軸シール装置及び軸シール装置を備える回転機械
【課題】薄板シール片の磨耗を抑止することができる軸シール装置及びこの軸シール装置を備える回転機械を提供する。
【解決手段】回転軸の周囲に沿って周方向に多数枚の薄板シール片20が積層され、これら多数枚の薄板シール片20の径方向外方端側が互いに連結されると共に径方向内方端20bが自由端とされて、相互に隣接する二つの薄板シール片20毎に微小間隙sが形成されていると共に回転軸に対して微小隙間sを形成するシール片積層体12を備えた軸シール装置であって、薄板シール片20には、内方端20b側の表面に耐磨耗処理層25が形成されていることを特徴とする。
【解決手段】回転軸の周囲に沿って周方向に多数枚の薄板シール片20が積層され、これら多数枚の薄板シール片20の径方向外方端側が互いに連結されると共に径方向内方端20bが自由端とされて、相互に隣接する二つの薄板シール片20毎に微小間隙sが形成されていると共に回転軸に対して微小隙間sを形成するシール片積層体12を備えた軸シール装置であって、薄板シール片20には、内方端20b側の表面に耐磨耗処理層25が形成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸シール装置及び軸シール装置を備える回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガスタービン、蒸気タービン、圧縮機、水車、冷凍機、ポンプ等の回転機械において、回転軸に対してシールを施す軸シール機構として下記特許文献1のものがある。
【0003】
図12は、従来の軸シール機構100の概略構成斜視図である。
この軸シール機構100は、ステータ側において回転軸Rを囲繞するハウジング101に収容された軸シール装置102を備えている。
【0004】
軸シール装置102は、回転軸Rの周囲に沿って周方向に多数枚の薄板シール片103aが積層されたシール片積層体103と、軸方向の流体高圧側においてシール片積層体103の一部を覆う高圧側サイドシール板104と、軸方向の流体低圧側においてシール片積層体103の一部を覆う低圧側サイドシール板105とを備えている。上記シール片積層体103においては、多数枚の薄板シール片103aの径方向外方端側が互いに連結され、径方向内方端が自由端となっており、外方端側がハウジング101に収容され、各薄板シール片103aがそれぞれ接線方向に傾くようにしてハウジング101から回転軸Rに向けて延出している。
【0005】
このような構成の軸シール機構100は、回転軸Rの停止時には薄板シール片103aの内方端が所定の予圧で回転軸Rに接触するが、回転軸Rの回転時には動圧効果によって薄板シール片103aに浮上力が作用する。この浮上力を利用することにより、薄板シール片103aと回転軸Rとに微小な隙間を形成して作動流体をシールすると共に、回転軸Rと各薄板シール片103aとの磨耗を防止している。
【0006】
また、隣接する二つの薄板シール片毎に形成される微小間隙のガス圧力分布を、高圧側サイドシール板及び低圧側サイドシール板の径方向寸法を調整することで設定している。例えば、高圧側サイドシール板に比べて低圧側サイドシール板を短くすると、微小間隙のガス圧力分布を内方端側から外方端側に向かって次第に小さくなるように設定することができ、上述した動圧効果による浮上力を補助するように圧力を作用させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3917993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術では、回転機械の起動時や停止時、あるいは、ターニング時等において、比較的に動圧が小さくなることで薄板シール片に作用する浮上力も小さくなり、薄板シール片の内方端側が回転軸に接触摺動することによって薄板シール片が磨耗してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、薄板シール片の磨耗を抑止することができる軸シール装置及びこの軸シール装置を備える回転機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る軸シール装置は、回転軸の周囲に沿って周方向に多数枚の薄板シール片が積層され、これら多数枚の薄板シール片の径方向外方端側が互いに連結されると共に径方向内方端が自由端とされて、相互に隣接する二つの薄板シール片毎に微小間隙が形成されていると共に前記回転軸に対して微小隙間を形成するシール片積層体を備えた軸シール装置であって、前記薄板シール片には、前記内方端側の表面に耐磨耗処理層が形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、薄板シール片の内方端側の表面に耐磨耗処理層が形成されているので、回転機械の起動時等において薄板シール片に作用する浮上力が小さい場合、あるいは、薄板シール片に作用する浮上力が不測に低下した場合には、耐磨耗処理層が回転軸と摺動する。これにより、接触摺動による磨耗を耐磨耗処理層が軽減するので、薄板シール片が磨耗することを抑止することができる。
【0011】
また、前記耐磨耗処理層は、メッキ処理層であることを特徴とする。
この構成によれば、耐磨耗処理層がメッキ処理層であるので、薄板シール片のうち耐磨耗処理層が形成された部分における厚みがメッキ処理層の分だけ増加する。これにより、相互に隣接する薄板シール片の間に形成されている微小間隙の少なくとも一部を狭めることが可能となる。これにより、微小間隙のうち少なくとも一部を更に狭めるので、作動流体が微小間隙を流れ難くなり、シール性を向上させることが可能となる。
【0012】
また、前記シール片積層体は、前記薄板シール片の内方端側における幅方向両側端部がそれぞれ多数集合してなる二つの小口側面を有し、軸方向における流体高圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を露出させた高圧側サイドシール板と、軸方向における流体低圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を前記高圧側サイドシール板よりも大きく露出させた低圧側サイドシール板とを備え、前記耐磨耗処理層は、軸方向に見て、前記内方端から前記高圧側サイドシール板と重なる位置まで形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、耐磨耗処理層が、軸方向に見て、内方端から高圧側サイドシール板と重なる位置まで形成されているので、小口側面のうち高圧側サイドシール板から露出する部分に相当する位置の微小間隙を狭めることができる。これにより、微小間隙のうち作動流体が流入する部分が更に狭められて微小間隙に作動流体が流入し難くなるので、シール性を更に向上させることが可能となる。
【0013】
また、前記耐磨耗処理層は、軸方向に見て、前記低圧側サイドシール板から露出する範囲に含まれるように形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、耐磨耗処理層が、軸方向に見て、低圧側サイドシール板から露出する範囲に含まれるように形成されているので、径方向外方側にメッキ処理層が形成されずに薄板シール片の剛性の変化が必要最小限になる。これにより、薄板シール片の良好な弾力性の維持とシール性の向上とを両立させることができる。
【0014】
また、前記耐磨耗処理層は、拡散浸透処理層であることを特徴とする。
この構成によれば、耐磨耗処理層が拡散浸透処理層であるので、微小間隙の大きさを変えることなく、耐磨耗性を向上させることができる。
【0015】
また、前記シール片積層体は、前記薄板シール片の内方端側における幅方向両側端部がそれぞれ多数集合してなる二つの小口側面を有し、軸方向における流体高圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を露出させた高圧側サイドシール板と、軸方向における流体低圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を前記高圧側サイドシール板よりも大きく露出させた低圧側サイドシール板とを備え、前記耐磨耗処理層は、軸方向に見て、前記内方端から前記高圧側サイドシール板と重なる位置まで形成されていると共に、前記低圧側サイドシール板から露出する範囲に含まれるように形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、耐磨耗処理層が、軸方向に見て、内方端から高圧側サイドシール板と重なる位置まで形成されていると共に、低圧側サイドシール板から露出する範囲に含まれるように形成されているので、径方向外方側に耐磨耗処理層が形成されずに薄板シール片の剛性の変化が必要最小限になる。これにより、薄板シール片の良好な弾力性を維持することができる。
