説明

軸受の潤滑装置

【課題】軸受の摩耗を抑制することができると共に、軸受により支持されるシャフトの強度を確保することができる軸受の潤滑装置を提供する。
【解決手段】軸受の潤滑装置5は、MGシャフト20の内部から径方向外側にオイルを吐出可能に形成された油路4と、油路4からMGシャフト20の径方向外側に向けて吐出されたオイルを第一軸受3Aの内輪32とMGシャフト20との間の接触部に向けて跳ね返して飛散させ、接触部へオイルを供給する第1ガイド51Aと、油路4からMGシャフト20の径方向外側に向けて吐出されたオイルを第一軸受3Aの転動体33に向けて跳ね返して飛散させ、転動体33へオイルを供給する第2ガイド51Bと、を備えて構成される。また、第1ガイド51A及び第2ガイド51Bは、MGシャフト20の中心軸線Xまわりの周方向に沿って配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受の潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シャフト内部にオイルを流し、間座によりオイルを偏向させて転がり軸受の転動体にオイルを供給する構成が開示されている(例えば特許文献1)。
【0003】
一方、軸受のインナーレース(内輪)とシャフトとの間にオイルの誘導路を設けて、オイルを供給する構成が開示されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−294044号公報
【特許文献2】特開2000−283272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軸受の摩耗を好適に抑制するためには、特許文献1に記載されるように軸受の転動体にオイルを供給できると共に、さらに軸受の内輪とシャフトとの間にもオイルを供給できることが望ましい。
【0006】
ここで、特許文献2に記載される軸受の内輪とシャフトとの間にオイルを供給する構成を特許文献1に適用した場合を考えると、シャフトと軸受の内輪との間にオイルを供給するためにシャフトに誘導路を形成する必要があるため、シャフトの強度を確保できない虞がある。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、軸受の摩耗を抑制することができると共に、軸受により支持されるシャフトの強度を確保することができる軸受の潤滑装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る軸受の潤滑装置は、シャフトを支持する軸受を潤滑するための軸受の潤滑装置であって、前記シャフトの内部から径方向外側にオイルを吐出可能に形成された油路と、前記油路から前記シャフトの径方向外側に向けて吐出された前記オイルを前記軸受の内輪と前記シャフトとの間の接触部に向けて跳ね返して飛散させ、前記接触部へ前記オイルを供給する第1ガイドと、前記油路から前記シャフトの径方向外側に向けて吐出された前記オイルを前記軸受の転動体に向けて跳ね返して飛散させ、前記転動体へ前記オイルを供給する第2ガイドと、を備え、前記第1ガイド及び前記第2ガイドが、前記シャフトの軸心まわりの周方向に沿って配置されることを特徴とする。
【0009】
また、上記の軸受の潤滑装置において、前記第1ガイド及び前記第2ガイドは、前記シャフトの軸心からの径方向位置が異なることが好ましい。
【0010】
また、上記の軸受の潤滑装置において、前記第1ガイド及び前記第2ガイドは、前記油路から吐出されたオイルを跳ね返す反射面の傾斜角度が異なることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る軸受の潤滑装置によれば、第1ガイドが軸受の内輪とシャフトとの間の接触部にオイルを重点的に供給し、第2ガイドが軸受の転動体にオイルを重点的に供給するので、第一軸受の摩耗を好適に抑制できる。また、従来のように軸受とシャフトとの隙間にオイルを供給するためにシャフト上に誘導路を形成する必要がないので、シャフトの強度を確保できる。この結果、軸受の摩耗を抑制しつつ、シャフトの強度を確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る軸受の潤滑装置が適用されるハイブリッド車両用のトランスアスクルの構成を示す図である。
