説明

軟質ポリウレタン発泡体

【課題】 発泡及び硬化時における発熱温度をより短時間で低下させることができ、スコーチによる着色を抑制することができる軟質ポリウレタン発泡体を提供する。
【解決手段】 軟質ポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、示差走査熱量計により測定される吸熱ピークの温度差が少なくとも10℃である複数の無機化合物の水和物を配合し、ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させて得られる。前記無機化合物の水和物は2種類であり、それら無機化合物の水和物について前記吸熱ピークの温度は、一方が100℃以上120℃以下であり、他方が120℃を越え150℃以下であることが好ましい。具体的には、無機化合物の水和物は、硫酸マグネシウムの7水和物と硫酸カルシウムの2水和物(二水石膏)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば家具類、寝具類、自動車の座席等を形成するクッション材に用いられる軟質ポリウレタン発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、密度25kg/m3以下の軟質ポリウレタン発泡体を製造する際に、発泡剤を水のみとした場合、水の添加量が増すことから発泡及び硬化時における発熱温度が170℃以上に達する。このため、ポリウレタンの酸化劣化(スコーチ)に基づく自己発火の可能性があると共に、スコーチにより、得られる軟質ポリウレタン発泡体に着色が発生する。そのような事態を回避するために、従来の水の添加量のままで発泡助剤として塩化メチレンや液化炭酸ガスを添加することが知られている。
【0003】
しかし、塩化メチレンは環境等に悪影響を与える物質の一つであって、使用が規制されている。一方、液化炭酸ガスによる発泡は、液化炭酸ガスを高圧で供給する専用の設備が必要であり、発泡を円滑に行うためには製造条件が限定されるうえに、製造コストも上昇する。そこで、発泡時の反応により発生する多量の熱を吸熱することを目的として、ポリエチレンパウダー等のポリオレフィンパウダーを添加する技術が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。
【特許文献1】特表2002−532596号公報(第2頁)
【特許文献2】特開平6−199973号公報(第2頁及び第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記従来のポリオレフィンパウダーを添加する技術においては、発泡及び硬化時における発熱温度の低下に対して効果は認められるが、発熱量を効果的に抑制するためにはポリオレフィンパウダーを増量させることが必要である。その場合、増量されたポリオレフィンパウダーにより、得られる軟質ポリウレタン発泡体の密度が高くなり過ぎると共に、圧縮残留歪等の物性が低下する。このような物性の低下を防ぐためには、ポリオレフィンパウダーを十分に配合することができないことから、発泡及び硬化時における発熱温度を短時間で低下させることができず、その結果スコーチによる着色を抑制することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、発泡及び硬化時における発熱温度をより短時間で低下させることができ、スコーチによる着色を抑制することができる軟質ポリウレタン発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の軟質ポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、示差走査熱量計により測定される吸熱ピークの温度差が少なくとも10℃である複数の無機化合物の水和物を配合し、前記ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させて得られることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明の軟質ポリウレタン発泡体は、請求項1に係る発明において、前記無機化合物の水和物は2種類であり、それら無機化合物の水和物について前記吸熱ピークの温度は、一方が100℃以上120℃以下であり、他方が120℃を越え150℃以下であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の発明の軟質ポリウレタン発泡体は、請求項2に係る発明において、前記無機化合物の水和物は、硫酸マグネシウムの水和物と硫酸カルシウムの水和物であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明の軟質ポリウレタン発泡体は、ポリウレタン発泡体原料に対し、示差走査熱量計により測定される吸熱ピークの温度差が少なくとも10℃である複数の無機化合物の水和物を配合し、前記ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させて得られるものである。