説明

転写シートおよびその製造方法

【課題】製造が容易で、また廃棄時の環境負荷が少なく、接着性、耐酸性、耐アルカリ性、耐水性などに優れた転写層を転写することの出来る転写シートを提供する。
【解決手段】転写シートであって、支持体の片面に転写層が積層され、支持体は脂肪族ポリエステル樹脂にて形成され、転写層は酸変性ポリオレフィン樹脂を含み、転写層と支持体との間に離型層を有していない。この転写シートは、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する液状物を、脂肪族ポリエステル樹脂にて形成された支持体上に、離型剤を介在させずに塗工し、その後に乾燥させる工程を含む製造方法にて製造可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転写シートおよびその製造方法に関し、特に保護層や接着層を構成するための転写層を支持体上に積層した転写シートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物体に設けられる保護層または接着層として、樹脂を転写することにより形成されるものが知られている。このような転写を行う場合は、一般的に、フィルムなどの支持体の上に離型層を積層し、この離型層の上に転写層を積層した構成の転写シートが用いられる。しかし、離型層を設けることは、コストアップとなるだけでなく、支持体に積層された離型層の成分が転写層の表面に移行することで、転写層が接着層である場合には転写後の接着性を阻害する可能性がある。さらに、支持体は、転写層を転写した後は不要なので廃棄されることになるため、廃棄時の環境負荷の軽減が望まれている。
【0003】
また近年、保護層や接着層には、耐酸性、耐アルカリ性、耐水性など様々な機能が必要とされるケースが増えてきている。
このような保護層や接着層を形成する手段として、接着層に、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂を用い、これらの樹脂が、離型処理された紙やポリエステル樹脂などの支持体上に接着層として設けられた転写シートが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、基材フィルムの両面に熱接着性ポリオレフィン層を積層して接着させることで保護層や接着層として使用する例(特許文献2)が提案されている。
支持体を廃棄することに伴う環境負荷の低減方法として、例えば、絵柄層を転写することを目的とした転写シートにおいて、支持体にポリ乳酸系樹脂を使用することが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3359963号公報
【特許文献2】特開平08−190902号公報
【特許文献3】特開平11−216996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のものは、接着層を転写した後の支持体が廃棄されるために、使用による環境への負荷が大きいものである。さらに、ポリエステル系樹脂およびポリウレタン系樹脂は、耐酸性、耐アルカリ性に乏しいという課題が残る。また、ポリアミド樹脂は、吸湿性および透湿度が大きいため、水分により経時的に接着性が低下するという問題がある。
【0007】
特許文献2は、詳しくは、薄型電池の封口材用フィルムとして、充填剤を含むポリオレフィン基材層の両外層として熱接着性ポリオレフィン樹脂を積層したフィルムを使用する、という技術に関するものである。これにより、接着性、耐酸性、耐アルカリ性、耐水性に優れた層を得ることができる。しかし、基材層を含む3層構造の接着フィルムを形成する必要があるため、コストアップになるうえ、薄膜化に課題がある。さらに、積層する樹脂の種類によっては、フィルムをロール状にして運搬する場合に、フィルム表面のブロッキング防止のために離型性を有するシートを積層しなければならなくなるという可能性が懸念される。
【0008】
特許文献3では、支持体となるポリ乳酸系樹脂基材に離型層を積層した事例についての評価しかされておらず、離型層中の成分は生分解性を有さないために、廃棄時に環境に負荷をかける可能性がある。また支持体となるポリ乳酸系樹脂基材に液状物を塗布して転写層を形成する場合は、塗布量を多くしないと液状物がはじかれることがあり、膜厚の薄い転写層を離型層上に形成することが困難である。
【0009】
本発明は、これらの問題を鑑み、製造が容易で、また廃棄時の環境負荷が少なく、接着性、耐酸性、耐アルカリ性、耐水性などに優れた転写層を転写することの出来る転写シートを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、離型層を積層していない脂肪族ポリエステル樹脂からなる支持体の片面に、酸変性ポリオレフィン樹脂を含む転写層を積層した積層体が、接着性、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性などに優れた転写層を構成可能な転写シートとして有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)支持体の片面に転写層が積層され、前記支持体は脂肪族ポリエステル樹脂にて形成され、前記転写層は酸変性ポリオレフィン樹脂を含み、前記転写層と支持体との間に離型層を有していないことを特徴とする転写シート。
【0012】
(2) 酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する液状物を、脂肪族ポリエステル樹脂にて形成された支持体上に、離型剤を介在させずに塗工し、その後に乾燥させる工程を含むことを特徴とする転写シートの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の転写シートにおいて支持体に積層されている転写層は、酸変性ポリオレフィン樹脂を含むため、耐酸性や耐アルカリ性、耐水性、耐溶剤性、防湿性に優れている。しかも、転写層と、脂肪族ポリエステル樹脂にて形成された支持体との間には、ワックス類、低分子量のシリコーン化合物、界面活性剤などからなる離型層を必要としない。このため、離型層を形成するためのコストがかからないだけでなく、離型層の成分の移行による転写層の汚染がない。また、支持体が生分解性を有する脂肪族ポリエステル樹脂であるため、廃棄時の環境への負荷も少ない。
【0014】
本発明の転写シートにおける転写層は、各種基材表面へ保護層や接着層として積層するのに好適である。
