説明

送信機、その送信機から電波を受信する受信機およびそれらを備えた無線通信システム

【課題】復調時のデータ判別の誤りを軽減して通信容量を増加可能な変調方式を用いた送信機を提供する。
【解決手段】変調器1は、I信号およびQ信号とにより直交振幅変調を行ない、変調信号MDLS1を乗算器3,4へ出力する。変換器2は、P信号の値の個数に応じて決定された角度θ(0度≦θ<180度)の正弦および余弦を演算し、正弦および余弦をそれぞれ乗算器3,4へ出力する。乗算器3,4は、それぞれ、変調信号MDLS1に正弦および余弦を乗算して変調信号MDLS2,MDSL3をDA変換器5,6へ出力する。DA変換器5,6は、それぞれ、変調信号MDLS2,MDSL3をデジタル信号からアナログ信号へ変換してアンテナ7,8へ出力する。アンテナ7は、DA変換器5からのアナログ信号を垂直偏波で送信し、アンテナ8は、DA変換器6からのアナログ信号を水平偏波で送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、送信機、その送信機から電波を受信する受信機およびそれらを備えた無線通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタル無線通信方式における周波数利用効率を向上するための変調方式として、搬送波の同相成分および直交成分の信号振幅に対してそれぞれ多値変調を行なう直交振幅変調方式が知られている(非特許文献1)。
【0003】
従来の直交振幅変調方式を用いる送信機は、アンテナと、DA変換器と、変調器とを備える。変調器は、搬送波の同相成分であるI信号と、搬送波の直交成分であるQ信号とにより直交振幅変調を行ない、変調信号を出力する。DA変換器は、変調器から出力された変調信号をデジタル信号からアナログ信号に変換する。アンテナは、DA変換器から出力されたアナログ信号を垂直偏波または水平偏波で送信する。また、垂直偏波および水平偏波は、直交しているため、2台の送信機によって、垂直偏波および水平偏波を同時に送信することも可能である。
【0004】
また、従来の直交振幅変調方式を用いた送信機からの電波を受信する受信機は、アンテナと、AD変換器と、復調器とを備える。
【0005】
アンテナは、送信機が送信した偏波信号を受信し、受信信号を出力する。AD変換器は、アンテナから出力された受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。復調器は、AD変換器から出力されたデジタル信号が示す信号点に最も近い信号点を信号点配置の中から判別し、I信号およびQ信号を出力する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】堀川泉,荒木正治,“各種劣化要因のある多値変調方式の誤り率特性,”電子情報通信学会論文誌,Vol.J63−B,No.11,pp.1132−1139,1980年11月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の直交振幅変調においては、送信電力を変えずに通信容量を増やすと信号点間距離が短くなるため、復調時のデータ判別の誤りが増えるという問題がある。
【0008】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、復調時のデータ判別の誤りを軽減して通信容量を増加可能な変調方式を用いた送信機を提供することである。
【0009】
また、この発明の別の目的は、復調時のデータ判別の誤りを軽減して通信容量を増加可能な変調方式を用いた送信機から送信された電波を受信する受信機を提供することである。
【0010】
更に、この発明の別の目的は、復調時のデータ判別の誤りを軽減して通信容量を増加可能な変調方式を用いて無線通信を行なう無線通信システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の実施の形態によれば、送信機は、変調器と、第1から第3の変換器と、第1および第2の乗算器と、第1および第2のアンテナとを備える。I信号、Q信号およびP信号は、データ信号であり、値の変化するタイミングは、同期しているものとする。変調器は、搬送波の同相成分であるI信号と搬送波の直交成分であるQ信号とにより直交振幅変調を行なう。第1の変換器は、データ信号であるP信号が取り得る値の個数に応じて決定され、かつ、0度以上180度未満の範囲に存在する角度を決定し、その決定した角度の正弦と角度の余弦とを出力する。第1の乗算器は、変調器から出力された第1の変調信号に角度の正弦を乗算して第2の変調信号を出力する。第2の乗算器は、第1の変調信号に角度の余弦を乗算して第3の変調信号を出力する。第2の変換器は、第2の変調信号をデジタル信号からアナログ信号に変換する。第3の変換器は、第3の変調信号をデジタル信号からアナログ信号に変換する。第1のアンテナは、第2の変換器から出力されたアナログ信号を垂直偏波によって送信する。第2のアンテナは、第3の変換器から出力されたアナログ信号を水平偏波によって送信する。