これらの無機化合物の水和物は加熱により分解して水を生成し、その水の蒸発によって気化熱(蒸発熱)が奪われ、発泡及び硬化に基づく発熱が抑制される。この場合、軟質ポリウレタン発泡体の製造時における発泡及び硬化に基づく発熱に対し、高温状態では吸熱ピークの温度が高い無機化合物の水和物が機能し、低い温度状態では吸熱ピークの温度が低い無機化合物の水和物が機能し、複数の無機化合物の水和物によって継続的に吸熱が行われる。従って、発泡及び硬化時における発熱温度をより短時間で低下させることができ、スコーチによる着色を抑制することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明の軟質ポリウレタン発泡体においては、無機化合物の水和物は2種類であり、それら無機化合物の水和物について前記吸熱ピークの温度は、一方が100℃以上120℃以下であり、他方が120℃を越え150℃以下である。軟質ポリウレタン発泡体の製造過程においては、発泡及び硬化に基づく発熱によって100℃以上に温度上昇する。このとき、一方の無機化合物の水和物の分解が始まって水が生成し、生成した水が蒸発しその気化熱によって発熱が抑制される。続いて、他方の無機化合物の水和物の分解が始まって水が生成し、その水が蒸発し気化熱によって発熱が抑制される。従って、軟質ポリウレタン発泡体の製造時における発熱過程に沿って吸熱が行われ、請求項1に係る発明の効果を向上させることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明の軟質ポリウレタン発泡体においては、無機化合物の水和物は、硫酸マグネシウムの水和物と硫酸カルシウムの水和物である。これらの無機化合物の水和物は、軟質ポリウレタン発泡体の製造時における発泡及び硬化時の温度上昇に伴なって分解し、水を生成し、生成した水が蒸発する。従って、その水の蒸発潜熱により発熱を効果的に抑制することができ、請求項2に係る発明の効果を十分に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態における軟質ポリウレタン発泡体(以下、単に発泡体ともいう)は以下のようにして得られるものである。すなわち、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、示差走査熱量計による測定法(本明細書ではDSCともいう)で測定される吸熱ピークの温度差が少なくとも10℃である複数の無機化合物の水和物を配合し、ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させることにより製造される。ここで、示差走査熱量計は、示唆熱分析において、基準物質と試料との間に温度差が発生したとき、補償ヒータがその温度差を打ち消すように作動し、ヒータに供給された電力を温度に対して記録する装置である。そのDSCによって得られる吸熱ピークの温度は、昇温速度を10℃/minとしたときに得られる値である。
【0013】
DSCにより測定される吸熱ピークの温度は、無機化合物の水和物の分解のピークで、最も分解が進み、生成する水が多い状態を示している。DSCにより測定される吸熱ピークの温度差が10℃未満の場合には、複数の無機化合物の水和物による吸熱作用を相乗的に発揮することができず、言い換えれば軟質ポリウレタン発泡体製造時の発泡及び硬化に基づく発熱を長い時間にわたって抑制することができなくなる。吸熱ピークの温度差は20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましい。
【0014】
そして、これらの無機化合物の水和物は、分解されて生成する水の蒸発潜熱によって前記発泡及び硬化に基づく発熱が抑制される。発泡及び硬化時の温度が例えば160℃以上、さらには170℃以上に上昇すると、発泡体に酸化劣化すなわちスコーチが起きて軟質ポリウレタン発泡体に着色が発生する。この現象を、無機化合物の水和物の分解により生成する水の蒸発によって気化熱が奪われることを利用して抑制するのである。本実施形態の発泡体は、常温大気圧下に発泡、硬化させて得られる軟質スラブ発泡体及び成形型内にポリウレタン発泡体原料(反応混合液)を注入、型締めして型内で発泡、硬化させて得られるモールド発泡体のいずれの方法により製造されるものであってもよい。この場合、軟質スラブ発泡体の方が一般に連続生産によりブロック体を高さ1m程度の嵩高に成形することから、蓄熱しやすく黄変しやすいため、スコーチによる黄変対策として本実施形態の製造方法が有効である。
