説明

軌道発電装置。

【課題】本発明は、列車等の移動物体が軌道上を走行する際に発生する列車等の走行荷重や走行振動荷重を効率よく利用して発電して電気エネルギとして回収する軌道発電装置を提供する。
【解決手段】 列車等の移動物体が通過する軌道に配設された圧電部材を備え、該圧電部材上を該移動物体が通過することにより該圧電部材で発生した電気を取り出し、充電回路を介してバッテリに蓄えること、また、前記圧電部材が、高分子材料と該高分子材料中に分散された圧電性セラミック粒子との複合体であることを特徴とする軌道発電装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道における発電装置に関するもので、圧電部材を用いることにより電気を得る装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全の面から、自然界や生活圏において活用されていなかったエネルギの回収が積極的に図られてきている。例えば、自然界の風力エネルギを回収する風力発電や波浪エネルギを回収する波浪発電が実用化され、生活圏では排熱エネルギを回収する排熱ボイラや排熱エンジン等が開発され実用化されてきている。
【0003】
一方、高分子樹脂材料やセラミック材料の機能を拡大する観点の一つとして、力を加えて電気を発生させる又は電気を加えて力を発生させる圧電材料があり、近年この圧電材料を用いて電気として回収することが検討・開発されてきた。特に、車両等の移動物体が通行する場合に、道路面に加わる動荷重を電力に変える技術が開発されてきた。〔参考文献1,2〕
【特許文献1】特開2003−233894公報(〔0010〕、〔0044〜0045〕)
【特許文献2】特開2006−197704公報(〔0013〕、〔0016〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記先行技術は、外力が加わることにより電気を発生させる圧電部材としては、チタン酸ジルコン酸鉛系の圧電セラミック板が採用されるか、又は圧電性高分子材料PVDF(polyvinylidene fluoride)のフィルムが採用されている。これらの材料は、セラミック板は弾力性に乏しく折損し易い問題があり、また高分子材料は弾力性があるが耐荷重は小さいという問題がある。
【0005】
また、自動車等の車両は、電車等の列車とは異なり、道路上を軌道のように定点走行が困難であるし、道路に賦与する荷重も小さい。本発明は、これらの問題を解決したものであって、列車等の移動物体が軌道上を走行する際に発生する列車等の走行荷重や走行振動荷重である動荷重を効率よく利用して発電することにより、電気エネルギとして回収する軌道発電装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る軌道発電装置は、列車または車両の移動物体が通過する軌道に配設された圧電部材を備え、該圧電部材上を該移動物体が通過することにより該圧電部材で発生した電気を取り出すことを特徴とする。また、請求項2に係る軌道発電装置は、前記圧電部材に充電回路を介して接続されたバッテリを備えることを特徴とする。
【0007】
これらの構成により、圧電部材上を前記移動物体が通過するときに、圧電部材に移動物体の荷重と走行に伴う振動荷重、いわゆる動荷重である走行荷重が繰り返し加わることにより電気を発電することができる。このように移動物体は必ず軌道を走行するから確実に発電に結び付けられるので効率よく発電できる。また、圧電部材に対して移動物体の走行荷重が、加重と抜重を繰り返しているから交流状態の発電が得られ、この発電を整流器で全波整流してバッテリに蓄える。電気の需要先には、発電が移動物体による間欠発電のためバッテリを経由して送電するのが好ましい。また、前記軌道発電装置は、得られる電力が小規模であるが、短距離区間の軌道に対してローカルに簡便に設置することができ、照明灯、指示サイン灯又は電飾広告等に用いられるLED灯の電源として好適に用いることができる。
【0008】
また、請求項3に係る軌道発電装置は、前記圧電部材が、高分子材料と、該高分子材料中に分散された圧電性セラミック粒子と、の複合体であることを特徴とする。また、請求項4に係る軌道発電装置は、請求項3に係る軌道発電装置において、前記圧電性セラミック粒子が、チタン酸ジルコン酸鉛又はチタン酸ジルコン酸鉛とMg、Nb、Co、Mn、Sbから選択された一種類以上の元素を含有する固溶体からなることを特徴とする。また、請求項5に係る軌道発電装置は、請求項3記載の軌道発電装置において、前記高分子材料が、ゴム、高分子樹脂又は強誘電性高分子樹脂のいずれかであることを特徴とする。
【0009】