【0016】
また、本発明に係る回転機械は、上記のうちいずれかの軸シール装置を前記回転軸の周囲に備えたことを特徴とする。
この構成によれば、上記のうちいずれかのシール装置を備えるので、薄板シール片の磨耗が抑止されてシール性能が持続する。これにより、耐寿命性かつメンテナンス性に優れた回転機械とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る軸シール装置によれば、薄板シール片の磨耗を抑止することができる。
【0018】
本発明に係る軸シール装置を備える回転機械によれば、耐寿命性かつメンテナンス性に優れた回転機械とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一実施形態に係るガスタービン1の概略全体構成図である。
【図2】図1におけるI−I線断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る軸シール機構10の概略構成断面図であって、回転軸5の軸線に沿った断面を示している。
【図4】本発明の第一実施形態に係るシールセグメント11の分解構成図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係るシール片積層体12の要部拡大図であって、図4におけるII−II線矢視図である。
【図6】本発明の第一実施形態に係る薄板シール片20の要部拡大図である。
【図7】本発明の第一実施形態に係る薄板シール片20の薄板シール片20を周方向に展開し、軸方向に交差する断面を示した展開断面図である。
【図8】本発明の第一実施形態に係るシールセグメント11の要部断面図であって、図7におけるIII−III線断面図である。
【図9】本発明の第一実施形態に係るシールセグメント11の微小間隙sに形成される作動流体gのガス圧力分布図である。
【図10】本発明の第一実施形態に係るシールセグメント11における薄板シール片20の胴部22の要部断面図であって、回転軸5の軸方向に交差する胴部22の切断面を示すと共に胴部22に作用する圧力をベクトルで示した図である。
【図11】本発明の第二実施形態に係るシールセグメント51の薄板シール片52を周方向に展開し、軸方向に交差する断面を示した展開断面図である。
【図12】従来の軸シール機構100の概略構成斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。
〈第一実施形態〉
(ガスタービンの全体構成)
図1は、本発明の第一実施形態に係るガスタービン(回転機械)1の概略全体構成図であり、図2は、図1におけるI−I線断面図である。
図1に示すように、ガスタービン1は、多量の空気を内部に取り入れて圧縮する圧縮機(回転機械)2と、この圧縮機2にて圧縮された圧縮空気に燃料を混合して燃焼させる燃焼器3と、燃焼器3から導入された燃焼ガスの熱エネルギーを回転エネルギーに変換するタービン(回転機械)4とを有しており、圧縮機2のローター2aとタービン4のローター4aとが連結されて回転軸5が構成されている。
【0021】
圧縮機2及びタービン4においては、図1に示すように、圧縮機ケーシング2b及びタービンケーシング4bのそれぞれの内周部において周方向に間隔を空けて複数の静翼が環状に固定された環状静翼群6と、回転軸5の外周部において周方向に間隔を空けて複数の動翼が環状に固定された環状動翼群7とが回転軸5の軸方向に交互に配列されている。
【0022】
このようなガスタービン1においては、高圧側から低圧側に作動流体(圧縮空気又は燃焼ガス)gが軸方向に漏出するのを防止するために、各環状静翼群6の内周部に軸シール機構10が配設されている。
また、圧縮機ケーシング2bが回転軸5を支持する軸受け部2c、及び、タービンケーシング4bが回転軸5を支持する軸受け部4cにおいても、作動流体gが高圧側から低圧側に漏れるのを防止するために軸シール機構10が配設されている。
【0023】
図2に示すように、各軸シール機構10は、円弧状に延びるシールセグメント(軸シール装置)11が回転軸5の周囲に周方向に複数(本第一実施形態では八つ)環状に配置されることで構成されている。
【0024】
(シールセグメントの構成)
図3は、回転軸5の軸線に沿った断面における軸シール機構10の概略構成断面図であり、図4は、シールセグメント11の分解構成図であり、図5は、図4におけるII−II線矢視図である。
図3に示すように、各シールセグメント11は、ハウジング(環状静翼群6及び軸受け部2c,4cに相当)9に挿入されている。
【0025】
このシールセグメント11は、図3に示すように、薄板シール片20が多数枚積層されたシール片積層体12と(図5参照)、断面コ字状の保持リング13,14と、背面スペーサ15と、高圧側サイドシール板16と、低圧側サイドシール板17とから構成されている。
【0026】
シール片積層体12は、図5に示すように、薄板状の薄板シール片20が多数枚積層され(図2参照)、これら多数枚の薄板シール片20の径方向外方端20a側が互いに連結されたものである。
薄板シール片20は、図3に示すように、主に薄い鋼板によって形成された部材であり、回転軸5の接線方向から見てT字状に形成され、その幅方向を回転軸5の軸方向に向けている。この薄板シール片20は、図4に示すように、外方端20a側の頭部21と、頭部21よりも幅寸法及び厚さ寸法(図5参照)が小さく形成されると共に頭部21の径方向内縁における軸方向中央から延出する胴部22とを備えている。
このような薄板シール片20は、図4に示すように、胴部22のうち頭部21との境界部分(径方向外方側)において、切り欠き部20x,20yが形成されている。
【0027】
各薄板シール片20は、それぞれの頭部21の側方突出部21cが溶接されており、相互に連結されている。一方、各薄板シール片20の胴部22は、弾性変形可能であり、各薄板シール片20の内方端20bが自由端となっている。
このような薄板シール片20は、図5に示すように、頭部21の厚さ寸法が胴部22の厚さ寸法よりも大きいことにより、積層すると相互に隣接する二つの薄板シール片20の胴部22毎に微小間隙sが形成されている。
【0028】
このような薄板シール片20が多数枚積層されたシール片積層体12は、各薄板シール片20の胴部22の側端部20cが多数集合してなる小口側面12cが高圧側に向けられ、各薄板シール片20の胴部22の側端部20dが多数集合してなる小口側面12dが低圧側に向けられた状態で、ハウジング9に挿入されている。このシール片積層体12は、回転軸5の停止時においては、各薄板シール片20の内方端20b側が回転軸5に所定の予圧で接触するようになっている。
【0029】
図6は、薄板シール片20の要部拡大図であり、図7は、薄板シール片20の薄板シール片11を周方向に展開し、軸方向に交差する断面を示した展開断面図であり、図8は、図7におけるIII−III線断面図である。
図6〜図8に示すように、各薄板シール片20の内方端20b側の表面には、メッキ処理層(耐磨耗処理層)25が形成されている。
【0030】
メッキ処理層25は、クロムメッキによって形成されており、固体潤滑成分として二酸化モリブデン(MoS2)を含有し、薄板シール片20の基材(鋼)と比べて、硬度が向上し、また、回転軸5(鋼)に対する摩擦係数が低くなっている。
このメッキ処理層25は、図7及び図8に示すように、その層厚さtがμmレベルとなっており、相互に隣接する薄板シール片20の胴部22間に形成される微小間隙sが、膜厚さtの2倍(t×2)だけ狭められている。
【0031】
図8に示すように、メッキ処理層25は、薄板シール片20の軸方向に交差する断面の全周に形成されており、具体的には、回転軸5に面する下面20q及びその裏面である上面20p、並びに、側端部20c,20d上に形成されている。
【0032】
このようなメッキ処理層25は、軸方向に見て、薄板シール片20の内方端20bから高圧側サイドシール板16と重なる位置まで形成されている。換言すれば、図6及び図7に示すように、小口側面12dのうち高圧側サイドシール板16から露出する部分(詳しくは後述する。)の径方向の寸法m1よりもメッキ処理層25の径方向の寸法nが大きく形成されている。
また、メッキ処理層25は、小口側面12dのうち低圧側サイドシール板17から露出する範囲に含まれるように形成されている。換言すれば、図6及び図7に示すように、小口側面12dのうち低圧側サイドシール板17から露出する部分(詳しくは後述する。)の径方向の寸法m2よりもメッキ処理層25の径方向寸法nが小さく形成されている。
