軸受装置とそれを用いたモータおよび情報装置
【課題】シャフトとフランジをレーザ溶接で締結する時の、フランジの浮きや傾きを小さくしてフランジのRROの改善に関し、薄型ながら軸受特性に優れ長寿命の軸受装置を提供する事を目的とする。
【解決手段】シャフトとフランジのレーザ溶接による締結で、嵌合部の外側に逃げ部を形成しその外側の受面でフランジを受けるとともに、シャフトとフランジの嵌合部の溶接しない領域を全周の1/2以上設けて、溶接後もフランジが受面から浮かない領域を確保する。これにより、全体におけるフランジの浮きや傾きが小さくなりシャフトに対するフランジのRROを小さく安定させることができる。
【解決手段】シャフトとフランジのレーザ溶接による締結で、嵌合部の外側に逃げ部を形成しその外側の受面でフランジを受けるとともに、シャフトとフランジの嵌合部の溶接しない領域を全周の1/2以上設けて、溶接後もフランジが受面から浮かない領域を確保する。これにより、全体におけるフランジの浮きや傾きが小さくなりシャフトに対するフランジのRROを小さく安定させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置においてシャフトの一端にフランジを高精度にレーザ溶接する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、HDDを搭載した各種情報装置は携帯に便利なように軽薄短小化が図られている。
その一方で小型ながら高記憶容量を維持向上することも必要とされている。そのために、ディスクを精度よく回転駆動するスピンドルモータの軸受として流体軸受が使用されている。また、モータが薄型になるにつれて、シャフトとフランジの締結部分の長さも短くなったことで、シャフトに対するフランジのRRO(Repetitive run out:シャフトとの直角度を含む振れ)を抑制することが難しくなってきている。
【0003】
このようなシャフトとフランジの締結方法としては、例えば、特許文献1には、レーザ溶接をシャフトとフランジの嵌合部に行なう技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、溶接部の円周等分割の複数複数点に同時にレーザ溶接を行うことでシャフトとの平面度や直角度の改善を行なっている。
【特許文献1】特開2003−94190号公報
【特許文献2】特開2004−183809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、小型薄型化がさらに進むにつれてフランジの厚さも薄くなりより変形を受けやすくなってきており、上記特許文献に開示されたシャフトとフランジの締結方法では、レーザ溶接後に冷却される際に生ずる熱歪によってフランジがシャフト受面から浮いてRROの値が大きくなってしまうという問題がある。このシャフトとフランジの溶接での変形について図を用いて説明する。図8(a)に示すように、シャフト1とフランジ2の嵌合部1dにレーザビーム21を照射すると照射された領域は融点を越えほぼ逆三角形形状の溶融部20が出来る。照射が終了すると、溶融部20は急速に溶融部周辺から熱を奪われて周囲から凝固していく。その後溶融部20およびその周辺は材料の有する線膨張係数に応じて収縮を始める。ここで、溶融部20の上部と下部は断面積が異なり、溶融部周辺で応力差が生じ、レーザが照射される側に近く断面積が大きい領域はより大きな引っ張り応力を受けることになる。その結果、図8(b)に示すように、フランジ2がシャフト1の受面1bから浮いてしまう。また、図9(a)、(b)、(c)に示すように全周で溶接をすると、最初に溶接した部分と途中や最後に溶接した部分では凝固を始める時間や周囲の影響も異なるので、フランジ2がシャフト1の受面1bから全周にわたる広い範囲で異なった浮き量となってしまう。そのため、シャフト1に対するフランジ2の傾きにより生じる1次の基本成分W1や溶接の等ピッチ成分のW3が大きくなるので、全周におけるRROは△L1のように大きな値となってしまう課題がある。
【0006】
ここで、フランジ2のRROの測定は、図10のようにシャフト1を治具16でチャックし、フランジ2面の上面の位置に接触式変位測定端子15をあて、治具16を回転させることにより1回転の間における変位を測定したものであり、以降に記載するRROの値とはこの方法で測定した変位データの最大値と最小値の差を示している。
【0007】
また、シャフト1の受面1bは加工ばらつきなどにより外周に対して上下に多少傾くばあいもある。仮に図11(a)のようにシャフト1の受面1bが外周側で下側に傾いていた場合、ミクロ的に見ると、シャフト1とフランジ2の嵌合部1dには隙間がありフランジ2の当たる受面1bの位置が左右で異なってくる可能性がある。そのため、フランジ2をシャフト1に挿入した段階で既にフランジ2が傾いて取付けられてしまう。溶接をしない領域はこの状態を維持するので傾きが大きくなりRROが大きくなってしまう課題がある。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、シャフト1とフランジ2のレーザ溶接の締結に関して、シャフト1に対するフランジ2の浮きや傾きを小さくして、RROの値を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の軸受は、少なくとも一方の端面側に外周面と同軸に設けられた略円筒形状の小径凸部と、小径凸部の根元から半径方向外側に設けられた凹み形状の逃げ部と、逃げ部よりも半径方向外側に設けられた軸方向の受面とを有するシャフトと、小径凸部と嵌合する貫通孔と、受面と当接する平面とを有し、小径凸部との嵌合部をレーザ溶接することにより固定される略円盤状のフランジと、シャフトが挿入されて、少なくともシャフトとの隙間に潤滑剤を介して相互に回転可能なスリーブとを有する軸受装置において、シャフトとフランジの嵌合部はレーザ溶接をしない領域を複数箇所に等角度ピッチ間隔で設けられ、かつこのレーザ溶接しない領域近傍において平面と前記受面とが当接するよう溶接固定していることを特徴とする。
