軟磁性粉末材料、その製造方法、軟磁性成形体、その製造方法
【課題】鉄粉粒子への元素拡散に対するバリヤ性が高い被覆層をもつ軟磁性粉末材料およびその製造方法、ならびにその軟磁性粉末材料を用いた軟磁性成形体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】軟磁性粉末材料は、鉄を主成分とする鉄粉粒子1と、鉄粉粒子1の表面に無機系シリコン含有化合物を添加した水溶液と鉄粉粒子とを接触させて被覆したシリコン酸化物を主成分とする被覆層2とを具備し、さらに被覆層2の外層にフェライト層4が被覆されている。
【解決手段】軟磁性粉末材料は、鉄を主成分とする鉄粉粒子1と、鉄粉粒子1の表面に無機系シリコン含有化合物を添加した水溶液と鉄粉粒子とを接触させて被覆したシリコン酸化物を主成分とする被覆層2とを具備し、さらに被覆層2の外層にフェライト層4が被覆されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軟磁性粉末材料およびその製造方法、軟磁性成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の産業機器等の進歩に伴い、軟磁性材料は、従来よりも更に高い透磁率を有することが要望されている。更に、高い透磁率の他に、鉄損等の低減を図るため、高い比抵抗を有することが求められている。これらの要求に対し、これまでに種々の研究が進められ、種々の軟磁性成形体に係る技術が提案されてきた。
【0003】
特許文献1には、Fe−Al系の鉄系粉末を大気中で熱処理することにより粉末粒子の表面を選択的に酸化し、粉末粒子の表面に比抵抗の高いアルミ酸化物、鉄酸化物の膜を被覆した軟磁性粒子を形成し、その軟磁性粒子の粉末集合体を高温高圧下で成形して高密度の磁芯を製造する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ドラム内に軟磁性金属粒子とソフトフェライトとを装入した状態で機械的に攪拌させてメカノフュージョンを実施することにより、軟磁性金属粒子の表面にソフトフェライト層を機械的に被覆し、その軟磁性金属粒子の粉末集合体をプラズマ活性化焼結することにより磁性コアを製造する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3には、軟磁性の金属粉末粒子の表面に、高い比抵抗をもつガラス状の酸化物を被覆し、その軟磁性金属粉末粒子の粉末集合体を高温・高圧焼結することにより、軟磁性成形体を製造する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、Fe−Si系の軟磁性粉末粒子の表面にスピネル構造のフェライト層を被覆した複合粉末粒子と、平均粒径100ナノメートルのSiO2粉末粒子を0.05〜1.0質量%添加して混合した混合粉末を形成し、その後、混合粉末から圧粉体を形成し、その後、圧粉体を焼結する製造方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、軟磁性粉末粒子の表面に被覆層を形成した複合粉末粒子を形成し、その後、複合粉末粒子と粉末状のフェライト材とを混合分散させた混合粉末を形成し、その後、混合粉末から圧粉体を形成し、圧粉体を焼結する複合焼結材料の製造方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献6には、クロムやモリブデンを含有する鉄系粉末にフェライト被膜を形成した軟磁性粒子を形成し、その後、軟磁性粒子の集合体を加圧して圧粉体を形成し、その後、圧粉体を焼結して複合磁性材料を形成する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平5−326289号公報
【特許文献2】特開平5−47541号公報
【特許文献3】特開平8−167519号公報
【特許文献4】特開2003−306704号公報
【特許文献5】特開2005−243794号公報
【特許文献6】特開2005−150257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した各従来技術によれば、軟磁性成形体の比抵抗を高め得るため、交流磁場で使用される場合であっても、軟磁性成形体に発生する渦電流を抑えることができ、ひいては渦電流による損失を抑えることができる。
【0010】
しかしながら、焼結して軟磁性成形体を形成するとき、鉄粉粒子を構成する鉄成分の拡散を無視できない。拡散量が多いと、抵抗が低い物質が鉄粉粒子同士の界面に生成し易い。この場合、軟磁性成形体の目的とする磁気性能が得られにくいという不具合がある。
【0011】
殊に、特許文献4に係る技術によれば、鉄粉粒子の外側にSiO2(シリカ)粉末粒子が用いられているものの、鉄粉粒子→フェライト層→シリカ粉末粒子の順に並んでいるため、鉄粉粒子とフェライト層との間において相互拡散が生じやすい。このため特許文献4に係る技術によれば、鉄粉粒子とフェライト層との間において、相互拡散が発生し易く、電気抵抗が低い物質が生成するおそれがある。この場合、隣接する鉄粉同士間において渦電流のループが生じ、渦電流損失を増加させるおそれがあり、軟磁性成形体の目的とする磁気性能が得られにくいというおそれがある。
【0012】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、元素拡散に対するバリヤ性が高い被覆層を鉄粉粒子の表面に形成することにより、目的とする磁気性能を得るのに有利な軟磁性粉末材料およびその製造方法、軟磁性成形体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は軟磁性粒子および軟磁性成形体に関する技術について鋭意開発を進めている。そして、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子の表面に被覆すれば、軟磁性粒子を高温領域に加熱して焼結するときであっても、元素拡散に対するバリヤ性が高い被覆層が得られ、ひいては、鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低い非磁性物質が生成することを抑制できること知見し、試験で確認し、本発明を完成した。
【0014】
(1)即ち、様相1に係る軟磁性粉末材料は、鉄を主成分とする鉄粉粒子と、鉄粉粒子の表面に被覆されシリコン酸化物を主成分とする被覆層とを具備することを特徴とする。被覆層は元素拡散に対して高いバリヤ性をもつ。このため鉄粉粒子を構成する鉄成分が外部に拡散することが抑制される。これにより鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低い非磁性物質が生成することを抑制できる。
【0015】
(2)様相2に係る軟磁性粉末材料は、鉄を主成分とする鉄粉粒子と、鉄粉粒子の表面に被覆されシリコン酸化物層を主成分とする被覆層と、シリコン酸化物を主成分とする被覆層と、被覆層に被覆されたフェライト層とを具備しており、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子とフェライト層との間に介在させていることを特徴とする。
【0016】
被覆層は元素拡散に対して高いバリヤ性をもつ。このため鉄粉粒子を構成する鉄成分が外部に拡散することが抑制される。またフェライト層を構成している成分が鉄粉粒子の内部に拡散することが抑制される。これにより鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低い非磁性物質が生成することを抑制できる。
【0017】
(3)様相3に係る軟磁性粉末材料の製造方法は、鉄を主成分とする鉄粉粒子を用意する第1工程と、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子の表面に被覆する第2工程とを順に実施することを特徴とする。
【0018】
被覆層は元素拡散に対して高いバリヤ性をもつ。このため鉄粉粒子を構成する鉄成分が外部に拡散することが抑制される。これにより鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低く透磁率が低い非磁性物質が生成することを抑制できる。
【0019】
(4)様相4に係る軟磁性粉末材料の製造方法は、鉄を主成分とする鉄粉粒子を用意する第1工程と、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子の表面に被覆する第2工程と、シリコン酸化物を被覆した鉄粉粒子にフェライト層を被覆し、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子とフェライト層との間に介在させる第3工程とを順に実施することを特徴とする。