【図2】図2は、図1に示すトランスアスクルのうちの本発明の第1実施形態に係る軸受の潤滑装置に関する部分を拡大視した図である。
【図3】図3は、軸線方向視における図2中のガイド部材の形状を示す概略図である。
【図4】図4は、第1実施形態の第1変形例におけるガイド部材の形状を示す概略図である。
【図5】図5は、第1実施形態の第2変形例におけるガイド部材の形状を示す概略図である。
【図6】図6は、第1実施形態の第3変形例におけるガイド部材の形状を示す概略図である。
【図7】図7は、第1実施形態の第4変形例におけるガイド部材の形状を示す概略図である。
【図8】図8は、本発明の第2実施形態に係る軸受の潤滑装置の構成を示す図である。
【図9】図9は、本発明をシャフト中間部で支持する軸受の潤滑に適用する場合の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る軸受の潤滑装置の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0014】
(第1実施形態)
まず、図1〜3を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る軸受の潤滑装置5が適用されるハイブリッド車両用のトランスアスクル100の構成を示す図であり、図2は、図1に示すトランスアスクル100のうちの本実施形態に係る軸受の潤滑装置5に関する部分を拡大視した図であり、図3は、軸線方向視における図2中のガイド部材の形状を示す概略図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る軸受の潤滑装置5は、モータ2及びエンジン(図1より右方に配置されており図示せず)を動力源として走行するハイブリッド車両に搭載されるトランスアスクル100内において適用される。
【0016】
トランスアスクル100は、外殻部材であるケース1内にモータ2、MGシャフト20、カウンタシャフト6、図1には図示しないインプットシャフト、発電機、差動機構、アウトプットシャフトなどの要素を備える。また、トランスアスクル100は、ケース1内に並行に配置され相互に連結されたインプットシャフト、MGシャフト20、カウンタシャフト6、アウトプットシャフトを含む複数の軸を介して、エンジンと駆動輪とを接続する構成となっている。
【0017】
インプットシャフトは、エンジンの動力が入力される入力軸である。差動機構は、エンジンやモータ2の動力を減速してアウトプットシャフトを介して左右の駆動輪に伝達する。
【0018】
カウンタシャフト6は、軸受を介してケース1によって回転自在に支持されている。カウンタシャフト6は、カウンタドリブンギヤ7及びファイナルドライブギヤ8を有する。カウンタドリブンギヤ7は、インプットシャフトのカウンタドライブギヤと噛み合っている。
【0019】
MGシャフト20は、モータ2の回転軸である。モータ2は、電力の供給により駆動する電動機としての機能(力行機能)と、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えている。モータ2としては、例えば交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。モータ2は、ケース1に固定された固定子としてのステータ2Aと、ステータ2Aの内方に配置された回転子としてのロータ2Bとを有する。
【0020】
MGシャフト20は、第一シャフト部21及び第二シャフト部22を有する。第二シャフト部22は、第一シャフト部21よりも軸方向のエンジン側に配置されている。第一シャフト部21には、ロータ2Bが連結されている。ロータ2Bは、第一シャフト部21の外周面に連結されており、ロータ2Bと第一シャフト部21とは一体に回転する。第二シャフト部22は、第一シャフト部21における軸方向のエンジン側の端部に挿入されている。第一シャフト部21と第二シャフト部22とは、一体回転可能なように、例えばスプライン嵌合によって連結されている。