【0033】
高圧側サイドシール板16は、回転軸5の軸方向から見た場合において扇形状の板状部材であり、図3に示すように、回転軸5の軸方向の高圧側においてシール片積層体12の一部を覆っている。この高圧側サイドシール板16は、図3及び図4に示すように、径方向外方側において幅寸法(回転軸5の軸方向)が大きく形成された段差部16aが薄板シール片20の切り欠き部20xに嵌め込まれた状態で、シール片積層体12と保持リング13とに挟まれている。
このような構成により、図6に示すように、小口側面12cのうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を径方向の寸法m1だけ露出させている。
【0034】
低圧側サイドシール板17は、回転軸5の軸方向から見た場合において扇形状の板状部材であり、図3に示すように、回転軸5の軸方向の低圧側においてシール片積層体12の一部を覆っている。この低圧側サイドシール板17は、径方向外方側において幅寸法(回転軸5の軸方向)が大きく形成された段差部17aが薄板シール片20の切り欠き部20yに嵌め込まれた状態で、シール片積層体12と保持リング14とに挟まれている。
このような構成により、図6に示すように、低圧側サイドシール板17は、小口側面12dのうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を高圧側サイドシール板16よりも大きく径方向の寸法m2だけ露出させている。
【0035】
すなわち、これら高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17は、回転軸5の径方向の寸法が、高圧側サイドシール板16よりも低圧側サイドシール板17が小さく形成されており、後述する微小間隙sが所定のガス圧力分布になるように設計されている。
【0036】
保持リング13,14は、断面コ字状で回転軸5の周方向に延びる円弧状部材である。
保持リング13は、図3及び図4に示すように、複数の薄板シール片20の頭部21の側方突出部21cに対向する面に、凹溝13aが形成されている。
保持リング14は、図3及び図4に示すように、複数の薄板シール片20の頭部21の側方突出部21dに対面する面に、凹溝14aが形成されている。
背面スペーサ15は、薄板シール片20の頭部21と保持リング13,14との間に介挿されている。
【0037】
上記の保持リング13,14は、図3に示すように、保持リング13の凹溝13a及び保持リング14の凹溝14aに、シール片積層体12における各薄板シール片20の頭部21が背面スペーサ15を介して嵌め込まれることにより、シール片積層体12を保持している。
【0038】
このようなシールセグメント11は、図3に示すように、ハウジング9の内周部において断面T字状に形成されると共に回転軸5の周方向に延在するT字環状溝9aに収容されている。具体的には、T字環状溝9aのうち径方向外周側において溝幅(回転軸5の軸方向)が大きく形成された部分に保持リング13,14が収容されており、径方向内周側において溝軸が小さく形成された部分に、高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17と、薄板シール片20の胴部22が収容されている。そして、T字環状溝9aの開口部から回転軸5に向けて胴部22の先端(内方端20b)が突出している。
【0039】
(シールセグメントの作用)
続いて、上記のように製造されたシールセグメント11の作用について説明する。図9は、微小間隙sに形成される作動流体gのガス圧力分布図であり、図10は、回転軸5の軸方向に交差する胴部22の切断面を示すと共に胴部22に作用する圧力をベクトルで示した図である。
【0040】
ガスタービン1が停止状態から起動されると、回転軸5が回転し、この回転軸5と所定の与圧で接触している薄板シール片20の内方端20b側と回転軸5とが摺動摩擦する。
この際、薄板シール片20の内方端20bの表面には、メッキ処理層25が形成されていることから、メッキ処理層25と回転軸5とが摺動摩擦することとなる。メッキ処理層25は、比較的に高い硬度を有すると共に回転軸5に対する摩擦係数が低くなっており、比較的に磨耗量が少なくなる。
さらに、メッキ処理層25が固体潤滑成分の二酸化モリブデン(MoS2)を含有していることから、回転軸5に対する摩擦係数がさらに低くなっており、薄板シール片20磨耗量が極めて少量となる。
なお、回転軸5に対する摩擦係数が低減されていることで、回転軸5の磨耗量も極めて少量となる。
【0041】
このようにして、回転軸5とメッキ処理層25とが摺動摩擦しながら回転軸5の回転数が上昇していく。そして、ガスタービン1が所定の回転数になると、回転軸5の動圧効果によって回転軸5とメッキ処理層25に隙間が形成されて摩擦摺動が解消される。この状態においては、図9に示すように、軸シール機構10を境にして作動流体gの高圧側領域と低圧側領域とが形成される。
高圧側領域と低圧側領域が形成されると、シールセグメント11が高圧側領域から低圧側領域に向けて圧力を受けて、低圧側サイドシール板17がハウジング9に密着する。
【0042】
そして、図9に示すように、作動流体gが回転軸5の外周面と薄板シール片20の内方端20bとの間を流れる。
また、小口側面12cのうち高圧側サイドシール板16から露出した部分から各微小間隙sに作動流体gが侵入する。この際、図6及び図7に示すように、メッキ処理層25が、軸方向に見て、薄板シール片20の内方端20bから高圧側サイドシール板16と重なる位置まで形成されていることで、各微小間隙sがメッキ処理層25の膜厚さtの2倍(t×2)だけ狭められている。このため、作動流体gが微小間隙sに侵入し難くなっている。
【0043】
微小間隙sに侵入した作動流体gは、図9に示すように、微小間隙sを介して対向する上面20pと下面20qとに沿って、角部r1から角部r2の方向へ放射状に流れる。
つまり、低圧側サイドシール板17の径方向寸法が、高圧側サイドシール板16の径方向寸法よりも大きくされることで、図9に示すように、薄板シール片20の内方端20bかつ高圧側に位置する角部r1で最もガス圧が高く、対角の角部r2に向かって徐々にガス圧が弱まるガス圧力分布40aが形成される。
【0044】
図9に示すように、ガス圧力分布40aは、薄板シール片20の外方端20aに向かって低圧の領域が広がる。そのため、図10に示すように、各薄板シール片20の上面20p及び下面20qに加わるガス圧力分布40b,40cは、薄板シール片20の内方端20bに近いほど大きくなると共に外方端20aに向かうほど小さくなる三角分布形状となる。
【0045】
図10に示すように、上面20p及び下面20qのそれぞれにおけるガス圧力分布40b,40cは略等しい形状となるが、回転軸5の外周の接線方向に傾くようにして各薄板シール片20が配置されているので、これら上面20p及び下面20qにおける各ガス圧力分布40b,40cの相対位置がずれる。よって、薄板シール片20の外方端20aから内方端20bに向かう任意の点Pにおける上面20p及び下面20qのガス圧に差が生じ、下面20qに加わるガス圧が上面20pに加わるガス圧よりも高くなる。これによって、薄板シール片20の内方端20bに対して回転軸5より浮かせる方向に浮上力FLが発生する。
【0046】
以上のようにして、薄板シール片20に浮上力FLが作用し、動圧効果による浮上力を補助することにより、回転軸5との間にシールクリアランスが形成される。
【0047】
ガスタービン1の停止時、ターニング時、あるいは、不測の事態等の場合において、薄板シール片20に作用する浮上力が不十分になって薄板シール片20と回転軸5とが接触摺動したとしても、上記の起動時と同様の作用により、薄板シール片20の内方端20b側の磨耗量が極めて少量となる。このため、各シールセグメント11のシール性能が持続する。
【0048】
以上説明したように、本第一実施形態に係るシールセグメント11によれば、薄板シール片20の内方端20b側の表面にメッキ処理層25が形成されているので、ガスタービン1の起動時等において薄板シール片20に作用する浮上力が小さい場合、あるいは、薄板シール片20に作用する浮上力が不測に低下した場合には、メッキ処理層25が回転軸5と摺動する。これにより、接触摺動による磨耗をメッキ処理層25が軽減する。
さらに、メッキ処理層25が固体潤滑成分の二酸化モリブデン(MoS2)を含有しているので、メッキ処理層25と回転軸5との摩擦係数をさらに低くすることができ、磨耗量を極めて少量とすることができる。
従って、薄板シール片20が磨耗することを抑止することができる。
【0049】
