説明

近赤外線吸収粘着剤及びその製造方法並びに近赤外線吸収シート

【課題】耐湿熱性に優れるとともに、近赤外線の吸収効果を長期間保持することが可能であり、しかも構成が簡単な近赤外線吸収粘着剤及びその製造方法並びに近赤外線吸収シートを提供する。
【解決手段】本発明の近赤外線吸収粘着剤は、820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光を選択して吸収する近赤外線吸収色素と、粘着剤樹脂と、有機溶媒とを含有し、近赤外線吸収色素として、820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域に互いに異なる極大吸収波長を有する複数種のフタロシアニン系色素を用いたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収粘着剤及びその製造方法並びに近赤外線吸収シートに関し、特に、プラズマディスプレイパネル(PDP)の視認側に設けられる光学フィルタの近赤外線吸収材として用いて好適な近赤外線吸収粘着剤及びその製造方法並びに近赤外線吸収シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、設置場所をとらない大画面の平面型ディスプレイ(FPD)としてプラズマディスプレイパネル(PDP)がある。このPDPは、色再現性、応答速度に優れ、自然な階調表示が得られる等の特徴を有する。
このPDPは、2枚のガラス基板間に封入した希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン等)に電圧を印加して放電させ、この放電により発生する紫外線を用いて蛍光体を励起し、赤(R)、青(B)、緑(G)の三原色によるカラー表示を行っている。
ところで、このPDPでは、可視光線を発生させると同時に、近赤外線等の有害な電磁波をも発生させるので、PDPの前面板(視認側)に近赤外線等の有害な電磁波を遮蔽する光学フィルタを設けることで、これらの有害な電磁波を防止している。
【0003】
上記の光学フィルタとしては、800〜1100nmの近赤外線を遮蔽する光学フィルムが提案されている。
この光学フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の透明基板上に、800〜1100nmに極大吸収波長を有するジイモニウム系色素等の近赤外線吸収色素、及びシリコーン系粘着剤を含有する近赤外線吸収性粘着剤組成物を有する光学フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、透明性フィルムまたは剥離性フィルムの一面に、700〜1100nmに極大吸収波長を有するジイモニウム系化合物等の赤外線吸収剤及びアクリル系の粘着性樹脂を含有する赤外線吸収性粘着剤組成物を積層した赤外線吸収シートも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−62506号公報
【特許文献2】特開2001−207142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の光学フィルムでは、近赤外線吸収色素としてジイモニウム系色素を用いているが、耐候性については他の近赤外線吸収色素に比べて劣化し易く、PDP等に装着した場合に、近赤外線の遮蔽効果が低下する虞があるという問題点があった。
また、シリコーン系粘着剤は高価であるから、PDPの製造コストを押し上げてしまうという問題点があった。このように、シリコーン系粘着剤は量産する際にはコスト面で不向きであるから、アクリル系粘着剤のような比較的安価で安定供給可能な粘着剤を用い、しかも同様の性能を有するものが望まれている。
【0005】
一方、従来の赤外線吸収シートでは、アクリル系粘着剤の近赤外線吸収色素としてジイモニウム系化合物を用いているが、このジイモニウム系化合物は、一般的な架橋反応型のアクリル系粘着剤中では耐候性が実用上不十分であるという問題点があった。
また、アクリル系粘着剤は、架橋反応を用いているために、塗料を作製してから使用するまでのポットライフが短く、保存が利かないという問題点があった。
実際の作業では、一度作製した赤外線吸収性粘着剤は保存が利かず、作製した塗料を即日消費しなければならない、等の制限がある。また、赤外線吸収性粘着層を積層した後は、数日から一週間程度の一定の熟成期間が必要である。
【0006】
また、粘着剤を構成するアクリル系樹脂は、多数の架橋反応性基(イソシアネート基、ヒドロキシ基、グリシジル基、カルボキシル基等)を有しており、この架橋反応性基が架橋剤等と反応して硬化するのであるが、この硬化に時間を要するために、赤外線吸収性粘着層を形成した後も架橋反応基が残存していることがある。そのため、赤外線吸収性粘着層中の近赤外線吸収色素、とりわけジイモニウム系化合物が劣化し、得られる赤外線吸収シートの耐久性、特に耐熱性が悪化する虞があるという問題点があった。
