説明

軸受けケージ

【課題】分割された軸受けケージに関して公知先行技術を改良し、分割された軸受けケージならびにその製造のための改善されたコンセプトを提供する。
【解決手段】軸受けケージ10が、周方向で第1の軸受けケージ区分12−1と第2の軸受けケージ区分12−2との間の分離個所11−1;11−2のところでスリット付けされて形成されており、両軸受けケージ区分の間の分離個所の互いに向かい合わされた画定面13−1;13−2に、1つの突出部14と、該突出部に対応する1つの切欠き15とから成る対偶が加工成形されていて、突出部と切欠きとが互いに係合させられると、画定面が3方向で互いに位置固定されるようになっており、突起および切欠きの主軸線17−1;17−2が、当該軸受けケージの回転軸線16に対して斜めの角度αを成して延びている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に転がり軸受けに用いられるスリット付けされた軸受けケージ(軸受け保持器)およびこのような軸受けケージの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受けに用いられる軸受けケージは、一般に軸方向の所定の間隔を置いて配置された2つのサイドリングと、これらのサイドリングを結合しかつ軸受けケージの周方向で相前後して配置された複数のウェブとから成っている。これらのウェブは対になって、転動体を収容するためのポケットを形成する。軸受けケージは、このために設けられたポケットによって転動体を互いに間隔を置いた状態に保持して、隣接し合った転動体の直接的な接触を阻止する。これにより、軸受け内の摩擦、ひいては熱発生を典型的に減少させることができる。さらに、軸受けケージは、ケージもしくは転がり軸受けの全周にわたって転動体を均一に分配するために役立ち、こうして均一な荷重分配ならびにむらのない安定した均一の回転を可能にする。
【0003】
転がり軸受けケージは使用時に摩擦力、強い引張力および慣性力により機械的に著しく負荷される。それゆえに、転がり軸受けケージは一般に一体に、つまり単一部分から形成されている。典型的には、転がり軸受けケージはプレス成形されたケージおよびソリッドケージである。転がり軸受けのためのプレス成形されたケージは、たいてい鋼薄板から、幾つかの事例では黄銅薄板から製作される。転がり軸受けのためのソリッドケージは、たとえば黄銅、鋼、アルミニウム、ポリマまたはフェノール樹脂から製造されている。
【0004】
効率の良い内燃機関を開発するためには、内燃機関においてクランクシャフトとコネクティングロッドとを支承するために使用される滑り軸受けを転がり軸受けによって代えるための手段が模索される。なぜならば、これによってかなりの摩擦低減が得られるからである。しかし、クランクシャフトは原理的に屈曲されて形成されているので、転がり軸受けを組み付けるためには2つの手段が存在する。第1に、クランクシャフトが複数の個別部分から形成されている場合には、軸受けを軸方向で組み付けることができる。第2には、軸受け(つまり軸受けレースおよびケージ)を所定平面に沿って半径方向で分割して、軸ジャーナルを介して組み付けることができる。クランクシャフトを複数の個別部分から形成することは一般に極めて手間がかかり、かつ高いコストを伴うので、通常では、同じく分割されたケージを備えた分割された転がり軸受けを開発しかつ提供することが要求される。
【0005】
過去からは、転がり軸受けが使用されているレース使用のためのエンジンも、航空機エンジンも知られている。これらの事例から引き出すことのできた認識は、特にコネクティングロッド軸受け使用においては、発生する力に基づき、ケージを一体構造で形成することが要求されるということである。その結果、一体のケージとしての機能を満たすために、組立て後にいわゆるロック機構(Schloesser)によって結合され得る、半径方向で分割されたケージを構成することが要求される。
【0006】
分割された転がり軸受けケージまたはスリット付けされた転がり軸受けケージは、周方向における分離個所もしくは分離継ぎ目のところに、一貫して延びるスリットを有している。分離個所を画定しているケージ端部もしくはサイドリング端部はこの場合、ウェブ(周方向ウェブ)によって形成される。これらのウェブは、互いに対応した突出部と切欠きとを有しており、これにより、たとえばスナップ結合によってケージ端部を互いに固定もしくは連結することができる。ケージ端部に設けられたロック機構がケージ端部を固定するか、もしくは位置固定する、このようにスリット付けされた転がり軸受けケージは、多目的に使用され得るが、たとえば変速運転される自動車におけるカウンタシャフトの支承またはシャフトにおける歯車の支承のために使用され得る。
【0007】
文献および公知先行技術に基づき、ケージ結合部またはケージロック機構については、種々異なる構成が知られている。これらの構成はこれまで主として自動車変速機における使用のために開発されており、第1には組立ての簡易化のために使用されている。しかし、これらの使用においては、発生する力が比較的小さく、すなわち組立ての後でケージロック機構は小さな負荷しか受けない。また、第1に、1つの結合個所しか有しない、たとえば相応するポリマから成る弾性的なケージも使用される。この結合個所は、組立てのために曲げ開かれ、引き続きロック機構によって再び結合される。これにより、位置決めおよび力吸収に関する要求は、内燃機関における最近の使用に比べて著しく低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の課題は、分割された軸受けケージに関して公知先行技術を改良し、分割された軸受けケージならびにその製造のための改善されたコンセプトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために本発明の構成では、当該軸受けケージが、周方向で第1の軸受けケージ区分と第2の軸受けケージ区分との間の少なくとも1つの分離個所のところでスリット付けされて形成されており、第1の軸受けケージ区分と第2の軸受けケージ区分との間の前記分離個所の互いに向かい合わされた画定面に、1つの突出部と、該突出部に対応する1つの切欠きとから成る少なくとも1つの対偶が加工成形されていて、突出部と切欠きとが互いに係合させられると、前記画定面が3方向で互いに位置固定されるようになっており、突起および切欠きの主軸線が、当該軸受けケージの回転軸線に対して斜めの角度を成して延びているようにした。
【発明の効果】
【0010】
