説明

軟質樹脂粒子およびその製造方法

【課題】表面が平滑な軟質樹脂粒子を効率よく製造できる方法を提供する。
【解決手段】少なくとも水溶性多糖類(A1)で構成された溶融混練可能な水溶性助剤と、体積弾性率が10MPa以下の縮合系軟質樹脂(脂肪族−芳香族共重合ポリエステルなど)とを溶融混練し、軟質樹脂相が分散した分散体を生成させ、この分散体を水性溶媒で溶出し、前記軟質樹脂で構成された樹脂粒子(球状軟質樹脂粒子)を製造する。水溶性助剤は、オリゴ糖、環状構造を有する多糖類などの水溶性多糖類(A1)と、糖アルコールなどの水溶性可塑化成分(A2)とで構成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質樹脂粒子、および軟質樹脂(特に、縮合系軟質樹脂)であっても樹脂粒子を製造できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂粒子を製造する方法としては、機械的な粉砕法が利用されている。しかし、軟質樹脂の場合には、このような機械的粉砕法で粉砕できず、球状の軟質樹脂粒子を得ることが困難である。
【0003】
特開昭60−13816号公報(特許文献1)には、ポリエチレングリコールと熱可塑性樹脂とを溶融撹拌した後に、水中に投入して両ポリマーを凝固させ、その後、水を用いて、ポリエチレングリコールを除去する熱可塑性樹脂粒子の製造方法が提案されている。特開昭61−9433号公報(特許文献2)には、熱可塑性樹脂とポリエチレンオキサイドとを溶融撹拌した後に冷却させ、水を用いて、ポリエチレンオキサイドを除去する熱可塑性樹脂粒子の製造方法が開示されている。特開平9−165457号公報(特許文献3)には、ポリビニルアルコール系樹脂、変性澱粉、ポリエチレンオキサイドなどの溶融形成可能な水溶性高分子と、熱可塑性樹脂とを混合して溶融成形物を得た後、水を用いて、成形物から水溶性高分子を除去する樹脂微粒子の製造方法が開示されている。
【0004】
しかし、これらの方法においても、樹脂と水溶性高分子との組み合わせであるため、軟質樹脂を粒子化したとしても、粒子の回収が困難である。すなわち、これらの技術では連続相として熱可塑性の水溶性高分子を用いている。このような水溶性高分子は極低濃度の水溶液であっても大きな粘性を示す。そして、軟質樹脂粒子の製造においては、連続相を形成する水溶性高分子と樹脂微粒子との分離が困難となる。すなわち、軟質樹脂微粒子は柔らかく、濾過工程でケーキ効果が過剰に生じ、濾過効率が著しく低下し、水溶性高分子と軟質樹脂微粒子との濾別が実質的に不可能である。
【0005】
一方、特開2003−023536号公報(特許文献4)、特開2005−162841号公報(特許文献5)には、オリゴ糖を必須成分とする水溶性助剤成分を熱可塑性樹脂と溶融攪拌し、熱可塑性樹脂を分散相、水溶性助剤成分を連続相とする分散体を得た後に、水溶性助剤成分を水により除去して、熱可塑性樹脂の粒子を得る方法が開示されている。この方法においては、連続相に糖成分を用いるため、糖成分と軟質樹脂との溶融混合樹脂組成物を水で処理して糖成分を水に溶解させ、樹脂微粒子を回収する場合でも、液体媒体の溶液粘度が大きくなることはなく、軟質樹脂微粒子を回収するのに有用である。
【0006】
しかし、この方法では連続相の溶融粘度を余り大きくすることができない反面、エラスチックな性質を有する軟質樹脂は溶融粘度が高い。そのため、連続相と微粒子分散相との溶融粘度比が大きくなり、平均粒径の小さな軟質樹脂微粒子を得ることができない。
【特許文献1】特開昭60−13816号公報
【特許文献2】特開昭61−9433号公報
【特許文献3】特開平9−165457号公報
【特許文献4】特開2003−023536号公報
【特許文献5】特開2005−162841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、表面が平滑な軟質樹脂粒子、及び当該軟質樹脂粒子を効率よく製造できる方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、溶融混練により、所定の粒径を有する球状の軟質樹脂粒子を高い再現性で製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、体積弾性率が10MPa以下の軟質樹脂と水溶性多糖類(A1)と水溶性可塑化成分(A2)とを溶融混練し、水溶性多糖類(A1)と水溶性可塑化成分(A2)とを溶出すると、樹脂粒子の生成にモノマーの重合及び室温で液体の液状媒体(水性又は油性液状媒体)が関与することなく、樹脂が軟質であっても球状の樹脂粒子が得られること、さらに、水溶性多糖類(A1)として少なくとも1つの環状構造を有する多糖類を用いると、前記軟質樹脂との組み合わせにおいて、より平均粒子径の小さな軟質樹脂粒子を生成できることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の軟質樹脂粒子は、モノマーの重合(及び室温で液体の水性又は油性媒体)が粒子形成に関与することなく、少なくとも水溶性多糖類(A1)で構成された水溶性助剤のマトリックス中に樹脂が分散した分散体を水性溶媒で溶出することにより得られる。そして、軟質樹脂粒子の体積弾性率は10MPa以下である。この軟質樹脂粒子は室温(15〜25℃)で固体である。前記樹脂は重縮合系熱可塑性樹脂であってもよい。軟質樹脂粒子は粒子状であればよく、通常、脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(結晶性脂肪族−芳香族共重合ポリエステルなど)で構成された球状粒子(特に、表面が平滑な球状粒子)であってもよい。軟質樹脂粒子の平均粒子径や粒度分布はコントロールできるため特に制限されず、例えば、数平均粒子径Dnが0.1〜20μmであり、かつ体積平均粒子径Dwと数平均粒子径Dnとの比Dw/Dnが1.24以下であってもよい。
【0011】
