転炉の操業方法
【課題】2基の転炉を稼働させる能力しか備えていない転炉周辺設備を有する転炉設備で、3基の転炉を効率的に稼働させる。
【解決手段】各転炉2のチャージの順番を、前記第1の転炉2での吹錬が終了する前に、第2の転炉2での吹錬を開始するように設定し、第3の転炉2の吹錬開始を、第2の転炉2での吹錬が終了する前で、且つ第1の転炉2での前回吹錬終了〜次回吹錬開始の間に設定する。
【解決手段】各転炉2のチャージの順番を、前記第1の転炉2での吹錬が終了する前に、第2の転炉2での吹錬を開始するように設定し、第3の転炉2の吹錬開始を、第2の転炉2での吹錬が終了する前で、且つ第1の転炉2での前回吹錬終了〜次回吹錬開始の間に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の転炉を効率的に使用する際における転炉の操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、転炉工程では、溶銑を転炉に装入し、副原料添加と酸素吹込みを行うことで脱りん・脱炭を行って、りん濃度や炭素濃度が所定の値となっている溶鋼を生産している。
図11は、従来からある転炉設備を示しているものであって、転炉と、これら転炉に溶銑を供給する取鍋と、この取鍋を搬送するクレーンとを有している。転炉に関しては、全部で3基あり、その中の2基を稼働させ、残るもう1基は休止状態としていた。
詳しくは、転炉には溶銑が装入されるためその内壁は常に高温にさらされており、内壁を構成する耐火レンガは徐々に溶損してゆく。つまり、転炉は、耐火レンガが溶け減って転炉自身の機能を失う炉体寿命をもっている。この寿命を超えて転炉を長期間に亘って稼働させることは不可能であり、転炉は、一定期間稼働した後、転炉内の耐火レンガを張り替えたりする大規模な修理、「炉修」が行われるものとなっている。前記休止中の1基の転炉は、かかる炉修作業中及びそれに続く休止状態中であった。
【0003】
図12は、図11の転炉設備における操業スケジュールを示したものであって、図12(a)には、3基の転炉A,B,Cに関して転炉稼働期間(すなわち転炉寿命)と炉修とのスケジュールが示されている。このスケジュールの如く、転炉寿命内にある2基の転炉では溶銑の精錬を行い、残りの1基の転炉で炉修を行って休業状態としていた。図中のPで示される部分のように、転炉Aと転炉Bとが稼働中であったとして、転炉Aの内壁に張りつけられている耐火レンガを張り替える時期が近づいたとする。そうした場合、転炉Aは炉修作業に入り、その代わりに、今まで休業中であった転炉Cを稼働状態とする。その後、転炉Aの炉修が終了したとしても、転炉Aをバックアップと考え、稼働状態とはせず休業状態のままとしていた。言い換えれば、使用している2基の転炉B,Cの内、1基が故障したり、炉修を行う必要が生じた場合に、その転炉B,Cの稼働を止めて現在休業中の転炉Aを再稼働するようにしていた。
【0004】
図12(b)には、2基の転炉B,Cが稼働している場合における、各転炉B,Cでのチャージ状況を示したものである。転炉のチャージとは、転炉に溶銑が装入され、装入された溶銑に対して吹錬が行われ、生産された溶鋼が排出される一連の工程をいい、この一連の作業の開始から終了までの時間を製鋼時間という。1回の転炉寿命内では約5000回のチャージが行われるのが通常である。図に示すように、必要に応じて、各チャージ間に転炉休止時間を設け、この時間を、転炉の内壁に耐火補修材を吹き付けるなどして簡易的ながら炉寿命を大幅に向上させる修理である「補修」を行う時間としている。
【0005】
転炉寿命を日数に直すと、大雑把ではあるが150日前後であり、炉修は約20日前後である。一方、転炉での1チャージ分の製鋼時間は約35分前後であり、転炉の補修は10分〜数時間を有するものである。このことを鑑みた上で、図12を要約すると、図12(a)は、転炉工程を日単位でマクロ的(巨視的)に見て、炉修期間と稼働期間とに分けたものであり、図12(b)は、転炉工程を時間単位でミクロ的(微視的)に見て、チャージと補修期間で分けたものとなっている。
以上のことから判るように、従来からの一般的な転炉設備においては、マクロ、ミクロいかなる観点からも、転炉は常に2基のみが稼働中であり、残り1基はバックアップとして休業状態にあることが普通である。したがって、転炉の周辺設備、例えば、排ガス処理設備や酸素供給設備は2基の転炉のみを吹錬させる能力しか有さないものとなっていた。
【0006】
このような転炉設備において、2基の転炉を効率よく稼働させることに関し、特許文献1や特許文献2の技術が既に開示されている。
特許文献1の技術は、1の転炉で脱りん精錬をした溶湯を受湯鍋に受け、この受湯鍋を作業床開口部を通して他の1の転炉に運搬し、ここで脱炭精錬を行なうものであって、脱燐精錬でのスラグの排さい時間等を少なくすると共に、脱燐精錬時間と脱炭精錬時間とを同程度にすることで、脱炭精錬炉の遊び時間を無くし全体として製鋼能率を向上するものである。換言すれば、1の転炉でのチャージ時間と他の転炉でのチャージ時間とを同程度にすることで、製鋼能率をあげる技術である。
【0007】
特許文献2の技術は、2基の転炉において、吹錬を開始する転炉の煙道のダンパーを開く動作と、吹錬を終了した転炉の煙道のダンパーを閉じる動作とを1段階のダンパー操作で同時並列的に行い、切替え時の停風時間を短縮させるものであって、転炉のチャージ切替時における煙道のダンパー操作方法に関するものである。
【特許文献1】特許第3486886号公報
【特許文献2】特開平6−65653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した転炉設備で、溶鋼生産能力を上げようと考えた場合、2基の転炉を稼働させることはもちろん、休業状態にあるもう1基の転炉を稼働させ、マクロ視で3基の転炉が同時に稼働している状況とするとよい。しかしながら、転炉周辺設備は、2基の転炉を稼働させる能力しかないため、単純に3基を同時に稼働することは不可能である。
この問題を解決するために、前述した特許文献1や特許文献2に着目したとしても、これらの技術は、転炉工程をミクロ視した上で2基の転炉稼働における効率アップを図るものであり、該技術を適用したとしても、マクロ視での転炉3基稼働を実現させ、溶鋼生産能力を大幅に向上させることは困難である。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、2基の転炉を吹錬させる能力しか備えていない転炉周辺設備を有する転炉設備で、3基の転炉の同時稼働状況を操業スケジュールに組み込むことのできる転炉の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明における課題解決のための技術的手段は、溶銑の吹錬を行う3基の転炉と、最大2基の転炉を吹錬可能とする能力を備えた転炉周辺設備とを有する転炉設備で、前記転炉周辺設備の能力を超えずに3基の転炉を操業すべく、各転炉のチャージの順番を、第1の転炉での吹錬が終了する前に、第2の転炉での吹錬を開始するように設定し、第3の転炉の吹錬開始を、第2の転炉での吹錬が終了する前で且つ第1の転炉での前回吹錬終了〜次回吹錬開始の間に設定していることを特徴とする。
【0011】
溶銑の吹錬を行う3基の転炉と、最大2基の転炉を吹錬可能とする能力を備えた転炉周辺設備とを有する転炉設備で、溶鋼生産能力を上げようと考えた場合、前述の如く、マクロ的に3基の転炉が略同時に稼働している状況(3/3基稼働)とするとよい。しかしながら、転炉周辺設備は2基の転炉を吹錬させる能力しかないため、単純に3基を同時に稼働することは不可能である。
