説明

輪転印刷機及び輪転印刷機の見当制御方法

【課題】 輪転印刷機及び輪転印刷機の見当制御方法に関し、胴入れ時から見当を合致できるようにして損紙の発生を大幅に低減できるようにする。
【解決手段】 印刷にかかる資材及び輪転印刷機の運転状態に関するパラメータのうち見当ずれを左右する特定のパラメータを入力する入力装置44と、特定のパラメータに対する各印刷ユニット13A〜13Dの版胴5間の最適な位相関係を記憶したデータベース46と、入力装置44により入力された特定のパラメータに対応する最適位相関係をデータベース46から検索し、胴入れ前に各印刷ユニット13A〜13Dの版胴5間の位相関係を最適位相関係にプリセットするプリセット装置43とを備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の印刷ユニットを備えた多色刷りの輪転印刷機において各印刷ユニットで印刷される絵柄間の見当のずれを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の印刷ユニットを備えた多色刷りの商業用オフセット輪転印刷機(以下、単に輪転印刷機又は印刷機ともいう)で生産した印刷物の品質を測る基準の一つとして、絵柄の見当ずれの有無がある。絵柄の見当ずれは、印刷中の用紙の伸び,用紙にかかるテンション,印刷速度などの変化等によって各印刷ユニット間における用紙の走行長さが微妙に変化し、この走行長さの変化によって各色の絵柄の印刷位置が天地方向(用紙の流れ方向)に微妙にずれてしまうことによる。
【0003】
特許文献1には、このような絵柄の見当ずれを印刷中に自動で修正する技術が開示されている。具体的には、各印刷ユニットにおいて本来の絵柄とは別に見当合わせのためのマーク(見当マーク)を用紙上の所定位置に印刷(実際には、ある決められた形状で各色のマーク距離が予め一定になるように印刷)し、この各色の見当マークを折機への導入部上流に配置された見当マーク検知センサ(センサ方式以外にカメラ方式もある)で検出する。そして、自動見当装置が、見当マーク検知センサにより検出された各色の見当マークのずれ、具体的には、基準となる色(例えば紅)の見当マークに対する他の色(墨,藍,黄)の見当マークの天地方向位置のずれを計測し、計測した各色の見当マークのずれに応じて紅色の印刷ユニット(例えば紅を基準とした場合)を基準として、他の印刷ユニットの版胴に備えられた見当位相制御用モータを制御し、基準印刷ユニットと他の印刷ユニット間の版胴の位相関係を修正し、紙面上の絵柄の見当を一致させる。
【0004】
また、印刷機は、例えば図3に示すように、紙や刷版の交換等の準備作業が行なわれた後、まず、通常の営業運転速度(生産速度)よりも低速の調整速度まで加速され、この加速している間に胴入れが行なわれて(即ちニップが付加されて)印刷が開始される。そして、上述した自動見当装置により自動的に見当ずれの修正が行なわれ、自動見当装置又はオペレータの目視によって絵柄の見当が合致して製品である「正紙」としての品質を具備した印刷物(OKシート)が得られたと判断され調整が完了したら、自動見当装置又はオペレータのスイッチ操作により印刷機が調整速度から営業運転速度まで加速される。営業運転速度での印刷が終了したら、印刷機は営業運転速度から減速していく途中で胴抜きが行なわれた後停止される。
【特許文献1】特開2003−291311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、胴入れが行なわれた後、調整速度から営業運転速度まで加速する間も自動的に見当ずれの修正が行なわれるので、損紙の発生を低減することが可能である。
しかしながら、特許文献1に開示された見当修正制御は加速中の実際の見当ずれ量を補正するフィードバック制御や見当ずれ量を予め補正するフィードフォワード制御であるので、印刷開始時の見当については、胴入れが行なわれてから実際にOKシートが得られるまでには時間がかかり、その間に印刷された印刷物は損紙となってしまう。
【0006】
近年さらなる損紙低減が求められており、胴入れが行なわれてからOKシートが得られるまでの損紙も極力低減することが求められている。