本発明の軟質樹脂粒子は、少なくとも水溶性多糖類(A1)で構成された溶融混練可能な水溶性助剤と、体積弾性率が10MPa以下の軟質樹脂(縮合系軟質樹脂、例えば、脂肪族−芳香族ランダム共重合ポリエステルなど)とを溶融混練し、軟質樹脂相が分散した分散体を生成させ、この分散体を水性溶媒で溶出することにより、前記軟質樹脂で構成された樹脂粒子を製造できる。水溶性助剤は、水溶性多糖類(A1)を可塑化可能な水溶性可塑化成分(A2)を含んでいてもよい。前記水溶性多糖類(A1)は、オリゴ糖および少なくとも1つの環状構造を有する多糖類から選択された少なくとも一種で構成してもよい。オリゴ糖は、デンプン糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、フルクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、キチンオリゴ糖及びキトサンオリゴ糖から選択された少なくとも一種で構成してもよい。また、少なくとも1つの環状構造を有する多糖類において、環状構造を形成するグリコース単位の平均重合度は、1つの環状構造あたり10以上であってもよい。環状構造は、α−1,4−グルコシド結合とα−1,6−グルコシド結合とを有する環状構造であってもよく、環状構造を有する多糖類は、α−1,4−グルコシド結合およびα−1,6−グルコシド結合を有し、1つの環状構造あたりグリコース単位の平均重合度が10以上である環状構造と、この環状構造に結合した非環状構造とを有し、かつ平均重合度50以上である多糖類で構成してもよい。可塑化成分(A2)は、糖類及び糖アルコールから選択された少なくとも一種で構成してもよく、糖アルコールは、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、ズルシトール及びマンニトールから選択された少なくとも一種であってもよい。さらに、水溶性多糖類(A1)と可塑化成分(A2)との割合(重量比)は、水溶性多糖類(A1)/可塑化成分(A2)=99/1〜50/50であってもよい。また、水溶性多糖類(A1)及び可塑化成分(A2)で構成された水溶性助剤と、軟質樹脂との割合(重量比)は、水溶性媒体/軟質樹脂=99/1〜45/55であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、水溶性多糖類(A1)と水溶性可塑化成分(A2)とを分散媒体として軟質樹脂粒子を分散相として分散できるため、樹脂が軟質であっても表面が平滑な軟質樹脂粒子を効率よく製造できる。また、溶融混練により、所定の特性(粒径や粒度分布)を有する球状の軟質樹脂粒子を高い再現性で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[軟質樹脂]
軟質樹脂は室温(15〜25℃)で固体であり、水溶性助剤に対して実質的に非相溶である。さらに、軟質樹脂は熱可塑性樹脂であるのが好ましく、軟質樹脂としては、通常、非水溶性樹脂(又は疎水性樹脂、非水溶性熱可塑性樹脂など)が使用される。
【0014】
軟質樹脂は、ラジカル重合型樹脂、付加重合型の樹脂、開環重合型の樹脂であってもよい。このような軟質樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ハロゲン含有ビニル系樹脂、ビニルエステル系樹脂又はその誘導体(例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系樹脂など)、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、生分解性樹脂[例えば、脂肪族ポリエステル系樹脂(例えば、ポリ乳酸系樹脂やポリC3−12ラクトン系樹脂など)、ポリエステルアミドなどの生分解性ポリエステル系樹脂]であってもよい。これらの樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、水溶性助剤との溶融混練を容易にするために、アミノ基、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水性基を有する樹脂を使用してもよい。
【0015】
さらに、軟質樹脂としては、ハードセグメントとソフトセグメントとで構成されたブロック共重合体(熱可塑性エラストマーなど)を用いることもできるが、このようなブロック共重合体は溶融粘度が高く、粒子径を制御し難い場合がある。
【0016】
好ましい軟質樹脂は、脂肪族ポリエステルの脂肪族ジカルボン酸成分の一部を芳香族ジカルボン酸成分で置換した脂肪族−芳香族共重合ポリエステル、特に脂肪族−芳香族ランダム共重合ポリエステルである。このような脂肪族−芳香族共重合ポリエステルは、芳香族ポリエステルの融点を低下又は脂肪族ポリエステルの融点を高めるため、ホットメルト接着剤の分野で用いられ、近年は生分解性の点でも着目されている。
【0017】
脂肪族−芳香族共重合ポリエステルのジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール(1,4−ブタンジオール)、1,3−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2−10アルカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコールなどが例示できる。これらのジオール成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。ジオール成分としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルカンジオール、ジエチレングリコールを含むのが好ましい。特に、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールを主たるジオール成分として用いるのが好ましい。
【0018】
脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC2−10アルカン−ジカルボン酸などが例示できる。これらの脂肪族ジカルボン酸成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。脂肪族ジカルボン酸成分としては、少なくともC2−8アルカン−ジカルボン酸(特にコハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、中でもアジピン酸)を用いる場合が多い。
【0019】
芳香族ジカルボン酸成分としては、アレーンジカルボン酸又はその酸無水物、例えば、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのベンゼンジカルボン酸、ナフトエ酸などのナフタレンジカルボン酸などが例示できる。これらの芳香族ジカルボン酸成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。芳香族ジカルボン酸成分としては、少なくともベンゼンジカルボン酸(特にテレフタル酸)を用いる場合が多い。
【0020】
