転がり軸受および転がり軸受装置
【課題】 軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油し、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制することができる転がり軸受および転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】 この転がり軸受装置は、内外輪1,2の軌道面1a,2a間に、保持器4に保持された複数の転動体3を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構Kuとを備えている。内輪1の外径面1cの端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部17を設け、給排油機構Kuから供給され軸受内で潤滑に供された潤滑油を、振切用鍔状部17に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとした。
【解決手段】 この転がり軸受装置は、内外輪1,2の軌道面1a,2a間に、保持器4に保持された複数の転動体3を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構Kuとを備えている。内輪1の外径面1cの端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部17を設け、給排油機構Kuから供給され軸受内で潤滑に供された潤滑油を、振切用鍔状部17に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、工作機械主軸を回転自在に支持する転がり軸受および転がり軸受装置に関し、立軸等でも使用可能とした転がり軸受および転がり軸受装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受の冷却と、軸受に対する潤滑油の給排油を行う機構を有する潤滑装置が提案されている(特許文献1)。この潤滑装置では、図17(A)に示すように、内輪端面に接する内輪間座50を設け、外輪端面に接する潤滑油導入部材51を設けている。内輪52のうち前記内輪端面から内輪軌道面に繋がる斜面に円周溝53を設けると共に、前記潤滑油導入部材51にノズル54を設け、このノズル54から前記円周溝53内に軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を吐出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−240946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記軸受を立軸に使用する場合、図17(B)に示すように、潤滑油が滞留する高さAよりも排油口の高さBの方が高い。このため、排油を十分に行えない。このとき、排油されない多量の潤滑油が軸受内に浸入する。すると、攪拌抵抗が増加し、軸受内部の温度が上昇して、高速運転が困難な場合がある。そのため、軸受内へ浸入した潤滑油の排油を円滑に行う必要がある。
【0005】
この発明の目的は、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油し、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制することができる転がり軸受および転がり軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の転がり軸受装置は、内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構とを備えた転がり軸受装置において、前記内輪の外径面の端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部を設け、前記給排油機構から供給され軸受内で潤滑に供された潤滑油を、前記振切用鍔状部に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとしたことを特徴とする。
前記「端部付近」とは、内輪の外径面のうち、保持器の端面よりも軸方向外側の部分を指す。
【0007】
前記軸受を例えば立軸で使用する場合、給排油機構から軸受内に潤滑油を導入することで内外輪を冷却する。軸受内に導入された潤滑油の一部は、軸受の潤滑に供された後、下部へ流れる。その後、前記潤滑油は、自重により環状の振切用鍔状部に衝突し、内輪回転による遠心力によりこの振切用鍔状部の径方向外方へ振り切って飛ばされる。このように、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油することができる。したがって、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速運転を可能とすることができる。
【0008】
前記内輪に軸方向に延びる軌道輪延長部を設けると共に、外輪に、前記軌道輪延長部に対向する間座を設け、これら軌道輪延長部と間座とにわたって給排油機構を設けても良い。
前記外輪のうち、振切用鍔状部の径方向外方に位置する外輪端面に、軸受内で潤滑に供された潤滑油を軸受外に排出する切欠部を設けても良い。軸受潤滑に必要な潤滑油が軸受内に供給された後、振切用鍔状部で径方向外方へ振り飛ばされる。この振り飛ばされた潤滑油が切欠部から軸受外に円滑に排出される。これにより潤滑油が滞留し難くなる。
【0009】
前記切欠部における外輪端面からの深さAと、前記振切用鍔状部の軸方向厚みBとの関係がA>Bの関係にあるものとしても良い。前記A>Bの関係とすることで、振切用鍔状部で径方向外方へ振り飛ばされた潤滑油が、外輪の内径面に衝突したり滞留することを抑えて切欠部にスムーズに導入され、軸受外に排出される。
前記切欠部の底面は、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成されていても良い。前記切欠部のある外輪端面のうち、外輪内径縁側の排出口を拡大することができ、これにより、振り飛ばされた潤滑油をより排出し易くできる。
【0010】
前記振切用鍔状部のうち、軸受内部側に臨む内側面は、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成されていても良い。この場合、軸受内で潤滑に供された潤滑油が振切用鍔状部に衝突した後、この振切用鍔状部の内側面の基端側から径方向外方に沿って流れ易くなる。したがって、潤滑油を軸受外により円滑に排油することができる。
【0011】
前記外輪のうち振切用鍔状部の径方向外方に位置する外輪端面と、この外輪端面に繋がる外輪内径面との角部に、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成された傾斜面を設けたものとしても良い。この場合、前記外輪端面と外輪内径面との角部付近に存する潤滑油が傾斜面に沿って流れ、潤滑油をより排出し易くできる。
【0012】
前記内輪の外径面の端部付近に円周溝を設け、この円周溝に、円周方向の1箇所に割り口を有する一つ割り形状の振切用鍔状部を装着したものとしても良い。この場合、振切用鍔状部を内輪の外径面に一体に設けたものより、内輪を簡単に加工することができる。これにより加工工数の低減を図れる。振切用鍔状部の円周方向の両端部を離間させ、この振切用鍔状部を拡径させた後、弾性を利用して前記円周溝に容易に装着することが可能となる。
前記振切用鍔状部は、前記割り口を形成する端面が、互いに平行でかつ割り口における振切用鍔状部の円周方向に対して傾斜したテーパ面であり、割り口の隙間が負隙間または零であるものとしても良い。この場合、内輪および振切用鍔状部が回転したとき、この振切用鍔状部の円周方向の両側の端面に生じ得る攪拌抵抗を、両端面が離間したものより小さくすることができる。
【0013】
前記振切用鍔状部は、内輪よりも線膨張係数の小さい材料から成るものとしても良い。高速運転時に、内輪および振切用鍔状部の温度が上昇し、振切用鍔状部が内輪よりも膨張する場合、振切用鍔状部が内輪に対して相対的に滑る。この振切用鍔状部の滑りが原因で、振切用鍔状部が発熱したり他部品と接触することが懸念される。この構成によると、振切用鍔状部の線膨張係数が内輪の線膨張係数よりも小さい材料を使用したため、高速運転時に振切用鍔状部が内輪よりも膨張しないようにできる。これにより、振切用鍔状部の滑りを防止し、振切用鍔状部の発熱や他部品との接触を防止することができる。
【0014】
軸受を複数個組合わせた場合に、いずれか一つの軸受内で潤滑に供された潤滑油が、隣接する軸受へ漏れることを防ぐ潤滑油漏れ防止機構を設けても良い。この場合、隣接する軸受において、潤滑油の攪拌抵抗による温度上昇を抑制することができる。
前記いずれかの転がり軸受装置が、工作機械主軸の支持に用いられるものであっても良い。
【0015】
