説明

転炉における吹錬終了温度の設定方法

【課題】 転炉出鋼後の取鍋内溶鋼の温度降下に及ぼす影響を正確に見積もることによって、溶鋼温度の適中精度を向上する。
【解決手段】 吹錬終了前の転炉内の溶鋼中炭素濃度に基づいて吹錬終了時の溶鋼中酸素濃度を予測し、該溶鋼中酸素濃度と出鋼形態とに基づいて出鋼後の温度降下量を推定し、その推定値を出鋼後の取鍋内溶鋼に要求される目標温度に加えることによって転炉吹錬終了時の目標温度を設定し直す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑を脱炭精錬して溶鋼とする転炉の精錬温度を設定する方法に関し、特に転炉吹錬終了時の温度を設定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉における溶銑の脱炭精錬では、転炉出鋼時の溶鋼中の炭素濃度および溶鋼の温度が、鋼種別に設定された目標の範囲になるように制御(いわゆる終点制御)が行なわれる。この終点制御を行なうにあたって、吹錬終了予定時までの脱炭用酸素供給量から所定の酸素量分だけ手前の時点で炉内にサブランスを投入して溶鋼中炭素濃度と溶鋼温度を計測し、その測定値に基づいて、その後の吹錬条件(たとえば供給酸素量や冷材投入量)を修正して、目標の終点炭素濃度および溶鋼温度に制御する、いわゆるダイナミックコントロールが一般的に行なわれている。
【0003】
このダイナミックコントロールにより、転炉での出鋼時の溶鋼温度(すなわち吹錬を終了し、出鋼する際の転炉内での溶鋼の温度を意味し、以下「出鋼温度」という)および出鋼時の溶鋼中炭素濃度(すなわち吹錬を終了し、出鋼する際の転炉内での溶鋼中炭素濃度を意味し、以下「出鋼炭素濃度」という)の制御精度は飛躍的に向上した。その結果、転炉で吹錬を終了してから測温,サンプリングを行なうことなく出鋼することが可能となり、転炉の生産能率を向上することができた。
【0004】
転炉における終点の目標温度は、その後の工程である2次精錬開始時に要求される溶鋼の温度に基づき、これに転炉から出鋼する際の温度降下分および出鋼後の取鍋を転炉炉下から2次精錬設備へ搬送する間における溶鋼温度降下分を見込んで設定される。これらの温度降下は、主に取鍋の内壁耐火物による吸熱および取鍋の内壁耐火物および取鍋鉄皮を介しての大気への放散熱によって生起される。
【0005】
そこで特許文献1および特許文献2では、取鍋の内壁耐火物温度に着目し、耐火物表面温度の降下カーブから各プロセスの溶鋼温度降下量を推定し、転炉における出鋼温度を補正する方法を提案している。
また特許文献3は、溶鋼の運搬時間と連続鋳造のスケジュールや耐火物損耗に着目して転炉の出鋼温度を補正する方法を提案している。
【特許文献1】特開昭62-297411 号公報
【特許文献2】特開平1-246313号公報
【特許文献3】特開平8-246016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来技術、とりわけ特許文献3に記載された発明によれば、最終的に連続鋳造工程で要求される溶鋼温度に対して、そこに到るまでの多くの温度降下要因を見込んで、温度降下量を推定し、転炉での目標出鋼温度に反映させるので、連続鋳造工程での温度適中率が高まるものと予想された。
しかし上記の従来技術の方法を適用してもなお、転炉出鋼から連続鋳造に到るまでの温度降下が予想に反することが度々経験された。特に温度降下量が予想を上回って大きい場合は、出鋼後の溶鋼を正常に2次精錬することができず、規格外れとなったり、あるいは温度が低すぎて鋳造を行なうことができず、再精錬せざるを得ない場合が発生する。このため、転炉のオペレータは自己判断によって、全般的に目標出鋼温度を高めに修正して操業を行なっている。
【0007】
