説明

輸送体インヒビターの同定に有用な二重トランスフェクト細胞株

【課題】現在使用されているシステムの不都合を克服する、体内で生成するか、または通常体内に存在する物質の輸送の薬剤候補による妨害、特に有機アニオンの肝臓輸送または腎臓輸送の妨害の効率的な解析のための手段を提供すること。
【解決手段】(i)(a)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンの取込み輸送体をコードするDNA配列、および(b)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプをコードするDNA配列でトランスフェクトされた二重トランスフェクト細胞株を、頂端画分および側底側画分を有する分極単層として成長させる工程;
(ii)頂端画分または側底側画分中で、候補剤および標識基質または蛍光基質を含む輸送バッファーと細胞をインキュベートする工程;ならびに
(iii)(ii)の画分のもう1方の画分である頂端画分または側底側画分中の標識基質または蛍光基質を測定して、候補剤が有機アニオンの輸送体または有機アニオンもしくはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプによる細胞輸送を阻害するかどうかを決定する工程
を含む、候補剤が輸送体インヒビターであるかまたは輸送体基質であるかを同定するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンの取込み輸送体、好ましくはOATP8をコードするDNA配列、および(b)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプ、好ましくは多剤耐性タンパク質2(MRP2)をコードするDNA配列を含有してなる二重トランスフェクト細胞株に関する。本発明はまた、好ましくは、輸送体インヒビター、例えば薬剤候補の同定のための前記細胞株の様々な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一方向性輸送は、解毒、および器官への毒素の進入の防御に寄与するすべての分極細胞の重要な機能である。この例として、腎臓近位管上皮、血管脳関門の細胞、腸上皮が挙げられ、忘れてはならないのものとして肝細胞が挙げられる。主な肝細胞機能の1つは、血液循環からの内因性物質および外因性物質の除去および該物質の胆汁への分泌である。肝細胞によるこの一方向性輸送において、2つの輸送プロセス:血液からの洞様毛細血管(側底側)取込みおよび胆汁への小管(頂端側)分泌が決定的な役割を果たす。ヒト肝細胞において、両親媒性有機アニオンのナトリウム依存性取込みは、少なくとも3つの輸送タンパク質、すなわちヒト有機アニオン輸送体OATP2(OATP−CまたはLST1、記号SLC21A6としても知られる)(Abeら 1999;Hsiangら 1999;Koenigら 2000a;Cuiら 2001)、ヒトOATP8(SLC21A8)(Koenigら 2000b;Cuiら 2001)およびヒトOATP−B(SLC21A9)(Kullak−Ublickら 2001)により媒介される。すべての3つの輸送体は、溶質担体(SLC)スーパーファミリーのサブグループ21Aに属する。OATP−Bは、いくつかの他の組織においても発現されるが、OATP2およびOATP8はヒト肝細胞において排他的に発現される。OATPの基質スペクトルには、胆汁酸塩、ステロイドホルモンのコンジュゲート、甲状腺ホルモンおよび多くの他の両親媒性有機アニオン類が含まれる(Abeら 1999;Koenigら 2000a,b;Cuiら 2001;Kullak−Ublickら 2000,2001)。交換体型と考えられているこれらの側底側取込み輸送体(Liら 1998)とは異なり、これまでにヒト肝細胞において同定された頂端側輸出輸送体は、ATP結合性カセット(ABC)スーパーファミリーのメンバーである(KepplerおよびArias 1997;Jansen 2000)。有機アニオンの輸出は、ABCスーパーファミリーのMDR(ABCB)サブグループに属する胆汁酸塩輸出ポンプBSEP(ABCB11)(Strautnieksら 1998;Gerloffら 1998;Wangら 2001)、およびABCスーパーファミリーのMRP(ABCC)サブグループに属する多剤耐性タンパク質2(MRP2、ABCC2)(Buechlerら 1996;SuzukiおよびSugiyama 1998;Koenigら 1999;Borstら 2000)により主に媒介される。BSEPの主要な基質は、コリルタウリンおよびコール酸塩のような胆汁酸塩であるが(Gerloffら 1998)、MRP2により輸送される有機アニオンは、主に、親油性物質とグルタチオン、グルクロン酸塩または硫酸塩とのコンジュゲートである(Eversら 1998;Cuiら 1999;Koenigら 1999)。
【0003】
両親媒性有機アニオンの肝臓経由輸送は、スルホブロモフタレイン(BSP)およびインドシアニングリーン(ICG)(Scharschmidtら 1975)のようなモデル化合物の使用により頻繁に研究されている。肝細胞基底外膜において同定された3つのヒトOATPの機能特性付けにより、これら3つは、OATP2が最も高い親和性で(Km =140nM)、OATP8が最も低い親和性で(Km =3.4μM)で、BSPの取込みを媒介し得ることが示された(Koenigら 2000b;Kullak−Ublickら 2001;Cuiら 2001)。肝細胞において、BSPは、グルタチオンと主にコンジュゲートを形成し、BSPグルタチオンS−コンジュゲート(BSP−SG)を生じる(Whelanら 1970;Snelら 1995)。小管輸出ポンプMrp2(Paulusmaら 1996;Buechlerら 1996;Itoら 1997)を欠く輸送欠陥変異体ラットを用いた研究(Jansenら 1987)では、この輸出ポンプがBSP−SGの胆汁への分泌を媒介することが示された。しかしながら、BSP自体がヒトMRP2の基質であることは確立されなかった。これまで、OATPおよびMRPのような輸送タンパク質は、たいてい、トランスフェクトされた哺乳動物細胞の使用または1つの外因性組換え輸送タンパク質しか発現しないアフリカツメガエル卵母細胞系の使用により研究された(Madonら 1997;Itoら 1998;Eversら 1998;Cuiら 1999,2001;Abeら 1999;Hsiangら 1999;Koenigら 2000a,b;Kullak−Ublickら 2001)。
【0004】
新しい医薬を開発または設計する場合、重要な問題点の1つは、候補化合物が、体内で生成するか、または通常体内に存在する物質の輸送の妨害、例えば、リファンピシン、リファマイシンSVまたはCDNBによるBSPの経細胞輸送の妨害に例示されるような有機アニオンの肝臓輸送または腎臓輸送の妨害のような所望しない副作用を有するか否かである。経費削減のためには、開発の早い段階で薬剤候補のかかる副作用を検出することが望ましい。これまで、薬剤候補の潜在的な副作用の研究では動物または細胞培養物を使用した。しかしながら、これらのアプローチは、種々の不都合、例えば、時間とコストの浪費を提示し、薬剤候補などのハイスループットスクリーニングが可能でない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、現在使用されているシステムの不都合を克服する、体内で生成するか、または通常体内に存在する物質の輸送の薬剤候補による妨害、特に有機アニオンの肝臓輸送または腎臓輸送の妨害の効率的な解析のための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕(i)(a)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンの取込み輸送体をコードするDNA配列、および(b)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプをコードするDNA配列でトランスフェクトされた二重トランスフェクト細胞株を、頂端画分および側底側画分を有する分極単層として成長させる工程;
(ii)頂端画分または側底側画分中で、候補剤および標識基質または蛍光基質を含む輸送バッファーと細胞をインキュベートする工程;ならびに