本発明は、このような課題に鑑み創案されたものであり、胴入れ時から見当を合致できるようにして損紙の発生を大幅に低減できるようにした、輪転印刷機及び輪転印刷機の見当制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1記載の本発明の輪転印刷機は、複数の印刷ユニットを備え、前記各印刷ユニットにより印刷される用紙の絵柄間の見当ずれを制御する輪転印刷機であって、印刷にかかる資材及び輪転印刷機の運転状態に関するパラメータのうち前記見当ずれを左右する特定のパラメータを入力する入力装置と、前記特定のパラメータに対する前記各印刷ユニットの版胴間の最適位相関係を記憶したデータベースと、前記入力装置により入力された前記特定のパラメータに対応する前記最適位相関係を前記データベースから検索し、胴入れ前に前記各印刷ユニットの版胴間の位相関係を前記最適位相関係にプリセットするプリセット装置とをそなえていることを特徴としている。
【0008】
一般に、資材及び輪転印刷機の運転状態によって紙の伸び量、及び印刷ユニット間の紙長さが変わり、これにより見当ずれが生じる。したがって、特定のパラメータから予め紙伸び量、及び印刷ユニット間の紙長さを予測して、胴入れ前に各印刷ユニット間の位相関係が特定のパラメータに対応した最適位相関係となるようにプリセットしておくことで胴入れ時から見当を合致させることができるので、調整時間を短縮でき、刷り出し時の損紙を低減することができる。
【0009】
請求項2記載の本発明の輪転印刷機は、請求項1記載の構成において、前記資材に関するパラメータは、前記用紙の材質及び坪量のうち少なくとも一方を含んでいることを特徴としている。紙伸び量は用紙の材質(紙種)や坪量によって異なる。例えば、コート紙の場合は紙伸び量が比較的小さく、新聞紙の場合は紙伸び量が比較的大きくなる。このため、用紙の材質や坪量は、資材に関する重要なパラメータの1つとなる。
【0010】
請求項3記載の本発明の輪転印刷機は、請求項1又は2記載の構成において、前記運転状態に関するパラメータは、印刷速度及び前記用紙に与えるテンション値のうち少なくとも一方を含んでいることを特徴としている。このように、印刷中に用紙がブランケット胴にとられることで用紙にたわみが生じ、印刷速度によっても紙伸び量、及び印刷ユニット間の紙長さが異なる。また、同じテンション値でも用紙毎に紙伸び量、及び印刷ユニット間の紙長さが異なる。このため、印刷速度及びテンション値は運転状態に関する重要なパラメータの1つとなる。
【0011】
請求項4記載の本発明の輪転印刷機は、請求項1〜3の何れか1項に記載の構成において、前記データベースに記憶された前記最適位相関係は、前記見当が合致するときの位相関係であることを特徴としている。なお、ここでいう見当の合致とは、見当ずれが、印刷品質上正紙と判断しうる許容精度範囲内にあることも含む。
請求項5記載の本発明の輪転印刷機は、請求項1〜4の何れか1項に記載の構成において、前記各印刷ユニットにより印刷される前記用紙の絵柄間の見当ずれを検出し、検出された前記見当ずれを打ち消す方向に前記各印刷ユニットの版胴間の位相関係を自動修正する自動見当修正手段をそなえていることを特徴としている。
【0012】
請求項6記載の本発明の輪転印刷機の見当制御方法は、複数の印刷ユニットと、該印刷ユニットを制御する制御装置とを備えた輪転印刷機における前記各印刷ユニットにより印刷される用紙の絵柄間の見当ずれを制御する方法であって、前記制御装置は、印刷にかかる資材及び輪転印刷機の運転状態に関するパラメータのうち前記見当ずれを左右する特定のパラメータを入力する入力ステップと、前記特定のパラメータに対する前記各印刷ユニットの版胴間の最適位相関係を記憶したデータベースから、前記入力ステップにて入力した前記特定のパラメータに対応する該最適位相関係を検索するデータベース検索ステップと、胴入れ前に前記各印刷ユニットの版胴間の位相関係を、前記データベース検索ステップで検索した前記最適位相関係にプリセットするプリセットステップと、前記プリセットステップの後、開始する印刷ステップとを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の輪転印刷機及び輪転印刷機の見当制御方法によれば、胴入れ前に各印刷ユニットの版胴間の位相関係を最適位相関係にプリセットするので、胴入れ時から見当を合致できるようになり、損紙の発生を大幅に低減することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる商業用オフセット輪転印刷機(以下、単に輪転印刷機又は印刷機ともいう)の構成を示す概略図である。