これらの構成を採用することにより、軌道下に載置される圧電部材が弾力性を有し、機械的強度もある高分子材料中に、圧電性誘電セラミック粒子が分散して存在するように構成されている。列車等の移動物体の通過の際の動荷重である走行荷重が圧電部材に加わり効率よく発電できると共に、圧電部材自身が耐候性、耐振性、吸音性の材料であるから、軌道の耐振性、耐騒音性に貢献することができる。また、高分子材料が強誘電性高分子樹脂の場合には、圧電部材の発電能力を向上させることができる。また、前記圧電部材は、例えば強誘電セラミック粒子を高分子材料中に混合して混練することにより分散させ、次いでロール加工により板状に成型する。その後、両面に電極を形成し、強電界を掛ける分極処理を施して強誘電セラミック粒子の結晶粒に圧電性を付加して製造することができる。また、前記高分子材料が誘電率の大きい強誘電性高分子樹脂を用いた場合には、さらに大きい圧電性を付加した圧電部材を製造できる。軌道下の圧電部材としては、前記板状の圧電部材を積層して用いるのが、発電電圧の上昇が図られる点からも好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る請求項1、2記載の軌道発電装置によれば、圧電部材を設置した軌道上を通過する列車等の移動物体の走行荷重を利用して発電することにより確実に効率よく電気として回収することができる。また、本発明に係る軌道発電装置は、短い区間の軌道に区切って設置できる簡便な装置であるから、照明灯、指示サイン灯又は電飾広告に用いられるLED灯の点灯用電源として簡易に用いるのに適しているなど、局所用電源として最適である。このように未回収であったエネルギを電気エネルギとして回収することにより地球環境の保全の一助とすることができる。
【0011】
また、本発明に係る請求項3から5に記載の軌道発電装置によれば、圧電部材は高分子樹脂に圧電性セラミック粒子を分散させた複合体であるから、動荷重に対する圧電性能がよく、弾力性を有し、かつ機械的強度もあるので、しかも耐候性、耐振性、吸音性に富み、軌道下に設ける部材としても最適なものを得ることができる。また、この圧電部材は、積層することにより軌道発電装置に用いた場合に、発電電圧を高めることができ、装置の適用範囲を広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の軌道発電装置を実施するための最良の形態について図1,2を用いて説明する。図1は、本発明の実施するための最良の形態に係る軌道発電装置であって、コンクリート製スラブ軌道に適用し、(a)は模式的全体斜視図、(b)はA−A矢視の断面図である。図2は、本発明の実施するための最良の形態に係る別の軌道発電装置であって、バラス道床軌道に適用し、(a)は模式的全体斜視図、(b)はB−B矢視の断面図である。
【0013】
図1に示すように、本発明に係る軌道発電装置1は、列車等の移動物体が走行する軌条6と、軌条6をコンクリート製軌道スラブ8に、敷板7、圧電部材2、敷板7を介して軌間寸法が狂わないように締結されている構成をとる。軌条6は通常鋼製のロングレールが用いられ、2枚の敷板7も通常金属製であり、圧電部材2は敷板7間に挟持されている。圧電部材2は、図1bに示すように、板状の圧電部材2−aを積層して構成され、電圧を高めるために圧延部材2−aの電極を直列に接続した形態をとる。本図は、板状圧電部材2−aを積層した例を示すが、一層の圧電部材2−aでも十分機能するものである。
【0014】
また、図1には、二列の軌条6の下に、軌条6の直角方向に2個の敷板7、圧電部材2、敷板7のブロックを配設し、積層された圧電部材2の両端電極から配線5が各々の圧電部材に接続され、整流器3により全波整流して直流に変換した後、バッテリ4に発電した電気を蓄える。バッテリ4から需要先に配電するのは従前のとおりである。圧電部材2は、単層の圧電部材2−aとして構成することができるが、多数の板状圧電部材2−aを積層して構成した方が発電電圧を高められるので好ましい。
【0015】
圧電部材2は、高分子材料と、該高分子材料中に分散された圧電性セラミック粒子と、の複合体から構成される。前記圧電性セラミックは、チタン酸ジルコン酸鉛(PbTiOとPbZrOとの固溶体で、PZTと略称される。)または、PZTとMg、Nb、Co、Mn、Sbから選択された一種類以上の元素を含有する固溶体であって、この結晶構造はペロブスカイト(CaTiO)型でABOと略記されるもので、Bには小さいイオンであるTi4+,Zr4+、Mg2+、Mg2+、Nb5+、Co2+、Mn2+、Sb5+などが入り、原子数A:Bが1:1であれば同じ結晶構造を保てるので、圧電性が発揮できる。圧電部材2としては、圧電率が大きく、低電界で容易に分極可能なものが好ましく、前記固溶体を適切に選択合成することにより、安価で所望の形状・寸法のものを得ることができる。
【0016】
高分子材料としては、ゴムやポリアセタール等の高分子樹脂又は強誘電体高分子樹脂であるPVDF(polyvinylidene fluoride)が選択して用いられる。これらの高分子材料としては、セラミック粒子の充填性がよく、機械的性質が優れていることが特徴である。また、誘電率の大きい樹脂をマトリックスとして用いると、大きな圧電率を呈するので好ましい。
【0017】
前記圧電材料2は、例えば、次のようにして製造することができる。高分子材料と強誘電体セラミック粒子とをオープン加熱ロールを用いて溶融混練して、高分子材料中に強誘電体セラミック粒子を分散せしめた複合体を作る。次いで、得られた混練物をカレンダ成型することによりシート状又は薄板状の複合体を得る。次いで、複合体シートの両面にAlを蒸着し、これを電極として強電界を掛けた分極処理を施すことで、圧電性を示す圧電部材2を得ることができる。この場合、セラミックの粒子径が小さすぎると結晶ドメインより小さくなり、圧電率が小さくなるし、また高分子材料への分散も悪くなる、また、粒子径が大きすぎると、高分子材料への分散が不均一になり易く、分極処理の際に絶縁破壊が生ずる恐れがあるので、圧電性セラミック粒子の適性粒径範囲は2〜10μmである。
