説明

転写用ドナー基板とその製造方法及びそれを用いたデバイスの製造方法

【課題】高精度な微細パターニングが可能である転写用ドナー基板、および、かかるドナー基板を用いて有機EL素子などのデバイスを製造する方法を提供する。
【解決手段】この転写用ドナー基板は、支持体と、支持体上に形成された光熱変換層と、前記光熱変換層上に形成された区画パターンと、区画パターンで区画された複数個の領域の前記光熱変換層上に2種類以上の異なる転写材料であって溶液状態から同時に乾燥させた転写材料と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子をはじめとするデバイスのパターニングに用いる転写用ドナー基板、および、それを用いたデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔とが両極に挟まれた有機材料の発光層内で再結合して発光するものである。このように発光する有機EL素子は、非特許文献1のような研究成果が示されて以来、薄型でかつ低駆動電圧下で高輝度が可能であること、また、発光層に種々の有機材料を用いることによって赤(R)、緑(G)、青(B)の三原色をはじめとした多様な発光色を得ることが可能であること、からカラーディスプレイへの応用の実用化が進み、それにつれて様々な技術が要求されてきた。その1つは、最終製品として有機EL素子を形成するデバイス基板に、典型的な膜厚が0.1μm以下の薄膜であって三原色ごとに高精度に微細パターニングした発光層を形成する技術である。
【0003】
従来、薄膜の微細パターニングにはフォトリソグラフィー法、インクジェット法、印刷法などのウェットプロセスが多く用いられてきたが、先に形成した下地層の上にフォトレジストやインクなどを塗布した際に下地層の形態変化や望まれない混合などを完全に防止することが困難であったり、ウェット状態から乾燥した薄膜の膜厚均一性を達成することが困難であったりした。これに対し、何種かのドライプロセスが実用化或いは提案されている。その内、マスク蒸着法は、金属板に精密な穴を開けた蒸着マスクを密着し、それをマスクとして各発光材料をデバイス基板に蒸着するものであるが、カラーディスプレイの大型化と穴の精度の両立が困難であり、また、大型化につれてデバイス基板と蒸着マスクとの密着性が損なわれる傾向にある。
【0004】
カラーディスプレイの大型化に対応したドライプロセスとしては、転写用のドナーシート(ドナーフィルム或いはドナー基板)に一旦、RGBの各発光材料を塗布し微細パターニングした転写材料を形成し、その転写材料をデバイス基板に蒸着転写するものが開発されている。例えば、特許文献1には、ドナーシート全体を加熱することで転写材料をデバイス基板に転写するものが記載されている。また、特許文献2には、ドナーシートにパターニングした隔壁(区画パターン)で区画された転写材料を形成し、ドナーシート全体を加熱することで転写材料をデバイス基板に転写するものが記載されている。しかし、特許文献1、2に記載の方式では、ドナーシート全体が加熱により熱膨張してそれに形成された転写材料のデバイス基板に対する相対位置が変位するため、特に大型化するほど変位量が増し、その結果、デバイス基板上に高精度な微細パターンを得ることが困難であった。更には、デバイス基板がドナーシートからの輻射により加熱されデバイス性能が悪化するという問題もあった。また、特許文献2のように隔壁(区画パターン)が有る場合には、その加熱による脱ガスの影響によりデバイス性能が悪化するという問題もあった。
【0005】
特許文献3、4にはドナーシートに転写材料に積層した光熱変換層を設け、光熱変換層の背後からレーザーを照射して局所的に熱を生じさせることで薄膜の材料を画素ごとにデバイス基板に転写するものが記載されている。特許文献3ではRGBごとのドナーシートを用意し、特許文献4では、1枚のドナーシートにRGBをストライプ状に塗り分けている。また、特許文献5には、ドナーシートにパターニングしたセパレータ(区画パターン)で区画された転写材料を形成し、レーザーを走査して局所的に熱を生じさせることで薄膜の材料をデバイス基板に転写するものが記載されている。特許文献3乃至5に記載のレーザーを部分照射する方式は、ドナーシート全体が加熱されないので、特許文献1、2で述べたようなドナーシートの変位は基本的に生じないし、デバイス基板がドナーシートからの輻射により加熱されデバイス性能が悪化することも抑制される。また、特許文献5のセパレータ(区画パターン)はレーザーが照射されないので、脱ガスの影響によりデバイス性能が悪化することも基本的に生じない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−260854号公報
【特許文献2】特開2000−195665号公報
【特許文献3】特許第3789991号公報
【特許文献4】特開2005−149823号公報
【特許文献5】特開2004−87143号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“Applied Physics Letters”、(米国)、1987年、51巻、12号、913−915頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3〜5のようにレーザーを部分照射して転写材料を転写する方式は、大型化と高精度な微細化を両立させるには有効な技術である。しかし、特許文献3、4に記載のものは、生じた熱の横方向の拡散を考慮してレーザーの強度や照射時間を精密に決定するのが容易ではなく、また、この技術を実用化した場合には、転写材料が分解温度以上に達して劣化する確率も高くなる。特許文献5のものは、転写材料の膜厚が薄いためにレーザーが十分に吸収されずにデバイス基板まで到達して下地層を劣化したり、また、セパレータ(区画パターン)にレーザーが照射されたときは、セパレータが劣化したり、脱ガスによりデバイス基板のデバイス性能が悪化する。
【0009】
本願発明者は、このような課題を解決するため、光熱変換層と区画パターンを用いた転写用ドナー基板からの転写によりデバイスを製造する方法について鋭意研究し、ドナー基板上にRGBの異なる転写材料を各々所定の領域に順番に形成した場合、高精度な微細化が進むにつれて、後から形成する転写材料が前に形成した転写材料の領域内の膜厚状態に影響を及ぼすことを見出した。
【0010】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、レーザーに代表される光を照射することによってデバイス基板に転写材料を転写するドナー基板であって、高精度な微細パターニングが可能であるドナー基板を提供することにある。また、かかるドナー基板を用いて有機EL素子に代表されるデバイスを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の転写用ドナー基板は、支持体と、該支持体上に形成された光熱変換層と、前記光熱変換層上に形成された区画パターンと、を備える転写用ドナー基板であって、前記区画パターンで区画された複数個の領域の前記光熱変換層上には、2種類以上の異なる転写材料であって溶液状態から同時に乾燥させた転写材料が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の転写用ドナー基板によれば、2種類以上の異なる転写材料が存在する場合において、溶液状態から同時に乾燥させているので、それらの転写材料の膜厚ムラを非常に少なくすることができる。このドナー基板を用いると、デバイス性能が悪化することなく、高精度に微細パターニングされたデバイスの製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】有機EL素子が形成されたデバイス基板の典型的な構造の例を示す拡大断面図。
【図2】本発明の実施形態におけるドナー基板を用いてデバイス基板に転写膜を形成する方法の例を示す拡大断面図。
【図3】図2における拡大平面図。
【図4】本発明の実施形態における転写補助層の一例を説明する断面図。
【図5】本発明の実施形態における転写材料の形成方法の一例を模式的に示す断面図。
【図6】本発明の実施形態における区画パターンの別の一例を示す断面図。
【図7】本発明の実施形態におけるパターニング方法の一例を示す断面図。
【図8】従来の光照射配置における問題点を説明する断面図。
【図9】本発明の実施形態におけるパターニング方法の別の一例を示す断面図。
【図10】本発明の実施形態における一括転写のパターニング方法の一例を示す断面図。
【図11】本発明の実施形態における光照射方法の別の一例を示す斜視図。
【図12】本発明の実施形態における一括転写のパターニング方法の別の一例を示す断面図。
【図13】本発明の実施形態における光照射方法の別の一例を示す平面図。
【図14】本発明の実施形態における光照射方法の別の一例を示す平面図。
【図15】本発明の実施形態における光照射方法の別の一例を示す平面図。
【図16】本発明の実施形態における光照射方法の別の一例を示す斜視図。
【図17】本発明の実施形態における光の強度分布と転写材料温度の時間変化を説明する概念図。
【図18】本発明の実施形態における照射光の成形方法の一例を示す斜視図。
【図19】本発明の実施例における転写材料の形成工程の平面写真。
【図20】本発明の実施例における別の転写材料の形成工程の平面写真。
【図21】本発明の実施例におけるドナー基板を用いてデバイス基板に転写膜を形成する方法の例を示す拡大断面図。
【図22】本発明の実施例における有機EL素子が形成されたデバイス基板の構造の例を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好ましい形態を図面を参照しながら説明する。なお、本明細書中で使用する拡大断面図や拡大平面図は、カラーディスプレイの最小単位である画素を構成するRGB副画素を示している。また、理解を助けるために拡大断面図の横方向(基板面内方向)に比較して縦方向(基板面垂直方向)の倍率を拡大している。以下、デバイスの代表的な例として有機EL素子が形成される典型的な構造のデバイス基板10を説明し、次いで、デバイス基板10にデバイスを転写により形成するのに好適な本発明の実施形態に係るドナー基板30を説明し、次いで、ドナー基板30を用いた転写プロセスを中心にしてデバイスの製造方法を説明する。
【0015】
(1)デバイス基板10
図1は、有機EL素子が形成されたデバイス基板10の典型的な構造の例を示す拡大断面図である。デバイス基板10は、ガラス板等の支持体11上にTFT12(取出電極込み)や平坦化層13などで構成されるアクティブマトリクス回路が構成されている。それらの上には、有機EL素子を構成する第一電極15/正孔輸送層16/発光層17/電子輸送層18/第二電極19が形成されている。この図1の例では、発光層17は、RGBの3種類の発光層17R、17G、17Bからなり、それらは横方向に区画されてなる。第一電極15の端部には、電極端における短絡発生を防止し、発光領域を規定する絶縁層14が形成される。有機EL素子の素子構成はこの例に限定されるものではなく、例えば、第一電極15と第二電極19との間に正孔輸送機能と電子輸送機能とを合わせもつ発光層17が一層だけ形成されていてもよく、正孔輸送層16は正孔注入層と正孔輸送層との、電子輸送層18は電子輸送層と電子注入層との複数層の積層構造であってもよく、発光層17が電子輸送機能をもつ場合には電子輸送層18が省略されてもよい。また、第一電極15/電子輸送層18/発光層17/正孔輸送層16/第二電極19の順に積層されていてもよい。また、これらの層はいずれも単層であっても複数層であってもよい。なお、図示されていないが、第二電極19の形成後に、公知技術あるいは後述の本実施形態の転写プロセスを用いて、保護層の形成やカラーフィルターの形成、封止などが行われてもよい。
【0016】
