説明

農薬捕集材及びこれを用いた農薬散布状況評価システム

【課題】作物に対する農薬の散布状況をより正確に評価することが可能な農薬捕集材及びこれを用いた農薬散布状況評価システムを提供する。
【解決手段】圃場内外の測定点に農薬捕集材1を配置し、農薬散布後に農薬捕集材1を回収し、次いで農薬が付着した農薬捕集材1の赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換型赤外分光光度計10及びATR装置20を用いてATR法で測定することにより、作物に対する農薬の散布状況を評価する方法に適用される農薬捕集材を、軟質プラスティック材料を含んで構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬捕集材及びこれを用いた農薬散布状況評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圃場に植えられた作物に対する農薬の散布状況を簡易かつ迅速に評価する方法として、光分析技術を用いた方法が提案されている。例えば特許文献1は、圃場の複数の測定点に測定板を配置し、農薬散布後に該測定板を回収し、次いで農薬が付着した該測定板の赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換型赤外分光光度計(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)及びATR装置を用いてATR法(Attenuated Total Reflection)で測定することにより、作物に対する農薬の散布状況を評価する方法を開示している。
【0003】
当該方法により、各測定点における作物への農薬の付着量を推定することができ、また、圃場の各位置における農薬の散布状況のバラツキやドリフトの発生状況等を評価することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−64689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の方法においては、測定板が十分な剛性を有する板材により構成されていたため、該測定板と、ATR装置のATRプリズムと、の密着性を充分に確保することができない場合があった。このため、測定板とATRプリズムとの間に空気層が生じ、これが原因で正確な測定結果が得られない虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、作物に対する農薬の散布状況をより正確に評価することが可能な農薬捕集材及びこれを用いた農薬散布状況評価システムを提供することにある。
【0007】
請求項1の発明は、圃場内外の測定点に農薬捕集材を配置し、農薬散布後に該農薬捕集材を回収し、次いで農薬が付着した該農薬捕集材の赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換型赤外分光光度計及びATR装置を用いてATR法で測定することにより、作物に対する農薬の散布状況を評価する方法に適用される農薬捕集材であって、軟質プラスティック材料を含んで構成されるものである。
【0008】
したがって、農薬捕集材と、ATR装置のATRプリズムと、の密着性が充分に確保される。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の農薬捕集材であって、農薬を付着させる捕集部と、測定点への配置時等に用いる把持部と、を備えるものである。
【0010】
したがって、捕集部と把持部とが明確に区別されることで、オペレータが捕集部に手やピンセット等で触れてしまうことが防止される。
【0011】
また、請求項3の発明は、圃場内外の測定点に農薬捕集材を配置し、農薬散布後に該農薬捕集材を回収し、次いで農薬が付着した該農薬捕集材の赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換型赤外分光光度計及びATR装置を用いてATR法で測定することにより、作物に対する農薬の散布状況を評価する農薬散布状況評価システムであって、前記農薬捕集材は、農薬を付着させる捕集部と、測定点への配置時等に用いる把持部と、を備え、前記捕集部は、軟質プラスティック材料からなり、前記ATR法による測定結果として得られた赤外吸収スペクトルを、種類及び濃度が既知の農薬の赤外吸収スペクトルを複数登録した検索ライブラリを利用して、複数のクラスの中から最も相関の高いクラスに分類することにより、前記農薬捕集材に付着した農薬の種類及び濃度の判別をするものである。
【0012】
