説明

送信機およびそれを備えた通信システム

【課題】隣接チャネルへの電力漏洩を抑制し、かつ、平均電力に対するピーク電力を低減可能な送信機を提供する。
【解決手段】送信機1において、バンドパスフィルタBPF1〜BPF4は、送信スペクトラムΣδ(t−nTs)aをそれぞれ伝達関数H(ω)〜H(ω)によって分割送信スペクトラムDVS1〜DVS4に分割し、その分割した分割送信スペクトラムDVS1〜DVS4に畳み込み演算を施して帯域を制限する。乗算器MP1〜MP4は、それぞれ、バンドパスフィルタBPF1〜BPF4から受けた分割送信スペクトラムDVS1〜DVS4にejω1t〜ejω4tを乗算して周波数を変換する。加算器SUM1は、周波数が変換された分割送信スペクトラムDVS1’〜DVS4’を直列に配列して送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、送信機およびそれを備えた通信システムに関し、特に、空いている通信帯域に送信スペクトラムを分割して送信する送信機およびそれを備えた通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユビキタスネットワークの実現に向けた通信システムの発達に伴い、無線LAN(Local Area Network)およびRF−ID(Radio Frequency Identification)をはじめとする屋内または近距離のパーソナル無線システムの普及および開発が進んでおり、今後、更に、電波需要の増加が見込まれる。
【0003】
しかし、周波数資源は、限られており、移動通信や上述の無線システムに適した6GHz以下の帯域では電波が切迫しているため、新たな周波数帯の割り当ては難しい状況にある。
【0004】
一方、上記のような自営の屋内または近距離の無線システムは、免許が不要であることが望ましく、通常、2,4GHz等のISM(Industry−Science−Medical)帯で運用されている。このため、今後の電波利用の増加に伴い、無線チャネル不足による伝送遅延の増加や伝送速度の低下、干渉による伝送エラーの増加が懸念される。
【0005】
ISM帯は、各種の無線システムによって共用されており、各種の無線システムは、キャリアセンスによって任意の周波数および帯域幅の無線チャネルの空きを確認し、その無線資源(周波数およびタイムスロット)を確保して使用している。このため、断片化した空き無線資源、即ち、スペクトラムの「隙間」が多数無駄に残留することになる。
【0006】
この問題に対し、断片化した空きスペクトラムを集積し、一つの無線チャネルとして用いるダイナミックスペクトラムアクセス(DSA:Dynamic Spectrum Access)システムのコンセプトおよび制御チャネル構成が提案されている(非特許文献1,2)。
【0007】
伝送スペクトラムを複数の帯域に分割して不連続化して伝送する方式としては、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)伝送のサブキャリアを選択的に用いるOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiplexing Access)の周波数スケジューリング(非特許文献3)や、シングルキャリア変調を高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)し、OFDMのサブキャリアに相当する離散スペクトラムを周波数軸上でマッピングし、逆高速フーリエ変換(IFFT:Inverse Fast Fourier Transform)した後に送信するシングルキャリア伝送による方法(非特許文献4)が提案されている。
【0008】
これらの方式のいずれも、FFTブロックの先頭にCP(Cyclic Prefix)を付加して伝送するものである。
【0009】
また、ISM帯等においては、隣接チャネル間で非同期の他システムが一般に運用されており、隣接チャネルへの電力漏洩は、直接的に与干渉になる。そして、自システムの受信では、sinc関数の整合フィルタで受信するのと等価であり、隣接チャネルの他システムからの被干渉も生じる。
【0010】
この問題に対し、サブキャリアをウエーブレット変換やフィルタで帯域制限し、隣接チャネルへの電力漏洩を低減する方式が提案されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】太郎丸真,矢野一人,塚本悟司,上羽正純,“ISMバンドにおける高効率周波数共用に向けたダイナミックスペクトラムアクセスシステムのコンセプト提案,”信学技報,SR2008−07,March 2009.
【非特許文献2】矢野一人,鄭吉秀,鈴木康夫,塚本悟司,太郎丸真,上羽正純,“ISMバンドにおける高効率周波数共用に向けたダイナミックスペクトラムアクセスシステムの物理チャネル構成に関する検討,”信学技報,SR2008−08,March 2009.