本発明の認識は、互いに対応する突出部と切欠きとから成る、第1の軸受けケージ区分の端部と第2の軸受けケージ区分の端部とに加工成形された少なくとも1つの対偶によって、第1の軸受けケージ区分および第2の軸受けケージ区分の、分離個所により分離された2つの端部の3つの軸線もしくは3つの方向における確実な位置決めもしくは確実な位置固定を得ることである。本発明によれば、分離個所において加工成形された突出部ならびにこれに対応する切欠きのそれぞれ1つの主軸線が、軸受けケージの回転軸線に対して斜めに延びていることにより、たとえばコネクティングロッド軸受け使用において必要とされるような軸受けケージ区分もしくは軸受けケージ半部の、高い力を受け止める確実な結合が達成される。言い換えれば、突出部およびこれに対応する切欠きは、分離個所の画定面に沿って少なくとも所定の区分にわたって軸受けケージの回転軸線に対して斜めの角度を成して延びている。
【0011】
以下において、「主軸線」とは、軸線であって、該軸線に沿って主として分離個所の画定面に設けられた突出部または切欠きが延びている軸線を意味する。「軸受けケージの回転軸線に対して斜めの角度」とは、0゜とは異なる角度または90゜の数倍に相当する角度とは異なる角度を意味し、つまりたとえば0゜<α<90゜を有する角度αを意味する。
【0012】
このために、本発明による、転がり軸受けに用いられる軸受けケージの構成では、当該軸受けケージが、周方向で第1の軸受けケージ区分と第2の軸受けケージ区分との間の少なくとも1つの分離個所のところでスリット付けされているか、もしくは分割されて形成されている。第1の軸受けケージ区分と第2の軸受けケージ区分との間の前記分離個所の互いに向かい合わされた画定面には、1つの突出部と、該突出部に対応する1つの切欠きとから成る少なくとも1つの対偶が加工成形もしくは一体成形されていて、突出部と切欠きとが互いに係合させられると、前記画定面が3方向(半径方向、接線方向、軸方向)で互いに位置固定されるようになっている。すなわち、突出部および該突出部に対応する切欠き(以下に、これらを「結合エレメント」とも呼ぶ)は、3つの方向全てにおける確実な位置決めを得るために構成されている。このためには、前記分離個所の画定面に加工成形された突出部および該突出部に対応する切欠きの主軸線が、それぞれ当該軸受けケージの回転軸線に対して斜めに延びている。すなわち、結合エレメント、つまり突出部および該突出部に対応する切欠きは、半径方向のケージ切断平面においてそれぞれ円錐状に延びるように形成されると云うこともできる。少なくとも所定の区分にわたって斜めに、もしくは円錐状に延びる突出部および切欠きにより、3つの全ての軸線(軸方向、接線方向および半径方向)に関する、分割された軸受けケージ区分の確実でかつ保持可能な位置決めを達成することができる。
【0013】
前記分離個所の画定面に加工成形された突出部と、該突出部に対応する切欠きとは、接線方向(周方向)で見て、互いに対応し合う軸受けケージ区分の画定面に、互いに向かい合って位置するように加工成形されているので、両軸受けケージ区分の接合時に、突出部と、該突出部に対応する切欠きとを周方向で互いに内外に嵌め合わせることができる。
【0014】
接合したい軸受けケージ区分の間に付加的にできるだけ高い結合力を得るためには、結合エレメント(つまり突出部または切欠き)が、アンダカット部を備えたエレメントとして形成されていてよい。このような結合は、溝・キーまたは溝・突起に類似した結合エレメントを用いて形成され得るが、しかし弾性的な変形によって小さなオーバラップ範囲において互いに結合される、そのヘッド範囲の背後の、より小幅に延びる付加的なアンダカット部を用いても形成され得る。すなわち、幾つかの実施形態では、前記分離個所の画定面に加工成形された突出部が、少なくとも所定の区分にわたり斜めに延びるその主軸線に対して直角な平面に沿った横断面で見て、アンダカット加工された、ほぼ半円形もしくは円形の横断面を有していてよい。これに対応して、前記突出部に対応する切欠きも、その(斜めに延びる)主軸線に対して直角な平面に沿った横断面で見て、前記アンダカット加工された、ほぼ半円形もしくは円形の横断面に適合された球面形の横断面を有していてよい。
【0015】
このようにアンダカット加工されて形成された結合エレメントにより、クランクシャフト軸受け使用およびコネクティングロッド軸受け使用において生じる高い力をも受け止めることのできる、軸受けケージ区分の確実な結合もしくは耐久性の良い結合を保証することができる。さらに、軸受けケージ区分は、溝・キー原理をベースとした結合エレメント(突出部、切欠き)に基づき、スナップ結合によって比較的容易に結合され得るようになる。しかし、このスナップ結合を再び解離することは、アンダカット部に基づき比較的困難となる。以下においてさらに説明するように、軸受けケージ区分の結合もしくは接合のための本発明の実施形態では、相応するハンドリング工具が規定されている。
【0016】
幾つかの実施形態では、前記突出部が、分割された軸受けケージの半径方向の切断平面から突出したキー類似のエレメントもしくはキー状のエレメントである。多くの実施形態では、斜めに延びる突出部が、軸方向(つまりケージ回転軸線の方向)のほぼ全ケージ幅にわたって延びていてよく、そして該幅にわたって連続的に変化する直径(ケージ回転軸線に関して)を有していてよい。各突出部は、その主軸線に対して直角な平面に円セグメント形の横断面を有していてよく、この場合、ケージ切断平面もしくは分離面に対する結合部は、円セグメント形の突出部の最大の半径方向直径よりも小さな半径方向延在長さを有しており、これによってアンダカット部を形成している。対応する切欠きは、相応して溝類似のエレメントもしくは溝状のエレメントとみなされ得る。このエレメントは、上で説明したキー類似の突出部に対するネガ形状を有していて、ケージ切断平面もしくは分離個所の画定面に凹設されて延びている。切欠きの半径方向および接線方向の寸法は、これに対応する突出部の寸法に調和されており、これにより、切欠きと突出部とが互いに内外に係合させられると、切欠きおよび突出部の輪郭の僅かな重なりもしくは僅かな合致により両軸受けケージ区分の確実な結合が保証される。
【0017】
結合エレメントの各主軸線と、軸受けケージ回転軸線との間の角度αは、45゜よりも小さな範囲、有利には10゜よりも小さな範囲、さらに有利には1゜〜5゜の範囲にある。これよりもさらに小さな角度では、確実な位置決めがもはや保証され得なくなる。これよりも大きな角度は、転がり軸受けケージにとって汎用の幅・厚さ特性において、ケージの軸方向幅をもはや十分に利用することができなくなり、したがって材料効率の点から見て不都合となる恐れがある。大まかな原則として云えることは、角度αは、突出部もしくは切欠きが、それぞれ半径方向に延びる画定面の一方の上側の角隅から対角線方向に、画定面の軸方向および半径方向で反対の側に位置する他方の角隅にまで延びるように設定されなければならない。これにより、転がり軸受けケージの汎用の幅・厚さ特性においては、約1゜〜約5゜の角度が生ぜしめられる。
