説明

近接アンテナ

【課題】 電波法の規制内で限られた出力の無線タグからの電波を効率良く空間に輻射させてその到達距離を伸ばすことができる。
【解決手段】 無線タグ7は、基本波を定期的に発振してIDコードを変調した電磁波をアンテナ7bから送信する。無線タグ7の近傍には静電結合式近接アンテナ25が設置されているので、無線タグ7から送信された電磁波は、静電結合式近接アンテナに誘起し、静電結合式近接アンテナ25から電磁界が2次輻射される。さらに無線タグ7の近傍に静電結合式近接アンテナ25お呼び近接磁界アンテナを設置した場合、電磁界のうちの電界成分が支配的な輻射がまず行われ、それがタグ外部の静電結合方式近接アンテナ25へ、静電結合により結合され、ここから電磁界成分として空間へエネルギー輻射される。さらにこのエネルギー輻射された電磁波のうちの磁界成分が、近接磁界アンテナ9へ結合し、磁界成分として空間へ再輻射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体や人体に装着してその存在を検知するために使用する無線タグの通信距離をより拡大することが可能な小電力無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の小電力無線装置としては、図11に示す無線タグシステムが知られている。
【0003】
人体3に装着された名札5に無線タグ7が収納されており、この無線タグ7から定期的にIDコードが付加された電磁波が周囲に送信され、この無線タグ7からの電磁波を受信機1で受信してIDコードを出力するようになっている(特許文献1)。
【0004】
ところで、現在、日本国内で使用できる無線タグは概略して下記の4種類に大別される。
【0005】
(1)125KHz,135KHz帯無線タグ
(2)13MHz帯無線タグ
(3)2.4GHz帯無線タグ
(4)微弱電波型無線タグ
このうち(1)と(2)は、探索距離が数十cm程度の短距離探索タイプであり、(3)及び(4)は、探索距離が数m〜十数mの長距離タイプである。
【0006】
また、(3)はマイクロ波帯の性質上、直進性が顕著で通信距離を長くとり易いが、物陰などへ伝搬しにくい特性がある。電池を搭載したアクティブ型無線タグの場合、複雑な無線回路を内蔵しており、マイクロ波帯の電子デバイスは高価であるため、小型、低価格を要求される用途には適さない。
【0007】
さらに、(4)は周波数の制限がないため、反射などの電波伝搬特性とアンテナサイズの点で有利な300MHz帯程度の周波数で用いる長距離通信性に優れたものがあり、UHF帯の電子デバイスを用いるため低コストである。
【特許文献1】特開2005−27104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、電波法により規制された微弱電波の制限値は、無線タグから3mの距離において54dBμV/m(500μV/m)以下の電界強度の送信出力でなければならない。このため、この送信出力によって到達距離がほぼ決定されてしまう。
【0009】
また、無線タグは物体や人体に装着して使用するが、無線タグから輻射された電波は物体や人体に吸収されることがあり、理想空間に無線タグを置いた場合の性能に比べて、電波の到達距離が減少するといった問題があった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的としては、電波法の規制内で限られた出力の無線タグからの電波を、無線タグを装着する物体等の影響を受けにくくすることで、効率良く空間に輻射させてその到達距離を伸ばすことができる小電力無線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、上記課題を解決するため、電磁波を送信するアンテナを内蔵した無線タグに近接し、当該アンテナの一方の面に対向するように設置された静電結合式近接電界アンテナを有し、前記無線タグから電界成分が支配的な輻射がなされ、この輻射により前記静電結合方式近接アンテナへ静電結合によりエネルギー結合され電磁界成分として空間へエネルギー輻射さることを要旨とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、上記課題を解決するため、前記静電結合式近接電界アンテナは、前記無線タグに内蔵したアンテナの一方の面に対向するように設置された平板状の導体で形成されることを要旨とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、上記課題を解決するため、前記静電結合式近接電界アンテナは、前記導体の面に対して、樹脂からなる1対の薄シールを両面から貼り付けてなる多層シールに収納されることを要旨とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、上記課題を解決するため、前記静電結合式近接電界アンテナは、前記無線タグを収納したケースの一側面に導体を接続してなり、この導体の面に対して、樹脂からなる薄シールを貼り付けて収納されることを要旨とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、上記課題を解決するため、前記静電結合式近接電界アンテナは、前記導体の面に対して、樹脂液を塗布して収納されることを要旨とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、上記課題を解決するため、前記無線タグを収納するとともに、前記静電結合式近接電界アンテナを収納した多層シールからなるカードを収納するカードケースからなることを要旨とする。
【0017】
請求項7記載の発明は、上記課題を解決するため、電磁波を送信するアンテナを内蔵した無線タグに近接し、当該アンテナの一方の面に対向するように設置された静電結合式近接電界アンテナを有し、前記静電結合式近接電界アンテナは、平板状の導体で形成され、前記無線タグから電界成分が支配的な輻射がなされ、この輻射により前記静電結合方式近接アンテナへ静電結合によりエネルギー結合され電磁界成分として空間へエネルギー輻射さることを要旨とする。
【0018】
請求項8記載の発明は、上記課題を解決するため、前記静電結合式近接電界アンテナは、前記無線タグに内蔵したアンテナと対向するように設置された平板状の導体で形成され、前記無線タグから発生する電磁波の1/4波長の整数倍となる長さの導線を有していることを要旨とする。
【0019】
請求項9記載の発明は、上記課題を解決するため、電磁波を送信するアンテナを内蔵した無線タグに近接し、当該アンテナに対向するように設置された静電結合式近接電界アンテナを有し、前記無線タグに近接し、当該無線タグから送信された電磁波の周波数に共振する近接磁界アンテナを有し、前記無線タグから電界成分が支配的な輻射がなされ、この輻射により前記静電結合方式近接アンテナへ静電結合によりエネルギー結合され電磁界成分として空間へエネルギー輻射され、このエネルギー輻射された電磁波のうちの磁界成分が近接磁界アンテナへ結合し磁界成分として空間へ2次輻射されることを要旨とする。
【0020】
請求項10記載の発明は、上記課題を解決するため、前記近接磁界アンテナは、前記無線タグから送信された電磁波の波長に対して、全周が0.5波長以下の導体の両端にコンデンサを接続してなる閉ループから形成されることを要旨とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電波法の規制内で限られた出力の無線タグからの電波を効率良く空間に輻射させてその到達距離を伸ばすことができる。
【0022】
また無線タグには、その内部に磁界型アンテナを実装しているものが多いが、一部には電界型アンテナを実装しているものもある。この場合は、外部の近接アンテナに磁界型を用いても効率よく電磁界の結合が行われない。しかし本発明によれば、近接電界アンテナと近接磁界アンテナの両方を実装しているので、電界型アンテナを実装している無線タグに対しても、近接電界アンテナがまず、電磁界エネルギーをタグ内部から誘導され、そこから2次輻射された電磁界が効率よく近磁界アンテナへ誘導され、そこから効率よく空間に2次輻射される。しかも磁界型アンテナの動作インピーダンスは低いので、周囲の物体や人体の影響を受けがたい利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。
【0024】
(第1の実施の形態)
本発明の第一の実施形態に係る動作原理を図1の小電力無線装置概念図を用いて説明する。
【0025】
本発明では、まず図1に示す無線タグ7が、基本波を定期的に発振してIDコードを変調した電磁波を内蔵アンテナ7bから送信し、送信された電磁波のうち電界成分が支配的な輻射がまず行われる。それが静電結合式近接電界アンテナ25へ静電結合によりエネルギー結合され、静電結合式近接電界アンテナ25から電磁界成分として空間へ2次輻射される。これによって、従来の無線タグ7単体を用いる場合より空間を伝搬した電磁波が受信機1まで到達するときの到達距離を伸ばす効果を得ることができる。
