説明

転倒危険度判定装置

【課題】被計測者の転倒する危険性を正確に把握する。
【解決手段】被計測者が圧力分布センサ11からの圧力分布データに基づいて歩行機能を示すパラメータの値を算出する。複数のパラメータの値及び転倒履歴データベースを用いてロジスティック回帰分析により数値化された転倒危険度を転倒危険度データベースとして転倒危険度データベース記憶部138に記憶している。転倒危険度判定部151は、パラメータ算出部141によって算出された被計測者についてのパラメータの値及び転倒危険度データベースに基づいて、被計測者の転倒する危険性を示す転倒危険度を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療及びリハビリにおいて患者の転倒する危険性を示す転倒危険度を判定する転倒危険度判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
患者(被計測者)の歩行状態を計測する装置として、多数の感圧センサを有する圧力分布センサを備え、当該圧力分布センサ上を患者が歩行したときの足裏にかかる荷重と足位置とを計測する技術が知られている(特許文献1参照)。この技術によると、患者の足裏の荷重状態が数値化されて理想的な荷重状態との差を客観的に把握することができる。このため、患者の歩行状態を把握しながら効率的な歩行訓練を行うことができる。
【0003】
【特許文献1】特開2000−308698号公報(図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
医療及びリハビリにおける歩行訓練の目的の一つに歩行時の転倒防止がある。
上述した技術によると、被計測者の歩行時の理想的な荷重状態との差であるふらつきを補正するように歩行訓練を行うことができる。しかしながら、歩行時のふらつきの大きさと転倒との間に直接的な因果関係がないため、患者の転倒する危険性を正確に把握することができない。このため、転倒防止を目的とした効率的な歩行訓練を行うことが難しい。
【0005】
本発明の主たる目的は、被計測者の転倒する危険性を正確に把握することができる転倒危険度判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明の転倒危険度判定装置は、被計測者から加えられる圧力をそれぞれ検知する複数の圧力検知領域を有する圧力分布センサと、前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値を圧力分布データとして記憶する検知データ記憶手段と、前記検知データ記憶手段に記憶された前記圧力分布データから歩行機能を示す1又は複数種類の評価指標に関する評価値を算出する評価値算出手段と、前記1又は複数種類の評価指標に関する複数の評価値及び各評価値に関連付けられた転倒する危険性を示す転倒危険度を含む転倒危険度データベースを記憶する転倒危険度データベース記憶手段と、前記評価値算出手段によって算出された前記被計測者についての前記1又は複数種類の評価指標に関する評価値、及び、前記転倒危険度データベース記憶手段に記憶された前記転倒危険度データベースに基づいて、当該被計測者に関する転倒危険度を判定する転倒危険度判定手段とを備えており、前記転倒危険度データベースが、他の複数の被計測者について算出された前記1又は複数種類の評価指標に関する評価値と、当該他の複数の被計測者についての転倒履歴との相関関係に基づいて生成されている。
【0007】
本発明によると、他の複数の被計測者についての各評価指標に関する評価値と転倒履歴との相関関係に基づいて生成された評価指標に関する複数の評価値及び各評価値に関連付けられた転倒危険度を含む転倒危険度データベースに基づいて、被計測者の転倒危険度を判定する。このように統計的な判断により、転倒危険度を判定するため、被計測者の転倒する危険性を正確に把握することができる。これにより、転倒を防止するための効率的な歩行訓練を行うことができる。
【0008】
また、本発明においては、前記評価値算出手段が複数種類の評価指標に関する評価値を算出し、前記転倒危険度判定手段が、前記評価値算出手段が算出した各評価値に関連付けられた転倒危険度を前記転倒危険度データベースに基づいて導出し、導出された当該転倒危険度同士を互いに掛け合わせることによって被計測者に関する転倒危険度を判定することが好ましい。これによると、複数の異なる歩行機能の評価指標に関する評価値から転倒危険度を判定するため、被計測者の転倒する危険性をより正確に把握することができる。
【0009】
さらに、本発明においては、前記評価値算出手段は、被計測者が、前記圧力分布センサ上に形成された基準直線に沿って踏み出した足の踵側端部が他方の足の爪先側端部に接するように歩行したときの前記圧力分布データに基づいて、評価値を算出することが好ましい。本発明の発明者らは、つぎ足歩行に関する評価指標と転倒危険度との関連性が強いことを知見した。これにより、被計測者の転倒する危険性をより一層正確に把握することができる。
【0010】
このとき、前記評価値算出手段が、前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、前記基準直線から前記重心位置までの距離を前記重心位置の前記基準直線に沿った移動距離で積分することによって比直線距離積分値を評価指標に関する評価値として算出する比直線距離積分値算出手段とをさらに備えていてもよい。
【0011】
また、前記評価値算出手段が、前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、前記圧力分布センサからの圧力分布データに含まれる前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値と閾値とを比較する比較手段と、前記比較手段によって前記圧力分布センサからの圧力分布データに含まれる前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値が閾値以上であるという比較結果が得られた場合に、それらの出力値を第1所定値に変換する第1の変換手段と、前記比較手段によって前記圧力分布センサからの圧力分布データに含まれる前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値が閾値より小さいという比較結果が得られた場合に、それらの出力値を前記第1所定値とは異なる第2所定値に変換する第2の変換手段と、被計測者から前記第1の変換手段によって前記第1所定値に変換された出力値及び前記第2の変換手段によって前記第2所定値に変換された出力値に対応した圧力が前記複数の圧力検知領域に対してそれぞれ加えられた場合の被計測者の重心位置に基づいて、前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置の基準となる基準位置を算出する基準位置算出手段と、前記重心位置算出手段が算出した重心位置と前記基準位置算出手段が算出した基準位置との相対距離である中心変位長をサンプリング時間ごとに算出する中心変位長算出手段と、計測時間内において、前記中心変位長算出手段が算出した中心変位長を積算し、歩数で除した各歩平均総中心変位長を評価指標に関する評価値として算出する各歩平均総中心変位長算出手段とをさらに備えていてもよい。