【0018】
結合エレメント、つまり突出部および切欠きの各寸法は、第1に分離個所の画定面の利用可能なスペースに関連しており、ひいては半径方向のケージ厚さにも関連している。多くの実施形態では、突出部と、該突出部に対応する切欠きとが、その各主軸線に対して直角の方向で、半径方向の軸受けケージ厚さの0.25倍〜0.4倍の範囲に延びている。すなわち、突出部および切欠きの厚さは半径方向の軸受けケージ厚さの0.25倍〜0.4倍に相当している。
【0019】
有利な実施形態では、突出部と、該突出部に対応する切欠きとが、当該軸受けケージのほぼ全軸方向幅にわたって延びていてよい。このことは、とりわけ一層簡単な製作および一層簡単もしくは一層複雑でない組立てを可能にする。回転軸線に対して斜めに延びる結合エレメントにより、軸受けケージ半部もしくは軸受けケージ区分は軸方向および/または半径方向に押しずらされなくなる。斜めに延びる突出部のアンダカット加工された構成およびこれに対して対応する切欠きにより、軸受けケージ区分の接線方向での解離も阻止される。
【0020】
結合エレメントである突出部および切欠きは、突出部および切欠きの端部がそれぞれ軸受けケージ区分の半径方向の端部と直接に交差しないように、分割された軸受けケージ区分の画定面に配置されていると有利である。すなわち、突出部もしくは切欠きのそれぞれ任意の点を起点として、軸受けケージの半径方向外側または半径方向内側に設置された端部に対してなお半径方向の最小間隔が保証されていることが望ましい。有利な実施形態では、前記画定面の、突出部または切欠きから前記画定面の半径方向の端部にまでの最小の半径方向延在長さが、0.2〜1mmの範囲にあることが望ましい。1つの結合エレメントの脇で内方もしくは外方へ向かって存在するこの最小の半径方向肉厚さは、一般に使用されるケージ材料に関連している。鋼および/またはチタン合金のためには、少なくとも0.4mmの半径方向の肉厚さが保証されることが望ましい。アルミニウム合金のためには、少なくとも0.6mmが設定されると望ましく、それに対して、ポリマ、たとえばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のためには、0.8mmの最小の半径方向肉厚さが有利になり得る。
【0021】
軸方向および/または半径方向における遊びなしの結合を得るためには、キー類似の突出部の円セグメント形または楕円セグメント形の横断面が、特に半径方向において(垂直方向)、溝類似の切欠きの横断面よりも大きいか、または少なくとも該切欠きの横断面に等しく形成されていてよい。突出部と切欠きとの間の弾性的な結合を保証するためには、突出部が中央部でその主軸線に沿って円錐頂角αに対して平行にスリット付けされて形成されていてよい。すなわち、分割された軸受けケージの組立て時および/または分解時に突出部の弾性変形を可能にするために、この突出部はその回転軸線に対して斜めに延びる主軸線に沿ってスリット付けされて形成されていてよい。多くの実施形態では、主軸線に沿って加工成形されたスリットが、接線方向で見て突出部自体よりも長く、もしくは深く延びている。このことは、スリットが接線方向で、突出部の、軸受けケージ区分から離れる方向に向いた端部から接線方向で突出部を貫いて軸受けケージ区分に突入するまで延びていることを意味する。スリットの接線方向の延在長さが突出部の接線方向の延在長さよりも大きく形成されていることにより、突出部の最適なばね弾性特性を達成することができる。突出部の、回転軸線に対して斜めに延びる主軸線に対して直角方向でのスリットの幅、つまり半径方向±αにおける幅は、有利な実施形態では、突出部の半径方向延在長さの0.2倍〜0.3倍の範囲にあってよい。すなわち、スリットの厚さは、たとえばばねエレメントもしくは突出部の半径方向の延在長さの1/4の範囲にあってよい。
【0022】
結合エレメント(突出部、切欠き)の円セグメント形または楕円セグメント形の横断面に対して択一的に、方形の基本形状に基づいた幾何学的な形状も可能である。特にこの場合、いわゆる鳩尾形状(角柱状の溝およびキー)を挙げることができる。鳩尾形状は同じく高い信頼性を持っている。鳩尾形状が接線方向においてアンダカット部を実現する場合には、前記鳩尾形状が、軸受けケージ区分の接合を容易にするために周方向で丸められた縁部を有していてよく、これによりケージ半部の接合後に相応して高い結合力を実現することができる。
【0023】
多くの実施形態において、軸受けケージ回転軸線に対して斜めに延びる結合エレメントは単純に直線状にのみ延びるように形成されていてよいが、「円錐状の」キー・溝結合のこのような本発明における基本形状を改良する別の実施形態も考えられる。この場合、たとえば結合エレメント、すなわち突出部および切欠きのV字形状が挙げられる。直線状に斜めに延びる構成の代わりに、この場合、V字形状の突出部・切欠きデザインが選択される。この場合、「V」の尖端は軸方向のケージ幅のほぼ真ん中に置かれる。この場合、突出部および対応する切欠きの主軸線は、回転軸線に対して相対的に+αおよび−αの角度を成して延びる。「V」の尖端は半径方向外側へ向けられていても、半径方向内側へも向けられていてもよい。さらに、いわゆるダブルV字形の形状も考えられる。この場合、突出部および切欠きはそれぞれ、単独のV字形状に対して付加的に、分離個所の画定面に結合エレメントの鏡像対称的なもう一つのV字形状が生ぜしめられるように配置されている。互いに鏡像対称的な「V」の尖端は互いに逆向きの半径方向に向けられている。しかし、ダブルV字形状は、軸受けケージの半径方向の延在長さ(厚さ)が十分である場合にしか可能でないか、もしくは有意義でない。ダブルV字形状に対して択一的な別の形状は、結合エレメントのX字形の配置に認められ得る。なぜならば、この場合、ダブルV字形状の場合よりも少ない半径方向スペースしか必要とされないからである。しかし、分離個所の画定面に結合エレメントのX字形の配置を実現することは、事情によっては、より困難になる。ダブルV字形およびX字形の変化形は、特にポリマ、たとえばポリアミドまたはPEEKから成る射出成形された軸受けケージのために有利である。
【0024】
個数および/または材料に関連して、特定の製作方法を優先させることができる。少数の個数の金属製の軸受けケージのためには、たとえばフレキシブルでかつ正確な製作を可能にするワイヤ放電可能のような製作方法が推奨される。これを超える量のためには、全ての材料のために機械的な方法、たとえばフライス削りが適している。たとえば自動車産業において良く見られるような極めて大きな個数のためには、プラスチックのための射出成形法またはMIM(Metall Injection Moulding;組み合わされた射出成形・焼結法)が、全ての適当な材料のために推奨される。