【0020】
被覆層は元素拡散に対して高いバリヤ性をもつ。このため鉄粉粒子を構成する鉄成分が外部(フェライト層)に拡散することが抑制される。またフェライト層を構成している成分が鉄粉粒子の内部に拡散することが抑制される。これにより鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低い非磁性物質が生成することを抑制できる。
【0021】
(5)様相5に係る軟磁性成形体は、上記した様相に係る前記軟磁性粉末材料を主成分とする粉末集合体の粒子が互いに接合されていることを特徴とする。
【0022】
被覆層は元素拡散に対して高いバリヤ性をもつ。このため鉄粉粒子を構成する鉄成分が外部に拡散することが抑制される。またフェライト層が被覆されている場合には、フェライト層を構成している成分が鉄粉粒子の内部に拡散することが抑制される。これにより鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低い非磁性物質が生成することを抑制できる。
【0023】
(6)様相6に係る軟磁性成形体の製造方法は、上記した様相に係る軟磁性粉末材料を主成分とする粉末集合体に対して、加圧する操作と加熱する操作とを、同時にまたは時間をずらして行うことにより軟磁性成形体を形成することを特徴とする。これにより軟磁性成形体が得られる。被覆層は元素拡散に対して高いバリヤ性をもつ。このため鉄粉粒子を構成する鉄成分が外部に拡散することが抑制される。またフェライト層が被覆されている場合には、フェライト層を構成している成分が鉄粉粒子の内部に拡散することが抑制される。これにより鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低い非磁性物質が生成することを抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、元素拡散に対するバリヤ性が高い被覆層を鉄粉粒子の表面に形成することにより、目的とする磁気性能を得るのに有利な軟磁性粉末材料およびその製造方法、軟磁性成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に係る鉄粉粒子としては、純鉄(Fe)、鉄−アルミニウム系(Fe−Al系)、鉄−シリコン系(Fe−Si系)、鉄−ニッケル系(Fe−Ni系)、鉄−シリコン−アルミニウム(Fe−Si−Al系)、鉄−クロム系(Fe−Cr系)、鉄−コバルト系(Fe−Co系)の少なくとも1種を採用でき、場合によってはアモルファスであっても良い。鉄粉粒子を100%とするとき、質量比で、Cは0.1%以下、殊に0.01%以下とすることができ、Oは0.5%以下、殊に0.1%以下とすることができる。鉄粉粒子としては、水アトマイズ法で製造したものでも良いし、ガスアトマイズ法で製造したものでも良いし、場合によっては、機械的破砕法で製造したものでも良い。
【0026】
鉄粉粒子の粒径が過剰に小さいと、満足する磁気時性が得られにくい。鉄粉粒子の粒径が過剰に大きいと、軟磁性成形体を圧縮成形する際に圧縮成形性が低下する。従って、鉄粉粒子の粒径としては10μm〜2000μm、10μm〜1000μm、好ましくは50〜250μm、更に好ましくは100μm〜200μmを採用することができる。
【0027】
フェライト層は、基本的には、鉄酸化物を主成分とする高い電気絶縁性をもつ酸化物層であり、高い比抵抗、高い透磁率を有する。故に、鉄を主成分とする鉄粉粒子の表面にフェライト層が被覆されていれば、高い比抵抗、高い透磁率を発現させるのに有利となる。従って、高周波交流磁場等の交流磁場が作用する用途で使用されるときにおいて、渦電流が小さくなり、渦電流で生じる損失が低減される。
【0028】
フェライト層としては一般的にスピネル型構造を採用できる。スピネル型構造は結晶磁気異方性が比較的小さいため、透磁率、飽和磁束密度が高い。この場合フェライト層としては、(Fe,M)3O4の組成式をもつ形態を採用できる。Mは鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)の少なくとも1種とすることができる。上記したMがNi、Znのときには、NiZnフェライトとも呼ばれる。フェライト層の厚みは、フェライト層の組成、鉄粉粒子の粒子径等にもよるが、0.01μm〜10μm、殊に0.01μm〜2μm、0.2μm〜1μmとすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
フェライト層の厚みが過剰であると、フェライト層を生成する時間が長くなり、工業的生産の面では好ましくない。フェライト層の厚みが過小であると、軟磁性粒子及び軟磁性成形体の所望の比抵抗が得られにくくなり、交流磁場で使用したとき、渦電流で生じる損失が増加するおそれがある。
【0030】
被覆層はシリコン酸化物(一般的にはSiO2)を主成分とする。シリコン酸化物は高い電気絶縁性をもつ。被覆層の厚みとしては、鉄粉粒子の組成やサイズ等にも影響されるが、1〜500ナノメートル、殊に5〜100ナノメートルが例示される。
【0031】
本発明に係る軟磁性成形体は、軟磁性粉末材料を主成分とする粉末集合体に対して、加圧する操作と焼結する操作とを、同時にまたは時間をずらして行うことにより形成することができる。この場合、軟磁性粒子の粉末集合体が互いに接合されている。軟磁性成形体を製造するにあたり、上記した軟磁性粒子を主成分とする粉末集合体を用意する工程と、その軟磁性粒子の粉末集合体を加圧成形して互いに結合することにより軟磁性成形体を得る結合工程とを実施することができる。加圧成形としては、成形型加圧方式、静水圧加圧方式(CIP)などを例示できる。加圧力としては鉄粉粒子の種類、加圧成形の温度などによって相違するものの、2.0〜10tonf/cm2(≒196〜980MPa)、殊に4.5〜7tonf/cm2(≒441〜686MPa)を例示することができるが、これらに限定されるものではない。加圧時間としては鉄粉粒子の種類、加圧成形の温度などによって相違するものの、5〜120秒、殊に10〜60秒を例示することができるが、これらに限定されるものではない。加圧成形の雰囲気としては、大気雰囲気、非酸化性雰囲気(アルゴンガス雰囲気、真空雰囲気等)を例示することができる。
【0032】
軟磁性粉末材料の製造方法は、鉄を主成分とする鉄粉粒子を用意する第1工程と、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子の表面に被覆する第2工程と、鉄粉粒子の被覆層にフェライト層を被覆し、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子とフェライトとの間に介在させる第3工程とを順に実施する。
【0033】
第2工程は、無機系のシリコン含有化合物を用い、シリコン含有化合物を添加した水溶液と鉄粉粒子とを接触させる接触操作を経て実施される形態が例示される。接触操作としては、シリコン含有化合物を添加した水溶液に鉄粉粒子を浸漬させても良いし、あるいは、シリコン含有化合物を添加した水溶液を鉄粉粒子にスプレー塗布しても良い。反応性を高めるため、水溶液を加熱することが好ましい。
【0034】
シリコン含有化合物としては水ガラスが使用できる。水ガラスはアルカリケイ酸塩であり、アルカリ性を示す。アルカリは一般的にはナトリウムであり、水ガラスはケイ酸ナトリウムが挙げられる。一般式としては、Na2O・nSiO2が挙げられる。例えばn=2〜4にできる。アルカリケイ酸塩を構成するアルカリはカリウムでも良い。
【0035】
ここで、水溶液において水ガラスが薄すぎると、シリコン酸化物が鉄粉粒子の表面に付着する時間が長くなり、生産性が低下する。水溶液において水ガラスが濃すぎると、シリコン酸化物が鉄粉粒子に均一に付着しない。このため水溶液における水ガラスの濃度としては、質量比で、1〜10%程度、殊に1〜5%程度が挙げられる。
【0036】
上記した接触操作としては、水溶液にアルカリ調整剤(塩基性物質)を添加し、水溶液のPH値をアルカリ領域にしつつ実施することが好ましい。アルカリ調整剤としてはアルカリ金属の水酸化物を用いることができる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが例示される。水溶液のPH値をアルカリ領域に設定する理由としては、鉄粉粒子の表面における錆びの生成、酸化膜の生成を抑制するためである。鉄粉粒子の表面に錆びや、酸化膜が生成すると、シリコン酸化物が鉄粉粒子の表面に付着しにくいと推察される。水溶液のPH値としてはアルカリ領域であれば良く、PH値が7.5〜14、あるいは、8〜13とすることができる。この場合、アルカリ性が強過ぎても弱すぎてもシリコン酸化物が鉄粉粒子の表面に付着しにくい。