図1に示すように、本実施形態の印刷機は、給紙部11,インフィード部12,印刷部13,ドライヤ部14,冷却部15,ウェブパス部16及び折機17をその要部として備えている。また、本実施形態の印刷機は、メインシャフトを備えないシャフトレス形式(個別駆動形式)の印刷機であり、インフィード部12、印刷部13の各印刷ユニット13A〜13D、ドライヤ部14、冷却部15、ウェブパス部16及び折機17を駆動するためのシャフトレスモータ32,33A〜33D,35,36,37がそれぞれ設けられている。
【0015】
給紙部11には巻取り紙1が準備されており、インフィード部12は、給紙部11の巻取り紙1から連続的に用紙2を引き出すようになっている。インフィード部12には、用紙2を挟持して回転移送するドラグローラ50や、用紙2の張力を適宜にコントロールするダンサローラが備えられている。ドラグローラ50は、シャフトレスモータ32からの回転駆動力が伝達されるようになっている。また、ドラグローラ50の下流側に位置するローラ21にはテンションピックアップセンサ22が備えられており、このテンションピックアップセンサ22により、ローラ21上を走行する用紙2のテンション値(印刷部13入口のテンション値)を検出できるようになっている。
【0016】
印刷部13には、墨,藍,紅及び黄の4色に対応した4つの印刷ユニット13A,13B,13C,13Dが用紙2の走行方向に沿って並設されている。各印刷ユニット13A,13B,13C,13Dには、インキ供給装置3及び湿し水供給装置4が備えられている。インキ供給装置3から供給されるインキは図示しないインキローラ群によって適度に練られながら版胴5に供給され、さらに版胴5からブランケット胴6を介して用紙2に転写されるようになっている。
【0017】
印刷ユニット13A,13B,13C,13D間の版胴5の位相関係は、各印刷ユニット13A,13B,13C,13Dによる各色の絵柄が用紙2上における同一領域で重なり合うように設定されており、このように各色が同一領域上で重ね合わされることで所望の多色絵柄が形成される。
印刷部13において印刷を終えた用紙2は、次工程のドライヤ部14で加熱乾燥された後、冷却部15にて冷却される。ドライヤ部14は、印刷部13を通過した用紙2上のインキを乾燥させるための装置であり、冷却部15は、ドライヤ部14での乾燥後の過剰な熱を蓄える用紙2を適当な温度まで冷却するための装置である。冷却部15には、用紙2を挟持して回転移送するドラグローラ51が備えられている。ドラグローラ51は、シャフトレスモータ35からの回転駆動力が伝達されるようになっている。また、ドラグローラ51の下流側に位置するローラ23にはテンションピックアップセンサ24が備えられており、このテンションピックアップセンサ24により、ローラ23上を走行する用紙2のテンション値を検出できるようになっている。
【0018】
冷却部15の下流にはウェブパス部16が配置されている。ウェブパス部16には、走行する用紙2の両側に向けてカメラ7A,7Bが備えられており、用紙2の紙面の画像を撮像するようになっている。また、ウェブパス部16内にはコンペンセータロール8が備えられている。コンペンセータロール8はコンペンセータ駆動モータ9により図中矢印で示すように位置を調整できるようになっている。用紙2はコンペンセータロール8に巻き掛けられており、コンペンセータロール8の位置に応じて印刷部13から折機17に至る用紙2の走行長が調整される。さらに、ウェブパス部16には、用紙2を挟持して回転移送するドラグローラ52が備えられている。ドラグローラ52は、シャフトレスモータ36からの回転駆動力が伝達されるようになっている。
【0019】
ウェブパス部16を通過した用紙2は、折機17へ移送される。折機17における用紙2は、三角板25を経て縦に二つ折りされた後、リードインローラ26,26間やニッピングローラ27,27間を順次経由し、鋸胴28及び折胴29によって印刷部13において印刷された絵柄を単位とした所定領域毎に断裁される。断裁された用紙2は図示しない折込ローラやチョッパ折装置等により折り畳まれて目的とする折帖に形成され、最終製品である印刷物として外部へ搬出される。