【0010】
上記構成により、嵌合部は等しいピッチ間隔で複数箇所のレーザ溶接をしない領域を設けているので、その領域では溶接の熱によりフランジが反ることはなく、溶接後もシャフトの受面とフランジの平面は当接して浮きや傾きは発生しない。その結果、全周でのフランジの浮きや傾きも小さくなりRROの値を小さくできる。また、シャフトの受面は嵌合部の外側に逃げ部を設けているので、シャフトの受面が傾いていてもシャフトの外周側でフランジを確実に受けることができ、RROの値はより小さくなり、ばらつきも少なくできる。
【0011】
また、嵌合部の溶接しない領域の円周方向長さの和は嵌合部の円周長の1/2以上にすることで、フランジ平面の1/2以上の広い領域でシャフトの受面に接してフランジが浮いたり傾いたりすることがなくなる。そのため、フランジの浮きや傾きが小さくなるので、RROの値をより小さくできる。
【0012】
また、受面は外周側が軸方向で小径凸部側に向うようにすり鉢状に傾斜させることにより、更に外周側でフランジを受けることができる。同じ浮き量であってもより外周側で受けることにより傾きは小さくできるのでRROの値もさらに小さくできる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明によれば、シャフトの逃げ部の外側に受面を形成して、シャフトとフランジの溶接箇所の嵌合部は等しいピッチ間隔で複数箇所のレーザ溶接をしない領域を設けることにより、溶接しない領域の受面ではフランジの平面を当接した状態で維持し浮きは発生しない。その結果、フランジの浮きや傾きが小さくなり、RROの値を小さくできる。このようにRROの小さい軸受を用いたモータは回転精度が安定して、起動や停止のときに傾いたフランジが長時間磨耗して寿命が劣化することが少ないモータとなる。また、HDDにこのモータを用いると回転精度が安定しているのでリードライトなどでエラーが発生しにくく、フランジが磨耗しにくいので長寿命の製品となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係る実施の形態を図面に基づき説明する。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における軸受7を含むスピンドルモータ20が搭載されたHDD(記録再生装置)40を示すものである。
【0016】
[HDD40全体の構成]
本実施形態に係るHDD40は、図1に示すように、複数の記録再生ヘッド12a,12bを含むヘッド部12と、スピンドルモータ20とを内部に搭載している。そして、それぞれの記録再生ヘッド12a,12bによってディスク(記録媒体)13に対する情報の書き込み、あるいは既に書き込まれた情報の再生を行う。
【0017】
ヘッド部12は、2つの記録再生ヘッド12a,12bを搭載しており、ディスク13
の表裏面に近接するように配置される。
【0018】
ディスク13は、HDD40に取り付けられる直径が、例えば、0.85インチ、1.0インチ、1.8インチ、2.5インチ、または3.5インチ等の円板状の記録媒体である。
【0019】
ベース6は、磁性を有するステンレス鋼材または鋼板によって形成されており、無電解ニッケルメッキを施して形成されて、スピンドルモータ20の静止側の部分を構成している。(なお、ディスクサイズが大きいものは、非磁性材料であるアルミ系合金によって形成されており、その上にロータマグネットを吸引する磁性板が取り付けられている場合もある。)そして、ベース6は、HDD40の密閉筐体を構成している。また、ベース6は、その中心部分付近に、軸受部30が固定されている。
【0020】
ロータハブ5は、磁性材料製のステンレス鋼によって形成されており、シャフト1の上端部に嵌合するように固定されてシャフト1と一体となって回転する。また、ロータハブ5は、シャフト1の上端部が挿入される中央孔5aと、ロータマグネット7が取り付けられるマグネット保持部5bと、ディスク13が載置されるディスク載置面5cと、を有している。
【0021】
スピンドルモータ20は、ディスク13を回転駆動するための回転駆動源となる装置であって、ロータマグネット7、ステータコア8、ステータコイル9、磁気シールド板14および軸受部(軸受装置)30等を備えている。軸受部は、シャフトとスリーブの隙間に潤滑剤を介して相互に回転可能な状態である。潤滑剤は、グリスやオイル、イオン性液体などを用いている。
【0022】
[スピンドルモータ20を構成する各部材の説明]
ロータマグネット7は、隣接する磁極がN極、S極と交互に配置された、円環状の部材であってNd−Fe−B系樹脂マグネット等によって構成されており、ロータハブ5に対して装着されている。
【0023】
ステータコア8は、径方向に沿ってほぼ等角度間隔で配置された複数の突極部を有しており、この突極部に対してそれぞれステータコイル9が巻回される。そして、ステータコア8は、径方向における内径側に対向配置されたロータマグネット7に対して、ステータコイル9に電流を流すことで発生する磁束を付与することで、ロータマグネット7に対して回転力を付与する。
【0024】
磁気シールド板14は、ステータコア8の上部を覆うように取り付けられており、外部への磁気漏れを防止するための、厚さ約0.1mmの磁性を有するステンレス鋼材である。
【0025】
軸受部30は、スピンドルモータ20に含まれる軸受装置であって、スピンドルモータ20における中央部付近に配置されている。
【0026】
[軸受部30を構成する各部材の説明]
軸受部30は、シャフト(回転軸)1、フランジ2、スリーブ3、スラストプレート4、ロータハブ5、ベース6を含むように構成されている。
【0027】
シャフト1は、軸受部30の回転軸となる部材であって、レーザ溶接によってフランジ2と結合されている。
【0028】