発光層17は単層でも複数層でもよく、各層の発光材料は単一材料でも複数材料の混合物であってもよい。発光効率、色純度、耐久性の観点から、発光層17はホスト材料とドーパント材料との混合物の単層構造であることが好ましい。
【0017】
発光層17の発光材料としては、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(Alq)などのキノリノール錯体やベンゾチアゾリルフェノール亜鉛錯体などの各種金属錯体、ビススチリルアントラセン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、カルバゾール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ルブレン、キナクリドン誘導体、フェノキサゾン誘導体、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、クリセン誘導体、ピロメテン誘導体、リン光材料と呼ばれるイリジウム錯体系材料などの低分子材料や、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体などの高分子材料を例示することができる。特に、発光性能に優れ、本実施形態に好適な材料としては、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体、クリセン誘導体、ピロメテン誘導体、各種リン光材料を例示できる。
【0018】
正孔輸送層16は単層でも複数層でもよく、各層は単一材料でも複数材料の混合物であってもよい。正孔注入層と呼ばれる層も正孔輸送層16に含まれる。正孔輸送性(低駆動電圧)や耐久性の観点から、正孔輸送層16には正孔輸送性を助長するアクセプタ材料が混合されていてもよい。
【0019】
正孔輸送層16の正孔輸送材料としては、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチル−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)やN,N’−ビフェニル−N,N’−ビフェニル−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−(N−フェニルカルバゾリル)−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミンなどに代表される芳香族アミン類、N−イソプロピルカルバゾール、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、オキサジアゾール誘導体やフタロシアニン誘導体に代表される複素環化合物などの低分子材料や、これら低分子化合物を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリシランなどの高分子材料を例示できる。アクセプタ材料としては、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、ヘキサアザトリフェニレン(HAT)やそのシアノ基誘導体(HAT−CN6)などの電子受容性低分子材料を例示することができる。また、第一電極15表面に薄く形成される酸化モリブデンや酸化ケイ素などの金属酸化物も正孔輸送材料やアクセプタ材料として例示できる。
【0020】
電子輸送層18は単層でも複数層でもよく、各層は単一材料でも複数材料の混合物であってもよい。正孔阻止層や電子注入層と呼ばれる層も電子輸送層18に含まれる。電子輸送性(低駆動電圧)や耐久性の観点から、電子輸送層18には電子輸送性を助長するドナー材料が混合されていてもよい。電子注入層と呼ばれる層は、このドナー材料として論じられることも多い。電子輸送層18を成膜する転写材料は単一材料からなっても複数材料の混合物からなってもよい。
【0021】
電子輸送層18の電子輸送材料としては、Alqや8−キノリノラートリチウム(Liq)などのキノリノール錯体、ナフタレン、アントラセンなどの縮合多環芳香族誘導体、4,4’−ビス(ジフェニルエテニル)ビフェニルに代表されるスチリル系芳香環誘導体、アントラキノンやジフェノキノンなどのキノン誘導体、リンオキサイド誘導体、ベンゾキノリノール錯体、ヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体およびフラボノール金属錯体などの各種金属錯体、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環構造を有する化合物などの低分子材料や、これら低分子化合物を側鎖に有する高分子材料を例示できる。
【0022】
ドナー材料としては、リチウムやセシウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属、それらのキノリノール錯体などの各種金属錯体、フッ化リチウムや酸化セシウムなどのそれらの酸化物やフッ化物、テトラチアフバレン(TTF)などの電子供与性低分子材料を例示することができる。電子輸送材料やドナー材料は発光層17との組み合わせによる性能変化が起こりやすい材料の1つである。
【0023】
第一電極15および第二電極19は、発光層17からの発光を取り出すために少なくとも一方が透明であることが好ましい。第一電極15から光を取り出すボトムエミッションの場合には第一電極15が、第二電極19から光を取り出すトップエミッションの場合には第二電極19が透明である。透明電極材料およびもう一方の電極には、例えば、特開平11−214154号公報記載の如く、従来公知の材料を用いることができる。
【0024】
このような有機EL素子は、一般的に第二電極19が共通電極として形成されるアクティブマトリクス型に限定されるものではなく、例えば、第一電極15と第二電極19とが互いに交差するストライプ状電極からなる単純マトリクス型や、予め定められた情報を表示するように表示部がパターニングされるセグメント型であってもよい。これらの用途としては、テレビ、パソコン、モニター、時計、温度計、オーディオ機器、自動車用表示パネルなどを例示することができる。
【0025】
(2)ドナー基板30
次に、デバイス基板10にデバイスを形成する薄膜層を転写により形成するのに好適な本発明の実施形態に係るドナー基板30を説明する。図2及び図3は、ドナー基板30を用いてデバイス基板10に発光層17を形成する方法の例を示す拡大断面図と拡大平面図である。ドナー基板30は、支持体31と、支持体31上に形成された光熱変換層33と、光熱変換層33に積層して形成された区画パターン34と、区画パターン34により区画された転写材料37とを備えてなる。これらの図2及び図3の例では、ドナー基板30の転写材料37は横方向に区画されたRGBの3種類の発光材料の転写材料37R、37G、37Bからなり、デバイス基板10のRGBの3種類の発光層17R、17G、17Bに対応している。なお、図3は、図2における光照射の様子をドナー基板30の支持体31側から見た図である。全面に形成された光熱変換層33があるために、支持体31側から区画パターン34や転写材料37R、37G、37Bは実際には見えないが、光照射との位置関係を説明するために点線にて図示した。照射される光は矩形をしており、転写材料37R、37G、37Bを跨ぐようにして照射され、かつ、転写材料37R、37G、37Bの並びに対して垂直方向にスキャンされる。照射される光は相対的にスキャンされればよく、光自体を移動させても、ドナー基板30とデバイス基板10とのセットを移動させても、その両方でもよい。以下、支持体31、光熱変換層33、転写材料37、区画パターン34の順に説明する。
【0026】
ドナー基板30の支持体31は、光の吸収率が小さいものであって、その上に光熱変換層33、区画パターン34、転写材料37を安定に形成できる材料であれば特に限定されない。条件によっては樹脂材料のフィルムを使用することが可能である。樹脂材料としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリエポキシ、ポリプロピレン、ポリオレフィン、アラミド樹脂、シリコーン樹脂などを例示できる。
【0027】
化学的・熱的安定性、寸法安定性、機械的強度、透明性の面で、好ましい支持体31としてガラス板を挙げることができる。ソーダライムガラス、無アルカリガラス、含鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、低膨張ガラス、石英ガラスなどから条件に応じて選択することができる。後述するように転写プロセスを真空中で実施する場合には、支持体31からのガス放出が少ないことが要求されるので、この点からもガラス板は特に好ましい。
【0028】
デバイス基板10とドナー基板30を対向させて転写材料を転写させる際に、温度変化による熱膨張の違いによりパターニング精度が悪化するのを防ぐためには、デバイス基板10とドナー基板30の支持体11、31相互の熱膨張率の差は10ppm/℃以下であることが好ましく、またこれらの支持体11、31が同一材料からなることが更に好ましい。なお、両者の厚さの違いは特に限定されない。
【0029】
光熱変換層33が高温に加熱されても、支持体31自体の温度上昇(熱膨張)を許容範囲内に収める必要があるので、支持体31の熱容量は光熱変換層33のそれより十分大きいことが好ましい。従って、支持体31の厚さは光熱変換層33の厚さの10倍以上であることが好ましい。許容範囲は転写領域の大きさやパターニングの要求精度などに依存するために一概には示せないが、例えば、光熱変換層33が室温から300℃上昇し、支持体31の温度上昇をその1/100である3℃以下に抑制したい場合には、光熱変換層と支持体の体積熱容量が同程度の場合には、支持体31の厚さは光熱変換層33の厚さの100倍以上であることが好ましく、支持体31の温度上昇を300℃の1/300である1℃以下に抑制したい場合には、支持体31の厚さは光熱変換層33の厚さの300倍以上であることが更に好ましい。光熱変換層の体積熱容量が支持体の2倍程度である典型的な場合には、支持体の厚さは光熱変換層の厚さの200倍以上であることが好ましく、600倍以上であることが更に好ましい。このようにすることで、大型化しても熱膨張による寸法変位量が少なく、高精度な微細パターニングに寄与する。
【0030】
次に、ドナー基板30の光熱変換層33を説明する。光熱変換層33は、効率よく光を吸収して熱を発生し、発生した熱に対して安定である材料・構成であれば特に限定されない。カーボンブラックや黒鉛、チタンブラック、有機顔料、金属粒子などを樹脂に分散させた薄膜、もしくは金属薄膜などの無機薄膜を利用することができる。後述のように光熱変換層33が300℃程度に加熱されることがあるので、光熱変換層33は耐熱性に優れた無機薄膜からなることが好ましく、光吸収や成膜性の面で、金属材料の薄膜からなることが特に好ましい。金属材料としては、タングステン、タンタル、モリブデン、チタン、クロム、金、銀、銅、白金、鉄、亜鉛、アルミニウム、コバルト、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、ジルコニウム、シリコン、カーボンなどの単体や合金、あるいはそれらを積層したものを使用できる。
【0031】
光熱変換層33の支持体31側には必要に応じて反射防止層を形成することができる。さらに、支持体31の光入射側の表面にも反射防止層を形成してもよい。これらの反射防止層は屈折率差を利用した光学干渉薄膜が好適に使用され、シリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタンなどの単体や混合薄膜、それらの積層薄膜を使用できる。
【0032】
