説明

軸受用シール

【課題】組み付け性の容易さと摺動性を向上させ鳴き音を防止することのできる軸受用シールを提供することを目的としている。
【解決手段】弾性体製のリップ部(1)の形成されたシール部材(3)を持つ軸受用シールであって、前記シール部材(3)は、径方向に向くラジアルリップ(1a)と軸方向に突出するサイドリップ(1b)を有しており、前記サイドリップ(1b)の接触によって変形する内周側周面へ条突起のリブ(11b)を配設せしめる。これによりサイドリップ(1b)の剛性を自在に設定でき、鳴き音の固有振動数を変更できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、相対回転する軸受部に装着される軸受シールに関しており、具体的には軸受用シールにおけるシールリップの形状改良に関するものである。
【0002】
【従来技術の内容】
従来、ウォータポンプ等の軸受用シールとしては、L字形と逆L字形でなるシール部材にシールリップを設け、これらで作る空間へグリースを充填して組み付け一体化した組合わせシールが知られている。
この組合わせシールは、例えばウォータポンプの軸受用として、ハウジングへ装着される軸受の外輪とインペラの取付けられた軸とへ装着され、内包するシールリップの摺動圧によってその内側に位置する軸受への水分、塵埃等の浸入と、該軸受内部の潤滑油の漏洩を阻止する役割を担っている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記したようなシールリップの摺動圧によって密封をなす組合わせシールにおいては、軸受の回転起動時に片方のシール部材の内側周面に接するシールリップの摺動部にステックスリップが生じることが多々あり、このステックスリップが生じるとシールリップが自励振動していわゆる鳴き音といわれる異音が発生する。
【0004】
このステックスリップに起因する鳴き音を防止するために、シールリップの摺動部へグリースを塗布し摺動性を確保して鳴き音を防止する潤滑的解決方法や、あるいはシールリップの厚みを薄くしそれ自体の剛性を下げて緊迫力を小さくする構造、あるいはシールリップの摺動する面を荒らしてグリースの保持力を高めるなどの形状的解決方法が実施されている。
しかし、前者の潤滑的解決方法ではシール部材の組立作業性が悪くなり塗布されたグリースの長期間の保持も望めないものであり、また後者の形状的解決方法ではシールリップのシール性能が劣り造形コストも高まるなどさまざまな問題を起こしている。
【0005】
本発明はこのような作業性の悪さと摺動性の悪さに鑑み、組み付け性の容易さと摺動性を向上させ鳴き音を防止することのできる軸受用シールを提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明を図面に基づいて説明すると、図1、図2、及び図3に示すように合成ゴム等の弾性体製のリップ部(1)と補強環(2)とからなるシール部材(3)を相対回転する軸受部に装着した軸受用シールであって、前記シール部材(3)は、径方向に向くラジアルリップ(1a)と軸方向に突出するサイドリップ(1b)を有しており、前記サイドリップ(1b)の接触によって変形する伸び側の内周側周面へ条突起のリブ(11b)を配設せしめたことを特徴としている。
【0007】
また、図4に示すように軸受用シールであって、該軸受用シールはシール部材(3)に対向する略L字形のスリンガー(4)を組み付け一体化してなることを特徴としている。
【0008】
【発明の実施の形態】
前記のように本発明では、軸受用シールを構成するシール部材(3)の軸方向に突出するサイドリップ(1b)に対して、その内周側周面の接触によって変形する伸び変形部へ条形状に突出するリブ(11b)を配設せしめ、該リブ(11b)によってサイドリップ(1b)の摺動圧をほとんど増大させること無くその剛性を上げ、固有振動数を変えて共鳴による音の発生を防止せしめるものである。
つまり、本発明ではサイドリップ(1b)の固有振動数を変えるためにリブ(11b)を設けたものとなっている。(その剛性は下げることも可能である。)
【0009】
【実施例】
図1は本発明に係る、軸受用シールの一実施例を示す断面図であり、図2及び図3は、サイドリップの他の実施例の拡大断面図である。図4は他のシール材と組合せた実施例を示す断面図である。図1、図2及び、図3で本発明の基本的な構成を示している。