シャフト1およびフランジ2は、スリーブ3に対して相対回転可能な状態で嵌め込まれている。そして、フランジ2におけるスラストプレート4との軸方向の対向面には、動圧を発生させるスラスト動圧発生溝(図示せず)によりが形成されて、スラスト動圧発生部を構成している。同様に、シャフト1とスリーブ3との半径方向対向面間には、動圧を発生させるラジアル動圧発生溝(図示せず)が形成されて、ラジアル動圧発生部を構成している。そして、スリーブ3は、真鍮等の銅合金によって形成されており、表面には無電解ニッケルメッキが施されている。
【0029】
ここで、シャフト1とフランジ2のレーザ溶接による結合について詳しく説明する。
【0030】
シャフト1とフランジ2の材質は、たとえば、ステンレス鋼よりなっている。図2(a)に示すように、シャフト1の外径はφ2mmで、先端には外径φ1.3mmの略円筒形状の小径凸部1cが設けられている。また、フランジ2は、厚さ0.5mmで外径はφ4mm内径φ1.3mmの略円盤形状となっている。レーザ溶接時は、図2(b)、(c)のようにフランジ2の内周はシャフト1の小径凸部1cの外周に嵌合されて径方向を規制されている。ここで、シャフト1の小径凸部1cの根元は逃げ部1aを設けており、フランジ2は逃げ部1aの外側の受面1bで軸方向に全周で受けている。
【0031】
このような逃げ部1aがない場合は、図11のようにフランジ2をシャフト1に挿入したときにシャフト1が加工のばらつきなどで外周側が下側に傾斜しているとフランジ2が傾く可能性があるが、図3のようにシャフト1に逃げ部を設けておくと受面1bに傾斜があってもフランジ2は傾かずに受けることができる。
【0032】
このように、フランジ2をシャフト1の受面1bで受けた状態で、嵌合部1dの円周に対して120°の等しいピッチ角度の間隔の3箇所から同時にYAGレーザを照射する。照射は0.8Kwの出力で8ショット/秒の間隔で3ショット行なう。また、ショット時はシャフト1とフランジ2をレーザ照射部と相対的に回転速度4秒/revで回転させる。その結果、図4(a)のように溶接範囲は全周にわたってつながらず、溶接部と溶接部の間に溶接をしない領域Lw1、Lw2、Lw3ができる。ここで、溶接を行わない部分の長さ合計Lwは、嵌合部1dの円周長さLcの1/2以上となっている。仮に、図9(a)、(b)、(c)のように全周に溶接すると、熱歪により全周でフランジ2がシャフト1の受面1bから浮いてしまい△L1のようにRROが大きくなってしまう。しかし、図4(a)、(b)、(c)のように溶接部しない領域を嵌合部1dの全周の1/2以上設けているので、その領域ではフランジ2の平面2aはシャフト1の受面1bと当接しており、浮くことはない。そのため、フランジ2の浮きや傾きは小さくなり図4(c)のに示す△L2のようにRROも小さくできる。
【0033】
図5はレーザ溶接後のRROの分布の比較データを表わしている。条件Aは本発明の構成でレーザ溶接を行なったサンプル品、条件Bは本発明のように逃げ部1aを設けたが溶接は全周にわたって行なったサンプル品、条件Cはシャフト1に逃げ部1aを設けず全周にわたり溶接を行なったサンプル品である。サンプル品は各100台のRRO値を測定している。ここで、フランジ2のシャフト1に対するRROのスペックは、ロータハブ5の浮上高さとフランジ2の傾きによる磨耗を考慮して2μm以下に抑えておけば製品性能やモータ寿命に問題ないことが信頼性試験より得られておりこの値をスペックとしている。
【0034】
図5の比較データに示されているように、条件Cでレーザ溶接を行った場合は、フランジ2を挿入したときの傾きやレーザ溶接でフランジ2が全周浮いてしまうことより大半のモータのRRO値が2μm以上の値となっている。しかし、本発明の条件Aでレーザ溶接を行うと、図4(a)、(b)に示すように、嵌合部1dの1/2以上の領域でフランジ2の平面2aをシャフト1の受面1bで規制でき、フランジ2を挿入したときの傾きもないので、ばらつきを考慮してもスペック値2μmを満足できた。なお、条件Bのように逃げ部1aを設けただけで全周溶接した場合は、RROの平均値や分布はある程度改善するもののスペック値に対しては3割程度の不良が発生するものであった。すなわち、溶接しない部分を嵌合部1dの全周の1/2以上にして、しかもシャフト1の小径凸部1cの外側に逃げを設けて挿入時も外周側でフランジ2を確実に受けることによりばらつきを含めたRROの値をスペック値2μm以下にすることができた。
【0035】
以上のように、シャフト1の小径凸部1cの外周側に逃げ部1aを設けてより外周側でフランジ2を受けるとともに、シャフト1とフランジ2のレーザ溶接しない部分を1/2以上設けることにより、溶接後もシャフトの受面にフランジを確実に当接させることができ、シャフト1に対するフランジ2の浮きや傾きを小さくして、RROの値を小さくすることができる。また、このようにRROの小さい軸受をモータの部品として用いることで回転精度や磨耗寿命を改善したモータができる。また、このモータを用いた磁気ディスク装置は、リードライト信号のエラーが削減でき、長寿命の装置として使用することが可能となる。
【0036】
[他の実施の形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0037】
(A)
上記実施形態では、シャフト1の小径凸部の直近の外周側に逃げ部を設けて外周側で受面1bを設けてフランジ2を受ける構成を開示したが、これに限定されるものではない。
【0038】
例えば、図6に示すようにシャフト1のフランジ2受面1bは半径方向外側に向うにつれて小径凸部1c先端側に向かようにすり鉢状に傾斜していてもよい。そのため、フランジ2を挿入したときに、より確実に外周側でフランジ2を全周で受けてレーザ溶接を行うことができる。レーザ溶接後も嵌合部1dの全周の1/2以上は溶接をしないので、その部分はシャフト1の外周側の受面1bに接触した状態を維持できる。
【0039】