この発明の転がり軸受は、内輪および外輪の軌道面間に転動体を介在させた転がり軸受において、前記内輪の外径面の端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部を設け、軸受内で潤滑に供された潤滑油を、前記振切用鍔状部に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとしたことを特徴とする。
この構成によると、潤滑油を軸受内に導入することで内外輪を冷却する。軸受内に導入された潤滑油の一部は、軸受の潤滑に供された後、環状の振切用鍔状部に衝突し、内輪回転による遠心力によりこの振切用鍔状部の径方向外方へ振り切って飛ばされる。このように、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油することができる。したがって、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速運転を可能とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の転がり軸受装置は、内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構とを備えた転がり軸受装置において、前記内輪の外径面の端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部を設け、前記給排油機構から供給され軸受内で潤滑に供された潤滑油を、前記振切用鍔状部に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとしたため、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油し、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制することができる。
【0017】
この発明の転がり軸受は、内輪および外輪の軌道面間に転動体を介在させた転がり軸受において、前記内輪の外径面の端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部を設け、軸受内で潤滑に供された潤滑油を、前記振切用鍔状部に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとしたため、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油し、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受装置の断面図である。
【図2】同転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図3】(A)は、同転がり軸受装置における潤滑油の流れを示す平面図、(B)は図3(A)の要部の正面図である。
【図4】同転がり軸受装置における潤滑油を流れを示す断面図である。
【図5】この発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態の転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態の転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態の転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図9】同転がり軸受装置の振切用鍔状部の平面図である。
【図10】(A)は、この発明のさらに他の実施形態の転がり軸受装置の振切用鍔状部の正面図、(B)は、同振切用鍔状部の平面図である。
【図11】この発明のさらに他の実施形態の転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図12】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置における間座の平面図である。
【図13】図12のA−A線端面図である。
【図14】同間座の断面図である。
【図15】この発明のさらに他の実施形態の転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図16】この発明のいずれかの実施形態に係る転がり軸受装置を、立型の工作機械主軸を支持する転がり軸受に適用した例を示す概略断面図である。
【図17】(A)は、従来例の転がり軸受の潤滑装置の給油側の断面図、(B)は同潤滑装置の排油側の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図4と共に説明する。図1に示すように、この実施形態に係る転がり軸受装置は、転がり軸受と、給排油機構Kuとを備えている。
図2に示すように、転がり軸受は、内外輪1,2である一対の軌道輪と、内外輪1,2の軌道面1a,2a間に介在する複数の転動体3と、これら転動体3を保持するリング状の保持器4とを有する。この転がり軸受はアンギュラ玉軸受からなり、転動体3として、鋼球やセラミックス球等からなる玉が適用される。
【0020】
図1に示すように、内輪1は、内輪本体部5と、軌道輪延長部6とを有する。内輪本体部5は、軸受としての必要な強度を満たし、且つ、所定の幅寸法に設けられる。前記所定の幅寸法とは、JIS、軸受カタログ等に規定される内輪の幅寸法である。内輪本体部5における外周面の中央部に軌道面1aが形成されている。前記外周面のうち軌道面1aに繋がる軸方向一方側に、軌道面側に向かうに従って大径となるように傾斜する断面形状に形成された斜面1bが形成され、前記外周面のうち軌道面1aに繋がる軸方向他方側に、平坦な外径面1cが形成されている。この内輪本体部5の内輪背面側に、軌道輪延長部6が軸方向一方に延びるように一体に設けられる。
外輪2の軌道面2aの軸方向両側に、外輪内径面2bと、カウンタボア2cとがそれぞれ形成されている。前記外輪内径面2bに保持器4が案内されるように構成されている。
【0021】
図1に示すように、給排油機構Kuは、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する機構である。この転がり軸受装置を例えば立軸で使用する場合、給排油機構Kuを転がり軸受の上部に配設する。外輪2に隣接して間座7を設け、この間座7の内周面を、軌道輪延長部6の外周面に対向させている。これら軌道輪延長部6と間座7とにわたって給排油機構Kuを設けている。
図3(A)に示すように、給排油機構Kuは、環状油路8と、給油口9と、排油口10とを有する。これらのうち環状油路8は、図1左側に示すように、軌道輪延長部6の外周面に設けられる断面凹形状の内輪側円周溝11と、間座7の内周面に設けられ、前記内輪側円周溝11に対して径方向に対向するように配設される間座側円周溝12とで成る。これら内輪側円周溝11と間座側円周溝12とで断面矩形孔状で環状に連なる環状油路8が形成される。
【0022】
図1左側に示すように、間座7のうち円周方向の一部に、潤滑油を軸受内に供給する前記給油口9が形成されている。この給油口9は、間座7の外周面から前記環状油路8に径方向に貫通する段付きの貫通孔状に形成されている。すなわち給油口9は、環状油路8の円周方向の一部に連通する連通孔9aと、この連通孔9aに繋がり前記外周面に開口する座繰り孔9bとで成る。座繰り孔9bは、連通孔9aに対し同心で同連通孔9aよりも大径に形成されている。給油口9から環状油路8に供給された潤滑油は、図3(A)に示すように、環状油路8内を、回転側の軌道輪である内輪1の回転方向L1と同一方向に進み、排油口10および後述する切欠部13から排出される。
【0023】
図3(A)に示すように、間座7のうち、前記給油口9とは位相の異なる円周方向の一部に、潤滑油を軸受外に排出する排油口10が形成されている。排油口10は、図1右側に示すように、間座7の外周面から環状油路8に径方向に貫通する貫通孔状に形成されている。図3(A)に示すように、給油口9に対し、排油口10の位相が所定の位相角度α(この例ではα=270度)となるように設けられている。
【0024】
図2に示すように、軌道輪延長部6および間座7には、給油口9から環状油路8に供給された潤滑油を、斜面1bを介して内輪軌道面1aに導くラビリンス14を設けている。図1に示すように、軌道輪延長部6のうち、内輪側円周溝11を成す断面凹形状の一方側肩部15は、内輪本体部5に一体に繋がっている。図2に示すように、間座7のうち環状油路8を成す断面凹形状の一方側肩部16の内周面と、同内周面に径方向すきまを介して対向する軌道輪延長部6の一方側肩部15の外周面とにより、ラビリンス14を形成している。このラビリンス14を形成したことで、軸受内への潤滑油の供給量を抑制し得る。
【0025】
図2に示すように、内輪1の外径面の端部付近には、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部17が設けられている。この例では、振切用鍔状部17は、内輪1に一体に設けられ、軸受外部側に臨む外側面が内輪端面に同一平面に設けられている。振切用鍔状部17のうち軸受内部側に臨む内側面17aは、前記外側面に平行に設けられている。前記ラビリンス14を経由して軸受内に供給された潤滑油を、振切用鍔状部17に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方に振り切るものとしている。