また、ジイモニウム系化合物は、PDPモジュール前面やPDPフィルタ前面板に用いられるガラス板に含まれるアルカリ成分からの影響を敏感に受ける。したがって、ジイモニウム系化合物を含む粘着層をPDPフィルタ用のフィルムとガラス板で狭持すると、ジイモニウム系化合物がガラス板に含まれるアルカリ成分により劣化するという問題点があった。この現象は、特に高温高湿の環境下で著しくなる。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、耐湿熱性に優れるとともに、近赤外線の吸収効果を長期間保持することが可能であり、しかも構成が簡単な近赤外線吸収粘着剤及びその製造方法並びに近赤外線吸収シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、近赤外線の波長帯域を広範に吸収可能とするために、近赤外線吸収色素として820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域に極大吸収を有する複数種の色素、特に耐アルカリ性を考慮して複数種のフタロシアニン系色素を用いることにより、耐湿熱性に優れるとともに、近赤外線の吸収効果を長期間保持することが可能であることを見出し、また、820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光を選択して吸収する近赤外線吸収色素を溶媒に溶解する際に近赤外線吸収色素の含有率を0.3重量%以上かつ15重量%以下となるように調整することにより、耐湿熱性に優れ、近赤外線の吸収効果を長期間保持することが可能であり、しかも近赤外線吸収率のばらつきが小さい近赤外線吸収粘着剤が得られることを見出し、さらに、一枚のシート状であることから、構成が簡単で取り扱いも容易であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の近赤外線吸収粘着剤は、820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光を選択して吸収する近赤外線吸収色素と、粘着剤樹脂と、有機溶媒とを含有してなることを特徴とする。
【0010】
前記近赤外線吸収色素は、前記820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域に互いに異なる極大吸収波長を有する複数種の色素からなることが好ましい。
前記色素はフタロシアニン系色素であることが好ましい。
前記粘着剤樹脂はアクリル系粘着剤樹脂であり、このアクリル系粘着剤樹脂中に前記近赤外線吸収色素を分散してなることが好ましい。
また、5μm以上かつ100μm以下の厚みとした場合における前記820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域における光の透過率が20%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の近赤外線吸収粘着剤の製造方法は、820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光を選択して吸収する近赤外線吸収色素を溶媒に溶解して前記近赤外線吸収色素の含有率が0.3重量%以上かつ15重量%以下の溶液となるように調整し、次いで、この溶液に粘着剤樹脂を含む溶液を加えて粘度を50cP以上かつ30000cP以下、不揮発性成分を70重量%以下に調整することを特徴とする。
【0012】
本発明の近赤外線吸収シートは、本発明の近赤外線吸収粘着剤からなる粘着層を透明基材上に形成してなることを特徴とする。
前記粘着層の厚みを5μm以上かつ100μm以下とした場合における820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光の透過率は20%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の近赤外線吸収粘着剤によれば、820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光を選択して吸収する近赤外線吸収色素を含有したので、近赤外線を広範囲に吸収することができ、耐湿熱性を向上させることができる。したがって、近赤外線の吸収効果を長期間持続させることができる。
【0014】
本発明の近赤外線吸収粘着剤の製造方法によれば、820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光を選択して吸収する近赤外線吸収色素を溶媒に溶解して近赤外線吸収色素の含有率が0.3重量%以上かつ15重量%以下の溶液となるように調整するので、近赤外線吸収色素を溶媒中に均一に分散させることができる。
【0015】
また、この溶液に粘着剤樹脂を含む溶液を加えて粘度を50cP以上かつ30000cP以下、不揮発性成分を70重量%以下に調整するので、近赤外線吸収色素及び粘着剤樹脂を均一に分散させることができ、この溶液を用いて得られた粘着層の近赤外線吸収特性を均一化することができる。
したがって、耐湿熱性に優れ、近赤外線の吸収効果の長期間持続性に優れ、しかも近赤外線吸収特性が均一化された近赤外線吸収粘着剤を容易に得ることができる。
【0016】
本発明の近赤外線吸収シートによれば、本発明の近赤外線吸収粘着剤からなる粘着層を透明基材上に形成したので、近赤外線を広範囲に吸収することができ、耐湿熱性を向上させることができる。したがって、近赤外線の遮蔽効果を長期間持続することができる簡単な構成の近赤外線吸収シートを安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の近赤外線吸収粘着剤及びその製造方法並びに近赤外線吸収シートを実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
本発明の近赤外線吸収粘着剤は、近赤外線(NIR: near infrared radiation)の波長帯域である820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光を選択して吸収する近赤外線吸収色素と、粘着剤樹脂と、有機溶媒とを含有してなる近赤外線吸収粘着剤である。