光熱変換層33の転写材料37側には必要に応じて転写補助層39を形成することができる。転写補助層39の機能の一例は、加熱された光熱変換層33の触媒効果により転写材料が劣化することを防止する機能であり、タングステンやタンタル、モリブデン、シリコンや酸化物・窒化物など不活性な無機薄膜を使用することができる。転写補助層39の機能の別の一例は、転写材料37を後述の塗布法により成膜した場合の表面改質機能であり、例示した不活性な無機薄膜の粗表面薄膜や金属酸化物の多孔質膜などを使用することができる。転写補助層39の機能の別の一例は、転写材料37の加熱均一化であり、例えば、図4(a)に示すように、比較的厚い転写材料37を均一に加熱するために、熱伝導性に優れた金属などの材料によりスパイク状の(もしくは多孔質状の)構造をもつ転写補助層39を形成し、その間隙に転写材料37を担持するように配置することができる。この機能を有する転写補助層39は、図4(b)に示すように、光熱変換層33と一体化してもよい。
【0033】
光熱変換層33は転写材料37の転写材料の昇華に十分な熱を与える必要があるので、光熱変換層33の熱容量は転写材料37のそれより大きいことが好ましい。従って、光熱変換層33の厚さは転写材料37より厚いことが好ましく、転写材料37の厚さの5倍以上であることが更に好ましい。数値としては0.02〜2μmが好ましく、0.1〜1μmが更に好ましい。光熱変換層33は光の90%以上、更に95%以上を吸収することが好ましいので、これらの条件を満たすように光熱変換層33の厚さを設計することが好ましい。転写補助層39は光熱変換層33にて発生した熱を効率よく転写材料37に伝える妨げにならないように、要求される機能を満たす範囲内で薄くなるように設計することが好ましい。
【0034】
光熱変換層33は転写材料37が存在する部分に形成されていれば、その平面形状は特に限定されず、上記において例示したようにドナー基板30全面に形成されていても、例えば、区画パターン34の下部で不連続となるようにパターニングされていてもよい。区画パターン34が光熱変換層33との密着性に乏しい場合には、このようにして支持体31との密着性を利用することで密着性を改善することができる。光熱変換層33がパターニングされる場合には、区画パターン34と同種の形状となる必要はなく、区画パターン34が格子状で、光熱変換層33はストライプ状であってもよい。光熱変換層33は光吸収率が大きいことから、光熱変換層33を利用して転写領域内外の適切な位置にドナー基板30の位置マークを形成することが好ましい。
【0035】
光熱変換層33や転写補助層39の形成方法としては、スピンコートやスリットコート、真空蒸着、EB蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなど、材料に応じて公知技術を利用できる。パターニングする場合には公知のフォトリソグラフィー法やレーザーアブレーションなどを利用できる。
【0036】
次に、ドナー基板30の転写材料37を説明する。転写材料37の転写材料は、有機材料、金属を含む無機材料いずれでも、加熱された際に、昇華(アブレーション昇華を含む)して、ドナー基板からデバイス基板10へと転写されればよい。また、転写材料が薄膜形成の前駆体であり、転写前あるいは転写中に熱や光によって薄膜形成材料に変換されて転写膜27が形成されてもよい。なお、この転写材料は、有機EL素子はもちろん、それをはじめとし、有機TFTや光電変換素子、各種センサーなどのデバイスを構成する薄膜を形成することができる。
【0037】
転写は後述のように蒸着モードが好ましく、1回の光照射によって転写材料37の全膜厚を転写しても、複数回の光照射によって転写材料37の膜厚を複数回に分割して転写してもよい。また、剥離モードやアブレーションモードを利用することで、例えば、デバイス基板10に転写膜として電子輸送層18/発光層17を形成する場合、ドナー基板30上に転写材料として電子輸送層/発光層の積層構造を形成しておき、その積層状態を維持した状態でデバイス基板10に転写することで、発光層17/電子輸送層18の転写膜を1回でパターニングすることもできる。
【0038】
転写材料37の厚さは、それらの機能や転写回数により一概に示すことは難しい。例えば、フッ化リチウムなどのドナー材料(電子注入材料)の1回転写分の転写材料37は、典型的な厚さは1nm以下である。また、電極材料の転写材料37の膜厚は100nm以上になる場合もある。発光層17の形成の場合は、1回転写分の転写材料37の厚さは10〜100nmであるのが好ましく、20〜50nmであるのがさらに好ましい。
【0039】
転写材料37の形成方法は特に限定されず、真空蒸着やスパッタリングなどのドライプロセスを利用することもできるが、大型化に対応が容易な方法として、少なくとも転写材料と溶媒からなる溶液を区画パターン34内に塗布し溶媒を乾燥させた後に転写する塗布法を用いることが好ましい。塗布法の具体的な方法としては、インクジェット、ノズル塗布、電界重合や電着、オフセットやフレキソ、平版、凸版、グラビア、スクリーンなどの各種印刷などを例示できる。特に、各区画パターン34内に定量の転写材料37を正確に形成することが重要であり、この観点から、インクジェットとノズル塗布を特に好ましい方法として例示できる。
【0040】
区画パターン34がないと、塗液から形成される転写材料37同士は互いに接することになり、その境界は一様ではなく、少なからず混合層が形成される。これを防ぐために、互いに接しないように隙間を空けて形成した場合には、境界領域の膜厚を中央と同一にすることが困難である。いずれの場合も、この境界領域はデバイスの性能低下を招くために転写することができないので、ドナー基板30上の転写材料37のパターンよりも幅の狭い領域を選択的に転写する必要がある。従って、実際に使用可能な転写材料37の幅が狭くなり、有機ELディスプレイを作製した際には、開口率の小さな(非発光領域の面積が大きな)画素となってしまう。また、境界領域を除いて転写しなければならない都合上、一括転写ができないので、転写材料37の転写材料の種類が異なれば、それらを(例えば、転写材料37R、37G、37Bを)順次にレーザー照射して、それぞれ独立に転写する必要があり、高強度レーザー照射の高精度位置合わせが必要となる。このような問題は、区画パターン34と塗液から形成された転写材料37を有するドナー基板30を用いて後述のように一括転写することにより解決可能である。
【0041】
転写材料と溶媒とからなる溶液を塗布法に適用する場合には、一般的には界面活性剤や分散剤などを添加することで溶液の粘度や表面張力、分散性などを調整してインク化することが多い。しかしながら、ドナー基板30では、それらの添加物が転写材料に残留物として存在すると、転写時にも転写膜27内に取り込まれて、デバイス性能に悪影響を及ぼすことが懸念される。従って、乾燥後の転写材料の純度が95%以上、さらに98%以上となるように溶液を調製することが好ましい。インク中の溶剤以外の成分に占める転写材料の割合を95重量%以上とすることで、このような調整が可能である。
【0042】
溶媒としては、水、アルコール、炭化水素、芳香族化合物、複素環化合物、エステル、エーテル、ケトンなど公知の材料を使用することができる。ドナー基板30において好適に使用されるインクジェット法では、100℃以上、好ましくは140℃以上、さらに好ましくは150℃以上の比較的高沸点の溶媒が使用されること、さらに、転写材料の溶解性に優れていることから、テトラリン(テトラヒドロナフタレン)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、γ−ブチルラクトン(γBL)、ブチレングリコールジアセテート、シクロヘキサノン、安息香酸エチル、トルエン、キシレン、クメンなどを好適な溶媒として例示できる。
【0043】
転写材料が溶解性と転写耐性、転写後のデバイス性能を全て満たす場合には、転写材料そのもの(以下、「転写材料の原型」という)を溶媒に溶解させることが好ましい。転写材料の原型が溶解性に乏しい場合には、転写材料の原型に、アルキル基などの溶媒に対する可溶性基を導入することで、可溶性を改良することができる。デバイス性能面で優れる転写材料の原型に可溶性基を導入した場合には、性能が低下することがある。その場合には、例えば転写時の熱において、この可溶性基を脱離させて原型材料をデバイス基板10に堆積させることもできる。
【0044】
可溶性基を導入した転写材料を転写する際に、ガスの発生や転写膜への脱離物の混入を防止するためには、転写材料が塗布時に溶媒に対する可溶性基をもち、塗布後に熱または光によって可溶性基を変換または脱離させた後に、転写材料を転写することが好ましい。例えば、ベンゼン環やアントラセン環を有する材料を例に挙げると、式(1)〜(2)に示すような可溶性基をもつ材料に光を照射して原型材料に変換することができる。また、式(3)〜(6)に示すように、可溶性基としてエチレン基やジケト基などの分子内架橋構造を導入し、そこからエチレンや一酸化炭素を脱離させるプロセスによって原型材料に復帰させることもできる。可溶性基の変換または脱離は乾燥前の溶液状態でも、乾燥後の固体状態でもよいが、プロセス安定性を考慮すると、乾燥後の固体状態で実施することが好ましい。転写材料の原型分子は非極性的であることが多いために、固体状態にて可溶性基を脱離する際に脱離物を転写材料内に残留させないためには、脱離物の分子量は小さく極性的(非極性的な原型分子に対して反発的)であることが好ましい。また、転写材料内に吸着されている酸素や水を脱離物と一緒に除去するためには、脱離物がこれらの分子と反応しやすいことが好ましい。これらの観点からは一酸化炭素を脱離するプロセスで可溶化基を変換または脱離することが特に好ましい。本手法はナフタセン、ピレン、ペリレンなどの縮合多環炭化水素化合物の他、縮合多環複素化合物にも適用できる。もちろん、これらは置換されていても無置換であっても良い。
【0045】
【化1】

【0046】
デバイス基板10の転写膜として発光層17を形成し、ホスト材料とドーパント材料との混合物の単層構造とする場合は、発光層17を成膜するための転写材料はホスト材料とドーパント材料との混合物であることが好ましい。塗布法を用いる場合には、区画パターン34内に転写材料37を配置する際に、ホスト材料とドーパント材料との混合溶液を塗布、乾燥させて転写材料37を形成することができる。ホスト材料とドーパント材料との溶液を別に塗布してもよい。転写材料37を形成した段階でホスト材料とドーパント材料とが均一に混合されていなくても、転写時に両者が均一に混合されればよい。また、転写時にホスト材料とドーパント材料との昇華温度の違いを利用して、デバイス基板10の発光層17中のドーパント材料の濃度を膜厚方向に変化させることもできる。
【0047】
区画パターン34で区画された複数個の領域の光熱変換層33上に2種類以上の異なる転写材料37(例えば、3種類の転写材料37R、37G、37B)が存在する場合、インクジェット方法などの上記塗布法を用い、異なる転写材料37の全てを、溶媒がまだ存在する溶液状態から同時に乾燥して形成すると、膜厚ムラを非常に少なくすることができるので好ましい。ここで異なる転写材料とは、材料が異なる場合や複数の材料の混合割合が異なる場合、あるいは材料が同じでも膜厚や純度が異なる場合を意味する。このように2種類以上の異なる転写材料37が存在するようにすれば、従来は転写材料ごとに複数枚必要であったドナー基板30が1枚でよく、さらに、後述のようなデバイス基板10との対向作業も1回で済ませられる。
【0048】
本発明は、2種類以上の異なる転写材料37を溶液状態から同時に乾燥させて、乾燥ムラに起因する転写材料37の膜厚ムラを低減することが特徴である。例えば、3種類の転写材料37R、37G、37Bを同時塗布すれば、同時に乾燥させることが容易に達成できる。ただし、転写材料37の種類が多い場合には、異なる多数の溶液を混色なく同時に塗布する機構が複雑になるという問題が生じるので、この同時塗布方式は転写材料が5種類以下、更に3種類以下の場合に特に好適な手法として利用することができる。
【0049】
