説明

軽量気泡コンクリートの製造法

【課題】軽量骨材を使用した軽量コンクリート並みの単位容積質量を有し、かつ外界からの物質が浸入しにくい緻密な空隙を有する軽量気泡コンクリートを得る。
【解決手段】エーテル型アニオン系界面活性剤を起泡成分とする発泡性水溶液に空気を混合して気泡を形成させ下記(A)を満たすムース状の液(「気泡液」という)を得る過程、
前記気泡液を少なくとも水、セメント、骨材(ただし軽量骨材は使用しない)とともに練り混ぜることにより、空気量5〜20%のコンクリート混練物を得る過程、
を有する軽量気泡コンクリート混練物の製造法。
(A); 気泡液を構成する気泡粒子のうち、粒径が40〜120μmであり、かつ直径に占める膜厚の割合が25%以上である粒子が、個数割合で80%以上存在すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エントレインドエアを多量に導入することによって軽量化を図ったコンクリート(軽量気泡コンクリート)の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
単位容積質量を軽減したコンクリートとして、軽量骨材を用いた「軽量コンクリート」が一般的である。その単位容積質量は1200〜2400kg/m3程度と軽量であることから、種々の用途への適用が期待されている。
【0003】
しかし、軽量骨材を用いた軽量コンクリートにはいくつかの問題がある。例えば、軽量骨材は吸湿性が高いことから、生コンクリート工場などにおいて軽量骨材を保管するための特別な設備(サイロ等)が必要となり、軽量骨材の多量供給を行うことは必ずしも容易でない。また、軽量コンクリートの混練物は、軽量骨材自体が水を吸うためポンプ圧送性に劣る。材料分離に対する特別な配慮が必要となる場合もある。さらに、硬化後には軽量骨材中の水分が凍結融解を引き起こす要因となりやすいという問題もある。
【0004】
一方、多量の気泡をコンクリート中に連行させることにより軽量なコンクリートを得る手法も提案されている(特許文献1、2)。しかしながら、多量の気泡により軽量化を図ったコンクリート構造物は気泡に起因する空隙を有しており、外界から二酸化炭素や塩化物イオンなどの物質がその空隙を通して内部に浸入しやすく、耐久性の面で問題がある。
【0005】
また、軽量気泡コンクリート混練物をフレッシュコンクリート製造工場から打設現場まで搬送すると、その過程で混練物中の気泡が破壊されやすいため、所定の高い空気量を確保した状態で打設することが難しいという問題がある。このため、フレッシュコンクリート製造工場から離れた現場に打設する場合には、打設直前に気泡を混合する手法が採用される(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭52−4530号公報
【特許文献2】特公昭61−5438号公報
【特許文献3】特許第3478571号公報
【特許文献4】特開2007−261119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、軽量骨材を使用した軽量コンクリート並みの単位容積質量を有し、かつ外界からの物質が浸入しにくい緻密な空隙を有する軽量気泡コンクリート構造物の製造技術であって、普通コンクリートと同様にコンクリート混練物を打設現場まで搬送したのちそのまま打設する工法が採用できる技術を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、
エーテル型アニオン系界面活性剤を起泡成分とする発泡性水溶液に空気を混合して気泡を形成させ下記(A)を満たすムース状の液(「気泡液」という)を得る過程、
前記気泡液を少なくとも水、セメント、骨材(ただし軽量骨材は使用しない)とともに練り混ぜることにより、空気量5〜20%のコンクリート混練物を得る過程、
を有する軽量気泡コンクリート混練物の製造法が提供される。
(A); 気泡液を構成する気泡粒子のうち、粒径が40〜120μmかつ直径に占める膜厚の割合が25%以上である粒子が、個数割合で80%以上存在すること。
【0009】
また、軽量気泡コンクリート硬化体の製造法として、上記の製造法により得られた軽量気泡コンクリート混練物を、アジテータ車に搭載して打設現場に搬送したのち打設する方法、あるいはポンプ圧送により打設現場に搬送したのち打設する方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下のようなメリットが得られる。
(1)レディーミクストコンクリート工場において軽量骨材を保管するための特別な設備が不要である。
