説明

軸受油組成物

【課題】実用温度でより低粘度であり、蒸発損失が少なく、かつ酸化安定性も向上した軸受油組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるアルコールと、炭素数8〜16の直鎖脂肪族モノカルボン酸と、をエステル化して得られる総炭素数26〜40の直鎖脂肪族モノカルボン酸エステルを、基油として含有することを特徴とする軸受油組成物。



一般式(1)中、nは5〜11の整数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルモータなどの回転体の軸受部に用いられる動圧流体軸受や焼結含浸軸受に好適に用いることのできる軸受油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から金属粉末を焼結成形して得られる多孔質部材に潤滑油やグリースを含浸させた焼結含浸軸受は、パソコンやその他周辺機器、AV機器、自動車電装系などに用いられてきた。また、近年、ハードディスクやポリゴンミラー回転用モータのように、高速・高精度な軸回転が要求される機種に、動圧流体軸受が実用化されている。
これら焼結含浸軸受や動圧流体軸受用の潤滑油に求められる性能として、モータが小型化、高精度化、高速回転化するにつれて、耐熱性・酸化安定性、低蒸発性、摩耗防止性が要求され、その多くは無補給使用のため長寿命性が要求される。
【0003】
さらに、動圧流体軸受は、パソコン、AV機器、デジタルカメラ、携帯電話などの携帯端末にも用いられるが、これらはバッテリー駆動であるため、モータの消費電力を抑え電池の消耗を抑えることが求められる。この消費電力を抑える手段として、しばしば潤滑油の基油として、低粘度の基油を用いて粘性トルクを抑えたり、添加剤により摩擦を低減するなどの手段が用いられる。しかし、一般に基油は低粘度化すると蒸発損失が大きくなる傾向にあるため、実用温度で低粘度でありながら蒸発損失が抑えられた基油が求められる。
【0004】
このような軸受用の潤滑油としては、従来、低温での流動性が優れているポリαオレフィン、特定構造の脂肪族モノカルボン酸、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシルに代表される二塩基酸ジエステル、ネオペンチルグリコールやトリメチロールプロパンの脂肪酸エステルなどを基油とし、各種添加剤を配合したものが使用されてきた(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2000−336383号公報
【特許文献2】特開2002−146374号公報
【特許文献3】特開2002−338979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、近年、軸受の用途の拡大や更なる高速化・高精度化されている中でなされたものであり、実用温度でより低粘度であり、蒸発損失が少なく、かつ酸化安定性も向上した軸受油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、下記の本発明に係る軸受油組成物が上記課題を解決することを見出し本発明を完成した。
即ち、本発明は以下の通りである。
<1> 下記一般式(1)で表されるアルコールと、炭素数8〜16の直鎖脂肪族モノカルボン酸と、をエステル化して得られる総炭素数26〜40の直鎖脂肪族モノカルボン酸エステルを、基油として含有することを特徴とする軸受油組成物。
【0007】
【化1】

【0008】
一般式(1)中、nは5〜11の整数を表す。
<2> アミン系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤を、0.05〜2質量%含有する<1>に記載の軸受油組成物。
【0009】
<3> リン系摩耗防止剤及びポリオキシエチレンソルビトールエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の摩耗防止剤を、0.05〜5質量%含有する<1>又は<2>に記載の軸受油組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、実用温度でより低粘度であり、蒸発損失が少なく、かつ酸化安定性も向上した軸受油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の軸受油組成物は、下記一般式(1)で表されるアルコールと、炭素数8〜16の直鎖脂肪族モノカルボン酸と、をエステル化して得られる総炭素数26〜40の直鎖脂肪族モノカルボン酸エステルを基油として含有することを特徴とする。
【0012】
【化2】