そこで本願発明者は、様々な操業状況を検討した結果、図1(a)に示す如く、マクロ的には転炉が3基稼働している状況であるものの、図1(b)のように、ミクロ的には2基の転炉が吹錬しチャージが順次行われているようにすることで、転炉周辺設備の能力を超えることなく、大きく生産性を向上させることができるという技術思想を得るに至った。
【0012】
すなわち、図1(b)に示すように、転炉Aと転炉Bのチャージの順番を、転炉A(第1の転炉)での吹錬が終了する前に、転炉B(第2の転炉)での吹錬を開始するように設定することにより、両者が同時に吹錬を行う状況としている。さらに、転炉C(第3の転炉)の吹錬開始を、転炉Bでの吹錬が終了する前とすることで、転炉Bと転炉Cでも同時に吹錬を行わせている。加えて、転炉Cの吹錬開始を、転炉Aでの前回吹錬終了〜次回吹錬開始の間、換言すれば転炉Aが吹錬を行っていないときに設定しているため、転炉Aと転炉Cとが同時に吹錬する状況にはならず、全体として3基の転炉A,B,C が同時に吹錬状況となることはない。
【0013】
このような稼働状況とすることで、転炉周辺設備の能力を超えることなく、マクロ的に3基の転炉を休止期間無く同時に稼働させることができるようになり、大きく溶鋼生産性を向上させることができる。
なお、好ましくは、1の転炉の前回吹錬開始と次回吹錬開始との間に他の2つの転炉の吹錬開始がそれぞれ1回ずつ存在する状況を順次稼働状況とし、前記第1〜第3の転炉の少なくとも1つが該順次稼働状況を有するとよい。
加えて、前記順次稼働状況となっている転炉のチャージ数が、全チャージ数に占める割合を転炉の順次稼働比率とし、この転炉の順次稼働比率が40%〜95%となるように3基の転炉を操業するとよい。
【0014】
1の転炉の吹錬開始と吹錬終了との間に他の2つの転炉の吹錬開始が存在する状況を1の転炉が順次稼働状況であると定義すると共に、この順次稼働状況となっている転炉のチャージ数が、全チャージ数に占める割合を転炉の順次稼働比率とし、当該転炉の順次稼働比率を40%〜95%にするとよい。それは以下に述べる根拠に基づく。
すなわち、上記のように順次稼働比率を定義した上で、図1(b)を詳しく描いた図2、図3を見ると、順次稼働比率の高い状況は図2中のP部が対応し、転炉A,B,Cが順番に滞りなく吹錬を行っている。一方、Q部は順次稼働比率が低く、転炉Aなどは休止している時間が長いものとなっている。このことより考えて、順次稼働比率が大きくなる、すなわち転炉のチャージが順次続くことで、3基の転炉が待ち時間なくフル稼働していることになり、転炉設備の溶鋼生産性が非常によくなる。
【0015】
ところが、実際の転炉操業においては、転炉に対する地金取りや孔巻き、耐火物の補修などの補修作業が随時行われる。これらの作業は転炉の安定操業のためには必須であるものの、転炉の順次稼働比率が大きい場合、かかる補修作業を行う時間を確保することが困難となり逆に溶鋼生産性が落ちるようになる。
そこで本願出願人は、順次稼働比率を変化させた場合における溶銑生産性を変化をシミュレーションし、最適な順次稼働比率を求めるようにした。その結果が図4,図5に示されている。図4は計算結果であり、それを基にグラフ化したものが図5である。
【0016】
図5には、クレーンの能力により決定される転炉への溶銑供給時間が10分、15分、20分と3つの異なる条件下で、順次稼働比率を毎々変化させたときの溶鋼生産性の変化が記載されている。なお、各条件での製鋼時間は35分、35分、40分である。
図の横軸は転炉の順次稼働比率であり、縦軸は溶鋼生産性を示したもので1時間あたりのチャージ数であって、溶銑供給時間が10分の結果がグラフI、15分がグラフII、20分がグラフIIIである。溶銑供給時間が短いということは、クレーンの溶銑供給能力が大きく転炉の処理能力に対して多くの溶銑を供給できることを意味し、グラフIの傾きが最も大きいものとなっている。
【0017】
グラフIIは、通常のクレーン能力を有する場合の計算結果であり、そのグラフで溶鋼生産性が最大値をとるのは、順次稼働比率が75%の時である。本願発明者は、かかる最大値の略95%を常に確保するようにすると、転炉操業全体に亘って溶鋼生産性が非常によくなるものとなると考え、転炉の順次稼働比率を40%〜95%とした。なお、より好ましくは、50%〜90%の範囲とするとよい。
なお、グラフIIIで示される状況は、転炉自体の処理能力に対してクレーンの溶銑供給能力が小さい場合であり、この場合、順次稼働比率を上げたとしても溶銑生産性は向上しないばかりか逆に低下する結果となっている。
【0018】
グラフIは、クレーンの供給能力が非常に大きい場合である。クレーンの溶銑供給能力は、通常、転炉2基の稼働に合わせて設計されているため、本ケースのようになることはまれではあるが、この場合でも、順次稼働比率を40%〜95%に保てば溶鋼生産性を高位に保つことが可能である。
また、本発明における課題解決のための技術的手段は、前記転炉の内壁に対する簡易的な修理である「補修」を行うに必要とされる補修時間を確保すべく、第1→第2→第3としていた転炉の操業順序を逆順にすることを特徴とする。
【0019】
前述した如く、転炉の補修作業は転炉操業に必要不可欠なものであり、かかる補修を行う時間である補修期間を、3基の転炉の各チャージ間にうまく確保することで、溶鋼生産性を下げることなく、補修を行うことができるようになる。
図6には、第1→第2→第3としていた3基の転炉のチャージ順序を逆にすることで、転炉A(第1の転炉)で補修期間を確保した様子が示されている。
つまり、転炉Aでの吹錬が終了する前に、転炉B(第2の転炉)での吹錬を開始するようにしており、転炉C(第3の転炉)の吹錬開始を、転炉Bの吹錬が終了する前で、且つ転炉Aの吹錬終了後としている。
【0020】
ここで、転炉Aで補修作業を行う必要が生じた場合(図6のP)、転炉Cのチャージ後に、転炉Aではなく転炉Bのチャージを行い、転炉Bの吹錬が終了する前に、転炉Aの吹錬を開始するようにする。(C0→B1→A1)。その後は、転炉C、転炉B、転炉Aと逆順で3基の転炉のチャージを行う(C1→B2→A2、すなわち、第3→第2→第1)。
このようにすることで、吹錬A0からA1間での間に、転炉Aの長い休止時間を確保することができるようになり、この休止時間を補修期間とすることで、3基の転炉の順次稼働を行い且つ補修を行ったとしても、溶鋼生産性を高いままでキープ可能である。
【0021】
なお、前記補修時間を、T/4〜3Tの範囲内(Tは製鋼時間)とすることは非常に好ましい。以下、その理由を説明する。
図8,図9には、補修時間が約5〜600分まで変化した場合における、転炉寿命の延長の度合い(補修効果)と、地金取りにかかる時間とをシミュレーションした結果が示されている。図8は計算結果であり、それをグラフ化したものが図9である。全ての計算において、製鋼時間は35分であり、クレーンでの溶銑供給時間は15分である。
図9の横軸は製鋼時間Tで換算された補修時間であり、縦軸には補修効果ならびに地金取り時間が示されている。
【0022】
図中のグラフIは、補修効果の変化を示したものであり、補修時間を長くすることで、補修作業を確実に行うことができて1回の補修で延びるチャージ数が多くなることが示されている。補修時間を約0.25T(T/4)まで長くすると、転炉寿命が約3チャージ延長する。その一方、補修時間を約0.4T以上とすると、補修効果=5.0チャージでそれ以上は増えなくなる。
グラフIIは、地金取りにかかる時間の変化を示したものである。補修時間が3T以下では、地金取り時間はゼロであり、補修時間が3T以上になると、地金取り時間が発生するようになる。このことは、補修時間が長くなることで転炉自体の温度が降下し、転炉の装入口に地金等が付着する可能性が大きくなることを反映している。ゆえに、補修時間を極端に長くすることは得策ではなく、グラフIIからわかるように、補修時間を3T以下とすれば、地金取り作業の作業時間をなしとすることができる。
【0023】