【0021】
なお、本明細書では、特に記載のない限り、「径方向」とはMGシャフト20の中心軸線Xと直交する方向を示し、「軸方向」とはMGシャフト20の中心軸線Xと平行な方向を示すものとする。
【0022】
第一シャフト部21及び第二シャフト部22は、それぞれ軸受3(第一軸受3A、第二軸受3B、第三軸受3C、第四軸受3D)を介してケース1によって回転自在に支持されている。第一シャフト部21は、第一軸受3A及び第二軸受3Bによって支持されている。第一軸受3Aは、ロータ2Bよりも軸方向のエンジン側と反対側に配置され、第二軸受3Bは、ロータ2Bよりも軸方向のエンジン側(図1では右側)に配置されている。第二シャフト部22は、第三軸受3C及び第四軸受3Dによって支持されている。第三軸受3Cは、第二シャフト部22における軸方向のエンジン側と反対側に配置され、第四軸受3Dは、第二シャフト部22における軸方向のエンジン側の端部に配置されている。
【0023】
第一軸受3Aは、例えば玉軸受であり、外輪31、内輪32および転動体33を有する。第一軸受3Aの外輪31は、ケース1のエンドカバー1Aに嵌合しており、本実施形態ではエンドカバー1Aに圧入されている。エンドカバー1Aは、ケース1における軸方向のエンジン側と反対側の端部に形成された開口部を閉塞するものであり、MGシャフト20におけるエンジン側と反対側の軸端部20Aと軸方向において対向している。外輪31は、エンドカバー1Aに圧入されることでケース1によって支持され、かつ回転が規制されている。
【0024】
第一軸受3Aの内輪32は、第一シャフト部21(MGシャフト20)におけるエンジン側と反対側の軸端部20Aに配置されており、軸端部20Aの外周に隙間嵌めにより嵌合している。内輪32は、第一シャフト部21と一体に回転する。外輪31と内輪32との間には、複数の転動体33が周方向に連続的に配置されている。転動体33は、例えば球形であり、外輪31と内輪32との間で転動することにより内輪32を回転自在に支持して、ケース1に対する第一シャフト部21の相対回転を可能とする。
【0025】
また、第二軸受3B、第三軸受3C、第四軸受3Dも、第一軸受3Aと同様の玉軸受であり、ケース1に嵌合される外輪、MGシャフト20に嵌合される内輪、外輪と内輪との間に介在する転動体を備える構成である。
【0026】
第二シャフト部22は、リダクションギヤ9を有する。リダクションギヤ9は、第二シャフト部22の外周に配置されており、カウンタシャフト6のカウンタドリブンギヤ7と噛み合っている。リダクションギヤ9は、軸方向における第三軸受3Cと第四軸受3Dとの間に配置されている。リダクションギヤ9は、MGシャフト20に入出力される動力、すなわちモータ2の出力軸に入出力される動力を伝達する歯車である。
【0027】
モータ2は、MGシャフト20、リダクションギヤ9およびカウンタドリブンギヤ7を介してカウンタシャフト6と動力を伝達することができる。このように、カウンタドリブンギヤ7には、リダクションギヤ9およびインプットシャフトのカウンタドライブギヤがそれぞれ噛み合っており、カウンタシャフト6にはエンジンの動力およびモータ2の動力がそれぞれ入力される。カウンタシャフト6に入力された動力は、ファイナルドライブギヤ8、図示しないリングギヤ、差動機構、アウトプットシャフトを介して駆動輪に伝達される。
【0028】
また、インプットシャフトには、発電機が接続されている。発電機は、インプットシャフトを同軸上に配置されており、例えば遊星歯車機構を介してインプットシャフトと接続されている。発電機は、遊星歯車機構を介して伝達される動力によって発電することができる。この発電機は、モータ2と同様に、バッテリから供給される電力によって電動機として機能することもできるモータジェネレータである。このように、トランスアスクル100は、二つのモータジェネレータ(モータ2、発電機)が、互いに異なる軸上に配置された複軸式のハイブリッド車両用の動力伝達装置である。