【0013】
(一般式(1)中、nは5〜11の整数を表す。)
【0014】
(A)基油
本発明の軸受油組成物で使用する基油は、前記一般式(1)で表されるアルコールと炭素数8〜16の直鎖脂肪族モノカルボン酸とのエステル化で得られる総炭素数26〜40の直鎖脂肪族モノカルボン酸エステルである。
前記一般式(1)において、nは5〜11の整数であり、好ましくはnが6〜8の整数であり、最も好ましくはnが7の整数である。nが4以下になると基油が蒸発しやすくなり、12以上になると基油の粘度が高くなる。
【0015】
前記一般式(1)で表されるアルコールの具体例としては、2−ブチルオクタノール、2−ペンチルノナノール、2−ヘキシルデカノール、2−ヘプチルウンデカノール、2−オクチルドデカノール、2−ノニルトリデカノール、2−デシルテトラデカノール等が挙げられ、2−ペンチルノナノール、2−ヘキシルデカノール、2−ヘプチルウンデカノールが好ましく、2−ヘキシルデカノールが最も好ましい。
【0016】
一方、前記炭素数8〜16の直鎖脂肪族モノカルボン酸は、好ましくは炭素数9〜15の直鎖脂肪族モノカルボン酸であり、炭素数10〜14の直鎖脂肪族モノカルボン酸が最も好ましい。該炭素数が8よりも小さいと、基油の粘度が非常に低くなり、蒸発量が大きくなる。また、該炭素数が16を超えると、基油の粘度が高くなるため好ましくない。
前記炭素数8〜16の直鎖脂肪族モノカルボン酸の具体例としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等が挙げられ、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸が好ましい。
【0017】
前記モノカルボン酸の構造が、分岐鎖の構造であると、粘度指数が低くなるため好ましくない。また、直鎖脂肪族モノカルボン酸は直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸であっても直鎖不飽和脂肪族モノカルボン酸であってもよいが、直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸であることがより好ましい。
【0018】
本発明の軸受油組成物に用いる基油は、上述の一般式(1)で表されるアルコールと直鎖脂肪族カルボン酸とをエステル化することにより得られる直鎖脂肪族モノカルボンエステルであり、その総炭素数は26〜40である。該総炭素数は26〜34が好ましく、26〜30が更に好ましい。該総炭素数が25以下であると蒸発損失が大きくなり、炭素数が41以上だと粘度が高くなってしまう。
【0019】
本発明の軸受油組成物は、その性能を低下させない範囲であれば、基油として、前記直鎖脂肪族モノカルボン酸エステル以外の潤滑油基油、例えば、鉱油系潤滑油基油や合成系潤滑油基油等を混合してもよい。鉱油系潤滑油基油としては、例えば原油の潤滑油留分を溶剤精製、水素化精製など適宜組み合わせて精製した基油が挙げられる。合成系潤滑油基油としては、例えば、ポリ−α−オレフィン、ポリオールエステル類、アルキルベンゼン類、ポリグリコール類、フェニルエーテル類等が挙げられる。ただし、低粘度と低蒸発性に優れる軸受油組成物を得るために、上記エステル基油は基油全量に対して、40〜100質量%含有することが好ましく、60〜100質量%含有することが好ましく、70〜100質量%含有することがさらに好ましく、実質的に他の基油を含有しないことが特に好ましい。
【0020】
(B)酸化防止剤
本発明の軸受油組成物は、酸化安定性を向上させるために酸化防止剤を配合することができるが、その場合アミン系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤を含有させることが好ましい。さらに、より一層の酸化安定性の向上のためには、後述するアミン系酸化防止剤である一般式(2)のジフェニルアミン類と一般式(3)のアルキル化フェニル−α−ナフチルアミン、及びリン系酸化防止剤である一般式(4)のホスファイトを共に含有することが好ましい。酸化安定性を向上させることにより、蒸発損失の抑制効果も期待できるため、上記のアミン系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤を含有させることは、蒸発損失の抑制の点からも好ましい。酸化劣化が進むと、長期間の使用で酸価が増加する場合があるが、これによりエステル基油の加水分解が進むなどして、蒸発損失が進む原因となる場合がある。
【0021】
前記アミン系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤の含有量は、0.05〜2質量%とすることが好ましく、0.1〜1質量%とすることがより好ましく、0.1〜0.5質量%とすることがさらに好ましい。なお、前記酸化防止剤の含有量が2質量%を超えると、含有量に見合った効果が得られない場合が多い。前記酸化防止剤の含有量を2質量%以下とすると、経済的であり、充分な効果が得られる。前記酸化防止剤は1種を単独使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。2種以上組み合わせる場合の配合量は、その合計量が上記範囲内であることが好ましい。
【0022】
(i)アミン系酸化防止剤
本発明の軸受油組成物において、酸化防止剤として用いることが好ましいアミン系酸化防止剤としては、ジフェニルアミン類やアルキル化フェニル−α−ナフチルアミンが挙げられる。
前記ジフェニルアミン類としては、下記一般式(2)で表される構造を持つものが挙げられる。
【0023】
【化3】

