説明

軽油留分の水素化処理方法

本発明の軽油留分の水素化処理方法は、硫黄分含有量5〜15質量ppm、全芳香族分含有量10〜25容量%、沸点範囲150〜380℃の石油系炭化水素の水素化精製油を原料油として用い、該原料油を水素化触媒の存在下において水素化処理することによって硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量が1容量%以下である超低硫黄・低芳香族軽油留分を得ることを特徴とする。かかる水素化処理方法によれば、いわゆる“サルファーゼロ”、“アロマゼロ”の軽油留分を、特殊な運転条件や設備投資を設けることなく効率良く且つ確実に製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軽油留分の水素化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題などの観点から、ディーゼル車排出ガスのクリーン化への要求はますます厳しくなっている。このような流れを受け、さまざまな環境対応規制策がとられつつあり、中でもパティキュレートと呼ばれる排出ガス中の微粒子を除去することが大きな課題のひとつとなっており、パティキュレート除去フィルターなどの搭載が必要とされている。
【0003】
しかしながら、硫黄分の多い軽油を燃料とした場合には、これらの排出ガス浄化装置の劣化が著しいことが指摘されている。このため、特に走行距離の長い輸送用トラックなどでは浄化装置の寿命を可能な限り長くすることが強く切望されており、軽油の硫黄分を一層低減することが不可欠となっている。加えて、パティキュレート生成の最も大きな要因として、軽油中の芳香族分が挙げられており、根本的なパティキュレート低減対策としては芳香族分の除去が有効である。さらに、芳香族分は発がん性を示すことも広く指摘されており、軽油留分を各種溶剤や金属加工油の基材として用いる場合において、溶剤を取り扱う向上での作業環境の悪化を招く恐れがあり、芳香族分の低減はこのような観点からも重要な課題である。
【0004】
一方、石油系軽油留分は未精製の状態では1〜3質量%の硫黄分が含有されており、水素化脱硫を実施した後に軽油基材として使用する。その他の軽油基材としては、水素化脱硫された灯油留分や流動接触分解装置や水素化分解装置などから得られる分解軽油があり、これらの基材と混合した後に製品軽油となる。そして、水素化脱硫触媒によって水素化脱硫処理された軽油留分中に存在する硫黄化合物のうち、4,6−ジメチルジベンゾチオフェンに代表される複数のメチル基を置換基として持つジベンゾチオフェン誘導体は極めて反応性に乏しいため、水素化脱硫深度を深くしてもこのような化合物は最後まで残存する傾向がある。そのため、従来の技術をもって1質量ppm以下というさらなる低硫黄領域まで脱硫を進めるためには、非常に高い水素分圧、あるいは極度に長い接触時間すなわち極めて大きな反応塔容積が必要となってしまう。
【0005】
また、未精製の石油系軽油留分には一般的には20〜40容量%の芳香族分が含まれており、これらは1環芳香族のほか、2環以上の縮合芳香族化合物の状態で存在している。そして、芳香族水素化反応においては化学平衡の制約が存在し、一般的には高温側では芳香族、低温側では環水素化物であるナフテンにそれぞれ平衡がシフトする。そのため、芳香族水素化を促進するためには低温側が有利であるが、低温での反応には低温側で充分な芳香族水素化反応速度をもつ反応条件および触媒が必要となるといった点で大きな課題が存在する。そして、低温で充分な芳香族水素化活性を示す触媒として貴金属系触媒があるが、これは触媒の耐硫黄性が充分ではなく、原料油中の硫黄分含有量が高い場合、触媒の水素化活性が阻害され十分な芳香族水素化能が発揮されない。ところが、水素化脱硫反応は最終的には炭素−硫黄結合を開裂する反応であり、高温側ほどその反応が促進される。従って、従来の技術では、芳香族水素化を促進するために低温側に反応条件を設定してしまうと脱硫活性が不足してしまい、超低硫黄化と低芳香族化とを両立させることが極めて困難であった。
【0006】
このような背景の下、硫黄分および芳香族分の少ないディーゼル軽油の製造方法として、特開平7−155610号公報及び特開平8−283747号公報においては、脱硫工程(第一工程)と、ゼオライトや粘土鉱物を触媒として用いた芳香族水素化工程(第二工程)との二つの工程を組み合わせた製造技術がそれぞれ提案されている。
【発明の開示】
【0007】
