軸受状態監視方法及び軸受状態監視装置
【課題】測定部位や運転条件毎のデータ蓄積による基準値を設定することなく、測定データの処理で軸受けの状態を判定可能とする
【解決手段】軸受状態監視装置1は、軸受3に取り付けられたAEセンサ10、検波処理部30、振幅分布算出部32、基準波形生成部33、及び判定部22を備える。検波処理部30はAEセンサ10からの信号に検波処理を行って検波波形を算出する。振幅分布算出部32は検波波形から振幅分布を算出する。基準波形生成部33は振幅分布から基準波形を生成する。判定部22は振幅分布と基準分布との比較により軸受3の状態を判定する。
【解決手段】軸受状態監視装置1は、軸受3に取り付けられたAEセンサ10、検波処理部30、振幅分布算出部32、基準波形生成部33、及び判定部22を備える。検波処理部30はAEセンサ10からの信号に検波処理を行って検波波形を算出する。振幅分布算出部32は検波波形から振幅分布を算出する。基準波形生成部33は振幅分布から基準波形を生成する。判定部22は振幅分布と基準分布との比較により軸受3の状態を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受状態監視方法及び軸受状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械設備等における軸受の状態を監視して異常を診断する場合、例えば軸受に取り付けたセンサで測定した振動や音響(Acoustic Emission:AE)の振幅が、予め設定した閾値を越えているか否かで異常の有無を判断するのが一般的である。また、AEを測定する場合については、AEの振幅が予め設定した閾値を越えるイベントの一定期間内の発生数を監視指標にすることも知られている。
【0003】
振動を測定する場合、一般に100rpmを下回るような回転速度の低速回転設備に対しては、軸受に傷が存在しても発生する振動強度が微弱であり、信頼性のある状態監視は困難であるとされている(例えば、非特許文献1参照)。そのような低速回転設備においてもAEを測定する場合は十分な損傷感度が得られるが、振幅やイベント数と損傷との定量的関連付けが困難であり、基準値の設定には測定部位や運転条件(連続回転の回転数や間欠回転の周期)毎に現場での十分なデータ蓄積が必要とされており、いわゆるスポット測定による診断は困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
井上紀明著,「現場の疑問に応える実践振動法による設備診断」,日本プラントメンテナンス協会,1998年9月20日,p.91−92
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、測定部位や運転条件毎のデータ蓄積による基準値を設定することなく、測定データの処理で軸受の状態を判定可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、回転軸を保持する軸受において前記回転軸の回転により発生する信号の時間波形に検波処理を行って検波波形を算出し、前記検波波形から振幅分布を算出し、前記振幅分布と前記振幅分布から生成した基準分布との比較により前記軸受の状態を判定する、軸受状態監視方法を提供する。
【0007】
振幅分布とそれから得られる基準分布との比較により軸受の状態を判定するので、回転軸の回転速度が比較的低速(例えば0.1〜200rpm程度)である場合でも、測定部位や運転条件毎のデータ蓄積による基準値を設定することなく、検波波形の処理で軸受の状態の判定が可能である。
【0008】
具体的には、振幅を対数化した前記検波波形を使用して前記振幅分布を算出する。前記基準分布の生成は、前記振幅分布の最頻値を求め、前記振幅分布の前記最頻値よりも低頻度のデータを正規分布で近似した低頻度側分布と、この低頻度側分布を前記最頻値よりも高頻度側に適用した高頻度側分布とにより構成される推定正規分布を求め、前記推定正規分布の頻度を対数化した対数化推定正規分布を求め、前記対数化推定正規分布に余裕度を加算して前記基準分布を求めるものである。前記振幅分布の頻度を対数化した対数化振幅分布を求める。前記対数化振幅分布と記基準分布との比較により前記軸受の状態を判定する。対数化推定正規分布に余裕度を加えることで判定の信頼性を向上できる。
【0009】
より具体的には、前記対数化振幅分布に含まれるデータのうち対数化頻度が前記基準分布の同一振幅の頻度を上回るものを多項式で近似して近似係数を求める。前記近似係数を前記対数化振幅分布と前記基準分布の差異を示す指標として前記軸受の状態の判定に使用する。例えば、前記多項式は一次式であり、この一次式の勾配又はその逆数の絶対値を前記指標として使用する。
【0010】
代案としては、前記対数化振幅分布のデータのうち対数化頻度が前記基準分布の同一振幅の頻度を上回るものについて以下の式で計算される指標面積を、前記対数化振幅分布と前記基準分布の差異を示す指標として前記軸受の状態の判定に使用する。
【0011】
【数1】
【0012】
前記検波処理における前記回転軸の1回転又は間欠動作1周期当たりのサンプリング点数を、前記回転軸の回転数又は間欠動作の速度にかかわらず一定値とし、振幅を対数化した前記検波波形を使用して算出した前記振幅分布の頻度を前記一定値で除算することで規格化する。規格化することで測定部位や運転条件の相違による影響をより低減でき、より高精度で軸受の状態を判別できる。
【0013】
外乱ノイズとしての揺らぎ成分を含んだまま振動分布を求めると、振動分布の幅が本来測定したい信号(例えばAE)ではなく揺らぎ成分により決定され、軸受の状態判別の精度が低下する場合がある。このような場合、前記振幅分布の算出は、前記検波波形の揺らぎ成分を算出し、前記検波波形から前記揺らぎ成分を除去し、前記揺らぎ成分を除去した後の前記検波波形を使用して前記振幅分布を算出することが好ましい。前記揺らぎ成分の算出には移動平均やローパスフィルタを使用できる。
【0014】
前記回転軸の回転により発生する信号は、AE、振動、又は超音波のいずれかである。
【0015】
