転移基で修飾された基質の製造方法
【課題】糖鎖などの転移基で修飾された基質(タンパク質など)を製造するための新規な方法を提供すること。
【解決手段】転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスの存在下において、基質に転移基を含む物質を接触させることを含む、転移基で修飾された基質の製造方法。特に、転移酵素がスルホトランスフェラーゼ又はグリコシルトランスフェラーゼであり、転移基が硫酸基又はグリコシル基である方法。
【解決手段】転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスの存在下において、基質に転移基を含む物質を接触させることを含む、転移基で修飾された基質の製造方法。特に、転移酵素がスルホトランスフェラーゼ又はグリコシルトランスフェラーゼであり、転移基が硫酸基又はグリコシル基である方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスを用いて、転移基で修飾された基質を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに糖鎖合成の方法は大きく分けて化学的手法と酵素的手法の2つがとられている。このうち化学的手法は1つの糖鎖の合成に多段階の反応が必要であり、また糖をつないでいるグルコシル結合のα、βの立体配置をコントロールすることが困難である。これらのことからあらゆる糖鎖を自動的に合成できる手法はまだ確立されていない。一方、酵素的手法では糖転移酵素を利用する方法が多く用いられている。それは糖転移酵素が、化学的手法では数段階の工程が必要な反応を1つの酵素が触媒することが多いためである。また糖転移酵素が形成するグリコシル結合は立体選択的であるため、目的とするグルコシル結合を形成することを可能にしている。さらに糖転移酵素は糖ヌクレオチドなどの糖供与体と受容体に対して特異性があるため、設計したとおりに糖鎖を合成することが理論的には可能である。しかしながら糖転移酵素のこの高い特異性は、各糖転移反応を触媒する適切な糖転移酵素を必要とすることでもある。さらに活性を保持した糖転移酵素を大量に精製し、活性を安定に保持することが困難であることが、酵素的手法を用いる糖鎖合成を困難にしている。
【0003】
硫酸化修飾は多くの膜タンパク質や分泌タンパク質に対しておこる翻訳後修飾と考えられている。翻訳後修飾においてチロシン残基を硫酸化する酵素は硫酸基転移酵素tyrosylprotein sulfotransferase (TPST) 1または2の2種類しか発見されておらず、どちらかの酵素によって触媒されているため、糖鎖合成ほど困難ではない。しかしながら硫酸化修飾自体あまり解析されていないためTPST 1およびTPST2の特異性などはわかっておらず、TPSTを精製してペプチドやタンパク質に付加することはほとんど行われていない。さらに硫酸化修飾される可能性のあるチロシン残基はO型糖鎖修飾されうるセリンスレオニン残基の近くに存在することが多いが、硫酸化修飾と糖鎖修飾の関係性はまったく分かっていない。
【0004】
一方、バキュロウイルス発現系はバキュロウイルスの高発現蛋白質、特には多角体蛋白質(polyhedrin)遺伝子のプロモーターなどを利用して、目的遺伝子を昆虫細胞(Sf9細胞など)で組換えを起こさせて、大量に発現させる系である。多角体遺伝子に組換えタンパク質を導入しタンパク質を発現させるバキュロウイルスの発現系は、大腸菌やイースト菌を用いる発現系に比べ、膜蛋白質などの疎水性領域を多く持つ蛋白質でも発現タンパク質が凝集を作りにくく、また糖鎖の付加や金属イオンの配位などタンパクの機能に必要な翻訳後修飾がはいるなど利点が多いため膜受容体蛋白質の発現系として多用されている。特許文献1には、膜結合型酵素などの蛋白質をコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養することにより該蛋白質を発現させる方法において、該宿主から放出される発芽バキュロウイルス中に該蛋白質を発現させる方法が記載されている。また、特許文献2には、相互作用蛋白質をコードする遺伝子及び該相互作用蛋白質と相互作用して機能する膜型受容体蛋白質をコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養し、該宿主から放出される発芽バキュロウイルス中に該相互作用蛋白質と該膜型受容体蛋白質とを同時発現させることを含む、機能を有する膜型受容体蛋白質を発現する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−333773号公報
【特許文献2】特開2003−52370
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、糖鎖などの転移基で修飾された基質(タンパク質、糖など)を製造するための新規な方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスの存在下において基質に、転移基を含む物質を接触させることによって、転移基で修飾された基質を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスの存在下において基質に、転移基を含む物質を接触させることを含む、転移基で修飾された基質の製造方法。
(2) 転移酵素が、スルホトランスフェラーゼ又はグリコシルトランスフェラーゼであり、転移基が硫酸基又はグリコシル基である、(1)に記載の方法。
(3) 基質がタンパク質である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 転移酵素をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養し、該宿主から放出される発芽バキュロウイルスを回収することによって得られる発芽バキュロウイルスを、上記転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスとして使用する、(1)から(3)の何れかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、糖鎖などの転移基で修飾された基質(タンパク質など)を簡便かつ効率的に製造することが可能である。本発明の方法によりペプチドを翻訳後修飾し、機能の高いペプチドを製造することが可能である。本発明の方法により製造されるペプチドは、実験試薬、検査試薬、ワクチン、医薬品などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ウエスタンブロット法による発芽型ウイルス上の発現したT7-TPST2の確認を示す。
【図2】図2は、ウエスタンブロット法による発芽型ウイルス上の発現したV5-ppGalNAcT1の確認を示す。
【図3】図3は、ウエスタンブロット法による発芽型ウイルス上に共発現したV5-ppGalNAcT1およびHA-C1GalT1の確認を示す。
【図4】図4は、フローサイトメトリー解析による抗硫酸化CCR5抗体C1324の解析を示す。
【図5】図5は、ドットブロット法による硫酸基転移反応の解析を示す。
【図6】図6は、逆相クロマトグラフィーによるN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)転移ペプチドの分離を示す。
【図7】図7は、MALDI-TOF MSによる標準ペプチドの測定を示す。
【図8】図8は、LC-MS/MSによる図6における逆相クロマトグラフィーのフラクションの解析(ベースピークイオンクロマトグラム)を示す。
【図9】図9は、図8における各ピークのLC-MS/MSスペクトル解析を示す。
【図10】図10は、逆相クロマトグラフィーによるN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)およびガラクトース(Gal)転移ベプチドの分離を示す。
【図11】図11は、LC-MS/MSによる図10における逆相クロマトグラフィーのフラクションの解析(ベースピークイオンクロマトグラム)を示す。
【図12】図12は、図10における各フラクションのLC-MSスペクトル解析を示す。
【図13】図13は、図12における各ピークのLC-MS/MSスペクトル解析を示す。
【図14】図14は、発芽バキュロウイルス上へのHA-C1GalT1、HA-C1GalT1とT7-Cosmcの共発現をウエスタンブロットにより確認した結果を示す。
【図15】図15は、T7-Cosmcの共発現の有無による、HA-C1GalT1を発現した発芽バキュロウイルスのガラクトース転移反応効率を逆相クロマトグラフィーにより解析した結果を示す。
【図16】図16は、発芽バキュロウイルス上へのHis-ST3GalI発現をウエスタンブロットにより確認した結果を示す。
【図17】図17は、発芽バキュロウイルス上へのmyc-ST6GalNAcI発現をウエスタンブロットにより確認した結果を示す。
【図18】図18は、発芽バキュロウイルス上へのmyc-ST6GalNAcIII発現をウエスタンブロットにより確認した結果を示す。
【図19】図19は、糖転移酵素を発現した発芽バキュロウイルスによるシアル酸付加糖鎖修飾ペプチドの合成反応の手順を示す。
【図20】図20は、逆相クラマトグラフィーによる合成したシアル酸付加糖鎖修飾ペプチド生成物の評価の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明による転移基で修飾された基質の製造方法は、転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスの存在下において基質に、転移基を含む物質を接触させることを特徴とする。
【0012】
本発明で用いる転移酵素の種類は特に限定されず、例えば、(1)メチル基・カルボキシル基転移酵素(メチルトランスフェラーゼ・カルボキシルトランスフェラーゼ)、(2)アルデヒド基・ケト基転移酵素(トランスアルドラーゼ)、(3)アシル基転移酵素(アシルトランスフェラーゼ)、(4)グリコシル基転移酵素(グリコシルトランスフェラーゼ)、(5)アルキル基転移酵素、(6)アミノ基転移酵素(アミノトランスフェラーゼ)、(7)リン酸基転移酵素(ホスホトランスフェラーゼ)、及び(8)硫酸基転移酵素(スルホトランスフェラーゼ)などを使用することができる。上記の中でも、特にスルホトランスフェラーゼ又はグリコシルトランスフェラーゼが好ましい。転移酵素は、得たい生成物に応じ、転移基、ドナー基質、アクセプター基質、基質の修飾位置等に特異的な酵素を適宜選択することができる。
【0013】
グリコシルトランスフェラーゼとしては、ガラクトース転移酵素、N-アセチルガラクトサミン転移酵素、グルコース転移酵素、N-アセチルグルコサミン転移酵素、シアル酸転移酵素、フコース転移酵素、マンノース転移酵素、キシロース転移酵素、グルクロン酸転移酵素、コンドロイチン合成酵素、ヘパラン硫酸ポリメラーゼなどを挙げることができる。
【0014】
本発明で用いる基質としては、タンパク質、ペプチド、DNA、糖、脂質などを挙げることができるが、好ましくはタンパク質または糖である。本発明で用いる基質がタンパク質である場合、該タンパク質は、化学合成したタンパク質でもよいし、遺伝子組み換え技術により作製した組み換えタンパク質でもよい。
本発明では、適宜選択した転移酵素、ドナー基質、アクセプター基質を用いることにより、所望の転移基で修飾された基質を製造することができる。基質を修飾する転移基は1でも良いし、2以上でも良い。また、基質を修飾する転移基をさらに転移基により修飾することもできる。例えば、O−結合型糖鎖のうちムチン型糖鎖を合成する場合には、はじめにセリンまたはスレオニンを含むペプチドにUDP-GalNAc:polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferase(Polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferase 1;ppGalNAcT1)を発現した発芽型バキュロウイルス、および基質となるUDP-N-アセチルガラクトサミン(UDP-GalNAc)を加え、GalNAca1−O−Ser/Thr構造を作製し、ムチン型糖鎖の合成を開始する。次に、ムチン型糖鎖はN-アセチルガラクトサミンの次に結合する糖残基によりコア1からコア8までのタイプに分類されているが、例えばコア1構造(Galb1−3GalNAca1−O−Ser/Thr)を作製するには、そこにcore1 UDP-galactose : N-acetylgalactosamine-a-R b 1,3-galactosyltransferase 1(Core1 β-1,3-galactosyltransferase 1;C1GalT1)を発現した発芽型バキュロウイルスおよびUDP-ガラクトース(UDP-Gal)を加えれば合成でき、コア3構造(GlcNAcb1−3GalNAca1−O−Ser/Thr)を作製するには、UDP-GlcNAc : bGal b 1,3-N-acetylglucosaminyltransferase 6を発現した発芽型バキュロウイルスおよびUDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)を加えれば合成できる。GalNAca1−O−Ser/Thr構造にα-N-acetylgalactosaminide α-2,6-sialyltransferase 1(ST6GalNAc I)を発現した発芽バキュロウイルス、および糖基質となるCMP-N-アセチルノイラミン酸(CMP-NeuNAc)を加えればNeuNAcα2−6GalNAca1−O−Ser/Thrを作製できる。さらに、コア1型構造にβ-galactoside α-2,3-sialyltransferase 1(ST3Gal I)を発現した発芽バキュロウイルスおよびCMP- N-アセチルノイラミン酸を加えれば、シアル酸が1つ付加されたNeuNAcα2−3Galb1−3GalNAca1−O−Ser/Thr(2, 3 sialyl-T antigen)を作製することができ、ここにさらにα-N-acetylgalactosaminide α-2,6-sialyltransferase 3(ST6GalNAc III)を発現した発芽バキュロウイルスおよびCMP- N-アセチルノイラミン酸を加えれば、シアル酸が2つ付加されたNeuNAcα2−3Galb1−3(NeuNAcα2−6)GalNAca1−O−Ser/Thr(disialyl-T antigen)を作製することができる。
目的の反応が完了した後に、発芽バキュロウイルスは反応系に残しても良いが、遠心分離、ろ過等の公知の方法により反応系から取り除くことも容易に行うことができる。
【0015】
O−結合型糖鎖のうちプロテオグリカンを合成する場合には、はじめにプロテオグリカンに共通した4糖構造GlcAb1−3Galb1−3Galb1−4Xylb1−O−Serを合成する。そのためにはセリンを含むペプチドにxylosyltransferase 1、b 1,4-galactosyltransferase 7、b 1,3-galactosyltransferase 6、b 1,3-glucuronyltransferase 3を発現した発芽型バキュロウイルスおよび基質となるUDP-キシロース(UDP-Xyl)、UDP-ガラクトース、UDP-グルクロン酸(UDP-GlcA)を加えれば合成することができる。そして次にコンドロイチン硫酸を合成する場合には、4糖構造にGlcA−GalNAcの繰り返し構造を伸長させる。そのために、chondroitin sulfate N-acetylgalactosaminyltransferase 1、chondroitin sulfate synthase 1を発現した発芽型バキュロウイルスおよび糖基質となるUDP-N-アセチルガラクトサミン、UDP-グルクロン酸を加えて、反応時間、接触回数を調整して、糖鎖を伸長させる。またヘパラン硫酸を合成する場合には、4糖構造にGlcA−GlcNAc繰り返し構造を伸長させために、heparan sulfate a4-N-Acetylhexosaminyltransferase、heparan sulfate GlcA/GlcNAc transferase 1を発現した発芽型バキュロウイルスおよび糖基質となるUDP-N-アセチルグルコサミン、UDP-グルクロン酸を加えて、反応時間、接触回数を調整して、糖鎖を伸長させる。そして最後にそれぞれの伸長させた糖鎖に硫酸転移酵素を発現した発芽型バキュロウイルスおよびPAPSを接触させて硫酸基を転移させることで、コンドロイチン硫酸およびヘパラン硫酸を合成することができる。
【0016】
本発明では、転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスを使用する。転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスは、転移酵素をコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを使用して作製することができる。
【0017】
昆虫に感染して病気を起こすウイルスであるバキュロウイルスは、環状の二本鎖DNAを遺伝子としてもつエンベロープウイルスで、鱗翅目、膜翅目および双翅目などの昆虫に感受性を示す。バキュロウイルスの中で、感染細胞の核内に多角体(ポリヒドラ)と呼ばれる封入体を大量につくる一群のウイルスが核多角体病ウイルス(NPV)である。多角体は、分子量31kDaのポリヘドリンタンパクより構成され、感染後期に大量につくられその中に多数のウイルス粒子を埋め込んでいる。多角体はウイルスが自然界で生存するためには必須であるが、ウイルスの増殖そのものには必要ないので、多角体遺伝子の代わりに発現させたい外来遺伝子を挿入してもウイルスは全く支障なく感染し増殖する。バキュロウイルスは、その感染サイクルの中で、核内封入体を作る形の封入体型ウイルスの他に、感染の際に細胞外へ出る発芽型ウイルスの形をとる。本明細書において発芽バキュロウイルス、発芽型ウイルスの語は、いずれもバキュロウイルスの発芽型ウイルスを指す。
【0018】
本発明で用いられるバキュロウイルスとしては、NPVのキンウワバ亜科のオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPV(AcNPV)やカイコのボンビックス・モリ(Bombyx mori )NPV(BmNPV)などのウイルスがベクターとして用いることができる。
【0019】
AcNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda )細胞(Sf細胞)、BTI−TN−5B1−4細胞などが挙げられ、BmNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはBmN4細胞などが挙げられる。Sf細胞は、BmN4細胞などに比べ増殖速度が速いこと、また、AcNPVはヒト肝細胞およびヒト胎児腎細胞などにも感染する能力を有することから、AcNPV系のベクターが好ましい。
【0020】
宿主としては、Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などがS.frugiperda幼虫の卵巣組織から確立しており、Invitrogen社あるいは日本ベクトン・ディッキンソン株式会社、又はATCCなどから入手可能である。さらに、生きている昆虫幼虫を宿主細胞系として使用することもできる。
【0021】
本発明で用いる組換えウイルスを構築する方法は、常法に従って行えばよく、例えば次の手順で行うことができる。
先ず、発現させたい蛋白質の遺伝子をトランスファーベクターに挿入して組換えトランスファーベクターを構築する。
【0022】
トランスファーベクターの全体の大きさは一般的には数kb〜10kb程度であり、そのうちの約3kbはプラスミド由来の骨格であり、アンピシリン等の抗生物質耐性遺伝子と細菌のDNA複製開始のシグナルを含んでいる。通常のトランスファーベクターではこの骨格以外に、多角体遺伝子の5’領域と3’領域をそれぞれ数kbずつ含み、以下に述べるようなトランスフェクションを行った際に、この配列間で目的遺伝子と多角体遺伝子との間で相同組換えが引き起こる。また、トランスファーベクターには蛋白質遺伝子を発現させるためのプラモーターを含むことが好ましい。プロモーターとしては、多角体遺伝子のプロモーター、p10遺伝子のプロモーター、gp64遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。
【0023】
トランスファーベクターの種類は特に限定されない。トランスファーベクターの具体例としては、AcNPV系トランスファーベクターとしては、pAcSG2、pVL1392/1393、pAcMP2/3、pAcUW21、pAcDZ1、pBlueBac4.5、pAcUW51、pAcAB4、pBlueBacHis2、pAcUW1、pAcUW42/43などが挙げられ、BmNPV系トランスファーベクターとしては、pBK283、pBKblue(以上、フナコシ株式会社、Invitrogen社、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社等から入手可能)などが挙げられる。
【0024】
次に、組換えウイルスを作製するために、上記の組換えトランスファーベクターをウイルスゲノムDNAと混合した後、宿主として用いる培養細胞に移入し、組換えトランスファーベクターとウイルスゲノムDNAとの間に相同組み換えを起こさせ、組み換えウイルスを構築する。
【0025】
また、バキュロウイルスを用いたタンパク質の発現を目的として、様々なキットが市販されており、本発明においてはそれらを用いることができる。多くの系ではウイルスのゲノムDNAと発現させる遺伝子をサブクローニングしたトランスファーベクターを昆虫細胞にコトランスフェクションした後、β−galによるblue/white選択を行うことによりクローニングを行うものである。また、Invitrogen社から市販されているBAC−TO−BACは、バキュロウイルスのDNAへの目的タンパク質のcDNAの組換えを大腸菌の中で行わせ、昆虫細胞レベルでのクローニングを行う必要のないシステムである。130kbのウイルスDNAはDH10BACというホストの大腸菌の中に入っており、これにトランスファーベクターであるpFASTBACに目的のcDNAを挿入したものを通常の大腸菌の形質転換と同様に導入し、大腸菌のblue/white選択により組換え体を選別できる。組換えウイルスDNAは通常のアルカリミニプレップにより抽出し、細胞にトランスフェクションすることができる。トランスファーベクターであるpFASTBACとしては、タグなしのpFASTBAC1、6xHISタグ付きのpFASTBAC−HTa,b,c、2つのタンパクを共発現するためのpFASTBAC−DUALなどがあり、本発明においてもその目的に応じて適宜選択して使用することができる。
