説明

軟骨細胞の軟骨表現型の維持、改善および修復方法

本発明は、拡大培養および継代培養された軟骨細胞の安定な軟骨表現型を修復、維持または改善する能力を有する調節細胞に関する。また、このような調節細胞は、前駆細胞および幹細胞を軟骨新生系統に指向する能力も有する。富化調節細胞集団は、P0軟骨細胞の単層培養物の培養培地中の非付着性細胞を収集することにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、軟骨細胞拡大培養および軟骨修復の分野に関する。また、本発明は、軟骨細胞または軟骨細胞の前駆細胞などの軟骨新生細胞の軟骨表現型を維持、改善または修復するために使用することができる、軟骨から得られ得る調節細胞集団に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
関節軟骨および半月板軟骨はともに、正常な関節運動の力学に重要な役割を果たす。関節軟骨は、膝関節で骨の両端を覆っている。これは、コラーゲン、種々のタンパク質/糖タンパク質および大型の水分保持性のプロテオグリカン(これは、グリコサミノグリカンと呼ばれる負の電荷を有する多糖類を担持する)の3次元網目で構成された細胞外マトリックス中に包埋された散在的に分布している細胞(軟骨細胞)で構成されている。半月板軟骨は、マトリックス中に何列も何束もコラーゲン線維が整列した小腔内細胞の存在を特徴とする線維軟骨である。関節軟骨および/または半月板軟骨いずれかに対する損傷はよく見られる病状であり、数百万人が関節を冒されている。この損傷は、成人関節軟骨の不充分な再生能ならびにこの損傷に付随する障害および痛みを伴う。最近、いくつかの軟骨修復モデルが提案されている。かかるモデルの一例である「自家軟骨細胞移植(Autologous Chondrocyte Transfer)」手法(ACT)では、細胞を健常な関節軟骨から採取し、充分な細胞数を供給するために培養状態で増殖させ、関節軟骨または半月板軟骨の欠損部内に再移植する[Brittbergら(1994)N
Engl.J Med.331,889−895]。細胞の拡大培養は、少量の軟骨生検材料から軟骨欠損の修復に充分な細胞を得るために必要である。単層培養状態で拡大培養した軟骨細胞は、継代培養の回数が増加するにつれて分化する傾向を有するため、ACT手法は、限界がある。かかる分化は、起源の組織に見られるものと異なる生化学的および生体力学的特性を有するマトリックスの合成をもたらす。軟骨細胞の表現型形質、例えば、インビボで安定な硝子軟骨を形成する能力、血管侵入に対する抵抗性および軟骨性骨の形成を維持するためには、細胞培養条件の最適化および継代培養の回数の制限が必要とされる。現在適用されているACT手順はすべて、細胞培養法によって起源の生検材料から得られる拡大培養軟骨細胞集団で構成された細胞療法剤を使用するものである。明らかに、このような集団は、その表現型安定性が保持された細胞および安定な関節軟骨形成細胞に再分化できない脱分化細胞を可変的な数で含む。この問題は、ガラス質様軟骨から線維軟骨や修復の徴候がないものまでの範囲に及ぶ修復組織の質における臨床試験での大きなばらつきによって強調される[Petersonら(2000)Clin Orthop Relat Res.374,212−234]。これは、充分に大量の軟骨細胞への細胞の拡大培養が、そのままでは成功裡の移植を行なうのに充分でないことを示す。
【0003】
種々のアプローチが、軟骨細胞の質の改善または択一的な軟骨細胞供給源の使用に用いられている。Luytenら(WO0124833)には、拡大培養および継代培養された軟骨細胞の品質管理物質としての分子マーカーの使用が記載されている。このようなマーカーの使用により、移植時での軟骨形成能の有意な減損なく軟骨細胞集団が受けることのできる継代培養の回数を調べることが可能になる。種々のマトリックス成分を軟骨細胞(例えば、パールカン(perlecan)など)に添加することにより、ACTの成績を上げるための種々の試みが行なわれている[Frenchら(1999)J.Cell.Biol.145,1103−1115]。
【0004】
また、周囲マトリックスは、軟骨細胞の再生能に対して影響を及ぼすことが報告されて
いる。Graffら[2003,Biotechnol.Bioeng.82,457−464]には、軟骨から得られる天然細胞周囲マトリックス(コンドロン(chondron))の存在を特徴とする細胞集団が記載されており、このような細胞の軟骨形成特性は、インビトロで細胞周囲膜を再構築させた軟骨細胞と比べると改善されていることが示されている。
【0005】
軟骨生検材料は、典型的な軟骨細胞の他に、異なる形態構造および挙動を有する細胞を少数割合で含むことが報告されている。Kamilら[2004,Tissue Eng.10,139−144]には、通常廃棄される細胞(「浮遊細胞」)集団を軟骨生検材料から回収することが記載されており、拡大培養プロトコルにおいてより高収率を獲得するため、このような細胞が、それでもなおどのようにして拡大培養され得るかが記載されている。この報告は、軟骨生検材料の古典的な付着軟骨細胞画分以外の画分もまた、軟骨形成細胞の供給源として有用であり得ることを示す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軟骨細胞を拡大培養するため、およびその質をアッセイするための諸方法が利用可能であるが、限定的な回数以内の継代培養で充分な量の表現型安定性の軟骨細胞を得ること、質の低い軟骨細胞の特性を改善すること、または不適切な取扱い(例えば、過度なインキュベーションもしくは拡大培養)後に細胞の特性を回復させることは、今までのところ不可能である。一貫した量で質の高いACT用の細胞を作製する必要性に鑑み、生検材料中に存在する軟骨細胞の質および数とは独立して、この一貫性の確保を可能にする方法の必要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明は、軟骨形成能を有する細胞集団と組合せると、これに対して調節効果を有し、それにより軟骨細胞表現型安定性が増大、誘導または修復される、軟骨から得られ得る細胞集団に関する。この調節細胞集団は、新鮮単離軟骨生検材料の一部として天然に存在するが、その物理的および/または生理学的特性に基づいて富化(enriched)および/または分離され得る。この細胞集団は、凍結してもその調節能を保持し、例えば、成熟軟骨細胞を移植に必要な充分多数まで拡大培養するのに必要な期間中、調節細胞集団(富化形態または非富化形態いずれも)の貯蔵が可能となることが確証された。充分な数の軟骨細胞が得られたら、軟骨細胞集団を調節細胞集団と組合せ、組合せた集団は、移植の準備ができた状態である。
【0008】
さらに、この調節細胞集団は、一定時間内に、例えば、播種の約2〜5日後および/または付着細胞が少なくとも30%の密度に達したときに、細胞の非付着性画分を培養受容器から収集することにより、軟骨生検材料の軟骨細胞から分離され得ることがわかった。
【0009】
一態様において、本発明は、本発明の調節細胞集団を富化するための方法を提供する。より詳しくは、本発明は、(a)単離軟骨試料を機械的および/または酵素的に処理し、個々の細胞を得る工程;(b)そのようにして得られた個々の細胞を細胞培養受容器に移し、軟骨細胞を単層で拡大培養する工程;(c)充分な細胞培養条件において細胞培養受容器を維持し、それにより付着細胞集団と、非付着性細胞集団を含む上清みとを得る工程;(d)少なくとも2日後および/または付着細胞が少なくとも約30%の密度に達したときに、細胞培養受容器から、非付着性細胞集団を含む上清みを回収する工程;(e)上清みから、本発明の調節細胞集団に相当する非付着性細胞集団を回収する工程を含む、調節細胞集団を単離軟骨試料から富化するための方法を提供する。
【0010】
一実施形態によれば、本発明の富化方法において使用される軟骨試料は、関節軟骨または半月板軟骨試料である。
【0011】
典型的には、本発明の富化方法は、コラゲナーゼAを用いて酵素的に処理した軟骨試料から開始する。
【0012】
さらなる一態様において、本発明は、本明細書に記載の富化方法によって得られ得る非付着性の非継代培養調節細胞集団である富化調節細胞集団を提供する。
【0013】
またさらなる一態様において、本発明は、本発明の富化調節細胞集団の種々の使用を提供する。
【0014】
第1の実施形態によれば、医薬としての使用のための、本発明の富化方法によって得られ得る富化調節細胞集団が提供される。
【0015】
より具体的には、本発明は、軟骨欠損を有する患者に本発明の富化調節細胞集団を投与することを含む、軟骨欠損の処置方法を提供する。したがって、本発明は、本発明の富化調節細胞集団を含む医薬組成物を提供する。
【0016】