【0026】
また、以下に示すとおり内蔵アンテナ7bに電界型アンテナを採用している場合には、電磁波は近傍界領域(フレネル領域)では電磁波のうち電界成分が強く遠方界領域(フラウンホーファー領域)ではじめて、電界成分と磁界成分が等しい電磁波となって伝搬する。このため、近傍界領域では電界のみが支配的なので、近接アンテナとして磁界型アンテナを用いても、効率の良い電磁界の結合が行われない。
【0027】
そこで本発明は、内蔵アンテナ7bから発信された電磁波を効率よく空間に輻射し、より受信機1まで到達するときの到達距離を伸ばすため、近接アンテナとして電界型アンテナを使用することを特徴としている。
【0028】
以下に電界型アンテナから発信される電磁波の発信源からの距離と電磁波の強度の関係について示す。
【0029】
ある空間の原点にある長さlの電気ダイポールから距離rだけ離れた場所Pにおける電荷量をq(t) (tは時刻) とすると、電荷量の変化の割合が電流であるので、
【数1】

【0030】
と微分の形で書き表すことができる。
原点にz軸方向を向いた微小ダイポールがあったとき、図11に示す点Pにおける微小ダイポールの電界E(t)および磁界H(t)を電荷量の変化q(t)で表現すると、
【数2】

【数3】

【0031】
となる。これらの式は極座標に基づいて表記されており、er、eθ、eψは各々e方向、θ方向、ψ方向単位ベクトルである。またcは空間中の電磁波の伝搬速度である。
これらの式でr-3に比例する項は静電磁場を作り出す項で、電気ダイポールの場合電界のみに存在する。
r-2の項は誘導電磁場を発生させる項である。r-1項は放射界を作り出す項である。充分遠方であれば静電項、誘導項は放射項と比べてはるかに小さくなる。ゆえにダイポールから充分離れた場所における電界・磁界(遠方界という)は、
【数4】

【数5】

【0032】
となる。方向単位ベクトルは直交しているので、遠方界では電界と磁界は直交し、波の進行方向に電界・磁界の成分がない。
周波数領域表示では遠方界電界・磁界の各成分は、
【数6】

【数7】

【0033】
となる。
ここで、遠方界電界と磁界の比ξを波動インピーダンスといい、以下の式で表される。
【数8】

【0034】
(数6)、(数7)より、近傍界領域では波源との距離rが短くなるほど波動インピーダンスξが大きくなることから、近傍界領域(フレネル領域)では電磁波のうち電界成分が強く、遠方界領域(フラウンホーファー領域)で磁場成分が強くなると言える。
【0035】
図4に本発明の第1の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す。
【0036】
図4(a)にはアンテナに到来する電磁波を受信してこの電磁波に変調されているIDコードを抽出する受信機1を示し、図4(b)にはアンテナシール29が貼り付けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、図4(c)には図4(b)に示す無線タグ7とアンテナシール29とをA−A線で切断した場合の断面図を示す。
【0037】
図4(c)に示すように、無線タグ7は、集積回路素子を含む電子回路基板7a、アンテナ7b及び電池7cを備え、電子回路基板7a上に設けられた集積回路素子により所定の信号処理を行い、基本波を定期的に発振してIDコードを変調した電磁波をアンテナを介して送信する。アンテナシール29は、片面が無線タグ7のケースに接着面を介して接着するプラスチックの樹脂からなるシール層31と、シール層31の他面に接着させるプラスチックの樹脂からなるラミネート層33と、シール層31とラミネート層33との間に収納された平板状の静電結合式近接電界アンテナ25を備えている。
【0038】
前記構成により、まず図4に示す無線タグ7が、基本波を定期的に発振してIDコードを変調した電磁波を内蔵アンテナ7bから送信し、送信された電磁波のうち電界成分が支配的な輻射がまず行われ、それが静電結合式近接電界アンテナ25へ静電結合によりエネルギー結合され、静電結合式近接電界アンテナ25から電磁界成分として空間へ2次輻射される。これによって、従来の無線タグ7単体を用いる場合より空間を伝搬した電磁波が受信機1まで到達するときの到達距離を伸ばす効果を得ることができる。
【0039】
(第2の実施の形態)