また、薄板シール片20のうちメッキ処理層25が形成された部分における厚みがメッキ処理層25の分だけ増加する。これにより、相互に隣接する薄板シール片20の胴部22間に形成されている微小間隙sの少なくとも一部を狭めることが可能となる。これにより、微小間隙sを更に狭めるので、作動流体gが微小間隙sを流れ難くなり、シール性を向上させることが可能となる。
【0050】
また、メッキ処理層25が、軸方向に見て、薄板シール片20の内方端20bから高圧側サイドシール板16と重なる位置まで形成されているので、小口側面12cのうち高圧側サイドシール板16から露出する部分に相当する位置の微小間隙sを狭めることができる。これにより、微小間隙sのうち作動流体gが流入する部分が更に狭められて微小間隙sに作動流体gが流入し難くなるので、シール性を更に向上させることが可能となる。
【0051】
また、軸方向に見て、低圧側サイドシール板17から露出する範囲に含まれるように形成されているので、径方向外方側にメッキ処理層25が形成されずに薄板シール片20の剛性の変化が必要最小限になる。これにより、薄板シール片20の良好な弾力性の維持とシール性の向上とを両立させることができる。
【0052】
また、ガスタービン1は、シールセグメント11を備えるので、薄板シール片20の磨耗が抑止されてシール性能が持続する。これにより、耐寿命性かつメンテナンス性に優れたガスタービンとすることができる。
【0053】
なお、上述した構成では、メッキ処理層25をクロムメッキにより形成したが、薄板シール片20の硬度の向上、及び、回転軸5に対する摩擦係数の低下のうちの少なくとも一方の効果が得られれば、その他の方法によってメッキ処理層を形成しても構わない。
例えば、ニッケルメッキや貴金属メッキ、あるいは、これらの合金等によってメッキ処理層を形成しても構わない。
また、硬い微粒子(「炭化ケイ素(SiC)」「炭化タングステン(WC)」「ダイヤモンド」)や自己潤滑性を有する微粒子(「PTFE(フッ素系高分子)」、「グラファイト」、「窒化ホウ素(BN)」)を共折させてもよい。
なお、メッキ方法としては、各種メッキ方法を用いることができる。
【0054】
〈第二実施形態〉
次に、本発明の第二実施形態に係るシールセグメント(軸シール装置)51について説明する。
図11は、本発明の第二実施形態に係るシールセグメント51の薄板シール片52を周方向に展開し、軸方向に交差する断面を示した展開断面図である。
【0055】
シールセグメント51は、シールセグメント11とほぼ同様に構成されたものであるが、薄板シール片20に代えて薄板シール片52を用いている点でシールセグメント11と相違する。また、薄板シール片52は、薄板シール片20とほぼ同様に構成されたものであるが、内方端20b側においてメッキ処理層25の代わりに拡散浸透処理層(耐磨耗処理層)26が形成されている点で薄板シール片20と相違している。
なお、上述した第一実施形態と同様の構成要素については、同様の符号を付して、その説明を省略する。
【0056】
拡散浸透処理層26は、窒化処理によって形成されており、薄板シール片20と比べて硬度が向上している。
この拡散浸透処理層26は、図11に示すように、薄板シール片20の内部に窒素元素が浸透することによって形成されているために、メッキ処理層25と異なり、薄板シール片20の厚さを変えることなく胴部22間に形成された微小間隙sを狭めない。
このような拡散浸透処理層26は、図11に示すように、内方端21bから径方向の寸法n(m1<n<m2)だけ径方向外方側に形成されている。すなわち、拡散浸透処理層26は、薄板シール片52の内方端20bから高圧側サイドシール板16と重なる位置まで形成されていると共に、低圧側サイドシール板17から露出する範囲に含まれるように形成されている。
【0057】
この構成によれば、薄板シール片20の表面に拡散浸透処理層26が形成されているので、拡散浸透処理の前後において薄板シール片20の厚さが変わらない。これにより、微小間隙sの大きさを変えることなく、耐磨耗性を向上させることができる。
【0058】
また、拡散浸透処理層26が、軸方向に見て、薄板シール片52の内方端20bから高圧側サイドシール板16と重なる位置まで形成されていると共に、低圧側サイドシール板17から露出する範囲に含まれるように形成されているので、径方向外方側に拡散浸透処理層26が形成されずに薄板シール片20の剛性の変化が必要最小限になる。これにより、薄板シール片20の良好な弾力性を維持することができる。
【0059】
なお、上述した構成では、拡散浸透処理層26を窒化処理によって形成する構成としたが、ボロナイズ等によって形成してもよい。
【0060】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、上述した実施の形態では、本発明に係る軸シール機構10をガスタービン1へ適用する場合について説明したが、例えば、蒸気タービン、圧縮機、水車、冷凍機、ポンプ等の回転機械全般に広く採用することができる。
【0061】
また、上述した実施の形態では、メッキ処理層25,拡散浸透処理層26は、薄板シール片20の軸方向に交差する断面の全周に形成したが、薄板シール片20における内方端21b側のうち、回転軸5と面する下面20q及び径方向内端部20bのうち少なくとも一方だけに形成しても構わない。
【0062】
また、上述した実施の形態では、薄板シール片20,52を鋼材(例えば耐熱鋼)で形成したが、その他の材料で形成してもよい。
【0063】
また、上述した実施の形態では、回転軸5を鋼材(例えば耐熱鋼)で形成したが、その他の材料で形成してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…ガスタービン(回転機械)
2…圧縮機(回転機械)
4…タービン(回転機械)
5…回転軸
11,51…シールセグメント(軸シール装置)
12,52…シール片積層体
12b…小口内方端面
12c,12d…小口側面
16…高圧側サイドシール板
17…低圧側サイドシール板
20…薄板シール片
20a…外方端
20b…内方端
20c,20d…側端部
25…メッキ処理層(耐磨耗処理層)
26…拡散浸透処理層(耐磨耗処理層)
s…微小間隙
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸シール装置及び軸シール装置を備える回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガスタービン、蒸気タービン、圧縮機、水車、冷凍機、ポンプ等の回転機械において、回転軸に対してシールを施す軸シール機構として下記特許文献1のものがある。
【0003】
図12は、従来の軸シール機構100の概略構成斜視図である。
この軸シール機構100は、ステータ側において回転軸Rを囲繞するハウジング101に収容された軸シール装置102を備えている。
【0004】
軸シール装置102は、回転軸Rの周囲に沿って周方向に多数枚の薄板シール片103aが積層されたシール片積層体103と、軸方向の流体高圧側においてシール片積層体103の一部を覆う高圧側サイドシール板104と、軸方向の流体低圧側においてシール片積層体103の一部を覆う低圧側サイドシール板105とを備えている。上記シール片積層体103においては、多数枚の薄板シール片103aの径方向外方端側が互いに連結され、径方向内方端が自由端となっており、外方端側がハウジング101に収容され、各薄板シール片103aがそれぞれ接線方向に傾くようにしてハウジング101から回転軸Rに向けて延出している。
【0005】
このような構成の軸シール機構100は、回転軸Rの停止時には薄板シール片103aの内方端が所定の予圧で回転軸Rに接触するが、回転軸Rの回転時には動圧効果によって薄板シール片103aに浮上力が作用する。この浮上力を利用することにより、薄板シール片103aと回転軸Rとに微小な隙間を形成して作動流体をシールすると共に、回転軸Rと各薄板シール片103aとの磨耗を防止している。
【0006】