また、本発明の転写シートの製造方法によれば、同転写シートを工業的に簡便に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の転写シートに使用される支持体は、脂肪族ポリエステル樹脂であることが必要である。脂肪族ポリエステル樹脂としては、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、それらの混合物を挙げることができる。また乳酸の環状2量体のラクタイドなどの乳酸類、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5ーヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。さらに、ヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、グリコール酸の2量体であるグリコライドや、6−ヒドロキシカプロン酸の環状エステルであるε−カプロラクトンが挙げられる。なかでも、入手の容易さから、乳酸類の単独重合体であるポリ乳酸や、グリコール酸の単独重合体であるポリグリコール酸が好ましい。
【0016】
脂肪族ポリエステル樹脂の製造方法は、特に限定されない。例えば、ポリ乳酸の場合、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸を直接脱水重縮合する方法や、乳酸の環状2量体であるラクタイドを開環重合する方法が挙げられる。市販されているものを用いてもよい。
【0017】
支持体に用いる脂肪族ポリエステル樹脂には、公知の添加剤や安定剤、すなわち例えば滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防炎剤などを含んでいてもよい。しかしながら、シリコーン化合物、フッ素化合物、長鎖アルキル化合物、ワックス類、界面活性剤などの、一般的に離型剤として用いられる添加剤は、その合計の含有量が、支持体100質量部に対して1質量部以下であることが好ましい。この量が少ないほど、塗工により転写層を形成する際に支持体へのぬれ性が良好であるだけでなく、転写層と支持体との密着性が向上するとともに、転写層および被転写体の汚染が抑制される。よって、この含有量は、0.5質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましい。含んでいないことが特に好ましい。
【0018】
ワックス類とは、数平均分子量が10,000以下の、植物ワックス、動物ワックス、鉱物ワックス、石油化学ワックス等を意味する。具体的には、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木蝋、ベリーワックス、ホホバワックス、シアバター、蜜蝋、セラックワックス、ラノリンワックス、鯨蝋、モンタンワックス、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、合成ポリエチレンワックス、合成ポリプロピレンワックス、合成エチレン−酢酸ビニル共重合体ワックス等が挙げられる。
【0019】
界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性(非イオン性)界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、反応性界面活性剤が挙げられる。一般に乳化重合に用いられるもののほか、乳化剤類も含まれる。例えば、アニオン性界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸およびその塩、アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体等のポリオキシエチレン構造を有する化合物や、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のソルビタン誘導体等が挙げられる。両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。反応性界面活性剤としては、アルキルプロペニルフェノールポリエチレンオキサイド付加物やこれらの硫酸エステル塩、アリルアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物やこれらの硫酸エステル塩、アリルジアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物やこれらの硫酸エステル塩等の反応性2重結合を有する化合物が挙げられる。
【0020】
支持体の形状は特に限定されるものではないが、シート状のものが好ましい。シート状にする方法に限定はなく、シート化に際して延伸処理を施してもよいし、アニール(熱)処理を施してもよい。さらにその厚みも特に限定されるものではないが、通常は1〜1000μmであればよく、1〜500μmが好ましく、1〜100μmがより好ましく、1〜50μmが特に好ましい。
【0021】
支持体表面は、前処理として、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理等が施されていてもよい。また、帯電による障害を回避するために、支持体における転写層を積層する側の面とは反対側の面に、帯電防止層が積層されていてもよい。
【0022】
本発明の転写シートに使用される転写層は、酸変性ポリオレフィン樹脂を含む。
転写層に使用される酸変性ポリオレフィン樹脂は、その酸変性成分は特に限定されないが、酸変性ポリオレフィン樹脂中の酸変性成分の割合が0.01〜5質量%であることが好ましく、0.1〜4質量%がより好ましく、1〜3質量%がさらに好ましい。酸変性成分の割合が0.01質量%未満の場合は、転写先の基材との十分な接着性が得られないことがある。さらに、酸変性ポリオレフィン樹脂の塗工により転写層を設ける場合に、この樹脂を塗剤化するのが困難になる傾向がある。一方、5質量%を超える場合は、耐酸性、耐アルカリ性、耐水性などが低下する場合がある。
【0023】
酸変性成分として、不飽和カルボン酸成分があげられる。不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステルやハーフアミド等が挙げられる。中でも、樹脂の分散安定化の面から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。
【0024】
酸変性ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン成分は、特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のアルケンが好ましい。これらの混合物を用いてもよい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、エチレン、プロピレンがさらに好ましく、エチレンが最も好ましい。