(iii)(ii)の画分のもう1方の画分である頂端画分または側底側画分中の標識基質または蛍光基質を測定して、候補剤が有機アニオンの輸送体または有機アニオンもしくはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプによる細胞輸送を阻害するかどうかを決定する工程
を含む、候補剤が輸送体インヒビターであるかまたは輸送体基質であるかを同定するための方法、
〔2〕基質がスルホブロモフタレイン(BSP)またはペンタ−アニオンFluo−3である、〔1〕記載の方法、
〔3〕有機アニオンの取込み輸送体が、溶質担体(SLC)スーパーファミリーのサブグループ21Aまたは22Aのメンバーである、〔1〕または〔2〕記載の方法、
〔4〕有機アニオンの取込み輸送体が、OAT1(SLC22A6)、OATP2(SLC21A6)、OATP8(SLC21A8)またはOATP−B(SLC21A9)である、〔3〕記載の方法、
〔5〕有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプが、ABCスーパーファミリーのMDR(ABCB)サブグループまたはMRP(ABCC)サブグループのメンバーである、〔1〕〜〔4〕いずれか記載の方法、
〔6〕有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプが、胆汁酸塩輸出ポンプBSEP(ABCB11)または多剤耐性タンパク質2(MRP2;ABCC2)である、〔5〕記載の方法、
〔7〕ハイスループットスクリーニングとして行なわれる〔1〕〜〔6〕いずれか記載の方法、
〔8〕輸送体基質または輸送体インヒビターの同定のための二重トランスフェクト分極細胞株の使用であって、
二重トランスフェクト分極細胞株が(a)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンの取込み輸送体をコードするDNA配列、および(b)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプをコードするDNA配列でトランスフェクトされ;
取込み輸送体が側底側細胞膜で発現され、輸出ポンプが頂端細胞膜で発現される、使用、
〔9〕細胞株がマジン−ダービーイヌ腎臓の第II(MDCKII)細胞株である、〔8〕記載の使用、
〔10〕有機アニオンの取込み輸送体が、溶質担体(SLC)スーパーファミリーのサブグループ21Aまたは22Aのメンバーである、〔8〕または〔9〕記載の使用、
〔11〕有機アニオンの取込み輸送体が、OAT1(SLC22A6)、OATP2(SLC21A6)、OATP8(SLC21A8)またはOATP−B(SLC21A9)である、〔10〕記載の使用、
〔12〕有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプが、ABCスーパーファミリーのMDR(ABCB)サブグループまたはMRP(ABCC)サブグループのメンバーである、〔8〕〜〔11〕いずれか記載の使用、
〔13〕有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプが、胆汁酸塩輸出ポンプBSEP(ABCB11)または多剤耐性タンパク質2(MRP2;ABCC2)である、〔12〕記載の使用、
〔14〕細胞株が哺乳動物細胞株であり、有機アニオンの取込み輸送体をコードするDNA配列および/または有機アニオンもしくはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプをコードするDNA配列が、サイトメガロウイルス極初期プロモーターと作動可能に連結されている、〔8〕記載の使用、
〔15〕(a)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンの取込み輸送体をコードするDNA配列、および(b)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプをコードするDNA配列でトランスフェクトされ、取込み輸送体が溶質担体(SLC)スーパーファミリーのサブグループ21Aまたは22Aのメンバーであり、輸出ポンプがABCスーパーファミリーのメンバーである、二重トランスフェクト分極細胞株、
〔16〕マジン−ダービーイヌ腎臓の第II(MDCKII)細胞株である、〔15〕記載の二重トランスフェクト分極細胞株、
〔17〕輸出ポンプが胆汁酸塩輸出ポンプ(BSEP、ABCB11)である、〔15〕または〔16〕記載の二重トランスフェクト分極細胞株、
〔18〕取込み輸送体がOAT1(SLC22A6)、OATP2(SLC21A6)、OATP8(SLC21A8)またはOATP−B(SLC21A9)である、〔15〕〜〔17〕いずれか記載の細胞株
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、現在使用されているシステムの不都合を克服する、体内で生成するか、または通常体内に存在する物質の輸送の薬剤候補による妨害、特に有機アニオンの肝臓輸送または腎臓輸送の妨害の効率的な解析のための手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、トランスフェクトMDCK細胞内でのMRP2およびOATP8のイムノブロット解析の図である。対照ベクターにより永続的にトランスフェクトしたMDCK細胞(MDCK−Co)、ヒトMRP2により永続的にトランスフェクトしたMDCK細胞(MDCK−MRP2)、ヒトOATP8により永続的にトランスフェクトしたMDCK細胞(MDCK−OATP8)または両MRP2およびOATP8 cDNAにより永続的にトランスフェクトしたMDCK細胞(MDCK−MRP2/OATP8)からの粗製膜画分は、SDS−PAGEにより分離した。A:ヒトMRP2はポリクローナル抗体EAG5(KepplerおよびKartenbeck 1996;Schaubら 1999)により検出した。B:ヒトOATP8はポリクローナル抗体SKT(Koenigら2000b)により検出した。OATP8の場合、完全にグリコシル化された形態のみ矢印で示すが、約90kDaにおけるバンドは、該タンパク質の非グリコシル化形態を示す(Koenigら 2000b)。
【図2】図2は、MDCK細胞における組換えMRP2およびOATP8の免疫学的局在の図である。OATP8のみを発現するMDCK細胞(A,D)またはMRP2およびOATP8の両方を発現するMDCK細胞(B,C,EおよびF)を、Transwell膜インサート上で成長させ、共焦点レーザー走査顕微鏡検査により調べた。OATP8(緑蛍光)およびMRP2(赤蛍光)は、それぞれ、ポリクローナル抗体SKT(Koenigら 2000b)およびモノクローナル抗体M2 III6(Eversら 1998)を用いて染色した。AおよびBは、細胞単層の中間に焦点化した正面図であり、Cは、細胞単層の上部に焦点化した正面図である。D、EおよびFは、A、BおよびCにおける白線により示された位置の縦断面である。OATP8の横方向局在に加えて、このタンパク質のいくらかの細胞内染色が縦断面に見られる。MRP2のみが頂端側膜に局在している(E,F)。バー、10μm。
【図3】図3は、分極単層としてのTranswell膜インサート上で成長しているMDCKトランスフェクタントの概略図である。培養培地に面する頂端側膜は、密着結合により膜支持体に面する基底外膜から分離される。輸出ポンプMRP2は頂端側膜に局在するが、取込み輸送体OATP8は基底外膜に局在する。
【図4】図4は、[3 H]BSPの経細胞輸送の図である。MDCK−Co(e)、MDCK−MRP2(s)、MDCK−OATP8(c)およびMDCK−MRP2/OATP8(g)細胞は、Transwell膜インサート上で成長させた。[3 H]BSP(1μM)を側底側画分に与えた。示された時間点において、頂端側画分における放射能(経細胞[3 H]BSP輸送)および細胞内における放射能(細胞内[3 H]BSP蓄積)を測定した。[3 H]BSPの全取込みを、細胞内放射能および頂端側放射能の合計として算出した。データは、平均±SD(n=4)を示す。ほとんどの測定値について、標準偏差は記号(symbol)のサイズ内であった。