これにより、フランジ2のRROはより小さい値にすることができる。また、フランジ2のRROの値が小さい軸受を用いたモータは回転精度や軸受寿命に優れたモータとなる。
【0040】
(B)
上記実施形態では、シャフト外径φ2mm、フランジ厚さ0.5mmの構成を開示したが、これに限定されるものではない。
【0041】
例えば、シャフト外径φ1.2mm〜φ3.5mm、フランジ厚さ0.3mm〜1.2mmの範囲の組合せであれば本願の適応は可能であり、フランジのRROの値を効果的に小さくできる。
【0042】
(C)
上記実施形態では、シャフト1とフランジ2がスリーブ3に対して回転するシャフト回転の軸受のレーザ溶接の結合を開示したが、これに限定されるものではない。
【0043】
例えば、7図(a)に示すようにスリーブ3がシャフト1に対して回転する軸固定の軸受であってもよい。この場合もシャフト1に対して上フランジ2uや下フランジ2dを溶接する時に、7図(b)の拡大図で示すようにシャフト1の小径凸部1cの外側に逃げ部1uaを設けてその外側で受面1ubを設けて上フランジ2uを受面1ubで受ける。そのあと嵌合部1dの全周の1/2以下の範囲にレーザ溶接を行う。その結果、シャフト1に対する上フランジ2uのRROを小さくすることができる。また、下フランジ2dについても同様のレーザ溶接を行うことで下フランジ2dのRROの値を小さくすることができる。
【0044】
(D)
上記実施形態では、図1等に示すように、情報装置としてHDD装置に用いられるスピンドルモータの締結について、本発明を適用した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
例えば搭載する装置としては、HDD以外にも、光磁気ディスク装置、光ディスク装置、フロッピー(登録商標)ディスク装置、レーザプリンタ装置、レーザスキャナ装置、ビデオカセットレコーダ装置、データストリーマ装置等に対して搭載することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の軸受装置は、薄型のモータでレーザ溶接による締結を行なっても、シャフトに対してフランジやロータハブのRROの値をよりよくでき、高い回転精度を得ながら、磨耗が少なく長寿命となる効果を奏することから、軸受装置を搭載した回転装置に対して広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態1に係る軸受を含むスピンドルモータを搭載したHDDの全体の構成を示す断面図
【図2】(a)は本発明の実施の形態1に係るシャフトとフランジの断面図、(b)は本発明の実施の形態1に係るシャフトにフランジを挿入した状態の断面図、(c)は本発明の実施の形態1に係るシャフトにフランジを挿入した状態の拡大図
【図3】本発明の実施の形態1に係るシャフトの受面に傾斜があるときの概略拡大図
【図4】(a)は本発明の実施の形態1に係るシャフトとフランジの溶接状態を表す概略上面図、(b)は本発明の実施の形態1に係るシャフトとフランジの溶接状態を表す概略断面図、(c)は本発明の実施の形態1に係るフランジのRROのグラフ
【図5】本発明の実施の形態1に係るフランジの最大RROの分布の比較グラフ
【図6】本発明の実施の形態2に係るシャフトにフランジを挿入した拡大図
【図7】(a)は本発明の他の実施の形態に係る軸固定型のモータの断面図、(b)は本発明の他の実施の形態に係るシャフトとフランジの拡大図
【図8】(a)は従来のシャフトとフランジのレーザ溶接状態を示す概略図、(b)は従来のシャフトとフランジのレーザ溶接後のフランジの変形状態を示す概略図
【図9】(a)は従来のシャフトとフランジの溶接状態を表す概略上面図、(b)は従来のシャフトとフランジの溶接状態を表す概略断面図、(c)は従来のフランジのRROのグラフ
【図10】本発明の実施の形態1に係るフランジのRRO測定治具の概要図
【図11】従来のシャフトの受面に傾斜があるときの概略拡大図
【符号の説明】
【0048】
1 シャフト
1a、1ua 逃げ部
1b、1ub 受面
1c 小径凸部
1d 嵌合部
2 フランジ
2a 平面
2u 上フランジ
2d 下フランジ
3 スリーブ
4 スラストプレート
5 ロータハブ
6 ベース
7 マグネット
8 ステータコア
9 ステータコイル
10 ディスククランプ
11 ネジ
12 ヘッド
13 ディスク
14 磁気シールド板
15 接触式変位測定端子
16 治具
20 溶融部
21 レーザビーム
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置においてシャフトの一端にフランジを高精度にレーザ溶接する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、HDDを搭載した各種情報装置は携帯に便利なように軽薄短小化が図られている。
その一方で小型ながら高記憶容量を維持向上することも必要とされている。そのために、ディスクを精度よく回転駆動するスピンドルモータの軸受として流体軸受が使用されている。また、モータが薄型になるにつれて、シャフトとフランジの締結部分の長さも短くなったことで、シャフトに対するフランジのRRO(Repetitive run out:シャフトとの直角度を含む振れ)を抑制することが難しくなってきている。
【0003】
このようなシャフトとフランジの締結方法としては、例えば、特許文献1には、レーザ溶接をシャフトとフランジの嵌合部に行なう技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、溶接部の円周等分割の複数複数点に同時にレーザ溶接を行うことでシャフトとの平面度や直角度の改善を行なっている。
【特許文献1】特開2003−94190号公報