【0026】
ここで宿主として用いる培養細胞とは、上記した宿主が挙げられ、通常、昆虫培養細胞(Sf9細胞やBmN細胞など)である。培養条件は、当業者により適宜決定されるが、具体的にはSf9細胞を用いた場合は10%ウシ胎児血清を含む培地で、28℃前後で培養することが好ましい。このようにして構築された組み換えウイルスは、常法、例えばプラークアッセイなどによって精製することができる。なお、このようにして作製された組換えウイルスは、核多角体病ウイルスの多角体蛋白質の遺伝子領域に外来のDNAが置換または挿入されており多角体を形成することができないため、非組換えウイルスと容易に区別することが可能である。
【0027】
本発明の方法では、前記の組換えバキュロウイルスを、上記した適当な宿主(Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などの培養細胞、又は昆虫幼虫など)に感染させ、一定時間後(例えば、72時間後等)に培養上清から細胞外発芽ウイルス(budded virus, BV)を遠心などの分離操作によって回収することにより、目的蛋白質を回収することができる。なお、組換えバキュロウイルスは1種類のみ感染させてもよいし、2種類以上の組換えバキュロウイルスを組み合わせて共感染させてもよい。
【0028】
細胞外発芽バキュロウイルスの回収は、例えば、以下のように行うことができる。先ず感染細胞の培養液を500〜1,000gで遠心分離して、細胞外発芽バキュロウイルスを含む上清を回収する。この上清を約30,000〜50,000gで遠心分離して細胞外発芽バキュロウイルスを含む沈殿物を得ることができる。上記のようにして発芽バキュロウイルスを回収することができる。
【0029】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
実施例1:ヒトTyrosylprotein sulfotransferase 2(TPST2)、UDP-GalNAc:polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferase 1(ppGalNAcT1)もしくはcore1 UDP-galactose:N-acetylgalactosamine-a-R b 1,3-galactosyltransferase 1(C1GalT1)を発現する組換えバキュロウイルスの調製
(1)ヒトTPST2発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトTPST2のN末側にT7タグを付加したT7-TPST2を発現させるための組換えバキュロウイルスは以下のようにして調製した。
【0031】
PCRによりヒトTPST2遺伝子(塩基配列は配列番号1、アミノ酸配列は配列番号2に示す)の5'-端にT7タグ(配列番号3)をコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1(Invitrogen社製)に挿入してpFastBac-T7TPST2を作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression System(Invitrogen社製)を用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、TPST2をコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつT7タグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーT7TPST2F1(配列番号4)ならびにTPST2をコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーTPST2R(配列番号6)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNA(Clontech社製)を鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR System(Rcche Diagnostics社製)の添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素BamHIの認識配列(GGATCC)ならびにT7タグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーT7TPST2F2(配列番号5)ならびにプライマーTPST2RでPCRを行った。その結果得られたPCRの増幅産物をpGEM-T Easy vector(Promega社製)に挿入し、TAクローニングを行った。そこからBamHI(タカラバイオ株式会社製)およびXhoI(タカラバイオ株式会社製)を用いてT7-TPST2をコードするDNAを切断し、アガロースゲルからT7-TPST2をコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen社)を用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1(Invitrogen社製)に挿入しpFastBac-T7TPST2を作製した。
【0032】
続いてBac-to-Bac Baculovirus Expression System(Invitrogen社製)の添付の指示書に従い、pFastBac-T7TPST2から組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。
【0033】
(2)ヒトppGalNAcT1発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトppGalNAcT1のN末側にV5タグを付加したV5-ppGalNAcT1を発現させるための組換えバキュロウイルスは上記と同様の方法により行った。
【0034】
PCRによりヒトppGalNAcT1遺伝子(塩基配列は配列番号7、アミノ酸配列は配列番号8に示す)の5'-端にV5タグ(配列番号9)をコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1に挿入してpFastBac-V5ppGalNAcT1を作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression Systemを用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、ppGalNAcT1をコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつV5タグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーV5ppGalNAcT1F1(配列番号10)ならびにppGalNAcT1をコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーppGalNAcT1R(配列番号12)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNAを鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR Systemの添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素BamHIの認識配列(GGATCC)ならびにV5タグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーV5ppGalNAcT1F2(配列番号11)ならびにプライマーppGalNAcT1RでPCRを行った。その結果得られたPCRの結果増幅産物をpGEM-T Easy vectorに挿入しTAクローニングを行った。そこからBamHIおよびXhoIを用いてV5-ppGalNAcT1をコードするDNAを切断し、アガロースゲルからV5-ppGalNAcT1をコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kitを用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1に挿入しpFastBac-V5ppGalNAcT1を作製した。
【0035】
続いてBac-to-Bac Baculovirus Expression Systemの添付の指示書に従い、pFastBac-V5ppGalNAcT1から組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。
【0036】
(3)ヒトC1GalT1発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトC1GalT1のN末側にHAタグを付加したHA-C1GalT1を発現させるための組換えバキュロウイルスは上記と同様の方法により行った。
【0037】
PCRによりヒトC1GalT1遺伝子(塩基配列は配列番号13、アミノ酸配列は配列番号14に示す)の5'-端にHAタグ(配列番号15)をコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1に挿入してpFastBac-HAC1GalT1を作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression Systemを用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、C1GalT1をコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつHAタグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーHAC1GalT1F1(配列番号16)ならびにC1GalT1をコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーC1GalT1R(配列番号18)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNAを鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR Systemの添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素BamHIの認識配列(GGATCC)ならびにHAタグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーHAC1GalT1F2(配列番号17)ならびにプライマーC1GalT1RでPCRを行った。その結果得られたPCRの結果増幅産物をpGEM-T Easy vectorに挿入しTAクローニングを行った。そこからBamHIおよびXhoIを用いてHAC1GalT1をコードするDNAを切断し、アガロースゲルからHA-C1GalT1をコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kitを用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1に挿入しpFastBac- HAC1GalT1を作製した。
【0038】
(4)T7-TPST2、V5-ppGalNAcT1もしくはHA-C1GalT1を発現する発芽型ウイルスの調製
T7-TPST2もしくはV5-ppGalNAcT1を発現する発芽型ウイルスの調製は以下のようにして行った。すなわち、上記により調製した組換えウイルスをMOI(Multiplicity of infection)=3となるようにSf9細胞(1 x 106個/mL)に加え感染させた。27℃で4日間培養した培養液を1,000 x gで15分間遠心分離し、細胞ならびに細胞破砕物を除去した。遠心分離により回収した上清をさらに40,000 x gで30分間遠心分離した後、沈殿物を50mM Tris-HCl (pH 7.4)に懸濁した。それを1,000 x gで15分間遠心分離することで再度、細胞成分を除去した。その上清を40,000 x gで30分間遠心分離し、沈殿物を50mM Tris-HCl (pH 7.4)に再懸濁したものを発芽型ウイルス画分とした。
【0039】
V5-ppGalNAcT1およびHA-C1GalT1を発現する発芽型ウイルスの調製は以下のようにして行った。すなわち、上記により調製したV5-ppGalNAcT1発現組換えバキュロウイルスをMOI=3となるように、HA-C1GalT1発現組換えバキュロウイルスをMOI=10となるように同時にSf9細胞(1 x 106個/mL)に加え感染させた。27℃で4日間培養した培養液を1,000 x gで15分間遠心分離し、細胞ならびに細胞破砕物を除去した。遠心分離により回収した上清をさらに40,000 x gで30分間遠心分離した後、沈殿物を50mM Tris-HCl (pH 7.4)に懸濁した。それを1,000 x gで15分間遠心分離することで再度、細胞成分を除去した。その上清を40,000 x gで30分間遠心分離し、沈殿物を50mM Tris-HCl (pH 7.4)に再懸濁したものを発芽型ウイルス画分とした。
【0040】
(5)T7-TPST2、V5-ppGalNAcT1もしくはV5-ppGalNAcT1とHA-C1GalT1を発現する発芽型ウイルスのウエスタンブロット法による評価
発芽型ウイルスにT7-TPST2、V5-ppGalNAcT1またはV5-ppGalNAcT1とHA-C1GalT1が発現していることは、ウエスタンブロット法により確認を行った。
【0041】
T7-TPST2を発現する発芽型ウイルスは1レーンあたり30μgの発芽型ウイルスをSDS-PAGEで分離後、ニトロセルロース膜(GEヘルスケアバイオ社製)に転写した。それをブロックエース(大日本住友製薬株式会社製)で室温、1時間インキュベートし、0.05%Tween-20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄した。その後、100 ng/mLのマウス抗T7抗体(Novagen社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、80 ng/mLのHRP標識ヤギ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、化学発光試薬Supersignal West Dura Extended Duration Substrate(Pierce社製)を用いて発光させて、X線フィルム(富士フィルム社製)を用いて検出した。その結果、T7-TPST2を発現させた発芽型ウイルスに、特異的なバンドを確認した(図1)。
【0042】
V5-ppGalNAcT1を発現する発芽型ウイルスも同様にSDS-PAGE後、ニトロセルロース膜へ転写した。それをブロックエースで1時間インキュベートし、PBS-Tで3回洗浄を行った。その後、710 ng/mLのウサギ抗V5抗体(シグマ社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。それをPBS-Tで3回洗浄した後、10,000倍希釈したHRP標識ヤギ抗ウサギ抗体(シグマ社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、Supersignal West Dura Extended Duration Substrateを用いて発光させて、X線フィルムを用いて検出した。その結果、V5-ppGalNAcT1を発現させた発芽型ウイルスに特異的なバンドを確認した(図2)。
【0043】
V5-ppGalNAcT1とHA-C1GalT1を発現する発芽型ウイルスも同様にSDS-PAGE後、ニトロセルロース膜へ転写した。それをブロックエースで1時間インキュベートし、PBS-Tで3回洗浄を行った。その後、710 ng/mLのウサギ抗V5抗体または370ng/mLのマウス抗HA抗体(シグマ社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。それをPBS-Tで3回洗浄した後、10,000倍希釈したHRP標識ヤギ抗ウサギ抗体または80 ng/mLのHRP標識ヤギ抗マウス抗体を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、Supersignal West Dura Extended Duration Substrateを用いて発光させて、X線フィルムを用いて検出した。その結果、V5-ppGalNAcT1とHA-C1GalT1を発現させた発芽型ウイルスに特異的なバンドを確認した(図3)。
【0044】
実施例2:抗硫酸化CCR5抗体の作製
(1)マウスへの免疫ならびにハイブリドーマの作製
マウスモノクローナル抗体を単離する際に免疫動物として抗原分子の発現をなくしたノックアウトマウスを用いることで効率よく抗体が単離できることが知られている(Roes J., ら、J. Immunol. Methods, 1995; 183: 231-237., Declerck PJ., ら、J. Biol. Chem. 1995; 270: 8397-8400.)。そこで免疫動物としてCCR5ノックアウトマウス(Kuziel WA., ら、Atherosclerosis, 2003; 167: 25-32.)を用いた。抗原にはKLHコンジュゲートしたCCR5のN端領域の硫酸化修飾ペプチド1(Gln Val Ser Ser Pro Ile Tyr(SO3H) Asp Ile Asn-NH2)(配列番号19、ペプチド研究所社製)を用いた。1回の免疫にはマウス1匹当たり100μgのペプチドを免疫し、初回免疫時にはFreund's Complete Adjuvant(DIFCO社製)と混合したものをマウスの腹腔内に投与した。さらに2週間ごとに追加免疫を2回行い、その際にはFreund's Incomplete Adjuvant(DIFCO社製)と混合したものを腹腔内に投与した。最終免疫3日後にマウスより無菌的に脾臓を摘出し、常法によりマウスミエローマ細胞株NS-1と細胞融合させハイブリドーマ細胞を作製した。
【0045】
(2)抗硫酸化CCR5抗体C1324のクローニング
NaClO3含有培地で培養した細胞はチロシン残基への硫酸化修飾が抑制されることが報告されている(Hortin GL., ら、Biochem. Biophys. Res. Commun., 1988; 150: 342-348.)。そこでNaClO3含有培地およびNaClO3不含培地で培養した細胞を用いて、フローサイトメトリー解析を行った。細胞はヒトCCR5(塩基配列は配列番号22、アミノ酸配列は配列番号23に示す)を強制発現させたCHO細胞株(CCR5/CHO)および陰性対照としてヒトCCR2B(塩基配列は配列番号24、アミノ酸配列は配列番号25に示す)を強制発現させたCHO細胞(CCR2/CHO)を用いた。すなわちCCR5/CHOおよびCCR2/CHOを、1%ウシ胎児血清を含むHam F-12培地(Invitrogen社製)に播種し、硫酸化修飾を抑制する細胞にはNaClO3を、硫酸化修飾を抑制しない細胞にはMgSO4をそれぞれ10 mMとなるように添加し、37℃で18時間培養した。その後PBSで1回洗浄し、続いて5 mM エチレンジアミン四酢酸を含むPBSを加えて細胞をプレートから剥離させた。剥離させた細胞を、2%ウシ胎児血清を含むPBS(PBS-FCS)で2回洗浄後、ハイブリドーマ培養上清25μLとPBS-FCS 25μLを添加し、4℃で1時間インキュベートした。その後PBS-FCSで2回洗浄し、14μg/mLのFITC標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch社製)を含むPBS-FCSを50μLずつ添加し、さらに室温で1時間インキュベートした。PBS-FCSで3回洗浄した後、フローサイトメトリー解析を行った。その結果、MgSO4を添加した培地で培養したCCR5/CHOには強く反応するが、NaClO3を添加した培地で培養したCCR5/CHOおよびCCR2/CHOにはほとんど反応しないハイブリドーマC1324をクローニングした(図4)。
【0046】
実施例3:硫酸基転移反応
(1)試験管内での硫酸基転移反応
ヒトCCR5のN末端のチロシン残基は硫酸化修飾されることが報告されている(Farzan M., ら、Cell, 1999; 96: 667-676)。そこでT7-TPST2を発現した発芽型ウイルスが、硫酸基供与体PAPSからヒトCCR5のN末端領域の合成ペプチドへ硫酸基を転移させるかを検討した。
【0047】
すなわち、1μgのヒトCCR5のN端領域20アミノ酸の非修飾ペプチド(配列番号20、ペプチド研究所社製)(Met Asp Tyr Gln Val Ser Ser Pro Ile Tyr Asp Ile Asn Tyr Tyr Thr Ser Glu Pro Cys-NH2)と30μgのT7-TPST2発現発芽型ウイルスおよび10 mM 3'-phosphoadenosine-5'-phosphosulfate(PAPS:シグマ社製)を50μLのアッセイバッファー(20 mM 2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid(MES)(pH 6.2)、20 mM MnCl2、50 mM NaF、2 mM 5'-AMP、0.01%Triton X-100)中で、37℃で2、4、20時間インキュベートした。また陰性対照としてT7-TPST2を発現していない発芽型ウイルスを加えた条件でもインキュベートを行った。
【0048】
(2)ドットブロット法による評価