より詳しくは、本発明は、関節軟骨欠損部へのマイクロフラクチャー術の導入を伴う改善された処置方法を提供する。欠損部へのマイクロフラクチャー術の提供により、骨の基礎となる幹細胞が関節軟骨欠損内に進入するのが可能となる。その後、細胞療法剤の適用によりインビボ軟骨再構成が得られ、これは、本発明によれば、調節機能を有する細胞集団を含むものである。この再構成プロセスでは、本発明の調節細胞集団によって、間葉幹細胞が軟骨新生系統内に指向される。
【0017】
さらなる一実施形態によれば、富化調節細胞集団は、インビトロで拡大培養軟骨細胞集団または継代培養軟骨細胞集団の軟骨細胞表現型安定性を改善、維持または修復するために使用される。
【0018】
本発明のまたさらなる一実施形態によれば、富化調節細胞集団は、インビトロで間葉幹細胞を軟骨新生系統に分化させるために使用される。
【0019】
またさらなる一態様において、本発明は、調節細胞集団(富化形態か、または新鮮単離軟骨細胞として存在するかのいずれか)1種類以上の異なる細胞集団を含む組成物を提供する。
【0020】
より詳しくは、本発明は、
−(i)軟骨生検材料から得られる新鮮単離軟骨細胞集団または(ii)軟骨生検材料から得た新鮮単離軟骨細胞のP0培養物の上清みからの非付着性細胞の回収によって得られ得る富化調節細胞集団のいずれかである調節細胞を含む細胞集団;および
−継代培養軟骨細胞の細胞集団、間葉幹細胞集団および軟骨細胞の前駆細胞集団からなる群より選択される1種類以上の細胞集団
を含む2種類以上の異なる細胞集団の組合せを含む組成物を提供する。
【0021】
より具体的には、本発明は、富化調節細胞集団を含む2種類以上の異なる細胞集団の組合せを含む組成物であって、富化調節細胞の相対量が一般的に、該組合せ組成物中の細胞の総数の1〜75%の範囲内である組成物を提供する。
【0022】
特別な一実施形態によれば、本発明の組合せ組成物中に存在する調節細胞含有集団は、
関節軟骨または半月板軟骨から得たものである。
【0023】
本発明は、さらに、調節細胞集団(富化形態か、または新鮮単離軟骨細胞として存在するかのいずれか)と異なる細胞集団の組合せの種々の適用を提供する。
【0024】
より具体的には、医薬としての、本発明による細胞調節細胞集団を含む組合せ細胞集団を提供する。したがって、本発明は、本明細書に記載の組合せ細胞集団を含む医薬組成物を提供する。組合せ細胞集団はまた、治療的使用のために骨格内に提供され得る。
【0025】
本発明は、軟骨欠損の処置のための細胞療法剤の調製における、(任意選択で、富化された)本発明の調節細胞集団と第2の細胞集団の組合せの使用を提供する。したがって、軟骨欠損を有する患者に、本発明の調節細胞集団および1種類以上の他の細胞集団を含む組成物を投与することを含む、軟骨欠損の処置方法を提供する。
【0026】
他の細胞集団と組合せた調節細胞集団の使用により、例えば、より多数回継代培養された軟骨細胞を移植に使用することが可能になる。さらにまた、本発明の方法により、反復継代培養によって大量の軟骨細胞の作製が可能になる。多数回の継代培養時に結果として生じる軟骨表現型の減少は、本発明の調節細胞集団の添加によって修復することができる。
【0027】
したがって、本発明の細胞集団の使用により、安定な表現型を有する軟骨細胞が大量に得られ得るため、大きな欠損部の細胞処置が可能になる。あるいはまた、利用可能な軟骨細胞の数とは無関係に、その質は、本発明の調節細胞集団を使用することによって改善することができる。
【0028】
本発明の調節細胞集団の使用により、一般的に使用されているACT手順の改善が確実となる。
【0029】
より詳しくは、本発明は、
a)単離軟骨試料を機械的および/または酵素的に処理し、個々の細胞を得る工程、
b)そのようにして得られた個々の細胞を細胞培養受容器に移し、軟骨細胞を単層で拡大培養する工程、
c)充分な細胞培養条件において前記受容器を維持し、それにより、付着細胞集団と、非付着性細胞集団を含む上清みと得る工程、
d)少なくとも2日後または培養受容器において付着細胞の少なくとも約30%の密度のときに、培養受容器から非付着性細胞集団を含む上清みを回収する工程、
e)前記非付着性細胞を前記上清みから回収する工程、
f)そのようにして得られた非付着性細胞集団を、富化調節細胞集団でない軟骨新生細胞集団と組合せる工程
を含む、ACT移植用の細胞集団の調製方法を提供する。
【0030】
ACT移植用の細胞集団の調製方法の一実施形態によれば、軟骨新生細胞集団は、同じまたは異なる単離軟骨試料から得た成熟軟骨細胞集団である。より詳しくは、該方法は、さらに、
g)工程(c)で得られた付着細胞集団を拡大培養および継代培養する工程、
h)拡大培養および継代培養された付着細胞集団を回収する工程、
i)工程(f)において、工程(e)で得られた非付着性細胞集団を、工程(h)で得られた拡大培養および継代培養された付着細胞集団と組合せる工程
を含む。
【0031】
典型的には、本発明の方法において、工程(a)の酵素的処理はコラゲナーゼAを用いて行なわれる。
【0032】
本発明の方法の具体的なある実施形態において、該単離軟骨試料は半月板軟骨試料である。任意選択で、軟骨新生細胞集団は、半月板軟骨生検材料由来のものである。あるいはまた、軟骨新生細胞集団は間葉幹細胞集団である。
【0033】
本発明のACT移植用の細胞集団の調製方法のさらなる実施形態は、さらに、工程(f)または(i)で得られた組合せ集団を骨格上に播種する工程を含む。
【0034】
したがって、本発明は、本発明による自己または同種異系の調節軟骨細胞集団と、線維芽細胞性の形態構造を有する拡大培養された自己またはさらに同種異系軟骨細胞の混合物または組合せを含む細胞療法剤を適用することにより、インビボ軟骨再構成を改善する方法に関する。
【0035】
本発明は、さらに、本発明による調節細胞集団と間葉幹細胞の混合物を含む細胞療法剤を適用することにより、インビボ軟骨再構成を改善する方法に関する。
【0036】
本発明の細胞集団と軟骨細胞の組合せを含む組成物は、より高速なインビトロ軟骨形成能を有する。したがって、軟骨細胞と本発明の調節細胞集団の両方の組合せの移植により、インビボ注射すると軟骨再構成の改善がもたらされ、これにより、より高速な再生プロセスおよび質の高い軟骨形成が開始されると想定される。
【0037】
さらに、ペレット培養で本発明の細胞集団によって生成された軟骨は、多数回継代培養した脱分化軟骨細胞と組合せた場合であっても、機械的安定性を有するペレットの高速形成を示すことが観察された。これは、軟骨細胞集団の移植し易さに関してより柔軟性をもたらすだけでなく、局所軟骨新生細胞への作用に対する示唆を有する。部分脱分化細胞における安定な軟骨細胞表現型を誘導する能力は、本発明の調節細胞が、例えば、関節内で局所軟骨細胞が既に異化作用プロセスによって冒された変形性関節症の(osteoarthritic)状態における軟骨形成の誘導に適用可能であることを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
発明の詳細な説明
定義:
用語「軟骨新生」は、細胞または集団に適用する場合、該細胞または集団が適切な環境下で軟骨を生成または軟骨増殖を刺激する固有の能力をいう。軟骨新生細胞としては、軟骨細胞および自身が軟骨細胞に分化する細胞、例えば、骨軟骨(osteochondral)系統になるように拘束(commit)された前駆細胞などが挙げられる。
【0039】
「軟骨新生因子」は、本明細書で用いる場合、軟骨分化を促進する化合物、例えば、ある種の増殖因子(TGF−βなど)をいう。
【0040】
用語「軟骨細胞表現型安定性」は、細胞集団に言及する場合、細胞集団がインビボで軟骨を生成する能力をいう。この能力は、細胞集団の一部(少なくとも約1〜20×10細胞)を、免疫不全マウスなどの哺乳動物に(インビボで)注射し、(約3週間の時間枠で)血管侵入または軟骨性骨の形成の徴候なく軟骨移植片の発達を調べることにより試験され得る。さらに、表現型安定性の軟骨細胞集団は、WO0124833に記載のような表現型安定性のマーカーの存在を特徴とする。軟骨細胞表現型安定性は、継代培養すると成熟軟骨細胞において徐々に失われる。
【0041】
用語「新鮮単離細胞」(F1)は、本明細書で用いる場合、組織消化後に生検材料から得た細胞集団をいう。したがって、用語「新鮮単離軟骨細胞」は、本明細書で用いる場合、軟骨細胞含有組織(例えば、軟骨など)から消化によって直接得た、継代培養をしていない細胞集団をいう。本発明との関連における新鮮単離細胞集団は、直接(すなわち、単離後48〜120時間以内)使用されるか、または後の使用のため凍結されるかのいずれかである。あるいはまた、新鮮単離細胞集団の特色は、一定の培養条件下で、例えば、継代培養せずにインキュベータ内で超低結合プレートにおいて長期間、高密度で培養することにより、長期間維持され得る。
【0042】
用語「調節」は、細胞または細胞集団に関する場合、別の細胞集団と接触させたとき、該細胞または細胞集団が、別の該細胞集団の軟骨新生に影響を及ぼす能力、および/または軟骨細胞の拡大培養を開始させる能力、および/または別の該細胞集団の軟骨細胞表現型安定性に影響を及ぼす能力をいう。