このように目標出鋼温度を全般的に高めに設定することは、下記の (a)〜(d) の問題を発生させていた。
(a) 転炉内張耐火物の負荷を増大させて耐火物寿命を短くする。
(b) 出鋼後の溶鋼温度が高すぎるために、2次精錬において多量の冷材を使用せざるを得ず、溶鋼の清浄度を損なう。
(c) 冷材を多量に投入することによって成分規格外れが発生する。
(d) 冷材を多量に投入することによって精錬時間の延長をきたす。
【0008】
本発明は、転炉出鋼後の取鍋内溶鋼の温度降下に及ぼす影響を正確に見積もることによって、溶鋼温度の適中精度を向上することを目的とする。溶鋼温度を精度良く予測すれば、目標出鋼温度を高めに設定する必要はなくなり、上記の(a)〜(d) の問題を解消できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、予想外の溶鋼温度降下挙動がいかなる要因によって発生しているかを詳細に調査した。その結果、転炉吹錬の終点における溶鋼中の酸素濃度が、予想外の溶鋼温度降下挙動に影響を及ぼしていることを突き止めた。すなわち転炉において炭素を吹き下げることによって、溶鋼中の酸素濃度が高くなった場合には、これをキルド出鋼(すなわち出鋼と同時に溶鋼にアルミニウムを投入して脱酸する出鋼方法)を行なうと、溶鋼中の酸素によってアルミニウムが酸化される際の発熱が、温度降下を小さくする方向に作用し、逆にリムド出鋼(すなわち出鋼時に脱酸剤を投入しない出鋼方法)を行なうと、溶鋼中の炭素と酸素の反応によって溶鋼がボイリングするので、溶鋼表面からの放熱が大きくなり、これが温度降下を増大させる方向に作用する。
【0010】
したがって吹錬終了時の溶鋼中の酸素濃度を知ることができれば、鋼種に応じて決められている出鋼形態(すなわちキルド出鋼かリムド出鋼か)の情報に基づいて溶鋼の温度降下量を正確に予測することが可能となる。
また吹錬終了時の酸素濃度は、吹錬末期のサブランスによって得られた吹錬中の溶鋼温度と溶鋼中炭素濃度の情報から、その後に溶鋼に供給する吹錬酸素量に基づいて終点の溶鋼中炭素濃度を予測し、これと経験的に得られている酸素濃度との関係によって予測することができる。
【0011】
本発明者らは以上の知見に基づいて本発明を完成した。すなわち本発明は、転炉における吹錬終了温度の設定方法において、吹錬終了前の転炉内の溶鋼中炭素濃度に基づいて吹錬終了時の溶鋼中酸素濃度を予測し、該溶鋼中酸素濃度と出鋼形態とに基づいて出鋼後の温度降下量を推定し、その推定値を出鋼後の取鍋内溶鋼に要求される目標温度に加えることによって転炉吹錬終了時の目標温度を設定し直すことを特徴とする、転炉における吹錬終了温度の設定方法である。
【0012】
本発明の吹錬終了温度の設定方法では、吹錬終了前の転炉内の溶鋼中炭素濃度の測定をサブランスによって行なうことが好ましい。また、出鋼形態がアルミニウムによって溶鋼を脱酸するキルド出鋼または脱酸を行なわないリムド出鋼であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、転炉において吹精を終了した溶鋼を出鋼する際の温度降下を精度良く見積もって、その温度降下の推定値を吹錬終了時の目標温度に設定し直して吹錬を行なうので、出鋼後の溶鋼の目標温度外れを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を適用する転炉は、溶銑もしくはこれに類似の高炭素溶融鉄合金を保持し、これに酸素を供給して脱炭精錬する形式の精錬炉である。たとえば、上吹きランスのみから酸素を供給する上吹き転炉(底吹き羽口から攪拌用の不活性ガスのみを吹き込む場合も含む),底吹き羽口のみから酸素を供給する底吹き転炉,上吹きランスと底吹き羽口の両方から酸素を供給する上底吹き転炉,これらに類似のAOD炉等に本発明を適用できる。
