説明

較正用治具及び較正処理システム

【課題】渦電流式変位計測器を、非磁性体であって互いに異なる既知の厚みを有する複数の基準板を用いて較正を行うに際し、基準板の入れ替え作業を省略して作業者の手間を省き、較正のための計測を自動的に行うことを可能とする技術を提案する。
【解決手段】渦電流式変位計測器のプローブ12を保持するプローブ支持部11と、ターゲット37を前記プローブ12のプローブヘッド12aに対して進退移動可能に支持するターゲット支持部30と、複数の基準板F・F・・・を一体的に保持し、これらの基準板F・F・・・をプローブヘッド12aとターゲット37との間の計測位置に順次移動させる機能を備えた回転盤40(基準板保持部材)と、該回転盤40をプローブヘッド12aに対して進退移動可能に支持する保持部材支持部20と、回転盤40、保持部材支持部20、及びターゲット支持部30の駆動を制御する駆動制御部66とを、較正用治具10に備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流式変位計測器の較正技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、渦電流式の変位計測器として、微小距離を検出する渦電流式変位計(ギャップセンサ)や、微小膜厚を検出する渦電流式膜厚計が知られている。
【0003】
高周波電流が流れるコイルが内装された前記変位計測器のプローブでは、発振回路に内蔵されたコンデンサとコイルとの共振により基本周波数を発振する。このコイルの磁界内に、ターゲットである電気抵抗が小さい導電体(例えば、金属製物体)が入ることによって、コイルに渦電流損失が生じて発振回路の共振電圧に変化が生じる。
【0004】
渦電流式変位計では、この共振電圧の変化を検出し、予め求めておいた共振電圧の変化と、ターゲットとプローブヘッドとの距離変化との関係から、ターゲットとプローブヘッドとの距離(ギャップ)を計測する。
また、渦電流式膜厚計では、前記共振電圧の変化を検出し、予め求めておいた発振回路の共振電圧の変化と、金属膜の膜厚変化との関係から、当該金属膜の膜厚を計測する。
【0005】
なお、渦電流式膜厚計では、ターゲットを金属膜の表面とし、該金属膜を支持する基台からプローブヘッドとの距離を膜厚ゼロとして、ターゲットとプローブヘッドとの距離から、金属膜の膜厚を計測する。
従って、渦電流式変位計測器である渦電流式変位計と渦電流式変位計とは、距離と膜厚とで異なる対象を計測するものの、何れも、プローブヘッドとターゲットとの間の距離を検出するという測定原理が共通する。
【0006】
上記のような渦電流式変位計測器では、プローブに用いられるコイルは、合成樹脂製又はセラミック製の巻枠に巻回されるが、この巻枠は温度の上昇とともに膨張するため、巻枠に巻回されたコイルの寸法が変化し、コイルのインダクタンスが増大して、発振電圧が大きくなることがある。
また、プローブ周辺の温度雰囲気によりコイルの抵抗値が変化し、コイルの抵抗値の温度変換より、発振電圧が変動する。コイルは金属導線で成るため、この抵抗値は温度の増加とともに増大する。
【0007】
よって、渦電流式変位計測器では、測定雰囲気の温度が変化すると、この温度変化により計測誤差が生じることとなる。
例えば、エンジンの性能試験においては、エンジンの運転時と非運転時との性能を調べるために約180℃の高温で変位計測を行うことがある。また、エンジンの環境試験においては、約−30℃の低温で変位計測を行うことがある。このように、ターゲット(測定雰囲気)に−30〜180℃の約200℃温度変化がある状態で同一の関係式を用いて変位計測を行えば、温度変化に基づく測定誤差を無視することはできない。
従って、渦電流式変位計測器では、測定雰囲気においてキャリブレーションを行い、共振電圧変化と距離変化又は膜厚変化との関係式を較正したうえで、計測を行わなければならない。
【0008】
較正処理は、測定雰囲気の温度状態を実現するために恒温槽等の温度制御可能な容器内にて計測を行う。
但し、恒温槽内において、プローブと較正用ターゲットと、これらを支持する較正用治具を用いて較正処理を行う場合、計測の出力値の変動が、較正用治具の熱膨張又は熱収縮によるものか、計測距離の変位によるものかを特定することが困難であるため、較正処理にて得られた電圧変化と距離変化との関係式の精度が保証できない。
【0009】
