説明

転がり軸受の被覆方法

【課題】軸受取付時における作業効率を向上するのに好適な転がり軸受の被覆方法を提供する。
【解決手段】軸受10の諸元に関する諸元情報を2次元バーコード8として軸受10の表面に刻印し、2つのフィルム6の間に軸受10を配置し、フィルム面のうち2次元バーコード8の刻印面に位置する部分を刻印面に押し当てながらフィルム内を減圧し、フィルム6の全周を熱圧着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受をフィルムにより被覆する方法に係り、特に、軸受取付時における作業効率を向上するのに好適な転がり軸受の被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンギュラ玉軸受や円筒ころ軸受等の転がり軸受を工作機械用スピンドルに組み込む場合、軸受の剛性および最高回転数に適した内部荷重を適切にするために、軸およびハウジングと軸受の嵌合を調整する必要がある。そのため、軸受の取付現場では、軸受の取付作業にあたって、軸受の主要3寸法(内径、外径、幅)を把握しなければならない。
軸受メーカでは、こうした需要に応じて、軸受の寸法を測定し、測定した寸法を記述した検査成績証という書面を軸受に添付して顧客に提供している。
【0003】
特許文献1記載の発明は、機械要素の寸法および諸元を保持する諸元データベース(以下、データベースのことを単にDBと略記する。)を備え、選定すべき機械要素の仕様および使用条件情報、購入条件、選定候補に関する情報の出力態様を示す情報を含む機械要素選定情報を受信し、仕様および使用条件と諸元DBの情報に基づいて選定候補を抽出し、抽出した選定候補のうち購入条件を満たす選定候補に関する情報を、出力態様にしたがって出力するものである。
【特許文献1】特開2004−247768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記軸受メーカによる提供方法にあっては、寸法情報を検査成績証により提供するため、軸受の取付現場では、軸受を取り付ける際に所定の保管場所から検査成績証を探して持ってこなければならず、寸法確認作業に手間を要していた。また、特許文献1記載の発明にあっては、軸受出荷前に軸受を選定するために寸法情報を提示するものであり、軸受出荷後は、寸法情報が検査成績証により提供されるので上記同様の問題が発生する。
この問題を解決するため、主要3寸法その他の諸元を示す諸元情報をバーコードとして軸受の表面に刻印する方法が考えられる。これにより、作業時にバーコードを読み取れば、諸元情報をその場で得ることができ、作業効率が向上する。
【0005】
一方、転がり軸受は、軸受内部を含む全面に防錆油を付着させ、フィルムに封入し、フィルム内を減圧して封止した状態で出荷される。このように減圧形態で出荷されるため、フィルムの真空引き時にフィルムにしわが発生する。そのため、軸受の表面にバーコードを刻印した場合、フィルムにより被覆された状態では、しわの影響によりバーコードが読み取れない可能性がある。この場合は、フィルムを一旦開封してからバーコードを読み取らなくてはならない。寸法によっては使用しない場合もあり、そのような場合まで開封しては作業効率が良くない。
そこで、本発明は、このような従来の技術の有する未解決の課題に着目してなされたものであって、軸受取付時における作業効率を向上するのに好適な転がり軸受の被覆方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る請求項1記載の転がり軸受の被覆方法は、内輪と、外輪と、前記内輪および前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備えた転がり軸受をフィルムにより被覆する方法であって、前記軸受の諸元に関する諸元情報を識別マークとして前記軸受の表面に刻印する刻印工程と、2つのフィルム間または袋状のフィルム内に前記軸受を配置し、前記フィルム面のうち前記識別マークの刻印面に位置する部分を当該刻印面に押し当てながら前記フィルム内を減圧する減圧工程と、前記フィルムの開口部を閉鎖する閉鎖工程とを含む。
これにより、フィルム面のうち識別マークの刻印面に位置する部分を刻印面に押し当てながら減圧するため、識別マークの刻印面付近にしわが発生するのを抑制することができる。そのため、フィルムに被覆された状態でも識別マークを読み取ることができる。