【0025】
結合された軸受けケージ区分もしくは軸受けケージ半部の間の保持力は、多くの使用要求に応じて極めて高く形成されていてよいので、本発明の構成では、分割された軸受けケージを組み立てるために、補助工具が提供される。損傷を回避しかつ確実な組立てを保証するためには、工具が、分割された両軸受けケージ区分を同時にかつ均一に取り囲むことが望ましい。すなわち、工具の、ケージ半部に接触する部分の内径は、軸受けケージの外径に相当していることが望ましい。工具の、ケージ半部を取り囲んで把持する部分は、組立ての際にこれらの間に案内された転動体の損傷を回避するために、軸受けケージ区分の軸方向間隔を置いて配置されたサイドリングだけに接触することが望ましい。
【0026】
したがって、分割された軸受けケージを組み立てるための工具の構成では、該工具が、軸受けケージの前記軸受けケージ区分に適合された2つの軸受けケージ区分シェルを有しており、両軸受けケージ区分シェルは、それぞれ、軸受けケージ区分の外径に適合された内径を有しており、さらに該軸受けケージ区分シェルは、組立て時に、軸受けケージによって案内された転動体に接触することなしに、分割された軸受けケージのサイドリングに圧力を加えることができるようにするために適合されている。さらに、当該工具は、分割された軸受けケージ区分を接合するために両軸受けケージ区分シェルを押し合わせることができるようにするための操作エレメントを有している。
【0027】
多くの実施形態では、軸受けケージ区分シェルが、軸受けケージサイドリングの軸方向間隔に相当する間隔を置いて配置されたそれぞれ2つのサイドリングシェルセグメントを有している。これらのサイドリングシェルセグメントは、組立て時に軸受けケージサイドリングと協働することができる。有利には、分割された軸受けケージの一層簡単な組立てを可能にするために、工具の操作がてこ作用を生ぜしめることが望ましい。このためには、操作エレメントが、軸受けケージ区分シェルをてこ作用によって押し合わせるために形成されていてよい。操作エレメントは、たとえば1つの旋回支点に結合された2つのレバーを有していてよい。両レバーは組立て時に、トングと同様に押し合わされるようになっている。その場合、工具を介して加えられたてこ作用により、軸受けケージ区分の突出部と切欠きとは互いに内外にスナップ式に係合することができる。
【0028】
本発明のさらに別の有利な実施態様および改良形は、請求項2以下に記載されている。
【0029】
本発明の構成は、分割された軸受けケージ区分の確実でかつ信頼性の良い結合を可能にする。このような結合は3つの全ての軸線方向における位置決めを保証し、かつ軸受けケージ区分を周方向で結束させる。この場合、保持力は要件に応じて、かつ使用される材料に関連して、突出部寸法と切欠き寸法との重なり(合致)によって形成され得る。このような手段により、本発明の実施形態は特に内燃機関における転がり軸受けの軸受けケージのためにも使用され、特にコネクティングロッド軸受け使用において使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の1実施形態によるスリット付けもしくは分割された軸受けケージを、開放された状態で示す三次元の斜視図である。
【図2】図1に示したスリット付けされた軸受けケージの2つの軸受けケージ半部を示す三次元の斜視図である。
【図3】軸受けケージの分離平面に加工成形された切欠きを示す拡大図である。
【図4】分離平面に一体成形されかつスリット付けされた突出部を示す拡大図である。
【図5a】分離平面内でケージ回転軸線に対して斜めに延びる結合エレメントを示す側面図である。
【図5b】分離平面内でケージ回転軸線に対して斜めに延びる結合エレメントを示す平面図である。
【図6】アンダカット加工されて形成された突出部と、該突出部に対応する、向かい合って位置する切欠きとを示す拡大図である。
【図7】それぞれ切り取られた円セグメント形の横断面を有する突出部と切欠きとを、互いに内外に係合した状態で示す断面図である。
【図8】分割された軸受けケージに用いられる組立て工具の1実施形態を示す三次元の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明を実施するための形態を図面につき詳しく説明する。
【0032】
図1には、転がり軸受けの複数の転動体を案内するための分割された軸受けケージ10の1実施形態が、三次元の原理図で図示されている。
【0033】
この軸受けケージ10は周方向または接線方向において例示的に2つの分離個所11−1,11−2において第1の軸受けケージ区分12−1と第2の軸受けケージ区分12−2との間でスリット付けもしくは分割されて形成されている。第1の軸受けケージ区分12−1と第2の軸受けケージ区分12−2との間の分離個所11−1,11−2の互いに(周方向で)向かい合わされた、前記分離個所を画定する画定面13−1,13−2には、突出部14と、この突出部14に対応しかつ(周方向で)向かい合って位置する切欠き15とから成るそれぞれ1つの対偶が一体成形されており、これにより、突出部14と、これに対応する切欠き15とを互いに係合させる際に画定面13−1,13−2は3つの方向(軸方向、半径方向および接線方向)で互いに位置固定される。突出部14と、これに対応する切欠き15とは、一緒になっていわゆる1つの「軸受けケージロック機構」を形成している。突出部14および切欠き15の主軸線17は、それぞれ分割された軸受けケージ10の回転軸線16に対して斜めに延びているか、もしくは画定面13−1,13−2の、軸方向に延びかつ画定面13−1,13−2を半径方向で画定する外縁部に対して斜めに延びている。このことは、特に図5aおよび図5bに示した二次元の図面から明らかとなる。
【0034】
図5aには、図1に三次元で図示した軸受けケージ半部もしくは軸受けケージ区分12−1;12−2の二次元の側面図が示されており、図5bには、この軸受けケージ半部の平面図が示されている。
【0035】
