説明

転がり軸受装置

【課題】簡単な構造によって油圧供給源から供給される油の油圧低下を抑制しながら油を軸部材の油路に導くことができる転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】外輪41と内輪51との間に複列の転動体61、66が配設される。複列の転動体61、66の中間に位置する外輪41と内輪51との軸方向部分に、油圧供給源から供給される油を軸部材20の油路25に導くための外輪孔47と内輪孔57とがそれぞれ形成される。外輪41と内輪51との間には、外輪孔47と内輪孔57の一方との間で滑り軸受を構成するスリーブが配設される。スリーブ70には、外輪孔47と内輪孔57とを連通する連通孔71が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カムシャフト、バランサシャフト等の軸部材の油路に油圧を供給する転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、カムシャフトの軸端に組み付けられる可変バルブタイミング機構に油圧を供給するために、例えば、シリンダヘッドとキャップ部材との間に構成されるカムジャーナル(1番ジャーナル)にカムシャフトを回転可能に支持する滑り軸受にカムシャフトの油路に連通する連通孔が形成されたものが知られている(特許文献1参照)。
また、滑り軸受は、転がり軸受に比べ摩擦抵抗によるトルク損失が大きい。このため、カムジャーナルに転がり軸受を用いてカムシャフトを回転可能に支持することが知られている。
しかしながら、滑り軸受に換えて摩擦抵抗が小さい転がり軸受によってカムシャフトを回転可能に支持した場合、転がり軸受の内部を通して油を供給する構成となる。
この場合、油圧供給源から供給される油が転がり軸受の内部を通してカムシャフトの油路に流れる際、転がり軸受の内部において油圧が低下し、可変バルブタイミング機構に悪影響を及ぼすことが想定される。
また、転がり軸受の内部に流入した油が転がり軸受の転動体の転動抵抗となることも想定される。
そこで、油圧供給源から供給される油圧の低下を抑制しながら油をカムシャフト側の油路に導くようにした転がり軸受装置が、例えば、特許文献2に開示されている。
特許文献2においては、転がり軸受の外輪に油圧供給源に通じる油孔が形成される。
また、外輪の複列の外輪軌道面の間に位置する内周面に、軸方向に所定間隔を隔て両環状溝がそれぞれ形成され、これら両環状溝に外径部分が嵌込まれて環状の両シール部材が配設される。そして、両シール部材の間に、外輪の油孔をカムシャフトの油路にシール状態を保って連通させる連通路が構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−327362号公報
【特許文献2】特開2011−27083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献2においては、油圧供給源から供給される油圧の低下を抑制しながら油を軸部材(カムシャフト)の油路に導くことができる。
しかしながら、特許文献2においては、外輪の内周面に、軸方向に所定間隔を隔て両環状溝を形成し、これら両環状溝に両シール部材の外径部分を嵌込んで組み付けなければならず、部品点数や組付工数が多くなりコスト高となる。
【0005】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、簡単な構造によって油圧供給源から供給される油圧の低下を抑制しながら油を軸部材の油路に導くことができる転がり軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明の請求項1に係る転がり軸受装置は、外輪と内輪との間に複列の転動体が配設され、
前記複列の転動体の中間に位置する前記外輪と前記内輪との軸方向部分に、油圧供給源から供給される油を軸部材の油路に導くための外輪孔と内輪孔とがそれぞれ形成され、
前記外輪と前記内輪との間には、前記外輪孔又は前記内輪孔の一方との間で滑り軸受を構成するスリーブが配設され、
前記スリーブには、前記外輪孔と前記内輪孔とを連通する連通孔が形成されていることを特徴とする。
【0007】
前記構成によると、油圧供給源から供給される油は、外輪孔と、連通孔と、内輪孔とを順に経て軸部材の油路に導かれる。
また、スリーブは、シール部材としても機能するため、外輪孔、連通孔及び内輪孔に流入した油が複列の転動体側へ漏出することを抑制することができる。