【0012】
加えて、前記評価値算出手段が、前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、前記圧力分布センサからの圧力分布データに含まれる前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値と閾値とを比較する比較手段と、前記比較手段によって前記圧力分布センサからの圧力分布データに含まれる前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値が閾値以上であるという比較結果が得られた場合に、それらの出力値を第1所定値に変換する第1の変換手段と、前記比較手段によって前記圧力分布センサからの圧力分布データに含まれる前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値が閾値より小さいという比較結果が得られた場合に、それらの出力値を前記第1所定値とは異なる第2所定値に変換する第2の変換手段と、被計測者から前記第1の変換手段によって前記第1所定値に変換された出力値及び前記第2の変換手段によって前記第2所定値に変換された出力値に対応した圧力が前記複数の圧力検知領域に対してそれぞれ加えられた場合の被計測者の重心位置に基づいて、前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置の基準となる基準位置を算出する基準位置算出手段と、前記重心位置算出手段が算出した重心位置と前記基準位置算出手段が算出した基準位置との相対距離である中心変位長をサンプリング時間ごとに算出する中心変位長算出手段と、計測時間内において、前記中心変位長算出手段が算出した中心変位長を積算し、歩数で除した各歩平均総中心変位長を算出する各歩平均総中心変位長算出手段と、前記各歩平均総中心変位長算出手段が算出した各歩平均総中心変位長のX方向成分の長さである各歩平均総X中心変位長を評価指標に関する評価値として算出する各歩平均総X中心変位長算出手段とをさらに備えていてもよい。
【0013】
さらに、前記評価値算出手段が、前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、前記重心位置算出手段が算出した重心位置の移動軌跡長を算出する重心移動軌跡長算出手段と、前記重心移動軌跡長算出手段が算出した重心移動軌跡長を、歩数で除した各歩平均軌跡長を評価指標に関する評価値として算出する各歩平均軌跡長算出手段とをさらに備えていてもよい。
【0014】
本発明の発明者らは、これらの評価指標と転倒危険度との関連性が特に強いことを知見した。したがって、これらの評価指標を用いることによって、被計測者の転倒する危険性をより一層正確に把握することができる。
【0015】
また、本発明においては、前記評価値算出手段は、前記圧力分布センサ上に形成された被計測者の両足が左右方向に揃った状態で配置しうる複数の両足配置領域間を、前記被計測者が各両足配置領域において両足を配置しつつ移動したときの前記圧力分布データに基づいて、評価値を算出することが好ましい。これによると、被計測者の両足が左右方向に揃った状態で配置されるため、被計測者が通常歩行する場合と比較して圧力分布センサの表面積を小さくすることができる。これにより、圧力分布センサの小型化及び低コスト化を図ることができる。また、被計測者が前後左右方向に移動したときの評価指標に関する評価値を得ることができるため、被計測者の転倒する危険性をより一層正確に把握することができる。
【0016】
このとき、前記評価値算出手段が前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、被計測者が前記両足配置領域上に両足を配置した状態で静止している静止時間を算出する静止時間算出手段と、前記静止時間算出手段が算出した静止時間内における、前記重心位置算出手段が算出した重心位置の移動軌跡長を算出する静止時重心移動軌跡長算出手段と、前記静止時重心移動軌跡長算出手段が算出した静止時重心移動軌跡長を、両足配置領域数で除した総軌跡長平均を評価指標に関する評価値として算出する総軌跡長平均算出手段とをさらに備えていてもよい。
【0017】
また、前記評価値算出手段が、前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、被計測者が前記計測領域上に両足を配置した状態で静止している静止時間を算出する静止時間算出手段と、前記静止時間算出手段が算出した静止時間内における、前記重心位置算出手段が算出した重心位置の移動軌跡長を算出する静止時重心移動軌跡長算出手段と、前記静止時重心移動軌跡長算出手段が算出した静止時重心移動軌跡長に、前記静止時間算出手段が算出した静止時間に対する所定の単位時間の比を乗じて、両足配置領域数で除した単位時間軌跡長平均を評価指標に関する評価値として算出する単位時間軌跡長平均算出手段とをさらに備えていてもよい。
【0018】
さらに、前記評価値算出手段が、前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、被計測者が前記計測領域上に両足を配置した状態で静止している静止時間を算出する静止時間算出手段と、前記静止時間算出手段が算出した静止時間内における、前記重心位置算出手段が算出した重心位置の移動軌跡が描かれた領域の面積を、両足配置領域数で除した外周面積平均を評価指標に関する評価値として算出する外周面積平均算出手段とをさらに備えていてもよい。
【0019】
本発明の発明者らは、これらの評価指標と転倒危険度との関連性が特に強いことを知見した。したがって、これらの評価指標を用いることによって、被計測者の転倒する危険性をより一層正確に把握することができる。
【0020】
また、本発明においては、他の複数の被計測者について算出された前記1又は複数種類の評価指標に関する評価値及び当該他の複数の被計測者についての転倒履歴を含む転倒履歴データベースを記憶する転倒履歴データベース記憶手段と、前記評価値算出手段が算出した被計測者についての1又は複数種類の評価指標に関する評価値及び当該被計測者についての転倒履歴が前記転倒履歴データベースに追加されるように前記転倒履歴データベースを更新する更新手段と、前記更新手段によって前記転倒履歴データベースが更新されたとき、前記転倒履歴データベースに基づいて前記転倒危険度データベースを再構築する再構築手段とをさらに備えていることが好ましい。これによると、更新された転倒履歴データベースに基づいて転倒危険度データベースが再構築されるため、被計測者の転倒する危険性をより一層正確に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る転倒危険度判定装置の概略構成を示す外観図である。図2は、図1の転倒危険度判定装置の概略構成を示すブロック図である。
【0022】
転倒危険度判定装置1は、被計測者の転倒する危険性を示す「転倒危険度」を判定するものである。図1及び図2に示すように、転倒危険度判定装置1は、シート状の圧力分布センサ11と、圧力分布センサ11に接続された圧力検出部12と、パーソナルコンピュータ(パソコン)20と、圧力検出部12とパソコン20とを接続する接続ユニット40とを備えている。接続ユニット40は、インターフェースボックス45及びインターフェースケーブル46を含んでおり、その両端が圧力検出部12及びパソコン20の各入出力インターフェース(図示しない)に接続されている。