【0043】
用語「富化された(enriched)」は、本発明の調節細胞集団に言及する場合、軟骨生検材料から得た新鮮単離細胞から成熟軟骨細胞に発達中の細胞が取り出されていること、したがって、新鮮単離細胞全体に存在する調節細胞の割合と比べて、より高い割合で調節細胞が得られていることに関する。本発明によれば、調節細胞集団を富化する具体的な様式の一例は、その非付着特性に基づくものである。
【0044】
用語「非付着性」、「浮遊」または「非結合性」は、軟骨由来の細胞または細胞集団に言及するために用いる場合、該細胞または細胞集団が、培養受容器(例えば、培養フラスコなど)に導入したとき懸濁状態を保持しており、受容器の表面に付着していないことをいう。より具体的には、本発明の非付着性軟骨細胞集団(NAC)は、少なくとも2日後または付着細胞が少なくとも30%の密度を獲得したときに、新鮮単離軟骨細胞の軟骨細胞単層の上清み中(すなわち、標準的な培養条件下での一次拡大培養中)に存在する細胞集団である。
【0045】
本発明において「成熟軟骨細胞」に言及する場合、軟骨芽細胞に由来し、軟骨生成能を有する軟骨組織の成熟細胞をいうことが意図される。成熟軟骨細胞は、軟骨由来の新鮮単離細胞集団を培養すると得られる。マトリックスまたは支持体に結合させると(例えば、単層での培養の際)、新鮮単離細胞が平らになり、多角形または線維芽細胞性の形態構造を獲得し、その細胞周囲マトリックスを失い、成熟軟骨細胞となる。したがって、「成熟軟骨細胞集団」は、本明細書で用いる場合、例えば培養フラスコ内で単層での軟骨細胞の培養によって得られる細胞集団をいい、このとき、成熟軟骨細胞は表面に付着し、1回以上継代培養されたものである。
【0046】
用語「拡大培養された」は、軟骨などの組織から得た細胞集団に言及する場合、該細胞集団が細胞数が増殖によって増加する条件下に置かれていることを示す。その最も単純な形式では、拡大培養は、細胞集団を、適切な培養培地を入れた培養受容器内に、任意選択での密度まで供給することにより行なわれる。
【0047】
組織から単離した細胞集団の「一次拡大培養」は、最初の継代培養前の細胞集団の培養をいう。この一次拡大培養の際、一部の新鮮単離細胞はフラスコ表面に付着して成熟軟骨細胞(P0成熟軟骨細胞)となるが、一部の新鮮単離細胞は非付着性細胞として上清み中に残留し(非付着性細胞集団)、一次拡大培養は、播種された細胞密度にもよるが、典型的には約15日間である。継代培養の際、培養細胞の上清みを除去し、付着細胞を培養受容器から剥離させ、分離させ、新鮮培地を入れた培養受容器に再度移す(この段階はP1に相当)。この場合も培養フラスコに付着するP1細胞を、さらに継代培養してもよい。P1細胞または多数回継代培養した細胞を、一般的に、本明細書において「継代培養細胞
」という。
【0048】
用語「軟骨欠損」は、本明細書で用いる場合、軟骨の減損または損傷に起因する任意の状態をいう。ほとんどの場合、これは関節(限定されないが、膝、肘、踝など)において起こるため、一般的に関節軟骨欠損と称される。また、大腿骨、上腕骨などの骨顆の欠損などの軟骨欠損は、近位骨にちなんで命名される。また、半月板の線維軟骨の欠損/断裂も半月板の欠損と称される。
【0049】
本発明は、軟骨生検材料から得た新鮮単離細胞が、従来の成熟軟骨細胞に発達し、培養フラスコ内に導入するとフラスコ表面に付着し、かつ拡大培養され得る細胞集団に加えて、表現型安定性であるだけでなく、調節細胞集団としての機能を果たし得る非付着性細胞集団を含むという観察結果に基づくものである。この細胞集団の調節活性は、軟骨細胞集団の軟骨細胞表現型安定性が維持され得ること、脱分化細胞集団の軟骨細胞表現型安定性が救済され得ることから明白である。したがって、軟骨から得た新鮮単離細胞中に存在するこの細胞集団は、軟骨の生成および修復に特に重要である。したがって、本出願は、新鮮単離軟骨細胞の調節細胞亜集団の特色を利用する新規な適用を提供する。さらに、この調節細胞集団の非付着性の特色により、本発明の調節細胞集団の富化方法が提供される。したがって、従来では、軟骨細胞培養物の一次拡大培養で得られた非付着性細胞集団は廃棄されるが、本発明は、この非付着性細胞集団を、軟骨新生細胞集団としてだけでなく、他の細胞集団の軟骨細胞表現型安定性に有意に影響を及ぼし得る調節集団として使用することを提供する。
【0050】
本発明の調節細胞集団は、細胞周囲マトリックスを有する細胞を含むことが観察された。軟骨細胞は、軟骨組織内に存在しているときは球形または半球形の外観を有する。軟骨組織の消化により、該細胞周囲に存在する天然の細胞周囲マトリックスが破壊される。培養の最初の48時間の間に、該細胞は、異なるものであるが細胞周囲マトリックスを回復させる。マトリックスまたは支持体に結合させると(例えば、単層での培養の際)、大部分の新鮮単離細胞が平らになり、多角形または線維芽細胞性の形態構造を獲得し、再度その細胞周囲マトリックスのほとんどを失う。本発明の調節細胞集団は、球形の形態構造を有し、その周囲にこの回復された細胞周囲マトリックスが維持されている細胞の存在を特徴とする。
【0051】
本発明によれば、本発明の調節細胞集団は、どの軟骨生検材料から得たときも新鮮単離細胞中に存在しているものである。したがって、本発明は、この調節細胞集団を、新鮮単離細胞中に存在するものとして、および富化細胞集団としての両方の場合で、インビトロおよびインビボ軟骨生成に使用することを伴う方法を提供する。本発明は、さらに、調節機能を有する細胞集団を富化するための方法を提供する。
【0052】
本発明の調節細胞集団は、新鮮単離細胞集団の一部として、または富化調節細胞集団としてのいずれかで、典型的には単離軟骨試料から得たものである。本発明によれば、単離軟骨は、ヒトまたは動物の身体の任意の箇所から得た線維軟骨および/または関節軟骨である。最も特別には、軟骨生検材料の採取のために容易に到達可能な身体内の位置が選択される。調節細胞集団の単離がACT用の細胞を提供する状況で行なわれる場合、軟骨生検材料は、理想的には、体重を支えて(weightbearing)いない他の骨とほとんど接触していない領域(例えば、大腿骨の骨顆間切痕など)由来のものである。あるいはまた、本発明の方法に使用される軟骨試料は、脱出椎間板軟骨または半月板軟骨(線維軟骨)である。
【0053】
本発明において細胞の作製に使用される軟骨生検材料は、若年または高齢の個体の健常軟骨または疾患軟骨(例えば、変形性関節症の軟骨)から得たものであり得る。
【0054】
本発明の第1の態様は、本発明の調節細胞集団を富化するための方法に関する。その最も一般的な形態において、該方法は、
以下の工程:
−単離軟骨試料を機械的および/または酵素的に処理し、個々の細胞の集団を得る工程、
−そのようにして得られた個々の細胞の集団を細胞培養受容器に移し、軟骨細胞を単層で拡大培養する工程、
−充分な細胞培養条件下に培養受容器を維持する工程、および
−培養受容器から、本発明の調節細胞集団に相当する非付着性細胞集団を含む上清み回収する工程
を含む。
【0055】
本発明によれば、軟骨組織由来の新鮮単離細胞の培養により、該細胞を、本質的に成熟軟骨細胞を含む「付着」集団と、調節性の特色を有する非付着性集団とに物理的に分離するための方法が提供される。
【0056】
本発明による富化手順の第1の工程では、単離軟骨を、個々の細胞(「新鮮単離軟骨細胞」)の集団が得られるように処理する。特別な一実施形態によれば、かかる処置は酵素的処理を含む。軟骨生検材料の消化に適した酵素としては、限定されないが、コラゲナーゼNB4、コラゲナーゼAまたはディスパーゼ/コラゲナーゼIIの混合物が挙げられる。特別な本発明の一実施形態では、軟骨生検材料をコラゲナーゼAで処理する。軟骨の崩壊に適した他のプロテイナーゼとしては、アスパラギン酸プロテイナーゼ様カテプシンD、システインプロテイナーゼ様カテプシンB、L、S、KならびにカルパインIおよびII、セリンプロテアーゼ様好中球エラスターゼ、カテプシンGならびにプロテイナーゼ3およびメタロプロテイナーゼ様MMP1〜20からなる群より選択される酵素(単独またはトリプシンとの組合せのいずれか)が挙げられる。本発明による「処置」は、単離した組織をある量の酵素と、該組織が個々の細胞に消化されるのに充分な時間接触させることを含む。例示的な酵素の濃度および消化時間は、本明細書の実施例のセクションに記載しているが、択一的な処理は、当業者によって容易に特定され得る。本発明の特別な一実施形態において、コラゲナーゼAは、0.1〜0.3%の範囲で8〜16時間、より特別には12時間使用される。
【0057】
あるいはまた、軟骨生検材料は、個々の細胞の集団を得るのに、機械的手段によって、例えば、Pooleら(1988)J.Orthop.Res 6,408−419に記載のような低速の機械的均質化などによって処理され得る。
【0058】