硫酸基がペプチドへ転移されているかを評価するために、抗硫酸化CCR5抗体および抗CCR5抗体を用いてドットブロット法により検討を行った。すなわち上記の方法でインキュベートした反応溶液のうち2μLをニトロセルロース膜に滴下した。水分が蒸発したことを目視で確認した後、ブロックエースで室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、25 ng/mLの抗硫酸化CCR5抗体C1324または100 ng/mLの抗CCR5抗体12D1(Chemicon社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、10 ng/mLのHRP標識ヤギ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、化学発光試薬Supersignal West Dura Extended Duration Substrateを用いて発行させて、X線フィルムを用いて検出した。その結果、抗CCR5抗体12D1で検出した場合、各インキュベート時間で、T7-TPST2を発現した発芽型ウイルスを含む反応液およびT7-TPST2を発現していない発芽型ウイルスを含む反応液で同等の反応が検出された(図5B)。一方、抗硫酸化CCR5抗体C1324を用いて検出した場合、T7-TPST2を発現した発芽型ウイルスを加えた反応液にだけ反応が検出された(図5A)。このことから、T7-TPST2を発現した発芽型ウイルスがペプチドに硫酸基を転移させたことが確認された。
【0049】
実施例4:V5-ppGalNAcT1を発現した発芽型ウイルスによる複数個のN-アセチルガラクトサミン転移反応
(1)試験管内でのN-アセチルガラクトサミンの転移反応
ヒトCCR5のN末端は6,7,17位にセリン残基が、16位にスレオニン残基があり、そのいずれかの複数箇所がO型糖鎖修飾される可能性のあることが報告されている(Bannert N., ら、J. Exp. Med., 2001; 194: 1661-1673.)。そこでV5-ppGalNAcT1発現発芽型ウイルスが、UDP-N-アセチルガラクトサミン(UDP-GalNAc)からヒトCCR5のN末端領域の合成ペプチドへ複数個のN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を転移させるかを検討した。
【0050】
すなわち10μgのヒトCCR5のN端領域20アミノ酸の非修飾ペプチド(配列番号20)と10μgのV5-ppGalNAcT1を発現した発芽型ウイルスおよびUDP-N-アセチルガラクトサミン(シグマ社製)を50μLのアッセイバッファー(50 mM MES(pH 6.0)、3 mM MnCl2、5 mMジメルカプトプロパノール、0.1 mM ATP、0.01%Tween-20)中で37℃、14時間インキュベートした。また陰性対照としてUDP-N-アセチルガラクトサミンを加えない条件でもインキュベートを行った。
【0051】
(2)逆相クロマトグラフィーによる評価
続いてN-アセチルガラクトサミンがペプチドへ転移されているか評価するために、逆相クロマトグラフィーを用いて検討を行った。
【0052】
はじめに反応溶液に逆相クロマトグラフィーの溶媒A液(10%アセトニトリル、0.1%トリフロロ酢酸水溶液)を600μLを加えて、5分間静置した後、20,000 x gで30分間遠心分離し、上清を回収した。さらにその上清を孔径0.22μmのPVDFフィルター(ミリポア社製)に通してV5-ppGalNAcT1を発現した発芽型ウイルスを除き、逆相クロマトグラフィーのサンプルとした。逆相カラムSOURCE 5RPC ST 4.6/150(GEヘルスケアバイオ社製)をあらかじめ溶媒A液で平衡化しておき、フィルターを通したサンプル500μLを逆相カラムに吸着させた。7.5 mLの溶媒A液でカラムを洗浄した後、溶媒B液(60%アセトニトリル、0.1%トリフロロ酢酸水溶液)を0.8 mL/分の流速で流し、溶出を行った。検出はペプチド結合に由来する220 nmの波長の吸光度を測定した。その結果、UDP-N-アセチルガラクトサミンを添加していない反応溶液から得られたクロマトグラム(図6(A))とUDP-N-アセチルガラクトサミンを添加してインキュベートを行った反応溶液から得られたクロマトグラム(図6(B))を比較すると、UDP-N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液には、保持時間(retention time)23.68、24.44、25.21分に特異的なピークが検出された。
【0053】
(3)質量分析計によるN-アセチルガラクトサミンの転移反応の確認
V5-ppGalNAcT1を発現した発芽型ウイルスによるペプチドへのN-アセチルガラクトサミンの転移反応をさらに確認するために、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization - Time of Flight Mass Spectrometry : MALDI-TOF MS)を用いて逆相クロマトグラフィーにより得られたフラクションを測定した。標準ペプチドとして非修飾ペプチド(配列番号20、モノアイソトピック質量2386.0)と、これにN-アセチルガラクトサミン修飾ペプチド(配列番号21、モノアイソトピック質量2589.1、ペプチド研究所社製)(Met Asp Tyr Gln Val Ser Ser(GalNAc) Pro Ile Tyr Asp Ile Asn Tyr Tyr Thr Ser Glu Pro Cys-NH2)の2種類のペプチドを使用した(図7)。
【0054】
各フラクション2μLと10 mg/mlの2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-Dihydroxybenzoic acid (DHB))0.5μLをMALDIターゲットプレート上にスポットして測定し、標準ペプチドと分子量を比較した。その結果、retention time 25.21分のフラクションは非修飾ペプチドに1分子のN-アセチルガラクトサミンが結合したものに相当するプロトン付加分子が観測された。またretention time 23.68分および24.44分のフラクションは非修飾ペプチドに2分子のN-アセチルガラクトサミンが結合した質量増加に相当するプロトン付加分子が検出された。これらの結果からV5-ppGalNAcT1発現発芽型ウイルスによって非修飾ペプチドへ複数個のN-アセチルガラクトサミンが転移されたことが示された。
【0055】
更にそれらのフラクションについて電場型フーリエ変換質量分析計を用いてLC-MS/MS解析を行った。各フラクションは0.2 mm ID x 150 mm C18 モノリスカラム(GLサイエンス社)で分離後、オンラインで質量分析計での検出を行った。その結果MALDI-TOF MSと同様24.44分と25.21分で1分子のN-アセチルガラクトサミンの結合、23.68分と24.44分で2分子のN-アセチルガラクトサミンの結合相当のピークが検出されたほか、23.68分のフラクションでは更に非修飾ペプチドに3分子のN-アセチルガラクトサミンが結合した質量増加に相当するプロトン付加分子が検出された(図8)。
これらの1から3分子のN-アセチルガラクトサミン結合相当のピークのMS/MSスペクトル解析(図9)により、図8のピーク(a)では1分子のN-アセチルガラクトサミン脱離、ピーク(b)では2分子のN-アセチルガラクトサミン脱離、ピーク(c)では3分子のN-アセチルガラクトサミン脱離相当のピークが検出され、それぞれ1から3分子のN-アセチルガラクトサミンが結合していると考えられた。
【0056】
実施例5:V5-ppGalNAcT1とHA-C1GalTを発現した発芽型ウイルスによるN-アセチルガラクトサミンおよびガラクトースの転移反応
(1)試験管内でのN-アセチルガラクトサミンおよびガラクトースの転移反応
O型糖鎖修飾はppGalNacTによるセリン、スレオニン残基へのN-アセチルガラクトサミンの転移反応から開始される。そしてセリン、スレオニン残基に結合したN-アセチルガラクトサミン残基にさらに単糖が逐次的に転移して、O型糖鎖の基本骨格であるコア構造が形成される。そのコア構造の1つであるコア1構造は、C1GalT1によりUDP-ガラクトース(UDP-Gal)に由来するガラクトース(Gal)がセリン、スレオニン残基に結合したN-アセチルガラクトサミン残基に転移され形成される。そこでV5-ppGalNAcT1およびHA-C1GalT1を発現した発芽型ウイルスがヒトCCR5のN末端領域の合成ペプチドへ、N−アセチルガラクトサミン、ガラクトースの順に転移させるかを検討した。
【0057】
すなわち10μgのヒトCCR5のN端領域の硫酸化ペプチド2(Asp Ile Asn Tyr Tyr(SO3H) Thr Ser Glu Pro Lys)(配列番号26、ペプチド研究所社製)と80μgのV5-ppGalNAcT1およびHA-C1GalTを発現した発芽型ウイルス、さらに糖供与体としてUDP-N-アセチルガラクトサミン単独またはUDP-ガラクトース単独もしくはUDP-N-アセチルガラクトサミンとUDP-ガラクトースの両方を50μLのアッセイバッファー(50 mM MES(pH 6.0)、20 mM MnCl2、10 mM NaF、2 mM ATP、0.01%Tween-20)中で37℃、60時間インキュベートした。また陰性対照としてUDP-N-アセチルガラクトサミンとUDP-ガラクトースの両方を加えない条件でもインキュベートを行った。
【0058】
(2)逆相クロマトグラフィーによる評価
続いてN-アセチルガラクトサミンおよびガラクトースがペプチドへ転移されているか評価するために、逆相クロマトグラフィーを用いて検討を行った。
【0059】
はじめに反応溶液に逆相クロマトグラフィーの溶媒C液(1%アセトニトリル、0.05%トリフロロ酢酸水溶液)を600μLを加えて、5分間静置した後、20,000 x gで30分間遠心分離し、上清を回収した。さらにその上清を孔径0.22μmのPVDFフィルター(ミリポア社製)に通してV5-ppGalNAcT1およびHA-C1GalTを発現した発芽型ウイルスを除き、逆相クロマトグラフィーのサンプルとした。逆相カラムSOURCE 5RPC ST 4.6/150をあらかじめ溶媒C液で平衡化しておき、フィルターを通したサンプル500μLを逆相カラムに吸着させた。7.5 mLの溶媒C液でカラムを洗浄した後、溶媒D液(30%アセトニトリル、0.05%トリフロロ酢酸水溶液)を0.8 mL/分の流速で流し、溶出を行った。検出はペプチド結合に由来する220 nmの波長の吸光度を測定した。その結果、UDP-N-アセチルガラクトサミンとUDP-ガラクトースのどちらも添加していない反応溶液から得られたクロマトグラム(図10(A))とUDP-ガラクトースだけを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図10(B))を比較すると、ほぼ同様なピークが観察された。またUDP-N-アセチルガラクトサミンだけを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図10(C))から、保持時間37.95分に特異的なピークが検出された。さらにUDP-N-アセチルガラクトサミンとUDP-ガラクトースのどちらも添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図10(D))から、さらに保持時間36.09分に特異的なピークが検出された。
【0060】
(3)質量分析計によるN-アセチルガラクトサミンおよびガラクトースの転移反応の確認
更にそれらのフラクションについてLC-MS/MS で、N-アセチルガラクトサミンおよびガラクトースの転移反応の確認を行った。今回用いたペプチドは硫酸化修飾ペプチドのため解析中に硫酸基が脱離してしまい、糖の結合と硫酸基の脱離の複雑なパターンを示す。そこで表1にそれぞれの修飾におけるLC-MS/MSで検出されるm/zの理論値を示した。この理論値に対しMSスペクトルでは0.01以内の精度、MS/MSスペクトルでは0.5以内の精度を持つ。LC-MSのベースピークイオンクロマトグラムではfr. B-1、fr. C-2、fr. D-3で基質ペプチドから硫酸基が脱離したと考えられるペプチドの2価イオンであるm/z635.80がメインピークとして検出された。fr. C-1、fr. D-2からは基質ペプチドにN-アセチルガラクトサミンが結合した物から脱硫酸したものに相当するm/z737.34のピーク、fr. D-1からは基質にN-アセチルガラクトサミンとガラクトースが結合したものから脱硫酸したものに相当するm/z818.37のピークが検出された(図11)。
【0061】
fr. B-1、fr. C-1、fr. D-1についてMSスペクトルから、脱硫酸した物がメインではあるが硫酸基が結合した状態の糖結合分子に相当するピークも検出されている事が明らかになった。図12にそれぞれのm/z値と価数(カッコ内)、相当する修飾名を示す。
N-アセチルガラクトサミン結合・脱硫酸ペプチド相当のfr. C-1のm/z737.34のピークのMS/MS解析によりN-アセチルガラクトサミン脱離相当のピーク、N-アセチルガラクトサミンとガラクトース結合・脱硫酸ペプチド相当のfr. D-1のm/z818.37のピークのMS/MS解析からN-アセチルガラクトサミンとガラクトース脱離、N-アセチルガラクトサミンとガラクトース結合ペプチド相当のfr. D-1のm/z858.35のピークのMS/MS解析からはガラクトース脱離相当のピークが検出され、ペプチドにN-アセチルガラクトサミン、ガラクトースの順で結合していることが示唆された(図13)。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例6:シャペロンタンパク質Cosmcの共発現によるC1GalT1のガラクトースの転移反応の亢進
実施例1(3)で作製したC1GalT1は活性が弱い傾向があった。C1GalT1はシャペロンタンパク質Cosmcの作用により転移活性をもつ状態となる。そこで、発芽バキュロウイルスにC1GalT1とCosmcを共発現させることにより、Cosmcと接触するC1GalT1の量を増やした場合に、C1GalT1を単独で発現している発芽バキュロウイルスよりもガラクトースの転移活性が亢進するかを検討した。
【0064】
(1)ヒトCosmc発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトCosmcのN末側にT7タグを付加したT7-Cosmcを発現させるための組換えバキュロウイルスは実施例1と同様の方法により作製した。
PCRによりヒトCosmc遺伝子(塩基配列は配列番号27、アミノ酸配列は配列番号28に示す)の5'-端にT7タグをコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1に挿入してpFastBac-T7Cocmcを作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression Systemを用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、Cosmcをコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつT7タグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーT7CosmcF1(配列番号29)ならびにCosmcをコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーCosmcR(配列番号30)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNAを鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR Systemの添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素EcoRIの認識配列(GAATTC)ならびにT7タグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーT7CosmcF2(配列番号31)ならびにプライマーCosmcRでPCRを行った。その結果得られたPCRの結果増幅産物をpGEM-T Easy vectorに挿入しTAクローニングを行った。そこからEcoRIおよびXhoIを用いてT7-CosmcをコードするDNAを切断し、アガロースゲルからT7-CosmcをコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kitを用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1に挿入しpFastBac-T7Cosmcを作製した。
【0065】
(2)HA-C1GalT1およびT7-Cosmcの2種類を発現する発芽バキュロウイルスの調製
実施例1(3)で調製したHA-C1GalT1発現組換えバキュロウイルスをMOI=10となるように、T7-Cosmc発現組換えバキュロウイルスをMOI=5となるように同時にSf9細胞(1 x 106個/mL)に加え感染させた。27℃で4日間培養した培養液を1,000 gで15分間遠心分離し、細胞ならびに細胞破砕物を除去した。遠心分離により回収した上清をさらに40,000 gで30分間遠心分離した後、沈殿物を50mM Tris-HCl (pH 7.4)に懸濁した。それを1,000 gで15分間遠心分離することで再度、細胞成分を除去した。その上清を40,000 gで30分間遠心分離し、沈殿物を50mM Tris-HCl (pH 7.4)に再懸濁したものを発芽バキュロウイルス画分とした。
【0066】
(3)調製した発芽バキュロウイルスのウエスタンブロット法による評価
発芽バキュロウイルス上にHA-C1GalT1、T7-Cosmcがそれぞれ単独で、HA-C1GalT1とT7-Cosmcが共発現していることをウエスタンブロット法により確認を行った。実施例1(5)と同様にSDS-PAGEを実施した。
【0067】
HA-C1GalT1を発現する発芽バキュロウイルス、T7-Cosmcを発現する発芽バキュロウイルス、HA-C1GalT1とT7-Cosmcを共発現する発芽バキュロウイルスをSDS-PAGE後、ニトロセルロース膜へ転写した。ニトロセルロース膜をブロックエースで1時間インキュベートし、PBS-Tで3回洗浄を行った。その後、タグ(HA、T7)を認識する一次抗体を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。それをPBS-Tで3回洗浄した後、二次抗体を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。
【0068】
一次抗体
マウス抗HA抗体(シグマ社製)最終濃度 370ng/mL
マウス抗T7抗体 (Novagen社製) 最終濃度 100 ng/mL
【0069】
二次抗体
HRP標識ヤギ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch社製)最終濃度 80 ng/mL
【0070】
PBS-Tで3回洗浄した後、化学発光試薬Supersignal West Dura Extended Duration Substrateを用いて発光させて、X線フィルムを用いて検出した。その結果、HA-C1GalT1、T7-Cosmcをそれぞれ単独で、HA-C1GalT1とT7-Cosmcを共発現させた発芽バキュロウイルスに特異的なバンドをそれぞれ確認した(図14)。
【0071】
(4)試験管内でのC1GalT1およびCosmcの共発現発芽バキュロウイルスによるガラクトースの転移反応
10μgのヒトCCR5のN端領域の硫酸化ペプチド2と90μgのV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP-N-アセチルガラクトサミンを50μLの溶媒C液(50 mM MES(pH 6.0)、20 mM MnCl2、10 mM NaF、2 mM ATP)中で37℃、24時間インキュベートした。その後、15μgのHA-C1GalT1を単独で発現した発芽バキュロウイルスまたは15μgのHA-C1GalT1およびT7-Cosmcを発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP-ガラクトースを50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした。また陰性対照として発芽バキュロウイルスを加えない条件でもインキュベートを行った。
【0072】
(5)逆相クロマトグラフィーによる評価
N-アセチルガラクトサミンおよびガラクトースがペプチドへ転移されているかを評価するために、逆相クロマトグラフィーを用いて検討を行った。
【0073】
はじめに反応溶液に逆相クロマトグラフィーの溶媒C液を600μLを加えて、5分間静置した後、20,000 gで30分間遠心分離し、上清を回収した。さらにその上清を孔径0.22μmのPVDFフィルターに通して発芽バキュロウイルスを除き、逆相クロマトグラフィーのサンプルとした。逆相カラムSOURCE 5RPC ST 4.6/150をあらかじめ溶媒C液で平衡化しておき、フィルターを通したサンプル500μLを逆相カラムに吸着させた。7.5 mLの溶媒C液でカラムを洗浄した後、溶媒D液を0.8 mL/分の流速で流し、溶出を行った。検出はペプチド結合に由来する220 nmの波長の吸光度を測定した。その結果、発芽バキュロウイルスを添加せずUDP-N-アセチルガラクトサミンのみを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図15(A))とV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスとUDP-N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図15(B))を比較すると、UDP-N-アセチルガラクトサミンのみを添加した反応溶液から得られたクロマトグラムには反応に使用した硫酸化ペプチド2に由来するピーク(e)のみが観察されたが、V5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスとUDP-N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液から得られたクロマトグラムには、反応に使用した硫酸化ペプチド2に由来するピーク(f)とN-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドに由来する新たなピーク(g)が観察された。またV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後、HA-C1GalT1だけを発現した発芽バキュロウイルスを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図15(C))には、反応に使用した硫酸化ペプチド2に由来するピーク(h)とN-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドに由来するピーク(i)とGal−GalNAcが転移したペプチドに由来するピーク(j)が検出された。一方、V5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後、HA-C1GalT1とT7-Cosmcの2つを発現した発芽バキュロウイルスを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図15(D))には、N-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドに由来するピークが消失し、反応に使用した硫酸化ペプチド2に由来するピーク(k)とGal−GalNAcが転移したペプチドに由来するピーク(l)が検出された。HA-C1GalT1だけを発現した発芽バキュロウイルスによる反応ではN-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドが半分以上残存したのに対し、HA-C1GalT1とT7-Cosmcの2つを発現した発芽バキュロウイルスによる反応ではN-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドのほとんどにガラクトースが転移したことから、T7-CosmcをHA-C1GalT1を発現したウイルスにともに発現させることにより、HA-C1GalT1によるガラクトースの転移反応が亢進したことが示唆された。
