説明

転動体循環部材を備えた転がり案内装置及びその転動体循環部材の製造方法

【課題】
単一の部材から構成されて接合面を具備せず、且つ、所定の形状及び所定の加工精度を有して安価に量産可能な転動体循環部材を備えた転がり案内装置、及びその転動体循環部材の製造方法を提供する。
【解決手段】
転動体の転走面が形成された案内部材と、この案内部材の転走面と対向して前記転動体の負荷転走通路を形成する転走面を有する移動部材と、この移動部材の負荷転走通路の一端から他端へ転動体を循環させる循環部材とを備え、前記循環部材は転動体の無負荷通路を有すると共に所定の経路に沿って屈曲したゴム製パイプ体であり、かかるパイプ体は単一の部材から構成されて接合面を具備しない構成になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直線案内装置やボールねじ装置等、ボールやローラといった転動体の無限循環路を備えた各種転がり案内装置に係り、詳細には、転動体を無限循環させるための循環部材を備えた転がり案内装置、及びその転動体循環部材の製造方法に関する。
【0002】
前記ボールねじ装置としては、実開昭63−115660号公報に開示されているものが知られている。この種のボールねじ装置は、外周面に螺旋状のボール転走面が形成されたねじ軸と、このねじ軸の転走面に対向する転走面を有するナットと、このナットに装着されてボールの無限循環路を形成する循環部材とから構成されている。
【0003】
前記循環部材は、ナットに嵌合する一対の脚部と、これら脚部同士を連通する通路部とを備えて略U字状に形成されている。当該循環部材の内部には、一方の脚部から他方の脚部に向けてボールの無負荷通路が形成されている。また、前記循環部材は金属製のパイプを曲げ加工により形成している。
【0004】
また、前記循環部材を合成樹脂の射出成形により形成する場合もあるが、その場合には内部に略U字状の無負荷通路を備えた単一部材を射出成形することが困難なので、かかる循環部材は無負荷通路部に沿って分割された一対の半体部材から構成され、これら半体部材を互いに突き合わせ、溶着等により接合していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63−115660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、金属製の循環部材を用いたボールねじ装置の場合には、当該循環部材が金属製パイプの曲げ加工により形成されているため、所定の形状及び加工精度を有する循環部材を成形するのに手間がかかっていた。また、かかる循環部材と同一の形状及び加工精度を有する循環部材を量産することが困難であり、ボールねじ装置のコスト高に繋がっていた。
【0007】
一方、一対の半体部材からなる循環部材を用いたボールねじ装置では、当該循環部材内でボールが詰まった際に、当該ボール同士の衝突力が前記半体部材同士の接合面を拡開する力として作用してしまうおそれがあった。特に、ねじ軸の径が大きいボールねじ装置の場合にはねじ軸に伝達される回転トルクが大きく、それに伴ってボールが前記循環部材内の無負荷通路へ大推力で進入するため、前記事象が顕著に発生し易かった。この点を考慮し、ねじ軸の径が大きいボールねじ装置の場合には接合面のない循環部材、すなわち、従来の如く金属製パイプの曲げ加工により形成される循環部材を用いていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこのような課題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、単一の部材から構成されて接合面を具備せず、且つ、所定の形状及び所定の加工精度を有して安価に量産可能な転動体循環部材を備えた転がり案内装置、及びその転動体循環部材の製造方法を提供することにある。
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の転がり案内装置は、転動体の転走面が形成された案内部材と、この案内部材の転走面と対向して前記転動体の負荷転走通路を形成する転走面を有する移動部材と、この移動部材の負荷転走通路の一端から他端へ転動体を循環させる循環部材とを備える。
【0010】
前記循環部材は転動体の無負荷通路を有すると共に所定の経路に沿って屈曲したゴム製パイプ体であり、かかるパイプ体は単一の部材から構成されて接合面を具備しない構成になっている。
【0011】
また、前記循環部材の製造方法では、前記移動部材における転動体の無負荷通路に沿って所定形状に折り曲げられた線条芯材を形成した後、前記循環部材となるゴム製パイプ体を前記線条芯材に被せ、加硫工程を経て前記パイプ体を線条芯材に合致した形状に成形し、前記線条芯材を前記パイプ体から抜き出して前記転動体の無負荷通路を形成している。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明によれば、前記循環部材が単一のゴム製のパイプ体から構成されて転動体の転走方向に沿った接合面を具備していないため、従来の循環部材の如く、循環部材に対するボールの大推力によりその接合面が拡開するおそれがなく、無限循環路内のボールの循環を円滑化することが可能となる。
【0013】