これらのことを鑑み、補修時間をT/4〜3Tの範囲内とすることで、補修効果を適切なものとしつつ、地金取り作業の時間増加を防ぐことができるようになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、2基の転炉を吹錬させる能力しか備えていない転炉周辺設備を有する転炉設備で、3基の転炉を効率的に稼働させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明にかかる転炉への溶銑供給方法の実施形態を、図を基に説明する。
本実施形態の転炉設備1は、図11に示される従来例とほぼ同一であり、3基の転炉2と、これら転炉2に溶銑を供給する取鍋3と、この取鍋3を搬送する2基のクレーン4とを有している。さらに、3基の転炉2のそれぞれには、吹錬で発生した排ガスを集煙して有害物質を除去したり一酸化炭素を回収したりする排ガス処理設備5が備えられていると共に、各転炉2に酸素を供給したりする酸素供給設備6が設けられている。この酸素供給設備6は、転炉1基が吹錬に使用する酸素量の2倍を供給できるものであると共に、排ガス処理設備5は、2基の転炉1から排出されるCOガスなどを回収する能力を有している。つまり、排ガス処理設備5や酸素供給設備6から構成される転炉周辺設備7は、2基の転炉2で同時に吹錬を行わせる能力を有するものとなっており、3基の転炉2での同時吹錬は不可能なものとなっている。
【0026】
本願発明は、図1〜図3に示す如く、かかる転炉設備1において、操業工程を日単位で見ることをマクロ的、時間単位で見ることをミクロ的と定義した上で、マクロ的には転炉2が3基稼働している状況であるものの、ミクロ的には2基の転炉2が吹錬し、チャージが順次行われているようにすることで、転炉周辺設備7の能力を超えることなく、大きく生産性を向上させようとするものである。
前記転炉設備1での各工程を詳しく説明すると、まず、取鍋3に入った溶銑はクレーン4により搬送され、転炉2に装入される。具体的には、転炉2を傾動し、炉内にスクラップ等を装入した上で溶銑を流し入れるようにする。
【0027】
その後、溶銑中のりんPを主に取り除くと共に炭素Cを適切なものとするために、転炉2の炉口からランス(図示せず)を挿入し、溶銑上面に近づけ、酸素ガスを吹き付けると同時に、炉底から吹き込みガスで溶銑を撹拌しつつ吹錬(精錬)を開始する。同時に、石灰CaO等の造滓材や酸化鉄FexOy等の冷却材、すなわち副原料を投入することで、りんPは投入された酸素と反応してスラグ相に移行し、溶銑の上方に浮いた状態で積層するようになる。
このように、転炉2に溶銑が装入され、この溶銑が吹錬されることで成分調整された溶鋼となり、この溶鋼が転炉2から排出される一連の工程を「チャージ」といい、1チャージ分の製鋼時間は約35分程度である。
【0028】
一方、転炉2の内壁は溶銑により常に高温にさらされていて、内壁を構成する耐火レンガは徐々に溶け減ってゆく。ゆえに、転炉2は、耐火レンガが溶け減って転炉自身の機能を失う「寿命」をもっている。この寿命を超えて転炉2を長期間に亘って稼働させることは不可能であるため、図1(a)に示すように、転炉2では、一定期間稼働した後、転炉2内の耐火レンガを張り替えたりする大規模な修理、「炉修」が行われるものとなっている。転炉2の寿命を日数に直すと、大雑把ではあるが150日前後であり、炉修は約20日前後である。また、1回の転炉寿命内では約5000回のチャージが行われるのが通常である。
【0029】
加えて、通常の転炉操業においては、転炉2に対する地金取りや孔巻き、耐火物の補修などの補修作業が随時行われ、これらの作業は転炉2の安定操業のためには必須である。
ここでいう地金取り作業とは、転炉2の溶銑装入口近傍にスロッピング等により溶銑が固着し地金となっており、この地金を除去する作業である。約10チャージに1回程度行われるもので約30分程度の時間を有する。
孔巻き作業とは、転炉2の出銑口の耐火レンガが溶鋼により徐々に劣化していくため、所定間隔で、かかる耐火レンガを取り替える作業である。孔巻き作業は約100チャージに1回行われるものであり、約60分の作業時間を必要とする。
【0030】
耐火レンガ(耐火物)の補修は、転炉2の内壁に耐火補修材を吹き付けるなどして簡易的ながら炉寿命を大幅に向上させる修理であって、約10チャージ毎に行われ、1回の補修に約30分の時間を必要とする。
図2,図3は、図1(b)を詳しくしたものであり、転炉2の操業状況をミクロ視したもので、本実施形態における3基の転炉2でのチャージの順番を示したものである。
まず、第1の転炉2(転炉A)での吹錬が終了する前に、第2の転炉2(転炉B)での吹錬を開始するように設定し、第3の転炉2(転炉C)の吹錬開始を、第2の転炉2での吹錬が終了する前で、且つ第1の転炉2での前回吹錬終了〜次回吹錬開始の間に設定している。
【0031】
詳しくは、転炉Aでは、時間0minの前から溶銑装入が開始され、時間0minを過ぎたあたりで吹錬が開始される。吹錬は20min過ぎに終了し、その後、溶鋼の払い出しが行われ、30min過ぎに出鋼が完了する。
転炉Bでは、時間10minの前から溶銑装入が開始され、時間10minを過ぎたあたりで吹錬が開始される。吹錬は30min過ぎに終了し、その後、溶鋼の払い出しが行われ、40min過ぎに出鋼が完了する。図からわかるように、転炉Bでの吹錬の開始は転炉Aの吹錬途中であり、時間10min〜20minの間では、転炉A,Bの両者で吹錬が行われるものとなっている。
【0032】
転炉Cでは、時間20minの前から溶銑装入が開始され、時間25minあたりで吹錬が開始される。吹錬は45min過ぎに終了し、その後、溶鋼の払い出しが行われ、55min過ぎに出鋼が完了する。転炉Cでの吹錬の開始は転炉Bの吹錬途中であると共に、転炉Aでの吹錬終了後である。すなわち、吹錬が行われる順番はA0→B0→C0であり、図上で右斜め下がりの矢印上に並ぶものとなっている。
さらに、当該転炉Cでの吹錬が終了する前に、再び転炉Aへの溶銑装入が開始され、それに続いて吹錬が行われるようになる。その後同様に、転炉Aでの吹錬途中に、転炉Bでの吹錬が開始され、転炉Bの吹錬途中であって転炉Aの吹錬終了後に、転炉Cでの吹錬が開始されるようになっている。つまり、吹錬が行われる順番はA1→B1→C1であり、図上で右斜め下がりの矢印上に並ぶものとなる。
【0033】
このようにすることで、いかなるフェーズ(時間)においても、吹錬中の転炉2は2基であり、転炉周辺設備7の能力を超えるものとはなっていない。しかしながら、マクロ的に見ると、図1(a)の如く、3基が同時に稼働している3/3基稼働期間となっており、溶銑生産能力が著しく向上可能な状況となっている。図3においては、約35分間の間に3回の吹錬開始が含まれているため、本稼働状態の転炉設備1は、35分で3チャージ、すなわち1時間で5チャージの生産能力を有していることになる。
図3の吹錬A0を含むチャージに着目してみると、かかる吹錬A0の開始から、次チャージでの吹錬A1の開始との間には、転炉Bの吹錬開始と転炉Cの吹錬開始がそれぞれ1回ずつ存在することがわかる。このような状況下にあるチャージを「順次稼働している転炉」におけるチャージであると定義する。加えて、3基の転炉2による全チャージ数に対する、順次稼働している転炉のチャージ数を「順次稼働比率」と定義するようにする。
【0034】
この順次稼働比率が上がれば上がるほど、3基の転炉2が待ち時間なく稼働していることになり、理論上は溶銑生産能力が向上することになる。
しかしながら、現実には、前述した「転炉の補修」のための時間(期間)が必ず必要であり、転炉2の順次稼働比率が大きい場合、これらの補修時間を確保することが困難となり、溶鋼生産性が落ちるようになる。
