説明

農産物保護用被覆材、この被覆材の製造方法、この被覆材を使用する農産物保護用袋及び農産物保護用覆い

【課題】農産物への熱伝導を遮断して内部の温度上昇を防止し、雨水、病害虫ないし鳥害等から保護する農産物保護用被覆材、この被覆材の製造方法、並びにこの被覆材を使用する農産物保護用袋、及び農産物保護用覆いを提供する。
【解決手段】複数枚の合成樹脂製フィルム11a,b等のうちの何れか少なくとも片面に近赤外線遮蔽性物質を含む膜12を形成し、この膜を形成した面を内側にして重ね合わせ、重ね合わされたフィルム等の中間部に空気14を介在させて全面に多数の通気性を有する微細孔15を穿設し、係る微細孔の周縁部においてフィルム等同士を接合してなる。近赤外線遮蔽性物質を含む膜に代えて、空気又は近赤外線遮蔽性物質と空気を介在させたもの13でもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ぶどう、みかん、りんご、梨、桃等の果実、野菜、花、その他の露地栽培又はハウス栽培による農産物に袋状にして被せ、或いは植物の全部乃至一部を覆ってこれらの農産物を雨水、病害虫ないし鳥害、太陽熱の熱気による焼け、冷夏による生育不良等から保護して農産物の品質向上に寄与する農産物保護用被覆材、この被覆材の製造方法、並びにこの被覆材を使用する農産物保護用袋及び農産物保護用覆いに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ぶどう、みかん、りんご、梨、桃等の果実は、果実一個ずつないし一房ずつに紙製の袋を被せて雨水や病害虫等から保護していた。この紙製の袋は、水に濡れて破れないように、パラフィンやオレフィン系樹脂をコーティングするなどの撥水加工が施されるために、袋は通気性を失い、そのために外気との接触が遮断されてカビや雑菌が繁殖する原因となるばかりでなく、特に夏場の暑い日中には熱気が袋の内部に滞り、この熱気によって袋上方部と接触する果実の部分に焼けが発生する問題があった。また、太陽熱による熱気を遮断するためにフィルムなどの表面に蒸着により金属膜を形成する方法もあるが、この場合、同時に可視光や紫外線なども遮蔽されるために植物の生長を阻害する等の悪影響を与えるという問題がある。
【0003】
一方、可視光に対して透明、赤外光に対してカットオフ効果を有する膜と、その形成材に関する発明(特許文献1)並びに近赤外線カットフィルター形成用組成物及び近赤外線カットフィルターに関する発明が開示されている(特許文献2)。前記赤外線カットオフ又は近赤外線カットフィルターは、錫ドープ酸化インジウム(ITO)やアンチモンドープ酸化錫(ATO)等の物質を含む組成物乃至塗料であり、これらの組成物等を対象基材に塗布し、印刷し、積層もしくは包囲する方法により適用される。また、近赤外線フィルター(特許文献3)、近赤外線吸収材料(特許文献4)、透明熱可塑性樹脂組成物及びこれを用いた熱戦遮蔽性グレージング材(特許文献5)が開示されている。しかし、ハウジングの窓、屋根材、壁材などの基材の一面に前記組成物等を塗布することによって、冷暖房の効率改善効果はあるものの、農産物保護用袋及び農産物保護用覆いのように農産物に被せ又は覆う農産物保護用被覆材にあっては、太陽熱若しくは外気温がフィルムの熱伝導によって農産物に伝わるために、熱焼け等を防止することは不十分であり問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平7−70482号公報
【特許文献2】特開平9−324144号公報
【特許文献3】特開平10−62620号公報
【特許文献4】特開2005−120315号公報
【特許文献5】特開2000−234066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、前記の問題点を解消するために、複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートを重ね合わせて、全面に多数の通気性を有する微細孔を穿設し、微細孔の周縁部においてフィルム乃至シート同士を接合し、接合部以外の部分における複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートの中間部に空気若しくは空気と近赤外線遮蔽性物質を介在させることによって、農産物への熱伝導を遮断して内部の温度上昇を防止し、雨水、病害虫ないし鳥害等から保護する農産物保護用被覆材、この被覆材の製造方法、並びにこの被覆材を使用する農産物保護用袋及び農産物保護用覆いを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記の課題を解決するために、本発明は、複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートの中の何れかのフィルム乃至シートにおいて、該フィルム乃至シートの少なくとも片面に近赤外線遮蔽性物質を含む膜を形成し、この膜を形成した面を内側にして重ね合わせ、重ね合わされたフィルム乃至シートの中間部に空気を介在させて全面に多数の通気性を有する微細孔を穿設し、係る微細孔の周縁部においてフィルム乃至シート同士を接合してなることを特徴とする農産物保護用被覆材とする(請求項1)。