【非特許文献3】福井範行,久保博嗣,“Evolved UTRA周波数スケジューリングとCQI送信法,”2008 信学ソ大,BS−4−8,pp.S−45−46,Sep.2008.
【非特許文献4】眞嶋圭悟,三瓶政一,“ダイナミックスペクトラムアクセス制御を用いた広帯域シングルキャリア伝送方式に関する検討,”信学技報,RCS2006−233,Jan.2007.
【非特許文献5】大堀哲央,小野寺純一,五嶋研二,寺尾剛,須山聡,鈴木博,“ガウス形マルチキャリア送信機のFPGA実装による実現性評価,” 信学技報,RCS2007−220,March.2008.
【非特許文献6】K. Takeba, H. Tomeda, and F. Adachi,”Iterative overlap FDE for DS-CDMA without GI,” Proc. IEEE Vch. Technol. Conf. (VTC 2006 fall), Montreal, Sep. 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、非特許文献3,4に記載された方式では、隣接チャネルへの電力漏洩が高くなるという問題がある。
【0013】
また、非特許文献5に記載された方式では、平均電力に対するピーク電力が高くなるとう問題がある。
【0014】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、隣接チャネルへの電力漏洩を抑制し、かつ、平均電力に対するピーク電力を低減可能な送信機を提供することである。
【0015】
また、この発明の別の目的は、隣接チャネルへの電力漏洩を抑制し、かつ、平均電力に対するピーク電力を低減可能な送信機を備えた通信システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明によれば、送信機は、空いている通信帯域を用いてデータを送信する送信機であって、検出手段と、分割フィルタと、帯域制限フィルタと、送信手段とを備える。検出手段は、データの通信に用いられていない通信帯域である複数の空き通信帯域を検出する。分割フィルタは、送信データを周波数変調した送信スペクトラムを複数の空き通信帯域のうちのできる限り少ない個数の空き通信帯域からなるj(jは正の整数)個の空き通信帯域に分割する。帯域制限フィルタは、j個の空き通信帯域に分割されたj個の分割送信スペクトラムに対して畳み込み演算を行うことにより帯域制限処理を行う。送信手段は、帯域制限処理が行われたj個の分割送信スペクトラムを送信する。
【0017】
好ましくは、帯域制限フィルタは、ルートコサインロールオフフィルタからなる。
【0018】
好ましくは、j個の空き通信帯域は、複数の空き通信帯域から帯域幅が広い順に選択された空き通信帯域からなる。
【0019】
好ましくは、分割フィルタは、送信スペクトラムの離散的な複数の周波数成分の順序を維持し、かつ、複数の周波数成分ができる限り連続するように送信スペクトラムを複数の空き通信帯域に含まれる空き通信帯域に分割することにより送信スペクトラムをj個の空き通信帯域に分割する。
【0020】
好ましくは、分割フィルタは、直列/並列変換器と、フーリエ変換器と、マッピング器と、逆フーリエ変換器とを含む。直列/並列変換器は、送信スペクトラムを各々がN(Nは2以上の整数)個のシンボルからなる複数のブロックに分割し、複数のブロックを直列配列から並列配列に変換する。フーリエ変換器は、複数のブロックを高速フーリエ変換する。マッピング器は、フーリエ変換器の出力信号にLN行×N列(Lは2以上の2のべき乗の整数)からなるマッピング行列を乗算する。逆フーリエ変換器は、マッピング器の出力信号を逆高速フーリエ変換する。帯域制限フィルタは、畳み込みフィルタと、並列/直列変換器を含む。畳み込みフィルタは、逆フーリエ変換器の出力信号を畳み込み演算して出力信号の帯域を制限する。並列/直列変換器は、畳み込みフィルタによる演算結果を並列配列から直列配列に変換する。そして、マッピング行列の各列は、フーリエ変換器からの出力信号の周波数成分に対応する。また、マッピング行列の各行は、逆フーリエ変換器への入力周波数成分に対応する。更に、マッピング器は、逆フーリエ変換器の両端の周波数成分をヌルスペクトラムにし、フーリエ変換器から受ける離散スペクトラムの順序を維持し、更に、離散スペクトラムの周波数成分ができる限り連続するように離散スペクトラムをマッピングする。