しかしながら、上記公報に記載の方法であっても硫黄分および芳香族分の低減効果は充分なものではなく、硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ芳香族分含有量が1容量%以下という極めて高い脱硫・脱芳香族レベルを同時に達成することはできなかった。すなわち、第一工程の運転過酷度を上げると、第一工程の運転が経済的に満足しうる期間運転できなくなり、また、反応温度の上昇により第一工程における生成油中の芳香族分が増加し、第二工程における脱芳香族化が阻害されるという問題があった。また、第二工程においては前述の芳香族の平衡制約があるため、運転過酷度を上げることに限界があった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、環境特性に優れた硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量が1容量%以下のいわゆる“サルファーゼロ”、“アロマゼロ”の軽油留分を、特殊な運転条件や設備投資を設けることなく効率良く且つ確実に製造することが可能な軽油留分の水素化処理方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、硫黄分含有量、全芳香族分含有量および沸点範囲が所定の範囲内にある軽油相当留分である石油系炭化水素の水素化精製油を水素化触媒の存在下で水素化処理することにより超低硫黄化および低芳香族化を効率良く且つ同時に達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、硫黄分含有量5〜15質量ppm、全芳香族分含有量10〜25容量%、沸点範囲150〜380℃の石油系炭化水素の水素化精製油を原料油として用い、該原料油を水素化触媒の存在下において水素化処理することによって硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量が1容量%以下である超低硫黄・低芳香族軽油留分を得ることを特徴とする軽油留分の水素化処理方法にある。
【0011】
また、本発明は、前記本発明の方法により得られることを特徴とする、硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量が1容量%以下である超低硫黄・低芳香族軽油留分にある。
【0012】
さらに、本発明は、前記本発明の方法により得られる硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量が1容量%以下である超低硫黄・低芳香族軽油留分を含有することを特徴とする軽油組成物にある。
【0013】
このように、軽油留分に相当する石油系炭化水素油において硫黄分含有量1質量ppm以下および全芳香族分含有量1容量%以下を同時に達成せしめるためには、硫黄分含有量5〜15質量ppmおよび全芳香族分含有量10〜25容量%となるまで水素化精製を施した水素化精製油を原料油として水素化処理することが極めて効果的であり、芳香族の環水素化物であるナフテンの生成を有利にすべく低温で反応を行い全芳香族分含有量を1容量%以下とした場合でも硫黄分含有量1質量ppm以下まで脱硫でき、脱硫と脱芳香族とが超深度領域において両立し得ることを本発明者らは見出した。
【0014】
本発明においては、前記水素化処理における反応条件が、反応温度170〜320℃、水素分圧2〜10MPa、液空間速度0.1〜2h−1、水素/油比100〜800NL/Lであることが好ましい。このように低温で水素化反応せしめることにより触媒寿命が延長され、長期間に渡り触媒を使用して安定的に運転することが可能となる。そして、触媒交換やそれに伴う装置停止期間を短縮できるため、経済的にも好ましい。
【0015】
また、本発明においては、(i)前記原料油中の1環芳香族分含有量が9〜18容量%、2環以上芳香族分含有量が1〜7容量%であり、前記超低硫黄・低芳香族軽油留分中の2環以上芳香族分含有量が0.2容量%以下であることが好ましく、さらに、(ii)前記原料油中のパラフィン分含有量が30〜60容量%、ナフテン分含有量が25〜60容量%であり、前記超低硫黄・低芳香族軽油留分中のパラフィン分含有量が30〜60容量%、ナフテン分含有量が40〜70容量%であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る前記水素化触媒としては、8族金属のうちの少なくとも1種類の活性金属を多孔質担体に担持せしめたものであることが好ましく、(i)前記多孔質担体が、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、リンおよびゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種類とアルミナとによって構成されているものであること、および/または、(ii)前記活性金属が、Ru、Rd、Ir、PdおよびPtからなる群から選択される少なくとも1種類の金属であることがより好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明においては、硫黄分含有量5〜15質量ppm、全芳香族分含有量10〜25容量%、沸点範囲150〜380℃の石油系炭化水素の水素化精製油を原料油として用いる。