【0074】
実施例7: ST3GalI、ST6GalNAcI、ST6GalNAcIIIを発現する組換えバキュロウイルスの調製
(1)ヒトST3Gal I発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトST3Gal IのN末側にHisタグを付加したHis-ST3GalIを発現させるための組換えバキュロウイルスを実施例1と同様の方法により作製した。
【0075】
PCRによりヒトST3Gal I遺伝子(塩基配列は配列番号32、アミノ酸配列は配列番号33に示す)の5'-端にHisタグ(配列番号34)をコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1に挿入してpFastBac-HisST3GalIを作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression Systemを用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、ST3Gal Iをコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつHisタグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーHisST3GalIF1(配列番号35)ならびにST3Gal Iをコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーST3GalIR(配列番号36)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNAを鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR Systemの添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素BamHIの認識配列(GGATCC)ならびにHisタグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーHisST3GalIF2(配列番号37)ならびにプライマーST3GalIRでPCRを行った。その結果得られたPCRの結果増幅産物をpGEM-T Easy vectorに挿入しTAクローニングを行った。そこからBamHIおよびXhoIを用いてHis-ST3GalIをコードするDNAを切断し、アガロースゲルからHis-ST3GalIをコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kitを用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1に挿入しpFastBac-HisST3GalIを作製した。
【0076】
(2)ヒトST6GalNAc I発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトST6GalNAc IのN末側にc-mycタグを付加したmyc-ST6GalNAcIを発現させるための組換えバキュロウイルスは実施例1と同様の方法により作製した。
【0077】
PCRによりヒトST6GalNAc I遺伝子(塩基配列は配列番号38、アミノ酸配列は配列番号39に示す)の5'-端にc-mycタグ(配列番号40)をコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1に挿入してpFastBac-mycST6GalNAcIを作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression Systemを用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、ST6GalNAc Iをコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつc-mycタグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーmycST6GalNAcIF1(配列番号41)ならびにST6GalNAc Iをコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーST6GalNAcIR(配列番号42)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNAを鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR Systemの添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素BamHIの認識配列(GGATCC)ならびにc-mycタグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーmycST6GalNAcIF2(配列番号43)ならびにプライマーST6GalNAcIRでPCRを行った。その結果得られたPCRの結果増幅産物をpGEM-T Easy vectorに挿入しTAクローニングを行った。そこからBamHIおよびXhoIを用いてmyc-ST6GalNAcIをコードするDNAを切断し、アガロースゲルからmyc-ST6GalNAcIをコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kitを用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1に挿入しpFastBac-mycST6GalNAcIを作製した。
【0078】
(3)ヒトST6GalNAc III発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトST6GalNAc IIIのN末側にc-mycタグを付加したmyc-ST6GalNAcIIIを発現させるための組換えバキュロウイルスは実施例1と同様の方法により作製した。
【0079】
PCRによりヒトST6GalNAc III遺伝子(塩基配列は配列番号44、アミノ酸配列は配列番号45に示す)の5'-端にc-mycタグをコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1に挿入してpFastBac-mycST6GalNAcIIIを作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression Systemを用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、ST6GalNAc IIIをコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつc-mycタグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーmycST6GalNAcIIIF1(配列番号46)ならびにST6GalNAc IIIをコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーST6GalNAcIIIR(配列番号47)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNAを鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR Systemの添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素BamHIの認識配列(GGATCC)ならびにc-mycタグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーmycST6GalNAcIIIF2(配列番号48)ならびにプライマーST6GalNAcIIIRでPCRを行った。その結果得られたPCRの結果増幅産物をpGEM-T Easy vectorに挿入しTAクローニングを行った。そこからBamHIおよびXhoIを用いてmyc-ST6GalNAcIIIをコードするDNAを切断し、アガロースゲルからmyc-ST6GalNAcIIIをコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kitを用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1に挿入しpFastBac-mycST6GalNAcIIIを作製した。
【0080】
(4)発芽バキュロウイルスの調製
実施例1(4)に記載した方法と同様の方法で、His-ST3GalI、myc-ST6GalNAcI、myc-ST6GalNAcIIIをそれぞれ単独で発現する発芽バキュロウイルスを調製した。
【0081】
(5) 調製した発芽バキュロウイルスのウエスタンブロット法による評価
発芽バキュロウイルス上にHis-ST3GalI、myc-ST6GalNAcI、myc-ST6GalNAcIIIが発現していることを、ウエスタンブロット法により確認を行った。実施例1(5)と同様にSDS-PAGE法を実施した。
【0082】
His-ST3GalI、myc-ST6GalNAcI、myc-ST6GalNAcIII それぞれを発現する発芽バキュロウイルス試料をSDS-PAGE後、ニトロセルロース膜へ転写した。をニトロセルロース膜ブロックエースで1時間インキュベートし、PBS-Tで3回洗浄を行った。その後、一次抗体を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、二次抗体を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。
【0083】
一次抗体
マウス抗His抗体(Sigma社製)最終濃度 700 ng/mL
マウス抗c-Myc抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)最終濃度 20 ng/mL
【0084】
二次抗体
HRP標識ヤギ抗マウス抗体 最終濃度 160ng/mL
【0085】
PBS-Tで3回洗浄した後、化学発光試薬Supersignal West Dura Extended Duration Substrateを用いて発光させて、X線フィルムを用いて検出した。その結果、His-ST3GalI、myc-ST6GalNAcI、myc-ST6GalNAcIII それぞれを発現させた発芽バキュロウイルスに特異的なバンドを確認した(図16〜18)。
【0086】
実施例8:糖転移酵素を発現した発芽バキュロウイルスを使用したシアル酸付加糖鎖修飾ペプチドの合成と生成物の評価
シアル酸付加糖鎖修飾ペプチドの合成手順の概略を図19に示した。
【0087】
(1)Sialyl Tn-antigenの合成
10μgのヒトCCR5のN端領域の硫酸化ペプチド2と90μgのV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP- N-アセチルガラクトサミンを50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(1))。その後、40μgのmyc-ST6GalNAcIを発現した発芽バキュロウイルスと糖供与体としてCMP-N-アセチルノイラミン酸を50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(3))。
【0088】
(2)2,6 sialyl T-antigenの合成
2,6 sialyl T-antigen(Galb1−3(NeuNAcα2−6)GalNAc−O−Ser/Thr)は以下の方法で合成をおこなった。すなわち10μgのヒトCCR5のN端領域の硫酸化ペプチド2と90μgのV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP- N-アセチルガラクトサミンを50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした。その後、15μgのHA-C1GalT1およびT7-Cosmcを発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP-ガラクトースを50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(2))。さらにその後、40μgのmyc-ST6GalNAcI発現した発芽バキュロウイルスと糖供与体としてCMP-N-アセチルノイラミン酸を50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(4))。
【0089】
(3)Disialyl T-antigenの合成
Disialyl T-antigen(NeuNAcα2−3Galb1−3(NeuNAcα2−6)GalNAc−O−Ser/Thr)は以下の方法で合成をおこなった。すなわち10μgのヒトCCR5のN端領域の硫酸化ペプチド2と90μgのV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP- N-アセチルガラクトサミンを50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(1))。その後、15μgのHA-C1GalT1およびT7-Cosmcを発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP-ガラクトースを50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(2))。その後、40μgのHis-ST3GalIを発現した発芽バキュロウイルスと糖供与体としてCMP-N-アセチルノイラミン酸を50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(5))。その後、40μgのmyc-ST6GalNAcIIIを発現した発芽バキュロウイルスと糖供与体としてCMP-N-アセチルノイラミン酸を50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(6))。
【0090】
(4)Sialyl Tn-antigenの合成生成物の確認
Sialyl Tn-antigenの合成の確認は以下のようにおこなった。はじめに反応溶液に逆相クロマトグラフィーの溶媒C液を600μLを加えて、5分間静置した後、20,000 gで30分間遠心分離し、上清を回収した。さらにその上清を孔径0.22μmのPVDFフィルターに通して発芽バキュロウイルスを除き、逆相クロマトグラフィーのサンプルとした。逆相カラムSOURCE 5RPC ST 4.6/150をあらかじめ溶媒C液で平衡化しておき、フィルターを通したサンプル500μLを逆相カラムに吸着させた。7.5 mLの溶媒C液でカラムを洗浄した後、溶媒D液を0.8 mL/分の流速で流し、溶出を行った。検出はペプチド結合に由来する220 nmの波長の吸光度を測定した。その結果、発芽バキュロウイルスを添加せずUDP- N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図20(A)上段)とV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスとUDP- N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図20(A)中段)を比較すると、V5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスとUDP- N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液から得られたクロマトグラムには、反応に使用した硫酸化ペプチド2に由来するピーク(n)とN-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドに由来する新たなピーク(0)が観察された。またV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後、myc-ST6GalNAcIを発現した発芽バキュロウイルスを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図20(A)下段)には、N-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドに由来するピークが消失し、NeuNAc−GalNAcが転移したペプチドに由来する特異的なピーク(p)が検出された。
【0091】
(5)2,6 sialyl Tn-antigenの合成生成物の確認
2,6 sialyl T-antigenの合成の確認も(4)に記載の方法により同様に行った。その結果、V5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスを添加せずUDP- N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図20(B)上段)とV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後にHA−C1GalT1による反応をおこなって得られたクロマトグラム(図20(B)中段)を比較すると、反応に使用した硫酸化ペプチド2に由来するピーク(r)とGal−GalNAcが転移したペプチドに由来する新たなピーク(s)が観察された。またHA-C1GalT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後、myc-ST6GalNAcIを発現した発芽バキュロウイルスを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図20(B)下段)には、Gal−GalNAcが転移したペプチドに由来するピークが消失し、Gal−(NeuNAc−)GalNAcが転移したペプチドに由来する特異的なピーク(t)が検出された。
【0092】
(6)Disialyl T-antigenの合成生成物の確認
Disialyl T-antigenの合成の確認も(4)に記載の方法により同様に行った。その結果、2,6 sialyl T-antigenの合成と同様にV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後にHA−C1GalT1による反応をおこなって得られたクロマトグラム(図20(C)上から2番目)は、Gal−GalNAcが転移したペプチドに由来する新たなピーク(w)が観察された。HA-C1GalT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後、His-ST3GalIを発現した発芽バキュロウイルスを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図20(C)上から3番目)には、Gal−GalNAcが転移したペプチドに由来するピークが消失し、NeuNAc−Gal−GalNAcが転移したペプチドに由来する特異的なピーク(x)が検出された。さらにmyc-ST6GalNAcIIIを発現した発芽バキュロウイルスを添加した反応液から得られたクロマトグラム(図20(C)一番下)にはNeuNAc−Gal−GalNAcが転移したペプチドに由来する特異的なピークが消失し、NeuNAc−Gal−(NeuNAc−)GalNAcが転移したペプチドに由来する特異的なピーク(y)が検出された。
【0093】
糖転移酵素の基質特異性を利用して、任意の糖鎖もしくは糖ペプチドが作製できることが確認された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスを用いて、転移基で修飾された基質を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに糖鎖合成の方法は大きく分けて化学的手法と酵素的手法の2つがとられている。このうち化学的手法は1つの糖鎖の合成に多段階の反応が必要であり、また糖をつないでいるグルコシル結合のα、βの立体配置をコントロールすることが困難である。これらのことからあらゆる糖鎖を自動的に合成できる手法はまだ確立されていない。一方、酵素的手法では糖転移酵素を利用する方法が多く用いられている。それは糖転移酵素が、化学的手法では数段階の工程が必要な反応を1つの酵素が触媒することが多いためである。また糖転移酵素が形成するグリコシル結合は立体選択的であるため、目的とするグルコシル結合を形成することを可能にしている。さらに糖転移酵素は糖ヌクレオチドなどの糖供与体と受容体に対して特異性があるため、設計したとおりに糖鎖を合成することが理論的には可能である。しかしながら糖転移酵素のこの高い特異性は、各糖転移反応を触媒する適切な糖転移酵素を必要とすることでもある。さらに活性を保持した糖転移酵素を大量に精製し、活性を安定に保持することが困難であることが、酵素的手法を用いる糖鎖合成を困難にしている。
