説明

軸方向励起超短パルスガスレーザー装置

【課題】 簡便な回路で高い繰り返し周波数で動作するパルス幅の短いレーザー光を容易に得ることを可能とし、レーザー装置を大幅に小型化、高繰り返し化できる、微細加工や歯のアブレーション加工に使用される軸方向励起ガスレーザー装置を提供する。
【解決手段】 放電管21の励起回路が、プライマリ一回路11、プライマリ一回路に接続された昇圧トランス12、一端が高圧整流ダイオード13を介して昇圧トランスに、他端が昇圧トランスと放電管の一端に接続された蓄積キャパシター14、蓄積キャパシターに接続された一端子と放電管の他端に接続された他端子と昇圧トランスによりトリガされるスイッチング作動子からなり、蓄積キャパシターに蓄えられた電荷を放電管の両端に印加する高電圧スイッチ、および放電管の両端の間に設けられたシャント回路からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸方向励起超短パルスガスレーザー装置に関し、より詳しくは、パルス幅が100ms以下の超短パルスレーザー光を発生する軸方向励起方式の窒素レーザー、炭酸ガスレーザーなどを励起するのに適する新しい放電回路方式を具備したレーザー装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭酸ガスレーザーは数多くの応用分野に使用されている。炭酸ガスレーザーでは、連続発振の場合には軸方向励起の直流放電方式と横方向RF(高周波)放電方式が使用され、パルス発振の場合には横方向TEA(横方向励起大気圧)放電方式がもっぱら使用されてきた。
【0003】
RF放電で励起される封じきり装置では、励起をパルス的に行うことで50μs程度のパルス幅のパルスが得られているが、それより短くすることは困難であった。
【0004】
より短いパルス波形で発振させる必要がある場合にはTEA方式により100ns程度のパルス幅のパルスを得ていた。しかし、例えば典型的なTEAレーザー装置の構成を示す図2に見られるように、装置全体が大型で複雑であり、封じきっての使用が困難な状況であった。このような装置では装置の安定な動作にはガス交換やガスフロー、高速スイッチの維持管理などの多くの技術的な課題が存在していた。
【0005】
また、外部Qスイッチを設けた装置もあるが、装置が大型、高価となっていた。短いパルスで発振する窒素レーザーにおいても、放電回路方式が複雑で効率の悪いものとなっていた。
【0006】
特許文献1(特開平10−84680号公報)には、充電用のコンデンサ及び放電負荷と並列に設けられ、オン時に直流電圧源とリアクトルによる閉回路を構成して、電磁エネルギをリアクトルに蓄えさせる一方、オフ時にリアクトル、コンデンサ、放電負荷による閉回路を構成して、上記電磁エネルギをコンデンサに静電エネルギとして、かつその充電電圧を直流電圧源の電源電圧より昇圧させて蓄えさせるスイッチを備えるとともに、直流電圧源1の電圧を検出する電圧検出器と、リアクトルを流れる電流を検出する電流検出器とを備え、制御回路により、検出電圧および検出電流に基づいてスイッチをオン、オフさせるパルス電源装置が開示されている。
【0007】
また、特許文献2(特開平6−61565号公報)には、レーザ光のパルス毎のエネルギーを検出するビームスプリッタ、パワーモニタと、パルスのレーザ励起強度を検出する電圧モニタと、パワーモニタの検出出力及び電圧モニタの検出出力に基いて演算を行うCPUと、このCPUの演算結果に基いてパルスのレーザ励起強度を可変するレーザ電源とで構成され、レーザ光のエネルギーを目標エネルギー設定値通りに出力するにはどれだけ充電すれば良いかをレーザ電源に指令してパルスレーザの出力を一定に保つようにしたパルスレーザ装置が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平10−84680号公報
【特許文献2】特開平6−61565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の短パルスレーザー装置では、大きい出力エネルギーを目指すTEA C02レーザーなどの場合、長いガス寿命の封じ切り装置の製造が困難であり、実用的なレーザー装置が存在しなかった。また、繰り返し回数を上げるためには装置内でガスを循環する必要があり、装置が複雑且つ大型になるという課題が存在していた。
【0010】