本発明による富化手順では、軟骨生検材料から得た個々の細胞(「新鮮単離軟骨細胞」)を、該細胞中に存在する「付着」集団と「非付着性」集団に分離させるために、「培養受容器」内に導入する。本発明による使用に好適な培養受容器は、マトリックス依存性細胞培養物の培養に使用される標準的な培養フラスコである(例えば、限定されないが、Falcon(登録商標)フラスコ(Becton Dickinson製)、TPPフラスコ(Techno Plastic Products製)、Greiner組織培養処置済みフラスコなど)。最も典型的には、このような培養フラスコは、表面処理が施された内側表面またはフラスコ基部を含むものである。種々の形状および大きさの培養フラスコが使用され得、これらの態様は、本発明との関連において不可欠ではない。唯一の限定は、フラスコが密封されていること、すなわち、付着細胞と非付着性細胞の物理的分離および培地からの非付着性細胞の回収が許容されるように、培養培地を付着細胞集団の上部で、成熟軟骨細胞集団が底表面に付着するのに必要な時間維持することが可能なことである。特別な一実施形態によれば、本発明の富化方法のこの工程に使用される培養培地お
よび条件は、軟骨細胞のための標準的な培養培地である。当該技術で軟骨細胞の拡大培養に使用される培地は、典型的には、DMEM、HAMS/F12または他の細胞培養培地を含み、任意選択で5〜15%の血清が補給されたものである。あるいはまた、軟骨細胞培養に適した無血清培地が使用され得る。このような培地は、ビタミン類、増殖因子、ホルモン、糖類などのカクテルを含むものであり得る。特別な一実施形態によれば、血清および抗生物質を含むDMEM培地が使用される。細胞培養は、5%COで37℃にて標準的に行なわれるが、この条件を若干変更しても本発明による培養受容器表面への細胞集団の付着性には有意に影響しないことか予測される。本発明の特別な一実施形態によれば、非付着性細胞集団を含む培養フラスコ内の上清みは培養フラスコ内に、限定的な期間維持され、例えば、播種の約2〜5日後に回収されるか、または付着細胞が少なくとも約20%、より特別には約30%の密度に達するまで維持される。しかしながら、これは、フラスコの大きさおよび最初に導入された細胞の数によって決定される。付着細胞の培養物が培養フラスコ内で、一次拡大培養において約2週間以内に密度に達するためには、典型的には、5,000〜20,000個の新鮮単離軟骨細胞を175cmのフラスコ内に導入する。軟骨細胞の培養手法は当業者によく知られている。
【0059】
本発明の調節細胞集団は、非付着性であること、すなわち、培養フラスコに軟骨生検材料から得た細胞を播種して約2〜5日後、または軟骨生検材料由来の付着細胞が約30%の密度に達したとき、培養フラスコ表面に付着しないことを特徴とする。本発明によれば、調節集団は、新鮮単離軟骨細胞集団の一次拡大培養において、付着細胞と非付着性細胞を分離することにより得られ得る。軟骨生検材料から得た細胞集団中に存在する天然の細胞周囲膜のない典型的な成熟軟骨細胞は、1週間の期間内に(前処理済み)培養受容器の表面に付着する。この細胞結合プロセスは、脱分化および結合プロセスに長期間耐えることを特徴とする細胞集団である調節細胞集団の富化方法の基本原理となる。本発明の富化プロセスにおける調節細胞集団の回収の時点は、2日未満または播種の5日より後であり得るが、これは、上清みがそれぞれ、培養受容器表面にまだ付着していないか、または培養受容器表面にもはや付着しないかのいずれかである成熟軟骨細胞画分をより多く含有する傾向にあるため、富化プロセスの効率に影響を及ぼすことは理解されよう。
【0060】
本発明の富化手順では、非付着性細胞集団を付着細胞集団から物理的に取り出す。本発明の一実施形態によれば、非付着性細胞集団は、上清みとともに培養受容器から回収される。より詳しくは、培養受容器からの非付着性細胞集団の回収は、弱付着性細胞を脱離させるために弱い機械力を負荷する(例えば、フラスコを軽くタッピングする)工程、および培養上清みを回収する工程を含む。細胞はこの上清みから、標準的な手法によって、例えば限定されないが、遠心分離(例えば、1500rpmで10分間)などによって回収され得る。択一的な方法としては、濾過などの他の分離方法が挙げられる。
【0061】
典型的には、本発明の富化手順により、その集団中に存在する調節細胞の割合は、新鮮単離生検材料中に存在する調節細胞の割合と比べて、少なくとも10%、より特別には少なくとも20%、最も特別には少なくとも30%増加する。典型的には、軟骨細胞生検材料には、5〜20%の調節細胞が含まれることがわかった。生検材料から回収直後の細胞の性状は、確立することが困難なこともあり得るが、これは、成熟軟骨細胞が培養フラスコ表面への付着を開始した後でも測定され得る。特別な実施形態によれば、本発明の富化調節細胞集団には、少なくとも30%、より特別には少なくとも40%、最も特別には50%〜95%の調節性の非付着性細胞が含まれる。
【0062】
さらなる一実施形態によれば、付着細胞集団と非付着性細胞集団は、形態学的および/または生理学的特色に基づいて分離される。したがって、本発明の調節細胞集団は、球形の細胞形態構造、および細胞周囲マトリックス(これは、Graffら(2003、上記)に「コンドロン」に関して記載された細胞周囲マトリックスとは反対に、天然の細胞周
囲マトリックスではないが、培養状態の細胞によって回復されたものである)を特徴とする。本発明の調節細胞集団は、さらに、II型コラーゲンおよびアグレカンの発現を特徴とする。したがって、本発明の調節集団を単離するための択一的な方法としては、上記のようにして軟骨生検材料を処理して個々の細胞を提供した後、分離手法によって古典的な軟骨細胞と調節細胞集団を分離する(例えば、FACS解析または他の細胞分離手法)方法が挙げられる。
【0063】
本発明では、富化調節細胞集団を上記の生検材料から得るための方法を提供するが、このような生検材料から得た新鮮単離細胞が本発明の調節細胞集団を含み、そのまま使用され得ることにも注意されたい。したがって本発明では、新鮮単離細胞を、富化のための調節細胞の供給源として使用すること、または後述する本発明の調節細胞の種々の適用における直接使用することの両方が想定される。
【0064】
したがって、本発明の一実施形態によれば、調節細胞集団は、本明細書に記載の種々の適用において、新鮮単離細胞集団中に存在したまま使用される。新鮮単離細胞集団は、直接、すなわち、軟骨組織からの単離から24時間以内に標準的な培養条件下で使用され得る。さらに、新鮮単離細胞集団中に存在する調節細胞集団の調節性の特色は、一定の培養条件下では(例えば、該細胞をインキュベータにおいて、高密度で超低結合プレート(例えば、Corningから入手可能)内に維持するなど)、インビトロで長期間維持され得ることが確証された。あるいはまた、新鮮単離細胞集団は、後の使用のために単離から24時間以内に凍結される。細胞集団の凍結および解凍方法は、当該技術分野で知られている。
【0065】
一実施形態によれば、軟骨生検材料から得た新鮮単離細胞は2つの画分に分割され、その一方は、細胞数を増加させるためにさらに拡大培養され(古典的な軟骨細胞拡大培養手法を用いて)、他方は、最初の画分の拡大培養が終了するまで凍結される。その後、新鮮単離細胞の解凍画分は、軟骨細胞の拡大培養画分および継代培養画分と合わされ、得られる混合細胞集団が、本発明による表現型安定性が増大した細胞療法剤として使用され得る。
【0066】
本発明の別の実施形態によれば、調節細胞集団は、本明細書に記載の種々の適用において、本明細書に記載の方法によって得られ得る富化調節細胞集団として使用される。この場合も、富化調節細胞集団は、直接使用されるか、または後の使用のために凍結されるかのいずれかであり得る。
【0067】
したがって、本発明のさらなる態様は、本発明の調節細胞集団の種々の適用を提供する。
【0068】
本発明の一態様は、a)「富化」または「非富化」(すなわち、新鮮単離軟骨細胞集団中に存在したまま)のいずれかの形態の本発明の調節細胞集団と、b)細胞療法ストラテジーにおける使用のための成熟細胞、先祖細胞、前駆細胞および/または脱分化軟骨新生集団の組合せを提供する。
【0069】
本発明の特別な一実施形態によれば、本発明の組合せ集団における使用のための調節細胞集団および軟骨新生集団は、同じ生検材料試料から得たものである。第1の実施形態によれば、この生検材料試料から得た新鮮単離細胞の第1の画分は、直接または一次拡大培養の24時間以内のいずれかで凍結され、一方、第2の画分は、拡大培養軟骨細胞の集団(成熟軟骨細胞集団)を得るために拡大培養される。あるいはまた、調節細胞集団および軟骨細胞集団はともに、新鮮単離軟骨細胞試料の同じ一次拡大培養物に由来するものであり、ここで、調節細胞は、軟骨細胞の一次拡大培養中に非付着性細胞画分から得た細胞集