また、隣接する二つの薄板シール片毎に形成される微小間隙のガス圧力分布を、高圧側サイドシール板及び低圧側サイドシール板の径方向寸法を調整することで設定している。例えば、高圧側サイドシール板に比べて低圧側サイドシール板を短くすると、微小間隙のガス圧力分布を内方端側から外方端側に向かって次第に小さくなるように設定することができ、上述した動圧効果による浮上力を補助するように圧力を作用させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3917993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術では、回転機械の起動時や停止時、あるいは、ターニング時等において、比較的に動圧が小さくなることで薄板シール片に作用する浮上力も小さくなり、薄板シール片の内方端側が回転軸に接触摺動することによって薄板シール片が磨耗してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、薄板シール片の磨耗を抑止することができる軸シール装置及びこの軸シール装置を備える回転機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る軸シール装置は、回転軸の周囲に沿って周方向に多数枚の薄板シール片が積層され、これら多数枚の薄板シール片の径方向外方端側が互いに連結されると共に径方向内方端が自由端とされて、相互に隣接する二つの薄板シール片毎に微小間隙が形成されていると共に前記回転軸に対して微小隙間を形成するシール片積層体を備えた軸シール装置であって、前記薄板シール片には、前記内方端側の表面に耐磨耗処理層が形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、薄板シール片の内方端側の表面に耐磨耗処理層が形成されているので、回転機械の起動時等において薄板シール片に作用する浮上力が小さい場合、あるいは、薄板シール片に作用する浮上力が不測に低下した場合には、耐磨耗処理層が回転軸と摺動する。これにより、接触摺動による磨耗を耐磨耗処理層が軽減するので、薄板シール片が磨耗することを抑止することができる。
【0011】
また、前記耐磨耗処理層は、メッキ処理層であることを特徴とする。
この構成によれば、耐磨耗処理層がメッキ処理層であるので、薄板シール片のうち耐磨耗処理層が形成された部分における厚みがメッキ処理層の分だけ増加する。これにより、相互に隣接する薄板シール片の間に形成されている微小間隙の少なくとも一部を狭めることが可能となる。これにより、微小間隙のうち少なくとも一部を更に狭めるので、作動流体が微小間隙を流れ難くなり、シール性を向上させることが可能となる。
【0012】
また、前記シール片積層体は、前記薄板シール片の内方端側における幅方向両側端部がそれぞれ多数集合してなる二つの小口側面を有し、軸方向における流体高圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を露出させた高圧側サイドシール板と、軸方向における流体低圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を前記高圧側サイドシール板よりも大きく露出させた低圧側サイドシール板とを備え、前記耐磨耗処理層は、軸方向に見て、前記内方端から前記高圧側サイドシール板と重なる位置まで形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、耐磨耗処理層が、軸方向に見て、内方端から高圧側サイドシール板と重なる位置まで形成されているので、小口側面のうち高圧側サイドシール板から露出する部分に相当する位置の微小間隙を狭めることができる。これにより、微小間隙のうち作動流体が流入する部分が更に狭められて微小間隙に作動流体が流入し難くなるので、シール性を更に向上させることが可能となる。
【0013】
また、前記耐磨耗処理層は、軸方向に見て、前記低圧側サイドシール板から露出する範囲に含まれるように形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、耐磨耗処理層が、軸方向に見て、低圧側サイドシール板から露出する範囲に含まれるように形成されているので、径方向外方側にメッキ処理層が形成されずに薄板シール片の剛性の変化が必要最小限になる。これにより、薄板シール片の良好な弾力性の維持とシール性の向上とを両立させることができる。
【0014】
また、前記耐磨耗処理層は、拡散浸透処理層であることを特徴とする。
この構成によれば、耐磨耗処理層が拡散浸透処理層であるので、微小間隙の大きさを変えることなく、耐磨耗性を向上させることができる。
【0015】
また、前記シール片積層体は、前記薄板シール片の内方端側における幅方向両側端部がそれぞれ多数集合してなる二つの小口側面を有し、軸方向における流体高圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を露出させた高圧側サイドシール板と、軸方向における流体低圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を前記高圧側サイドシール板よりも大きく露出させた低圧側サイドシール板とを備え、前記耐磨耗処理層は、軸方向に見て、前記内方端から前記高圧側サイドシール板と重なる位置まで形成されていると共に、前記低圧側サイドシール板から露出する範囲に含まれるように形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、耐磨耗処理層が、軸方向に見て、内方端から高圧側サイドシール板と重なる位置まで形成されていると共に、低圧側サイドシール板から露出する範囲に含まれるように形成されているので、径方向外方側に耐磨耗処理層が形成されずに薄板シール片の剛性の変化が必要最小限になる。これにより、薄板シール片の良好な弾力性を維持することができる。
【0016】
また、本発明に係る回転機械は、上記のうちいずれかの軸シール装置を前記回転軸の周囲に備えたことを特徴とする。
この構成によれば、上記のうちいずれかのシール装置を備えるので、薄板シール片の磨耗が抑止されてシール性能が持続する。これにより、耐寿命性かつメンテナンス性に優れた回転機械とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る軸シール装置によれば、薄板シール片の磨耗を抑止することができる。
【0018】
本発明に係る軸シール装置を備える回転機械によれば、耐寿命性かつメンテナンス性に優れた回転機械とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一実施形態に係るガスタービン1の概略全体構成図である。
【図2】図1におけるI−I線断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る軸シール機構10の概略構成断面図であって、回転軸5の軸線に沿った断面を示している。
【図4】本発明の第一実施形態に係るシールセグメント11の分解構成図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係るシール片積層体12の要部拡大図であって、図4におけるII−II線矢視図である。
【図6】本発明の第一実施形態に係る薄板シール片20の要部拡大図である。
【図7】本発明の第一実施形態に係る薄板シール片20の薄板シール片20を周方向に展開し、軸方向に交差する断面を示した展開断面図である。
【図8】本発明の第一実施形態に係るシールセグメント11の要部断面図であって、図7におけるIII−III線断面図である。
【図9】本発明の第一実施形態に係るシールセグメント11の微小間隙sに形成される作動流体gのガス圧力分布図である。
【図10】本発明の第一実施形態に係るシールセグメント11における薄板シール片20の胴部22の要部断面図であって、回転軸5の軸方向に交差する胴部22の切断面を示すと共に胴部22に作用する圧力をベクトルで示した図である。
【図11】本発明の第二実施形態に係るシールセグメント51の薄板シール片52を周方向に展開し、軸方向に交差する断面を示した展開断面図である。
【図12】従来の軸シール機構100の概略構成斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。
〈第一実施形態〉
(ガスタービンの全体構成)
図1は、本発明の第一実施形態に係るガスタービン(回転機械)1の概略全体構成図であり、図2は、図1におけるI−I線断面図である。
図1に示すように、ガスタービン1は、多量の空気を内部に取り入れて圧縮する圧縮機(回転機械)2と、この圧縮機2にて圧縮された圧縮空気に燃料を混合して燃焼させる燃焼器3と、燃焼器3から導入された燃焼ガスの熱エネルギーを回転エネルギーに変換するタービン(回転機械)4とを有しており、圧縮機2のローター2aとタービン4のローター4aとが連結されて回転軸5が構成されている。
【0021】
圧縮機2及びタービン4においては、図1に示すように、圧縮機ケーシング2b及びタービンケーシング4bのそれぞれの内周部において周方向に間隔を空けて複数の静翼が環状に固定された環状静翼群6と、回転軸5の外周部において周方向に間隔を空けて複数の動翼が環状に固定された環状動翼群7とが回転軸5の軸方向に交互に配列されている。