【0029】
本実施形態に係る軸受の潤滑装置5は、このような複軸式のトランスアスクル100において、複数の軸のうちのMGシャフト20に適用されている。このため、図1にはトランスアスクル100のうちMGシャフト20を中心とする構成が示されている。本実施形態に係る軸受の潤滑装置5は、後述する油路4、ガイド部材51(第1ガイド51A及び第2ガイド51B)、外縁部53などにより構成される。
【0030】
MGシャフト20には、モータ2や各軸受3に潤滑油(オイル)を供給する油路4が形成されている。油路4は、MGシャフト20を軸方向に貫いている潤滑油の流路である。油路4は、第一シャフト部21を軸方向に貫通する第一油路41と、第二シャフト部22を軸方向に貫通する第二油路42とを有する。第一油路41と第二油路42とは連通している。油路4におけるエンジン側の軸端部には、ケース1内に配置されたキャッチタンク10から潤滑油が供給される。キャッチタンク10は、潤滑油を一時的に貯留することができるオイル受け部である。キャッチタンク10は、ケース1内における上部に配置されている。キャッチタンク10には、ケース1内の下部に貯留した潤滑油がリングギヤの回転等によって送られる。
【0031】
キャッチタンク10に貯留された潤滑油は、図示しない油路等を介してトランスアスクル100の各部に供給される。また、キャッチタンク10の潤滑油は、油路等を介してMGシャフト20におけるエンジン側の軸端部20Bの近傍に供給される(図1に矢印で示す)。キャッチタンク10から供給された潤滑油は、MGシャフト20の軸方向のエンジン側の軸端部20Bから油路4に流入し、第一軸受3Aに向けて軸方向に流れる。そして、MGシャフト20の軸方向のエンジン側とは反対側の軸端部20Aの吐出口43から、MGシャフト20の回転による遠心力を受けつつ径方向に吐出されて、第一軸受3Aに潤滑油が供給される。
【0032】
また、MGシャフト20には、油路4とMGシャフト20の外部とを径方向に連通する複数の貫通孔が形成されており、MGシャフト20内を流れる潤滑油はこれらの貫通孔を介して各軸受3やモータ2のロータ2B等に供給される。例えば、第二シャフト部22には、第二油路42から、第二軸受3Bと第三軸受3Cとの間の空間とを連通する貫通孔44を設けられており、この貫通孔44を介して第二軸受3B及び第三軸受3Cに潤滑油が供給される。
【0033】
ここで、従来、MGシャフト20と軸受3の内輪とが隙間嵌めされている場合、例えばモータ2の高回転、アンバランスやエンジン振動の入力やトルク入力等により、MGシャフト20の外周と内輪の内周との接触面(接触部)において、ラジアル方向にかかる荷重や滑りの発生、摺動などによるフレッティング摩耗が発生する虞があった。上述のように、本実施形態でも、第一軸受3Aの内輪32とMGシャフト20とは隙間嵌めによって嵌合している。
【0034】
また、MGシャフト20と軸受3の間にはオイルが浸入しにくいため、摩耗が助長される虞がある。さらに、小型化、低コスト化のためにモータ2を高回転化すると、入力が大きくなり、より厳しい条件となってより一層摩耗が発生しやすくなる。
【0035】
そこで、本実施形態では、第一軸受3Aへ充分な量の潤滑油を供給すべく、ケース1の内面のうちMGシャフト20の吐出口43と対向する部分、具体的にはエンドカバー1Aの内面上には、MGシャフト20側へ向けて突起形状(または壁状など)のガイド部材51が設けられており、吐出口43から吐出された潤滑油(オイル)を第一軸受3Aに誘導することができ、また、MGシャフト20と軸受3との接触部にオイルを浸入しやすくすることができるよう構成されている。
【0036】
ガイド部材51は、MGシャフト20の吐出口43より径方向外側の位置にて、MGシャフト20の周方向に沿って略円環状または同心円状に配置される。軸線Xに沿ったガイド部材51の断面形状は、ケース1側からMGシャフト20の吐出口43に向かった凸形状であり、例えば図1,2に示すように、エンドカバー1A上に底辺をもつ三角形状である。
