説明

近赤外線吸収性粘着剤およびその用途

【課題】可視光線領域における透過率を高く維持することができ、且つ耐久性能に優れた近赤外線吸収性粘着剤およびその用途を提供する。
【解決手段】近赤外線吸収性粘着剤は、粘着樹脂組成物と近赤外線吸収色素として下記一般式(1)で表されるジイモニウム塩化合物とを含む粘着剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプラズマディスプレイパネル等の電子ディスプレイパネルから発生する近赤外線を遮蔽するためのフィルムに利用される近赤外線吸収性粘着剤およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化社会において、電子ディスプレイ等の光エレクトロニクス機器はテレビジョンやパーソナルコンピュータのモニター用等として著しい進歩を遂げ、広く普及している。中でもプラズマディスプレイパネル(以下、PDPと称す)は電子ディスプレイパネルの大型化や薄型化に伴って注目を浴びているが、動作原理上発せられる近赤外線によってリモートコントロール機器等の周辺機器の誤動作を招くといった問題がある。また、薄型化や軽量化のためには種々の機能の複合化や部材点数の削減をしなければならないという問題もある。
【0003】
これらの問題を解決するために、PDPの光学フィルタに用いられる近赤外線吸収層と粘着機能層とを複合化した光学フィルタが提案されている(特許文献1を参照)。ところが、特許文献1では近赤外線吸収色素としてフタロシアニン化合物を複数種使用しているため、該化合物が有する可視光線領域の吸収により可視光線領域の透過率が低下してしまい、その後の色補正が困難になるという問題があった。
【0004】
そこで、近赤外線吸収色素としてジイモニウム塩化合物と粘着機能層とを複合化した光学フィルタが提案されている(特許文献2を参照)。ところが、特許文献2で用いられているジイモニウム塩化合物は粘着層中で溶解状態にあり、安定的に耐久性能を発現することができず、経時的に近赤外線吸収能が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開公報WO2006/090705号公報(第2頁および第13頁)
【特許文献2】特開2008−120924号公報(第2頁および第18頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的とするところは、可視光線領域における透過率を高く維持することができ、且つ耐久性能に優れた近赤外線吸収性粘着剤およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、第1の発明の近赤外線吸収性粘着剤は、粘着樹脂組成物と近赤外線吸収色素として下記一般式(1)で表されるジイモニウム塩化合物とを含む近赤外線吸収性粘着剤であって、前記ジイモニウム塩化合物は平均粒子径が0.001〜0.1μmの微粒子分散状態で前記粘着樹脂組成物中に存在し、前記ジイモニウム塩化合物は前記粘着樹脂組成物100質量部に対して0.5〜3.0質量部含有されているものである。
【0008】
【化1】

一般式(1)において、Xは電荷を中和させるために必要な陰イオンであり、R〜Rの少なくとも一つはアルキル基、環状アルキル基、環状アルキル基を有するアルキレン基、またはアルコキシ基を有するアルキレン基であり、それぞれ同一であっても異なっていても良く、置換基を有していても良い。
【0009】
第2の発明の近赤外線遮蔽フィルムは、第1の発明の近赤外線吸収性粘着剤を透明基材の一方の面に施してなるものである。
第3の発明のディスプレイ用近赤外線遮蔽体は、第2の発明の近赤外線遮蔽フィルムを基材に貼り合わせてなるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の近赤外線吸収性粘着剤によれば、次のような効果を発揮することができる。
・ 近赤外線領域の透過率を十分に制御した場合であっても、可視光線領域における透過率を色補正するに十分な程度に高く維持することができる。
【0011】
・ 経時的な近赤外線吸収色素の劣化を抑制し、近赤外線吸収能を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の近赤外線吸収性粘着剤は、粘着樹脂組成物と前記一般式(1)で表される近赤外線吸収色素とを含有する粘着剤である。そして、この近赤外線吸収性粘着剤の用途として、近赤外線吸収性粘着剤が透明基材の一方の面に施されて粘着層が設けられ、近赤外線遮蔽フィルムが形成される。さらに、該近赤外線遮蔽フィルムが基材に貼り合わされて近赤外線遮蔽体が得られる。次に、これらの近赤外線吸収性粘着剤、近赤外線遮蔽フィルム及び近赤外線遮蔽体の構成要素について順に説明する。
<粘着樹脂組成物>