【0026】
固定側の軌道輪である外輪1には、軸受内で潤滑に供された潤滑油を軸受外に排出する切欠部13が設けられている。図3(B)は、図3(A)の要部の正面図(IIIB-IIIB端面図)である。図2および図3(B)に示すように、外輪2のうち、間座7が設けられる側とは軸方向逆側の外輪端面に、切欠部13が設けられている。つまり切欠部13は、外輪2のうち、振切用鍔状部17の径方向外方に位置する外輪端面に設けられている。この切欠部13を、図3(A)に示すように、内輪1の回転方向L1に沿う、給油口9と排油口10との間に配設している。この例では、切欠部13は、給油口9に対し90度の位相角度をもって配設され、且つ、排油口10に対し180度の位相角度をもって配設されている。
【0027】
図2に示すように、切欠部13における外輪端面からの深さAと、前記振切用鍔状部17の軸方向厚みBとがA>Bの関係を持つ。このA>Bの関係により振切用鍔状部17で振り切った潤滑油が排出され易い。また振切用鍔状部17の内側面に対向する保持器4の端面4aにおける、外輪端面からの距離Cは、前記深さAに対してC>Aの関係を持つ。このC>Aの関係により、保持器案内面4bと、切欠部13を成す外輪内周縁部とが干渉しないようになっている。
【0028】
図1に示すように、軌道輪延長部6および間座7には、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制するラビリンス機構18を設けている。このラビリンス機構18は、給油口9および排油口10に連通し、広部と狭部とが軸方向に連なるものとしている。広部は、内輪延長部6における他方側肩部19の外周面に設けられる円周溝20と、この円周溝20に対向する間座7の内周面とを含んで構成される。前記円周溝20は、軸方向に間隔をあけて複数(この例では2つ)配設される。各円周溝20は、内輪延長部6の端面側(図1の上側)に向かうに従って小径となる、換言すると溝が深くなるように傾斜する断面形状に形成されている。前記狭部は、内輪延長部6における前記外周面の突出先端部と、この突出先端部に対向する間座7の内周面とを含んで構成される。
【0029】
各円周溝20が前記のように傾斜する断面形状に形成されているため、給油口9から供給されてラビリンス機構18に浸入した潤滑油は、内輪回転による遠心力により円周溝20の傾斜面に沿って漏れ側とは反対方向に移動する。このようなラビリンス機構18により、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制し得る。なお円周溝20は、3つ以上であっても良いし1つであっても良い。内輪延長部6に円周溝20を設ける構成に代えて、間座7における断面凹形状の他方側肩部21に、円周溝を設けても良い。また内輪延長部6および間座7にそれぞれ円周溝を設けても良い。
【0030】
作用効果について説明する。
図4は、この転がり軸受装置における潤滑油の流れを示す断面図である。
軸受を例えば立軸で使用する場合、軸受運転時、以下の(1)〜(5)のように潤滑油が流れる。同図における矢符は潤滑油の流れを示す。
(1) 潤滑油を給油口9から環状油路8に供給する。
(2) 内輪側円周溝11に沿って潤滑油が流れ、軸受を冷却する。
(3) 軸受を冷却した潤滑油が、排油口10から排出される。
(4) 軸受潤滑に必要な潤滑油が、ラビリンス14を経由して軸受内に供給される。
(5) 軸受の潤滑に供された潤滑油は、自重により振切用鍔状部17に衝突し、内輪回転による遠心力によりこの振切用鍔状部17の径方向外方へ振り切って飛ばされる。この振り飛ばされた潤滑油が切欠部13から軸受外に円滑に排出される。
【0031】
このように軸受内に浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油することができる。これにより潤滑油が滞留し難くなる。したがって、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速運転を可能とすることができる。
軌道輪延長部6および間座7には、給油口9から環状油路8に供給された潤滑油を、斜面1bを介して内輪軌道面1aに導くラビリンス14を設けたため、潤滑油の供給量を抑制することができる。これにより、攪拌抵抗の増加をさらに確実に防止することができる。
【0032】
他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。
図5に示すように、振切用鍔状部17のうち、軸受内部側に臨む内側面17aは、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に傾斜する断面形状に形成されていても良い。この場合、軸受内で潤滑に供された潤滑油が振切用鍔状部17に衝突した後、この振切用鍔状部17の内側面17aの基端側から径方向外方に沿って流れ易くなる。したがって、潤滑油を軸受外により円滑に排油することができる。
【0033】
図6に示すように、切欠部13の底面は、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成されていても良い。この場合、切欠部13のある外輪端面のうち、外輪内径縁側の排出口を拡大することができ、これにより、振り飛ばされた潤滑油をより排出し易くできる。
図7に示すように、外輪2のうち振切用鍔状部17の径方向外方に位置する外輪端面と、この外輪端面に繋がる外輪内径面との角部に、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成された傾斜面22を設けたものとしても良い。この場合、外輪端面と外輪内径面との角部付近に存する潤滑油が傾斜面22に沿って流れ、潤滑油をより排出し易くできる。
【0034】
図8に示すように、内輪1の外径面の端部付近に円周溝23を設け、この円周溝23に、図9に示す円周方向の1箇所に割り口24を有する一つ割り形状の振切用鍔状部17Aを装着しても良い。この振切用鍔状部17Aは、内輪1よりも線膨張係数の小さい材料等から成る。内輪1がSUJ2から成る場合、SUJ2の線膨張係数12.5×10−6/°Cよりも小さい線膨張係数の、例えば、冷間圧延鋼板(SPCC)等が振切用鍔状部17Aの材料として用いられる。
図8および図9の構成によると、振切用鍔状部17Aの円周方向の両端部17Aa,17Aaを離間させ、この振切用鍔状部17Aを拡径させた後、弾性を利用して内輪1の前記円周溝23に容易に装着することが可能となる。さらにこの構成によると、振切用鍔状部17を内輪1の外径面に一体に設けたものより、内輪1を簡単に加工することができる。これにより加工工数の低減を図れる。
【0035】
ところで高速運転時に、内輪および振切用鍔状部の温度が上昇し、振切用鍔状部が内輪よりも膨張する場合、振切用鍔状部が内輪に対して相対的に滑る。この振切用鍔状部の滑りが原因で、振切用鍔状部が不所望に発熱したり他部品と接触することが懸念される。この構成によると、振切用鍔状部17Aの線膨張係数が内輪1の線膨張係数よりも小さい材料を使用したため、高速運転時に振切用鍔状部17Aが内輪1よりも膨張しないようにできる。これにより、振切用鍔状部17Aの滑りを防止し、振切用鍔状部17Aの発熱や他部品との接触を防止することができる。
【0036】
図10(A)は、さらに他の実施形態に係る振切用鍔状部17Bの正面図であり、図10(B)は、同振切用鍔状部17Bの平面図である。図10(A),(B)に示すように、振切用鍔状部17Bは、円周方向の1箇所に割り口24を有する一つ割り形状であって、前記割り口24を形成する端面17Ba,17Baが、互いに平行でかつ割り口24における振切用鍔状部17Bの円周方向に対して傾斜したテーパ面であり、割り口24の隙間が負隙間または零であるものとしても良い。
【0037】
前記割り口24を形成する両側の端面17Ba,17Baは、この振切用鍔状部17Bの軸心L2に垂直な平面に対してそれぞれ角度α(αは例えば45度)傾斜したテーパ面である。但し、角度αは45度に限定されるものではない。この振切用鍔状部17Bを前述のように内輪1の円周溝23に装着した状態において、前記割り口24の隙間が負隙間または零となるように規定されている。前記割り口24の隙間が「零」とは、割り口24の隙間がないことを意味する。前記割り口24の隙間が「負隙間」とは、内輪円周溝23に装着された振切用鍔状部17Bの両側の端面17Ba,17Ba同士が、互いに周方向に圧接させた状態になることを意味する。
この構成によると、内輪1および振切用鍔状部17Bが回転したとき、この振切用鍔状部17Bの円周方向の両側の端面17Ba,17Baに生じ得る攪拌抵抗を、両端面が離間したものより小さくすることができる。
【0038】
図11に示すように、軸受を複数個組合わせて例えば立軸で使用する場合に、上側の軸受内で潤滑に供された潤滑油が、隣接する下側の軸受へ漏れることを防ぐ潤滑油漏れ防止機構25を設けた転がり軸受装置としても良い。