【0024】
前記一般式(2)において、R及びRは、水素原子、又は炭素数1〜16の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を表す。該直鎖又は分岐鎖のアルキル基は、好ましくは炭素数3〜9の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数4〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。前記直鎖又は分岐鎖のアルキル基の炭素数が16を超えると油への溶解性が低下することがあるため好ましくない。
【0025】
また、前記R及びRは同一であっても、異なってもよい。前記ジフェニルアミン類の具体例としては、ジフェニルアミン、ブチルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジブチルジフェニルアミン、オクチルブチルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン等が挙げられる。ジフェニルアミン類は1種を単独使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0026】
前記アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンとしては、下記一般式(3)で表される構造を持つものが挙げられる。
【0027】
【化4】

【0028】
前記一般式(3)において、Rは、炭素数1〜16の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を表し、好ましくは炭素数4〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。前記アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンの具体例として、n−ペンチル化フェニル−α−ナフチルアミン、2−メチルブチル化フェニル−α−ナフチルアミン、2−エチルへキシル化フェニル−α−ナフチルアミン、n−オクチル化フェニル−α−ナフチルアミン、1−メチルオクチル化フェニル−α−ナフチルアミン等が挙げられる。アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンは、1種を単独使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0029】
(ii)リン系酸化防止剤
本発明の軸受油組成物において、酸化防止剤として用いることが好ましいリン系酸化防止剤の好適な具体例としては、ホスファイトが挙げられる。
ホスファイトとしては、下記一般式(4)で表される構造を持つものが挙げられる。
【0030】
【化5】

【0031】
前記一般式(4)において、R及びRは、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を表し、好ましくは炭素数2〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。これらのホスファイトは、1種を単独使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0032】
(C)摩耗防止剤
本発明の軸受油組成物には、摩耗防止性を向上させるために、リン系摩耗防止剤及びポリオキシエチレンソルビトールエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の摩耗防止剤を含有させることが好ましい。さらに、直鎖脂肪族モノカルボン酸エステルの加水分解への影響やこれに起因すると思われる蒸発性を考慮した場合には、加水分解促進の要因とはなりづらい摩耗防止剤を選択することが好ましい。この観点からは、リン系摩耗防止剤として、後述の一般式(5)でR〜Rがアルキルアリール基であるアルキルアリールホスフェート及びポリオキシエチレンソルビトールエステル類からなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、特にポリオキシエチレンソルビトールエステル類を用いることが好ましい。
【0033】
前記摩耗防止剤の含有量は、0.05〜5質量%であることが好ましく、0.1〜3質量%であることがより好ましく、0.15〜2質量%であることがさらに好ましく、0.15〜1.5質量%であることが特に好ましい。前記摩耗防止剤の含有量が5質量%を超えると、含有量に見合った効果が得られない場合が多い。前記摩耗防止剤の含有量を5質量%以下にすると、経済的であり、充分な効果が得られる。
前記摩耗防止剤は1種を単独使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。2種以上組み合わせる場合の配合量は、その合計量が上記範囲内であることが好ましい。
【0034】
(i)リン系摩耗防止剤
前記リン系摩耗防止剤としては、ホスフェート、ホスファイト、アシッドホスフェート、アシッドホスフェートのアミン塩などが挙げられる。
前記ホスフェートとしては、下記一般式(5)で表される構造を持つものが挙げられる。
【0035】
【化6】

【0036】
一般式(5)において、R〜Rは、水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基を表し、同一であってもそれぞれ異なってもよい。R〜Rがアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基の場合、炭素数3〜9が好ましい。R〜Rで表されるアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基の炭素数が22を超えると、基油への溶解性が低下することがある。
【0037】
前記ホスフェートとしては、トリアリールホスフェート、トリアルキルホスフェート等が挙げられ、具体的には、ベンジルジフェニルホスフェート、アリルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジプロピルフェニルフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート等の化合物を挙げることができる。
【0038】
前記ホスファイトとしては、下記一般式(6)または一般式(7)で表される構造を持つものが挙げられる。
【0039】
【化7】