【0037】
軟磁性成形体としては、モータの固定子コア、モータの回転子コア、電磁アクチュエータの軟磁性コアが例示される。モータとしては、公知のモータで有れば良く、回転式モータ、リニア式モータを含む。電磁アクチュエータは、コイルに通電することによって、磁力または電磁力により操作子を作動させるものを意味し、プランジャ型のソレノイド装置、油圧回路または空圧回路といった流体回路等に使用される電磁弁を含む。
【実施例1】
【0038】
以下、本発明の実施例1について図1および図2を参照して説明する。図1は鉄粉粒子1の概念図を示す。まず、下記の軟磁性をもつ鉄粉粒子1の粉末集合体を用意する。鉄粉粒子1の組成は、純鉄に近いものであり、質量比で、Fe−0.25%C−0.25%O−0.03%Si−0.1%Mn−0.001%Pである。製法はガスアトマイズ法であり、粒子の平均粒径は約100μmである。
【0039】
そして、鉄粉粒子1の表面に湿式処理により被覆層2を被覆する。この場合、無機系のシリコン含有化合物である水ガラス(アルカリケイ酸塩,Na2O・nSiO2、n=2〜4)を用いる。そして水ガラスを70℃の水に添加する。水ガラスの添加割合は、質量比で約1%とする。そして、PH調整剤として水酸化ナトリウムで水溶液のPH値を12付近に調整する。これを調整液とする。
【0040】
次に、鉄粉粒子1の集合体を調整液に浸漬させ、所定時間(約1時間)、所定温度(約70℃)で鉄粉粒子1を調整液内に保持する。その後、調整液から鉄粉粒子1の集合体を取り出し、鉄粉粒子1を乾燥させる。これにより鉄粉粒子1の表面に被覆層2が形成されている。図2はこのように製造した軟磁性粉末粒子の概念の断面を模式的に示す。被覆層2は基本的にはシリコン酸化物(SiO2)を主成分として形成されている。被覆層2の厚みは約1〜500ナノメートルとすることができる。
【0041】
以上説明したように本実施例によれば、鉄粉粒子1の集合体を調整液に浸漬させることにより、シリコン酸化物(SiO2)を主成分とする被覆層2を鉄粉粒子1の表面に形成する。このような方法であれば、コスト低廉を図りつつ、被覆層2で被覆された多量の軟磁性粉末粒子を製造できる。
【実施例2】
【0042】
以下、本発明の実施例2について図3および図4を説明する。本実施例によれば、実施例1で製造した被覆層2を被覆した鉄粉粒子1の集合体を用いる。そしてこの鉄粉粒子1の被覆層2にフェライト層4を被覆する(図4参照)。これによりシリコン酸化物を主成分とする被覆層2を、鉄粉粒子1とフェライト層4との間に介在させる(図4参照)。
【0043】
フェライト層4を被覆するにあたり、図3に示すメカノフュージョン装置を用いて行う。この場合、図3に示すように、メカノフュージョン装置は、円筒形のケース100(内径150ミリメートル)と、ケース100内に回転可能に配置されたスクレーバ102と、ケース100内に回転可能に配置されたインナーピース104とをもつ。
【0044】
そして、被覆層2を被覆した鉄粉粒子1の集合体と、フェライト粉末粒子(平均粒径:5〜300ナノメートル)3の集合体とを、メカノフュージョン装置の円筒形のケース100に挿入する。この場合、配合比としては、質量比で、被覆層2を被覆した鉄粉粒子1:フェライト粉末粒子3=99.4:0.6とした。
【0045】
フェライト粉末粒子3はNi−Zn−Cuフェライトである。即ち、フェライト粉末粒子3は、鉄酸化物(Fe2O3)を主成分とし、ニッケル酸化物、亜鉛酸化物、銅酸化物を含む。具体的には、フェライトの組成は、質量比で、ニッケル酸化物が約45%、亜鉛酸化物が約2%、銅酸化物が約3%、残部が鉄酸化物および不可避の不純物である。フェライト粉末粒子3は銅成分を含有するため、銅成分を含有しない場合に比較して、フェライト粉末粒子3同士の焼結温度を低下させることができる。フェライトの粉末粒子3同士の焼結温度を約1100℃付近から、750〜850℃へと低下させることができる。
【0046】
そして、メカノフュージョン装置を作動させ、不活性ガス(アルゴンガス)を5リットル/分間の流速でケース100内に供給しつつ、スクレーバ102およびインナーピース104を回転数800rpmで40分間回転させる。これによりケース100内に配置されている鉄粉粒子1とフェライト粉末粒子3とに、スクレーバ102による掻き取り作用と、インナーピース104による圧縮作用とが作用する。これによりシリコン酸化物を主成分とする被覆層2が被覆された鉄粉粒子1にフェライト粉末粒子3が堆積し、フェライト層4が被覆層2の上に形成される。これによりシリコン酸化物を主成分とする被覆層2は、鉄粉粒子1とフェライト層との間に介在する。図4はこのように製造した軟磁性粉末粒子の概念の断面を模式的に示す。
【実施例3】
【0047】
以下、本発明の実施例3を説明する。本実施例によれば、実施例2で製造した軟磁性粉末粒子を用いる。軟磁性粉末粒子は、シリコン酸化物を主成分とする被覆層2が被覆された鉄粉粒子1と、鉄粉粒子1の被覆層2に被覆されたフェライト層4とを有する。鉄粉粒子1とフェライト層4との間には、シリコン酸化物を主成分とする被覆層2が存在する(図4参照)。
【0048】
そして、図5に示すように、第1分割型201および第2分割型202をもつ成形型200を用い、上記した軟磁性粉末粒子の集合体を成形型200のキャビティ203に装填する。その後、成形型200のキャビティ203内の軟磁性粉末粒子の集合体を加圧成形し、圧粉体6を形成する。その後、圧粉体6を焼結炉において窒素雰囲気で焼結温度750℃とし、1時間焼結する。これにより圧粉体6を構成する軟磁性粉末粒子同士を互いに結合させる。これにより軟磁性成形体7を形成する。加圧成形の条件としては、雰囲気として大気雰囲気とし、温度としては約25℃とし、面圧は約8tonf/cm2 (≒800MPa)とする。
【0049】
上記したように製造した軟磁性成形体7によれば、軟磁性粉末粒子が互いに接合している。軟磁性粉末粒子を構成する鉄粉粒子1とフェライト層4との間には、被覆層2が膜状に介在している。被覆層2は、電気絶縁性が高いシリコン酸化物(SiO2)を主成分とする。このため、軟磁性成形体7が交流磁場が作用する部位において使用されるとき、高い電気絶縁性をもつシリコン酸化物(SiO2)を主成分とする被覆層2により、渦電流のループが抑制され、渦電流による損失が抑制される。
【0050】
軟磁性粉末粒子の焼結性を高めるためには、焼結温度をある程度以上とすることが好ましい。しかし高温で焼結すると、鉄粉粒子1とフェライト層4との間において元素拡散が進行し、電気抵抗が低くかつ透磁率が低い非磁性物質(例えばFeO)が鉄粉粒子1とフェライト層4との間に生成されるおそれがある。
【0051】
この点本実施例によれば、軟磁性粉末粒子を構成する鉄粉粒子1とフェライト層4との間には、シリコン酸化物(SiO2)を主成分とする拡散バリヤ性が高い被覆層2が膜状に介在している。このため、圧粉体6を焼結温度領域で焼結するとき、鉄粉粒子1の鉄成分がフェライト層4側に拡散することが抑制される。同様に、フェライト層4の成分が鉄粉粒子1側に拡散することが抑制される。このように焼結時において、焼結温度が高いときであっても、元素の拡散が被覆層2により抑制される。このため、鉄粉粒子1とフェライト層4との間に、電気抵抗が低くかつ透磁率が低い非磁性物質(例えばFeO)が生成されることが抑制される。従って、軟磁性成形体7の良好な磁気特性が得られる。
【0052】
ところで、フェライト層を形成するフェライト粉末粒子は酸化物であるため、フェライト粉末粒子の焼結温度領域は、1000〜1200℃と、鉄粉のみを焼結させる場合に比較して高くする必要がある。この点本実施例によれば、フェライト層4を形成するフェライト粉末粒子3は、鉄酸化物(Fe2O3)を主成分とし、ニッケル酸化物、亜鉛酸化物、銅酸化物を含む。このようにフェライト粉末粒子3は銅成分を含有するため、銅成分を含有しない場合に比較して、フェライト粉末粒子3同士の焼結温度を低下させることができる。このため鉄粉粒子1の焼結温度と、フェライト粉末粒子3の焼結開始温度とを近づけることができる。このため焼結性を高めることができる。
【実施例4】
【0053】
以下、本発明の試験例を具体的に説明する。本試験例では、便宜上、鉄板からなる試験片10(厚み:2ミリメートル、長さ:1センチメートル、幅:1センチメートル)を鉄系粒子としてみなし、試験片とした。試験片10の組成は鉄粉粒子1の組成に実質的に相当するものであり、炭素を0.25%、シリコンを0.03%、マンガンを0.16%含有する。本実施例によれば、湿式処理により、試験片10の表面にシリコン酸化物(SiO2)の被覆層20を形成する。被覆層20を形成する手順について説明する。