【特許文献2】特開2004−183809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、小型薄型化がさらに進むにつれてフランジの厚さも薄くなりより変形を受けやすくなってきており、上記特許文献に開示されたシャフトとフランジの締結方法では、レーザ溶接後に冷却される際に生ずる熱歪によってフランジがシャフト受面から浮いてRROの値が大きくなってしまうという問題がある。このシャフトとフランジの溶接での変形について図を用いて説明する。図8(a)に示すように、シャフト1とフランジ2の嵌合部1dにレーザビーム21を照射すると照射された領域は融点を越えほぼ逆三角形形状の溶融部20が出来る。照射が終了すると、溶融部20は急速に溶融部周辺から熱を奪われて周囲から凝固していく。その後溶融部20およびその周辺は材料の有する線膨張係数に応じて収縮を始める。ここで、溶融部20の上部と下部は断面積が異なり、溶融部周辺で応力差が生じ、レーザが照射される側に近く断面積が大きい領域はより大きな引っ張り応力を受けることになる。その結果、図8(b)に示すように、フランジ2がシャフト1の受面1bから浮いてしまう。また、図9(a)、(b)、(c)に示すように全周で溶接をすると、最初に溶接した部分と途中や最後に溶接した部分では凝固を始める時間や周囲の影響も異なるので、フランジ2がシャフト1の受面1bから全周にわたる広い範囲で異なった浮き量となってしまう。そのため、シャフト1に対するフランジ2の傾きにより生じる1次の基本成分W1や溶接の等ピッチ成分のW3が大きくなるので、全周におけるRROは△L1のように大きな値となってしまう課題がある。
【0006】
ここで、フランジ2のRROの測定は、図10のようにシャフト1を治具16でチャックし、フランジ2面の上面の位置に接触式変位測定端子15をあて、治具16を回転させることにより1回転の間における変位を測定したものであり、以降に記載するRROの値とはこの方法で測定した変位データの最大値と最小値の差を示している。
【0007】
また、シャフト1の受面1bは加工ばらつきなどにより外周に対して上下に多少傾くばあいもある。仮に図11(a)のようにシャフト1の受面1bが外周側で下側に傾いていた場合、ミクロ的に見ると、シャフト1とフランジ2の嵌合部1dには隙間がありフランジ2の当たる受面1bの位置が左右で異なってくる可能性がある。そのため、フランジ2をシャフト1に挿入した段階で既にフランジ2が傾いて取付けられてしまう。溶接をしない領域はこの状態を維持するので傾きが大きくなりRROが大きくなってしまう課題がある。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、シャフト1とフランジ2のレーザ溶接の締結に関して、シャフト1に対するフランジ2の浮きや傾きを小さくして、RROの値を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の軸受は、少なくとも一方の端面側に外周面と同軸に設けられた略円筒形状の小径凸部と、小径凸部の根元から半径方向外側に設けられた凹み形状の逃げ部と、逃げ部よりも半径方向外側に設けられた軸方向の受面とを有するシャフトと、小径凸部と嵌合する貫通孔と、受面と当接する平面とを有し、小径凸部との嵌合部をレーザ溶接することにより固定される略円盤状のフランジと、シャフトが挿入されて、少なくともシャフトとの隙間に潤滑剤を介して相互に回転可能なスリーブとを有する軸受装置において、シャフトとフランジの嵌合部はレーザ溶接をしない領域を複数箇所に等角度ピッチ間隔で設けられ、かつこのレーザ溶接しない領域近傍において平面と前記受面とが当接するよう溶接固定していることを特徴とする。
【0010】
上記構成により、嵌合部は等しいピッチ間隔で複数箇所のレーザ溶接をしない領域を設けているので、その領域では溶接の熱によりフランジが反ることはなく、溶接後もシャフトの受面とフランジの平面は当接して浮きや傾きは発生しない。その結果、全周でのフランジの浮きや傾きも小さくなりRROの値を小さくできる。また、シャフトの受面は嵌合部の外側に逃げ部を設けているので、シャフトの受面が傾いていてもシャフトの外周側でフランジを確実に受けることができ、RROの値はより小さくなり、ばらつきも少なくできる。
【0011】
また、嵌合部の溶接しない領域の円周方向長さの和は嵌合部の円周長の1/2以上にすることで、フランジ平面の1/2以上の広い領域でシャフトの受面に接してフランジが浮いたり傾いたりすることがなくなる。そのため、フランジの浮きや傾きが小さくなるので、RROの値をより小さくできる。
【0012】
また、受面は外周側が軸方向で小径凸部側に向うようにすり鉢状に傾斜させることにより、更に外周側でフランジを受けることができる。同じ浮き量であってもより外周側で受けることにより傾きは小さくできるのでRROの値もさらに小さくできる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明によれば、シャフトの逃げ部の外側に受面を形成して、シャフトとフランジの溶接箇所の嵌合部は等しいピッチ間隔で複数箇所のレーザ溶接をしない領域を設けることにより、溶接しない領域の受面ではフランジの平面を当接した状態で維持し浮きは発生しない。その結果、フランジの浮きや傾きが小さくなり、RROの値を小さくできる。このようにRROの小さい軸受を用いたモータは回転精度が安定して、起動や停止のときに傾いたフランジが長時間磨耗して寿命が劣化することが少ないモータとなる。また、HDDにこのモータを用いると回転精度が安定しているのでリードライトなどでエラーが発生しにくく、フランジが磨耗しにくいので長寿命の製品となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係る実施の形態を図面に基づき説明する。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における軸受7を含むスピンドルモータ20が搭載されたHDD(記録再生装置)40を示すものである。
【0016】
[HDD40全体の構成]
