輸液加温装置および細胞処理装置
【課題】大量に供給する輸液を一定の温度に加温しつつ供給する。
【解決手段】輸液を貯留する輸液容器4を収容する保温室13と、該保温室13に配置され輸液容器4内に貯留された状態の輸液を加熱する加熱部14とを備える輸液加温装置1を提供する。
【解決手段】輸液を貯留する輸液容器4を収容する保温室13と、該保温室13に配置され輸液容器4内に貯留された状態の輸液を加熱する加熱部14とを備える輸液加温装置1を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液加温装置および細胞処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リンゲル輸液や輸血液を体温に合わせて加温する輸液加温装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この輸液加温装置は、リンゲル輸液や輸血液を収容する輸血バッグと、人体に穿刺される注射針との間の連結管に配置された加温部を備え、連結管内を流動するリンゲル液や輸血液を、その流動の間に人体の温度まで加温するようになっている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−210580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている輸液加温装置は、極めて遅いペースで人体に点滴されるリンゲル輸液や輸血液を加温するものであるため、大量の輸液を供給する場合には適していない。すなわち、大量の輸液を短時間で供給する場合には、連結管に流れる流量を大きくする必要があるが、連結管の流通断面積を大きくすると、短時間で効率的に加温することができない。その結果、連結管の長さを極めて長くする必要があり、使い捨てにする場合には無駄が多いという問題もある。また、そのような長い連結管を加温部に装着することも困難であり、装着作業に時間がかかるとともに、加温部からの熱を有効に輸液の加温に利用することも困難になるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、大量に供給する輸液を一定の温度に加温しつつ供給することができる輸液加温装置および細胞処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、輸液を貯留する輸液容器を収容する保温室と、該保温室に配置され前記輸液容器内に貯留された状態の輸液を加熱する加熱部とを備える輸液加温装置を提供する。
本発明によれば、加熱部の作動により、輸液容器内に貯留された状態の輸液を保温室内において加熱するので、連結管内を流動中に加熱する必要がなく、加温状態とされた大量の輸液を供給することが可能となる。
【0007】
上記発明においては、前記加熱部が、前記輸液容器に密着させられる伝熱部材と、該伝熱部材を加熱するヒータとを備えることとしてもよい。
このようにすることで、ヒータからの熱が伝熱部材を介して輸液容器に伝達され、輸液容器内の輸液を効率的に加温することができる。伝熱部材としては、金属板のように熱伝導率の高い部材を適用することができる。
【0008】
また、上記発明においては、前記保温室が断熱部材により覆われていることとしてもよい。
このようにすることで、保温室内において加熱部により発生された熱量が断熱部材によって外部に漏れることが防止され、保温室内の輸液容器内に収容されている状態の輸液を効率よく加温することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記輸液容器内に貯留された状態の輸液の温度を検出する温度センサと、該温度センサの検出結果に応じて前記加熱部を制御する制御部とを備えることとしてもよい。
このようにすることで、温度センサにより輸液の温度が検出され、検出された温度に基づいて制御部の作動により加熱部が制御される。これにより、輸液容器内に貯留された状態の輸液の温度を一定に維持することが可能となる。ここで、輸液の温度の検出は、輸液容器を介して間接的に行われる。
【0010】
また、上記発明においては、前記温度センサが、前記輸液容器に備えられた輸液出口近傍に配置されていることとしてもよい。
このようにすることで、輸液容器に貯留された輸液が、輸液出口から外部に排出されて輸液容器内の輸液量が減っても、温度センサにより輸液容器内の輸液の温度を精度よく検出することが可能となる。
【0011】
また、上記発明においては、前記温度センサによる検出結果を表示する温度表示部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、温度表示部に表示された温度センサの検出結果を観察することにより、輸液温度が所定範囲内に維持されていることを容易に確認することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記温度センサにより検出された輸液の温度が所定の温度範囲外となったときに、外部に対して報知する警報部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、輸液の温度が所定の温度範囲外となったときには、警報部の作動により、その旨が外部に報知されるので、オペレータは容易に装置の異常を認識することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記保温室の側壁に開閉可能な扉が設けられ、該扉に前記加熱部が設けられるとともに、該扉が閉じられた状態で、該扉とこれに対向する側壁との間の間隔が、輸液を貯留した輸液容器の厚さ寸法より小さく設定されていることとしてもよい。
【0014】
このようにすることで、保温室の側壁に設けられた扉を開いて輸液容器を保温室内に収容し、その後扉を閉じることにより、輸液容器が保温室内の扉と側壁との間に挟まれる。扉を閉じた状態では、扉とこれに対向する側壁との間の間隔が輸液容器の厚さ寸法より小さいので、扉を開いて間隔を広げることにより、輸液容器の保温室内への収容を容易にすることができる。
【0015】
また、扉が閉じられることにより、輸液容器には扉および側壁が密着させられる。この場合において、扉には加熱部が設けられているので、加熱部の熱を密着している輸液容器に効率的に伝達することができ、輸液容器内の輸液を効率的に加温することができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記保温室に、前記輸液容器を吊り下げて支持する容器支持部が備えられ、該容器支持部が、保温室内から上方に引き出された引出位置と、保温室内に収容された収容位置との間で移動可能に設けられていることとしてもよい。
このようにすることで、容器支持部を引出位置に配置して輸液容器を吊り下げ状態に支持させた後に、容器支持部を収容位置まで下降させることにより、輸液容器を保温室内に収容することができる。この場合に、容器支持部を引出位置まで引き出すことにより、容器支持部への輸液容器の取付作業を容易にすることができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記保温室に、該保温室の内部空間を上方に開口させる上部開閉扉が設けられ、該上部開閉扉に前記容器支持部が固定されていることとしてもよい。