【0003】
硫酸化修飾は多くの膜タンパク質や分泌タンパク質に対しておこる翻訳後修飾と考えられている。翻訳後修飾においてチロシン残基を硫酸化する酵素は硫酸基転移酵素tyrosylprotein sulfotransferase (TPST) 1または2の2種類しか発見されておらず、どちらかの酵素によって触媒されているため、糖鎖合成ほど困難ではない。しかしながら硫酸化修飾自体あまり解析されていないためTPST 1およびTPST2の特異性などはわかっておらず、TPSTを精製してペプチドやタンパク質に付加することはほとんど行われていない。さらに硫酸化修飾される可能性のあるチロシン残基はO型糖鎖修飾されうるセリンスレオニン残基の近くに存在することが多いが、硫酸化修飾と糖鎖修飾の関係性はまったく分かっていない。
【0004】
一方、バキュロウイルス発現系はバキュロウイルスの高発現蛋白質、特には多角体蛋白質(polyhedrin)遺伝子のプロモーターなどを利用して、目的遺伝子を昆虫細胞(Sf9細胞など)で組換えを起こさせて、大量に発現させる系である。多角体遺伝子に組換えタンパク質を導入しタンパク質を発現させるバキュロウイルスの発現系は、大腸菌やイースト菌を用いる発現系に比べ、膜蛋白質などの疎水性領域を多く持つ蛋白質でも発現タンパク質が凝集を作りにくく、また糖鎖の付加や金属イオンの配位などタンパクの機能に必要な翻訳後修飾がはいるなど利点が多いため膜受容体蛋白質の発現系として多用されている。特許文献1には、膜結合型酵素などの蛋白質をコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養することにより該蛋白質を発現させる方法において、該宿主から放出される発芽バキュロウイルス中に該蛋白質を発現させる方法が記載されている。また、特許文献2には、相互作用蛋白質をコードする遺伝子及び該相互作用蛋白質と相互作用して機能する膜型受容体蛋白質をコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養し、該宿主から放出される発芽バキュロウイルス中に該相互作用蛋白質と該膜型受容体蛋白質とを同時発現させることを含む、機能を有する膜型受容体蛋白質を発現する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−333773号公報
【特許文献2】特開2003−52370
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、糖鎖などの転移基で修飾された基質(タンパク質、糖など)を製造するための新規な方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスの存在下において基質に、転移基を含む物質を接触させることによって、転移基で修飾された基質を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスの存在下において基質に、転移基を含む物質を接触させることを含む、転移基で修飾された基質の製造方法。
(2) 転移酵素が、スルホトランスフェラーゼ又はグリコシルトランスフェラーゼであり、転移基が硫酸基又はグリコシル基である、(1)に記載の方法。
(3) 基質がタンパク質である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 転移酵素をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養し、該宿主から放出される発芽バキュロウイルスを回収することによって得られる発芽バキュロウイルスを、上記転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスとして使用する、(1)から(3)の何れかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、糖鎖などの転移基で修飾された基質(タンパク質など)を簡便かつ効率的に製造することが可能である。本発明の方法によりペプチドを翻訳後修飾し、機能の高いペプチドを製造することが可能である。本発明の方法により製造されるペプチドは、実験試薬、検査試薬、ワクチン、医薬品などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ウエスタンブロット法による発芽型ウイルス上の発現したT7-TPST2の確認を示す。
【図2】図2は、ウエスタンブロット法による発芽型ウイルス上の発現したV5-ppGalNAcT1の確認を示す。
【図3】図3は、ウエスタンブロット法による発芽型ウイルス上に共発現したV5-ppGalNAcT1およびHA-C1GalT1の確認を示す。
【図4】図4は、フローサイトメトリー解析による抗硫酸化CCR5抗体C1324の解析を示す。
【図5】図5は、ドットブロット法による硫酸基転移反応の解析を示す。
【図6】図6は、逆相クロマトグラフィーによるN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)転移ペプチドの分離を示す。
【図7】図7は、MALDI-TOF MSによる標準ペプチドの測定を示す。
【図8】図8は、LC-MS/MSによる図6における逆相クロマトグラフィーのフラクションの解析(ベースピークイオンクロマトグラム)を示す。
【図9】図9は、図8における各ピークのLC-MS/MSスペクトル解析を示す。
【図10】図10は、逆相クロマトグラフィーによるN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)およびガラクトース(Gal)転移ベプチドの分離を示す。
【図11】図11は、LC-MS/MSによる図10における逆相クロマトグラフィーのフラクションの解析(ベースピークイオンクロマトグラム)を示す。
【図12】図12は、図10における各フラクションのLC-MSスペクトル解析を示す。
【図13】図13は、図12における各ピークのLC-MS/MSスペクトル解析を示す。
【図14】図14は、発芽バキュロウイルス上へのHA-C1GalT1、HA-C1GalT1とT7-Cosmcの共発現をウエスタンブロットにより確認した結果を示す。
【図15】図15は、T7-Cosmcの共発現の有無による、HA-C1GalT1を発現した発芽バキュロウイルスのガラクトース転移反応効率を逆相クロマトグラフィーにより解析した結果を示す。
【図16】図16は、発芽バキュロウイルス上へのHis-ST3GalI発現をウエスタンブロットにより確認した結果を示す。
【図17】図17は、発芽バキュロウイルス上へのmyc-ST6GalNAcI発現をウエスタンブロットにより確認した結果を示す。
【図18】図18は、発芽バキュロウイルス上へのmyc-ST6GalNAcIII発現をウエスタンブロットにより確認した結果を示す。
【図19】図19は、糖転移酵素を発現した発芽バキュロウイルスによるシアル酸付加糖鎖修飾ペプチドの合成反応の手順を示す。
【図20】図20は、逆相クラマトグラフィーによる合成したシアル酸付加糖鎖修飾ペプチド生成物の評価の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明による転移基で修飾された基質の製造方法は、転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスの存在下において基質に、転移基を含む物質を接触させることを特徴とする。
【0012】
本発明で用いる転移酵素の種類は特に限定されず、例えば、(1)メチル基・カルボキシル基転移酵素(メチルトランスフェラーゼ・カルボキシルトランスフェラーゼ)、(2)アルデヒド基・ケト基転移酵素(トランスアルドラーゼ)、(3)アシル基転移酵素(アシルトランスフェラーゼ)、(4)グリコシル基転移酵素(グリコシルトランスフェラーゼ)、(5)アルキル基転移酵素、(6)アミノ基転移酵素(アミノトランスフェラーゼ)、(7)リン酸基転移酵素(ホスホトランスフェラーゼ)、及び(8)硫酸基転移酵素(スルホトランスフェラーゼ)などを使用することができる。上記の中でも、特にスルホトランスフェラーゼ又はグリコシルトランスフェラーゼが好ましい。転移酵素は、得たい生成物に応じ、転移基、ドナー基質、アクセプター基質、基質の修飾位置等に特異的な酵素を適宜選択することができる。
【0013】
グリコシルトランスフェラーゼとしては、ガラクトース転移酵素、N-アセチルガラクトサミン転移酵素、グルコース転移酵素、N-アセチルグルコサミン転移酵素、シアル酸転移酵素、フコース転移酵素、マンノース転移酵素、キシロース転移酵素、グルクロン酸転移酵素、コンドロイチン合成酵素、ヘパラン硫酸ポリメラーゼなどを挙げることができる。
【0014】
本発明で用いる基質としては、タンパク質、ペプチド、DNA、糖、脂質などを挙げることができるが、好ましくはタンパク質または糖である。本発明で用いる基質がタンパク質である場合、該タンパク質は、化学合成したタンパク質でもよいし、遺伝子組み換え技術により作製した組み換えタンパク質でもよい。
本発明では、適宜選択した転移酵素、ドナー基質、アクセプター基質を用いることにより、所望の転移基で修飾された基質を製造することができる。基質を修飾する転移基は1でも良いし、2以上でも良い。また、基質を修飾する転移基をさらに転移基により修飾することもできる。例えば、O−結合型糖鎖のうちムチン型糖鎖を合成する場合には、はじめにセリンまたはスレオニンを含むペプチドにUDP-GalNAc:polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferase(Polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferase 1;ppGalNAcT1)を発現した発芽型バキュロウイルス、および基質となるUDP-N-アセチルガラクトサミン(UDP-GalNAc)を加え、GalNAca1−O−Ser/Thr構造を作製し、ムチン型糖鎖の合成を開始する。次に、ムチン型糖鎖はN-アセチルガラクトサミンの次に結合する糖残基によりコア1からコア8までのタイプに分類されているが、例えばコア1構造(Galb1−3GalNAca1−O−Ser/Thr)を作製するには、そこにcore1 UDP-galactose : N-acetylgalactosamine-a-R b 1,3-galactosyltransferase 1(Core1 β-1,3-galactosyltransferase 1;C1GalT1)を発現した発芽型バキュロウイルスおよびUDP-ガラクトース(UDP-Gal)を加えれば合成でき、コア3構造(GlcNAcb1−3GalNAca1−O−Ser/Thr)を作製するには、UDP-GlcNAc : bGal b 1,3-N-acetylglucosaminyltransferase 6を発現した発芽型バキュロウイルスおよびUDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)を加えれば合成できる。GalNAca1−O−Ser/Thr構造にα-N-acetylgalactosaminide α-2,6-sialyltransferase 1(ST6GalNAc I)を発現した発芽バキュロウイルス、および糖基質となるCMP-N-アセチルノイラミン酸(CMP-NeuNAc)を加えればNeuNAcα2−6GalNAca1−O−Ser/Thrを作製できる。さらに、コア1型構造にβ-galactoside α-2,3-sialyltransferase 1(ST3Gal I)を発現した発芽バキュロウイルスおよびCMP- N-アセチルノイラミン酸を加えれば、シアル酸が1つ付加されたNeuNAcα2−3Galb1−3GalNAca1−O−Ser/Thr(2, 3 sialyl-T antigen)を作製することができ、ここにさらにα-N-acetylgalactosaminide α-2,6-sialyltransferase 3(ST6GalNAc III)を発現した発芽バキュロウイルスおよびCMP- N-アセチルノイラミン酸を加えれば、シアル酸が2つ付加されたNeuNAcα2−3Galb1−3(NeuNAcα2−6)GalNAca1−O−Ser/Thr(disialyl-T antigen)を作製することができる。
目的の反応が完了した後に、発芽バキュロウイルスは反応系に残しても良いが、遠心分離、ろ過等の公知の方法により反応系から取り除くことも容易に行うことができる。
【0015】
O−結合型糖鎖のうちプロテオグリカンを合成する場合には、はじめにプロテオグリカンに共通した4糖構造GlcAb1−3Galb1−3Galb1−4Xylb1−O−Serを合成する。そのためにはセリンを含むペプチドにxylosyltransferase 1、b 1,4-galactosyltransferase 7、b 1,3-galactosyltransferase 6、b 1,3-glucuronyltransferase 3を発現した発芽型バキュロウイルスおよび基質となるUDP-キシロース(UDP-Xyl)、UDP-ガラクトース、UDP-グルクロン酸(UDP-GlcA)を加えれば合成することができる。そして次にコンドロイチン硫酸を合成する場合には、4糖構造にGlcA−GalNAcの繰り返し構造を伸長させる。そのために、chondroitin sulfate N-acetylgalactosaminyltransferase 1、chondroitin sulfate synthase 1を発現した発芽型バキュロウイルスおよび糖基質となるUDP-N-アセチルガラクトサミン、UDP-グルクロン酸を加えて、反応時間、接触回数を調整して、糖鎖を伸長させる。またヘパラン硫酸を合成する場合には、4糖構造にGlcA−GlcNAc繰り返し構造を伸長させために、heparan sulfate a4-N-Acetylhexosaminyltransferase、heparan sulfate GlcA/GlcNAc transferase 1を発現した発芽型バキュロウイルスおよび糖基質となるUDP-N-アセチルグルコサミン、UDP-グルクロン酸を加えて、反応時間、接触回数を調整して、糖鎖を伸長させる。そして最後にそれぞれの伸長させた糖鎖に硫酸転移酵素を発現した発芽型バキュロウイルスおよびPAPSを接触させて硫酸基を転移させることで、コンドロイチン硫酸およびヘパラン硫酸を合成することができる。
【0016】
本発明では、転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスを使用する。転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスは、転移酵素をコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを使用して作製することができる。
【0017】
昆虫に感染して病気を起こすウイルスであるバキュロウイルスは、環状の二本鎖DNAを遺伝子としてもつエンベロープウイルスで、鱗翅目、膜翅目および双翅目などの昆虫に感受性を示す。バキュロウイルスの中で、感染細胞の核内に多角体(ポリヒドラ)と呼ばれる封入体を大量につくる一群のウイルスが核多角体病ウイルス(NPV)である。多角体は、分子量31kDaのポリヘドリンタンパクより構成され、感染後期に大量につくられその中に多数のウイルス粒子を埋め込んでいる。多角体はウイルスが自然界で生存するためには必須であるが、ウイルスの増殖そのものには必要ないので、多角体遺伝子の代わりに発現させたい外来遺伝子を挿入してもウイルスは全く支障なく感染し増殖する。バキュロウイルスは、その感染サイクルの中で、核内封入体を作る形の封入体型ウイルスの他に、感染の際に細胞外へ出る発芽型ウイルスの形をとる。本明細書において発芽バキュロウイルス、発芽型ウイルスの語は、いずれもバキュロウイルスの発芽型ウイルスを指す。
【0018】
本発明で用いられるバキュロウイルスとしては、NPVのキンウワバ亜科のオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPV(AcNPV)やカイコのボンビックス・モリ(Bombyx mori )NPV(BmNPV)などのウイルスがベクターとして用いることができる。
【0019】
AcNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda )細胞(Sf細胞)、BTI−TN−5B1−4細胞などが挙げられ、BmNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはBmN4細胞などが挙げられる。Sf細胞は、BmN4細胞などに比べ増殖速度が速いこと、また、AcNPVはヒト肝細胞およびヒト胎児腎細胞などにも感染する能力を有することから、AcNPV系のベクターが好ましい。
【0020】
宿主としては、Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などがS.frugiperda幼虫の卵巣組織から確立しており、Invitrogen社あるいは日本ベクトン・ディッキンソン株式会社、又はATCCなどから入手可能である。さらに、生きている昆虫幼虫を宿主細胞系として使用することもできる。
【0021】
本発明で用いる組換えウイルスを構築する方法は、常法に従って行えばよく、例えば次の手順で行うことができる。
先ず、発現させたい蛋白質の遺伝子をトランスファーベクターに挿入して組換えトランスファーベクターを構築する。
【0022】
トランスファーベクターの全体の大きさは一般的には数kb〜10kb程度であり、そのうちの約3kbはプラスミド由来の骨格であり、アンピシリン等の抗生物質耐性遺伝子と細菌のDNA複製開始のシグナルを含んでいる。通常のトランスファーベクターではこの骨格以外に、多角体遺伝子の5’領域と3’領域をそれぞれ数kbずつ含み、以下に述べるようなトランスフェクションを行った際に、この配列間で目的遺伝子と多角体遺伝子との間で相同組換えが引き起こる。また、トランスファーベクターには蛋白質遺伝子を発現させるためのプラモーターを含むことが好ましい。プロモーターとしては、多角体遺伝子のプロモーター、p10遺伝子のプロモーター、gp64遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。
【0023】
トランスファーベクターの種類は特に限定されない。トランスファーベクターの具体例としては、AcNPV系トランスファーベクターとしては、pAcSG2、pVL1392/1393、pAcMP2/3、pAcUW21、pAcDZ1、pBlueBac4.5、pAcUW51、pAcAB4、pBlueBacHis2、pAcUW1、pAcUW42/43などが挙げられ、BmNPV系トランスファーベクターとしては、pBK283、pBKblue(以上、フナコシ株式会社、Invitrogen社、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社等から入手可能)などが挙げられる。
【0024】
次に、組換えウイルスを作製するために、上記の組換えトランスファーベクターをウイルスゲノムDNAと混合した後、宿主として用いる培養細胞に移入し、組換えトランスファーベクターとウイルスゲノムDNAとの間に相同組み換えを起こさせ、組み換えウイルスを構築する。
【0025】
また、バキュロウイルスを用いたタンパク質の発現を目的として、様々なキットが市販されており、本発明においてはそれらを用いることができる。多くの系ではウイルスのゲノムDNAと発現させる遺伝子をサブクローニングしたトランスファーベクターを昆虫細胞にコトランスフェクションした後、β−galによるblue/white選択を行うことによりクローニングを行うものである。また、Invitrogen社から市販されているBAC−TO−BACは、バキュロウイルスのDNAへの目的タンパク質のcDNAの組換えを大腸菌の中で行わせ、昆虫細胞レベルでのクローニングを行う必要のないシステムである。130kbのウイルスDNAはDH10BACというホストの大腸菌の中に入っており、これにトランスファーベクターであるpFASTBACに目的のcDNAを挿入したものを通常の大腸菌の形質転換と同様に導入し、大腸菌のblue/white選択により組換え体を選別できる。組換えウイルスDNAは通常のアルカリミニプレップにより抽出し、細胞にトランスフェクションすることができる。トランスファーベクターであるpFASTBACとしては、タグなしのpFASTBAC1、6xHISタグ付きのpFASTBAC−HTa,b,c、2つのタンパクを共発現するためのpFASTBAC−DUALなどがあり、本発明においてもその目的に応じて適宜選択して使用することができる。
【0026】
ここで宿主として用いる培養細胞とは、上記した宿主が挙げられ、通常、昆虫培養細胞(Sf9細胞やBmN細胞など)である。培養条件は、当業者により適宜決定されるが、具体的にはSf9細胞を用いた場合は10%ウシ胎児血清を含む培地で、28℃前後で培養することが好ましい。このようにして構築された組み換えウイルスは、常法、例えばプラークアッセイなどによって精製することができる。なお、このようにして作製された組換えウイルスは、核多角体病ウイルスの多角体蛋白質の遺伝子領域に外来のDNAが置換または挿入されており多角体を形成することができないため、非組換えウイルスと容易に区別することが可能である。
【0027】
本発明の方法では、前記の組換えバキュロウイルスを、上記した適当な宿主(Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などの培養細胞、又は昆虫幼虫など)に感染させ、一定時間後(例えば、72時間後等)に培養上清から細胞外発芽ウイルス(budded virus, BV)を遠心などの分離操作によって回収することにより、目的蛋白質を回収することができる。なお、組換えバキュロウイルスは1種類のみ感染させてもよいし、2種類以上の組換えバキュロウイルスを組み合わせて共感染させてもよい。
【0028】
細胞外発芽バキュロウイルスの回収は、例えば、以下のように行うことができる。先ず感染細胞の培養液を500〜1,000gで遠心分離して、細胞外発芽バキュロウイルスを含む上清を回収する。この上清を約30,000〜50,000gで遠心分離して細胞外発芽バキュロウイルスを含む沈殿物を得ることができる。上記のようにして発芽バキュロウイルスを回収することができる。
【0029】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
