説明

転写シート及び化粧材

【課題】ブロッキング等の問題が発生しない転写シートであって、前記転写シート全面に発泡抑制インキを用いたパターン層を設け、これを化粧材の発泡樹脂層に転写し、発泡させても柄のつぶれない、発泡する部分と発泡しない部分とによる良好な凹凸発泡成形が可能になる転写シート及びこれを用いた化粧材を提供すること。
【解決手段】基材シート上に転写性を有する発泡抑制インキからなるパターン層を設けてなる転写シートにおいて、前記発泡抑制インキがベンゾトリアゾール系発泡抑制剤を含有し、前記パターン層が基材シート全面に設けられたものであって、前記パターン層の発泡抑制インキを設けた部分の幅が0.50〜1.27mmであり、前記パターン層の発泡抑制インキを設けない部分の幅が0.50〜1.27mmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅、店舗等の建築物や、電車、自動車等の車両や、飛行機、船舶等の内装、外装材、床材、壁紙、天井等の表面に用いる化粧材およびそれに模様などを転写する転写シートであって、特には樹脂の発泡が部分的に抑制されることで表面に凹凸が設けられた通称「クッションフロア」と呼ばれる化粧材、およびそれに発泡抑制剤を転写する転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
表面の樹脂層を発泡させてなる化粧材に通常用いられている発泡樹脂としては、熱発泡性ポリ塩化ビニル樹脂が知られている。この熱発泡性ポリ塩化ビニル樹脂の発泡を促進させるために、亜鉛やバリウムといった安定剤が添加されている。この安定剤の働きにより、通常は高温で発泡するポリ塩化ビニル樹脂が、比較的低温で発泡できるようになる。
【0003】
そして、前記熱発泡性ポリ塩化ビニル樹脂上に、発泡抑制インキからなるパターン層を設けて、前記発泡抑制インキを設けた部分の発泡を抑制して凹部とし、前記発泡抑制インキを設けない部分の発泡をそのままとして凸部とし、表面に凹凸のある化粧材としたものが、知られている。
【0004】
発泡抑制インキとしては、トリアジン系発泡抑制インキが知られている。トリアジンは前記安定剤の働きを阻害し、トリアジン系発泡抑制インキのある部分の熱発泡性ポリ塩化ビニル樹脂は高温でなければ発泡できなくなる。
【0005】
前記熱発泡性ポリ塩化ビニル樹脂上に発泡抑制インキからなるパターン層を好適に設ける方法としては、発泡を行う前に、発泡抑制インキからなるパターン層を転写シート上に設けておき、これを熱発泡性ポリ塩化ビニル樹脂上に転写させることで可能である。
【0006】
しかし、発泡抑制剤としてのトリアジンは融点が300℃以上と高温であるため、発泡が始まる前に迅速にポリ塩化ビニル樹脂層に浸透させることは困難であり、良好な発泡抑制効果を得ることができなかった。
【0007】
発泡抑制剤として160℃以下の低い融点を示すベンゾトリアゾール、トリアゾール等を用いることも考えられる。しかし、パターン層を化粧材の一部分、たとえばタイルの目地といった大柄の一部分の凹部として設ける場合はそれでも良いが、化粧材全面にわたって設けるような場合となると、転写シートにパターン層を設けた場合、転写シートの形成後にブロッキングが発生し易く、転写シートの安定した品質での提供が困難なものとなることが予測されていた。
【0008】
さらに、発泡抑制剤の浸透度合いの調節が難しく、パターン層の発泡抑制インキを設けた部分の幅とパターン層の発泡抑制インキを設けない部分の幅の両方を適度な範囲に抑えないと、発泡抑制がききすぎて凸部がつぶれたり、発泡抑制しきれずに凹部が埋まってしまったりする。さらにこれらと上記のブロッキングの発生問題との兼ね合いの調整が、困難なものであることが、発明者らの試行により判明した。
【特許文献1】特公昭43−28636号公報
【特許文献4】特開平11−267407号公報
【特許文献5】特開2002−200717号公報
【特許文献6】特開2004−34618号公報
【特許文献7】特開2005−22373号公報
【特許文献8】特開平5−318612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、ブロッキング等の問題が発生しない転写シートであって、前記転写シート全面に発泡抑制インキを用いたパターン層を設け、これを化粧材の発泡樹脂層に転写し、発泡させても柄のつぶれない、発泡する部分と発泡しない部分とによる良好な凹凸発泡成形が可能になる転写シート及びこれを用いた化粧材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前記課題を解決したものでありすなわちその請求項1記載の発明は、基材シート上に転写性を有する発泡抑制インキからなるパターン層を設けてなる転写シートにおいて、前記発泡抑制インキがベンゾトリアゾール系発泡抑制剤を含有し、前記パターン層が基材シート全面に設けられたものであって、前記パターン層の発泡抑制インキを設けた部分の幅が0.50〜1.27mmであり、前記パターン層の発泡抑制インキを設けない部分の幅が0.50〜1.27mmであることを特徴とする転写シートである。