本実施形態に係るHDD40は、図1に示すように、複数の記録再生ヘッド12a,12bを含むヘッド部12と、スピンドルモータ20とを内部に搭載している。そして、それぞれの記録再生ヘッド12a,12bによってディスク(記録媒体)13に対する情報の書き込み、あるいは既に書き込まれた情報の再生を行う。
【0017】
ヘッド部12は、2つの記録再生ヘッド12a,12bを搭載しており、ディスク13
の表裏面に近接するように配置される。
【0018】
ディスク13は、HDD40に取り付けられる直径が、例えば、0.85インチ、1.0インチ、1.8インチ、2.5インチ、または3.5インチ等の円板状の記録媒体である。
【0019】
ベース6は、磁性を有するステンレス鋼材または鋼板によって形成されており、無電解ニッケルメッキを施して形成されて、スピンドルモータ20の静止側の部分を構成している。(なお、ディスクサイズが大きいものは、非磁性材料であるアルミ系合金によって形成されており、その上にロータマグネットを吸引する磁性板が取り付けられている場合もある。)そして、ベース6は、HDD40の密閉筐体を構成している。また、ベース6は、その中心部分付近に、軸受部30が固定されている。
【0020】
ロータハブ5は、磁性材料製のステンレス鋼によって形成されており、シャフト1の上端部に嵌合するように固定されてシャフト1と一体となって回転する。また、ロータハブ5は、シャフト1の上端部が挿入される中央孔5aと、ロータマグネット7が取り付けられるマグネット保持部5bと、ディスク13が載置されるディスク載置面5cと、を有している。
【0021】
スピンドルモータ20は、ディスク13を回転駆動するための回転駆動源となる装置であって、ロータマグネット7、ステータコア8、ステータコイル9、磁気シールド板14および軸受部(軸受装置)30等を備えている。軸受部は、シャフトとスリーブの隙間に潤滑剤を介して相互に回転可能な状態である。潤滑剤は、グリスやオイル、イオン性液体などを用いている。
【0022】
[スピンドルモータ20を構成する各部材の説明]
ロータマグネット7は、隣接する磁極がN極、S極と交互に配置された、円環状の部材であってNd−Fe−B系樹脂マグネット等によって構成されており、ロータハブ5に対して装着されている。
【0023】
ステータコア8は、径方向に沿ってほぼ等角度間隔で配置された複数の突極部を有しており、この突極部に対してそれぞれステータコイル9が巻回される。そして、ステータコア8は、径方向における内径側に対向配置されたロータマグネット7に対して、ステータコイル9に電流を流すことで発生する磁束を付与することで、ロータマグネット7に対して回転力を付与する。
【0024】
磁気シールド板14は、ステータコア8の上部を覆うように取り付けられており、外部への磁気漏れを防止するための、厚さ約0.1mmの磁性を有するステンレス鋼材である。
【0025】
軸受部30は、スピンドルモータ20に含まれる軸受装置であって、スピンドルモータ20における中央部付近に配置されている。
【0026】
[軸受部30を構成する各部材の説明]
軸受部30は、シャフト(回転軸)1、フランジ2、スリーブ3、スラストプレート4、ロータハブ5、ベース6を含むように構成されている。
【0027】
シャフト1は、軸受部30の回転軸となる部材であって、レーザ溶接によってフランジ2と結合されている。
【0028】
シャフト1およびフランジ2は、スリーブ3に対して相対回転可能な状態で嵌め込まれている。そして、フランジ2におけるスラストプレート4との軸方向の対向面には、動圧を発生させるスラスト動圧発生溝(図示せず)によりが形成されて、スラスト動圧発生部を構成している。同様に、シャフト1とスリーブ3との半径方向対向面間には、動圧を発生させるラジアル動圧発生溝(図示せず)が形成されて、ラジアル動圧発生部を構成している。そして、スリーブ3は、真鍮等の銅合金によって形成されており、表面には無電解ニッケルメッキが施されている。
【0029】
ここで、シャフト1とフランジ2のレーザ溶接による結合について詳しく説明する。
【0030】
シャフト1とフランジ2の材質は、たとえば、ステンレス鋼よりなっている。図2(a)に示すように、シャフト1の外径はφ2mmで、先端には外径φ1.3mmの略円筒形状の小径凸部1cが設けられている。また、フランジ2は、厚さ0.5mmで外径はφ4mm内径φ1.3mmの略円盤形状となっている。レーザ溶接時は、図2(b)、(c)のようにフランジ2の内周はシャフト1の小径凸部1cの外周に嵌合されて径方向を規制されている。ここで、シャフト1の小径凸部1cの根元は逃げ部1aを設けており、フランジ2は逃げ部1aの外側の受面1bで軸方向に全周で受けている。
【0031】
このような逃げ部1aがない場合は、図11のようにフランジ2をシャフト1に挿入したときにシャフト1が加工のばらつきなどで外周側が下側に傾斜しているとフランジ2が傾く可能性があるが、図3のようにシャフト1に逃げ部を設けておくと受面1bに傾斜があってもフランジ2は傾かずに受けることができる。
【0032】
このように、フランジ2をシャフト1の受面1bで受けた状態で、嵌合部1dの円周に対して120°の等しいピッチ角度の間隔の3箇所から同時にYAGレーザを照射する。照射は0.8Kwの出力で8ショット/秒の間隔で3ショット行なう。また、ショット時はシャフト1とフランジ2をレーザ照射部と相対的に回転速度4秒/revで回転させる。その結果、図4(a)のように溶接範囲は全周にわたってつながらず、溶接部と溶接部の間に溶接をしない領域Lw1、Lw2、Lw3ができる。ここで、溶接を行わない部分の長さ合計Lwは、嵌合部1dの円周長さLcの1/2以上となっている。仮に、図9(a)、(b)、(c)のように全周に溶接すると、熱歪により全周でフランジ2がシャフト1の受面1bから浮いてしまい△L1のようにRROが大きくなってしまう。しかし、図4(a)、(b)、(c)のように溶接部しない領域を嵌合部1dの全周の1/2以上設けているので、その領域ではフランジ2の平面2aはシャフト1の受面1bと当接しており、浮くことはない。そのため、フランジ2の浮きや傾きは小さくなり図4(c)のに示す△L2のようにRROも小さくできる。