【0025】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、被転写体への接着性を向上させる理由から、側鎖に酸素原子を有するエチレン性不飽和化合物を含むことが望ましい。側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸エステル成分、マレイン酸エステル成分、(メタ)アクリル酸アミド成分、アルキルビニルエーテル成分、ビニルエステル成分などが挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸エステル成分が好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分を含む場合、その含有量は、0.5〜40質量%であることが好ましい。様々な被転写体との良好な接着性を持たせるために、この範囲は1〜20質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、被転写体との接着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがよりいっそう好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタクリル酸〜」を意味する。
【0027】
酸変性ポリオレフィンを構成する各成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されない。共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが挙げられる。
【0028】
酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートは、190℃、21.2N(2160g)荷重において1〜1000g/10分であることが好ましく、1〜500g/10分であることがより好ましく、2〜300g/10分であることがさらに好ましく、2〜200g/10分であることが特に好ましい。1g/10分未満のものは樹脂の製造が困難なうえ、液状物とするのが困難であり、転写も困難になる可能性がある。また、1000g/10分以上のものは、接着性が低下する。
【0029】
本発明において、支持体と転写層との間に離型層を有していないとは、シリコーン系化合物、フッ素系化合物、長鎖アルキル化合物、ワックスなどの離型剤や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂や、アルキド系樹脂などの一般的な離型材料からなる離型層が、支持体と転写層の間に形成されていないことを意味し、脂肪族ポリエステル樹脂からなる支持体上に、酸変性ポリオレフィン樹脂を含む転写層が直接積層されていることをさす。支持体上に離型層を積層しないため、工程の簡略化、廃棄時の環境負荷軽減、離型剤による転写層の汚染抑制が可能である。
【0030】
転写層の厚みは、特に規定されるものではないが、0.01μm以上とすることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましく、2μm以上であることが特に好ましい。0.01μm未満では転写層の機能が発現しない場合があり、接着性に劣る可能性がある。
【0031】
転写層には、その特性を損なわない範囲で、種々の添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、染料、架橋剤、上記した酸変性ポリオレフィン樹脂以外の樹脂などを挙げることができる。このような添加剤は、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0032】
本発明の転写シートの製造方法は、特に限定されるものではない。たとえば、支持体となる脂肪族ポリエステル樹脂と酸変性ポリオレフィン樹脂とを共押出成形する方法や、脂肪族ポリエステル樹脂のシート上に酸変性ポリオレフィン樹脂を押出ラミネートする方法などを適用できる。特に、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する液状物を支持体上に塗工したのち乾燥するという製造方法によって、工業的に簡便に転写シートを得ることができる。このように液状物を支持体上に塗工したのち乾燥する方法により、薄い転写層を形成することが可能である。
【0033】
液状物を支持体上に塗工したのち乾燥するという製造方法においては、支持体上への塗工が可能であれば、酸変性ポリオレフィン樹脂を含む液状物における溶媒は、特に限定されない。たとえば、水、有機溶剤、あるいは水と両親媒性有機溶剤を含む水性媒体などが挙げられる。なかでも、環境上、水または水性媒体を使用することが好ましい。
【0034】
有機溶剤としては、ジエチルケトン(3−ペンタノン)、メチルプロピルケトン(2−ペンタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、2−ヘキサノン、5−メチル−2−ヘキサノン、2−へプタノン、3−へプタノン、4−へプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、ベンゼン、ソルベッソ100、ソルベッソ150等の芳香族炭化水素類;ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン等の脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン等の含ハロゲン類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、γ―ブチロラクトン、イソホロン等のエステル類;後述の両親媒性有機溶剤などが挙げられる。
【0035】
水性媒体とは、水と両親媒性有機溶剤からなり、水の含有量が2質量%以上である溶媒を意味する。両親媒性有機溶剤とは、20℃の当該有機溶剤に対する水の溶解性が5質量%以上であるものをいう。20℃の有機溶剤に対する水の溶解性については、例えば「溶剤ハンドブック」(講談社サイエンティフィク、1990年第10版)等の文献に記載されている。
【0036】