図5に本発明の第2の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す。図5(a)にはアンテナシール35が貼り付けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、図5(b)には無線タグ7とアンテナシール35とをC−C線で切断した場合の断面図を示す。
【0040】
図5(b)に示すように、アンテナシール35は、片面が無線タグ7のケースに接着面を介して接着するプラスチックの樹脂からなるシール層37と、シール層37と無線タグ7のケースとの間に収納された平板状の静電結合式近接電界アンテナ25を備えている。
【0041】
次に、図5を参照して、小電力無線装置の動作を説明する。
【0042】
まず、無線タグ7は、基本波を定期的に発振してIDコードを変調した電磁波をアンテナ7bから送信する。無線タグ7のケースにはアンテナシール35のシール層37が接着されており、その内部には静電結合式近接電界アンテナ25が収納されているので、無線タグ7から送信された電磁波は静電結合式近接電界アンテナ25に誘起し、静電結合式近接電界アンテナ25から電磁界が2次輻射される。
【0043】
この結果、従来のように無線タグ7単体を用いる場合よりも、無線タグ7にアンテナシール29を接着した小電力無線装置から送信される電磁波の方が効率的に空間に輻射されるので、空間を伝搬した電磁波が受信機1まで到達するときの到達距離を伸ばすことができる。
【0044】
(第3の実施の形態)
図6に本発明の第3の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す。図6(a)にはアンテナ部41が設けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、図6(b)には無線タグ7とアンテナ部41とをD−D線で切断した場合の断面図を示す。
【0045】
図6(b)に示すように、アンテナ部41は、無線タグ7のケースの上ブタAに設けられた平板状の静電結合式近接電界アンテナ25と、この平板状の静電結合式近接電界アンテナ25の上面および上ブタAの一部に塗布されたニス層43を備えている。
【0046】
図7にはアンテナ部41の製造方法のフローチャートを示す。
【0047】
次に、図7を参照して、上ブタAに形成されたアンテナ部41の製造方法を説明する。
【0048】
まず、上蓋A、エッチング液、エッチング袋、マスキングシートを準備する。
【0049】
ステップS111では、平板状の導体のパターン図をマスキングシートに描き、不要な部分を切断してマスクパターンを作成する。そして、上蓋Aの銅箔が蒸着された表面にこのマスクパターンを貼り付けてマスキングする。ステップS113では、上蓋Aの銅箔上にパターンが貼り付けられた面をエッチング液に浸け、パターンが貼られた箇所を除く面から銅薄を除去し、上蓋Aを洗浄する。
【0050】
次いで、ステップS115では、上蓋Aに形成された平板状の導体を取り付ける。ステップS117では、上蓋Aに形成された平板状の導体の上面に高周波ニスを塗布する。
【0051】
この結果、上蓋Aの上面に静電結合式近接電界アンテナ25が形成される。
【0052】
次に、図6を参照して、小電力無線装置の動作を説明する。
【0053】
まず、無線タグ7は、基本波を定期的に発振してIDコードを変調した電磁波を送信する。無線タグ7のケースには静電結合式近接電界アンテナ25が接着されているので、無線タグ7から送信された電磁波は静電結合式近接電界アンテナ25に誘起し、静電結合式近接電界アンテナ25から電磁界が2次輻射される。
【0054】
この結果、従来のように無線タグ7単体を用いる場合よりも、無線タグ7に静電結合式近接電界アンテナ25を接着した小電力無線装置から送信される電磁波の方が効率的に空間に輻射されるので、空間を伝搬した電磁波が受信機1まで到達するときの到達距離を伸ばすことができる。
【0055】
(第4の実施の形態)
図8に本発明の第4の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す。図8(a)にはアンテナカード47が挿入されたカードケース45を示し、図8(b)にはアンテナカード71とカードケース77とをE−E線で切断した場合の断面図を示し、図8(c)にはアンテナカード47と無線タグ7とがともにカードケース45に挿入されたことを示し、図8(d)にはアンテナカード47と無線タグ7とが挿入されたカードケース45をF−F線で切断した場合の断面図を示す。