【0023】
圧力分布センサ11は、被計測者がその上に立つ場合に、被計測者の両足から加えられる圧力を検知する圧力検知領域となる多数の感圧センサ11aが格子状に配置されたものである。圧力検出部12は、多数の感圧センサ11aのそれぞれに接続されており、各感圧センサ11aの状態を検出する。本実施形態では、圧力分布センサ11の厚さは、約0.1〜0.2mmである。ここで、本実施形態では、各感圧センサ11aの状態は、それらに加えられる圧力に対応した0〜255のデジタル出力値によって表され、その出力値がパソコン20に対して出力される。
【0024】
圧力分布センサ11の大きさは、計測時における圧力分布センサ11上での被計測者の動作内容によって決定される。また、圧力分布センサ11は、シート単体での使用も可能であるが、シートの保護の観点から、ゴムシートを緩衝用に積層してもよい。また、床上へのセッティングを容易にする目的でセンサを保持するアルミなどの金属製や樹脂製の板の上に積層してもよい。
【0025】
図2に示すように、パソコン20は、ディスプレイ21と、キーボード25と、マウス26と、制御部30とを有している。ここで、制御部30には、転倒危険度判定装置1に係る各種動作を制御する転倒危険度判定プログラムやデータなどが格納されたハードディスク、転倒危険度判定装置1の各部の動作を制御する信号を生成するために各種演算を実行するCPU、CPUでの演算結果などのデータを一時保管するRAMなどが含まれている。
【0026】
制御部30は、モード設定部131と、検知データ記憶部132と、評価値算出部150と、計測領域記憶部133と、重心位置記憶部134と、基準位置記憶部135と、中心変位長記憶部136と、転倒危険度データベース記憶部138と、転倒履歴データベース記憶部139と、表示制御部142と、転倒危険度判定部151と、更新部152と、再構築部153とを有している。また、制御部30には、ディスプレイ21と、キーボード25と、マウス26とがそれぞれ接続されている。
【0027】
モード設定部131は、被計測者の「転倒危険度」を判定するのに用いる複数のパラメータの値(評価指標に関する評価値)を計測する各モードの設定を行うものである。本実施形態では、モード設定部131は、「つぎ足モード」、「ステップモード」の計2つのモードが設定可能となっている。「つぎ足モード」におけるパラメータは、「比直線距離積分値」、「各歩平均総中心変位長」、「各歩平均総X中心変位長」及び「各歩平均軌跡長」である。「ステップモード」におけるパラメータは、「総軌跡長平均」、「単位時間軌跡長平均」及び「外周面積平均」である。オペレータが、マウス26などを操作することによって、「つぎ足モード」又は「ステップモード」のいずれかが選択的に設定される。各モードにおいて被計測者が行う動作内容が異なる。各モードの動作内容について図3、4を参照しつつ説明する。図3は「つぎ足モード」の動作内容を示した図である。図4は「ステップモード」の動作内容を示した図である。なお、図中に示された足形は、圧力分布センサ11上に配置された被計測者の足の配置位置を示している。
【0028】
図3に示すように、「つぎ足モード」では、圧力分布センサ11の短手方向中央に、長手方向に沿って延びた直線11bが形成されている。「つぎ足歩行」は、被計測者が圧力分布センサ11上に形成された直線11bに沿って、踏み出した足の踵側端部が他方の足の爪先側端部に接するように歩行する動作をいう。
【0029】
図4に示すように、「ステップモード」では、圧力分布センサ11上において、「1」〜「6」の番号が付された矩形状を有する6つの両足配置領域11cが形成されている。各両足配置領域11cは、被計測者の両足が左右方向に揃った状態で配置可能な面積を有している。なお、両足配置領域11cの数は6に限られるものではなく、圧力分布センサの面積に応じて任意の数の両足配置領域が形成されてもよい。
【0030】
「ステップ歩行」は、被計測者が、各両足配置領域11cに両足を左右方向に揃った状態で配置させつつ両足配置領域11c間を移動する動作をいう。なお、図4においては、被計測者が両足配置領域11c「1」から両足配置領域11c「2」に移動する場合が示されている。後述するように、被計測者が移動すべき両足配置領域11cが計測領域11dとなる。「ステップモード」において、評価値算出部150は、計測領域11d上に被計測者が移動することを前提に評価を行う。
【0031】
図2に戻って、検知データ記憶部132は、圧力検出部12から接続ユニット40を介してパソコン20に送信された圧力分布データを記憶するものである。検知データ記憶部132には、圧力分布センサ11に格子状に配置された多数の感圧センサ11aごとに、計測時間内におけるサンプリング時間おきの圧力分布データが記憶されている。つまり、各サンプリング時間における多数の感圧センサ11aの圧力分布データが、サンプリング時間の数だけ記憶されている。従って、この圧力分布データに基づいて、各感圧センサ11aで検知される圧力の時間的な変化を把握することができる。
【0032】
評価値算出部150は、「転倒危険度」を判定するのに用いる複数のパラメータの値及びその各パラメータの値を算出するために用いられる複数の値を算出するものである。評価値算出部150は、計測領域決定部140と、重心位置算出部143と、比較部144と、変換部145と、基準位置算出部146と、中心変位長算出部147と、静止時間算出部148と、重心移動軌跡長算出部149と、静止時重心移動軌跡長算出部154と、パラメータ算出部141とを有している。
【0033】
計測領域決定部140は、「ステップモード」において、両足配置領域11c「1」〜「6」から順次選択されたいずれか1つを計測領域11dとして決定すると共に決定した計測領域11dを計測領域記憶部133に記憶するものである(図4参照)。計測領域11dは、「ステップ歩行」において被計測者が次に移動すべき両足配置領域11cである。例えば、図4においては、両足配置領域11c「2」が計測領域11dとして決定されている。計測領域決定部140は、被計測者が各両足配置領域11c上で静止してから所定時間経過するごとに、予め定められたパターンに基づいて次の計測領域11dを決定する。なお、計測領域11dは両足配置領域11c「1」〜「6」からランダムに決定されてもよいし、オペレータからの指示に基づいて決定されてもよい。また、計測領域11dを決定するタイミングも任意のものであってもよい。
【0034】
重心位置算出部143は、検知データ記憶部132に記憶された圧力分布データに基づいて、サンプリング時間ごとに圧力分布センサ11上の被計測者の重心位置Cf(図6参照)を算出すると共に算出した重心位置Cfを重心位置記憶部134に記憶するものである。
【0035】
重心位置算出部143における重心位置Cfの算出方法について、図5を参照して説明する。図5は、所定時間において多数の感圧センサ11aで検知される圧力分布データを示している。本実施形態の圧力分布センサ11では、多数の感圧センサ11aが、X軸方向(左右方向)にm+1列に配置されていると共に、Y軸方向(上下方向)にn+1列に配置されている。従って、多数の感圧センサ11aは、(m+1)×(n+1)の格子状に配置されている。