【0019】
先ず、原料油を上記所定の性状とするための水素化精製および水素化精製に供する石油系炭化水素油(以下、粗原料油と表記する)について説明する。
【0020】
水素化精製される粗原料油は、常圧蒸留装置から得られる所定の沸点範囲に相当する留分であるが、水素化分解装置、残油直接脱硫装置から得られる相当する沸点範囲の留分を混合して用いてもよい。また、所定の沸点範囲において灯油留分および軽油留分を個別に水素化精製した後に混合して用いてもよい。さらに、流動接触分解装置(FCC)から得られる軽油相当留分を混合して水素化精製に供してもよいが、FCCからの軽油相当留分は芳香族分含有量が前記各留分より多いため、その混合量は好ましくは40容量%以下、さらに好ましくは30容量%以下である。
【0021】
粗原料油の水素化精製条件は、石油精製において一般的な水素化脱硫装置を用いて処理される際の条件でよい。すなわち、一般的には、反応温度250〜380℃、水素分圧2〜8MPa、液空間速度(LHSV)0.3〜10.0h−1、水素/油比100〜500NL/Lといった条件で行われることが好ましい。このような粗原料油の水素化精製においては、予め常圧蒸留装置において灯油留分および軽油留分に分けてそれぞれ個別に水素化精製し、その後に混合して原料油として用いてもよい。また、粗原料油の水素化精製に用いられる触媒としては、一般的な水素化脱硫用触媒を適用できる。すなわち、活性金属としては、通常6A族および8族金属の硫化物が用いられ、例えばCo−Mo,Ni−Mo,Co−W,Ni−Wが挙げられる。また、担体としてはアルミナを主成分とした多孔質無機酸化物が用いられる。なお、粗原料油の水素化精製において採用される反応条件や触媒は、得られる原料油の性状が上記条件を満たす限りにおいて特に限定されるものではない。
【0022】
粗原料油の水素化精製および原料油の水素化処理におけるそれぞれの装置および両者を組み合わせた装置群の構成は特に限定されないが、水素化精製によって得られた生成物は気液分離塔あるいは所定の硫化水素除去設備により含まれる硫化水素をできるだけ除去しておくことが望ましい。一般的な軽油や灯油の脱硫装置においては、反応塔によって脱硫された後、気液分離塔によってガスと液とが分離される。このような分離後の液留分を原料油とすれば、含まれる硫化水素の量は極めて少なく、本発明に係る原料油としてより適している。一方、硫化水素が混在する場合であっても、適切な水素化処理条件に設定することにより、本発明の実施は可能である。
【0023】
次に、本発明において用いられる所定の性状を有する原料油について説明する。本発明に係る原料油は、上記粗原料油を水素化精製したものであり、硫黄分含有量5〜15質量ppm、全芳香族分含有量10〜25容量%、沸点範囲150〜380℃といった性状を有するものである。
【0024】
このように、本発明に用いられる原料油は沸点範囲150〜380℃のものであるが、沸点範囲が150〜240℃の灯油留分と、沸点範囲が200〜380℃の軽油留分とをそれぞれ個別に水素化精製した後に混合したものでもよい。なお、灯油と軽油を区分する温度はそれぞれの製品としての需給動向や蒸留装置の特性などにより変動することがあり、その区分温度は上記温度に特に限定されるものではない。なお、本明細書における沸点範囲とは、JIS K 2254「石油製品−蒸発試験方法」に記載の方法に準拠して測定される値である。
【0025】
本発明に用いられる原料油の硫黄分含有量は5〜15質量ppmであり、好ましくは5〜10質量ppmである。原料油の硫黄分含有量が15質量ppmを超えている場合は、水素化触媒の活性が低下して脱硫反応および芳香族水素化反応が十分に進行しなくなり、他方、5質量ppm未満の場合は、必要反応温度が低下することにより芳香族水素化反応が十分に進行しなくなる。なお、本明細書における硫黄分含有量とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」またはASTM−D5453に記載の方法に準拠して測定される軽油留分全量を基準とした硫黄分の質量含有量を意味する。
【0026】
また、本発明に用いられる原料油の全芳香族分含有量は10〜25容量%であり、好ましくは11〜20容量%である。原料油の全芳香族分含有量が25容量%を超えている場合は、全芳香族分含有量1容量%以下を達成するために長い接触時間、すなわち過大な反応塔容積を必要とし、設備投資が過大となり、他方、10容量%未満の場合は、脱硫に対比して芳香族水素化に必要な運転条件が余剰となるため、本発明の経済的な優位性が少なくなる。