【0020】
また、本実施形態の輪転印刷機には、印刷速度制御装置40,テンション制御装置41,自動見当装置(自動見当修正手段)42,プリセット装置(プリセット手段)43,入力装置(入力手段)44,見当制御装置45,データベース46及び同期用エンコーダ47が備えられている。
見当制御装置45は、印刷ユニット13A,13B,13C,13Dの版胴5の回転位相をそれぞれ個別に制御するための見当位相(位置)制御用モータと、各印刷ユニット13A,13B,13C,13Dの版胴5の回転位相を検出するポテンショメータとを備えている。
【0021】
自動見当装置42は、画像処理機能を備えており、同期用エンコーダ47からの同期信号により用紙2に印刷された絵柄周期に同期してカメラ7A,7Bを作動させ、用紙2の紙面の画像を所定回数取り込む。そして、自動見当装置11は、カメラ7A,7Bの撮影画像を平均処理して用紙2の見当マークを検出し、検出した各色の見当マークのずれ、具体的には、基準となる色(例えば紅)の見当マークに対する他の色(墨,藍,黄)の見当マークの天地方向位置のずれを計測し、計測した各色の見当マークのずれに応じて見当位相制御装置45の見当位相制御用モータを制御し、印刷ユニット13C(例えば紅を基準とした場合)を基準として、基準印刷ユニット13Cと他の印刷ユニット13A,13B,13D間の版胴5の位相関係を修正し、印刷された紙面上の画像の見当を一致させるようになっている。
【0022】
また、印刷速度制御装置40は、シャフトレスモータ32,33A〜33D,35,36,37の回転速度を制御することで印刷速度を制御しており、本実施形態では、印刷開始時には前述した図3に示すように一旦、調整速度まで直線的に印刷速度を加速させ、調整完了後、調整速度から営業運転速度まで再度直線的に印刷速度を加速させるようになっている。また、印刷終了時には、営業運転速度から停止状態まで直線的に印刷速度を減速させるようになっている。
【0023】
テンション制御装置41は、一般に、用紙2に対して設定テンション値になるようにドラグローラ50を自動制御するとともに、ドラグローラ51,52については用紙2を一定の引き率とするドロー制御(周速をある一定値に設定して制御)を行なう。また、テンション制御装置41にはテンションピックアップセンサ22,24により検出された用紙2のテンション値に関する情報が入力されるようになっている。
【0024】
プリセット装置43は、胴入れ前に各印刷ユニット13A,13B,13C,13Dの版胴5の位相関係を最適な位相関係にプリセットするように機能しており、本実施形態では、印刷機の起動時にプリセット信号が例えば印刷速度制御装置40からプリセット装置43に入力され、この入力によりプリセット装置43が見当制御装置45を制御して各印刷ユニット13A〜13Dの版胴5の位相関係を最適位相関係にプリセットするようになっている。ここでいう最適位相関係とは、各印刷ユニット13A〜13Dにより印刷される絵柄間の見当が合致する(詳細には、見当ずれが、印刷品質上正紙と判断しうる許容精度範囲内にあって、例えば±0.05mm内に収まる)ときの位相関係である。
【0025】
なお、本実施形態では印刷起動時(起動直後)にプリセットを行なっているが、胴入れ(即ち、実際に印刷を開始する)までにプリセットしておけばよい。したがって、プリセットするタイミングとしては、例えば印刷を終了した時点(刷了)から次ジョブの胴入れまでの間、あるいは、刷了後の胴抜きから次ジョブの胴入れまでの間であればよいが、特に好ましくは胴入れ前の調整速度時に行なうのがよい。
【0026】
見当の変化は用紙2の伸び等が原因であるが、印刷部13内での用紙2の伸び量、及び印刷ユニット間の紙長さは、印刷にかかる資材及び輪転印刷機の運転状態によって変化する。ここでいう資材とは例えば用紙2の材質(コート紙や上質紙などの紙種)や坪量などであり、輪転印刷機の運転状態とは例えば印刷速度(調整速度や営業運転速度など)、印刷部13入口におけるテンション値などである。
【0027】
このため、データベース46には、印刷にかかる資材及び輪転印刷機の運転状態に関するパラメータのうち見当ずれを左右する上述したような特定のパラメータ(資材条件や運転条件)に対する各印刷ユニット13A〜13Dの版胴5間の最適な位相関係(例えば、基準印刷ユニット13Cと他の印刷ユニット13A,13B,13D間の版胴5の最適な位相関係)が予め記憶されている。