【0022】
このようなガスタービン1においては、高圧側から低圧側に作動流体(圧縮空気又は燃焼ガス)gが軸方向に漏出するのを防止するために、各環状静翼群6の内周部に軸シール機構10が配設されている。
また、圧縮機ケーシング2bが回転軸5を支持する軸受け部2c、及び、タービンケーシング4bが回転軸5を支持する軸受け部4cにおいても、作動流体gが高圧側から低圧側に漏れるのを防止するために軸シール機構10が配設されている。
【0023】
図2に示すように、各軸シール機構10は、円弧状に延びるシールセグメント(軸シール装置)11が回転軸5の周囲に周方向に複数(本第一実施形態では八つ)環状に配置されることで構成されている。
【0024】
(シールセグメントの構成)
図3は、回転軸5の軸線に沿った断面における軸シール機構10の概略構成断面図であり、図4は、シールセグメント11の分解構成図であり、図5は、図4におけるII−II線矢視図である。
図3に示すように、各シールセグメント11は、ハウジング(環状静翼群6及び軸受け部2c,4cに相当)9に挿入されている。
【0025】
このシールセグメント11は、図3に示すように、薄板シール片20が多数枚積層されたシール片積層体12と(図5参照)、断面コ字状の保持リング13,14と、背面スペーサ15と、高圧側サイドシール板16と、低圧側サイドシール板17とから構成されている。
【0026】
シール片積層体12は、図5に示すように、薄板状の薄板シール片20が多数枚積層され(図2参照)、これら多数枚の薄板シール片20の径方向外方端20a側が互いに連結されたものである。
薄板シール片20は、図3に示すように、主に薄い鋼板によって形成された部材であり、回転軸5の接線方向から見てT字状に形成され、その幅方向を回転軸5の軸方向に向けている。この薄板シール片20は、図4に示すように、外方端20a側の頭部21と、頭部21よりも幅寸法及び厚さ寸法(図5参照)が小さく形成されると共に頭部21の径方向内縁における軸方向中央から延出する胴部22とを備えている。
このような薄板シール片20は、図4に示すように、胴部22のうち頭部21との境界部分(径方向外方側)において、切り欠き部20x,20yが形成されている。
【0027】
各薄板シール片20は、それぞれの頭部21の側方突出部21cが溶接されており、相互に連結されている。一方、各薄板シール片20の胴部22は、弾性変形可能であり、各薄板シール片20の内方端20bが自由端となっている。
このような薄板シール片20は、図5に示すように、頭部21の厚さ寸法が胴部22の厚さ寸法よりも大きいことにより、積層すると相互に隣接する二つの薄板シール片20の胴部22毎に微小間隙sが形成されている。
【0028】
このような薄板シール片20が多数枚積層されたシール片積層体12は、各薄板シール片20の胴部22の側端部20cが多数集合してなる小口側面12cが高圧側に向けられ、各薄板シール片20の胴部22の側端部20dが多数集合してなる小口側面12dが低圧側に向けられた状態で、ハウジング9に挿入されている。このシール片積層体12は、回転軸5の停止時においては、各薄板シール片20の内方端20b側が回転軸5に所定の予圧で接触するようになっている。
【0029】
図6は、薄板シール片20の要部拡大図であり、図7は、薄板シール片20の薄板シール片11を周方向に展開し、軸方向に交差する断面を示した展開断面図であり、図8は、図7におけるIII−III線断面図である。
図6〜図8に示すように、各薄板シール片20の内方端20b側の表面には、メッキ処理層(耐磨耗処理層)25が形成されている。
【0030】
メッキ処理層25は、クロムメッキによって形成されており、固体潤滑成分として二酸化モリブデン(MoS2)を含有し、薄板シール片20の基材(鋼)と比べて、硬度が向上し、また、回転軸5(鋼)に対する摩擦係数が低くなっている。
このメッキ処理層25は、図7及び図8に示すように、その層厚さtがμmレベルとなっており、相互に隣接する薄板シール片20の胴部22間に形成される微小間隙sが、膜厚さtの2倍(t×2)だけ狭められている。
【0031】
図8に示すように、メッキ処理層25は、薄板シール片20の軸方向に交差する断面の全周に形成されており、具体的には、回転軸5に面する下面20q及びその裏面である上面20p、並びに、側端部20c,20d上に形成されている。
【0032】
このようなメッキ処理層25は、軸方向に見て、薄板シール片20の内方端20bから高圧側サイドシール板16と重なる位置まで形成されている。換言すれば、図6及び図7に示すように、小口側面12dのうち高圧側サイドシール板16から露出する部分(詳しくは後述する。)の径方向の寸法m1よりもメッキ処理層25の径方向の寸法nが大きく形成されている。
また、メッキ処理層25は、小口側面12dのうち低圧側サイドシール板17から露出する範囲に含まれるように形成されている。換言すれば、図6及び図7に示すように、小口側面12dのうち低圧側サイドシール板17から露出する部分(詳しくは後述する。)の径方向の寸法m2よりもメッキ処理層25の径方向寸法nが小さく形成されている。
【0033】
高圧側サイドシール板16は、回転軸5の軸方向から見た場合において扇形状の板状部材であり、図3に示すように、回転軸5の軸方向の高圧側においてシール片積層体12の一部を覆っている。この高圧側サイドシール板16は、図3及び図4に示すように、径方向外方側において幅寸法(回転軸5の軸方向)が大きく形成された段差部16aが薄板シール片20の切り欠き部20xに嵌め込まれた状態で、シール片積層体12と保持リング13とに挟まれている。
このような構成により、図6に示すように、小口側面12cのうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を径方向の寸法m1だけ露出させている。
【0034】
低圧側サイドシール板17は、回転軸5の軸方向から見た場合において扇形状の板状部材であり、図3に示すように、回転軸5の軸方向の低圧側においてシール片積層体12の一部を覆っている。この低圧側サイドシール板17は、径方向外方側において幅寸法(回転軸5の軸方向)が大きく形成された段差部17aが薄板シール片20の切り欠き部20yに嵌め込まれた状態で、シール片積層体12と保持リング14とに挟まれている。
このような構成により、図6に示すように、低圧側サイドシール板17は、小口側面12dのうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を高圧側サイドシール板16よりも大きく径方向の寸法m2だけ露出させている。
【0035】
すなわち、これら高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17は、回転軸5の径方向の寸法が、高圧側サイドシール板16よりも低圧側サイドシール板17が小さく形成されており、後述する微小間隙sが所定のガス圧力分布になるように設計されている。
【0036】
保持リング13,14は、断面コ字状で回転軸5の周方向に延びる円弧状部材である。
保持リング13は、図3及び図4に示すように、複数の薄板シール片20の頭部21の側方突出部21cに対向する面に、凹溝13aが形成されている。
保持リング14は、図3及び図4に示すように、複数の薄板シール片20の頭部21の側方突出部21dに対面する面に、凹溝14aが形成されている。
背面スペーサ15は、薄板シール片20の頭部21と保持リング13,14との間に介挿されている。
【0037】
上記の保持リング13,14は、図3に示すように、保持リング13の凹溝13a及び保持リング14の凹溝14aに、シール片積層体12における各薄板シール片20の頭部21が背面スペーサ15を介して嵌め込まれることにより、シール片積層体12を保持している。
【0038】
このようなシールセグメント11は、図3に示すように、ハウジング9の内周部において断面T字状に形成されると共に回転軸5の周方向に延在するT字環状溝9aに収容されている。具体的には、T字環状溝9aのうち径方向外周側において溝幅(回転軸5の軸方向)が大きく形成された部分に保持リング13,14が収容されており、径方向内周側において溝軸が小さく形成された部分に、高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17と、薄板シール片20の胴部22が収容されている。そして、T字環状溝9aの開口部から回転軸5に向けて胴部22の先端(内方端20b)が突出している。
【0039】
(シールセグメントの作用)