図5は、3種類の転写材料37(37R、37G、37B)の別の好適な形成方法の一例を模式的に示す断面図である。先ず、転写材料37Rの溶液を塗布し、図5(a)に示すように乾燥させる。次に、図5(b)に示すように転写材料37Gの溶液を塗布し、乾燥させる。次に、図5(c)に示すように転写材料37Bの溶液を塗布し、乾燥させる。そして、図5(d)に示すように全ての転写材料37に同時に再度溶媒だけを塗布して溶液の状態にし、同時に乾燥を行う。図5(b)に示す途中工程では、転写材料37Gを塗布し乾燥したとき揮発する溶媒の蒸気により、それ以前に形成していた転写材料37Rが影響を受け、移動が発生し易くなる。図5(c)に示す途中工程における転写材料37Bを塗布したときの転写材料37G(又は37R)も同様である。このような移動により、転写材料37R、37Gには膜厚ムラが生じることになる。それらの転写材料37R、37G、37Bを再度一旦溶液の状態にしてから同時に乾燥すると、膜厚ムラを非常に少なくすることができるのである。再度溶媒だけを塗布するときの溶媒は、転写材料37R、37G、37Bの溶液の溶媒と同じでも異なっていても構わない。当該溶媒は1種類であることが好ましいが、例えば転写材料の溶解性が溶媒によって大きく異なる場合などは、転写材料に応じて複数の溶媒を塗布することもできる。その場合は、乾燥が均一に進行するように蒸発速度が近いものを選択することが好ましい。
【0050】
本発明では、転写材料の溶液の溶媒の沸点よりも、その後に全ての転写材料に同時に塗布する溶媒の沸点の方が低いことが好ましい。転写材料の溶液の溶媒の沸点が低すぎると、例えば、インクジェット法やノズル塗布法ではノズルの先端が乾燥して転写材料が析出し、吐出が不安定になるので、転写材料の溶液の溶媒の沸点は100℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、150℃以上が更に好ましい。一方で、転写材料の溶液の溶媒の沸点が高すぎると、塗布後の乾燥が不十分となって転写材料中に溶媒分子が残留しやすく、また、乾燥速度が遅くなり転写材料が結晶化しやすくなる問題も生じるので、転写材料の溶液の溶媒の沸点は220℃以下が好ましく、180℃以下が更に好ましい。他方、全ての転写材料に同時に塗布する溶媒では、上記のようにノズル先端における転写材料の析出を心配する必要がないので、その沸点は150℃以下、さらに110℃以下であることが好ましい。溶媒の沸点は転写材料を安定して再度溶液の状態にできれば低いほど好ましいが、室温でのプロセス性を考慮すると、沸点は30℃以上、さらに50℃以上が好ましい。転写材料の溶液の溶媒よりも低い沸点の溶媒を再度塗布することで、転写材料中に残留していた溶媒分子を再度蒸発・除去させる効果も期待できる。また、部分的に結晶化した転写材料を再度一旦溶液の状態にしてから乾燥させることで、結晶化を防止する効果も期待され、その後の転写におけるムラを軽減することもできる。なお、溶媒として混合溶液を使用する場合には、体積比が最も多い主溶媒の沸点を比較することができる。
【0051】
全ての転写材料に同時に塗布する溶媒としては、既に転写材料の溶液の溶媒として例示したものに加えて、メタノールやエタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール、ジエチルエーテルやエチルメチルエーテルなどのエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン、クロロホルムやジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素など比較的沸点の低いものを例示することができる。
【0052】
転写材料37の溶液と溶媒の塗布方法は同じであっても異なっていてもよい。例えば、転写材料37の溶液をインクジェットやノズル塗布法で塗布した後に、1種類の溶媒をスリットコート法により全面塗布することもできる。ドナー基板30の区画パターン34が溶媒に対して十分な撥液性を有していれば、溶媒を全面に塗布しても隣り合う転写材料37の混合を防ぐことができる。インクジェットやノズル塗布法で複数の溶媒を塗布する場合は、複数組のノズルを用いてこれらを同時並行で塗布することが好ましい。
【0053】
上記の例では、3種類の転写材料37(37R、37G、37B)の各溶液ごとに乾燥させてから、再度溶媒だけを塗布して再乾燥させたが、各溶液の乾燥は完了している必要はなく、乾燥途中であってもよい。例えば、37Rと37Gは乾燥が完了していて、37Bは乾燥が完了しておらず流動性が残る状態でも、その時点で溶媒だけを全ての転写材料に同時塗布することができる。もちろん、37R、37G、37B全ての乾燥が完了していない段階で、溶媒だけを全ての転写材料に同時塗布することもできる。なお、本発明における乾燥とは、後述のように雰囲気や圧力、その蒸気圧などを制御する積極的な乾燥工程に限定されるものではなく、自然に進行する乾燥も含まれる。
【0054】
本発明において、溶媒を全ての転写材料に同時に塗布することが好ましい様態の1つであるが、これは、望ましくない部分的な乾燥が進行することなく、後で同時に乾燥させられる程度に素早く塗布すればよいことを意味しており、全ての転写材料に厳密に一斉に溶媒が塗布される必要があるのではない。例えば、3種類の転写材料37(37R、37G、37B)に溶媒を塗布する場合に、たとえ1ノズルによる塗布であっても溶媒の乾燥速度が十分に遅ければ、端から順にRの列/Gの列/Bの列を一筆書きのように繰り返しスキャンしていくことで、実質的に溶媒を同時に塗布し、実質的に全ての転写材料を同時に乾燥させることができる。もちろん、複数のノズルを用いることはより好ましい。現実的な製造工程の処理時間や溶媒の乾燥時間を考慮すると、1枚のドナー基板上の全ての転写材料に10分以内に溶媒が塗布されれば好ましく、5分以内であれば更に好ましい。
【0055】
転写材料37R、37G、37Bの溶媒の乾燥速度が異なる場合には、乾燥速度が遅いものから順に塗布し、最終的に37R、37G、37Bが同時に乾燥するように調整することもできる。この場合、再度溶媒を塗布することは必ずしも要しないが、更に膜厚ムラを低減するためには、各転写材料37の乾燥後あるいは乾燥途中に再度溶媒だけを塗布して、同時に乾燥させることが好ましい。もちろん上記同時塗布方式の場合でも、再度溶媒だけを塗布して同時に乾燥させることもできる。
【0056】
乾燥条件を制御することで、別々に塗布した転写材料37を溶液状態から同時に乾燥させることもできる。例えば、同じ溶媒からなる3種類の転写材料37R、37G、37Bを順に塗布する場合に、ドナー基板30を、周辺に溶媒浴を設置したりバブリングさせた蒸気を導入するなどして該溶媒の飽和蒸気圧に近い雰囲気に置くことで、3種類の転写材料37を溶液状態のままにしておくことができる。あるいは、ドナー基板30上で転写材料37を形成する外周などにあらかじめ溶媒を塗布しておき、そこから発生する蒸気を利用することで、転写材料37を溶液状態に保つこともできる。その後に、溶媒の蒸気圧を低下させたり、ドナー基板30を乾燥雰囲気中に移動させたりすることで、3種類の転写材料37R、37G、37Bを同時に乾燥させることもできる。あるいは、通常の温度や雰囲気では容易に乾燥しない高沸点(低蒸気圧)の溶媒を使用して3種類の転写材料37R、37G、37Bを順に塗布した後に、ドナー基板30を加熱したり減圧雰囲気下に置くなどして、前記転写材料を同時に乾燥させることもできる。
【0057】
デバイスとして有機EL素子を作製する場合に、発光層17Rと17Gのみを転写法によりパターニングして、それらの上にRGの各副画素に対しては電子輸送層として機能し、B副画素に対しては発光層として機能する材料を真空蒸着法などで共通に形成することもある。この場合は、図5において転写材料37Bが形成される部分には何も塗布せずに、転写材料37R、37Gのみに溶液を塗布した後に、全ての転写材料37に同時に溶媒だけを塗布し、同時に乾燥させることもできる。あるいは、図21に示すように、転写材料37Bに対応する部分が区画パターンで覆われたドナー基板を用いることもできる。
【0058】
デバイスとして有機TFT素子を作製する場合は、有機半導体層を本発明により好適にパターニングすることができる。ドナー基板30上に2種類以上の転写材料37が形成される例としては、1組の回路単位が2つ以上のTFT素子からなり、それらに必要な有機半導体層のサイズ(もしくは厚さ)が異なるために、同じ有機半導体材料からなるが形状(もしくは厚さ)が異なる転写材料群を挙げることができる。もちろん、2つ以上のTFT素子に対して別々の有機半導体層を本発明によりパターニングすることも可能である。さらに、有機TFT素子を構成するソースやドレイン、ゲート電極、ゲート絶縁層などを本発明によりパターニングしてもよい。
【0059】
この転写材料37の形成方法は、少なくとも1種類の転写材料37が分子量1000未満の低分子材料からなり、かつ、当該低分子材料からなる膜の乾燥後の平均膜厚が100nm以下、更に50nm以下である場合に特に有効である。このような低分子材料は分子間相互作用が小さいので、分子同士が絡み合って分子間相互作用が大きい高分子材料に比べて、乾燥後の平均膜厚が50nm以下の薄膜の場合、非常に移動し易くなるからである。なお、転写材料の平均膜厚とは、転写材料のうち、区画パターンの内側に存在する部分(区画パターンに乗りあげていない部分)の厚みの平均と定義される。転写材料の表面が比較的に滑らかな場合には、共焦点型などの光学干渉方式を利用して膜厚を測定することができる。転写材料が連続膜ではない場合には、原子間力顕微鏡などの触針方式で表面形状を測定し、光熱変換層との段差から平均膜厚を求めることができる。
【0060】
次に、ドナー基板30の区画パターン34を説明する。区画パターン34は、転写材料37を境界を規定し、光熱変換層33で発生した熱に対して安定である材料・構成であれば特に限定されない。無機物では酸化ケイ素や窒化ケイ素をはじめとする酸化物・窒化物、ガラス、セラミックスなどを、有機物ではポリビニル、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリスチレン、アクリル、ノボラック、シリコーンなどの樹脂を例として挙げることができる。プラズマテレビにおける隔壁をガラスペースト法により製造する公知技術を使用することもできる。区画パターン34の熱導電性は特に限定されないが、区画パターン34を介して対向するデバイス基板10に熱が拡散するのを防ぐ観点から、有機物のように熱伝導率が小さい方が好ましく、さらに、パターニング特性と耐熱性の面でも優れた材料としては、ポリイミドとポリベンゾオキサゾールを好ましい材料として例示できる。
【0061】
区画パターン34の成膜方法は特に限定されず、無機物を用いる場合には真空蒸着、EB蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD、レーザーアブレーションなどの公知技術を、有機物を用いる場合には、スピンコート、スリットコート、ディップコートなどの公知技術を利用できる。
【0062】
区画パターン34のパターニング方法は特に限定されず、公知のフォトリソグラフィー法が利用できる。フォトレジストを使用したエッチング(あるいはリフトオフ)法によって区画パターン34をパターニングしてもよいし、例示した上記樹脂材料に感光性を付加させた材料を用いて、区画パターン34を直接露光、現像することでパターニングすることもできる。さらに、区画パターン34の材料を全面形成してそれに型を押しつけるスタンプ法やインプリント法、樹脂材料を直接パターニング形成するインクジェット法やノズルジェット法、各種印刷法などを利用することもできる。このように、区画パターン34はフォトリソグラフィ法などにより高精度に微細パターニングすることができるために、区画された転写材料37の互いのパターンの隙間を最小にすることができる。これは、より開口率を高めて耐久性に優れた有機ELディスプレイを作製できるという効果につながる。