【0056】
図8(b)に示すように、アンテナカード47は、透明なプラスチックの樹脂からなるカード形状のカード基台51と、カード基台51上に接着された静電結合式近接電界アンテナ25と、カード基台51上に形成された静電結合式近接電界アンテナ25を覆うようにして収納するシール層49を備えている。
【0057】
次に、図8を参照して、小電力無線装置の動作を説明する。
【0058】
まず、無線タグ7は、基本波を定期的に発振してIDコードを変調した電磁波を送信する。無線タグ7のケースには静電結合式近接電界アンテナ25が接着されているので、無線タグ7から送信された電磁波は静電結合式近接電界アンテナ25に誘起し、静電結合式近接電界アンテナ25から電磁界が2次輻射される。
【0059】
この結果、従来のように無線タグ7単体を用いる場合よりも、無線タグ7に静電結合式近接電界アンテナ25を接着した小電力無線装置から送信される電磁波の方が効率的に空間に輻射されるので、空間を伝搬した電磁波が受信機1まで到達するときの到達距離を伸ばすことができる。
【0060】
(第5の実施形態)
図2に本発明の第5の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す。
【0061】
本発明は前記第一の実施形態乃至第5の実施形態において、静電結合式近接電界アンテナ25に、無線タグから発生する電磁波の1/4波長の整数倍となる長さの導線27を接続している。
【0062】
これにより、導線27を接続しない静電結合式近接電界アンテナ25よりも、導線27を接続した静電結合式近接電界アンテナ25を接着した小電力無線装置から送信される電磁波の方が効率的に空間に輻射されるので、空間を伝搬した電磁波が受信機1まで到達するときの到達距離を伸ばすことができる。
【0063】
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態に係る動作原理を図3の小電力無線装置概念図を用いて説明する。
【0064】
図3に示すタグ内蔵の電界型アンテナからは、電磁界のうちの電界成分が支配的な輻射がまず行われる。それが、タグ外部の静電結合方式近接アンテナ25へ、静電結合により結合され、ここから電磁界成分として空間へエネルギー輻射される。さらにこのエネルギー輻射された電磁波のうちの磁界成分が、近接磁界アンテナ9へ結合し、磁界成分として空間へ再輻射される。
【0065】
図9に本発明の第6の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す。
【0066】
図9(a)にはアンテナシール55が貼り付けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、図9(c)には前記小電力無線装置のアンテナシール29が貼り付けられた背面図を示し、図9(b)には図9(a)、(b)に示す無線タグ7、アンテナシール29およびアンテナシール55とをG−G線で切断した場合の断面図を示す。
【0067】
図9(b)に示すように、無線タグ7は、集積回路素子を含む電子回路基板7a、アンテナ7b及び電池7cを備え、電子回路基板7a上に設けられた集積回路素子により所定の信号処理を行い、基本波を定期的に発振してIDコードを変調した電磁波をアンテナを介して送信する。アンテナシール29は、片面が無線タグ7のケースに接着面を介して接着するプラスチックの樹脂からなるシール層31と、シール層31の他面に接着させるプラスチックの樹脂からなるラミネート層33と、シール層31とラミネート層33との間に収納された平板状の静電結合式近接電界アンテナ25を備えている。
【0068】
アンテナシール55は、片面が無線タグ7のケースに接着面を介して接着するプラスチックの樹脂からなるシール層56と、シール層56の他面に接着させるプラスチックの樹脂からなるラミネート層57と、シール層56とラミネート層57との間に収納された近接磁界アンテナ9を備えている。
【0069】
図10には、図9に示す近接磁界アンテナ9の構造を示している。
【0070】
近接磁界アンテナ9は、無線タグ7から送信される電磁波の波長に対して、全周が0.5波長以下の円形状、又は正方形状の導体54の両端にコンデンサ53を接続した閉ループからなっている。この構造により近接磁界アンテナ9は送信された電磁波と共振し、共振時に導体54とコンデンサ53とがなす閉ループのインピーダンスが非常に低い値(一般的には0.数Ω)となるので、大きな高周波電流が誘起され、この高周波電流により、近傍界に強力な磁界が発生することで効率良い輻射が行われる。