本発明の第2の態様は、回転軸を保持する軸受において前記回転軸の回転により発生する信号を検出するセンサ部と、前記センサ部が検出した測定波形に検波処理を行って検波波形を算出する検波処理部と、前記検波波形から振幅分布を算出する振幅分布算出部と、前記振幅分布から基準分布を生成する基準波形生成部と、前記振幅分布と前記基準分布との比較により前記軸受の状態を判定する判定部とを備える軸受状態監視装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、振幅分布とそれから得られる基準分布との比較により軸受の状態を判定するので、測定部位や運転条件毎のデータ蓄積による基準値を設定することなく、検波波形の処理で軸受の状態の判定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態にかかる軸受状態診断装置を示す模式図。
【図2】AEの測定波形と検波波形を示すグラフ。
【図3】振幅分布と推定正規分布を示すグラフ。
【図4】振幅分布、基準分布、及び近似曲線を示すグラフ。
【図5A】軸受正常時の振幅分布、基準分布、及び近似直線を示すグラフ。
【図5B】軸受異常発生時の振幅分布、基準分布、及び近似直線を示すグラフ。
【図6】種々の測定条件における近似直線の勾配の逆数を示す棒グラフ。
【図7】振幅分布、基準分布、及び指標面積を示すグラフ。
【図8】種々の測定条件における指標面積を示す棒グラフ。
【図9】検波波形と揺らぎ成分を示すグラフ。
【図10】揺らぎ成分を除去した検波波形を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。軸受が正常な場合の音響(AE)、振動、超音波等のRF波形の振幅分布は正規分布に従うことが知られているが、本発明者は、以下の知見を見出した。軸受が正常であり、かつ背景ノイズが低い場合、検波波形の振幅分布も正規分布で近似可能である。また、軸受に損傷が発生している場合、高振幅のデータの出現により振幅分布が正規分布から乖離するが、最頻値より低頻度側の振幅分布は正規分布で近似可能である。さらに、軸受に損傷が発生している場合に正規分布で近似した最頻値より低頻度側の振幅分布は、軸受が正常な場合の正規分布とほぼ同一である。本発明は、これらの知見を軸受の状態監視に適用したものである。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る軸受状態監視装置(以下、監視装置)1を示す。軸受3は回転機械設備(本実施形態ではベルトコンベア設備であるが設備や機械の種類は特に限定されない)の回転軸2を支持する。監視装置1は、軸受3における摩耗、損傷に起因する異常発生等を監視する。
【0020】
監視装置1は、軸受3にカプラントを介して固定されたAEセンサ10を備える。また、監視装置1は、フィルタ12、アンプ13、及び各種演算処理を行う信号処理部21を備える。また、監視装置1は、信号処理部21での処理結果に基づいて軸受3に異常が判定しているか否かを判定する判定部22と、判定部22の判定結果を表示するための例えばモニタ装置である表示部23を備える。さらにまた、監視装置1は、信号処理部21及び判定部22と協働して各種データ、演算結果等を記憶する記憶部24を備える。信号処理部21は、検波処理部30、サンプリング回路31、振幅分布算出部32、及び基準波生成部33を備える。
【0021】
以下、この監視装置1により実行される軸受状態監視方法を説明する。
【0022】
AEセンサ10は、軸受3において回転軸2の回転により発生するAE信号を検出する。AEセンサ10によるAE信号の検出に代えて、回転軸2の回転時に発生する振動を振動センサで検出してもよい。また、回転軸2の回転時に発生する超音波を超音波センサで検出してもよい。振動や超音波を検出する場合も、以下の処理を同様に適用できる。
【0023】
AEセンサ10からの測定波形(AEの時間波形)は、図示しないプリアンプ、フィルタ12、及びアンプ13を介して信号処理部21に入力される。AEセンサ10からの微弱な出力信号は、まずプリアンプで増幅される。プリアンプはAEセンサ10内に設けてもよいし、AEセンサ10とフィルタ12の間に設けてもよい。フィルタ12はプリアンプの信号からノイズを除去して適切な周波数帯域のみを通過させる。フィルタ12を通過した信号はアンプ13により信号処理部21での処理に適した強度に増幅される。
【0024】
検波処理部30は、測定波形(アンプ13からに入力されるAEの時間波形)に検波処理を施して検波波形を算出する(図2参照)。この検波波形の時間長さは、少なくとも回転軸2の1回転分(回転軸2が間欠動作する場合には間欠動作の1周期分)を有する。例えば、回転軸2の10回転分程度の測定波形を得る。回転軸2の1回転分の時間長さは、回転軸2の設定回転数により決定してもよいし、実際に測定してもよい。
【0025】
サンプリング回路31は検波処理部30からの検波波形に対してサンプリングを実行する。
【0026】
振幅分布算出部32は、サンプリング後の検波波形に対して以下の処理を行って振幅分布を算出する。まず、サンプリング後の検波波形の振幅を対数化(自然対数化)する。この振幅を対数化した検波波形を使用して振幅分布(検波波形中である振幅が出現する頻度の分布)を算出する(図3及び図4参照)。AEは振幅変化の範囲が広いため、対数化して低振幅側の情報の重みを相対的に増すことで、低振幅の変化も感度良く検知できるようにする。また、対数化することで比率が差になる(つまり線形では10倍の違いが、対数化すると+1となる)ので、振幅の取扱が容易になる。
【0027】
振幅分布の頻度を規格化してもよい。この場合、サンプリング回路31が測定波形をサンプリングするサンプリング周波数を回転軸2の回転数(間欠動作の場合には単位時間あたりの動作数)に応じて変化させ、それによって回転軸2の1回転又は間欠動作の1周期当たりのサンプリング点数Nを回転数や間欠動作の速度にかかわらず一定値とする。そして、振幅分布の頻度をサンプリング点数N(一定値)で除算することで規格化する。図3から図5B及び図7のグラフの縦軸は規格化された頻度である。
【0028】