したがって、捕集部と把持部とが明確に区別されることで、オペレータが捕集部に手やピンセット等で触れてしまうことが防止される。また、農薬捕集材の捕集部と、ATR装置のATRプリズムと、の密着性が充分に確保される。さらに、測定結果として得られた赤外吸収スペクトルが、農薬の種類を分類する分類モデル、及び、農薬の濃度(量)を分類する分類モデルを用いて、複数のクラスの中から相関の高いクラスに分類される。
【0013】
また、請求項4の発明は、請求項3に記載の農薬散布状況評価システムであって、測定結果として得られた赤外吸収スペクトルを相関の高いクラスに分類する手法として、SIMCAを利用するものである。
【0014】
したがって、ATR法による測定結果として得られた赤外吸収スペクトルが、SIMCAを利用して、農薬の種類及び濃度に応じて設定した複数のクラスの中から、最も相関の高いクラスに分類される。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、農薬捕集材と、ATRプリズムと、の間に空気層が生じる虞が少なく、農薬捕集材の赤外吸収スペクトルの測定に際して正確な測定結果を得やすいので、農薬の散布状況を正確に評価することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加えて、圃場内外の測定点に農薬捕集材を配置する過程から、回収した農薬捕集材をATR法で測定する過程までの、全過程において、オペレータが捕集部に手やピンセット等で触れてしまうことを防止できるので、分析にかけられる捕集部に不純物等が混入する虞が少ない。したがって、農薬捕集材の赤外吸収スペクトルの測定に際して正確な測定結果を得やすいので、農薬の散布状況を正確に評価することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、圃場内外の測定点に農薬捕集材を配置する過程から、回収した農薬捕集材をATR法で測定する過程までの、全過程において、オペレータが捕集部に手やピンセット等で触れてしまうことを防止できるので、分析にかけられる捕集部に不純物等が混入する虞が少ない。また、農薬捕集材と、ATRプリズムと、の間に空気層が生じる虞が少ない。したがって、農薬捕集材の赤外吸収スペクトルの測定に際して正確な測定結果を得やすいので、農薬の散布状況を正確に評価することができる。さらに、測定結果として得られた赤外吸収スペクトルが、農薬の種類を分類する分類モデル、及び、農薬の濃度(量)を分類する分類モデルを用いて、複数のクラスの中から相関の高いクラスに分類されるので、農薬の種類及び濃度(量)を予測することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加えて、測定結果として得られた赤外吸収スペクトルが、SIMCAを利用して相関の高いクラスに分類されるので、農薬捕集材の捕集部に含まれていた農薬の定性分析及び定量分析を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の一形態に係る農薬捕集材の構成を示す図であり、(a)は農薬捕集材を作物に取り付けた状態を示す図、(b)は農薬捕集材の詳細な構成を示す図である。
【図2】分析装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係る農薬散布状況評価システムを示す模式図である。
【図4】農薬の定性分析及び定量分析の結果が、コンピュータの表示部に表示された状態を示す図である。
【図5】農薬捕集材の把持部を、ハンガーに取り付けた洗濯バサミで固定して懸架している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施の一形態である農薬捕集材1について、添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1(a)に示す農薬捕集材1は、捕集部1aの表面に農薬を付着させ、分析装置40でその表面を分析することにより、散布された農薬の種類及び作物に対する農薬の付着量を推定するためのものである。本実施形態の農薬捕集材1は、圃場に植えられた作物Pに取り付けられる。ただし、農薬捕集材1の圃場への配置の方法は、作物Pに直接取り付ける方法に限定されるものではなく、例えば圃場の複数の測定点に支持台を設置して、該支持台に農薬捕集材1をセットすることとしてもよい。また、ドリフト状況を確認するために、圃場内だけではなく圃場外(圃場の周辺)にも農薬捕集材1を配置することとしてもよい。
【0022】
本実施形態の農薬捕集材1は、長方形状のシート状の部材である。
農薬捕集材1は、捕集部1aと把持部1bとに分けられ、捕集部1aと把持部1bとの間には境界線1cが設けられている。
【0023】