【0037】
また、ガイド部材51は、径方向内側に向けて配置された反射面52を有する。言い換えると、反射面52は、その法線がMGシャフト20の中心軸線Xと交差するよう配置されている。反射面52は、吐出口43から径方向外側へ吐出されたオイルを受けることができる。そして、ガイド部材51は、反射面52で受けたオイルを跳ね返して、第一軸受3Aに向けてオイルを飛散させることで、第一軸受3Aに供給することができる。
【0038】
ここで、ガイド部材51は、中心軸線Xからの反射面52の径方向位置(半径)を変えることで、オイルを主に飛散させる第一軸受3Aの部分を変えることが可能である。本実施形態では、ガイド部材51の稜線(言い換えると反射面52の上端部、または図2に示す三角形状の断面でいうとMGシャフト20側の頂点)の中心軸線Xからの径方向位置を、ガイド部材51の半径として、ガイド部材51は、中心軸線Xからの半径が異なる2つの第1ガイド51Aと第2ガイド51Bとを有する。
【0039】
第1ガイド51Aは、油路4からMGシャフト20の径方向外側に向けて吐出されたオイルを第一軸受3Aの内輪32とMGシャフト20との間の接触部に向けて跳ね返して、接触部へオイルを飛散させ供給することができるように、中心軸線Xからの半径距離が調整されている。第2ガイド51Bは、油路4からMGシャフト20の径方向外側に向けて吐出されたオイルを第一軸受3Aの転動体33に向けて跳ね返して、転動体33へオイルを飛散させ供給することができるように、中心軸線Xからの半径距離が調整されている。
【0040】
第1ガイド51A及び第2ガイド51Bの径方向の位置関係は、第1ガイド51Aの半径をr1として、第2ガイド51Bの半径をr2とすると、第一軸受3Aの内輪32とMGシャフト20との接触部の径方向位置が、第一軸受3Aの転動体33の径方向位置より径方向内側であるので、図2に示すようにr1<r2となる。すなわち、第1ガイド51Aは第2ガイド51Bより常に径方向内側に配置される。また、第1ガイド51A及び第2ガイド51Bは、MGシャフト20の中心軸線Xまわりの周方向に沿って交互に配置される。
【0041】
より詳細には、ガイド部材51は、中心軸線Xの方向でみた場合(軸線方向視)においては、図3に示すような形状をとる。図3には、軸線方向視におけるガイド部材51の稜線の軌跡が実線で示されている。図3に示すように、本実施形態では、ガイド部材51の稜線の軌跡は、中心軸線Xからの距離の最小値を第1ガイド51Aの半径r1とし、最大値を第2ガイド51Bの半径r2とし、その間を連続的につないだ波形となる。
【0042】
このようなガイド部材51では、MGシャフト20の吐出口43から吐出されたオイルが半径r1の位置にて第1ガイド51Aの反射面52Aに衝突した場合には、図2の破線Aで示すように、反射面52Aから跳ね返されたオイルは、第一軸受3Aの内輪32とMGシャフト20との間の接触部の周辺に飛散する。一方、MGシャフト20の吐出口43から吐出されたオイルが半径r2の位置にて第2ガイド51Bの反射面52Bに衝突した場合には、図2の破線Bで示すように、反射面52Bから跳ね返されたオイルは、第一軸受3Aの転動体33の周辺に飛散する。
【0043】
なお、図3に破線で示す、第1ガイド51Aと第2ガイド51Bの間を連続的につなぐ部分は、第1ガイド51A及び第2ガイド51Bの中間的な役割をもつ中間ガイド51Cとして機能する。すなわち、中間ガイド51Cは、第1ガイド51Aによるオイル供給箇所(内輪32とMGシャフト20の接触部)と、第2ガイド51Bによるオイル供給箇所(転動体33)との中間の位置にオイルを飛散させることができる。例えば車速(MGシャフト20の回転数)の変化等によって、吐出口43から吐出されるオイルに加えられる遠心力が変化して、第1ガイド51A、第2ガイド51Bによるオイル供給位置が多少ずれたとしても、ガイド部材51の中間ガイド51Cによって、内輪32とMGシャフト20の接触部や転動体33にオイルを代わりに供給することができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、油路4の吐出口43には、MGシャフト20の軸端部20Aから軸方向に突出した外縁部53が設けられている。