【0036】
また、図5では、各感圧センサ11aで検知された圧力データが記号で示されている。例えば、X軸方向にはu列目であって且つY軸方向にはv列目に対応する感圧センサ11aによって検知される圧力データは、a(u、v)(但し、uは0以上m以下の整数、vは0以上n以下の整数)と表されている。
【0037】
この場合のX軸方向の重心位置Cfxは、次数式で算出される。
【0038】
【数1】

【0039】
また、Y軸方向の重心位置Cfyは、次数式で算出される。
【0040】
【数2】

【0041】
図2に戻って、比較部144は、各感圧センサ11aで検知された出力値と、閾値1とを比較するものである。上述したように、各感圧センサ11aで検知された出力値は、0〜255のデジタル出力値によって表される。各感圧センサ11aから出力がある場合には、その出力値は閾値1以上になる。
【0042】
変換部145は、比較部144において、各感圧センサ11aで検知された出力値が閾値1以上であるという比較結果が得られた場合に、それらの出力値を1(第1所定値)に変換し、比較部144において、各感圧センサ11aで検知された出力値が閾値1よりも小さいという比較結果が得られた場合、言い換えれば、検知された出力値が0の場合に、それらの出力値を0(第2所定値)に変換するものである。従って、変換部145では、圧力分布センサ11において、被計測者の足裏が接触する領域である接触領域が1に、被計測者の足裏が接触しない領域である非接触領域が0になるように2値化変換する。
【0043】
被計測者が圧力分布センサ11上に両足を配置したときの出力値が2値化変換されたものの一例を図6に示す。なお、図6においては、出力値が0に変換された領域を白で、出力値が1に変換された領域を黒で示している。また、後述する基準位置をCpで、重心位置をCfで示している。図6に示すように、各感圧センサ11aの出力値が2値化変換されることにより、被計測者の両足と圧力分布センサ11との接触領域を正確に検知することができる。
【0044】
図2に戻って、基準位置算出部146は、サンプリング時間ごとに、圧力分布センサ11における被計測者の足裏との接触領域の中心位置(面積中心)を基準位置Cpとして算出するものである。このとき、X軸方向に関する基準位置Cpxは、次数式で算出される。
【0045】
【数3】

【0046】
また、Y軸方向に関する基準位置Cpyは、次式で算出される。
【0047】
【数4】

【0048】
ここで、数式3及び数式4においては、圧力データa(u、v)としては、変換部145によって変換された後の出力値が用いられる。つまり、各感圧センサ11aで検知された出力値が閾値1以上である場合には、それらの出力値は全て1として、一方、その出力値が閾値1より小さい場合には、それらの出力値は全て0として、数式3及び数式4によって基準位置Cpが算出される。算出された基準位置Cpは順次基準位置記憶部135に記憶される。つまり、サンプリング時間ごとに、被計測者の重心位置Cfが重心位置記憶部134に記憶されると共に基準位置Cpが基準位置記憶部135に記憶される。
【0049】
中心変位長算出部147は、重心位置算出部143が算出した重心位置Cfと、基準位置算出部146が算出した基準位置Cpとの相対距離である「中心変位長」をサンプリング時間ごとに算出すると共に算出した「中心変位長」を中心変位長記憶部136に記憶するものである。つまり、「中心変位長」は、計測時間内における各サンプリング時間に対応する数だけ算出される。
【0050】
静止時間算出部148は、被計測者が圧力分布センサ11上に両足を配置した状態で静止している時間(以下、「静止時間」と称す)を算出するものである。静止時間算出部148は、圧力分布センサ11上における被計測者の両足と接触している接触領域が、前のサンプリング時間との間で70%以上一致している間の時間を「静止時間」として算出する。
【0051】
重心移動軌跡長算出部149について図7を参照しつつ説明する。図7は圧力分布センサ11上における被計測者の重心位置Cfの移動軌跡を示した図である。図7に示すように、重心移動軌跡長算出部149は、重心位置Cfの移動軌跡長である「重心移動軌跡長」を算出するものである。具体的には、重心移動軌跡長算出部149は、各サンプリング時間に対応する重心位置Cfを重心位置記憶部134から順に読み出しつつ、隣接するサンプリング時間の重心位置Cf間の相対距離を積算することによって「重心移動軌跡長」を算出する。
【0052】
静止時重心移動軌跡長算出部154は、静止時間算出部148が算出した「静止時間」における重心位置Cfの移動軌跡長である「静止時重心移動軌跡長」を算出するものである。具体的には、静止時重心移動軌跡長算出部154は、静止時間算出部148によって算出された「静止時間」における各サンプリング時間に対応する重心位置Cfを重心位置記憶部134から時間順に読み出しつつ、隣接するサンプリング時間の重心位置Cf間の相対距離を積算することによって「静止時重心移動軌跡長」を算出する。
【0053】
パラメータ算出部141は、「転倒危険度」を判定するのに用いる複数のパラメータの値(本実施形態では、「比直線距離積分値」、「各歩平均総中心変位長」、「各歩平均総X中心変位長」、「各歩平均軌跡長」、「総軌跡長平均」、「単位時間軌跡長平均」及び「外周面積平均」)を算出するものである。パラメータ算出部141は、比直線距離積分値算出部141aと、各歩平均総中心変位長算出部141bと、各歩平均総X中心変位長算出部141cと、各歩平均軌跡長算出部141dと、総軌跡長平均算出部141eと、単位時間軌跡長平均算出部141fと、外周面積平均算出部141gとを含んでいる。
【0054】
比直線距離積分値算出部141aは、「つぎ足モード」において、重心位置記憶部134に記憶された被計測者の重心位置Cfに基づいて「比直線距離積分値」を算出するものである。「比直線距離積分値」について図8を参照しつつ説明する。図8は、歩行距離に伴う直線11bから被計測者の重心位置Cfまでの距離の変化を示した図である。なお、図8においては、縦軸に歩行距離を、横軸に直線11bから被計測者の重心位置Cfまでの距離をそれぞれ示している。前述したように、被計測者が直線11bに沿って「つぎ足歩行」を行うと、被計測者の歩行に伴って被計測者の重心位置Cfが変化する。図8に示すように、「比直線距離積分値」は、1回のつぎ足歩行計測において、直線11bから被計測者の重心位置Cfまでの距離を被計測者の歩行距離(移動距離)で積分したものである。
【0055】
各歩平均総中心変位長算出部141bは、「つぎ足モード」において、中心変位長記憶部136に記憶された被計測者の「中心変位長」に基づいて「各歩平均総中心変位長」を算出するものである。「各歩平均総中心変位長」は、1回のつぎ足歩行計測において、各サンプリング時間に対応するように算出された「中心変位長」を積算して、積算された「中心変位長」を1回のつぎ足歩行計測における歩数で除したものである。
【0056】
各歩平均総X中心変位長算出部141cは、「つぎ足モード」において、「各歩平均総中心変位長」におけるX方向成分の長さを「各歩平均総X中心変位長」として算出したものである。
【0057】