【0007】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートを重ね合わせ、重ね合わされたフィルム乃至シートの中間部に近赤外線遮蔽性物質と空気を介在させて全面に多数の通気性を有する微細孔を穿設し、係る微細孔の周縁部においてフィルム乃至シート同士を接合してなることを特徴とする農産物保護用被覆材とする(請求項2)。
【0008】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートを重ね合わせ、重ね合わされたフィルム乃至シートの中間部に空気を介在させて全面に多数の通気性を有する微細孔を穿設し、係る微細孔の周縁部においてフィルム乃至シート同士を接合してなることを特徴とする農産物保護用被覆材とする(請求項3)。
【0009】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートの片面又は両面に、近赤外線遮蔽性物質からなる粉末を含む膜を形成する工程と、前記合成樹脂製フィルム乃至シートの前記膜を形成した面を内側にして重ね合わせ、その中間に空気を含ませた状態で前記フィルム乃至シートの全面に熱溶融により多数の通気性を有する微細孔を穿設するとともに、該微細孔の周縁部を溶融固化して前記フィルム乃至シートを接合する工程と、を備えることを特徴とする農産物保護用被覆材の製造方法とする(請求項4)。
【0010】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートを重ね合わせるとともに、その重ね合わせ面に空気を吹き付ける、近赤外線遮蔽性物質を含む粉末若しくは近赤外線遮蔽性物質を含む液体を空気とともに吹き付ける、又は前記粉末若しくは液体を散布する、の中の何れか一種からなる工程と、重ね合わされた前記フィルム乃至シートの全面に熱溶融により多数の通気性を有する微細孔を穿設するとともに、該微細孔の周縁部を溶融固化してフィルム乃至シートを接合する工程と、を備えることを特徴とする農産物保護用被覆材の製造方法とする(請求項5)。
【0011】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、果実、野菜、花等の農産物に被せて農産物を保護するための袋であって、前記の何れかに記載の農産物保護用被覆材を用い、少なくとも一方に開口する開口部を有することを特徴とする農産物保護用袋とすることが好ましい(請求項6)。
【0012】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、果実、穀物、野菜及び花等の農産物を保護するための覆いであって、前記の何れかに記載の農産物保護用被覆材を帯状に形成し、畝状に植えられた植物に連続して渡して線条材等で全体を固定し、前記農産物がカバーされる状態で植物の全体乃至一部を覆い、前記フィルム乃至シートの下端部を下方に垂下させるか、又は前記フィルム乃至シートの下端部を地面に固定してなることを特徴とする農産物保護用覆いとすることが好ましい(請求項7)。
【発明の効果】
【0013】
本発明の農産物保護用被覆材は、前記のように複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートを重ね合わせて、全面に多数の通気性を有する微細孔を穿設し、微細孔の周縁部においてフィルム乃至シート同士を接合し、接合部以外の部分における複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートの中間部に近赤外線遮蔽性物質と空気を介在させて、両フィルム乃至シートを離隔させることによって、太陽光に直接曝されて熱せられた表面側フィルム乃至シートと農産物との接点において、遮熱・断熱作用により裏面側のフィルム乃至シートに接する農産物の太陽熱による焼けを防止すると共に、冷夏に際しては介在する空気の保温効果によって農産物を病気や発育不良等から保護する。
【0014】
