説明

軟組織増大用の粒子

【課題】軟組織増大インプラントに有用である粒子の提供。
【解決手段】本発明による粒子は、粘弾性媒質でできた注入用ゲル粒子であり、生理的食塩水にさらした時のサイズが1.5〜5mmの範囲である、インプラントに有用な粒子である。インプラントは、ヒトを含む哺乳動物における軟組織増大の方法において有用であり、該方法は、哺乳動物における軟組織増大を所望する部位に本発明によるインプラントを表皮下投与することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美容及び再建外科を含む、美容整形並びに形成外科の分野に関する。より詳細には、本発明は、ヒトを含む哺乳動物における軟組織増大の方法に関する。さらに、本発明は、ヒトを含む哺乳動物における治療的軟組織増大のための医薬品を製造するための粘弾性媒質の粒子の使用を対象とする。本発明はまた、粘弾性媒質の粒子、その生成、及びインプラントにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
軟組織増大に有用なインプラント材料は、理想的には、移動及び位置ずれのない適切な及び持続した美的な及び/又は治療的な矯正;自然に見え、触知不可能;投与及び必要に応じて除去が容易;非免疫原性;並びに慢性的な炎症反応がないことを提供できるべきである(Krauss MC,Semin Cutan Med Surg 1999;18:119〜128)。軟組織増大材料として、ヒアルロン酸(天然に存在する多糖類)は、全ての種及び組織に渡って化学的に相同であり、低免疫原性潜在能力を有する(Larsen NE et al.,J Biomed Mater Res 1993;27:1129〜1134)。ヒアルロン酸分子の安定化(又は架橋)により、その生体適合性を損なわずに酵素的分解へのその耐性が向上し、一方、非動物供給源の使用により、抗原混入とその後の超過敏反応の可能性が低減する(Friedman et al.,Dermatol Surg 2002;28:491〜4)。
【0003】
非動物性安定化ヒアルロン酸(NASHA)、米国特許第5,827,937号は、細菌発酵によって得た高純度ヒアルロン酸製剤から生成することができる。異なる粒径の様々なNASHA製剤(レスチレン(登録商標)パーレーン、レスチレン(登録商標)、レスチレン(登録商標)ファインラインズ及びレスチレン(登録商標)タッチ、全てQ−Med AB、スウェーデンUppsala製)は、顔面軟組織増大のための皮膚充填剤として開発されてきた。臨床試験は、既知のNASHAゲルが口唇の増大(Bousquet M−T and Agerup B、Oper Techniques Ocuplast Orbit Reconstruct Surg 1999;2:172〜176)並びに顔面の小じわ(wrinkles)及びしわ(folds)の矯正(Olenius M.Aesth Plast Surg 1998;22:97〜101;Duranti F et al.,Dermatol Surg 1998;24:1317〜25;Narins RS et al,Dermatol Surg 2003;29:588〜95;Carruthers J and Carruthers A,Dermatol Surg 2003;29:802〜9)に効果的であり、それらがウシコラーゲン又はhylan Bよりも長続きする美的な改良を提供することを示している。およそ150万の顔面美容手法におけるそれらの皮内使用から得られた幅広い臨床経験により、それらの安全性が確認されている。
【0004】
レスチレンタッチ(〜500,000粒子/ml、平均粒径0.2mm)は真皮の上部に注入すべきであり;レスチレン(〜100,000粒子/ml、平均粒径約0.4mm)は真皮の中間部分に注入すべきであり;レスチレンパーレーン(〜10,000粒子/ml、平均粒径約0.8mm)は真皮の深層及び/又は皮下組織の表層に注入すべきであることが推奨されている。
【0005】
粘弾性材料の埋入を伴ういくつかの既知の軟組織増大処置は、時にインプラント又はその一部が所望の処置部位から離れて移動するという欠点がある。粘弾性材料の埋入を伴ういくつかの既知の軟組織増大処置に関連する別の問題は、インプラントが所望の処置部位からずれることである。インプラントの移動及び位置ずれは、処置の美容及び/又は治療結果を損なうこともあり、またインプラントの除去を望む場合に、これを妨害することもあるので、患者にとって不利益である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既知の埋入材料による欠点を克服する軟組織増大に適した埋入材料を提供することが本発明の目的である。このような埋入材料を生成する方法を提供することも本発明の目的である。
