説明

農耕用機械の掘削具製造方法及びそれを用いた掘削具

【課題】安価、かつ、容易に掘削刃2に耐摩耗材を設ける。
【解決手段】掘削刃2に所定粒度のアルミナ粉体を所定圧力で噴射して、当該掘削刃2の表面に付着している異物を除去すると共に、該表面を研磨するブラスト処理を行ない、その後に所定のメッキ条件で硬質クロムメッキをメッキして耐摩耗材として機能するメッキ層4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農地等を耕す際に用いられる農耕用機械の掘削具製造方法及びそれを用いた掘削具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタ等の農耕用機械に用いられている掘削刃は、掘削による摩耗を抑制するために、当該摩耗が激しい部分にクロムリッチなFe−Cr−Cからなる板状部材をプラズマパウダ法により溶着する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
一般に、掘削刃は片刃が多いが、先に説明したように3次元的に湾曲した形状であるため、片刃の刃面のみならず、この刃面と反対側のフラットな刃面も摩耗してしまうので、耐摩耗材は両方の刃面に溶着する必要がある。
【0004】
しかし、刃面及びフラット面の両方に順次耐摩耗材を溶着すると、後で行う溶着の熱により最初に溶着した耐摩耗材の溶着度が低下してしまう恐れがある。
そこで、上記公報では後で行う耐摩耗材の溶着においては、熱制御が容易なプラズマパウダ法を用いている。
【特許文献1】特開2002−235162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような耐摩耗材を溶着手段を用いて設ける場合には、当然のことながら一つずつの溶着となり、生産性を上げることができず、コストアップの要因となる問題がある。
【0006】
また、溶接等により溶着を行う際には、耐摩耗材の全周に渡り溶着しなければならず、一部に未溶着部分があると、そこから水が入り込んで掘削刃本体に錆びが発生し、この錆びにより耐摩耗材が剥離するような力を受けて寿命低下をもたらす問題がある。
【0007】
無論、耐摩耗材の全周を完全に溶着すればかかる水の侵入による諸々の悪影響は防止できるが、このような溶着を行い、また悪影響が生じないことを保証するためには、十分な設備投資や溶着時間等が必要になり、この点でもコストアップの要因となっている。
【0008】
加えて、掘削刃は3次元的に湾曲しているので、これに合わせて耐摩耗材を形成しなければ成らず、その手間も含めると非常に大きなコストアップとなってしまう。この場合、刃面のみを耐摩耗材で覆うことにより、当該耐摩耗材の形状を簡略化することが可能であるが、この場合には他の部分の摩耗が避けられず、また刃先を鋭利に保ったまま耐摩耗材を溶着することが困難である問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、安価、かつ、容易に耐摩耗材を設けることができるようにした農耕用機械の掘削具製造方法及びそれを用いた掘削具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1にかかる掘削具製造方法は、農耕用機械に用いられる掘削具に粒度及び圧力が調整されたアルミナ粉体を噴射し、当該掘削具の全表面に付着している異物を除去すると共に該全表面を研磨するブラスト処理を行ない、その後に所定のメッキ条件で硬質クロムメッキをメッキして耐摩耗材を形成することを特徴とするものである。
【0011】
これにより、3次元的に湾曲した掘削具であっても容易にメッキ面の平滑度を向上させることができるようになり、硬質クロムメッキの密着度及びその緻密性が向上して、高硬度の硬質クロムメッキを形成することが可能になり、掘削具の寿命が延びる。
【0012】
請求項2にかかる掘削具製造方法は、サンドペーパ等による研削処理、ペースト状の酸化クロム等によるパフ研磨、希塩酸等による化学的反応を伴う化学処理を掘削具の表面状態に応じて適宜選択して実行し、その後にブラスト処理を行って、当該掘削具の全表面に残る傷を1μm以下にしてから硬質クロムメッキを行ったことを特徴とするものである。