このようにすることで、上部開閉扉を引き上げると、保温室の内部空間が上方に開口されるとともに、上部開閉扉とともに容器支持部が引出位置まで引き上げられ、容器支持部への輸液容器の取付作業を容易にすることができる。また、容器支持部を収容位置まで引き下げることにより、上部開閉扉によって保温室の上部の開口が閉じられる。したがって、輸液容器の保温室への収容作業を容易に行うことができる。
【0018】
また、本発明は、生体組織を輸液により洗浄する洗浄容器と、該洗浄容器内で洗浄された生体組織を酵素により消化する消化容器と、前記洗浄容器および/または前記消化容器内に輸液を供給する輸液供給部とを備え、該輸液供給部が、上記いずれかの輸液加温装置を備える細胞処理装置を提供する。
【0019】
本発明によれば、輸液供給部に備えられた輸液加温装置により、輸液容器内に収容された状態の輸液が加温状態に維持されるので、輸液供給部の作動により、一定の温度に加温された大量の輸液を洗浄容器および/または消化容器内に供給することができる。これにより、洗浄容器内における生体組織の洗浄作業および消化容器内における生体組織の消火作業を円滑に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、大量に供給する輸液を一定の温度に加温しつつ供給することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る輸液加温装置1および細胞処理装置2について、図1〜図13を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る輸液加温装置1は、図1に示されるように、細胞処理装置2に備えられている。
【0022】
本実施形態に係る細胞処理装置2は、図1に示されるように、脂肪組織のような生体組織を収容して洗浄および消化を行う洗浄・消化容器(洗浄容器、消化容器)3と、リンゲル輸液あるいは生理食塩水等の輸液を貯留する輸液容器4と、該輸液容器4内の輸液を加温する輸液加温装置1と、該輸液容器4内の輸液を洗浄・消化容器3内に供給等するための配管5、ポンプ6およびバルブ7と、洗浄・消化容器3内において消化された結果、得られた細胞懸濁液から細胞を分離する遠心分離機8と、該遠心分離機8により細胞から分離された廃液を収容する廃液収集容器9と、これらを制御する制御部10とを備えている。
【0023】
前記洗浄・消化容器3には、生体内に挿入されて生体組織を採取するカニュレのような吸引ノズル11と、洗浄・消化容器3内を負圧に吸引する真空発生器12とが接続されている。真空発生器12を作動させ、洗浄・消化容器3内を負圧に吸引することにより、該洗浄・消化容器3に接続されている吸引ノズル11から生体組織を洗浄・消化容器3内に吸引することができるようになっている。
【0024】
前記輸液容器4は、例えば、ポリエチレン製の輸血バッグのように比較的柔らかい材質により構成されている。輸液容器4内に輸液を貯留すると、輸液にかかる重力によって輸液容器4が変形し、下側が膨らんだ形態をとるようになっている。
【0025】
本実施形態に係る輸液加温装置1は、図2に示されるように、直方体のボックス状に形成され、前記輸液容器4を収容する保温室13と、該保温室13内に配置され輸液容器4内に貯留された状態の輸液を加熱する加熱部14とを備えている。
保温室13は、図2に示される例では、その一側面に配置され、ヒンジ13fによって底面13aに対して水平軸線回りに揺動させられるように開閉される側部扉13bと、その上面に配置され、上下方向に移動させられることにより上部開口13cを開閉する上部扉13dとを備えている。
【0026】
前記加熱部14は、側部扉13bの内面およびこれに対向する側壁13e内面に配置された金属板(伝熱部材)14aと、該金属板14aを加熱するヒータ14bとを備えている。金属板14aどうしの間隔寸法は、側部扉13bが開かれたときには、保温室13内部に収容する輸液容器4の厚さ寸法よりも大きくなり、側部扉13bが閉じられたときには、輸液容器4の厚さ寸法より小さくなるように設定されている。
保温室13を取り囲む側壁13e、底面13a、側部扉13bおよび上部扉13dは、いずれも断熱材料により構成され、保温室13内の熱が外部に漏れないように断熱するようになっている。
【0027】
また、保温室13の内部には、その底面13a近傍に検出部15aを上方に向けて配置された温度センサ15が備えられている。温度センサ15は、保温室13内に収容される輸液容器4の下部に接触させられて、輸液容器4を介して内部の輸液の温度を間接的に検出するようになっている。輸液容器4の下部には図示しない輸液出口が設けられているので、温度センサ15は輸液出口近傍に接触させられるようになっている。
【0028】
前記温度センサ15および前記ヒータ14bは、温度制御部16に接続されている。温度制御部16は、温度センサ15からの検出信号を受けて、該検出信号が所定の温度範囲内に配されるようにヒータ14bによる発熱量を制御するようになっている。
【0029】
また、温度制御部16には、温度設定部17、温度表示部18および警告表示部19が接続されている。温度設定部17は、オペレータの入力により輸液の所望の温度範囲を設定することができるようになっている。温度表示部18は、温度センサ15により検出された温度をオペレータにわかるように表示するようになっている。警告表示部19は、温度センサ15により検出された温度が温度設定部17により設定された温度範囲外となったとき、これをオペレータに対して表示するようになっている。
【0030】
また、温度制御部16は、温度センサ15により検出された温度が温度設定部17により設定された温度範囲外となったとき、そのことを示す警告信号を細胞処理装置2の制御部10に送るようになっている。警告信号を受けた制御部10は、輸液加温装置1に異常が発生したものと判断し、細胞処理装置2の各機器を停止するよう制御する。
【0031】
上部扉13dは、底面13aから立ち上がるレール20に沿って上下方向に移動可能に設けられたスライダ21に固定されている。また、上部扉13dの下部には、輸液容器4を懸架するフック22が設けられている。これにより、上部扉13dは、上方に移動させられることにより上部開口13cを開放し、かつ、輸液容器4を懸架するフック22を上方に引き出した引出位置と、下方に移動させられることにより上部開口13cを閉塞し、かつ、フック22を保温室13内に配置する収容位置との間で移動させられるようになっている。
【0032】
また、スライダ21近傍には、図3および図4に示されるように、該スライダ21を引出位置において係止し、解除されることによってスライダ21の下降を許容するラッチ機構23が設けられている。ラッチ機構23は、スライダ21の移動方向に直交する方向に進退させられる係合部材23aと、該係合部材23aの先端をスライダ21に押し付ける方向に係合部材23aを付勢するスプリング23bと、該スプリング23bによる付勢力に抗して係合部材23aをスライダ21から離れる方向に後退させるためのレバー23cとを備えている。