【0071】
図9に示すように、無線タグ7に静電結合式近接電界アンテナ25及び近接磁界アンテナ9を備えた場合には、さらに効率良い輻射が行われる。
【0072】
タグ内蔵の電界型アンテナからは、電磁界のうちの電界成分が支配的な輻射がまず行われる。それが、タグ外部の静電結合方式近接アンテナ25へ、静電結合により結合され、ここから電磁界成分として空間へエネルギー輻射される。さらにこのエネルギー輻射された電磁波のうちの磁界成分が、近接磁界アンテナ9へ結合し、磁界成分として空間へ再輻射される。この時、すなわち、共振時に導体54とコンデンサ53とがなす閉ループのインピーダンスが非常に低い値(一般的には0.数Ω)となるので、大きな高周波電流が誘起され、この高周波電流により近傍界に効率良い輻射が行われる。
【0073】
また、近接磁界アンテナ9のインピーダンスが極めて低くなるので、一般的な動作インピーダンスが高い電界型のアンテナのみを使用する場合に比べ、近接する物体や人体などによりインピーダンスが乱されにくい特長がある。そのため、小電力無線装置を装着する物体や人体の影響によって送信される電磁波が弱められるのを防止することができる。
【0074】
これにより、1つのタグにもかかわらず、電界結合方式近接電界アンテナからのハイインピーダンスでの電界輻射と、磁界結合方式近接磁界アンテナからのローインピーダンスでの磁界輻射の2つのモードで電界輻射がなされる。
【0075】
この結果、従来のように無線タグ7単体を用いる場合よりも、静電結合式近接電界アンテナ25及び近接磁界アンテナ9を備えた小電力無線装置から送信される電磁波の方が無線タグを物体や人体へ装着した状態でも効率的に空間に輻射されるので、空間を伝搬した電磁波が受信機1まで到達するときの到達距離を伸ばすことができる。
【0076】
ここで、図9に示す近接磁界アンテナ9の定量的な数値例を説明する。いま、無線タグ7に近接した導体のサイズについて、Nをループ状導体のターン数(回)、Wを導体の1辺の長さ(m)(形状が正方形の場合を仮定)、aを導体の半径(m)(導体が線状と仮定)、μsを比透磁率とすると、このインダクタンスは以下の数式で定義される。
【数9】

【0077】
この数式に実際のシステムに適用する各種無線タグサイズを考慮して、適切な値を代入して導体サイズと、コンデンサの容量値を決定すればよい。
【0078】
例えば、L=約40(nH)となるサイズの導体構造とした場合には、C=約7(PF)のコンデンサを接続すれば、
【数10】

【0079】
の関係により無線タグの動作周波数を約300MHzと仮定すれば、この電磁波を効率良く2次輻射できる。
【0080】
(実験結果)
図12に示す図を参照して、上述した第1乃至第6の実施の形態に係る小電力無線装置の電解強度について説明する。
【0081】
テスト1は、従来のように無線タグのみに関する実験結果であり、テスト2は第1乃至第5の実施の形態に係る小電力無線装置、すなわち、静電結合式近接電界アンテナを無線タグに近接した小電力無線装置に関する実験結果であり、テスト3は第6の実施の形態に係る小電力無線装置、すなわち、静電結合式近接電界アンテナ及び近接磁界アンテナを無線タグに近接した小電力無線装置に関する実験結果である。
【0082】
本実験は、図12に示すとおり、テスト1では無線タグを、テスト2乃至テスト3においては小電力無線装置を人体に装着し、無線タグ又は小電力無線装置から3m離れた場所での電界強度を測定することによって、本発明の効果を確認することを目的としている。
【0083】
実験結果は図12に示すように、テスト1の場合の電界強度測定結果は約200μV/m、テスト2の場合の電界強度測定結果は約300μV/m、テスト3の場合の電界強度測定結果は約400μV/mとなり、本発明により、静電結合式近接電界アンテナを無線タグに近接した小電力無線装置の電界強度は無線タグのみの電界強度の約1.5倍、静電結合式近接電界アンテナ及び近接磁界アンテナを無線タグに近接した小電力無線装置の電界強度は無線タグのみの電界強度の約2倍に向上することが検証できた。
【0084】
(発明の効果)
本発明によれば、電磁波の送信電力が規制されている無線タグを物体や人体といった、電磁波を吸収し弱めてしまうものへ装着した場合でも、無線タグから輻射される電磁波が近接された静電結合式近接電界アンテナ及び/又は近接磁界アンテナにより効率良く空間へ2次輻射されるので、その受信可能距離は無線タグのみを自由空間に置いたような理想的な場合に近い性能を維持することができる。