【0040】
前記一般式(6)、一般式(7)において、R〜R11は、炭素数1〜22のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基もしくはアリールアルキル基を示し、同一であっても異なっても良い。R〜R11は、炭素数8〜18であることが好ましい。炭素数が22を超えると基油への溶解性が低下するため好ましくない。
前記ホスファイトの具体例には、トリオクタデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイトなどの亜リン酸トリアルキルエステル類、亜リン酸ジアルキルエステル類、亜リン酸モノアルキルエステル類などが挙げられる。
【0041】
前記アシッドホスフェートとしては、一般式(8)、一般式(9)で表される構造を持つものが挙げられる。
【0042】
【化8】

【0043】
一般式(8)、一般式(9)において、R12及びR13は、炭素数4以上の炭化水素基を表し、同一であっても異なってもよい。R12及びR13の具体例としては、炭素数4〜20の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基、すなわちアルキル基及びアルケニル基、炭素数4〜20の芳香族炭化水素基、シクロアルキル基が挙げられる。炭素数が4〜20であると、摩耗防止性を向上させるという効果が充分に発揮される。R12及びR13で表される炭化水素基は、炭素数が好ましくは6〜18であり、より好ましくは8〜12である。
【0044】
前記アシッドホスフェートの具体例としては、例えば、2−エチルへキシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ジ(2−エチルへキシル)ホスフェート等が挙げられる。
【0045】
アシッドホスフェートのアミン塩としては、上記のアシッドホスフェートを一般式(10)で表される構造のアルキルアミンで中和したもの等が好ましいものとして挙げられる。
【0046】
【化9】

【0047】
一般式(10)において、R14〜R16は、炭素数が1〜22の一価の炭化水素基又は水素原子を表し、R14〜R16のうち少なくとも1個は炭化水素基である。R14〜R16は、好ましくは炭素数4〜18の一価の炭化水素基又は水素原子である。
上記のアルキルアミンの具体例としては、ジブチルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、ラウリルアミン、ジラウリルアミン、オレイルアミン、ココナッツアミン、牛脂アミンなどである。
これらのリン系摩耗防止剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0048】
(ii)ポリオキシエチレンソルビトールエステル類
前記ポリオキシエチレンソルビトールエステル類は、下記一般式(11)で表され、ソルビトールの水酸基にオキシエチレン基が3〜100モル重合したポリオキシエチレン基が結合したポリオキシエチレンソルビトールに、モノカルボン酸がエステル結合した構造の化合物である。
【0049】
【化10】