団に相当し、成熟軟骨細胞集団は、同じ軟骨細胞の一次拡大培養時の付着細胞集団の1回以上の軟骨細胞継代培養物に相当する。しかしながら、択一的に、異なる軟骨生検材料または第1と第2の画分に分割された軟骨試料(ここで、調節細胞集団は第1の画分から最適に単離されたものであり、軟骨細胞集団は第2の画分から最適に単離されたものである)に由来する調節集団および軟骨細胞または軟骨新生集団が組合されることが想定される。
【0070】
本発明によれば、新鮮単離細胞集団中に存在したまま、または新鮮単離軟骨細胞集団の最初の拡大培養期間中に得た非付着性細胞集団は、インビトロおよびインビボ両方における軟骨生成に特に重要な調節特性を有する。したがって、本発明のさらなる態様は、軟骨生成および軟骨修復の種々の態様における該特定された調節細胞集団の使用に関する。
【0071】
本発明の調節細胞集団の種々の使用は、第2の細胞集団と混合されると、該第2の細胞集団の軟骨細胞表現型安定性をモジュレートするその能力に基づいている。細胞集団の軟骨細胞表現型安定性は、該集団をWO0124833に記載のヌードマウスモデルに移植することによりアッセイされ得る。典型的には、初期継代培養物の約5×10軟骨新生細胞集団は、2〜3週間以内に成熟軟骨移植片を生成する能力を有する。WO0124833に示されているように、かかる移植の結果を予測するために分子マーカーが使用され得、したがって、このような分子マーカーは、細胞集団の軟骨細胞表現型安定性を示す。典型的には、1種類以上の陽性マーカー(例えば、BMP−2および/またはFGFR−3など)の存在および1種類以上の陰性マーカー(例えば、ALK−1など)の非存在が、軟骨細胞表現型安定性の集団の特定に使用され得る。
【0072】
一態様によれば、本発明は、軟骨新生集団の軟骨細胞表現型安定性を維持、改善および/または修復するための方法が提供される。本発明の方法では、調節細胞集団を軟骨新生細胞集団と組合せまたは混合する。本発明との関連において想定される軟骨新生細胞集団は、新鮮単離軟骨細胞、拡大培養および継代培養された軟骨細胞、間葉幹細胞(MSC)または骨軟骨系統になるように拘束された前駆細胞から選択される集団の1種または混合物であり得る。本発明の方法では、調節細胞集団の細胞を軟骨新生細胞集団と組合せるが、このとき、調節細胞の相対量は、一般的に、混合物中の細胞の総量の1〜75%の範囲内、より特別には10〜50%の範囲内である。本発明によれば、調節細胞集団は軟骨新生集団と、混合物の状態(細胞懸濁液を静かに混合して2種類の細胞集団の完全な混合を確保する)、または軟骨形成細胞のクラスターを示すいわゆるコンドロスフィア(chondrosphere)の形態のいずれかで組合され得る。
【0073】
したがって、本発明は、新鮮単離軟骨細胞、拡大培養および継代培養された軟骨細胞、間葉幹細胞または骨軟骨系統になるように拘束された前駆細胞の軟骨細胞表現型安定性を改善、修復および維持するための方法を提供する。より詳しくは、本発明は、培養軟骨細胞の軟骨細胞表現型安定性を改善、修復および維持するための方法であって、該培養が、その後6〜10回またはそれ以上の継代培養を含み得る方法を提供する。
【0074】
したがって、本発明の方法では任意選択で、組成物において、調節細胞集団(新鮮単離細胞集団中または富化集団としてのいずれかで)が軟骨新生細胞集団と組合される。典型的には、得られる組合せ細胞集団を移植に使用する場合、両方の細胞集団が自己由来である。あるいはまた、例えば、自己細胞(または同種異系細胞でさえ)調節細胞集団と組合された異種軟骨細胞または異種MSCの使用もまた想定される。
【0075】
本発明の特別な一態様は、軟骨生検材料から軟骨細胞表現型安定性が改善された細胞集団を得るための方法に関する。本発明の方法によって想定される改善は種々の様式であり得るが、効率的なインビトロおよびインビボでの軟骨生成および/または軟骨欠損再構成
がもたらされるものである。標準的な単層培養物から得た軟骨細胞集団を本発明の調節細胞集団と接触させると、得られる細胞集団の軟骨細胞表現型安定性に、両細胞集団の相加効果を超える有意な改善がもたらされることが確証された。この軟骨細胞表現型安定性に対する正の効果は、1回目または2回目の継代培養物の軟骨細胞集団だけでなく、脱分化の徴候を示すことが知られている多数回の継代培養を受けた細胞でも観察された。したがって、本発明のこの態様によれば、例えばACT用などの改善された軟骨新生集団を得るための方法が提供される。このような方法は、軟骨生検材料から標準的な培養法によって得られる成熟軟骨細胞集団である第1の集団と、上記のようにして得られ得る調節細胞集団である第2の集団の2種類の細胞集団の組合せを基本とする。両方の集団は、独立して処理され、任意の段階で組合せられ得る。軟骨細胞集団に対する調節細胞集団の調節効果により、最終の細胞療法剤の軟骨細胞表現型安定性に影響を及ぼすことなく、成熟軟骨細胞集団を有意に増やすことが可能になる。
【0076】
典型的には、本発明による細胞集団を組合せることにより作製される軟骨細胞の「バッチ」毎の質を確保するため、品質管理が行なわれる。これは、インビボ(例えば、ヌードマウスアッセイ)もしくはインビトロいずれかでの軟骨細胞表現型安定性の直接評価であり得るか、または有効なマーカープロフィール(すなわち、軟骨細胞表現型安定性と関連していることが実証されたマーカーの同定(WO0124833参照))に基づくものであり得る。本発明によれば、調節細胞集団と軟骨新生集団、例えば、古典的な成熟軟骨細胞集団(多数回継代培養されたものさえ)との組合せにより、得られる組合せ集団の軟骨細胞表現型安定性の増大がもたらされ、それにより、質の評価に基づく不合格率が最小限に抑えられる。したがって、本発明のこの態様によれば、改善されたACT用製品を得るための方法が提供され、該方法は、多数の(例えば、P4軟骨細胞で>1000万個の細胞)の移植用軟骨新生細胞をもたらすだけでなく、移植に使用される細胞集団の軟骨細胞表現型安定性が確保される。
【0077】
本発明のさらなる特別な一実施形態は、軟骨細胞表現型安定性が低下または低減した細胞集団の軟骨細胞表現型安定性を回復させるための、調節細胞集団(新鮮単離軟骨集団中に存在するまま、または富化調節細胞集団としてのいずれか)の使用に関する。外植片組織(例えば、軟骨生検材料)から直接得た一次細胞は、天然軟骨に特徴的な細胞外マトリックス成分、具体的にはII型コラーゲンおよび硫酸化プロテオグリカンを産生して分泌する能力を維持しているが、単層でインビトロ拡大培養中、成熟軟骨細胞は脱分化し、インビボでの硝子軟骨形成能を失うことは、よく知られている。本発明の調節細胞集団は、安定な表現型が失われた細胞の軟骨細胞表現型安定性の改善または修復能を有し、さらに多数回継代培養される。さらにあるいはまた、本発明の調節細胞集団は、疾患(例えば、変形性関節症の軟骨)または他の症状の結果、軟骨細胞表現型安定性をもたないか、または該安定性が低下した軟骨細胞の軟骨細胞表現型安定性の改善または修復能を有する。かかる細胞集団を本発明による調節細胞集団と組合せると、得られる集団の軟骨細胞表現型安定性が修復される。これは、自己修復ストラテジー(例えば、ACTなど)または同種異系修復ストラテジーのための細胞の供給源として使用され得る組織に対する制限が軽減されるため、例えば、移植目的に重要である。
【0078】
本発明のまたさらなる特別な一実施形態は、軟骨細胞の前駆細胞を軟骨形成軟骨細胞へと指向させるための調節細胞集団の使用に関する。より詳しくは、本発明との関連において、前駆細胞(間葉幹細胞(MSC)など)または軟骨細胞の前駆細胞(WO0125402に記載のCDMP−1陽性前駆細胞など)が想定される。実際に本明細書において、本発明の調節細胞集団と組合せると、幹細胞、より特別にはMSCまたは骨軟骨系統の前駆細胞は、軟骨生成表現型に指向されることが実証された。間葉幹細胞(MSC)は、種々の間葉系統、例えば、脂肪および結合組織、骨および軟骨への分化能を有する。MSCは、ヒト産児骨髄(BM)、ヒト成人の抹消血、骨膜、筋肉、脂肪組織および結合組織に
おいて同定されている。また、いくつかの胎児組織もMSCを含むことが示されている(例えば、ヒト妊娠第一期の胎児のBM(骨髄)、肝臓および血液ならびに第二期のBM、肝臓、肺、脾臓、膵臓および腎臓など)。臨床的使用には、ヒト成人BMが、これまでで最も一般的なMSCの供給源である。本発明の調節細胞集団が多能性MSCを軟骨細胞系統に確実に分化させる能力、より特別には軟骨様発現パターンを誘導する能力により、軟骨の効率的な生成および/または再生のためのMSCの使用が可能になる。さらに、間葉幹細胞は、ヒトにおいて免疫系をモジュレートし、同種異系拒絶の程度を低下させる自己複製集団であるという重要な利点を有する。したがって、これは、損傷組織の修復または置換のためにHLA不適合(同種異系)細胞を使用することが可能になるため、再生医療の分野において重要な可能性を有する。したがって、本発明は、本発明の調節細胞集団を自己または同種異系のMSCと組合せることを含む、細胞集団を調製するための方法を提供する。
【0079】