【0007】
さらに、本発明に係る請求項2記載の転がり軸受の被覆方法は、内輪と、外輪と、前記内輪および前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備えた転がり軸受をフィルムにより被覆する方法であって、前記軸受の諸元に関する諸元情報を識別マークとして前記軸受の表面に刻印する刻印工程と、2つのフィルム間または袋状のフィルム内に前記軸受を配置し、前記軸受の上面および下面の一方の面に接する前記フィルム面のうち前記内輪の内側空隙部に位置する部分を前記上面および下面の他方の面に向かって押圧しながら前記フィルム内を減圧する減圧工程と、前記フィルムの開口部を閉鎖する閉鎖工程とを含む。
【0008】
これにより、軸受の上面および下面の一方の面に接するフィルム面のうち内輪の内側空隙部に位置する部分を上面および下面の他方の面に向かって押圧しながら減圧するため、識別マークの刻印面を含む軸受の表面にしわが発生するのを抑制することができる。そのため、フィルムに被覆された状態でも識別マークを読み取ることができる。
【0009】
さらに、本発明に係る請求項3記載の転がり軸受の被覆方法は、内輪と、外輪と、前記内輪および前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備えた転がり軸受をフィルムにより被覆する方法であって、前記軸受の諸元に関する諸元情報を識別マークとして前記軸受の表面に刻印する刻印工程と、2つのフィルム間または袋状のフィルム内に前記軸受を配置し、前記軸受を挟んで前記フィルムの両端に張力を加えながら前記フィルム内を減圧する減圧工程と、前記フィルムの開口部を閉鎖する閉鎖工程とを含む。
これにより、軸受を挟んでフィルムの両端に張力を加えながら減圧するため、識別マークの刻印面を含む軸受の表面にしわが発生するのを抑制することができる。そのため、フィルムに被覆された状態でも識別マークを読み取ることができる。
【0010】
さらに、本発明に係る請求項4記載の転がり軸受の被覆方法は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の転がり軸受の被覆方法において、前記刻印工程は、前記識別マークを前記外輪の側面に刻印する。
これにより、識別マークが外輪の側面に刻印されているため、軸受取付時にハウジング等と重なり合って隠蔽されることなく、読み取りやすい。
さらに、本発明に係る請求項5記載の転がり軸受の被覆方法は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の転がり軸受の被覆方法において、前記閉鎖工程は、前記フィルムの開口部を熱により接着する。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明に係る請求項1ないし5記載の転がり軸受の被覆方法によれば、フィルムに被覆された状態でも識別マークを読み取ることができるので、軸受取付作業にあたってフィルムを開封しなくてすむ。また、識別マークを読み取らせるだけでその諸元情報が得られる。したがって、従来に比して、軸受取付時における作業効率を向上することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の第1の実施の形態を図面を参照しながら説明する。図1ないし図4は、本発明に係る転がり軸受の被覆方法の第1の実施の形態を示す図である。
まず、本発明を適用するアンギュラ玉軸受10の構成を説明する。
図1は、アンギュラ玉軸受10の断面図である。
アンギュラ玉軸受10は、図1に示すように、内輪1と、外輪2と、内輪1および外輪2の間で転動自在に配設された複数の玉(転動体3)と、保持器4とからなる。
また、アンギュラ玉軸受10は、軸受全面に、ペントロタムを含有しない防錆油が、40μm以下の油膜厚さで付着されている(図示せず)。さらに、内輪1および外輪2の間に形成され玉3が配設された空隙部内には、グリース5が封入されている。
【0013】
図2は、アンギュラ玉軸受10の上面図である。
外輪2の側面には、図2に示すように、2次元バーコード(例えば、QRコード)8が刻印されている。2次元バーコード8には、管理番号、軸受の種別ごとに割り当てられる呼び番号、主要3寸法、玉径、球数およびPDCを示す寸法情報、グリースの銘柄および封入量を示すグリース情報、回転精度並びに製造ロット番号が含まれている。管理番号は、軸受ごとに割り当てられる製品シリアル番号、および製品シリアル番号から所定の演算式により求められる照合番号から構成される。照合番号は、情報の真偽を判定するために用いられる。