また、ゴム製パイプ体からなる循環部材は、かかるパイプ体を型に当てはめた状態で加硫工程を行うことで容易に所定の形状、所定の加工精度を与えることができるので、接合面を具備しない循環部材を容易に量産することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用したボールねじ装置の実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明を適用したボールねじ装置が備えるナットを示す斜視図である。
【図3】ねじ軸と循環部材との関係を示す図である。
【図4】本発明を適用した循環部材の外観を示す斜視図である。
【図5】循環部材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図6】線条芯材にゴム製のパイプ体を被覆させた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を用いて本発明を適用したボールねじ装置を詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明を適用したボールねじ装置の実施形態を示す斜視図であり、図2は当該ボールねじ装置が備えるナットの斜視図である。図示のように、前記ボールねじ装置1は、外周面にボール5の転走する螺旋状の転走面21が形成されたねじ軸2と、このねじ軸2の転走面21と対向してボール5の負荷転走通路を形成する転走面31を有するナット3と、このナット3の負荷転走通路の一端から他端へボール5を循環させる循環部材4とを備えている。
【0017】
前記ナット3は略円筒状に形成され、内周面にはねじ軸2の転走面21と対向する転走面31が形成されている。当該ナット3の外周面には、一端側に機械等を取付けるためのフランジ部32が形成されている。また、ナット3の外周面の一部には平面部33が形成されており、当該平面部33には前記循環部材4が挿入される挿入孔34が形成されている。当該循環部材4は押え部材35により、前記ナット3の外周面に固定される。
【0018】
図3は前記ねじ軸2と循環部材4との関係を示す図であり、前記ナット3は省略して描いてある。前記循環部材4はナット3の外周面に固定される通路部41と、この通路部41の両端に設けられた一対の脚部42とを有して、全体として略U字状に形成されている。これら通路部41と脚部42にはボール5の無負荷通路が形成されており、ボール5が一方の脚部42から他方の脚部42まで無負荷状態で前記無負荷通路内を転走するようになっている。すなわち、前記循環部材4はボール5の直径よりも僅かに大きな内径の無負荷通路を有してパイプ状に形成されている。また、この脚部42には前記ナット3の負荷転走路を転走してきたボール5を前記無負荷通路に掬い上げるための掬い上げ部42aが形成されている。
【0019】
この循環部材4は前記ねじ軸2を跨ぐようにして、螺旋状に形成されたねじ軸2のボール転動溝21を数巻分だけ隔てて配置されており、前記ナット3の負荷転走通路の一端まで転走してきたボール5は一方の脚部42から前記循環部材4の無負荷通路に進入し、当該無負荷通路を循環し、他方の脚部42から前記負荷転走通路の他端に送り出されるようになっている。すなわち、前記ナット3の負荷転走通路と循環部材4の無負荷通路とが連通連結することにより、ボール5の無限循環路が完成する。この実施形態では図2に示すように、2つの循環部材4がナット3に装着されることから、かかるナット3には前記ボール5の無限循環路がねじ軸2の軸方向に沿って直列的に2回路形成されている。従って、ナット3の平面部33には前記循環部材4の数に対応した4個の挿入孔34が形成されている。
【0020】
このような構成のボールねじ装置1では、例えば、前記ねじ軸2が前記ナット3に対して回転すると、ボール5が前記無限循環路内を循環し、ナット3がねじ軸2の回転方向に応じて、その軸方向へ並進運動する。
【0021】
図4は前記循環部材4の詳細を示す斜視図である。この循環部材4において、前記通路部41はゴム製パイプ体から形成されている。ここで、ゴムとは、天然ゴム、合成ゴム及び熱硬化性エラストマーを含む広い意である。また、当該通路部41の内周壁は前記パイプ体よりも低摩擦係数の皮膜で覆われている。但し、必ずしも、皮膜で覆うように形成する必要はない。このようなゴム製パイプ体は、型を用いた二次加硫工程を経ることで容易に任意の三次元形状を与えることが可能であり、そのために、所定径路に沿った無負荷通路を容易に形成することができる。
【0022】
一方、前記循環部材4の脚部42にはナット3の負荷転走通路を転走してきたボール5が連続的に接触するため、このボール5の接触によりその形状が変形しないように当該脚部42を金属材料又は合成樹脂材料により構成している。仮に、前記循環部材4の脚部42が変形してしまうと、前記ボール5の無限循環路内のボール5の循環を阻害することになるからである。最も、脚部に対して充分な剛性を確保することが可能であれば、前記通路部41及び脚部42を一本の連続したゴム製パイプ体で形成することも可能である。
【0023】
前記脚部42を嵌合させる前記通路部41の開口端は、無負荷通路の断面形状に合致した丸形状であっても差し支えないが、四角形状、六角形状とすることにより、前記脚部42の掬い上げ部42aの位置を通路部41に対して自ずと位置決めすることが可能となる。
【0024】
すなわち、前記通路部41及び一対の脚部42のそれぞれは中空のパイプ状部材であり、これらを組み合わせて構成された前記循環部材4は、無負荷通路内でのボール5の転走方向に沿った接合面を有していない。
【0025】