前記したように、外輪と内輪との間に、スリーブを配設するという極めて簡単な構造によって、油圧の低下を抑制しながら油を軸部材の油路に良好に導くことができる。
【0008】
請求項2に係る転がり軸受装置は、請求項1に記載の転がり軸受装置であって、
外輪の内周面の両端部には、外輪軌道面よりも小径の端鍔部がそれぞれ形成され、
前記外輪の内周面のスリーブが配設される部分には、中間鍔部が形成され、
前記中間鍔部の内径寸法は、前記端鍔部の内径寸法よりも小さく設定され、
前記中間鍔部の内周面に前記スリーブが嵌合されていることを特徴とする。
【0009】
前記構成によると、外輪の中間鍔部の内径寸法が、端鍔部の内径寸法よりも小さく設定されるため、外輪の中間鍔部の内周面を旋削加工する際や中間鍔部の内周面にスリーブを圧入によって嵌合する際に、端鍔部が妨害物とならない。このため、外輪の中間鍔部の加工や中間鍔部の内周面に対するスリーブの組み付けが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施例1に係る転がり軸受装置がカムシャフトの1番ジャーナルに採用された状態を示す縦断面図である。
【図2】この発明の実施例1に係る転がり軸受装置を拡大して示す縦断面図である。
【図3】スリーブの変更例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0012】
この発明の実施例1を図面にしたがって説明する。
この発明の実施例1に係る転がり軸受装置は、カムシャフトに採用される場合を例示するものであり、図1に示すように、シリンダヘッド1とキャップ部材5との間に構成されるカムジャーナル(例えば、1番ジャーナル)に、軸部材としてのカムシャフト20を回転可能に支持する。
【0013】
なお、カムシャフト20は、軸体21と、この軸体21の軸上に所定間隔を隔てて配置される複数のカム駒22とを備えている。
カムシャフト20には径方向の縦孔26と軸方向の横孔27とを有する油路25が形成されている。
また、カムシャフト20の軸体21の一端面には、ノックピン23が打ち込まれ、軸体21の一端部にはノックピン23によって位置決めされた状態でタイミングギヤ33、可変バルブタイミング機構31が組み付けられる。
そして、可変バルブタイミング機構31には、カムシャフト20側の油路25の横孔27の端部が連通して接続される。また、キャップ部材5には、油圧供給源(油圧ポンプ)に通じる油孔7が形成される。
【0014】
転がり軸受装置は、転がり軸受40と、滑り軸受を構成するスリーブ70とを備えている。
転がり軸受40は、外輪41と、内輪51と、複列の転動体としてのころ61、66と、保持器62、67とを備えている。
外輪41は、シリンダヘッド1の円弧凹部とキャップ部材5の円弧凹部との間に締め付けられて固定される。この外輪41の内周面には、複列のころ61、66に対応する両外輪軌道面45、46が軸方向に所定距離を隔てて形成されている。
また、外輪41の内周面の両端部には、両外輪軌道面45、46よりも小径の端鍔部42、43がそれぞれ形成されている。
さらに、外輪41の内周面の両外輪軌道面45、46の間(後述するスリーブ70が配設される部位)には、中間鍔部44が形成されている。
そして、中間鍔部44の内径寸法Aは、端鍔部42、43の内径寸法Bよりも小径に設定されている。
【0015】
内輪51は、カムシャフト20の軸体21の外周面に圧入されて固定される円筒状に形成され、その外周面には、両外輪軌道面45、46に対応する両内輪軌道面55、56が軸方向に所定距離を隔てて形成されている。
そして、外輪41の両外輪軌道面45、46と、内輪51の両内輪軌道面55、56ととの間には、保持器62、67によって保持された状態で複列のころ61、66が転動可能に組み付けられる。
【0016】
図2に示すように、複列のころ61、66の中間に位置する外輪41と内輪51との軸方向部分には、油圧供給源から供給される油をカムシャフト20の油路25に導くための外輪孔47と内輪孔57とがそれぞれ形成されている。
また、外輪41と、内輪51との間には、外輪孔47と内輪孔57との一方との間で滑り軸受を構成するスリーブ70が配設されている。
スリーブ70は、外輪41や内輪51よりも軟質の金属(例えば銅系金属)又は合成樹脂材によって円筒状に形成されている。
そして、スリーブ70は、外輪41の中間鍔部44の内周面に嵌合(圧入嵌合)されて固定される一方、スリーブ70の内周面と内輪51の外周面との間には微小な隙間80が設定されている。
また、スリーブ70には、外輪孔47と内輪孔57とを連通する連通孔71が形成されている。