【0007】
既知のインプラントによる欠点を克服するこのような埋入材料を含む軟組織増大に適したインプラントを提供することが別の目的である。望んだ場合に容易に除去可能なこのような埋入材料を含む軟組織増大に適したインプラントを提供することが本発明の他の目的である。
【0008】
既知の方法による欠点を克服するヒトを含む哺乳動物における軟組織増大の方法を提供することが本発明の別の目的である。所望の埋入部位からのインプラントの好ましくない移動を防ぐ又は減らす、インプラントの表皮下投与を含む、ヒトを含む哺乳動物における軟組織増大の方法を提供することが本発明の一目的である。所望の埋入部位からのインプラントの位置ずれを防ぐ又は減らす、インプラントの表皮下投与を含む、ヒトを含む哺乳動物における軟組織増大の方法を提供することが本発明の一目的である。
【0009】
ヒトを含む哺乳動物における治療的軟組織増大のための医薬品を製造するための粘弾性媒質の使用を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下の開示から明らかになるであろうこれら及び他の目的に関して、本発明は、生理的食塩水にさらした時のサイズが1〜5mmの範囲の注入用ゲル粒子である粘弾性媒質の粒子を提供する。
【0011】
本発明は、粘弾性媒質でできたインプラントに既に使用されているものよりもかなり大きい粘弾性媒質でできたゲル粒子を含むインプラントの表皮下投与が、所望の軟組織増大部位からのインプラント又はその一部の移動及び/又は位置ずれを防ぐのに有用であるという発見に基づいている。さらに、必要に応じて、かなり大きな粒径と組み合わせることによるインプラントの位置ずれを制限することにより、インプラントの容易な除去が促進される。
【0012】
本発明によるいくつかの好ましい粒子では、前記サイズは、1〜2.5mmの範囲である。本発明による他の好ましい粒子では、前記サイズは、2.5〜5mmの範囲である。
【0013】
本発明による好ましい粒子では、前記粘弾性媒質は、多糖類及びその誘導体からなる群から選択される。本発明によるより好ましい粒子では、前記粘弾性媒質は、安定化グリコサミノグリカン及びその誘導体から選択される。本発明によるいくつかの好ましい粒子では、前記粘弾性媒質は、安定化ヒアルロン酸、安定化コンドロイチン硫酸、安定化ヘパリン、及びその誘導体からなる群から選択される。
【0014】
本発明による好ましい粒子では、前記粘弾性媒質は、架橋ヒアルロン酸及びその誘導体からなる群から選択される。本発明による特に好ましい粒子では、生理的食塩水にさらした時の前記ゲル粒子中の前記粘弾性媒質の濃度は、5〜100mg/mlの範囲である。
【0015】
本発明による好ましい粒子は、15〜50Nの圧力を加えることにより20ゲージ以上の針によって注入可能である。
【0016】
本発明の別の態様によれば、(i)所望の濃度の粘弾性媒質を含むゲルを製造するステップと、(ii)前記ゲルを、生理的食塩水にさらした時のサイズが1〜5mmの範囲であるゲル粒子に機械的に破壊するステップを含む、粘弾性媒質の注入用ゲル粒子を生成する方法を提供している。
【0017】
本発明のさらに別の態様によれば、粘弾性媒質の粒子を含む軟組織増大インプラントを提供しており、大部分の前記粒子は、生理的食塩水にさらした時のサイズが1〜5mmの範囲の注入用ゲル粒子である。インプラントの好ましい実施形態では、前記サイズは、1〜2.5mmの範囲である。インプラントの他の好ましい実施形態では、前記サイズは、2.5〜5mmの範囲である。
【0018】
本発明の一態様によれば、大部分の粒子の生理的食塩水にさらした時のサイズが1〜5mmの範囲である粘弾性媒質の注入用ゲル粒子を含むインプラントの、前記哺乳動物における軟組織増大を所望する部位における表皮下投与を含む、ヒトを含む哺乳動物における軟組織増大の方法を提供している。本発明による方法の好ましい実施形態では、前記投与は、皮下投与、筋肉下投与及び骨膜上投与からなる群から選択される。
【0019】
本発明によるいくつかの方法では、前記サイズは、1〜2.5mmの範囲である。この方法の好ましい実施形態では、前記軟組織増大の部位は、顔面組織及び露出皮膚によって覆われた他の組織から選択される。本発明による他の方法では、前記サイズは、2.5〜5mmの範囲である。
【0020】
本発明による好ましい方法では、前記投与は、単回投与及び多層投与からなる群から選択される。