【0054】
まず、70℃の水に水ガラスを添加した。水ガラスの添加割合は、質量比で、約1%とした。この場合、PH調整剤として水酸化ナトリウムでPH値を12付近に調整し、調整液12を形成した。
【0055】
次に、試験片10を調整液12に所定時間(1時間)浸漬させ、所定温度(70℃)で試験片10を調整液12内に保持した。その後、調整液12から試験片10を取り出し、試験片10を乾燥させた。これにより試験片10の表面には薄膜状の被覆層20が形成されている。被覆層20は基本的にはシリコン酸化物(SiO2)で形成されている。被覆層20の厚みは、膜厚計(ANRITSU ELECTIC株式会社製,型式K−402B)で測定したところ、約1マイクロメートルであった。
【0056】
被覆層20を被覆した試験片10について、窒素ガス雰囲気において450℃で1時間加熱して熱処理を実施した。更に、被覆層20を被覆した別の試験片10について、窒素ガス雰囲気において600℃で1時間加熱して熱処理を実施し、試験片10の界面における接合を促進させた。更に、被覆層20を被覆した別の試験片10について、窒素ガス雰囲気において800℃で1時間加熱して熱処理を実施した。
【0057】
このように熱処理するにあたり、図8に示すように、2つの試験片10同士を重ね合わせてサンプルとした。サンプルでは、試験片10に被覆されている被覆層20同士が重なり合い、接触している。
【0058】
比較例について試験を行った。比較例によれば、鉄板からなる試験片10Sの表面に、フェライトシート40(Ni−Zn−Cuフェライトシート、厚み1マイクロメートル)を1枚載せた。フェライトシート40はフェライト層4に相当する。フェライトシート40は、鉄酸化物(Fe2O3)を主成分とし、ニッケル酸化物、亜鉛酸化物、銅酸化物を含む。具体的には、フェライトシート40の組成は、質量比で、ニッケル酸化物が45%、亜鉛酸化物が2%、銅酸化物が3%、残部が鉄酸化物および不可避の不純物であった。そして、2つの試験片10S同士をフェライトシート40が重なるように接触状態に積層させた。これを比較例のサンプルとした。
【0059】
そして、2端子法により、実施例に係るサンプル、比較例に係るサンプルについて、厚み方向の電気抵抗を測定した。試験結果を図10に示す。図10において特性線W1は、実施例に係るサンプルの試験結果を示す。特性線W2は、比較例に係るサンプルの試験結果を示す。
【0060】
図10の特性線W2に示すように、比較例に係るサンプルによれば、熱処理の温度を450℃としたときには、サンプルの電気抵抗は高く維持されていたが、熱処理の温度が600℃になると、サンプルの電気抵抗は急激に低下した。このことから、比較例に係るサンプルによれば、焼結温度領域に加熱されると、拡散が促進され、試験片10の表面に形成されているフェライトシート40に、電気抵抗が低い物質(FeO)が生成しているため、サンプルの厚み方向の電気抵抗が低下したものと推察される。これは、軟磁性粉末材料に適用した場合には、鉄粉粒子1同士の導通性が高まり、渦電流ループが流れ易くなり、渦電流損が増加することを意味する。
【0061】
これに対して、特性線W1に示すように、実施例に係るサンプルによれば、熱処理の温度が450℃、600℃、800℃である場合においても、サンプルの電気抵抗は高く維持されていた。このことから、実施例に係るサンプルによれば、試験片10の表面に形成されている被覆層2の拡散バリヤ性が高いため、鉄粉粒子1の鉄成分の拡散が抑制され、高温領域に加熱されるときであっても、試験片10の表面に形成されている被覆層2の電気絶縁性が良好に維持されているものと推察される。
【0062】
X線回折装置によりXRD分析した。この場合には、被覆層20同士が重なるように、被覆層20を形成した2つの試験片10同士を重ねたサンプルを用い、このサンプルを窒素雰囲気において800℃で1時間加熱する熱処理を施した。XRD分析結果を図11(横軸は2θ、縦軸は強度)に示す。図11に示すように、800℃という高温で1時間加熱した条件であっても、SiO2のピーク(ASTMカードで同定)が認められた。即ち、高温領域で焼結したとしても、被覆層2においてシリコン酸化物が良好に残留しており、鉄粉粒子同士1の間において拡散バリヤ性を維持すると共に電気絶縁性を維持するのに有利となる。
【0063】
本発明は上記し且つ図面に示した実施例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。上記した実施例によれば、水ガラスを水に添加するにあたり、水ガラスの添加割合は、質量比で、約1%とするが、これに限らず、0.1〜8%程度としても良い。上記した実施例によれば、フェライト粉末粒子はNi−Znフェライトとしても良いし、Ni−Cuフェライトとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1で用いる鉄粉粒子の概念を模式的に示す構成図である。
【図2】実施例1の鉄粉粒子に被覆層を被覆した状態の概念を模式的に示す構成図である。
【図3】実施例2に係り、被覆層を被覆した鉄粉粒子の表面にフェライト層を被覆する方法を模式的に示す構成図である。
【図4】実施例2に係り、被覆層を被覆した鉄粉粒子の表面にフェライト層を被覆した軟磁性粒子の概念を模式的に示す構成図である。
【図5】実施例3に係り、圧粉体を成形する過程を模式的に示す構成図である。
【図6】実施例3に係り、圧粉体を焼結して形成した軟磁性成形体を模式的に示す構成図である。
【図7】実施例4に係り、試験片に被覆層を被覆する過程を模式的に示す構成図である。
【図8】実施例4に係り、被覆層を被覆した試験片の厚み方向の電気抵抗を測定する状態を模式的に示す構成図である。
【図9】比較例に係り、被覆層を被覆した試験片の厚み方向の電気抵抗を測定する状態を模式的に示す構成図である。
【図10】試験結果に係り、抵抗と熱処理の温度との関係を示すグラフである。
【図11】XRD分析した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
図中、1は鉄粉粒子、2は被覆層、3はフェライト粉末粒子、4はフェライト層、6は圧粉体、7は軟磁性成形体を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は軟磁性粉末材料およびその製造方法、軟磁性成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の産業機器等の進歩に伴い、軟磁性材料は、従来よりも更に高い透磁率を有することが要望されている。更に、高い透磁率の他に、鉄損等の低減を図るため、高い比抵抗を有することが求められている。これらの要求に対し、これまでに種々の研究が進められ、種々の軟磁性成形体に係る技術が提案されてきた。
【0003】
特許文献1には、Fe−Al系の鉄系粉末を大気中で熱処理することにより粉末粒子の表面を選択的に酸化し、粉末粒子の表面に比抵抗の高いアルミ酸化物、鉄酸化物の膜を被覆した軟磁性粒子を形成し、その軟磁性粒子の粉末集合体を高温高圧下で成形して高密度の磁芯を製造する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ドラム内に軟磁性金属粒子とソフトフェライトとを装入した状態で機械的に攪拌させてメカノフュージョンを実施することにより、軟磁性金属粒子の表面にソフトフェライト層を機械的に被覆し、その軟磁性金属粒子の粉末集合体をプラズマ活性化焼結することにより磁性コアを製造する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3には、軟磁性の金属粉末粒子の表面に、高い比抵抗をもつガラス状の酸化物を被覆し、その軟磁性金属粉末粒子の粉末集合体を高温・高圧焼結することにより、軟磁性成形体を製造する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、Fe−Si系の軟磁性粉末粒子の表面にスピネル構造のフェライト層を被覆した複合粉末粒子と、平均粒径100ナノメートルのSiO2粉末粒子を0.05〜1.0質量%添加して混合した混合粉末を形成し、その後、混合粉末から圧粉体を形成し、その後、圧粉体を焼結する製造方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、軟磁性粉末粒子の表面に被覆層を形成した複合粉末粒子を形成し、その後、複合粉末粒子と粉末状のフェライト材とを混合分散させた混合粉末を形成し、その後、混合粉末から圧粉体を形成し、圧粉体を焼結する複合焼結材料の製造方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献6には、クロムやモリブデンを含有する鉄系粉末にフェライト被膜を形成した軟磁性粒子を形成し、その後、軟磁性粒子の集合体を加圧して圧粉体を形成し、その後、圧粉体を焼結して複合磁性材料を形成する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平5−326289号公報