【0050】
一般式(11)中、a、b、c、d、e、fは、a+b+c+d+e+fが3〜100となる整数であり、R17〜R22は水素又は炭素数5〜25のモノカルボン酸由来部分である。
前記モノカルボン酸は、炭素数5〜25の脂肪族モノカルボン酸が好ましく、炭素数8〜22の脂肪族モノカルボン酸がさらに好ましく、炭素数10〜20の脂肪族モノカルボン酸が最も好ましい。ソルビトールと上記モノカルボン酸のエステルは、モノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、ペンタエステル、ヘキサエステルのいずれでもよく、1種の脂肪酸とのエステルでも2種以上の脂肪酸との混合エステルでもよい。
【0051】
(D)その他の添加剤
本発明の軸受油組成物には、必要に応じて、上記以外の各種添加剤を配合することもできる。例えば、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、アルキルコハク酸誘導体などのさび止め剤、ポリアルケニルコハク酸イミドやその誘導体などの分散剤、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソブチレン、ポリメタクリレート等の流動点降下剤、オレフィンポリマー等の粘度指数向上剤、導電性付与剤等が挙げられる。
【0052】
(E)組成物の動粘度・粘度指数
本発明の軸受油組成物は、40℃における動粘度が6〜13mm/sであることが好ましく、より好ましくは8〜12mm/sである。40℃動粘度が6mm/s未満であると蒸発損失が多くなる恐れがあり、13mm/sを超えると軸が回転するときの粘性トルクが大きくなる場合や、低温流動性が低下する場合があるため好ましくない。
また、本発明の軸受油組成物は、粘度指数が120以上であることが好ましく、より好ましくは130以上である。粘度指数が120未満であると、温度変化に対する粘度変化が大きくなり、低温における粘性トルクが大きくなる場合があるため好ましくない。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
各実施例、比較例において組成物の調製に用いた基油、添加剤成分は次のとおりである。
(A)基油
(A−i)モノエステル基油A
一般式(1)において、nが7であるアルコールと、カプリン酸(炭素数10の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸)と、をエステル化して得られる直鎖脂肪族モノカルボン酸エステルをモノエステル基油Aとした。モノエステル基油Aの総炭素数は26である。
【0054】
(A−ii)モノエステル基油B
一般式(1)において、nが7であるアルコールと、ラウリン酸(炭素数12の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸)と、をエステル化して得られる直鎖脂肪族モノカルボン酸エステルをモノエステル基油Bとした。モノエステル基油Bの総炭素数は28である。
【0055】
(A−iii)モノエステル基油C
一般式(1)において、nが5であるアルコールと、ミリスチン酸(炭素数14の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸)と、をエステル化して得られる直鎖脂肪族モノカルボン酸エステルをモノエステル基油Cとした。モノエステル基油Cの総炭素数は26である。
【0056】
(A−iv)モノエステル基油D
n−ドデカン酸イソトリデシルをモノエステル基油Dとした。モノエステル基油Dの総炭素数は25である。
【0057】
(A−v)モノエステル基油E
一般式(1)において、nが5であるアルコールと、ラウリン酸(炭素数12の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸)と、をエステル化して得られる直鎖脂肪族モノカルボン酸エステルをモノエステル基油Eとした。モノエステル基油Eの総炭素数は24である。
【0058】
(A−vi)モノエステル基油F
一般式(1)において、nが7であるアルコールと、2−ブチルオクタン酸(炭素数12の分岐鎖飽和脂肪族モノカルボン酸)と、をエステル化して得られる直鎖脂肪族モノカルボン酸エステルをモノエステル基油Fとした。モノエステル基油Fの総炭素数は28である。
【0059】
(A−vii)モノエステル基油G
一般式(1)において、nが7〜9であるアルコールの混合物と、2−エチルヘキサン酸(炭素数8の分岐鎖飽和脂肪族モノカルボン酸)と、をエステル化して得られる直鎖脂肪族モノカルボン酸エステルをモノエステル基油Gとした。モノエステル基油Gの総炭素数は24〜28である。
【0060】
(A−viii)モノエステル基油H
一般式(1)において、nが9であるアルコールと、2−エチルヘキサン酸(炭素数8の分岐鎖飽和脂肪族モノカルボン酸)と、をエステル化して得られる直鎖脂肪族モノカルボン酸エステルをモノエステル基油Hとした。モノエステル基油Hの総炭素数は28である。
【0061】
(A−ix)ジエステル基油A
一般式(1)において、nが3であるアルコールと、アジピン酸(炭素数6の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸)と、をエステル化して得られる直鎖脂肪族ジカルボン酸エステルをジエステル基油Aとした。ジエステル基油Aの総炭素数は22である。
【0062】
(A−x)ジエステル基油B
一般式(1)において、nが3であるアルコールと、セバシン酸(炭素数10の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸)と、をエステル化して得られる直鎖脂肪族ジカルボン酸エステルをジエステル基油Bとした。ジエステル基油Bの総炭素数は26である。
【0063】
(B)酸化防止剤
(B−i)ジフェニルアミン類
一般式(2)において、R及びRが直鎖又は分岐鎖のC17であるアルキル化ジフェニルアミン。
【0064】
(B−ii)アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン
一般式(3)において、Rが直鎖又は分岐鎖のC17であるアルキル化フェニル−α−ナフチルアミン。
【0065】
(B−iii)リン系酸化防止剤
一般式(4)において、R及びRがt−ブチルであるホスファイト。
【0066】
(C)摩耗防止剤
(C−i)ホスフェート
一般式(5)において、R〜Rが同一のクレジル基であるホスフェート。
【0067】
(C−ii)ポリオキシエチレンソルビトールエステル
一般式(11)において、a+b+c+d+e+fが6であり、R17〜R20がオレイン酸であり、R21及びR22が水素であるポリオキシエチレンソルビトールエステル。
【0068】
(C−iii)ポリオキシエチレンソルビトールエステル
一般式(11)において、a+b+c+d+e+fが30であり、R17〜R20がオレイン酸であり、R21及びR22が水素であるポリオキシエチレンソルビトールエステル。
【0069】
(評価方法)
本実施例では、含浸軸受用潤滑油として要求される、低粘度、低蒸発性、酸化安定性、摩耗防止性について、下記の評価方法により評価した。
[動粘度・粘度指数]
JIS K 2283に規定されている動粘度試験方法により、0℃、40℃、100℃の動粘度を測定し、動粘度及び粘度指数を評価した。
【0070】
[蒸発性]
潤滑油の熱安定性を評価する方法の1つとして、JIS K 2540に制定されている熱安定度試験に準拠した試験により、蒸発減量を以下の条件で測定し、評価した。
試験条件
温度:120℃
時間:1000hr
【0071】
[回転ボンベ式酸化安定度(RBOT試験)]
本評価は、Rotating Bomb Oxidation Testと呼ばれるもので、以下RBOTと略す。JIS K 2514に準拠し、150℃における規定の圧力低下までの時間をRBOT寿命として評価した。
【0072】
[シェル四球試験法]
潤滑油の耐摩耗性を評価する方法の1つである、ASTM D 2783に準拠して行い、耐摩耗性を以下の条件により、摩耗径で評価した。
試験条件
回転数:1200rpm
荷重:30kgf(294N)
試験時間:30min
【0073】
<実施例1〜4、比較例1〜3>
表1に示すように、各基油に、各種添加剤を表1に示す量配合し、実施例1〜4、比較例1〜3の軸受油組成物を調製して、表1に記載の評価を実施した。その結果を表1に示す。尚、表1において、「○」は該当する基油を含有することを意味し、各基油の含有量は添加剤との合計量が100質量%となる量である(以下の表2〜4も同様)。また、添加剤の欄が空欄のものは未添加であることを意味する(以下の表2〜4も同様)。
【0074】
【表1】