実施例1:ヒトTyrosylprotein sulfotransferase 2(TPST2)、UDP-GalNAc:polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferase 1(ppGalNAcT1)もしくはcore1 UDP-galactose:N-acetylgalactosamine-a-R b 1,3-galactosyltransferase 1(C1GalT1)を発現する組換えバキュロウイルスの調製
(1)ヒトTPST2発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトTPST2のN末側にT7タグを付加したT7-TPST2を発現させるための組換えバキュロウイルスは以下のようにして調製した。
【0031】
PCRによりヒトTPST2遺伝子(塩基配列は配列番号1、アミノ酸配列は配列番号2に示す)の5'-端にT7タグ(配列番号3)をコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1(Invitrogen社製)に挿入してpFastBac-T7TPST2を作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression System(Invitrogen社製)を用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、TPST2をコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつT7タグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーT7TPST2F1(配列番号4)ならびにTPST2をコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーTPST2R(配列番号6)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNA(Clontech社製)を鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR System(Rcche Diagnostics社製)の添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素BamHIの認識配列(GGATCC)ならびにT7タグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーT7TPST2F2(配列番号5)ならびにプライマーTPST2RでPCRを行った。その結果得られたPCRの増幅産物をpGEM-T Easy vector(Promega社製)に挿入し、TAクローニングを行った。そこからBamHI(タカラバイオ株式会社製)およびXhoI(タカラバイオ株式会社製)を用いてT7-TPST2をコードするDNAを切断し、アガロースゲルからT7-TPST2をコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen社)を用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1(Invitrogen社製)に挿入しpFastBac-T7TPST2を作製した。
【0032】
続いてBac-to-Bac Baculovirus Expression System(Invitrogen社製)の添付の指示書に従い、pFastBac-T7TPST2から組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。
【0033】
(2)ヒトppGalNAcT1発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトppGalNAcT1のN末側にV5タグを付加したV5-ppGalNAcT1を発現させるための組換えバキュロウイルスは上記と同様の方法により行った。
【0034】
PCRによりヒトppGalNAcT1遺伝子(塩基配列は配列番号7、アミノ酸配列は配列番号8に示す)の5'-端にV5タグ(配列番号9)をコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1に挿入してpFastBac-V5ppGalNAcT1を作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression Systemを用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、ppGalNAcT1をコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつV5タグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーV5ppGalNAcT1F1(配列番号10)ならびにppGalNAcT1をコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーppGalNAcT1R(配列番号12)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNAを鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR Systemの添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素BamHIの認識配列(GGATCC)ならびにV5タグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーV5ppGalNAcT1F2(配列番号11)ならびにプライマーppGalNAcT1RでPCRを行った。その結果得られたPCRの結果増幅産物をpGEM-T Easy vectorに挿入しTAクローニングを行った。そこからBamHIおよびXhoIを用いてV5-ppGalNAcT1をコードするDNAを切断し、アガロースゲルからV5-ppGalNAcT1をコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kitを用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1に挿入しpFastBac-V5ppGalNAcT1を作製した。
【0035】
続いてBac-to-Bac Baculovirus Expression Systemの添付の指示書に従い、pFastBac-V5ppGalNAcT1から組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。
【0036】
(3)ヒトC1GalT1発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトC1GalT1のN末側にHAタグを付加したHA-C1GalT1を発現させるための組換えバキュロウイルスは上記と同様の方法により行った。
【0037】
PCRによりヒトC1GalT1遺伝子(塩基配列は配列番号13、アミノ酸配列は配列番号14に示す)の5'-端にHAタグ(配列番号15)をコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1に挿入してpFastBac-HAC1GalT1を作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression Systemを用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、C1GalT1をコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつHAタグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーHAC1GalT1F1(配列番号16)ならびにC1GalT1をコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーC1GalT1R(配列番号18)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNAを鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR Systemの添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素BamHIの認識配列(GGATCC)ならびにHAタグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーHAC1GalT1F2(配列番号17)ならびにプライマーC1GalT1RでPCRを行った。その結果得られたPCRの結果増幅産物をpGEM-T Easy vectorに挿入しTAクローニングを行った。そこからBamHIおよびXhoIを用いてHAC1GalT1をコードするDNAを切断し、アガロースゲルからHA-C1GalT1をコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kitを用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1に挿入しpFastBac- HAC1GalT1を作製した。
【0038】
(4)T7-TPST2、V5-ppGalNAcT1もしくはHA-C1GalT1を発現する発芽型ウイルスの調製
T7-TPST2もしくはV5-ppGalNAcT1を発現する発芽型ウイルスの調製は以下のようにして行った。すなわち、上記により調製した組換えウイルスをMOI(Multiplicity of infection)=3となるようにSf9細胞(1 x 106個/mL)に加え感染させた。27℃で4日間培養した培養液を1,000 x gで15分間遠心分離し、細胞ならびに細胞破砕物を除去した。遠心分離により回収した上清をさらに40,000 x gで30分間遠心分離した後、沈殿物を50mM Tris-HCl (pH 7.4)に懸濁した。それを1,000 x gで15分間遠心分離することで再度、細胞成分を除去した。その上清を40,000 x gで30分間遠心分離し、沈殿物を50mM Tris-HCl (pH 7.4)に再懸濁したものを発芽型ウイルス画分とした。
【0039】
V5-ppGalNAcT1およびHA-C1GalT1を発現する発芽型ウイルスの調製は以下のようにして行った。すなわち、上記により調製したV5-ppGalNAcT1発現組換えバキュロウイルスをMOI=3となるように、HA-C1GalT1発現組換えバキュロウイルスをMOI=10となるように同時にSf9細胞(1 x 106個/mL)に加え感染させた。27℃で4日間培養した培養液を1,000 x gで15分間遠心分離し、細胞ならびに細胞破砕物を除去した。遠心分離により回収した上清をさらに40,000 x gで30分間遠心分離した後、沈殿物を50mM Tris-HCl (pH 7.4)に懸濁した。それを1,000 x gで15分間遠心分離することで再度、細胞成分を除去した。その上清を40,000 x gで30分間遠心分離し、沈殿物を50mM Tris-HCl (pH 7.4)に再懸濁したものを発芽型ウイルス画分とした。
【0040】
(5)T7-TPST2、V5-ppGalNAcT1もしくはV5-ppGalNAcT1とHA-C1GalT1を発現する発芽型ウイルスのウエスタンブロット法による評価
発芽型ウイルスにT7-TPST2、V5-ppGalNAcT1またはV5-ppGalNAcT1とHA-C1GalT1が発現していることは、ウエスタンブロット法により確認を行った。
【0041】
T7-TPST2を発現する発芽型ウイルスは1レーンあたり30μgの発芽型ウイルスをSDS-PAGEで分離後、ニトロセルロース膜(GEヘルスケアバイオ社製)に転写した。それをブロックエース(大日本住友製薬株式会社製)で室温、1時間インキュベートし、0.05%Tween-20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄した。その後、100 ng/mLのマウス抗T7抗体(Novagen社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、80 ng/mLのHRP標識ヤギ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、化学発光試薬Supersignal West Dura Extended Duration Substrate(Pierce社製)を用いて発光させて、X線フィルム(富士フィルム社製)を用いて検出した。その結果、T7-TPST2を発現させた発芽型ウイルスに、特異的なバンドを確認した(図1)。
【0042】
V5-ppGalNAcT1を発現する発芽型ウイルスも同様にSDS-PAGE後、ニトロセルロース膜へ転写した。それをブロックエースで1時間インキュベートし、PBS-Tで3回洗浄を行った。その後、710 ng/mLのウサギ抗V5抗体(シグマ社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。それをPBS-Tで3回洗浄した後、10,000倍希釈したHRP標識ヤギ抗ウサギ抗体(シグマ社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、Supersignal West Dura Extended Duration Substrateを用いて発光させて、X線フィルムを用いて検出した。その結果、V5-ppGalNAcT1を発現させた発芽型ウイルスに特異的なバンドを確認した(図2)。
【0043】
V5-ppGalNAcT1とHA-C1GalT1を発現する発芽型ウイルスも同様にSDS-PAGE後、ニトロセルロース膜へ転写した。それをブロックエースで1時間インキュベートし、PBS-Tで3回洗浄を行った。その後、710 ng/mLのウサギ抗V5抗体または370ng/mLのマウス抗HA抗体(シグマ社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。それをPBS-Tで3回洗浄した後、10,000倍希釈したHRP標識ヤギ抗ウサギ抗体または80 ng/mLのHRP標識ヤギ抗マウス抗体を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、Supersignal West Dura Extended Duration Substrateを用いて発光させて、X線フィルムを用いて検出した。その結果、V5-ppGalNAcT1とHA-C1GalT1を発現させた発芽型ウイルスに特異的なバンドを確認した(図3)。
【0044】
実施例2:抗硫酸化CCR5抗体の作製
(1)マウスへの免疫ならびにハイブリドーマの作製
マウスモノクローナル抗体を単離する際に免疫動物として抗原分子の発現をなくしたノックアウトマウスを用いることで効率よく抗体が単離できることが知られている(Roes J., ら、J. Immunol. Methods, 1995; 183: 231-237., Declerck PJ., ら、J. Biol. Chem. 1995; 270: 8397-8400.)。そこで免疫動物としてCCR5ノックアウトマウス(Kuziel WA., ら、Atherosclerosis, 2003; 167: 25-32.)を用いた。抗原にはKLHコンジュゲートしたCCR5のN端領域の硫酸化修飾ペプチド1(Gln Val Ser Ser Pro Ile Tyr(SO3H) Asp Ile Asn-NH2)(配列番号19、ペプチド研究所社製)を用いた。1回の免疫にはマウス1匹当たり100μgのペプチドを免疫し、初回免疫時にはFreund's Complete Adjuvant(DIFCO社製)と混合したものをマウスの腹腔内に投与した。さらに2週間ごとに追加免疫を2回行い、その際にはFreund's Incomplete Adjuvant(DIFCO社製)と混合したものを腹腔内に投与した。最終免疫3日後にマウスより無菌的に脾臓を摘出し、常法によりマウスミエローマ細胞株NS-1と細胞融合させハイブリドーマ細胞を作製した。
【0045】
(2)抗硫酸化CCR5抗体C1324のクローニング
NaClO3含有培地で培養した細胞はチロシン残基への硫酸化修飾が抑制されることが報告されている(Hortin GL., ら、Biochem. Biophys. Res. Commun., 1988; 150: 342-348.)。そこでNaClO3含有培地およびNaClO3不含培地で培養した細胞を用いて、フローサイトメトリー解析を行った。細胞はヒトCCR5(塩基配列は配列番号22、アミノ酸配列は配列番号23に示す)を強制発現させたCHO細胞株(CCR5/CHO)および陰性対照としてヒトCCR2B(塩基配列は配列番号24、アミノ酸配列は配列番号25に示す)を強制発現させたCHO細胞(CCR2/CHO)を用いた。すなわちCCR5/CHOおよびCCR2/CHOを、1%ウシ胎児血清を含むHam F-12培地(Invitrogen社製)に播種し、硫酸化修飾を抑制する細胞にはNaClO3を、硫酸化修飾を抑制しない細胞にはMgSO4をそれぞれ10 mMとなるように添加し、37℃で18時間培養した。その後PBSで1回洗浄し、続いて5 mM エチレンジアミン四酢酸を含むPBSを加えて細胞をプレートから剥離させた。剥離させた細胞を、2%ウシ胎児血清を含むPBS(PBS-FCS)で2回洗浄後、ハイブリドーマ培養上清25μLとPBS-FCS 25μLを添加し、4℃で1時間インキュベートした。その後PBS-FCSで2回洗浄し、14μg/mLのFITC標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch社製)を含むPBS-FCSを50μLずつ添加し、さらに室温で1時間インキュベートした。PBS-FCSで3回洗浄した後、フローサイトメトリー解析を行った。その結果、MgSO4を添加した培地で培養したCCR5/CHOには強く反応するが、NaClO3を添加した培地で培養したCCR5/CHOおよびCCR2/CHOにはほとんど反応しないハイブリドーマC1324をクローニングした(図4)。
【0046】
実施例3:硫酸基転移反応
(1)試験管内での硫酸基転移反応
ヒトCCR5のN末端のチロシン残基は硫酸化修飾されることが報告されている(Farzan M., ら、Cell, 1999; 96: 667-676)。そこでT7-TPST2を発現した発芽型ウイルスが、硫酸基供与体PAPSからヒトCCR5のN末端領域の合成ペプチドへ硫酸基を転移させるかを検討した。
【0047】
すなわち、1μgのヒトCCR5のN端領域20アミノ酸の非修飾ペプチド(配列番号20、ペプチド研究所社製)(Met Asp Tyr Gln Val Ser Ser Pro Ile Tyr Asp Ile Asn Tyr Tyr Thr Ser Glu Pro Cys-NH2)と30μgのT7-TPST2発現発芽型ウイルスおよび10 mM 3'-phosphoadenosine-5'-phosphosulfate(PAPS:シグマ社製)を50μLのアッセイバッファー(20 mM 2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid(MES)(pH 6.2)、20 mM MnCl2、50 mM NaF、2 mM 5'-AMP、0.01%Triton X-100)中で、37℃で2、4、20時間インキュベートした。また陰性対照としてT7-TPST2を発現していない発芽型ウイルスを加えた条件でもインキュベートを行った。
【0048】
(2)ドットブロット法による評価
硫酸基がペプチドへ転移されているかを評価するために、抗硫酸化CCR5抗体および抗CCR5抗体を用いてドットブロット法により検討を行った。すなわち上記の方法でインキュベートした反応溶液のうち2μLをニトロセルロース膜に滴下した。水分が蒸発したことを目視で確認した後、ブロックエースで室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、25 ng/mLの抗硫酸化CCR5抗体C1324または100 ng/mLの抗CCR5抗体12D1(Chemicon社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、10 ng/mLのHRP標識ヤギ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch社製)を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、化学発光試薬Supersignal West Dura Extended Duration Substrateを用いて発行させて、X線フィルムを用いて検出した。その結果、抗CCR5抗体12D1で検出した場合、各インキュベート時間で、T7-TPST2を発現した発芽型ウイルスを含む反応液およびT7-TPST2を発現していない発芽型ウイルスを含む反応液で同等の反応が検出された(図5B)。一方、抗硫酸化CCR5抗体C1324を用いて検出した場合、T7-TPST2を発現した発芽型ウイルスを加えた反応液にだけ反応が検出された(図5A)。このことから、T7-TPST2を発現した発芽型ウイルスがペプチドに硫酸基を転移させたことが確認された。
【0049】
実施例4:V5-ppGalNAcT1を発現した発芽型ウイルスによる複数個のN-アセチルガラクトサミン転移反応
(1)試験管内でのN-アセチルガラクトサミンの転移反応
ヒトCCR5のN末端は6,7,17位にセリン残基が、16位にスレオニン残基があり、そのいずれかの複数箇所がO型糖鎖修飾される可能性のあることが報告されている(Bannert N., ら、J. Exp. Med., 2001; 194: 1661-1673.)。そこでV5-ppGalNAcT1発現発芽型ウイルスが、UDP-N-アセチルガラクトサミン(UDP-GalNAc)からヒトCCR5のN末端領域の合成ペプチドへ複数個のN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を転移させるかを検討した。
【0050】
すなわち10μgのヒトCCR5のN端領域20アミノ酸の非修飾ペプチド(配列番号20)と10μgのV5-ppGalNAcT1を発現した発芽型ウイルスおよびUDP-N-アセチルガラクトサミン(シグマ社製)を50μLのアッセイバッファー(50 mM MES(pH 6.0)、3 mM MnCl2、5 mMジメルカプトプロパノール、0.1 mM ATP、0.01%Tween-20)中で37℃、14時間インキュベートした。また陰性対照としてUDP-N-アセチルガラクトサミンを加えない条件でもインキュベートを行った。