【特許文献2】特開平5−47541号公報
【特許文献3】特開平8−167519号公報
【特許文献4】特開2003−306704号公報
【特許文献5】特開2005−243794号公報
【特許文献6】特開2005−150257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した各従来技術によれば、軟磁性成形体の比抵抗を高め得るため、交流磁場で使用される場合であっても、軟磁性成形体に発生する渦電流を抑えることができ、ひいては渦電流による損失を抑えることができる。
【0010】
しかしながら、焼結して軟磁性成形体を形成するとき、鉄粉粒子を構成する鉄成分の拡散を無視できない。拡散量が多いと、抵抗が低い物質が鉄粉粒子同士の界面に生成し易い。この場合、軟磁性成形体の目的とする磁気性能が得られにくいという不具合がある。
【0011】
殊に、特許文献4に係る技術によれば、鉄粉粒子の外側にSiO2(シリカ)粉末粒子が用いられているものの、鉄粉粒子→フェライト層→シリカ粉末粒子の順に並んでいるため、鉄粉粒子とフェライト層との間において相互拡散が生じやすい。このため特許文献4に係る技術によれば、鉄粉粒子とフェライト層との間において、相互拡散が発生し易く、電気抵抗が低い物質が生成するおそれがある。この場合、隣接する鉄粉同士間において渦電流のループが生じ、渦電流損失を増加させるおそれがあり、軟磁性成形体の目的とする磁気性能が得られにくいというおそれがある。
【0012】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、元素拡散に対するバリヤ性が高い被覆層を鉄粉粒子の表面に形成することにより、目的とする磁気性能を得るのに有利な軟磁性粉末材料およびその製造方法、軟磁性成形体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は軟磁性粒子および軟磁性成形体に関する技術について鋭意開発を進めている。そして、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子の表面に被覆すれば、軟磁性粒子を高温領域に加熱して焼結するときであっても、元素拡散に対するバリヤ性が高い被覆層が得られ、ひいては、鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低い非磁性物質が生成することを抑制できること知見し、試験で確認し、本発明を完成した。
【0014】
(1)即ち、様相1に係る軟磁性粉末材料は、鉄を主成分とする鉄粉粒子と、鉄粉粒子の表面に被覆されシリコン酸化物を主成分とする被覆層とを具備することを特徴とする。被覆層は元素拡散に対して高いバリヤ性をもつ。このため鉄粉粒子を構成する鉄成分が外部に拡散することが抑制される。これにより鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低い非磁性物質が生成することを抑制できる。
【0015】
(2)様相2に係る軟磁性粉末材料は、鉄を主成分とする鉄粉粒子と、鉄粉粒子の表面に被覆されシリコン酸化物層を主成分とする被覆層と、シリコン酸化物を主成分とする被覆層と、被覆層に被覆されたフェライト層とを具備しており、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子とフェライト層との間に介在させていることを特徴とする。
【0016】
被覆層は元素拡散に対して高いバリヤ性をもつ。このため鉄粉粒子を構成する鉄成分が外部に拡散することが抑制される。またフェライト層を構成している成分が鉄粉粒子の内部に拡散することが抑制される。これにより鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低い非磁性物質が生成することを抑制できる。
【0017】
(3)様相3に係る軟磁性粉末材料の製造方法は、鉄を主成分とする鉄粉粒子を用意する第1工程と、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子の表面に被覆する第2工程とを順に実施することを特徴とする。
【0018】
被覆層は元素拡散に対して高いバリヤ性をもつ。このため鉄粉粒子を構成する鉄成分が外部に拡散することが抑制される。これにより鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低く透磁率が低い非磁性物質が生成することを抑制できる。
【0019】
(4)様相4に係る軟磁性粉末材料の製造方法は、鉄を主成分とする鉄粉粒子を用意する第1工程と、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子の表面に被覆する第2工程と、シリコン酸化物を被覆した鉄粉粒子にフェライト層を被覆し、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子とフェライト層との間に介在させる第3工程とを順に実施することを特徴とする。
【0020】
被覆層は元素拡散に対して高いバリヤ性をもつ。このため鉄粉粒子を構成する鉄成分が外部(フェライト層)に拡散することが抑制される。またフェライト層を構成している成分が鉄粉粒子の内部に拡散することが抑制される。これにより鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低い非磁性物質が生成することを抑制できる。
【0021】
(5)様相5に係る軟磁性成形体は、上記した様相に係る前記軟磁性粉末材料を主成分とする粉末集合体の粒子が互いに接合されていることを特徴とする。
【0022】
被覆層は元素拡散に対して高いバリヤ性をもつ。このため鉄粉粒子を構成する鉄成分が外部に拡散することが抑制される。またフェライト層が被覆されている場合には、フェライト層を構成している成分が鉄粉粒子の内部に拡散することが抑制される。これにより鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低い非磁性物質が生成することを抑制できる。
【0023】
(6)様相6に係る軟磁性成形体の製造方法は、上記した様相に係る軟磁性粉末材料を主成分とする粉末集合体に対して、加圧する操作と加熱する操作とを、同時にまたは時間をずらして行うことにより軟磁性成形体を形成することを特徴とする。これにより軟磁性成形体が得られる。被覆層は元素拡散に対して高いバリヤ性をもつ。このため鉄粉粒子を構成する鉄成分が外部に拡散することが抑制される。またフェライト層が被覆されている場合には、フェライト層を構成している成分が鉄粉粒子の内部に拡散することが抑制される。これにより鉄粉粒子同士の界面において、電気抵抗が低い非磁性物質が生成することを抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、元素拡散に対するバリヤ性が高い被覆層を鉄粉粒子の表面に形成することにより、目的とする磁気性能を得るのに有利な軟磁性粉末材料およびその製造方法、軟磁性成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に係る鉄粉粒子としては、純鉄(Fe)、鉄−アルミニウム系(Fe−Al系)、鉄−シリコン系(Fe−Si系)、鉄−ニッケル系(Fe−Ni系)、鉄−シリコン−アルミニウム(Fe−Si−Al系)、鉄−クロム系(Fe−Cr系)、鉄−コバルト系(Fe−Co系)の少なくとも1種を採用でき、場合によってはアモルファスであっても良い。鉄粉粒子を100%とするとき、質量比で、Cは0.1%以下、殊に0.01%以下とすることができ、Oは0.5%以下、殊に0.1%以下とすることができる。鉄粉粒子としては、水アトマイズ法で製造したものでも良いし、ガスアトマイズ法で製造したものでも良いし、場合によっては、機械的破砕法で製造したものでも良い。
【0026】
鉄粉粒子の粒径が過剰に小さいと、満足する磁気時性が得られにくい。鉄粉粒子の粒径が過剰に大きいと、軟磁性成形体を圧縮成形する際に圧縮成形性が低下する。従って、鉄粉粒子の粒径としては10μm〜2000μm、10μm〜1000μm、好ましくは50〜250μm、更に好ましくは100μm〜200μmを採用することができる。
【0027】