【0015】
まず、前記ポリウレタン発泡体原料について説明する。
ポリオール類としては、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールが用いられる。これらのうち、ポリイソシアネート類との反応性に優れているという点と、ポリエステルポリオールのように加水分解をしないという点から、ポリエーテルポリオールが好ましい。ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、多価アルコールにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加重合させた重合体よりなるポリエーテルポリオール、それらの変性体等が用いられる。多価アルコールとしては、グリセリン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0016】
ポリエーテルポリオールとして具体的には、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させ、更にエチレンオキシドを付加重合させたトリオール、ジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合させ、更にエチレンオキシドを付加重合させたジオール等が挙げられる。ポリエーテルポリオール中のポリエチレンオキシド単位は10〜30モル%程度である。ポリエチレンオキシド単位の含有量が多い場合には、その含有量が少ない場合に比べて親水性が高くなり、極性の高い分子、ポリイソシアネート類化合物等との混合性が良くなる。その結果、反応性が高くなる。このポリオール類は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。
【0017】
ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオール類と反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが用いられる。
【0018】
前記ポリオール類と反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数個有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、これらの変性物等が用いられる。ポリイソシアネート類のイソシアネートインデックスは100以下又は100を越えてもよいが、通常90〜130程度の範囲である。ここで、イソシアネートインデックスは、ポリオール類の水酸基及び発泡剤としての水に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。
【0019】
発泡剤はポリウレタン樹脂を発泡させて軟質ポリウレタン発泡体とするためのもので、例えば水のほかペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、炭酸ガス等が用いられる。発泡剤が水の場合には、軟質ポリウレタン発泡体の密度を10〜20kg/m3にするため、その配合量をポリオール類100質量部に対して7〜13質量部とすることが好ましい。水の配合量が7質量部未満では発泡量が少なく、軟質ポリウレタン発泡体の密度が20kg/m3を越える傾向となり、13質量部を越えると発泡及び硬化時に温度が上昇しやすくなり、その温度を低下させることが難しくなる。水の配合量を上記のように設定することにより、得られる軟質ポリウレタン発泡体の密度を通常10〜20kg/m3にすることができる。
【0020】
触媒はポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応を促進するためのものであり、具体的にはトリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン等の3級アミン、オクチル酸スズ(スズオクトエート)等の有機金属化合物、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が用いられる。
【0021】
次に、前記DSCにより測定される吸熱ピークの温度差が少なくとも10℃である無機化合物の水和物は、加熱によって分解し、分解により水を生成する材料である。そのような無機化合物の水和物としては、硫酸マグネシウムの7水和物(MgSO4・7H2O、比重1.68、分解温度70〜116℃、吸熱ピークの温度116℃)、硫酸カルシウム・2水和物(CaSO4・2H2O、二水石膏、比重2.32、分解温度130〜148℃、吸熱ピークの温度148℃)、酢酸ナトリウムの3水和物(CH3COONa・3H2O、比重1.44、分解温度100〜120℃、吸熱ピークの温度120℃)等が用いられる。
