)が車輪支持部材2に対し相対的に揺動(傾斜方向に変位)したり、軸線方向に変位すると、弾性円環体21がインホイールモータ駆動ユニット11(出力軸14およびユニットケース12)を介し上記傾斜方向変位や軸線方向変位に連動して弾性変形することにより、この変位を吸収することができる。
【0048】
よって、ホイールハブ5(車輪1)の上記傾斜方向変位や、軸線方向変位によっても、この変位にモータ駆動ユニット11が全体的に連動して変位するだけで、この変位がインホイールモータ駆動ユニット11内の電動モータ13およびモータ伝動系(遊星歯車式減速歯車組31)に至ることがない。
【0049】
そのため、ホイールハブ5(車輪1)の上記変位によっても、電動モータ13のロータ13rがステータ13sと干渉するような不具合を発生することがないと共に、遊星歯車式減速歯車組31が噛み合い不良を生ずるようなことがない。
遊星歯車式減速歯車組31が噛み合い不良を生ずると、騒音を発生させたり、伝動効率を低下させたり、車輪を減速させるなどの不具合を生ずるが、遊星歯車式減速歯車組31の噛み合い不良が発生しないことによって、これらの不具合を確実に回避することができる。
【0050】
また、この効果を達成するのに用いる弾性円環体21が軸線方向寸法の小さなものである上に、ユニットケース12の外周に配置することも可能であることから、
車輪駆動装置が軸線方向に長大化したり、重量を増大されることがなく、その小型化および軽量化を実現することができる。
【0051】
更に弾性円環体21が、ハブベアリング4から遠い軸線方向位置に存在しているため、
ハブベアリング4のガタや寸法公差に起因したホイールハブ5(車輪1)の傾斜方向変位を吸収するのに必要な弾性円環体21の揺動変位吸収角が小さく、この弾性円環体21が、小型で軽量なもので足り、この点においても車輪駆動装置を小型化および軽量化することができる。
【0052】
また弾性円環体21が、インホイールモータ駆動ユニット11の伝動系に何ら関与しないため、当該伝動系の捩り剛性が低下してトルク制御の応答性が悪化するという問題を生じないし、伝動系の捩り振動固有値が低下して低周波振動領域での乗り心地が悪化するという問題も生ずることがない。
【0053】
<第3実施例の構成>
図5は、本発明の第3実施例になる車輪駆動装置を示し、この図中、図1,2におけると同様なものを同一符号により示した。
本実施例においては、インホイールモータ駆動ユニット11を、図1,2におけると同様な構成とするが、このインホイールモータ駆動ユニット11(ユニットケース12)を車輪支持部材2に取り付けるに際し、図1,2における弾性円環体21とは、同じ撓み継手型のものであっても、構成の異なる相対変位吸収式取り付け構造41を用いる。
【0054】
この相対変位吸収式取り付け構造41は、車輪支持部材2の内端開口部2bから径方向内方へ延在する、図6に示すような円板状の取り付けメンバ42と、ホイールハブ5から遠いユニットケース12の端面に軸線方向へ突出するよう設けたロッド状の取り付けメンバ43と、これらメンバ42,43間に後述のごとく介在させたブッシュ状の弾性材44とで構成する。
【0055】
図6に示すように円板状取り付けメンバ42の外周部には複数個の透孔42aを穿設し、これら透孔42aに挿置したボルト45で円板状取り付けメンバ42を車輪支持部材2の内端開口部2bに取着する。
ロッド状取り付けメンバ43は複数個一組とし、ホイールハブ5から遠いユニットケース12の端面中心部に円周方向等間隔に配して、軸線方向へ突出するようユニットケース12の該端面に一体結合する。
【0056】
円板状取り付けメンバ42の中心部に、ロッド状取り付けメンバ43が遊嵌する開口42bを設ける。
そして、円板状取り付けメンバ42の開口42bと、ロッド状取り付けメンバ43との間にゴムなどのブッシュ状弾性材44を充填して、相対変位吸収式取り付け構造41をユニットケース12に一体化する。
なおブッシュ状弾性材44には、その弾性係数を低下させて容易に変形し得るようになすための「すぐり44a」を設定する。
【0057】
<第3実施例の作用、効果>