窒素レーザーにおいては、封じきりシステムにおいてはガス循環系を組み込むことが困難であったため、高い繰り返しを得ることが困難で、最大のパルス発振周波数で30Hz程度となっていた。
【0011】
これらの制約のため、C02レーザーおよびN2レーザーにおいてはその実用的な応用が制約され、特に、微細加工や歯のアブレーション加工に使用される軸方向励起ガスレーザーにおいて、問題となっており、小型化したレーザー装置であってパルス幅を短縮できる新しい放電回路方式の開発が切望されていた。
【0012】
また、特許文献1および2に開示された装置では、電圧検出器、電流検出器、制御回路を備え、検出電圧および検出電流に基づいてスイッチをオン、オフさせたり、CPUによりパワーモニタの検出出力及び電圧モニタの検出出力に基いて演算を行うため、装置が複雑化する。
【0013】
本発明は上述した従来技術の問題点を解消することを目的とする。本発明は、特に微細加工や歯のアブレーション加工に使用される軸方向励起ガスレーザーのパルス幅を短縮できる新しい放電回路方式を提供するものである。また、本発明により、簡便な回路で高い繰り返し周波数で動作するパルス幅の短いレーザー光を容易に得ることができ、レーザー装置を大幅に小型化し、高繰り返し化できるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明においては、放電管と該放電管の励起回路とからなるパルスガスレーザー装置において、
該放電管は軸方向の両端部に電極を具備した横方向放電方式であり、
前記励起回路は、
パルスを発生するプライマリ一回路、
該プライマリ一回路に接続された昇圧トランス、
一端が高圧整流ダイオードを介して該昇圧トランスに接続され、他端が該昇圧トランスおよび前記放電管の一端に接続された蓄積キャパシター、
該蓄積キャパシターに接続された一端子、前記放電管の他端に接続された他端子、および前記昇圧トランスによりトリガされるスイッチング作動子からなり、前記蓄積キャパシターに蓄えられた電荷を放電管の両端に印加する高電圧スイッチ、並びに
前記放電管の両端の間に設けられたシャント回路
からなることを特徴とする軸方向励起超短パルスガスレーザー装置が提供される。
【0015】
前記スイッチング作動子は、高圧整流ダイオードと逆極性の高圧整流ダイオードを介して前記昇圧トランスに接続されている構成とすることが好ましい。また、前記放電管の前記一端と反対側の端部から該一端に向けて延びる金属シート等の導電体製の筒体により該放電管が被覆されていると同軸化に有効である。
【0016】
本発明では、従来のレーザー装置上の問題点を回避するため、従来とは全く異なる軸方向励起方式を採用すると共に、放電回路上の工夫を行った。本発明では軸方向励起方式を採用しており、軸方向励起方式では放電電極の長さに比べて、放電電極間の距離が大きいため、従来の横方向励起方式で必要であった放電空間全域に亘る均一な予備電離が必要なく、残留電荷が存在しても均一な放電を得やすいという大きな特徴がある。
【0017】
また、本発明によれば、放電管の構造が非常に簡素化できるため、封じきり管の製作に適している。ただし、これまでの軸方向励起方式では放電管のインダクタンスが大きいため、連続あるいは長いパルス幅の励起が用いられ、短いパルスを得ることは困難と考えられて来た。本発明ではパルス放電回路を短いパルスの励起に適するように改善する方法が採用されている。
【0018】
具体的には短いパルスを得るためにパルス放電の持続時間を短くするシャント回路の使用と、従来用いられてきた容量移行型回路の改善による大幅な高効率化である。
【0019】
これまでのTEA方式以外の炭酸ガスレーザーなどでは、高速の放電回路を用いることによりパルス幅80ns程度の短いパルスが得られるが、その後に50μs程度の長いテールを生じ、微細加工や歯のアブレーション加工に際して問題を生じていた。これに対して、本発明においては放電管の両端を100Ω以下の小抵抗や1mH以下のインダクターなどでシャントすることによりテール部分を除去できる。
【0020】