そこで、較正用治具の熱変形による出力値の変動を解消するために、例えば、基板上に固定されたプローブの支持台及び較正用ターゲットの支持台と、既知の厚さを有する非磁性体で成る基準板とを備えた較正用治具を用い、プローブヘッドと較正用ターゲットとの間に基準板を介挿して、変位計測を行う手法を採用することができる。この場合、それぞれに厚さの異なる複数の基準板に対して変位計測を行い、電圧変化と距離変化との関係式を較正する。
【0010】
上述のような較正処理を行う場合、複数枚(例えば、10枚)の基準板を用い、それぞれについて温度を変化させながら、変位計測を行う。しかし、作業者が、一枚ずつ基準板を入れ替えて計測を行うので、作業者は常に計測作業に拘束されるため、作業効率の悪い作業となってしまっている。
【特許文献1】特開平1−156615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明では、渦電流式変位計測器を、既知の厚みを有する複数の基準板を用いて較正を行うに際し、基準板の入れ替え作業を省略して作業者の手間を省き、較正のための計測を自動的に行うことを可能とする技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0013】
即ち、請求項1においては、渦電流式変位計測器を、非磁性体であって互いに異なる既知の厚みを有する複数の基準板を用いて較正するために供する較正用治具であって、渦電流式変位計測器のプローブを保持するプローブ支持部と、前記プローブに対向配置されるターゲットを前記プローブのプローブヘッドに対して進退移動可能に支持するターゲット支持部と、前記複数の基準板を一体的に保持し、これらの基準板をプローブヘッドとターゲットとの間の計測位置に順次移動させる機能を備えた基準板保持部材と、前記基準板保持部材をプローブヘッドに対して進退移動可能に支持する保持部材支持部とを、含むものである。
【0014】
請求項2においては、前記基準板保持部材は、基準板が嵌設される複数の孔を同心円上に穿設した回転盤であるものである。
【0015】
請求項3においては、前記基準板保持部材には貫通孔が形成され、該貫通孔を厚みゼロの基準板として用いるものである。
【0016】
請求項4においては、前記ターゲット支持部は、ターゲットがプローブヘッド又は基準板に当接したときに、該ターゲットがプローブヘッドに対して進退する方向へ伸長又は短縮する弾性部材を介してターゲットを支持するものである。
【0017】
請求項5においては、前記保持部材支持部は、基準板がプローブヘッドに当接したときに、該基準板がプローブヘッドに対して進退する方向へ伸長又は短縮する弾性部材を介して基準板保持部材を支持するものである。
【0018】
請求項6においては、前記ターゲット支持部に、ターゲットをプローブヘッドに対して進退移動させる駆動手段を備え、前記基準板保持部材に、基準板をプローブヘッドとターゲットとの間の計測位置に順次移動させる駆動手段を備え、前記保持部材支持部に、基準板保持部材をプローブヘッドに対して進退移動させる駆動手段を備え、これらの各駆動手段の駆動を制御する制御部を、さらに備えるものである。
【0019】
請求項7においては、請求項1〜請求項6の何れか一項に記載の較正用治具と、前記較正用治具に支持されるプローブのプローブヘッドとターゲットとの間の計測位置の雰囲気を所定温度に保持するための恒温槽と、前記計測位置の温度を計測する温度計測手段とを、備える較正処理システムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0021】
本発明によれば、基準板を一枚ずつ脱着して入れ替える作業を省略して作業者の手間を省き、較正のための計測の自動化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の実施例に係る較正用治具の構成を示す図、図2は基準板の基準板保持部材の構成を示す図、図3は較正用治具の一部拡大図である。図4は基準板の基準板保持部材の別形態を示す図、図5は基準板の基準板保持部材の別形態を示す図である。図6は較正処理システムの全体的な構成を示す図、図7は較正処理システムの制御ブロック図、図8は較正処理の流れ図、図9は待機状態の較正用治具の様子を示す図である。
【0023】
本発明の実施例に係る較正用治具は、渦電流式変位計(ギャップセンサ)の較正を行うために用いるものである。
但し、渦電流式変位計測器である渦電流式変位計と、渦電流式膜厚計とは、何れも、プローブヘッドとターゲットとの間の距離を検出するという測定原理が共通し、同様の較正用治具及び較正手法を用いて、較正を行うことができる。
【0024】