【0021】
本発明の別の態様によれば、医薬品として使用するための本発明による注入用ゲル粒子を提供している。医薬品として使用するための本発明による注入用ゲル粒子を含む注入用軟組織増大インプラントも提供している。
【0022】
本発明のさらに別の態様によれば、ヒトを含む哺乳動物における治療的軟組織増大のための医薬品を製造するための、大部分の粒子の生理的食塩水にさらした時の平均サイズが1〜5mmの範囲である本発明による粘弾性媒質の注入用ゲル粒子の使用を提供しており、前記医薬品は、治療的軟組織増大を所望する前記哺乳動物における部位における本発明による表皮下投与に適している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一態様によれば、生理的食塩水にさらした時のサイズが1〜5mmの範囲の注入用ゲル粒子である粘弾性媒質の粒子を提供している。この粒子は、粘弾性媒質の粒子を含む軟組織増大インプラントで有用であり、大部分の前記粒子は、生理的食塩水にさらした時のサイズが1〜5mmの範囲である本発明による注入用ゲル粒子である。インプラントは、大部分の粒子の生理的食塩水にさらした時のサイズが1〜5mmの範囲である粘弾性媒質の注入用ゲル粒子を含むインプラントの、前記哺乳動物における軟組織増大を所望する部位における表皮下投与を含む、ヒトを含む哺乳動物における軟組織増大の方法で有用である。
【0024】
本明細書では、「軟組織増大」という用語は、それだけには限らないが、顔面輪郭形成(例えばより目立つ頬、又は顎)、くぼみ変形部の矯正(例えば外傷後、HIV関連脂肪組織萎縮)及び深い加齢による顔面しわの矯正を含む、軟組織の任意のタイプの体積増大を意味する。したがって、軟組織増大は、単に、外傷若しくは消耗性疾患後など、美容目的又は医療目的に使用することができる。
【0025】
本明細書では、「軟組織」という用語は、他の構造及び体の臓器を結合、支持、又は取り囲む組織を意味する。軟組織には、筋肉、線維組織及び脂肪がある。
【0026】
本発明による方法は、ヒトを含む任意の哺乳動物で行うことができる。この方法は、ヒト対象で行うことが好ましい。
【0027】
本明細書では、「表皮下投与(subepidermal administration)」又は「表皮下投与(subcuticular administration)」という用語は、真皮、皮下組織又は筋肉下などのより深部或いは適切な場合には骨膜(骨組織の近く)への投与を含む、皮膚の表皮下の投与を意味する。
【0028】
投与は、例えば標準的なカニューレ及び適切なサイズの針からの注入によって任意の適当な方法で行うことができる。投与は、顎、頬或いは顔又は体の他の場所など、軟組織増大が望まれる場所に行う。
【0029】
本明細書では、「インプラント」という用語は、任意のタイプの埋入した又は埋入可能な外来性の物体又は材料を広く意味する。インプラントは、非外来性の物体又は材料とほぼ同一の物体又は材料も含む。本発明によるインプラントは、どんな特定の形状にも限定されない。体内でのインプラントの最終的な形状は、処置の目的から当業者によって決定される。
【0030】
本明細書では、「粘弾性媒質」という用語とは、粘性と弾性の組合せを示す媒質を表す。特に、本発明による粘弾性媒質は、15〜50Nの圧力を加えることにより10〜20ゲージ針など20ゲージ以上の針によって注入可能である。とりわけ、媒質、或いは媒質を含むインプラント又は医薬品は、望ましい部位におけるそれを必要とするヒトへの表皮下注入に適している。
【0031】
本発明による粘弾性媒質には、ゲル、分散液、溶液、懸濁液、スラリー及びその混合物がある。この媒質がゲル又はゲル様粒子の分散液として存在することが好ましい。好ましい実施形態では、本発明によるインプラントは、大きさが1〜5mmの、生理的塩緩衝液又は適当な生理的塩溶媒に分散させた1種又は複数の粘弾性媒質の粒子からなる。別の好ましい実施形態では、インプラントはさらに、局所麻酔薬、抗炎症薬、抗生物質など他の適当な添加物及び他の適当な支持的薬剤、例えば骨成長因子又は細胞を含む。場合によっては、同一又は異なっていてよく、粒子として又は0.1mm未満のサイズの粒子として存在しない粘弾性媒質も含んでいてよい。
【0032】
言うまでもなく、本発明によるゲル粒径は、ゲル粒子に含まれている及び/又はそれを取り囲んでいる緩衝液、溶液又は担体のイオン強度によって決まる。本明細書の全体に渡って、所与の粒径は、生理的条件、特に等張条件を想定している。ゲル粒子が生理的食塩水を含み、且つそれに分散されていることが好ましいが、別の張度の溶液にゲル粒子をさらすことによって本発明によるゲル粒子を一時的に異なるサイズにすることができることを企図していることに留意されたい。本発明の範囲内である粒子は、例えば体内の表皮下に埋入した場合、或いは生理的又は等張の食塩水、すなわち関連する生体液と同じ張度、例えば血清と等浸透圧の溶液にさらした場合、生理的条件下で所与の範囲内の粒径を示す。