基準分布生成部33は、軸受の状態を判定するために使用する基準分布を求める。基準分布は軸受3が正常である場合の振幅分布を推定したものである推定正規分布をもとに求められる。前述のように軸受3に損傷が発生している場合、高振幅のデータが出現により振幅分布が正規分布から乖離するが、最頻値より低頻度側の振幅分布は正規分布で近似可能であり、この低頻度側の振幅分布は軸受3が正常な場合の正規分布とほぼ同一である。また、振幅分布の最頻値より低頻度側の振幅分布を正規分布で近似したものを、最頻値を境に折り返すことにより、軸受が正常な場合の最頻値よりも高頻度側の振幅分布も推定できる。基準分布生成部33はこの原理によって軸受3が正常である場合の振幅分布を推定する。
【0029】
以下、図3を参照して基準分布生成部33が基準分布を求める具体的な手順を説明する。まず、振幅分布(前述の規格化を行う場合には頻度を規格化した後の振幅分布)の最頻値Fmaxを求める。次に、振幅分布に含まれるデータのうち最頻値Fmaxよりも低頻度のものを正規分布で近似した低頻度側分布を求める。また、この低頻度側分布を最頻値Fmaxで折り返すことにより、最頻値Fmaxよりも高頻度側の分布を推定したものである高頻度側分布を求める。低頻度側分布が高頻度側分布とを併せたものが前述の推定正規分布である。次に、推定正規分布を対数化(自然対数化)した対数化推定正規分布を求める(図5A及び図5Bを併せて参照)。対数化推定正規分布の頻度に、誤判定防止による判定信頼性向上ための余裕度αを加算する。対数化推定正規分布に余裕度αを加算して得られる分布が基準分布である。余裕度αは、例えば対数化前の推定正規分布に含まれるデータの頻度の2倍に相当する値(α=ln(2))に設定される。
【0030】
一方、振幅分布算出部32は、前述のように振幅を対数化(自然対数化)した検波波形を使用して求めた振幅分布(前述の規格化を行う場合には頻度を規格化した後の振幅分布)に対し、さらに振幅分布の頻度を対数化(自然対数化)を実行して対数化振幅分布を算出する(図3及び図4参照)。異常起因のAEの頻度は背景ノイズのAEに比べはるかに少ないため、頻度を線形で見ると正常と異常の差が小さい。振幅分布を対数化することで、頻度の少ない異常起因のAEの重みを相対的に増すことができ、異常に対する感度を向上させることができる。
【0031】
判定部22は、振幅分布算出部32が算出した対数化振幅分布と基準分布生成部33が生成した基準分布との比較により軸受3が正常であるか(摩耗、損傷に起因する異常が発生していないか)を判定する。判定部22による軸受3の状態を判定は、対数化振幅分布に含まれるデータ(最頻値Fmaxよりも高頻度側)のうち対数化頻度が基準波形の同一振幅の頻度を上回るもの、つまり対数化振幅分布のうち頻度が基準波形を上回っている領域を評価することで行う。具体的には判定手法としては、以下の2種類がある。
【0032】
第1の判定手法は以下の通りである。対数化振幅分布に含まれるデータのうち対数化頻度が基準分布の同一振幅の頻度を上回るものを多項式で近似して近似係数を求める。そして、この近似係数を対数化振幅分布と基準分布の差異を示す指標として軸受3の状態を判定する。例えば、図4から図5Bに示すように、対数化振幅分布に含まれるデータのうち対数化頻度が基準分布の同一振幅の頻度を上回るものを一次関数で近似した近似直線を求め、この近似直線の勾配の逆数の絶対値により軸受3の状態を判定する。図5A(正常時)と図5B(異常時)とを比較すれば明らかなように、軸受3に異常が発生していると正常時と比較して近似直線の勾配が緩やかになる。つまり、軸受3に異常が発生していると正常時と比較して勾配の逆数の絶対値は大きくなる。従って、勾配の逆数に関する適切な閾値を設定し、勾配の逆数の絶対値が閾値以下であれば軸受3は正常であると判定し、閾値を上回ると軸受3に異常が発生していると判定することができる。
【0033】
図6は軸受3の回転数が種々異なる場合(10rpm,20rpm,80rpm,100rpm)について、実験的に求めた近似曲線の勾配の逆数の絶対値を示す。この図6においてNo.1〜12は軸受3が正常である場合であり、No.13〜16は軸受3に異常が発生している場合である。近似曲線の勾配の逆数の絶対値は、正常時(No.1〜12)には概ね1程度であるが、異常時(No.13〜16)には2以上であり、明瞭な差異がある。図8の例の場合、例えば軸受3に異常発生に注意を要するか否かの判断の閾値を1.5に設定することが考えられる。本実施形態では、頻度を規格化しているため、共通の閾値を使用することができ、個々の測定場所で正常時と異常時の近似曲線の勾配の逆数の絶対値を測定して閾値を設定する必要がない。
【0034】
第1の判定手法において一次関数での近似を採用する場合に、勾配そのものや、勾配の絶対値を軸受3の状態判定における指標に使用してもよい。また、一次関数による近似に代えて二次以上の多次の関数による近似を行い、得られた多項式の係数を状態判定における指標に使用してもよい。
【0035】
第2の判定手法は、以下の通りである。図7を参照すると、対数化振幅分布に含まれるデータのうち対数化頻度が基準分布の同一振幅の頻度を上回るものと基準頻度Frefとにより囲まれた領域の面積(指標面積)を以下の式により計算する。
【0036】
【数2】
【0037】
指標面積ARの算出に使用する基準頻度Frefはある振幅が出現する頻度が検波波形内で1回である状況に相当する頻度よりも小さく、かつ余り小さ過ぎないことが好ましい。例えば、前述した頻度のサンプリング点数Nによる規格化を行わない場合、検波波形内で1回だけある波形が出現する場合の頻度は1であるので、基準頻度Frefはln(1)=0未満で余り小さ過ぎない値(例えば−1)に設定される。また、頻度のサンプリング点数Nによる規格化を行う場合、検波波形内で1回だけある波形が出現する場合の頻度は1/Nであるので、基準頻度Frefはln(1/N)未満で余り小さ過ぎない値(例えばln(1/N)未満の最も大きい整数)に設定される。規格化に使用するサンプリング点数Nが10,000の場合、ln(1/N)=−9.2であるので基準頻度Frefは例えば−10に設定される。
【0038】