水性媒体として、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール(以下「IPA」と略称する)等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル等のエステル類;アンモニアを含む、ジエチルアミン、トリエチルアミン(以下「TEA」と略称する)、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン(以下「DMEA」と略称する)、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−ジエタノールアミン等の有機アミン化合物;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなどのラクタム類等を挙げることができる。
【0037】
酸変性ポリオレフィン樹脂を上記のような水性媒体に分散化する方法は、特に限定されないが、例えば、国際公開02/055598号パンフレットに記載されたものが挙げられる。
【0038】
水性媒体中の酸変性ポリオレフィン樹脂の分散粒子径は、造膜性や保存安定性(分散安定性)の点から、数平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましい。このような粒径は、前記パンフレット記載の製法により達成可能である。粒子径は、動的光散乱法によって測定することができる。
【0039】
酸変性ポリオレフィン樹脂を水性媒体に分散化することにより得られる水性分散体は、転写層を形成するために使用されるので、不揮発性水性化助剤を含まないことが好ましい。国際公開02/055598号パンフレットに記載の製法を用いることで、不揮発性水性化助剤を含まない水性分散体を得ることができる。不揮発性水性化助剤としては、前述の界面活性剤や、保護コロイド作用を有する化合物などが挙げられる。不揮発性水性化助剤が含まれる場合は、水性分散体を塗工乾燥した後の転写層中に不揮発性水性化助剤が残存することにより、接着性、耐水性、耐アルカリ性、耐溶剤性、耐酸性に悪影響を与える可能性がある。
【0040】
保護コロイド作用を有する化合物としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックス等の重量平均分子量が通常は5,000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が20質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0041】
液状物の固形分含有率は、転写層の積層条件、目的とする転写層の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではない。しかしながら、液状物の粘性を適度に保ち、かつ良好な転写層を形成させるためには、1〜60質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。
【0042】
液状物を支持体に塗工する方法としては、公知の方法が挙げられる。例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により液状物を支持体の表面に均一に塗工し、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥処理又は乾燥のための加熱処理に供する。これにより、均一な転写層を支持体に密着させて形成することができる。
【0043】
本発明の転写シートの適用対象としての被転写体は、その材質に制限があるものではなく、たとえば、樹脂材料、紙、合成紙、布、金属材料、ガラス材料、木材、セラミック類、セメント類等が挙げられる。その形状も、シート(フィルム)、平板、曲面板、棒状体、立体物等と任意である。
【0044】
被転写体に用いることのできる樹脂材料としては、例えば熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、6−ナイロン、ポリ−m−キシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリルニトリルなどのアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、これらの樹脂の複層体(例えば、ナイロン6/MXD/ナイロン6、ナイロン6/エチレン−ビニルアルコール共重合体/ナイロン6)や混合体等が挙げられる。樹脂材料は延伸処理されていてもよい。また、樹脂材料は公知の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤などを含んでいてもよく、その他の材料と積層する場合の密着性を良くするために、その表面に前処理としてコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理等を施しておいてもよい。また、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよく、バリア層、易接着層、帯電防止層、紫外線吸収層、離型層などの他の層が積層されていてもよい。
【0045】
被転写体に用いることができる紙としては、和紙、クラフト紙、ライナー紙、アート紙、コート紙、カートン紙、グラシン紙、セミグラシン紙等を挙げることができる。
【0046】
被転写体に用いることのできる合成紙は、その構造が特に限定されず、単層構造であっても多層構造であってもよい。多層構造としては、たとえば基材層と表面層の2層構造、基材層の表裏面に表面層が存在する3層構造、基材層と表面層の間に他の樹脂フィルム層が存在する多層構造を例示することができる。また、各層は無機や有機のフィラーを含有していてもよいし、含有していなくてもよい。また、微細なボイドを多数有する微多孔性合成紙も使用することができる。
【0047】
被転写体に用いることのできる布としては、上述した合成樹脂からなる繊維や、木綿、絹、麻などの天然繊維からなる、不織布、織布、編布などが挙げられる。
【0048】
被転写体に用いることのできる金属材料としては、アルミ箔、銅箔などの金属箔や、アルミ板、銅板などの金属板などが挙げられる。金属材料のほかに、シリコンウエハー、カーボンウエハーなどが挙げられる。ガラス材料の例としては、ガラス板やガラス繊維からなる布などが挙げられ、木材の例としては、木質合板、木質単板、中密度繊維板(MDF)などが挙げられ、セラミック類としては、陶磁器、タイルなどが挙げられ、コンクリート類としては、ALC(軽量気泡コンクリート)、GRC(硝子繊維強化コンクリート)、スラグセメントなどが挙げられる。
【0049】
被転写体としては、上記材料を用いた積層物、たとえば上記樹脂材料に、紙、合成紙、布、他の樹脂材料、金属材料等を積層した積層物などを使うこともできる。