電動モータ13からの回転駆動力は、図1,2の第1実施例と同様に、出力軸14を経てホイールハブ5に達し、車輪1を出力軸14と一体回転させることで、電気自動車の走行を可能にする。
【0058】
ハブベアリング4のガタや寸法公差、更に撓みに起因して、ホイールハブ5(車輪1)が車輪支持部材2に対し相対的に揺動(傾斜方向に変位)したり、軸線方向に変位すると、ブッシュ状弾性材44が、「すぐり44a」の設定もあって、インホイールモータ駆動ユニット11(出力軸14およびユニットケース12)を介し上記傾斜方向変位や軸線方向変位に連動して弾性変形することにより、この変位を吸収することができる。
【0059】
よって本実施例でも、ホイールハブ5(車輪1)の上記傾斜方向変位や、軸線方向変位が発生したとき、この変位にモータ駆動ユニット11が全体的に連動して変位するだけで、この変位がインホイールモータ駆動ユニット11内の電動モータ13およびモータ伝動系に至ることがない。
そのため、ホイールハブ5(車輪1)の上記変位によっても、電動モータ13のロータ13rがステータ13sと干渉するなどの不具合を発生することがない。
【0060】
また本実施例では、インホイールモータ駆動ユニット11のユニットケース12を車輪支持部材2に対し相対変位可能に取り付けるための相対変位吸収式取り付け構造41が、ブッシュ状弾性材44を主とする上記の構成であるため、「すぐり44a」の設定とも相俟って、相対変位吸収能力に優れており、第1実施例よりも上記の効果を更に顕著なものにすることができる。
【0061】
更に本実施例においても、相対変位吸収式取り付け構造41が、ハブベアリング4から遠い軸線方向位置に存在しているため、
ハブベアリング4のガタや寸法公差に起因したホイールハブ5(車輪1)の傾斜方向変位を吸収するのに必要なブッシュ状弾性材44の揺動変位吸収角が小さく、このブッシュ状弾性材44が、小型で軽量なもので足りることとなって、車輪駆動装置を小型化および軽量化することができる。
【0062】
また上記のブッシュ状弾性材44は、インホイールモータ駆動ユニット11の伝動系に何ら関与しないため、当該伝動系の捩り剛性が低下してトルク制御の応答性が悪化するという問題を生じないし、伝動系の捩り振動固有値が低下して低周波振動領域での乗り心地が悪化するという問題も生ずることがない。
【0063】
<第4実施例の構成>
図7は、本発明の第4実施例になる車輪駆動装置を示し、この図中、図1,2におけると同様なものを同一符号により示した。
本実施例においては、インホイールモータ駆動ユニット11を、図1,2におけると同様な構成とするが、このインホイールモータ駆動ユニット11(ユニットケース12)を車輪支持部材2に取り付けるに際し、図1,2における弾性円環体21とは型式の異なる、等速ジョイントやギヤカップリングなどで構成した機構継手型の相対変位吸収式取り付け構造51を用いる。
【0064】
この相対変位吸収式取り付け構造51は、車輪支持部材2の内端開口部2bから径方向内方へ延在する円板状の取り付けメンバ52と、ホイールハブ5から遠いユニットケース12の端面に軸線方向へ突出するよう設けたロッド状の取り付けメンバ53と、これらメンバ52,53間を回転係合させるが、軸線方向および揺動方向への相対変位を許容する等速ジョイントやギヤカップリングなどの機構継手54とで構成する。
【0065】
円板状取り付けメンバ52は、その外周部をボルト55で車輪支持部材2の内端開口部2bに取着する。
ロッド状取り付けメンバ53は、ホイールハブ5から遠いユニットケース12の端面に同心に配置して、ボルト56により当該ユニットケース12の端面に取着する。
【0066】
<第4実施例の作用、効果>
電動モータ13からの回転駆動力は、図1,2の第1実施例と同様に、出力軸14を経てホイールハブ5に達し、車輪1を出力軸14と一体回転させることで、電気自動車の走行を可能にする。
【0067】
ハブベアリング4のガタや寸法公差、更に撓みに起因して、ホイールハブ5(車輪1)が車輪支持部材2に対し相対的に揺動(傾斜方向に変位)したり、軸線方向に変位すると、インホイールモータ駆動ユニット11が上記傾斜方向変位や軸線方向変位に連動するのを機構継手54によって許容され、当該変位を機構継手54において吸収することができる。