図8は軸受3の回転数が種々異なる場合(10rpm,20rpm,80rpm,100rpm)について、実験的に求めた指標面積ARの値を示す。この図8においてNo.1〜12は軸受3が正常である場合であり、No.13〜16は軸受3に異常が発生している場合である。指標面積ARの値は、正常時(No.1〜12)には20未満であるが、異常時(No.13〜16)には40以上であり、明瞭な差異がある。図8の例の場合、例えば軸受3に異常発生に注意を要するか否かの判断の閾値を20に設定することが考えられる。サンプリング点数Nで頻度を比較する場合には、測定系が同一であれば共通の閾値を使用することができ、個々の測定場所での正常時と異常時の指標面積ARを測定して閾値を設定する必要がない。
【0039】
判定部22は、第1及び第2の判定手法のいずれか一方を実行してもよいし、これらの判定手法の両方を実行してもよい。例えば、判定部22は、第1及び第2の判定手法の両方で異常発生の判定が成立する場合には軸受3に異常が発生している判定するが、第1及び第2の判定手法のいずれか一方のみで異常発生の判定が成立する場合には軸受3は正常であると判定してもよい。
【0040】
本実施形態では、対数化振幅分布を対数化前の振幅分布自体から算出した基準分布を比較することで軸受3の状態を判定する。従って、回転軸の回転速度が比較的低速(例えば0.1〜200rpm程度)である場合でも、測定部位や運転条件毎のデータ蓄積による基準値を設定することなく、検波波形の処理で軸受の状態の判定が可能である。
【0041】
対数化推定正規分布は近似で求めるため、実際のデータは対数化推定正規分布を中心にばらつく。このため、対数化推定正規分布をそのまま基準分布とすると、実際の振幅分布のばらつきにより、本来求めたい高振幅側の損傷起因のAEではない正常なAE部分でも基準値越えが発生する可能性があり、誤診断につながる。対数化推定正規分布に余裕度αを加算して得られた基準分布を使用することで、実際のデータの分布のばらつきに起因する誤診断を防ぐことができる。
【0042】
外乱ノイズとしての揺らぎ成分を含んだまま振動分布を求めると、振動分布の幅が本来測定したい信号(例えばAE)ではなく揺らぎ成分により決定され、損傷に起因する振動成分による振幅変化がその中に埋もれてまうおそがある。そのため、揺らぎ成分により軸受3の状態判別の精度が低下する場合がある。このような場合、揺らぎ成分を除去した後に振幅分布の算出を行えばよい。具体的には、まず、振幅を対数化した後の検波波形に含まれる揺らぎ成分を算出する(図9参照)。次に、検波波形から揺らぎ成分を除去する(図10参照)。揺らぎ成分の算出には、例えば移動平均やローパスフィルタを使用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 軸受状態監視装置
2 回転軸
3 軸受
10 音響センサ
11 プリアンプ
12 フィルタ
13 アンプ
14 サンプリング回路
21 信号処理部
22 判定部
23 表示部
24 記憶部
31 検波処理部
32 振幅分布算出部
33 基準分布生成部
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受状態監視方法及び軸受状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械設備等における軸受の状態を監視して異常を診断する場合、例えば軸受に取り付けたセンサで測定した振動や音響(Acoustic Emission:AE)の振幅が、予め設定した閾値を越えているか否かで異常の有無を判断するのが一般的である。また、AEを測定する場合については、AEの振幅が予め設定した閾値を越えるイベントの一定期間内の発生数を監視指標にすることも知られている。
【0003】
振動を測定する場合、一般に100rpmを下回るような回転速度の低速回転設備に対しては、軸受に傷が存在しても発生する振動強度が微弱であり、信頼性のある状態監視は困難であるとされている(例えば、非特許文献1参照)。そのような低速回転設備においてもAEを測定する場合は十分な損傷感度が得られるが、振幅やイベント数と損傷との定量的関連付けが困難であり、基準値の設定には測定部位や運転条件(連続回転の回転数や間欠回転の周期)毎に現場での十分なデータ蓄積が必要とされており、いわゆるスポット測定による診断は困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
井上紀明著,「現場の疑問に応える実践振動法による設備診断」,日本プラントメンテナンス協会,1998年9月20日,p.91−92
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、測定部位や運転条件毎のデータ蓄積による基準値を設定することなく、測定データの処理で軸受の状態を判定可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、回転軸を保持する軸受において前記回転軸の回転により発生する信号の時間波形に検波処理を行って検波波形を算出し、前記検波波形から振幅分布を算出し、前記振幅分布と前記振幅分布から生成した基準分布との比較により前記軸受の状態を判定する、軸受状態監視方法を提供する。
【0007】
振幅分布とそれから得られる基準分布との比較により軸受の状態を判定するので、回転軸の回転速度が比較的低速(例えば0.1〜200rpm程度)である場合でも、測定部位や運転条件毎のデータ蓄積による基準値を設定することなく、検波波形の処理で軸受の状態の判定が可能である。
【0008】
具体的には、振幅を対数化した前記検波波形を使用して前記振幅分布を算出する。前記基準分布の生成は、前記振幅分布の最頻値を求め、前記振幅分布の前記最頻値よりも低頻度のデータを正規分布で近似した低頻度側分布と、この低頻度側分布を前記最頻値よりも高頻度側に適用した高頻度側分布とにより構成される推定正規分布を求め、前記推定正規分布の頻度を対数化した対数化推定正規分布を求め、前記対数化推定正規分布に余裕度を加算して前記基準分布を求めるものである。前記振幅分布の頻度を対数化した対数化振幅分布を求める。前記対数化振幅分布と記基準分布との比較により前記軸受の状態を判定する。対数化推定正規分布に余裕度を加えることで判定の信頼性を向上できる。
【0009】