捕集部1aは、農薬を付着させる部分であり、分析装置40による分析にかけられる部分である。捕集部1aは、軟質プラスティック材料からなる。より具体的には、捕集部1aは、例えばパラフィルムや軟質ポリエチレンフィルムにより構成することができる。ただし、捕集部1aの材質は、分析装置40を用いて測定したときに、捕集部1a単体に由来する吸光度として検出される値が小さく、かつ、捕集部1a単体に由来する赤外吸収スペクトルとして検出されるスペクトルが滑らかとなる素材であることが望ましい。
なお、捕集部1aの大きさを、作物Pの葉の大きさに合わせた大きさとすることで、実際に葉に付着する農薬に近い量を捕集することができる。
【0024】
把持部1bは、農薬捕集材1を測定点へ配置するときや、農薬捕集材1を持ち運ぶとき等に用い、オペレータが手で直接触れたり、あるいはピンセットを介して触れたりする部分である。また、把持部1bは図1(a)に示すように、農薬捕集材1を作物Pに取り付けるときに、クリップ2等を留める部分である。つまり、農薬捕集材1は、クリップ2等を用いることにより、その把持部1bが作物Pに固定される。なお、把持部1bをクリップ2よりも大きく構成しているため、農薬捕集材1を作物Pに取り付ける際には、捕集部1aにはみ出すことがないようにクリップ2を把持部1bに留めることができる。
【0025】
本実施形態の農薬捕集材1においては、図1(b)に示すように、把持部1bの表面に補強識別シート12が貼付されている。本実施形態では、補強識別シート12として紙が用いられている。このような構成により、農薬捕集材1が軟質プラスティック材料で構成されていても、皺が発生したり、折り曲げられたり、丸められたりすることを防止できる。
そして、捕集部1aと把持部1bとで質感(厚み、硬さ、材質)が異なることから、捕集部1aと把持部1bとを明確に区別でき、これによりオペレータが捕集部1aに手等で触れてしまうことを防止している。したがって、分析装置40により分析される部分である捕集部1aに、不純物等が混入することを防止できる。
なお、捕集部1aと把持部1bとをさらに明確に区別できるようにするために、把持部1bに貼付する紙の色を農薬捕集材1とは異なった色に色付けし、目立つようにしてもよい。
【0026】
境界線1cは、捕集部1aと把持部1bとを容易に認識して取り扱うことができるようにするものである。すなわち、所定の面積を有する捕集部1aと、捕集部1aの表面に触れたり農薬の付着状態を乱したりすることなく手やピンセットで持ったり、クリップ2で挟んだり、他の物に固定したりして取り扱うことが可能な大きさの面積を有する把持部1bと、が境界線1cにより仕切られている。当該境界線1cは、図1では破線を引いて構成されているが、折り曲げ線としたり、切り目を入れたり、溝状に構成したりしてもよい。こうすることにより、ハサミやナイフ等を用いずに捕集部1aと把持部1bとを境界線1cに沿って容易に切り離すことができる構成とすることができる。
【0027】
圃場に農薬が散布されると、飛散した農薬は、作物Pに取り付けられた農薬捕集材1の捕集部1aの表面に付着する。その後、クリップ2を把持部1b及び作物Pから取り外して、農薬捕集材1を測定点から回収する。回収された農薬捕集材1は、表面に付着した農薬が乾固される。そして、捕集部1aと把持部1bとを境界線1cで切り離して、捕集部1aの部分のみ(把持部1b以外の部分)が分析装置40(より厳密にはATR装置20のATRプリズム9の上)にセットされる。
【0028】
なお、捕集部1aの部分のみを溶剤で洗浄し、溶剤に溶け出した成分を分析することとする場合等においては、境界線1cに沿ってハサミ等で捕集部1aと把持部1bとを切り離すことにより、溶剤への不純物の混入を防止することができる。
【0029】
以下では、分析装置40について、図2及び図3を参照して説明する。
図2及び図3に示す分析装置40は、フーリエ変換型赤外分光光度計10と、ATR装置20と、コンピュータ30と、を備えている。フーリエ変換型赤外分光光度計10は、干渉計4等を備えて構成される。図2に示すように、ATR装置20は、高屈曲率のATRプリズム9及びミラー5等を備えて構成される。フーリエ変換型赤外分光光度計10及びATR装置20は、分析対象試料である農薬捕集材1の捕集部1aを、ATR装置20のATRプリズム9の上に密着させて、上部から圧力治具6で圧着させてセットすることにより、ATR法により捕集部1aの表面の中赤外領域(概ね4000〜700cm−1)における吸光度を測定できるように構成されている。
【0030】
ATR法について簡単に説明すると、干渉計4からの干渉光が、ミラー5を介してATRプリズム9に入射する。ATRプリズム9は、例えばZnSe単結晶であり、入射した干渉光(赤外光)がATRプリズム9内で全反射を繰り返して進む。この間、ATRプリズム9表面に密着した農薬捕集材1の捕集部1aの表面においてエバネッセント波が浸入し、赤外分光法に基づき赤外光は吸収される。