【0075】
<実施例5〜7、比較例4>
表2に示すように、各基油に、各種添加剤を表2に示す量配合し、実施例5〜7、比較例4の軸受油組成物を調製して、表2に記載の評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表1及び2から、本発明の軸受油組成物の基油であるモノエステル基油A〜Cを用いた実施例1〜7は、本発明の軸受油の基油であるエステル基油とは構造が異なるモノエステル基油又はジエステル基油を用いた比較例1〜4に比べ、40℃動粘度がほぼ同程度であるが、低い蒸発性を示していることがわかる。
【0078】
<比較例5>
表3に示すように、各基油に、各種添加剤を表3に示す量配合し、比較例5の軸受油組成物を調製して、実施例1、4の軸受油組成物と共に、表3に記載の評価を実施した。その結果を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
<比較例6、7>
表4に示すように、各基油に、各種添加剤を表4に示す量配合し、比較例6、7の軸受油組成物を調製して、実施例5の軸受油組成物と共に、表4に記載の評価を実施した。その結果を表4に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
表3及び4から、本発明の軸受油組成物の基油であるモノエステル基油A〜Cを用いた実施例1、4、5は、本発明の軸受油組成物の基油であるエステル基油とは構造が異なるモノエステル基油F〜Hを用いた比較例5、6、7に比べ、粘度指数が高いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルコールと、炭素数8〜16の直鎖脂肪族モノカルボン酸と、をエステル化して得られる総炭素数26〜40の直鎖脂肪族モノカルボン酸エステルを、基油として含有することを特徴とする軸受油組成物。
【化1】


一般式(1)中、nは5〜11の整数を表す。
【請求項2】
アミン系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤を、0.05〜2質量%含有する請求項1に記載の軸受油組成物。
【請求項3】
リン系摩耗防止剤及びポリオキシエチレンソルビトールエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の摩耗防止剤を、0.05〜5質量%で含有する請求項1又は請求項2に記載の軸受油組成物。

【公開番号】特開2009−203275(P2009−203275A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44358(P2008−44358)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(398053147)コスモ石油ルブリカンツ株式会社 (123)
【Fターム(参考)】