より具体的には、前記対数化振幅分布に含まれるデータのうち対数化頻度が前記基準分布の同一振幅の頻度を上回るものを多項式で近似して近似係数を求める。前記近似係数を前記対数化振幅分布と前記基準分布の差異を示す指標として前記軸受の状態の判定に使用する。例えば、前記多項式は一次式であり、この一次式の勾配又はその逆数の絶対値を前記指標として使用する。
【0010】
代案としては、前記対数化振幅分布のデータのうち対数化頻度が前記基準分布の同一振幅の頻度を上回るものについて以下の式で計算される指標面積を、前記対数化振幅分布と前記基準分布の差異を示す指標として前記軸受の状態の判定に使用する。
【0011】
【数1】
【0012】
前記検波処理における前記回転軸の1回転又は間欠動作1周期当たりのサンプリング点数を、前記回転軸の回転数又は間欠動作の速度にかかわらず一定値とし、振幅を対数化した前記検波波形を使用して算出した前記振幅分布の頻度を前記一定値で除算することで規格化する。規格化することで測定部位や運転条件の相違による影響をより低減でき、より高精度で軸受の状態を判別できる。
【0013】
外乱ノイズとしての揺らぎ成分を含んだまま振動分布を求めると、振動分布の幅が本来測定したい信号(例えばAE)ではなく揺らぎ成分により決定され、軸受の状態判別の精度が低下する場合がある。このような場合、前記振幅分布の算出は、前記検波波形の揺らぎ成分を算出し、前記検波波形から前記揺らぎ成分を除去し、前記揺らぎ成分を除去した後の前記検波波形を使用して前記振幅分布を算出することが好ましい。前記揺らぎ成分の算出には移動平均やローパスフィルタを使用できる。
【0014】
前記回転軸の回転により発生する信号は、AE、振動、又は超音波のいずれかである。
【0015】
本発明の第2の態様は、回転軸を保持する軸受において前記回転軸の回転により発生する信号を検出するセンサ部と、前記センサ部が検出した測定波形に検波処理を行って検波波形を算出する検波処理部と、前記検波波形から振幅分布を算出する振幅分布算出部と、前記振幅分布から基準分布を生成する基準波形生成部と、前記振幅分布と前記基準分布との比較により前記軸受の状態を判定する判定部とを備える軸受状態監視装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、振幅分布とそれから得られる基準分布との比較により軸受の状態を判定するので、測定部位や運転条件毎のデータ蓄積による基準値を設定することなく、検波波形の処理で軸受の状態の判定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態にかかる軸受状態診断装置を示す模式図。
【図2】AEの測定波形と検波波形を示すグラフ。
【図3】振幅分布と推定正規分布を示すグラフ。
【図4】振幅分布、基準分布、及び近似曲線を示すグラフ。
【図5A】軸受正常時の振幅分布、基準分布、及び近似直線を示すグラフ。
【図5B】軸受異常発生時の振幅分布、基準分布、及び近似直線を示すグラフ。
【図6】種々の測定条件における近似直線の勾配の逆数を示す棒グラフ。
【図7】振幅分布、基準分布、及び指標面積を示すグラフ。
【図8】種々の測定条件における指標面積を示す棒グラフ。
【図9】検波波形と揺らぎ成分を示すグラフ。
【図10】揺らぎ成分を除去した検波波形を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。軸受が正常な場合の音響(AE)、振動、超音波等のRF波形の振幅分布は正規分布に従うことが知られているが、本発明者は、以下の知見を見出した。軸受が正常であり、かつ背景ノイズが低い場合、検波波形の振幅分布も正規分布で近似可能である。また、軸受に損傷が発生している場合、高振幅のデータの出現により振幅分布が正規分布から乖離するが、最頻値より低頻度側の振幅分布は正規分布で近似可能である。さらに、軸受に損傷が発生している場合に正規分布で近似した最頻値より低頻度側の振幅分布は、軸受が正常な場合の正規分布とほぼ同一である。本発明は、これらの知見を軸受の状態監視に適用したものである。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る軸受状態監視装置(以下、監視装置)1を示す。軸受3は回転機械設備(本実施形態ではベルトコンベア設備であるが設備や機械の種類は特に限定されない)の回転軸2を支持する。監視装置1は、軸受3における摩耗、損傷に起因する異常発生等を監視する。
【0020】
監視装置1は、軸受3にカプラントを介して固定されたAEセンサ10を備える。また、監視装置1は、フィルタ12、アンプ13、及び各種演算処理を行う信号処理部21を備える。また、監視装置1は、信号処理部21での処理結果に基づいて軸受3に異常が判定しているか否かを判定する判定部22と、判定部22の判定結果を表示するための例えばモニタ装置である表示部23を備える。さらにまた、監視装置1は、信号処理部21及び判定部22と協働して各種データ、演算結果等を記憶する記憶部24を備える。信号処理部21は、検波処理部30、サンプリング回路31、振幅分布算出部32、及び基準波生成部33を備える。
【0021】
以下、この監視装置1により実行される軸受状態監視方法を説明する。
【0022】
AEセンサ10は、軸受3において回転軸2の回転により発生するAE信号を検出する。AEセンサ10によるAE信号の検出に代えて、回転軸2の回転時に発生する振動を振動センサで検出してもよい。また、回転軸2の回転時に発生する超音波を超音波センサで検出してもよい。振動や超音波を検出する場合も、以下の処理を同様に適用できる。
【0023】
AEセンサ10からの測定波形(AEの時間波形)は、図示しないプリアンプ、フィルタ12、及びアンプ13を介して信号処理部21に入力される。AEセンサ10からの微弱な出力信号は、まずプリアンプで増幅される。プリアンプはAEセンサ10内に設けてもよいし、AEセンサ10とフィルタ12の間に設けてもよい。フィルタ12はプリアンプの信号からノイズを除去して適切な周波数帯域のみを通過させる。フィルタ12を通過した信号はアンプ13により信号処理部21での処理に適した強度に増幅される。
【0024】
検波処理部30は、測定波形(アンプ13からに入力されるAEの時間波形)に検波処理を施して検波波形を算出する(図2参照)。この検波波形の時間長さは、少なくとも回転軸2の1回転分(回転軸2が間欠動作する場合には間欠動作の1周期分)を有する。例えば、回転軸2の10回転分程度の測定波形を得る。回転軸2の1回転分の時間長さは、回転軸2の設定回転数により決定してもよいし、実際に測定してもよい。