各歩平均軌跡長141dについて図9を参照しつつ説明する。図9は、計測領域記憶部133に記憶されている計測領域11dにおいて被計測者の重心位置Cfの移動軌跡を示した図である。図9に示すように、各歩平均軌跡長141dは、「つぎ足モード」において、重心移動軌跡長算出部149が算出した「重心移動軌跡長」を、1回のつぎ足歩行計測における歩数で除したものを「各歩平均軌跡長」として算出する。
【0058】
総軌跡長平均算出部141eは、「ステップモード」において、各計測領域11cについて、静止時重心移動軌跡長算出部154が算出した「静止時重心移動軌跡長」を平均化して「総軌跡長平均」として算出する。
【0059】
単位時間軌跡長平均算出部141fは、「ステップモード」において、総軌跡長平均算出部141eが算出した「総軌跡長平均」に、静止時間算出部148が算出した「静止時間」に対する単位時間の比を乗じて平均化したものを「単位時間軌跡長平均」として算出する。なお、単位時間は任意の時間であってよい。
【0060】
外周面積平均算出部141gについて図10を参照しつつ説明する。図10は、計測領域記憶部133に記憶されている計測領域11dにおいて被計測者の重心位置Cfの軌跡が描かれた領域の面積を示した図である。図10に示すように、外周面積平均141gは、「ステップモード」において、各計測領域11dについて、静止時間算出部148が算出した「静止時間」における被計測者の重心位置Cfの移動軌跡が描かれた領域の面積を平均化して「外周面積平均」として算出する。
【0061】
図2に戻って、前述したように、重心位置記憶部134は、重心位置算出部143が算出した重心位置Cfをサンプリング時間ごとに記憶するものである。また、計測領域記憶部133は、計測領域決定部140が決定した計測領域11dを記憶するものである。基準位置記憶部135は、基準位置算出部146が算出した基準位置Cpをサンプリング時間ごとに記憶するものである。さらに、中心変位長記憶部136は、中心変位長算出部147が算出した「中心変位長」をサンプリング時間ごとに記憶するものである。
【0062】
転倒危険度データベース記憶部138は、複数のパラメータの値と、各パラメータの値に関連付けられた「転倒危険度」とを転倒危険度データベースとして記憶するものである。具体的な内容を表1に示す。「転倒危険度」は、転倒履歴データベース記憶部139に記憶された転倒履歴データベース(後述)に含まれるサンプリング用の被計測者(他の複数の被計測者)について算出された複数のパラメータの値及びサンプリング用の被計測者についての転倒履歴をロジスティック回帰分析により数値化されたものである。
【0063】
【表1】

【0064】
転倒危険度判定部151は、被計測者の「転倒危険度」を判定するものである。具体的には、転倒危険度データベース記憶部138に記憶された転倒危険度データベースを参照して、パラメータ算出部141が算出した各パラメータの値に関連付けられた「転倒危険度」を導出する。そして、全てのモードで計測が行われた後に、全てのモードで導出された「転倒危険度」同士を掛け合わせて、最終結果として被計測者の「転倒危険度」を判定する。
【0065】
転倒履歴データベース記憶部139は、サンプリング用の被計測者について算出された各パラメータの値と、サンプリング用の被計測者についての転倒履歴とを転倒履歴データベースとして記憶するものである。ここで、転倒履歴には過去に通常歩行中において転倒したことのある被計測者は1、転倒したことのない被計測者は0として記憶されている。具体的な内容を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
更新部152は、被計測者についてパラメータ算出部141が算出した各パラメータの値と被計測者についての転倒履歴とが転倒履歴データベース記憶部139に記憶された転倒履歴データベースに追加されるように転倒履歴データベースを更新するものである。
【0068】
再構築部153は、更新部152によって転倒履歴データベースが更新されたとき、更新された転倒履歴データベースにおける、サンプリング用の被計測者についてパラメータ算出部141が算出した複数のパラメータの値及びサンプリング用の被計測者についての転倒履歴をロジスティック回帰分析により「転倒危険度」を再度数値化し直す。そして、各パラメータの値及び各パラメータの値に関連付けられた「転倒危険度」とを転倒危険度データベースとして転倒危険度データベース記憶部138に記憶するものである。
【0069】
表示制御部142は、被計測者に「つぎ足歩行」の動作内容及び「ステップ歩行」の動作内容に係る計測結果をディスプレイ21に表示させるものである。言い換えれば、表示制御部142は、被計測者に「つぎ足歩行」及び「ステップ歩行」を指示するものである。
【0070】
まず、各モードにおいて、表示制御部142がディスプレイ21に表示させる被計測者に指示する動作内容について説明する。
【0071】
「つぎ足モード」が設定されている場合には、図3に示すような圧力分布センサ11の外観図と、被計測者に「つぎ足歩行」を促す内容とをディスプレイ21に表示させる。
【0072】
「ステップモード」が設定されている場合には、計測領域決定部140が、両足配置領域11c「1」〜「6」から順次選択されたいずれか1つを計測領域11dとして決定し、図4に示すような圧力分布センサ11の外観図と、計測領域決定部140に決定された計測領域11dの番号「1」〜「6」とをディスプレイ21に表示させる。つまり、被計測者が各両足配置領域11c上で静止してから所定時間経過するごとに、予め定められたパターンに基づいて次の計測領域11dが決定され、被計測者は計測領域11d間を移動する。なお、以上の処理は計測時間内において複数回繰り返される。
【0073】
表示制御部142について図11〜13を参照しつつ説明する。図11は、「つぎ足モード」の計測結果の表示内容を示す図である。図12は、「ステップモード」の計測結果を示す図である。なお、これらの表示内容は実際にはカラー表示となっている。図13は、被計測者の転倒する危険性に関する表示内容を示す図である。図11、12に示すように、表示制御部142は、各モードにおける圧力分布ウィンドウ51及び結果表示ウィンドウ52をディスプレイ21に表示させる。また、図13に示すように、表示制御部142は、全てのモードの計測が終了した後に、最終結果として転倒危険度表示ウィンドウ53をディスプレイ21に表示させる。
【0074】
図11、12に示すように、圧力分布ウィンドウ51には、被計測者の両足からの圧力分布センサ11上に加えられる圧力分布61が、検知データ記憶部132に記憶されている圧力分布データに基づいて表示されている。ここで、圧力分布61は、等圧線状に表示されており、圧力値の大きさが変化するのに伴って、段階的に変化する色のスケールにしたがって表示されている。また、圧力分布ウィンドウ51には、重心位置記憶部134に記憶されている重心位置データに基づいて、被計測者の重心が移動するときの軌跡62が描かれている。従って、オペレータは、圧力分布ウィンドウ51を見ることによって、被計測者の両足の圧力分布61及び重心位置Cfの軌跡62を把握することができる。
【0075】