更に、多数の通気性を有する微細孔を通して、外部の空気を取り入れ、且つ内部の空気を外部に排出する空気の循環作用により農産物のムレによるカビや細菌の繁殖を防止し、雨水、病害虫ないし鳥害等から保護する効果を奏する。また、複数のフィルム乃至シートの中間に介在する空気がクッションの役割を果たして完熟果実などが袋内に落下しても損傷を未然に防止する効果を奏する。更に、前記の近赤外線遮蔽性物質がフィルム乃至シートの中間に挟持された農産物保護用被覆材は、外部からの摩擦や雨の影響などが受けにくいので長期間効果が持続する。フィルム乃至シートの表面が埃などで汚れた場合にも、水で洗い流して繰り返し使用でき、その際、洗浄によって近赤外線遮蔽性物質が落ちたり洗剤で変質することがないので効果が低減することもない。係る農産物保護用被覆材を使用したこの被覆材を使用する農産物保護用袋及び農産物保護用覆いも前記と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態について、以下に詳細に説明する。本実施の形態に係る農産物保護用被覆材は、複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シート(以下フィルム等と略記する)のうちの何れか少なくとも片面に近赤外線遮蔽性物質を含む膜を形成し、この膜を形成した面を内側にして重ね合わせ、重ね合わされたフィルム等の中間部に空気を介在させて全面に多数の通気性を有する微細孔を穿設し、係る微細孔の周縁部においてフィルム等同士を接合してなる。前記の合成樹脂製フィルム等は、植物育成に必要な紫外線及び可視光線を透過する、透明、半透明ないし部分透明なものが好ましい。
【0016】
農産物保護用被覆材を構成するフィルム等の素材は特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン(PP)フィルム、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、一般用ポリスチレン(GP−PS)フィルム、耐衝撃性ポリスチレン(HI−PS)フィルム、二軸延伸ポリスチレン(OPS)フィルム、ポリエステル(PET)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、アイオノマーフィルム、セルロース系プラスチックフィルム、熱可塑性エラストマーフィルム等から使用条件に応じて選択することができる。更に、前記単一フィルムの他に共押出しフィルムや接着用樹脂層を介したドライラミネーション又はサンドラミネーションで貼り合わせた多層フィルムであってもよい。また、複数枚の合成樹脂製フィルム等は同種類の素材が好ましいが、熱溶融により微細孔を穿設することによって両フィルム等が接合する限りにおいて異種類の素材であってもよい。
【0017】
前記フィルム等は、通気性を有し、且つ、雨水などが通しにくいものがよいことから、前記微細孔の孔径は、20μm、好ましくは70μm以上あればガス透過性が確保できる反面、1mmを越えると透水性を生じる可能性があり、而して、微細孔の孔径は、20μm〜1mm、好ましくは70μm〜400μm、特に好ましくは90μm〜200μmの範囲がよい。より詳細には、図1(a)及び図1(b)に示すように、前記微細孔の形状は特に限定されないがテーパー状の貫通孔が好ましく、テーパー状の微細孔の広い方の開口部の周縁部には、熱溶融による穿孔の際にできた、やや突状に盛り上がった凸部が形成されている。凸部が形成された面を農産物の当接する側にして農産物保護用袋又は農産物保護用覆いを作成すれば、凸部と農産物の接点で空気流が生じて通気性をより向上させる効果がある。凸部が形成された面を外側にするか内側にするかは使用する農産物の種類などに応じて適宜選択すればよい。
【0018】
微細孔を穿孔する方法は、複数枚のフィルム等が接合する限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば、複数枚のフィルム等を、融点以上に加熱した熱針を植えた駆動ロール又は突起を備えたエンボスロールとバックアップロールの間に挟持し、ライン速度で同調させつつ多数の微細孔を溶融穿孔する。これ以外に、フィルム等を加熱して内側から吸引し、円筒状ロールの内面に沿って吸引されたフィルム部を切断して穿孔してもよく、前記の円筒状ロールに設けた貫通孔の内側から加熱ガス等を噴出して穿孔してもよく、多数の窪みを備えた円筒状ロールの表面にフィルムを連続して沿わせ、該フィルムの表面をガスバーナー火炎等で加熱し、前記の窪み部分に当接したフィルムが内部応力を受けて収縮することによって穿孔してもよい。これ以外にも微細孔の周縁が熱溶融して接合されるものであればあらゆる穿孔方法が含まれる。
【0019】