潤滑油漏れ防止機構25は、上側の軸受に隣接する間座幅面に設けた円周溝26と、この円周溝26に連通し同間座幅面に設けた排出用切欠き27とを有する。間座幅面は間座端面とも言う。前記円周溝26は、軸受軸心と同心の断面凹形状で上側の軸受の軸受空間に臨み、且つ、同軸受の内輪外径面1cよりも所定小距離径方向外側に配設される。前記排出用切欠き27は、間座幅面のうち、円周溝26の円周方向の1箇所から径方向内外にわたって延びるように切欠き形成されている。
【0039】
この構成によると、軸受運転時、以下の(1)〜(3)のように潤滑油が流れる。
(1) 上側の軸受内に供給された潤滑油は、潤滑に供された後、この潤滑油の自重により下部へ流れる。
(2) 前記潤滑油は、自重および内輪回転による遠心力により、間座幅面に設けた円周溝26に流れ込む。
(3) 円周溝26に流れ込んだ潤滑油は、この円周溝26に沿って流れ、排出用切欠き27にて径方向外方に排出される。
以上説明した円周溝26および排出用切欠き27により、上側の軸受内で潤滑に供された潤滑油が、隣接する下側の軸受へ不所望に漏れることを防ぐことが可能となる。
【0040】
図11の形態を部分的に変更した転がり軸受装置の例として、図12〜図14の間座7Aを適用しても良い。この間座7Aは、円周溝26に流れ込んだ潤滑油が、排出用切欠き27に向けて流れ込みやすいように、間座幅面の円周溝26に傾斜βを設けている。図12は、前記転がり軸受装置における間座7Aの平面図であり、この図12におけるドットは、円周溝26へ流れ込んだ潤滑油を表す。図13は図12のA−A線端面図である。図14は同間座7Aの断面図である。この例では、図14の丸印で囲ったP部に示すように、間座幅面のうち、排出用切欠き27がある円周方向箇所の180度対角位置における円周溝26の溝底d1が最も浅く、排出用切欠き27がある円周方向箇所の円周溝26の溝底d2が最も深くなるように形成されている。すなわち図12上半部、下半部の円周溝26,26をそれぞれ円周方向に切断して展開して見た断面形状が、円周溝26の溝底d1から円周溝26の溝底d2に向かうに従って、溝底が深くなる傾斜断面に形成されている。また間座7Aにおいて、溝底d1が最も浅い円周溝26は、排油口10のある円周方向位置と同位相となる位置に設けられる。排出用切欠き27は、間座幅面のうち、円周溝26の円周方向の1箇所から径方向外方に延びるように切欠き形成されている。
【0041】
この構成によると、図12に示すように、軸受運転時、同図上半部の円周溝26に流れ込んだ潤滑油は、軸受回転方向と同一方向に流れ、排出用切欠き27から排出される。同図下半部の円周溝26に流れ込んだ潤滑油は、軸受回転方向とは逆方向に流れ、前記排出用切欠き27から排出される。特に、円周溝26を前記のような傾斜断面にしたため、円周溝26に流れ込んだ潤滑油が、傾斜断面の下流側である排出用切欠き27に流れ込み易くなる。したがって、上側の軸受内で潤滑に供された潤滑油が、隣接する下側の軸受へ不所望に漏れることをより確実に防ぐことが可能となる。
【0042】
図15に示すように、排出用切欠き27がある円周方向箇所の円周溝26の底面を、半径方向外方に向かうに従って、溝底が深くなる傾斜状の断面形状に形成しても良い。この例では、図11の構成を前提としているが、図12の構成と共にこの図15の構成を適用しても良い。図15の構成によると、潤滑油を排出用切欠き27の傾斜面に沿って排出し易くできる。この場合にも、潤滑に供された潤滑油が、隣接する下側の軸受へ不所望に漏れることをより確実に防ぐことが可能となる。
【0043】
図16は、前述のいずれかの転がり軸受装置を、立型の工作機械主軸の支持に用いた例を概略示す断面図である。この例では、アンギュラ玉軸受を含む転がり軸受装置28,28を、2個背面組み合わせでハウジング29に設置し、これらの転がり軸受装置28,28により主軸30を回転自在に支持する。各軸受装置28における内輪1は、内輪位置決め間座31,31および主軸30の段部30a,30aにより軸方向に位置決めされ、内輪固定ナット32により主軸30に締め付け固定されている。主軸上側の間座7および主軸下側の外輪2は、外輪押え蓋34,34によりハウジング29内に位置決め固定されている。また主軸上側の外輪端面と、主軸下側の間座幅面との間には、外輪間座35が介在されている。
【0044】
ハウジング29は、ハウジング内筒29aとハウジング外筒29bとを嵌合させたものであり、その嵌合部に、冷却のための通油溝29cが設けられている。ハウジング内筒29aには、各軸受装置28にそれぞれ潤滑油を供給する供給油路36,36が形成されている。これら供給油路36,36は図示外の潤滑油供給源に接続されている。さらにハウジング内筒29aには、潤滑に供された潤滑油を排出する排油溝37および排油路38が形成されている。排油溝37は、各軸受装置28における切欠部13および排油口10にそれぞれ連通する。各排油溝37に、主軸軸方向に延びる排油路38が繋がり、この排油路38から潤滑油が排出されるようになっている。
このように転がり軸受装置28,28を、立型の工作機械主軸の支持に用いた場合、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油することができる。したがって、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速運転を可能とすることができる。
本実施形態に係る転がり軸受装置を、横型の工作機械主軸の支持に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…内輪
2…外輪
1a,2a…軌道面
3…転動体
4…保持器
6…軌道輪延長部
7…間座
8…環状油路
9…給油口
10…排油口
13…切欠部
17,17A,17B…振切用鍔状部
25…潤滑油漏れ防止機構
28…転がり軸受装置
30…主軸
Ku…給排油機構
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、工作機械主軸を回転自在に支持する転がり軸受および転がり軸受装置に関し、立軸等でも使用可能とした転がり軸受および転がり軸受装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受の冷却と、軸受に対する潤滑油の給排油を行う機構を有する潤滑装置が提案されている(特許文献1)。この潤滑装置では、図17(A)に示すように、内輪端面に接する内輪間座50を設け、外輪端面に接する潤滑油導入部材51を設けている。内輪52のうち前記内輪端面から内輪軌道面に繋がる斜面に円周溝53を設けると共に、前記潤滑油導入部材51にノズル54を設け、このノズル54から前記円周溝53内に軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を吐出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−240946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記軸受を立軸に使用する場合、図17(B)に示すように、潤滑油が滞留する高さAよりも排油口の高さBの方が高い。このため、排油を十分に行えない。このとき、排油されない多量の潤滑油が軸受内に浸入する。すると、攪拌抵抗が増加し、軸受内部の温度が上昇して、高速運転が困難な場合がある。そのため、軸受内へ浸入した潤滑油の排油を円滑に行う必要がある。
【0005】
この発明の目的は、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油し、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制することができる転がり軸受および転がり軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の転がり軸受装置は、内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構とを備えた転がり軸受装置において、前記内輪の外径面の端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部を設け、前記給排油機構から供給され軸受内で潤滑に供された潤滑油を、前記振切用鍔状部に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとしたことを特徴とする。
前記「端部付近」とは、内輪の外径面のうち、保持器の端面よりも軸方向外側の部分を指す。
【0007】
前記軸受を例えば立軸で使用する場合、給排油機構から軸受内に潤滑油を導入することで内外輪を冷却する。軸受内に導入された潤滑油の一部は、軸受の潤滑に供された後、下部へ流れる。その後、前記潤滑油は、自重により環状の振切用鍔状部に衝突し、内輪回転による遠心力によりこの振切用鍔状部の径方向外方へ振り切って飛ばされる。このように、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油することができる。したがって、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速運転を可能とすることができる。