【0012】
また、この発明の実施の形態によれば、受信機は、上述した送信機によって送信された電波を受信して受信信号を復調する受信機であって、第1および第2のアンテナと、第1から第3の変換器と、復調器とを備える。第1のアンテナは、垂直偏波信号を受信する。第2のアンテナは、水平偏波信号を受信する。第1の変換器は、第1のアンテナから出力された受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。第2の変換器は、第2のアンテナから出力された受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。復調器は、第1の変換器から出力された第1の受信信号と第2の変換器から出力された第2の受信信号とに基づいて、垂直偏波信号と水平偏波信号とによって規定される偏波信号平面に配置され、かつ、各々がI信号、Q信号および角度からなる複数の信号点のうち、第1および第2の受信信号が示す信号点に最も近い信号点を判別し、その判別した信号点を構成するI信号、Q信号および角度を出力する。第3の変換器は、角度をデータ信号であるP信号に変換する。そして、I信号は、搬送波の同相成分であり、Q信号は、搬送波の直交成分であり、角度は、送信機から送信された電波の面の水平偏波面からの角度である。
【0013】
更に、この発明の実施の形態によれば、無線通信システムは、送信機と受信機とを備える。送信機は、上述した送信機からなる。受信機は、上述した受信機からなる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の実施の形態による送信機は、I信号とQ信号とにより直交振幅変調された搬送波に、P信号により決定された値を乗算して垂直偏波信号および水平偏波信号を出力する。つまり、アンテナによって送信された垂直偏波信号および水平偏波信号の合成波は、P信号によって決定された角度だけ水平偏波面から回転した偏波信号として送信される。そして、受信機は、送信機から送信された合成波の受信信号を復調するとき、受信信号が示す信号点に最も近い信号点を判別してI信号、Q信号およびP信号を同時に復調する。その結果、送信機がより多くのデータを送信しても、直交振幅変調のみの場合と比べ、信号点間距離が長くなるため、復調時のデータ判別の誤りを軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態による送信機の構成図である。
【図2】この発明の実施の形態による受信機の構成図である。
【図3】偏波信号平面における信号点配置の概念図である。
【図4】この発明の実施の形態による無線通信システムの構成図である。
【図5】偏波信号平面における従来の信号点配置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0017】
図1は、この発明の実施の形態による送信機の構成図である。図1を参照して、この発明の実施の形態による送信機10は、変調器1と、変換器2と、乗算器3,4と、DA変換器5,6と、アンテナ7,8とを備える。
【0018】
変調器1は、搬送波の同相成分であるI信号と、搬送波の直交成分であるQ信号とを受け、その受けたI信号およびQ信号とにより直交振幅変調を行ない、変調信号MDLS1を乗算器3,4へ出力する。
【0019】
変換器2は、データ信号であるP信号を受ける。P信号は、例えば、0,1,2,3の4値からなる。変換器2は、P信号を受けると、そのP信号が取り得る値の個数に応じて角度θ(0度≦θ<180度)を決定し、その決定した角度θの正弦(=sinθ)および角度θの余弦(=cosθ)を演算する。そして、変換器2は、正弦(=sinθ)を乗算器3へ出力し、余弦(=cosθ)を乗算器4へ出力する。
【0020】
この場合、P信号は、0,1,2,3の4値からなるので、変換器2は、180度を4で除算して角度差を45度と決定する。従って、変換器2は、P信号の値をpとすれば、sinθ=sin(45度×p)を乗算器3へ出力し、cosθ=cos(45度×p)を乗算器4へ出力する。
【0021】