外縁部53は油路4の内周面に沿った筒形状である。外縁部53と、ガイド部材51の反射面52とは、軸方向で少なくとも一部が重なっている(オーバーラップしている)。言い換えると、外縁部53の突端の軸方向の位置が、ガイド部材51の凸形状の稜線の位置よりケース1側にある。このような外縁部53を設けることで、オイルが外縁部53を経て径方向外側に吐出されるので、オイルがガイド部材51の反射面52に確実に衝突し、潤滑対象である第一軸受3Aに確実にオイルを供給することができる。
【0045】
このように本実施形態に係る軸受の潤滑装置5は、MGシャフト20の内部から径方向外側にオイルを吐出可能に形成された油路4と、油路4からMGシャフト20の径方向外側に向けて吐出されたオイルを第一軸受3Aの内輪32とMGシャフト20との間の接触部に向けて跳ね返して飛散させ、接触部へオイルを供給する第1ガイド51Aと、油路4からMGシャフト20の径方向外側に向けて吐出されたオイルを第一軸受3Aの転動体33に向けて跳ね返して飛散させ、転動体33へオイルを供給する第2ガイド51Bと、を備えて構成される。また、第1ガイド51A及び第2ガイド51Bは、MGシャフト20の中心軸線Xまわりの周方向に沿って配置される。
【0046】
このような構成により、第1ガイド51Aが第一軸受3Aの内輪32とMGシャフト20との間の接触部にオイルを重点的に供給するので、第一軸受3AとMGシャフト20との隙間にオイルが入り込みやすくできる。また、第2ガイド51Bが第一軸受3Aの転動体33にオイルを重点的に供給するので、転動体33の潤滑も充分に行うことができる。したがって、第一軸受3Aの摩耗を好適に抑制できる。
【0047】
さらに、第1ガイド51A、第2ガイド51Bともに、一旦MGシャフト20内の油路4から吐出されたオイルを跳ね返してオイルを飛散させる構成のため、必然的にMGシャフト20や第一軸受3Aから離間した位置に配置されることとなり、従来のように第一軸受3AとMGシャフト20との隙間にオイルを供給するためにMGシャフト20上に誘導路を形成する必要がないので、MGシャフト20の強度を確保できる。
【0048】
この結果、第一軸受3Aの摩耗を抑制しつつ、MGシャフト20の強度を確保することができる。さらに、第一軸受3Aの転動体33の方向に勢い良くオイルが飛散されて、第一軸受3Aを貫通する油量を増やすことができ、第一軸受3Aの近傍に滞留するオイルが減ることで攪拌損失が低減できる。
【0049】
(第1実施形態の第1変形例)
なお、ガイド部材51の軸線方向視の形状は、本実施形態では、第1ガイド51Aを径方向位置の最小値、第2ガイド51Bを最大値とし連続的に変化する波形としていたが、半径r1の第1ガイド51Aと半径r2の第2ガイド51Bとが、MGシャフト20の中心軸線Xまわりの周方向に沿って配置されていればよく、例えば図4に示す形状とすることもできる。
【0050】
図4に示すガイド部材51の形状は、稜線の半径がr1となる第1ガイド51Aと、稜線の半径がr2となる第2ガイド51Bと、稜線の半径がr1及びr2の中間となる中間ガイド51Cとが、中心軸線Xまわりに同心円状に断続的に配置された形状である。
【0051】
なお、図4に示す例では、中間ガイド51Cは、半径の異なる2種類を備えるが、中間ガイドはこれ以外の1または複数の種類を設けてもよい。また、図4の例では、第1ガイド51A、中間ガイド51C、第2ガイド51Bと、半径順で周期的に配置されているが、各ガイドの配置順は任意でもよい。また、第1ガイド51A、中間ガイド51C、第2ガイド51Bの設置数は略同数であるのが好ましい。
【0052】
(第1実施形態の第2変形例)
同様に、ガイド部材51の軸線方向視の形状は、図5に示すように、ガイド部材51の大半に稜線の半径がr1となる第1ガイド51Aを配置し、局所的な一部分に稜線の半径がr2となる第2ガイド51Bを配置し、第1ガイド51Aと第2ガイド51Bとの間を連続的に接続して、この接続部分を中間ガイド51Cとする構成とすることもできる。