本実施形態における粘着樹脂組成物は特に限定されないが、被着体との接着力の観点から(メタ)アクリル系樹脂を主成分とする(メタ)アクリル系粘着樹脂組成物が好ましい。(メタ)アクリル系樹脂としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸とを重合した重合体等を用いることができる。(メタ)アクリル系樹脂を形成する単量体は特に制限されず、従来公知の単量体を用いることができる。
【0013】
粘着樹脂組成物には架橋剤が含まれていることが好ましい。この架橋剤は特に限定されないが、例えばイソシアネート系架橋剤等が好適に用いられる。粘着樹脂組成物には本実施形態の機能を損なわない限りにおいて、その他の添加剤が添加されていても良い。その他の添加剤としては、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられるが、これらに制限されない。また、その他の添加剤は従来公知の化合物を用いることができる。
<近赤外線吸収色素>
本実施形態における近赤外線吸収色素は下記一般式(1)で表されるジイモニウム塩化合物である。
【0014】
【化2】

一般式(1)において、Xは電荷を中和させるために必要な陰イオンである。陰イオンの中では、フッ化金属酸とアルキルスルホニルイミド酸が耐熱性能を向上させることができるため好ましい。フッ化金属酸としては、例えばヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン等が挙げられるが、これらの中ではヘキサフルオロリン酸イオンが耐熱性能と耐湿熱性能を最も向上させることができるため好ましい。一方、アルキルスルホニルイミド酸の具体例としては、例えばビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸イオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸イオン等が挙げられるが、これらの中ではビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸イオンが耐熱性能と耐湿熱性能を最も向上させることができるため好ましい。
【0015】
〜Rの少なくとも一つはアルキル基、環状アルキル基、環状アルキル基を有するアルキレン基、またはアルコキシ基を有するアルキレン基であり、それぞれ同一であっても異なっていても良く、置換基を有していても良い。これらの中では、環状アルキル基を有するアルキレン基とアルコキシ基を有するアルキレン基が耐熱性能を向上させることができる点と微粒子分散状態を形成しやすい点で好ましい。環状アルキル基を有するアルキレン基としては、例えばシクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、ベンジル基、フェニルプロピル基等が挙げられるが、これらの中では入手容易性の観点からシクロヘキシルエチル基が好ましい。一方、アルコキシ基を有するアルキレン基としては、例えばメトキシメチル基、エトキシメチル基、n−プロピルオキシメチル基、イソプロピルオキシメチル基、イソプロピルオキシエチル基、sec−ブトキシメチル基、tert−ブトキシメチル基等が挙げられるが、これらの中では合成の容易性と耐熱性能の観点からイソプロピルオキシメチル基、イソプロピルオキシエチル基が好ましい。
【0016】
本実施形態におけるジイモニウム塩化合物としては、ビス(フッ化金属酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(シクロアルキル)アルキルアミノフェニル]−p−フェニレンジアミンとビス(アルキルスルホニルイミド酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(シクロアルキル)アルキルアミノフェニル]−p−フェニレンジアミンが合成の容易性や耐久性能を高めることができる点で好ましい。ビス(フッ化金属酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(シクロアルキル)アルキルアミノフェニル]−p−フェニレンジアミンの具体例としては、例えばビス(ヘキサフルオロアンチモン酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(シクロヘキシルエチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン、ビス(ヘキサフルオロリン酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(シクロヘキシルエチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン、ビス(ヘキサフルオロリン酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(イソプロピルオキシメチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン、ビス(ヘキサフルオロリン酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(イソプロピルオキシメチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン、ビス(ヘキサフルオロリン酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(イソプロピルオキシエチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン、ビス(ヘキサフルオロアンチモン酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(シクロヘキシルエチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン、ビス(ヘキサフルオロアンチモン酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(イソプロピルオキシエチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン等が挙げられる。これらの中ではビス(ヘキサフルオロリン酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(シクロヘキシルエチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミンが耐久性能を最も高めることができるため好ましい。
【0017】
一方、ビス(アルキルスルホニルイミド酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(シクロアルキル)アルキルアミノフェニル]−p−フェニレンジアミンの具体例としては、例えばビス[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸]−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(シクロヘキシルエチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン、ビス[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸]−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(イソプロピルオキシメチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン、ビス[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸]−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(イソプロピルオキシエチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン等が挙げられる。これらの中ではビス[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸]−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(イソプロピルオキシエチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミンが耐久性能を最も向上させることができるため好ましい。
<近赤外線吸収性粘着剤>
本実施形態においてはジイモニウム塩化合物を粘着樹脂組成物中において微粒子分散状態で存在させる。このジイモニウム塩化合物は、平均粒子径が0.001〜0.1μmの微粒子分散状態で存在し、平均粒子径が0.005〜0.030μmの微粒子分散状態で存在することが好ましい。平均粒子径が0.1μmを超えると光の散乱により白ボケを生ずるため不適当であり、平均粒子径が0.001μm未満であると溶解により耐久性能を十分に発現することができないという弊害がある。尚、ここでの平均粒子径とは、nanotracUPA−EX150〔日機装(株)製の粒度分布測定機〕を用いて動的光散乱理論/周波数マトリックス解析法(FFT法)により測定した値のことをいう。
【0018】
ジイモニウム塩化合物の分散方法は特に限定されず、従来公知の分散方法を用いることができる。例えば、有機溶剤にジイモニウム塩化合物を少量ずつ撹拌しながら添加してゆき、ガラスビーズを加えてペイントシェイカーで物理的に粉砕する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0019】