図1に示すように、渦電流式変位計の較正用治具10は、基台13に載置固定された、該渦電流式変位計のプローブ12を支持するプローブ支持部11、基準板Fが保持された回転盤40、該回転盤40を支持する保持部材支持部20、及び、ターゲット37を支持するターゲット支持部30と、駆動制御部66とが具備される。
【0025】
[プローブ支持部11]
前記プローブ支持部11は、渦電流式変位計のプローブ12を、プローブヘッド12aを略水平方向に向けて突きだした状態に保持するものである。従って、プローブ支持部11に支持されたプローブ12のプローブヘッド12aは、略水平方向を向いて配置される。
【0026】
[回転盤40及び保持部材支持部20]
前記保持部材支持部20は、回転盤40を、前記プローブヘッド12aに対して進退可能に支持するためのものである。
回転盤40は、較正処理に用いられる複数の基準板F・F・・・を一体的にまとめて保持する基準板保持部材であって、これらの基準板F・F・・・をプローブヘッド12aとターゲット37との間の計測位置に順次移動させる機能が備えられる。
【0027】
図2にも示すように、前記回転盤40は、複数の孔42・42・・・が同心円上に設けられた円盤41が、駆動手段である回転モータ27により回転駆動される駆動軸28の端部に固設されて成るものである。
前記円盤41に設けられた孔42・42・・・には、一つを除いてそれぞれに基準板F・F・・・が嵌設される。すなわち、円盤41に設けられた孔42・42・・・のうち、一つは基準板Fが嵌設されずに、貫通孔とされる。
前記回転盤40は、回転モータ27の動力を受けて回転し、プローブヘッド12aとターゲット37との間の計測位置に基準板F・F・・・を順次移動させることができる。
【0028】
前記基準板Fは、非磁性体(本実施例ではセラミックス製)で成る板状体であり、既知の厚みを有する。この基準板Fは、厚みの異なる複数枚が較正のために使用される。
前記基準板Fの厚みや、厚み変化のピッチ、円盤41に備えられる孔42及び基準板Fの数は、較正しようとする渦電流式変位計で計測する距離の範囲によって、適宜調整される。
【0029】
本実施例では、0〜0.5mmの距離を計測可能な渦電流式変位計の較正のために、プローブヘッド12aとターゲット37との間隙を、0〜0.5mmの間で0.050mmごとに10点計測する。
従って、前記円盤41には、10個の孔42・42・・・が穿設され、0.050mmから0.500mmまで、0.050mmピッチで9枚の基準板Fn(n=1〜9)が嵌め込まれる。そして、円盤41には、基準板Fn(n=1〜9)が嵌め込まれた孔42・42・・・の他に、基準板Fが嵌め込まれない貫通孔が設けられ、ここに、厚み0mmの基準板F0が存在するものと擬制される。このように、ゼロ点補正を行うための基準板F0も含めて、複数枚の基準板F・F・・・が回転盤40に一体的に備えられる。
【0030】
そして、前記回転盤40は、スライドブロック23に立設された支持板26の上部に固設される。詳しくは、回転盤40を構成する回転モータ27が支持板26の上部に固設される。
図3にも示すように、前記スライドブロック23の内部には、支持板26の下部が、前記プローブ支持部11に保持されたプローブ12のプローブヘッド12aに対して進退する方向に移動可能に挿入され、該前記支持板26の下部とスライドブロック23内部との間は弾性部材25で連結される。
なお、前記弾性部材25は、基準板Fがプローブヘッド12aに対して進退する方向へ伸縮可能であればよいので、本実施例において前記弾性部材25は、スライドブロック23内部において、支持板26を介して一側に設けているが、該支持板26を介して他側に設けることも、また、該支持板26を介して両側にそれぞれ設けることもできる。
【0031】
前記スライドブロック23は、基台13にリニアガイド24を介して固定され、該リニアガイド24のガイド方向に沿って移動可能とされる。前記リニアガイド24のガイド方向は、回転盤40がプローブヘッド12aに対して進退する方向である。
また、スライドブロック23には、ボールネジ22の一側端部が接続される。該ボールネジ22はスライドモータ21により伸縮駆動される。
前記スライドモータ21、ボールネジ22、スライドブロック23、リニアガイド24等により回転盤40のスライド機構が構成され、スライドブロック23がリニアガイド24のガイド方向に沿って移動することによって、回転盤40がプローブヘッド12aに対して進退移動する。
【0032】