なお、必要により、分子量の調整や分岐構造の導入などにより共重合ポリエステルの特性を調整するため、C3−12ラクトン(例えば、カプロラクトンなど)、オキシカルボン酸(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ安息香酸など)、脂環族又は芳香族ジオール(水素化ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体など)、ポリオール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなど)、脂環族ジカルボン酸(ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ヘット酸、無水ハイミック酸など)、ポリカルボン酸(無水トリメリット酸など)を使用してもよい。これらの任意成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0021】
脂肪族−芳香族共重合ポリエステルは、ポリブチレンアジペートブチレンテレフタレート共重合体(PBAT)などとして、BASF社より商品名「Ecoflex」などとして入手できる。
【0022】
軟質樹脂は結晶構造を有するのが好ましい。示差走査熱量計(DSC)による軟質樹脂の融点は、例えば、80〜240℃、好ましくは90〜200℃、さらに好ましくは100〜175℃(例えば、105〜150℃)程度であってもよい。なお、軟質樹脂(例えば、脂肪族−芳香族共重合ポリエステル)の融点は、100〜160℃(例えば、100〜130℃)程度であってもよく、前記商品名「Ecoflex」の共重合ポリエステルの融点は、105〜115℃程度である。結晶性の程度は芳香族ジカルボン酸成分などの芳香族成分の含有量などにより調整できる。
【0023】
軟質樹脂の溶融粘度は特に制限されないが、微細な軟質樹脂粒子を得るためには、溶融粘度が低いのが好ましい。溶融粘度は、樹脂の種類に応じて選択でき、例えば、前記融点が100〜175℃程度の樹脂については、溶融温度(温度200℃)及びせん断速度1sec−1で測定したとき、1000Pa・s以下(例えば、30〜750Pa・s程度)、好ましくは500Pa・s以下(例えば、50〜450Pa・s程度)、さらに好ましくは300Pa・s以下(例えば、70〜270Pa・s程度)であり、250Pa・s以下(例えば、80〜200Pa・s程度)であってもよい。
【0024】
ISO 1133に準拠した軟質樹脂成分のMVR(melt volume-flow rate、メルトボリュームフローレイト)は、温度190℃及び負荷2.16kgにおいて、例えば、0.5〜20cm/10分(例えば、1〜15cm/10分)、好ましくは1.5〜10cm/10分、さらに好ましくは2〜8cm/10分(例えば、2.5〜7cm/10分)程度であってもよい。なお、MVRは、所定時間内にピストンが動く距離又はピストンが所定の距離だけ動くのに要する時間を測定し、cm/10分の単位で表すことができる。
【0025】
軟質樹脂粒子は粒子状の形態を保持可能であればよく、例えば、多角体状、角柱状、円柱状、棒状、不定形状などであってもよいが、表面が平滑な形態(球状、楕円体状)、特に球状であるのが好ましい。
【0026】
軟質樹脂粒子の体積弾性率は、10MPa以下、例えば、0.5〜9.5MPa、好ましくは1〜9MPa、さらに好ましくは1.5〜8.5MPa(例えば、2〜8MPa)程度である。なお、軟質樹脂粒子の体積弾性率は、樹脂粒子を圧力60MPaで圧縮成形してタブレット(厚み3mm×25mmφ)を成型し、このタブレットを圧縮してせん断変形させ、荷重と圧縮量との関係に基づいて弾性変形領域での体積弾性率を算出することにより求めることができる。
【0027】
軟質樹脂粒子の数平均粒子径Dnは、特に制限されず、用途に応じて0.05〜100μm程度の範囲から選択でき、0.1〜20μm、好ましくは0.3〜15μm(例えば、0.5〜10μm)、さらに好ましくは1〜10μm(例えば、1.5〜8μm)程度であってもよく、通常、2〜10μm(例えば、2〜6μm)程度である。また、本発明の樹脂粒子は、軟質であっても、粒径分布が狭いという特色がある。例えば、体積平均粒子径Dwと数平均粒子径Dnとの比Dw/Dnで表される粒度分布は1.24以下(例えば、1〜1.23、好ましくは1〜1.2、さらに好ましくは1〜1.15、特に1〜1.15程度)である。なお、樹脂粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真に基づいて少なくとも1000個の粒子について粒子径を測定し、数平均粒子径及び体積平均粒子径の計算式に従って算出できる。
【0028】
なお、球状の軟質樹脂粒子には、真球状に限らず、例えば、長径と短径との長さ比が、例えば、長径/短径=1.5/1〜1/1程度である形状も含まれる。長径と短径との長さ比は、好ましくは長径/短径=1.3/1〜1/1(例えば、1.2/1〜1/1)、さらに好ましくは1.1/1〜1/1程度であってもよい。
【0029】
[軟質樹脂粒子の製造方法]
本発明の方法では、乳化重合及び懸濁重合(モノマーの重合を伴う重合方法)や油性媒体と水性媒体とを用いる転相乳化を経ることなく軟質樹脂粒子を製造する。すなわち、溶融混練可能な水溶性助剤と前記軟質樹脂とを溶融混練する工程と、混練により生成し、軟質樹脂相が分散した分散体を水性溶媒で溶出する工程とを経ることにより、前記軟質樹脂粒子を製造できる。前記水溶性助剤は、水溶性多糖類(A1)単独で構成してもよいが、通常、水溶性多糖類(A1)と、この水溶性多糖類(A1)を可塑化するための水溶性可塑化成分(A2)とで構成する場合が多い。
【0030】
[水溶性多糖類(A1)]
水溶性多糖類(A1)は、オリゴ糖および少なくとも1つの環状構造を有する多糖類(環状構造を有する水溶性多糖類)から選択された少なくとも一種で構成でき、両者を組み合わせて使用してもよい。オリゴ糖と環状構造を有する多糖類とを組み合わせると、溶融粘度を調整でき、樹脂との組み合わせにより樹脂粒子の粒子径などを幅広くコントロールできる。
【0031】
[オリゴ糖]
オリゴ糖は、ホモオリゴ糖とヘテロオリゴ糖とに大別され、これらのオリゴ糖は無水物でもよい。また、オリゴ糖において、単糖類と糖アルコールとが結合していてもよい。また、オリゴ糖は複数の糖成分で構成されたオリゴ糖組成物であってもよい。このようなオリゴ糖組成物であっても単にオリゴ糖という場合がある。オリゴ糖(又はオリゴ糖組成物)は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。オリゴ糖には、二糖類〜十糖類などが含まれる。
【0032】
二糖類としては、トレハロース、マルトース、イソマルトース、セロビオースなどのホモオリゴ糖;ラクトース、スクロース、パラチノースなどのヘテロオリゴ糖が挙げられる。
【0033】
三糖類としては、マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、セロトリオースなどのホモオリゴ糖;マンニノトリオース、ソラトリオース、メレジトース、プランテオース、ゲンチアノース、ウンベリフェロース、ラクトスクロース、ラフィノースなどのヘテロオリゴ糖が挙げられる。
【0034】