また、これまでの放電回路は電荷を一旦大型のキャパシターに蓄え、それを高電圧スイッチを介して放電管に並列に直結したバッファキャパシターに移すことにより高速放電を実現していたが、この電源回路の効率が高くならないという問題を有していた。この課題に関しては、軸方向励起方式では放電回路のインピーダンスが高いことを利用し、バッフアキャパシターを使用しない手法が有効であることが判明し、本発明に採用している。バッフアキャパシターを省略することで短パルス動作において電源の効率が数倍程度向上し、従来と比較して小さい電源容量で作動させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により高い繰り返し動作が可能な小型のレーザー装置が実現されると共に、これまでは困難であった非常に短いパルス幅のレーザー発振が簡単な構造の封じきりレーザー装置により実現される。このため、従来は大型装置を用いないといけなかった分野にも、本発明に係る簡便なレーザー装置を用いることが可能となる。これにより、本発明によれば、レーザー装置のコストとメンテナンスが大幅に軽減され、レーザー応用機器の使用分野を大幅に拡大することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明を詳細に説明する。本発明に係る新回路方式を図1に、従来の回路方式を図3に示す。
【0023】
図1において、放電管21は筒状体からなり、放電管21の内部に炭酸ガス(C02)を含む混合ガスまたは窒素ガス(N2)が封入され、放電管21の軸方向両端の電極21a、21b間にパルス電圧を印加して、両端電極21a、21b間出放電させてレーザー光を発振する。放電管21は、その外側が端部21aから一端21bに向けて延びる金属シート等の導電体製の筒体22により被覆されており、放電管21のインピーダンスを下げている。
【0024】
符号11はサイリスタ10やトランジスタ等を用いたパルス発生用のプライマリ一回路であり、プライマリ一回路11は昇圧トランス12の一次側に接続されている。実施例のプライマリ一回路11は単発〜1kHzでパルスを発信する。
【0025】
昇圧トランス12の二次側の一方の端子12aは高圧整流ダイオード13を介して蓄積キャパシター14の一方の端子14aに接続されている。また、昇圧トランス12の二次側の他方の端子12bは蓄積キャパシター14の他方の端子14bと放電管21の一端21bとに接続されている。
【0026】
高電圧スイッチ16は、一方の端子16bが蓄積キャパシター14の端子14aに接続され、他方の端子16aが筒体22を介して放電管21の一端21aに接続され、両端子16a、16b間にスパークギャップを形成している。高電圧スイッチ16の作動子16cは高圧整流ダイオード15を介して昇圧トランス12の端子12aと接続されており、高圧整流ダイオード15は高圧整流ダイオード13と逆極性である。高電圧スイッチ16の両端子16a、16b間を作動子16cによりスイッチングして蓄積キャパシター14に蓄えられた電荷を放電管21の両端21a、21bに印加する。
【0027】
放電管21の両端21a、21bの間に、放電管21と並列に100オーム以下の小抵抗または1mH以下のインダクターなどで構成されたシャント回路17が設けられている。
【0028】
図3に示すように従来の放電回路では放電管21の両端21a、21bの間にバッファキャパシター31が設けられていた。これに対して、図1から明らかなように本発明の新回路においては、放電管21の両端21a、21bの間にバッファキャパシターは全く設けられていない。
【0029】
本発明の放電回路の作動原理を時間を追って説明する。まず最初にサイリスタ10やトランジスタ等を用いたプライマリ一回路11と接続された昇圧トランス12が作動し、高圧整流ダイオード13を介して蓄積キャパシター14に電荷が充電される。この電荷が最大値に達した後、昇圧トランス12の電圧が反転した時点で逆極性の高圧整流ダイオード15を介してトリガーパルスが高電圧スイッチ16に送られ、この高電圧スイッチ16を導通させる。これにより、蓄積キャパシター14に蓄えられた電荷が放電管21の両端21a、21bに印加され、放電管21内で高圧放電が発生する。
【0030】
このとき、放電の初期には放電電流は放電管21内を流れるが、後半にはシャント回路17を経由して消費され、放電の持続時間を短縮すると共に放電管21への余分な熱入力を軽減することができる。このため、繰り返し回数を上げても放電管21の発熱が押さえられ、冷却等への要請が緩和できる。
【0031】
本発明により、電源への負荷が軽減されると共に、放電管21への無駄な熱入力が抑制されるため、電源回路の小型化や繰り返し周波数の増加などが図れる。