近赤外線吸収色素としては、無機系顔料、有機系顔料、有機系染料等を挙げることができる。
無機系顔料としては、例えば、コバルト系色素、鉄系色素、クロム系色素、チタン系色素、バナジウム系色素、ジルコニウム系色素、モリブデン系色素、ルテニウム系色素、白金系色素、スズ含有酸化インジウム(ITO)系色素、アンチモン含有酸化スズ(ATO)系色素、アルミニウム含有酸化亜鉛(AZO)系色素、アンチモン含有酸化インジウム(AIO)系色素等が挙げられる。
【0019】
有機系顔料あるいは有機系染料としては、例えば、アントラキノン系色素、シアニン系色素、メロシニアン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、アズレン系色素、ポリメチン系色素、ナフトキノン系色素、ピリリウム系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、ナフトラクタム系色素、アゾ系色素、縮合アゾ系色素、インジゴ系色素、ペリノン系色素、ペリレン系色素、ジオキサジン系色素、キナクリドン系色素、イソインドリノン系色素、キノフタロン系色素、ピロール系色素、チオインジゴ系色素、金属錯体系色素、ジチオール系色素、インドールフェノール系色素、トリアリルメタン系色素等が挙げられる。
【0020】
この近赤外線吸収色素としては、820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域に互いに異なる極大吸収波長を有する複数種の色素からなることが好ましく、この色素としては、フタロシアニン系色素が好ましい。
【0021】
上記の粘着剤樹脂としては、近赤外線吸収色素と密着性がよく、かつ粘着性を有するものであれば特に限定する必要はないが、近赤外線吸収色素が分散し易く、しかも、この近赤外線吸収色素の劣化を防止するという観点から、アクリル系粘着剤樹脂、特にアクリル系ブロック共重合体を含む粘着剤樹脂が好ましい。
【0022】
このアクリル系ブロック共重合体の組成としては、2個以上のメタクリル酸メチル重合体ブロックと、1個以上のアクリル酸ブチル重合体ブロックを含有したもので、これら2種類の重合体ブロックの割合は、これら2種類の重合体ブロックの全体量を100質量部とした場合、2個以上のメタクリル酸メチル重合体ブロックは20質量部以上かつ30質量部以下、また、残部となる1個以上のアクリル酸ブチル重合体ブロックは70質量部以上かつ80質量部以下である。
【0023】
このアクリル系ブロック共重合体の重量平均分子量は30000以上かつ100000以下が好ましい。ここで、重量平均分子量を上記のように限定した理由は、重量平均分子量が30000未満では、粘着剤として凝集力が不十分なために、長期間使用した際に粘着性が低下する虞があるからであり、一方、重量平均分子量が100000を超えると、粘度が高くなるために塗工性が低下するからである。
【0024】
このアクリル系ブロック共重合体におけるアルカリ金属の含有率は10ppm以下が好ましく、3ppm以下がより好ましい。ここで、アルカリ金属の含有率を10ppm以下に限定した理由は、アルカリ金属の含有率が10ppmを超えると、粘着剤に含まれる近赤外線吸収色素がアルカリ金属と反応して変色や耐候性の低下を生じる虞があるからである。
【0025】
このアクリル系ブロック共重合体の製造方法については、本発明の条件を満足するアクリル系ブロック共重合体が得られる限り、特に限定されることなく、例えば、構成単位であるモノマ−をリビング重合する(1)〜(4)のいずれかの方法を用いることができる。
(1)有機希土類金属錯体を重合開始剤として重合する方法。
(2)有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩等の鉱酸塩存在下でアニオン重合する方法。
(3)有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし、有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法。
(4)原子移動ラジカル重合方法(ATRP)。
【0026】
本発明では上記(3)の方法を用いるのが好ましい。
この方法は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、トルエン等を溶媒とし、トリエチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物と、1,2−ジメトキシエタン等の極性添加剤の存在下に、ブチルリチウム等のアルキルリチウム化合物を重合開始剤として、メタクリル酸メチル及びアクリル酸n−ブチルを−80℃〜80℃の温度条件下にて逐次添加し重合することにより、アクリル系ブロック共重合体を合成する方法である。
【0027】
このようにして得られたアクリル系ブロック共重合体から残留するアルカリ金属を除去するために、上記のアクリル系ブロック共重合体を精製する。
精製方法としては、例えば、有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合を停止させた後の反応液に対し、洗浄処理または高純度化処理を施す方法が挙げられる。
洗浄処理としては、酸性水溶液による分液抽出処理、水による分液抽出処理等が挙げられる。上記の酸性水溶液としては、例えば、希塩酸、希硫酸、希硝酸、酢酸、プロピオン酸水溶液、クエン酸水溶液等を挙げることができる。
【0028】
高純度化処理としては、イオン交換樹脂、シリカゲル、アルミナ等の吸着剤を用いた吸着処理、あるいは、上記の反応液をメタノール等の貧溶媒中に注いでアクリル系ブロック共重合体を沈殿させる再沈殿処理等が挙げられる。