四糖類としては、マルトテトラオース、イソマルトテトラオースなどのホモオリゴ糖;スタキオース、セロテトラオース、スコロドース、リキノース、パノースの還元末端に糖又は糖アルコールが結合したテトラオースなどのヘテロオリゴ糖が挙げられる。
【0035】
これらの四糖類のうち、パノースの還元末端に単糖類又は糖アルコールが結合したテトラオースは、例えば、特開平10−215892号公報に開示されており、パノースの還元末端に、グルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノースなどの単糖類や、ソルビトール、キシリトール、エリスリトールなどの糖アルコールが結合したテトラオースが例示できる。
【0036】
五糖類としては、マルトペンタオース、イソマルトペンタオースなどのホモオリゴ糖;パノースの還元末端に二糖類が結合したペンタオースなどのヘテロオリゴ糖が挙げられる。パノースの還元末端に二糖類が結合したペンタオースは、例えば、特開平10−215892号公報に開示されており、パノースの還元末端に、スクロース、ラクトース、セロビオース、トレハロースなどの二糖類が結合したペンタオースが例示できる。
【0037】
六糖類としては、マルトヘキサオース、イソマルトヘキサオースなどのホモオリゴ糖などが挙げられる。
【0038】
オリゴ糖は、多糖類の分解により生成するオリゴ糖組成物であってもよい。オリゴ糖組成物としては、例えば、デンプン糖(デンプン糖化物)、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、フルクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖などが挙げられ、これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。例えば、デンプン糖は、複数個のグルコースが結合したオリゴ糖の混合物であってもよい。デンプン糖としては、例えば、東和化成工業(株)製の還元デンプン糖化物(商品名:PO−10、四糖類の含有量90重量%以上)などが挙げられる。
【0039】
これらのオリゴ糖組成物において、オリゴ糖組成物中の三糖類、四糖類(特に四糖類)の含有量は、例えば、60重量%以上(例えば、60〜100重量%程度)、好ましくは70重量%以上(例えば、70〜100重量%程度)、さらに好ましくは80重量%以上(例えば、80〜100重量%程度)、特に90重量%以上(例えば、90〜100重量%程度)であってもよい。
【0040】
オリゴ糖は、非還元型(トレハロース型)であってもよいが、還元型(マルトース型)のオリゴ糖は、耐熱性に優れるため好ましい。還元型のオリゴ糖としては、遊離のアルデヒド基又はケトン基を有し、還元性を示す糖(二糖類、三糖類、四糖類、五糖類、六糖類など)であれば、特に限定されない。
【0041】
なお、オリゴ糖の種類(例えば、還元デンプン糖化物などのデンプン糖など)によっては、融点又は軟化点を示さず、分解(熱分解)する場合がある。このような場合、分解温度をオリゴ糖の「融点又は軟化点」としてもよい。
【0042】
オリゴ糖の融点又は軟化点と、樹脂成分の熱変形温度との温度差は、例えば、1℃以上(例えば、1〜80℃程度)、好ましくは10℃以上(例えば、10〜70℃程度)、さらに好ましくは15℃以上(例えば、15〜60℃程度)である。オリゴ糖の融点又は軟化点は、樹脂成分の種類などに応じて、70〜300℃の範囲で選択でき、例えば、90〜290℃、好ましくは100〜280℃(例えば、110〜270℃)、さらに好ましくは120〜260℃(例えば、130〜260℃)程度であってもよい。
【0043】
水溶性助剤(又は水溶性媒体)はオリゴ糖で構成してもよいが、溶融粘度を高めるには、環状構造を有する多糖類(水溶性多糖類)を単独で又はオリゴ糖と組み合わせて使用するのが有利である。
【0044】
[環状多糖類]
環状構造を有する水溶性多糖類(単に環状多糖類という場合がある)において、環状構造(環状骨格、環状ユニット、環状部位)は、多糖類を構成する複数のグリコース単位[通常、グルコース単位(特にD−グルコース)]がグルコシド結合(又はグルコシル化)して形成された環であればよい。すなわち、本明細書において、環状構造とは、複数のグリコース単位(およびグルコシド結合)で形成された環を意味し、グルコース環などの単糖類の環を意味するものではない。
【0045】
このような環状多糖類は、オリゴ糖などに比べて比較的高分子量であり溶融粘度が高く、しかも、その環状構造によるためか、水溶性を示す。環状多糖類を使用すると、溶融混練において高い剪断粘度を保持できるため、溶融混練性を損なうことなく溶融混練でき、しかも水溶性であるため、水などにより容易に除去可能である。
【0046】
前記多糖類において、環状構造は、複数のグルコシド結合で構成されていればよく、α−グルコシド結合又はβ−グルコシド結合で構成されていてもよく、通常、α−グルコシド結合で構成されていてもよい。
【0047】
環状構造(1つの環状構造あたり)の平均重合度(数平均重合度、環状構造を形成する平均グルコシド結合数、環状構造を形成するグリコース単位の平均重合度)は、例えば、10以上(例えば、10〜500程度)、好ましくは12以上(例えば、12〜300程度)、さらに好ましくは14以上(例えば、14〜100程度)であってもよい。
【0048】
また、環状構造を構成するグルコシド結合は、通常、少なくとも1,4−グルコシド結合(特に、α−1,4−グルコシド結合)で形成された環であればよく、1,4−グルコシド結合(特に、α−1,4−グルコシド結合)と1,6−グルコシド結合(特に、α−1,6−グルコシド結合)とで形成された環であってもよい。
【0049】
このような1,6−グルコシド結合を含む環において、環状構造(1つの環状構造あたり)における1,6−グルコシド結合の平均数は、1以上(例えば、1〜700程度)であればよく、例えば、1〜300(例えば、1〜200)、好ましくは1〜100(例えば、1〜50)、さらに好ましくは1〜20(例えば、1〜10)であってもよい。
【0050】
また、環状多糖類は、少なくとも1つの環状構造(環状ユニット)を有していればよく、複数の環状構造を有していてもよい。
【0051】
なお、環状多糖類の平均重合度(数平均重合度、総平均重合度、多糖類全体の平均重合度)は、例えば、14以上(例えば、14〜15000)、好ましくは17以上(例えば、17〜10000)、さらに好ましくは20以上(例えば、20〜8000)程度であってもよい。
【0052】
なお、環状多糖類は、誘導体化(又は変性)されていてもよい。例えば、環状多糖類は、ヒドロキシル基(アルコール性ヒドロキシル基)が誘導体化[例えば、エーテル化(例えば、メチルエーテル化などのアルキルエーテル化;ヒドロキシエチルエーテル化、ヒドロキシプロピルエーテル化などのヒドロキシアルキルエーテル化;グリセリル化など)、エステル化、グラフト化、架橋化など]された誘導体であってもよい。