したがって、ATRプリズム9からの反射光を量子型検出器7によって検出し、これをA/D変換器8でデジタル信号に変換し、コンピュータ30でフーリエ変換して得た赤外吸収スペクトルは、捕集部1aの表面の農薬情報を含んだものとなるのである。
【0031】
図3に示すコンピュータ30は、受信したデジタル信号に対してフーリエ変換等の演算処理を行って、吸光度を中赤外領域の波長ごとにプロットした赤外吸収スペクトルのデータを作成することができるように構成されている。また、コンピュータ30は、得られた赤外吸収スペクトルのデータを、SIMCA(Soft Independent Modeling of Class Analogy)を用いて解析することで、分析対象試料に含まれていた農薬の種類及び量を判別することができるように構成されている。なお、SIMCAは、未知試料(分析対象試料)を相関の最も高いクラスに分類するためのデータ分類の統計的手法である。
【0032】
本実施形態では、SIMCAにおける分類モデルを構築するために、種類及び濃度が既知の複数サンプルの赤外吸収スペクトルが、コンピュータ30の検索ライブラリに登録されている。言い換えれば、記憶手段にデータとして記憶されている。
具体的には、本実施形態では、農薬A、農薬B、農薬C、及び農薬Dのそれぞれについて、濃度を高濃度にしたときの赤外吸収スペクトル、濃度を中濃度にしたときの赤外吸収スペクトル、濃度を低濃度にしたときの赤外吸収スペクトル、及び濃度をゼロにしたとき(ブランク)の赤外吸収スペクトルが複数個ずつ検索ライブラリに登録されている。そして、各種類の農薬について、高濃度、中濃度、低濃度、及びゼロの各クラスの赤外吸収スペクトルが、ATR処理、微分処理、及びスムージング処理等の前処理がされた後、主成分分析を用いて分析される。その結果、農薬A〜Dのいずれかの種類(クラス)に分類する分類モデル、並びに、高濃度クラス、中濃度クラス、低濃度クラス、及びゼロクラスのいずれかのクラスに分類する分類モデルが構築されている。なお、このSIMCAにおいては、各クラスの残差標準偏差が計算され、その値からクラス間距離と各モデルを区別するための識別力が得られるのである。
【0033】
そして、分析対象試料(捕集部1aの表面)の赤外吸収スペクトルが、どのモデルに属するかが判別される。これにより、農薬捕集材1により捕集された農薬の種類が農薬A〜Dのいずれであるかを予測することができ、また、農薬の濃度(量)が高濃度、中濃度、低濃度、及びゼロのいずれであるかを予測することができる。すなわち、農薬捕集材1の捕集部1aに含まれていた農薬の定性分析及び定量分析を行うことができるのである。
【0034】
また、コンピュータ30は、表示部30aを備えている(図3及び図4参照)。表示部30aは、一般的な液晶ディスプレイまたはブラウン管ディスプレイとして構成されて、SIMCAにより得られた農薬の種類及び濃度(量)の判別結果を表示することができる。具体的には、例えば本実施形態では、農薬の種類が文字情報により表示され、また、農薬の濃度すなわち農薬の散布量が○、×、△等の記号情報により表示される(図4参照)。例えば、農薬の散布量が適量である場合には○、農薬の散布量が明らかに過剰(高濃度)の場合には×、農薬の散布量が過少の場合(ゼロあるいは微量の場合)には△が表示される。
【0035】
なお、SIMCAを用いて解析した結果、農薬捕集材1に含まれていた農薬の散布量が「△」と判別された場合には、この分析対象試料(農薬捕集材1)を液クロマトグラフィー等の設備を備えた研究室に持ち帰り、農薬の濃度(量)についての更なる検討を行うこととしてもよい。
【0036】
次に、本発明の実施の一形態に係る農薬散布状況評価システム60について、図3を参照して説明する。
【0037】
まず、圃場内への農薬の散布作業に先立って、圃場内に植えられた作物Pに農薬捕集材1を取り付ける(図3参照)。農薬捕集材1は、圃場内において適宜に決められた複数の測定点において、作物Pに取り付けられる。測定点を、例えば圃場内にマトリックス状に縦横に所定間隔ごとに設定すれば、当該圃場内における農薬の付着量のバラツキを測定することができる。なお、各測定点における農薬捕集材1をそれぞれ区別できるように、把持部1bには識別用の番号やバーコード等が付される。
【0038】
圃場内に植えられた作物Pへの農薬捕集材1の取り付けが終了すると、オペレータは、例えば無人ヘリを操作することにより、圃場内に農薬を散布する。
【0039】
農薬の散布が終了すると、オペレータは、圃場内の各測定点から農薬捕集材1を回収する。
【0040】
そして、オペレータは、回収した農薬捕集材1に付着した農薬を乾燥させる。具体的には、複数の農薬捕集材1・1・・・の各把持部1bを、ハンガー11に取り付けた洗濯バサミ3・3・・・(図5参照)で固定して懸架することにより、農薬捕集材1の表面に付着した農薬を乾固する。なお、これに代えて、オペレータが把持部1bを手で持ちながら、農薬捕集材1の捕集部1aにドライヤーの風を当てる等の方法により、農薬を乾固することとしてもよい。