【0014】
図3は、アンギュラ玉軸受10の斜視図である。
アンギュラ玉軸受10は、図3に示すように、気化性防錆フィルム(アイセロ化学社製,ボーセロン)6からなる袋内に包装されて、袋内部が減圧状態に保持されている。フィルム6の周縁7は熱圧着されている。熱圧着とは、両方または一方の材料に熱により可塑性を生じさせて圧力をかけて接合することをいう。
【0015】
次に、アンギュラ玉軸受10の被覆方法を説明する。
図4は、アンギュラ玉軸受10の被覆方法を示す図である。
まず、図4(a)に示すように、レーザにより外輪2の側面に2次元バーコード8を刻印する。次いで、図4(b)に示すように、アンギュラ玉軸受10の下面に第1のフィルム6を敷き、アンギュラ玉軸受10の上面に第2のフィルム6を被せ、2枚のフィルム6の間にアンギュラ玉軸受10を配置する。次いで、図4(c)に示すように、2枚のフィルム6の周縁7を固定するとともに、第2のフィルム面のうち2次元バーコード8の刻印面に位置する部分を刻印面に押し当てながらフィルム内を減圧する。そして、図4(d)に示すように、2枚のフィルム6の全周をむら無く熱圧着する。
【0016】
このようにして、本実施の形態では、アンギュラ玉軸受10の諸元に関する諸元情報を2次元バーコード8としてアンギュラ玉軸受10の表面に刻印し、2つのフィルム6の間にアンギュラ玉軸受10を配置し、フィルム面のうち2次元バーコード8の刻印面に位置する部分を刻印面に押し当てながらフィルム内を減圧し、フィルム6の全周を熱圧着した。
【0017】
これにより、2次元バーコード8の刻印面にしわが発生するのを抑制することができる。そのため、フィルム6に被覆された状態でも2次元バーコード8を読み取ることができるので、軸受取付作業にあたってフィルム6を開封しなくてすむ。また、2次元バーコード8を読み取らせるだけでその諸元情報が得られる。したがって、従来に比して、軸受取付時における作業効率を向上することができる。
さらに、本実施の形態では、2次元バーコード8を外輪2の側面に刻印した。
これにより、2次元バーコード8が軸受取付時にハウジング等と重なり合って隠蔽されることなく、読み取りやすい。
【0018】
次に、本発明の第2の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図5は、第2の実施の形態に係るアンギュラ玉軸受10の被覆方法を示す図である。
まず、図5(a)に示すように、レーザにより外輪2の側面に2次元バーコード8を刻印する。次いで、図5(b)に示すように、アンギュラ玉軸受10の下面に第1のフィルム6を敷き、アンギュラ玉軸受10の上面に第2のフィルム6を被せ、2枚のフィルム6の間にアンギュラ玉軸受10を配置する。次いで、図5(c)に示すように、2枚のフィルム6の周縁7を固定するとともに、第2のフィルム面のうち内輪1の内側空隙部に位置する部分を下面に向かって押圧しながらフィルム内を減圧する。そして、図5(d)に示すように、2枚のフィルム6の全周をむら無く熱圧着する。
このような方法であっても、第1の実施の形態と同様に、アンギュラ玉軸受10の表面にしわが発生するのを抑制することができるので、フィルム6に被覆された状態でも2次元バーコード8を読み取ることができる。
【0019】
次に、本発明の第3の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図6は、第3の実施の形態に係るアンギュラ玉軸受10の被覆方法を示す図である。
まず、図6(a)に示すように、レーザにより外輪2の側面に2次元バーコード8を刻印する。次いで、図6(b)に示すように、アンギュラ玉軸受10の下面に第1のフィルム6を敷き、アンギュラ玉軸受10の上面に第2のフィルム6を被せ、2枚のフィルム6の間にアンギュラ玉軸受10を配置する。次いで、図6(c)に示すように、2枚のフィルム6の周縁7を固定するとともに、フィルム6の周縁7を外側に引っ張りながらフィルム内を減圧する。そして、図6(d)に示すように、2枚のフィルム6の全周をむら無く熱圧着する。
【0020】