【0022】
無機化合物の水和物に含まれる水和水は、固体結晶として常温で安定に存在するものであり、結晶水である。硫酸マグネシウムの7水和物は結晶水が多く、低い温度から分解が始まり、順に結晶水がとれるため、分解温度の幅は広くなっている。ちなみに、二水石膏は、100℃以上になると、分子中の2モルの水のうちの1.5モルの水が分解して遊離の水となる。無機化合物の水和物を複数組合せることによって、より広い温度範囲で無機化合物の水和物の機能を発揮させることができ、発泡及び硬化時における発熱温度を効果的に低下させることができるとともに、無機化合物の水和物の配合量を減らすこともできる。
【0023】
無機化合物の水和物は2種類の組合せとし、それら無機化合物の水和物について前記吸熱ピークの温度は、一方が100℃以上120℃以下であり、他方が120℃を越え150℃以下であることが好ましい。軟質ポリウレタン発泡体の製造時における発泡及び硬化に基づく発熱によって100℃以上に温度上昇するのに合せて一方の無機化合物の水和物が分解を始め水を生成し、その後一定時間経過後に他方の無機化合物の水和物が分解を始めて水を生成し、生成した水が蒸発しその気化熱によって発熱が抑制される。一方の無機化合物の水和物の吸熱ピークの温度が100℃未満の場合には、ポリウレタン発泡体原料の発泡及び硬化が十分に進行しない間に一方の無機化合物の水和物が分解して水を放出して冷却するため、発泡及び硬化の反応を十分に進行させることができなくなるとともに、発泡剤として作用するおそれもある。一方の無機化合物の水和物の吸熱ピークの温度が120℃を越える場合には、他方の無機化合物の水和物の吸熱ピークの温度と重なって複数の水和物を用いる効果が十分に得られなくなる。また、他方の無機化合物の水和物の吸熱ピークの温度が120℃以下の場合には、一方の無機化合物の水和物の吸熱ピークの温度と重なって複数の水和物を用いる相乗効果が十分に得られなくなる。他方の無機化合物の水和物の吸熱ピークの温度が150℃を越える場合には、ポリウレタン発泡体原料の発泡及び硬化による発熱が大きくなり過ぎて、スコーチによる発泡体の着色が発生するおそれがある。これは、軟質ポリウレタン発泡体中に存在するウレタン結合の分解温度が約150℃で、尿素結合の分解温度が約180度であることに基づいている。
【0024】
さらに、無機化合物の水和物としては、硫酸マグネシウムの水和物と硫酸カルシウムの水和物の組合せがより好ましい。これらの無機化合物の水和物は、軟質ポリウレタン発泡体の製造時における発泡及び硬化時の温度上昇に伴なって分解し、水を生成した後、その水が蒸発する。従って、これら2種の無機化合物の水和物を組合せることによって発熱抑制の相乗的作用を有効に発揮させることができる。
【0025】
2種類の無機化合物の水和物について、各々の水和物の配合比率は、一方の水和物が20〜80モル%で、他方の水和物が80〜20モル%であることが望ましい。一方の水和物が20モル%未満又は80モル%を越える場合或いは他方の水和物が20モル%未満又は80モル%を越える場合には、双方の水和物を組合せて相乗効果を十分に発揮させることができなくなる。両水和物の相乗効果を十分に発揮させるためには、両水和物の配合比率を50モル%ずつにすることが最も望ましい。
【0026】
無機化合物の水和物の比重は1.4〜3.0であることが好ましい。この比重が1.4未満では、無機化合物の水和物(粉体)を体積として大量にポリウレタン発泡体原料、例えばポリオール類に添加しなければ所定の質量を添加できず、粉体とポリオール類との混合撹拌を十分に行うことができない。しかも、軟質ポリウレタン発泡体中に占める無機化合物の水和物の体積が大きくなって、軟質ポリウレタン発泡体としての物性が低下する。その一方、比重が3.0を越えると、ポリウレタン発泡体の原料特にポリオール類中において長期保管すると沈降しやすく反応混合液中への分散性が悪くなって、発熱温度を低下させるという無機化合物の水和物の機能が低下する。
【0027】
無機化合物の水和物の分解温度は、70〜170℃であることが好ましい。分解温度が70℃未満の場合には、ポリウレタン発泡体原料による発泡及び硬化の初期の段階で、すなわち発熱温度の低い段階で分解による水が生成するため、冷却によって発泡及び硬化に悪影響を与えたり、生成した水が発泡剤として機能したりするおそれがある。分解温度が170℃を越える場合には、ポリウレタン発泡体原料の発泡及び硬化による発熱が大きくなり過ぎて、スコーチによる発泡体の着色が生ずるおそれがある。