また、「つぎ足モード」においては、結果表示ウィンドウ52には、パラメータ算出部141で算出された「比直線距離積分値」、「各歩平均総中心変位長」、「各歩平均総X中心変位長」及び「各歩平均軌跡長」の数値が表示されている。「ステップモード」においては、結果表示ウィンドウ52には、パラメータ算出部141で算出された「総軌跡長平均」、「単位時間軌跡長平均」及び「外周面積平均」の数値が表示されている。
【0076】
全てのモードの計測終了後においては、転倒危険度判定部151が最終結果として判定した被計測者の「転倒危険度」が転倒危険度表示ウィンドウ53に表示される。図13に示すように、転倒危険度表示ウィンドウ53には、各モードにおけるパラメータ(ここでは、「比直線距離積分値」、「各歩平均総中心変位長」、「各歩平均総X中心変位長」、「各歩平均軌跡長」、「総軌跡長平均」、「単位時間軌跡長平均」及び「外周面積平均」)の各項目、各パラメータの平均値、パラメータ算出部141が算出した被計測者の各パラメータの値、パラメータの値に関連付けられた「転倒危険度」及び各「転倒危険度」同士を掛け合わせて算出された最終結果として判定した「あなたの転倒危険度」が示された計測結果欄が表示されている。平均値は、転倒危険度データベース記憶部138に記憶された転倒危険度データベースに含まれる複数の被計測者のパラメータの値の平均値である。「転倒危険度」は、転倒危険度判定部151が導出した各パラメータの値に関連付けられた「転倒危険度」である。「あなたの転倒危険度」は、転倒危険度判定部151が最終結果として判定した被計測者の転倒する危険性を示している。
【0077】
以上、説明したように、本実施形態の転倒危険度判定装置1によると、サンプリング用の被計測者についてのパラメータ算出部141が算出した各パラメータの値と転倒履歴との相関関係に基づいて生成されたパラメータに関する複数の値及び各パラメータの値に関連付けられた「転倒危険度」を含む転倒危険度データベースに基づいて、被計測者の「転倒危険度」を判定する。このように統計的な判断により、「転倒危険度」を判定するため、被計測者の転倒する危険性を正確に把握することができる。これにより、転倒を防止するための効率的な歩行訓練を行うことができる。
【0078】
また、転倒危険度判定部151が、パラメータ算出部141が算出した各評価値に関連付けられた「転倒危険度」を転倒危険度データベースに基づいて導出し、導出された「転倒危険度」同士を互いに掛け合わせることによって被計測者に関する「転倒危険度」を判定する。これにより、複数の異なる歩行機能のパラメータの値から「転倒危険度」を判定するため、被計測者の転倒する危険性をより正確に把握することができる。
【0079】
さらに、本発明の発明者らは、「つぎ足モード」においては、「つぎ足歩行」に関するパラメータと「転倒危険度」との関連性が強いことを知見した。これにより、被計測者の転倒する危険性をより一層正確に把握することができる。
【0080】
このとき、本発明の発明者らは、「つぎ足モード」においては、「比直線距離積分値」、「各歩平均総中心変位長」、「各歩平均総X中心変位長」及び「各歩平均軌跡長」は「転倒危険度」との関連性が特に強いことを知見した。したがって、これらのパラメータを用いることによって、被計測者の転倒する危険性をより一層正確に把握することができる。
【0081】
また、「ステップモード」においては、被計測者の両足が左右方向に揃った状態で配置されるため、被計測者が通常歩行する場合と比較して圧力分布センサ11の表面積を小さくすることができる。これにより、圧力分布センサの小型化及び低コスト化を図ることができる。また、被計測者が前後左右方向に移動したときのパラメータの値を得ることができるため、被計測者の転倒する危険性をより一層正確に把握することができる。
【0082】
このとき、本発明の発明者らは、「ステップモード」においては、「総軌跡長平均」、「単位時間軌跡長平均」及び「外周面積平均」は「転倒危険度」との関連性が特に強いことを知見した。したがって、これらのパラメータを用いることによって、被計測者の転倒する危険性をより一層正確に把握することができる。
【0083】
また、被計測者についてパラメータ算出部141が算出した各パラメータの値と、被計測者についての転倒履歴とを転倒履歴データベース記憶部139に記憶された転倒履歴データベースに追加して、転倒履歴データベースを更新する。そして、更新された転倒履歴データベースにおける、サンプリング用の被計測者についてパラメータ算出部141が算出した各パラメータの値と、サンプリング用の被計測者についての転倒履歴との相関関係に基づいて、当該複数の被計測者についてパラメータ算出部141が算出した各パラメータの値と、各パラメータの値に関連付けられた「転倒危険度」とを転倒危険度データベースとして再構築する。これにより、更新された転倒履歴データベースに基づいて転倒危険度データベースが再構築されるため、被計測者の転倒する危険性をより一層正確に把握することができる。
【0084】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。例えば、本発明の実施形態では、転倒危険度判定部151は、パラメータ算出部141が算出した各パラメータの値に基づいて「転倒危険度」を導出し、その「転倒危険度」同士を掛け合わせて、最終結果としての被計測者の「転倒危険度」を判定していたが、掛け合わせずに、平均化するなどいかなる計算方法で最終結果としての被計測者の「転倒危険度」を判定してもよい。また、導出した「転倒危険度」を最終結果としての被計測者の「転倒危険度」として用いてもよい。
【0085】
また、本発明の実施形態では、パラメータ算出部141が「比直線距離積分値」、「各歩平均総中心変位長」、「各歩平均総X中心変位長」、「各歩平均軌跡長」、「総軌跡長平均」、「単位時間軌跡長平均」及び「外周面積平均」から「転倒危険度」を算出する構成であるが、パラメータ算出部141がこれらのパラメータの値の一部から「転倒危険度」を算出する構成であってもよいし、他のパラメータの値から「転倒危険度」を算出する構成であってもよい。
【0086】
さらに、本発明の実施形態では、「転倒危険度」はロジスティック回帰分析により数値化されていたが、ロジスティック回帰分析に限らず、数量化理論I類などいかなる分析手法により数値化されてもよい。
【0087】
加えて、本発明の実施形態では、転倒履歴データベースを記憶していたが、転倒履歴データベースを記憶しておかなくてもよい。したがって、転倒危険度データベースを再構築しなくてもよい。
【0088】
また、本発明の実施形態では、変換部145において、各感圧センサ11aで検知された出力値が、閾値1以上である場合には、1に変換され、閾値1より小さい場合には、0に変換されているが、閾値は1に限られない。従って、出力値がデジタル出力値である場合には、閾値は2以上の整数であってもよい。また、出力値がアナログ出力値である場合には、閾値は0より大きく1より小さい数であってもよいし、1より大きい正の数であってもよい。また、出力値が閾値以上である場合に変換される第1所定値は、1に限られないで、その他の正の数であってもよい。同様に、出力値が閾値より小さい場合に変換される第2所定値は、0に限られるものではなく、その他の数であってもよい。
【0089】