【0013】
これにより、ブラスト処理してメッキを行う際には、掘削具の表面に残る傷の深さが1μm以下にすることが可能になり、硬質クロムメッキの密着度及びその緻密性が向上して、高硬度の硬質クロムメッキを形成することが可能になり、掘削具の寿命が延びる。
【0014】
請求項3にかかる掘削具製造方法は、硬質クロムメッキを行う際に、逆電流を流してメッキ面に所定の大きさ及び密度の凹凸を形成する逆電モード、メッキ液中にクロムを析出させる析出モード、メッキ層を形成するメッキモードの3モードを順次行い、かつ、メッキモードにおいてはメッキ液の温度を所定温度範囲に制御すると共に、掘削具における鋭利な部分での電界集中を緩和して当該鋭利な部分でメッキ厚の増大を抑制しながら行うことを特徴とするものである。
【0015】
これにより、逆電モードでメッキ面に所定寸法及び密度の凹凸が形成されて、この凹凸がメッキ核となるためメッキの均一性が向上する。また、析出モードで一時的に多量のクロムをメッキ液中に析出させるので、凹凸が略均一にメッキ核として作用しやすくなりメッキの均一性が向上する。そして、このような状態でメッキモードを行うことにより、密着度及びその緻密性が高い硬質クロムメッキを行うことが可能になって、掘削具の寿命を延ばすことができる。
【0016】
請求項4にかかる掘削具は、農耕用機械に用いられる3次元形状に形成された掘削具であって、請求項1乃至3いずれか1項記載の製造方法により製造されていることを特徴とするものである。
【0017】
これにより安価、かつ、容易に耐摩耗材を設けることができるようになり、その寿命を延ばすことが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、農耕用機械に用いられる掘削具に所定粒度のアルミナ粉体を所定圧力で噴射して、当該掘削具の表面に付着している異物を除去すると共に、該表面を研磨するブラスト処理を行ない、その後に所定のメッキ条件で硬質クロムメッキをメッキして耐摩耗材を形成するので、3次元的に湾曲した掘削具であっても容易にメッキ面の平滑度を向上させることができるようになり、硬質クロムメッキの密着度及びその緻密性が向上して、高硬度の硬質クロムメッキを形成することが可能になり、掘削具の寿命が延びる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施例の説明に先立ち、発明の原理を説明する。一般に、トラクタや耕耘機等の農耕用機械に用いられている掘削刃や鍬、鋤、或いは馬鈴薯や薩摩芋等を掘り起こす際に用いられる掘起刃等の掘削具は、SUP6等の鋼材により形成され、そのビッカース硬度Hvは215程度の鍛造品が多く用いられている。
掘削具はこのように硬度の高い材料から形成されているものの、何万回と土中に突き立てられるため摩耗が激しく、寿命を左右する要因となっている。
なお、以下の説明においては、掘削具は鍛造品である場合について説明するが、本発明はこれに限定される物ではなく鋳造品や機械加工品であっても良い。
【0020】
このため従来は耐摩耗材を溶着等して掘削具の摩耗を抑制することが行われているが、かかる溶着等の手段は生産性を高くすることができないためコストアップの要因となっていた。
【0021】
そこで、本願発明者は、摩耗特性を改善すると共に生産性を向上させる技術について種々検討した結果、所謂バッチ処理が可能であるメッキ技術に到達した。無論、メッキ技術そのものは既に種々の分野で利用され新規な技術ではないが、かかるメッキ技術を農業機械の掘削具に利用する際には、特有の配慮や条件が必要となることを見出して発明を完成させた。
【0022】
一般に、掘削具は、例えば図1に示すように3次元的に湾曲した鍛造品で、焼鈍状態となっていることが多い。
一方、メッキを行う際には、その前処理として化学薬品によるエッチング処理を行い、表面の酸化物等の除去が行われる。
【0023】
ところが、掘削具が焼鈍状態であるため、その結晶粒が粗大化しており、エッチング処理を行うと結晶粒界に沿った腐食が進み易く表面荒れが著しくなってしまう。