このような方法であっても、第1の実施の形態と同様に、アンギュラ玉軸受10の表面にしわが発生するのを抑制することができるので、フィルム6に被覆された状態でも2次元バーコード8を読み取ることができる。
なお、上記第1ないし第3の実施の形態においては、2枚のフィルム6によりアンギュラ玉軸受10を被覆したが、これに限らず、袋状のフィルムにアンギュラ玉軸受10を封入してもよい。この場合、上記第1ないし第3の実施の形態と同様にフィルムのポケットを熱圧着すればよい。
また、上記第1ないし第3の実施の形態においては、アンギュラ玉軸受10を適用したが、これに限定するものではなく、深溝玉軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受などを適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】アンギュラ玉軸受10の断面図である。
【図2】アンギュラ玉軸受10の上面図である。
【図3】アンギュラ玉軸受10の斜視図である。
【図4】アンギュラ玉軸受10の被覆方法を示す図である。
【図5】第2の実施の形態に係るアンギュラ玉軸受10の被覆方法を示す図である。
【図6】第3の実施の形態に係るアンギュラ玉軸受10の被覆方法を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 内輪
2 外輪
3 玉(転動体)
4 保持器
5 グリース
6 気化性防錆フィルム
8 2次元バーコード
10 アンギュラ玉軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪および前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備えた転がり軸受をフィルムにより被覆する方法であって、
前記軸受の諸元に関する諸元情報を識別マークとして前記軸受の表面に刻印する刻印工程と、2つのフィルム間または袋状のフィルム内に前記軸受を配置し、前記フィルム面のうち前記識別マークの刻印面に位置する部分を当該刻印面に押し当てながら前記フィルム内を減圧する減圧工程と、前記フィルムの開口部を閉鎖する閉鎖工程とを含むことを特徴とする転がり軸受の被覆方法。
【請求項2】
内輪と、外輪と、前記内輪および前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備えた転がり軸受をフィルムにより被覆する方法であって、
前記軸受の諸元に関する諸元情報を識別マークとして前記軸受の表面に刻印する刻印工程と、2つのフィルム間または袋状のフィルム内に前記軸受を配置し、前記軸受の上面および下面の一方の面に接する前記フィルム面のうち前記内輪の内側空隙部に位置する部分を前記上面および下面の他方の面に向かって押圧しながら前記フィルム内を減圧する減圧工程と、前記フィルムの開口部を閉鎖する閉鎖工程とを含むことを特徴とする転がり軸受の被覆方法。
【請求項3】
内輪と、外輪と、前記内輪および前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備えた転がり軸受をフィルムにより被覆する方法であって、
前記軸受の諸元に関する諸元情報を識別マークとして前記軸受の表面に刻印する刻印工程と、2つのフィルム間または袋状のフィルム内に前記軸受を配置し、前記軸受を挟んで前記フィルムの両端に張力を加えながら前記フィルム内を減圧する減圧工程と、前記フィルムの開口部を閉鎖する閉鎖工程とを含むことを特徴とする転がり軸受の被覆方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記刻印工程は、前記識別マークを前記外輪の側面に刻印することを特徴とする転がり軸受の被覆方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記閉鎖工程は、前記フィルムの開口部を熱により接着することを特徴とする転がり軸受の被覆方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−191203(P2007−191203A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12532(P2006−12532)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】