【0053】
これらの環状多糖類は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0054】
代表的な環状構造を有する水溶性多糖類には、(1)環状構造(又は環状ユニット)とこの環状構造に結合した非環状構造(非環状骨格、非環状ユニット非環状部位)とを有し、かつ平均重合度50以上である多糖類、(2)14以上のα−1,4−グルコシド結合で形成された環状構造を分子内に一つ有する多糖類などが挙げられる。
【0055】
(環状多糖類(1))
前記多糖類(1)において、環状構造は、通常、α−1,4−グルコシド結合とα−1,6−グルコシド結合とで形成された環であってもよい。また、環状構造(1つの環状構造あたり)の平均重合度(数平均重合度)は、例えば、10〜500、好ましくは12〜300、さらに好ましくは14〜100程度であってもよい。環状構造がα−1,6−グルコシド結合を有する場合、環状構造(1つの環状構造あたり)におけるα−1,6−グルコシド結合の平均数は、例えば、1以上(例えば、1〜200)、好ましくは1〜100、さらに好ましくは1〜50程度であってもよい。
【0056】
なお、多糖類(1)の平均重合度(数平均重合度)は、50以上であればよく、例えば、50〜10000、好ましくは60〜7000、さらに好ましくは70〜5000程度であってもよい。
【0057】
なお、多糖類(1)は、1又は複数の非環状構造を有していてもよく、通常、複数(例えば、2〜1000、好ましくは3〜500程度)の非環状構造を有していてもよい。このような非環状部位(又は多糖類(1)の環状構造以外の部位)1つあたりの平均重合度(数平均重合度)は、例えば、10以上(例えば、10〜30程度)、好ましくは10〜20程度であってもよい。また、非環状部位全体の平均重合度(数平均重合度)は、10以上であればよく、例えば、40以上(例えば、50〜5000程度)、好ましくは100〜3000程度であってもよい。なお、非環状部位は、特に、α−1,6−グルコシド結合のグリコース(特にグルコース)単位から分岐している場合が多い。
【0058】
なお、多糖類(1)において、ヒドロキシル基(アルコール性ヒドロキシル基)は、誘導体化(例えば、エーテル化、エステル化、グラフト化など)されていてもよい。
【0059】
このような多糖類(1)には、いわゆる「クラスターデキストリン」と称される多糖類が含まれる。このような多糖類(1)は、例えば、糖類(例えば、澱粉、澱粉の部分分解物、アミロペクチン、グリコーゲン、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、可溶性澱粉、デキストリン、澱粉加水分解物、およびホスホリラーゼによる酵素合成アミロペクチンから選択された少なくとも1種の基質など)に、糖類に作用して環状構造を形成可能な酵素(枝作り酵素、D酵素、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼなど)を反応させることにより得てもよい。このようなクラスターデキストリンおよびその製造方法についての詳細は、特開平8−134104号公報などを参照できる。
【0060】
(環状多糖類(2))
前記多糖類(2)において、環状構造は、少なくともα−1,4−グルコシド結合で形成された環であればよく、α−1,4−グルコシド結合とα−1,6−グルコシド結合とで形成された環であってもよい。また、多糖類(2)において、環状構造の平均重合度(数平均重合度)は、14以上であればよく、例えば、14〜5000、好ましくは15以上(例えば、15〜3000程度)、さらに好ましくは17以上(例えば、17〜1000程度)であってもよい。環状構造がα−1,6−グルコシド結合を有する場合、環状構造におけるα−1,6−グルコシド結合の平均数は、例えば、1〜500、好ましくは1〜300、さらに好ましくは1〜100程度であってもよい。
【0061】
多糖類(2)は、前記環状構造を有している限り、非環状構造(例えば、直鎖状構造)を有していてもよいが、通常、前記環状構造だけで構成(又は形成)された環状多糖類であってもよい。
【0062】
なお、多糖類(2)において、ヒドロキシル基(アルコール性ヒドロキシル基)は、誘導体化(例えば、エーテル化、エステル化、グラフト化、架橋化など)されていてもよい。
【0063】
このような多糖類(2)には、いわゆる「シクロアミロース(又はサイクロアミロース)」と称される多糖類が含まれる。このような多糖類(2)は、例えば、直鎖状のα−1,4−グルカン又はこのグルカンを含む糖類(例えば、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、可溶性澱粉、デキストリン、澱粉枝切り物、澱粉部分加水分解物、ホルホリラーゼによる酵素合成アミロース、およびこれらの誘導体から選択された少なくとも1種など)と、多糖類(2)を形成可能な酵素(例えば、D酵素など)とを、必要に応じて、ホスホリラーゼおよびグルコース1−リン酸の存在下で反応させることにより得ることができる。また、前記反応は、基質としてα−1,6−グルコシド結合を有する基質を用いる場合には、α−1,6−グルコシド結合を切断可能な酵素(例えば、イソアミラーゼ、プルラナーゼなど)の存在下で行ってもよい。このようなサイクロアミロースおよびその製造方法についての詳細は、特開平8−311103号公報などを参照できる。
【0064】
これらの多糖類は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。例えば、前記多糖類(1)と多糖類(2)とを組み合わせて使用でき、特に、少なくとも前記環状多糖類(1)(又はクラスターデキストリン)を好適に用いることができる。
【0065】
前記環状多糖類とオリゴ糖との割合は、例えば、前者/後者(重量比)=99/1〜5/95、好ましくは95/5〜10/90、さらに好ましくは90/10〜20/80(例えば、85/15〜25/75)、特に80/20〜30/70(例えば、70/30〜40/60)程度であってもよく、通常99/1〜50/50程度であってもよい。
【0066】
水溶性多糖類(A1)の50重量%水溶液の粘度は、温度25℃において、例えば、5Pa・sec以下(例えば、1〜5Pa・sec)、好ましくは(例えば、2〜4Pa・sec)程度である。このように水溶液粘度が低いため、水溶性多糖類(A1)を用いると、水に対する溶解性が高いことと相まって、水による溶出効率を高めることができる。
【0067】
[水溶性可塑化成分(A2)]