【0015】
そして、この転炉にあっては、吹錬の途中で溶鋼の測温,サンプリングを行なって、その際の測温値と溶鋼中炭素濃度に基づいて、その後の吹錬酸素量や冷材(たとえば鉄鉱石,ミルスケール,スクラップ等)の投入量を修正あるいは再設定することが可能なダイナミック制御システムを有することが必要である。また、吹錬中の測温,サンプリングを迅速かつ確実に行なうためには、周知のサブランス設備を有することが好ましい。
【0016】
一般的に、転炉における脱炭精錬は、転炉内に装入された溶銑やスクラップ等の主原料の量と成分から、製造しようとする鋼種毎に決まっている出鋼時の目標炭素濃度まで脱炭するに必要な総酸素量を計算し、この総酸素量を上吹きランスおよび/または底吹き羽口から転炉内に供給して行なう。そして、転炉内に供給した酸素量が、予め計算された総酸素量から所定量だけ少ない量となった時点で、測温サンプリング設備(たとえばサブランス等)を用いて、吹錬終了間近での溶鋼中炭素濃度と溶鋼温度を測定する。
【0017】
ここで、溶鋼中炭素濃度や溶鋼温度が当該時点にて予想された値から外れている場合に、その後の吹錬酸素量を増減したり、冷材の投入量を増減するなどして、吹錬終了時の溶鋼中炭素濃度と溶鋼温度を目標値に適中させる。
本発明では、このサブランス等による吹錬終了間近での溶鋼中の炭素濃度に基づいて、吹錬終了時の溶鋼中酸素濃度を予測する。サブランス等によって測定した溶鋼中炭素濃度(以下「SL炭素濃度」という)が、出鋼時の目標炭素濃度(以下「目標出鋼炭素濃度」という)よりも高い場合は、SL炭素濃度と目標出鋼炭素濃度の差分を脱炭するに必要な酸素をサブランス投入以降引き続き供給して、吹錬を終了する。したがって、目標出鋼炭素濃度を吹錬終了時の炭素濃度とみなして、これに基づいて吹錬終了時の溶鋼中酸素濃度を推定する。
【0018】
吹錬終了時の溶鋼中の酸素濃度と炭素濃度は、[C]+[O]→COの反応の平衡に到達していれば一定の値になる。しかし転炉の形式や吹錬する鋼種によって、溶鋼中の酸素濃度と炭素濃度は必ずしも平衡状態に到達しているとは限らない。
ただし、各々の転炉および鋼種毎に見ると、一定の関係を満たしていることが多いから、これを多数のヒートについて実測し、回帰式を作っておけば、溶鋼中炭素濃度から比較的精度良く溶鋼中酸素濃度を推定できる。
【0019】
一方、SL炭素濃度が既に目標出鋼炭素濃度を下回っている場合は、溶鋼の温度調整のみを行なって出鋼する。この場合、温度調整のために供給する酸素によって、さらに脱炭されるならば、その脱炭量を見込んで吹錬終了時の溶鋼中炭素濃度を推定し、それに基づいて、上記と同様にして溶鋼中の酸素濃度を推定する。
本発明では、このようにして吹錬終了時の溶鋼中酸素濃度を推定し、これに基づいて溶鋼中の酸素に起因する出鋼中の溶鋼の温度降下量を推定する。なお、出鋼中の溶鋼の温度降下量は、従来の方法で推定可能な分(たとえば取鍋耐火物に吸収される顕熱分等)についてはそれらに従って別途算出すれば良い。
【0020】
なお出鋼の形態として、上記したように、キルド出鋼(すなわち出鋼と同時に溶鋼にアルミニウムを投入して脱酸する出鋼方法)と、リムド出鋼(すなわち出鋼時に脱酸剤を投入しない出鋼方法)がある。キルド出鋼は、転炉出鋼の後、さらに脱炭精錬する必要のない鋼種(たとえば低炭素鋼〜高炭素鋼等)に主に適用される。一方、リムド出鋼は、転炉出鋼の後、真空脱ガス設備でさらに脱炭を行なう鋼種(たとえば極低炭素鋼等)や真空脱酸を行なう鋼種(たとえば高清浄度を要求される中,低炭素鋼等)に主に適用される。
【0021】
キルド出鋼の場合は、溶鋼中の酸素によってアルミニウムが酸化される際の発熱が、温度降下を小さくする方向に作用し、逆にリムド出鋼の場合は、溶鋼中の炭素と酸素の反応によって溶鋼がボイリングするために、溶鋼表面からの放熱が大きくなり、これが温度降下を増大させる方向に作用する。