【0033】
スライダ21を引出位置まで引き上げると、スプリング23bの付勢力によって係合部材23aがスライダ21の下縁の下方に突出することにより、スライダ21が下降しないように係止されるようになっている。一方、スライダ21を下降させるときには、レバー23cを操作して係合部材23aを鎖線に示されるように後退させることにより、スライダ21の下方から係合部材23aを離脱させ、スライダ21の自由な下降を許容するようになっている。
【0034】
このように構成された本実施形態に係る輸液加温装置1および細胞処理装置2の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る輸液加温装置1によれば、輸液を貯留した輸液容器4を保温室13内に収容するには、図5に示されるように、側部扉13bを開き、次いで、図6に示されるように、上部扉13dを引き上げて引出位置に配置する。これにより、ラッチ機構23が作動して、スライダ21が引出位置に係止される。
【0035】
この状態で、上部扉13dに固定されたフック22が保温室13の上方に抜き出された状態に露出させられるので、操作者は、図6および図7に示されるように、輸液を貯留した輸液容器4を容易にフック22に懸架させることができる。
そして、フック22に輸液容器4を懸架させた後には、ラッチ機構23を解除することによりスライダ21の下降動作を許容する。これにより、フック22に輸液容器4を懸架させた状態の上部扉13dをスライダ21によって下降させ、図8に示されるように、保温室13内に配置することができる。
【0036】
この場合に、保温室13はその側部扉13bが開かれた状態とされているので、保温室13内の空間が広く確保されており、輸液によって膨らんだ状態の輸液容器4を容易に保温室13内に収容することができる。そして、これにより、上部扉13dによって保温室13の上部開口13cが閉じられる。
【0037】
さらに、この状態で、図9に示されるように、側部扉13bを閉じると、輸液容器4が保温室13内に密閉状態に収容されるとともに、側部扉13bおよびこれに対向する側壁13e内面に設けられた金属板14a間に輸液容器4が挟まれる。金属板14aの間隔寸法は膨らんだ輸液容器4の厚さ寸法より小さく設定されているので、金属板14a間に輸液容器4が挟まれると、輸液容器4が変形して金属板14aと輸液容器4とが広い接触面積で密着させられる。
【0038】
この状態でヒータ14bを作動させ、金属板14aを介してヒータ14bの熱を輸液容器4に伝達する。これにより、ヒータ14bの熱が広い接触面積で接触している熱伝導率の高い金属板14aを介して輸液容器4に供給されるので、輸液容器4内の輸液を効率的に加温することができる。また、保温室13はその底面13a、側部扉13b、側壁13eおよび上部扉13dが全て断熱部材により構成されているので、ヒータ14bからの熱が保温室13外に漏れることが抑制され、ヒータ14bの熱を効率的に利用して輸液を加温することができる。
【0039】
また、保温室13内に収容された輸液容器4の下部には温度センサ15が接触状態とされ、その温度を検出するので、温度制御部16の作動により、輸液の温度が設定された温度範囲内となるようにヒータ14bの発熱量が制御される。したがって、輸液容器4に貯留された状態の大量の輸液が所望の温度範囲に精度よく維持される。
【0040】
さらに、本実施形態に係る輸液加温装置1によれば、温度センサ15が輸液容器4の輸液出口近傍に配置されているので、輸液容器4から輸液が供給されることにより、輸液容器4内の輸液が減少していっても、温度センサ15を輸液近傍の輸液容器4に接触状態に維持し、輸液の温度を精度よく検出することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る細胞処理装置2によれば、制御部10の作動により、真空発生器12が作動させられ、吸引ノズル11を介して生体組織が洗浄・消化容器3に吸引されると、輸液加温装置1内の輸液容器4から洗浄・消化容器3に続く配管5が開放されるように所定のバルブ7が開かれて、ポンプ6の作動により輸液容器4内の輸液が配管5を介して洗浄・消化容器3に供給される。
【0042】
そして、洗浄・消化容器3において輸液と生体組織とが攪拌されることにより、輸液によって生体組織が洗浄され、塵埃や血液等が輸液に流出する。塵埃や血液等が輸液に十分に流出した後には、制御部10の作動によりバルブ7を切り替えて、洗浄・消化容器3から廃液収集容器9へ塵埃や血液等を含む輸液が排出される。
【0043】
さらに、制御部10の作動により、バルブ7が切り替えられて輸液容器4から洗浄・消化容器3へ輸液が供給されるとともに、図示しない消化酵素供給部から洗浄・消化容器3へ消化酵素が供給される。そして、洗浄・消化容器3において輸液と生体組織とが攪拌されることにより、生体組織の消化処理が行われる。
【0044】
また、洗浄・消化容器3において生体組織が十分に消化されて、生体組織を構成していた細胞が単離されて細胞懸濁液が形成されると、制御部10の作動により、バルブ7が切り替えられて洗浄・消化容器3から遠心分離機8の遠心分離容器8aに向けて細胞懸濁液が送られる。そして、遠心分離機8が作動させられることにより、細胞懸濁液が遠心分離され、必要な細胞とそれ以外の不要成分とに分離される。
【0045】
その後、制御部10の作動により、遠心分離容器8aから不要成分が吸引されて廃液収集容器9へと送られるよう、バルブ7およびポンプ6が制御される。その結果、遠心分離容器8a内に所望の細胞が分離された状態で抽出されることになる。
【0046】
この場合において、本実施形態に係る細胞処理装置2によれば、洗浄・消化容器3へ輸液を送液する配管5において輸液を加温するのではなく、輸液を貯留する輸液容器4ごと保温室13内において加温するので、所定の温度に加温された大量の輸液を短時間で洗浄・消化容器3に供給することができる。
【0047】
したがって、洗浄処理においては、所定の温度に加温された輸液を洗浄・消化容器3に供給することにより、生体組織に不要な刺激、すなわち、極度に冷たかったり熱かったりすることによる刺激を与えることなく洗浄することができる。また、消化処理においては、所定の温度に加温された輸液を洗浄・消化容器3に供給することにより、消化酵素の活性を高めて、生体組織の消化を促進することができる。そして、所定の温度に加温された大量の輸液を短時間で供給できるので、洗浄処理あるいは消化処理に要する時間を短縮して、迅速な処理を行うことができる。
【0048】
また、本実施形態に係る細胞処理装置2によれば、輸液加温装置1の温度センサ15が所定の範囲外の温度を検出した場合に、温度制御部16から出力される警報信号に基づいて制御部10が装置全体の動作を停止するので、生体組織に不要な刺激を与えたり、消化酵素の活性を減殺するような温度の輸液が生体組織に対して供給されることを未然に防止することができる。オペレータは、細胞処理装置2が停止していることや、温度表示部18あるいは警告表示部19の表示を確認することで、容易に異常状態であることを認識でき、これに対する効果的な処置を迅速に施すことができる。