【0028】
また、プリセット装置43には入力装置44が接続されており、プリセット装置43は、入力装置44により今回印刷に使用される用紙2の材質や坪量、そして今回の印刷での印刷速度やテンション値が入力されると、これら特定パラメータに対応する最適位相関係をデータベース46から検索し、胴入れ前に見当制御装置45を制御して各印刷ユニット13A〜13Dの版胴5間の位相関係をこの最適位相関係にプリセットする。
【0029】
プリセット装置43によるプリセットは、胴入れ後に生じうる基準色(紅)の絵柄に対する他色(墨,藍,黄)の絵柄の天地見当の変化を打ち消すように、墨,藍,黄に相当する印刷ユニット13A,13B,13Dの版胴5の位相を胴入れ前に予め変化させておくものである。例えば、本実施形態のように紅(印刷ユニット13C)を基準とした場合、版胴5の位相変化方向や位相変化率は印刷ユニット13A,13B,13D毎に異なり、墨及び藍に対応する印刷ユニット13A,13Bの版胴5については進角側への位相変化であって、墨(印刷ユニット13A)の位相変化率は藍(印刷ユニット13B)の位相変化率よりも大きくする。一方、黄に対応する印刷ユニット13Dの版胴5については遅角側への位相変化とする。なお、ここでは三色目の印刷ユニット13Cの版胴5を基準としているが、勿論、他の何れかの印刷ユニット13A,13B,13Dの版胴5を基準としてもよい。
【0030】
このように、胴入れ前に見当制御装置45を制御し、基準印刷ユニット13Cと他の印刷ユニット13A,13B,13D間の版胴5の位相関係を最適位相関係にプリセットする。その後、胴入れが行なわれると自動見当装置42により見当の修正が開始されるが、本実施形態のように胴入れ前(好ましくは前述したように胴入れ前の調整速度時)に各印刷ユニット13A〜13Dの位相関係を最適位相関係にプリセットしておくことで、胴入れを開始した時点(即ち印刷を開始した時点)から見当を合致させることが可能となり、調整時間を短縮できるとともに、刷り出し時の損紙を大幅に低減することができる。
【0031】
また、調整速度での調整において自動見当装置42又はオペレータの目視によって見当が合致してOKシートが得られたと判断されたら(即ち調整が完了したら)、自動的に又はオペレータのスイッチ操作により印刷機は調整速度から営業運転速度まで直線的に加速される。本実施形態では、このときの加速信号がプリセット装置43に入力され、プリセット装置43は加速信号が入力された時点での各印刷ユニット13A〜13Dの版胴5間の位相関係を見当制御装置45のポテンショメータから取得して上述した特定パラメータと関連付けてデータベース46に記憶させる。このとき、同じ資材条件,運転条件であれば、今回のプリセット時に使用した最適位相関係をデータベース42から削除して加速信号入力時の位相関係を次回のプリセット時の最適位相関係として新たに設定してもよく、あるいは、加速信号入力時の位相関係を用いて今回のプリセット時に使用した最適位相関係を適宜補正するようにしてもよい。これにより、プリセット時のより最適な位相関係を構築することができる。
【0032】
また、本実施形態では最適位相関係(プリセット値)を加速信号入力時の値でデータベース46に記憶するようにしているが、オペレータがOKと判断した時点(スイッチ操作した時点)、或いは加速信号入力、又は自動見当装置42によりOKシートが得られたと判断された時点から一定時間経過後のプリセット値をデータベース46に記憶するようにしてもよい。
【0033】
また、本実施形態にかかる印刷速度パターンでは、調整速度で調整を行なった後に営業運転速度まで加速するようになっているが、例えば印刷機起動時からそのまま直線的に営業運転速度まで加速させるパターンの場合(即ち、調整速度での調整を省略したパターンの場合)、胴入れ後一定時間経過した時点でプリセット装置43により各印刷ユニット13A〜13Dの版胴5間の位相関係を取得してデータベース46に記憶させるようにすればよい。
【0034】