そこで、予め出鋼形態毎に吹錬終了時の溶鋼中酸素濃度と温度降下量を実測しておき、温度降下量に及ぼす溶鋼中酸素濃度の寄与を回帰分析によって把握しておく。
【0022】
本発明では、上記のようにして推定した吹錬終了時の溶鋼中酸素濃度の推定値を、温度降下量と溶鋼中酸素濃度の関係に当てはめて、溶鋼中酸素濃度に起因する温度降下量を求め、さらに他の要因による温度降下量の推定値を合算して、出鋼中および出鋼後の温度降下量を推定する。そして出鋼後の取鍋内溶鋼に必要とされる要求温度(たとえば2次精錬開始の際に必要な溶鋼温度等)に、この出鋼中および出鋼後の温度降下量を加えたものを、新たに目標出鋼温度として設定し直して(すなわち目標出鋼温度を修正して)サブランス後の吹錬条件を変更する。
【実施例】
【0023】
底吹き転炉(容量 350トン)を用いて、本発明を適用して吹錬終了時の溶鋼中酸素濃度推定値に基づく出鋼目標温度の修正を行ないながら操業した(発明例)。また、同じ底吹き転炉を用いて、専ら取鍋耐火物の表面温度による出鋼目標温度の修正のみを行なった上、オペレータ判断によって目標出鋼温度の修正を行ないながら操業した(比較例)。発明例と比較例の操業条件は、いずれも表1に示す通りである。
【0024】
【表1】

【0025】
発明例と比較例の吹錬終了時の溶鋼温度について、推定最適目標温度(℃)と目標温度(℃)との関係を図1に示す。図1の横軸に示した吹錬終了時の溶鋼の推定最適目標温度は、実際の2次精錬開始前の取鍋内溶鋼温度から遡って転炉吹錬終了時の溶鋼温度として設定すべきであった値を算出した数値である。図1の縦軸に示した吹錬終了時の溶鋼の目標温度は、発明例ではサブランスによって測定した溶鋼中炭素濃度から再設定した目標温度を指し、比較例ではオペレータが修正した目標温度を指す。
【0026】
また図1中の直線Aは、推定最適目標温度と目標温度が一致する線を示す。発明例では、直線Aの両側にデータが分散している。しかし比較例では、直線Aの上側にデータが偏っている。直線Aと各データとの差の平均値(以下「差平均」という)を表2に示す。
さらに、図1から明らかなように、発明例のデータは、直線Aと良い一致を示している。図1中のデータから算出した偏差を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2に示す通り、発明例は偏差,差平均ともに、比較例に比べて減少している。これは、発明例のデータが直線Aと良い一致を示し、かつバラツキが小さいことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】推定最適目標温度(℃)と目標温度(℃)との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉における吹錬終了温度の設定方法において、吹錬終了前の転炉内の溶鋼中炭素濃度に基づいて吹錬終了時の溶鋼中酸素濃度を予測し、該溶鋼中酸素濃度と出鋼形態とに基づいて出鋼後の温度降下量を推定し、その推定値を出鋼後の取鍋内溶鋼に要求される目標温度に加えることによって転炉吹錬終了時の目標温度を設定し直すことを特徴とする、転炉における吹錬終了温度の設定方法。
【請求項2】
前記吹錬終了前の転炉内の溶鋼中炭素濃度の測定をサブランスによって行なうことを特徴とする請求項1記載の転炉における吹錬終了温度の設定方法。
【請求項3】
前記出鋼形態がアルミニウムによって溶鋼を脱酸するキルド出鋼または脱酸を行なわないリムド出鋼であることを特徴とする請求項1または2記載の転炉における吹錬終了温度の設定方法。


【図1】
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