また、上記の方法の他、例えば、得られたアクリル系ブロック共重合体を溶媒に再溶解させ、この溶液に対して上記の洗浄処理または高純度化処理を行ってもよい。再溶解に使用する溶媒としては、アクリル系ブロック共重合体を溶解し得る溶媒であれば特に限定されず、例えば、トルエン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、アセトン、2−ブタノン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0029】
分液抽出処理としては、特に限定されないが、例えば、以下の方法を用いることができる。
攪拌機付反応槽を用い、トルエン、酢酸エチル等の水と分液可能な有機溶媒にアクリル系ブロック共重合体を溶解させて、ポリマー濃度が3〜50質量%となるポリマー溶液を作製する。次いで、このポリマー溶液に、硫酸、酢酸等の酸を0.01〜20質量%含む水溶液を加え、常温(25℃)〜80℃の温度条件下で1分〜1時間攪拌する。その後、攪拌を停止して30分〜1時間静置し、下層に分液した水層を抜き取る。
これにより、アクリル系ブロック共重合体中のアルカリ金属成分を減少させることができる。
【0030】
また、必要に応じて、攪拌機付反応槽に残るポリマー溶液に対して上記水溶液を加え、同様の分液抽出操作を複数回繰り返すことにより、アクリル系ブロック共重合体中のアルカリ金属成分をさらに減少させることができる。
また、再沈殿処理としては、特に限定されないが、例えば、ポリマー濃度が3〜50質量%のポリマー溶液を、このポリマー溶液に対して1〜100倍質量のメタノール等の貧溶媒に注ぎ、沈澱するポリマーを濾過して採取する方法を用いることができる。
【0031】
上記の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1種または2種以上を用いることができる。
【0032】
次に、本実施形態の近赤外線吸収粘着剤の製造方法について説明する。
まず、上述した近赤外線吸収色素を有機溶媒に溶解し、この近赤外線吸収色素の含有率が0.3重量%以上かつ15重量%以下、より好ましくは1重量%以上かつ12重量%以下、さらに好ましくは3重量%以上かつ10重量%以下の溶液となるように調整する。
【0033】
近赤外線吸収色素を一旦有機溶媒に溶解する理由は、この色素を後述する粘着剤樹脂を含む溶液にそのまま投入すると、色素を均一分散させることが困難になるからである。
ここで、近赤外線吸収色素の含有率を0.3重量%以上かつ15重量%以下と限定した理由は、含有量を上記の範囲内とすることで粘着剤中の近赤外線吸収色素の濃度を均一化することができるからである。なお、近赤外線吸収色素の含有率が0.3重量%未満であると、有機溶媒が過剰な状態となるために近赤外線吸収性能が低下し、実際に塗工する際に塗工が難しくなる。一方、含有率が15重量%を越えると、有機溶媒が少なすぎるために近赤外線吸収色素の溶解が不十分になり、近赤外線吸収色素が均一に混ざった溶液を得ることができない。
【0034】
特に、この近赤外線吸収色素が複数種の色素からなる場合、これらのうち1種でも0.3%未満であった場合には、820〜1000nmでの透過率を20%以下にするために近赤外線吸収粘着剤中に色素溶解液を混合すると、この近赤外線吸収粘着剤中の有機溶媒が過剰となり、結果的に粘度が低下し過ぎてしまい、成膜時に所望の厚みの塗膜が得られなくなる。
また、これらのうち1種でも15%以上であった場合には、色素が十分に溶解できなかったり、色素溶液の保管時に室温の上昇あるいは下降等により色素の溶解度が影響を受け、色素が安定して分散した状態で保管することが困難になる。
【0035】
次いで、この溶液に、粘着剤樹脂を含む溶液、例えば、アクリル系粘着剤樹脂を有機溶媒に溶解した溶液、特にアクリル系ブロック共重合体を含む粘着剤樹脂を有機溶媒に溶解した溶液を加え、粘度及び不揮発性成分の含有量を調整し、近赤外線吸収粘着剤とする。
【0036】
粘度は、50cP以上かつ30000cP以下が好ましく、より好ましくは100cP以上かつ10000cP以下、さらに好ましくは300cP以上かつ5000cP以下である。
ここで、この近赤外線吸収粘着剤の粘度を50cP以上かつ30000cP以下とした理由は、粘度が50cP未満では、粘度が低すぎて粘着剤としての機能を充分発揮することができないからであり、一方、粘度が30000cPを越えると、粘度が高すぎて近赤外線吸収粘着剤の流動性が低下し、通常の塗工法では成膜できなくなるからである。
【0037】
また、不揮発性成分の含有量は、70重量%以下が好ましく、より好ましくは20重量%以上かつ60重量%以下、さらに好ましくは30重量%以上かつ55重量%以下である。
ここで、不揮発性成分を70重量%以下とした理由は、不揮発性成分が70重量%を越えると、塗膜の乾燥後に表面の凹凸が顕著に現れるからである。
【0038】
この近赤外線吸収粘着剤は、その厚みを5μm以上かつ100μm以下としたときの820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域における光の透過率は20%以下、より好ましくは10%以下である。
【0039】
図1は、本発明の一実施形態の近赤外線吸収シートを示す断面図であり、図において、1は透明基材、2は透明基材1上に成膜された本実施形態の近赤外線吸収粘着剤からなる近赤外線吸収粘着層、3は粘着層2上に貼着された離型紙である。