【0085】
しかも、近接磁界アンテナはその動作インピーダンスが極めて低く小型であるため、直近周囲の物体や人体によりインピーダンスが乱されたり、アンテナ上の分布電流が乱されにくい。従って、近接磁界アンテナが無線タグとともに一体になって物体や人体に装着されても、その性能が劣化しにくく、特に、人体に装着した場合など、人が手で触れたり、ポケットへ入れたりしても、その影響を受けにくいという利点もある。
【0086】
また、非常に小型の静電結合式近接電界アンテナ又は/及び近接磁界アンテナを無線タグに近接する場合、無線タグの内部回路と物理的あるいは電気的に接続することがなく、単純に無線タグの直近に置くだけでよいため、非常に簡単に本発明の小電力無線装置を実現することができ、しかも、対象とする無線タグの形状、サイズ、製造メーカー、種類などを問わず、様々な対象に対して適用が可能である。
【0087】
しかも、静電結合式近接電界アンテナの構成要素は導体のみであり、近接磁界アンテナの構成要素についても導体とコンデンサのみであり、能動部品を必要としないため、原理的には機器寿命は無限長であり、極めて信頼性が高く、しかも安価で経済性にも優れている。
【0088】
この静電結合式近接電界アンテナ及び/又は近接磁界アンテナを薄い銅箔などの導体で形成し、全体をシード状に薄く、コンパクトに製作することで、簡単に無線タグ本体ケースの表面などへ取り付けることができる。これより短時間で容易に加工でき、出来上がりも極めて単純である。
【0089】
更に、この静電結合式近接電界アンテナ及び/又は近接磁界アンテナを一般に広く使用されているカードケース、或いは名札ケースの表面や、内面に取り付ければ、このケースに様々なタイプ(ただし電磁界ループアンテナと共振周波数が一致していることが条件)の無線タグを入れるだけで、極めて簡単に、装着物体の影響によって電磁波の到達距離が低下しにくい、無線タグシステムを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る動作原理を示す。
【図2】本発明の第5の実施形態に係る動作原理を示す。
【図3】本発明の第6の実施形態に係る動作原理を示す。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す図であり、(a)は受信機1を示し、(b)はアンテナシール29が貼り付けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、(c)は(b)に示す無線タグ7とアンテナシール29との断面図を示す。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す図であり、(a)はアンテナシール35が貼り付けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、(b)は無線タグ7とアンテナシール21との断面図を示す。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す図であり、 (a)はアンテナ部41が設けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、(b)は無線タグ7とアンテナ部41との断面図を示す。
【図7】図6に示すアンテナ部41の製造方法のフローチャートを示す。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す図であり、(a)はアンテナカード47が挿入されたカードケース45を示し、(b)はアンテナカード47とカードケース45との断面図を示し、(c)はアンテナカード47と無線タグ7とがともにカードケース45に挿入されたことを示し、(d)はアンテナカード47と無線タグ7との断面図を示す。
【図9】本発明の第6の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す図であり、(a)にはアンテナシール55が貼り付けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、図9(c)には前記小電力無線装置のアンテナシール29が貼り付けられた背面図を示し、図9(b)には図9(a)、(b)に示す無線タグ7、アンテナシール29およびアンテナシール55とをG−G線で切断した場合の断面図を示す。