軟骨細胞集団または軟骨細胞の前駆細胞の集団の軟骨細胞表現型安定性を改善、誘導または修復するための上記の方法は、種々の様式で行なわれ得ることは理解されよう。特別な一実施形態では、本発明の細胞調節細胞集団を他方の細胞集団と、患者への投与前に接触させる。一実施形態において、これらの細胞集団は、投与の1〜30分前に接触させるが、接触時間は1時間まで、またはそれ以上が想定される。任意選択で、これらの細胞集団は、細胞懸濁液として接触させる。あるいはまた、これらの細胞集団は、移植用のマトリックス上に一緒に提供される。
【0080】
本発明のさらなる一態様は、本発明の調節細胞を任意選択で1種類以上の軟骨新生細胞集団と組合せて用いる、軟骨のインビトロ生成に関する。
【0081】
実際、軟骨修復の状況において、これは、後で軟骨欠損部に移植され得るエキソビボ軟骨材料を形成するのに重要であり得る。かかる合成軟骨材料は、その生成が移植前に、形態学的、生化学的および分子的キャラクタライゼーションによってモニターされ得るという利点を有する。本発明の調節細胞集団は単独、または軟骨新生細胞集団(新鮮単離軟骨細胞、拡大培養および任意選択的に継代培養された軟骨細胞、MSCから選択)との組合せ状態のいずれかで、足場依存性または足場非依存性いずれかの培養系における軟骨新生細胞の拡大培養に使用され得る。後者では、調節細胞集団の細胞は、任意選択で、例えば、軟骨細胞と組合せて、アガロースゲル内でコロニーとして培養され得る。あるいはまた、別の足場非依存性の方法では、調節細胞集団は、任意選択で例えば軟骨細胞と組合せて、浮遊培養液中でコロニーとして培養され得る。足場依存性の方法では、本発明の調節細胞集団は、例えば、一次組織から単離して2次元または3次元マトリックスにおいて単層として培養し、軟骨形成結節を生成させた軟骨新生細胞集団と組合せる。
【0082】
さらなる一態様において、本発明は、医薬としての使用のための調節細胞集団、ならびに調節細胞集団をその必要がある患者に投与することを含む処置方法を提供する。より詳しくは、調節細胞集団は、骨軟骨欠損の処置のための治療的価値があることが想定され、ここで、調節細胞は、軟骨生成が必要とされる欠損部に直接投与される。典型的には、本発明の調節細胞は、軟骨細胞を含む帯域に投与され、最も典型的には、疾患または機械的欠損の結果、もはや充分な量の安定な硝子軟骨を生成する能力を有しない軟骨細胞を含む帯域に投与される。本発明のこの態様によれば、本発明の調節集団による細胞集団の軟骨細胞表現型安定性の改善または回復は、軟骨欠損部内への局所移植後、インサイチュで起こる。この場合も、本発明の細胞は、細胞懸濁液として投与され得るか、またはマトリックスなどの固相支持体上に提供され得る。
【0083】
別の態様によれば、本発明は、調節細胞(新鮮単離細胞集団中または「富化形態」のいずれか)の1種類以上の集団と、新鮮単離軟骨細胞、継代培養成熟軟骨細胞、間葉幹細胞
または先祖細胞(骨軟骨細胞系統になるように拘束されたもの)からなる群より選択される1種類以上の軟骨新生細胞集団との組成物、すなわち、混合物または組合せを提供する。上記のように、本発明の調節細胞と組合せて使用される軟骨新生細胞は、安定な軟骨細胞表現型または不安定な表現型のいずれかを特徴とするものであり得る。このような混合物または組合せは、医薬として使用され得る。本発明は、さらに、本発明の混合物および組合せを含む医薬組成物を提供する。
【0084】
したがって、本発明は、本発明の組合せまたは混合物を投与することによる軟骨欠損部の処置方法、および軟骨欠損部の処置のための医薬の製造における本発明の組合せまたは混合物の対応する使用を提供する。
【0085】
単独または別の細胞集団との組合せもしくは混合物での本発明の調節細胞の投与を伴う処置方法としては、限定されないが、膝などの関節の関節軟骨および半月板軟骨の処置方法、弾性軟骨、線維軟骨または身体内の他の位置の関節軟骨の他の処置(例えば、椎間板の修復、変形性関節症または関節リウマチの処置)が挙げられる。典型的には、軟骨欠損部の処置に使用される場合、本発明の細胞集団または組合せは、縫合骨膜弁下に軟骨欠損部を覆うように注射される。あるいはまた、本発明の細胞集団または組合せは、合成担体マトリックスに含浸させて使用されるか、または天然の生体高分子上に播種し、次いで軟骨欠損部に移植される。これまでに、さまざまな生体材料が使用されており、3次元コラーゲンゲル(例えば、米国特許第4,846,835号)、再構成フィブリン−トロンビンゲル(例えば、米国特許第4,642,120号;同第5,053,050号および同第4,904,259号)、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリグリコール酸を含有する合成ポリマーマトリックスおよびそのコポリマー(米国特許第5,041,138号)、ならびにヒアルロン酸系ポリマーが挙げられる。
【0086】
1種類以上の細胞集団に加えて、本発明との関連において記載の医薬組成物には通常、少なくとも、当業者によく知られ、かつ例えば、タンパク質(コラーゲンまたはゼラチンなど)、炭水化物(デンプン、多糖類、糖類(デキストロース、グルコースおよびスクロース)など)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウムもしくはカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、アルファー化デンプン、ペクチン、寒天、カラギーナン、クレイ、親水性ガム(アカシアガム、グアールガム、アラビアガムおよびキサンタンガム)、アルギン酸、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、コラーゲン、ポリグリコール酸およびポリ乳酸、デキストラン、ペクチン、合成ポリマー(水溶性アクリル系ポリマーまたはポリビニルピロリドンなど)、プロテオグリカン、リン酸カルシウムなどから選択される医薬的に許容され得る担体が含まれる。
【0087】
さらにあるいはまた、本発明の調節細胞集団または組合せ集団を含む医薬組成物には、さらに、走化性因子または分化因子などの因子が含まれる。
【0088】
以下の実施例は、本発明を記載の具体的な実施形態に限定することを意図するものではなく、参照により本明細書に組み込まれる添付の図面を合わせると理解され得る。
【0089】
実施例
実施例1:調節細胞の単離およびキャラクタライゼーション
軟骨/半月板の生検材料を、無血清DMEM培地および抗生物質中で細分化した。続いて、0.1%コラゲナーゼAを無血清DMEM培地および抗生物質中に含む溶液を組織に添加した。酵素反応はチューブ内で、インキュベータのローター内にて37℃でほぼ12時間行ない、単一細胞または細胞クラスターを生検材料から解離させた。細胞を遠心分離によって回収し、続いて、血清および抗生物質を含むDMEM培地中に移した。細胞培養
は、5%COで37℃にて行なった。
【0090】
細胞培養開始の4日後、培地を以下の通りに交換した。培養上清みを回収し、新鮮培地を付着軟骨細胞画分に添加した。緩く結合し、および非付着性の細胞を細胞上清みから、1500rpmで10分間の遠心分離によって回収した。次いで、これらの表現型安定性の細胞を、凍結するか、培養フラスコもしくは特異的処理プレート内に維持するか、または種々の実験手順/臨床適用に直接使用するか(後述のようにして)のいずれかとした。
【0091】
ヒトでは、球形の形態構造を有するこの調節細胞集団は、年齢または疾患とは無関係に、種々の組織供給源(例えば、軟骨および半月板)の消化軟骨生検材料中に存在することがわかった。関節軟骨消化物中では、調節細胞を有する軟骨細胞の亜集団が、播種した細胞の量の8〜20%の濃度で存在することがわかった(表1)。半月板の生検材料中では、非付着性細胞集団は、細胞総数の約5〜20%で存在することがわかった。
【0092】
【表1】

【0093】
非付着性細胞集団の免疫組織学的解析を行なうと、非付着性細胞の少なくとも一部は、VI型コラーゲンからなる細胞周囲マトリックスを有することが確証された。フローサイトメトリー解析により、CD29、CD49e、CD51、CD54およびCD56の発現が示された。
【0094】
調節細胞集団は、軟骨表現型安定性と相関するマーカーの別格な発現プロフィールを示した。
【0095】
一般的に、関節軟骨細胞は、単層で培養すると、その特徴的な表現型を失う。多角形または線維芽細胞性ですらある形態構造への変化は、軟骨特異的細胞外マトリックス遺伝子の発現の劇的な低減を伴う。非付着性の調節細胞集団は、一次拡大培養期間中、その球形の形態構造を維持するだけでなく、このような細胞は、付着性P0成熟軟骨細胞と比べて、表現型安定性の軟骨のマーカーの改善された発現プロフィールも有する(一次拡大培養の最後に解析)(図1)。新鮮単離軟骨細胞(F1)中の調節細胞の存在により、付着性P0成熟軟骨細胞と比べて、表現型安定性の軟骨のマーカーの発現プロフィールの改善は確実であるが、このようなマーカーの発現は、富化調節細胞集団よりも低い(図1)。