本発明で使用される近赤外線遮蔽性物質としては、例えば、1)錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)等の金属酸化物、2)フタロシアニン系、アントラキノン系、ナフトキノン系、フタロシアニン系等の共役二重結合を有する環状化合物型の近赤外線遮蔽性物質、3)ジチオール系、メルカプトナフトール系等のニッケル錯塩又はその他の有機金属錯塩等が好ましい。アクリル系、ビニル系、エチレン酢ビ系等の透明樹脂をマトリックスとし、前記近赤外線遮蔽性物質と少量の分散剤を溶剤又は水とアルコール等の溶媒に分散させて調整した溶剤系又は水系の組成物をフィルム等に塗布し、乾燥後に組成物の塗布面側に他のフィルム等を重ね、その合わせ面に空気が入り込むギャップを設けた状態でフィルム等を接合する。また、前記近赤外線遮蔽性物質を含む組成物又は近赤外線遮蔽性物質の粉末を直接フィルム等に吹き付け又は散布して2枚のフィルム等中間にサンドイッチ状に挟み込んでもよい。必要に応じて予めフィルム等に接着剤を塗布しておいてもよい。
【0020】
一般に780nm〜1mmの波長域を赤外線と称し、赤外線を区分して、780〜3000nmの波長域を近赤外線、3000〜15000nmの波長域を中赤外線、15000nm以上の波長域を遠赤外線と称する場合がある。本発明の農産物保護用被覆材では、前記赤外線の中の可視光に近い近赤外線を吸収する反面、植物の生育を促進する紫外線や可視光線を透過するように構成される。このように可視光に近い近赤外線は熱線のうちでも最も物体に吸収されやすいことから、係る近赤外線を吸収することによって農産物の熱焼けを効果的に防ぐこととなる。但し、本発明の農産物保護用被覆材は近赤外線を限定して吸収するのではなく、近赤外線とともに中赤外線ないし遠赤外線を吸収するものであってもよい。更に、複数枚からなるフィルム等の中間に近赤外線遮蔽性物質の粉末やその塗膜を挟持する際に、空気を介在させることによって、重ね合わされたフィルム等がそれぞれ接し難くし、且つ介在する空気の断熱効果によって表面側のフィルム等の熱が農産物側のフィルム等に伝導しないようにして、農産物の熱焼けを防止するように構成される。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
1)近赤外線遮蔽性物質として、大日本塗料株式会社製の商品サンプルを用いた。同サンプルは、ITO、アクリル系樹脂、分散剤をMEK及びキシレンに均一に分散し、固形分濃度が20重量%の常温乾燥タイプの組成物からなる。
本実施例では、同サンプル20重量%濃度の組成物と、同サンプルを酢酸ブチルとシクロヘキサンで希釈して固形分濃度を3重量%にした組成物をそれぞれ準備した。
2)フィルム等として、30μm厚の透明OPPフィルムを使用した。
【0022】
先ず、30μm厚の長尺OPPフィルム11aを2ピース用意して、一方のOPPフィルム11aには、片面に固形分濃度が20重量%の組成物を0.2g/m(wet%)塗布し、他方のOPPフィルム11aには、固形分濃度が3重量%の組成物を0.2g/m(wet%)塗布して常温で乾燥させて実験用サンプルとした。次に、図2(a)に示すように、前記の2種類の組成物を塗布したOPPフィルム11aのコーティング面Cに、30μm厚のOPPフィルム11bをそれぞれ重ね合わせつつ、融点(約200℃)以上の熱針を備えた針ロール21とバックアップロール22の間(予め空気が入り込む程度のギャップに設定されている)に挟持し、ライン速度で同調させて多数の微細孔15を溶融穿孔して両フィルムを接合し、本発明の農産物保護用被覆材1を得た。
【0023】
実施例2
図2(b)は、実施例2に係る農産物保護用被覆材1の穿孔装置を示す説明図である。実施例1において、商品サンプルに代えて、ITOの粉末(顆粒状でもよい)を使用し、図2(b)に示すように、係るITOの粉末を前記穿孔工程において、両OPPフィルム11,11の中間部にノズル20又は散布器20から空気とともに吹き付け又は散布してOPPフィルム11,11の中間にITOの粉末を挟持させた状態でOPPフィルム11,11を溶融穿孔した以外は実施例1記載と同様にして本発明の農産物保護用被覆材1を得た。また、ITOを含む液体組成物を吹き付ける場合は、実施例1で使用した組成物を更に溶剤で希釈し低粘度に調整したものを用いることがノズルの目詰まりを防止する点から好ましい。
【0024】
実施例3
実施例2において、両OPPフィルム11,11の中間部にITOの粉末を散布せずに
針ロール21とバックアップロール22の間(予め空気が入り込む程度のギャップに設定されている)に挟持し、ライン速度で同調させて多数の微細孔15を溶融穿孔して両フィルムを接合した以外は実施例2と同様にして両OPPフィルム11,11の中間部に空気が介在する農産物保護用被覆材1を得た(図示せず)。
【0025】