本実施形態の場合は、溶鋼生産性のシミュレーション結果である図5のグラフIIから明らかなように、3基の転炉2の順次稼働比率を40%〜95%の間としている。より好ましくは50%〜90%の範囲とするとよく、順次稼働比率を75%とすることで生産性の最大値を得ることができるようになる。
【0035】
また、本実施形態では、かかる補修時間を確実に得るために、図6に示すように、A→B→Cと続いていた転炉2の稼働順番をC→B→Aと変えることで、転炉Aに補修を行うことのできる時間を作るようにしている。つまり、転炉Cを稼働した後、転炉Bを稼働させ、その後転炉Aを稼働させることで、転炉Aにおける1チャージ分の製鋼時間に近い時間を非稼働状態とでき、その期間を補修時間とするようにしている。
一方、転炉2の補修作業に関しては、補修の後すぐに転炉2を稼働させるのではなく、所定時間何もせず放置し、吹き付けた補修材が確実に内壁を補修するに必要な時間を確保することもある。これを静置時間という。加えて、通常の補修以上の修理を行うことがありそのための修理時間を必要とすることがある。
【0036】
これら静置時間や修理時間を転炉Bで確保するためには、図7に示すように、A→B→Cと続いていた転炉2の稼働順番を一旦、C→AとしてBをとばした形に変え、その後C→B→Aと逆順にすることで、転炉Bに補修、静置、修理の時間を確保するようにしている。
なお、以上述べた補修時間は、図9に示すように、T/4〜3Tの範囲内とすることで、補修効果を適切なものとしつつ、地金取り作業の時間増加を防ぐことができるようになる。より好ましくは、補修時間をT/4〜1.5Tとするとよい。
【0037】
以上述べた転炉2の操業方法は、1つの転炉2で脱りんと脱炭を行う、いわゆるダブルスラグ法を行っている転炉設備1にも適用可能である。
ダブルスラグ法とは、1つの転炉2において溶銑中のりんPを取る「脱りん工程」と炭素を取る「脱炭工程」とを行うものである。
脱りん工程は、転炉2の炉口からランスを挿入し、溶銑上面に近づけ、酸素ガスを吹き付けると同時に、炉底から吹き込みガスで溶銑を撹拌しつつ精錬(吹錬)を行う。同時に、石灰CaO等の造滓材や酸化鉄FexOy等の冷却材、すなわち副原料を投入することで、りんPは投入された酸素と反応してスラグ相に移行し、溶銑の上方に浮いた状態で積層するようになる。このスラグの中には未反応のCaOが多く含まれるため、脱りん能力を有するものとなっている。
【0038】
次に、脱りん工程により生成されたスラグを、転炉2を炉前側へ傾けることで、外部に排出するようにしている。排出されたスラグは、転炉2下方に配置された移送手段により運び出されるようになっている(排出工程)。
排出工程を経た転炉2は、再び元の姿勢に戻され、酸素吹き込みや副原料の投入をなされることで、主に溶銑中の炭素Cを取り除く脱炭工程へと進む。脱炭工程後は、転炉2を傾動させ、転炉2の上部側方に設けられた出鋼口より溶鋼を外へ流し出すようにしている。その際、脱炭工程で生成されたスラグを残すことも可能であり、次に精錬する溶銑を装入するようにする(次チャージの装入工程)。このようにすることで、脱りん能力が十分にあるスラグを前チャージスラグとしてリサイクルさせて有効利用し、廃棄スラグ量を減少することが可能である。
【0039】
図10は、ダブルスラグ法を行っている転炉A,Bに図3のチャージスケジュールを採用したものである。
ダブルスラグ法は通常の転炉2における吹錬工程と比して、約8分程度の処理時間延長(図10のEXT)を伴うのみであるため、転炉2をA→B→Cと順次稼働したとしても、例えば、転炉Aでの前回の出鋼終了と次回の溶銑装入とがほぼ同時刻になるのみで、両工程が重なることはない。
以上述べた転炉2の操業方法を適用した場合、3基の転炉2はフル稼働に近い状況となり、転炉2にスクラップ等を装入する装入クレーン4の能力が、転炉稼働のサイクルに追いつかない場合がある。そのような際は、転炉2にスクラップを装入することなく、全て高炉から搬送されてくる溶銑を用いて操業を行うようにするとよい。
【0040】
また、転炉2の操業においては、ランスが装入口から挿入できないなどの転炉周辺設備7の故障が発生することがある。そのような場合、その修理は、短時間(30分程度)で済むこともあれば比較的長い時間(例えば5時間以上)かかることもある。
そこで、転炉周辺設備7の修理時間が短時間である場合は、3/3基稼働とした上で、本実施形態で述べたように、チャージの順番を逆順とするなどして補修時間を確保し、この補修時間を転炉周辺設備7の修理時間として利用すると、溶鋼生産性の観点からは非常に有利である。
【0041】
一方、転炉周辺設備7の修理時間が5時間以上かかるような場合は、逆順などで修理時間を確保するよりは、修理に該当する転炉2を休止し、炉修の際と同じように2基の転炉2を稼働状態(2/3基稼働)とすると、溶鋼生産性の観点から有利である。転炉周辺設備7の修理時間を確保すべく、転炉2を3/3基稼働とするか2/3基稼働とするかの境としては、転炉2の再稼働時の昇温に必要な約3時間を採用し「修理時間=3時間」を境界値とすることが好ましい。
なお、本発明の転炉2への溶銑供給方法は、上記実施の形態に限定されるものではない。また、転炉2は上吹き転炉、底吹き転炉、又は上底吹き転炉のいずれであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明にかかる転炉操業の順番を示したものであり、(a)はマクロ的に見たもの、(b)はミクロ的に見たものである。
【図2】転炉のチャージの順番を示した図である。
【図3】転炉のチャージの順番を示した図である。
【図4】転炉の順次稼働比率と溶鋼生産性との関係のシミュレーション結果である。
【図5】転炉の順次稼働比率と溶鋼生産性との関係を示した図である。
【図6】転炉のチャージの順番を示した図である(逆順の場合)。
【図7】転炉のチャージの順番を示した図である(逆順、静置時間ありの場合)。
【図8】補修時間と補修効果ならびに地金取り時間との関係のシミュレーション結果である。
【図9】補修時間と補修効果ならびに地金取り時間との関係を示した図である。
【図10】ダブルスラグ法を使用した際における転炉のチャージの順番を示した図である。
【図11】従来及び本発明にかかる転炉設備の正面概略図である。
【図12】従来の転炉操業の順番を示したものであり、(a)はマクロ的に見たもの、(b)はミクロ的に見たものである。
【符号の説明】
【0043】
1 転炉設備
2 転炉
7 転炉周辺設備
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の転炉を効率的に使用する際における転炉の操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、転炉工程では、溶銑を転炉に装入し、副原料添加と酸素吹込みを行うことで脱りん・脱炭を行って、りん濃度や炭素濃度が所定の値となっている溶鋼を生産している。
図11は、従来からある転炉設備を示しているものであって、転炉と、これら転炉に溶銑を供給する取鍋と、この取鍋を搬送するクレーンとを有している。転炉に関しては、全部で3基あり、その中の2基を稼働させ、残るもう1基は休止状態としていた。
詳しくは、転炉には溶銑が装入されるためその内壁は常に高温にさらされており、内壁を構成する耐火レンガは徐々に溶損してゆく。つまり、転炉は、耐火レンガが溶け減って転炉自身の機能を失う炉体寿命をもっている。この寿命を超えて転炉を長期間に亘って稼働させることは不可能であり、転炉は、一定期間稼働した後、転炉内の耐火レンガを張り替えたりする大規模な修理、「炉修」が行われるものとなっている。前記休止中の1基の転炉は、かかる炉修作業中及びそれに続く休止状態中であった。
【0003】