【0021】
また、この発明によれば、通信システムは、空いている通信帯域を用いてデータを送受信する通信システムであって、送信機と受信機とを備える。送信機は、データの通信に用いられていない通信帯域である複数の空き通信帯域のうちのできる限り少ない個数の空き通信帯域からなるj(jは正の整数)個の空き通信帯域に送信データを周波数変調した送信スペクトラムを分割するとともに、j個の空き通信帯域に分割されたj個の分割送信スペクトラムに対して畳み込み演算を行うことにより帯域制限処理を行い、帯域制限処理が行われたj個の分割送信スペクトラムを送信する。受信機は、送信機から送信されたj個の分割送信スペクトラムを受信し、その受信したj個の分割送信スペクトラムを周波数軸で等化して受信信号を得る。
【発明の効果】
【0022】
この発明においては、無線通信空間における複数の空き通信帯域のうち、できる限り少ない個数からなるj個の空き通信帯域に送信スペクトラムを分割し、かつ、その分割したj個の分割送信スペクトラムの各々に対して畳み込み演算を施して帯域制限を加える。そして、帯域制限されたj個の分割送信スペクトラムが送信される。
【0023】
その結果、送信スペクトラムをj個の空き通信帯域に分割することにより、つまり、送信スペクトラムの分割数をできる限り少なくすることにより、各分割された分割送信スペクトラムは、一種のパーシャルレスポンス信号になり、平均電力に対するピーク電力は、送信スペクトラムの分割数の減少に伴って低くなる。また、j個の分割送信スペクトラムの各々に対して畳み込み演算を施して帯域を制限することにより、各分割送信スペクトラムのサイドローブが低くなる。
【0024】
従って、この発明によれば、隣接チャネルへの電力漏洩を抑制でき、かつ、平均電力に対するピーク電力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施の形態による通信システムの概略図である。
【図2】図1に示す送信機の構成を示す概略図である。
【図3】図1に示す受信機の構成を示す概略図である。
【図4】運用周波数帯の概念図である。
【図5】図2に示す送信機1の直列/並列変換器およびフーリエ変換器における動作を説明するための概念図である。
【図6】マッピングおよび畳み込みの概念図である。
【図7】図2に示す逆フーリエ変換器、畳み込みフィルタおよび並列/直列変換器における動作を説明するための概念図である。
【図8】オーバーラップFDEの概念図である。
【図9】図1に示す送信機の概念図である。
【図10】送信信号の概念図である。
【図11】図1に示す受信機の概念図である。
【図12】整合フィルタの出力信号の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0027】
図1は、この発明の実施の形態による通信システムの概略図である。図1を参照して、この発明の実施の形態による通信システム10は、送信機1と、受信機2とを備える。送信機1および受信機2は、無線通信空間に配置される。なお、図1においては、図示されていないが、各種の無線システムによって無線通信を行なう他の通信装置が存在している。
【0028】
送信機1は、後述する方法によって、他の通信装置がデータの送信に用いていない無線通信空間における空き通信帯域に送信データを分割して受信機2へ送信する。
【0029】
受信機2は、送信機1から送信データを受信し、その受信した送信データを後述する方法によって処理する。
【0030】
図2は、図1に示す送信機1の構成を示す概略図である。図2を参照して、送信機1は、変調器11と、直列/並列変換器12と、フーリエ変換器13と、マッピング器14と、検出手段15と、逆フーリエ変換器16と、畳み込みフィルタ17と、並列/直列変換器18と、送信手段19と、アンテナ20とを含む。
【0031】
変調器11は、デジタル信号からなる送信データを受け、その受けた送信データを所定の方式に従って周波数変調する。そして、変調器11は、その周波数変調した送信スペクトラムを直列/並列変換器12へ出力する。
【0032】
直列/並列変換器12は、変調器11から送信スペクトラムを受け、その受けた送信スペクトラムをN(Nは2以上の整数)個のシンボル毎にブロック化してM(奇数からなる整数)個のブロックを生成し、その生成したM個のブロックを直列配列から並列配列に変換し、並列配列からなるM個のブロックをフーリエ変換器13へ出力する。