【0053】
(第1実施形態の第3変形例)
また、ガイド部材51の軸線方向視の形状は、図6に示すように、第2変形例とは反対に、ガイド部材51の大半に稜線の半径がr2となる第2ガイド51Bを配置し、局所的な一部分に稜線の半径がr1となる第1ガイド51Aを配置し、第1ガイド51Aと第2ガイド51Bとの間を連続的に接続して、この接続部分を中間ガイド51Cとする構成とすることもできる。
【0054】
(第1実施形態の第4変形例)
また、ガイド部材51の軸線方向視の形状は、図7に示すように、半径r1となる第1ガイド51Aを短径とし、半径r2となる第2ガイド51Bを長径とする楕円形状として構成することもできる。この場合、楕円形状の長径と短径の間の部分が中間ガイド51Cとなる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、図8を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。図8は、本発明の第2実施形態に係る軸受の潤滑装置15の構成を示す図である。
【0056】
図8に示すように、本実施形態に係る軸受の潤滑装置15は、ガイド部材151の第1ガイド151Aの半径r1と、第2ガイド151Bの半径r2とが同一であり(r1=r2)、反射面152の傾斜角度を第1ガイド151Aと第2ガイド151Bで変えている点において、第1実施形態の軸受の潤滑装置5とは異なるものである。
【0057】
第2ガイド151Bの反射面152Bの傾斜角度は、図8に示すように、第1ガイド151Aの反射面152Aのものと比較して緩く設定されている。このため、MGシャフト20の吐出口43から吐出され、径方向内側から第2ガイド151Bの反射面152Bに衝突したオイルは、第1ガイド151Aの反射面152Aの場合よりも径方向外側に向けて跳ね返される。すなわち、第2ガイド151Bの反射面152Bによる第一軸受3Aへのオイル供給位置は、第1ガイド151Aの場合より中心軸線Xから遠くにすることができる。
【0058】
本実施形態では、第1ガイド151Aは、図8の破線Aで示すように、油路4からMGシャフト20の径方向外側に向けて吐出されたオイルを第一軸受3Aの内輪32とMGシャフト20との間の接触部に向けて跳ね返して、接触部へオイルを飛散させ供給することができるように、反射面152Aの傾斜角度が調整されている。第2ガイド151Bは、図8の破線Bで示すように、油路4からMGシャフト20の径方向外側に向けて吐出されたオイルを第一軸受3Aの転動体33に向けて跳ね返して、転動体33へオイルを飛散させ供給することができるように、反射面152Bの傾斜角度が調整されている。
【0059】
なお、ガイド部材151の軸線方向視の形状は、図3〜7で例示した第1実施形態と同様の複数のパターンが考えられるが、本実施形態の場合、反射面152の下端(図8に示す断面形状ではエンドカバー1Aとの交点)153の位置の軌跡が、図3〜7で例示した稜線の軌跡と対応することになる。第1ガイド151Aの反射面152Aの下端153Aの径方向位置が、図3〜7で例示した稜線の軌跡の最大値(r2)と対応し、第2ガイド151Bの反射面152Bの下端153Bの径方向位置が、図3〜7で例示した稜線の軌跡の最小値(r1)と対応する。
【0060】
以上、本発明について好適な実施形態を示して説明したが、本発明はこれらの実施形態により限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、MGシャフト20の端部に設けられた第一軸受3Aを潤滑する構造について説明したが、本発明に係る軸受の潤滑装置は、MGシャフト20の端部以外の中間部分にて支持する第二軸受3Bや第三軸受3Cの潤滑にも適用可能である。例えば図9に示すように、MGシャフト20内の油路4から貫通孔44を介して第二軸受3Bと第三軸受3Cとの間の空間へ吐出されたオイルを、第二軸受3Bや第三軸受3Cに向けて誘導するためのガイド部材251を設けることができる。このガイド部材251は、第二軸受3Bと第三軸受3Cとの間に面するケース1に固設することができる。