【図5】図5は、[3 H]BSPの一方向性輸送および流出の図である。MDCK−OATP8およびMDCK−MRP2/OATP8細胞は、Transwell膜インサート上で成長させた。A:[3 H]BSPの一方向性輸送。[3 H]BSP(1μM)を側底側画分(B(登録商標)A)または頂端側画分(A(登録商標)B)のいずれかに与えた。37℃で15分後、反対側の画分での放射能を測定した。B:[3 H]BSPの流出。MDCK−OATP8およびMDCK−MRP2/OATP8細胞を、側底側画分内で[3 H]BSP(1μM)とともに37℃で30分間インキュベートした。次いで、細胞を低温バッファーで洗浄し、[3 H]BSPを含まないバッファーで37℃にて30分間インキュベートした。続いて、側底側画分内および頂端側画分内および細胞内部に放出された放射能を測定した。データは、平均±SD(n=4)を示す。
【図6】図6は、[3 H]BSPのHPLC解析の図である。Transwell膜インサート上で成長させたMDCK−MRP2/OATP8細胞を、側底側画分内で1μM [3 H]BSPとともに37℃で30分間インキュベートした。頂端側画分内の培地および細胞溶解物を、「材料および方法」に記載のようにしてラジオHPLCにより解析した。A:真正[3 H]BSP(Cuiら 2001);B:頂端側画分内で回収された放射能;C:細胞内に蓄積された放射能。[3 H]BSP(矢印の頂端側)および[3 H]BSPのグルタチオンS−コンジュゲート([3 H]BSP−SG、矢印)を示す。[3 H]BSP−SGのグルタチオン部分の分解インヒビターであるアシビシンをインキュベーション物に5mMの濃度で添加した。
【図7】図7は、ヒトMRP2による[3 H]BSPのATP依存性輸送の図である。A:ヒトMRP2でトランスフェクトしたHEK293細胞(HEK−MRP2)由来の反転膜小胞を、ATP(g)または5’−AMP(c)の存在下で1μMの[3 H]BSPとともにインキュベートした。B:HEK−MRP2細胞(g)またはHEK−Co細胞(c)由来小胞内への[3 H]BSPの正味ATP依存性輸送を、5’−AMPの存在下で測定した値からATPの存在下で測定した値を引くことにより算出した。C:BSPに対するヒトMRP2のKm 値を1〜10μMのBSP濃度で測定した。データは、平均±SD(n=4)を示す。
【図8】図8は、有機アニオンの経細胞輸送の図である。Transwell膜インサート上で成長させたMDCK−Co、MDCK−OATP8およびMDCK−MRP2/OATP8細胞を、[3 H]BSP(1μM)、[3 H]LTC4 (0.5μM)、[3 H]E2 17bG(5μM)、[3 H]DHEAS(5μM)、Fluo−3(2μM)または[3 H]コリルタウリン(5μM)とともに側底側画分内で37℃にてインキュベートした。次いで、30分後に頂端側画分内の放射能(標識物質)または蛍光(Fluo−3)を測定した。データは、平均±SD(n=4)を示す。
【図9】図9は、[3 H]BSPの経細胞輸送の阻害の図を示す。Transwell膜インサート上で成長させたMDCK−OATP8(A,C,E,G)およびMDCK−MRP2/OATP8(B,D,F,H)細胞を、[3 H]BSP(1μM)とともに側底側画分内で、異なる濃度のヒト血清アルブミン(HSA、C,D)、リファンピシン(E,F)またはリファマイシンSV(G,H)の存在下でインキュベートした。2,4−クロロ−ジニトロベンゼン(CDNB)(A,B)では、細胞をCDNBとともに室温で20分間プレインキュベートし、側底側画分内のバッファーを、[3 H]BSPおよびCDNBを含有する新しいバッファーと交換することにより[3 H]BSPの輸送を開始した。37℃で30分間インキュベーション後、頂端側画分内および細胞内部の放射能を測定した。データは、平均±SD(n=4)を示す。
【図10】図10は、リファンピシンの経細胞輸送の図である。Transwell膜インサート上で成長させたMDCK−Co、MDCK−MRP2、MDCK−OATP8およびMDCK−MRP2/OATP8細胞を、50μMリファンピシンとともに側底側画分内で37℃で30分間インキュベートした。頂端側画分内のリファンピシンの濃度を、475nmでのリファンピシンの特異的吸収により測定した。データは、平均±SD(n=4)を示す。
【図11】図11は、二重トランスフェクト細胞株内での組換え輸送タンパク質の免疫学的局在の図である。OAT1およびMRP2(A,C)またはOATP2およびMRP2(B,D)でトランスフェクトしたMDCKII細胞をTranswell膜インサート上で成長させた。組み換えMRP2を抗血清EAG5(A,C内の緑)または市販の抗体M2 III6(B,D内の赤)で染色した。組換えOAT1を、OAT1のカルボキシ末端のエピトープに対する市販のモノクローナル抗体で染色した(A,C内の赤)。組換えOATP2は、ポリクローナル抗血清ESLで染色した(B,D内の緑)。両方の二重トランスフェクト細胞株において、MRP2は、分極MDCKII細胞の頂端側膜に局在した。OAT1およびOATP2は、それぞれの細胞株の基底外膜内でのみ検出された。
【図12】図12は、MDCK−OAT1/MRP2細胞によるパラ−アミノ馬尿酸塩(PAH)の経細胞輸送の図である。対照ベクターでトランスフェクトしたMDCKII細胞(MDCK−Co)、OAT1でトランスフェクトしたMDCKII細胞(MDCK−OAT1)またはOAT1とMRP2の両方でトランスフェクトしたMDCKII細胞(MDCK−OAT1/MRP2)をTranswell膜インサート上で成長させ、37℃で側底側画分に添加した10μM[3 H]PAHとともにインキュベートした。頂端側画分内に蓄積された放射能を30分後に測定した。
【図13】図13は、MDCK−OATP2/MRP2細胞によるBSPの経細胞輸送の図である。対照ベクターでトランスフェクトしたMDCKII細胞(MDCK−Co)、OATP2でトランスフェクトしたMDCKII細胞(MDCK−OATP2)またはOATP2とMRP2の両方でトランスフェクトしたMDCKII細胞(MDCK−OATP2/MRP2)をTranswell膜インサート上で成長させ、37℃で側底側画分に添加した1μM[3 H]BSPとともにインキュベートした。頂端側画分内に蓄積された放射能を30分後に測定した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明によれば、このことは、特許請求の範囲に記載された主題により達成される。特定のヒト取込み輸送体および輸出輸送体を有する細胞株、すなわち、基底外膜において有機アニオンの組換え取込み輸送体を永続的に発現し、頂端側膜においてアニオン性コンジュゲートのATP依存性輸出ポンプを永続的に発現する二重トランスフェクトMDCK細胞株を樹立した。側底側取込みは、ヒト有機アニオン輸送体OATP8(記号SLC21A8)により媒介され、多剤耐性タンパク質2(MRP2;記号ABCC2)による頂端側輸出が続く。生理学的条件下では、両方の輸送タンパク質が肝細胞において強く発現され、有機アニオンの肝胆管排除に寄与する。Transwell膜インサート上で成長しているMDCK細胞におけるOATP8およびMRP2の発現および局在は、イムノブロットおよび共焦点レーザー走査顕微鏡検査により示された。 3H−標識スルホブロモフタレイン(BSP)を両輸送タンパク質の基質とし、二重トランスフェクトMDCK−MRP2/OATP8細胞により、単独トランスフェクトMDCK−OATP8またはMDCK−MRP2細胞よりも少なくとも6倍速い速度で側底側画分から頂端側画分に移動した。単独トランスフェクト細胞よりもずっと高速での二重トランスフェクト細胞による一方向性輸送もまた、3 H−標識された基質ロイコトリエンC4 、17b−グルクロノシルエストラジオールおよび硫酸デヒドロエピアンドロステロンと、蛍光アニオン性基質fluo−3と、抗生物質リファンピシンとで観察された。阻害研究により、2,4−クロロジニトロベンゼンからのS−(2,4−ジニトロフェニル)−グルタチオンの細胞内形成が、MRP2−媒介性輸出の部位で[3 H]BSPの経細胞輸送を選択的に阻害することが示された。
【0010】
MRP2およびOATP8の新しい基質の同定により、二重トランスフェクト細胞株がこれらの輸送体の特性付けに有用であることが示された。OATP8またはMRP2のいずれかで個別にトランスフェクトしたMDCK細胞との比較において、二重トランスフェクタントはいくつかの利点を有する。MRP2の基質のほとんどは生理学的条件下で負に帯電し、したがって、取込み輸送体なしでは原形質膜を貫通できないため、これまでは細胞全体におけるMRP2機能を研究するのが困難であった。したがって、MRP2は、たいてい、MRP2発現細胞から調製した反転膜小胞を用いて研究されている。OATP8およびMRP2を発現する二重トランスフェクトMDCK細胞ならびに両輸送体の基質である[3 H]BSPおよびFluo−3のような化合物を用いると、細胞がインタクトなままでMRP2インヒビターをより容易にスクリーニングし得る。MRP2のみのインヒビターは、経細胞輸送を阻害し、[3 H]BSPの細胞内蓄積を増強する。MRP2およびOATP8の両方のインヒビターは、[3 H]BSPの細胞内蓄積よりも経細胞輸送をより強く低減させる。Transwell膜インサート上で成長させた二重トランスフェクト細胞の取扱いは、膜小胞の調製および取扱いと比べて容易なため、二重トランスフェクト細胞の使用によるMRP2インヒビターのハイスループットスクリーニングシステムを開発することが可能である。OATP8およびMRP2の両方の基質としての蛍光ペンタ−アニオンFluo−3の使用は、該スクリーニングをさらに容易にし得る。