フェライト層は、基本的には、鉄酸化物を主成分とする高い電気絶縁性をもつ酸化物層であり、高い比抵抗、高い透磁率を有する。故に、鉄を主成分とする鉄粉粒子の表面にフェライト層が被覆されていれば、高い比抵抗、高い透磁率を発現させるのに有利となる。従って、高周波交流磁場等の交流磁場が作用する用途で使用されるときにおいて、渦電流が小さくなり、渦電流で生じる損失が低減される。
【0028】
フェライト層としては一般的にスピネル型構造を採用できる。スピネル型構造は結晶磁気異方性が比較的小さいため、透磁率、飽和磁束密度が高い。この場合フェライト層としては、(Fe,M)3O4の組成式をもつ形態を採用できる。Mは鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)の少なくとも1種とすることができる。上記したMがNi、Znのときには、NiZnフェライトとも呼ばれる。フェライト層の厚みは、フェライト層の組成、鉄粉粒子の粒子径等にもよるが、0.01μm〜10μm、殊に0.01μm〜2μm、0.2μm〜1μmとすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
フェライト層の厚みが過剰であると、フェライト層を生成する時間が長くなり、工業的生産の面では好ましくない。フェライト層の厚みが過小であると、軟磁性粒子及び軟磁性成形体の所望の比抵抗が得られにくくなり、交流磁場で使用したとき、渦電流で生じる損失が増加するおそれがある。
【0030】
被覆層はシリコン酸化物(一般的にはSiO2)を主成分とする。シリコン酸化物は高い電気絶縁性をもつ。被覆層の厚みとしては、鉄粉粒子の組成やサイズ等にも影響されるが、1〜500ナノメートル、殊に5〜100ナノメートルが例示される。
【0031】
本発明に係る軟磁性成形体は、軟磁性粉末材料を主成分とする粉末集合体に対して、加圧する操作と焼結する操作とを、同時にまたは時間をずらして行うことにより形成することができる。この場合、軟磁性粒子の粉末集合体が互いに接合されている。軟磁性成形体を製造するにあたり、上記した軟磁性粒子を主成分とする粉末集合体を用意する工程と、その軟磁性粒子の粉末集合体を加圧成形して互いに結合することにより軟磁性成形体を得る結合工程とを実施することができる。加圧成形としては、成形型加圧方式、静水圧加圧方式(CIP)などを例示できる。加圧力としては鉄粉粒子の種類、加圧成形の温度などによって相違するものの、2.0〜10tonf/cm2(≒196〜980MPa)、殊に4.5〜7tonf/cm2(≒441〜686MPa)を例示することができるが、これらに限定されるものではない。加圧時間としては鉄粉粒子の種類、加圧成形の温度などによって相違するものの、5〜120秒、殊に10〜60秒を例示することができるが、これらに限定されるものではない。加圧成形の雰囲気としては、大気雰囲気、非酸化性雰囲気(アルゴンガス雰囲気、真空雰囲気等)を例示することができる。
【0032】
軟磁性粉末材料の製造方法は、鉄を主成分とする鉄粉粒子を用意する第1工程と、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子の表面に被覆する第2工程と、鉄粉粒子の被覆層にフェライト層を被覆し、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を鉄粉粒子とフェライトとの間に介在させる第3工程とを順に実施する。
【0033】
第2工程は、無機系のシリコン含有化合物を用い、シリコン含有化合物を添加した水溶液と鉄粉粒子とを接触させる接触操作を経て実施される形態が例示される。接触操作としては、シリコン含有化合物を添加した水溶液に鉄粉粒子を浸漬させても良いし、あるいは、シリコン含有化合物を添加した水溶液を鉄粉粒子にスプレー塗布しても良い。反応性を高めるため、水溶液を加熱することが好ましい。
【0034】
シリコン含有化合物としては水ガラスが使用できる。水ガラスはアルカリケイ酸塩であり、アルカリ性を示す。アルカリは一般的にはナトリウムであり、水ガラスはケイ酸ナトリウムが挙げられる。一般式としては、Na2O・nSiO2が挙げられる。例えばn=2〜4にできる。アルカリケイ酸塩を構成するアルカリはカリウムでも良い。
【0035】
ここで、水溶液において水ガラスが薄すぎると、シリコン酸化物が鉄粉粒子の表面に付着する時間が長くなり、生産性が低下する。水溶液において水ガラスが濃すぎると、シリコン酸化物が鉄粉粒子に均一に付着しない。このため水溶液における水ガラスの濃度としては、質量比で、1〜10%程度、殊に1〜5%程度が挙げられる。
【0036】
上記した接触操作としては、水溶液にアルカリ調整剤(塩基性物質)を添加し、水溶液のPH値をアルカリ領域にしつつ実施することが好ましい。アルカリ調整剤としてはアルカリ金属の水酸化物を用いることができる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが例示される。水溶液のPH値をアルカリ領域に設定する理由としては、鉄粉粒子の表面における錆びの生成、酸化膜の生成を抑制するためである。鉄粉粒子の表面に錆びや、酸化膜が生成すると、シリコン酸化物が鉄粉粒子の表面に付着しにくいと推察される。水溶液のPH値としてはアルカリ領域であれば良く、PH値が7.5〜14、あるいは、8〜13とすることができる。この場合、アルカリ性が強過ぎても弱すぎてもシリコン酸化物が鉄粉粒子の表面に付着しにくい。
【0037】
軟磁性成形体としては、モータの固定子コア、モータの回転子コア、電磁アクチュエータの軟磁性コアが例示される。モータとしては、公知のモータで有れば良く、回転式モータ、リニア式モータを含む。電磁アクチュエータは、コイルに通電することによって、磁力または電磁力により操作子を作動させるものを意味し、プランジャ型のソレノイド装置、油圧回路または空圧回路といった流体回路等に使用される電磁弁を含む。
【実施例1】
【0038】
以下、本発明の実施例1について図1および図2を参照して説明する。図1は鉄粉粒子1の概念図を示す。まず、下記の軟磁性をもつ鉄粉粒子1の粉末集合体を用意する。鉄粉粒子1の組成は、純鉄に近いものであり、質量比で、Fe−0.25%C−0.25%O−0.03%Si−0.1%Mn−0.001%Pである。製法はガスアトマイズ法であり、粒子の平均粒径は約100μmである。
【0039】
そして、鉄粉粒子1の表面に湿式処理により被覆層2を被覆する。この場合、無機系のシリコン含有化合物である水ガラス(アルカリケイ酸塩,Na2O・nSiO2、n=2〜4)を用いる。そして水ガラスを70℃の水に添加する。水ガラスの添加割合は、質量比で約1%とする。そして、PH調整剤として水酸化ナトリウムで水溶液のPH値を12付近に調整する。これを調整液とする。
【0040】
次に、鉄粉粒子1の集合体を調整液に浸漬させ、所定時間(約1時間)、所定温度(約70℃)で鉄粉粒子1を調整液内に保持する。その後、調整液から鉄粉粒子1の集合体を取り出し、鉄粉粒子1を乾燥させる。これにより鉄粉粒子1の表面に被覆層2が形成されている。図2はこのように製造した軟磁性粉末粒子の概念の断面を模式的に示す。被覆層2は基本的にはシリコン酸化物(SiO2)を主成分として形成されている。被覆層2の厚みは約1〜500ナノメートルとすることができる。
【0041】
以上説明したように本実施例によれば、鉄粉粒子1の集合体を調整液に浸漬させることにより、シリコン酸化物(SiO2)を主成分とする被覆層2を鉄粉粒子1の表面に形成する。このような方法であれば、コスト低廉を図りつつ、被覆層2で被覆された多量の軟磁性粉末粒子を製造できる。
【実施例2】
【0042】
以下、本発明の実施例2について図3および図4を説明する。本実施例によれば、実施例1で製造した被覆層2を被覆した鉄粉粒子1の集合体を用いる。そしてこの鉄粉粒子1の被覆層2にフェライト層4を被覆する(図4参照)。これによりシリコン酸化物を主成分とする被覆層2を、鉄粉粒子1とフェライト層4との間に介在させる(図4参照)。
【0043】
フェライト層4を被覆するにあたり、図3に示すメカノフュージョン装置を用いて行う。この場合、図3に示すように、メカノフュージョン装置は、円筒形のケース100(内径150ミリメートル)と、ケース100内に回転可能に配置されたスクレーバ102と、ケース100内に回転可能に配置されたインナーピース104とをもつ。
【0044】
そして、被覆層2を被覆した鉄粉粒子1の集合体と、フェライト粉末粒子(平均粒径:5〜300ナノメートル)3の集合体とを、メカノフュージョン装置の円筒形のケース100に挿入する。この場合、配合比としては、質量比で、被覆層2を被覆した鉄粉粒子1:フェライト粉末粒子3=99.4:0.6とした。
【0045】