【0041】
そして、オペレータは、捕集部1aを把持部1bから切り離して、捕集部1aをATRプリズム9の上に載せて(図2参照)、分析装置40により分析する。このとき、農薬捕集材1の捕集部1aは軟質プラスティック材料からなるので、捕集部1aと、ATRプリズム9と、の密着性を充分に確保することができる。したがって、農薬捕集材1の捕集部1aとATRプリズム9との間に空気層が生じる虞が少なく、正確な測定結果を得やすいのである。
【0042】
フーリエ変換型赤外分光光度計10により計測された吸光度の測定結果を取得したコンピュータ30は、検索ライブラリ及びSIMCAを用いて赤外吸収スペクトルの分析を行い、捕集部1aに付着している農薬の定性分析及び定量分析を行う。分析が終了すると、コンピュータ30は、表示部30aに、捕集部1aに付着していた農薬の種類及び農薬の量(濃度)を表示する(図4参照)。なお、分析装置40は、車両50等に載せて圃場の近傍に運ぶことができ(図3参照)、したがって、農薬捕集材1を液クロマトグラフィー等の設備を備えた研究室に持ち帰らなくても、その場で簡易かつ迅速に分析結果を得ることができる。
【0043】
オペレータは、表示部30aに表示された結果を確認することで、所望の散布状況が得られているか否かを判断することができる。
【0044】
例えば、オペレータは、コンピュータ30の表示部30aに表示された農薬の種類を確認することによって、散布した農薬の種類が適正であるかを判断することができる。例えば、複数種類の農薬を混合して散布する場合には、特定の種類の農薬が不足していないかや、混合が十分にされているか等を推定することができる。
【0045】
また、オペレータは、コンピュータ30の表示部30aに表示された農薬の量を確認することによって、圃場内に植えられている作物Pに付着した農薬の量を推定することができる。
【0046】
また、圃場内の各測定点における農薬の付着量を比較することにより、圃場内の各位置で農薬の付着量にバラツキがあるか否かを判断することができる。農薬の付着量にバラツキがあった場合は、付着量が少なかった場所に追加の農薬を散布する等、適切に対応することができる。
【0047】
以上で説明したように、本実施形態の農薬散布状況評価システム60を用いることで、圃場に植えられた作物Pに対する農薬の散布状況を簡易かつ迅速に、しかも正確に評価することができるのである。
【0048】
このように、本実施形態に係る農薬捕集材1は、圃場内外の測定点に農薬捕集材1を配置し、農薬散布後に農薬捕集材1を回収し、次いで農薬が付着した農薬捕集材1の赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換型赤外分光光度計10及びATR装置20を用いてATR法で測定することにより、作物Pに対する農薬の散布状況を評価する方法に適用される農薬捕集材であって、軟質プラスティック材料を含んで構成されるものである。
したがって、農薬捕集材1と、ATR装置20のATRプリズム9と、の密着性が充分に確保される。
よって、農薬捕集材1と、ATRプリズム9と、の間に空気層が生じる虞が少なく、農薬捕集材1の赤外吸収スペクトルの測定に際して正確な測定結果を得やすいので、農薬の散布状況を正確に評価することができる。
【0049】
また、本実施形態に係る農薬捕集材1は、農薬を付着させる捕集部1aと、測定点への配置時等に用いる把持部1bと、を備えるものである。
したがって、捕集部1aと把持部1bとが明確に区別されることで、オペレータが捕集部1aに手やピンセット等で触れてしまうことが防止される。
よって、圃場内外の測定点に農薬捕集材1を配置する過程から、回収した農薬捕集材1をATR法で測定する過程までの、全過程において、オペレータが捕集部1aに手やピンセット等で触れてしまうことを防止できるので、分析にかけられる捕集部1aに不純物等が混入する虞が少ない。したがって、農薬捕集材1の赤外吸収スペクトルの測定に際して正確な測定結果を得やすいので、農薬の散布状況を正確に評価することができる。
【0050】
さらに、本実施形態に係る農薬散布状況評価システム60は、圃場内外の測定点に農薬捕集材1を配置し、農薬散布後に農薬捕集材1を回収し、次いで農薬が付着した農薬捕集材1の赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換型赤外分光光度計10及びATR装置20を用いてATR法で測定することにより、作物Pに対する農薬の散布状況を評価する農薬散布状況評価システムであって、農薬捕集材1は、農薬を付着させる捕集部1aと、測定点への配置時等に用いる把持部1bと、を備え、捕集部1aは、軟質プラスティック材料からなり、ATR法による測定結果として得られた赤外吸収スペクトルを、種類及び濃度が既知の農薬の赤外吸収スペクトルを複数登録した検索ライブラリを利用して、複数のクラスの中から最も相関の高いクラスに分類することにより、農薬捕集材1に付着した農薬の種類及び濃度の判別をするものである。