【0033】
したがって、本発明による粘弾性媒質は、少なくともゲル粒子又はゲル様粒子として存在する。大部分の、又は50%(v/v)超の粒子は、生理的食塩水の存在下でサイズが少なくとも1mm、好ましくは1〜5mmの範囲である。好ましい実施形態では、70%(v/v)超、好ましくは90%(v/v)超の粒子が生理的条件下で所与のサイズ制限内である。
【0034】
本明細書では、生理的又は等張の溶液は、200〜400mOsm/l、好ましくは250〜350mOsm/l、より好ましくは約300mOsm/lの範囲の浸透圧を有する溶液である。実際に、この浸透圧は、0.9%(0.154M)NaCl溶液の調製によって容易に達成される。
【0035】
所望の粒径を得る適当な方法には、粘弾性媒質でできたゲルを所望の濃度で生成し、このゲルに刻む、すり潰すなど物理的破壊を施す、又はこのゲルを適当な孔径のフィルターに通すことが必要である。得られたゲル粒子は生理的食塩水中に分散させ、所望のサイズの粒子を含むゲル分散液又はスラリーを得る。
【0036】
本発明の別の態様は、ゲル粒子の密度又は硬さである。ゲル粒子密度は、例えば粘弾性媒質の濃度並びにもしあれば架橋剤の量及び種類を調整することによって容易に制御することができる。したがって、より硬い粒子は、ゲル中、したがってその結果として生じるゲル粒子中の粘弾性媒質の濃度をより高くすることによって得られる。より硬い粒子は一般に、より軟らかい粒子よりも粘弾性が低く、in vivoにおける半減期が長い。本発明で使用する場合、粒子が十分な粘弾性を保持し、それによって引き続き注入可能であることが不可欠である。
【0037】
本発明の好ましい実施形態では、より硬いゲル粒子と混合したより軟らかいゲル粒子からなる二成分組成物である。このゲル粒子は、同一又は異なる粘弾性媒質でできていてよい。得られたゲル粒子の混合物は、軟組織増大で使用するのに望ましい軟らかさ/硬さの特性及びin vivoにおける長い耐久性を兼ね備える。
【0038】
本発明による方法を使用したインプラントの投与は、生理的条件下で大きさが1〜5mmの粒子を含む又はそれらからなるインプラントの移動及び/又は位置ずれを防止又は減らす。本発明の他の利点は、移動の防止又は減少と併せて粒径が大きいことにより、何らかの理由で所望であれば、粒子を含むインプラントの容易な除去が促進されることである。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、粒径は、生理的食塩水の存在下で1〜2.5mmの範囲、例えば1.5〜2mmである。これらの粒子は、皮下、筋肉下又は骨膜上組織への投与に適している。特に、この粒径範囲に適した粒子及び針は挫傷又は他の変色を引き起こさないので、これらは、顔面組織など人前に露出した皮膚によって覆われた組織への投与に適している。好ましい実施形態では、これらの粒子は、深皮下又は筋肉下/骨膜上組織に投与しており、場合によっては一層だけではない。深皮下又は筋肉下/骨膜上投与は、所望の部位からの粒子の移動をさらに防ぐ又は減らす。この実施形態によれば、大部分の、又は50%(v/v)超、好ましくは70%(v/v)超、より好ましくは90%(v/v)超の粒子は、生理的条件下で所与のサイズ制限内である。
【0040】
本発明の別の実施形態では、粒径は、生理的食塩水の存在下で2.5〜5mmの範囲、例えば3〜4mmである。こうした粒子を含むインプラントは、所望の部位からの粒子の移動をさらに防ぐ又は減らす。この実施形態によれば、大部分の、又は50%(v/v)超、好ましくは70%(v/v)超、より好ましくは90%(v/v)超の粒子は、生理的条件下で所与のサイズ制限内である。
【0041】
粒径は、レーザー回折、顕微鏡法、ろ過など任意の適当な方法によって測定することができ、粒子の両端間の最も長い距離によって決定する。ゲル粒子の特定の形状は、重要ではない。球状粒子の場合、直径がこの目的のサイズに相当する。サイズ範囲は、適当な濃度の所望の粘弾性媒質のゲルの、刻む、すり潰す、ろ過などの機械的破壊によって制御することができる。
【0042】