【0027】
さらに、本発明に係る原料油中の芳香族分組成としては、1環芳香族分含有量が9〜18容量%、2環以上の芳香族分含有量が1〜7容量%であることが好ましく、1環芳香族分含有量が10.5〜15容量%、2環以上の芳香族分含有量が1.5〜5容量%であることがより好ましい。原料油の1環芳香族分含有量および2環以上の芳香族分含有量が前記上限を超えている場合は、全芳香族分含有量1容量%以下および2環以上芳香族分含有量0.2容量%以下をそれぞれ達成するためには設備投資が過大となる傾向にあり、他方、前記下限未満の場合は、脱硫に対比して芳香族水素化に必要な運転条件が余剰となるため、本発明の経済的な優位性が少なくなる傾向にある。
【0028】
なお、本明細書における全芳香族分含有量、1環芳香族分含有量および2環以上の芳香族分含有量とは、社団法人石油学会により発行されている石油学会誌JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験法−高速液体クロマトグラフ法」に記載の方法に準拠して測定される各芳香族分含有量の容量百分率(容量%)を意味する。
【0029】
さらに、本発明に係る原料油中の芳香族分以外の組成としては、製品軽油の燃料油密度を維持して燃費を良くする観点からパラフィン分含有量が30〜60容量%、ナフテン分含有量が25〜60容量%、オレフィン分含有量が1容量%以下であることが好ましい。なお、本明細書におけるナフテン分含有量、パラフィン分含有量およびオレフィン分含有量とは、ASTM D2786−91「Standard Test Method for Hydrocarbon Types Analysis of Gas−Oil Saturates Fraction by High Ionizing Voltage Mass Spectrometry」に記載の方法に準拠して測定される各成分の容量百分率(容量%)を意味する。
【0030】
次に、本発明においては、硫黄分含有量、全芳香族分含有量および沸点範囲が所定の範囲内にある前記原料油(水素化精製油)を水素化触媒の存在下において水素化処理することによって硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量が1容量%以下である超低硫黄・低芳香族軽油留分を得る。
【0031】
本発明においては前記原料油を水素化触媒の存在下において水素化処理せしめるが、水素化処理に用いる触媒としては水素化活性金属を多孔質担体に担持せしめたものが好ましい。このような多孔質担体としてはチタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、リンおよびゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種類とアルミナとによって構成されているものが好ましい。その製造法は特に限定されないが、各元素に対応した各種ゾル、塩化合物などの状態の原料を用いて任意の調製法を採用することができる。さらには一旦シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナチタニア、シリカチタニア、アルミナボリアなどの複合水酸化物あるいは複合酸化物を調製した後に、アルミナゲルやその他の水酸化物の状態あるいは適当な溶液の状態で調製工程における任意の工程で添加して調製してもよい。アルミナと他の成分との比率は多孔質担体に対して任意の割合を取りうるが、好ましくはアルミナの含有量が90質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。他方、アルミナの含有量の下限は特に制限されないが、アルミナの含有量が20質量%以上であることが好ましい。
【0032】
なお、ゼオライトは結晶性アルミノシリケートであり、フォージャサイト、ペンタシル、モルデナイトなどが挙げられ、ゼオライト合成時にゼオライト中のアルミナ含有量を調整したもの、あるいは所定の水熱処理および/または酸処理によって超安定化したものを用いることができる。好ましくはフォージャサイト、ベータ、モルデナイト、特に好ましくはY型、ベータ型が用いられる。Y型としては超安定化したものが好ましく、水熱処理により超安定化したゼオライトは本来の20Å以下のミクロ細孔と呼ばれる細孔構造に加え、20〜100Åの範囲に新たな細孔が形成されており好ましい。このような水熱処理条件としては公知の条件を用いることができる。
【0033】