したがって、捕集部1aと把持部1bとが明確に区別されることで、オペレータが捕集部1aに手やピンセット等で触れてしまうことが防止される。また、農薬捕集材1の捕集部1aと、ATR装置20のATRプリズム9と、の密着性が充分に確保される。さらに、測定結果として得られた赤外吸収スペクトルが、農薬の種類を分類する分類モデル、及び、農薬の濃度(量)を分類する分類モデルを用いて、複数のクラスの中から相関の高いクラスに分類される。
よって、圃場内外の測定点に農薬捕集材1を配置する過程から、回収した農薬捕集材1をATR法で測定する過程までの、全過程において、オペレータが捕集部1aに手やピンセット等で触れてしまうことを防止できるので、分析にかけられる捕集部1aに不純物等が混入する虞が少ない。また、農薬捕集材1と、ATRプリズム9と、の間に空気層が生じる虞が少ない。したがって、農薬捕集材1の赤外吸収スペクトルの測定に際して正確な測定結果を得やすいので、農薬の散布状況を正確に評価することができる。さらに、測定結果として得られた赤外吸収スペクトルが、農薬の種類を分類する分類モデル、及び、農薬の濃度(量)を分類する分類モデルを用いて、複数のクラスの中から相関の高いクラスに分類されるので、農薬の種類及び濃度(量)を予測することができる。
【0051】
さらに、本実施形態に係る農薬散布状況評価システム60は、測定結果として得られた赤外吸収スペクトルを相関の高いクラスに分類する手法として、SIMCAを利用するものである。
したがって、ATR法による測定結果として得られた赤外吸収スペクトルが、SIMCAを利用して、農薬の種類及び濃度に応じて設定した複数のクラスの中から、最も相関の高いクラスに分類される。
よって、測定結果として得られた赤外吸収スペクトルが、SIMCAを利用して相関の高いクラスに分類されるので、農薬捕集材1の捕集部1aに含まれていた農薬の定性分析及び定量分析を精度良く行うことができる。
【符号の説明】
【0052】
1・・・・農薬捕集材
1a・・・捕集部
1b・・・把持部
1c・・・境界線
9・・・・ATRプリズム
10・・・フーリエ変換型赤外分光光度計
20・・・ATR装置
30・・・コンピュータ
40・・・分析装置
60・・・農薬散布状況評価システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場内外の測定点に農薬捕集材を配置し、農薬散布後に該農薬捕集材を回収し、次いで農薬が付着した該農薬捕集材の赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換型赤外分光光度計及びATR装置を用いてATR法で測定することにより、作物に対する農薬の散布状況を評価する方法に適用される農薬捕集材であって、
軟質プラスティック材料を含んで構成される農薬捕集材。
【請求項2】
請求項1に記載の農薬捕集材であって、
農薬を付着させる捕集部と、
測定点への配置時等に用いる把持部と、を備える農薬捕集材。
【請求項3】
圃場内外の測定点に農薬捕集材を配置し、農薬散布後に該農薬捕集材を回収し、次いで農薬が付着した該農薬捕集材の赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換型赤外分光光度計及びATR装置を用いてATR法で測定することにより、作物に対する農薬の散布状況を評価する農薬散布状況評価システムであって、
前記農薬捕集材は、
農薬を付着させる捕集部と、
測定点への配置時等に用いる把持部と、を備え、
前記捕集部は、軟質プラスティック材料からなり、
前記ATR法による測定結果として得られた赤外吸収スペクトルを、種類及び濃度が既知の農薬の赤外吸収スペクトルを複数登録した検索ライブラリを利用して、複数のクラスの中から最も相関の高いクラスに分類することにより、前記農薬捕集材に付着した農薬の種類及び濃度の判別をする農薬散布状況評価システム。
【請求項4】
請求項3に記載の農薬散布状況評価システムであって、測定結果として得られた赤外吸収スペクトルを相関の高いクラスに分類する手法として、SIMCAを利用する農薬散布状況評価システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−127823(P2012−127823A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279939(P2010−279939)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】