【0033】
フーリエ変換器13は、並列配列されたM個のブロックを直列/並列変換器12から受け、その受けたM個のブロックの各々に含まれるN個のシンボルを高速フーリエ変換する処理をM個のブロックに対して並列に行なう。そして、フーリエ変換器13は、M個のブロックに対する高速フーリエ変換処理の結果である信号Dをマッピング器14へ出力する。この信号Dは、M個の分割送信スペクトラムブロックからなり、M個の分割送信スペクトラムブロックの各々は、N個の周波数成分からなる。
【0034】
マッピング器14は、フーリエ変換器13からM個の分割送信スペクトラムブロックを受け、無線通信空間における複数の空き通信帯域を検出手段15から受ける。そして、マッピング器14は、複数の空き通信帯域に基づいて、M個の分割送信スペクトラムブロックの各々に含まれるN個の周波数成分を複数の空き通信帯域のうちのできる限り少ない個数からなる空き通信帯域に分割するためのマッピング行列<P>を生成する。
【0035】
なお、この明細書においては、表記<A>は、行列Aを表すものとする。
【0036】
マッピング器14は、マッピング行列<P>を生成すると、その生成したマッピング行列<P>を用いてM個の分割送信スペクトラムブロックの各々に含まれるN個の周波数成分を複数の空き通信帯域のうちのできる限り少ない個数からなる空き通信帯域に分割する。そして、マッピング器14は、その分割結果である信号Sを逆フーリエ変換器16へ出力する。この信号Sは、M個のマッピングブロックからなり、M個のマッピングブロックの各々は、LN(Lは2以上の2のべき乗からなる整数)個の周波数成分からなる。
【0037】
検出手段15は、常時、または所定の時間間隔により定期的に、アンテナ20を介してキャリアセンスし、無線通信空間における複数の空き通信帯域を検出する。そして、検出手段15は、その検出した複数の空き通信帯域をマッピング器14へ出力する。
【0038】
逆フーリエ変換器16は、マッピング器14から信号Sを受け、その受けた信号Sを構成するM個のマッピングブロックの各々に含まれるLN個の周波数成分を逆高速フーリエ変換して時間軸データに変換し、その変換結果である信号sを畳み込みフィルタ17へ出力する。
【0039】
畳み込みフィルタ17は、逆フーリエ変換器16から受けた信号sに対して後述する方法によって畳み込み演算を行ない、その演算結果を並列/直列変換器18へ出力する。
【0040】
並列/直列変換器18は、畳み込みフィルタ17から受けた演算結果を並列配列から直列配列に変換し、直列配列からなるベースバンド信号を送信手段19へ出力する。
【0041】
送信手段19は、並列/直列変換器18から受けたベースバンド信号をデジタル信号からアナログ信号に変換し、アナログ信号からなるベースバンド信号を所定の周波数帯に周波数変換し、アンテナ20を介して受信機2へ送信する。
【0042】
図3は、図1に示す受信機2の構成を示す概略図である。図3を参照して、受信機2は、アンテナ21と、AD変換器22と、直列/並列変換器23と、畳み込みフィルタ24と、フーリエ変換器25と、検出手段26と、デマッピング器27と、逆フーリエ変換器28と、シンボル判定器29とを含む。
【0043】
アンテナ21は、送信機1からベースバンド信号を受け、その受けたベースバンド信号をAD変換器22へ出力する。
【0044】
AD変換器22は、アンテナ21からベースバンド信号を受け、その受けたベースバンド信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、その変換したデジタル信号からなるベースバンド信号を直列/並列変換器23へ出力する。
【0045】
直列/並列変換器23は、AD変換器22から受けたベースバンド信号を直列配列からLN個の並列配列に変換し、その変換したLN個の並列配列からなるベースバンド信号を畳み込みフィルタ24へ出力する。
【0046】
畳み込みフィルタ24は、直列/並列変換器23から受けたLN個の並列配列からなるベースバンド信号に対して畳み込み演算を行ない、その演算結果をフーリエ変換器25へ出力する。
【0047】
フーリエ変換器25は、畳み込みフィルタ24による演算結果に対して高速フーリエ変換を行ない、周波数成分からなるベースバンド信号をデマッピング器27へ出力する。