透明基材1としては、透明性及び柔軟性のあるシート状のものであればよく、特に、PDP、LCD、有機EL等の平板型ディスプレイ(FPD)の表示面に貼着することを考慮すると、柔軟性のある材質の透明プラスチックシートや透明プラスチックフィルム等が好ましい。
【0040】
このプラスチックとしては、特に限定されるものではないが、例えば、セルロースアセテート、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテル、ポリイミド、エポキシ、フェノキシ、ポリカーボネート(PC)、ポリフッ化ビニリデン、アクリル、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオルエチレン(PTFE)、ポリフルオルアセチレン(PFA)等から適宜選択することができる。
また、このプラスチック基板の厚みも特段限定されるものではなく、フィルムであれば通常50〜250μm、シートであれば10mm程度のものまでが使用可能である。
【0041】
粘着層2は、その厚みを5μm以上かつ100μm以下としたときの820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域における光の透過率が20%以下、より好ましくは10%以下である。
離型紙3は、粘着層2の表面を保護し粘着性を保持するために貼着されるもので、粘着層2との間に使用時に容易に剥がすことができる程度の接着力を有するものであれば材質は問わないが、表面にラミネート加工がなされた離型紙が好適に用いられる。
【0042】
この近赤外線吸収シートを作製するには、まず、本実施形態の近赤外線吸収粘着剤を透明基材1上の所定個所に塗布する。塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ディップ法、ロールコート法、スクリーン印刷法等、通常の方法が用いられる。
次いで、この塗膜を乾燥させて粘着層2とする。この塗膜は、塗布された直後は有機溶媒を含んでいるので、室温、大気中にて乾燥するか、あるいは所定の温度、例えば、50℃〜80℃の温度にて乾燥することにより、塗膜に含まれる有機溶媒を散逸させることができる。
【0043】
次いで、粘着層2上に離型紙3を重ね合わせ、上方から押圧して粘着層2及び離型紙3を密着させる。
以上により、本実施形態の近赤外線吸収シートを作製することができる。
なお、この近赤外線吸収シートをPDP、LCD、有機EL等のFPDに用いる場合には、透明基材1として柔軟性のある透明プラスチックシートや透明プラスチックフィルムを用い、粘着層2上に離型紙3を貼着した後、粘着層2を透明基材1から剥離することなく、そのままの状態でFPDの製造ラインに供給すればよい。
【0044】
本実施形態の近赤外線吸収粘着剤によれば、820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光を選択して吸収する近赤外線吸収色素と、粘着剤樹脂と、有機溶媒とを含有し、この近赤外線吸収色素を820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域に互いに異なる極大吸収波長を有する複数種のフタロシアニン系色素としたので、820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の近赤外線を吸収することができ、粘着剤の耐湿熱性を向上させることができる。したがって、長期間に亘って近赤外線の吸収効果を持続させることができる。
【0045】
本実施形態の近赤外線吸収粘着剤の製造方法によれば、近赤外線吸収色素を有機溶媒に溶解し、この近赤外線吸収色素の含有率が0.3重量%以上かつ15重量%以下の溶液となるように調整するので、近赤外線吸収色素を溶媒中に均一に分散させることができる。
【0046】
また、この溶液にアクリル系粘着剤樹脂等の粘着剤樹脂を含む溶液を加えて粘度を50cP以上かつ30000cP以下、不揮発性成分を70重量%以下に調整するので、近赤外線吸収色素及び粘着剤樹脂を均一に分散させることができ、この溶液を用いて得られた粘着層の近赤外線吸収特性を均一化することができる。
したがって、耐湿熱性に優れ、近赤外線の吸収効果の長期間持続性に優れ、しかも近赤外線吸収特性が均一化された近赤外線吸収粘着剤を容易に得ることができる。
【0047】
本実施形態の近赤外線吸収シートによれば、本実施形態の近赤外線吸収粘着剤を透明基材1上の所定個所に塗布し、この塗膜を乾燥させて粘着層2とし、この粘着層2上に離型紙3を重ね合わせ、上方から押圧して粘着層2及び離型紙3を密着させたので、近赤外線を広範囲に吸収することができ、耐湿熱性を向上させることができ、しかも取り扱いが容易になる。したがって、近赤外線の遮蔽効果を長期間持続することができ、しかも取り扱いが容易な近赤外線吸収シートを安価に提供することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
「実施例1」
アクリル系粘着剤樹脂 LA2140e(商品名)(クラレ社製)27.5質量部に、トルエン20質量部及びメチルエチルケトン2.5質量部を混合し、主剤溶液を作製した。
一方、フタロシアニン系色素として4種類の色素IR−10A(極大吸収波長:λmax=840m)、IR−12(λmax=870m)、906B(λmax=928m)、910B(λmax=968m)(いずれも日本触媒社製)を選択し、IR−10Aの8%トルエン溶液、IR−12の5%トルエン溶液、906Bの8%トルエン溶液、910Bの10%メチルエチルケトン溶液を作製した。
【0050】