乗算器3は、変調信号MDLS1にsinθを乗算して変調信号MDLS2をDA変換器5へ出力する。
【0022】
乗算器4は、変調信号MDLS1にcosθを乗算して変調信号MDLS3をDA変換器6へ出力する。
【0023】
DA変換器5は、変調信号MDLS2をデジタル信号からアナログ信号へ変換し、その変換したアナログ信号をアンテナ7へ出力する。
【0024】
DA変換器6は、変調信号MDLS3をデジタル信号からアナログ信号へ変換し、その変換したアナログ信号をアンテナ8へ出力する。
【0025】
アンテナ7は、DA変換器5から出力されたアナログ信号を垂直偏波で送信する。
【0026】
アンテナ8は、DA変換器6から出力されたアナログ信号を水平偏波で送信する。
【0027】
アンテナ7から送信された垂直偏波と、アンテナ8から送信された水平偏波との合成波の偏波面は、水平偏波面に対して0度、45度、90度および135度に順次変化する。
【0028】
図2は、この発明の実施の形態による受信機の構成図である。図2を参照して、この発明の実施の形態による受信機20は、アンテナ11,12と、AD変換器13,14と、復調器15と、変換器16とを備える。
【0029】
アンテナ11は、垂直偏波信号を受信し、その受信信号をAD変換器13へ出力する。
【0030】
アンテナ12は、水平偏波信号を受信し、その受信信号をAD変換器14へ出力する。
【0031】
AD変換器13は、アンテナ11から出力された受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換して受信信号RSG1を復調器15へ出力する。
【0032】
AD変換器14は、アンテナ12から出力された受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換して受信信号RSG2を復調器15へ出力する。
【0033】
復調器15は、後述する方法によって受信信号RSG1,RSG2からI信号およびQ信号を復調し、外部へ出力するとともに、受信偏波の水平偏波面に対する角度を変換器16へ出力する。
【0034】
変換器16は、角度をP信号に変換し、その変換したP信号を外部へ出力する。
【0035】
図3は、偏波信号平面における信号点配置の概念図である。図3を参照して、垂直偏波信号Vおよび水平偏波信号Hは、直交する。そして、垂直偏波信号Vおよび水平偏波信号Hの各々は、I信号およびQ信号からなる複素信号である。
【0036】
垂直偏波信号Vおよび水平偏波信号Hの合成信号は、水平偏波信号Hを角度θだけ回転したものとなる。角度θは、上述したように4値のデータ信号であるP信号から決定される。また、角度θが0度のときの平均電力をSとすれば、垂直偏波信号Vおよび水平偏波信号Hの合成信号の平均電力は、Sとなる。
【0037】
従って、各信号点は、I信号の1シンボルと、Q信号の1シンボルと、P信号の1シンボルとによって決定される。
【0038】
そして、H軸30上の信号点は、P信号の“0”に対応し、直線31上の信号点は、P信号の“1”に対応し、直線32上の信号点は、P信号の“2”に対応し、直線33上の信号点は、P信号の“3”に対応する。また、信号点の総数は、16個であり、伝送ビット数は、log(16)=4ビットとなる。
【0039】
受信機20の復調器15は、2つの受信信号RSG1,RSG2を受けると、その受けた2つの受信信号RSG1,RSG2によって示される信号点に最も近い信号点を図3に示す複数の信号点の中から判別する。
【0040】
そして、復調器15は、その判別した信号点を構成するI信号、Q信号および角度を受信信号RSG1,RSG2の復調信号として出力する。
【0041】
このように、復調器15は、受信信号RSG1,RSG2に基づいて、同時に、I信号、Q信号およびP信号(角度)を復調する。
【0042】
図4は、この発明の実施の形態による無線通信システムの構成図である。図4を参照して、この発明の実施の形態による無線通信システム100は、送信機10と、受信機20とを備える。
【0043】
送信機10は、上述した方法によって、I信号、Q信号およびP信号により変調された信号を垂直偏波信号および水平偏波信号として送信する。
【0044】
受信機20は、送信機10から送信された電波の垂直偏波と水平偏波とを受信し、その受信した垂直偏波の受信信号と、その受信した水平偏波の受信信号とによって示される信号点に最も近い信号点を判別してI信号、Q信号およびP信号を同時に復調する。
【0045】