(2)軽量骨材を使用しないのでコンクリート混練物のポンプ圧送性が良好である。
(3)軽量骨材を使用したコンクリートで問題となりやすい凍結融解に対する抵抗力が高い。
(4)本発明に適用される気泡は膜厚が厚く壊れにくいので、打設現場へ搬送する間にコンクリート混練物中の空気量が低減しにくい。このため、軽量骨材を用いた軽量コンクリート並みの単位容積質量を有するコンクリート構造物を効率よく生産できる。
(5)気泡サイズが微細であるため、得られたコンクリート構造物は従来の軽量気泡コンクリート構造物に比べ外界からの物質遮蔽性に優れる。したがって、中性化や塩害に対する抵抗力が改善されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】中性化深さの経時変化を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
通常のコンクリートは空気量が4.5%程度であり、単位容積質量は2300kg/m3程度である。空気量を例えば15%まで増大させると単位容積質量は2070kg/m3程度となり、軽量骨材を使用しなくても軽量コンクリートとして適用可能なレベルの軽量化が実現できる。しかし、一般的な液状のAE剤を用いた場合、コンクリート中に5%以上のエントレインドエアーを導入することは難しい。特に外気温が高くなる夏期には、より難しくなる。
【0013】
また、通常のコンクリート中の気泡は、気泡粒子の径が大きいものから小さいものまで広い粒径分布を有して存在している。空気量を増すと必然的に径の大きい気泡粒子の量も増大するので物質遮蔽性が低下し、中性化や塩害に対する抵抗力が著しく低下する。
【0014】
発明者らは詳細な検討の結果、アニオン系界面活性剤の中でも、特にエーテル型アニオン系界面活性剤を起泡成分として適用した発泡性水溶液を用いて形成させた気泡の粒子は、微細かつ膜厚が厚いことがわかった。そして、この気泡粒子をコンクリート混練時に多量に添加することにより、得られた混練物は長時間安定して高い空気量を維持できる性質を有するものとなることが明らかとなった。さらに、その混練物の硬化体は、多量の気泡に起因する空隙を有するにもかかわらず、その空隙は緻密であるため、外界からの物質遮蔽性にも優れることが確認された。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
【0015】
エーテル型アニオン系界面活性剤自体は、公知のものを使用することができる。例えば特許文献4に開示されている各種エーテル型アニオン系界面活性剤を適用することができる。ただし、エーテル型アニオン系界面活性剤を起泡成分として含有する発泡性水溶液を用意し、予め気泡発生装置にてムース状の「気泡液」を生成させ、下記(A)を満たす気泡液を得ておく必要がある。
(A); 気泡液を構成する気泡粒子のうち、粒径が40〜120μmかつ直径に占める膜厚の割合が25%以上である粒子が、個数割合で80%以上存在すること。
【0016】
発泡性水溶液は、エーテル型アニオン系界面活性剤を水で希釈したものであるが、発泡性を適切にコントロールするなどの目的でエーテル型アニオン系界面活性剤以外の成分を必要に応じて配合しても構わない。気泡液における気泡粒子の粒径分布および粒子直径に占める膜厚の割合は、発泡性水溶液の成分濃度、空気の混合量などによって調整することができる。実際には予備実験により適正な気泡液が得られる条件を把握しておけばよい。
【0017】
気泡粒子の直径、膜厚は、気泡液を顕微鏡観察することにより調べることができる。具体的には、顕微鏡観察にて観測される気泡粒子の投影像において最も長い外径(直径)をその粒子の「粒径」として採用する。「直径に占める膜厚の割合(%)」(以下「膜厚比」ということがある)は、下記(1)式により定まる。
直径に占める膜厚の割合(膜厚比)(%)=(外径−内径)/外径×100 …(1)
ここで、「外径−内径」の値は、平均膜厚の2倍に相当する。
【0018】
気泡液において、粒径40μm未満の小さい気泡粒子の個数割合が過剰になると、練上り時の空気量を十分に確保するために必要な気泡液の添加量が増大し不経済となる。粒径120μmを超える大きい粒子の個数割合が過剰になるとコンクリート硬化体の耐物質遮蔽性が低下しやすい。また、粒径40〜120μmの粒子であっても、膜厚比が25%に満たない粒子は強度が不充分であり、搬送過程で消失しやすい。膜厚比は25〜80%であることがより好ましい。
【0019】