フェライト粉末粒子3はNi−Zn−Cuフェライトである。即ち、フェライト粉末粒子3は、鉄酸化物(Fe2O3)を主成分とし、ニッケル酸化物、亜鉛酸化物、銅酸化物を含む。具体的には、フェライトの組成は、質量比で、ニッケル酸化物が約45%、亜鉛酸化物が約2%、銅酸化物が約3%、残部が鉄酸化物および不可避の不純物である。フェライト粉末粒子3は銅成分を含有するため、銅成分を含有しない場合に比較して、フェライト粉末粒子3同士の焼結温度を低下させることができる。フェライトの粉末粒子3同士の焼結温度を約1100℃付近から、750〜850℃へと低下させることができる。
【0046】
そして、メカノフュージョン装置を作動させ、不活性ガス(アルゴンガス)を5リットル/分間の流速でケース100内に供給しつつ、スクレーバ102およびインナーピース104を回転数800rpmで40分間回転させる。これによりケース100内に配置されている鉄粉粒子1とフェライト粉末粒子3とに、スクレーバ102による掻き取り作用と、インナーピース104による圧縮作用とが作用する。これによりシリコン酸化物を主成分とする被覆層2が被覆された鉄粉粒子1にフェライト粉末粒子3が堆積し、フェライト層4が被覆層2の上に形成される。これによりシリコン酸化物を主成分とする被覆層2は、鉄粉粒子1とフェライト層との間に介在する。図4はこのように製造した軟磁性粉末粒子の概念の断面を模式的に示す。
【実施例3】
【0047】
以下、本発明の実施例3を説明する。本実施例によれば、実施例2で製造した軟磁性粉末粒子を用いる。軟磁性粉末粒子は、シリコン酸化物を主成分とする被覆層2が被覆された鉄粉粒子1と、鉄粉粒子1の被覆層2に被覆されたフェライト層4とを有する。鉄粉粒子1とフェライト層4との間には、シリコン酸化物を主成分とする被覆層2が存在する(図4参照)。
【0048】
そして、図5に示すように、第1分割型201および第2分割型202をもつ成形型200を用い、上記した軟磁性粉末粒子の集合体を成形型200のキャビティ203に装填する。その後、成形型200のキャビティ203内の軟磁性粉末粒子の集合体を加圧成形し、圧粉体6を形成する。その後、圧粉体6を焼結炉において窒素雰囲気で焼結温度750℃とし、1時間焼結する。これにより圧粉体6を構成する軟磁性粉末粒子同士を互いに結合させる。これにより軟磁性成形体7を形成する。加圧成形の条件としては、雰囲気として大気雰囲気とし、温度としては約25℃とし、面圧は約8tonf/cm2 (≒800MPa)とする。
【0049】
上記したように製造した軟磁性成形体7によれば、軟磁性粉末粒子が互いに接合している。軟磁性粉末粒子を構成する鉄粉粒子1とフェライト層4との間には、被覆層2が膜状に介在している。被覆層2は、電気絶縁性が高いシリコン酸化物(SiO2)を主成分とする。このため、軟磁性成形体7が交流磁場が作用する部位において使用されるとき、高い電気絶縁性をもつシリコン酸化物(SiO2)を主成分とする被覆層2により、渦電流のループが抑制され、渦電流による損失が抑制される。
【0050】
軟磁性粉末粒子の焼結性を高めるためには、焼結温度をある程度以上とすることが好ましい。しかし高温で焼結すると、鉄粉粒子1とフェライト層4との間において元素拡散が進行し、電気抵抗が低くかつ透磁率が低い非磁性物質(例えばFeO)が鉄粉粒子1とフェライト層4との間に生成されるおそれがある。
【0051】
この点本実施例によれば、軟磁性粉末粒子を構成する鉄粉粒子1とフェライト層4との間には、シリコン酸化物(SiO2)を主成分とする拡散バリヤ性が高い被覆層2が膜状に介在している。このため、圧粉体6を焼結温度領域で焼結するとき、鉄粉粒子1の鉄成分がフェライト層4側に拡散することが抑制される。同様に、フェライト層4の成分が鉄粉粒子1側に拡散することが抑制される。このように焼結時において、焼結温度が高いときであっても、元素の拡散が被覆層2により抑制される。このため、鉄粉粒子1とフェライト層4との間に、電気抵抗が低くかつ透磁率が低い非磁性物質(例えばFeO)が生成されることが抑制される。従って、軟磁性成形体7の良好な磁気特性が得られる。
【0052】
ところで、フェライト層を形成するフェライト粉末粒子は酸化物であるため、フェライト粉末粒子の焼結温度領域は、1000〜1200℃と、鉄粉のみを焼結させる場合に比較して高くする必要がある。この点本実施例によれば、フェライト層4を形成するフェライト粉末粒子3は、鉄酸化物(Fe2O3)を主成分とし、ニッケル酸化物、亜鉛酸化物、銅酸化物を含む。このようにフェライト粉末粒子3は銅成分を含有するため、銅成分を含有しない場合に比較して、フェライト粉末粒子3同士の焼結温度を低下させることができる。このため鉄粉粒子1の焼結温度と、フェライト粉末粒子3の焼結開始温度とを近づけることができる。このため焼結性を高めることができる。
【実施例4】
【0053】
以下、本発明の試験例を具体的に説明する。本試験例では、便宜上、鉄板からなる試験片10(厚み:2ミリメートル、長さ:1センチメートル、幅:1センチメートル)を鉄系粒子としてみなし、試験片とした。試験片10の組成は鉄粉粒子1の組成に実質的に相当するものであり、炭素を0.25%、シリコンを0.03%、マンガンを0.16%含有する。本実施例によれば、湿式処理により、試験片10の表面にシリコン酸化物(SiO2)の被覆層20を形成する。被覆層20を形成する手順について説明する。
【0054】
まず、70℃の水に水ガラスを添加した。水ガラスの添加割合は、質量比で、約1%とした。この場合、PH調整剤として水酸化ナトリウムでPH値を12付近に調整し、調整液12を形成した。
【0055】
次に、試験片10を調整液12に所定時間(1時間)浸漬させ、所定温度(70℃)で試験片10を調整液12内に保持した。その後、調整液12から試験片10を取り出し、試験片10を乾燥させた。これにより試験片10の表面には薄膜状の被覆層20が形成されている。被覆層20は基本的にはシリコン酸化物(SiO2)で形成されている。被覆層20の厚みは、膜厚計(ANRITSU ELECTIC株式会社製,型式K−402B)で測定したところ、約1マイクロメートルであった。
【0056】
被覆層20を被覆した試験片10について、窒素ガス雰囲気において450℃で1時間加熱して熱処理を実施した。更に、被覆層20を被覆した別の試験片10について、窒素ガス雰囲気において600℃で1時間加熱して熱処理を実施し、試験片10の界面における接合を促進させた。更に、被覆層20を被覆した別の試験片10について、窒素ガス雰囲気において800℃で1時間加熱して熱処理を実施した。
【0057】
このように熱処理するにあたり、図8に示すように、2つの試験片10同士を重ね合わせてサンプルとした。サンプルでは、試験片10に被覆されている被覆層20同士が重なり合い、接触している。
【0058】
比較例について試験を行った。比較例によれば、鉄板からなる試験片10Sの表面に、フェライトシート40(Ni−Zn−Cuフェライトシート、厚み1マイクロメートル)を1枚載せた。フェライトシート40はフェライト層4に相当する。フェライトシート40は、鉄酸化物(Fe2O3)を主成分とし、ニッケル酸化物、亜鉛酸化物、銅酸化物を含む。具体的には、フェライトシート40の組成は、質量比で、ニッケル酸化物が45%、亜鉛酸化物が2%、銅酸化物が3%、残部が鉄酸化物および不可避の不純物であった。そして、2つの試験片10S同士をフェライトシート40が重なるように接触状態に積層させた。これを比較例のサンプルとした。
【0059】
そして、2端子法により、実施例に係るサンプル、比較例に係るサンプルについて、厚み方向の電気抵抗を測定した。試験結果を図10に示す。図10において特性線W1は、実施例に係るサンプルの試験結果を示す。特性線W2は、比較例に係るサンプルの試験結果を示す。
【0060】
図10の特性線W2に示すように、比較例に係るサンプルによれば、熱処理の温度を450℃としたときには、サンプルの電気抵抗は高く維持されていたが、熱処理の温度が600℃になると、サンプルの電気抵抗は急激に低下した。このことから、比較例に係るサンプルによれば、焼結温度領域に加熱されると、拡散が促進され、試験片10の表面に形成されているフェライトシート40に、電気抵抗が低い物質(FeO)が生成しているため、サンプルの厚み方向の電気抵抗が低下したものと推察される。これは、軟磁性粉末材料に適用した場合には、鉄粉粒子1同士の導通性が高まり、渦電流ループが流れ易くなり、渦電流損が増加することを意味する。
【0061】
これに対して、特性線W1に示すように、実施例に係るサンプルによれば、熱処理の温度が450℃、600℃、800℃である場合においても、サンプルの電気抵抗は高く維持されていた。このことから、実施例に係るサンプルによれば、試験片10の表面に形成されている被覆層2の拡散バリヤ性が高いため、鉄粉粒子1の鉄成分の拡散が抑制され、高温領域に加熱されるときであっても、試験片10の表面に形成されている被覆層2の電気絶縁性が良好に維持されているものと推察される。