【0024】
また、掘削具でも種々形状の掘削具が存在するが、中には溶接部分があったり、複数の部材により形成されて、その間に微少の隙間が存在する場合がある。このような溶接部分や隙間では、その他の部分におけるエッチング状態と異なる速度でエッチングが起きることがある。
【0025】
例えば、薬品が隙間に入り込み、その後の供給が少なくなって反応能力が落ちると、他の部分よりエッチングされなくなってしまったり、溶接で金属組織が変化してエッチング速度が大きくなったり、あるいは凹凸の凹部に空気やゴミが存在してエッチングされないようなことがある。
これらの事情は、掘削具を消耗品と位置づけてステンレス鋼のような高価な材料を用いずに鉄等の安価な材料を用いた場合に深刻となる。
【0026】
このように表面荒れしたり、腐食されていない部分が存在したり、或いはゴミや錆びが残っている状態でメッキを行うと、メッキ層と掘削具の表面との間にボイド(空隙)が発生したりして、メッキ剥離の原因となり易くなる。メッキ剥離が生じると、その部分で新たな錆びが発生し、その錆びが剥がれていないメッキ層と掘削具の表面との間に浸食して、さらなる剥離を起こす原因となる。
【0027】
また、同じ金属のメッキ層を形成しても、緻密性(密度)がメッキ方法により異なる。所謂、装飾用メッキは多少密度が小さくても光沢のあるメッキ層が要求される場合が多いが、本願のようにメッキ層により掘削具を保護するためには、光沢は余り要求されない反面、硬度が大きいことが要求される。無論、硬度と密度とは略比例関係にあり、硬度を高めるためには密度を高める必要がある。
【0028】
さらに、クロム金属自体は硬度が大きいものの、掘削中に土中の小石等と衝突すると、摩耗したり傷を受けたりする。このとき、メッキ層の厚みが薄いと傷は容易に地金まで届いてしまい、小さな傷であってもそこから錆び始めて掘削具全体に広まることにより切れ味を低下させてしまう恐れがある。
【0029】
加えて、掘削刃の刃先のように鋭利な部分を持つ物に電気メッキを行うと、この鋭利な部分で電界集中が起きて、その部分のメッキ厚が他より厚くなり、刃のような場合には鈍化して切味も悪くなり、草等が絡み付き易くなる問題が発生する。
【0030】
そこで、本発明では、ブラスト処理を主要なメッキ前処理とし、状況に応じて研削処理、研磨処理、化学処理を行うことにより、密着度及び緻密性を向上させる。また、メッキ処理においても、メッキ電流、メッキ温度等の条件設定を行い、密着度及び緻密性を向上させながらかつ厚膜のメッキ層を形成して、硬度向上を図る。
【0031】
以下、図を参照して説明する。図1は、本発明に係る掘削具の例としての掘削刃2の斜視図であり、図2はその刃先部5を含むA−A断面図である。図1及び図2において、番号3はメッキされる掘削具本体を示し、番号4はメッキ層を示している。また、図3はかかる掘削刃2を用いた農業機械6の斜視図である。
【0032】
なお、図3に示す農業機械6はトラクタ等にオプション接続されて、土地を耕す際に用いる物で、回転しながら土中に突き立てて土を耕す複数の掘削刃2、該掘削刃2を回転させるための動力伝達機構7、掘削刃2の土中への突き立て量が調整可能に設けられたホイール8等を有している。
【0033】
メッキ手順は、図4に示すように、大まかに分けてメッキ前処理10、メッキ処理20、メッキ後処理30に分かれる。メッキ前処理10には、サンドペーパ等による研削処理11、希塩酸等による化学処理12、パフ研磨による研磨処理13、アルミナの噴射によるブラスト処理14がある。また、これらの処理においては、適宜異物の洗浄を行う洗浄処理15、油分の除去を行う脱脂処理16、乾燥処理17、中和処理18が併用される。
【0034】
洗浄処理15は、流水や貯留水により掘削刃2に付着しているゴミ等の異物や薬品等を洗浄する処理であり、当該洗浄後は水分除去の乾燥処理17が行われる。
脱脂処理16は、掘削刃2に付着している各種の油分の除去を目的とした処理で、苛性ソーダ(NaOH)又はこれを主材とする界面活性剤を含む脱脂剤により油分を溶解除去する処理で、脱脂後は洗浄処理15が行われる。