【0028】
ポリウレタン発泡体原料中における無機化合物の水和物の配合量は、ポリオール類100質量部に対して3〜150質量部であることが好ましく、10〜100質量部であることがより好ましく、10〜50質量部であることが特に好ましい。この配合量が3質量部未満の場合には、分解して生成する水の量が少なく、発泡及び硬化に基づく発熱温度の上昇を十分に抑制することができなくなる。一方、配合量が150質量部を越える場合には、過剰な水が発泡剤として機能し、泡化反応が進んで発熱温度が上昇するおそれがある。ポリウレタン発泡体原料にはその他必要に応じて、整泡剤、架橋剤、充填剤、安定剤、着色剤、難燃剤、可塑剤等が配合される。整泡剤としては、シリコーン化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、フェノール系化合物等が用いられる。
【0029】
そして、ポリウレタン発泡体原料を反応させて発泡及び硬化させることにより軟質ポリウレタン発泡体を製造するが、その際の反応は複雑であり、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオール類とポリイソシアネート類との付加重合反応(ウレタン化反応)、ポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化(発泡)反応及びこれらの反応生成物とポリイソシアネート類との架橋(硬化)反応である。ポリウレタン発泡体を製造する場合には、ポリオール類とポリイソシアネート類とを直接反応させるワンショット法或はポリオール類とポリイソシアネート類とを事前に反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得、それにポリオール類を反応させるプレポリマー法のいずれも採用される。
【0030】
このようにして得られる軟質ポリウレタン発泡体は、JIS K6400で規定された密度が10〜20kg/m3、圧縮残留歪が5%以下、発泡及び硬化時における温度の高い部位と温度の低い部位とにおける色差が5以下である。ここで、色差は発泡及び硬化時における温度の高い部位と温度の低い部位におけるイエローインデックスの差(ΔYI)である。
【0031】
このように、軟質ポリウレタン発泡体は低密度のものであり、クッション性が良く、軽量なものである。一般に軟質ポリウレタン発泡体は、セル(気泡)が連通構造を有し、復元性のあるものをいう。軟質ポリウレタン発泡体をこのような低密度にするためには、発泡倍率を40倍以上という高発泡倍率にする必要がある。また、圧縮残留歪が小さく、クッション性が長期間に渡って持続される。更に、色差が小さいため、着色の点でも問題のないものである。また、JIS K6400で規定された硬さは130〜160Nであることが好ましい。硬さが160Nを越える場合には、軟質ポリウレタン発泡体が硬くなり過ぎてクッション性が低下したりするおそれがある。軟質ポリウレタン発泡体中には無機化合物の水和物に基づく無機化合物が残留されているが、無機化合物の水和物は前記のように比重が1.5〜4.0であり、その体積が小さく軟質ポリウレタン発泡体の物性に与える影響が少ない。このような物性をもつ軟質ポリウレタン発泡体は、椅子、ソファー等の家具類、ベッド、マットレス、枕等の寝具類、自動車の座席、ドアの内張り材、天井材等の自動車内装材等を形成するクッション材等として好適に用いられる。
【0032】
さて、軟質ポリウレタン発泡体を製造する場合には、例えばポリエーテルポリオール、ポリイソシアネート類、発泡剤としての水及びアミン触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、DSCによる吸熱ピークの温度差が少なくとも10℃である複数の無機化合物の水和物を配合する。無機化合物の水和物としては、例えば硫酸マグネシウムの水和物と二水石膏とが用いられる。そして、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネート類とを反応させると共に、ポリイソシアネート類と水とを反応させて発泡させ、更に硬化させることにより軟質ポリウレタン発泡体が製造される。
【0033】
この製造過程において、発泡及び硬化時に、1つの無機化合物の水和物が100℃以上に加熱されることにより水和物として結合されていた水が分解されて遊離された水を生成し、生成した水が蒸発する。その水の蒸発によって気化熱が奪われ、発泡及び硬化に基づく発泡体の発熱が抑えられる。その後、温度が上昇するにつれて他の無機化合物の水和物が加熱され、分解されて水を生成し、その水が蒸発して発泡体の発熱が抑えられる。さらに、温度が低下したときには、他の無機化合物の水和物は分解が抑えられるが、1つの無機化合物の水和物が引き続いて分解され、水を生成する。そのため、発泡及び硬化時における発熱温度を短時間のうちに低下させることができる。発泡及び硬化時における発泡体の温度は、無機化合物の水和物を配合しないときに160℃以上に達するのに比べて、発泡及び硬化時における温度を160℃以下に抑えることができる。従って、160℃以上の高温に晒されることで発生する発泡体のスコーチを抑制することができる。