【0051】
(2)逆相クロマトグラフィーによる評価
続いてN-アセチルガラクトサミンがペプチドへ転移されているか評価するために、逆相クロマトグラフィーを用いて検討を行った。
【0052】
はじめに反応溶液に逆相クロマトグラフィーの溶媒A液(10%アセトニトリル、0.1%トリフロロ酢酸水溶液)を600μLを加えて、5分間静置した後、20,000 x gで30分間遠心分離し、上清を回収した。さらにその上清を孔径0.22μmのPVDFフィルター(ミリポア社製)に通してV5-ppGalNAcT1を発現した発芽型ウイルスを除き、逆相クロマトグラフィーのサンプルとした。逆相カラムSOURCE 5RPC ST 4.6/150(GEヘルスケアバイオ社製)をあらかじめ溶媒A液で平衡化しておき、フィルターを通したサンプル500μLを逆相カラムに吸着させた。7.5 mLの溶媒A液でカラムを洗浄した後、溶媒B液(60%アセトニトリル、0.1%トリフロロ酢酸水溶液)を0.8 mL/分の流速で流し、溶出を行った。検出はペプチド結合に由来する220 nmの波長の吸光度を測定した。その結果、UDP-N-アセチルガラクトサミンを添加していない反応溶液から得られたクロマトグラム(図6(A))とUDP-N-アセチルガラクトサミンを添加してインキュベートを行った反応溶液から得られたクロマトグラム(図6(B))を比較すると、UDP-N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液には、保持時間(retention time)23.68、24.44、25.21分に特異的なピークが検出された。
【0053】
(3)質量分析計によるN-アセチルガラクトサミンの転移反応の確認
V5-ppGalNAcT1を発現した発芽型ウイルスによるペプチドへのN-アセチルガラクトサミンの転移反応をさらに確認するために、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization - Time of Flight Mass Spectrometry : MALDI-TOF MS)を用いて逆相クロマトグラフィーにより得られたフラクションを測定した。標準ペプチドとして非修飾ペプチド(配列番号20、モノアイソトピック質量2386.0)と、これにN-アセチルガラクトサミン修飾ペプチド(配列番号21、モノアイソトピック質量2589.1、ペプチド研究所社製)(Met Asp Tyr Gln Val Ser Ser(GalNAc) Pro Ile Tyr Asp Ile Asn Tyr Tyr Thr Ser Glu Pro Cys-NH2)の2種類のペプチドを使用した(図7)。
【0054】
各フラクション2μLと10 mg/mlの2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-Dihydroxybenzoic acid (DHB))0.5μLをMALDIターゲットプレート上にスポットして測定し、標準ペプチドと分子量を比較した。その結果、retention time 25.21分のフラクションは非修飾ペプチドに1分子のN-アセチルガラクトサミンが結合したものに相当するプロトン付加分子が観測された。またretention time 23.68分および24.44分のフラクションは非修飾ペプチドに2分子のN-アセチルガラクトサミンが結合した質量増加に相当するプロトン付加分子が検出された。これらの結果からV5-ppGalNAcT1発現発芽型ウイルスによって非修飾ペプチドへ複数個のN-アセチルガラクトサミンが転移されたことが示された。
【0055】
更にそれらのフラクションについて電場型フーリエ変換質量分析計を用いてLC-MS/MS解析を行った。各フラクションは0.2 mm ID x 150 mm C18 モノリスカラム(GLサイエンス社)で分離後、オンラインで質量分析計での検出を行った。その結果MALDI-TOF MSと同様24.44分と25.21分で1分子のN-アセチルガラクトサミンの結合、23.68分と24.44分で2分子のN-アセチルガラクトサミンの結合相当のピークが検出されたほか、23.68分のフラクションでは更に非修飾ペプチドに3分子のN-アセチルガラクトサミンが結合した質量増加に相当するプロトン付加分子が検出された(図8)。
これらの1から3分子のN-アセチルガラクトサミン結合相当のピークのMS/MSスペクトル解析(図9)により、図8のピーク(a)では1分子のN-アセチルガラクトサミン脱離、ピーク(b)では2分子のN-アセチルガラクトサミン脱離、ピーク(c)では3分子のN-アセチルガラクトサミン脱離相当のピークが検出され、それぞれ1から3分子のN-アセチルガラクトサミンが結合していると考えられた。
【0056】
実施例5:V5-ppGalNAcT1とHA-C1GalTを発現した発芽型ウイルスによるN-アセチルガラクトサミンおよびガラクトースの転移反応
(1)試験管内でのN-アセチルガラクトサミンおよびガラクトースの転移反応
O型糖鎖修飾はppGalNacTによるセリン、スレオニン残基へのN-アセチルガラクトサミンの転移反応から開始される。そしてセリン、スレオニン残基に結合したN-アセチルガラクトサミン残基にさらに単糖が逐次的に転移して、O型糖鎖の基本骨格であるコア構造が形成される。そのコア構造の1つであるコア1構造は、C1GalT1によりUDP-ガラクトース(UDP-Gal)に由来するガラクトース(Gal)がセリン、スレオニン残基に結合したN-アセチルガラクトサミン残基に転移され形成される。そこでV5-ppGalNAcT1およびHA-C1GalT1を発現した発芽型ウイルスがヒトCCR5のN末端領域の合成ペプチドへ、N−アセチルガラクトサミン、ガラクトースの順に転移させるかを検討した。
【0057】
すなわち10μgのヒトCCR5のN端領域の硫酸化ペプチド2(Asp Ile Asn Tyr Tyr(SO3H) Thr Ser Glu Pro Lys)(配列番号26、ペプチド研究所社製)と80μgのV5-ppGalNAcT1およびHA-C1GalTを発現した発芽型ウイルス、さらに糖供与体としてUDP-N-アセチルガラクトサミン単独またはUDP-ガラクトース単独もしくはUDP-N-アセチルガラクトサミンとUDP-ガラクトースの両方を50μLのアッセイバッファー(50 mM MES(pH 6.0)、20 mM MnCl2、10 mM NaF、2 mM ATP、0.01%Tween-20)中で37℃、60時間インキュベートした。また陰性対照としてUDP-N-アセチルガラクトサミンとUDP-ガラクトースの両方を加えない条件でもインキュベートを行った。
【0058】
(2)逆相クロマトグラフィーによる評価
続いてN-アセチルガラクトサミンおよびガラクトースがペプチドへ転移されているか評価するために、逆相クロマトグラフィーを用いて検討を行った。
【0059】
はじめに反応溶液に逆相クロマトグラフィーの溶媒C液(1%アセトニトリル、0.05%トリフロロ酢酸水溶液)を600μLを加えて、5分間静置した後、20,000 x gで30分間遠心分離し、上清を回収した。さらにその上清を孔径0.22μmのPVDFフィルター(ミリポア社製)に通してV5-ppGalNAcT1およびHA-C1GalTを発現した発芽型ウイルスを除き、逆相クロマトグラフィーのサンプルとした。逆相カラムSOURCE 5RPC ST 4.6/150をあらかじめ溶媒C液で平衡化しておき、フィルターを通したサンプル500μLを逆相カラムに吸着させた。7.5 mLの溶媒C液でカラムを洗浄した後、溶媒D液(30%アセトニトリル、0.05%トリフロロ酢酸水溶液)を0.8 mL/分の流速で流し、溶出を行った。検出はペプチド結合に由来する220 nmの波長の吸光度を測定した。その結果、UDP-N-アセチルガラクトサミンとUDP-ガラクトースのどちらも添加していない反応溶液から得られたクロマトグラム(図10(A))とUDP-ガラクトースだけを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図10(B))を比較すると、ほぼ同様なピークが観察された。またUDP-N-アセチルガラクトサミンだけを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図10(C))から、保持時間37.95分に特異的なピークが検出された。さらにUDP-N-アセチルガラクトサミンとUDP-ガラクトースのどちらも添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図10(D))から、さらに保持時間36.09分に特異的なピークが検出された。
【0060】
(3)質量分析計によるN-アセチルガラクトサミンおよびガラクトースの転移反応の確認
更にそれらのフラクションについてLC-MS/MS で、N-アセチルガラクトサミンおよびガラクトースの転移反応の確認を行った。今回用いたペプチドは硫酸化修飾ペプチドのため解析中に硫酸基が脱離してしまい、糖の結合と硫酸基の脱離の複雑なパターンを示す。そこで表1にそれぞれの修飾におけるLC-MS/MSで検出されるm/zの理論値を示した。この理論値に対しMSスペクトルでは0.01以内の精度、MS/MSスペクトルでは0.5以内の精度を持つ。LC-MSのベースピークイオンクロマトグラムではfr. B-1、fr. C-2、fr. D-3で基質ペプチドから硫酸基が脱離したと考えられるペプチドの2価イオンであるm/z635.80がメインピークとして検出された。fr. C-1、fr. D-2からは基質ペプチドにN-アセチルガラクトサミンが結合した物から脱硫酸したものに相当するm/z737.34のピーク、fr. D-1からは基質にN-アセチルガラクトサミンとガラクトースが結合したものから脱硫酸したものに相当するm/z818.37のピークが検出された(図11)。
【0061】
fr. B-1、fr. C-1、fr. D-1についてMSスペクトルから、脱硫酸した物がメインではあるが硫酸基が結合した状態の糖結合分子に相当するピークも検出されている事が明らかになった。図12にそれぞれのm/z値と価数(カッコ内)、相当する修飾名を示す。
N-アセチルガラクトサミン結合・脱硫酸ペプチド相当のfr. C-1のm/z737.34のピークのMS/MS解析によりN-アセチルガラクトサミン脱離相当のピーク、N-アセチルガラクトサミンとガラクトース結合・脱硫酸ペプチド相当のfr. D-1のm/z818.37のピークのMS/MS解析からN-アセチルガラクトサミンとガラクトース脱離、N-アセチルガラクトサミンとガラクトース結合ペプチド相当のfr. D-1のm/z858.35のピークのMS/MS解析からはガラクトース脱離相当のピークが検出され、ペプチドにN-アセチルガラクトサミン、ガラクトースの順で結合していることが示唆された(図13)。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例6:シャペロンタンパク質Cosmcの共発現によるC1GalT1のガラクトースの転移反応の亢進
実施例1(3)で作製したC1GalT1は活性が弱い傾向があった。C1GalT1はシャペロンタンパク質Cosmcの作用により転移活性をもつ状態となる。そこで、発芽バキュロウイルスにC1GalT1とCosmcを共発現させることにより、Cosmcと接触するC1GalT1の量を増やした場合に、C1GalT1を単独で発現している発芽バキュロウイルスよりもガラクトースの転移活性が亢進するかを検討した。
【0064】
(1)ヒトCosmc発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトCosmcのN末側にT7タグを付加したT7-Cosmcを発現させるための組換えバキュロウイルスは実施例1と同様の方法により作製した。
PCRによりヒトCosmc遺伝子(塩基配列は配列番号27、アミノ酸配列は配列番号28に示す)の5'-端にT7タグをコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1に挿入してpFastBac-T7Cocmcを作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression Systemを用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、Cosmcをコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつT7タグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーT7CosmcF1(配列番号29)ならびにCosmcをコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーCosmcR(配列番号30)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNAを鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR Systemの添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素EcoRIの認識配列(GAATTC)ならびにT7タグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーT7CosmcF2(配列番号31)ならびにプライマーCosmcRでPCRを行った。その結果得られたPCRの結果増幅産物をpGEM-T Easy vectorに挿入しTAクローニングを行った。そこからEcoRIおよびXhoIを用いてT7-CosmcをコードするDNAを切断し、アガロースゲルからT7-CosmcをコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kitを用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1に挿入しpFastBac-T7Cosmcを作製した。
【0065】
(2)HA-C1GalT1およびT7-Cosmcの2種類を発現する発芽バキュロウイルスの調製
実施例1(3)で調製したHA-C1GalT1発現組換えバキュロウイルスをMOI=10となるように、T7-Cosmc発現組換えバキュロウイルスをMOI=5となるように同時にSf9細胞(1 x 106個/mL)に加え感染させた。27℃で4日間培養した培養液を1,000 gで15分間遠心分離し、細胞ならびに細胞破砕物を除去した。遠心分離により回収した上清をさらに40,000 gで30分間遠心分離した後、沈殿物を50mM Tris-HCl (pH 7.4)に懸濁した。それを1,000 gで15分間遠心分離することで再度、細胞成分を除去した。その上清を40,000 gで30分間遠心分離し、沈殿物を50mM Tris-HCl (pH 7.4)に再懸濁したものを発芽バキュロウイルス画分とした。
【0066】
(3)調製した発芽バキュロウイルスのウエスタンブロット法による評価
発芽バキュロウイルス上にHA-C1GalT1、T7-Cosmcがそれぞれ単独で、HA-C1GalT1とT7-Cosmcが共発現していることをウエスタンブロット法により確認を行った。実施例1(5)と同様にSDS-PAGEを実施した。
【0067】
HA-C1GalT1を発現する発芽バキュロウイルス、T7-Cosmcを発現する発芽バキュロウイルス、HA-C1GalT1とT7-Cosmcを共発現する発芽バキュロウイルスをSDS-PAGE後、ニトロセルロース膜へ転写した。ニトロセルロース膜をブロックエースで1時間インキュベートし、PBS-Tで3回洗浄を行った。その後、タグ(HA、T7)を認識する一次抗体を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。それをPBS-Tで3回洗浄した後、二次抗体を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。
【0068】
一次抗体
マウス抗HA抗体(シグマ社製)最終濃度 370ng/mL
マウス抗T7抗体 (Novagen社製) 最終濃度 100 ng/mL
【0069】
二次抗体
HRP標識ヤギ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch社製)最終濃度 80 ng/mL
【0070】
PBS-Tで3回洗浄した後、化学発光試薬Supersignal West Dura Extended Duration Substrateを用いて発光させて、X線フィルムを用いて検出した。その結果、HA-C1GalT1、T7-Cosmcをそれぞれ単独で、HA-C1GalT1とT7-Cosmcを共発現させた発芽バキュロウイルスに特異的なバンドをそれぞれ確認した(図14)。
【0071】
(4)試験管内でのC1GalT1およびCosmcの共発現発芽バキュロウイルスによるガラクトースの転移反応
10μgのヒトCCR5のN端領域の硫酸化ペプチド2と90μgのV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP-N-アセチルガラクトサミンを50μLの溶媒C液(50 mM MES(pH 6.0)、20 mM MnCl2、10 mM NaF、2 mM ATP)中で37℃、24時間インキュベートした。その後、15μgのHA-C1GalT1を単独で発現した発芽バキュロウイルスまたは15μgのHA-C1GalT1およびT7-Cosmcを発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP-ガラクトースを50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした。また陰性対照として発芽バキュロウイルスを加えない条件でもインキュベートを行った。
【0072】
(5)逆相クロマトグラフィーによる評価
N-アセチルガラクトサミンおよびガラクトースがペプチドへ転移されているかを評価するために、逆相クロマトグラフィーを用いて検討を行った。
【0073】
はじめに反応溶液に逆相クロマトグラフィーの溶媒C液を600μLを加えて、5分間静置した後、20,000 gで30分間遠心分離し、上清を回収した。さらにその上清を孔径0.22μmのPVDFフィルターに通して発芽バキュロウイルスを除き、逆相クロマトグラフィーのサンプルとした。逆相カラムSOURCE 5RPC ST 4.6/150をあらかじめ溶媒C液で平衡化しておき、フィルターを通したサンプル500μLを逆相カラムに吸着させた。7.5 mLの溶媒C液でカラムを洗浄した後、溶媒D液を0.8 mL/分の流速で流し、溶出を行った。検出はペプチド結合に由来する220 nmの波長の吸光度を測定した。その結果、発芽バキュロウイルスを添加せずUDP-N-アセチルガラクトサミンのみを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図15(A))とV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスとUDP-N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図15(B))を比較すると、UDP-N-アセチルガラクトサミンのみを添加した反応溶液から得られたクロマトグラムには反応に使用した硫酸化ペプチド2に由来するピーク(e)のみが観察されたが、V5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスとUDP-N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液から得られたクロマトグラムには、反応に使用した硫酸化ペプチド2に由来するピーク(f)とN-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドに由来する新たなピーク(g)が観察された。またV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後、HA-C1GalT1だけを発現した発芽バキュロウイルスを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図15(C))には、反応に使用した硫酸化ペプチド2に由来するピーク(h)とN-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドに由来するピーク(i)とGal−GalNAcが転移したペプチドに由来するピーク(j)が検出された。一方、V5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後、HA-C1GalT1とT7-Cosmcの2つを発現した発芽バキュロウイルスを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図15(D))には、N-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドに由来するピークが消失し、反応に使用した硫酸化ペプチド2に由来するピーク(k)とGal−GalNAcが転移したペプチドに由来するピーク(l)が検出された。HA-C1GalT1だけを発現した発芽バキュロウイルスによる反応ではN-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドが半分以上残存したのに対し、HA-C1GalT1とT7-Cosmcの2つを発現した発芽バキュロウイルスによる反応ではN-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドのほとんどにガラクトースが転移したことから、T7-CosmcをHA-C1GalT1を発現したウイルスにともに発現させることにより、HA-C1GalT1によるガラクトースの転移反応が亢進したことが示唆された。
【0074】
実施例7: ST3GalI、ST6GalNAcI、ST6GalNAcIIIを発現する組換えバキュロウイルスの調製
(1)ヒトST3Gal I発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトST3Gal IのN末側にHisタグを付加したHis-ST3GalIを発現させるための組換えバキュロウイルスを実施例1と同様の方法により作製した。
【0075】