続いて、上記のように製造されたシールセグメント11の作用について説明する。図9は、微小間隙sに形成される作動流体gのガス圧力分布図であり、図10は、回転軸5の軸方向に交差する胴部22の切断面を示すと共に胴部22に作用する圧力をベクトルで示した図である。
【0040】
ガスタービン1が停止状態から起動されると、回転軸5が回転し、この回転軸5と所定の与圧で接触している薄板シール片20の内方端20b側と回転軸5とが摺動摩擦する。
この際、薄板シール片20の内方端20bの表面には、メッキ処理層25が形成されていることから、メッキ処理層25と回転軸5とが摺動摩擦することとなる。メッキ処理層25は、比較的に高い硬度を有すると共に回転軸5に対する摩擦係数が低くなっており、比較的に磨耗量が少なくなる。
さらに、メッキ処理層25が固体潤滑成分の二酸化モリブデン(MoS2)を含有していることから、回転軸5に対する摩擦係数がさらに低くなっており、薄板シール片20磨耗量が極めて少量となる。
なお、回転軸5に対する摩擦係数が低減されていることで、回転軸5の磨耗量も極めて少量となる。
【0041】
このようにして、回転軸5とメッキ処理層25とが摺動摩擦しながら回転軸5の回転数が上昇していく。そして、ガスタービン1が所定の回転数になると、回転軸5の動圧効果によって回転軸5とメッキ処理層25に隙間が形成されて摩擦摺動が解消される。この状態においては、図9に示すように、軸シール機構10を境にして作動流体gの高圧側領域と低圧側領域とが形成される。
高圧側領域と低圧側領域が形成されると、シールセグメント11が高圧側領域から低圧側領域に向けて圧力を受けて、低圧側サイドシール板17がハウジング9に密着する。
【0042】
そして、図9に示すように、作動流体gが回転軸5の外周面と薄板シール片20の内方端20bとの間を流れる。
また、小口側面12cのうち高圧側サイドシール板16から露出した部分から各微小間隙sに作動流体gが侵入する。この際、図6及び図7に示すように、メッキ処理層25が、軸方向に見て、薄板シール片20の内方端20bから高圧側サイドシール板16と重なる位置まで形成されていることで、各微小間隙sがメッキ処理層25の膜厚さtの2倍(t×2)だけ狭められている。このため、作動流体gが微小間隙sに侵入し難くなっている。
【0043】
微小間隙sに侵入した作動流体gは、図9に示すように、微小間隙sを介して対向する上面20pと下面20qとに沿って、角部r1から角部r2の方向へ放射状に流れる。
つまり、低圧側サイドシール板17の径方向寸法が、高圧側サイドシール板16の径方向寸法よりも大きくされることで、図9に示すように、薄板シール片20の内方端20bかつ高圧側に位置する角部r1で最もガス圧が高く、対角の角部r2に向かって徐々にガス圧が弱まるガス圧力分布40aが形成される。
【0044】
図9に示すように、ガス圧力分布40aは、薄板シール片20の外方端20aに向かって低圧の領域が広がる。そのため、図10に示すように、各薄板シール片20の上面20p及び下面20qに加わるガス圧力分布40b,40cは、薄板シール片20の内方端20bに近いほど大きくなると共に外方端20aに向かうほど小さくなる三角分布形状となる。
【0045】
図10に示すように、上面20p及び下面20qのそれぞれにおけるガス圧力分布40b,40cは略等しい形状となるが、回転軸5の外周の接線方向に傾くようにして各薄板シール片20が配置されているので、これら上面20p及び下面20qにおける各ガス圧力分布40b,40cの相対位置がずれる。よって、薄板シール片20の外方端20aから内方端20bに向かう任意の点Pにおける上面20p及び下面20qのガス圧に差が生じ、下面20qに加わるガス圧が上面20pに加わるガス圧よりも高くなる。これによって、薄板シール片20の内方端20bに対して回転軸5より浮かせる方向に浮上力FLが発生する。
【0046】
以上のようにして、薄板シール片20に浮上力FLが作用し、動圧効果による浮上力を補助することにより、回転軸5との間にシールクリアランスが形成される。
【0047】
ガスタービン1の停止時、ターニング時、あるいは、不測の事態等の場合において、薄板シール片20に作用する浮上力が不十分になって薄板シール片20と回転軸5とが接触摺動したとしても、上記の起動時と同様の作用により、薄板シール片20の内方端20b側の磨耗量が極めて少量となる。このため、各シールセグメント11のシール性能が持続する。
【0048】
以上説明したように、本第一実施形態に係るシールセグメント11によれば、薄板シール片20の内方端20b側の表面にメッキ処理層25が形成されているので、ガスタービン1の起動時等において薄板シール片20に作用する浮上力が小さい場合、あるいは、薄板シール片20に作用する浮上力が不測に低下した場合には、メッキ処理層25が回転軸5と摺動する。これにより、接触摺動による磨耗をメッキ処理層25が軽減する。
さらに、メッキ処理層25が固体潤滑成分の二酸化モリブデン(MoS2)を含有しているので、メッキ処理層25と回転軸5との摩擦係数をさらに低くすることができ、磨耗量を極めて少量とすることができる。
従って、薄板シール片20が磨耗することを抑止することができる。
【0049】
また、薄板シール片20のうちメッキ処理層25が形成された部分における厚みがメッキ処理層25の分だけ増加する。これにより、相互に隣接する薄板シール片20の胴部22間に形成されている微小間隙sの少なくとも一部を狭めることが可能となる。これにより、微小間隙sを更に狭めるので、作動流体gが微小間隙sを流れ難くなり、シール性を向上させることが可能となる。
【0050】
また、メッキ処理層25が、軸方向に見て、薄板シール片20の内方端20bから高圧側サイドシール板16と重なる位置まで形成されているので、小口側面12cのうち高圧側サイドシール板16から露出する部分に相当する位置の微小間隙sを狭めることができる。これにより、微小間隙sのうち作動流体gが流入する部分が更に狭められて微小間隙sに作動流体gが流入し難くなるので、シール性を更に向上させることが可能となる。
【0051】
また、軸方向に見て、低圧側サイドシール板17から露出する範囲に含まれるように形成されているので、径方向外方側にメッキ処理層25が形成されずに薄板シール片20の剛性の変化が必要最小限になる。これにより、薄板シール片20の良好な弾力性の維持とシール性の向上とを両立させることができる。
【0052】
また、ガスタービン1は、シールセグメント11を備えるので、薄板シール片20の磨耗が抑止されてシール性能が持続する。これにより、耐寿命性かつメンテナンス性に優れたガスタービンとすることができる。
【0053】
なお、上述した構成では、メッキ処理層25をクロムメッキにより形成したが、薄板シール片20の硬度の向上、及び、回転軸5に対する摩擦係数の低下のうちの少なくとも一方の効果が得られれば、その他の方法によってメッキ処理層を形成しても構わない。
例えば、ニッケルメッキや貴金属メッキ、あるいは、これらの合金等によってメッキ処理層を形成しても構わない。
また、硬い微粒子(「炭化ケイ素(SiC)」「炭化タングステン(WC)」「ダイヤモンド」)や自己潤滑性を有する微粒子(「PTFE(フッ素系高分子)」、「グラファイト」、「窒化ホウ素(BN)」)を共折させてもよい。
なお、メッキ方法としては、各種メッキ方法を用いることができる。
【0054】
〈第二実施形態〉
次に、本発明の第二実施形態に係るシールセグメント(軸シール装置)51について説明する。
図11は、本発明の第二実施形態に係るシールセグメント51の薄板シール片52を周方向に展開し、軸方向に交差する断面を示した展開断面図である。
【0055】
シールセグメント51は、シールセグメント11とほぼ同様に構成されたものであるが、薄板シール片20に代えて薄板シール片52を用いている点でシールセグメント11と相違する。また、薄板シール片52は、薄板シール片20とほぼ同様に構成されたものであるが、内方端20b側においてメッキ処理層25の代わりに拡散浸透処理層(耐磨耗処理層)26が形成されている点で薄板シール片20と相違している。
なお、上述した第一実施形態と同様の構成要素については、同様の符号を付して、その説明を省略する。
【0056】
拡散浸透処理層26は、窒化処理によって形成されており、薄板シール片20と比べて硬度が向上している。
この拡散浸透処理層26は、図11に示すように、薄板シール片20の内部に窒素元素が浸透することによって形成されているために、メッキ処理層25と異なり、薄板シール片20の厚さを変えることなく胴部22間に形成された微小間隙sを狭めない。
このような拡散浸透処理層26は、図11に示すように、内方端21bから径方向の寸法n(m1<n<m2)だけ径方向外方側に形成されている。すなわち、拡散浸透処理層26は、薄板シール片52の内方端20bから高圧側サイドシール板16と重なる位置まで形成されていると共に、低圧側サイドシール板17から露出する範囲に含まれるように形成されている。