【0096】
すべての解析により、軟骨を採取した患者の年齢とは無関係に、本明細書に記載の調節細胞集団は、P0由来軟骨細胞と比べ、または新鮮単離(F1)軟骨細胞と比べたときでさえ、高QCスコアを提示することが示された。
【0097】
1例の試料(重症なOAを有する81歳のドナー)を除くすべてにおいて、II型コラーゲン発現比率は、新鮮単離細胞よりも高く(データ示さず)、P0付着成熟軟骨細胞よりも明らかに上であった(図2A)。アグレカンの発現比率は、P0付着成熟軟骨細胞(図2B)および新鮮単離軟骨細胞(データ示さず)よりも有意に上であった。BMP−2発現比率は、P0付着成熟軟骨細胞と比べると高い(図2C)が、新鮮単離細胞よりは低い(データ示さず)ことがわかった。
【0098】
実施例2:本発明の調節細胞の軟骨形成能
約200,000細胞の非付着性の調節細胞集団(生検材料CS225)を、15ml容コニカルチューブ内で1500rpmにて遠心分離し、軟骨新生誘導条件下でペレット状で培養した。この培地の組成は、以下のとおり:1:100抗生物質、1:100ピルビン酸ナトリウム、1:100 ITS+[BD Biosciences]、10−7Mデキサメタゾンおよび1:1000 37.5mg/mlアスコルビン酸を含有するDMEMである。次いで、チューブの蓋を、わずかに緩め、細胞培養を5%COで37℃にて行なう。細胞培養期間は2週間とし、培地を2〜3日毎に交換する。また、TGF−βを一部のペレットに添加した。2週間後、ペレットを組織検査に使用するか、またはリアルタイム定量的PCR用にRNAを抽出するかのいずれかとした。
【0099】
TGFβ刺激により、別格な質の機械的安定性を有する軟骨性組織がもたらされた(トルイジンブルーおよびサフラニンOを用いたパラフィン包埋軟骨切片の細胞外マトリックスのメタクロマチック染色によって示される)(図3)。
【0100】
これらのデータは、本発明の調節細胞集団それ自体が、質の高い軟骨生成能を有する表現型安定性の軟骨細胞集団であることを示す。
【0101】
実施例3:成熟軟骨細胞の軟骨細胞表現型安定性を改善する調節細胞集団の能力
混合ペレット培養を、調節細胞と成熟軟骨細胞の組合せを使用すること以外は実施例2で上記の手順と同様にして行なった。
【0102】
反復継代培養軟骨細胞のTGFβ刺激混合ペレット培養物および種々の量(10%、20%、30%)の本発明の調節細胞集団(NAC)は、2週間後に観察すると、ペレットの大きさの増大(図4A)およびサフラニンOに対するメタクロマチック染色(図4B)からわかるように、脱分化軟骨細胞単独と比べて強い軟骨形成能を示した。
【0103】
本発明の調節細胞集団と70%のP6軟骨細胞の組合せでは、質の高い細胞外マトリックスを誘導した。P0軟骨細胞とP6軟骨細胞の組合せを用いた混合ペレット培養物と比べると、調節軟骨細胞を含む混合ペレット培養物では、II型コラーゲンおよびアグレカンの発現の有意な増大が観察された(図5)。
【0104】
また、軟骨形成能の改善は、コラーゲンのII型:I型の比の有意な増加に反映された(図6)。II型コラーゲンの発現比率の増大の次に、I型コラーゲンの発現に減少が観察された(図6、中央および右のバー)。対照的に、脱分化P4軟骨細胞のみのペレット培養物では、機械的安定性を有する軟骨は形成されず、3D培養物において示されたII型コラーゲンの発現比率を回復させる能力は限定的にすぎなかった(図6、左)。
【0105】
実施例4:ヌードマウスの筋組織における表現型安定性を有する軟骨の生成
本発明の調節細胞集団の再分化能は、ヌードマウスにおいて筋肉内注射後の異所性軟骨形成によって示された。この方法では、約300万〜400万個の細胞をHBSS培地と混合し、50マイクロリットルの容量でヌードマウスの大腿に注射する。2〜3週間後に動物を致死させ、大腿の筋肉をホルマリン固定し、ワックス内に包埋し、組織検査用に切片に切断した。
【0106】
90%のP6軟骨細胞および10%の付着性P0成熟軟骨細胞の組合せからなる400万個の細胞を注射すると、軟骨移植片は検出され得なかった。しかしながら、同数のP6軟骨細胞を10%の非付着性の調節細胞(CS225−調節細胞/CS214P6)との組合せで注射すると、大量の軟骨移植片が形成された。
【0107】
トルイジンブルーおよびサフラニンOでのメタクロマチック染色により、この硝子軟骨様移植片の質が優れていることが示された(図7)。
【0108】
実施例5:軟骨新生系統への間葉幹細胞の分化
間葉幹細胞を、上記のように種々の量の調節細胞と組合せてTGFβ刺激混合ペレット培養物の状態に維持するか、または上記のようにヌードマウスアッセイにおいてインビボで使用した。軟骨新生系統への分化は、70%の間葉幹細胞と30%の調節軟骨細胞の混合物を培養することにより劇的に改善された。軟骨ペレットの質を、II型コラーゲン対I型コラーゲンの発現を測定することにより評価した(図8B)。結果は、調節細胞が、II型コラーゲン発現を有意に高い程度まで高めることにより、軟骨への分化の促進において最も一般的に使用されている分化剤TGFβ単独よりも卓越していることを示す。
【0109】
実施例6:自己または同種異系の非造血幹細胞と自己または同種異系の表現型安定性の軟骨細胞からなる組合せ細胞製品によるOA関節の処置
実施例1に従って収集した自己または同種異系の非付着性細胞を、拡大培養成熟軟骨細胞、ヒト滑膜由来幹細胞、または別の供給源の自己非造血幹細胞と組合せる。非付着性の調節細胞と軟骨細胞先祖細胞との組合せにより、複合的治療活性を有する細胞製品がもたらされ、これにより、調節細胞は該幹細胞を軟骨新生系統に指向すると同時に、該幹細胞は炎症反応をモジュレートし得る。この組合せ細胞製品は、軟骨の再生能および炎症モジュレーション能を有し、例えば、関節リウマチの軟骨欠損の処置において特に重要である。
【0110】
実施例7:半月板軟骨からの調節細胞集団の単離およびキャラクタライゼーション
調節細胞集団を半月板軟骨試料から、実施例1に記載のようにして非付着性画分を回収することにより富化した。調節細胞集団の発現プロフィールを調べた。半月板軟骨から得た調節細胞集団は、半月板軟骨試料から得た付着性P0軟骨細胞の対応する集団と比べて、有意に高いII型コラーゲンの発現比率を特徴とする(図9)。新鮮単離半月板軟骨細胞によるII型コラーゲンの発現は低いことがわかった。対照的に、I型コラーゲンの発現比率は、半月板軟骨から得た富化調節細胞集団において低い。
【0111】
実施例8:半月板軟骨から得た調節細胞集団の線維形成能
ペレット培養物を、半月板軟骨から得た富化調節細胞集団を用いて実施例2に記載のようにして得た。半月板調節集団のTGFβ刺激ペレット培養物は、コラーゲン線維を形成することがわかった。これは、この細胞集団が、周囲組織との一体化能を有することを示す(図10、右上パネル)。半月板由来調節細胞集団と滑膜由来幹細胞の混合ペレット培養物を調製し、TGFβで刺激した。コラーゲン線維の存在は、種々の相対量の半月板調節細胞で観察された(図10、下側パネル)が、滑膜由来幹細胞単独のペレット培養物では、コラーゲン線維は形成されなかった(図10、上側左パネル)。半月板調節細胞のこの特性は、現状では利用可能な処置選択肢がない半月板の内部断裂の修復において特に重要である(下記参照)。
【0112】
実施例9:半月板軟骨由来の調節細胞集団を用いた半月板の欠損部の処置
調節細胞集団を、半月板軟骨試料から実施例1に記載の手順を用いて富化し、細胞数を計数する。次いで、半月板由来調節細胞集団を拡大培養したヒト滑膜由来幹細胞と混合し、任意選択で骨格内に供給し、半月板の欠損部(半月板の無血管領域内でさえ)の処置に使用する。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は、種々の個体の生検材料の新鮮単離軟骨細胞(F1)、単層の拡大培養軟骨細胞(P0)および本発明の調節細胞集団(NAC)のマーカープロフィール(QSスコア)を示す。QSスコアは、RT−PCRによる異なる遺伝子の発現レベルの定量的評価によって規定される。高スコアは、軟骨細胞表現型安定性の増大と相関している。
【図2】図2は、新鮮単離軟骨細胞と比べたときの、種々の個体の生検材料の単層の拡大培養軟骨細胞(P0)および非付着性の本発明の調節細胞集団(NAC)におけるいくつかのマーカーの発現の変化を示す。表示したマーカーはII型コラーゲン(パネルA)、アグレカン(パネルB)およびBMP−2(パネルC)である。
【図3】図3は、調節細胞集団によるインビトロ軟骨形成を示す。
【図4】図4は、種々の量の本発明の調節細胞集団と混合された軟骨細胞の混合ペレット培養物のインビトロ軟骨形成を示す(パネルA)。パネルAは、10、20または30%の(富化された)非付着性の調節細胞集団(NAC)を含む脱分化軟骨細胞試料のペレット形成を示し、その大きさと機械的安定性が、本発明の調節細胞の量の増大とともに有意に増加することを示す。パネルBは、陽性サフラニンO染色によって示される、50%の本発明の調節軟骨細胞と混合されたP4軟骨細胞からなるTGFβ刺激細胞ペレットの効率的な細胞外マトリックス形成を示す。