【0049】
また、本実施形態に係る輸液加温装置1の保温室13の輸液容器4が配置されることとなる空間の下方には、図10に示されるように、該輸液容器4の下部に設けられた送出部4aに送液配管30を接続するためのスパイク機構31が備えられていてもよい。
送液配管30は、その先端に送出部4aに刺し入れられる注射針32と、該注射針32を密封状態に被覆する着脱可能なキャップ33とを備えている。
【0050】
スパイク機構31は、図10に示される例では、注射針32を支持してその長手方向に沿う方向に移動させる直線移動機構34と、該直線移動機構34を水平軸線回りに回転させる回転機構35と、送液配管30に備えられたキャップ33を保持するキャップ保持部36と、送液配管30および輸液容器4の状態を監視するCCDカメラ37とを備えている。符号34aはスライダ、符号38は、フック22に輸液容器4が吊り下げられた状態で、送出部4aが動かないように固定する固定部である。
【0051】
キャップ33を取り付けた送液配管30の注射針は、略水平方向に配されてスパイク機構31にセットされ、その状態でキャップ33をキャップ保持部36に固定するようになっている。注射針32はキャップ33により密封状態に被覆されているので、スパイク機構31にセットされるまでの間で、塵埃や細菌等が付着することはない。
【0052】
スパイク機構31に輸液容器4がセットされると、CCDカメラ37によりセットされたことが確認され、スパイク機構31が作動させられる。
スパイク機構31は、まず、直線移動機構34の作動により、図11に示されるように、注射針32をその長手方向に後退させる方向に移動させることでキャップ保持部36に保持されたキャップ33から注射針32を抜き出す。次いで、図12に示されるように、回転機構35を作動させて直線移動機構34を回転させることで、該直線移動機構34に支持されている注射針32を水平軸線回りに回転させ、その先端を鉛直上方に向かわせる。
【0053】
この状態で、CCDカメラ37により、輸液容器4の状態および注射針32の状態が確認される。輸液容器4の状態としては、例えば、封止シール(図示略)が剥がされていることなど、送出部4aに注射針32を刺すことができる状態であるか否か、あるいは汚れていないか否かが確認され、注射針32の状態としては、例えば、キャップ33が外されているか否かが確認される。
【0054】
状態が確認された後には、図13に示されるように、再度直線移動機構34を作動させて、注射針32を先端に向かって鉛直上方に直線移動させる。これにより、注射針32の先端の鉛直上方に配置されている輸液容器4の送出部4aに注射針32を刺し入れることができる。
このようにすることで、送液配管30を人手を介在させることなく無菌的に輸液容器4に接続することができる。したがって、細菌等のコンタミネーションの発生をより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞処理装置を示す全体構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る輸液加温装置を示す全体構成図である。
【図3】図2の輸液加温装置のラッチ機構を示す縦断面図である。
【図4】図3のラッチ機構の動作を説明する図であり、(a)上部扉を閉じた状態、(b)上部扉を開いた状態をそれぞれ示している。
【図5】図2の輸液加温装置の側部扉を開いた状態を示す縦断面図である。
【図6】図5の状態からさらに上部扉を開いた状態を示す縦断面図である。
【図7】図6の状態からさらに輸液容器をフックに懸架させた状態を示す縦断面図である。
【図8】図7の状態からさらに上部扉を閉じた状態を示す縦断面図である。
【図9】図8の状態からさらに側部扉を閉じた状態を示す縦断面図である。
【図10】図2の輸液加温装置の保温室に設けられたスパイク機構を示す正面図である。
【図11】図10の状態から送液配管の注射針をキャップから抜き出す動作を説明する正面図である。
【図12】図11の状態から注射針を輸液容器下部の送液部に向ける動作を説明する正面図である。
【図13】図12の状態から注射針を送液部に刺し入れる動作を説明する正面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 輸液加温装置
2 細胞処理装置
3 洗浄・消化容器(洗浄容器、消化容器)
4 輸液容器
5 配管(輸液供給部)
6 ポンプ(輸液供給部)
7 バルブ(輸液供給部)
13 保温室
13b 側部扉(扉)
13d 上部扉(上部開閉扉)
14 加熱部
14a 金属板(伝熱部材)
14b ヒータ
15 温度センサ
16 温度制御部(制御部)
18 温度表示部
19 警告表示部(警報部)
22 フック(容器支持部)
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液加温装置および細胞処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リンゲル輸液や輸血液を体温に合わせて加温する輸液加温装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この輸液加温装置は、リンゲル輸液や輸血液を収容する輸血バッグと、人体に穿刺される注射針との間の連結管に配置された加温部を備え、連結管内を流動するリンゲル液や輸血液を、その流動の間に人体の温度まで加温するようになっている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−210580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている輸液加温装置は、極めて遅いペースで人体に点滴されるリンゲル輸液や輸血液を加温するものであるため、大量の輸液を供給する場合には適していない。すなわち、大量の輸液を短時間で供給する場合には、連結管に流れる流量を大きくする必要があるが、連結管の流通断面積を大きくすると、短時間で効率的に加温することができない。その結果、連結管の長さを極めて長くする必要があり、使い捨てにする場合には無駄が多いという問題もある。また、そのような長い連結管を加温部に装着することも困難であり、装着作業に時間がかかるとともに、加温部からの熱を有効に輸液の加温に利用することも困難になるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、大量に供給する輸液を一定の温度に加温しつつ供給することができる輸液加温装置および細胞処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、輸液を貯留する輸液容器を収容する保温室と、該保温室に配置され前記輸液容器内に貯留された状態の輸液を加熱する加熱部とを備える輸液加温装置を提供する。
本発明によれば、加熱部の作動により、輸液容器内に貯留された状態の輸液を保温室内において加熱するので、連結管内を流動中に加熱する必要がなく、加温状態とされた大量の輸液を供給することが可能となる。
【0007】