【0068】
よって本実施例でも、ホイールハブ5(車輪1)の上記傾斜方向変位や、軸線方向変位が発生したとき、この変位にモータ駆動ユニット11が全体的に連動して変位するだけで、この変位がインホイールモータ駆動ユニット11内の電動モータ13およびモータ伝動系に至ることがない。
そのため、ホイールハブ5(車輪1)の上記変位によっても、電動モータ13のロータ13rがステータ13sと干渉するなどの不具合を発生することがない。
【0069】
また本実施例では、インホイールモータ駆動ユニット11のユニットケース12を車輪支持部材2に対し相対変位可能に取り付けるための相対変位吸収式取り付け構造51が、等速ジョイントやギヤカップリングなどの機構継手54を主とする上記の構成であるため、相対変位吸収能力に優れており、第1〜3実施例の何れよりも上記の効果を更に顕著なものにすることができる。
【0070】
更に本実施例においても、相対変位吸収式取り付け構造51が、ハブベアリング4から遠い軸線方向位置に存在しているため、
ハブベアリング4のガタや寸法公差に起因したホイールハブ5(車輪1)の傾斜方向変位を吸収するのに必要な機構継手54の揺動変位吸収角が小さく、この機構継手54が、小型で軽量なもので足りることとなって、車輪駆動装置を小型化および軽量化することができる。
【0071】
<第5実施例の構成>
図8は、本発明の第5実施例になる車輪駆動装置を示し、この図中、図1,2,7におけると同様なものを同一符号により示した。
本実施例においては、インホイールモータ駆動ユニット11を、図1,2,7におけると同様な構成とするが、このインホイールモータ駆動ユニット11(ユニットケース12)を車輪支持部材2に取り付けるに際し、図7におけると同じく、等速ジョイントやギヤカップリングなどで構成した機構継手型の相対変位吸収式取り付け構造51を用いるものの、これを図7とは異なる以下の構成とする。
【0072】
つまり本実施例では、相対変位吸収式取り付け構造51の機構継手54を、2個のタンデム配置した機構継手54a,54bにより構成する。
そのため、円板状取り付けメンバ52の中心に、ロッド状取り付けメンバ53へ向け同心に突出する軸部57を設ける。
【0073】
ロッド状取り付けメンバ53および軸部57の同軸突き合わせ端部に連結管58の両端を被せる。
ロッド状取り付けメンバ53と連結管58との間は、等速ジョイントやギヤカップリングなどの機構継手54aにより、軸線方向および揺動方向への相対変位を許容しつつ回転係合させる。
また軸部57と連結管58との間は、等速ジョイントやギヤカップリングなどの機構継手54bにより、軸線方向および揺動方向への相対変位を許容しつつ回転係合させる。
【0074】
<第5実施例の作用、効果>
本実施例は、相対変位吸収式取り付け構造51の機構継手54を、2個のタンデム配置した機構継手54a,54bにより構成する以外、図7における第4実施例と同様な構成であるため、この第4実施例と同様な作用および効果を奏する。
【0075】
ところで相対変位吸収式取り付け構造51の機構継手54を、2個のタンデム配置した機構継手54a,54bにより構成するため、機構継手54の変位吸収可能量が図7における第4実施例よりも大きく、第4実施例の作用、効果を一層顕著なものとなし得る。
【0076】
<第6実施例の構成>
図9は、本発明の第6実施例になる車輪駆動装置の実体構造を示す縦断側面図、図10は、その概略を示す概略縦断側面図である。
これらの図9,10において、図1〜8におけると同様なものを同一符号により示した。
本実施例においては、インホイールモータ駆動ユニット11を、図1,2,7,8におけると同様な構成とするが、このインホイールモータ駆動ユニット11(ユニットケース12)を車輪支持部材2に取り付けるに際し、図7,8におけると同じく、等速ジョイントやギヤカップリングなどで構成した機構継手型の相対変位吸収式取り付け構造51を用いるものの、これを以下のように、図7,8とは若干異なる構成とする。
【0077】