図5は前記循環部材4の製造方法の一例を示すフローチャートである。先ず、一次加硫を経て、直管状のゴム製パイプ体を形成する。一方、目的とする前記循環部材4の形状、すなわち、ボール5の無負荷通路に沿った形状に折り曲げられた線条芯材6を形成する。
【0026】
次に、図6で示すように、前記パイプ体を線条芯材6に強制的に被せる。この状態のパイプ体に対して二次加硫を行い、当該パイプ体を前記線条芯材6の形状に合致した形状に成形する。その後、線条芯材6を強制的に抜き出す。これにより、図4に示される通路部41が完成する。
【0027】
尚、前記循環部材4の通路部41の強度を増したい場合には、一次加硫を経て成形されたパイプ体に補強芯材例えば、ワイヤーなどを巻き付けながら二次加硫を行うことにより、前記通路部41に対して高い強度を与えることができる。
【0028】
上記製造方法により成形された通路部41に対して前記脚部42を嵌合させると、当該通路部41の締め付け力により脚部42が保持され、全体として略U字状の循環部材4が完成する。かかる場合、通路部41と脚部42との接合強度を高めたい場合には、これら接合部に接着剤を塗布しても良いし、あるいは通路部41の上から脚部42を締め付ける止め輪を被せても良い。
【0029】
以上のように構成された本実施形態のボールねじ装置によれば、例えば、ねじ軸の径が大きいボールねじ装置すなわち、大型のボールねじ装置とした場合でも、前記循環部材の通路部がゴム製パイプ体により形成されて接合面を有していないため、当該循環部材に対するボールの接触により、かかる接合面が拡開することがなく、無限循環路内のボールの循環を円滑化することが可能である。
【0030】
また、本実施形態のボールねじ装置によれば、ゴム製パイプ体を型に当てはめた状態で加硫工程を行うことで所定の形状、所定の加工精度を有する循環部材を容易に成形することが可能であり、もってボールの転走方向に沿った接合面を具備しない循環部材を容易に量産することが可能である。
【0031】
更に、本実施形態のボールねじ装置によれば、通路部をゴム製パイプ体により形成しつつも、前記循環部材の脚部を硬質な部材により構成することで、前記無限循環路内を転走するボールがねじ軸の進退運動により循環部材に対して連続的に接触したとしても、当該循環部材が変形することがなく、前記ナットの負荷転走通路から循環部材の無負荷通路への転動体の受け渡しを円滑にすることが可能となる。
【0032】
また、本実施形態のボールねじ装置によれば、前記循環部材の形成に摩擦係数の高いゴム製パイプ体を用いたとしても、前記循環部材の無負荷通路を低摩擦係数の皮膜により覆うことで、無限循環路内のボール転走の円滑化を図ることが可能となる。
【0033】
更に、前述した循環部材の製造方法によれば、前記線条芯材を利用して当該線条芯材の形状に合致した循環部材を形成しているため、かかる線条芯材に基づいて同一形状であって所定の加工精度を有する循環部材を容易に量産することが可能となる。
【0034】
尚、本実施形態ではボールねじ装置に係る転動循環部材に関して説明してきたが、当該循環部材は直線案内装置の無限循環路の循環部材としても適用することが可能である。ここで、直線案内装置とは、軌道レールと、無限循環する転動体を介して該軌道レールに沿って相対移動可能な移動ブロックとからなるもの等々を称する。但し、直線に限らず、曲線に沿う案内をなす案内装置でも良いことは勿論である。
【符号の説明】
【0035】
1…ボールねじ装置(案内装置)、2…ねじ軸(案内部材)、21…ねじ軸側転走面、3…ナット(移動部材)、31…ナット側転走面、34…挿入孔、4…循環部材、41…循環部、42…脚部、5…ボール(転動体)、6…線条芯材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体の転走面が形成された案内部材と、この案内部材の転走面と対向して前記転動体の負荷転走通路を形成する転走面を有する移動部材と、この移動部材の負荷転走通路の一端から他端へ転動体を循環させる循環部材と、から構成される転がり案内装置において、
前記循環部材は転動体の無負荷通路を有すると共に所定の経路に沿って屈曲したゴム製のパイプ体であり、かかるパイプ体は単一の部材から構成されて接合面を具備しないことを特徴とする転がり案内装置。
【請求項2】
前記循環部材は、ゴム製パイプ体からなる通路部と、前記負荷転走通路と前記通路部の無負荷通路との間で転動体を受け渡すための金属製又は合成樹脂製の脚部と、を備えていることを特徴とする請求項1記載の転がり案内装置。
【請求項3】
前記無負荷通路の内周面は前記パイプ体よりも低摩擦係数の皮膜によって覆われていることを特徴とする請求項1記載の転がり案内装置。
【請求項4】
案内部材に対して多数の転動体を介して組付けられた移動部材に装着され、当該移動部材に転動体の無限循環路を形成する転がり案内装置の循環部材の製造方法であって、
前記移動部材における転動体の無負荷通路に沿って所定形状に折り曲げられた線条芯材を形成した後、前記循環部材となるゴム製パイプ体を前記線条芯材に被せ、加硫工程を経て前記パイプ体を線条芯材に合致した形状に成形し、前記線条芯材を前記パイプ体から抜き出して前記転動体の無負荷通路を形成したことを特徴とする転動体循環部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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