図12は、図11の転炉設備における操業スケジュールを示したものであって、図12(a)には、3基の転炉A,B,Cに関して転炉稼働期間(すなわち転炉寿命)と炉修とのスケジュールが示されている。このスケジュールの如く、転炉寿命内にある2基の転炉では溶銑の精錬を行い、残りの1基の転炉で炉修を行って休業状態としていた。図中のPで示される部分のように、転炉Aと転炉Bとが稼働中であったとして、転炉Aの内壁に張りつけられている耐火レンガを張り替える時期が近づいたとする。そうした場合、転炉Aは炉修作業に入り、その代わりに、今まで休業中であった転炉Cを稼働状態とする。その後、転炉Aの炉修が終了したとしても、転炉Aをバックアップと考え、稼働状態とはせず休業状態のままとしていた。言い換えれば、使用している2基の転炉B,Cの内、1基が故障したり、炉修を行う必要が生じた場合に、その転炉B,Cの稼働を止めて現在休業中の転炉Aを再稼働するようにしていた。
【0004】
図12(b)には、2基の転炉B,Cが稼働している場合における、各転炉B,Cでのチャージ状況を示したものである。転炉のチャージとは、転炉に溶銑が装入され、装入された溶銑に対して吹錬が行われ、生産された溶鋼が排出される一連の工程をいい、この一連の作業の開始から終了までの時間を製鋼時間という。1回の転炉寿命内では約5000回のチャージが行われるのが通常である。図に示すように、必要に応じて、各チャージ間に転炉休止時間を設け、この時間を、転炉の内壁に耐火補修材を吹き付けるなどして簡易的ながら炉寿命を大幅に向上させる修理である「補修」を行う時間としている。
【0005】
転炉寿命を日数に直すと、大雑把ではあるが150日前後であり、炉修は約20日前後である。一方、転炉での1チャージ分の製鋼時間は約35分前後であり、転炉の補修は10分〜数時間を有するものである。このことを鑑みた上で、図12を要約すると、図12(a)は、転炉工程を日単位でマクロ的(巨視的)に見て、炉修期間と稼働期間とに分けたものであり、図12(b)は、転炉工程を時間単位でミクロ的(微視的)に見て、チャージと補修期間で分けたものとなっている。
以上のことから判るように、従来からの一般的な転炉設備においては、マクロ、ミクロいかなる観点からも、転炉は常に2基のみが稼働中であり、残り1基はバックアップとして休業状態にあることが普通である。したがって、転炉の周辺設備、例えば、排ガス処理設備や酸素供給設備は2基の転炉のみを吹錬させる能力しか有さないものとなっていた。
【0006】
このような転炉設備において、2基の転炉を効率よく稼働させることに関し、特許文献1や特許文献2の技術が既に開示されている。
特許文献1の技術は、1の転炉で脱りん精錬をした溶湯を受湯鍋に受け、この受湯鍋を作業床開口部を通して他の1の転炉に運搬し、ここで脱炭精錬を行なうものであって、脱燐精錬でのスラグの排さい時間等を少なくすると共に、脱燐精錬時間と脱炭精錬時間とを同程度にすることで、脱炭精錬炉の遊び時間を無くし全体として製鋼能率を向上するものである。換言すれば、1の転炉でのチャージ時間と他の転炉でのチャージ時間とを同程度にすることで、製鋼能率をあげる技術である。
【0007】
特許文献2の技術は、2基の転炉において、吹錬を開始する転炉の煙道のダンパーを開く動作と、吹錬を終了した転炉の煙道のダンパーを閉じる動作とを1段階のダンパー操作で同時並列的に行い、切替え時の停風時間を短縮させるものであって、転炉のチャージ切替時における煙道のダンパー操作方法に関するものである。
【特許文献1】特許第3486886号公報
【特許文献2】特開平6−65653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した転炉設備で、溶鋼生産能力を上げようと考えた場合、2基の転炉を稼働させることはもちろん、休業状態にあるもう1基の転炉を稼働させ、マクロ視で3基の転炉が同時に稼働している状況とするとよい。しかしながら、転炉周辺設備は、2基の転炉を稼働させる能力しかないため、単純に3基を同時に稼働することは不可能である。
この問題を解決するために、前述した特許文献1や特許文献2に着目したとしても、これらの技術は、転炉工程をミクロ視した上で2基の転炉稼働における効率アップを図るものであり、該技術を適用したとしても、マクロ視での転炉3基稼働を実現させ、溶鋼生産能力を大幅に向上させることは困難である。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、2基の転炉を吹錬させる能力しか備えていない転炉周辺設備を有する転炉設備で、3基の転炉の同時稼働状況を操業スケジュールに組み込むことのできる転炉の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明における課題解決のための技術的手段は、溶銑の吹錬を行う3基の転炉と、最大2基の転炉を吹錬可能とする能力を備えた転炉周辺設備とを有する転炉設備で、前記転炉周辺設備の能力を超えずに3基の転炉を操業すべく、各転炉のチャージの順番を、第1の転炉での吹錬が終了する前に、第2の転炉での吹錬を開始するように設定し、第3の転炉の吹錬開始を、第2の転炉での吹錬が終了する前で且つ第1の転炉での前回吹錬終了〜次回吹錬開始の間に設定していることを特徴とする。
【0011】
溶銑の吹錬を行う3基の転炉と、最大2基の転炉を吹錬可能とする能力を備えた転炉周辺設備とを有する転炉設備で、溶鋼生産能力を上げようと考えた場合、前述の如く、マクロ的に3基の転炉が略同時に稼働している状況(3/3基稼働)とするとよい。しかしながら、転炉周辺設備は2基の転炉を吹錬させる能力しかないため、単純に3基を同時に稼働することは不可能である。
そこで本願発明者は、様々な操業状況を検討した結果、図1(a)に示す如く、マクロ的には転炉が3基稼働している状況であるものの、図1(b)のように、ミクロ的には2基の転炉が吹錬しチャージが順次行われているようにすることで、転炉周辺設備の能力を超えることなく、大きく生産性を向上させることができるという技術思想を得るに至った。
【0012】
すなわち、図1(b)に示すように、転炉Aと転炉Bのチャージの順番を、転炉A(第1の転炉)での吹錬が終了する前に、転炉B(第2の転炉)での吹錬を開始するように設定することにより、両者が同時に吹錬を行う状況としている。さらに、転炉C(第3の転炉)の吹錬開始を、転炉Bでの吹錬が終了する前とすることで、転炉Bと転炉Cでも同時に吹錬を行わせている。加えて、転炉Cの吹錬開始を、転炉Aでの前回吹錬終了〜次回吹錬開始の間、換言すれば転炉Aが吹錬を行っていないときに設定しているため、転炉Aと転炉Cとが同時に吹錬する状況にはならず、全体として3基の転炉A,B,C が同時に吹錬状況となることはない。
【0013】
このような稼働状況とすることで、転炉周辺設備の能力を超えることなく、マクロ的に3基の転炉を休止期間無く同時に稼働させることができるようになり、大きく溶鋼生産性を向上させることができる。
なお、好ましくは、1の転炉の前回吹錬開始と次回吹錬開始との間に他の2つの転炉の吹錬開始がそれぞれ1回ずつ存在する状況を順次稼働状況とし、前記第1〜第3の転炉の少なくとも1つが該順次稼働状況を有するとよい。
加えて、前記順次稼働状況となっている転炉のチャージ数が、全チャージ数に占める割合を転炉の順次稼働比率とし、この転炉の順次稼働比率が40%〜95%となるように3基の転炉を操業するとよい。
【0014】
1の転炉の吹錬開始と吹錬終了との間に他の2つの転炉の吹錬開始が存在する状況を1の転炉が順次稼働状況であると定義すると共に、この順次稼働状況となっている転炉のチャージ数が、全チャージ数に占める割合を転炉の順次稼働比率とし、当該転炉の順次稼働比率を40%〜95%にするとよい。それは以下に述べる根拠に基づく。
すなわち、上記のように順次稼働比率を定義した上で、図1(b)を詳しく描いた図2、図3を見ると、順次稼働比率の高い状況は図2中のP部が対応し、転炉A,B,Cが順番に滞りなく吹錬を行っている。一方、Q部は順次稼働比率が低く、転炉Aなどは休止している時間が長いものとなっている。このことより考えて、順次稼働比率が大きくなる、すなわち転炉のチャージが順次続くことで、3基の転炉が待ち時間なくフル稼働していることになり、転炉設備の溶鋼生産性が非常によくなる。