さらに、本発明の実施形態では、被計測者への「つぎ足歩行」及び「ステップ歩行」の動作内容の指示は、表示制御部142がディスプレイ21に表示させることによって行っていたが、動作内容の指示は、表示制御部142からの指示に限られない。従って、動作内容の指示は、装置からの音声による指示でもよい。また、オペレータからの指示でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施形態に係る転倒危険度判定装置の概略構成を示す外観図である。
【図2】図1の転倒危険度判定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す転倒危険度判定装置における「つぎ足モード」の動作内容を示した図である。
【図4】図1に示す転倒危険度判定装置における「ステップモード」の動作内容を示した図である。
【図5】図1に示す感圧センサで検知される圧力分布データを示す図である。
【図6】図1に示す圧力分布センサ上に被計測者が両足を配置したときの出力値が2値化変換された状態を示す図である。
【図7】図1に示す圧力分布センサ上における被計測者の重心位置の軌跡を示した図である。
【図8】図1に示す圧力分布センサ上において、歩行距離の経過に伴う被計測者の重心位置と直線との距離の変化を示した図である。
【図9】図1に示す圧力分布センサ上における被計測者の重心位置の軌跡を示した図である。
【図10】図1に示す圧力分布センサ上における被計測者の重心位置の軌跡が描かれた領域の面積を示した図である。
【図11】図2に示すディスプレイに表示される「つぎ足モード」に関する計測結果を示す図である。
【図12】図2に示すディスプレイに表示される「ステップモード」に関する計測結果を示す図である。
【図13】図2に示すディスプレイに表示される転倒危険度表示ウィンドウを示す図である。
【符号の説明】
【0091】
1 転倒危険度判定装置
11 圧力分布センサ
11a 感圧センサ(圧力検知領域)
11b 直線
11c 両足配置領域
20 パーソナルコンピュータ
21 ディスプレイ
30 制御部
131 モード設定部
132 検知データ記憶部(検知データ記憶手段)
133 計測領域記憶部
134 重心位置記憶部
135 基準位置記憶部
136 中心変位長記憶部
138 転倒危険度データベース記憶部(転倒危険度データベース記憶手段)
139 転倒履歴データベース記憶部(転倒履歴データベース記憶手段)
140 計測領域決定部
141 パラメータ算出部
141a 比直線距離積分値算出部(比直線距離積分値算出手段)
141b 各歩平均総中心変位長算出部(各歩平均総中心変位長算出手段)
141c 各歩平均総X中心変位長算出部(各歩平均総X中心変位長算出手段)
141d 各歩平均軌跡長算出部(各歩平均軌跡長算出手段)
141e 総軌跡長平均算出部(総軌跡長平均算出手段)
141f 単位時間軌跡長平均算出部(単位時間軌跡長平均算出手段)
141g 外周面積平均算出部(外周面積平均算出手段)
142 表示制御部
143 重心位置算出部(重心位置算出手段)
144 比較部(比較手段)
145 変換部(第1の変換手段、第2の変換手段)
146 基準位置算出部(基準位置算出手段)
148 静止時間算出部(静止時間算出手段)
149 重心移動軌跡長算出部(重心移動軌跡長算出手段)
150 評価値算出部(評価値算出手段)
151 転倒危険度判定部(転倒危険度判定手段)
152 更新部(更新手段)
153 再構築部(再構築手段)
154 静止時重心軌跡長算出部(静止時重心移動軌跡長算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測者から加えられる圧力をそれぞれ検知する複数の圧力検知領域を有する圧力分布センサと、
前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値を圧力分布データとして記憶する検知データ記憶手段と、
前記検知データ記憶手段に記憶された前記圧力分布データから歩行機能を示す1又は複数種類の評価指標に関する評価値を算出する評価値算出手段と、
前記1又は複数種類の評価指標に関する複数の評価値及び各評価値に関連付けられた転倒する危険性を示す転倒危険度を含む転倒危険度データベースを記憶する転倒危険度データベース記憶手段と、
前記評価値算出手段によって算出された前記被計測者についての前記1又は複数種類の評価指標に関する評価値、及び、前記転倒危険度データベース記憶手段に記憶された前記転倒危険度データベースに基づいて、当該被計測者に関する転倒危険度を判定する転倒危険度判定手段とを備えており、
前記転倒危険度データベースが、他の複数の被計測者について算出された前記1又は複数種類の評価指標に関する評価値と、当該他の複数の被計測者についての転倒履歴との相関関係に基づいて生成されたことを特徴とする転倒危険度判定装置。
【請求項2】
前記評価値算出手段が複数種類の評価指標に関する評価値を算出し、
前記転倒危険度判定手段が、前記評価値算出手段が算出した各評価値に関連付けられた転倒危険度を前記転倒危険度データベースに基づいて導出し、導出された当該転倒危険度同士を互いに掛け合わせることによって被計測者に関する転倒危険度を判定することを特徴とする請求項1に記載の転倒危険度判定装置。
【請求項3】
前記評価値算出手段は、被計測者が、前記圧力分布センサ上に形成された基準直線に沿って踏み出した足の踵側端部が他方の足の爪先側端部に接するように歩行したときの前記圧力分布データに基づいて、評価値を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の転倒危険度判定装置。
【請求項4】
前記評価値算出手段が、
前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、
前記基準直線から前記重心位置までの距離を前記重心位置の前記基準直線に沿った移動距離で積分することによって比直線距離積分値を評価指標に関する評価値として算出する比直線距離積分値算出手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項3に記載の転倒危険度判定装置。
【請求項5】
前記評価値算出手段が、
前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、
前記圧力分布センサからの圧力分布データに含まれる前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値と閾値とを比較する比較手段と、
前記比較手段によって前記圧力分布センサからの圧力分布データに含まれる前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値が閾値以上であるという比較結果が得られた場合に、それらの出力値を第1所定値に変換する第1の変換手段と、
前記比較手段によって前記圧力分布センサからの圧力分布データに含まれる前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値が閾値より小さいという比較結果が得られた場合に、それらの出力値を前記第1所定値とは異なる第2所定値に変換する第2の変換手段と、