上記発明においては、前記加熱部が、前記輸液容器に密着させられる伝熱部材と、該伝熱部材を加熱するヒータとを備えることとしてもよい。
このようにすることで、ヒータからの熱が伝熱部材を介して輸液容器に伝達され、輸液容器内の輸液を効率的に加温することができる。伝熱部材としては、金属板のように熱伝導率の高い部材を適用することができる。
【0008】
また、上記発明においては、前記保温室が断熱部材により覆われていることとしてもよい。
このようにすることで、保温室内において加熱部により発生された熱量が断熱部材によって外部に漏れることが防止され、保温室内の輸液容器内に収容されている状態の輸液を効率よく加温することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記輸液容器内に貯留された状態の輸液の温度を検出する温度センサと、該温度センサの検出結果に応じて前記加熱部を制御する制御部とを備えることとしてもよい。
このようにすることで、温度センサにより輸液の温度が検出され、検出された温度に基づいて制御部の作動により加熱部が制御される。これにより、輸液容器内に貯留された状態の輸液の温度を一定に維持することが可能となる。ここで、輸液の温度の検出は、輸液容器を介して間接的に行われる。
【0010】
また、上記発明においては、前記温度センサが、前記輸液容器に備えられた輸液出口近傍に配置されていることとしてもよい。
このようにすることで、輸液容器に貯留された輸液が、輸液出口から外部に排出されて輸液容器内の輸液量が減っても、温度センサにより輸液容器内の輸液の温度を精度よく検出することが可能となる。
【0011】
また、上記発明においては、前記温度センサによる検出結果を表示する温度表示部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、温度表示部に表示された温度センサの検出結果を観察することにより、輸液温度が所定範囲内に維持されていることを容易に確認することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記温度センサにより検出された輸液の温度が所定の温度範囲外となったときに、外部に対して報知する警報部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、輸液の温度が所定の温度範囲外となったときには、警報部の作動により、その旨が外部に報知されるので、オペレータは容易に装置の異常を認識することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記保温室の側壁に開閉可能な扉が設けられ、該扉に前記加熱部が設けられるとともに、該扉が閉じられた状態で、該扉とこれに対向する側壁との間の間隔が、輸液を貯留した輸液容器の厚さ寸法より小さく設定されていることとしてもよい。
【0014】
このようにすることで、保温室の側壁に設けられた扉を開いて輸液容器を保温室内に収容し、その後扉を閉じることにより、輸液容器が保温室内の扉と側壁との間に挟まれる。扉を閉じた状態では、扉とこれに対向する側壁との間の間隔が輸液容器の厚さ寸法より小さいので、扉を開いて間隔を広げることにより、輸液容器の保温室内への収容を容易にすることができる。
【0015】
また、扉が閉じられることにより、輸液容器には扉および側壁が密着させられる。この場合において、扉には加熱部が設けられているので、加熱部の熱を密着している輸液容器に効率的に伝達することができ、輸液容器内の輸液を効率的に加温することができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記保温室に、前記輸液容器を吊り下げて支持する容器支持部が備えられ、該容器支持部が、保温室内から上方に引き出された引出位置と、保温室内に収容された収容位置との間で移動可能に設けられていることとしてもよい。
このようにすることで、容器支持部を引出位置に配置して輸液容器を吊り下げ状態に支持させた後に、容器支持部を収容位置まで下降させることにより、輸液容器を保温室内に収容することができる。この場合に、容器支持部を引出位置まで引き出すことにより、容器支持部への輸液容器の取付作業を容易にすることができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記保温室に、該保温室の内部空間を上方に開口させる上部開閉扉が設けられ、該上部開閉扉に前記容器支持部が固定されていることとしてもよい。
このようにすることで、上部開閉扉を引き上げると、保温室の内部空間が上方に開口されるとともに、上部開閉扉とともに容器支持部が引出位置まで引き上げられ、容器支持部への輸液容器の取付作業を容易にすることができる。また、容器支持部を収容位置まで引き下げることにより、上部開閉扉によって保温室の上部の開口が閉じられる。したがって、輸液容器の保温室への収容作業を容易に行うことができる。
【0018】
また、本発明は、生体組織を輸液により洗浄する洗浄容器と、該洗浄容器内で洗浄された生体組織を酵素により消化する消化容器と、前記洗浄容器および/または前記消化容器内に輸液を供給する輸液供給部とを備え、該輸液供給部が、上記いずれかの輸液加温装置を備える細胞処理装置を提供する。
【0019】
本発明によれば、輸液供給部に備えられた輸液加温装置により、輸液容器内に収容された状態の輸液が加温状態に維持されるので、輸液供給部の作動により、一定の温度に加温された大量の輸液を洗浄容器および/または消化容器内に供給することができる。これにより、洗浄容器内における生体組織の洗浄作業および消化容器内における生体組織の消火作業を円滑に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、大量に供給する輸液を一定の温度に加温しつつ供給することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る輸液加温装置1および細胞処理装置2について、図1〜図13を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る輸液加温装置1は、図1に示されるように、細胞処理装置2に備えられている。
【0022】
本実施形態に係る細胞処理装置2は、図1に示されるように、脂肪組織のような生体組織を収容して洗浄および消化を行う洗浄・消化容器(洗浄容器、消化容器)3と、リンゲル輸液あるいは生理食塩水等の輸液を貯留する輸液容器4と、該輸液容器4内の輸液を加温する輸液加温装置1と、該輸液容器4内の輸液を洗浄・消化容器3内に供給等するための配管5、ポンプ6およびバルブ7と、洗浄・消化容器3内において消化された結果、得られた細胞懸濁液から細胞を分離する遠心分離機8と、該遠心分離機8により細胞から分離された廃液を収容する廃液収集容器9と、これらを制御する制御部10とを備えている。
【0023】
前記洗浄・消化容器3には、生体内に挿入されて生体組織を採取するカニュレのような吸引ノズル11と、洗浄・消化容器3内を負圧に吸引する真空発生器12とが接続されている。真空発生器12を作動させ、洗浄・消化容器3内を負圧に吸引することにより、該洗浄・消化容器3に接続されている吸引ノズル11から生体組織を洗浄・消化容器3内に吸引することができるようになっている。