【0048】
検出手段26は、常時、アンテナ21を介してキャリアセンスし、無線通信空間における複数の空き通信帯域を検出する。そして、検出手段26は、その検出した複数の空き通信帯域をデマッピング器27へ出力する。
【0049】
デマッピング器27は、検出手段26から受けた複数の空き通信帯域に基づいてマッピング器14と同じ方法によってマッピング行列<P>を生成し、その生成したマッピング行列<P>の転置行列であるデマッピング行列<P>を演算する。そして、デマッピング器27は、フーリエ変換器25から受けたベースバンド信号に対して、後述する方法によって周波数選択性伝搬路に対する等化を周波数軸で行なうとともに、その等化後の信号にデマッピング行列<P>を乗算してLN個の周波数成分からなる信号をN個の周波数成分からなる信号に変換する。その後、デマッピング器27は、L個の周波数成分からなる信号を逆フーリエ変換器27へ出力する。
【0050】
逆フーリエ変換器28は、デマッピング器27から受けた信号に対して逆高速フーリエ変換を行ない、その変換後の信号をシンボル判定器29へ出力する。
【0051】
シンボル判定器29は、逆フーリエ変換器28からの信号を判定して受信データを取得する。
【0052】
図4は、運用周波数帯の概念図である。図4を参照して、運用周波数帯は、2.4GHz帯等の周波数帯からなる。そして、運用周波数帯に含まれる通信帯域B1〜B4は、それぞれ、異なる無線システムによって使用されており、通信帯域B1〜B4の隙間には、空き通信帯域EB1〜EB5が存在する。
【0053】
送信データの帯域幅をWとすると、空き通信帯域EB1〜EB5は、それぞれ、帯域幅Wよりも狭い帯域幅W1〜W5を有する。従って、空き通信帯域EB1〜EB5のうちの1つの空き通信帯域(空き通信帯域EB1〜EB5のいずれか)を用いて帯域幅Wの送信データを送信できない。
【0054】
しかし、空き通信帯域EB1〜EB5の帯域幅W1〜W5の合計は、帯域幅Wよりも大きい。従って、空き通信帯域EB1〜EB5の帯域幅W1〜W5のうち、帯域幅の合計が帯域幅W以上になる空き通信帯域(空き通信帯域EB1〜EB5の少なくとも2個以上の空き通信帯域)を用いれば、帯域幅Wの送信データを送信できる。
【0055】
そこで、この発明の実施の形態においては、送信機1は、空き通信帯域EB1〜EB5から選択したできる限り少ない個数からなる空き通信帯域に送信データを分割して受信機2へ送信する。
【0056】
以下、N=8、L=2、J=4の場合について、送信機1における詳細な動作について説明する。なお、Jは、空き通信帯域EB1〜EB5のうち、送信データの分割に用いられる空き通信帯域の個数を表し、2以上の整数からなる。
【0057】
図5は、図2に示す送信機1の直列/並列変換器12およびフーリエ変換器13における動作を説明するための概念図である。
【0058】
図5を参照して、直列/並列変換器12は、送信データに応じてBPSK,QPSKまたはQAM等により変調されたシンボル単位の複素ベースバンド信号DA(図5の(a)参照)を変調器11から受け、同DAをNシンボル毎のM個のブロックBLK_1〜BLK_Mに分割する(図5の(b)参照)。
【0059】
そして、直列/並列変換器12は、M個のブロックBLK_1〜BLK_Mを直列配列から並列配列に変換し、並列配列からなるM個のブロックBLK_1〜BLK_M(図5の(c)参照)をフーリエ変換器13へ出力する。
【0060】
フーリエ変換器13は、並列配列からなるM個のブロックBLK_1〜BLK_Mに対する高速フーリエ変換を並列で行ない、並列配列からなるM個のブロックBLK_1_f〜BLK_M_f(各ブロックBLK_1_f〜BLK_M_fはN個の周波数成分からなる。図5の(d)参照)をマッピング器14へ出力する。
【0061】
図6は、マッピングおよび畳み込みの概念図である。また、図7は、図2に示す逆フーリエ変換器16、畳み込みフィルタ17および並列/直列変換器18における動作を説明するための概念図である。
【0062】
図6を参照して、マッピング器14は、マッピング行列<P>を用いて各ブロックBLK_1_f〜BLK_M_fのN個の周波数成分FSSを周波数成分FSSMにマッピングする。
【0063】