つまり本実施例では相対変位吸収式取り付け構造51を、ホイールハブ5から遠いユニットケース12の端面に同心に設けた筒状取り付けメンバ59と、円板状取り付けメンバ52の中心に、筒状取り付けメンバ59内に嵌合するよう突出させて設けた軸部57と、これら筒状取り付けメンバ59および軸部57の嵌合部に設定した等速ジョイントやギヤカップリングなどの機構継手54とにより構成する。
【0078】
かくして本実施例でも相対変位吸収式取り付け構造51は、機構継手54によりインホイールモータ駆動ユニット11(ユニットケース12)を円板状取り付けメンバ52(車輪支持部材2)に対し、軸線方向および揺動方向への相対変位を許容しつつ回転係合させる用をなす。
【0079】
また本実施例では、ユニットケース12から突出する出力軸14の突出端14aをホイールハブ5(車輪1)に駆動結合するに際し、前記各実施例におけるような剛結合とせず、相対変位吸収式駆動結合機構61により、出力軸14(突出端14a)およびホイールハブ5(車輪1)を、軸線方向および揺動方向への相対変位が可能となるようにした状態で回転係合させる。
本実施例における相対変位吸収式駆動結合機構61は、出力軸14の突出端14aとホイールハブ5との嵌合部に、等速ジョイントやギヤカップリングなどの機構継手62を介在させて構成した噛合型カップリング機構とする。
【0080】
<第6実施例の作用、効果>
電動モータ13からの回転駆動力は、出力軸14から相対変位吸収式駆動結合機構61(機構継手62)を経てホイールハブ5に達し、車輪1を出力軸14と一体回転させることで、電気自動車の走行を可能にする。
【0081】
ハブベアリング4のガタや寸法公差、更に撓みに起因して、ホイールハブ5(車輪1)が車輪支持部材2に対し相対的に揺動(傾斜方向に変位)したり、軸線方向に変位すると、これら傾斜方向変位や軸線方向変位が、一部を相対変位吸収式駆動結合機構61(機構継手62)により吸収され、残部を相対変位吸収式取り付け構造51(機構継手54)によりインホイールモータ駆動ユニット11の傾斜方向変位や軸線方向変位を介して吸収される。
【0082】
よって、ホイールハブ5(車輪1)の上記傾斜方向変位や、軸線方向変位によっても、この変位(上記残部に相当する変位量)にモータ駆動ユニット11が全体的に連動して変位するだけで、この変位がインホイールモータ駆動ユニット11内の電動モータ13およびモータ伝動系(遊星歯車式減速歯車組31)に至ることがない。
【0083】
そのため、ホイールハブ5(車輪1)の上記変位によっても、電動モータ13のロータ13rがステータ13sと干渉するような不具合を発生することがない。
しかも本実施例では、ホイールハブ5(車輪1)の上記した傾斜方向変位および軸線方向変位のうち、一部を相対変位吸収式駆動結合機構61(機構継手62)により吸収し、残部を相対変位吸収式取り付け構造51(機構継手54)によりモータ駆動ユニット11の連動変位を介して吸収するため、
相対変位吸収式駆動結合機構61(機構継手62)による変位吸収量、および相対変位吸収式取り付け構造51(機構継手54)による変位吸収量がそれぞれ少なく、車輪駆動装置全体として吸収可能な変位量を増大させ得て、広範囲な変位に対して上記の効果を享受することができる。
【0084】
また同様な理由から、相対変位吸収式駆動結合機構61(機構継手62)による変位吸収量および相対変位吸収式取り付け構造51(機構継手54)を、これら個々への負担が半減することから小型化および軽量化することもでき、車輪駆動装置の小型、軽量化にも大いに寄与する。
【0085】
更に、インホイールモータ駆動ユニット11の軸線方向両端にそれぞれ変位吸収機構61,51が存在することによって、電動モータ13からの音や振動がこれら変位吸収機構61,51で確実に遮断され、インホイールモータ駆動ユニット11の外部に伝わるのを抑制することができ、音振対策も容易となる。
また同様な理由から、インホイールモータ駆動ユニット11に向かう外部入力を緩和することができ、衝撃入力に対する対策も容易であって、この点でも小型化および軽量化が可能である。
【0086】
<第7実施例の構成>
図11は、本発明の第7実施例になる車輪駆動装置を示し、この図中、図9,10におけると同様なものを同一符号により示した。
本実施例においては、インホイールモータ駆動ユニット11を、図9,10と異なる以下の構成とし、それ以外は図9,10におけると同様に構成する。