【0018】
図2の場合、バラス道床軌道における軌道発電装置1について、コンクリート製軌道スラブ8における軌道発電装置1と異なる構成について説明する。図2に示すように、本発明に係る軌道発電装置1は、列車等の移動物体が走行する軌条6と、軌条6をコンクリート製または木製枕木12に軌間寸法が狂わないように締結すると共に、枕木12の全長に亘り枕木12の下面に接して圧電部材2、敷板7を道床9上に載置した構成をとる。軌条6は通常鋼製のロングレールが用いられ、敷板7は通常金属製であり、圧電部材2が枕木12と敷板7により挟持されている。
【0019】
本発明に係る軌道発電装置1の作用について説明すると、列車等の移動物体が軌道6上を走行する際に発生する列車等の走行荷重や走行振動荷重等の動荷重が軌道下の敷板7又は枕木12を介して別の敷板7上に狭持される圧電部材2に対して加重と抜重を繰り返して加わる、すなわち動荷重方向が正負と変動する動荷重により圧電部材2から交流状態の電気を発電することができ、この電気を整流器3で全波整流してバッテリ4に蓄える。本発明に係る圧電部材2は、樹脂やゴムなどの高分子にPZTなどの強誘電体セラミック微粒子を分散し分極処理したものであり、その圧電性は強誘電体微粒子の結晶粒自身の圧電性による結晶効果に起因するものである。すなわち、強誘電性結晶が強制的に自発分極を持つから、これが歪によって変化するので大きな圧電率を持つ。また、誘電率の大きい樹脂であるPVDFをマトリックスとして用いるとさらに大きい圧電率をえることができる。このように、本発明に係る軌道発電装置は、短い区間の軌道に区切って設置できる簡便な装置であるから、照明灯、指示サイン灯又は電飾広告に用いられるLED灯の点灯用電源として簡易に用いるのに適しているなど、局所用電源として最適である。
【0020】
また、本発明に係る軌道発電装置1は、前述した場合以外でも、自動車等の車両である移動物体が通過する場所が決められて、定点的に走行できる場所、例えばETC料金所に設置して電気的エネルギとして回収することも可能である。このように、移動物体の走行条件さえ整えば、前述したことに囚われず、本発明に係る軌道発電装置1を適用することが0.できる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
車両や列車等の移動物体が軌道や通路を走行する場所において、小規模電力供給装置として利用できる。これにより二酸化炭素の削減に寄与して地球環境の保全方法としても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施するための最良の形態に係る軌道発電装置であって、(a)は模式的全体斜視図、(b)はA−A矢視の断面図である。
【図2】本発明の実施するための最良の形態に係る別の軌道発電装置であって、(a)は模式的全体斜視図、(b)はB−B矢視の断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1:軌道発電装置 2、2−a:圧電部材 3:整流器
4:バッテリー 5:配線 6:軌条 7:敷板
8:軌道スラブ 9:道床 10:路盤 11:モルタル 12:枕木

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車または車両の移動物体が通過する軌道に配設された圧電部材を備え、該圧電部材上を該移動物体が通過することにより該圧電部材で発生した電気を取り出すことを特徴とする軌道発電装置。
【請求項2】
前記圧電部材に充電回路を介して接続されたバッテリを備えることを特徴とする請求項1記載の軌道発電装置。
【請求項3】
前記圧電部材が、高分子材料と、該高分子材料中に分散された圧電性セラミック粒子と、の複合体であることを特徴とする請求項1または2記載の軌道発電装置。
【請求項4】
前記圧電性セラミック粒子が、チタン酸ジルコン酸鉛又はチタン酸ジルコン酸鉛とMg,Nb,Co,Mn,Sbから選択された一種類以上の元素を含有する固溶体からなることを特徴とする請求項3記載の軌道発電装置。
【請求項5】
前記高分子材料が、ゴム、高分子樹脂又は強誘電性高分子樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項3記載の軌道発電装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−63249(P2010−63249A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225377(P2008−225377)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(500136810)株式会社 大通 (26)
【Fターム(参考)】