【0034】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の軟質ポリウレタン発泡体は、ポリウレタン発泡体原料に対し、DSCにより測定される吸熱ピークの温度差が少なくとも10℃である複数の無機化合物の水和物が配合され、ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させて得られるものである。これらの無機化合物の水和物は加熱により分解して水を生成し、その水の蒸発によって気化熱が奪われ、発泡及び硬化に基づく発熱が抑制される。この場合、高温状態では吸熱ピークの温度が高い無機化合物の水和物が機能し、低い温度状態では吸熱ピークの温度が低い無機化合物の水和物が機能し、複数の無機化合物の水和物によって継続的に吸熱が行われる。従って、発泡及び硬化時における発熱温度をより短時間で低下させることができ、その結果温度の高い部位と温度の低い部位とにおける色差を抑えることができ、得られる軟質ポリウレタン発泡体のスコーチによる着色を抑制することができる。
【0035】
・ また、無機化合物の水和物は2種類で、それら無機化合物の水和物について前記吸熱ピークの温度は、一方が100℃以上120℃以下であり、他方が120℃を越え150℃以下であることが好ましい。軟質ポリウレタン発泡体の製造時における発泡及び硬化に基づく発熱によって100℃以上に温度上昇する。このとき、一方の無機化合物の水和物の分解が始まって水が生成し、生成した水が蒸発しその気化熱によって発熱が抑制される。続いて、他方の無機化合物の水和物の分解が始まって水が生成し、その水が蒸発し気化熱によって発熱が抑制される。従って、2種類の水和物による相乗的な効果を向上させることができる。
【0036】
・ さらに、無機化合物の水和物は、硫酸マグネシウムの水和物と硫酸カルシウムの水和物であることが好ましい。これらの無機化合物の水和物は、軟質ポリウレタン発泡体の製造時における発泡及び硬化時の温度上昇に伴なって分解し、水を生成し、生成した水が蒸発する。従って、その水の蒸発潜熱により発熱を効果的に抑制することができる。
【0037】
・ しかも、無機化合物の水和物の比重が1.4〜3.0であることから、配合された無機化合物の水和物の体積が小さく、その結果得られる軟質ポリウレタン発泡体の密度等の物性を変化させるおそれが少ない。
【0038】
・ 上記のようにして得られた軟質ポリウレタン発泡体は、JIS K6400で規定された密度10〜20kg/m3、圧縮残留歪が5%以下、色差が5以下である。従って、低密度で、圧縮残留歪が小さく、軟質ポリウレタン発泡体として良好な物性を発揮することができる。その上、発泡、硬化する際に過度の発熱を抑えることで、従来高温部となっていた部位の酸化劣化が少なくなり、結果として発泡及び硬化時における温度の高い部位と温度の低い部位とにおける色差が少なくなる。従って、製品が前記温度の高い内部と温度の低い表面部との双方に渡る場合でも、着色による不具合を防止することができる。加えて、軟質ポリウレタン発泡体に存在する比重が1.4〜3.0の無機化合物の水和物による無機化合物は、軟質ポリウレタン発泡体の物性にはほとんど影響を与えない。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、前記実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜7及び比較例1〜5)
まず、各実施例及び比較例で用いた無機化合物の水和物を以下に示す。
【0040】
二水石膏: 比重2.32、平均粒子径40μm、DSCにより測定される吸熱ピークの温度が148℃。
硫酸マグネシウムの7水和物: 比重1.68、平均粒子径50μm、DSCにより測定される吸熱ピークの温度が116℃。
【0041】
酢酸ナトリウムの3水和物: 比重1.44、平均粒子径40μm、DSCにより測定される吸熱ピークの温度が120℃。
ポリエチレンパウダー: 三井化学(株)製、比重0.93、平均粒子径40μmの低密度ポリエチレンパウダー。
【0042】
パウダー1: 硫酸マグネシウムの7水和物と二水石膏とのモル比が8:2の混合物。
パウダー2: 硫酸マグネシウムの7水和物と二水石膏とのモル比が5:5の混合物。