【0010】
すなわち、本発明での、軸受用シールにおいては、図1に示したように、金属等にて環状に形成された補強環(2)に対してゴム材製のリップ部(ラジアルリップ1a、サイドリップ1b)が通常加硫形成されてシール部材(3)を構成し、そのリップ部(1a、2b)の内周側周面へ条形状に突出するリブ(11b)を配設せしめており、前記リブ(11b)を、図1に示すようにサイドリップ(1b)の内周側周面へ軸方向に配設すると、該サイドリップ(1b)が他部材へ接触することによって変形する伸び変形を引っ張り補強する作用をなし該サイドリップ(1b)の剛性を飛躍的に高める。
【0011】
また、前記リブ(11b)を図2に示すようにその内周側周面へ径方向に配設せしめると、該サイドリップ(1b)の変形に対して段状のリングとなって回転方向の変形を防止する作用をなし該サイドリップ(1b)の捩れ剛性を高めるものとなる。
【0012】
さらに前記リブを、図3に示すようにサイドリップ(1b)の内周側周面へ格子状(斜め方向の格子、異形格子等も採用可能である。)に配設せしめると、前述した延び変形の引っ張り作用及び、捩れ変形の防止作用などなさしめる強剛性を得られるものとなる。
【0013】
なお、前記軸受用シールはサイドリップ(1b)及びラジアルリップ(1a)が相対回転する別部材に摺接して密封作用をなさしめており、それが直接軸受部(図示していない)に接触せしめる配置構造の他には、図4に示すように略L字形のスリンガー(4)を形成して、該スリンガー(4)と組合せて組み付け一体化する構造とすることも可能であり、この組合せ構造では取付け精度の向上を果たし密封力をさらに強めることができる。
【0014】
【発明の効果】
本発明によると、軸受用シールのサイドリップ(1b)の剛性をリブ(11b)を設けることで大きくすることも、逆に小さくすることも自在となり、この作用はサイドリップ(1b)が有する固有振動数を如何様にも変更できることで、シールリップが共鳴する音の発生を完璧に防止することができるものとなる。また、突起形状のリブ(11b)は音に対して乱反射するので吸音性が高いものとなりさらなる防音効果をもたらす。
また、グリース等の着装においては前記リブ(11b)が保持作用を働かせるだけでなくシールリップの伸び側に位置するので伸び変形に追従して摺動部へのグリース供給作用をなし長期間の潤滑を約束する。
これらによって、鳴き音を完全に防止し得るとともに摺動抵抗を大幅に減じせしめることができ耐久性と密封性を飛躍的に向上せしめることを実現せしめた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す断面図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す断面図である。
【図4】本発明の組合せ実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 リップ部
1a ラジアルリップ
1b サイドリップ
11b リブ
2 補強環
3 シール部材
4 スリンガー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強環と弾性体製のリップ部を持つシール部材からなり、相対回転する軸受部に装着される軸受用シールにおいて、
前記軸受用シールは少なくとも軸方向に突出するサイドリップを有しており、
前記サイドリップの接触によって伸び変形するその内周側周面へリブを配設せしめたことを特徴とする軸受用シール。
【請求項2】
前記リブは内周側周面へ軸方向に配設されたことを特徴とする請求項1の軸受用シール。
【請求項3】
前記リブは内周側周面へ径方向に配設されたことを特徴とする請求項1の軸受用シール。
【請求項4】
前記リブは内周側周面へ格子状に配設されたことを特徴とする請求項1の軸受用シール。
【請求項5】
前記軸受用シールは対向する略L字形のスリンガーを組み付け一体化してなることを特徴とする請求項1、2、3、ないし4の軸受用シール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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