【0032】
本発明の新型回路形式においては、放電回路は蓄積キャパシター14と小容量の高電圧スイッチ16、放電持続時間の短縮用シャント回路17により構成される。本方式では構造が簡素化し、封じきり動作に適するという軸方向励起方式の利点を活かしながら、従来は必要とされていた放電管21に並列に直結されたバッファキャパシターを用いないため、蓄積キャパシター14に蓄積された電気エネルギーが高電圧スイッチ16を介して直接放電管21に印加され、効率の良い放電が行われる。
【0033】
このため、図3に示すような従来の容量移行型放電回路と比較した場合、同じ出力エネルギーを出す場合の蓄積キャパシター14の容量を数分の一と大幅に削減することができる。
【0034】
また、前述のように、本発明の回路方式では放電管21に並列に100Ω以下の小抵抗またはlmH以下のインダクター(図示せず)からなるシャント回路17を接続しており、これにより、放電の持続時間を短くし、容易にパルス幅の短縮を行うことが可能である。この場合、放電開始当初は通常通りパルスが形成されるが、電圧パルスの後半の部分がシャント回路17に流れ、放電の持続時間を短縮し、レーザー光のパルス幅を短くすると共に、放電管への熱負荷をも軽減する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る軸方向励起超短パルスガスレーザー装置の一実施例の回路図である。
【図2】典型的な従来のTEAレーザー装置の構成を示す斜視図である。
【図3】従来の軸方向励起パルスガスレーザー装置の回路図である。
【符号の説明】
【0036】
10 サイリスタ
11 プライマリ一回路
12 昇圧トランス
13 高圧整流ダイオード
14 蓄積キャパシター
15 高圧整流ダイオード
16 高電圧スイッチ
21 放電管
21a、21b 放電管の端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電管と該放電管の励起回路とからなるパルスガスレーザー装置において、
該放電管は軸方向の両端部に電極を具備した横方向放電方式であり、
前記励起回路は、
パルスを発生するプライマリ一回路、
該プライマリ一回路に接続された昇圧トランス、
一端が高圧整流ダイオードを介して該昇圧トランスに接続され、他端が該昇圧トランスおよび前記放電管の一端に接続された蓄積キャパシター、
該蓄積キャパシターに接続された一端子、前記放電管の他端に接続された他端子、および前記昇圧トランスによりトリガされるスイッチング作動子からなり、前記蓄積キャパシターに蓄えられた電荷を放電管の両端に印加する高電圧スイッチ、並びに
前記放電管の両端の間に設けられたシャント回路
からなることを特徴とする軸方向励起超短パルスガスレーザー装置。
【請求項2】
放電管と該放電管の励起回路とからなるパルスガスレーザー装置において、
該放電管は軸方向の両端部に電極を具備した横方向放電方式であり、
前記励起回路は、
パルスを発生するプライマリ一回路、
該プライマリ一回路に接続された昇圧トランス、
一端が高圧整流ダイオードを介して該昇圧トランスに接続され、他端が該昇圧トランスおよび前記放電管の一端に接続された蓄積キャパシター、
該蓄積キャパシターに接続された一端子、前記放電管の他端に接続された他端子、および前記高圧整流ダイオードと逆極性の高圧整流ダイオードを介して前記昇圧トランスに接続され該昇圧トランスによりトリガされるスイッチング作動子からなり、前記蓄積キャパシターに蓄えられた電荷を放電管の両端に印加する高電圧スイッチ、並びに
前記放電管の両端の間に設けられたシャント回路
からなることを特徴とする軸方向励起超短パルスガスレーザー装置。
【請求項3】
前記放電管の前記一端と反対側の端部から該一端に向けて延びる導電体製の筒体により該放電管が被覆されていることを特徴とする請求項1または2に記載の軸方向励起超短パルスガスレーザー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−156812(P2006−156812A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347057(P2004−347057)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(597057922)
【Fターム(参考)】