【0035】
なお、掘削刃2に小さな隙間や凹凸が存在すると、ここに異物や油等が侵入していることがある。このような状況で、洗浄処理15や脱脂処理16を行っても十分に水洗や脱脂が行えない場合がある。かかる場合には、超音波等の撹拌手段を用いて上記処理を行うことが好ましい。無論、超音波に限らず、スターラ等の他の撹拌手段を用いてもよい。
【0036】
中和処理18は、酸やアルカリの薬液で薬品処理した後に、残存する薬品を中和する処理である。例えば、脱脂を行った後は、残存している脱脂剤の薬品を除去するために洗浄処理15を行うが、苛性ソーダはアルカリ性であるため、掘削刃2に薬品が残っていたりすると、後のメッキ処理20に影響を与え、また安全管理上好ましくない。
無論、洗浄水がアルカリ性になってしまうと、そのまま廃棄できなくなる不都合がある。そこで、脱脂後は、中和処理18を行うことが好ましい。
【0037】
研削処理11は、掘削刃2に錆びが発生していたり、ペンキやゴミ等の異物が付着しているような場合にサンドペーパや金属ブラシで掻き落とす処理で、前後に洗浄処理15が適宜行われる。このような異物は、メッキ品質に大きく影響するものの、化学処理12、研磨処理13及びブラスト処理14ではなかなか除去できないために行われ、これら化学処理12等により除去される場合には省略することができる。
【0038】
即ち、掘削刃2は、鉄を主成分とする鍛造品であり、表面防錆処理が施されていない場合が多く、当該掘削刃2が製造されてから長期間経過していると、その表面が錆びている場合がある。錆びている状態でメッキを行うと、錆びている部分でのメッキの密着性が低いため容易に剥離を起こしてしまうようになる。
【0039】
そこで、手動又は電動によりサンドペーパや金属ブラシを使い錆びを掻き落とす。このとき、完全に錆びを落とす必要はない。周知のように、錆びは金属内部に浸食して広がるため、錆びを完全に落とそうとすると、錆びていない部分まで削り取ることが必要になるのを避けるためである。
【0040】
化学処理12は、例えば、10〜30Vol%の希硫酸や希塩酸等により表面エッチングして錆び等を除去する処理で、前後に洗浄処理15、脱脂処理16、乾燥処理17が行われる。錆びのような酸化物は上述したように内部に浸食して進み、また溶接に伴う凹凸等における凹部は研削処理11では除去することが困難である。そこで、このような酸化物等の除去を目的として化学処理12を行う。
【0041】
なお、化学処理12を行う場合に、掘削刃2の表面に油等が付着していると、この油等が薬品に対する保護膜として作用することがあるので、予め脱脂処理16を行う必要がある。
また、化学処理12した後にメッキ品に薬品が残っている場合があるので(例えば、隙間に薬品が入り込んでいるような場合が想定される)、洗浄処理15→中和処理18→洗浄処理15→乾燥処理17の各処理を行う。
【0042】
研磨処理13は、パフ研磨により研削処理11で付いた傷や搬送時等に付いた傷等を取り除くことによりメッキ面を滑らかにする処理である。メッキ層の緻密度は硬度に影響を与えるが、この緻密度を高めるためにはメッキ面の平滑度を高くすることが必要になる。本発明では、最終的にブラスト処理14を行い平滑度を高めるが、このブラスト処理14では大きな傷等の凹凸を取り除くことが難しいため状況に応じて研磨処理13を行う。
【0043】
特に、刃先は他の部分に比べ摩耗が激しいので、当該刃先部分を入念にパフ研磨することにより表面平滑度を高めるようにしても良い。即ち、刃先は鏡面状態まで研磨し、それ以外の場所は半光沢状態まで研磨するように、部位により研磨度合いを変えるようにしてもよい。
なお、パフ研磨においては、ペースト状にした酸化クロムを用い、約0.5μmの平面粗さまで研磨する。
【0044】
ブラスト処理14は、掘削刃2にアルミナの粉体(30〜120番の粗さ)を4〜6(kg/cm)で噴射して、当該掘削刃2の表面平滑度を高めると共に、微少の異物を除去する処理である。この処理により、約1μmの傷が残る程度まで研磨する。
【0045】