【0061】
このガイド部材251は、貫通孔44から径方向外側に吐出されたオイルを第二軸受3B及び第三軸受3Cの方向に跳ね返す反射面252を有する。さらに、ガイド部材251は、第1実施形態のガイド部材51と同様に、中心軸線Xからの反射面252の位置が異なる2つの第1ガイド251Aと第2ガイド251Bとを有する。
【0062】
第1ガイド251Aは、図9の破線A′で示すように、貫通孔44から径方向外側に向けて吐出されたオイルを、第二軸受3B及び第三軸受3Cの内輪とMGシャフト20との間の接触部に向けて跳ね返して、接触部へオイルを飛散させ供給することができるように、中心軸線Xからの反射面252Aの位置が調整されている。第2ガイド251Bは、図9の破線B′で示すように、貫通孔44から径方向外側に向けて吐出されたオイルを、第二軸受3B及び第三軸受3Cの転動体に向けて跳ね返して、転動体へオイルを飛散させ供給することができるように、中心軸線Xからの反射面252Bの位置が調整されている。
【0063】
なお、図9には図示しないが、第2実施形態のガイド部材151と同様に、反射面252の位置を同一とし、反射面252の傾斜角度を変更することで、オイルの供給位置を変更する構成とすることも可能である。
【0064】
また、上記実施形態では、本発明に係る軸受の潤滑装置5,15をハイブリッド車両のモータ2の回転軸であるMGシャフト20に適用した構成を例示したが、本発明は、回転体とその回転体を支持する軸受とを備える構成であれば適用可能であり、例えばハイブリッド車両のトランスアスクル100の他の軸(インプットシャフト、カウンタシャフト6、アウトプットシャフト)や、EV(電気自動車)やガソリン車両の動力伝達装置(ATやCVTなど)にも適用することができる。
【0065】
また、上記の各実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
3 軸受(3A…第一軸受、3B…第二軸受、3C…第三軸受、3D…第四軸受)
31 外輪
32 内輪
33 転動体
20 MGシャフト
4 油路
5,15 軸受の潤滑装置
51,151,251 ガイド部材
51A,151A,251A 第1ガイド
51B,151B,251B 第2ガイド
52,152,252 反射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトを支持する軸受を潤滑するための軸受の潤滑装置であって、
前記シャフトの内部から径方向外側にオイルを吐出可能に形成された油路と、
前記油路から前記シャフトの径方向外側に向けて吐出された前記オイルを前記軸受の内輪と前記シャフトとの間の接触部に向けて跳ね返して飛散させ、前記接触部へ前記オイルを供給する第1ガイドと、
前記油路から前記シャフトの径方向外側に向けて吐出された前記オイルを前記軸受の転動体に向けて跳ね返して飛散させ、前記転動体へ前記オイルを供給する第2ガイドと、
を備え、
前記第1ガイド及び前記第2ガイドが、前記シャフトの軸心まわりの周方向に沿って配置されることを特徴とする軸受の潤滑装置。
【請求項2】
前記第1ガイド及び前記第2ガイドは、前記シャフトの軸心からの径方向位置が異なることを特徴とする、請求項1に記載の軸受の潤滑装置。
【請求項3】
前記第1ガイド及び前記第2ガイドは、前記油路から吐出されたオイルを跳ね返す反射面の傾斜角度が異なることを特徴とする、請求項1または2に記載の軸受の潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−87791(P2013−87791A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225957(P2011−225957)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】