なお、較正用治具10に備えられる基準板Fの基準板保持部材は、較正処理に用いられる複数の基準板F・F・・・が一体的にまとめて保持されており、これらの基準板F・F・・・をプローブヘッド12aとターゲット37との間の計測位置に順次移動させる機能を有するものであればよいので、基準板Fの基準板保持部材は回転盤40に限定されるものではない。
【0033】
例えば、基準板Fの基準板保持部材を長尺方向に移動する矩形板状とすることができる。
この場合、図4及び図5に示すように、複数の基準板Fを一体的にまとめて保持する矩形板45には、複数の孔46・46・・・が穿設され、該孔46・46・・・に基準板F・F・・・が嵌設される。前記矩形板45の下部は、支持板26の上部に設けられたガイド体49に挿入され、該ガイド体49によって略水平方向に移動可能に支持される。前記支持板26には、出力軸48aにピニオン48bが設けられたモータ48が固設される。このピニオン48bは、前記矩形板45に固設されたラック47と噛合するように配置される。上記構成によれば、モータ48の動力を受けて矩形板45が略水平方向に移動し、これにより、基準板F・F・・・をプローブヘッド12aとターゲット37との間の計測位置に順次移動させて、入れ替えることができる。
【0034】
[ターゲット支持部30]
前記ターゲット支持部30は、ターゲット37をプローブヘッド12aに対して進退移動可能に支持するためのものである。
前記ターゲット37は、磁性体で成る較正用試料である。渦電流式変位計では、このターゲット37とプローブヘッド12aとの距離(間隙)が計測される。
【0035】
前記ターゲット37の被計測面37aは、プローブ12のプローブヘッド12aと対峙する位置に設けられる。該ターゲット37は、スライドブロック33に立設された支持板36の上部に固設される。
図3にも示すように、前記スライドブロック33の内部には、支持板36の下部が、前記プローブ支持部11に保持されたプローブ12のプローブヘッド12aに対して進退する方向に移動可能に挿入され、該前記支持板36の下部とスライドブロック33内部との間は弾性部材35で連結される。
なお、前記弾性部材35は、ターゲット37がプローブヘッド12aに対して進退する方向へ伸縮可能であればよいので、本実施例において前記弾性部材35は、スライドブロック33内部において、支持板36を介して一側に設けているが、該支持板36を介して他側に設けることも、また、該支持板36を介して両側にそれぞれ設けることもできる。
【0036】
前記スライドブロック33は、基台13にリニアガイド34を介して固定され、該リニアガイド34のガイド方向に沿って移動可能とされる。前記リニアガイド34のガイド方向は、ターゲット37がプローブヘッド12aに対して進退する方向である。
また、スライドブロック33には、ボールネジ32の一側端部が接続される。該ボールネジ32はスライドモータ31により伸縮駆動される。
前記スライドモータ31、ボールネジ32、スライドブロック33、リニアガイド34等によりターゲット37のスライド機構が構成され、スライドブロック33がリニアガイド34のガイド方向に沿って移動することによって、ターゲット37がプローブヘッド12aに対して進退移動する。
【0037】
[駆動制御部66]
前記駆動制御部66は、図7に示すように、前記回転モータ27、スライドモータ21、及びスライドモータ31に電気的に接続され、これらのサーボモータ27・21・31の動作、すなわち、較正用治具10の動作を制御する制御手段として機能するものである。
なお、これらのサーボモータ27・21・31と駆動制御部66との間には、該駆動制御部66からの制御信号の増幅器であるアンプ55・54・53がそれぞれ介挿される。
【0038】
[較正処理システム9]
続いて、上記構成の較正用治具10を利用した、本実施例に係る渦電流式変位計の較正処理システム9について説明する。
図6に示すように、較正処理システム9は、較正用治具10、恒温槽51、演算制御装置60等で構成され、前記較正用治具10は、温度制御可能な恒温槽51内に入れられ、演算制御装置60とともに用いられる。
【0039】
前記恒温槽51は、較正用治具10に支持されるプローブ12のプローブヘッド12aとターゲット37との間の計測位置の雰囲気を所定温度に保持するため容器である。
前記恒温槽51内において、プローブ12のプローブヘッド12aとターゲット37の間に配置される基準板Fの近傍には、計測雰囲気の温度を計測するために、熱電対等の温度検出器52が備えられる。
【0040】