水溶性可塑化成分としては、前記多糖類を可塑化(すなわち、オリゴ糖が水和して水飴状態となる現象を発現)する成分であれば特に限定されず、例えば、糖類、糖アルコールなどが使用できる。これらの可塑化成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0068】
(a)糖類
糖類としては、通常、単糖類及び/又は二糖類が使用される。なお、二糖類は、オリゴ糖に分類されるが、オリゴ糖と組み合わせる場合には、三糖類以上のオリゴ糖と組み合わせる限り使用することができる。これらの糖類は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0069】
単糖類としては、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、オクトース、ノノース、デコースなどが挙げられる。これらの化合物は、アルドースやケトースであってもよく、ジアルドース、複数のカルボニル基を有する単糖類、メチル基を有する単糖類、アシル基を有する単糖類、カルボキシル基が導入された糖類、チオ糖、アミノ糖、デオキシ糖などであってもよい。
【0070】
このような単糖類の具体例としては、例えば、テトロース(エリトロース、トレオロース等)、ペントース(アラビノース、リボース、リキソース、デオキシリボース、キシロース等)、ヘキソース(アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、フコース、ラムノース、タロース、ガラクチュロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、グルコサミン等)などが例示できる。
【0071】
また、単糖類は、ヘミアセタール結合により環状構造を形成した環状異性体であってもよい。単糖類は、旋光性を有している必要はないが、D形、L形、DL形のいずれであってもよい。これらの単糖類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0072】
二糖類としては、例えば、前記二糖類のうち、低融点または低軟化点を有する二糖類(例えば、ゲンチオビオース、メリビオース、トレハロース(二水化物)など)、前記単糖類のホモ及びヘテロ二糖類に相当する二糖類(例えば、グルクロン酸とグルコースとがα−1,6グリコシド結合したグルクロノグルコースなどのアルドビオウロン酸など)が例示できる。
【0073】
糖類は、熱安定性に優れるため、還元糖が好ましく、そのような糖類としては、遊離の単糖類の他、前記二糖類のうち、低融点又は低軟化点の還元糖(例えば、ゲンチオビオース、メリビオースなど)が挙げられる。
【0074】
(b)糖アルコール
糖アルコールは、アルジトール(グリシトール)などの鎖状糖アルコールであってもよく、イノシットなどの環式糖アルコールであってもよいが、通常は、鎖状糖アルコールが使用される。これらの糖アルコールは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0075】
鎖状糖アルコールとしては、テトリトール(トレイトール、エリスリトールなど)、ペンチトール[ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール(アドニトール)、キシリトール、リキシトールなど]、ヘキシトール[ソルビトール、マンニトール、イジトール、グリトール、タリトール、ズルシトール(ガラクチトール)、アロズルシトール(アリトール)、アルスリトールなど]、ヘプチトール、オクチトール、ノニトール、デキトール、及びドデキトールなどが挙げられる。
【0076】
これらの糖アルコールのうち、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、ズルシトール及びマンニトールが好ましい。糖アルコールは、エリスリトール、ペンタエリスリトール、キシリトールから選択された少なくとも1つの糖アルコールを含む場合が多い。
【0077】
水溶性可塑化成分(A2)の融点は、通常、140℃以下(例えば、50〜135℃、好ましくは70〜130℃、さらに好ましくは80〜125℃程度)である。
【0078】
水溶性助剤又は水溶性媒体において、多糖類(A1)と可塑化成分(A2)との割合(重量比)は、多糖類が効率的に可塑化できる範囲であれば特に限定されず、例えば、(A1)/(A2)=99/1〜50/50、好ましくは90/10〜60/40(例えば、85/15〜65/35)、さらに好ましくは80/20〜65/35(例えば、80/20〜70/30)程度であり、通常、85/15〜75/25程度である。
【0079】
また、水溶性可塑化成分とオリゴ糖とを併用する場合、オリゴ糖と水溶性可塑化成分との割合は、例えば、前者/後者(重量比)=99/1〜60/40、好ましくは90/10〜65/35、さらに好ましくは80/20〜70/30程度であってもよい。
【0080】
さらに、環状多糖類とオリゴ糖とを併用する場合、多糖類及びオリゴ糖の総量と水溶性可塑化成分との割合は、例えば、前者/後者(重量比)=99/1〜50/50、好ましくは90/10〜55/45、さらに好ましくは85/15〜60/40(例えば、80/20〜65/35)程度であってもよい。
【0081】
水溶性助剤は、樹脂と組み合わせて混練することにより、水溶性助剤の媒体(マトリックス)中に軟質樹脂が粒子状の形態で成形されて分散した分散体、又は樹脂粒子を得るための助剤として有用である。そのため、本発明は、前記水溶性助剤と溶融可能な軟質樹脂とを含む溶融成形可能な組成物(又は溶融成形性組成物)も含む。また、前記水溶性助剤で構成されたマトリックス(溶融可能な媒体)と、このマトリックス中に分散した、かつ溶融可能な軟質樹脂で構成された分散相(粒子状分散相)とで構成されている分散体も含む。
【0082】
水溶性助剤と軟質樹脂との割合(重量比)は、水溶性助剤/軟質樹脂=99/1〜45/55、好ましくは95/5〜50/50、さらに好ましくは90/10〜55/45程度であってもよい。
【0083】
[改質剤]