【0008】
前記内輪に軸方向に延びる軌道輪延長部を設けると共に、外輪に、前記軌道輪延長部に対向する間座を設け、これら軌道輪延長部と間座とにわたって給排油機構を設けても良い。
前記外輪のうち、振切用鍔状部の径方向外方に位置する外輪端面に、軸受内で潤滑に供された潤滑油を軸受外に排出する切欠部を設けても良い。軸受潤滑に必要な潤滑油が軸受内に供給された後、振切用鍔状部で径方向外方へ振り飛ばされる。この振り飛ばされた潤滑油が切欠部から軸受外に円滑に排出される。これにより潤滑油が滞留し難くなる。
【0009】
前記切欠部における外輪端面からの深さAと、前記振切用鍔状部の軸方向厚みBとの関係がA>Bの関係にあるものとしても良い。前記A>Bの関係とすることで、振切用鍔状部で径方向外方へ振り飛ばされた潤滑油が、外輪の内径面に衝突したり滞留することを抑えて切欠部にスムーズに導入され、軸受外に排出される。
前記切欠部の底面は、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成されていても良い。前記切欠部のある外輪端面のうち、外輪内径縁側の排出口を拡大することができ、これにより、振り飛ばされた潤滑油をより排出し易くできる。
【0010】
前記振切用鍔状部のうち、軸受内部側に臨む内側面は、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成されていても良い。この場合、軸受内で潤滑に供された潤滑油が振切用鍔状部に衝突した後、この振切用鍔状部の内側面の基端側から径方向外方に沿って流れ易くなる。したがって、潤滑油を軸受外により円滑に排油することができる。
【0011】
前記外輪のうち振切用鍔状部の径方向外方に位置する外輪端面と、この外輪端面に繋がる外輪内径面との角部に、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成された傾斜面を設けたものとしても良い。この場合、前記外輪端面と外輪内径面との角部付近に存する潤滑油が傾斜面に沿って流れ、潤滑油をより排出し易くできる。
【0012】
前記内輪の外径面の端部付近に円周溝を設け、この円周溝に、円周方向の1箇所に割り口を有する一つ割り形状の振切用鍔状部を装着したものとしても良い。この場合、振切用鍔状部を内輪の外径面に一体に設けたものより、内輪を簡単に加工することができる。これにより加工工数の低減を図れる。振切用鍔状部の円周方向の両端部を離間させ、この振切用鍔状部を拡径させた後、弾性を利用して前記円周溝に容易に装着することが可能となる。
前記振切用鍔状部は、前記割り口を形成する端面が、互いに平行でかつ割り口における振切用鍔状部の円周方向に対して傾斜したテーパ面であり、割り口の隙間が負隙間または零であるものとしても良い。この場合、内輪および振切用鍔状部が回転したとき、この振切用鍔状部の円周方向の両側の端面に生じ得る攪拌抵抗を、両端面が離間したものより小さくすることができる。
【0013】
前記振切用鍔状部は、内輪よりも線膨張係数の小さい材料から成るものとしても良い。高速運転時に、内輪および振切用鍔状部の温度が上昇し、振切用鍔状部が内輪よりも膨張する場合、振切用鍔状部が内輪に対して相対的に滑る。この振切用鍔状部の滑りが原因で、振切用鍔状部が発熱したり他部品と接触することが懸念される。この構成によると、振切用鍔状部の線膨張係数が内輪の線膨張係数よりも小さい材料を使用したため、高速運転時に振切用鍔状部が内輪よりも膨張しないようにできる。これにより、振切用鍔状部の滑りを防止し、振切用鍔状部の発熱や他部品との接触を防止することができる。
【0014】
軸受を複数個組合わせた場合に、いずれか一つの軸受内で潤滑に供された潤滑油が、隣接する軸受へ漏れることを防ぐ潤滑油漏れ防止機構を設けても良い。この場合、隣接する軸受において、潤滑油の攪拌抵抗による温度上昇を抑制することができる。
前記いずれかの転がり軸受装置が、工作機械主軸の支持に用いられるものであっても良い。
【0015】
この発明の転がり軸受は、内輪および外輪の軌道面間に転動体を介在させた転がり軸受において、前記内輪の外径面の端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部を設け、軸受内で潤滑に供された潤滑油を、前記振切用鍔状部に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとしたことを特徴とする。
この構成によると、潤滑油を軸受内に導入することで内外輪を冷却する。軸受内に導入された潤滑油の一部は、軸受の潤滑に供された後、環状の振切用鍔状部に衝突し、内輪回転による遠心力によりこの振切用鍔状部の径方向外方へ振り切って飛ばされる。このように、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油することができる。したがって、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速運転を可能とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の転がり軸受装置は、内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構とを備えた転がり軸受装置において、前記内輪の外径面の端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部を設け、前記給排油機構から供給され軸受内で潤滑に供された潤滑油を、前記振切用鍔状部に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとしたため、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油し、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制することができる。
【0017】
この発明の転がり軸受は、内輪および外輪の軌道面間に転動体を介在させた転がり軸受において、前記内輪の外径面の端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部を設け、軸受内で潤滑に供された潤滑油を、前記振切用鍔状部に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとしたため、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油し、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受装置の断面図である。
【図2】同転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図3】(A)は、同転がり軸受装置における潤滑油の流れを示す平面図、(B)は図3(A)の要部の正面図である。
【図4】同転がり軸受装置における潤滑油を流れを示す断面図である。
【図5】この発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態の転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態の転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態の転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図9】同転がり軸受装置の振切用鍔状部の平面図である。
【図10】(A)は、この発明のさらに他の実施形態の転がり軸受装置の振切用鍔状部の正面図、(B)は、同振切用鍔状部の平面図である。
【図11】この発明のさらに他の実施形態の転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図12】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置における間座の平面図である。
【図13】図12のA−A線端面図である。
【図14】同間座の断面図である。
【図15】この発明のさらに他の実施形態の転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図16】この発明のいずれかの実施形態に係る転がり軸受装置を、立型の工作機械主軸を支持する転がり軸受に適用した例を示す概略断面図である。
【図17】(A)は、従来例の転がり軸受の潤滑装置の給油側の断面図、(B)は同潤滑装置の排油側の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図4と共に説明する。図1に示すように、この実施形態に係る転がり軸受装置は、転がり軸受と、給排油機構Kuとを備えている。
図2に示すように、転がり軸受は、内外輪1,2である一対の軌道輪と、内外輪1,2の軌道面1a,2a間に介在する複数の転動体3と、これら転動体3を保持するリング状の保持器4とを有する。この転がり軸受はアンギュラ玉軸受からなり、転動体3として、鋼球やセラミックス球等からなる玉が適用される。