【0011】
またその請求項2記載の発明は、化粧材基材上に発泡樹脂層、発泡抑制インキからなるパターン層が少なくともこの順に設けられてなり、前記パターン層の発泡抑制インキを設けた部分の発泡は抑制され、前記パターン層の発泡抑制インキを設けない部分の発泡は抑制されず、表面に凹凸パターンが設けられた化粧材において、前記発泡樹脂層が発泡性ポリ塩化ビニル樹脂からなり、前記発泡抑制インキがベンゾトリアゾール系発泡抑制剤を含有し、前記パターン層が基材シート全面に設けられたものであって、前記パターン層の発泡抑制インキを設けた部分の幅が0.50〜1.27mmであり、前記パターン層の発泡抑制インキを設けない部分の幅が0.50〜1.27mmであることを特徴とする化粧材である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明により、ベンゾトリアゾール系発泡抑制インキを用い、パターン層の発泡抑制インキを設けた部分と設けない部分の幅を限定することで、ブロッキングが発生することがなく、また、転写シートの安定した品質での提供が可能となった。
【0013】
またその請求項2記載の発明により、パターン層の発泡抑制インキを設けた部分と設けない部分の幅を限定することで、発泡の不良による柄のつぶれや発泡抑制しきれないことによる凹部の埋まりなどが無く、発泡する部分と発泡しない部分とによる良好な表面凹凸を有する化粧材を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を図面に基づき詳細に説明する。
図1に、本発明の転写シートの一実施例の断面の構造を示す。
転写シートの基材シート1の表面に発泡抑制インキからなるパターン層2を設けてなり、絵柄模様層3、隠蔽層4が適宜設けられてなる。
【0015】
本発明における転写シートの基材シート1としては、発泡抑制インキからなるパターン層2を、転写性を有しつつ印刷などにより設けることが可能であるものであれば特に限定されるものではない。特には坪量30〜100g/m程度の上質紙、またはこの表面にポリオレフィン系樹脂層をラミネートあるいはコーティングした積層構造からなるシート、さらにはポリオレフィン系樹脂単層または複数の積層構造からなるシートなどが好適である。前記ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、ポロメチルペンテン樹脂などが使用可能である。
【0016】
本発明におけるパターン層2に用いる発泡抑制インキとしては、被転写材である発泡性のポリ塩化ビニル樹脂の発泡に対する発泡抑制効果を得るための発泡抑制剤が添加されている。本発明においてはこの発泡抑制剤として、ベンゾトリアゾール系発泡抑制剤が用いられる。ベンゾトリアゾール系発泡抑制剤としては、無水トリメット酸、ベンゾトリアゾール系としては、1−[N,N−ビス(2エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾールあるいはこの誘導体、1−[N,N−ビス(ヒドロキシルエチル)アミノメチル]ベンゾトリアゾールあるいはこの誘導体等がある。また、融点が160℃以上300℃未満のカルボキシベンゾトリアゾールが用いられる。発泡抑制剤の添加量は、発泡抑制インキ中5〜50重量%であることが好ましい。
【0017】
前記発泡抑制インキ中にシベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、溶解性を向上させるためにアミン中和し、アルコールで溶解させることが好ましく、当該アミンの沸点は200℃以下であることがさらに好ましい。
【0018】
また、発泡抑制インキ中には、被転写材であるポリ塩化ビニル樹脂への熱転写性を確保するために、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂とアクリル樹脂とを適宜添加するのが好ましい。具体的なそれぞれの添加量としては、発泡抑制インキ100重量%中、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂が1〜30重量%、アクリル樹脂が1〜30重量%程度であることが好ましい。