図1(a)は、実施例1に係る農産物保護用被覆材1を示す断面図であり、OPPフィルム11aの内側に近赤外線遮蔽性物質を含む膜12が形成され、この面に空気14が介在してOPPフィルム11bが重ねられ、全面に微細孔15が穿設されている。微細孔15の形状はテーパー状をなし、このテーパー状微細孔の広い方の開口部(フィルム11b面側)の周縁部には、熱溶融による穿孔の際に、やや突状に盛り上がった凸部16が形成され、OPPフィルム11aとOPPフィルム11bは溶着部17によって接合している。この接合部以外にはOPPフィルム11bと近赤外線遮蔽性物質を含む膜12との間に空気14が介在するので、OPPフィルム11a,11bが互いに接触し難い構成となっている。また、近赤外線遮蔽性物質を含む膜12が形成されたフィルム11a面を外側に向けて使用する方が近赤外線遮蔽効果が増す。OPPフィルム11a面に凸部16が形成されるようにするには、穿孔工程を示す図2(a)において、OPPフィルム11aと11bを交換し、OPPフィルム11aのコーティング面Cを下方に向けて配置すればよい。
【0026】
図1(b)は、実施例2に係る農産物保護用被覆材1を示し、近赤外線遮蔽性物質を含む膜12と空気14に代えてITO粉末空気混入層13が形成されている以外は図1(a)に示す実施例1に係る農産物保護用被覆材1と同様である。
実施例3に係る農産物保護用被覆材1は、実施例1に係る農産物保護用被覆材1(図1(a))において、近赤外線遮蔽性物質を含む膜12が形成されずに空気が介在している以外は実施例1に係る農産物保護用被覆材1(図1(a))と同様である(図示せず)。
【0027】
<実験例>
前記実施例に記載した実験用サンプル及び農産物保護用被覆材をFT−NIR及びFT−IRを使用し、近赤外領域及び中赤外領域における各赤外線の透過率を測定した。結果を図3及び4に示す。透過率は吸収材の塗布したフィルムと塗布していないフィルムの差分とした。
【0028】
図3に示すとおり、3重量%濃度の組成物を塗布したフィルムの近赤外線透過率が平均93%であり、中赤外線透過率が平均98%であった。図4に示すとおり、20重量%濃度の組成物を塗布したフィルムの近赤外線透過率が平均49%であり、中赤外線透過率が平均69%であった。また、図5に示すように、有孔フィルムに3重量%濃度の組成物を塗布したフィルムの近赤外線透過率が平均97%であり、中赤外線透過率が平均96%であった。この結果より、3重量%濃度の組成物でも近赤外線と中赤外線の吸収効果を奏することが確認され、20重量%濃度の組成物では、近赤外線のほぼ半分強が吸収されることが確認された。
【0029】
<実用試験例>
前記実施例で得られた農産物保護用被覆材で農産物保護用袋と農産物保護用覆いを作成して実用試験を行った。図6は、農産物保護用袋の使用状態を示す斜視図であり、図7は、農産物保護用袋の使用状態を示す写真図である。図6において、2は農産物保護用袋であり、農産物保護用袋2をぶどう23に被せ、針金22を支持枝21に巻き付けて農産物保護用袋2を締結した。更に、農産物保護用被覆材を帯状に形成した農産物保護用覆いを作成し、ぶどうがカバーされる状態で樹木の一部を覆い、前記フィルム等の下端部を下方に垂下させた状態で帯状フィルムの両端部を杭などに固定した(図8参照)。この図では樹木中間部の果実部を覆っているが、樹木の頂上部から樹木等植物の全体を覆って端部を地面に固定したものも本発明に含まれる。
【0030】
前記農産物保護用袋と農産物保護用覆いについて、長野県と新潟県のワイナリーで7〜8月にかけて図7又は図8に示すように非公開で実用試験を行い、ぶどうの熱焼けの程度を確認した。その結果、3重量%濃度の組成物を塗布した農産物保護用被覆材の方は若干熱焼けが確認されたが、空気を介在させた実施例3の農産物保護用被覆材は殆ど熱焼けが目立たず、20重量%濃度の組成物を塗布した方は熱焼けが全く確認されなかった。以上の結果から、フィルムへの組成物の塗布量が一定の場合は、組成物中の固形物即ち近赤外線遮蔽性物質の濃度を濃くする程、近赤外線の吸収効果が高まるので、農産物の種類や温度条件に応じて適宜の濃度を選択して使用することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る農産物保護用被覆材は、農産物の太陽熱による熱焼けを防止し、農産物のムレによるカビや細菌の繁殖が防止されると共に、雨水、病害虫ないし鳥害等から保護する効果を奏するので、農産物の品質と収率の向上に寄与し極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)は、実施例1に係る農産物保護用被覆材を示す断面図であり、(b)は、実施例2に係る農産物保護用被覆材を示す断面図である。
【図2】(a)は、実施例1に係る農産物保護用被覆材の穿孔装置及び穿孔工程を示す説明図であり、(b)は、実施例2に係る農産物保護用被覆材の穿孔装置及び穿孔工程を示す説明図である。