次いで、上記の主剤溶液50質量部に、メチルエチルケトン26.5質量部、IR−10Aの8%トルエン溶液2.2質量部、IR−12の5%トルエン溶液0.8質量部、906Bの8%トルエン溶液0.9質量部、910Bの10%メチルエチルケトン溶液2.6質量部を混合し、さらにタッキファイヤ ARUFON UP−1000(商品名)(東亞合成社製)5質量部を混合し、実施例1の近赤外線吸収粘着剤Aを作製した。この時の粘着剤A中の不揮発性成分は36.9%であり、粘度は100cPであった。
【0051】
次いで、この粘着剤Aを、バーコーターにて厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム ルミラーU−94(商品名)(東レ社製)上に乾燥厚みが25μmとなるように塗布し、その後、100℃にて5分間乾燥させ、実施例1の近赤外線吸収粘着層付き光学フィルムシートを作製した。
その後、この光学フィルムシートの近赤外線吸収粘着層を2mm厚のソーダガラス板に貼り合わせ、実施例1のサンプル片を作製した。
【0052】
「実施例2」
主剤溶液に混合するメチルエチルケトンの量を変えて粘着剤中の不揮発性成分を35.4%、粘度を55cPとした他は、実施例1に準じて実施例2の近赤外線吸収粘着剤及びサンプル片を作製した。
【0053】
「実施例3」
主剤溶液に混合するメチルエチルケトンの量を変えて粘着剤中の不揮発性成分を52.9%、粘度を2000cPとした他は、実施例1に準じて実施例3の近赤外線吸収粘着剤及びサンプル片を作製した。
【0054】
「実施例4」
主剤溶液に混合するメチルエチルケトンの量を変えて粘着剤中の不揮発性成分を68.2%、粘度を26000cPとした他は、実施例1に準じて実施例4の近赤外線吸収粘着剤及びサンプル片を作製した。
【0055】
「比較例1」
アクリル系粘着剤樹脂 LA2140e(商品名)(クラレ社製)27.5質量部に、トルエン20質量部及びメチルエチルケトン2.5質量部を混合し、主剤溶液を作製した。
次いで、この主剤溶液50質量部に、メチルエチルケトン26.1質量部、ジイモニウム系色素 CIR−RL(商品名)(日本カーリット社製)の10%メチルエチルケトン溶液3.1質量部、フタロシアニン系色素としてIR−10Aの8%トルエン溶液3.8質量部を混合し、さらにタッキファイヤ ARUFON UP−1000(商品名)(東亞合成社製)5質量部を混合し、比較例1の近赤外線吸収粘着剤Bを作製した。この時の粘着剤B中の不揮発性成分は36.9%であり、粘度は70cPであった。
【0056】
次いで、この粘着剤Bを、バーコーターにて厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム ルミラーU−94(商品名)(東レ社製)上に乾燥厚みが25μmとなるように塗布し、その後、100℃にて5分間乾燥させ、比較例1の近赤外線吸収粘着層付き光学フィルムシートを作製した。その後、この光学フィルムシートの近赤外線吸収粘着層を2mm厚のソーダガラス板に貼り合わせ、比較例1のサンプル片を作製した。
【0057】
「比較例2」
アクリル系粘着剤樹脂 LA2140e(商品名)(クラレ社製)25.0質量部に、トルエン12.5質量部及びメチルエチルケトン12.5質量部を混合し、主剤溶液を作製した。
次いで、この主剤溶液50質量部に、トルエン26.5質量部、メチルエチルケトン12.6質量部、フタロシアニン系色素として4種類の色素IR−10Aの8%トルエン溶液2.0質量部、IR−12の5%トルエン溶液0.7質量部、906Bの8%トルエン溶液0.8質量部、910Bの10%メチルエチルケトン溶液2.4質量部を混合し、さらにタッキファイヤ ARUFON UP−1000(商品名)(東亞合成社製)5質量部を混合し、比較例2の近赤外線吸収粘着剤Cを作製した。この時の粘着剤C中の不揮発性成分は30.0%であり、粘度は25cPであった。
【0058】
次いで、この粘着剤Cを、バーコーターにて厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム ルミラーU−94(商品名)(東レ社製)上に乾燥厚みが25μmとなるように塗布しようと試みたが、塗布時に粘着剤Cの粘度が低いために流動してしまい、得られた近赤外線吸収粘着層の乾燥厚みが10μm前後となり、所定厚みの近赤外線吸収粘着層を成膜することができなかった。
【0059】
「比較例3」
アクリル系粘着剤樹脂 LA2140e(商品名)(クラレ社製)50.0質量部に、トルエン11.3質量部、フタロシアニン系色素として4種類の色素IR−10Aの8%トルエン溶液4.1質量部、IR−12の5%トルエン溶液1.4質量部、906Bの8%トルエン溶液1.6質量部、910Bの5%トルエン溶液9.6質量部を混合し、さらにタッキファイヤ ARUFON UP−1000(商品名)(東亞合成社製)10質量部を混合し、比較例3の近赤外線吸収粘着剤Dを作製した。この時の粘着剤D中の不揮発性成分は68.2%であり、粘度は35000cPであった。
【0060】
次いで、この粘着剤Dを、バーコーターにて厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム ルミラーU−94(商品名)(東レ社製)上に乾燥厚みが25μmとなるように塗布し、その後、100℃にて5分間乾燥させ、比較例3の近赤外線吸収粘着層付き光学フィルムシートを作製した。
この光学フィルムシートは、粘着剤Dが高粘度であったために、平滑な塗膜を作製することができず、表面の凹凸が著しく、極めて粗い塗膜であった。
【0061】
「比較例4」