【0015】
ところが、実際の転炉操業においては、転炉に対する地金取りや孔巻き、耐火物の補修などの補修作業が随時行われる。これらの作業は転炉の安定操業のためには必須であるものの、転炉の順次稼働比率が大きい場合、かかる補修作業を行う時間を確保することが困難となり逆に溶鋼生産性が落ちるようになる。
そこで本願出願人は、順次稼働比率を変化させた場合における溶銑生産性を変化をシミュレーションし、最適な順次稼働比率を求めるようにした。その結果が図4,図5に示されている。図4は計算結果であり、それを基にグラフ化したものが図5である。
【0016】
図5には、クレーンの能力により決定される転炉への溶銑供給時間が10分、15分、20分と3つの異なる条件下で、順次稼働比率を毎々変化させたときの溶鋼生産性の変化が記載されている。なお、各条件での製鋼時間は35分、35分、40分である。
図の横軸は転炉の順次稼働比率であり、縦軸は溶鋼生産性を示したもので1時間あたりのチャージ数であって、溶銑供給時間が10分の結果がグラフI、15分がグラフII、20分がグラフIIIである。溶銑供給時間が短いということは、クレーンの溶銑供給能力が大きく転炉の処理能力に対して多くの溶銑を供給できることを意味し、グラフIの傾きが最も大きいものとなっている。
【0017】
グラフIIは、通常のクレーン能力を有する場合の計算結果であり、そのグラフで溶鋼生産性が最大値をとるのは、順次稼働比率が75%の時である。本願発明者は、かかる最大値の略95%を常に確保するようにすると、転炉操業全体に亘って溶鋼生産性が非常によくなるものとなると考え、転炉の順次稼働比率を40%〜95%とした。なお、より好ましくは、50%〜90%の範囲とするとよい。
なお、グラフIIIで示される状況は、転炉自体の処理能力に対してクレーンの溶銑供給能力が小さい場合であり、この場合、順次稼働比率を上げたとしても溶銑生産性は向上しないばかりか逆に低下する結果となっている。
【0018】
グラフIは、クレーンの供給能力が非常に大きい場合である。クレーンの溶銑供給能力は、通常、転炉2基の稼働に合わせて設計されているため、本ケースのようになることはまれではあるが、この場合でも、順次稼働比率を40%〜95%に保てば溶鋼生産性を高位に保つことが可能である。
また、本発明における課題解決のための技術的手段は、前記転炉の内壁に対する簡易的な修理である「補修」を行うに必要とされる補修時間を確保すべく、第1→第2→第3としていた転炉の操業順序を逆順にすることを特徴とする。
【0019】
前述した如く、転炉の補修作業は転炉操業に必要不可欠なものであり、かかる補修を行う時間である補修期間を、3基の転炉の各チャージ間にうまく確保することで、溶鋼生産性を下げることなく、補修を行うことができるようになる。
図6には、第1→第2→第3としていた3基の転炉のチャージ順序を逆にすることで、転炉A(第1の転炉)で補修期間を確保した様子が示されている。
つまり、転炉Aでの吹錬が終了する前に、転炉B(第2の転炉)での吹錬を開始するようにしており、転炉C(第3の転炉)の吹錬開始を、転炉Bの吹錬が終了する前で、且つ転炉Aの吹錬終了後としている。
【0020】
ここで、転炉Aで補修作業を行う必要が生じた場合(図6のP)、転炉Cのチャージ後に、転炉Aではなく転炉Bのチャージを行い、転炉Bの吹錬が終了する前に、転炉Aの吹錬を開始するようにする。(C0→B1→A1)。その後は、転炉C、転炉B、転炉Aと逆順で3基の転炉のチャージを行う(C1→B2→A2、すなわち、第3→第2→第1)。
このようにすることで、吹錬A0からA1間での間に、転炉Aの長い休止時間を確保することができるようになり、この休止時間を補修期間とすることで、3基の転炉の順次稼働を行い且つ補修を行ったとしても、溶鋼生産性を高いままでキープ可能である。
【0021】
なお、前記補修時間を、T/4〜3Tの範囲内(Tは製鋼時間)とすることは非常に好ましい。以下、その理由を説明する。
図8,図9には、補修時間が約5〜600分まで変化した場合における、転炉寿命の延長の度合い(補修効果)と、地金取りにかかる時間とをシミュレーションした結果が示されている。図8は計算結果であり、それをグラフ化したものが図9である。全ての計算において、製鋼時間は35分であり、クレーンでの溶銑供給時間は15分である。
図9の横軸は製鋼時間Tで換算された補修時間であり、縦軸には補修効果ならびに地金取り時間が示されている。
【0022】
図中のグラフIは、補修効果の変化を示したものであり、補修時間を長くすることで、補修作業を確実に行うことができて1回の補修で延びるチャージ数が多くなることが示されている。補修時間を約0.25T(T/4)まで長くすると、転炉寿命が約3チャージ延長する。その一方、補修時間を約0.4T以上とすると、補修効果=5.0チャージでそれ以上は増えなくなる。
グラフIIは、地金取りにかかる時間の変化を示したものである。補修時間が3T以下では、地金取り時間はゼロであり、補修時間が3T以上になると、地金取り時間が発生するようになる。このことは、補修時間が長くなることで転炉自体の温度が降下し、転炉の装入口に地金等が付着する可能性が大きくなることを反映している。ゆえに、補修時間を極端に長くすることは得策ではなく、グラフIIからわかるように、補修時間を3T以下とすれば、地金取り作業の作業時間をなしとすることができる。
【0023】
これらのことを鑑み、補修時間をT/4〜3Tの範囲内とすることで、補修効果を適切なものとしつつ、地金取り作業の時間増加を防ぐことができるようになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、2基の転炉を吹錬させる能力しか備えていない転炉周辺設備を有する転炉設備で、3基の転炉を効率的に稼働させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明にかかる転炉への溶銑供給方法の実施形態を、図を基に説明する。
本実施形態の転炉設備1は、図11に示される従来例とほぼ同一であり、3基の転炉2と、これら転炉2に溶銑を供給する取鍋3と、この取鍋3を搬送する2基のクレーン4とを有している。さらに、3基の転炉2のそれぞれには、吹錬で発生した排ガスを集煙して有害物質を除去したり一酸化炭素を回収したりする排ガス処理設備5が備えられていると共に、各転炉2に酸素を供給したりする酸素供給設備6が設けられている。この酸素供給設備6は、転炉1基が吹錬に使用する酸素量の2倍を供給できるものであると共に、排ガス処理設備5は、2基の転炉1から排出されるCOガスなどを回収する能力を有している。つまり、排ガス処理設備5や酸素供給設備6から構成される転炉周辺設備7は、2基の転炉2で同時に吹錬を行わせる能力を有するものとなっており、3基の転炉2での同時吹錬は不可能なものとなっている。
【0026】
本願発明は、図1〜図3に示す如く、かかる転炉設備1において、操業工程を日単位で見ることをマクロ的、時間単位で見ることをミクロ的と定義した上で、マクロ的には転炉2が3基稼働している状況であるものの、ミクロ的には2基の転炉2が吹錬し、チャージが順次行われているようにすることで、転炉周辺設備7の能力を超えることなく、大きく生産性を向上させようとするものである。
前記転炉設備1での各工程を詳しく説明すると、まず、取鍋3に入った溶銑はクレーン4により搬送され、転炉2に装入される。具体的には、転炉2を傾動し、炉内にスクラップ等を装入した上で溶銑を流し入れるようにする。
【0027】