ジイモニウム塩化合物の含有量は、前記粘着樹脂組成物100質量部に対して0.5〜3.0質量部である。該近赤外線吸収色素の含有量が0.5〜3.0質量部であれば実用上近赤外線吸収能と可視光線の透過率が十分な近赤外線吸収性粘着剤を得ることができる。近赤外線吸収色素の含有量が0.5質量部より少ない場合には近赤外線吸収能を十分に発揮することができないため不適当であり、含有量が3.0質量部より多い場合には近赤外線吸収性粘着剤の粘着性能が低下する等の傾向を示すという弊害がある。
<近赤外線遮蔽フィルム>
近赤外線遮蔽フィルムは、前述の近赤外線吸収性粘着剤を透明基材の一方の面に施し粘着層を形成してなるものである。透明基材としては透明であれば特に制限されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム等の透明樹脂フィルムや、透明樹脂フィルム上にハードコート層、導電性ハードコート層、防汚層、耐指紋性層、反射防止層、アンチグレア(防眩)層、透明導電層、書味向上性層、接着性改良層、屈折率調整層等の機能層が設けられた透明樹脂フィルム等、様々なものを用いることができる。これにより、近赤外線遮蔽フィルムは近赤外線吸収性能に加えて、様々な機能を発揮することが可能になる。
【0020】
近赤外線吸収性粘着剤を透明基材上に施す方法としてはウェットコート法であれば特に制限されず、例えばグラビアコート法、スピンコート法、ダイコート法等の従来公知の塗工方法を採用することができる。
<ディスプレイ用近赤外線遮蔽体>
ディスプレイ用近赤外線遮蔽体は、上記近赤外線遮蔽フィルムの粘着層側を基材に貼り合わせてなるものである。基材としては透明な材料が用いられ、その具体例としてはガラス等が挙げられる。ディスプレイとしては、プラズマディスプレイ等の電子ディスプレイが挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。
近赤外線吸収色素の平均粒子径は、nanotracUPA−EX150〔日機装(株)製の粒度分布測定機〕を用いて動的光散乱理論/周波数マトリックス解析法(FFT法)により測定した。
【0022】
各例においては、光の波長830nm、850nm及び950nmにおける近赤外線の透過率がいずれも15%以下となるように設計を行った。透過率はUV−1600PC〔(株)島津製作所製分光光度計の製品名〕を用いて測定し、可視光線平均透過率Y、透過色度x、透過色度yは、SQ2000〔日本電色工業(株)製色差計の製品名〕を用い、「JIS Z8722」及び「JIS Z8729」に準拠して測定した。なお、光源はC光源、2°視野を用いた。
【0023】
可視光線平均透過率Yの評価は、Y値が80以上の場合には◎、70以上80未満の場合には○、60以上70未満の場合には△、60未満の場合には×と評価した。
耐久性能の評価は、実施例及び比較例で得られた近赤外線遮蔽体を温度80℃、温度60℃且つ相対湿度(RH)95%の条件下にそれぞれ500時間放置した後の可視光線平均透過率Y、透過色度x、透過色度y、波長830nm、850nm、及び950nmにおける透過率の変化量が、いずれも1.5%未満の場合には◎、いずれか一つでも1.5%以上3%未満の場合には○、いずれか一つでも3%以上5%未満の場合には△、いずれか一つでも5%以上の場合には×と評価した。
(実施例1:近赤外線吸収性粘着剤の製造例)
(実施例1−1)
n−ブチルアクリレート95.5質量部、アクリル酸4.5質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート1質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.4質量部、酢酸エチル90質量部、トルエン60質量部を混合し、窒素雰囲気下で混合物を65℃に加温して10時間重合反応を行い、アクリル樹脂組成物を調製した。このアクリル樹脂組成物にコロネートL〔日本ポリウレタン(株)製ポリイソシアネート〕1質量部、および固形分濃度が20質量%となるように酢酸エチルを加えることにより、粘着樹脂組成物Aの固形分濃度20質量%溶液を得た。
【0024】
次に、ガラス容器にビス[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸]−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(イソプロピルオキシエチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン(一般式(1)におけるR〜Rは全てイソプロピルオキシエチル)(これを色素Aと称す)0.2質量部、トルエン3.8質量部、および粒径0.8mmのガラスビーズをそれぞれ加えてペイントシェイカーで3時間撹拌振とうした後、ガラスビーズを濾別して、微粒子分散液A(固形分濃度5質量%、平均粒子径0.015μm)を得た。