アクリル系粘着剤樹脂 LA2140e(商品名)(クラレ社製)40.0質量部に、トルエン0.6質量部、メチルエチルケトン3.6質量部、フタロシアニン系色素として4種類の色素IR−10Aの8%トルエン溶液5.4質量部、IR−12の5%トルエン溶液1.9質量部、906Bの8%トルエン溶液2.1質量部、910Bの10%メチルエチルケトン溶液6.4質量部を混合し、さらにタッキファイヤ ARUFON UP−1000(商品名)(東亞合成社製)40質量部を混合し、比較例4の近赤外線吸収粘着剤Eを作製した。この時の粘着剤E中の不揮発性成分は80.0%であり、粘度は20000cPであった。
【0062】
次いで、この粘着剤Eを、バーコーターにて厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム ルミラーU−94(商品名)(東レ社製)上に乾燥厚みが25μmとなるように塗布し、その後、100℃にて5分間乾燥させ、比較例4の近赤外線吸収粘着層付き光学フィルムシートを作製した。
この光学フィルムシートは、粘着剤E中の不揮発性成分の含有量が高かったために、表面の凹凸が著しく、平滑な塗膜を作製することができなかった。
表1に実施例1〜4及び比較例1〜4の粘着剤の不揮発性成分及び粘度、及び光学フィルムシートの粘着層の性状を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
「サンプル片の光学特性及び耐湿熱性の評価」
実施例1及び比較例1の各々のサンプル片の光学特性及び耐湿熱性の評価を行った。
評価方法は以下の通りである。
【0065】
(1)光学特性
色彩値(a、b)、分光透過率の2項目により評価した。
色彩値(a、b)は、各サンプル片のCIE(国際照明委員会)により規格化されたL表色系のa値及びb値を、カラーアナライザー TOPSCAN TC−1800−MKII(東京電色工業(株)社製)を用いて測定した。
【0066】
分光透過率は、分光光度計 V−570(日本分光社製)を用い、各サンプル片の透過スペクトルを波長:400〜1200nmの範囲で測定した。ここでは、近赤外線領域のうち820nm、880nm、950nm、1000nmの各波長における分光透過率(T820、T880、T950、T1000)を測定した。
【0067】
(2)耐湿熱性
恒温恒湿器 KCH−1000(EYELA社製)を用い、色彩値(a、b)及び分光透過率を上記により測定した実施例1〜4及び比較例1各々のサンプル片を、温度80℃、湿度95%の恒温恒湿中に48時間放置し、その後、室温にて色彩値(a、b)及び分光透過率を上記と同様に測定し、試験後の色彩値(a、b)及び分光透過率を評価した。
実施例1及び比較例1の各々のサンプル片の光学特性及び耐湿熱性を表2に示す。
また、図2に実施例1の耐湿熱性試験前後の近赤外線透過スペクトルを、図3に比較例1の耐湿熱性試験前後の近赤外線透過スペクトルを、それぞれ示す。
【0068】
【表2】

【0069】
「サンプル片の色調変化、近赤外線吸収能及び粘着性の評価」
実施例1及び比較例1の各々のサンプル片の耐湿熱性の試験前後における色調変化、近赤外線吸収能及び粘着性の評価を行った。
評価方法は以下の通りである。
(1)色調変化
色彩値(a、b)のうち少なくとも一方が3.0以上変化した場合を「×」、3.0未満しか変化しなかった場合を「○」とした。
【0070】
(2)近赤外線吸収能
T820、T880、T950、T1000の4点のうち1点でも3.0%以上変動している場合は「×」、4点ともに3.0%未満しか変動していない場合は「○」とした。
(3)粘着性
日本工業規格 JIS Z 0237「粘着テープ・粘着シート試験方法」に準拠して行った。但し、本評価では試験板にソーダガラス板を用い、このソーダガラス板の表面と近赤外線吸収粘着層との間の粘着力を測定した。
粘着性の評価は、粘着力が3.0N/25mm以上のものを「○」、3.0N/25mm未満のものを「×」とした。
実施例1及び比較例1の各々のサンプル片の色調変化、近赤外線吸収能及び粘着性を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
「実施例5」
フタロシアニン系色素として4種類の色素IR−10A(極大吸収波長:λmax=840m)、IR−12(λmax=870m)、906B(λmax=928m)、910B(λmax=968m)(いずれも日本触媒社製)を選択し、これらの色素各々を超音波分散機を用いて有機溶媒中に分散させ、表4に示すように、色素の含有率が0.3重量%以上かつ15重量%以下の溶液を作製した。また、比較のために含有率が範囲外の溶液も作製した。
なお、有機溶媒としては、IR−10A、IR−12及び906Bについてはトルエンを、910Bについてはメチルエチルケトンを、それぞれ用いた。
【0073】
次に、上記の各溶液について分散性、粘着剤としての適否を評価した。
分散性については、色素を超音波分散機を用いて有機溶媒中に分散させ、その後48時間自然放置し、沈降の有無、及び再分散の可能性について評価した。
ここでは、全く沈降が生じなかったものを「○」、沈降は生じたが再分散可能であったものを「△」、沈降が生じ再分散が不可能であったものを「×」とした。
【0074】
粘着剤としての適否については、実施例1の4種類の色素溶液の1つを上記の溶液に置き換え、実施例1に準じて近赤外線吸収粘着剤及びサンプル片を作製し、波長:400〜1200nmの範囲での分光透過率の最低透過率を20%とした場合に、最低透過率が20%以下であったものを適正範囲内「○」とし、最低透過率が20%を越えていたものを適正範囲外「×」とした。なお、沈殿により色素溶液を作製することができなかったものは「−」としてある。