【0087】
本実施例におけるインホイールモータ駆動ユニット11は、図4につき前述したと同様なもので、図4におけると同様なものを同一符号により示した。
つまり、出力軸14に同軸に突き合わせて入力軸32を設け、出力軸14は、軸受33を介してユニットケース12に回転自在に支持し、入力軸32は、軸受34を介してユニットケース12に回転自在に支持する。
そして入力軸32および出力軸14の同軸突き合わせ端部同士を相互に嵌合し、この嵌合部に軸受35を介在させて入力軸32および出力軸14を相対回転可能となす。
【0088】
軸受34,35間において入力軸32に電動モータ13のロータ13rを結合し、この電動モータ13(ロータ13r)から入力軸32へのモータ回転を出力軸14に伝達する遊星歯車式減速歯車組31はサンギヤ36と、リングギヤ37と、プラネタリピニオン38と、キャリア39とで構成した、図4におけると同様なものとする。
【0089】
上記の構成になるインホイールモータ駆動ユニット11を車輪支持部材2に取り付けるに際しては、図9,10につき前述した第6実施例と同様に、相対変位吸収式取り付け構造51を介して当該取り付けを行う。
また出力軸14の突出端部14aをホイールハブ5(車輪1)に駆動結合するに際しては、図9,10につき前述した第6実施例と同様に、相対変位吸収式駆動結合機構61を介して当該駆動結合を行う。
【0090】
<第7実施例の作用、効果>
電動モータ13(ロータ13r)から入力軸32への回転動力は、遊星歯車式減速歯車組31により、サンギヤ36の歯数およびリングギヤ37の歯数により決まる比で減速してホイールハブ5(車輪1)に伝達され、車両を走行させることができる。
【0091】
本実施例においても第6実施例と同様、ハブベアリング4のガタや寸法公差、更に撓みに起因して、ホイールハブ5(車輪1)が車輪支持部材2に対し相対的に揺動(傾斜方向に変位)したり、軸線方向に変位すると、これら傾斜方向変位や軸線方向変位が、一部を相対変位吸収式駆動結合機構61(機構継手62)により吸収され、残部を相対変位吸収式取り付け構造51(機構継手54)によりインホイールモータ駆動ユニット11の傾斜方向変位や軸線方向変位を介して吸収される。
【0092】
よって、ホイールハブ5(車輪1)の上記傾斜方向変位や、軸線方向変位によっても、この変位(上記残部に相当する変位量)にモータ駆動ユニット11が全体的に連動して変位するだけで、この変位がインホイールモータ駆動ユニット11内の電動モータ13およびモータ伝動系(遊星歯車式減速歯車組31)に至ることがない。
【0093】
そのため、ホイールハブ5(車輪1)の上記変位によっても、電動モータ13のロータ13rがステータ13sと干渉するような不具合を発生することがないと共に、遊星歯車式減速歯車組31が噛み合い不良を生ずるようなことがない。
遊星歯車式減速歯車組31が噛み合い不良を生ずると、騒音を発生させたり、伝動効率を低下させたり、車輪を減速させるなどの不具合を生ずるが、遊星歯車式減速歯車組31の噛み合い不良が発生しないことによって、これらの不具合を確実に回避することができる。
【0094】
<第8実施例の構成>
図12は、本発明の第8実施例になる車輪駆動装置を示し、この図中、図10におけると同様なものを同一符号により示した。
本実施例においては、インホイールモータ駆動ユニット11を、図10と異なる以下の構成とし、それ以外は図10におけると同様に構成する。
【0095】
本実施例ではインホイールモータ駆動ユニット11を、遊星歯車式減速組31が図10におけると軸線方向逆向きに配置された構成とする。
このため、ユニットケース12に軸受15,16を介し回転自在に支持された出力軸14の外周に入力軸32を回転自在に支持する。
【0096】
ホイールハブ5に近い入力軸32の端部に電動モータ13のロータ13rを結合し、入力軸32の反対側端部にサンギヤ36を設ける。
サンギヤ36よりもホイールハブ5から遠い軸線方向位置にリングギヤ37を配置し、このリングギヤ37をユニットケース12に固定する。
【0097】