種々検討の結果、粒径40〜120μmかつ膜厚比25%以上(好ましくは25〜80%)である粒子の個数割合が80%以上である気泡液を採用することが本発明の目的を達成するうえで極めて有効であることがわかった。気泡液を構成する気泡粒子の平均粒径は50〜100μmの間にあることが望ましい。
【0020】
本発明の適用対象となるコンクリートの配合については特にこだわる必要はなく、用途を考慮して設定すればよい。具体的には例えば水結合材比40〜60%、細骨材率(s/a)20〜50%、単位水量110〜170kg/m3、単位結合材量250〜425kg/m3、単位細骨材量600〜1000kg/m3の範囲で配合を設定すればよい。フライアッシュ等の粉体で結合材の一部を置換してもよい。また、一般的なAE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤等の混和剤を添加することもできる。
【0021】
ただし、上記(A)を満たす気泡液を適量添加して混練し、練上り時の空気量を5〜20%に調整することが重要である。空気量が過小であると軽量化の効果が十分発揮されない。空気量が過大であるとコンクリートとしての強度が十分に確保できない恐れがあり、また、ワーカビリィティーの低下や硬化体の物質遮蔽性が低下する。軽量化を特に重視する用途では、練上り時の空気量を10%以上とすることがより効果的であり、15%以上とすることが一層効果的である。
【0022】
なお、一般的なAE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤等を添加する場合、それらの添加量は、「当該コンクリートの材料配合から気泡液のみを除外した配合」にて混練物を作製することを想定した場合に、その混練物中に導入される空気量が5%未満となる量とすることが好ましい。混練方法は一般的な方法が適用できる。
【0023】
このようにして得られたコンクリート混練物は、練上り後に直ちに打設してコンクリート製品を得ることも可能であるが、通常のコンクリートと同様に、アジテータ車に搭載して打設現場に搬送したのち打設する工法が採用できるところに大きな利点がある。従来の軽量気泡コンクリートの場合、練上り後の搬送過程で混練物中の空気量が大幅に減少するのに対し、本発明の製造法で得られたコンクリート混練物は搬送時における空気量の減少が顕著に抑制され、軽量気泡コンクリート構造物を効率的に構築できるのである。特に練上りから打設までに、アジテータ車による搬送を含めて30〜90分の時間を要する工法に適用することが極めて有用である。
【0024】
また、上記のようにして得られたコンクリート混練物は、練上り後にポンプ圧送により打設現場に搬送する工法が採用できるところにも大きな利点がある。例えば100m以上の圧送距離を必要とする工法に適用することが極めて有用である。なお、圧送距離の上限は、例えば500m以下の範囲で設定すればよい。
【実施例1】
【0025】
空気量の確保が難しい条件として、練上り温度が35℃となるように軽量気泡コンクリート混練物を製造した。
エーテル型アニオン系界面活性剤を起泡成分とする発泡性水溶液として、ミルコン社製「MACリート」を水で100倍に希釈した液を用意した。この発泡性水溶液に、気泡発生装置で空気を混合して、ムース状の気泡液を作製した。この気泡液は上記(A)を満たすものであることが確認された。
【0026】
参考のため、この本発明対象の気泡液を構成する気泡粒子のうち、比較的大径のものと比較的小径のものについて、内径、外径の測定データおよびそれにより算出される膜厚比を以下に例示する。比較のため、通常のAE剤を用いて発泡させた場合の気泡粒子についても、同様のデータを例示する。
【0027】
〔本発明対象の気泡液を構成する気泡〕
・比較的大径の気泡
外径:107μm、内径:73μm
膜厚比=(107−73)/107×100≒31.8(%)
・比較的小径の気泡
外径:68μm、内径:41μm
膜厚比=(68−41)/68×100≒39.7(%)
【0028】
〔通常のAE剤を用いた気泡〕
・比較的大径の気泡
外径:134μm、内径:111μm
膜厚比=(134−111)/134×100≒17.2(%)
・比較的小径の気泡
外径:76μm、内径:63μm
膜厚比=(76−63)/76×100≒17.1(%)
【0029】
上記の測定例から、本発明対象の気泡液を構成する気泡は、膜厚比が非常に大きいことがわかる。
【0030】
上記本発明対象の気泡液を、フレッシュコンクリートを製造するための各材料とともに練り混ぜ、混練物を得た。練り混ぜ時間は約2分である。セメントはポルトランドセメント、AE減水剤は日本製紙ケミカル社製「フローリックS」を使用した。配合は以下の通りである。