被計測者から前記第1の変換手段によって前記第1所定値に変換された出力値及び前記第2の変換手段によって前記第2所定値に変換された出力値に対応した圧力が前記複数の圧力検知領域に対してそれぞれ加えられた場合の被計測者の重心位置に基づいて、前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置の基準となる基準位置を算出する基準位置算出手段と、
前記重心位置算出手段が算出した重心位置と前記基準位置算出手段が算出した基準位置との相対距離である中心変位長をサンプリング時間ごとに算出する中心変位長算出手段と、
計測時間内において、前記中心変位長算出手段が算出した中心変位長を積算し、歩数で除した各歩平均総中心変位長を評価指標に関する評価値として算出する各歩平均総中心変位長算出手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項3に記載の転倒危険度判定装置。
【請求項6】
前記評価値算出手段が、
前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、
前記圧力分布センサからの圧力分布データに含まれる前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値と閾値とを比較する比較手段と、
前記比較手段によって前記圧力分布センサからの圧力分布データに含まれる前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値が閾値以上であるという比較結果が得られた場合に、それらの出力値を第1所定値に変換する第1の変換手段と、
前記比較手段によって前記圧力分布センサからの圧力分布データに含まれる前記複数の圧力検知領域のそれぞれで検知される圧力に対応した出力値が閾値より小さいという比較結果が得られた場合に、それらの出力値を前記第1所定値とは異なる第2所定値に変換する第2の変換手段と、
被計測者から前記第1の変換手段によって前記第1所定値に変換された出力値及び前記第2の変換手段によって前記第2所定値に変換された出力値に対応した圧力が前記複数の圧力検知領域に対してそれぞれ加えられた場合の被計測者の重心位置に基づいて、前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置の基準となる基準位置を算出する基準位置算出手段と、
前記重心位置算出手段が算出した重心位置と前記基準位置算出手段が算出した基準位置との相対距離である中心変位長をサンプリング時間ごとに算出する中心変位長算出手段と、
計測時間内において、前記中心変位長算出手段が算出した中心変位長を積算し、歩数で除した各歩平均総中心変位長を算出する各歩平均総中心変位長算出手段と、
前記各歩平均総中心変位長算出手段が算出した各歩平均総中心変位長のX方向成分の長さである各歩平均総X中心変位長を評価指標に関する評価値として算出する各歩平均総X中心変位長算出手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項3に記載の転倒危険度判定装置。
【請求項7】
前記評価値算出手段が、
前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、
前記重心位置算出手段が算出した重心位置の移動軌跡長を算出する重心移動軌跡長算出手段と、
前記重心移動軌跡長算出手段が算出した重心移動軌跡長を、歩数で除した各歩平均軌跡長を評価指標に関する評価値として算出する各歩平均軌跡長算出手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項3に記載の転倒危険度判定装置。
【請求項8】
前記評価値算出手段は、前記圧力分布センサ上に形成された被計測者の両足が左右方向に揃った状態で配置しうる複数の両足配置領域間を、前記被計測者が各両足配置領域において両足を配置しつつ移動したときの前記圧力分布データに基づいて、評価値を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の転倒危険度判定装置。
【請求項9】
前記評価値算出手段が
前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、
被計測者が前記両足配置領域上に両足を配置した状態で静止している静止時間を算出する静止時間算出手段と、
前記静止時間算出手段が算出した静止時間内における、前記重心位置算出手段が算出した重心位置の移動軌跡長を算出する静止時重心移動軌跡長算出手段と、
前記静止時重心移動軌跡長算出手段が算出した静止時重心移動軌跡長を、両足配置領域数で除した総軌跡長平均を評価指標に関する評価値として算出する総軌跡長平均算出手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項8に記載の転倒危険度判定装置。
【請求項10】
前記評価値算出手段が、
前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、
被計測者が前記計測領域上に両足を配置した状態で静止している静止時間を算出する静止時間算出手段と、
前記静止時間算出手段が算出した静止時間内における、前記重心位置算出手段が算出した重心位置の移動軌跡長を算出する静止時重心移動軌跡長算出手段と、
前記静止時重心移動軌跡長算出手段が算出した静止時重心移動軌跡長に、前記静止時間算出手段が算出した静止時間に対する所定の単位時間の比を乗じて、両足配置領域数で除した単位時間軌跡長平均を評価指標に関する評価値として算出する単位時間軌跡長平均算出手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項8に記載の転倒危険度判定装置。
【請求項11】
前記評価値算出手段が、
前記圧力分布センサ上における被計測者の重心位置を算出する重心位置算出手段と、
被計測者が前記計測領域上に両足を配置した状態で静止している静止時間を算出する静止時間算出手段と、
前記静止時間算出手段が算出した静止時間内における、前記重心位置算出手段が算出した重心位置の移動軌跡が描かれた領域の面積を、両足配置領域数で除した外周面積平均を評価指標に関する評価値として算出する外周面積平均算出手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項8に記載の転倒危険度判定装置。
【請求項12】
他の複数の被計測者について算出された前記1又は複数種類の評価指標に関する評価値及び当該他の複数の被計測者についての転倒履歴を含む転倒履歴データベースを記憶する転倒履歴データベース記憶手段と、
前記評価値算出手段が算出した被計測者についての1又は複数種類の評価指標に関する評価値及び当該被計測者についての転倒履歴が前記転倒履歴データベースに追加されるように前記転倒履歴データベースを更新する更新手段と、
前記更新手段によって前記転倒履歴データベースが更新されたとき、前記転倒履歴データベースに基づいて前記転倒危険度データベースを再構築する再構築手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項1〜11に記載の転倒危険度判定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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