【図10】本発明の第6の実施の形態に係る近接磁界アンテナ9の構造を示す。
【図11】ある空間の原点にある長さlの電気ダイポールから距離rだけ離れた場所Pにおける電荷量をq(t) (tは時刻) とした場合の電界、磁界の各成分を示す。
【図12】小電力無線装置の形態と人体に小電力無線装置を装着した場合の小電力無線装置から3m離れた地点における電解強度との関係を示す。
【図13】従来の無線タグシステムであり、(a)は受信機1を示し、(b)は人体に装着された無線タグを示し、(c)は無線タグが挿入された名札ケースを示す。
【符号の説明】
【0091】
1 受信機
7 無線タグ
25 静電結合式近接電界アンテナ
29,35 アンテナシール
41 アンテナ部
45 カードケース
47 アンテナカード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を送信するアンテナを内蔵した無線タグに近接し、当該アンテナの一方の面に対向するように設置された静電結合式近接電界アンテナを有し、
前記無線タグから電界成分が支配的な輻射がなされ、この輻射により前記静電結合方式近接アンテナへ静電結合によりエネルギー結合され電磁界成分として空間へエネルギー輻射さることを特徴とする小電力無線装置。
【請求項2】
前記静電結合式近接電界アンテナは、
前記無線タグに内蔵したアンテナの一方の面に対向するように設置された平板状の導体で形成されることを特徴とする請求項1記載の小電力無線装置。
【請求項3】
前記静電結合式近接電界アンテナは、
前記導体の面に対して、樹脂からなる1対の薄シールを両面から貼り付けてなる多層シールに収納されることを特徴とする請求項2記載の小電力無線装置。
【請求項4】
前記静電結合式近接電界アンテナは、
前記無線タグを収納したケースの一側面に導体を接続してなり、この導体の面に対して、樹脂からなる薄シールを貼り付けて収納されることを特徴とする請求項2記載の小電力無線装置。
【請求項5】
前記静電結合式近接電界アンテナは、
前記導体の面に対して、樹脂液を塗布して収納されることを特徴とする請求項2記載の小電力無線装置。
【請求項6】
前記無線タグを収納するとともに、
前記静電結合式近接電界アンテナを収納した多層シールからなるカードを収納するカードケースからなることを特徴とする請求項3記載の小電力無線装置。
【請求項7】
電磁波を送信するアンテナを内蔵した無線タグに近接し、当該アンテナの一方の面に対向するように設置された静電結合式近接電界アンテナを有し、
前記静電結合式近接電界アンテナは、
平板状の導体で形成され、
前記無線タグから電界成分が支配的な輻射がなされ、この輻射により前記静電結合方式近接アンテナへ静電結合によりエネルギー結合され電磁界成分として空間へエネルギー輻射さることを特徴とする小電力無線装置。
【請求項8】
前記静電結合式近接電界アンテナは、
前記無線タグに内蔵したアンテナと対向するように設置された平板状の導体で形成され、前記無線タグから発生する電磁波の1/4波長の整数倍となる長さの導線を有していることを特徴とする請求項1記載の小電力無線装置。
【請求項9】
電磁波を送信するアンテナを内蔵した無線タグに近接し、当該アンテナに対向するように設置された静電結合式近接電界アンテナを有し、
前記無線タグに近接し、当該無線タグから送信された電磁波の周波数に共振する近接磁界アンテナを有し、
前記無線タグから電界成分が支配的な輻射がなされ、この輻射により前記静電結合方式近接アンテナへ静電結合によりエネルギー結合され電磁界成分として空間へエネルギー輻射され、このエネルギー輻射された電磁波のうちの磁界成分が近接磁界アンテナへ結合し磁界成分として空間へ2次輻射されることを特徴とする小電力無線装置。
【請求項10】
前記近接磁界アンテナは、
前記無線タグから送信された電磁波の波長に対して、全周が0.5波長以下の導体の両端にコンデンサを接続してなる閉ループから形成されることを特徴とする請求項9記載の小電力無線装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−174582(P2007−174582A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373029(P2005−373029)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【Fターム(参考)】