水素化処理に用いる触媒の活性金属としては8族金属から選ばれる少なくとも1種類の金属であることが好ましく、Ru,Rd,Ir,PdおよびPtからなる群から選択される少なくとも1種類の金属であることがより好ましく、Pdおよび/またはPtが特に好ましい。このような活性金属としてはこれらの金属を組み合わせたものでもよく、例えばPt−Pd,Pt−Rh,Pt−Ru,Ir−Pd,Ir−Rh,Ir−Ru,Pt−Pd−Rh,Pt−Rh−Ru,Ir−Pd−Rh,Ir−Rh−Ruなどの組み合わせを採用することができる。金属源としては一般的な無機塩、錯塩化合物を用いることができ、担持方法としては含浸法、イオン交換法など通常の水素化触媒で用いられる担持方法のいずれの方法も用いることができる。また、複数の金属を多孔質担体に担持せしめる場合には混合溶液を用いて同時に担持せしめてもよく、または単独溶液を用いて逐次担持せしめてもよい。なお、このような金属塩溶液は水溶液でも、有機溶剤を用いたものでもよい。
【0034】
また、多孔質担体への金属担持は、構成されている多孔質担体の調製全工程終了後に行ってもよく、多孔質担体調製中間工程における適当な酸化物、複合酸化物、ゼオライトなどに予め金属を担持せしめた後に更なるゲル調合工程、加熱濃縮、混練などをおこなってもよい。
【0035】
水素化処理に用いる触媒における活性金属の担持量は特に限定されないが、触媒全量に対し金属量合計で好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.15〜5質量%、特に好ましくは0.2〜3質量%である。
【0036】
本発明に係る前記水素化触媒は、水素気流下において予備還元処理を施した後に用いることが好ましい。すなわち、一般的には水素化触媒を充填した反応管に水素を含むガスを流通し、200℃以上の熱を所定の手順に従って与えることにより触媒上の活性金属が還元され、水素化活性を発現することになる。
【0037】
本発明における水素化処理の条件としては、反応温度170〜320℃、水素分圧2〜10MPa、液空間速度(LHSV)0.1〜2h−1、水素/油比100〜800NL/Lであることが好ましく、反応温度175〜310℃、水素分圧2.5〜8MPa、液空間速度(LHSV)0.2〜1.5h−1、水素/油比150〜600NL/Lであることがより好ましく、反応温度180〜300℃、水素分圧3〜7MPa、液空間速度(LHSV)0.3〜1.2h−1、水素/油比150〜500NL/Lであることが特に好ましい。上記反応温度は低い方が水素化反応には有利であるが、上記反応温度が前記下限未満の場合は脱硫反応が十分に進行しなくなる傾向にあり、他方、上記反応温度が前記上限を超えている場合は芳香族生成反応が有利となる傾向にある。また、上記水素分圧および水素/油比は高いほど脱硫、水素化反応とも促進される傾向にあるが、上記水素分圧および水素/油比が前記下限未満の場合は脱硫および芳香族水素化反応が十分進行しなくなる傾向にあり、他方、上記水素分圧および水素/油比が前記上限を超えている場合は過大な設備投資を必要とする傾向にある。さらに、液空間速度(LHSV)は低いほど脱硫、水素化反応に有利な傾向にあるが、上記液空間速度が前記下限未満の場合は極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となる傾向にあり、他方、上記液空間速度が前記上限を超えている場合は脱硫および芳香族水素化反応が十分進行しなくなる傾向にある。
【0038】
このように水素化精製された原料油を水素化処理する装置はいかなる構成でもよく、反応塔は単独または複数を組み合わせてもよく、反応塔内の硫化水素濃度を下げる目的で、反応塔の前段あるいは複数の反応塔の間に気液分離設備やその他の硫化水素除去設備を有していてもよく、水素を追加注入してもよい。
【0039】
また、本発明に用いる水素化処理装置の反応形式としては、固定床方式であってもよい。すなわち、水素は原料油に対して向流または並流のいずれの形式をとることもでき、また、複数の反応塔を有し向流、並流を組み合わせた形式のものでもよい。一般的な形式としてはダウンフローであり、気液双並流形式がある。反応塔は複数の触媒床で構成されてもよく、各触媒床の間には反応熱の除去、あるいは水素分圧を上げる目的で水素ガスをクエンチとして注入してもよい。
【0040】
このように、本発明においては、所定の性状を有する前記原料油を水素化触媒の存在下において水素化処理することによって、硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量が1容量%以下である本発明の超低硫黄・低芳香族軽油留分が、特殊な運転条件や設備投資を設けることなく効率良く且つ確実に得られる。
【0041】