【0033】
図5はレーザ溶接後のRROの分布の比較データを表わしている。条件Aは本発明の構成でレーザ溶接を行なったサンプル品、条件Bは本発明のように逃げ部1aを設けたが溶接は全周にわたって行なったサンプル品、条件Cはシャフト1に逃げ部1aを設けず全周にわたり溶接を行なったサンプル品である。サンプル品は各100台のRRO値を測定している。ここで、フランジ2のシャフト1に対するRROのスペックは、ロータハブ5の浮上高さとフランジ2の傾きによる磨耗を考慮して2μm以下に抑えておけば製品性能やモータ寿命に問題ないことが信頼性試験より得られておりこの値をスペックとしている。
【0034】
図5の比較データに示されているように、条件Cでレーザ溶接を行った場合は、フランジ2を挿入したときの傾きやレーザ溶接でフランジ2が全周浮いてしまうことより大半のモータのRRO値が2μm以上の値となっている。しかし、本発明の条件Aでレーザ溶接を行うと、図4(a)、(b)に示すように、嵌合部1dの1/2以上の領域でフランジ2の平面2aをシャフト1の受面1bで規制でき、フランジ2を挿入したときの傾きもないので、ばらつきを考慮してもスペック値2μmを満足できた。なお、条件Bのように逃げ部1aを設けただけで全周溶接した場合は、RROの平均値や分布はある程度改善するもののスペック値に対しては3割程度の不良が発生するものであった。すなわち、溶接しない部分を嵌合部1dの全周の1/2以上にして、しかもシャフト1の小径凸部1cの外側に逃げを設けて挿入時も外周側でフランジ2を確実に受けることによりばらつきを含めたRROの値をスペック値2μm以下にすることができた。
【0035】
以上のように、シャフト1の小径凸部1cの外周側に逃げ部1aを設けてより外周側でフランジ2を受けるとともに、シャフト1とフランジ2のレーザ溶接しない部分を1/2以上設けることにより、溶接後もシャフトの受面にフランジを確実に当接させることができ、シャフト1に対するフランジ2の浮きや傾きを小さくして、RROの値を小さくすることができる。また、このようにRROの小さい軸受をモータの部品として用いることで回転精度や磨耗寿命を改善したモータができる。また、このモータを用いた磁気ディスク装置は、リードライト信号のエラーが削減でき、長寿命の装置として使用することが可能となる。
【0036】
[他の実施の形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0037】
(A)
上記実施形態では、シャフト1の小径凸部の直近の外周側に逃げ部を設けて外周側で受面1bを設けてフランジ2を受ける構成を開示したが、これに限定されるものではない。
【0038】
例えば、図6に示すようにシャフト1のフランジ2受面1bは半径方向外側に向うにつれて小径凸部1c先端側に向かようにすり鉢状に傾斜していてもよい。そのため、フランジ2を挿入したときに、より確実に外周側でフランジ2を全周で受けてレーザ溶接を行うことができる。レーザ溶接後も嵌合部1dの全周の1/2以上は溶接をしないので、その部分はシャフト1の外周側の受面1bに接触した状態を維持できる。
【0039】
これにより、フランジ2のRROはより小さい値にすることができる。また、フランジ2のRROの値が小さい軸受を用いたモータは回転精度や軸受寿命に優れたモータとなる。
【0040】
(B)
上記実施形態では、シャフト外径φ2mm、フランジ厚さ0.5mmの構成を開示したが、これに限定されるものではない。
【0041】
例えば、シャフト外径φ1.2mm〜φ3.5mm、フランジ厚さ0.3mm〜1.2mmの範囲の組合せであれば本願の適応は可能であり、フランジのRROの値を効果的に小さくできる。
【0042】
(C)
上記実施形態では、シャフト1とフランジ2がスリーブ3に対して回転するシャフト回転の軸受のレーザ溶接の結合を開示したが、これに限定されるものではない。
【0043】
例えば、7図(a)に示すようにスリーブ3がシャフト1に対して回転する軸固定の軸受であってもよい。この場合もシャフト1に対して上フランジ2uや下フランジ2dを溶接する時に、7図(b)の拡大図で示すようにシャフト1の小径凸部1cの外側に逃げ部1uaを設けてその外側で受面1ubを設けて上フランジ2uを受面1ubで受ける。そのあと嵌合部1dの全周の1/2以下の範囲にレーザ溶接を行う。その結果、シャフト1に対する上フランジ2uのRROを小さくすることができる。また、下フランジ2dについても同様のレーザ溶接を行うことで下フランジ2dのRROの値を小さくすることができる。
【0044】
(D)
上記実施形態では、図1等に示すように、情報装置としてHDD装置に用いられるスピンドルモータの締結について、本発明を適用した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
例えば搭載する装置としては、HDD以外にも、光磁気ディスク装置、光ディスク装置、フロッピー(登録商標)ディスク装置、レーザプリンタ装置、レーザスキャナ装置、ビデオカセットレコーダ装置、データストリーマ装置等に対して搭載することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の軸受装置は、薄型のモータでレーザ溶接による締結を行なっても、シャフトに対してフランジやロータハブのRROの値をよりよくでき、高い回転精度を得ながら、磨耗が少なく長寿命となる効果を奏することから、軸受装置を搭載した回転装置に対して広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態1に係る軸受を含むスピンドルモータを搭載したHDDの全体の構成を示す断面図