【0011】
結論として、本発明の二重トランスフェクト細胞は、薬剤候補を含む、輸送体基質および輸送体インヒビターの同定のための有用なシステムを提供する。本発明の二重トランスフェクト細胞株を使用することにより、例えば、肝臓、腎臓、腸または血液脳関門に存在する特定の輸送タンパク質に対する薬剤候補の阻害効果を調べることができる。
【0012】
したがって、本発明は、(a)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンの取込み輸送体をコードするDNA配列、および(b)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプをコードするDNA配列を含有してなる、好ましくは安定な、二重トランスフェクト細胞株を提供する。好ましくは、有機アニオンの組換え取込み輸送体は側底側細胞膜において発現され、有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプは頂端側細胞膜において発現される。
【0013】
好ましくは、細胞をトランスフェクトするためには、DNA配列がベクターまたは発現ベクターに存在する。当業者は、その例をよく知っている。DNA配列はまた、適切な発現カセットを含む組換えウイルス内に含まれ得る。本発明において使用され得る好適なウイルスとしては、バキュロウイルス、ワクシニア、シンドビスウイルス、SV40、センダイウイルス、アデノウイルス、AAVウイルスまたはMVMもしくはH−1などのパルボウイルスが挙げられる。ベクターはまた、MoMULV、MoMuLV、HaMuSV、MuMTV、RSVもしくはGaLVなどのレトロウイルスであり得る。哺乳動物における発現には、好ましい好適なプロモーターはヒトサイトメガロウイルス「極初期プロモーター」(pCMV)である。
【0014】
上述のDNA配列を作製するため、および該DNA配列を含有する発現ベクターを構築するため、当該技術分野で公知の一般的な方法を使用することができる。これらの方法としては、例えば、インビトロ組換え技術、合成法および例えばSambrookら Molecular Cloning,A Laboratory Manual,第2版(1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NYに記載のようなインビボ組換え法が挙げられる。細胞のトランスフェクト法、トランスフェクタントの表現型による選別法および上述のベクターを用いた本発明によるDNA発現法は、当該技術分野において公知である。
【0015】
好ましくは、該細胞株はヒト細胞株、例えばHEK293である。特に好ましくは、分極細胞、例えば肝細胞、腎臓細胞、例えば、MDCKIIまたはHepG2である。
【0016】
本発明の二重トランスフェクト細胞株のさらに好ましい態様では、有機アニオンの取込み輸送体が、溶質担体(SLC)スーパーファミリーのサブグループ21Aのメンバーである。特に好ましくは、OAT1(SLC22A6)(Hosoyamadaら 1999)、OATP2、OATP8またはOATP−Bである。
【0017】
本発明の二重トランスフェクト細胞株のより好ましい態様では、有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプが、ABCスーパーファミリーのMDR(ABCB)サブグループまたはMRP(ABCC)サブグループのメンバーである。特に好ましくは、胆汁酸塩輸出ポンプBSEP(ABCB11)または多剤耐性タンパク質2(MRP2)である。ともにヒト腎臓近位管細胞で発現される(Tojoら 1999;Schaubら 1999)OAT1とMRP2の組み合わせは、有機アニオンの腎臓クリアランスの研究に役立ち得る。
【0018】
さらにより好ましい本発明の二重トランスフェクト細胞株では、有機アニオンの取込み輸送体をコードするDNA配列および/または有機アニオンもしくはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプをコードするDNA配列が、高発現を可能にするプロモーターと作動可能に連結されている。
【0019】
細胞内薬剤代謝の輸送に対する効果の調査の際、場合によっては、研究対象の薬剤に従って性質が変わり得る第3の化合物をコードするDNA配列で本発明の細胞をトランスフェクトすることが望ましい場合がある。
【0020】
最後に、本発明は、二重トランスフェクト細胞株の種々の使用に関する。好ましい使用は、輸送体基質または輸送体インヒビター、特に薬剤候補の同定である。好適なアッセイ形式は、当業者に公知であり、例えば、以下の実施例に記載されている。好ましいアッセイ形式はハイスループットスクリーニングである。
【0021】
略語
ABC:ATP−結合性カセットスーパーファミリー;BSEP:胆汁酸塩輸出ポンプ;BSP:スルホブロモフタレイン;CDNB:1−クロロ−2,4−ニトロベンゼン;DHEAS:デヒドロエピアンドロステロン3−硫酸塩;DiOC6(3):ヨウ化3,3'-ジヘキシルオキサカルボシアニン;E2 17bG:17b−グルクロノシルエストラジオール;Fluo−3:1−[2−アミノ−5−(2,7−ジクロロ−6−ヒドロキシ−3−オキソ−3H−キサンテン−9−イル)]−2−(2'-アミノ−5’−メチル−フェノキシ)−エタン−N,N,N’,N’−四酢酸五アンモニウム塩;HEK293:ヒト胚性腎臓細胞;HPLC:高速液体クロマトグラフフィー;HSA:ヒト血清アルブミン;Km :ミカエリス−メンテン定数;LTC4 :ロイコトリエンC4 ;MDCKII:マジン−ダービーイヌ腎臓細胞、第II株;MRP2:多剤耐性タンパク質2;OAT1:有機アニオン輸送体1;OATP:ヒト有機アニオン−輸送ポリペプチド;OCT1:有機カチオン輸送体1;SLC:溶質担体スーパーファミリー;TC:タウロコレートまたはコリルタウリン;SDS:ドデシル硫酸ナトリウム
【実施例】
【0022】
本発明を実施例により説明する。
【0023】
実施例1:材料および方法
(A) 化学物質。[3 H]BSP(0.5TBq/mmol)は、Hartmann
Analytic(Koeln、ドイツ)から通常の合成により得た(Cuiら 2001)。[14,15,19,20-3H]LTC4 、[1,2,6,7-3H]デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩(0.6TBq/mmol)、[3 H]コリルタウリン(73GBq/mmol)および17b−D−グルクロノシル[6,7-3H]エストラジオール(1.6TBq/mmol)は、Perkin−Elmer Life Science
Products(ボストン、MA)から購入した。[14C]イヌリンカルボン酸(82MBq/g)は、Biotrend Chemicals(Koeln、ドイツ)から入手した。Fluo−3(1−[2−アミノ−5−(2,7−ジクロロ−6−ヒドロキシ−3−オキソ−3H−キサンテン−9−イル)]−2−(2'-アミノ−5’−メチル−フェノキシ)−エタン−N,N,N’,N’−四酢酸五アンモニウム塩)は、Calbiochem(Bad Soden、ドイツ)製であった。リファンピシン、リファマイシンSV、アシビシンおよびCDNBは、Sigma(Deisenhofen、ドイツ)から購入した。G418(ゲネティシン)硫酸塩は、Life Technologies(Gaithersburg,MD)製であった。ハイグロマイシンはInvitrogen(Groningen、オランダ)製であった。その他の分析上純粋な非放射性化学物質はSigmaから入手した。
【0024】