図5は、偏波信号平面における従来の信号点配置の概念図である。図5を参照して、従来の信号点配置においては、信号点は、V軸34上およびH軸35に存在する。そして、V軸34上の信号とH軸35上の信号は、互いに独立しており、V軸34上の信号点の総数は、4個であり、伝送ビット数は、log(4)=2ビットであり、H軸35上の信号点の総数は、4個であり、伝送ビット数は、log(4)=2ビットである。従って、合計の伝送ビット数は、4ビットである。また、垂直偏波信号Vの平均電力をSとし、水平偏波信号Hの平均電力をSとすれば、垂直偏波信号Vおよび水平偏波信号Hの合成信号の平均電力は、2Sである。
【0046】
上述したように、この発明の実施の形態による変調を行なった場合、垂直偏波と水平偏波との合計平均電力は、従来に比べて0.5倍になる。
【0047】
その結果、送信機10が従来と同一の送信電力で送信すれば、従来と比べ信号点間距離が長くなるため、受信機20は、復調時のデータ判別の誤りを軽減できる。
【0048】
上記においては、P信号は、4値のデータ信号からなると説明したが、この発明の実施の形態においては、これに限らず、P信号は、n(nは2以上の整数)値以上のデータ信号からなっていればよい。
【0049】
この場合、P信号の値をp=(0,1,・・・,n−1)とすれば、角度θは、180度×p/nによって決定される。そして、乗算器3は、変調信号MDLS1に正弦(sinθ)を乗算し、乗算器4は、変調信号MDLS1に余弦(cosθ)を乗算する。
【0050】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明は、デジタル変調を行なって無線通信を行なう送信機、受信機および無線通信システムに適用される。
【符号の説明】
【0052】
1 変調器、2,16 変換器、3,4 乗算器、5,6 DA変換器、7,8,11,12 アンテナ、10 送信機、13,14 AD変換器、15 復調器、20 受信機、100 無線通信システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送波の同相成分であるI信号と前記搬送波の直交成分であるQ信号とにより直交振幅変調を行なう変調器と、
データ信号であるP信号が取り得る値の個数に応じて決定され、かつ、0度以上180度未満の範囲に存在する角度を決定し、その決定した角度の正弦と前記角度の余弦とを出力する第1の変換器と、
前記変調器から出力された第1の変調信号に前記角度の正弦を乗算して第2の変調信号を出力する第1の乗算器と、
前記第1の変調信号に前記角度の余弦を乗算して第3の変調信号を出力する第2の乗算器と、
前記第2の変調信号をデジタル信号からアナログ信号に変換する第2の変換器と、
前記第3の変調信号をデジタル信号からアナログ信号に変換する第3の変換器と、
前記第2の変換器から出力されたアナログ信号を垂直偏波によって送信する第1のアンテナと、
前記第3の変換器から出力されたアナログ信号を水平偏波によって送信する第2のアンテナとを備える送信機。
【請求項2】
請求項1に記載された送信機によって送信された電波を受信して受信信号を復調する受信機であって、
垂直偏波信号を受信する第1のアンテナと、
水平偏波信号を受信する第2のアンテナと、
前記第1のアンテナから出力された受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する第1の変換器と、
前記第2のアンテナから出力された受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する第2の変換器と、
前記第1の変換器から出力された第1の受信信号と前記第2の変換器から出力された第2の受信信号とに基づいて、前記垂直偏波信号と前記水平偏波信号とによって規定される偏波信号平面に配置され、かつ、各々がI信号、Q信号および角度からなる複数の信号点のうち、前記第1および第2の受信信号が示す信号点に最も近い信号点を判別し、その判別した信号点を構成するI信号、Q信号および角度を出力する復調器と、
前記角度をデータ信号であるP信号に変換する第3の変換器とを備え、
前記I信号は、搬送波の同相成分であり、
前記Q信号は、前記搬送波の直交成分であり、
前記角度は、前記送信機から送信された電波の面の水平偏波面からの角度である、受信機。
【請求項3】
請求項1に記載された送信機と、
請求項2に記載された受信機とを備える無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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