その後、溶銑中のりんPを主に取り除くと共に炭素Cを適切なものとするために、転炉2の炉口からランス(図示せず)を挿入し、溶銑上面に近づけ、酸素ガスを吹き付けると同時に、炉底から吹き込みガスで溶銑を撹拌しつつ吹錬(精錬)を開始する。同時に、石灰CaO等の造滓材や酸化鉄FexOy等の冷却材、すなわち副原料を投入することで、りんPは投入された酸素と反応してスラグ相に移行し、溶銑の上方に浮いた状態で積層するようになる。
このように、転炉2に溶銑が装入され、この溶銑が吹錬されることで成分調整された溶鋼となり、この溶鋼が転炉2から排出される一連の工程を「チャージ」といい、1チャージ分の製鋼時間は約35分程度である。
【0028】
一方、転炉2の内壁は溶銑により常に高温にさらされていて、内壁を構成する耐火レンガは徐々に溶け減ってゆく。ゆえに、転炉2は、耐火レンガが溶け減って転炉自身の機能を失う「寿命」をもっている。この寿命を超えて転炉2を長期間に亘って稼働させることは不可能であるため、図1(a)に示すように、転炉2では、一定期間稼働した後、転炉2内の耐火レンガを張り替えたりする大規模な修理、「炉修」が行われるものとなっている。転炉2の寿命を日数に直すと、大雑把ではあるが150日前後であり、炉修は約20日前後である。また、1回の転炉寿命内では約5000回のチャージが行われるのが通常である。
【0029】
加えて、通常の転炉操業においては、転炉2に対する地金取りや孔巻き、耐火物の補修などの補修作業が随時行われ、これらの作業は転炉2の安定操業のためには必須である。
ここでいう地金取り作業とは、転炉2の溶銑装入口近傍にスロッピング等により溶銑が固着し地金となっており、この地金を除去する作業である。約10チャージに1回程度行われるもので約30分程度の時間を有する。
孔巻き作業とは、転炉2の出銑口の耐火レンガが溶鋼により徐々に劣化していくため、所定間隔で、かかる耐火レンガを取り替える作業である。孔巻き作業は約100チャージに1回行われるものであり、約60分の作業時間を必要とする。
【0030】
耐火レンガ(耐火物)の補修は、転炉2の内壁に耐火補修材を吹き付けるなどして簡易的ながら炉寿命を大幅に向上させる修理であって、約10チャージ毎に行われ、1回の補修に約30分の時間を必要とする。
図2,図3は、図1(b)を詳しくしたものであり、転炉2の操業状況をミクロ視したもので、本実施形態における3基の転炉2でのチャージの順番を示したものである。
まず、第1の転炉2(転炉A)での吹錬が終了する前に、第2の転炉2(転炉B)での吹錬を開始するように設定し、第3の転炉2(転炉C)の吹錬開始を、第2の転炉2での吹錬が終了する前で、且つ第1の転炉2での前回吹錬終了〜次回吹錬開始の間に設定している。
【0031】
詳しくは、転炉Aでは、時間0minの前から溶銑装入が開始され、時間0minを過ぎたあたりで吹錬が開始される。吹錬は20min過ぎに終了し、その後、溶鋼の払い出しが行われ、30min過ぎに出鋼が完了する。
転炉Bでは、時間10minの前から溶銑装入が開始され、時間10minを過ぎたあたりで吹錬が開始される。吹錬は30min過ぎに終了し、その後、溶鋼の払い出しが行われ、40min過ぎに出鋼が完了する。図からわかるように、転炉Bでの吹錬の開始は転炉Aの吹錬途中であり、時間10min〜20minの間では、転炉A,Bの両者で吹錬が行われるものとなっている。
【0032】
転炉Cでは、時間20minの前から溶銑装入が開始され、時間25minあたりで吹錬が開始される。吹錬は45min過ぎに終了し、その後、溶鋼の払い出しが行われ、55min過ぎに出鋼が完了する。転炉Cでの吹錬の開始は転炉Bの吹錬途中であると共に、転炉Aでの吹錬終了後である。すなわち、吹錬が行われる順番はA0→B0→C0であり、図上で右斜め下がりの矢印上に並ぶものとなっている。
さらに、当該転炉Cでの吹錬が終了する前に、再び転炉Aへの溶銑装入が開始され、それに続いて吹錬が行われるようになる。その後同様に、転炉Aでの吹錬途中に、転炉Bでの吹錬が開始され、転炉Bの吹錬途中であって転炉Aの吹錬終了後に、転炉Cでの吹錬が開始されるようになっている。つまり、吹錬が行われる順番はA1→B1→C1であり、図上で右斜め下がりの矢印上に並ぶものとなる。
【0033】
このようにすることで、いかなるフェーズ(時間)においても、吹錬中の転炉2は2基であり、転炉周辺設備7の能力を超えるものとはなっていない。しかしながら、マクロ的に見ると、図1(a)の如く、3基が同時に稼働している3/3基稼働期間となっており、溶銑生産能力が著しく向上可能な状況となっている。図3においては、約35分間の間に3回の吹錬開始が含まれているため、本稼働状態の転炉設備1は、35分で3チャージ、すなわち1時間で5チャージの生産能力を有していることになる。
図3の吹錬A0を含むチャージに着目してみると、かかる吹錬A0の開始から、次チャージでの吹錬A1の開始との間には、転炉Bの吹錬開始と転炉Cの吹錬開始がそれぞれ1回ずつ存在することがわかる。このような状況下にあるチャージを「順次稼働している転炉」におけるチャージであると定義する。加えて、3基の転炉2による全チャージ数に対する、順次稼働している転炉のチャージ数を「順次稼働比率」と定義するようにする。
【0034】
この順次稼働比率が上がれば上がるほど、3基の転炉2が待ち時間なく稼働していることになり、理論上は溶銑生産能力が向上することになる。
しかしながら、現実には、前述した「転炉の補修」のための時間(期間)が必ず必要であり、転炉2の順次稼働比率が大きい場合、これらの補修時間を確保することが困難となり、溶鋼生産性が落ちるようになる。
本実施形態の場合は、溶鋼生産性のシミュレーション結果である図5のグラフIIから明らかなように、3基の転炉2の順次稼働比率を40%〜95%の間としている。より好ましくは50%〜90%の範囲とするとよく、順次稼働比率を75%とすることで生産性の最大値を得ることができるようになる。
【0035】
また、本実施形態では、かかる補修時間を確実に得るために、図6に示すように、A→B→Cと続いていた転炉2の稼働順番をC→B→Aと変えることで、転炉Aに補修を行うことのできる時間を作るようにしている。つまり、転炉Cを稼働した後、転炉Bを稼働させ、その後転炉Aを稼働させることで、転炉Aにおける1チャージ分の製鋼時間に近い時間を非稼働状態とでき、その期間を補修時間とするようにしている。
一方、転炉2の補修作業に関しては、補修の後すぐに転炉2を稼働させるのではなく、所定時間何もせず放置し、吹き付けた補修材が確実に内壁を補修するに必要な時間を確保することもある。これを静置時間という。加えて、通常の補修以上の修理を行うことがありそのための修理時間を必要とすることがある。
【0036】
これら静置時間や修理時間を転炉Bで確保するためには、図7に示すように、A→B→Cと続いていた転炉2の稼働順番を一旦、C→AとしてBをとばした形に変え、その後C→B→Aと逆順にすることで、転炉Bに補修、静置、修理の時間を確保するようにしている。
なお、以上述べた補修時間は、図9に示すように、T/4〜3Tの範囲内とすることで、補修効果を適切なものとしつつ、地金取り作業の時間増加を防ぐことができるようになる。より好ましくは、補修時間をT/4〜1.5Tとするとよい。
【0037】
以上述べた転炉2の操業方法は、1つの転炉2で脱りんと脱炭を行う、いわゆるダブルスラグ法を行っている転炉設備1にも適用可能である。
ダブルスラグ法とは、1つの転炉2において溶銑中のりんPを取る「脱りん工程」と炭素を取る「脱炭工程」とを行うものである。
脱りん工程は、転炉2の炉口からランスを挿入し、溶銑上面に近づけ、酸素ガスを吹き付けると同時に、炉底から吹き込みガスで溶銑を撹拌しつつ精錬(吹錬)を行う。同時に、石灰CaO等の造滓材や酸化鉄FexOy等の冷却材、すなわち副原料を投入することで、りんPは投入された酸素と反応してスラグ相に移行し、溶銑の上方に浮いた状態で積層するようになる。このスラグの中には未反応のCaOが多く含まれるため、脱りん能力を有するものとなっている。