本発明の方法においてこのような超低硫黄・低芳香族軽油留分が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、石油系炭化水素軽油留分に含まれる代表的な硫黄化合物は、ジベンゾチオフェン誘導体の構造を有している。このうち、硫黄原子の隣である4,6−位の位置に置換基を持つ誘導体は、その立体障害のために反応性が著しく低い。従って、水素化脱硫の過酷度を上げた場合においても残存しやすいため、原料油をそのまま水素化処理して硫黄分含有量1質量ppm以下、芳香族分含有量1容量%以下にすることは極めて困難であるが、硫黄分含有量5〜15質量ppmにまで水素化精製した留分を用いて水素化処理を行うことにより以外にも極めて効率よく脱硫反応が進行するようになる。これは、水素化触媒にとって活性低下を招く要因のひとつである硫黄化合物が少なく、脱硫反応速度が向上していることに起因している。また、硫黄分含有量5〜15質量ppmに脱硫された水素化精製油中には未だ10〜25容量%の芳香族分が残存しているが、原料油中に硫黄化合物が少ないことによって、脱硫反応と同時に芳香族水素化反応も促進されるようになる。したがって、本発明において上記所定の性状を有する前記原料油を用いて水素化処理を行うことにより、硫黄分含有量1質量ppm以下および全芳香族分含有量1容量%以下という従来は同時に達成できなかった特性が同時に達成されるようになると本発明者らは推察する。
【0042】
本発明の超低硫黄・低芳香族軽油留分は、前記本発明の方法により得られる硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量が1容量%以下のものであり、いわゆる超クリーン軽油燃料に相当するものである。このような超低硫黄・低芳香族軽油によれば、ディーゼル車排出ガスにおけるパティキュレートの生成が十分に防止され、排出ガス浄化装置の寿命の長期化が、燃費等を低下させることなく可能となる。
【0043】
このような本発明の超低硫黄・低芳香族軽油留分においては、2環以上芳香族分含有量を0.2容量%以下とすることが可能であり、その場合は残りの芳香族分は全て1環芳香族分となる。このように、本発明の超低硫黄・低芳香族軽油留分においては全芳香族分含有量はもとより2環以上の芳香族分の残存量も極めて少ないことが好ましく、2環以上芳香族分含有量が0.2容量%を超えている場合はパティキュレートの生成防止の観点から好ましくない傾向にある。
【0044】
また、本発明に係る水素化処理において芳香族分はナフテン分およびパラフィン分に転換されるが、大部分はナフテン分に転換される。したがって、本発明の超低硫黄・低芳香族軽油留分における芳香族分以外の組成としては、環境負荷の低減並びに燃料油密度すなわち燃費維持の観点からパラフィン分含有量が30〜60容量%、ナフテン分含有量が40〜70容量%、オレフィン分含有量が1容量%以下であることが好ましい。
【0045】
以上説明した本発明の超低硫黄・低芳香族軽油留分は単独でディーゼル軽油として用いてもよいが、この超低硫黄・低芳香族軽油留分に他の基材などの成分を混合した本発明の軽油組成物としてディーゼル軽油として用いてもよい。すなわち、本発明の軽油組成物は、前記本発明の方法により得られる硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量が1容量%以下である超低硫黄・低芳香族軽油留分を含有することを特徴とするものである。本発明の軽油組成物をディーゼル軽油とした場合においても、本発明の超低硫黄・低芳香族軽油留分の優れた特性から、燃費の維持と同時にディーゼル車排出ガスにおけるパティキュレートの生成が十分に防止され、排出ガス浄化装置の寿命の長期化を容易に達成することが可能となる。
【0046】
ここで、本発明の軽油組成物に配合可能な他の基材としては、本発明の超低硫黄・低芳香族軽油留分以外の軽油基材、灯油基材等、より具体的には、直留軽油、減圧軽油、水素化精製軽油、水素化脱硫軽油、水素化分解軽油、直留灯油、水素化分解灯油、水素化精製灯油等の他、水素と一酸化炭素から構成されるいわゆる合成ガスを原料とするフィッシャートロプシュ反応などを経由して得られる合成軽油あるいは合成灯油を混合することができる。これらの合成灯油や合成軽油は芳香族分をほとんど含んでおらず、飽和炭化水素を主成分としていることが特徴である。なお、合成ガスの製造法としては公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではない。このような合成軽油の配合割合は、軽油組成物中好ましくは30容量%以下、より好ましくは20容量%以下、さらに好ましくは10容量%以下である。また、合成灯油の配合割合は、軽油組成物中好ましくは60容量%以下、より好ましくは50容量%以下、さらに好ましくは40容量%以下である。
【0047】