パウダー3: 硫酸マグネシウムの7水和物と二水石膏とのモル比が2:8の混合物。
【0043】
パウダー4: 二水石膏と酢酸ナトリウムの3水和物とのモル比が8:2の混合物。
なお、水の蒸発熱は2259J/g、ポリエチレンパウダーの融解潜熱は198J/gであり、水の吸熱効果はポリエチレンパウダーより格段に優れていることがわかる。
【0044】
そして、表1、表2及び表3に示すポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、整泡剤及び触媒よりなるポリウレタン発泡体原料に、前記無機化合物の水和物を混合して混合物を調製した。ここで、比較例1では無機化合物の水和物等の添加物を何も加えない例、比較例2及び比較例3ではポリエチレンパウダーの配合量を変えて加えた例、比較例4では硫酸マグネシウムの7水和物のみを配合した例及び比較例5では二水石膏のみを配合した例を示した。
【0045】
これらの混合物を縦、横及び深さが各500mmの発泡容器内に注入し、常温、大気圧下で発泡させた後、加熱炉内に一時保管し加熱反応(硬化)させることにより軟質スラブ発泡体を得た。得られた軟質スラブ発泡体を切り出すことによってシート状のポリウレタン発泡体を製造した。このポリウレタン発泡体について、密度、硬さ、圧縮残留歪、最高発熱温度、最高発熱温度より10℃下がるまでの時間及び色差を以下の測定方法に従って測定した。それらの結果を表1、表2及び表3に示した。表1、表2及び表3における略号の意味を次に示す。
(測定方法)
密度(kg/m3)、硬さ(N)及び圧縮残留歪(%): JIS K6400に準じて行った。
【0046】
最高発熱温度(℃): 発泡用容器の中央部に熱電対を差込み、発泡及び硬化時において上昇した最も高い温度を示した。
最高発熱温度より10℃下がるまでの時間: 上記発泡容器の深さ250mmの位置に熱電対を設置し、注入直後からの発泡体内部の温度変化を観察する。そして、最高発熱温度(℃)を測定した後、その最高発熱温度(℃)より10℃低下するまでの時間(分)を測定した。
【0047】
色差: 発泡及び加熱反応時における温度の高い発泡体の部位(中央部)と温度の低い部位(側面部)について、色差計〔スガ試験機(株)製、SMカラーコンピューター SM−4〕により黄変度(白色度)を測定し、それらの色差(ΔYI)で示した。
(表1、表2及び表3における略号)
ポリオールGP3000: ポリエーテルポリオール、三洋化成工業(株)製、水酸基価56(mgKOH/g)
アミン触媒LV33: 中京油脂(株)製のアミン系触媒
シリコーン整泡剤 B8110: ゴールドシュミット社製
オクチル酸第1スズ MRH110: 城北化学工業(株)製
ポリイソシアネート T−80: 日本ポリウレタン工業(株)製、トルエンジイソシアネート(トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート80質量%と2,6-トリレンジイソシアネート20質量%との混合物)
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

表1及び表2に示したように、実施例1〜7においては、発泡及び硬化時における最高発熱温度を151℃以下に抑えることができ、その最高温度より10℃下がるまでの時間を9分以下に抑えることができると共に、色差を4.5以下に抑制することができた。発泡及び硬化の際に、高温状態にはDSCによる吸熱ピーク温度及び分解温度の高い二水石膏が分解して水を生成し、それより温度の低い状態では硫酸マグネシウムの7水和物又は酢酸ナトリウムの3水和物が分解して水を生成し、発熱抑制に寄与したものと考えられる。
【0051】
従って、得られた軟質ポリウレタン発泡体は、密度が10.2〜14.9kg/m3という低密度、硬さが131〜152N及び圧縮残留歪が3.3〜4.9%であった。特に、実施例2においては、硫酸マグネシウムの7水和物と二水石膏とのモル比が5:5の混合物を配合することにより、14.1kg/m3という低密度で、硬さが135N及び圧縮残留歪が3.3%で、最高発熱温度を140℃に抑え、色差を2.1に抑制することができ、最もバランスの良い性能を得ることができた。
【0052】
一般に、マットレス等の家具類に用いられる軟質ポリウレタン発泡体では色差の目安が5以下とされ、また自動車用のシール材や家具の詰め物等に用いられる軟質ポリウレタン発泡体では圧縮残留歪が5%以下とされ、そのような基準を十分に満たすことができた。このように、発熱温度を低く抑えることができ、色差を十分に抑制することができ、かつ低発泡の軟質ポリウレタン発泡体を得ることができた理由は、発泡及び硬化時における発熱により2種の無機化合物の水和物が逐次分解して生成した水が蒸発し、その蒸発に伴い気化熱が奪われて発熱温度が低下することに基づくものと推測される。