(B) 細胞培養およびトランスフェクション。HEK293(ヒト胚性腎臓)およびMDCKII(マジン−ダービー(Madin-Darby) イヌ腎臓の第II株)細胞を、10%ウシ胎児血清、100U/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを添加した最少必須培地内で、37℃、湿度95%、5%CO2 にて培養した。Cuiら 1999に記載のように、HEK−MRP2およびHEK−Coは、それぞれヒトMRP2
cDNAおよび対照ベクターでトランスフェクトしたHEK293細胞であり、MDCK−MRP2およびMDCK−Coは、それぞれヒトMRP2 cDNAおよび対照ベクターでトランスフェクトしたMDCKII細胞である。
【0025】
ヒトOATP8 cDNA(Koenigら 2000b)を哺乳動物発現ベクターpcDNA3.1/Hygro(+)(Invitrogen)内にサブクローニングし、ポリブレン法(Koenigら 2000b)を用いてMDCKII細胞内にトランスフェクトした。組換えOATP8を発現するトランスフェクタントをハイグロマイシン(950μM)で選択した。最も高度なOATP8発現を伴うクローン(MDCK−OATP8)を、完全長ヒトMRP2 cDNAを有するベクター構築物pcDNA3.1−MRP2(Cuiら 1999)でさらにトランスフェクトした。950μMハイグロマイシンおよび800μM G418二硫酸塩で3週間選択した後、トランスフェクタントをMRP2およびOATP8の両方の発現についてイムノブロット解析によりスクリーニングした。最も高度なMRP2発現およびMDCK−OATP8細胞と類似するOATP8発現レベルを伴うクローンをMDCK−MRP2/OATP8と命名し、さらなる研究のために選択した。
【0026】
(C) イムノブロット解析。以前に記載(Cuiら 1999)のようにして、粗製膜画分を培養MDCKII細胞から調製した。タンパク質をSDS−PAGE(7.5%ゲル)により分離した。OATP8を、TBS−T(20mM Tris、145mM NaCl、0.05% Tween 20、pH7.6)中1:5000の希釈度でポリクローナル抗体SKT(Koenigら 2000b)により検出した。MRP2は、TBS−T中1:10000の希釈度でポリクローナル抗体EAG5(Buechlerら、1996;KepplerおよびKartenbeck、1996)により検出した。
【0027】
(D) 共焦点レーザー走査免疫蛍光顕微鏡検査。MDCKII細胞をTranswell膜インサート(直径6.5mm、孔径0.4μm、Corning Costar、Bodenheim、ドイツ)上にて、コンフルエントで3日間成長させ、10mM酪酸ナトリウムで24時間誘導させた(Cuiら 1999)。細胞をPBS(137mM NaCl、2.7mM KCl、8.0mM Na2 HPO4 、1.5mM KH2 PO4 、pH7.4)中2.5%パラホルムアルデヒドで20分間固定し、PBS中1%Triton X−100で20分間透過させ、室温で一次抗体とともに1.5時間インキュベートした。PBS中1:25の希釈度のポリクローナル抗体SKT(Koenigら 2000b)およびPBS中1:20の希釈度のモノクローナルマウス抗体M2 III6(Alexis Biochemicals、Gruenberg、ドイツ)を、それぞれOATP8およびMRP2を染色するために使用した。次いで、細胞をPBSで3回洗浄し、二次抗体とともにインキュベートした。Cy2とコンジュゲートしたヤギ抗ウサギIgGおよびCy3とコンジュゲートしたヤギ抗マウスIgGをJackson Laboratories(West Grove、PA)から入手し、PBS中1:200の希釈度で使用した。次いで、Transwell膜を膜インサートから切出し、PBS中50%グリセロールを用いてスライド上に載せた。Zeiss(Oberkochen、ドイツ)製のLSM510装置を用いて共焦点レーザー走査顕微鏡検査を行なった。
【0028】
(E) 輸送解析。輸送解析のため、MDCKII細胞を、Transwell膜インサート(直径24mm、孔径0.4μm、Corning Costar)上にて、コンフルエントで3日間成長させ、10mM酪酸ナトリウムで24時間誘導させた。細胞をまず輸送バッファー(142mM NaCl、5mM KCl、1mM KH2 PO4 、1.2mM MgSO4 、1.5mM CaCl2 、5mMグルコースおよび12.5mM
HEPES、pH7.3)で洗浄し、続いて、 3H−標識基質を加えた輸送バッファーを、頂端側画分(1ml)または側底側画分(1.5ml)のいずれかに添加した。示された時間後、反対の画分内の放射能を測定した。放射能の細胞内蓄積を、0.2%SDS含有水2mlで細胞を溶解し、細胞溶解物内の放射能を測定することにより測定した。
【0029】
Fluo−3の経細胞輸送を調べるため、細胞を、2μM Fluo−3とともに側底側画分内で37℃にて30分間インキュベートした。頂端側画分内のFluo−3の蛍光を、1.5mM Ca2+(Niesら 1998)の存在下、506nmの励起波長(5nmバンド幅)および526nmの発光波長(10nmバンド幅)で、RF−510蛍光分光計(シマズ、Duisburg、ドイツ)により測定した。
【0030】
リファンピシンの経細胞輸送を調べるため、細胞を、50μMリファンピシンとともに側底側画分内で37℃にて30分間インキュベートした。頂端側画分内のリファンピシンの濃度を調べるため、その475nmでの吸光度を分光測光計(Ultrospec III、Amersham−Pharmacia、Freiburg、ドイツ)により測定した。リファンピシンの濃度の計算のための検量線を1〜50μMの濃度範囲で測定した。
【0031】
阻害実験のため、1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン(CDNB)以外は、インヒビターを[3 H]BSPと同時に側底側画分内に添加した。この場合、Transwell膜インサート上で成長させたMDCKII細胞を、CDNBとともに頂端側画分内および側底側画分内の両方において、輸送バッファー中で20分間、室温でプレインキュベートした。次いで、側底側画分内のバッファーを、CDNBおよび[3 H]BSPを含有する新しいバッファーと交換することにより経細胞輸送を開始した。
【0032】
経細胞漏出を、50μM[14C]イヌリンカルボン酸とともに細胞を側底側画分内において30分間インキュベートし、頂端側画分内の放射能を測定することにより測定した。本研究で使用したすべての4つのMDCKII細胞株について、経細胞漏出は1%未満であった。
【0033】
3 H]BSPのHPLC解析。Transwell膜インサート上で成長させたMDCK−MRP2/OATP8細胞を、両方の画分における5mMアシビシン(g−グルタミルトランスフェラーゼのインヒビター)(Allenら 1980)との30分間37℃でのプレインキュベーション後、側底側画分内において30分間37℃で1μM[3 H]BSPとともにインキュベートした。頂端側画分内および細胞溶解物内の放射能をHPLCにより測定した。C18Hypersilカラム(5mm粒子;Shandon,Runcorn,UK)上での逆相HPLCを、Cuiら 2001に記載のようにして、100%バッファーA(pH6.0で2mM水酸化テトラブチルアンモニウムを含有する45%メタノール/55%水)から100%バッファーB(pH6.0で2mM水酸化テトラブチルアンモニウムを含有する90%メタノール/10%水)の直線勾配溶離液を用い、流速1ml/分で行なった。1mM GSH、0.4mM[3 H]BSP(1μCi)および5mMアシビシンを350μlマウス肝臓サイトゾルとともに最終容量500μlで1時間37℃にてインキュベートすることにより、[3 H]BSP−SGをHPLC解析のために合成した。3容量のメタノールでの除タンパク後、上述のようにして200μlの上清みをHPLCにより解析した。
【0034】
小胞輸送研究。[3H]BSP の膜小胞への輸送を迅速濾過法(Kepplerら、1998) により測定した。簡単には、膜小胞(30 μg タンパク質) を最終容量55μl のインキュベーションバッファー(250mMスクロース、10mM Tris/HCl 、pH7.4)中4mM のATP 、10mMのクレアチンリン酸、100μg/mlのクレアチンキナーゼ、および[3H]BSP の存在下で37℃にてインキュベートした。アリコート(15 μl)を指示された時点で取り出し、1ml の氷冷インキュベーションバッファー中で希釈し、予浸ニトロセルロース膜(0.2μm 孔径、Schleicher & Schuell, Dassel Germany) を介して直ちに濾過した。フィルターを5ml のインキュベーションバッファーで2 回リンスし、液体シンチレーション流体中に溶解し、放射能をカウントした。対照実験では、ATP を等濃度の5'-AMPと置き換えた。ATP の存在下で得られた値から5'-AMPの存在下で得られた値を引くことにより、ATP-依存性輸送を計算した。