さらに、今回入力装置44に入力された特定パラメータが初めての値であり、該当する最適位相関係がデータベース46に存在しない場合には、最適位相関係が既に設定されている設定済の特定パラメータ値の中から今回の特定パラメータ値に近い少なくとも2つの設定済特定パラメータ値を選択する。そして、加重平均等の手法により、選択した設定済特定パラメータ値に対応する最適位相関係を用いて今回の特定パラメータに対応する最適位相関係を補間計算する。
【0035】
本発明の一実施形態としての輪転印刷機は、上述のごとく構成されているので、上述した制御装置により例えば図2に示すようなフローとなるプログラムが実行される。すなわち、図2に示すように、印刷機を起動すると(ステップS10)、プリセット装置43により、今回の印刷に使用される用紙2の材質や坪量、印刷速度やテンション値に対応する最適位相関係がデータベース46から検索され、各印刷ユニット13A〜13Dの版胴5間の位相関係が最適位相関係にプリセットされる(ステップS20)。なお、上記の用紙2の材質や坪量、印刷速度やテンション値は印刷機起動前に入力装置44に入力しておく。その後、印刷機が調整速度まで加速していく途中で胴入れが行なわれて実際の印刷が開始されると(ステップS30)、自動見当装置42により自動的に見当修正が開始される(ステップS40)。そして、調整速度にてOKシートが得られ調整が完了したら自動的に又はオペレータのスイッチ操作により印刷機が営業運転速度まで加速される。このとき、各印刷ユニット13A〜13Dの版胴5間の位相関係を特定パラメータと関連付けてデータベース46に記憶させておく(ステップS50)。そして、営業運転速度での印刷が行なわれた後(ステップS60)、減速している途中で胴抜きが行なわれる(ステップS70)とともに自動見当装置42による見当修正も終了し(ステップS80)、印刷機が停止する(ステップS90)。
【0036】
このように、本実施形態の輪転印刷機によれば、胴入れ前に各印刷ユニット13A〜13Dの位相関係を最適位相関係にプリセットしておくので、胴入れを開始した時点から見当を合致させることが可能であり、OKシートが得られるまでの時間を短縮することができ、損紙を大幅に低減することができる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0037】
例えば、本発明が適用される輪転印刷機は、上述の実施形態の構成のものに限定されない。例えば、より複数の印刷ユニットを備えた輪転印刷機にも適用することができる。
また、本実施形態のような独立した見当制御装置60を設けずに、見当制御装置45の機能を各印刷ユニット13A〜13Dのシャフトレスモータ33A〜33Dに備えるようにしてもよい。この場合、シャフトレスモータ33A〜33Dと自動見当装置42やプリセット装置43とを直接接続する。そして、通常は各シャフトレスモータ33A〜33Dを基準の位相(仮想的な基準位相)に対して同期するように制御し、各印刷ユニット13A〜13Dの版胴5の位相を調整する場合には基準位相に対して位相をずらすことによって容易に実現できる。
【0038】
また、本実施形態では、用紙2の材質や坪量,用紙2に与えるテンション値,印刷速度を特定のパラメータとしたが、これら特定のパラメータに、用紙2の坪あたりのインキ量(絵柄面積率)を加えてもよい。これによれば、用紙2のインキ量の大小による紙伸び量も考慮して版胴5の位相関係をプリセットすることが可能となる。
なお、インフィード部12でテンションピックアップセンサ22により検出される実際のテンション値(実テンション値。印刷部13入口のテンション値)は設定テンション値とは異なることがある。そこで、加速信号入力時に、各印刷ユニット13A〜13Dの版胴5間の位相関係だけでなく、テンション制御装置41からインフィード部12の実テンション値(即ち、印刷部13入口のテンション値)も取得して特定パラメータと関連付けてデータベース46に記憶させておき、次ジョブを印刷する際に設定テンション値がデータベース46に見つからない場合は、この設定テンション値と同じ値或いは近い値の実テンション値を検索し、その実テンション値に対応する位相関係を最適位相関係として版胴5間の位相関係をプリセットするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態にかかる輪転印刷機の構成を示す概略図である。
【図2】図1の輪転印刷機による制御のフローを示す図である。