【0025】
続いて、粘着樹脂組成物Aの固形分濃度20質量%溶液500質量部に上記微粒子分散液A26質量部(固形分換算1.3質量部)を加えて撹拌混合することにより、実施例1−1の近赤外線吸収性粘着剤Aを得た。
(実施例1−2)
n−ブチルアクリレート95.4質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.6質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部、酢酸エチル90質量部、トルエン60質量部を混合し、窒素雰囲気下で混合物を65℃に加温して14時間重合反応を行い、アクリル樹脂組成物を調製した。このアクリル樹脂組成物にBHS8515〔東洋インキ製造(株)製ポリイソシアネート〕1質量部、および固形分濃度が20質量%となるように酢酸エチルを加えることにより、粘着樹脂組成物Bの固形分濃度20質量%溶液を得た。
【0026】
次に、ガラス容器にビス(ヘキサフルオロリン酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(シクロヘキシルエチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン(一般式(1)におけるR〜Rは全てシクロヘキシルエチル)(これを色素Bと称す)0.2質量部、トルエン3.8質量部、および粒径0.8mmのガラスビーズをそれぞれ加えてペイントシェイカーで4時間撹拌振とうした後、ガラスビーズを濾別して、微粒子分散液B(固形分濃度5質量%、平均粒子径0.010μm)を得た。
【0027】
続いて、粘着樹脂組成物Bの固形分濃度20質量%溶液500質量部に上記微粒子分散液B26質量部(固形分換算1.3質量部)を加えて撹拌混合することにより、実施例1−2の近赤外線吸収性粘着剤Bを得た。
(実施例1−3)
実施例1−2において、近赤外線吸収色素としてビス(ヘキサフルオロアンチモン酸)−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(シクロヘキシルエチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン(一般式(1)におけるR〜Rは全てシクロヘキシルエチル)(これを色素Cと称す)0.2質量部を用いた以外は実施例1−2と同様にして粘着樹脂組成物Cを得、さらに実施例1−3の近赤外線吸収粘着剤Cを得た。なお、色素Cの平均粒子径、微粒子分散液Cの固形分濃度等は実施例1−2と同じであった。
(比較例1−1)
実施例1−1で使用した粘着樹脂組成物Aの固形分濃度20質量%溶液500質量部に、近赤外線吸収色素としてIR−14〔(株)日本触媒製フタロシアニン化合物〕0.3質量部、TXEX820〔(株)日本触媒製フタロシアニン化合物〕0.55質量部、TXEX915〔(株)日本触媒製フタロシアニン化合物〕0.58質量部を加えて撹拌混合することにより、比較例1−1の近赤外線吸収性粘着剤Dを得た。
(比較例1−2)
比較例1−1において、近赤外線吸収色素としてCIR−1085〔日本カーリット(株)製ジイモニウム塩化合物:ビス[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸]−N,N,N’,N’−テトラキス[p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル]−p−フェニレンジアミン(一般式(1)におけるR〜Rは全てn−ブチル)〕1.3質量部を溶解させて用いた以外は比較例1−1と同様にして、比較例1−2の近赤外線吸収性粘着剤Eを得た。
(比較例1−3)
比較例1−1において、近赤外線吸収色素として実施例1−1で使用したジイモニウム塩化合物を溶解させて用いた以外は比較例1−1と同様にして、比較例1−3の近赤外線吸収性粘着剤Fを得た。
(実施例2:近赤外線遮蔽フィルムの製造例)
(実施例2−1)
実施例1−1で製造した近赤外線吸収性粘着剤AをPET製のセパレートフィルム上に乾燥後の厚みが25μmとなるようにオートアプリケーターを用いて塗布し、90℃で2分間乾燥した。リアルック7800〔日油(株)製反射防止フィルム、PETフィルムの片面に反射防止層を形成したもの〕に貼合して30℃で5日間保存することにより、実施例2−1の近赤外線遮蔽フィルムAを得た。
(実施例2−2)
実施例2−1において、近赤外線吸収性粘着剤として実施例1−2で製造した近赤外線吸収性粘着剤Bを用いた以外は実施例2−1と同様にして、実施例2−2の近赤外線遮蔽フィルムBを得た。
(実施例2−3)