【0019】
さらに、タックを切るために発泡抑制インキ中の体質顔料を適宜添加するのが好ましい。体質顔料としてはシリカが好適である。体質顔料の含有量は、発泡抑制インキ中100重量%中、1〜10重量%程度であることが好ましい。
【0020】
適宜設ける絵柄模様層3は、例えば住宅、店舗等の建築物や、電車、自動車等の車両や、飛行機、船舶等の内装材や外装材、床材等の表面を化粧するための化粧柄や、模様、彩色、木目柄、目地、木目導管柄等が印刷により施されている。
【0021】
適宜設ける隠蔽層4は、被転写材の被転写面を隠蔽するための隠蔽性のあるインキを用いて、絵柄模様層3の上から印刷形成されている。
【0022】
図2に、本発明の化粧材の一実施例の断面の構造を示す。
化粧材基材上5に、発泡性ポリ塩化ビニル樹脂層6、転写された隠蔽層4、絵柄模様層3、発泡抑制インキからなるパターン層2が設けられてなる。
【0023】
本発明における化粧材基材5としては、後述する発泡樹脂層6をその上に塗布、成形するのに適した紙基材、樹脂シートであれば特に限定されることなく適用可能である。特には厚さ50〜200g/m程度の裏打紙が好適に用いられる。
【0024】
本発明における発泡樹脂層6としては、発泡性ポリ塩化ビニル樹脂からなるものが用いられる発泡性ポリ塩化ビニル樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂に発泡剤を添加したものが好適であり、樹脂100重量部に対して発泡剤0.1〜10重量部と発泡助剤0.01〜5重量部程度添加したものが使用可能である。
【0025】
前記発泡剤としては、従来公知のものが使用可能であり、具体的には、アゾジカルボンアミド(ADCA)、1,1’− アゾビス(1−アセトキシ−1− フェニルエタン)、ジメチル−2,2’−アゾビスブチレート、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’− アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、1,1’− アゾビス(シクロヘキサン−1− カルボニトリル)、2,2’− アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2− メチル− プロピオンアミジン]等のアゾ化合物;
N,N’− ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)等のニトロソ化合物;
4,4’− オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホニルヒドラジド等のヒドラジン誘導体;
p−トルエンスルホニルセミカルバジド等のセミカルバジド化合物;
トリヒドラジノトリアジンなどの有機系熱分解型発泡剤、
さらには、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等の重炭酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩;亜硝酸アンモニウム等の亜硝酸塩、水素化合物などの無機系熱分解型発泡剤が挙げられる。中でも、アゾジカルボンアミド(ADCA)、炭酸水素ナトリウムが特に好ましい。
【0026】
前記発泡助剤としては、発泡剤の分解温度の低下、分解促進、気泡の均一化などの作用をするもので、従来公知のものが使用可能であり、具体的には、酸化亜鉛(ZnO)、ステアリン酸亜鉛、サリチル酸、フタル酸、ステアリン酸、しゅう酸等の有機酸、尿素またはその誘導体などが挙げられる。
【実施例1】
【0027】
<転写シートの作成1>
転写シートの基材シート1として、坪量52.3g/mのフォーム印刷用紙と厚さ20μmのポリプロピレン樹脂シートとを貼り合わせた。
【0028】
<発泡抑制インキの作成>
熱転写性を有する発泡抑制インキとして、カルボキシベンゾトリアゾールをジエチルエタノールアミンで中和してアルコールで溶解したものを10重量%、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂15重量%、アクリル樹脂15重量%、水分に対して安定性をあげるためにポリビニルアルコール樹脂1重量%、シリカ5重量%を添加してグラビアインキとして作成した。
【0029】
<転写シートの作成2>
前記基材シートのポリプロピレン樹脂シート側に、前記熱転写性を有する発泡抑制インキを、グラビア印刷法にて1μm程度の印刷膜厚の線状柄のパターンを印刷して、パターン層とした。ここで、発泡抑制インキを設けた線状部分の幅は0.50mm、発泡抑制インキを設けない線状部分の間隔の幅は0.50mmとした。