【0062】
X線回折装置によりXRD分析した。この場合には、被覆層20同士が重なるように、被覆層20を形成した2つの試験片10同士を重ねたサンプルを用い、このサンプルを窒素雰囲気において800℃で1時間加熱する熱処理を施した。XRD分析結果を図11(横軸は2θ、縦軸は強度)に示す。図11に示すように、800℃という高温で1時間加熱した条件であっても、SiO2のピーク(ASTMカードで同定)が認められた。即ち、高温領域で焼結したとしても、被覆層2においてシリコン酸化物が良好に残留しており、鉄粉粒子同士1の間において拡散バリヤ性を維持すると共に電気絶縁性を維持するのに有利となる。
【0063】
本発明は上記し且つ図面に示した実施例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。上記した実施例によれば、水ガラスを水に添加するにあたり、水ガラスの添加割合は、質量比で、約1%とするが、これに限らず、0.1〜8%程度としても良い。上記した実施例によれば、フェライト粉末粒子はNi−Znフェライトとしても良いし、Ni−Cuフェライトとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1で用いる鉄粉粒子の概念を模式的に示す構成図である。
【図2】実施例1の鉄粉粒子に被覆層を被覆した状態の概念を模式的に示す構成図である。
【図3】実施例2に係り、被覆層を被覆した鉄粉粒子の表面にフェライト層を被覆する方法を模式的に示す構成図である。
【図4】実施例2に係り、被覆層を被覆した鉄粉粒子の表面にフェライト層を被覆した軟磁性粒子の概念を模式的に示す構成図である。
【図5】実施例3に係り、圧粉体を成形する過程を模式的に示す構成図である。
【図6】実施例3に係り、圧粉体を焼結して形成した軟磁性成形体を模式的に示す構成図である。
【図7】実施例4に係り、試験片に被覆層を被覆する過程を模式的に示す構成図である。
【図8】実施例4に係り、被覆層を被覆した試験片の厚み方向の電気抵抗を測定する状態を模式的に示す構成図である。
【図9】比較例に係り、被覆層を被覆した試験片の厚み方向の電気抵抗を測定する状態を模式的に示す構成図である。
【図10】試験結果に係り、抵抗と熱処理の温度との関係を示すグラフである。
【図11】XRD分析した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
図中、1は鉄粉粒子、2は被覆層、3はフェライト粉末粒子、4はフェライト層、6は圧粉体、7は軟磁性成形体を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を主成分とする鉄粉粒子と、前記鉄粉粒子の表面に被覆されシリコン酸化物を主成分とする被覆層とを具備することを特徴とする軟磁性粉末材料。
【請求項2】
鉄を主成分とする鉄粉粒子と、前記鉄粉粒子の表面に被覆されシリコン酸化物を主成分とする被覆層と、前記被覆層に被覆されたフェライト層とを具備しており、前記シリコン酸化物を主成分とする前記被覆層を前記鉄粉粒子と前記フェライト層との間に介在させていることを特徴とする軟磁性粉末材料。
【請求項3】
請求項1または2において、前記鉄粉粒子は、純鉄(Fe)、鉄−アルミニウム系(Fe−Al系)、鉄−シリコン系(Fe−Si系)、鉄−ニッケル系(Fe−Ni系)、鉄−シリコン−アルミニウム(Fe−Si−Al系)、鉄−クロム系(Fe−Cr系)、鉄−コバルト系(Fe−Co系)の少なくとも1種であることを特徴とする軟磁性粉末材料。
【請求項4】
鉄を主成分とする鉄粉粒子を用意する第1工程と、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を前記鉄粉粒子の表面に被覆する第2工程とを順に実施することを特徴とする軟磁性粉末材料の製造方法。
【請求項5】
鉄を主成分とする鉄粉粒子を用意する第1工程と、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を前記鉄粉粒子の表面に被覆する第2工程と、前記被覆層にフェライト層を被覆し、前記シリコン酸化物を主成分とする前記被覆層を前記鉄粉粒子と前記フェライト層との間に介在させる第3工程とを順に実施することを特徴とする軟磁性粉末材料の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5において、前記第2工程は、前記無機系シリコン含有化合物を添加した水溶液と前記鉄粉粒子とを接触させる接触操作を経て実施されることを特徴とする軟磁性粉末材料の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、前記接触操作は、前記水溶液にアルカリ調整剤を添加し、前記水溶液のPH値をアルカリ領域にしつつ実施することを特徴とする軟磁性粉末材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に係る前記軟磁性粉末材料を主成分とする粉末集合体の粒子が互いに接合されていることを特徴とする軟磁性成形体。
【請求項9】
請求項1〜8のうちのいずれか一項に係る前記軟磁性粉末材料を主成分とする粉末集合体に対して、加圧する操作と加熱する操作とを、同時にまたは時間をずらして行うことにより軟磁性成形体を形成することを特徴とする軟磁性成形体の製造方法。
【請求項1】
鉄を主成分とする鉄粉粒子と、前記鉄粉粒子の表面に被覆されシリコン酸化物を主成分とする被覆層とを具備することを特徴とする軟磁性粉末材料。
【請求項2】
鉄を主成分とする鉄粉粒子と、前記鉄粉粒子の表面に被覆されシリコン酸化物を主成分とする被覆層と、前記被覆層に被覆されたフェライト層とを具備しており、前記シリコン酸化物を主成分とする前記被覆層を前記鉄粉粒子と前記フェライト層との間に介在させていることを特徴とする軟磁性粉末材料。
【請求項3】
請求項1または2において、前記鉄粉粒子は、純鉄(Fe)、鉄−アルミニウム系(Fe−Al系)、鉄−シリコン系(Fe−Si系)、鉄−ニッケル系(Fe−Ni系)、鉄−シリコン−アルミニウム(Fe−Si−Al系)、鉄−クロム系(Fe−Cr系)、鉄−コバルト系(Fe−Co系)の少なくとも1種であることを特徴とする軟磁性粉末材料。
【請求項4】
鉄を主成分とする鉄粉粒子を用意する第1工程と、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を前記鉄粉粒子の表面に被覆する第2工程とを順に実施することを特徴とする軟磁性粉末材料の製造方法。
【請求項5】
鉄を主成分とする鉄粉粒子を用意する第1工程と、シリコン酸化物を主成分とする被覆層を前記鉄粉粒子の表面に被覆する第2工程と、前記被覆層にフェライト層を被覆し、前記シリコン酸化物を主成分とする前記被覆層を前記鉄粉粒子と前記フェライト層との間に介在させる第3工程とを順に実施することを特徴とする軟磁性粉末材料の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5において、前記第2工程は、前記無機系シリコン含有化合物を添加した水溶液と前記鉄粉粒子とを接触させる接触操作を経て実施されることを特徴とする軟磁性粉末材料の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、前記接触操作は、前記水溶液にアルカリ調整剤を添加し、前記水溶液のPH値をアルカリ領域にしつつ実施することを特徴とする軟磁性粉末材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に係る前記軟磁性粉末材料を主成分とする粉末集合体の粒子が互いに接合されていることを特徴とする軟磁性成形体。
【請求項9】
請求項1〜8のうちのいずれか一項に係る前記軟磁性粉末材料を主成分とする粉末集合体に対して、加圧する操作と加熱する操作とを、同時にまたは時間をずらして行うことにより軟磁性成形体を形成することを特徴とする軟磁性成形体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−254768(P2007−254768A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77035(P2006−77035)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】
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