本発明による粘弾性媒質には、それだけに限定されないが、多糖類及びその誘導体がある。適当な粘弾性媒質には、安定化デンプン及びその誘導体がある。適当な粘弾性媒質はまた、安定化ヒアルロン酸、安定化コンドロイチン硫酸、安定化ヘパリン、及びその誘導体などの安定化グルコサノグリカン及びその誘導体から選択することができる。適当な粘弾性媒質にはまた、デキストラノマーなどの安定化デキストラン及びその誘導体がある。粘弾性媒質はまた、2種以上の適当な粘弾性媒質の組合せであってもよい。
【0043】
本明細書では、「安定化」という用語とは、生理的条件下で、安定化化合物を親化合物よりも生分解に対して安定にする、任意の形態の化学安定化を表す。それだけに限定されないが、安定化化合物には、架橋化合物及び部分架橋化合物がある。
【0044】
本明細書では、多糖類の「誘導体」という用語とは、架橋多糖類及び硫酸化多糖類などの置換多糖類を含む、その任意の適当な誘導体を表す。
【0045】
本発明による粘弾性媒質は、生体適合性、無菌であり、20ゲージ以上の針、好ましくは10〜20ゲージ針など医薬品で使用する標準的な針によって容易に注入可能な粒子として存在する。粘弾性媒質は、非動物起源であることが好ましい。有利には、本発明による媒質は、安定であるが、生理的条件下では不変ではない。本発明の実施形態によれば、粘弾性媒質の少なくとも70%、好ましくは少なくとも90%が、in vivoで少なくとも2週間、より好ましくは2週間から2年間残留する。本発明による粘弾性媒質は、in vivoで5年以上経過した後に分解されていることが好ましい。「分解された」という用語は、20%未満、好ましくは10%未満の媒質が体内に残っていることを意味する。
【0046】
本発明による粘弾性媒質は、in vivoで生分解に対して天然ヒアルロン酸よりも耐性がある。処置の間の時間が延びるので、安定な粘弾性物質が長期に存在することは、患者にとって有利である。
【0047】
本発明による好ましい粘弾性媒質は、架橋ヒアルロン酸及びその誘導体である。適当な架橋ヒアルロン酸の1種は、米国特許第5,827,937号の方法を用いて、場合によっては非動物の、ヒアルロン酸の架橋によって得られる。
【0048】
簡単に言えば、前記方法は、水溶性の架橋性多糖類の水溶液を生成するステップ、多官能性架橋剤の存在下で多糖類の架橋を開始するステップ、ゲル化が起こる前に架橋反応が停止するのを立体的に妨げ、それによって活性化多糖類を得るステップ、及び粘弾性ゲルに至るまでその架橋を続けるために活性化多糖類に対して立体的に妨げられていない条件を再導入するステップを含む。
【0049】
この特定の方法に関して使用すべき架橋剤は、多糖類に関して有用な任意のこれまでに知られている架橋剤であり、生体適合性の必須条件が満たされていることを確認するために考慮に入れている。しかし、架橋剤は、アルデヒド、エポキシド、ポリアジリジル化合物、グリシジルエーテル、及びジビニルスルホンからなる群から選択されることが好ましい。これらのうち、グリシジルエーテルは、その中で1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルが好ましい例と称され得る特に好ましい群を表す。
【0050】
この特定の方法では、多官能性架橋剤の存在下における最初の架橋反応は、主にエーテル又はエステル反応を促進すべきかどうかによって、様々に異なるpH値で行うことができる。
【0051】
好ましい粘弾性媒質の例は、Q−Med AB、スウェーデンUppsalaから市販されている非動物性安定化ヒアルロン酸である。
【0052】
注入用媒質がヒアルロン酸媒質の場合、ヒアルロン酸濃度は、5mg/ml以上である。ヒアルロン酸濃度は、5〜100mg/ml、より好ましくは10〜50mg/mlの範囲、例えば約20mg/mlであることが好ましい。
【0053】
架橋ヒアルロン酸は、任意の形態の粒子又はビーズとして存在する。この実施形態によれば、大部分の、又は50%(v/v)超、好ましくは70%(v/v)超、より好ましくは90%(v/v)超の粒子は、サイズが少なくとも1mm、好ましくは1〜5mmの範囲である。前述したように、好ましい実施形態は、1〜2.5mm、好ましくは1.5〜2mmの範囲の粒子を含む。別の好ましい実施形態は、2.5〜5mm、好ましくは3〜4mmの範囲の粒子を含む。
【0054】
所望の粒径を得る適当な方法は、架橋ヒアルロン酸でできたゲルを所望の濃度で生成し、このゲルに刻む、すり潰すなど物理的破壊を施す、又はこのゲルを適当な粒径のフィルターに通すことを含む。得られたゲル粒子は生理的食塩水中に分散させ、所望のサイズの粒子を含むゲル分散液又はスラリーを得る。
【0055】