【図3】固形物3重量%濃度の組成物を塗布したフィルムの近赤外線・中赤外線透過率を示すグラフ図である。
【図4】固形物20重量%濃度の組成物を塗布したフィルムの近赤外線・中赤外線透過率を示すグラフ図である。
【図5】固形物3重量%濃度の組成物を塗布した有孔フィルムの近赤外線・中赤外線透過率を示すグラフ図である。
【図6】本実用試験例に使用した農産物保護用袋の使用状態を示す斜視図である。
【図7】本実用試験例に使用した農産物保護用袋の使用状態を示す写真図である。
【図8】本実用試験例における農産物保護用覆いの使用状態を示す写真図である。
【符号の説明】
【0033】
1:農産物保護用被覆材、2:農産物保護用袋、11,11a,11b:OPPフィルム、12:近赤外線遮蔽性物質を含む膜、13:ITO粉末空気混入層、:、14:空気、15:微細孔、16:凸部、17:溶着部、18:針ロール、19:バックアップロール、20:ノズル(散布器)、21:支持枝、22:針金、23:ぶどう
C:コーティング面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートの中の何れかのフィルム乃至シートにおいて、該フィルム乃至シートの少なくとも片面に近赤外線遮蔽性物質を含む膜を形成し、この膜を形成した面を内側にして重ね合わせ、重ね合わされたフィルム乃至シートの中間部に空気を介在させて全面に多数の通気性を有する微細孔を穿設し、係る微細孔の周縁部においてフィルム乃至シート同士を接合してなることを特徴とする農産物保護用被覆材。
【請求項2】
複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートを重ね合わせ、重ね合わされたフィルム乃至シートの中間部に近赤外線遮蔽性物質と空気を介在させて全面に多数の通気性を有する微細孔を穿設し、係る微細孔の周縁部においてフィルム乃至シート同士を接合してなることを特徴とする農産物保護用被覆材。
【請求項3】
複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートを重ね合わせ、重ね合わされたフィルム乃至シートの中間部に空気を介在させて全面に多数の通気性を有する微細孔を穿設し、係る微細孔の周縁部においてフィルム乃至シート同士を接合してなることを特徴とする農産物保護用被覆材。
【請求項4】
複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートの片面又は両面に、近赤外線遮蔽性物質からなる粉末を含む膜を形成する工程と、前記合成樹脂製フィルム乃至シートの前記膜を形成した面を内側にして重ね合わせ、その中間に空気を含ませた状態で前記フィルム乃至シートの全面に熱溶融により多数の通気性を有する微細孔を穿設するとともに、該微細孔の周縁部を溶融固化して前記フィルム乃至シートを接合する工程と、を備えることを特徴とする農産物保護用被覆材の製造方法。
【請求項5】
複数枚の合成樹脂製フィルム乃至シートを重ね合わせるとともに、その重ね合わせ面に空気を吹き付ける、近赤外線遮蔽性物質を含む粉末若しくは近赤外線遮蔽性物質を含む液体を空気とともに吹き付ける、又は前記粉末若しくは液体を散布する、の中の何れか一種からなる工程と、重ね合わされた前記フィルム乃至シートの全面に熱溶融により多数の通気性を有する微細孔を穿設するとともに、該微細孔の周縁部を溶融固化してフィルム乃至シートを接合する工程と、を備えることを特徴とする農産物保護用被覆材の製造方法。
【請求項6】
果実、野菜、花等の農産物に被せて農産物を保護するための袋であって、請求項1、2又は3の何れかに記載の農産物保護用被覆材を用い、少なくとも一方に開口する開口部を有することを特徴とする農産物保護用袋。
【請求項7】
果実、穀物、野菜及び花等の農産物を保護するための覆いであって、請求項1、2又は3の何れかに記載の農産物保護用被覆材を帯状に形成し、畝状に植えられた植物に連続して渡して線条材等で全体を固定し、前記農産物がカバーされる状態で植物の全体乃至一部を覆い、前記フィルム乃至シートの下端部を下方に垂下させるか、又は前記フィルム乃至シートの下端部を地面に固定してなることを特徴とする農産物保護用覆い。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−81996(P2009−81996A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377294(P2005−377294)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(390003160)ニダイキ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】