【0024】
前記輸液容器4は、例えば、ポリエチレン製の輸血バッグのように比較的柔らかい材質により構成されている。輸液容器4内に輸液を貯留すると、輸液にかかる重力によって輸液容器4が変形し、下側が膨らんだ形態をとるようになっている。
【0025】
本実施形態に係る輸液加温装置1は、図2に示されるように、直方体のボックス状に形成され、前記輸液容器4を収容する保温室13と、該保温室13内に配置され輸液容器4内に貯留された状態の輸液を加熱する加熱部14とを備えている。
保温室13は、図2に示される例では、その一側面に配置され、ヒンジ13fによって底面13aに対して水平軸線回りに揺動させられるように開閉される側部扉13bと、その上面に配置され、上下方向に移動させられることにより上部開口13cを開閉する上部扉13dとを備えている。
【0026】
前記加熱部14は、側部扉13bの内面およびこれに対向する側壁13e内面に配置された金属板(伝熱部材)14aと、該金属板14aを加熱するヒータ14bとを備えている。金属板14aどうしの間隔寸法は、側部扉13bが開かれたときには、保温室13内部に収容する輸液容器4の厚さ寸法よりも大きくなり、側部扉13bが閉じられたときには、輸液容器4の厚さ寸法より小さくなるように設定されている。
保温室13を取り囲む側壁13e、底面13a、側部扉13bおよび上部扉13dは、いずれも断熱材料により構成され、保温室13内の熱が外部に漏れないように断熱するようになっている。
【0027】
また、保温室13の内部には、その底面13a近傍に検出部15aを上方に向けて配置された温度センサ15が備えられている。温度センサ15は、保温室13内に収容される輸液容器4の下部に接触させられて、輸液容器4を介して内部の輸液の温度を間接的に検出するようになっている。輸液容器4の下部には図示しない輸液出口が設けられているので、温度センサ15は輸液出口近傍に接触させられるようになっている。
【0028】
前記温度センサ15および前記ヒータ14bは、温度制御部16に接続されている。温度制御部16は、温度センサ15からの検出信号を受けて、該検出信号が所定の温度範囲内に配されるようにヒータ14bによる発熱量を制御するようになっている。
【0029】
また、温度制御部16には、温度設定部17、温度表示部18および警告表示部19が接続されている。温度設定部17は、オペレータの入力により輸液の所望の温度範囲を設定することができるようになっている。温度表示部18は、温度センサ15により検出された温度をオペレータにわかるように表示するようになっている。警告表示部19は、温度センサ15により検出された温度が温度設定部17により設定された温度範囲外となったとき、これをオペレータに対して表示するようになっている。
【0030】
また、温度制御部16は、温度センサ15により検出された温度が温度設定部17により設定された温度範囲外となったとき、そのことを示す警告信号を細胞処理装置2の制御部10に送るようになっている。警告信号を受けた制御部10は、輸液加温装置1に異常が発生したものと判断し、細胞処理装置2の各機器を停止するよう制御する。
【0031】
上部扉13dは、底面13aから立ち上がるレール20に沿って上下方向に移動可能に設けられたスライダ21に固定されている。また、上部扉13dの下部には、輸液容器4を懸架するフック22が設けられている。これにより、上部扉13dは、上方に移動させられることにより上部開口13cを開放し、かつ、輸液容器4を懸架するフック22を上方に引き出した引出位置と、下方に移動させられることにより上部開口13cを閉塞し、かつ、フック22を保温室13内に配置する収容位置との間で移動させられるようになっている。
【0032】
また、スライダ21近傍には、図3および図4に示されるように、該スライダ21を引出位置において係止し、解除されることによってスライダ21の下降を許容するラッチ機構23が設けられている。ラッチ機構23は、スライダ21の移動方向に直交する方向に進退させられる係合部材23aと、該係合部材23aの先端をスライダ21に押し付ける方向に係合部材23aを付勢するスプリング23bと、該スプリング23bによる付勢力に抗して係合部材23aをスライダ21から離れる方向に後退させるためのレバー23cとを備えている。
【0033】
スライダ21を引出位置まで引き上げると、スプリング23bの付勢力によって係合部材23aがスライダ21の下縁の下方に突出することにより、スライダ21が下降しないように係止されるようになっている。一方、スライダ21を下降させるときには、レバー23cを操作して係合部材23aを鎖線に示されるように後退させることにより、スライダ21の下方から係合部材23aを離脱させ、スライダ21の自由な下降を許容するようになっている。
【0034】
このように構成された本実施形態に係る輸液加温装置1および細胞処理装置2の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る輸液加温装置1によれば、輸液を貯留した輸液容器4を保温室13内に収容するには、図5に示されるように、側部扉13bを開き、次いで、図6に示されるように、上部扉13dを引き上げて引出位置に配置する。これにより、ラッチ機構23が作動して、スライダ21が引出位置に係止される。
【0035】
この状態で、上部扉13dに固定されたフック22が保温室13の上方に抜き出された状態に露出させられるので、操作者は、図6および図7に示されるように、輸液を貯留した輸液容器4を容易にフック22に懸架させることができる。
そして、フック22に輸液容器4を懸架させた後には、ラッチ機構23を解除することによりスライダ21の下降動作を許容する。これにより、フック22に輸液容器4を懸架させた状態の上部扉13dをスライダ21によって下降させ、図8に示されるように、保温室13内に配置することができる。
【0036】
この場合に、保温室13はその側部扉13bが開かれた状態とされているので、保温室13内の空間が広く確保されており、輸液によって膨らんだ状態の輸液容器4を容易に保温室13内に収容することができる。そして、これにより、上部扉13dによって保温室13の上部開口13cが閉じられる。
【0037】
さらに、この状態で、図9に示されるように、側部扉13bを閉じると、輸液容器4が保温室13内に密閉状態に収容されるとともに、側部扉13bおよびこれに対向する側壁13e内面に設けられた金属板14a間に輸液容器4が挟まれる。金属板14aの間隔寸法は膨らんだ輸液容器4の厚さ寸法より小さく設定されているので、金属板14a間に輸液容器4が挟まれると、輸液容器4が変形して金属板14aと輸液容器4とが広い接触面積で密着させられる。
【0038】
この状態でヒータ14bを作動させ、金属板14aを介してヒータ14bの熱を輸液容器4に伝達する。これにより、ヒータ14bの熱が広い接触面積で接触している熱伝導率の高い金属板14aを介して輸液容器4に供給されるので、輸液容器4内の輸液を効率的に加温することができる。また、保温室13はその底面13a、側部扉13b、側壁13eおよび上部扉13dが全て断熱部材により構成されているので、ヒータ14bからの熱が保温室13外に漏れることが抑制され、ヒータ14bの熱を効率的に利用して輸液を加温することができる。