【0057】
この構成によれば、薄板シール片20の表面に拡散浸透処理層26が形成されているので、拡散浸透処理の前後において薄板シール片20の厚さが変わらない。これにより、微小間隙sの大きさを変えることなく、耐磨耗性を向上させることができる。
【0058】
また、拡散浸透処理層26が、軸方向に見て、薄板シール片52の内方端20bから高圧側サイドシール板16と重なる位置まで形成されていると共に、低圧側サイドシール板17から露出する範囲に含まれるように形成されているので、径方向外方側に拡散浸透処理層26が形成されずに薄板シール片20の剛性の変化が必要最小限になる。これにより、薄板シール片20の良好な弾力性を維持することができる。
【0059】
なお、上述した構成では、拡散浸透処理層26を窒化処理によって形成する構成としたが、ボロナイズ等によって形成してもよい。
【0060】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、上述した実施の形態では、本発明に係る軸シール機構10をガスタービン1へ適用する場合について説明したが、例えば、蒸気タービン、圧縮機、水車、冷凍機、ポンプ等の回転機械全般に広く採用することができる。
【0061】
また、上述した実施の形態では、メッキ処理層25,拡散浸透処理層26は、薄板シール片20の軸方向に交差する断面の全周に形成したが、薄板シール片20における内方端21b側のうち、回転軸5と面する下面20q及び径方向内端部20bのうち少なくとも一方だけに形成しても構わない。
【0062】
また、上述した実施の形態では、薄板シール片20,52を鋼材(例えば耐熱鋼)で形成したが、その他の材料で形成してもよい。
【0063】
また、上述した実施の形態では、回転軸5を鋼材(例えば耐熱鋼)で形成したが、その他の材料で形成してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…ガスタービン(回転機械)
2…圧縮機(回転機械)
4…タービン(回転機械)
5…回転軸
11,51…シールセグメント(軸シール装置)
12,52…シール片積層体
12b…小口内方端面
12c,12d…小口側面
16…高圧側サイドシール板
17…低圧側サイドシール板
20…薄板シール片
20a…外方端
20b…内方端
20c,20d…側端部
25…メッキ処理層(耐磨耗処理層)
26…拡散浸透処理層(耐磨耗処理層)
s…微小間隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の周囲に沿って周方向に多数枚の薄板シール片が積層され、これら多数枚の薄板シール片の径方向外方端側が互いに連結されると共に径方向内方端が自由端とされて、相互に隣接する二つの薄板シール片毎に微小間隙が形成されていると共に前記回転軸に対して微小隙間を形成するシール片積層体を備えた軸シール装置であって、
前記薄板シール片には、前記内方端側の表面に耐磨耗処理層が形成されていることを特徴とする軸シール装置。
【請求項2】
前記耐磨耗処理層は、メッキ処理層であることを特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項3】
前記シール片積層体は、前記薄板シール片の内方端側における幅方向両側端部がそれぞれ多数集合してなる二つの小口側面を有し、
軸方向における流体高圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を露出させた高圧側サイドシール板と、
軸方向における流体低圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を前記高圧側サイドシール板よりも大きく露出させた低圧側サイドシール板とを備え、
前記耐磨耗処理層は、軸方向に見て、前記内方端から前記高圧側サイドシール板と重なる位置まで形成されていることを特徴とする請求項2に記載の軸シール装置。
【請求項4】
前記耐磨耗処理層は、軸方向に見て、前記低圧側サイドシール板から露出する範囲に含まれるように形成されていることを特徴とする請求項3に記載の軸シール装置。
【請求項5】
前記耐磨耗処理層は、拡散浸透処理層であることを特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項6】
前記シール片積層体は、前記薄板シール片の内方端側における幅方向両側端部がそれぞれ多数集合してなる二つの小口側面を有し、
軸方向における流体高圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を露出させた高圧側サイドシール板と、
軸方向における流体低圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を前記高圧側サイドシール板よりも大きく露出させた低圧側サイドシール板とを備え、
前記耐磨耗処理層は、軸方向に見て、前記内方端から前記高圧側サイドシール板と重なる位置まで形成されていると共に、前記低圧側サイドシール板から露出する範囲に含まれるように形成されていることを特徴とする請求項5に記載の軸シール装置。
【請求項7】
請求項1から6のうちいずれか一項に記載の軸シール装置を前記回転軸の周囲に備えたことを特徴とする回転機械。
【請求項1】
回転軸の周囲に沿って周方向に多数枚の薄板シール片が積層され、これら多数枚の薄板シール片の径方向外方端側が互いに連結されると共に径方向内方端が自由端とされて、相互に隣接する二つの薄板シール片毎に微小間隙が形成されていると共に前記回転軸に対して微小隙間を形成するシール片積層体を備えた軸シール装置であって、
前記薄板シール片には、前記内方端側の表面に耐磨耗処理層が形成されていることを特徴とする軸シール装置。
【請求項2】
前記耐磨耗処理層は、メッキ処理層であることを特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項3】
前記シール片積層体は、前記薄板シール片の内方端側における幅方向両側端部がそれぞれ多数集合してなる二つの小口側面を有し、
軸方向における流体高圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を露出させた高圧側サイドシール板と、
軸方向における流体低圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を前記高圧側サイドシール板よりも大きく露出させた低圧側サイドシール板とを備え、
前記耐磨耗処理層は、軸方向に見て、前記内方端から前記高圧側サイドシール板と重なる位置まで形成されていることを特徴とする請求項2に記載の軸シール装置。
【請求項4】
前記耐磨耗処理層は、軸方向に見て、前記低圧側サイドシール板から露出する範囲に含まれるように形成されていることを特徴とする請求項3に記載の軸シール装置。
【請求項5】
前記耐磨耗処理層は、拡散浸透処理層であることを特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項6】
前記シール片積層体は、前記薄板シール片の内方端側における幅方向両側端部がそれぞれ多数集合してなる二つの小口側面を有し、
軸方向における流体高圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を露出させた高圧側サイドシール板と、
軸方向における流体低圧側の前記小口側面のうち径方向外方側を覆うと共に径方向内方側を前記高圧側サイドシール板よりも大きく露出させた低圧側サイドシール板とを備え、
前記耐磨耗処理層は、軸方向に見て、前記内方端から前記高圧側サイドシール板と重なる位置まで形成されていると共に、前記低圧側サイドシール板から露出する範囲に含まれるように形成されていることを特徴とする請求項5に記載の軸シール装置。
【請求項7】
請求項1から6のうちいずれか一項に記載の軸シール装置を前記回転軸の周囲に備えたことを特徴とする回転機械。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−185219(P2011−185219A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53657(P2010−53657)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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