【図2】(a)は本発明の実施の形態1に係るシャフトとフランジの断面図、(b)は本発明の実施の形態1に係るシャフトにフランジを挿入した状態の断面図、(c)は本発明の実施の形態1に係るシャフトにフランジを挿入した状態の拡大図
【図3】本発明の実施の形態1に係るシャフトの受面に傾斜があるときの概略拡大図
【図4】(a)は本発明の実施の形態1に係るシャフトとフランジの溶接状態を表す概略上面図、(b)は本発明の実施の形態1に係るシャフトとフランジの溶接状態を表す概略断面図、(c)は本発明の実施の形態1に係るフランジのRROのグラフ
【図5】本発明の実施の形態1に係るフランジの最大RROの分布の比較グラフ
【図6】本発明の実施の形態2に係るシャフトにフランジを挿入した拡大図
【図7】(a)は本発明の他の実施の形態に係る軸固定型のモータの断面図、(b)は本発明の他の実施の形態に係るシャフトとフランジの拡大図
【図8】(a)は従来のシャフトとフランジのレーザ溶接状態を示す概略図、(b)は従来のシャフトとフランジのレーザ溶接後のフランジの変形状態を示す概略図
【図9】(a)は従来のシャフトとフランジの溶接状態を表す概略上面図、(b)は従来のシャフトとフランジの溶接状態を表す概略断面図、(c)は従来のフランジのRROのグラフ
【図10】本発明の実施の形態1に係るフランジのRRO測定治具の概要図
【図11】従来のシャフトの受面に傾斜があるときの概略拡大図
【符号の説明】
【0048】
1 シャフト
1a、1ua 逃げ部
1b、1ub 受面
1c 小径凸部
1d 嵌合部
2 フランジ
2a 平面
2u 上フランジ
2d 下フランジ
3 スリーブ
4 スラストプレート
5 ロータハブ
6 ベース
7 マグネット
8 ステータコア
9 ステータコイル
10 ディスククランプ
11 ネジ
12 ヘッド
13 ディスク
14 磁気シールド板
15 接触式変位測定端子
16 治具
20 溶融部
21 レーザビーム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の端面側に外周面と同軸に設けられた略円筒形状の小径凸部と、前記小径凸部の根元から半径方向外側に設けられた凹み形状の逃げ部と、前記逃げ部よりも半径方向外側に設けられた軸方向の受面とを有するシャフトと、
前記小径凸部と嵌合する貫通孔と、前記受面と当接する平面とを有し、前記小径凸部との嵌合部をレーザ溶接することにより固定されている略円盤状のフランジと、
前記シャフトが挿入されて、少なくとも前記シャフトとの隙間に潤滑剤を介して相互に回転可能なスリーブとを有する軸受装置において、
前記シャフトと前記フランジの前記嵌合部はレーザ溶接をしない領域を複数箇所に 等角度ピッチ間隔で設けられ、かつこのレーザ溶接しない領域近傍において前記平面と前記受面とが当接していることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記嵌合部のレーザ溶接をしない領域の円周方向の長さの和は前記嵌合部の円周長の1/2以上であることを特徴とする請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記受面は外周側が軸方向で前記小径凸部側に向うようにすり鉢状に傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の軸受装置。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の軸受装置と、前記シャフトあるいは前記スリーブのいずれかに回転物を搭載するためのロータハブを有するスピンドルモータ。
【請求項5】
請求項4に記載のスピンドルモータと、前記ロータハブに搭載する回転物を備えた情報装置。
【請求項1】
少なくとも一方の端面側に外周面と同軸に設けられた略円筒形状の小径凸部と、前記小径凸部の根元から半径方向外側に設けられた凹み形状の逃げ部と、前記逃げ部よりも半径方向外側に設けられた軸方向の受面とを有するシャフトと、
前記小径凸部と嵌合する貫通孔と、前記受面と当接する平面とを有し、前記小径凸部との嵌合部をレーザ溶接することにより固定されている略円盤状のフランジと、
前記シャフトが挿入されて、少なくとも前記シャフトとの隙間に潤滑剤を介して相互に回転可能なスリーブとを有する軸受装置において、
前記シャフトと前記フランジの前記嵌合部はレーザ溶接をしない領域を複数箇所に 等角度ピッチ間隔で設けられ、かつこのレーザ溶接しない領域近傍において前記平面と前記受面とが当接していることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記嵌合部のレーザ溶接をしない領域の円周方向の長さの和は前記嵌合部の円周長の1/2以上であることを特徴とする請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記受面は外周側が軸方向で前記小径凸部側に向うようにすり鉢状に傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の軸受装置。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の軸受装置と、前記シャフトあるいは前記スリーブのいずれかに回転物を搭載するためのロータハブを有するスピンドルモータ。
【請求項5】
請求項4に記載のスピンドルモータと、前記ロータハブに搭載する回転物を備えた情報装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−275020(P2008−275020A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116937(P2007−116937)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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