【0025】
サンプリング回路31は検波処理部30からの検波波形に対してサンプリングを実行する。
【0026】
振幅分布算出部32は、サンプリング後の検波波形に対して以下の処理を行って振幅分布を算出する。まず、サンプリング後の検波波形の振幅を対数化(自然対数化)する。この振幅を対数化した検波波形を使用して振幅分布(検波波形中である振幅が出現する頻度の分布)を算出する(図3及び図4参照)。AEは振幅変化の範囲が広いため、対数化して低振幅側の情報の重みを相対的に増すことで、低振幅の変化も感度良く検知できるようにする。また、対数化することで比率が差になる(つまり線形では10倍の違いが、対数化すると+1となる)ので、振幅の取扱が容易になる。
【0027】
振幅分布の頻度を規格化してもよい。この場合、サンプリング回路31が測定波形をサンプリングするサンプリング周波数を回転軸2の回転数(間欠動作の場合には単位時間あたりの動作数)に応じて変化させ、それによって回転軸2の1回転又は間欠動作の1周期当たりのサンプリング点数Nを回転数や間欠動作の速度にかかわらず一定値とする。そして、振幅分布の頻度をサンプリング点数N(一定値)で除算することで規格化する。図3から図5B及び図7のグラフの縦軸は規格化された頻度である。
【0028】
基準分布生成部33は、軸受の状態を判定するために使用する基準分布を求める。基準分布は軸受3が正常である場合の振幅分布を推定したものである推定正規分布をもとに求められる。前述のように軸受3に損傷が発生している場合、高振幅のデータが出現により振幅分布が正規分布から乖離するが、最頻値より低頻度側の振幅分布は正規分布で近似可能であり、この低頻度側の振幅分布は軸受3が正常な場合の正規分布とほぼ同一である。また、振幅分布の最頻値より低頻度側の振幅分布を正規分布で近似したものを、最頻値を境に折り返すことにより、軸受が正常な場合の最頻値よりも高頻度側の振幅分布も推定できる。基準分布生成部33はこの原理によって軸受3が正常である場合の振幅分布を推定する。
【0029】
以下、図3を参照して基準分布生成部33が基準分布を求める具体的な手順を説明する。まず、振幅分布(前述の規格化を行う場合には頻度を規格化した後の振幅分布)の最頻値Fmaxを求める。次に、振幅分布に含まれるデータのうち最頻値Fmaxよりも低頻度のものを正規分布で近似した低頻度側分布を求める。また、この低頻度側分布を最頻値Fmaxで折り返すことにより、最頻値Fmaxよりも高頻度側の分布を推定したものである高頻度側分布を求める。低頻度側分布が高頻度側分布とを併せたものが前述の推定正規分布である。次に、推定正規分布を対数化(自然対数化)した対数化推定正規分布を求める(図5A及び図5Bを併せて参照)。対数化推定正規分布の頻度に、誤判定防止による判定信頼性向上ための余裕度αを加算する。対数化推定正規分布に余裕度αを加算して得られる分布が基準分布である。余裕度αは、例えば対数化前の推定正規分布に含まれるデータの頻度の2倍に相当する値(α=ln(2))に設定される。
【0030】
一方、振幅分布算出部32は、前述のように振幅を対数化(自然対数化)した検波波形を使用して求めた振幅分布(前述の規格化を行う場合には頻度を規格化した後の振幅分布)に対し、さらに振幅分布の頻度を対数化(自然対数化)を実行して対数化振幅分布を算出する(図3及び図4参照)。異常起因のAEの頻度は背景ノイズのAEに比べはるかに少ないため、頻度を線形で見ると正常と異常の差が小さい。振幅分布を対数化することで、頻度の少ない異常起因のAEの重みを相対的に増すことができ、異常に対する感度を向上させることができる。
【0031】
判定部22は、振幅分布算出部32が算出した対数化振幅分布と基準分布生成部33が生成した基準分布との比較により軸受3が正常であるか(摩耗、損傷に起因する異常が発生していないか)を判定する。判定部22による軸受3の状態を判定は、対数化振幅分布に含まれるデータ(最頻値Fmaxよりも高頻度側)のうち対数化頻度が基準波形の同一振幅の頻度を上回るもの、つまり対数化振幅分布のうち頻度が基準波形を上回っている領域を評価することで行う。具体的には判定手法としては、以下の2種類がある。
【0032】
第1の判定手法は以下の通りである。対数化振幅分布に含まれるデータのうち対数化頻度が基準分布の同一振幅の頻度を上回るものを多項式で近似して近似係数を求める。そして、この近似係数を対数化振幅分布と基準分布の差異を示す指標として軸受3の状態を判定する。例えば、図4から図5Bに示すように、対数化振幅分布に含まれるデータのうち対数化頻度が基準分布の同一振幅の頻度を上回るものを一次関数で近似した近似直線を求め、この近似直線の勾配の逆数の絶対値により軸受3の状態を判定する。図5A(正常時)と図5B(異常時)とを比較すれば明らかなように、軸受3に異常が発生していると正常時と比較して近似直線の勾配が緩やかになる。つまり、軸受3に異常が発生していると正常時と比較して勾配の逆数の絶対値は大きくなる。従って、勾配の逆数に関する適切な閾値を設定し、勾配の逆数の絶対値が閾値以下であれば軸受3は正常であると判定し、閾値を上回ると軸受3に異常が発生していると判定することができる。
【0033】
図6は軸受3の回転数が種々異なる場合(10rpm,20rpm,80rpm,100rpm)について、実験的に求めた近似曲線の勾配の逆数の絶対値を示す。この図6においてNo.1〜12は軸受3が正常である場合であり、No.13〜16は軸受3に異常が発生している場合である。近似曲線の勾配の逆数の絶対値は、正常時(No.1〜12)には概ね1程度であるが、異常時(No.13〜16)には2以上であり、明瞭な差異がある。図8の例の場合、例えば軸受3に異常発生に注意を要するか否かの判断の閾値を1.5に設定することが考えられる。本実施形態では、頻度を規格化しているため、共通の閾値を使用することができ、個々の測定場所で正常時と異常時の近似曲線の勾配の逆数の絶対値を測定して閾値を設定する必要がない。
【0034】