【0050】
転写層との密着性を向上させるために、被転写体表面は、前処理として、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理等が施されていてもよい。
【0051】
本発明の転写シートを用いた転写方法には特に限定はなく、従来公知の各種転写方法を利用できる。例えば、転写シート上の転写層を被転写体側に向けて支持体側から加圧し、転写層を被転写体に圧着後支持体を剥離する方法や、転写シート上の転写層を被転写体側に向けて熱プレスし、転写層を被転写体に圧着後支持体を剥離する方法などが挙げられる。
【0052】
被転写体上に積層された転写層上に、さらに別の被転写体を積層し、加圧および/または加熱することで、3層からなる積層体とすることができる。さらに、転写層を介して、転写層を積層した積層体を積層することで、5層からなる積層体とすることも可能である。ここでさらに積層する積層体は、転写層と被転写体とからなる積層体であってもよいし、本発明の転写シートであってもよい。これを繰り返すことで、複層化することが可能である。
【0053】
また、被転写体または支持体に転写層が積層された積層体を二つ準備し、これらの積層体の転写層を別の被転写体の両側から積層し、加圧および/または加熱することで、5層からなる積層体や、上記別の被転写体が梱包された包装物とすることもできる。ここで用いる積層体は、上記のように、被転写体に転写層が積層された積層体であってもよいし、支持体に転写層が積層された本発明の転写シートであってもよい。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。
下記の実施例・比較例において、各種の物性などの測定方法は、次のとおりとした。
【0055】
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂の構成
バリアン社製の装置を用いたH−NMR分析(300MHz)により求めた。オルトジクロロベンゼン(d)を溶媒とし、120℃で測定した。
【0056】
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)
JIS K6730に記載(190℃、21.2N(2160g)荷重)の方法で測定した。
【0057】
(3)酸変性ポリオレフィン樹脂の融点
樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 品名:DSC7)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られた昇温曲線から融点を求めた。
【0058】
(4)酸変性ポリオレフィン樹脂のビカット軟化点
JIS K7206に記載の方法で測定した。
【0059】
(5)水性分散体の有機溶剤含有率
島津製作所社製、ガスクロマトグラフ、品名:GC−8A[FID検出器使用、キャリアーガス:窒素、カラム充填物質(ジーエルサイエンス社製):PEG−HT(5%)−Uniport HP(60/80メッシュ)、カラムサイズ:直径3mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):150℃、カラム温度:60℃、内部標準物質:n−ブタノール]を用い、水性分散体または水性分散体を水で希釈したものを直接装置内に投入して、有機溶剤の含有率を求めた。検出限界は0.01質量%であった。
【0060】
(6)液状物の固形分濃度
液状物を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱して、固形分濃度を求めた。
【0061】
(7)酸変性ポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計、品名:UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、数平均粒子径を求めた。粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
【0062】
(8)転写層の厚み
液状物を支持体にコーティングし乾燥することにより得られた、支持体に転写層を積層した転写シートの全体の厚さを、接触式膜厚計によって求め、その求めた厚さから支持体の厚さを減じることで測定した。
【0063】
(9)転写性
転写シートを被転写体に貼り合せ、ヒートプレス機でプレスして、支持体/転写層/被転写体からなる積層物を形成した。その後、積層物から支持体を剥離した際の転写層の状態を目視で観察して、以下のように評価した。
【0064】
○:転写層が全て被転写体に転写された。
×:転写層を被転写体に転写できなかった、または転写層の一部が支持体に残った。
なお、被転写体には、
PETフィルム:ユニチカ社製、品名:エンブレットPET38、厚さ38μm
PPフィルム:東セロ社製、品名:#20u−1、厚さ20μm
を使用した。
【0065】
(10)密着性
転写層と被転写体の密着性を、JIS K5400に記載のクロスカット法によるテープ剥離(碁盤目試験)により評価した。詳細には、クロスカットにより転写層を100区間にカットし、テープ剥離後残留した塗膜面の区関数で以下の基準により評価した。
【0066】
○:100区間残留
△:90〜99区間残留
×:0〜89区間残留
【0067】
(11)接着強度
上記転写性試験に従って被転写体/転写層からなる積層体を作製した後、転写層側にさらに別のPETフィルム(ユニチカ社製、品名:エンブレットPET38、厚さ38μm)を貼り合せ、ヒートプレス機でプレスすることで、被転写体/転写層/PETフィルムからなる積層物を形成した。この積層物を15mm幅で切り出し、引張試験機(インテスコ社製、インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用い、引張速度200mm/分、T型剥離で接着強度を測定した。
【0068】
(12)耐水性試験
転写性試験を行って得られた積層体を、25℃の純水中に1日浸漬した後の塗膜の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0069】
○:変化なし
△:塗膜が曇る
×:塗膜が剥れる
【0070】
(13)耐アルカリ性試験
転写性試験を行って得られた積層物を、25℃の40%水酸化カリウム水溶液中に1日浸漬した後の塗膜の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0071】
○:変化なし
△:塗膜が曇る
×:塗膜が剥れる
【0072】
(14)耐酸性試験