【0063】
区画パターン34の形状としては、既に例示した格子状(マトリクス状)構造に限定されるのではなく、例えば、転写材料37が3種類の転写材料37R、37G、37Bからなる場合には、区画パターン34の平面形状がy方向に伸びるストライプであってもよい。また、図6に示すように、転写材料37よりも幅の広い区画パターン34を形成することもできる。この場合は、3種類の転写材料37R、37G、37Bがそれぞれ形成された3枚のドナー基板30を用意して、1枚のデバイス基板10にそれぞれを対向させて転写する工程を3回繰り返すことで、転写材料37R、37G、37Bを1枚のデバイス基板10上にパターニングすることができる。転写材料37R、37G、37Bのピッチあるいは間隙を小さくする必要がある高精度な微細パターニングにおいて有効な形状の一例である。
【0064】
区画パターン34の断面形状は、昇華した転写材料がデバイス基板10に均一に堆積することを容易にするために、順テーパー形状であることが好ましい。図2で例示したように、デバイス基板10の上に絶縁層14のようなパターンが存在する場合には区画パターン34の幅よりも絶縁層14の幅の方が広いことが好ましい。また、位置合わせの際には、区画パターン34の幅が絶縁層14の幅に収まるように配置することが好ましい。この場合には、区画パターン34が薄くても、絶縁層14を厚くすることで、ドナー基板30とデバイス基板10とを所望の間隙に保持することができる。区画パターン34の典型的な幅は5〜50μm、ピッチは25〜300μmであるが、用途に応じて最適な値に設計すればよく、特に限定はされない。
【0065】
区画パターン34内に転写材料37を配置する際に、塗布法を用いる場合には、溶液が他の区画へ混入したり、区画パターン34の上面に乗りあげたりすることを防ぐために、区画パターン34上面に撥液処理(表面エネルギー制御)を施すことができる。撥液処理としては、区画パターン34を形成する樹脂材料へフッ素系材料などの撥液性材料を混合したり、さらに撥液性材料の高濃度領域を表面あるいは上面へ選択形成することができる。区画パターン34を表面エネルギーの異なる材料の多層構造とすることもでき、また、区画パターン34形成後に光照射やフッ素系材料含有ガスによるプラズマ処理やUVオゾン処理を施すことで、表面エネルギー状態を制御するなど、公知技術を利用することができる。
【0066】
区画パターン34の厚さは、転写材料37の平均膜厚よりも厚くするのが好ましい。そうすると、転写材料の膜厚に多少のバラツキがあっても転写材料37はデバイス基板10に直接接することがない。さらに、本発明において転写材料を塗布した際の相互の影響を受け難くする観点から、区画パターン34は厚い方が好ましく、5μm以上であることがより好ましい。一方で、区画パターン34を高精度に形成する観点から、その厚さは100μm以下であることが好ましい。
【0067】
区画パターン34をデバイス基板10に対向させることで、光熱変換層33や転写材料37とデバイス基板10との間隙を一定値に保つことが容易になり、また、昇華した転写材料が他の区画へ侵入する可能性を低減できる。また、区画パターン34が厚いと、熱容量が大きくなり、熱伝導も小さくなる。そのため、区画パターン34のうち転写材料37よりも突出した部分の温度はさほど上昇せず、デバイス基板10に形成済みの下地層は、光熱変換層33から区画パターン34を通じて高温に熱されることが防止される。熱容量が大きい分だけ温度上昇は小さくなるので、区画パターン34からの脱ガスの影響を受けることもほとんどない。その結果、デバイス基板10のデバイス性能が悪化することがない。例えば、正孔輸送層16を全面蒸着により成膜する場合には、図2に示すように、絶縁層14の上部にも正孔輸送層16が形成され、区画パターン34は正孔輸送層16と接することになる。区画パターン34の温度上昇が小さいので、正孔輸送層16を加熱、昇華させてしまって正孔輸送材料が混入してしまうことが防止される。正孔輸送層16をインクジェット方式により成膜する場合には、絶縁層14の上部には正孔輸送層16は形成されず、区画パターン34は絶縁層14と接することになる。この場合でも、絶縁層14を介してデバイス基板10が加熱されることが防止される。
【0068】
光熱変換層33/転写材料37は瞬間的に500℃に達すことがある。一方で、デバイス基板10の温度上昇は100℃以下に抑えるのが好ましい。一概に数値を規定することは難しいが、区画パターン34の下部のうち転写材料と同じ膜厚部分が瞬間的に転写材料と同じ500℃に加熱され、その後の温度緩和で区画パターン34の上部が100℃に達するのが上限であると考えると、区画パターン34の厚さは転写材料の平均膜厚に比べて、500℃/100℃=5倍以上であることが好ましい。輻射熱の影響などを考慮すると、20倍以上であることが更に好ましい。区画パターン34が高くても特に問題はないが、転写時に区画パターン34の側面に付着することで、デバイス基板10に到達せずに失われる転写材料37の存在を考慮すると、区画パターン34の厚さは転写材料の平均膜厚の1万倍以下であることが好ましい。
【0069】
デバイス基板10の温度上昇を抑えるためには、区画パターン34の熱伝導率は1.0W/mK以下、さらに0.3W/mK以下であることが好ましく、区画パターン34の体積比熱(=密度×比熱)は1.0J/cmK以上であることが好ましい。
【0070】
(3)デバイスの製造方法
次に、ドナー基板30を用いた転写プロセスを中心にして有機EL素子を代表とするデバイスの製造方法を説明する。
【0071】
カラーディスプレイでは少なくとも発光層17がパターニングされる必要があり、発光層17は本実施形態の転写プロセスを用いて好適にパターニングされる薄膜である。また、発光層17のうち発光層17R、17Gのみを本実施形態の転写プロセスを用いてパターニングして、その上に発光層17BとR、Gの電子輸送層18を兼ねる層を全面形成することもできる。正孔輸送層16、電子輸送層18、第二電極19などの少なくとも一層をパターニングする必要がある場合には、本実施形態の転写プロセスを用いてパターニングしてもよい。特に、電子輸送材料やドナー材料は発光層17との組み合わせによる性能変化が起こりやすい材料の1つであるので、電子輸送層18は本実施形態の転写プロセスを用いてパターニングされるのが好ましい。また、絶縁層14や第一電極15、TFTなどは公知のフォトリソ法によりパターニングされることが多いが、本実施形態の転写プロセスを用いてパターニングしてもよい。
【0072】
本実施形態の転写プロセスの適用時、デバイス基板10に形成済みの下地層はパターニングする薄膜によって異なってくる。例えば、発光層17をパターニングする場合は、第一電極15や正孔輸送層16が形成済みの下地層となる。絶縁層14のような構造物は、必須ではないが、第一電極15のエッジ部分を保護し、また、デバイス基板10とドナー基板30とを対向させる際に、ドナー基板30の区画パターン34がデバイス基板10に形成済みの下地層に接触し、傷つけることを防止する観点から、デバイス基板10にあらかじめ形成されているのが好ましい。絶縁層14の形成には、ドナー基板30の区画パターン34として例示した材料や成膜方法、パターニング方法を利用することができる。絶縁層14の形状や厚さ、幅、ピッチについても、ドナー基板30の区画パターン34で例示した形状や数値を例示することができ
図2に示すように、ドナー基板30の区画パターン34と、デバイス基板10の絶縁層14との位置を合わせた状態で、両基板10、30は対向するように配置される。このとき、ドナー基板30とデバイス基板10とを真空中で対向させ、転写空間をそのまま真空に保持した状態で大気中に取り出すことができる。例えば、ドナー基板の区画パターン34および/またはデバイス基板10の絶縁層を利用して、これらに囲まれた領域を真空に保持することができる。この場合には、ドナー基板30および/またはデバイス基板10の周辺部に真空シール機能を設けてもよい。デバイス基板10の下地層、例えば正孔輸送層16が真空プロセスで形成し、発光層17を転写によりパターニングし、電子輸送層18も真空プロセスで形成する場合は、ドナー基板30とデバイス基板10とを真空中で対向させ、真空中で転写を実行することが好ましい。この場合に、ドナー基板30とデバイス基板10とを真空中で高精度に位置合わせし、対向状態を維持する方法には、例えば、液晶ディスプレイの製造プロセスにおいて使用されている、液晶材料の真空滴下・貼り合わせ工程などの公知技術を利用することができる。また、金属などの良導体で形成した光熱変換層33を利用することで、ドナー基板30を静電方式により容易に保持することもできる。
【0073】
転写雰囲気は大気圧でも減圧下でもよい。また、第一電極15および第二電極19などの転写の際に、転写材料と酸素等の活性ガスを反応させるなどの反応性転写を実施することもできる。ただし、転写材料の劣化の抑制のためには、窒素ガスなどの不活性ガス中、あるいは真空下であることが好ましい。不活性ガス中ならば、圧力を適度に制御することで、転写時に膜厚ムラの均一化を促進することが可能である。真空下であるならば、転写膜27への不純物混入の低減、昇華温度の低温化を特に促進することが可能である。また、転写雰囲気によらず、転写時にドナー基板30を放熱あるいは冷却することもできる。
【0074】
転写は、ドナー基板30の支持体31側からレーザーに代表される光を照射して光熱変換層33に吸収させ、そこで発生する熱により転写材料37を加熱・昇華させ、デバイス基板10に転写膜を堆積させる。所定の大きさの光を照射して1つのスキャンが終わると、次に未照射の部分に光を照射してスキャンする。こうしたスキャンにより転写領域を最終的に照射する。
【0075】
図7はドナー基板30への光照射方法の一例を示す断面図である。図7(a)において、ドナー基板30は、支持体31、光熱変換層33、区画パターン34、区画パターン34内に存在する転写材料の転写材料37からなり、デバイス基板20は支持体21のみからなるものとしている。本実施形態では、図7(b)に示すように、ドナー基板30の支持体31側から光を照射して、転写材料37の少なくとも一部と区画パターン34の少なくとも一部とが同時に加熱されるように光を光熱変換層33に照射することが好ましい。このような配置をとることで、区画パターン34と転写材料37との境界での温度低下が抑制されるので、境界に存在する転写材料を十分に加熱して転写し、均一な転写膜27を得ることができる。
【0076】
図7(b)では、転写材料37が加熱されて昇華し、デバイス基板20の支持体21に転写膜27として堆積している課程を模式的に示している。この時点で光照射を止める(光照射部分の移動により、この部分の光照射を終了する)こともできるし、このまま光照射を継続して、転写材料37の右側部分全てを転写し、その後、左側部分を転写することもできる。本実施形態では、材料や光照射条件を選べば、転写材料37が膜形状を保持した状態でデバイス基板20の支持体21に到達するアブレーションモードを使用することもできるが、材料へのダメージを低減する観点からは、転写材料37が1〜100単位の分子(原子)にほぐれた状態で昇華(蒸発)し、転写される蒸着モードを使用する方が好ましい。
【0077】
蒸着モードでは、塗布法によって形成した場合の転写材料37に多少の膜厚ムラが発生していたとしても、転写時に転写材料が分子(原子)レベルにほぐれた状態で昇華した後にデバイス基板20に堆積するために、転写膜27の膜厚ムラが軽減される方向にある。例えば、塗布時には転写材料が顔料のように分子集合体からなる粒子であり、たとえ転写材料37がドナー基板30上において連続膜ではなくても、それを転写時に分子レベルにほぐして昇華させ、堆積させることで、デバイス基板10上においては膜厚均一性にすぐれた転写膜27を得ることが可能になる。
【0078】