図7に示すように、前記演算制御装置60には、温度計測部67が備えられる。温度計測部67には、前記温度検出器52が電気的に接続され、該温度検出器52の検出信号が伝達される。
演算制御装置60の温度計測部67は、温度検出器52からの検出信号を受けて、計測雰囲気の温度を算出する演算手段として機能する。
【0041】
また、前記演算制御装置60には、変位計測部68が備えられる。該変位計測部68には、増幅器であるアンプ56を介してプローブ12が接続される。
演算制御装置60の変位計測部68は、プローブ12に具備されるコイルに流れる電圧の変化を計測して、予め設定されたプローブ12に具備されるコイルに流れる電圧の変化と、プローブヘッド12aとターゲット37との距離との関係を定める関係式から、プローブヘッド12aとターゲット37との距離を算出する演算手段として機能する。
【0042】
さらに、前記演算制御装置60には、温度計測部67と、変位計測部68と、前記較正用治具10の駆動制御部66とを関連づけて制御する制御部69が備えられる。
なお、本実施例において上記演算制御装置60として、CPU61、モニタ等の出力手段62、キーボード等の入力手段63を備えた汎用コンピュータ(電子計算機)を採用し、該演算制御装置60には、較正用治具10の制御手段である駆動制御部66、計測雰囲気の温度を算出する演算手段である温度計測部67、プローブヘッド12aとターゲット37との距離を算出する演算手段である変位計測部68、較正処理システム9の制御手段である制御部69を、併せ持つ。
但し、演算制御装置60の構成は本実施例に限定されるものではなく、駆動制御部66、温度計測部67、変位計測部68、制御部69の機能を独立して備えた専用装置をそれぞれ採用することもできる。
【0043】
続いて、上記較正処理システム9を用いた渦電流式変位計の較正処理における演算制御装置60による制御の流れを、図8に示す流れ図を用いて説明する。
なお、較正処理開始前には、較正用治具10は待機状態とされる。図9に示すように、待機状態の較正用治具10では、プローブ12のプローブヘッド12aと回転盤40とが離間され、且つ、回転盤40とターゲット37の被計測面37aとが離間されて、回転盤40は自在に回転できる状態となっている。
【0044】
まず、演算制御装置60では、計測に供される基準板Fが初期状態に設定される(S1)。
本実施例においては、10枚の基準板Fn(n=0〜9)についてそれぞれ計測雰囲気の温度を変化させながら、プローブ12に具備されるコイルに流れる電圧値を計測する。従って、基準板Fの番号が初期状態に設定されたことによって、基準板Fは基準板Fn(n=0)となる。
【0045】
演算制御装置60は、回転モータ27に制御信号を送り、対峙するプローブ12のプローブヘッド12aと、ターゲット37の被計測面37aとの間の計測位置に基準板Fが位置するように、回転盤40を回転させる(S2)。
【0046】
演算制御装置60では、基準板Fが計測位置にある回転盤40の回転位相を基準位相として記憶し、この基準位相となるように回転モータ27にて駆動軸28を回転させる。
なお、基準板Fn(n=0)以外の基準板Fn(n=1〜nend)については、基準位相から所定角度回転させることによって、変位計測される基準板Fを計測位置に移動させることができる。
【0047】
回転盤40の基準板Fが、プローブヘッド12aと被計測面37aとの間に至れば、続いて、演算制御装置60は、スライドモータ21に制御信号を送り、回転盤40に保持された基準板Fがプローブヘッド12aに当接するまで、プローブヘッド12aに対してスライドブロック23を前進させる(S3)。
【0048】
このとき、プローブヘッド12aに基準板Fが当接することによって、保持部材支持部20に設けられた弾性部材25が縮む。
但し、本実施例では前記弾性部材25は、支持板26のプローブヘッド12aに対して後側に設けているので、プローブヘッド12aに基準板Fが当接することによって弾性部材25が縮むが、該弾性部材25を支持板26を介してこれと反対側に設けるときには弾性部材25は伸びることとなる。
【0049】
なお、基準板Fをプローブヘッド12aに当接するまで移動させるために、スライドモータ21に発生するトルクの変化や、スライドブロック23に対する支持板26の相対変化量等により、基準板Fがプローブヘッド12aに当接したことを検出して、スライドモータ21を停止するように構成したり、予め設定された所定距離分だけ回転盤40が移動するようにスライドモータ21を駆動するように構成したりすることができる。
【0050】