【0035】
実施例2:MDCKII細胞における組換えヒトOATP8 およびMRP2の発現および局在
トランスフェクトされたMDCKII細胞におけるヒトOATP8 およびMRP2の発現を最初に免疫ブロッティングにより解析した(図1)。図1Aに示されるように、MRP2 cDNA のみでトランスフェクトされたMDCKII細胞(MDCK-MRP2) 、またはOATP8 cDNAおよびMRP2 cDNA の両方でトランスフェクトされたMDCKII細胞(MDCK-MRP2/OATP8) において、抗体EAG5によりMRP2発現を検出した。OATP8 cDNAのみでトランスフェクトされたMDCKII細胞(MDCK-OATP8)およびMDCK-MRP2/OATP8 細胞において抗体SKT によりOATP8 の発現を検出した(図1B)。本発明者らの初期の報告(Koenig ら、2000b)と一致して、ヒトOATP8 の十分なグリコシル化型は、約120kDaの見掛けの分子量を有し、抗体SKT により検出されたより低い見掛けの分子量を有するバンドは、OATP8 の非グリコシル化(under-glycosylated)型から生じた。対照ベクターを用いてトランスフェクトされたMDCKII細胞(MDCK-Co) において、ヒトOATP8 もMRP2もその発現は検出され得なかった(図1)。
【0036】
トランスフェクタントにおける組換え輸送体の細胞局在を、免疫蛍光検査および共焦点レーザー走査顕微鏡検査により調査した。MDCK-OATP8細胞において、側底側細胞膜中で抗体SKT を用いてOATP8 を染色し得た(図2AおよびD )。これらの細胞において、OATP8 のいくつかの細胞内染色もまた観察した。特異的に小胞体を染色する抗体SKT およびDiOC6(3)を用いる二重標識実験(Terasaki ら、1984) は、細胞内OATP8 画分がERに局在されることを指摘した(示さず)。OATP8 の部分的ER局在は、その生物発生に対応し、免疫ブロット解析において観察された非グリコシル化OATP8 の存在に一致する(図1B)。MDCK-MRP2/OATP8 細胞において、OATP8 の側面の出現に加えて、MRP2は頂端側細胞膜に局在した(図2B、C 、E およびF )。図2Bは、核の面に焦点をあわせた画像を示し、ここではOATP8 のみがこの面において目で見ることができた。図2Cは、細胞の上面に焦点をあわせた画像を示し、ここではMRP2染色を見ることができた。縦断面において、OATP8 およびMRP2の両方を目で見ることができた(図2Eおよび2F)。図3は、それぞれのトランスフェクト細胞株による一方向性輸送における両方の組換え輸送体の役割を概略的に示す。
【0037】
実施例3:OATP8 およびMRP2により媒介される[3H]BSP の経細胞輸送
二重トランスフェクト細胞におけるヒトOATP8 およびMRP2の機能を、ヒトOATP8 の基質である有機アニオン[3H]BSP の経細胞輸送の測定(Koenig ら、2000b 、Cui ら、2001) により調査した。したがって、Transwell 膜インサート上で増殖した分極したMDCKII細胞を、側底側画分中で1 μM の濃度の[3H]BSP と共にインキュベートした。種々の時点で、頂端側画分中および細胞中に蓄積した放射能を測定した。図4Aに示されるように、[3H]BSP の細胞内蓄積は、OATP8 cDNAのみでトランスフェクトされたMDCKII細胞(MDCK-OATP8)またはOATP8 cDNAおよびMRP2 cDNA の両方でトランスフェクトされたMDCKII細胞(MDCK-MRP2/OATP8) において、対照トランスフェクト細胞(MDCK-Co) およびMRP2トランスフェクト細胞(MDCK-MRP2) よりも有意に高く、OATP8 が[3H]BSP の細胞内蓄積に必要であることを示した。しかしながら、頂端側画分における放射能を測定した場合、MDCK-Co 、MDCK-MRP2 、およびMDCK-OATP8細胞について側底側画分から頂端側画分への[3H]BSP の有意な移動は観察し得ず(図4B)、一方、[3H]BSP の著しい経細胞輸送がMDCK-MRP2/OATP8 細胞で観察し得た(図4B)。図4Cは、MDCK-OATP8細胞によるよりもMDCK-MRP2/OATP8 細胞による[3H]BSP のより高い全取り込み(細胞内蓄積+経細胞輸送)を示す。
【0038】
MDCK-MRP2/OATP8 細胞による[3H]BSP の経細胞輸送は、図5Aに示されるように方向性プロセスであった。[3H]BSP の側底側から頂端側への輸送のみが観察され、一方、頂端側から側底側への輸送はごくわずかであった。このことは、二重トランスフェクタントにおけるOATP8 およびMRP2の細胞局在、およびMRP2媒介性輸送の一方向性から予期された(図3)。
【0039】
MDCK-OATP8およびMDCK-MRP2/OATP8 細胞と1 μM の[3H]BSP との30分間の側底側画分におけるインキュベーションの後、[3H]BSP の流出を測定した。図5Bに示されるように、[3H]BSP は主に側底側細胞膜を横切ってMDCK-OATP8細胞から放出され、一方、それは、主に頂端側細胞膜を横切ってMDCK-MRP2/OATP8 細胞から送出された。30分の流出実験後、細胞に残っている放射能を比較した場合、MDCK-MRP2/OATP8 細胞は、MDCK-OATP8細胞よりも有意に低い細胞内[3H]BSP レベルを示し、頂端側細胞膜におけるMRP2を介する効率的な送出を示した。
【0040】
実施例4:BSP のグルタチオンS-コンジュゲートではなくBSP それ自身が二重トランスフェクトMDCK細胞においてMRP2により輸送される
ラット肝臓における研究は、BSP が主にグルタチオンコンジュゲートとして胆汁に分泌されることを示した(Combs 1965; Klaassen およびPlaa 1967)。これがまた二重トランスフェクタントについて真実であるかどうかを調査するために、本発明者らは、側底側画分において1 μM の[3H]BSP とMDCK-MRP2/OATP8 細胞の30分間のインキュベーションの後、MDCK-MRP2/OATP8 細胞の頂端側画分における放射能を放射-HPLC によりチェックした。頂端側画分(図6B)および細胞(図6C)において蓄積された大部分の放射能(>98%)は、コンジュゲートしていない[3H]BSP (図6A)と同じ保持時間(17分)を示した。[3H]BSP-SGの小さなピークのみ(保持時間15分)が、頂端側画分において観察された(図6B)。これらの結果は、BSP は、ヒトOATP8 により取り込まれ、かつ経細胞輸送の間、MRP2に対する基質であるBSP のグルタチオンS-コンジュゲートであるよりむしろBSP 自身であることを示唆する。この仮説を確かめるために、本発明者らは、HEK-MRP2細胞から調製された反転膜小胞への[3H]BSP の輸送を調査した(ヒトMRP2でトランスフェクトされたHEK293細胞、Cui ら、1999)。図7Aに示されるように、[3H]BSP をHEK-MRP2細胞から膜小胞にATP 依存的に輸送した。HEK-MRP2細胞から膜小胞における[3H]BSP の蓄積は、対照トランスフェクトHEK-Co細胞から膜小胞におけるよりも有意に高く(図7B)、このことは、[3H]BSP は、ヒトMRP2に対する基質であることを示していた。BSP に対するK m 値が12μM であることをMRP2について決定した(図7C)。
【0041】
実施例5:他の有機アニオンの経細胞輸送