サンギヤ36およびリングギヤ37にそれぞれ噛合するピニオン部38a,38bを一体に有した段付きプライマリピニオン38をキャリア39により回転自在に支持し、このキャリア38を出力軸14に結合する。
【0098】
以上の構成になる遊星歯車式減速歯車組31で入力軸32および出力軸14間を駆動結合して、電動モータ13からのモータ回転を歯車組31による減速下で出力軸14より取り出すようにしたインホイールモータ駆動ユニット11は、
ユニットケース12を、図11におけると同様な機構継手型の相対変位吸収式取り付け構造51で車輪支持部材2に取り付け、また、
出力軸14の突出端14aを、図11におけると同様な機構継手型の相対変位吸収式駆動結合機構61でホイールハブ5(車輪1)に駆動結合する。
【0099】
<第8実施例の作用、効果>
本実施例の車輪駆動装置も、上記した通り遊星歯車式減速歯車組31の軸線方向配置が逆向きである以外は、図10におけると同様な構成であるため、図10に示した第7実施例と同様に機能し、同様な効果を奏することができる。
【0100】
<第9実施例の構成>
図13は、本発明の第9実施例になる車輪駆動装置の概略を示す概略縦断側面図である。
本実施例においては、インホイールモータ駆動ユニット11の構成、およびこれを車輪支持部材2に取り付ける構造をそれぞれ、図2におけると同様なものとするが、出力軸14の突出端14aをホイールハブ5(車輪1)に駆動結合するための構造を以下のようなものとして、図2と異ならせる。
【0101】
つまり、出力軸14の突出端14aをホイールハブ5(車輪1)に駆動結合するに際しては、弾性カップリング機構により構成した相対変位吸収式駆動結合機構71で当該駆動結合を行う。
この相対変位吸収式駆動結合機構71は、出力軸14の突出端14aに同心に配して一体結合した弾性円板72と、この円板72に同心に対向配置してホイールハブ5に結合した剛性円板73とを具え、剛性円板73の外周爪73aを弾性円板72の外周部に結着した弾性カップリング機構として構成する。
【0102】
弾性円板72は、金属製またはゴム製などの弾性板を円板状に形成して造り、その中心部を出力軸14の突出端14aに結着し、外周部に、ホイールハブ5と共に回転する剛性円板73の外周爪73aを結着する。
弾性円板72は、円周方向および径方向に所定の剛性を持つが、軸線方向の外力に対しては弾性変形により、当該外力による変位を許容する。
【0103】
<第9実施例の作用、効果>
電動モータ13(ロータ13r)から出力軸14への回転動力は、相対変位吸収式駆動結合機構71(弾性円板72および剛性円板73)を介してホイールハブ5(車輪1)に達し、車両を走行させることができる。
【0104】
ハブベアリング4のガタや寸法公差、更に撓みに起因して、ホイールハブ5(車輪1)が車輪支持部材2に対し相対的に揺動(傾斜方向に変位)したり、軸線方向に変位すると、これら傾斜方向変位や軸線方向変位が、一部を相対変位吸収式駆動結合機構71(弾性円板72の弾性変形)により吸収され、残部を弾性円環体21(相対変位吸収式取り付け構造)の弾性変形によりインホイールモータ駆動ユニット11の傾斜方向変位や軸線方向変位を介して吸収される。
【0105】
よって、ホイールハブ5(車輪1)の上記傾斜方向変位や、軸線方向変位によっても、この変位(上記残部に相当する変位量)にモータ駆動ユニット11が全体的に連動して変位するだけで、この変位がインホイールモータ駆動ユニット11内の電動モータ13およびモータ伝動系に至ることがない。
そのため、ホイールハブ5(車輪1)の上記変位によっても、電動モータ13のロータ13rがステータ13sと干渉するような不具合を発生することがない。
【0106】
<第10実施例の構成>
図14は、本発明の第10実施例になる車輪駆動装置の概略を示す概略縦断側面図である。
本実施例においては、インホイールモータ駆動ユニット11の構成、およびこれを車輪支持部材2に取り付ける構造をそれぞれ、図5におけると同様なものとするが、出力軸14の突出端14aをホイールハブ5(車輪1)に駆動結合するための構造を以下のようなものとして、図5と異ならせる。
【0107】