上述のように、保持部材支持部20は、基準板Fがプローブヘッド12aに当接したときに、該基準板Fがプローブヘッド12aに対して進退する方向へ伸長又は短縮する弾性部材25を介して基準板保持部材である回転盤40を支持するので、該回転盤40のプローブヘッド12aに対して進退する方向への移動が許容され、プローブヘッド12aと基準板Fとの当接が緩衝される。
よって、回転盤40に高度な位置精度、すなわち、スライドブロック23に高度な移動距離精度が求められずに、プローブ12に基準板Fを当接させることが可能となり、装置を簡易且つ安価に構成することができる。
また、基準板Fがプローブヘッド12aに当接したあとは、弾性部材25に生じる弾性力によって、回転盤40はプローブ12側へ付勢される。
【0051】
続いて、演算制御装置60は、スライドモータ31に制御信号を送り、ターゲット37の被計測面37aが基準板F(基準板Fn(n=0)の場合はプローブヘッド12a)に当接するまで、プローブヘッド12aに対してスライドブロック33を前進させる(S4)。
【0052】
このとき、基準板F(又はプローブヘッド12a)にターゲット37が当接することによって、ターゲット支持部30に設けられた弾性部材35が伸びる。
但し、本実施例では前記弾性部材35は、支持板36のプローブヘッド12aに対して前側に設けているので、基準板Fにターゲット37が当接することによって弾性部材35が伸びるが、該弾性部材35を支持板36を介してこれと反対側に設けるときには弾性部材35は縮むこととなる。
【0053】
なお、ターゲット37を基準板F(又はプローブヘッド12a)に当接するまで移動させるために、スライドモータ31に発生するトルクの変化や、スライドブロック33に対する支持板36の相対変化量等により、ターゲット37を基準板F(又はプローブヘッド12a)に当接したことを検出して、スライドモータ31を停止するように構成したり、予め設定された所定距離分だけターゲット37が移動するようにスライドモータ31を駆動するように構成したりすることができる。
【0054】
上述のように、ターゲット37が基準板F(又はプローブヘッド12a)に当接したときに、該ターゲット37がプローブヘッド12aに対して進退する方向へ伸長又は短縮する弾性部材35を介してターゲットを支持するので、回転盤40のプローブヘッド12aに対して進退する方向への移動が許容される。よって、ターゲット37に高度な位置精度、すなわち、スライドブロック33に高度な移動距離精度が求められずに、基準板Fにターゲット37を当接させることが可能となり、装置を簡易且つ安価に構成することができる。
【0055】
また、プローブ12とターゲット37とで基準板Fを挟み込んだ状態において、弾性部材35にてターゲット37が基準板F(プローブヘッド12a)側へ付勢される。よって、基準板Fが両面から略一定の圧で押圧された状態となるので、例え基準板Fが傾いていたとしても、プローブ12のプローブヘッド12aとターゲット37の被計測面37aの両方に基準板Fが面で接し、基準板Fの傾きが矯正されるので、精確に計測を行うことができる。
【0056】
前述のように、プローブ12のプローブヘッド12aと、ターゲット37の被計測面37aとで基準板Fを挟み込んだ状態となれば、プローブヘッド12aと被計測面37aとの変位計測が行われる(S5)。
演算制御装置60では、プローブ12のコイルを流れる電圧変化が検出され、この電圧変化が、予め設定された距離(例えば、基準板F0の場合、距離は0mm)及び計測雰囲気の温度と関連づけて、記憶される。
【0057】
変位計測が終われば、今度は計測前とは逆順に、演算制御装置60はスライドモータ31に制御信号を送り、回転盤40からターゲット37を離して互いに干渉しないようにするために、プローブヘッド12aに対してスライドブロック33を後退させる(S6)。
【0058】
続いて、演算制御装置60は、スライドモータ21に制御信号を送り、プローブヘッド12aから回転盤40を離して互いに干渉しないようにするために、プローブヘッド12aに対してスライドブロック23を後退させる(S7)。
これにより、較正用治具10は図9に示すような待機状態に戻ることとなる。
【0059】
そして、計測を終えた基準板Fnが、予め設定された最終の基準板Fn(n=nend)でなければ(S8)、次の基準板Fn(n=n+1)を設定し(S10)、上記S2〜S9の処理を繰り返して、当該次の基準板において計測を行う。
一方、基準板Fnが予め設定された最終の基準板Fn(n=nend)であれば(S8)、演算制御装置60では、電圧の変化と距離との関係式を較正する演算処理が行われ、この結果が記録される(S9)。