本発明において、前記混練系(又は分散体)は、必要に応じて、さらに改質剤(又は添加剤)を含んでいてもよい。改質剤(又は添加剤)としては、前記樹脂を改質可能な成分、例えば、可塑剤(又は軟化剤)、充填剤(粉粒状フィラーなど)、光分解性付与剤(アナターゼ型酸化チタンなど)、滑剤[高級脂肪酸又はその誘導体(脂肪酸塩、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、アルキレンビス(飽和脂肪酸アミド)など)、オレフィン系ワックスなどのワックス類、炭化水素油又は鉱物油、シリコーンオイル(ポリジメチルシロキサン(又はジメチルシリコーンオイル)などのポリジアルキルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなどのポリアルキルアリールシロキサンなど)など]、安定剤(熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候(光)安定剤、加工安定剤など)、紫外線散乱剤(酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄などの金属酸化物の粉末など)、分散剤、難燃剤、帯電防止剤(アニオン性帯電防止剤、カチオン性帯電防止剤、ノニオン性帯電防止剤、両性帯電防止剤などの低分子型帯電防止剤、高分子型帯電防止剤など)、着色剤[例えば、染料又は顔料[油溶性染料(ソルベント染料など)、分散染料、バット染料、硫化染料、アゾイック染料(ナフトール染料)、無機顔料(二酸化チタンなどの白色顔料;炭酸カルシウムなどの体質顔料;カーボンブラックなどの黒色顔料;カドミウムレッドなどの赤色顔料;カドミウムイエローなどの黄色顔料;群青などの青色顔料;ニッケル、フェライトなどの強磁性金属粉末など)、有機顔料(アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、イソインドリノン系顔料、ペリノン・ペリレン系顔料、スレン系顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン系顔料、インジゴ又はチオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン化合物など)、蛍光顔料又は染料、蓄光顔料など]、電荷制御剤(ニグロシン染料、トリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩、グアニジン化合物、イミダゾール化合物、アミン系化合物などの正電荷制御剤;サリチル酸金属錯体、アゾ染料金属錯体、銅フタロシアニン染料、ニトロイミダゾール誘導体、尿素誘導体などの負電荷制御剤など)、離型剤、光沢剤、濡れ性改良剤、流動化剤、架橋剤[重合性化合物、硬化剤、重合開始剤(例えば、有機過酸化物、アゾ化合物など)、光重合開始剤など]、抗菌剤、防腐剤、反応性基を有する化合物[例えば、エポキシ基を有する化合物、酸基を有する化合物(例えば、カルボキシル基を有する化合物、スルホン酸基を有する化合物、無水マレイン酸などの酸無水物基を有する化合物など)などが例示できる。前記混練系(又は分散体)は、これらの改質剤を単独で又は2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0084】
添加剤の総量は、例えば、樹脂100重量部に対して、0〜100重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.01〜50重量部(例えば、0.03〜30重量部)、好ましくは0.05〜20重量部(例えば、0.1〜20重量部)程度、さらに好ましくは0.2〜10重量部(例えば、0.5〜10重量部)程度であってもよい。
【0085】
なお、改質剤(添加剤)は、混練系に存在していればよく、分散体の分散相(軟質樹脂相)及びマトリックス(連続相)のいずれに含有させてもよい。特に、樹脂と改質剤とで構成された分散相を有する分散体は、予め改質剤を含む樹脂と、水溶性助剤とを混合(特に、溶融混合又は溶融混練)することにより効率よくかつ確実に得ることができる。
【0086】
前記分散体は、通常、溶融成形可能な組成物(水溶性助剤と樹脂と必要により改質剤などを含んでいてもよい組成物)を混練することにより調製できる。溶融混練温度Tは、例えば、100〜300℃程度であり、通常、170〜230℃(例えば、180〜220℃)程度である。また、混練時間は、例えば、10秒〜1時間の範囲から選択できる。混練は、慣用の混練機(例えば、スクリュー押出機、ニーダー、カレンダーロールなど)を用いて行うことができる。また、混練に先立ち、各成分は、ヘンシェルミキサー、タンブルミキサー、ボールミルなどで予備混合してもよい。混練した組成物は、例えば、押出成形、射出成形、カレンダー成形などにより予備的に成形してもよい。予備成形体(又は分散体)の形状は、特に制限されず、粒状、ペレット状、ストランド状、棒状、板状、シート状、フィルム状、管状、ブロック状などであってもよい。
【0087】
混練及び/又は成形加工により得られた溶融物(例えば、混練物、予備成形体)を冷却することにより、表面張力、結晶化などの固化速度の相違などにより分散相を形成でき、分散体を得ることもできる。冷却温度は、樹脂の熱変形温度、又は水溶性助剤の融点若しくは軟化点よりも少なくとも10℃程度低い温度(例えば、10〜100℃程度低い温度、好ましくは15〜80℃程度低い温度、さらに好ましくは20〜60℃程度低い温度)であってもよい。具体的には、冷却温度は、例えば、10〜120℃程度から選択でき、15〜60℃(例えば、20〜50℃)程度であってもよい。冷却時間は、30秒〜20時間の広い範囲から選択できる。
【0088】
このようにして得られた分散体から水溶性助剤を溶出すると、前記樹脂で構成された粒子状成形体を製造できる。特に、水溶性助剤が、水に対する溶解性が高いため、水溶性助剤を速やかに溶出又は抽出でき、前記樹脂粒子を効率よく得ることができる。
【0089】
水溶性助剤(水溶性助剤)の溶出(又は洗浄)は、水性溶媒、例えば、水、水溶性溶媒(例えば、アルコール類(エタノール、イソプロパノールなど)、エーテル類(セロソルブなど)など)などを用いて行うことができる。これらの水性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。溶出溶媒として水を用いるのが好ましい。
【0090】
水溶性助剤の溶出は、慣用の方法、例えば、前記分散体(又は予備成形体)を、前記水性媒体中に浸漬、分散して、水溶性助剤を溶出または洗浄(水性溶媒に移行)することに行うことができる。なお、水溶性助剤の分散及び溶出を促進するため、撹拌してもよい。水溶性助剤は、例えば、加圧下で溶出させてもよいが、通常、常圧下(例えば、10万Pa程度)又は減圧下で溶出できる。また、水溶性助剤の溶出温度は、通常、樹脂成分の融点又は軟化点未満の温度、例えば、10〜100℃、25〜80℃(例えば、40〜80℃)程度である。樹脂で構成された成形体は、慣用の分離(回収)方法、例えば、濾過、遠心分離などを用いて回収できる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の軟質樹脂粒子は、衝撃吸収材や緩衝材、トナーやインクなどの画像形成材料、塗料やコート剤(例えば、粉体塗料)、スペーサー、導電性微粒子などの二次加工粒子の母粒子、化粧品用材料、圧縮成形やレーザー造型などの粉体を用いた成形加工用の原料として使用できる。
【0092】