つまり、出力軸14の突出端14aをホイールハブ5(車輪1)に駆動結合するに際しては、図13の相対変位吸収式駆動結合機構71とは同型式の弾性カップリング機構であっても、これとは構成の異なる相対変位吸収式駆動結合機構81で当該駆動結合を行う。
この相対変位吸収式駆動結合機構81は、出力軸14の突出端14aにこれから径方向外方へ延在するよう結着した、図15に示すような円板状のドライブメンバ82と、ホイールハブ5に結着された同じく円板状のドリブンメンバ83と、これらメンバ82,83間に後述のごとく介在させたブッシュ状の弾性材84とで構成する。
【0108】
図15に示すように円板状ドライブメンバ82の外周部には複数個の開口82aを穿設し、円板状ドリブンメンバ83の外周部には、円板状ドライブメンバ82の開口82aに隙間をもって侵入する軸線方向ロッド部83aを突設する。
そして、円板状ドライブメンバ82の開口82aと、円板状ドリブンメンバ83の軸線方向ロッド部83aとの間にゴムなどのブッシュ状弾性材84を充填して、相対変位吸収式駆動結合機構81をユニット化する。
なおブッシュ状弾性材84には、その弾性係数を低下させて容易に変形し得るようになすための「すぐり84a」を設定する。
【0109】
<第10実施例の作用、効果>
電動モータ13からの回転駆動力は、出力軸14から相対変位吸収式駆動結合機構81を経てホイールハブ5に達し、車輪1を出力軸14と一体回転させることで、電気自動車の走行を可能にする。
【0110】
ハブベアリング4のガタや寸法公差、更に撓みに起因して、ホイールハブ5(車輪1)が車輪支持部材2に対し相対的に揺動(傾斜方向に変位)したり、軸線方向に変位すると、これら傾斜方向変位や軸線方向変位が、一部を相対変位吸収式駆動結合機構81(ブッシュ状弾性材84の弾性変形)により吸収され、残部を相対変位吸収式取り付け構造41(ブッシュ状弾性材44の弾性変形)によりインホイールモータ駆動ユニット11の傾斜方向変位や軸線方向変位を介して吸収される。
【0111】
よって、ホイールハブ5(車輪1)の上記傾斜方向変位や、軸線方向変位によっても、この変位(上記残部に相当する変位量)にモータ駆動ユニット11が全体的に連動して変位するだけで、この変位がインホイールモータ駆動ユニット11内の電動モータ13およびモータ伝動系に至ることがない。
そのため、ホイールハブ5(車輪1)の上記変位によっても、電動モータ13のロータ13rがステータ13sと干渉するような不具合を発生することがない。
【0112】
なお本実施例では、相対変位吸収式取り付け構造41および相対変位吸収式駆動結合機構81が、ブッシュ状弾性材44,84を主とする上記の構成であるため、「すぐり44a,84a」の設定とも相俟って、相対変位吸収能力に優れており、上記の効果を顕著なものにすることができる。
【0113】
<その他の実施例>
なお、第1実施例〜第10実施例における相対変位吸収式取り付け構造21,41,51と、第6〜第10実施例における相対変位吸収式駆動結合機構61,81との組み合わせは、図示例のものに限られず任意であり、どのような組み合わせによっても同様な作用、効果が奏し得られるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0114】
1 車輪
2 車輪支持部材
3a,3b サスペンションメンバ
4 ハブベアリング
5 ホイールハブ
7 ホイールボルト
8 ホイールナット
11 インホイールモータ駆動ユニット(モータ駆動ユニット)
12 ユニットケース
13 電動モータ
14 出力軸
14a 出力軸突出端
21 弾性円環体(弾性体:相対変位吸収式取り付け構造)
31 遊星歯車式減速歯車組
32 入力軸
36 サンギヤ
37 リングギヤ
38 プラネタリピニオン
39 キャリア
41 相対変位吸収式取り付け構造
42 円板状取り付けメンバ
43 ロッド状取り付けメンバ
44 ブッシュ状弾性材
51 相対変位吸収式取り付け構造
52 円板状取り付けメンバ
53 ロッド状取り付けメンバ
54 機構継手
57 軸部
58 連結管
59 筒状取り付けメンバ
61 相対変位吸収式駆動結合機構(噛合型カップリング機構)
62 機構継手
71 相対変位吸収式駆動結合機構(弾性カップリング機構)
72 弾性円板
73 剛性円板