OATP8 およびMRP2の両方の基質である他の有機アニオンの経細胞輸送もまた、調査した。[3H]ロイコトリエンC4(LTC4)、17b-グルクロノシル[3H]エストラジオール(E217bG)、および[3H]硫酸デヒドロエピアンドロステロン(DHEAS) は、OATP8 の基質としてすでに同定されている(Koenig ら、2000b ;Kullak-Ublick ら、2001;Cui ら、2001) 。[3H]LTC4および[3H]E217bGは、MRP2に対する高い親和性基質であることが示されている(Cuiら、1999) 。本発明者らの研究はまた、[3H]DHEAS をMRP2の基質として同定した(Gologan、Leier およびKeppler 、未発表データ、2001) 。[3H]BSP と同様に(図8A)、全3つの化合物は、MDCK-OATP8細胞またはMDCK-Co 細胞を横切るよりも非常に高速でMDCK-MRP2/OATP8 細胞を横切って輸送された( 図8B、C 、D)。Fluo-3は、蛍光化合物であり(Mintaら、1989) 、MRP2に対する良好な基質である(Nies ら、1998) 。上記他の化合物と同様に、Fluo-3は、MDCK-OATP8細胞単層と比較してより高い輸送速度でMDCK-MRP2/OATP8 細胞単層を横切って輸送され( 図8E) 、このことは、Fluo-3がまたヒトOATP8 に対する基質であることを示唆した。
【0042】
図8Fにおいて、ヒトOATP8 に対する基質でなく(Koenig ら、2000b 、Cuiら、2001) 、MRP2に対する基質でもない(Madonら、1997)[3H] コリルタウリン(TC)の経細胞輸送を調査した。試験した他の化合物とは異なって、[3H]コリルタウリンは、非常に高速で3つ全てのMDCKII細胞株を横切って輸送されたが、MDCK-Co 細胞、MDCK-OATP8細胞およびMDCK-MRP2/OATP8 細胞間で輸送速度における差異は観察されなかった。MDCK細胞による[3H]コリルタウリンに対する高い輸送速度は、おそらく胆汁塩に対する内因性の輸送系の発現の結果である。
【0043】
実施例6:経細胞[3H]BSP 輸送の阻害
拡散を介して細胞に入ると考えられている疎水性化合物CDNBは、細胞内部でグルタチオンとコンジュゲートされ、次にMRP2を介してポンプで送り出される(Eversら、1998) 。CDNBのこれらの特性は、OATP8 により媒介される取り込みとMRP2により媒介される送出を本発明者らが識別することを可能にする。経細胞[3H]BSP 輸送の測定前に、トランスフェクトされたMDCK細胞を種々の濃度のCDNBと室温で20分間予めインキュベートした。図9Aに示されるように、MDCK-OATP8細胞における[3H]BSP の細胞内蓄積および経細胞輸送は、50μM の濃度までCDNBにより阻害されなかった。しかしながら、CDNBはMDCK-MRP2/OATP8 細胞上で全く異なる影響を及ぼした。CDNBとの予めのインキュベーションにより、[3H]BSP の細胞内蓄積は増し、一方、[3H]BSP の経細胞輸送は著しく阻害された( 図9B) 。これらの結果は、細胞内部でのジニトロフェニルグルタチオンの形成後、CDNBは[3H]BSP のOATP8 媒介性取り込みに影響を及ぼさないが、 [3H]BSPのMRP2- 媒介性送出を阻害することを示す。
【0044】
本発明者らは、ヒト血清アルブミン(HSA) が、おそらく非常に高い親和性で[3H]BSP を結合することにより、[3H]BSP のOATP8 媒介性取り込みを強く阻害することを最近報告している(Cuiら、2001) 。したがって、本発明者らは、ここでMDCKIIトランスフェクタントを横切った[3H]BSP の経細胞輸送におけるHSA の影響を調査した。5 μM のHSA の存在下で、MDCK-OATP8細胞における[3H]BSP のOATP8 媒介性蓄積がほぼ完全に抑制された(図9C)。MDCK-MRP2/OATP8 細胞においてもまた、[3H]BSP 蓄積は、HSA により強く阻害された(図9D)。その結果として、[3H]BSP の経細胞輸送もまた、MDCK-MRP2/OATP8 細胞において減少した(図9D)。
【0045】
OATP8 トランスフェクトHEK293細胞への[3H]E217bGのOATP8 媒介性取り込みは、抗生物質リファンピシンおよびリファマイシンSVにより阻害されうる(Cuiら、2001) 。図9E〜H は、両方の抗生物質がOATP8 およびMRP2の両方を強く妨げることを説明する。本発明者らの初期の研究 (Cui ら、2001) と一致して、両方の抗生物質は、MDCK-OATP8細胞における[3H]BSP の細胞内蓄積を阻害した(図9EおよびG )。しかしながら、MDCK-MRP2/OATP8 細胞において、[3H]BSP の細胞内蓄積は、対照の約50%まで抑制されたのみであり、一方、[3H]BSP の経細胞輸送は、リファンピシンおよびリファマイシンSVにより、より強く阻害された(図9GおよびH )。これらの結果は、両方の化合物がMRP2媒介性送出をさらに阻害することを示唆する。このことは、HEK-MRP2細胞由来の膜小胞を用いる輸送研究により確認される。50μM の濃度のリファンピシンは、HEK-MRP2膜小胞への[3H]LTC4輸送を対照の50%まで阻害し、50μM のリファマイシンSVは、HEK-MRP2膜小胞へのLTC4輸送を対照の38%まで阻害した。
【0046】
実施例7:リファンピシンの経細胞輸送
リファンピシンはヒトOATP8 およびMRP2の両方を強く阻害するので、本発明者らは、リファンピシンそれ自身の経細胞輸送が本発明者らの二重トランスフェクタントを用いて測定されうるかどうかに興味があった。本発明者らは、その濃度を決定するために475nm のリファンピシンの強い吸収を利用した。1 μM ほど低いリファンピシン濃度が、この方法により測定され得た。図10に示されるように、MDCK-MRP2/OATP8 細胞で、他の3つのMDCKIIトランスフェクタント細胞株と比較して、リファンピシンの有意に高い経細胞輸送が観察されうる。これらの実験において約50μM のリファンピシン濃度は、測光法により検出される量で頂端側画分へのリファンピシン輸送を得るために本発明者らが使用しうる最も少ないものであった。
【0047】
実施例8:さらなる二重トランスフェクト細胞株
上記二重トランスフェクト細胞株MDCK-MRP2/OATP8 に加えて、2つのさらなる二重トランスフェクト細胞株を同じ様式で発生させた:MDCK-OAT1/MRP2およびMDCK-OATP2/MRP2 。側底側有機アニオン輸送体OAT1(遺伝子記号:SLC22A6 ;Hosoyomadaら、1999)および頂端側送出ポンプMRP2の組み合わせは、腎臓輸送プロセスにおける研究のためのモデル系を表す。側底側有機アニオン輸送体OATP2 (Abe ら、1999;Hsiangら、1999;Koenigら、2000a )および頂端側送出ポンプMRP2の組み合わせは、肝臓輸送プロセスにおける研究のためのモデル系を表す。二重トランスフェクト細胞株における組換え輸送タンパク質の正しい局在が、免疫蛍光検査共焦点レーザー走査顕微鏡検査により示された(図11)。
【0048】
実施例9:p-アミノ馬尿酸塩の経細胞輸送
二重トランスフェクト細胞株MDCK-OAT1/MRP2の輸送活性を、広く使用されるモデル化合物p-アミノ馬尿酸塩(PAH) の使用により調査した。PAH は、有機アニオンの腎臓分泌における研究に使用されている。腎臓隣接面の細管上皮において、PAH は、側底側細胞膜でOAT1により血液から吸収される(Hosoyamada ら、1999) 。続いて、PAH は、MRP2によりATP 依存的に尿に分泌される(Leierら、1999) 。図12に示されるように、PAH の経細胞輸送の速度は、対照トランスフェクト細胞株MDCK-Co および単独トンランスフェクト細胞株MDCK-OAT1 よりも二重トランスフェクト細胞株MDCK-OAT1/MRP2において有意に高い。
【0049】
実施例10:BSP の経細胞輸送
二重トランスフェクト細胞株MDCK-OAT2/MRP2の輸送活性を、モデル化合物BSP の使用により調査した。図13に示されるように、BSP の経細胞輸送の速度は、対照トランスフェクト細胞株MDCK-Co および単独トンランスフェクト細胞株MDCK-OATP2よりも二重トランスフェクト細胞株MDCK-OAT2/MRP2において有意に高い。
【0050】
本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
[1](a)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンの取込み輸送体をコードするDNA配列、および(b)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプをコードするDNA配列を含有してなる二重トランスフェクト細胞株。
[2]イヌまたはヒトの細胞株であって、(a)および/または(b)のDNA配列がヒトである、[1]記載の細胞株。