また、スリーブ70の連通孔71と内輪孔57とを常時連通させるために、例えば、スリーブ70の内周面側に開口する連通孔71の開口端には、スリーブ70の内周面に沿って環状をなす環状溝72が形成されている。
【0017】
この実施例1に係る転がり軸受装置は上述したように構成される。
したがって、油圧供給源からキャップ部材5の油孔7に油(油圧)が供給ると、外輪41の外輪孔47と、スリーブ70の連通孔71と、内輪51の内輪孔57とを順に経て、カムシャフト20の油路25に導かれる。そして、油路25から可変バルブタイミング機構31に供給される油圧によってタイミングギヤ33とカムシャフト20とが相対的に回転制御(進角制御あるいは遅角制御)される。
【0018】
前記したように、油圧供給源から供給される油が、外輪41の外輪孔47と、スリーブ70の連通孔71と、内輪51の内輪孔57とを順に経て、カムシャフト20の油路25に導かれる際、スリーブ70は、シール部材としても機能する。
このため、外輪孔47、連通孔71及び内輪孔57に流入した油が複列のころ61、66へ向けて過剰に漏出することを抑制することができる。
このように、外輪41と内輪51との間に、スリーブ70を配設するという極めて簡単な構造によって、油圧の低下を抑制しながら油をカムシャフト20の油路25に良好に導くことができる。
また、長期間の使用によって複列のころ61、66が摩耗した場合、スリーブ70の内周面が内輪51の外周面に接して摺動するため、軸受機能の延命を果たすことも可能となる。
【0019】
また、この実施例1において、外輪41の中間鍔部44の内径寸法Aが、端鍔部42、43の内径寸法Bよりも小さく設定されている。このため、外輪41の中間鍔部44の内周面を旋削加工する際や、中間鍔部44の内周面にスリーブ70を圧入によって嵌合する際に、端鍔部42、43が妨害物とならない。このため、外輪41の中間鍔部44の加工や中間鍔部44の内周面に対するスリーブ70の組み付けが容易となる。
【0020】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施することができる。
例えば、前記実施例1においては、スリーブ70が、外輪41の中間鍔部44の内周面に嵌合(圧入嵌合)されて固定される一方、スリーブ70の内周面と内輪51の外周面との間に微小な隙間80が設定される場合を例示したが、図3に示すように、スリーブ70が、外輪41の中間鍔部44に位置する内輪51の外周面に嵌合(圧入嵌合)されて固定される一方、中間鍔部44の内周面との間に微小な隙間80が設定されるように配設されても同等の作用効果を奏する。
また、前記実施例1においては、カムシャフトに採用される転がり軸受装置である場合を例示したが、軸部材の油路に油圧を供給する必要があるクランクシャフト、バランサシャフト等に対してもこの発明の転がり軸受装置を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0021】
20 カムシャフト(軸部材)
25 油路
40 転がり軸受
41 外輪
42、43 端鍔部
44 中間鍔部
45、46 外輪軌道面
47 外輪孔
51 内輪
55、56 内輪軌道面
57 内輪孔
61、66 ころ(転動体)
70 スリーブ
71 連通孔
72 環状溝
80 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪との間に複列の転動体が配設され、
前記複列の転動体の中間に位置する前記外輪と前記内輪との軸方向部分に、油圧供給源から供給される油を軸部材の油路に導くための外輪孔と内輪孔とがそれぞれ形成され、
前記外輪と前記内輪との間には、前記外輪孔又は前記内輪孔の一方との間で滑り軸受を構成するスリーブが配設され、
前記スリーブには、前記外輪孔と前記内輪孔とを連通する連通孔が形成されていることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受装置であって、
外輪の内周面の両端部には、外輪軌道面よりも小径の端鍔部がそれぞれ形成され、
前記外輪の内周面のスリーブが配設される部分には、中間鍔部が形成され、
前記中間鍔部の内径寸法は、前記端鍔部の内径寸法よりも小さく設定され、
前記中間鍔部の内周面に前記スリーブが嵌合されていることを特徴とする転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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