第1の判定手法において一次関数での近似を採用する場合に、勾配そのものや、勾配の絶対値を軸受3の状態判定における指標に使用してもよい。また、一次関数による近似に代えて二次以上の多次の関数による近似を行い、得られた多項式の係数を状態判定における指標に使用してもよい。
【0035】
第2の判定手法は、以下の通りである。図7を参照すると、対数化振幅分布に含まれるデータのうち対数化頻度が基準分布の同一振幅の頻度を上回るものと基準頻度Frefとにより囲まれた領域の面積(指標面積)を以下の式により計算する。
【0036】
【数2】
【0037】
指標面積ARの算出に使用する基準頻度Frefはある振幅が出現する頻度が検波波形内で1回である状況に相当する頻度よりも小さく、かつ余り小さ過ぎないことが好ましい。例えば、前述した頻度のサンプリング点数Nによる規格化を行わない場合、検波波形内で1回だけある波形が出現する場合の頻度は1であるので、基準頻度Frefはln(1)=0未満で余り小さ過ぎない値(例えば−1)に設定される。また、頻度のサンプリング点数Nによる規格化を行う場合、検波波形内で1回だけある波形が出現する場合の頻度は1/Nであるので、基準頻度Frefはln(1/N)未満で余り小さ過ぎない値(例えばln(1/N)未満の最も大きい整数)に設定される。規格化に使用するサンプリング点数Nが10,000の場合、ln(1/N)=−9.2であるので基準頻度Frefは例えば−10に設定される。
【0038】
図8は軸受3の回転数が種々異なる場合(10rpm,20rpm,80rpm,100rpm)について、実験的に求めた指標面積ARの値を示す。この図8においてNo.1〜12は軸受3が正常である場合であり、No.13〜16は軸受3に異常が発生している場合である。指標面積ARの値は、正常時(No.1〜12)には20未満であるが、異常時(No.13〜16)には40以上であり、明瞭な差異がある。図8の例の場合、例えば軸受3に異常発生に注意を要するか否かの判断の閾値を20に設定することが考えられる。サンプリング点数Nで頻度を比較する場合には、測定系が同一であれば共通の閾値を使用することができ、個々の測定場所での正常時と異常時の指標面積ARを測定して閾値を設定する必要がない。
【0039】
判定部22は、第1及び第2の判定手法のいずれか一方を実行してもよいし、これらの判定手法の両方を実行してもよい。例えば、判定部22は、第1及び第2の判定手法の両方で異常発生の判定が成立する場合には軸受3に異常が発生している判定するが、第1及び第2の判定手法のいずれか一方のみで異常発生の判定が成立する場合には軸受3は正常であると判定してもよい。
【0040】
本実施形態では、対数化振幅分布を対数化前の振幅分布自体から算出した基準分布を比較することで軸受3の状態を判定する。従って、回転軸の回転速度が比較的低速(例えば0.1〜200rpm程度)である場合でも、測定部位や運転条件毎のデータ蓄積による基準値を設定することなく、検波波形の処理で軸受の状態の判定が可能である。
【0041】
対数化推定正規分布は近似で求めるため、実際のデータは対数化推定正規分布を中心にばらつく。このため、対数化推定正規分布をそのまま基準分布とすると、実際の振幅分布のばらつきにより、本来求めたい高振幅側の損傷起因のAEではない正常なAE部分でも基準値越えが発生する可能性があり、誤診断につながる。対数化推定正規分布に余裕度αを加算して得られた基準分布を使用することで、実際のデータの分布のばらつきに起因する誤診断を防ぐことができる。
【0042】
外乱ノイズとしての揺らぎ成分を含んだまま振動分布を求めると、振動分布の幅が本来測定したい信号(例えばAE)ではなく揺らぎ成分により決定され、損傷に起因する振動成分による振幅変化がその中に埋もれてまうおそがある。そのため、揺らぎ成分により軸受3の状態判別の精度が低下する場合がある。このような場合、揺らぎ成分を除去した後に振幅分布の算出を行えばよい。具体的には、まず、振幅を対数化した後の検波波形に含まれる揺らぎ成分を算出する(図9参照)。次に、検波波形から揺らぎ成分を除去する(図10参照)。揺らぎ成分の算出には、例えば移動平均やローパスフィルタを使用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 軸受状態監視装置
2 回転軸
3 軸受
10 音響センサ
11 プリアンプ
12 フィルタ
13 アンプ
14 サンプリング回路
21 信号処理部
22 判定部
23 表示部
24 記憶部
31 検波処理部
32 振幅分布算出部
33 基準分布生成部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を保持する軸受において前記回転軸の回転により発生する信号の時間波形に検波処理を行って検波波形を算出し、
前記検波波形から振幅分布を算出し、
前記振幅分布と前記振幅分布から生成した基準分布との比較により前記軸受の状態を判定する、軸受状態監視方法。
【請求項2】
前記検波波形の振幅を対数化し、
前記振幅を対数化した前記検波波形から前記振幅分布を算出し、
前記基準分布の生成は、前記振幅分布の最頻値を求め、前記振幅分布の前記最頻値よりも低頻度のデータを正規分布で近似した低頻度側分布と、この低頻度側分布を前記最頻値よりも高頻度側に適用した高頻度側分布とにより構成される推定正規分布を求め、前記推定正規分布の頻度を対数化した対数化推定正規分布を求め、前記対数化推定正規分布に余裕度を加算して前記基準分布を求めるものであり、
前記振幅分布の頻度を対数化した対数化振幅分布を求め、
前記対数化振幅分布と前記基準分布との比較により前記軸受の状態を判定する、請求項1に記載の軸受状態監視方法。
【請求項3】
前記対数化振幅分布に含まれるデータのうち対数化頻度が前記基準分布の同一振幅の頻度を上回るものを多項式で近似して近似係数を求め、
前記近似係数を前記対数化振幅分布と前記基準分布の差異を示す指標として前記軸受の状態の判定に使用する、請求項2に記載の軸受状態監視方法。
【請求項4】
前記多項式は一次式であり、この一次式の勾配又はその逆数の絶対値を前記指標として使用する請求項3に記載の軸受状態監視方法。
【請求項5】