【0039】
また、保温室13内に収容された輸液容器4の下部には温度センサ15が接触状態とされ、その温度を検出するので、温度制御部16の作動により、輸液の温度が設定された温度範囲内となるようにヒータ14bの発熱量が制御される。したがって、輸液容器4に貯留された状態の大量の輸液が所望の温度範囲に精度よく維持される。
【0040】
さらに、本実施形態に係る輸液加温装置1によれば、温度センサ15が輸液容器4の輸液出口近傍に配置されているので、輸液容器4から輸液が供給されることにより、輸液容器4内の輸液が減少していっても、温度センサ15を輸液近傍の輸液容器4に接触状態に維持し、輸液の温度を精度よく検出することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る細胞処理装置2によれば、制御部10の作動により、真空発生器12が作動させられ、吸引ノズル11を介して生体組織が洗浄・消化容器3に吸引されると、輸液加温装置1内の輸液容器4から洗浄・消化容器3に続く配管5が開放されるように所定のバルブ7が開かれて、ポンプ6の作動により輸液容器4内の輸液が配管5を介して洗浄・消化容器3に供給される。
【0042】
そして、洗浄・消化容器3において輸液と生体組織とが攪拌されることにより、輸液によって生体組織が洗浄され、塵埃や血液等が輸液に流出する。塵埃や血液等が輸液に十分に流出した後には、制御部10の作動によりバルブ7を切り替えて、洗浄・消化容器3から廃液収集容器9へ塵埃や血液等を含む輸液が排出される。
【0043】
さらに、制御部10の作動により、バルブ7が切り替えられて輸液容器4から洗浄・消化容器3へ輸液が供給されるとともに、図示しない消化酵素供給部から洗浄・消化容器3へ消化酵素が供給される。そして、洗浄・消化容器3において輸液と生体組織とが攪拌されることにより、生体組織の消化処理が行われる。
【0044】
また、洗浄・消化容器3において生体組織が十分に消化されて、生体組織を構成していた細胞が単離されて細胞懸濁液が形成されると、制御部10の作動により、バルブ7が切り替えられて洗浄・消化容器3から遠心分離機8の遠心分離容器8aに向けて細胞懸濁液が送られる。そして、遠心分離機8が作動させられることにより、細胞懸濁液が遠心分離され、必要な細胞とそれ以外の不要成分とに分離される。
【0045】
その後、制御部10の作動により、遠心分離容器8aから不要成分が吸引されて廃液収集容器9へと送られるよう、バルブ7およびポンプ6が制御される。その結果、遠心分離容器8a内に所望の細胞が分離された状態で抽出されることになる。
【0046】
この場合において、本実施形態に係る細胞処理装置2によれば、洗浄・消化容器3へ輸液を送液する配管5において輸液を加温するのではなく、輸液を貯留する輸液容器4ごと保温室13内において加温するので、所定の温度に加温された大量の輸液を短時間で洗浄・消化容器3に供給することができる。
【0047】
したがって、洗浄処理においては、所定の温度に加温された輸液を洗浄・消化容器3に供給することにより、生体組織に不要な刺激、すなわち、極度に冷たかったり熱かったりすることによる刺激を与えることなく洗浄することができる。また、消化処理においては、所定の温度に加温された輸液を洗浄・消化容器3に供給することにより、消化酵素の活性を高めて、生体組織の消化を促進することができる。そして、所定の温度に加温された大量の輸液を短時間で供給できるので、洗浄処理あるいは消化処理に要する時間を短縮して、迅速な処理を行うことができる。
【0048】
また、本実施形態に係る細胞処理装置2によれば、輸液加温装置1の温度センサ15が所定の範囲外の温度を検出した場合に、温度制御部16から出力される警報信号に基づいて制御部10が装置全体の動作を停止するので、生体組織に不要な刺激を与えたり、消化酵素の活性を減殺するような温度の輸液が生体組織に対して供給されることを未然に防止することができる。オペレータは、細胞処理装置2が停止していることや、温度表示部18あるいは警告表示部19の表示を確認することで、容易に異常状態であることを認識でき、これに対する効果的な処置を迅速に施すことができる。
【0049】
また、本実施形態に係る輸液加温装置1の保温室13の輸液容器4が配置されることとなる空間の下方には、図10に示されるように、該輸液容器4の下部に設けられた送出部4aに送液配管30を接続するためのスパイク機構31が備えられていてもよい。
送液配管30は、その先端に送出部4aに刺し入れられる注射針32と、該注射針32を密封状態に被覆する着脱可能なキャップ33とを備えている。
【0050】
スパイク機構31は、図10に示される例では、注射針32を支持してその長手方向に沿う方向に移動させる直線移動機構34と、該直線移動機構34を水平軸線回りに回転させる回転機構35と、送液配管30に備えられたキャップ33を保持するキャップ保持部36と、送液配管30および輸液容器4の状態を監視するCCDカメラ37とを備えている。符号34aはスライダ、符号38は、フック22に輸液容器4が吊り下げられた状態で、送出部4aが動かないように固定する固定部である。
【0051】
キャップ33を取り付けた送液配管30の注射針は、略水平方向に配されてスパイク機構31にセットされ、その状態でキャップ33をキャップ保持部36に固定するようになっている。注射針32はキャップ33により密封状態に被覆されているので、スパイク機構31にセットされるまでの間で、塵埃や細菌等が付着することはない。
【0052】
スパイク機構31に輸液容器4がセットされると、CCDカメラ37によりセットされたことが確認され、スパイク機構31が作動させられる。
スパイク機構31は、まず、直線移動機構34の作動により、図11に示されるように、注射針32をその長手方向に後退させる方向に移動させることでキャップ保持部36に保持されたキャップ33から注射針32を抜き出す。次いで、図12に示されるように、回転機構35を作動させて直線移動機構34を回転させることで、該直線移動機構34に支持されている注射針32を水平軸線回りに回転させ、その先端を鉛直上方に向かわせる。
【0053】
この状態で、CCDカメラ37により、輸液容器4の状態および注射針32の状態が確認される。輸液容器4の状態としては、例えば、封止シール(図示略)が剥がされていることなど、送出部4aに注射針32を刺すことができる状態であるか否か、あるいは汚れていないか否かが確認され、注射針32の状態としては、例えば、キャップ33が外されているか否かが確認される。
【0054】
状態が確認された後には、図13に示されるように、再度直線移動機構34を作動させて、注射針32を先端に向かって鉛直上方に直線移動させる。これにより、注射針32の先端の鉛直上方に配置されている輸液容器4の送出部4aに注射針32を刺し入れることができる。