図5aには、1つの軸受けケージ半部に設けられた溝状の切欠き15もしくは凹部についても、キー状の突出部14についても、両結合エレメント(突出部14および切欠き15)の、それぞれ軸受けケージ回転軸線16に対して角度αを成して斜めに延びる主軸線17−1,17−2が図示されている。この場合に注意すべき点は、図5aに示した切欠き15と、半径方向18で反対の側に位置する突出部14とは、互いに対応する結合エレメントではないことである。すなわち、対応する結合エレメントは、図5aには図示されていない他方の軸受けケージ半部もしくは他方の軸受けケージ区分12−1に設けられている。しかし、それにもかかわらず、キー状または突起状の突出部14も、溝状の切欠き15も、両分離個所11−1,11−2の画定面13−1,13−2に沿ってそれぞれ、分割された軸受けケージ10の回転軸線16に対して所定の角度αで斜めに延びていることが判る。このことは、画定面13−1,13−2に設けられた突出部14および/または切欠き15が、画定面13−1,13−2の半径方向内側および/または半径方向外側に位置する縁部に対して相対的に斜めに(つまり直角でなく)延びていることと同意義である。図示の実施形態では、軸受けケージ回転軸線16と結合エレメント14,15の主軸線17−1;17−2との間の角度αの大きさが、10゜よりも小さい範囲、有利には約1゜〜約5゜の範囲にある。角度αがこれよりも小さいと、とりわけ軸方向で回転軸線16に沿った両軸受けケージ区分12−1,12−2の確実な位置決めもしくは確実な位置固定がもはや保証され得なくなる。それに対して、角度αがこれよりも大きいと、転がり軸受けケージのために汎用の幅−厚さ比において、軸受けケージ10の軸方向の幅bがもはや十分に利用され得なくなり、それゆえに材料効率に関してむしろ不都合となる恐れがある。
【0036】
図1から良く判るように、分離個所11−1,11−2の画定面13−1,13−2に加工成形もしくは一体成形された突出部14と、該突出部14に対応する切欠き15とは、周方向(つまり接線方向)においてそれぞれ向かい合って位置するように画定面13−1,13−2に加工成形されているので、突出部14と、これに対応する切欠き15とは、両軸受けケージ区分12−1,12−2の接合時に周方向で互いに内外に嵌め合わされるか、もしくはスナップ式に互いに係合され得る。軸受けケージ区分12−1,12−2の接合後に両軸受けケージ区分12−1,12−2の間にできるだけ高い結合・保持力を得るためには、ロック機構の互いに対応した結合エレメント14,15が、多くの実施形態では有利にはアンダカット加工されて形成されている。このことは、特に図3および図4に示した拡大図から判る。
【0037】
図3(下側)には、溝状の切欠き15もしくは凹部の拡大図が図示されており、図4(下側)には、この切欠きもしくは凹部に対応したキー状または突起状の突出部14の拡大図が図示されている。一方の分離個所11−1,11−2の画定面13−1,13−2に加工成形された突出部14は図示の実施形態では、その主軸線17−1または17−2に対して直角な平面で断面した横断面で見て、アンダカットされた(範囲19により特徴付けられている)、ほぼ半円形ないし円形の横断面を有している。これに対応して、突出部14に対応する切欠き15は、その主軸線17−1または17−2に対して直角な平面で断面した横断面で見て、前記アンダカットされた、ほぼ半円形ないし円形の横断面に適合された球面形の横断面を有している。すなわち、キー状の結合エレメントである突出部14は分割された軸受けケージ10の半径方向の切断平面13−2から突出していて、多くの実施形態では、軸方向においてほぼ全ケージ幅bにわたって延びていてよく、そしてケージ回転軸線16に関して幅bにわたって連続的に変化する直径D14を有していてよい(図5a参照)。直径D14の変化により、結合エレメント14,15の主軸線17−1;17−2が斜めに延在することが得られる。キー状の突出部14は円セグメント形の横断面を有していてよく、この場合、ケージ切断平面13−2への結合部は、円セグメント形の突出部14の最大直径Dよりも小さな半径方向延在長さBを有しており、これによりアンダカット部19を形成している(図4、下側参照)。
【0038】
図3(下側)に示したように、溝状の結合エレメントである切欠き15は、上で説明したキー状の突出部14に対するネガ形状を有していて、ケージ切断平面13−1内に突入して延びている。溝状の結合エレメント15はその半径方向および接線方向の寸法(B,D)の点で、キー状の突出部14の寸法(B,D)に合わせて調整されており、これにより僅かな重なりもしくは合致によって両軸受けケージ区分12−1,12−2の確実な結合もしくは確実な位置固定が保証される。
【0039】
斜めに延びる結合エレメントである突出部14および切欠き15の、可能となる幾何学的な寸法は、第1には利用可能なスペース、ひいては半径方向のケージ厚さsに関連している。
【0040】
たとえば図2から判るように、斜めに延びる突出部14も、斜めに延びる切欠き15も、その各主軸線17−1または17−2に対して直角な方向において、半径方向の軸受けケージ厚さsの0.25〜0.4倍の範囲に延びている。言い換えれば、各主軸線17−1または17−2に対して直角な方向における突出部14の延在長さd14および/または切欠き15の半径方向の延在長さd15は、ケージ厚さsの約1/3であってよい。
【0041】
結合エレメント(つまり突出部14、切欠き15)に並んで半径方向内側もしくは半径方向外側に向かって残った最小半径方向肉厚さは、分割された軸受けケージ10の使用された材料に関連して設定され得る。突出部14または切欠き15から画定面13−1,13−2の半径方向の端部にまで延びる画定面13−1もしくは13−2の最小の半径方向延在長さは、幾つかの実施形態では0.2mm〜1mmの範囲にある。鋼およびチタン合金の場合には、結合エレメントに並んで残った最小の半径方向肉厚さが0.4mmを下回らないことが望ましい。アルミニウム合金の場合には、最小の半径方向肉厚さとして、有利には少なくとも0.6mmが設定され得る。ポリマ、たとえばPEEKの場合には、最小の半径方向肉厚さが0.8mmを下回ってはならない。
【0042】
全ての図面に示したように、実施形態によるキー状の突出部14は、回転軸線16に対して斜めに延びるその主軸線17−1または17−2に沿ってスリット付けされて形成されていてよい。すなわち、画定面13−1または13−2に加工成形された突出部14は、その主軸線17−1または17−2に沿ってスリット付けされて形成されていてよく、これにより突出部14の弾性的な変形(とりわけ主軸線17−1または17−2に対して直角な方向で)が可能になる。たとえば図4(下側)から判るように、突出部14に設けられたスリット20が、接線方向21で、突出部14自体よりも深くにまで延びていてよい。これにより、半径方向18において、弾性的な突出部14の最適なばね弾性特性を達成することができる。本実施形態では、主軸線17−1;17−2に対して直角な、つまり半径方向18(正確に云えば、斜めの主軸線17−1または17−2に対して直角な方向)でのスリット20の幅Bが、突出部14の半径方向の延在長さDの0.2〜0.3倍の範囲にあってよい。スリット20の厚さもしくは幅Bは、キー状の突出部14の半径方向の延在長さDの1/4の範囲にあると一層有利である。