実施例2−1において、近赤外線吸収性粘着剤として実施例1−3で製造した近赤外線吸収性粘着剤Cを用いた以外は実施例2−1と同様にして、実施例2−3の近赤外線遮蔽フィルムCを得た。
(比較例2−1)
実施例2−1において、近赤外線吸収性粘着剤として比較例1−1で製造した近赤外線吸収性粘着剤Dを用いた以外は実施例2−1と同様にして、比較例2−1の近赤外線遮蔽フィルムDを得た。
(比較例2−2)
実施例2−1において、近赤外線吸収性粘着剤として比較例1−2で製造した近赤外線吸収性粘着剤Eを用いた以外は実施例2−1と同様にして、比較例2−2の近赤外線遮蔽フィルムEを得た。
(比較例2−3)
実施例2−1において、近赤外線吸収性粘着剤として比較例1−3で製造した近赤外線吸収性粘着剤Fを用いた以外は実施例2−1と同様にして、比較例2−3の近赤外線遮蔽フィルムFを得た。
(実施例3:近赤外線遮蔽体の製造例)
(実施例3−1)
実施例2−1で製造した近赤外線遮蔽フィルムAのセパレートフィルムを剥離してガラスに貼合することにより、実施例3−1のディスプレイ用近赤外線遮蔽体Aを得た。
(実施例3−2)
実施例3−1において、近赤外線遮蔽フィルムとして実施例2−2で製造した近赤外線遮蔽フィルムBを用いた以外は実施例3−1と同様にして、実施例3−2のディスプレイ用近赤外線遮蔽体Bを得た。
(実施例3−3)
実施例3−1において、近赤外線遮蔽フィルムとして実施例2−3で製造した近赤外線遮蔽フィルムCを用いた以外は実施例3−1と同様にして、実施例3−3のディスプレイ用近赤外線遮蔽体Cを得た。
(比較例3−1)
実施例3−1において、近赤外線遮蔽フィルムとして比較例2−1で製造した近赤外線遮蔽フィルムDを用いた以外は実施例3−1と同様にして、比較例3−1の近赤外線遮蔽体Dを得た。
(比較例3−2)
実施例3−1において、近赤外線遮蔽フィルムとして比較例2−2で製造した近赤外線遮蔽フィルムEを用いた以外は実施例3−1と同様にして、比較例3−2の近赤外線遮蔽体Eを得た。
(比較例3−3)
実施例3−1において、近赤外線遮蔽フィルムとして比較例2−3で製造した近赤外線遮蔽フィルムFを用いた以外は実施例3−1と同様にして、比較例3−3の近赤外線遮蔽体Fを得た。
【0028】
得られた近赤外線遮蔽体の評価結果を表1に示した。
【0029】
【表1】

表1に示した結果より、本発明の実施例3−1、3−2、3−3のディスプレイ用近赤外線遮蔽体A、B、Cは、近赤外線吸収色素として前記一般式(1)に示すジイモニウム塩化合物を使用しているため可視光線平均透過率を高く設計することができ、且つ当該色素を微粒子分散状態で用いているため耐久性能も良好であった。中でも実施例3−1および3−2の近赤外線遮蔽体AおよびBは、ジイモニウム塩化合物の陰イオンとしてトリフルオロメタンスルホニルイミドまたはヘキサフルオロリン酸イオンを使用しているため耐湿熱性にも優れていた。
【0030】
一方、比較例3−1〜3−3の近赤外線遮蔽体D〜Fについては、比較例3−1の近赤外線遮蔽体Dでは近赤外線吸収色素としてフタロシアニン化合物を使用しているため可視光線平均透過率を高く設計することができなかった。また、比較例3−2の近赤外線遮蔽体Eでは、従来のジイモニウム塩化合物を使用しているため耐久性能が不十分であった。さらに、比較例3−3の近赤外線遮蔽体Fでは、ジイモニウム塩化合物を微粒子分散状態で使用していないため同じく耐久性能が不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着樹脂組成物と近赤外線吸収色素として下記一般式(1)で表されるジイモニウム塩化合物とを含む近赤外線吸収性粘着剤であって、前記ジイモニウム塩化合物は平均粒子径が0.001〜0.1μmの微粒子分散状態で前記粘着樹脂組成物中に存在し、前記ジイモニウム塩化合物は前記粘着樹脂組成物100質量部に対して0.5〜3.0質量部含有されている近赤外線吸収性粘着剤。
【化1】

一般式(1)において、Xは電荷を中和させるために必要な陰イオンであり、R〜Rの少なくとも一つはアルキル基、環状アルキル基、環状アルキル基を有するアルキレン基、またはアルコキシ基を有するアルキレン基であり、それぞれ同一であっても異なっていても良く、置換基を有していても良い。
【請求項2】
請求項1に記載の近赤外線吸収性粘着剤を透明基材の一方の面に施してなる近赤外線遮蔽フィルム。
【請求項3】
請求項2に記載の近赤外線遮蔽フィルムを基材に貼り合わせてなるディスプレイ用近赤外線遮蔽体。

【公開番号】特開2011−127098(P2011−127098A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254474(P2010−254474)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】