前記対数化振幅分布のデータのうち対数化頻度が前記基準分布の同一振幅の頻度を上回るものについて以下の式で計算される指標面積を、前記対数化振幅分布と前記基準分布の差異を示す指標として前記軸受の状態の判定に使用する、請求項2に記載の軸受状態監視方法。
【数1】
【請求項6】
前記検波処理における前記回転軸の1回転又は間欠動作1周期当たりのサンプリング点数を、前記回転軸の回転数又は間欠動作の速度にかかわらず一定値とし、
振幅を対数化した前記検波波形を使用して算出した前記振幅分布の頻度を前記一定値で除算することで規格化する、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の軸受状態監視方法。
【請求項7】
前記振幅を対数化した前記検波波形から前記振幅分布を算出する前に揺らぎ成分を除去する、請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の軸受状態監視方法。
【請求項8】
前記揺らぎ成分の算出に移動平均又はローパスフィルタを使用する、請求項7に記載の軸受状態監視方法。
【請求項9】
前記回転軸の回転により発生する信号は、AE、振動、又は超音波のいずれかである、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の軸受状態監視方法。
【請求項10】
回転軸を保持する軸受において前記回転軸の回転により発生する信号を検出するセンサ部と、
前記センサ部が検出した測定波形に検波処理を行って検波波形を算出する検波処理部と、
前記検波波形から振幅分布を算出する振幅分布算出部と、
前記振幅分布から基準分布を生成する基準波形生成部と、
前記振幅分布と前記基準分布との比較により前記軸受の状態を判定する判定部と
を備える軸受状態監視装置。
【請求項11】
前記センサ部は、前記回転軸の回転により前記軸受に発生するAE、振動、又は超音波のいずれかを検出する請求項10に記載の軸受状態監視装置。
【請求項1】
回転軸を保持する軸受において前記回転軸の回転により発生する信号の時間波形に検波処理を行って検波波形を算出し、
前記検波波形から振幅分布を算出し、
前記振幅分布と前記振幅分布から生成した基準分布との比較により前記軸受の状態を判定する、軸受状態監視方法。
【請求項2】
前記検波波形の振幅を対数化し、
前記振幅を対数化した前記検波波形から前記振幅分布を算出し、
前記基準分布の生成は、前記振幅分布の最頻値を求め、前記振幅分布の前記最頻値よりも低頻度のデータを正規分布で近似した低頻度側分布と、この低頻度側分布を前記最頻値よりも高頻度側に適用した高頻度側分布とにより構成される推定正規分布を求め、前記推定正規分布の頻度を対数化した対数化推定正規分布を求め、前記対数化推定正規分布に余裕度を加算して前記基準分布を求めるものであり、
前記振幅分布の頻度を対数化した対数化振幅分布を求め、
前記対数化振幅分布と前記基準分布との比較により前記軸受の状態を判定する、請求項1に記載の軸受状態監視方法。
【請求項3】
前記対数化振幅分布に含まれるデータのうち対数化頻度が前記基準分布の同一振幅の頻度を上回るものを多項式で近似して近似係数を求め、
前記近似係数を前記対数化振幅分布と前記基準分布の差異を示す指標として前記軸受の状態の判定に使用する、請求項2に記載の軸受状態監視方法。
【請求項4】
前記多項式は一次式であり、この一次式の勾配又はその逆数の絶対値を前記指標として使用する請求項3に記載の軸受状態監視方法。
【請求項5】
前記対数化振幅分布のデータのうち対数化頻度が前記基準分布の同一振幅の頻度を上回るものについて以下の式で計算される指標面積を、前記対数化振幅分布と前記基準分布の差異を示す指標として前記軸受の状態の判定に使用する、請求項2に記載の軸受状態監視方法。
【数1】
【請求項6】
前記検波処理における前記回転軸の1回転又は間欠動作1周期当たりのサンプリング点数を、前記回転軸の回転数又は間欠動作の速度にかかわらず一定値とし、
振幅を対数化した前記検波波形を使用して算出した前記振幅分布の頻度を前記一定値で除算することで規格化する、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の軸受状態監視方法。
【請求項7】
前記振幅を対数化した前記検波波形から前記振幅分布を算出する前に揺らぎ成分を除去する、請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の軸受状態監視方法。
【請求項8】
前記揺らぎ成分の算出に移動平均又はローパスフィルタを使用する、請求項7に記載の軸受状態監視方法。
【請求項9】
前記回転軸の回転により発生する信号は、AE、振動、又は超音波のいずれかである、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の軸受状態監視方法。
【請求項10】
回転軸を保持する軸受において前記回転軸の回転により発生する信号を検出するセンサ部と、
前記センサ部が検出した測定波形に検波処理を行って検波波形を算出する検波処理部と、
前記検波波形から振幅分布を算出する振幅分布算出部と、
前記振幅分布から基準分布を生成する基準波形生成部と、
前記振幅分布と前記基準分布との比較により前記軸受の状態を判定する判定部と
を備える軸受状態監視装置。
【請求項11】
前記センサ部は、前記回転軸の回転により前記軸受に発生するAE、振動、又は超音波のいずれかを検出する請求項10に記載の軸受状態監視装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−252761(P2011−252761A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125971(P2010−125971)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(390000011)JFEアドバンテック株式会社 (32)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(390000011)JFEアドバンテック株式会社 (32)
【Fターム(参考)】
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