分散性及び粘着剤としての適否を表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
以上の評価結果によれば、次のようなことが分かった。
実施例1では、耐湿熱性試験前後の色調変化はほとんど認められず、高温高湿の環境下においても色調が非常に安定していることが分かった。また、近赤外線吸収能についても同様に劣化は認められなかった。
また、実施例2〜4では、粘着剤の不揮発性成分及び粘度の範囲では、表面が平滑な粘着層が得られることが分かった。
【0077】
また、実施例5では、一旦、色素の含有率が0.3重量%以上かつ15重量%以下の溶液を作製し、この色素溶液を用いて近赤外線吸収粘着剤を作製することで、色素の濃度が均一な近赤外線吸収粘着剤が容易に得られることが分かった。
また、色素の含有率が0.3%未満では、近赤外線吸収粘着剤中の有機溶媒が過剰な状態となり、塗工には不向きなものであった。また、色素の含有率が15%を越えた場合、色素の分散が不十分なものとなり、均一な濃度の近赤外線吸収粘着剤を作製することができなかった。
【0078】
一方、比較例1では、耐湿熱性試験後に著しく変色し、近赤外線吸収能も劣化しており、高温高湿の環境下においてはジイモニウム色素が変質していることが分かった。
比較例2では、近赤外線吸収粘着剤の粘度が低すぎるために塗工直後から乾燥までの間に粘着層が流動してしまい、厚みが安定せず、得られた塗膜の厚みも所望の厚みと大きく異なったものとなり、塗工には不向きなものであった。
【0079】
比較例3では、近赤外線吸収粘着剤の粘度が高すぎるために平滑な粘着層を作製することが困難であり、塗工には不向きなものであった。
比較例4では、近赤外線吸収粘着剤中の不揮発性成分量が多すぎるために平滑な粘着層を作製することが困難であり、塗工には不向きなものであった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の近赤外線吸収粘着剤は、820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光を選択して吸収する近赤外線吸収色素と、粘着剤樹脂と、有機溶媒とを含有したことにより、耐湿熱性に優れるとともに、近赤外線の吸収効果を長期間保持することを可能にしたものであるから、PDPにおける近赤外線吸収はもちろんのこと、PDP以外の近赤外線吸収機能を必要とする部材や部品に対しても非常に効果的であり、その産業的利用価値は非常に大きなものである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態の近赤外線吸収シートを示す断面図である。
【図2】本発明の実施例1のサンプル片の耐湿熱性試験前後の近赤外線透過スペクトルを示す図である。
【図3】比較例1のサンプル片の耐湿熱性試験前後の近赤外線透過スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 透明基材
2 近赤外線吸収粘着層
3 離型紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光を選択して吸収する近赤外線吸収色素と、粘着剤樹脂と、有機溶媒とを含有してなることを特徴とする近赤外線吸収粘着剤。
【請求項2】
前記近赤外線吸収色素は、前記820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域に互いに異なる極大吸収波長を有する複数種の色素からなることを特徴とする請求項1記載の近赤外線吸収粘着剤。
【請求項3】
前記色素はフタロシアニン系色素であることを特徴とする請求項2記載の近赤外線吸収粘着剤。
【請求項4】
前記粘着剤樹脂はアクリル系粘着剤樹脂であり、このアクリル系粘着剤樹脂中に前記近赤外線吸収色素を分散してなることを特徴とする請求項1、2または3記載の近赤外線吸収粘着剤。
【請求項5】
5μm以上かつ100μm以下の厚みとした場合における前記820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光の透過率が20%以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の近赤外線吸収粘着剤。
【請求項6】
820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光を選択して吸収する近赤外線吸収色素を溶媒に溶解して前記近赤外線吸収色素の含有率が0.3重量%以上かつ15重量%以下の溶液となるように調整し、
次いで、この溶液に粘着剤樹脂を含む溶液を加えて粘度を50cP以上かつ30000cP以下、不揮発性成分を70重量%以下に調整することを特徴とする近赤外線吸収粘着剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1項記載の近赤外線吸収粘着剤からなる粘着層を透明基材上に形成してなることを特徴とする近赤外線吸収シート。
【請求項8】
前記粘着層の厚みを5μm以上かつ100μm以下とした場合における前記820nm以上かつ1000nm以下の波長帯域の光の透過率は20%以下であることを特徴とする請求項7記載の近赤外線吸収シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−231067(P2007−231067A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52052(P2006−52052)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】