なお、レーザー造形による成形体は、例えば、本発明の粒子を、レーザービーム加熱により相互に溶融させて結合し、積層しつつ造形を行う方法(RTP法、レーザー焼結法)により得ることができる。
【実施例】
【0093】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0094】
実施例及び比較例において、以下の材料を使用した。
【0095】
[マトリックス成分]
(A1)水溶性多糖類
オリゴ糖 デンプン糖(東和化成工業(株)製、還元デンプン糖化物PO−10、50%水溶液粘度0.55Pa・sec)
(A2)水溶性可塑化成分
糖アルコール ソルビトール(東和化成工業(株)製、ソルビット、融点103℃)。
【0096】
(A3)ポリエチレングリコール
(A3-1)PEG20000(試薬)、分子量20,000、和光純薬(株)製
(A3-2)分子量100,000〜170,000、10%水溶液粘度70〜200mPa・s、明成化学工業(株)製。
【0097】
[軟質樹脂]
エコフレックス(ECOFLEX):ECOFLEX F BX 7011,BASFジャパン(株)製
実施例1〜3及び比較例1
ラボプラストミルを用いて、マトリックス成分100重量部と軟質樹脂30重量部とを表1に示す温度で10分間混練し、混練物を取り出し後、冷却し、10倍(重量)の純水に浸漬することにより、マトリックス成分を溶解した。生成した粒子分散水溶液を、孔径0.45μmの酢酸セルロース製メンブレンフィルターにてろ過し、メンブレンフィルターにより回収された粒子を、再度10倍量の純水に分散させ、30分程度攪拌下で洗浄後、再びろ過した。このような洗浄操作は二回繰り返した。2回洗浄した試料を45℃のオーブン中で一昼夜乾燥させ、微粒子を得た。なお、マトリックス成分としてポリエチレングリコール(A3−1)(A3−2)を用いると、マトリックスの溶解に極めて長時間を要するだけでなく、ポリエチレングリコール(A3−1)(A3−2)を用いた系では、ポリエチレングリコール(A3−1)を用いた系で少量の粒子が濾過で回収できたものの、粒子分散液の濾過が工業的には殆ど不可能であった。ポリエチレングリコール(A3−2)を用いた系では濾過が不可能であり、樹脂粒子を回収できなかった。
【0098】
得られた樹脂粒子の数平均粒子径及び体積平均粒子径は走査型電子顕微鏡(高倍率FE−SEM)写真をデジタル画像化し、1000個の粒子について粒子径を測定し、計算式により算出した。また、樹脂粒子の粒子形状及び表面状態を走査型電子顕微鏡(高倍率FE−SEM)で観察した。さらに、軟質樹脂粒子の体積弾性率は、樹脂粒子を圧力60MPaで圧縮成形してタブレット(厚み3mm×25mmφ)を成型し、このタブレットを圧縮速度1mm/分で圧縮してせん断変形させ、荷重と圧縮量との関係に基づいて弾性変形領域での体積弾性率を算出した。なお、サンプリングレート(データの取り込み速度)は1μmで測定した。結果を表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
なお、ポリエチレングリコール(A3−1)を用いて得られた樹脂粒子の表面には、二回洗浄しても、ポリエチレングリコールの針状結晶が残留し付着していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水溶性多糖類(A1)で構成された水溶性助剤のマトリックス中に樹脂が分散した分散体を水性溶媒で溶出することにより得られた樹脂粒子であって、体積弾性率が10MPa以下である軟質樹脂粒子。
【請求項2】
数平均粒子径Dnが0.1〜20μmであり、かつ体積平均粒子径Dwと数平均粒子径Dnとの比Dw/Dnが1.24以下である請求項1記載の軟質樹脂粒子。
【請求項3】
結晶性脂肪族−芳香族共重合ポリエステルで構成された球状粒子である請求項1記載の軟質樹脂粒子。
【請求項4】
モノマーの重合が樹脂粒子の生成に関与しない方法で樹脂粒子を製造する方法であって、少なくとも水溶性多糖類(A1)で構成された溶融混練可能な水溶性助剤と、軟質樹脂とを溶融混練し、軟質樹脂相が分散した分散体を生成させ、この分散体を水性溶媒で溶出し、前記軟質樹脂で構成された体積弾性率10MPa以下の樹脂粒子を製造する方法。
【請求項5】
水溶性助剤が、さらに水溶性多糖類(A1)を可塑化可能な水溶性可塑化成分(A2)を含む請求項4記載の方法。
【請求項6】
水溶性多糖類(A1)が、オリゴ糖および少なくとも1つの環状構造を有する多糖類から選択された少なくとも一種で構成されている請求項4記載の方法。
【請求項7】
オリゴ糖が、デンプン糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、フルクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、キチンオリゴ糖及びキトサンオリゴ糖から選択された少なくとも一種で構成されている請求項6記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの環状構造を有する多糖類において、環状構造を形成するグリコース単位の平均重合度が、1つの環状構造あたり10以上である請求項6記載の方法。
【請求項9】
環状構造が、α−1,4−グルコシド結合とα−1,6−グルコシド結合とを有する環状構造である請求項6記載の方法。
【請求項10】
環状構造を有する多糖類が、α−1,4−グルコシド結合およびα−1,6−グルコシド結合を有し、1つの環状構造あたりグリコース単位の平均重合度が10以上である環状構造と、この環状構造に結合した非環状構造とを有し、かつ平均重合度50以上である多糖類で構成されている請求項6記載の方法。
【請求項11】
可塑化成分(A2)が、糖類及び糖アルコールから選択された少なくとも一種で構成されている請求項5記載の方法。
【請求項12】
糖アルコールが、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、ズルシトール及びマンニトールから選択された少なくとも一種である請求項11記載の方法。
【請求項13】
水溶性多糖類(A1)と可塑化成分(A2)との割合(重量比)が、水溶性多糖類(A1)/可塑化成分(A2)=99/1〜50/50であり、水溶性多糖類(A1)及び可塑化成分(A2)で構成された水溶性助剤と、軟質樹脂との割合(重量比)が、水溶性助剤/軟質樹脂=99/1〜45/55である請求項5記載の方法。

【公開番号】特開2007−224259(P2007−224259A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89185(P2006−89185)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】