水セメント比:50%、細骨材率(s/a):45.0%、単位水量:138kg/m3、単位セメント量:276kg/m3、単位細骨材量:685kg/m3、単位粗骨材量:G20−10;293kg/m3、G10−05;545kg/m3、AE減水剤:セメント量の1.0%、気泡液:セメント量の3.0%
【0031】
得られたコンクリート混練物の練上り時における空気量は19.8%であった。また、この混練物をアジテータ車に搭載して通常の搬送を想定した走行を行い、練上りから60分経過した時点でアジテータ車から混練物を取り出し、その空気量を調べた。その結果、60分経過した時点での空気量は17.2%であった。このことから、本発明に従えば、練上り時の空気量を約20%とした場合、60分後にも17%程度の空気量を有する軽量気泡コンクリートが得られることが確認された。
【0032】
上記の練上りから60分経過後の混練物を用いて軽量気泡コンクリートの硬化体を作製し、材齢28日における圧縮強度を測定した結果、試験数n=3の平均で24.3N/mm2であった。この圧縮強度は、同様の配合の一般的なコンクリート硬化体(空気量約4.5%)の約8割程度であり、軽量コンクリートとして多くの用途に適用可能な強度レベルを有することが確認された。
【実施例2】
【0033】
空気量4.5%の通常のコンクリート硬化体と、本発明に従って得られた空気量15%の軽量気泡コンクリート硬化体について、中性化深さの経時変化を比較した。
軽量気泡コンクリートの混練物は、実施例1と同様の気泡液を使用して、実施例1と同様の手法にて製造した。ここでは、練上り後直ちに打設した。
【0034】
セメントはポルトランドセメント、AE減水剤は日本製紙ケミカル社製「フローリックS」を使用した。配合は以下の通りである。
〔空気量4.5%の通常のコンクリート(比較例)〕
水セメント比:50.0%、細骨材率(s/a):45.0%、単位水量:165kg/m3、単位セメント量:330kg/m3、単位細骨材量:810kg/m3、単位粗骨材量:G20−10;347kg/m3、G10−05;643kg/m3、AE減水剤:セメント量の1.0%、気泡液:(使用せず)
〔空気量15%の軽量気泡コンクリート(本発明例)〕
水セメント比:50.0%、細骨材率(s/a):45.0%、単位水量:147kg/m3、単位セメント量:294kg/m3、単位細骨材量:721kg/m3、単位粗骨材量:G20−10;309kg/m3、G10−05;572kg/m3、AE減水剤:セメント量の1.0%、気泡液:セメント量の3.0%
【0035】
中性化環境は、20℃、60%R.H.の室内大気雰囲気とした。図1に試験日数(打設からの経過時間)と中性化深さの関係を示す。本発明例の軽量気泡コンクリートは、通常のコンクリートと比較して中性化の進行が問題となるような兆候は認められなかった。これは、エーテル型アニオン系界面活性剤を用いて生成させたエントレインドエアに起因する硬化体中の空隙が非常に微細であるため、当該硬化体は優れた物質遮蔽性を呈することによる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル型アニオン系界面活性剤を起泡成分とする発泡性水溶液に空気を混合して気泡を形成させ下記(A)を満たすムース状の液(「気泡液」という)を得る過程、
前記気泡液を少なくとも水、セメント、骨材(ただし軽量骨材は使用しない)とともに練り混ぜることにより、空気量5〜20%のコンクリート混練物を得る過程、
を有する軽量気泡コンクリート混練物の製造法。
(A); 気泡液を構成する気泡粒子のうち、粒径が40〜120μmであり、かつ直径に占める膜厚の割合が25%以上である粒子が、個数割合で80%以上存在すること。
【請求項2】
請求項1に記載の製造法により得られた軽量気泡コンクリート混練物をアジテータ車に搭載して打設現場に搬送したのち打設する軽量気泡コンクリート硬化体の製造法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造法により得られた軽量気泡コンクリート混練物をポンプ圧送により打設現場に搬送したのち打設する軽量気泡コンクリート硬化体の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−162418(P2012−162418A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23504(P2011−23504)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】