【0053】
これに対し、表3に示したように、無機化合物の水和物等の添加物を含まない場合(比較例1)には、最高発熱温度が198℃という高い温度になり、かつ最高発熱温度より10℃下がるまでの時間が23分という長い時間になった。そのため、色差が20.2という高い値を示し、圧縮残留歪が19.1%という高い値を示した。ポリエチレンパウダーを30質量部加えた場合(比較例2)には、最高発熱温度が165℃という高い温度で、最高発熱温度より10℃下がるまでの時間が20分と長いため、すなわち高温に保持されている時間が長いため、色差が10.2という高い値を示した。前記のように、色差の目安は5以下とされており、そのような基準を満たすことができなかった。さらに、ポリエチレンパウダーを100質量部配合した場合(比較例3)には、ポリウレタンの原料がペースト状になって発泡が不可能であった。
【0054】
また、硫酸マグネシウムの7水和物のみを配合した場合(比較例4)、最高発熱温度より10℃下がるまでの時間が12分と長いため、色差が8.8という高い値を示した。加えて、二水石膏のみを配合した場合(比較例5)には、最高発熱温度より10℃下がるまでの時間が10分と長いため、色差が7.3という高い値を示した。
【0055】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記無機化合物の水和物として、硫酸鉄の1水和物から5水和物(FeSO4・H2OからFeSO4・5H2O、比重2.97、分解温度100〜130℃)、リン酸二水素カルシウム1水和物(Ca(H2PO42・H2O、比重2.22、分解温度109℃)等を用いることもできる。
【0056】
・ 水を吸収して膨潤し、加熱時には吸収された水が蒸発して吸熱する吸水性材料、例えば(メタ)アクリル酸単位又は(メタ)アクリル酸塩単位を主構成単位とする水不溶性の(メタ)アクリル系吸水性樹脂を、水を含んだ状態で配合することもできる。
【0057】
・ 水を吸収する多孔質の無機質材料、例えば半水石膏、ゼオライト、珪藻土、活性炭等を、水を含んだ状態で配合することもできる。
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0058】
・ ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料を反応させて発泡及び硬化させることにより得られる軟質ポリウレタン発泡体であって、JIS K6400で規定される密度10〜20kg/m3、圧縮残留歪が5%以下、発泡及び硬化時における温度の高い部位と温度の低い部位とにおける色差が5以下であることを特徴とする軟質ポリウレタン発泡体。このように構成した場合には、クッション材等に用いられる軟質ポリウレタン発泡体として適切な物性を発揮することができる。
【0059】
・ ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、示差走査熱量計により測定される吸熱ピークの温度差が少なくとも10℃である複数の無機化合物の水和物を配合し、前記ポリウレタン発泡体原料を反応させて発泡及び硬化させることを特徴とする軟質ポリウレタン発泡体の製造方法。この製造方法によれば、発泡及び硬化時における発熱温度をより短時間で低下させることができるとともに、スコーチによる着色が抑制された軟質ポリウレタン発泡体を容易に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、示差走査熱量計により測定される吸熱ピークの温度差が少なくとも10℃である複数の無機化合物の水和物を配合し、前記ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させて得られることを特徴とする軟質ポリウレタン発泡体。
【請求項2】
前記無機化合物の水和物は2種類であり、それら無機化合物の水和物について前記吸熱ピークの温度は、一方が100℃以上120℃以下であり、他方が120℃を越え150℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟質ポリウレタン発泡体。
【請求項3】
前記無機化合物の水和物は、硫酸マグネシウムの水和物と硫酸カルシウムの水和物であることを特徴とする請求項2に記載の軟質ポリウレタン発泡体。

【公開番号】特開2006−199797(P2006−199797A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12051(P2005−12051)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】