本発明の別の態様は、ゲル粒子の密度又は硬さである。本発明の製造方法を用いると、架橋ヒアルロン酸粒子密度は、粘弾性媒質の濃度並びに架橋剤の量及び種類を調整することによって容易に制御することができる。したがって、より硬い粒子は、ゲル中、したがってその結果として生じるゲル粒子中の粘弾性媒質の濃度をより高くすることによって得られる。より硬い粒子は一般に、より軟らかい粒子よりも粘弾性が低く、in vivoにおける半減期が長い。様々に異なる硬さのゲル粒子をもたらす有用なヒアルロン酸濃度は、例えば20、25、40、50及び100mg/mlである。本発明で使用する場合、上記のように、粒子が十分な粘弾性を保持し、それによって引き続き注入可能であることが不可欠である。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、より軟らかいゲル粒子、例えば15〜22mg/ml架橋ヒアルロン酸は、より硬いゲル粒子、例えば22〜30mg/ml架橋ヒアルロン酸と混合する。得られたゲル粒子の混合物は、軟組織増大で使用するのに望ましい軟らかさ/硬さの特性及びin vivoにおける長い耐久性を兼ね備える。
【0057】
本発明によれば、粘弾性媒質は、任意の適当な方法で表皮下に投与、好ましくは注入する。例としては、所望の部位における本発明によるインプラントの投与のためのより大きいカニューレの経皮挿入を容易にするために、皮膚切開をメス又は鋭い注入針で行うことができる。投与は、皮下、筋肉下又は骨膜上に行うことが好ましい。
【0058】
粘弾性媒質の粒子及び場合によっては他の適当な成分からなるインプラントは、単一の分量又は多数の分量の層として投与してもよい。場合によっては、粘弾性媒質は、その後の同じもの又は別の粘弾性媒質の注入によって置換、再補充又は再補給してもよい。注入した体積量は、望ましい増大によって確認する。通常の組織増大では、目的及び処置する組織に応じて1〜500mlの範囲の体積量を注入する。
【0059】
本発明の別の態様によれば、ヒトを含む哺乳動物における軟組織増大のための医薬品を製造するための、大部分の粒子の平均サイズが1〜5mmの範囲である本発明による粘弾性媒質の粒子の新規な使用を提供しており、前記医薬品は、治療的軟組織増大を所望する前記哺乳動物における部位における本発明による表皮下投与に適している。
【0060】
この態様によれば、投与は、皮下、筋肉下又は骨膜上に行うことが好ましい。適当な粒径に関する先の考察は、本発明のこの態様にも適用される。
【0061】
本明細書では、「治療的」という用語は、任意の種類の予防的、軽減又は治癒的処置を含む。それだけには限定されないが、本発明のこの態様は、医薬品が、病状の結果として生じる再建的増大のためのものであり、且つその症状の治療の一部であることを含む。したがって、治療的使用は、異なる患者群を対象としている点で非医学的、又は美容的使用と区別できる。特に、治療的使用は、病状の結果として生じる再建的増大を必要とする患者を単に対象としており、これらの患者におけるこの症状の治療の一部である。
【0062】
それだけには限定されないが、本発明は、以下に実施例によってさらに例示する。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
非動物性安定化ヒアルロン酸のゲル粒子の調製
例えば米国特許第5,827,937号に既に例示されているように、連鎖球菌(Streptococcus)の発酵によって調製したヒアルロン酸10gを1%NaOH、pH>9 100ml中に溶解した。0.2%濃度に1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルの形の架橋剤を加えた。この溶液を40℃で4時間インキュベートした。
【0064】
インキュベートした溶液を酸性水溶液で希釈して、混合しながら中性pHに到達させ、最終ヒアルロン酸濃度20mg/mlをもたらし、再度70℃で12時間インキュベートした。次いでこの2回目のインキュベーションの結果として生じた粘弾性スラリーを室温まで冷却し、すり潰してその最終粒径、約1.5〜2mmにした。
【0065】
(実施例2)
頬及び顎の増大
材料
生理的食塩水中に分散させた非動物性安定化ヒアルロン酸(20mg/ml)からなる透明で無色の粘弾性ゲル。このゲルは、例えば実施例1の方法によって得ることができる。滅菌した試験材料(2ml)を3mlガラス製注入器中に供給し、先端が丸くなった滅菌16G×7又は9cm Coleman浸潤カニューレ(Byron Medical Inc.、米国アリゾナ州Tucson)を用いて皮下及び/又は骨膜上に注入した。
【0066】
患者選択及び試験設計