【0038】
次に、脱りん工程により生成されたスラグを、転炉2を炉前側へ傾けることで、外部に排出するようにしている。排出されたスラグは、転炉2下方に配置された移送手段により運び出されるようになっている(排出工程)。
排出工程を経た転炉2は、再び元の姿勢に戻され、酸素吹き込みや副原料の投入をなされることで、主に溶銑中の炭素Cを取り除く脱炭工程へと進む。脱炭工程後は、転炉2を傾動させ、転炉2の上部側方に設けられた出鋼口より溶鋼を外へ流し出すようにしている。その際、脱炭工程で生成されたスラグを残すことも可能であり、次に精錬する溶銑を装入するようにする(次チャージの装入工程)。このようにすることで、脱りん能力が十分にあるスラグを前チャージスラグとしてリサイクルさせて有効利用し、廃棄スラグ量を減少することが可能である。
【0039】
図10は、ダブルスラグ法を行っている転炉A,Bに図3のチャージスケジュールを採用したものである。
ダブルスラグ法は通常の転炉2における吹錬工程と比して、約8分程度の処理時間延長(図10のEXT)を伴うのみであるため、転炉2をA→B→Cと順次稼働したとしても、例えば、転炉Aでの前回の出鋼終了と次回の溶銑装入とがほぼ同時刻になるのみで、両工程が重なることはない。
以上述べた転炉2の操業方法を適用した場合、3基の転炉2はフル稼働に近い状況となり、転炉2にスクラップ等を装入する装入クレーン4の能力が、転炉稼働のサイクルに追いつかない場合がある。そのような際は、転炉2にスクラップを装入することなく、全て高炉から搬送されてくる溶銑を用いて操業を行うようにするとよい。
【0040】
また、転炉2の操業においては、ランスが装入口から挿入できないなどの転炉周辺設備7の故障が発生することがある。そのような場合、その修理は、短時間(30分程度)で済むこともあれば比較的長い時間(例えば5時間以上)かかることもある。
そこで、転炉周辺設備7の修理時間が短時間である場合は、3/3基稼働とした上で、本実施形態で述べたように、チャージの順番を逆順とするなどして補修時間を確保し、この補修時間を転炉周辺設備7の修理時間として利用すると、溶鋼生産性の観点からは非常に有利である。
【0041】
一方、転炉周辺設備7の修理時間が5時間以上かかるような場合は、逆順などで修理時間を確保するよりは、修理に該当する転炉2を休止し、炉修の際と同じように2基の転炉2を稼働状態(2/3基稼働)とすると、溶鋼生産性の観点から有利である。転炉周辺設備7の修理時間を確保すべく、転炉2を3/3基稼働とするか2/3基稼働とするかの境としては、転炉2の再稼働時の昇温に必要な約3時間を採用し「修理時間=3時間」を境界値とすることが好ましい。
なお、本発明の転炉2への溶銑供給方法は、上記実施の形態に限定されるものではない。また、転炉2は上吹き転炉、底吹き転炉、又は上底吹き転炉のいずれであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明にかかる転炉操業の順番を示したものであり、(a)はマクロ的に見たもの、(b)はミクロ的に見たものである。
【図2】転炉のチャージの順番を示した図である。
【図3】転炉のチャージの順番を示した図である。
【図4】転炉の順次稼働比率と溶鋼生産性との関係のシミュレーション結果である。
【図5】転炉の順次稼働比率と溶鋼生産性との関係を示した図である。
【図6】転炉のチャージの順番を示した図である(逆順の場合)。
【図7】転炉のチャージの順番を示した図である(逆順、静置時間ありの場合)。
【図8】補修時間と補修効果ならびに地金取り時間との関係のシミュレーション結果である。
【図9】補修時間と補修効果ならびに地金取り時間との関係を示した図である。
【図10】ダブルスラグ法を使用した際における転炉のチャージの順番を示した図である。
【図11】従来及び本発明にかかる転炉設備の正面概略図である。
【図12】従来の転炉操業の順番を示したものであり、(a)はマクロ的に見たもの、(b)はミクロ的に見たものである。
【符号の説明】
【0043】
1 転炉設備
2 転炉
7 転炉周辺設備
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑の吹錬を行う3基の転炉と、最大2基の転炉を吹錬可能とする能力を備えた転炉周辺設備とを有する転炉設備で、
前記転炉周辺設備の能力を超えずに3基の転炉を操業すべく、各転炉のチャージの順番を、第1の転炉での吹錬が終了する前に、第2の転炉での吹錬を開始するように設定し、第3の転炉の吹錬開始を、第2の転炉での吹錬が終了する前で且つ第1の転炉での前回吹錬終了〜次回吹錬開始の間に設定していることを特徴とする転炉の操業方法。
【請求項2】
1の転炉の前回吹錬開始と次回吹錬開始との間に他の2つの転炉の吹錬開始がそれぞれ1回ずつ存在する状況を順次稼働状況とし、前記第1〜第3の転炉の少なくとも1つが該順次稼働状況を有することを特徴とする請求項1に記載の転炉の操業方法。
【請求項3】
前記順次稼働状況となっている転炉のチャージ数が、全チャージ数に占める割合を転炉の順次稼働比率とし、この転炉の順次稼働比率が40%〜95%となるように3基の転炉を操業することを特徴とする請求項2に記載の転炉の操業方法。
【請求項4】
前記転炉の内壁に対する簡易的な修理である「補修」を行うに必要とされる補修時間を確保すべく、第1→第2→第3としていた転炉の操業順序を逆順にすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転炉の操業方法。
【請求項5】
前記補修時間を、T/4〜3Tの範囲内(Tは製鋼時間)としていることを特徴とする請求項4に記載の転炉の操業方法。
【請求項1】
溶銑の吹錬を行う3基の転炉と、最大2基の転炉を吹錬可能とする能力を備えた転炉周辺設備とを有する転炉設備で、
前記転炉周辺設備の能力を超えずに3基の転炉を操業すべく、各転炉のチャージの順番を、第1の転炉での吹錬が終了する前に、第2の転炉での吹錬を開始するように設定し、第3の転炉の吹錬開始を、第2の転炉での吹錬が終了する前で且つ第1の転炉での前回吹錬終了〜次回吹錬開始の間に設定していることを特徴とする転炉の操業方法。
【請求項2】
1の転炉の前回吹錬開始と次回吹錬開始との間に他の2つの転炉の吹錬開始がそれぞれ1回ずつ存在する状況を順次稼働状況とし、前記第1〜第3の転炉の少なくとも1つが該順次稼働状況を有することを特徴とする請求項1に記載の転炉の操業方法。
【請求項3】
前記順次稼働状況となっている転炉のチャージ数が、全チャージ数に占める割合を転炉の順次稼働比率とし、この転炉の順次稼働比率が40%〜95%となるように3基の転炉を操業することを特徴とする請求項2に記載の転炉の操業方法。
【請求項4】
前記転炉の内壁に対する簡易的な修理である「補修」を行うに必要とされる補修時間を確保すべく、第1→第2→第3としていた転炉の操業順序を逆順にすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転炉の操業方法。
【請求項5】
前記補修時間を、T/4〜3Tの範囲内(Tは製鋼時間)としていることを特徴とする請求項4に記載の転炉の操業方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−117972(P2006−117972A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304862(P2004−304862)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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