転写性試験を行って得られた積層物を、25℃の35%塩酸水溶液中に1日浸漬した後の塗膜の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0073】
○:変化なし
△:塗膜が曇る
×:塗膜が剥れる
【0074】
(15)耐溶剤性試験
転写性試験を行って得られた積層物を、25℃のトルエン中に1日浸漬した後の塗膜の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0075】
○:変化なし
△:塗膜が曇る
×:塗膜が剥れる
【0076】
(16)転写後の基材の生分解性
JIS K6953の試験手順に従い、コンポスト化8週間後の生分解度を以下の条件で評価することにより、生分解性を評価した。
【0077】
○:生分解度が60%以上
×:生分解度が60%未満
【0078】
〔水性分散体E−1の製造〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのボンダイン「LX−4110」(アルケマ社製の酸変性ポリオレフィン樹脂)、90.0gのIPA(和光純薬社製)、3.0gのTEA(和光純薬社製)および147.0gの蒸留水を上記ガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとした。そして系内温度を140〜145℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1を得た。
【0079】
〔水性分散体E−2の製造〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのボンダイン「HX−8210」(アルケマ社製の酸変性ポリオレフィン樹脂)、90.0gのIPA(和光純薬社製)、2.6gのDMEA(和光純薬社製)および147.4gの蒸留水を上記ガラス容器内に仕込んだ。そして、撹拌翼の回転速度を300rpmとし、系内温度を120℃に保って、40分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)して、乳白色の水性分散体E−2を得た。この際、フィルター上に樹脂は殆ど残っていなかった。
【0080】
〔水性分散体E−3の製造〕
酸変性ポリオレフィン樹脂としてボンダイン「HX−8290」(アルケマ社製)を用い、水性分散体E−1の製造と同様の操作を行って、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体E−3を得た。
【0081】
〔水性分散体E−4の製造〕
酸変性ポリオレフィン樹脂としてボンダイン「TX−8030」(アルケマ社製)を用い、水性分散体E−1の製造と同様の操作を行って、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体E−4を得た。
【0082】
〔水性分散体E−5の製造〕
水性分散体E−2を用い、この水性分散体E−2からIPAを一部除去するため、ロータリーエバポレーターを用い、水を添加しながら、浴温80℃で溶媒留去を行った。その後、空冷にて室温(約25℃)まで冷却し、さらに300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体E−5を得た。
【0083】
〔溶液E−6の製造〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、15.0gのボンダイン「HX−8210」、285.0gのトルエンを上記ガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌した。そして系内温度を120℃に保ってさらに40分間撹拌した。その後、空冷して、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ約50℃まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)し、溶液E−6を得た。この際、フィルター上に樹脂は殆ど残っていなかった。
【0084】
〔水性分散体E−7の製造〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのプリマコール5980I(ダウケミカル社製の酸変性ポリオレフィン樹脂)、16.8gのTEAおよび223.2gの蒸留水を上記ガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌した。そして系内温度を140〜145℃に保って30分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白濁の水性分散体E−7を得た。この際、フィルター上に樹脂は殆ど残っていなかった。
【0085】
これらの水性分散体E−1〜E−7は、本発明にいう液状物に該当するものであるが、その製造に使用した酸変性ポリオレフィン樹脂の組成を表1に示し、分散体の組成を表2に示す。なお、E−6の有機溶剤含有率は、固形分濃度を差し引くことで算出した。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
実施例1
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体E−1を、支持体となる2軸延伸ポリ乳酸フィルム(ユニチカ社製、テラマックフィルムTFE−15、厚さ15μmの2軸延伸ポリ乳酸フィルム)のコロナ処理面にマイヤーバーを用いてコートした後、120℃で30秒間乾燥させて、厚み3.0μmの転写層を形成させることで、転写シートを得た。得られた転写シートの、転写性、密着性、接着強度、耐水性、耐アルカリ性、耐酸性、耐溶剤性を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、90℃とした。
【0089】
実施例2
実施例1に比べて、転写層の厚みが2.0μmになるように塗工量を変えた。それ以外は実施例1と同様にして転写シートを作製し、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、90℃とした。
【0090】
実施例3
実施例1に比べて、転写層の厚みが1.0μmになるように塗工量を変えた。それ以外は実施例1と同様にして転写シートを作製し、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、90℃とした。
【0091】
実施例4
実施例1に比べて、転写層の厚みが9.0μmになるように塗工量を変えた。それ以外は実施例1と同様にして転写シートを作製し、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、90℃とした。