【0030】
<転写シートの作成3>
前記発泡抑制インキによるパターン層を設けた基材シートのポリプロピレン樹脂シート側の上に、さらに、絵柄模様層として、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂とアクリル樹脂を主成分とした無機顔料を含むインキによって木目柄をグラビア印刷法にて印刷した。
【0031】
<転写シートの作成4>
さらに絵柄模様層の上に、隠蔽層として、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂とアクリル樹脂を主成分とした無機顔料を含むインキに全面にグラビア印刷法により印刷した。以上により転写シートを作成した。
【0032】
<化粧材の作成1>
化粧材基材として厚さ100g/m2の裏打紙を用い、この上に塩化ビニル樹脂100重量部対して発泡剤としてアゾジカルボンアミドと発泡助剤として酸化亜鉛0.15重量部とを添加した樹脂を乾燥後の層厚として200g/mとなるように塗布し、乾燥させ、発泡性塩化ビニル樹脂層とした。
【0033】
<化粧材の作成2>
前記発泡性塩化ビニル樹脂層の上に、前記転写シートの隠蔽層側を貼り合せて、200℃の転写ロールを用いて加熱加圧した後、基材シートを剥離した。その後220℃のオーブンで100秒間放置して加熱発泡処理し、発泡抑制インキからなるパターン層の形成された部分の発泡の抑制効果を目視と手で触って確認した。
【0034】
<比較例>
発泡抑制インキを設けた線状部分の幅と、発泡抑制インキを設けない線状部分の間隔の幅を、後記する表1に示すように変化させた以外は実施例1と同様にして化粧材を作成した。結果を目視で評価し、表1に示す。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、住宅、店舗等の建築物や、電車、自動車等の車両や、飛行機、船舶等の内装、外装材、床材、壁紙、天井等の表面に化粧のために転写して使用するための転写シート及びそれを用いた凹部の深い通称ケミカルエンボス用転写シート及びそれを用いて転写、加熱、発泡させた化粧材である。この中で特に、通称クッションフロアと呼ばれる化粧材等を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の転写シートの一実施例の断面の構造を示す説明図である。
【図2】本発明の化粧材の一実施例の断面の構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1…転写シートの基材シート
2…発泡抑制インキからなるパターン層
3…絵柄模様層
4…隠蔽層
5…化粧材基材
6…発泡樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート上に転写性を有する発泡抑制インキからなるパターン層を設けてなる転写シートにおいて、
前記発泡抑制インキがベンゾトリアゾール系発泡抑制剤を含有し、
前記パターン層が基材シート全面に設けられたものであって、
前記パターン層の発泡抑制インキを設けた部分の幅が0.50〜1.27mmであり、
前記パターン層の発泡抑制インキを設けない部分の幅が0.50〜1.27mmであることを特徴とする転写シート。
【請求項2】
化粧材基材上に発泡樹脂層、発泡抑制インキからなるパターン層が少なくともこの順に設けられてなり、前記パターン層の発泡抑制インキを設けた部分の発泡は抑制され、前記パターン層の発泡抑制インキを設けない部分の発泡は抑制されず、表面に凹凸パターンが設けられた化粧材において、
前記発泡樹脂層が発泡性ポリ塩化ビニル樹脂からなり、
前記発泡抑制インキがベンゾトリアゾール系発泡抑制剤を含有し、
前記パターン層が基材シート全面に設けられたものであって、
前記パターン層の発泡抑制インキを設けた部分の幅が0.50〜1.27mmであり、
前記パターン層の発泡抑制インキを設けない部分の幅が0.50〜1.27mmであることを特徴とする化粧材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−154314(P2009−154314A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332199(P2007−332199)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(593173840)株式会社トッパン・コスモ (243)
【Fターム(参考)】