[3]腎臓細胞株である[1]または[2]記載の細胞株。
[4]有機アニオンの取込み輸送体が、溶質担体(SLC)スーパーファミリーのサブグループ21Aまたは22Aのメンバーである、[1]〜[3]いずれか記載の細胞株。
[5]有機アニオンの取込み輸送体が、OAT1(SLC22A6)、OATP2(SLC21A6)、OATP8(SLC21A8)またはOATP−B(SLC21A9)である、[4]記載の細胞株。
[6]有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプが、ABCスーパーファミリーのMDR(ABCB)サブグループまたはMRP(ABCC)サブグループのメンバーである、[1]〜[5]いずれか記載の細胞株。
[7]有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプが、胆汁酸塩輸出ポンプBSEP(ABCB11)または多剤耐性タンパク質2(MRP2;ABCC2)である、[6]記載の細胞株。
[8]有機アニオンの取込み輸送体をコードするDNA配列および/または有機アニオンもしくはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプをコードするDNA配列が、高発現を可能にするプロモーターと作動可能に連結されている、[1]〜[7]いずれか記載の細胞株。
[9]輸送体基質または輸送体インヒビターの同定のための[1]〜[8]いずれか記載の細胞株の使用。
[10]輸送体インヒビターが薬剤候補である[9]記載の使用。
[11]輸送体基質または輸送体インヒビターの同定がハイスループットスクリーニングとして行なわれる[9]または[10]記載の使用。
【0051】







【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)(a)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンの取込み輸送体をコードするDNA配列、および(b)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプをコードするDNA配列でトランスフェクトされた二重トランスフェクト細胞株を、頂端画分および側底側画分を有する分極単層として成長させる工程;
(ii)頂端画分または側底側画分中で、候補剤および標識基質または蛍光基質を含む輸送バッファーと細胞をインキュベートする工程;ならびに
(iii)(ii)の画分のもう1方の画分である頂端画分または側底側画分中の標識基質または蛍光基質を測定して、候補剤が有機アニオンの輸送体または有機アニオンもしくはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプによる細胞輸送を阻害するかどうかを決定する工程
を含む、候補剤が輸送体インヒビターであるかまたは輸送体基質であるかを同定するための方法。
【請求項2】
基質がスルホブロモフタレイン(BSP)またはペンタ−アニオンFluo−3である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
有機アニオンの取込み輸送体が、溶質担体(SLC)スーパーファミリーのサブグループ21Aまたは22Aのメンバーである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
有機アニオンの取込み輸送体が、OAT1(SLC22A6)、OATP2(SLC21A6)、OATP8(SLC21A8)またはOATP−B(SLC21A9)である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプが、ABCスーパーファミリーのMDR(ABCB)サブグループまたはMRP(ABCC)サブグループのメンバーである、請求項1〜4いずれか記載の方法。
【請求項6】
有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプが、胆汁酸塩輸出ポンプBSEP(ABCB11)または多剤耐性タンパク質2(MRP2;ABCC2)である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
ハイスループットスクリーニングとして行なわれる請求項1〜6いずれか記載の方法。
【請求項8】
輸送体基質または輸送体インヒビターの同定のための二重トランスフェクト分極細胞株の使用であって、
二重トランスフェクト分極細胞株が(a)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンの取込み輸送体をコードするDNA配列、および(b)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプをコードするDNA配列でトランスフェクトされ;
取込み輸送体が側底側細胞膜で発現され、輸出ポンプが頂端細胞膜で発現される、使用。
【請求項9】
細胞株がマジン−ダービーイヌ腎臓の第II(MDCKII)細胞株である、請求項8記載の使用。
【請求項10】
有機アニオンの取込み輸送体が、溶質担体(SLC)スーパーファミリーのサブグループ21Aまたは22Aのメンバーである、請求項8または9記載の使用。
【請求項11】
有機アニオンの取込み輸送体が、OAT1(SLC22A6)、OATP2(SLC21A6)、OATP8(SLC21A8)またはOATP−B(SLC21A9)である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプが、ABCスーパーファミリーのMDR(ABCB)サブグループまたはMRP(ABCC)サブグループのメンバーである、請求項8〜11いずれか記載の使用。
【請求項13】
有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプが、胆汁酸塩輸出ポンプBSEP(ABCB11)または多剤耐性タンパク質2(MRP2;ABCC2)である、請求項12記載の使用。
【請求項14】
細胞株が哺乳動物細胞株であり、有機アニオンの取込み輸送体をコードするDNA配列および/または有機アニオンもしくはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプをコードするDNA配列が、サイトメガロウイルス極初期プロモーターと作動可能に連結されている、請求項8記載の使用。
【請求項15】
(a)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンの取込み輸送体をコードするDNA配列、および(b)プロモーターと作動可能に連結された、有機アニオンまたはアニオン性コンジュゲートの輸出ポンプをコードするDNA配列でトランスフェクトされ、取込み輸送体が溶質担体(SLC)スーパーファミリーのサブグループ21Aまたは22Aのメンバーであり、輸出ポンプがABCスーパーファミリーのメンバーである、二重トランスフェクト分極細胞株。
【請求項16】
マジン−ダービーイヌ腎臓の第II(MDCKII)細胞株である、請求項15記載の二重トランスフェクト分極細胞株。
【請求項17】
輸出ポンプが胆汁酸塩輸出ポンプ(BSEP、ABCB11)である、請求項15または16記載の二重トランスフェクト分極細胞株。
【請求項18】
取込み輸送体がOAT1(SLC22A6)、OATP2(SLC21A6)、OATP8(SLC21A8)またはOATP−B(SLC21A9)である、請求項15〜17いずれか記載の細胞株。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−225797(P2009−225797A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113542(P2009−113542)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【分割の表示】特願2003−502198(P2003−502198)の分割
【原出願日】平成14年6月5日(2002.6.5)
【出願人】(500030655)
【出願人】(500370595)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナルゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (8)
【Fターム(参考)】