【0092】
実施例5
実施例1の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1に代えて、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−2を用いた。それ以外は実施例1と同様にして転写シートを作製し、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、90℃とした。
【0093】
実施例6
実施例1の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1に代えて、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−3を用いた。それ以外は実施例1と同様にして転写シートを作製し、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、80℃とした。
【0094】
実施例7
実施例1の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1に代えて、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−4を用いた。それ以外は実施例1と同様にして転写シートを作製し、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、90℃とした。
【0095】
実施例8
実施例1の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1に代えて、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−5を用いた。それ以外は実施例1と同様にして転写シートを作製し、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、90℃とした。
【0096】
実施例9
実施例1の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1に代えて、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−6を用いた。それ以外は実施例1と同様にして転写シートを作製し、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、90℃とした。
【0097】
実施例10
実施例1の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1に代えて、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−7を用いた。それ以外は実施例1と同様にして転写シートを作製し、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、90℃とした。
【0098】
実施例11
実施例1の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1に代えて、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1と、架橋剤としてのオキサゾリン基含有ポリマーの水溶液(日本触媒社製、エポクロス「WS−500」、固形分濃度:40質量%)とを、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対してオキサゾリン基含有ポリマー化合物の固形分が5質量部となるように混合した液状物を用いた。それ以外は実施例1と同様にして転写シートを作製し、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、140℃とした。
【0099】
実施例12
実施例1の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1に代えて、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−3と、帯電防止剤としての酸化スズゾル超微粒子分散体(ユニチカ社製、「AS11T」、固形分濃度11.5質量%)とを、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して酸化スズの固形分が100質量部となるように混合した液状物を用いた。それ以外は実施例1と同様にして転写シートを作製し、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、120℃とした。
【0100】
実施例1〜12についての転写シートの塗膜厚みすなわち転写層の厚み、転写性、密着性、接着強度、耐水性、耐アルカリ性、耐酸性、耐溶剤性の評価結果を表3に示す。
【0101】
【表3】

【0102】
比較例1
実施例1の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1に代えて、ポリエステル樹脂水性分散体(ユニチカ社製 KA−3556、固形分濃度:30質量%)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、転写シートを作製し、各種性能を評価しようとした。転写層を被転写体に転写しようとするときのプレス温度は、100℃とした。
【0103】
しかしながら、転写層を被転写体に転写することができなかった。このため、性能評価を行うことができなかった。
【0104】
比較例2
実施例1の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1に代えて、ポリウレタン樹脂水性分散体(アデカ社製 アデカボンタイターHUX380、固形分濃度:38質量%)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、転写シートを作製し、各種性能を評価しようとした。転写層を被転写体に転写しようとするときのプレス温度は、100℃とした。
【0105】
しかしながら、転写層を被転写体に転写することができなかった。このため、性能評価を行うことができなかった。
【0106】
比較例3