このようにすることで、送液配管30を人手を介在させることなく無菌的に輸液容器4に接続することができる。したがって、細菌等のコンタミネーションの発生をより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞処理装置を示す全体構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る輸液加温装置を示す全体構成図である。
【図3】図2の輸液加温装置のラッチ機構を示す縦断面図である。
【図4】図3のラッチ機構の動作を説明する図であり、(a)上部扉を閉じた状態、(b)上部扉を開いた状態をそれぞれ示している。
【図5】図2の輸液加温装置の側部扉を開いた状態を示す縦断面図である。
【図6】図5の状態からさらに上部扉を開いた状態を示す縦断面図である。
【図7】図6の状態からさらに輸液容器をフックに懸架させた状態を示す縦断面図である。
【図8】図7の状態からさらに上部扉を閉じた状態を示す縦断面図である。
【図9】図8の状態からさらに側部扉を閉じた状態を示す縦断面図である。
【図10】図2の輸液加温装置の保温室に設けられたスパイク機構を示す正面図である。
【図11】図10の状態から送液配管の注射針をキャップから抜き出す動作を説明する正面図である。
【図12】図11の状態から注射針を輸液容器下部の送液部に向ける動作を説明する正面図である。
【図13】図12の状態から注射針を送液部に刺し入れる動作を説明する正面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 輸液加温装置
2 細胞処理装置
3 洗浄・消化容器(洗浄容器、消化容器)
4 輸液容器
5 配管(輸液供給部)
6 ポンプ(輸液供給部)
7 バルブ(輸液供給部)
13 保温室
13b 側部扉(扉)
13d 上部扉(上部開閉扉)
14 加熱部
14a 金属板(伝熱部材)
14b ヒータ
15 温度センサ
16 温度制御部(制御部)
18 温度表示部
19 警告表示部(警報部)
22 フック(容器支持部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸液を貯留する輸液容器を収容する保温室と、
該保温室に配置され前記輸液容器内に貯留された状態の輸液を加熱する加熱部とを備える輸液加温装置。
【請求項2】
前記加熱部が、前記輸液容器に密着させられる伝熱部材と、該伝熱部材を加熱するヒータとを備える請求項1に記載の輸液加温装置。
【請求項3】
前記保温室が断熱部材により覆われている請求項1または請求項2に記載の輸液加温装置。
【請求項4】
前記輸液容器内に貯留された状態の輸液の温度を検出する温度センサと、
該温度センサの検出結果に応じて前記加熱部を制御する制御部とを備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の輸液加温装置。
【請求項5】
前記温度センサが、前記輸液容器に備えられた輸液出口近傍に配置されている請求項4に記載の輸液加温装置。
【請求項6】
前記温度センサによる検出結果を表示する温度表示部を備える請求項4または請求項5に記載の輸液加温装置。
【請求項7】
前記温度センサにより検出された輸液の温度が所定の温度範囲外となったときに、外部に対して報知する警報部を備える請求項4から請求項6のいずれかに記載の輸液加温装置。
【請求項8】
前記保温室の側壁に開閉可能な扉が設けられ、
該扉に前記加熱部が設けられるとともに、
該扉が閉じられた状態で、該扉とこれに対向する側壁との間の間隔が、輸液を貯留した輸液容器の厚さ寸法より小さく設定されている請求項1から請求項7のいずれかに記載の輸液加温装置。
【請求項9】
前記保温室に、前記輸液容器を吊り下げて支持する容器支持部が備えられ、
該容器支持部が、保温室内から上方に引き出された引出位置と、保温室内に収容された収容位置との間で移動可能に設けられている請求項1から請求項8のいずれかに記載の輸液加温装置。
【請求項10】
前記保温室に、該保温室の内部空間を上方に開口させる上部開閉扉が設けられ、
該上部開閉扉に前記容器支持部が固定されている請求項9に記載の輸液加温装置。
【請求項11】
生体組織を輸液により洗浄する洗浄容器と、
該洗浄容器内で洗浄された生体組織を酵素により消化する消化容器と、
前記洗浄容器および/または前記消化容器内に輸液を供給する輸液供給部とを備え、
該輸液供給部が、請求項1から請求項10のいずれかに記載の輸液加温装置を備える細胞処理装置。
【請求項1】
輸液を貯留する輸液容器を収容する保温室と、
該保温室に配置され前記輸液容器内に貯留された状態の輸液を加熱する加熱部とを備える輸液加温装置。
【請求項2】
前記加熱部が、前記輸液容器に密着させられる伝熱部材と、該伝熱部材を加熱するヒータとを備える請求項1に記載の輸液加温装置。
【請求項3】
前記保温室が断熱部材により覆われている請求項1または請求項2に記載の輸液加温装置。
【請求項4】
前記輸液容器内に貯留された状態の輸液の温度を検出する温度センサと、
該温度センサの検出結果に応じて前記加熱部を制御する制御部とを備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の輸液加温装置。
【請求項5】
前記温度センサが、前記輸液容器に備えられた輸液出口近傍に配置されている請求項4に記載の輸液加温装置。
【請求項6】
前記温度センサによる検出結果を表示する温度表示部を備える請求項4または請求項5に記載の輸液加温装置。
【請求項7】
前記温度センサにより検出された輸液の温度が所定の温度範囲外となったときに、外部に対して報知する警報部を備える請求項4から請求項6のいずれかに記載の輸液加温装置。
【請求項8】
前記保温室の側壁に開閉可能な扉が設けられ、
該扉に前記加熱部が設けられるとともに、
該扉が閉じられた状態で、該扉とこれに対向する側壁との間の間隔が、輸液を貯留した輸液容器の厚さ寸法より小さく設定されている請求項1から請求項7のいずれかに記載の輸液加温装置。
【請求項9】
前記保温室に、前記輸液容器を吊り下げて支持する容器支持部が備えられ、
該容器支持部が、保温室内から上方に引き出された引出位置と、保温室内に収容された収容位置との間で移動可能に設けられている請求項1から請求項8のいずれかに記載の輸液加温装置。
【請求項10】
前記保温室に、該保温室の内部空間を上方に開口させる上部開閉扉が設けられ、
該上部開閉扉に前記容器支持部が固定されている請求項9に記載の輸液加温装置。
【請求項11】
生体組織を輸液により洗浄する洗浄容器と、
該洗浄容器内で洗浄された生体組織を酵素により消化する消化容器と、
前記洗浄容器および/または前記消化容器内に輸液を供給する輸液供給部とを備え、
該輸液供給部が、請求項1から請求項10のいずれかに記載の輸液加温装置を備える細胞処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−56286(P2009−56286A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107007(P2008−107007)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]