【図3】一般的な輪転印刷機における印刷速度制御のタイムチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 巻取り紙
2 用紙
3 インキ供給装置
4 湿し水供給装置
5 版胴
6 ブランケット胴
7A,7B カメラ
8 コンペンセータロール
9 コンペンセータ駆動モータ
11 給紙部
12 インフィード部
13 印刷部
13A 印刷ユニット(墨)
13B 印刷ユニット(藍)
13C 印刷ユニット(紅)
13D 印刷ユニット(黄)
14 ドライヤ部
15 冷却部
16 ウェブパス部
17 折機
21,23 ローラ
22,24 テンションピックアップセンサ
25 三角板
26 リードインローラ
27 ニッピングローラ
28 鋸胴
29 折胴
32,33A〜33D,35,36,37 シャフトレスモータ
40 印刷速度制御装置
41 テンション制御装置
42 自動見当装置(自動見当修正手段)
43 プリセット装置(プリセット手段)
44 入力装置(入力手段)
45 見当制御装置
46 データベース
47 同期用エンコーダ
50,51,52 ドラグローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の印刷ユニットを備え、前記各印刷ユニットにより印刷される用紙の絵柄間の見当ずれを制御する輪転印刷機であって、
印刷にかかる資材及び輪転印刷機の運転状態に関するパラメータのうち前記見当ずれを左右する特定のパラメータを入力する入力装置と、
前記特定のパラメータに対する前記各印刷ユニットの版胴間の最適位相関係を記憶したデータベースと、
前記入力装置により入力された前記特定のパラメータに対応する最適位相関係を前記データベースから検索し、胴入れ前に前記各印刷ユニットの版胴間の位相関係を前記最適位相関係にプリセットするプリセット装置とをそなえている
ことを特徴とする、輪転印刷機。
【請求項2】
前記資材に関するパラメータは、前記用紙の材質及び坪量のうち少なくとも一方を含んでいる
ことを特徴とする、請求項1記載の輪転印刷機。
【請求項3】
前記運転状態に関するパラメータは、印刷速度及び前記用紙に与えるテンション値のうち少なくとも一方を含んでいる
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の輪転印刷機。
【請求項4】
前記データベースに記憶された前記最適位相関係は、前記見当が合致するときの位相関係である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の輪転印刷機。
【請求項5】
前記各印刷ユニットにより印刷される前記用紙の絵柄間の見当ずれを検出し、検出された前記見当ずれを打ち消す方向に前記各印刷ユニットの版胴間の位相関係を自動修正する自動見当修正手段をそなえている
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の輪転印刷機。
【請求項6】
複数の印刷ユニットと前記印刷ユニットを制御する制御装置とを備えた輪転印刷機における前記各印刷ユニットにより印刷される用紙の絵柄間の見当ずれを制御する方法であって、
前記制御装置は、
印刷にかかる資材及び輪転印刷機の運転状態に関するパラメータのうち前記見当ずれを左右する特定のパラメータを入力する入力ステップと、
前記特定のパラメータに対する前記各印刷ユニットの版胴間の最適位相関係を記憶したデータベースから、前記入力ステップにて入力した前記特定のパラメータに対応する最適位相関係を検索するデータベース検索ステップと、
胴入れ前に前記各印刷ユニットの版胴間の位相関係を、前記データベース検索ステップで検索した最適位相関係にプリセットするプリセットステップと、
前記プリセットステップの後、開始する印刷ステップとを有する
ことを特徴とする、輪転印刷機の見当制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−1239(P2007−1239A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186442(P2005−186442)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】