図7(c)は、転写材料37の幅よりも広い光を、転写材料37の全幅と区画パターン34の幅の一部とが同時に加熱されるように光を光熱変換層33に照射する形態を示すものである。この配置によれば目的とする転写膜27のパターンを1回の転写で効率よく得ることができる。あるいは、1回目の光照射で転写材料37の膜厚の半分を転写し、2回目の光照射で残りの半分を転写することで、転写材料37への負荷をより低減することもできる。また、1回の光照射で転写材料37の膜厚の約半分をあるデバイス基板20に転写し、残りの約半分については別のデバイス基板に転写するなど、1枚のドナー基板30を用いて2枚のデバイス基板への転写を行うこともできる。各デバイス基板へ転写する転写材料37の膜厚を調整すれば、1枚のドナー基板から3枚以上のデバイス基板への転写も可能である。
【0079】
この配置において、図7(d)に示すように、光照射の位置がδだけ変位したとても、転写材料37の全幅と区画パターン34の幅の一部とが同時に加熱されることに変わりないので、同様に均一な転写膜27を得ることができる。図8に示した従来法の光照射方法では区画パターン34と転写材料37の境界において温度が低下し、光照射位置がずれると転写膜27の均一性が極端に損なわれるものであった。大型化において基板の全領域に渡って光照射を高精度に位置合わせする難易度を考えると、本実施形態の方法では光照射装置の負担が著しく軽減される。
【0080】
1枚のドナー基板30に対して光を光熱変換層33に複数回に分けて照射することで、転写材料37を膜厚方向に複数回に分割して転写することは、本発明の特に好ましい転写方法である。これにより、転写材料37だけでなく区画パターン34やデバイス基板20上に成膜された下地層などの最高到達温度を低下させられるので、ドナー基板の損傷やデバイスの性能低下を防止することができる。分割する場合、その回数nは限定されないが、少なすぎると上記の低温下効果が十分に発揮されず、多すぎると累積の加熱時間が長くなることによる弊害が生じるので、5回以上50回以下の範囲が好ましい。
【0081】
1画素に対応する転写材料のみを部分的に転写する従来方式において、膜厚方向にn回に分割して転写しても、材料劣化を抑制する効果は得られるが、基板1枚あたりの処理時間が概略n倍になるために、生産性が大きく低下するという問題があった。しかし、本発明では、m個(mは2以上の整数)の転写材料を一括して転写することもできるから、生産性を維持することができる。特に、m≧nの条件を満たす幅の広い光を用いると、従来方式と同等以上の高い生産性を確保できるため好ましい。ディスプレイの製造では大型基板でも1枚あたり2分前後で処理する必要がある。レーザーのスキャン速度を標準的な0.6m/s、基板の一辺が3mと仮定した場合には、24回(12往復)のスキャンで2分を要することを考慮すると、分割回数nは15回以上30回以下の範囲が特に好ましい。
【0082】
図9は、区画パターン34に対応して2種類以上の異なる転写材料37(この例では37R、37G、37Bの3種類)が存在する場合のドナー基板への光照射方法の一例を示す断面図である。3種類の異なる転写材料は、種類ごとに(この例では37Gのみ)光照射して転写することができる。このとき、例えば転写材料37Gへのダメージを低減するために、比較的弱い強度の光を低速でスキャンすることにより光照射した場合、横方向への熱拡散により、隣の転写材料37Rもしくは37Bの一部が蒸発することがある。しかし、それらは後で転写される予定のものであり、結果的には図7(b)で示した分割転写の概念と同じなので、問題にはならない。さらに、区画パターン34が存在するために、隣接する転写材料37Rもしくは37Bとの混合物が転写膜27Gとして形成される恐れもない。
【0083】
ディスプレイ用途でよく見られるように、転写材料37R、37G、37Bの組がその並びのx方向にk回、その垂直のy方向にh回繰り返し形成されている場合は、例えば、m個(mは2以上k以下の正数)の転写材料37Gに光を同時照射しながら、y方向に光をスキャンすることで、転写時間を1/m程度に短縮することができる。その場合にも、転写材料37Gと区画パターン34の一部を加熱するように光を光熱変換層33に照射すれば、図7(d)で示した変位δで表される光照射ずれの影響を受けにくく、図7(d)で示したのと同様の効果が得られる。
【0084】
図10は、2種類以上の異なる転写材料37(この例では37R、37G、37Bの3種類)の各々の幅と区画パターン34(この例では37Rと37G、37Gと37Bに挟まれた区画パターン34が2つ分)の幅との合計よりも広い光を光熱変換層33に照射することで、2種類以上の異なる転写材料37(この例では37R、37G、37Bの3種類)を一括して転写する、好ましい実施形態の1つを示す図である。ここでは、図2および図3で示したのと同様に、37R、37G、37Bの1組を一括で転写する例を示したが、ディスプレイ用途でよく見られるように、転写材料37R、37G、37Bの組がその並びのx方向にk回、その垂直のy方向にh回繰り返し形成されている場合は、例えば、m組(mは2以上k以下の整数)の転写材料37R、37G、37Bに光を同時照射しながら、y方向に光をスキャンすることで、転写時間を1/m程度に短縮することができる。m=kの場合には、図11(a)に示すように、ドナー基板30の転写領域38の全幅を覆うような光を照射することで、1回のスキャンで全転写材料37を一括転写することもできる。この配置では、ドナー基板30に対する光照射の位置合わせを大幅に軽減できる。図11(b)に示すように、基板上に転写領域38が複数存在する場合には、それらを一括転写することも可能である。
【0085】
この一括転写は、各転写材料37R、37G、37Bに順次光を照射する必要があった従来法と比べてパターニング時間の短縮が可能になる。光は光熱変換層33で十分に吸収されるために、異なる光吸収スペクトルをもつ各転写材料37R、37G、37Bでも同一の光源を用いて同程度の温度に加熱することができ、透過光によりデバイス基板10が加熱される心配もない。区画パターン34が存在することで、隣接する転写材料37の異なる転写材料同士が混合したり、その境界位置の揺らぎがある部分の転写を排除できるので、一括転写してもデバイス性能を損なうことがない。
【0086】
上記の一括転写の例において、転写材料37R、37G、37Bが異なる昇華温度(蒸気圧の温度依存性)を有する場合は、最高の昇華温度をもつ転写材料に合わせて、1回の光照射で一括転写をしてもよい。逆に、例えば、転写材料37Rが最低の昇華温度をもつ場合には、1回の光照射で転写材料37Rは全部、37G、37Bは一部を転写しておき、再度の光照射により37G、37Bの残りを転写してもよく、さらに、3回以上の転写に分けてもよい。転写時間を1/m程度に短縮できるので、同じ時間をかけてm回の転写に分けることで、転写材料37へのダメージをより軽減することが可能になる。転写プロセスに割ける時間と転写材料37へのダメージを考慮しながら、多様な転写条件から最適なもの選択することができる。
【0087】
また、上記一括転写には別の効果がある。幅の広い光の照射範囲内では、レーザー転写で問題となってきた横方向の熱拡散が起きないので、レーザーを比較的低速でスキャンするなどして、光を比較的長時間照射することが可能になる。そのため、転写材料37の最高到達温度の制御がより容易となり、高精度に微細パターニングできる。また、転写時に転写材料37にダメージを与えることなく、デバイス性能の低下を最小限に抑制できる。転写材料37へのダメージが低減されることは、同時に区画パターン34へのダメージも低減されることになり、区画パターン34を有機材料で形成しても劣化が起こりにくくなる。そのため、ドナー基板を複数回に渡って再利用できる、パターニングに掛かるコストを低減できる。また、光を照射する位置を従来法ほど厳密に制御する必要がなくなることがから、光を照射する装置の機構も簡素化できる。
【0088】
図12は、本実施形態の一括転写の別の例を示すものである。図9で示したのと同じ、転写材料37Gの幅と区画パターン34の幅との合計に相当する幅の光を、転写材料37R、37Gに跨るように照射することで、転写材料37Rおよび37Gのそれぞれ一部を一括転写する。照射光の幅の分だけ次の照射光の位置をシフトさせながら、この転写方法を何回も繰り返すことによって、最終的に全転写材料37R、37G、37Bの転写を完了する。この方法では、照射光とドナー基板との位置関係を厳密に制御する必要がない。さらに、次の照射光の位置を厳密に前の照射光の幅の分だけずらす必要はなく、オーバーラップさせてもよい。光が全転写領域を最終的に照射すればよく、照射光の幅や、照射の順番、オーバーラップの度合いなどは特に限定されるものではない。また、ディスプレイにてデルタ配列と呼ばれるようなRGBの各副画素が一直線に並んでいない場合でも、照射光を直線的にスキャンできるために、容易に転写を実施できる。
【0089】
上記では、矩形の光をy方向にスキャンする例を挙げたが、図13に示すように、転写材料37R、37G、37Bの並びのx方向にスキャンすることもできる。また、スキャン速度や光強度は一定である必要はなく、x方向へのスキャンでは、例えば、転写材料37R、37G、37Bの各昇華温度に最適な条件になるように、スキャン速度や光強度をスキャン中に変調することもできる。スキャン方向は、x方向あるいはy方向の区画パターン34に沿う方向が好ましいが、特に限定されるものではなく、斜め方向にスキャンすることもできる。
【0090】
スキャン速度は特に限定されないが、0.01〜2m/sの範囲が一般的に好ましく使用される。光の照射強度が比較的小さく、より低速でスキャンすることで転写材料へのダメージを低減する場合には、スキャン速度は0.6m/s以下、さらに0.3m/s以下であることが好ましい。上記の分割転写のように、分割回数を増やすことで全体の低温下を図る場合には、1回のスキャン当たりの投入熱量を減らすために、スキャン速度は比較的高速の0.3m/s以上であることが好ましい。
【0091】
照射光の光源としては、容易に高強度が得られ、照射光の形状制御に優れるレーザーを好ましい光源として例示できるが、赤外線ランプ、タングステンランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、フラッシュランプなどの光源を利用することもできる。レーザーでは、半導体レーザー、ファイバーレーザー、YAGレーザー、アルゴンイオンレーザー、窒素レーザー、エキシマレーザーなど公知のレーザーが利用できる。短時間に高強度の光が照射される間欠発振モード(パルス)レーザーより、連続発信モード(CW)レーザーの方が転写材料37へのダメージを低減できるので、好ましい。
【0092】
照射光の波長は、照射雰囲気とドナー基板の支持体31における吸収が小さく、かつ、光熱変換層33において効率よく吸収されれば特に限定されない。従って、可視光領域だけでなく紫外光から赤外光まで利用できる。ドナー基板の好適な支持体31の材料を考慮すると、好ましい波長領域として、300nm〜5μmを、更に好ましい波長領域として、380nm〜2μmを例示することができる。
【0093】
照射光の形状は上記で例示した矩形に限定されるものではない。線状、楕円形、正方形、多角形など転写条件に応じて最適な形状を選択できる。複数の光源から重ね合わせにより照射光を形成してもよいし、逆に、単一の光源から複数の照射光に分割することもできる。図14に示すように、スキャン方向の幅が階段状の光をスキャンすることで転写材料37R、37G、37Bへの各照射時間(加熱時間)を調整し、転写材料37R、37G、37Bの各昇華温度に最適化した一括転写を実施することができる。照射光の強度ムラに対応して光のスキャン方向の幅を変調して、照射エネルギー(強度×照射時間)を一定にすることもできる。また、図15に示すように、矩形の光を斜めに照射する配置でy方向にスキャンしてもよい。照射光の形状(幅)が固定されている場合に、光学系の大きな変更を必要とせずに、多様なピッチを有する転写に対応することができる。