研削処理11や研磨処理13においては、例えば入隅コーナ部分等を研削したり研磨したりすることは非常に困難であるが、ブラスト処理14ではアルミナの粉体を噴射して吹き付けるため、掘削刃2の形状に関わらず物理的な研磨が行えるメリットがある。
また、入隅等の研削や研磨ができない部分が無い場合でも、掘削刃2のように3次元的に湾曲した形状を持つ場合には、研削処理11や研磨処理13を機械で行うことが困難であるが、上述したように掘削刃2に粉体を拭き当てて研磨するブラスト処理14では、掘削刃2が複雑な形状であったり、また凹凸を持っていたりしても研磨することができ、容易に自動化が行えるメリットがある。
【0046】
このようにして、メッキ前処理10が行われ、次にメッキ処理20が行われる。メッキ処理20は、6価クロムを主成分とするメッキ液を用いて複数の掘削刃2を一度にメッキして(バッチ法)クロムをメッキする。電極はスズー鉛合金(Sn−Pb)やチタン−白金合金(Ti−Pt)を用いる。Ti−Ptはメッキ液に対して不溶性であるため、電極が溶出することによる影響が排除できる利点がある。
バッチ法を用いることにより、複数の掘削刃2が一度にメッキできるため、メッキコストの削減が可能になる。
【0047】
また、硬質クロムメッキとするのは、硬度を高める目的からである。即ち、掘削刃2は焼き鈍しされた状態であり、ビッカース硬度Hvが約40である。この硬度より大きい硬度のメッキ層を厚く形成して耐摩耗材と機能させるために硬質クロムメッキとしている。硬質クロムメッキは一般的にはHv=約1000であるので、係る要求を満たすことが可能である。
【0048】
また、クロムは撥水性を持つため、例えば農作業により掘削刃2に土が付着し、これを水洗すると、特別な乾燥処理17を行わなくても自然に水切りが行え、錆びの発生を押さえることが可能である。
加えて、このような撥水性を持たない金属をメッキした場合には、土が湿っている程付着し易くなるが、撥水性を持つ金属の場合には土が湿っている程付着し難くなるので、作業後の農具の後始末が容易になる。
【0049】
このような前処理でメッキを開始するが、その際の通電は3つの通電モードで行う。第1通電モードは逆電モード21で、本来のメッキ時における電流の向と逆の電流を流すモードである。この逆電モード21により、掘削刃2の表面は、逆メッキされて微少な凹凸が起きる。この凹凸(特に凸部)がクロムのメッキ核となる。メッキ核の密度が高いと、メッキ金属の緻密度が高くなる。
なお、メッキ核とは微少の凹凸部における電界集中により最初にクロムがメッキさせる部位をいうものとし、この部分で優先的にメッキが起こり広がって緻密なメッキ層が形成されるようになる。
【0050】
かかるメッキ核の密度が少ないと、全体のメッキ厚や緻密性にムラが生じたりする。逆にメッキ核の密度が多いと、その分各メッキ核の大きさが小さくなり効率的な電界集中が発生しないため(電界集中が発生しても優先的にメッキされるような電界集中状態にならず、平均化してしまう)、所望の効果を得難くなる。
【0051】
従って、かかるメッキ核の密度を制御することが重要になり、本発明では、例えば電流を−30(Adm)とし2〜5秒間通電することにより、結果的に良好な緻密性のあるメッキが行えることを見いだした。
【0052】
第2通電モードは電着モードで、メッキ液中にクロムを析出させる析出モード22で、本発明では電流を35A(Adm)とし、2〜5秒間通電している。クロムが析出していると、メッキを開始した際に一様なクロム膜が掘削刃2の表面に短時間でメッキされるようになる。これにより、第1通電モードと相まって、緻密なクロム膜がメッキされ、かつ、表面の電気状態が略一様にすることができるようになる。
【0053】
第3通電モードは、本来のメッキモード23で、本発明では、電流を30(Adm)とし24時間通電して、約0.5mmのクロムをメッキした。
【0054】
なお、メッキ中のメッキ液の温度が上昇するが、メッキ温度が高くなるとメッキされたクロムの緻密性が低下するので、冷却水で冷却を行いながら約40〜60℃の範囲になるように温度管理を行っている。
また、メッキが進むに伴いメッキ液の状態も変化するため、適宜メッキ液の比重測定を行いながら液管理を行っている。