81 相対変位吸収式駆動結合機構
82 円板状ドライブメンバ
83 円板状ドリブンメンバ
84 ブッシュ状弾性材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータをユニットケース内に内蔵すると共に、該電動モータからの回転を取り出す出力軸が前記ユニットケースから突出しているモータ駆動ユニットと、車輪を回転自在に支持した車輪支持部材とを具え、前記ユニットケースから突出する出力軸の突出端により前記車輪を駆動するようにした車輪駆動装置において、
前記出力軸の突出端を前記車輪に駆動結合し、前記ユニットケースを前記車輪支持部材に対し相対変位可能に取り付けたことを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪駆動装置において、
前記ユニットケースを前記車輪支持部材に対し相対変位可能に取り付けるための相対変位吸収式取り付け構造は、これらユニットケースおよび車輪支持部材間に延在する弾性体から成るものであることを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車輪駆動装置において、
前記ユニットケースを前記車輪支持部材に対し相対変位可能に取り付けるための相対変位吸収式取り付け構造は、前記ユニットケースから延在する取り付けメンバと、前記車輪支持部材から延在する取り付けメンバと、これらメンバ間を結合する弾性材とで構成したものであることを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車輪駆動装置において、
前記ユニットケースを前記車輪支持部材に対し相対変位可能に取り付けるための相対変位吸収式取り付け構造は、前記ユニットケースから延在する取り付けメンバと、前記車輪支持部材から延在する取り付けメンバと、これらメンバ間を結合する機構継手とで構成したものであることを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車輪駆動装置において、
前記出力軸の突出端を前記車輪に対し相対変位可能に駆動結合したことを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項6】
前記車輪が、該車輪と共に回転するホイールハブを介し前記車輪支持部材に回転自在に支持された、請求項5に記載の車輪駆動装置において、
前記出力軸の突出端を前記車輪に対し相対変位可能に駆動結合するための相対変位吸収式駆動結合機構は、前記出力軸の突出端と、前記ホイールハブとの間に介在させた噛合型カップリング機構であることを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項7】
前記車輪が、該車輪と共に回転するホイールハブを介し前記車輪支持部材に回転自在に支持された、請求項5に記載の車輪駆動装置において、
前記出力軸の突出端を前記車輪に対し相対変位可能に駆動結合するための相対変位吸収式駆動結合機構は、前記出力軸の突出端およびホイールハブ間に延在する弾性カップリング機構であることを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項8】
前記車輪が、該車輪と共に回転するホイールハブを介し前記車輪支持部材に回転自在に支持された、請求項5に記載の車輪駆動装置において、
前記出力軸の突出端を前記車輪に対し相対変位可能に駆動結合するための相対変位吸収式駆動結合機構は、前記出力軸の突出端から延在するドライブメンバと、前記ホイールハブから延在するドリブンメンバと、これらドライブメンバおよびドリブンメンバ間を駆動結合する弾性材とから成るものであることを特徴とする車輪駆動装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−71613(P2013−71613A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212537(P2011−212537)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】