【0094】
また、図16(a)に示すように、ドナー基板30の転写領域38の全領域を覆う光を照射することもできる。この場合には、照射光をスキャンさせることなく全転写材料を一括転写することができる。さらに、図16(b)に示すように、ドナー基板30の転写領域38を部分的に覆う光を照射し、次に未照射の部分を照射するステップ照射を使用してもよい。この場合も、照射光の前後の位置をオーバーラップさせてもよいので、光照射の位置合わせを大幅に軽減できる。
【0095】
照射光の強度や転写材料の加熱温度の好ましい範囲を一概に例示するのは難しい。これらは、照射光の均一性、照射時間(スキャン速度)、ドナー基板の支持体31や光熱変換層33の材質や厚さ、反射率、区画パターン34の材質や形状、転写材料37の材質や厚さなど様々な条件に左右されるからである。光熱変換層33に吸収されるエネルギー密度の典型値としては0.01〜10J/cmの範囲が、転写材料37の加熱温度は220〜400℃の範囲が目安となる。
【0096】
図17は、光を一定時間照射した際の、転写材料37(あるいは光熱変換層33)の温度変化を示す概念図である。様々な条件によるので一概には言えないが、図17(a)のように、照射強度(パワー密度)が一定の条件では温度が徐々に上昇し、目標(昇華温度)に達した後も上昇する傾向にある。この条件でも転写材料37の厚さや耐熱性、照射時間によっては問題なく転写を実施できる。一方、転写材料37へのダメージをより低減する好ましい照射方法として、図17(b)に示すように、温度が目標付近で一定となり、かつ、その期間が長くなるように、強度に分布をもたせた照射光を用いて、ある点における照射強度を時間的に変化させる例が挙げられる。転写材料37へのダメージを低減できることは、同時に区画パターン34へのダメージも低減できることを意味するので、例えば、区画パターン34を感光性有機材料を利用して形成した場合でも、区画パターン34が劣化せず、ドナー基板の再利用回数を増大できる。
【0097】
図18は、照射光の成形方法を示す斜視図である。図18(a)に示すように、光学マスク41によって円形の光束から矩形の照射光を切り出すことができる。光学マスク41の他にナイフエッジや光学干渉パターンなどを利用してもよい。図18(b)、(c)に示すように、レンズ42やミラー43により、光源44からの光を集光あるいは拡張することで照射光を成形することができる。また、上記の光学マスク41、レンズ42、ミラー43などを適宜組み合わせることで、任意の形状の照射光に成形することができるし、例えば、矩形照射光の長軸方向は均一な照射強度を有し、短軸方向にはガウシアン分布を有するように設計することも可能である。
【0098】
図18(d)は、図17(b)に示した照射強度の時間依存性を実現する一例を示す。ドナー基板30の面に対して照射光をレンズ42を介して斜めに集光する。破線で示した仮想焦点面45の手前側がドナー基板30の光熱変換層33(図示せず)に略一致するように配置すると、手前側はレンズ42の焦点距離と一致するオンフォーカス条件になるため照射密度が最大となり、奥側は焦点距離から外れるオフフォーカス条件になるため、光がぼけることで照射密度が低減する。このような配置で照射光を奥から手前に向けてスキャンすると、図17(b)に概念的に示した照射強度の時間依存性を得ることができる。
【0099】
以上のようにして、光熱変換層33が設置されたドナー基板30上の転写材料37と同時に区画パターン34を加熱するように光を照射することにより、大型であっても高精度な微細パターニングが可能になる。このような照射方法によれば、境界に存在する転写材料をも十分に加熱して転写することができ、転写薄膜の膜厚分布は従来より均一化されるので、デバイス性能への悪影響を防止できる。また、用いる光の強度を小さくすることができるので、転写材料37と区画パターン34が同時に加熱されるように光を当てた場合であっても、転写材料37や区画パターン34の劣化、区画パターン34の剥離や区画パターン34からの脱ガスなどに起因するデバイス性能への悪影響、を最小限に抑制できる。
【0100】
ドナー基板30は、2種類以上の異なる転写材料37が存在する場合、溶液状態から同時に乾燥して形成すると、膜厚ムラを非常に少なくすることができる。このドナー基板30を用いると、デバイス性能が悪化することなく、高精度に微細パターニングされたデバイスの製造が可能である。
【0101】
以上、本発明の実施形態に係る転写用のドナー基板及びそれを用いたデバイスの製造方法について説明した。次に、本発明の実施形態に関係する実施例を説明する。本発明は、上述の実施形態及び次の実施例に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。
【実施例】
【0102】
実施例1
ドナー基板30を以下のとおり作製した。支持体31として38×46mmで厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板を用い、洗浄/UVオゾン処理後に、光熱変換層33として厚さ0.4μmのモリブデン膜をスパッタリング法により全面形成した。次に、光熱変換層33を上記と同様のUVオゾン処理した後に、上にポジ型ポリイミド系感光性コーティング剤(東レ株式会社製、DL−1000)をスピンコート塗布し、プリベーキング、UV露光した後に、現像液(東京応化製、NMD3)により露光部を溶解・除去した。このようにパターニングしたポリイミド前駆体膜をホットプレートで350℃、10分間ベーキングして、ポリイミド系の区画パターン34を形成した。この区画パターン34の厚さは2μm、幅は20μmで、断面は順テーパー形状であった。区画パターン34内部には幅80μm、長さ280μmの光熱変換層33を露出する開口部が、幅方向に100μmピッチで768個、長さ方向に300μmのピッチで200個配置されていた。
【0103】
このドナー基板30にオゾン親液処理及びHMDS疎液処理を行い、テトラリンに対する光熱変換層33の接触角が0〜10度の間になるようにし、区画パターン34の接触角がほぼ40度になるようにした。
【0104】
テトラリン(沸点:205℃)を溶媒とした粘度約2mPa・sの転写材料37R、37G、37Bの各溶液を用意した。転写材料37Bを形成する溶液は、ピレン系赤色ホスト材料RH−1とピロメテン系赤色ドーパント材料RD−1とをテトラリンにそれぞれ1wt%、0.05wt%溶解させたもの、転写材料37Gを形成する溶液は、ピレン系緑色ホスト材料GH−1とクマリン系緑色ドーパント材料(C545T)とをテトラリンにそれぞれ1wt%、0.05wt%溶解させたもの、転写材料37Bを形成する溶液は、ピレン系青色ホスト材料BH−1をテトラリンに1wt%溶解させたものである。
このうち、まず37Rの溶液を、ドナー基板30上の転写材料37R、37G、37BがRGBの繰り返しになってRGB3区画を一つの単位としたRGBパターンを形成するように、Rに対応する区画にインクジェット法で塗布して100℃で20分間静置し、乾燥させた。37G、37Bの溶液について同様の操作を繰り返した。そして、転写材料37R、37G、37Bの全てに溶媒であるテトラリンを再度インクジェット法で塗布して100℃で20分間静置し、同時に乾燥させた。転写材料37R、37G、37Bの区画内の平均厚さはそれぞれ40、30、25nmであった。
【0105】
【化2】

【0106】
図19は転写材料37を形成する工程の平面写真であって、(a)は転写材料37Rの溶液を塗布して乾燥させた後のもの、(b)は転写材料37Gの溶液を塗布して乾燥させた後のもの、(c)は転写材料37Bの溶液を塗布して乾燥させた後のもの、(d)は再度溶媒を塗布して乾燥させた後の最終状態のものである。図19(b)、(c)は、途中工程では転写材料37R、37Gに膜厚ムラが発生していることを示している。転写材料37Rは、図5(b)、(c)の断面図で模式的に示したように、凝集して不連続になった。転写材料37Gは連続膜であったが、図5(c)の断面図で模式的に示したように、転写材料37R側が厚く、直前に塗布した37B側が薄くなった。図19(d)は、最終状態では膜厚ムラは少し残るものの非常に少なくなっていることを示している。
【0107】
実施例2
区画パターン34の厚さを7μmにしたこと以外は実施例1と同様のドナー基板30を作製し、実施例1と同様にして転写材料37R、37G、37Bを形成した。このときの転写材料37を形成する工程の平面写真は省略するが、図19(b)、(c)と同じ途中工程では、転写材料37R、37Gに発生する膜厚ムラの程度が、特に37Gの相対的な膜厚ムラが実施例1の半分以下に少なくなり、最終状態では膜厚ムラが極めて少なくなっていた。
【0108】
実施例3
実施例1および実施例2のドナー基板を用いて有機EL素子を作製した。
デバイス基板は以下のとおり作製した。ITO透明導電膜を140nm堆積させた無アルカリガラス基板(ジオマテック株式会社製、スパッタリング成膜品)を切断し、フォトリソグラフィー法によりITOを100μmピッチで768本のストライプ形状にパターニングした。次に、ドナー基板と同様にパターニングされたポリイミド前駆体膜を、300℃、10分間ベーキングして、ポリイミド系の絶縁層を形成した。この絶縁層の高さは1.8μm、幅は30μmで、断面は順テーパー形状であった。絶縁層のパターン内部には幅70μm、長さ250μmのITOを露出する開口部が、幅方向に100μmピッチで768個、長さ方向に300μmのピッチで200個配置されていた。ITOストライプ電極の長手方向を絶縁層の長さ方向に一致させた。
【0109】
この基板をUVオゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が3×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、この基板の発光領域全面に正孔輸送層として、アミン系化合物を50nm、NPDを10nmを蒸着した。
【0110】
次に、実施例1で作製したドナー基板の区画パターンと前記デバイス基板の絶縁層との位置を合わせて対向させ、3×10−4Pa以下の真空中で保持した後に外周部をシールしてから大気中に取り出した。絶縁層と区画パターンとで区画される転写空間は真空に保持されていた。転写には、中心波長が940nmで、照射形状を横340μm、縦50μmの矩形に成形した光を用いた(光源:半導体レーザーダイオード)。区画パターンおよび絶縁層の縦方向と光の縦方向を一致させるようにドナー基板のガラス基板側から光を照射し、転写材料と区画パターンが同時に加熱されるように縦方向にスキャンすることで、転写材料である共蒸着膜をデバイス基板の下地層である正孔輸送層上に転写した。レーザー強度を148W/mm、スキャン速度は0.6m/sであった。光は横方向に約300μmピッチでオーバーラップさせながら、発光領域全面に転写されるように転写回数が24回となるように繰り返しスキャンを実施した。
【0111】
RGB発光層を転写後のデバイス基板を、再び真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が3×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、電子輸送層としてE−1を25nm、発光領域全面に蒸着した。次に、ドナー材料(電子注入層)としてフッ化リチウムを0.5nm、さらに、第二電極としてアルミニウムを100nm蒸着した。このとき、アルミニウムはマスク蒸着により300μmピッチで200本のストライプ形状にパターニングし、ストライプ電極の長手方向を絶縁層の幅方向に一致させた。従って、作製した有機EL素子は、ITOストライプからなる第一電極と、アルミニウムストライプからなる第二電極とが互いに直交する単純マトリクス型ディスプレイの構造をもち、両電極の交点に、R、G、Bの副画素から構成される画素が256×200配置されている。
【0112】