PCRによりヒトST3Gal I遺伝子(塩基配列は配列番号32、アミノ酸配列は配列番号33に示す)の5'-端にHisタグ(配列番号34)をコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1に挿入してpFastBac-HisST3GalIを作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression Systemを用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、ST3Gal Iをコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつHisタグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーHisST3GalIF1(配列番号35)ならびにST3Gal Iをコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーST3GalIR(配列番号36)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNAを鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR Systemの添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素BamHIの認識配列(GGATCC)ならびにHisタグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーHisST3GalIF2(配列番号37)ならびにプライマーST3GalIRでPCRを行った。その結果得られたPCRの結果増幅産物をpGEM-T Easy vectorに挿入しTAクローニングを行った。そこからBamHIおよびXhoIを用いてHis-ST3GalIをコードするDNAを切断し、アガロースゲルからHis-ST3GalIをコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kitを用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1に挿入しpFastBac-HisST3GalIを作製した。
【0076】
(2)ヒトST6GalNAc I発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトST6GalNAc IのN末側にc-mycタグを付加したmyc-ST6GalNAcIを発現させるための組換えバキュロウイルスは実施例1と同様の方法により作製した。
【0077】
PCRによりヒトST6GalNAc I遺伝子(塩基配列は配列番号38、アミノ酸配列は配列番号39に示す)の5'-端にc-mycタグ(配列番号40)をコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1に挿入してpFastBac-mycST6GalNAcIを作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression Systemを用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、ST6GalNAc Iをコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつc-mycタグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーmycST6GalNAcIF1(配列番号41)ならびにST6GalNAc Iをコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーST6GalNAcIR(配列番号42)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNAを鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR Systemの添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素BamHIの認識配列(GGATCC)ならびにc-mycタグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーmycST6GalNAcIF2(配列番号43)ならびにプライマーST6GalNAcIRでPCRを行った。その結果得られたPCRの結果増幅産物をpGEM-T Easy vectorに挿入しTAクローニングを行った。そこからBamHIおよびXhoIを用いてmyc-ST6GalNAcIをコードするDNAを切断し、アガロースゲルからmyc-ST6GalNAcIをコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kitを用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1に挿入しpFastBac-mycST6GalNAcIを作製した。
【0078】
(3)ヒトST6GalNAc III発現組換えバキュロウイルスの調製
ヒトST6GalNAc IIIのN末側にc-mycタグを付加したmyc-ST6GalNAcIIIを発現させるための組換えバキュロウイルスは実施例1と同様の方法により作製した。
【0079】
PCRによりヒトST6GalNAc III遺伝子(塩基配列は配列番号44、アミノ酸配列は配列番号45に示す)の5'-端にc-mycタグをコードする塩基配列を付加した後、pFastBac 1に挿入してpFastBac-mycST6GalNAcIIIを作製し、Bac-to-Bac Baculovirus Expression Systemを用いて組換えバクミドおよび組換えバキュロウイルスを作製した。すなわち、ST6GalNAc IIIをコードする遺伝子の5'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつc-mycタグの一部をコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーmycST6GalNAcIIIF1(配列番号46)ならびにST6GalNAc IIIをコードする遺伝子の3'-端の塩基配列にハイブリダイズし、かつ制限酵素XhoIの認識配列(CTCGAG)を持つように設計したPCRプライマーST6GalNAcIIIR(配列番号47)をそれぞれ用い、Human Brain whole Marathon-Ready cDNAを鋳型DNAとしExpand High Fidelity PCR Systemの添付の方法に従いPCRを実施した。さらにそのPCRにより増幅されたDNAを鋳型として、制限酵素BamHIの認識配列(GGATCC)ならびにc-mycタグをコードする塩基配列を持つように設計したPCRプライマーmycST6GalNAcIIIF2(配列番号48)ならびにプライマーST6GalNAcIIIRでPCRを行った。その結果得られたPCRの結果増幅産物をpGEM-T Easy vectorに挿入しTAクローニングを行った。そこからBamHIおよびXhoIを用いてmyc-ST6GalNAcIIIをコードするDNAを切断し、アガロースゲルからmyc-ST6GalNAcIIIをコードするDNAをQIAquick Gel Extraction Kitを用いて抽出した。そのDNAをpFastBac 1に挿入しpFastBac-mycST6GalNAcIIIを作製した。
【0080】
(4)発芽バキュロウイルスの調製
実施例1(4)に記載した方法と同様の方法で、His-ST3GalI、myc-ST6GalNAcI、myc-ST6GalNAcIIIをそれぞれ単独で発現する発芽バキュロウイルスを調製した。
【0081】
(5) 調製した発芽バキュロウイルスのウエスタンブロット法による評価
発芽バキュロウイルス上にHis-ST3GalI、myc-ST6GalNAcI、myc-ST6GalNAcIIIが発現していることを、ウエスタンブロット法により確認を行った。実施例1(5)と同様にSDS-PAGE法を実施した。
【0082】
His-ST3GalI、myc-ST6GalNAcI、myc-ST6GalNAcIII それぞれを発現する発芽バキュロウイルス試料をSDS-PAGE後、ニトロセルロース膜へ転写した。をニトロセルロース膜ブロックエースで1時間インキュベートし、PBS-Tで3回洗浄を行った。その後、一次抗体を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、二次抗体を含む10%ブロックエース水溶液で室温、1時間インキュベートした。
【0083】
一次抗体
マウス抗His抗体(Sigma社製)最終濃度 700 ng/mL
マウス抗c-Myc抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)最終濃度 20 ng/mL
【0084】
二次抗体
HRP標識ヤギ抗マウス抗体 最終濃度 160ng/mL
【0085】
PBS-Tで3回洗浄した後、化学発光試薬Supersignal West Dura Extended Duration Substrateを用いて発光させて、X線フィルムを用いて検出した。その結果、His-ST3GalI、myc-ST6GalNAcI、myc-ST6GalNAcIII それぞれを発現させた発芽バキュロウイルスに特異的なバンドを確認した(図16〜18)。
【0086】
実施例8:糖転移酵素を発現した発芽バキュロウイルスを使用したシアル酸付加糖鎖修飾ペプチドの合成と生成物の評価
シアル酸付加糖鎖修飾ペプチドの合成手順の概略を図19に示した。
【0087】
(1)Sialyl Tn-antigenの合成
10μgのヒトCCR5のN端領域の硫酸化ペプチド2と90μgのV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP- N-アセチルガラクトサミンを50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(1))。その後、40μgのmyc-ST6GalNAcIを発現した発芽バキュロウイルスと糖供与体としてCMP-N-アセチルノイラミン酸を50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(3))。
【0088】
(2)2,6 sialyl T-antigenの合成
2,6 sialyl T-antigen(Galb1−3(NeuNAcα2−6)GalNAc−O−Ser/Thr)は以下の方法で合成をおこなった。すなわち10μgのヒトCCR5のN端領域の硫酸化ペプチド2と90μgのV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP- N-アセチルガラクトサミンを50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした。その後、15μgのHA-C1GalT1およびT7-Cosmcを発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP-ガラクトースを50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(2))。さらにその後、40μgのmyc-ST6GalNAcI発現した発芽バキュロウイルスと糖供与体としてCMP-N-アセチルノイラミン酸を50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(4))。
【0089】
(3)Disialyl T-antigenの合成
Disialyl T-antigen(NeuNAcα2−3Galb1−3(NeuNAcα2−6)GalNAc−O−Ser/Thr)は以下の方法で合成をおこなった。すなわち10μgのヒトCCR5のN端領域の硫酸化ペプチド2と90μgのV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP- N-アセチルガラクトサミンを50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(1))。その後、15μgのHA-C1GalT1およびT7-Cosmcを発現した発芽バキュロウイルス、さらに糖供与体としてUDP-ガラクトースを50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(2))。その後、40μgのHis-ST3GalIを発現した発芽バキュロウイルスと糖供与体としてCMP-N-アセチルノイラミン酸を50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(5))。その後、40μgのmyc-ST6GalNAcIIIを発現した発芽バキュロウイルスと糖供与体としてCMP-N-アセチルノイラミン酸を50μLの溶媒C液中で37℃、24時間インキュベートした(図19反応(6))。
【0090】
(4)Sialyl Tn-antigenの合成生成物の確認
Sialyl Tn-antigenの合成の確認は以下のようにおこなった。はじめに反応溶液に逆相クロマトグラフィーの溶媒C液を600μLを加えて、5分間静置した後、20,000 gで30分間遠心分離し、上清を回収した。さらにその上清を孔径0.22μmのPVDFフィルターに通して発芽バキュロウイルスを除き、逆相クロマトグラフィーのサンプルとした。逆相カラムSOURCE 5RPC ST 4.6/150をあらかじめ溶媒C液で平衡化しておき、フィルターを通したサンプル500μLを逆相カラムに吸着させた。7.5 mLの溶媒C液でカラムを洗浄した後、溶媒D液を0.8 mL/分の流速で流し、溶出を行った。検出はペプチド結合に由来する220 nmの波長の吸光度を測定した。その結果、発芽バキュロウイルスを添加せずUDP- N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図20(A)上段)とV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスとUDP- N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図20(A)中段)を比較すると、V5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスとUDP- N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液から得られたクロマトグラムには、反応に使用した硫酸化ペプチド2に由来するピーク(n)とN-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドに由来する新たなピーク(0)が観察された。またV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後、myc-ST6GalNAcIを発現した発芽バキュロウイルスを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図20(A)下段)には、N-アセチルガラクトサミンが転移したペプチドに由来するピークが消失し、NeuNAc−GalNAcが転移したペプチドに由来する特異的なピーク(p)が検出された。
【0091】
(5)2,6 sialyl Tn-antigenの合成生成物の確認
2,6 sialyl T-antigenの合成の確認も(4)に記載の方法により同様に行った。その結果、V5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスを添加せずUDP- N-アセチルガラクトサミンを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図20(B)上段)とV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後にHA−C1GalT1による反応をおこなって得られたクロマトグラム(図20(B)中段)を比較すると、反応に使用した硫酸化ペプチド2に由来するピーク(r)とGal−GalNAcが転移したペプチドに由来する新たなピーク(s)が観察された。またHA-C1GalT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後、myc-ST6GalNAcIを発現した発芽バキュロウイルスを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図20(B)下段)には、Gal−GalNAcが転移したペプチドに由来するピークが消失し、Gal−(NeuNAc−)GalNAcが転移したペプチドに由来する特異的なピーク(t)が検出された。
【0092】
(6)Disialyl T-antigenの合成生成物の確認
Disialyl T-antigenの合成の確認も(4)に記載の方法により同様に行った。その結果、2,6 sialyl T-antigenの合成と同様にV5-ppGalNAcT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後にHA−C1GalT1による反応をおこなって得られたクロマトグラム(図20(C)上から2番目)は、Gal−GalNAcが転移したペプチドに由来する新たなピーク(w)が観察された。HA-C1GalT1を発現した発芽バキュロウイルスによる反応後、His-ST3GalIを発現した発芽バキュロウイルスを添加した反応溶液から得られたクロマトグラム(図20(C)上から3番目)には、Gal−GalNAcが転移したペプチドに由来するピークが消失し、NeuNAc−Gal−GalNAcが転移したペプチドに由来する特異的なピーク(x)が検出された。さらにmyc-ST6GalNAcIIIを発現した発芽バキュロウイルスを添加した反応液から得られたクロマトグラム(図20(C)一番下)にはNeuNAc−Gal−GalNAcが転移したペプチドに由来する特異的なピークが消失し、NeuNAc−Gal−(NeuNAc−)GalNAcが転移したペプチドに由来する特異的なピーク(y)が検出された。
【0093】
糖転移酵素の基質特異性を利用して、任意の糖鎖もしくは糖ペプチドが作製できることが確認された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスの存在下において基質に、転移基を含む物質を接触させることを含む、転移基で修飾された基質の製造方法。
【請求項2】
転移酵素が、スルホトランスフェラーゼ又はグリコシルトランスフェラーゼであり、転移基が硫酸基又はグリコシル基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基質がタンパク質である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
転移酵素をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養し、該宿主から放出される発芽バキュロウイルスを回収することによって得られる発芽バキュロウイルスを、上記転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスとして使用する、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項1】
転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスの存在下において基質に、転移基を含む物質を接触させることを含む、転移基で修飾された基質の製造方法。
【請求項2】
転移酵素が、スルホトランスフェラーゼ又はグリコシルトランスフェラーゼであり、転移基が硫酸基又はグリコシル基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基質がタンパク質である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
転移酵素をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養し、該宿主から放出される発芽バキュロウイルスを回収することによって得られる発芽バキュロウイルスを、上記転移酵素を発現している発芽バキュロウイルスとして使用する、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2010−273676(P2010−273676A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103175(P2010−103175)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度〜20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新機能抗体創製技術開発事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願) 国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成17年度〜20年度 独立行政法人医薬基盤研究所、保険医療分野における基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(503196776)株式会社ペルセウスプロテオミクス (25)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度〜20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新機能抗体創製技術開発事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願) 国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成17年度〜20年度 独立行政法人医薬基盤研究所、保険医療分野における基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(503196776)株式会社ペルセウスプロテオミクス (25)
【Fターム(参考)】
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