【0020】
図1に示すように、内輪1は、内輪本体部5と、軌道輪延長部6とを有する。内輪本体部5は、軸受としての必要な強度を満たし、且つ、所定の幅寸法に設けられる。前記所定の幅寸法とは、JIS、軸受カタログ等に規定される内輪の幅寸法である。内輪本体部5における外周面の中央部に軌道面1aが形成されている。前記外周面のうち軌道面1aに繋がる軸方向一方側に、軌道面側に向かうに従って大径となるように傾斜する断面形状に形成された斜面1bが形成され、前記外周面のうち軌道面1aに繋がる軸方向他方側に、平坦な外径面1cが形成されている。この内輪本体部5の内輪背面側に、軌道輪延長部6が軸方向一方に延びるように一体に設けられる。
外輪2の軌道面2aの軸方向両側に、外輪内径面2bと、カウンタボア2cとがそれぞれ形成されている。前記外輪内径面2bに保持器4が案内されるように構成されている。
【0021】
図1に示すように、給排油機構Kuは、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する機構である。この転がり軸受装置を例えば立軸で使用する場合、給排油機構Kuを転がり軸受の上部に配設する。外輪2に隣接して間座7を設け、この間座7の内周面を、軌道輪延長部6の外周面に対向させている。これら軌道輪延長部6と間座7とにわたって給排油機構Kuを設けている。
図3(A)に示すように、給排油機構Kuは、環状油路8と、給油口9と、排油口10とを有する。これらのうち環状油路8は、図1左側に示すように、軌道輪延長部6の外周面に設けられる断面凹形状の内輪側円周溝11と、間座7の内周面に設けられ、前記内輪側円周溝11に対して径方向に対向するように配設される間座側円周溝12とで成る。これら内輪側円周溝11と間座側円周溝12とで断面矩形孔状で環状に連なる環状油路8が形成される。
【0022】
図1左側に示すように、間座7のうち円周方向の一部に、潤滑油を軸受内に供給する前記給油口9が形成されている。この給油口9は、間座7の外周面から前記環状油路8に径方向に貫通する段付きの貫通孔状に形成されている。すなわち給油口9は、環状油路8の円周方向の一部に連通する連通孔9aと、この連通孔9aに繋がり前記外周面に開口する座繰り孔9bとで成る。座繰り孔9bは、連通孔9aに対し同心で同連通孔9aよりも大径に形成されている。給油口9から環状油路8に供給された潤滑油は、図3(A)に示すように、環状油路8内を、回転側の軌道輪である内輪1の回転方向L1と同一方向に進み、排油口10および後述する切欠部13から排出される。
【0023】
図3(A)に示すように、間座7のうち、前記給油口9とは位相の異なる円周方向の一部に、潤滑油を軸受外に排出する排油口10が形成されている。排油口10は、図1右側に示すように、間座7の外周面から環状油路8に径方向に貫通する貫通孔状に形成されている。図3(A)に示すように、給油口9に対し、排油口10の位相が所定の位相角度α(この例ではα=270度)となるように設けられている。
【0024】
図2に示すように、軌道輪延長部6および間座7には、給油口9から環状油路8に供給された潤滑油を、斜面1bを介して内輪軌道面1aに導くラビリンス14を設けている。図1に示すように、軌道輪延長部6のうち、内輪側円周溝11を成す断面凹形状の一方側肩部15は、内輪本体部5に一体に繋がっている。図2に示すように、間座7のうち環状油路8を成す断面凹形状の一方側肩部16の内周面と、同内周面に径方向すきまを介して対向する軌道輪延長部6の一方側肩部15の外周面とにより、ラビリンス14を形成している。このラビリンス14を形成したことで、軸受内への潤滑油の供給量を抑制し得る。
【0025】
図2に示すように、内輪1の外径面の端部付近には、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部17が設けられている。この例では、振切用鍔状部17は、内輪1に一体に設けられ、軸受外部側に臨む外側面が内輪端面に同一平面に設けられている。振切用鍔状部17のうち軸受内部側に臨む内側面17aは、前記外側面に平行に設けられている。前記ラビリンス14を経由して軸受内に供給された潤滑油を、振切用鍔状部17に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方に振り切るものとしている。
【0026】
固定側の軌道輪である外輪1には、軸受内で潤滑に供された潤滑油を軸受外に排出する切欠部13が設けられている。図3(B)は、図3(A)の要部の正面図(IIIB-IIIB端面図)である。図2および図3(B)に示すように、外輪2のうち、間座7が設けられる側とは軸方向逆側の外輪端面に、切欠部13が設けられている。つまり切欠部13は、外輪2のうち、振切用鍔状部17の径方向外方に位置する外輪端面に設けられている。この切欠部13を、図3(A)に示すように、内輪1の回転方向L1に沿う、給油口9と排油口10との間に配設している。この例では、切欠部13は、給油口9に対し90度の位相角度をもって配設され、且つ、排油口10に対し180度の位相角度をもって配設されている。
【0027】
図2に示すように、切欠部13における外輪端面からの深さAと、前記振切用鍔状部17の軸方向厚みBとがA>Bの関係を持つ。このA>Bの関係により振切用鍔状部17で振り切った潤滑油が排出され易い。また振切用鍔状部17の内側面に対向する保持器4の端面4aにおける、外輪端面からの距離Cは、前記深さAに対してC>Aの関係を持つ。このC>Aの関係により、保持器案内面4bと、切欠部13を成す外輪内周縁部とが干渉しないようになっている。
【0028】
図1に示すように、軌道輪延長部6および間座7には、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制するラビリンス機構18を設けている。このラビリンス機構18は、給油口9および排油口10に連通し、広部と狭部とが軸方向に連なるものとしている。広部は、内輪延長部6における他方側肩部19の外周面に設けられる円周溝20と、この円周溝20に対向する間座7の内周面とを含んで構成される。前記円周溝20は、軸方向に間隔をあけて複数(この例では2つ)配設される。各円周溝20は、内輪延長部6の端面側(図1の上側)に向かうに従って小径となる、換言すると溝が深くなるように傾斜する断面形状に形成されている。前記狭部は、内輪延長部6における前記外周面の突出先端部と、この突出先端部に対向する間座7の内周面とを含んで構成される。
【0029】
各円周溝20が前記のように傾斜する断面形状に形成されているため、給油口9から供給されてラビリンス機構18に浸入した潤滑油は、内輪回転による遠心力により円周溝20の傾斜面に沿って漏れ側とは反対方向に移動する。このようなラビリンス機構18により、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制し得る。なお円周溝20は、3つ以上であっても良いし1つであっても良い。内輪延長部6に円周溝20を設ける構成に代えて、間座7における断面凹形状の他方側肩部21に、円周溝を設けても良い。また内輪延長部6および間座7にそれぞれ円周溝を設けても良い。
【0030】
作用効果について説明する。
図4は、この転がり軸受装置における潤滑油の流れを示す断面図である。
軸受を例えば立軸で使用する場合、軸受運転時、以下の(1)〜(5)のように潤滑油が流れる。同図における矢符は潤滑油の流れを示す。
(1) 潤滑油を給油口9から環状油路8に供給する。
(2) 内輪側円周溝11に沿って潤滑油が流れ、軸受を冷却する。
(3) 軸受を冷却した潤滑油が、排油口10から排出される。
(4) 軸受潤滑に必要な潤滑油が、ラビリンス14を経由して軸受内に供給される。
(5) 軸受の潤滑に供された潤滑油は、自重により振切用鍔状部17に衝突し、内輪回転による遠心力によりこの振切用鍔状部17の径方向外方へ振り切って飛ばされる。この振り飛ばされた潤滑油が切欠部13から軸受外に円滑に排出される。
【0031】
このように軸受内に浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油することができる。これにより潤滑油が滞留し難くなる。したがって、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速運転を可能とすることができる。
軌道輪延長部6および間座7には、給油口9から環状油路8に供給された潤滑油を、斜面1bを介して内輪軌道面1aに導くラビリンス14を設けたため、潤滑油の供給量を抑制することができる。これにより、攪拌抵抗の増加をさらに確実に防止することができる。
【0032】
他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。
図5に示すように、振切用鍔状部17のうち、軸受内部側に臨む内側面17aは、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に傾斜する断面形状に形成されていても良い。この場合、軸受内で潤滑に供された潤滑油が振切用鍔状部17に衝突した後、この振切用鍔状部17の内側面17aの基端側から径方向外方に沿って流れ易くなる。したがって、潤滑油を軸受外により円滑に排油することができる。