【図5】図5は、同じ組成の非刺激ペレット培養物と比べたときの、30%の調節細胞集団(NAC)と混合されたP6軟骨細胞のTGFβ刺激ペレット培養物(左)および30%のP0軟骨細胞と混合されたP6軟骨細胞(右)のII型コラーゲン(パネルA)およびアグレカン(パネルB)の発現プロフィールを示す。
【図6】図6は、P4軟骨細胞(左)、30%の調節細胞集団(NAC)とのP4軟骨細胞(中央)または50%の調節細胞集団(NAC)とのP4軟骨細胞(右)のTGFβ刺激ペレット培養物のコラーゲンのII型/I型の比を示す。
【図7】図7は、10%の調節細胞集団と混合された60歳高齢ドナーの脱分化P6軟骨細胞の異所性軟骨形成を示す。
【図8】図8は、TGFβ刺激条件および非刺激条件下での、種々の濃度の調節軟骨細胞と混合されたヒト滑膜(HSM)由来間葉幹細胞(MSC)および間葉幹細胞からなるペレット培養物のコラーゲンのII型/I型の比を示す(各試料における数値は、MSCと調節細胞集団の混合物中のMSCの割合を示す)。
【図9】図9は、本発明の一実施形態による、半月板軟骨から得た新鮮単離細胞集団、付着性のP0成熟軟骨細胞集団および調節細胞集団(NAC)のI型およびII型コラーゲンの発現プロフィールの比較を示す。
【図10】図10は、本発明の一実施形態による、滑膜由来幹細胞(HSM)と比較したときの半月板軟骨から得た調節細胞(NAC)のTGFβ処理ペレット培養物内での線維形成を示す。A:100%滑膜由来幹細胞を含むペレット;B:100%半月板調節細胞集団(NAC)を含むペレット;C:70%の半月板調節細胞(NAC)および30%の滑膜由来幹細胞を含むペレット;D:50%の半月板調節細胞(NAC)および50%の間葉幹細胞(HSM)を含むペレット。
【図4A】

【図4B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)単離軟骨試料を機械的および/または酵素的に処理し、個々の細胞を得る工程、
b)(a)で得られた前記個々の細胞を細胞培養受容器に移し、軟骨細胞を単層で拡大培養する工程、
c)付着細胞集団と、非付着性細胞集団を含む上清みとが得られるように、充分な細胞培養条件において前記受容器を維持する工程、
d)少なくとも2日後および/または少なくとも約30%の密度のときに、前記受容器から、前記非付着性細胞集団を含む前記上清みを回収する工程、
e)前記上清みから、前記調節細胞集団に相当する前記非付着性細胞集団を回収する工程
を含む、単離軟骨試料から調節細胞集団を富化する(enriching)ための方法。
【請求項2】
前記軟骨試料が関節軟骨試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記軟骨試料が半月板軟骨試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)が、単離軟骨試料をコラゲナーゼAで処理することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
(a)(i)軟骨生検材料から得られ得る新鮮単離軟骨細胞集団または(ii)軟骨生検材料から得た新鮮単離軟骨細胞のP0培養物の上清みからの非付着性細胞の回収によって得られ得る富化調節細胞集団のいずれかである調節細胞を含む細胞集団
(b)継代培養軟骨細胞の細胞集団、間葉幹細胞集団、軟骨細胞の前駆細胞集団からなる群より選択される1種類以上の細胞集団
を含む、2種類以上の異なる細胞集団の組合せを含む、組成物。
【請求項6】
富化調節細胞集団を含む組成物であって、前記富化調節細胞の相対量が、該組成物中の細胞の総数の1〜75%の範囲内である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
調節細胞を含む前記集団が関節軟骨から得たものである、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
調節細胞を含む前記集団が半月板軟骨から得たものである、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の組合せを含む医薬組成物。
【請求項10】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の細胞の組合せを含む骨格(scaffold)。
【請求項11】
軟骨欠損の処置のための細胞療法剤の調製における、請求項5〜8のいずれか1項に記載の組合せの使用。
【請求項12】
軟骨欠損を有する患者に請求項5〜8のいずれか1項に記載の組合せを投与することを含む、軟骨欠損の処置方法。
【請求項13】
医薬としての使用のための、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によって得られ得る非付着性の非継代培養調節細胞集団。
【請求項14】
軟骨欠損を有する患者に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によって得られ得
る調節細胞集団を投与することを含む、軟骨欠損の処置方法。
【請求項15】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によって得られ得る非付着性の非継代培養調節細胞集団を含む医薬組成物。
【請求項16】
インビトロでの拡大培養軟骨細胞集団または継代培養軟骨細胞集団の軟骨細胞表現型安定性を改善、維持または修復するための非付着性の非継代培養調節細胞集団の使用。
【請求項17】
インビトロで間葉幹細胞を軟骨新生(chondrogenic)系統に分化させるための、非付着性調節細胞集団の使用。
【請求項18】
a)単離軟骨試料を機械的および/または酵素的に処理し、個々の細胞を得る工程、
b)(a)で得られた前記個々の細胞を細胞培養受容器に移し、軟骨細胞を単層で拡大培養する工程、
c)充分な細胞培養条件において前記受容器を維持し、それにより付着細胞集団と、非付着性細胞集団を含む上清みとを得る工程、
d)少なくとも2日後または前記受容器において少なくとも約30%の密度のときに、前記受容器から、前記非付着性細胞集団を含む前記上清みを回収する工程、
e)前記非付着性細胞を前記上清みから回収する工程、
f)工程(e)で得られた前記非付着性細胞集団を、富化調節細胞集団でない軟骨新生細胞集団と組合せる工程
を含む、ACT移植用の細胞集団の調製方法。
【請求項19】
前記軟骨新生細胞集団が前記単離軟骨試料から得た成熟軟骨細胞集団であり、さらに、
g)工程(c)で得られた前記付着細胞集団を拡大培養および継代培養する工程、
h)前記拡大培養および継代培養された付着細胞集団を回収する工程、
i)工程(f)において、工程(e)で得られた前記非付着性細胞集団を、工程(h)で得られた前記拡大培養および継代培養された付着細胞集団と組合せる工程
を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
工程(a)の前記酵素的処理がコラゲナーゼAを用いて行なわれる、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記単離軟骨試料が半月板軟骨試料である、請求項18〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記軟骨新生細胞集団が半月板軟骨生検材料由来のものである、請求項18〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記軟骨新生細胞集団が間葉幹細胞集団である、請求項18〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
さらに、
j)工程(f)または(i)で得られた前記組合せた集団を骨格上に播種する工程
を含む、請求項18または19に記載の方法。

【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−530334(P2009−530334A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500762(P2009−500762)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【国際出願番号】PCT/EP2007/002452
【国際公開番号】WO2007/107330
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(506046414)ティゲニクス・ナムローゼ・フエンノートシャップ (3)
【氏名又は名称原語表記】TIGENIX N.V.
【Fターム(参考)】