【0043】
図6に示したように、突出部14とこれに対応する切欠き15との間の結合部の、接線方向21における遊びなしの嵌合いを確保するためには、突出部14と切欠き15との間の結合部の全ての許容位置(Toleranzlagen)において、図6に示した点61,62,63,64の範囲における接触が保証されていることが望ましい。このことを確保するために、接線方向21におけるキー状の突出部14の延在長さは、許容位置を考慮して、溝状の切欠き15の相応する寸法よりも小さく形成されていてよい。両結合エレメント14,15の形状および寸法は全ての許容位置において、ケージ切断平面である画定面13−1;13−2に対する結合範囲23への移行部に位置する円セグメント形の範囲のベース範囲22において両結合エレメント14,15の接触が確保されるように設定されることが望ましい。このことを保証するために、多くの実施形態では、突出部14および切欠き15の円セグメント形の構成の代わりに、主軸線17−1;17−2に対して直角な方向における楕円セグメント形の横断面を選択することもできる。この場合、楕円セグメント形の横断面の大きな主軸線、つまり楕円の長軸は、軸受けケージ部分円に対して垂直方向(つまり主軸線17−1;17−2に対して直角)に位置している。すなわち、軸方向および半径方向(垂直方向)における遊びなしの結合を得るためには、特に垂直方向におけるキー状の突出部14の円セグメント形または楕円セグメント形の横断面を、溝状の切欠き15よりも大きいか、または少なくとも等しく設定することができる。
【0044】
アンダカット部19のためには、金属製の軸受けケージの場合には0.01mm≦S≦0.05mmを設定することができ、プラスチック製の軸受けケージについては、0.05mm≦S≦0.2mmを設定することができる。この場合、S=(D−B)/2もしくはS=(D−B)/2である(図6、下側参照)。
【0045】
図7に示したように、これまで説明した、斜めに延びる結合エレメント14,15の円セグメント形または楕円セグメント形の横断面に対して択一的に、変えられた形状、たとえば切り取られた円セグメント形の横断面も考えられる。なぜならば、主としてアンダカット部19は周方向において主力を受け止めるからである。すなわち、突出部14の接線方向に突出した端部は必ずしも円セグメント形または楕円セグメント形に延びている必要はない。その代わりに、突出部14の接線方向に突出した端部は、画定面13−1;13−2に対して平行に延びる画定平面を有していてもよい。すなわち、分離個所11−1;11−2の画定面13−1;13−2に加工成形された突出部14の、接線方向に突出した端部はこの場合、分離個所11−1;11−2の画定面13−1;13−2に対して平行に延びる画定平面を有しているので、突出部14は、その接線方向に突出した端部のところで、本来の円セグメント形または楕円セグメント形の輪郭を描く、仮想上または虚像上に湾曲させられて延びる仮想画定平面に比べて短縮されて形成されている。このように短縮された結合エレメント14,15には次のような利点がある。すなわち、接線方向、つまり周方向21において、短く形成され得るようになり、ひいては可能な転動体個数のために僅かなスペースしか消費されなくなる。それにもかかわらず、接線方向における保持力はアンダカット部19により保証されている。
【0046】
保持力、組立ておよび製造可能性の点で、分割された軸受けケージ10の結合部の最適化された形状を得るためには、特に図7に示した短縮された形状に関して、あるいは結合エレメント14,15の湾曲された輪郭画定線を有する別のあらゆる形状に関しても、最大合致の範囲24が、アンダカット部Bの始端部と、突出部14における画定曲線の反転点Aとの間に位置していることが望ましい。突出部14と切欠き15との間の接触範囲における、この最大合致部24の外に位置する範囲は、有利には最小の接触もしくは間隙しか有していない。これにより、突出部14と切欠き15との間で力を最良に伝達することのできる、明瞭な接触範囲24を規定することができる。それに対して、残りの範囲は案内および/または組立ての確保および簡単化のためにしか役立たない。
【0047】
ケージロック機構の、軸方向に関して斜めに延びる突出部14もしくは切欠き15の円セグメント形または楕円セグメント形の横断面に対して択一的に、方形の基本形状に基づいた別のジオメトリもしくは幾何学的形状も可能である。特にこの場合、いわゆる「鳩尾形状」を挙げることができる。この鳩尾形状も、同じく高い信頼性を有している。軸受けケージ区分12−1,12−2の接合後に相応する結合力もしくは保持力を実現することができるようにするために鳩尾形状がアンダカット部を実現する場合には、周方向における接合を容易にするために、鳩尾形状が、丸く面取りされた縁部を有していてもよい。
【0048】
前で述べた個所では、図面につき、軸受けケージ回転軸線16に対して純然たる直線状に斜めに延びる結合エレメント14,15を備えた、分割された軸受けケージ区分12−1,12−2を説明したが、しかし別の実施形態では、ケージ回転軸線16に対して少なくとも部分的に斜めに延びるあらゆる結合エレメントを有する改良形も考えられる。この場合、結合エレメント、すなわち突出部14および切欠き15の、たとえばV字形の形状が挙げられる。純然たる直線状に斜めに延びる構成の代わりに、突出部・切欠き形状がそれぞれV字形の形状に設定される。この場合「V」の尖端は軸方向のケージ幅bのほぼ中央に配置される。「V」の尖端は半径方向外側に向けられていても、半径方向内側に向けられていてもよい。V字形状の場合、1つの結合エレメントが、回転軸線16に対して角度αを成す第1の区分と、回転軸線16に対して角度(180゜−α)を成す第2の区分とを有している。さらに、いわゆる「ダブルV字形状」も考えられる。ダブルV字形状の場合、突出部14と切欠き15とはそれぞれ、V字形状に対して付加的に、分離個所の画定面に設けられた結合エレメントの半径方向で鏡像対称的なV字形状が生ぜしめられるように配置されている。鏡像対称的な「V」の両尖端は、互いに逆向きの半径方向を向いていてよい。しかし、ダブルV字形状は分割された軸受けケージの半径方向延在長さ(厚さ)sが十分である場合にしか可能でないか、もしくは有意義でない。ダブルV字形状に対して択一的なさらに別の手段は、結合エレメント14,15をそれぞれX字形に配置することに認めることができる。なぜならば、この場合には、ダブルV字形状の場合よりも僅かな半径方向スペースしか必要とされないからである。しかし、分離個所の画定面13−1,13−2における結合エレメント14,15のX字形の配置の実現は、事情によってはダブルV字形状の場合よりも困難となる。ダブルV字形の変化形およびX字形の変化形は、特にポリマ、たとえばポリアミドまたはPEEKから成る射出成形された軸受けケージのために有利になり得る。