【化3】

【0113】
各副画素からは、それぞれ明瞭なR、G、B発光が確認され、副画素間の色混じりは認められなかった。実施例2で作製したドナー基板を用いて作製した有機EL素子でも同様に明瞭なR、G、B発光が確認され、各副画素内の輝度ムラが低減していることが確認された。
【0114】
実施例4
ドナー基板30を以下のとおり作製した。支持体31として38×46mmで厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板を用い、洗浄/UVオゾン処理後に、光熱変換層33として厚さ0.2μmのタンタル膜をスパッタリング法により全面形成した。次に、光熱変換層33を上記と同様のUVオゾン処理した後に、上にフッ素系ポジ型ポリイミド感光性コーティング剤をスピンコート塗布し、プリベーキング、UV露光した後に、現像液により露光部を溶解・除去した。このようにパターニングしたポリイミド前駆体膜をホットプレートで300℃、10分間ベーキングして、ポリイミド系の区画パターン34を形成した。この区画パターン34の厚さは7μm、幅は20μmで、断面は順テーパー形状であった。区画パターン34内部には幅80μm、長さ280μmの光熱変換層33を露出する開口部が、幅方向に100μmピッチで768個(ただしB画素に対応する領域は実際には開口部は設けられていない)、長さ方向に300μmのピッチで200個配置されていた。次に、厚さ0.2μmのタンタル膜をドナー基板30の全面に厚さ0.2μmスパッタリング法により形成し、後に塗布する転写材料37Rと転写材料37Gが混色しないように、区画パターン34の上面にフッ素系の撥液処理を施した。
【0115】
キシレン(沸点140℃)を溶媒とした転写材料37R、37Gの各溶液を用意した。転写材料37Rを形成する溶液は、ピレン系赤色ホスト材料RH−1とピロメテン系赤色ドーパント材料RD−1とをキシレンにそれぞれ0.5wt%、0.01wt%溶解させたもの、転写材料37Gを形成する溶液は、ピレン系緑色ホスト材料GH−1とクマリン系緑色ドーパント材料(C545T)とをキシレンにそれぞれ0.5wt%、0.04wt%溶解させたものである。
【0116】
このうち、まず37Gの溶液を、ドナー基板30上の転写材料37R、37GがRGBの繰り返しになってRGB3区画を一つの単位としたRGBパターンを形成するように、Gに対応する区画にインクジェット法で塗布して自然乾燥させ、次に37Rの溶液をRに対応する区画にインクジェット法で塗布を行い自然乾燥させた。なお、青色の発光層は後からデバイス基板に蒸着して作製する電子輸送層と兼ねるために、ここでは青色の転写材料37Bの塗布は行わなかった。最後に、トルエン(沸点110℃)を、ドナー基板30の転写材料37R、37Gが形成された領域にインクジェット法により一括塗布を行い、真空乾燥させた。転写材料37R、37Gの区画内の平均厚さはそれぞれ40、30nmであった。
【0117】
図20は転写材料37を形成する工程の平面写真であって、(a)は転写材料37Gの溶液を塗布して乾燥させた後のもの、(b)は転写材料37Rの溶液を塗布して乾燥させた後のもの、(c)は再度溶媒を塗布して乾燥させた後の最終状態のものである。
【0118】
図20(a)においては、転写材料37Gが均一に塗れ広がっているが、(b)において、転写材料37Rを塗布した際の溶媒蒸気の影響で、転写材料37Gが転写材料37Rの区画と逆方向に偏って凝集している。ところが、(c)において、トルエンを上塗りすると、転写材料37Gの膜が均一化され、最終状態では膜厚ムラは少し残るものの非常に少なくなっていた。
【0119】
実施例5
実施例4のドナー基板を用いて有機EL素子を作製した。
【0120】
まず、実施例3と同様にデバイス基板を作製し、正孔輸送層を蒸着した。次に、実施例4で作製したドナー基板の区画パターンと前記デバイス基板の絶縁層との位置を合わせて対向させ、3×10−4Pa以下の真空中で保持した後に外周部をシールしてから大気中に取り出した。絶縁層と区画パターンとで区画される転写空間は真空に保持されていた。転写には、中心波長が940nmで、照射形状を横340μm、縦50μmの矩形に成形した光を用いた(光源:半導体レーザーダイオード)。
【0121】
図21に示すように、区画パターンおよび絶縁層の縦方向と光の縦方向を一致させるようにドナー基板のガラス基板側から光を照射し、転写材料と区画パターンが同時に加熱されるように縦方向にスキャンすることで、転写材料である共蒸着膜をデバイス基板の下地層である正孔輸送層上に転写した。レーザー強度を148W/mm、スキャン速度は0.6m/sであった。光は横方向に約300μmピッチでオーバーラップさせながら、発光領域全面に転写されるように転写回数が24回となるように繰り返しスキャンを実施した。
【0122】
RG発光層を転写後のデバイス基板を、再び真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が3×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、電子輸送層としてE−1を25nm、発光領域全面に蒸着した。なお、電子輸送層は、B発光層と共通層として用いた。次に、ドナー材料(電子注入層)としてフッ化リチウムを0.5nm、さらに、第二電極としてアルミニウムを100nm蒸着した。このとき、アルミニウムはマスク蒸着により300μmピッチで200本のストライプ形状にパターニングし、ストライプ電極の長手方向を絶縁層の幅方向に一致させた。従って、作製した有機EL素子は、図22に示すように、ITOストライプからなる第一電極と、アルミニウムストライプからなる第二電極とが互いに直交する単純マトリクス型ディスプレイの構造をもち、両電極の交点に、R、G、Bの副画素から構成される画素が256×200配置されている。
【0123】
各副画素からは、それぞれ明瞭なR、G、B発光が確認され、副画素間の色混じりは認められなかった。また、実施例3のR、G画素と比較して、発光効率が約2倍に向上した。
【0124】
実施例6
最後に、トルエンの代わりにクロロホルム(沸点:61℃)を用いて、ドナー基板30の転写材料37R、37Gが形成された領域に一括塗布を行い、真空乾燥させた以外は、実施例4と同様にしてドナー基板を作製した。
【0125】
本ドナー基板を用いて、実施例5と同様に有機EL素子を作製したところ、各副画素からは、それぞれ明瞭なR、G、B発光が確認され、副画素間の混色は認められなかった。実施例5と比較してR、Gの発光効率は同等以上であった。
【0126】
実施例7
最後に、トルエンの代わりにキシレンを用いて、ドナー基板30の転写材料37R、37Gが形成された領域に一括塗布を行い、真空乾燥させた以外は、実施例4と同様にしてドナー基板を作製した。
【0127】
本ドナー基板を用いて、実施例5と同様に有機EL素子を作製したところ、各副画素からは、それぞれ明瞭なR、G、B発光が確認され、副画素間の混色は認められなかった。ただし、一括塗布に使用したキシレンが転写材料37R、37Gから完全に除去されなかったために、実施例5と比較してR、Gの発光効率が70%前後に低下した。
【0128】
実施例8
キシレンの代わりにトルエンを溶媒とした転写材料37R、37Gの各溶液を使用したこと以外は、実施例4と同様にしてドナー基板を作製した。転写材料37R、37Gをそれぞれインクジェット法で塗布する際に、溶媒の沸点が比較的低いためにノズルの先端に析出物が生じ、転写材料37R、37Gの一部に混色が認められた。ただし、膜厚ムラは実施例4と同様に少し残るものの非常に少なかった。
【0129】
本ドナー基板を用いて、実施例5と同様に有機EL素子を作製したところ、正常な副画素からは、それぞれ明瞭なR、G、B発光が確認されたが、一部で副画素間の混色が認められた。R、Gの発光効率は実施例5とほぼ同等であった。
【符号の説明】
【0130】
10 有機EL素子(デバイス基板)
11 支持体
12 TFT(取り出し電極含む)
13 平坦化層
14 絶縁層
15 第一電極
16 正孔輸送層
17 発光層
18 電子輸送層
19 第二電極
20 デバイス基板
21 支持体
27 転写膜
30 ドナー基板
31 支持体
33 光熱変換層
34 区画パターン
37 転写材料
38 転写領域
39 転写補助層
41 光学マスク
42 レンズ
43 ミラー
44 光源
45 仮想焦点面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、該支持体上に形成された光熱変換層と、前記光熱変換層上に形成された区画パターンと、を備える転写用ドナー基板であって、前記区画パターンで区画された複数個の領域の前記光熱変換層上には、2種類以上の異なる転写材料であって溶液状態から同時に乾燥させた転写材料が形成されていることを特徴とする転写用ドナー基板。
【請求項2】
前記2種類以上の異なる転写材料の溶液状態は、各々の転写材料の溶液を塗布してから、全ての転写材料に同時に溶媒を塗布したものである請求項1記載の転写用ドナー基板。
【請求項3】
前記全ての転写材料に同時に溶媒を塗布する工程は、前記各々の転写材料の溶液が乾燥してから、または乾燥途中の状態で行われるものである請求項2記載の転写用ドナー基板。
【請求項4】
前記転写材料の溶液の溶媒の沸点よりも、前記全ての転写材料に同時に塗布する溶媒の沸点の方が低いことを特徴とする請求項2または3記載の転写用ドナー基板。
【請求項5】
前記2種類以上の異なる転写材料の少なくとも1種類が、分子量1000未満の低分子材料からなり、かつ、当該低分子材料からなる膜の乾燥後の平均膜厚が100nm以下である請求項1〜4のいずれか記載の転写用ドナー基板。
【請求項6】
前記区画パターンの厚さが5μm以上である請求項1〜5のいずれか記載の転写用ドナー基板。
【請求項7】
支持体と、該支持体上に形成された光熱変換層と、前記光熱変換層上に形成された区画パターンと、前記区画パターンで区画された複数個の領域の前記光熱変換層上に形成された2種類以上の異なる転写材料、を備える転写用ドナー基板の製造方法であって、前記2種類以上の異なる転写材料を溶液状態から同時に乾燥させることで形成することを特徴とする転写用ドナー基板の製造方法。
【請求項8】
前記2種類以上の異なる転写材料を溶液状態から同時に乾燥させる工程は、各々の転写材料の溶液を塗布してから、全ての転写材料に同時に溶媒を塗布し、同時に乾燥させるものである請求項7記載の転写用ドナー基板の製造方法。
【請求項9】
前記全ての転写材料に同時に溶媒を塗布する工程は、前記各々の転写材料の溶液が乾燥してから、または乾燥途中の状態で行われるものである請求項8記載の転写用ドナー基板の製造方法。
【請求項10】
前記全ての転写材料に同時に溶媒を塗布する工程において、前記転写材料の溶液の溶媒の沸点よりも低い溶媒を塗布することを特徴とする請求項8または9記載の転写用ドナー基板。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか記載の転写用ドナー基板をデバイス基板と対向させ、前記支持体側から前記光熱変換層に光を照射することで前記転写材料をデバイス基板に転写してデバイスを構成する層の少なくとも1層をパターニングすることを特徴とするデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図21】
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【図22】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−40375(P2011−40375A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158550(P2010−158550)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】