美的な目的で頬及び/又は顎の増大治療を求めているどちらか一方の性別の成人外来患者(>18歳)。試験に含まれることとして、試験の継続期間中、他の美容手法(例えば他の増大治療、ボツリヌス毒素注入、レーザー又は化学薬品による皮膚の再生(skin resurfacing)又は美容整形手段)を控えることへの承諾を求めた。先の6ヶ月以内に顔面組織増大治療又はレーザー/ケミカルピーリング手法或いは先の12ヶ月以内に美的顔面手術を受けた患者は、この試験から除外した。さらに、対象とする処置部位に影響を及ぼしている進行性の皮膚病又は炎症を示す患者、局所麻酔薬に対して既知のアレルギー/過敏症がある又はNASHAに対して以前から副作用がある患者、並びに現在抗凝血薬又は血小板凝集阻害薬を摂取している患者は、参加させなかった。抗凝血薬、アスピリン及び非ステロイド系抗炎症薬の使用は、注入部位が完全に治癒するまで禁止した。
【0067】
注入技術
処置部位を消毒液で洗浄し、局所麻酔を必要とした場合、リドカイン(0.5又は1.0%)/アドレナリン溶液を、計画した切開部位に注入した。必要に応じて、局所神経ブロック又はリドカイン/アドレナリンの皮下注入によって提案した埋入部位にさらに麻酔を行った。皮下、筋肉下又は骨膜上の脂肪組織中にゲルを投与するための先端の丸い16Gカニューレの経皮挿入を容易にするために、長さ1〜2mmの皮膚切開をメス(11ブレード)又は鋭い注入針で行った。トンネル技術を用いて、各注入後にカニューレを操作して異なる管に入れることにより、増大を必要とする部位全体に、単回の大量投与ではなく分量に小分けしてゲルを注入した。最大3つの別々の解剖学的部位(顎及び両頬)に、各処置セッションにおいてゲルを最大10ml(注入器5本)投与した。注入を完了してすぐに、処置部位をマッサージして周囲組織の外形に適合させ、必要に応じて、氷を短い間当てて任意の腫れを抑えた。
【0068】
この方法によって少なくとも3ヶ月間満足のいく頬及び/又は顎の増大が得られた。特に、深皮下注入及び骨膜上注入は、インプラントのさらなる移動を防いだ。
【0069】
(実施例3)
持続期間がより長い非動物性安定化ヒアルロン酸のゲル粒子の調製
連鎖球菌の発酵によって調製したヒアルロン酸10gを1%NaOH、pH>9 100ml中に溶解した。0.2%濃度に1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルの形の架橋剤を加えた。この溶液を40℃で4時間インキュベートした。
【0070】
アルカリ性のゲルを2つの部分に分割し、それらを個々に酸性水溶液で希釈して、混合しながら中性pHに到達させ、それぞれ最終ヒアルロン酸濃度20mg/ml及び25mg/mlをもたらした。これらのゲルを70℃で12時間インキュベートし、室温まで冷却した。これら2つのゲル部分を混合し、すり潰してその最終粒径、約3〜4mmにした。
【0071】
(実施例4)
胸部組織増大
胸の小さい女性に、例えば実施例3の方法によって得られるゲルを注入した。先が丸い12G針を用いて、各乳房の腺部下、ちょうど胸筋上にゲル100mlを小分けして埋入した。天然組織を妨げないように注意した。埋入の12ヶ月後、胸は、薄い結節状インプラントを含み引き続き良好な形であった。インプラントによってマンモグラフィ分析がぼけることはなかった。
【0072】
1人の女性が、自身の胸にゲルを入れていることに対して考えを変え、インプラントの除去を要求した。先が丸いカニューレ(12G)を用いてゲルを吸い戻した。ほとんど全部のインプラントをはっきりと透明なゲル液として吸引した。分析により、ゲルはその体積を維持したが、初期濃度と比較して濃度がわずかに低く(初期の75%)、約2〜3年のインプラント持続期間が示唆されたことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ヒアルロン酸の粒子であって、該粒子を生理的食塩水にさらした時のサイズが1.5〜5mmの範囲の注入用ゲル粒子である、上記粒子。
【請求項2】
前記サイズが1.5〜2.5mmの範囲である、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記サイズが2.5〜5mmの範囲である、請求項1に記載の粒子。
【請求項4】
生理的食塩水にさらした時の前記ゲル粒子中の前記架橋ヒアルロン酸の濃度が5〜100mg/mlの範囲である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項5】
15〜50Nの圧力を加えることにより20ゲージ以上の針によって注入可能である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項6】