【0049】
個数および/または使用される材料に関連して、分割された軸受けケージのための種々の製造方法を使用することができる。金属材料から成るケージの少ない個数のためには、フレキシブルでかつ正確な製造を可能にする、たとえばワイヤ放電加工のような製造方法が挙げられる。これを超える量のためには、機械的な製造方法、たとえばフライス加工も、分割された軸受けケージのすべての材料のために適当となり得る。極めて大きな個数、たとえば自動車工業においてよく見られるような極めて大きな個数のためには、プラスチックのための射出成形法または適当な材料のためのMIMが推奨され得る。
【0050】
結合時もしくは接合後に、突出部14と切欠き15との間の結合力を高めるためには、たとえば切欠き15を局所的に加熱することにより、たとえばアンダカット部19もしくは突出部14と切欠き15との間の重なり部もしくは合致部24を増大させ、かつ付加的に組立てプロセスを容易にするための手段が存在する。これにより高められた組立て手間は、困難な使用事例、たとえば内燃機関におけるコネクティングロッド支承のためには有意義となり得る。使用事例において局所的な加熱が不可能である場合には、両キー状の突出部14を一方のケージ半部12−1;12−2に導入し、溝状の切欠き15を他方のケージ半部に導入することもできる。この場合、場合によっては両軸受けケージ半部12−1,12−2の位置決めを、その組立て前に外部の補助手段を用いてアシストすることができる。各加熱の規模は、各使用事例および所要の保持力に合わせて調整され得る。このような手段によって、アンダカット部19を、さらに上で説明した条件に比べてなお一層増大させることができる。
【0051】
接合された軸受けケージ半部もしくは軸受けケージ区分12−1,12−2の保持力は、軸受けケージ10の使用個所に応じて極めて高くなる場合がある。したがって、多くの実施形態では、分割された軸受けケージの組立てを補助工具によってアシストすることが必要となり得る。
【0052】
図8には、分割された軸受けケージ10を組み立てるためのこのような工具の1実施形態が図示されている。
【0053】
工具80は、軸受けケージ10の軸受けケージ区分12−1,12−2に適合された2つの軸受けケージ区分シェル81−1,81−2を有している。これらの軸受けケージ区分シェル81−1,81−2はそれぞれ軸受けケージ区分12−1,12−2の外径に適合された内径を有している。軸受けケージ区分シェル81−1,81−2は、軸受けケージ10により案内された転動体に接触することなしに、分割された軸受けケージ10の組立て時に軸受けケージ10のサイドリングもしくは周方向ウェブに圧力を加えることができるようにするために適合されている。さらに、工具80は、この工具80の両軸受けケージ区分シェル81−1,81−2を押し合わせ、これによって軸受けケージ区分12−1,12−2を接合するために操作エレメント82を有している。
【0054】
本実施形態によれば、工具80は両軸受けケージ半部もしくは両軸受けケージ区分12−1,12−2を同時にかつ均一に取り囲むことができる。すなわち、工具80の、ケージ半部に接触する部分の内径は、軸受けケージ10の外径に相当していることが望ましい。両軸受けケージ半部12−1,12−2を取り囲む軸受けケージ区分シェル81−1,81−2は、組立て時に、軸受けケージ内に案内された転動体の損傷を回避するために、軸受けケージ区分12−1,12−2のサイドリングにしか接触しない。言い換えれば、軸受けケージ区分シェル81−1,81−2はそれぞれ、軸受けケージサイドリングの軸方向間隔を置いて配置された2つのサイドリングシェルセグメント83−1,83−2を有しており、両サイドリングシェルセグメントは組立て時に軸受けケージサイドリングと協働する。すなわち、サイドリングシェルセグメント83−1,83−2の間隔は、サイドリングもしくは軸受けケージセグメントの周方向ウェブの軸方向間隔に相当していると有利である。
【0055】
操作エレメント82を操作することにより、本実施形態では、両軸受けケージ区分シェル81−1,81−2にてこ作用を加えることができ、これにより組立て時に両軸受けケージ区分シェル81−1,81−2を押し合わせることができる。
【0056】
組立て工具80にとって特徴的であるのは、工具80から軸受けケージ半部12−1,12−2への力導入が、軸受けケージ10のサイドリングを介して行われることである。この場合、軸受けケージ半部12−1,12−2を取り囲む軸受けケージ区分シェル81−1,81−2の取り囲み角度はできるだけ大きく形成されている。組立て工具80から軸受けケージ半部12−1,12−2への力導入は本実施形態では、トング状の工具80の分割平面84が、たとえば軸受けケージ10の分割平面に対して90゜だけずらされているか、もしくは軸受けケージ10の分割平面に対して平行に位置していることにより、同心的に行われる。取扱いを容易にするためには、ハンドレバー85−1;85−2のために大きなてこ比が設定されていてよい。すなわち、このためには、ハンドレバー85−1;85−2が相応する長さに形成されていてよい。それと同時に、軸受けケージ区分シェル81−1,81−2内に嵌め込まれた、分割された軸受けケージ10の中心点に対するレバー支点86の間隔ができるだけ大きく形成されており、これによりケージ連結エレメントである突出部14もしくは切欠き15の平面に対して直角な方向での、つまり画定面13−1;13−2に対して直角な方向での好都合な力導入が達成される。
【0057】
実施形態により、たとえばエンジン内での支承部を使用するための極端な負荷耐性を有する、分割された軸受けケージ10を得ることができる。
【符号の説明】
【0058】
10 軸受けケージ
11−1,11−2 分離個所
12−1,12−2 軸受けケージ区分
13−1,13−2 画定面
14 突出部
15 切欠き
16 軸受けケージ回転軸線
17−1,17−2 主軸線
18 半径方向
19 アンダカット部
20 スリット
21 接線方向
22 ベース範囲
23 結合範囲
24 合致部
80 工具
81−1,81−2 軸受けケージ区分シェル
82 操作エレメント
83−1,83−2 サイドリングシェルセグメント
82 操作エレメント
83−1,83−2 サイドリングシェルセグメント
84 分割平面