また、本発明の超低硫黄・低芳香族軽油留分は、ディーゼル軽油の用途のみでなく、インキ用溶剤、クリーニング用溶剤、殺虫剤用溶剤、エアゾール用溶剤、溶液もしくは懸濁重合用溶剤、脱グリース剤、ラッカー用溶剤、洗浄用、抽出用、塗料用などの溶剤、ゴム揮発油、金属部品洗浄用溶剤、アルミ圧延などの金属加工油剤、さび止め油剤、カーコート用溶剤などの基材として好適に使用可能である。
【0048】
[実施例]以下、本発明を実施例および比較例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
ケイ酸ナトリウム水溶液(濃度29質量%、2350g)をpH14でゲル化せしめた後、pH7で2時間熟成せしめて得たスラリーに、硫酸ジルコニウム(四水和物、350g)を含む水溶液を加え、さらにそのスラリーをpH7に調整してシリカ−ジルコニア複合水酸化物を生成せしめた。これを30分熟成せしめた後、硫酸アルミニウム(14水和物、420g)を含む水溶液を加えてpH7に調整し、シリカ−ジルコニア−アルミナ複合水酸化物を生成せしめた。このスラリーからシリカ−ジルコニア−アルミナ複合水酸化物をろ過し、洗浄した後、加熱濃縮によって水分を調整し、押し出し成型、乾燥、焼成を行い触媒担体(多孔質担体)を得た。得られた担体中の各構成成分の比率は、酸化物としてアルミナ20質量%、シリカ57質量%、ジルコニア23質量%であった。
【0050】
この担体に、担体の吸水率に見合う容量になるように濃度を調整したテトラアンミン白金(II)クロライドとテトラアンミンパラジウム(II)クロライドの混合水溶液を用いて金属を含浸せしめ、乾燥、焼成を行い、水素化触媒1を得た。触媒1における白金、パラジウムの担持量はそれぞれ触媒全体に対して0.3質量%、0.5質量%であった。
【0051】
次に、触媒1(55.2g)を内径20mmの反応管に充填し、固定床流通式反応装置に取り付けた後、反応前処理として水素分圧5MPa、300℃の条件で還元前処理を実施した。その後、表1に示す条件下で表2に性状を示す原料油Aを用いて水素化処理試験を実施した。
【0052】
なお、原料油Aは中東系原油の常圧蒸留によって得られた軽油相当留分(粗原料油)を水素化精製処理したものであり、硫黄分含有量が11.0質量ppmで且つ全芳香族分含有量が17.9容量%のものである。また、表2中、IBPはJIS K2254に定義されている初留点であり、EPはJIS K2254に定義されている終点である。
【0053】
水素化処理試験の開始から10日目に得られた生成油における硫黄分含有量は0.5質量ppmで且つ全芳香族分含有量は0.6容量%であった。この生成油の性状を表2に示す。また、水素化処理試験の開始から30日目に得られた生成油における硫黄分含有量は0.8質量ppmであった。
【0054】

【0055】

【実施例2】
【0056】
SiO/Al比が5のY型ゼオライトを公知の超安定化処理方法により安定化した後、1N硝酸水溶液により酸処理を施し、単位格子長が24.28Å、SiO/Al比が91のプロトン型の超安定化Y型ゼオライトを得た。得られた超安定化Y型ゼオライト(550g)を硝酸アンモニウム水溶液(濃度2N、3リットル)に加え、室温で撹拌してアンモニウム型に変換せしめた。次いで、得られたアンモニウム型ゼオライトを、担体の吸水率に見合う容量になるように濃度を調整したテトラアンミン白金(II)クロライドとテトラアンミンパラジウム(II)クロライドの混合溶液に加え、70℃で撹拌してイオン交換法により金属担持せしめた。金属担持後、ゼオライトをろ過分取し、乾燥、焼成を行った。そして、得られたゼオライトを、市販のアルミナゲル(コンデア社製)と混練し、成型して水素化触媒2を得た。触媒2における白金、パラジウムの担持量はそれぞれ触媒全体に対して0.3質量%、0.5質量%であった。また、ゼオライトとアルミナの比率は質量比で70:30であった。
【0057】
次に、触媒2を用いた以外は実施例1と同様にして水素化処理試験を実施した。水素化処理試験の開始から10日目に得られた生成油における硫黄分含有量は0.2質量ppmで且つ全芳香族分含有量は0.2容量%であった。この生成油の性状を表2に示す。
【0058】
(比較例1)
表2に性状を示す原料油Bを用いた以外は実施例1と同様にして水素化処理試験を実施した。なお、原料油Bは中東系原油の常圧蒸留によって得られた軽油相当留分(粗原料油)を水素化精製処理したものであり、硫黄分含有量が25.3質量ppmで且つ全芳香族分含有量が19.5容量%のものである。
【0059】
水素化処理試験の開始から10日目に得られた生成油における硫黄分含有量は4.9質量ppmで且つ全芳香族分含有量は4.5容量%であった。この生成油の性状を表2に示す。また、水素化処理試験の開始から30日目に得られた生成油における硫黄分含有量は7.2質量ppmであった。