以上により、所定温度において、渦電流式変位計の較正処理を行うことができる。
【0060】
上述のように、較正処理システム9では、較正に使用される基準板Fの入れ替えを自動的に行い、順次計測することにより、渦電流式変位計の較正処理を行うことができる。よって、作業者による基準板Fを一枚ずつ脱着して入れ替える作業を省略して作業者の手間を省き、較正のための計測の自動化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施例に係る較正用治具の構成を示す図。
【図2】基準板の基準板保持部材の構成を示す図。
【図3】較正用治具の一部拡大図。
【図4】基準板の基準板保持部材の別形態を示す図。
【図5】基準板の基準板保持部材の別形態を示す図。
【図6】較正処理システムの全体的な構成を示す図。
【図7】較正処理システムの制御ブロック図。
【図8】較正処理の流れ図。
【図9】待機状態の較正用治具の様子を示す図。
【符号の説明】
【0062】
F 基準板
9 較正処理システム
10 較正用治具
11 プローブ支持部
12 プローブ
20 保持部材支持部
21 スライドモータ
25 弾性部材
27 回転モータ
28 駆動軸
30 ターゲット支持部
31 スライドモータ
35 弾性部材
37 ターゲット
40 回転盤
60 演算制御装置
66 駆動制御部
67 温度計測部
68 変位計測部
69 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦電流式変位計測器を、非磁性体であって互いに異なる既知の厚みを有する複数の基準板を用いて較正するために供する較正用治具であって、
渦電流式変位計測器のプローブを保持するプローブ支持部と、
前記プローブに対向配置されるターゲットを前記プローブのプローブヘッドに対して進退移動可能に支持するターゲット支持部と、
前記複数の基準板を一体的に保持し、これらの基準板をプローブヘッドとターゲットとの間の計測位置に順次移動させる機能を備えた基準板保持部材と、
前記基準板保持部材をプローブヘッドに対して進退移動可能に支持する保持部材支持部とを、
含むことを特徴とする較正用治具。
【請求項2】
前記基準板保持部材は、基準板が嵌設される複数の孔を同心円上に穿設した回転盤であることを特徴とする、
請求項1に記載の較正用治具。
【請求項3】
前記基準板保持部材には貫通孔が形成され、該貫通孔を厚みゼロの基準板として用いることを特徴とする、
請求項1又は請求項2に記載の較正用治具。
【請求項4】
前記ターゲット支持部は、ターゲットがプローブヘッド又は基準板に当接したときに、該ターゲットがプローブヘッドに対して進退する方向へ伸長又は短縮する弾性部材を介してターゲットを支持することを特徴とする、
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の較正用治具。
【請求項5】
前記保持部材支持部は、基準板がプローブヘッドに当接したときに、該基準板がプローブヘッドに対して進退する方向へ伸長又は短縮する弾性部材を介して基準板保持部材を支持することを特徴とする、
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の較正用治具。
【請求項6】
前記ターゲット支持部に、ターゲットをプローブヘッドに対して進退移動させる駆動手段を備え、
前記基準板保持部材に、基準板をプローブヘッドとターゲットとの間の計測位置に順次移動させる駆動手段を備え、
前記保持部材支持部に、基準板保持部材をプローブヘッドに対して進退移動させる駆動手段を備え、
これらの各駆動手段の駆動を制御する制御部を、さらに備えることを特徴とする、
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の較正用治具。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れか一項に記載の較正用治具と、
前記較正用治具に支持されるプローブのプローブヘッドとターゲットとの間の計測位置の雰囲気を所定温度に保持するための恒温槽と、
前記計測位置の温度を計測する温度計測手段とを、
備えることを特徴とする、較正処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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