85−1,85−2 ハンドレバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受けに用いられる軸受けケージ(10)において、当該軸受けケージ(10)が、周方向で第1の軸受けケージ区分(12−1)と第2の軸受けケージ区分(12−2)との間の少なくとも1つの分離個所(11−1;11−2)のところでスリット付けされて形成されており、第1の軸受けケージ区分(12−1)と第2の軸受けケージ区分(12−2)との間の前記分離個所(11−1;11−2)の互いに向かい合わされた画定面(13−1;13−2)に、1つの突出部(14)と、該突出部(14)に対応する1つの切欠き(15)とから成る少なくとも1つの対偶が加工成形されていて、突出部(14)と切欠き(15)とが互いに係合させられると、前記画定面(13−1;13−2)が3方向で互いに位置固定されるようになっており、突起(14)および切欠き(15)の主軸線(17−1;17−2)が、当該軸受けケージ(10)の回転軸線(16)に対して斜めの角度(α)を成して延びていることを特徴とする、転がり軸受けに用いられる軸受けケージ。
【請求項2】
前記角度(α)が、10゜よりも小さい範囲、有利には1゜〜5゜の範囲にある、請求項1記載の軸受けケージ。
【請求項3】
前記分離個所(11−1;11−2)の画定面(13−1;13−2)に加工成形された突出部(14)と、該突出部(14)に対応する切欠き(15)とが、周方向で互いに反対の側に位置するように前記画定面(13−1;13−2)に加工成形されていて、突出部(14)と、該突出部(14)に対応する切欠き(15)とが、周方向で互いに内外に嵌め合わされるようになっている、請求項1または2記載の軸受けケージ。
【請求項4】
前記分離個所(11−1;11−2)の画定面(13−1;13−2)に加工成形された突出部(14)が、その主軸線(17−1;17−2)に対して直角な平面の横断面で見て、アンダカット加工された、ほぼ半円形ないし円セグメント形または楕円セグメント形の横断面を有しており、該突出部(14)に対応する切欠き(15)が、その主軸線(17−1;17−2)に対して直角な平面の横断面で見て、前記アンダカット加工された、ほぼ半円形ないし円セグメント形または楕円セグメント形の横断面に適合された球面形の横断面を有している、請求項1から3までのいずれか1項記載の軸受けケージ。
【請求項5】
前記分離個所(11−1;11−2)の画定面(13−1;13−2)に加工成形された突出部(14)の、接線方向に突出した端部が、前記分離個所(11−1;11−2)の画定面(13−1;13−2)に対して平行に延びる画定平面を有していて、該突出部(14)が、その接線方向に突出した端部のところで仮想上または虚像上に湾曲させられて延びる仮想画定平面に比べて短縮されて形成されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の軸受けケージ。
【請求項6】
突出部(14)と、該突出部(14)に対応する切欠き(15)とが、その各主軸線(17−1;17−2)に対して直角の方向で、半径方向の軸受けケージ厚さ(s)の0.25倍〜0.4倍の範囲に延びている、請求項1から5までのいずれか1項記載の軸受けケージ。
【請求項7】
突出部(14)と、該突出部(14)に対応する切欠き(15)とが、当該軸受けケージのほぼ全軸方向幅(b)にわたって延びている、請求項1から6までのいずれか1項記載の軸受けケージ。
【請求項8】
前記画定面(13−1;13−2)の、突出部(14)または切欠き(15)から前記画定面の半径方向の一方の端部にまでの最小の半径方向延在長さが、0.2〜1mmの範囲にある、請求項1から7までのいずれか1項記載の軸受けケージ。
【請求項9】
前記分離個所(11−1;11−2)の画定面(13−1;13−2)に加工成形された突出部(14)が、該突出部(14)の弾性変形を可能にするために、その主軸線(17−1;17−2)に沿ってスリット付けされて形成されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の軸受けケージ。
【請求項10】
主軸線(17−1;17−2)に沿って加工成形されたスリット(20)が、接線方向で、突出部(14)よりも深く延びている、請求項9記載の軸受けケージ。
【請求項11】
前記スリット(20)の、突出部(14)の主軸線(17−1;17−2)に対して直角な方向の幅が、突出部(14)の半径方向延在長さの0.2倍〜0.3倍の範囲にある、請求項9または10記載の軸受けケージ。
【請求項12】
前記分離個所(11−1;11−2)の画定面(13−1;13−2)に加工成形された突出部(14)および該突出部に対応する切欠き(15)が、その各画定面(13−1;13−2)においてV字形、ダブルV字形またはX字形に延びている、請求項1から11までのいずれか1項記載の軸受けケージ。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項記載の軸受けケージ(10)を組み立てるための工具(80)において、軸受けケージの前記軸受けケージ区分(12−1;12−2)に適合された2つの軸受けケージ区分シェル(18−1;18−2)が設けられており、該軸受けケージ区分シェルが、それぞれ、軸受けケージ区分の外径に適合された内径を有しており、さらに該軸受けケージ区分シェルが、組立て時に、軸受けケージ(10)によって案内された転動体に接触することなしに、軸受けケージ(10)のサイドリングに圧力を加えることができるようにするために適合されており、当該工具(80)の両軸受けケージ区分シェル(18−1;18−2)を押し合わせることができるようにするための操作エレメント(82)が設けられていることを特徴とする、軸受けケージ(10)を組み立てるための工具。
【請求項14】
軸受けケージ区分シェル(18−1;18−2)が、軸受けケージサイドリングの軸方向間隔に相当する軸方向間隔を置いて配置されたそれぞれ2つのサイドリングシェルセグメント(83−1;83−2)を有しており、該サイドリングシェルセグメント(83−1;83−2)が、組立て時に軸受けケージサイドリングと協働するようになっている、請求項13記載の工具。
【請求項15】
操作エレメント(82)が、軸受けケージ区分シェル(18−1;18−2)をてこ作用によって押し合わせるために形成されている、請求項13または14記載の工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−64502(P2013−64502A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−204188(P2012−204188)
【出願日】平成24年9月18日(2012.9.18)
【出願人】(509015590)
【氏名又は名称原語表記】Aktiebolaget SKF
【住所又は居所原語表記】Hornsgatan 1, SE−415 50 Goeteborg, Sweden
【Fターム(参考)】