【0033】
図6に示すように、切欠部13の底面は、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成されていても良い。この場合、切欠部13のある外輪端面のうち、外輪内径縁側の排出口を拡大することができ、これにより、振り飛ばされた潤滑油をより排出し易くできる。
図7に示すように、外輪2のうち振切用鍔状部17の径方向外方に位置する外輪端面と、この外輪端面に繋がる外輪内径面との角部に、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成された傾斜面22を設けたものとしても良い。この場合、外輪端面と外輪内径面との角部付近に存する潤滑油が傾斜面22に沿って流れ、潤滑油をより排出し易くできる。
【0034】
図8に示すように、内輪1の外径面の端部付近に円周溝23を設け、この円周溝23に、図9に示す円周方向の1箇所に割り口24を有する一つ割り形状の振切用鍔状部17Aを装着しても良い。この振切用鍔状部17Aは、内輪1よりも線膨張係数の小さい材料等から成る。内輪1がSUJ2から成る場合、SUJ2の線膨張係数12.5×10−6/°Cよりも小さい線膨張係数の、例えば、冷間圧延鋼板(SPCC)等が振切用鍔状部17Aの材料として用いられる。
図8および図9の構成によると、振切用鍔状部17Aの円周方向の両端部17Aa,17Aaを離間させ、この振切用鍔状部17Aを拡径させた後、弾性を利用して内輪1の前記円周溝23に容易に装着することが可能となる。さらにこの構成によると、振切用鍔状部17を内輪1の外径面に一体に設けたものより、内輪1を簡単に加工することができる。これにより加工工数の低減を図れる。
【0035】
ところで高速運転時に、内輪および振切用鍔状部の温度が上昇し、振切用鍔状部が内輪よりも膨張する場合、振切用鍔状部が内輪に対して相対的に滑る。この振切用鍔状部の滑りが原因で、振切用鍔状部が不所望に発熱したり他部品と接触することが懸念される。この構成によると、振切用鍔状部17Aの線膨張係数が内輪1の線膨張係数よりも小さい材料を使用したため、高速運転時に振切用鍔状部17Aが内輪1よりも膨張しないようにできる。これにより、振切用鍔状部17Aの滑りを防止し、振切用鍔状部17Aの発熱や他部品との接触を防止することができる。
【0036】
図10(A)は、さらに他の実施形態に係る振切用鍔状部17Bの正面図であり、図10(B)は、同振切用鍔状部17Bの平面図である。図10(A),(B)に示すように、振切用鍔状部17Bは、円周方向の1箇所に割り口24を有する一つ割り形状であって、前記割り口24を形成する端面17Ba,17Baが、互いに平行でかつ割り口24における振切用鍔状部17Bの円周方向に対して傾斜したテーパ面であり、割り口24の隙間が負隙間または零であるものとしても良い。
【0037】
前記割り口24を形成する両側の端面17Ba,17Baは、この振切用鍔状部17Bの軸心L2に垂直な平面に対してそれぞれ角度α(αは例えば45度)傾斜したテーパ面である。但し、角度αは45度に限定されるものではない。この振切用鍔状部17Bを前述のように内輪1の円周溝23に装着した状態において、前記割り口24の隙間が負隙間または零となるように規定されている。前記割り口24の隙間が「零」とは、割り口24の隙間がないことを意味する。前記割り口24の隙間が「負隙間」とは、内輪円周溝23に装着された振切用鍔状部17Bの両側の端面17Ba,17Ba同士が、互いに周方向に圧接させた状態になることを意味する。
この構成によると、内輪1および振切用鍔状部17Bが回転したとき、この振切用鍔状部17Bの円周方向の両側の端面17Ba,17Baに生じ得る攪拌抵抗を、両端面が離間したものより小さくすることができる。
【0038】
図11に示すように、軸受を複数個組合わせて例えば立軸で使用する場合に、上側の軸受内で潤滑に供された潤滑油が、隣接する下側の軸受へ漏れることを防ぐ潤滑油漏れ防止機構25を設けた転がり軸受装置としても良い。
潤滑油漏れ防止機構25は、上側の軸受に隣接する間座幅面に設けた円周溝26と、この円周溝26に連通し同間座幅面に設けた排出用切欠き27とを有する。間座幅面は間座端面とも言う。前記円周溝26は、軸受軸心と同心の断面凹形状で上側の軸受の軸受空間に臨み、且つ、同軸受の内輪外径面1cよりも所定小距離径方向外側に配設される。前記排出用切欠き27は、間座幅面のうち、円周溝26の円周方向の1箇所から径方向内外にわたって延びるように切欠き形成されている。
【0039】
この構成によると、軸受運転時、以下の(1)〜(3)のように潤滑油が流れる。
(1) 上側の軸受内に供給された潤滑油は、潤滑に供された後、この潤滑油の自重により下部へ流れる。
(2) 前記潤滑油は、自重および内輪回転による遠心力により、間座幅面に設けた円周溝26に流れ込む。
(3) 円周溝26に流れ込んだ潤滑油は、この円周溝26に沿って流れ、排出用切欠き27にて径方向外方に排出される。
以上説明した円周溝26および排出用切欠き27により、上側の軸受内で潤滑に供された潤滑油が、隣接する下側の軸受へ不所望に漏れることを防ぐことが可能となる。
【0040】
図11の形態を部分的に変更した転がり軸受装置の例として、図12〜図14の間座7Aを適用しても良い。この間座7Aは、円周溝26に流れ込んだ潤滑油が、排出用切欠き27に向けて流れ込みやすいように、間座幅面の円周溝26に傾斜βを設けている。図12は、前記転がり軸受装置における間座7Aの平面図であり、この図12におけるドットは、円周溝26へ流れ込んだ潤滑油を表す。図13は図12のA−A線端面図である。図14は同間座7Aの断面図である。この例では、図14の丸印で囲ったP部に示すように、間座幅面のうち、排出用切欠き27がある円周方向箇所の180度対角位置における円周溝26の溝底d1が最も浅く、排出用切欠き27がある円周方向箇所の円周溝26の溝底d2が最も深くなるように形成されている。すなわち図12上半部、下半部の円周溝26,26をそれぞれ円周方向に切断して展開して見た断面形状が、円周溝26の溝底d1から円周溝26の溝底d2に向かうに従って、溝底が深くなる傾斜断面に形成されている。また間座7Aにおいて、溝底d1が最も浅い円周溝26は、排油口10のある円周方向位置と同位相となる位置に設けられる。排出用切欠き27は、間座幅面のうち、円周溝26の円周方向の1箇所から径方向外方に延びるように切欠き形成されている。
【0041】
この構成によると、図12に示すように、軸受運転時、同図上半部の円周溝26に流れ込んだ潤滑油は、軸受回転方向と同一方向に流れ、排出用切欠き27から排出される。同図下半部の円周溝26に流れ込んだ潤滑油は、軸受回転方向とは逆方向に流れ、前記排出用切欠き27から排出される。特に、円周溝26を前記のような傾斜断面にしたため、円周溝26に流れ込んだ潤滑油が、傾斜断面の下流側である排出用切欠き27に流れ込み易くなる。したがって、上側の軸受内で潤滑に供された潤滑油が、隣接する下側の軸受へ不所望に漏れることをより確実に防ぐことが可能となる。
【0042】
図15に示すように、排出用切欠き27がある円周方向箇所の円周溝26の底面を、半径方向外方に向かうに従って、溝底が深くなる傾斜状の断面形状に形成しても良い。この例では、図11の構成を前提としているが、図12の構成と共にこの図15の構成を適用しても良い。図15の構成によると、潤滑油を排出用切欠き27の傾斜面に沿って排出し易くできる。この場合にも、潤滑に供された潤滑油が、隣接する下側の軸受へ不所望に漏れることをより確実に防ぐことが可能となる。
【0043】
図16は、前述のいずれかの転がり軸受装置を、立型の工作機械主軸の支持に用いた例を概略示す断面図である。この例では、アンギュラ玉軸受を含む転がり軸受装置28,28を、2個背面組み合わせでハウジング29に設置し、これらの転がり軸受装置28,28により主軸30を回転自在に支持する。各軸受装置28における内輪1は、内輪位置決め間座31,31および主軸30の段部30a,30aにより軸方向に位置決めされ、内輪固定ナット32により主軸30に締め付け固定されている。主軸上側の間座7および主軸下側の外輪2は、外輪押え蓋34,34によりハウジング29内に位置決め固定されている。また主軸上側の外輪端面と、主軸下側の間座幅面との間には、外輪間座35が介在されている。
【0044】
ハウジング29は、ハウジング内筒29aとハウジング外筒29bとを嵌合させたものであり、その嵌合部に、冷却のための通油溝29cが設けられている。ハウジング内筒29aには、各軸受装置28にそれぞれ潤滑油を供給する供給油路36,36が形成されている。これら供給油路36,36は図示外の潤滑油供給源に接続されている。さらにハウジング内筒29aには、潤滑に供された潤滑油を排出する排油溝37および排油路38が形成されている。排油溝37は、各軸受装置28における切欠部13および排油口10にそれぞれ連通する。各排油溝37に、主軸軸方向に延びる排油路38が繋がり、この排油路38から潤滑油が排出されるようになっている。