架橋ヒアルロン酸の粒子を含む軟組織増大インプラントであって、50%(v/v)超の該粒子が、生理的食塩水にさらした時のサイズが1.5〜5mmの範囲の注入用ゲル粒子である、上記軟組織増大インプラント。
【請求項7】
前記サイズが1.5〜2.5mmの範囲である、請求項6に記載の軟組織増大インプラント。
【請求項8】
前記サイズが2.5〜5mmの範囲である、請求項6に記載の軟組織増大インプラント。
【請求項9】
非ヒトである哺乳動物における軟組織増大の方法であって、架橋ヒアルロン酸の注入用ゲル粒子を含むインプラントを該哺乳動物における軟組織増大を所望する部位に表皮下投与することを含み、50%(v/v)超の該粒子の生理的食塩水にさらした時のサイズが1.5〜5mmの範囲である、上記方法。
【請求項10】
医薬品として使用するための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の注入用ゲル粒子。
【請求項11】
医薬品として使用するための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の注入用ゲル粒子を含む注入用軟組織増大インプラント。
【請求項12】
ヒトを含む哺乳動物における治療的軟組織増大のための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の架橋ヒアルロン酸の注入用ゲル粒子であって、50%(v/v)超の該粒子の生理的食塩水にさらした時の平均サイズが1.5〜5mmの範囲であり、哺乳動物における治療的軟組織増大を所望する部位に表皮下投与される、上記注入用ゲル粒子。
【請求項13】
前記投与が皮下投与である、請求項12に記載の架橋ヒアルロン酸の注入用ゲル粒子。
【請求項14】
前記投与が筋肉下投与である、請求項12に記載の架橋ヒアルロン酸の注入用ゲル粒子。
【請求項15】
前記投与が骨膜上投与である、請求項12に記載の架橋ヒアルロン酸の注入用ゲル粒子。
【請求項16】
前記サイズが1.5〜2.5mmの範囲である、請求項12〜15のいずれか一項に記載の架橋ヒアルロン酸の注入用ゲル粒子。
【請求項17】
前記サイズが2.5〜5mmの範囲である、請求項12〜15のいずれか一項に記載の架橋ヒアルロン酸の注入用ゲル粒子。
【請求項18】
前記軟組織増大の部位が、顔面組織と露出皮膚によって覆われた他の組織とから選択される、請求項16に記載の架橋ヒアルロン酸の注入用ゲル粒子。
【請求項19】
前記投与が単回投与である、請求項12〜18のいずれか一項に記載の架橋ヒアルロン酸の注入用ゲル粒子。
【請求項20】
前記投与が多数の分量の層を形成するための多数回投与である、請求項12〜18のいずれか一項に記載の架橋ヒアルロン酸の注入用ゲル粒子。
【請求項21】
架橋ヒアルロン酸の注入用ゲル粒子を生成する方法であって、
(i)所望の濃度の架橋ヒアルロン酸を含むゲルを製造するステップと、
(ii)生理的食塩水にさらした時のサイズが1.5〜2.5mmの範囲のゲル粒子になるよう該ゲルを機械的に破壊するステップ
を含む、上記方法。
【請求項22】
架橋ヒアルロン酸の注入用ゲル粒子を生成する方法であって、
(i)所望の濃度の架橋ヒアルロン酸を含むゲルを製造するステップと、
(ii)生理的食塩水にさらした時のサイズが2.5〜5mmの範囲のゲル粒子になるよう該ゲルを機械的に破壊するステップ
を含む、上記方法。
【請求項23】
生理的食塩水にさらした時の前記ゲル粒子中の前記粘弾性媒質の濃度は、5〜100mg/mlの範囲である、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記粒子は、15〜50Nの圧力を加えることにより20ゲージ以上の針によって注入可能である、請求項21〜23いずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2012−179467(P2012−179467A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−145051(P2012−145051)
【出願日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【分割の表示】特願2007−507278(P2007−507278)の分割
【原出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(503035556)キュー メド アクチボラゲット (4)
【Fターム(参考)】