【0060】
表2に示した結果から明らかな通り、粗原料油を水素化精製処理して硫黄分および芳香族分を充分除去してそれらの含有量を本発明の範囲内とした水素化精製油を原料油として用いて水素化処理することにより、硫黄分含有量1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量1容量%以下という厳しい条件を同時に達成できることが確認された(実施例1〜2)。さらに、実施例1と比較例1との比較から、原料油中の硫黄分含有量が特に重要な要素となっており、また、活性の安定性についても問題ないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明によれば、環境特性に優れた硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量が1容量%以下の軽油留分を、特殊な運転条件や設備投資を設けることなく効率良く且つ確実に製造することが可能となる

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄分含有量5〜15質量ppm、全芳香族分含有量10〜25容量%、沸点範囲150〜380℃の石油系炭化水素の水素化精製油を原料油として用い、該原料油を水素化触媒の存在下において水素化処理することによって硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量が1容量%以下である超低硫黄・低芳香族軽油留分を得ることを特徴とする、軽油留分の水素化処理方法。
【請求項2】
前記原料油中の1環芳香族分含有量が9〜18容量%、2環以上芳香族分含有量が1〜7容量%であり、前記超低硫黄・低芳香族軽油留分中の2環以上芳香族分含有量が0.2容量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の軽油留分の水素化処理方法。
【請求項3】
前記水素化処理における反応条件が、反応温度170〜320℃、水素分圧2〜10MPa、液空間速度0.1〜2h−1、水素/油比100〜800NL/Lであることを特徴とする、請求項1または2に記載の軽油留分の水素化処理方法。
【請求項4】
前記原料油中のパラフィン分含有量が30〜60容量%、ナフテン分含有量が25〜60容量%であり、前記超低硫黄・低芳香族軽油留分中のパラフィン分含有量が30〜60容量%、ナフテン分含有量が40〜70容量%であることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれかに記載の軽油留分の水素化処理方法。
【請求項5】
前記水素化触媒が、8族金属のうちの少なくとも1種類の活性金属を多孔質担体に担持せしめたものであることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれかに記載の軽油留分の水素化処理方法。
【請求項6】
前記多孔質担体が、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、リンおよびゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種類とアルミナとによって構成されているものであることを特徴とする、請求項5に記載の軽油留分の水素化処理方法。
【請求項7】
前記活性金属が、Ru、Rd、Ir、PdおよびPtからなる群から選択される少なくとも1種類の金属であることを特徴とする、請求項5または6に記載の軽油留分の水素化方法。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれかに記載の方法により得られることを特徴とする、硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量が1容量%以下である超低硫黄・低芳香族軽油留分。
【請求項9】
請求項1〜7のうちのいずれかに記載の方法により得られる硫黄分含有量が1質量ppm以下で且つ全芳香族分含有量が1容量%以下である超低硫黄・低芳香族軽油留分を含有することを特徴とする軽油組成物。

【国際公開番号】WO2004/078887
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503113(P2005−503113)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002784
【国際出願日】平成16年3月5日(2004.3.5)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】