このように転がり軸受装置28,28を、立型の工作機械主軸の支持に用いた場合、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油することができる。したがって、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速運転を可能とすることができる。
本実施形態に係る転がり軸受装置を、横型の工作機械主軸の支持に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…内輪
2…外輪
1a,2a…軌道面
3…転動体
4…保持器
6…軌道輪延長部
7…間座
8…環状油路
9…給油口
10…排油口
13…切欠部
17,17A,17B…振切用鍔状部
25…潤滑油漏れ防止機構
28…転がり軸受装置
30…主軸
Ku…給排油機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構とを備えた転がり軸受装置において、
前記内輪の外径面の端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部を設け、
前記給排油機構から供給され軸受内で潤滑に供された潤滑油を、前記振切用鍔状部に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとしたことを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記内輪に軸方向に延びる軌道輪延長部を設けると共に、外輪に、前記軌道輪延長部に対向する間座を設け、これら軌道輪延長部と間座とにわたって給排油機構を設けた転がり軸受装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記外輪のうち、振切用鍔状部の径方向外方に位置する外輪端面に、軸受内で潤滑に供された潤滑油を軸受外に排出する切欠部を設けた転がり軸受装置。
【請求項4】
請求項3において、前記切欠部における外輪端面からの深さAと、前記振切用鍔状部の軸方向厚みBとの関係がA>Bの関係にある転がり軸受装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、前記切欠部の底面は、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成されている転がり軸受装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記振切用鍔状部のうち、軸受内部側に臨む内側面は、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成されている転がり軸受装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記外輪のうち振切用鍔状部の径方向外方に位置する外輪端面と、この外輪端面に繋がる外輪内径面との角部に、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成された傾斜面を設けた転がり軸受装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記内輪の外径面の端部付近に円周溝を設け、この円周溝に、円周方向の1箇所に割り口を有する一つ割り形状の振切用鍔状部を装着した転がり軸受装置。
【請求項9】
請求項8において、前記振切用鍔状部は、前記割り口を形成する端面が、互いに平行でかつ割り口における振切用鍔状部の円周方向に対して傾斜したテーパ面であり、割り口の隙間が負隙間または零である転がり軸受装置。
【請求項10】
請求項8または請求項9において、前記振切用鍔状部は、内輪よりも線膨張係数の小さい材料から成る転がり軸受装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、軸受を複数個組合わせた場合に、いずれか一つの軸受内で潤滑に供された潤滑油が、隣接する軸受へ漏れることを防ぐ潤滑油漏れ防止機構を設けた転がり軸受装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、工作機械主軸の支持に用いられるものである転がり軸受装置。
【請求項13】
内輪および外輪の軌道面間に転動体を介在させた転がり軸受において、
前記内輪の外径面の端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部を設け、
軸受内で潤滑に供された潤滑油を、前記振切用鍔状部に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとしたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項1】
内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構とを備えた転がり軸受装置において、
前記内輪の外径面の端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部を設け、
前記給排油機構から供給され軸受内で潤滑に供された潤滑油を、前記振切用鍔状部に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとしたことを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記内輪に軸方向に延びる軌道輪延長部を設けると共に、外輪に、前記軌道輪延長部に対向する間座を設け、これら軌道輪延長部と間座とにわたって給排油機構を設けた転がり軸受装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記外輪のうち、振切用鍔状部の径方向外方に位置する外輪端面に、軸受内で潤滑に供された潤滑油を軸受外に排出する切欠部を設けた転がり軸受装置。
【請求項4】
請求項3において、前記切欠部における外輪端面からの深さAと、前記振切用鍔状部の軸方向厚みBとの関係がA>Bの関係にある転がり軸受装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、前記切欠部の底面は、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成されている転がり軸受装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記振切用鍔状部のうち、軸受内部側に臨む内側面は、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成されている転がり軸受装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記外輪のうち振切用鍔状部の径方向外方に位置する外輪端面と、この外輪端面に繋がる外輪内径面との角部に、径方向外方に向かうに従って軸方向外側に至るように傾斜する断面形状に形成された傾斜面を設けた転がり軸受装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記内輪の外径面の端部付近に円周溝を設け、この円周溝に、円周方向の1箇所に割り口を有する一つ割り形状の振切用鍔状部を装着した転がり軸受装置。
【請求項9】
請求項8において、前記振切用鍔状部は、前記割り口を形成する端面が、互いに平行でかつ割り口における振切用鍔状部の円周方向に対して傾斜したテーパ面であり、割り口の隙間が負隙間または零である転がり軸受装置。
【請求項10】
請求項8または請求項9において、前記振切用鍔状部は、内輪よりも線膨張係数の小さい材料から成る転がり軸受装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、軸受を複数個組合わせた場合に、いずれか一つの軸受内で潤滑に供された潤滑油が、隣接する軸受へ漏れることを防ぐ潤滑油漏れ防止機構を設けた転がり軸受装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、工作機械主軸の支持に用いられるものである転がり軸受装置。
【請求項13】
内輪および外輪の軌道面間に転動体を介在させた転がり軸受において、
前記内輪の外径面の端部付近に、径方向外方へ突出する環状の振切用鍔状部を設け、
軸受内で潤滑に供された潤滑油を、前記振切用鍔状部に衝突させ、内輪回転による遠心力により径方向外方へ振り切るものとしたことを特徴とする転がり軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−2519(P2013−2519A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132870(P2011−132870)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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