さらに、メッキが進むとメッキ電流が流れにくくなるので、電圧を調整することによりメッキ電流の一定に保つようにしている。
【0055】
このようにしてメッキを行うが、掘削刃2には、曲率の異なる種々の部分が存在する。例えば、刃先は鋭角であるが、刃腹は平面である。幾何学的形状が異なると電気分布も異なり、刃先のように鋭角な部分では電界集中が生じて、他より優先的にメッキが進むことがある。
【0056】
そこで、本発明では、鋭利な部分での電界集中を抑制するために、当該部分と電極とを高抵抗の電線等で接続して、鋭利な部分の電界集中を緩和するようにしている。
【0057】
以上によりメッキ処理20が終了し、その後メッキ液の洗浄を目的とした水洗処理15及び乾燥処理17からなるメッキ後処理30を行う。
【0058】
このようにして形成したクロム層のビッカース硬度Hvは、900〜1300と非常に高く、良好な耐摩耗性を達成することができた。
例えば、掘削刃2をメッキした場合には、無メッキの状態と比べ2〜4倍の摩耗寿命を達成することができ、1シーズンの利用に十分な耐性を持つ掘削具が製造可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の説明に適用される掘削刃の斜視図である。
【図2】図1におけるA−A矢視断面図である。
【図3】本発明に係る掘削刃を備えた農業機械6の斜視図である。
【図4】メッキ処理工程を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
2 掘削刃
3 掘削具本体
4 メッキ層
5 刃先部
6 農業機械
10 メッキ前処理
11 研削処理
12 化学処理
13 研磨処理
14 ブラスト処理
20 メッキ処理
21 逆電モード
22 析出モード
23 メッキモード
30 メッキ後処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農耕用機械に用いられる掘削具に粒度及び圧力が調整されたアルミナ粉体を噴射し、当該掘削具の全表面に付着している異物を除去すると共に該全表面を研磨するブラスト処理を行ない、その後に所定のメッキ条件で硬質クロムメッキをメッキして耐摩耗材を形成することを特徴とする農耕用機械の掘削具製造方法。
【請求項2】
サンドペーパ等による研削処理、ペースト状の酸化クロム等によるパフ研磨、希塩酸等による化学的反応を伴う化学処理を前記掘削具の表面状態に応じて適宜選択して実行し、その後に前記ブラスト処理を行って、当該掘削具の全表面に残る傷を1μm以下にしてから前記硬質クロムメッキを行ったことを特徴とする請求項1記載の農耕用機械の掘削具製造方法。
【請求項3】
前記硬質クロムメッキを行う際に、逆電流を流してメッキ面に所定の大きさ及び密度の凹凸を形成する逆電モード、メッキ液中にクロムを析出させる析出モード、メッキ層を形成するメッキモードの3モードを順次行い、かつ、メッキモードにおいてはメッキ液の温度を所定温度範囲に制御すると共に、前記掘削具における鋭利な部分での電界集中を緩和して当該鋭利な部分でメッキ厚の増大を抑制しながら行うことを特徴とする請求項1又は2記載の農耕用機械の掘削具製造方法。
【請求項4】
農耕用機械に用いられる3次元形状に形成された掘削具であって、請求項1乃至3いずれか1項記載の製造方法により製造されていることを特徴とする農耕用機械の掘削具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−57169(P2006−57169A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242800(P2004−242800)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(596113030)サンエイ工業株式会社 (9)
【出願人】(592001056)札幌エレクトロプレイティング工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】