支持体として、実施例1の2軸延伸ポリ乳酸フィルムに代えて、2軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ社製 エンブレットPET38、厚さ38μmのPETフィルム)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、転写シートを作製し、各種性能を評価しようとした。転写層を被転写体に転写しようとするときのプレス温度は、90℃とした。
【0107】
しかしながら、転写層を被転写体に転写することができなかった。このため、性能評価を行うことができなかった。
【0108】
比較例4
支持体として、実施例1の2軸延伸ポリ乳酸フィルムに代えて、2軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ社製 エンブレットPET38、厚さ38μmのPETフィルム)に、シリコーン離型剤(東芝シリコーン社製 TSM6341、固形分濃度:40質量%)を0.5μmの厚みになるように塗工して離型層を形成したフィルムを用いた。そして、実施例1と同じ酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1を用い、実施例1と同様の操作を行って、厚さ3.0μmの転写層を備えた転写シートを作製しようとした。
【0109】
しかしながら、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1を離型剤の表面に塗工しようとしたときにハジキが生じ、転写層を製膜することができなかった。このため、性能評価を行うことができなかった。
【0110】
比較例5
比較例4に比べて、転写層の厚みが9.0μmになるように塗工量を変えた。それ以外は比較例4と同様にしたところ、転写シートを作製することができた。このため、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、90℃とした。
【0111】
比較例6
比較例5の2軸延伸ポリエステルフィルムに代えて、2軸延伸ポリ乳酸フィルム(TFE−15)を用いた。それ以外は比較例5と同様にして、転写シートを作製し、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、90℃とした。
【0112】
比較例7
比較例5におけるシリコーン離型剤に代えて、長鎖アルキル変性ポリマー分散体(中京油脂社製 K−256、固形分濃度:19%)を用いた。それ以外は比較例4と同様にして転写シートを作製し、各種性能を評価した。転写層を被転写体に転写するときのプレス温度は、90℃とした。
【0113】
比較例8
支持体として、実施例1の2軸延伸ポリ乳酸フィルムに、ポリ乳酸樹脂水性分散体(ユニチカ社製 LAE−013N、固形分濃度:50%)とポリエチレンパラフィンワックス(サンノプコ社製 MS−40、固形分濃度:40%)とを、ポリ乳酸樹脂100質量部に対してポリエチレンパラフィンワックスが10質量部となるように混合した液状物を、0.5μmの厚みとなるように塗工して離型層を形成したものを用いた。それ以外は比較例4と同様にして転写シートを作製し、各種性能を評価した。
【0114】
比較例1〜8についての転写シートの転写層の厚み、転写性、接着強度、耐水性、耐アルカリ性、耐酸性の評価結果を表4に示す。
【0115】
【表4】

【0116】
実施例1〜12の、脂肪族ポリエステル樹脂からなる支持体上に酸変性ポリオレフィン樹脂を積層した本発明の転写シートは、支持体と転写層の間に離型層を有していなくとも、被転写体への良好な転写性を示し、また転写層は、密着性、接着強度、耐水性、耐アルカリ性、耐酸性、耐溶剤性に優れたものであった。転写後の基材も生分解性を有するものであった。さらに、架橋剤を添加して、酸変性ポリオレフィンを硬化させた場合、より良好な耐溶剤性が発現した(実施例11)。また酸化スズ超微粒子を添加した場合(実施例12)、転写層の表面抵抗率は1010Ω/□と優れた帯電防止性能を付与することができた。これに対し、他の実施例における転写層の表面抵抗率は1015Ω/□であった。
【0117】
一方、脂肪族ポリエステル樹脂からなる支持体上の転写層に本発明外の樹脂を用いた場合、被転写体に対して十分に転写できなかった(比較例1、比較例2)。さらに、転写層を構成する酸変性ポリオレフィン樹脂を脂肪族ポリエステル樹脂以外の支持体上に積層した場合も、被転写体に対して十分に転写できなかった(比較例3)。シリコーン離型剤(比較例4、5、6)、長鎖アルキル変性ポリマーを添加した離型剤(比較例7)、ワックスを添加した離型剤(比較例8)を塗工した支持体を使用した場合は、離型層の上に薄膜の転写層を形成することが困難であるだけでなく、離型剤中に含まれるシリコーン、乳化剤、ワックス成分により転写層が汚染されて、接着性、耐水性、耐アルカリ性、耐酸性、耐溶剤性の悪化が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の片面に転写層が積層され、前記支持体は脂肪族ポリエステル樹脂にて形成され、前記転写層は酸変性ポリオレフィン樹脂を含み、前記転写層と支持体との間に離型層を有していないことを特徴とする転写シート。
【請求項2】
脂肪族ポリエステル樹脂がポリ乳酸系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の転写シート。
【請求項3】
酸変性ポリオレフィン樹脂は酸変性成分を0.01〜5質量%含むことを特徴とする請求項1または2記載の転写シート。
【請求項4】
酸変性ポリオレフィン樹脂が、側鎖に酸素原子を有するエチレン性不飽和成分を含むことを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の転写シート。
【請求項5】
酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する液状物を、脂肪族ポリエステル樹脂にて形成された支持体上に、離型剤を介在させずに塗工し、その後に乾燥させる工程を含むことを特徴とする転写シートの製造方法。
【請求項6】
酸変性成分を0.01〜5質量%含む酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する液状物を用いることを特徴とする請求項5記載の転写シートの製造方法。
【請求項7】
液状媒体が水性媒体である液状物を用いることを特徴とする請求項5または6記載の転写シートの製造方法。

【公開番号】特開2010−274496(P2010−274496A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128367(P2009−128367)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】