N(=8)個の周波数成分FSSをLN(=16)個の周波数成分FSSMにマッピングする場合、(LN)!/{(L−1)N}!通りのマッピングが存在する。そこで、この発明の実施の形態においては、次の制限を設ける。
【0064】
(a)逆フーリエ変換器16の両端の周波数インデックスをヌルスペクトラムにする。
【0065】
(b)離散スペクトラムの順序を入れ替えない。
【0066】
(c)離散スペクトラムはインデックスができる限り連続するようにマッピングし、分
割数は、J(Jは2以上の整数)個以下とする。
【0067】
上記の制限(a)は、N=8およびLN=16である場合、インデックスIDX1およびインデックスIDX16には、スペクトラムをマッピングしないことを意味する。
【0068】
また、上記の制限(b)は、周波数成分FSSを構成するN個の周波数成分の順序を維持したままマッピングすることを意味する。
【0069】
更に、上記の制限(c)は、複数の空き通信帯域から帯域幅の広い順にできる限り少ない個数の空き通信帯域を選択し、その選択した空き通信帯域に離散スペクトラム(周波数成分FSS)を分割することを意味する。
【0070】
上記の制限(a)〜(c)を適用した結果、4個の周波数成分FSS1は、インデックスIDX2〜IDX5からなる4個の周波数成分FSSM1へマッピングされ、1個の周波数成分FSS2は、インデックスIDX7からなる1個の周波数成分FSSM2へマッピングされ、1個の周波数成分FSS3は、インデックスIDX10からなる1個の周波数成分FSSM3へマッピングされ、2個の周波数成分FSS4は、インデックスIDX13,IDX14からなる2個の周波数成分FSSM4へマッピングされる。この場合、空き通信帯域の個数Jは、4個である。
【0071】
周波数成分FSS1〜FSS4をそれぞれ周波数成分FSSM1〜FSSM4へマッピングするためのマッピング行列<P>は、次式によって表わされる。
【0072】
【数1】

【0073】
マッピング行列<P>は、分割されたJ(=4)個のサブスペクトラム(周波数成分FSSM1〜FSSM4)に対応する単位行列を配したLN行N列のサイズを有する。そして、マッピング行列<P>の各列は、Nポイントのフーリエ変換器13の出力の周波数インデックスに対応し、各行は、LNポイントの逆フーリエ変換器16の入力の周波数インデックスに対応する。また、各列は、1つの要素のみが“1”であり、その他が“0”である互いに異なる単位ベクトルからなる。更に、零ベクトルの行は、ヌルスペクトラムのインデックスに対応し、第1行および第LN行は、上記の制限(a)によって零ベクトルである。
【0074】
マッピング器14は、検出手段15から受けた複数の空き通信帯域および上記の制限(a)〜(c)に基づいて、式(1)に示すマッピング行列<P>を生成し、その生成したマッピング行列<P>をフーリエ変換器13から受けた各ブロックBLK_m_f(mは1≦m≦Mを満たす整数)の周波数成分FSSに乗算することにより、周波数成分FSS1〜FSS4を周波数成分FSSM1〜FSSM4へマッピングする。
【0075】
即ち、マッピング器14は、送信スペクトラムの離散的な複数の周波数成分の順序を維持し、かつ、複数の周波数成分ができる限り連続するように送信スペクトラムを複数の空き通信帯域に含まれる空き通信帯域に分割することにより送信スペクトラムを4個の空き通信帯域に分割する。この場合、4個の空き通信帯域は、複数の空き通信帯域から帯域幅が広い順に選択された空き通信帯域からなる。
【0076】
この分割によって、各分割された分割送信スペクトラムは、一種のパーシャルレスポンス信号になり、平均電力に対するピーク電力は、送信スペクトラムの分割数の減少に伴って低くなる。
【0077】
図7を参照して、マッピング器14によってマッピングされたブロックBLKM_mは、LN行1列の行列からなる(図7の(a)参照)。
【0078】
そして、逆フーリエ変換器16は、ブロックBLKM_mの各々のLN個の周波数成分を逆フーリエ変換し、ブロックBLKM_mを生成する。
【0079】
そして、畳み込みフィルタ17は、ルートコサインロールオフフィルタからなり、ブロックBLKM_mの各成分に対して畳み込み演算を行う。この畳み込み演算は、図6に示すように、周波数成分FSSM1〜FSSM4からなる4個のサブスペクトラムにおいて隣接するサブスペクトラム間で電力が漏洩しないように4個のサブスペクトラムに対して帯域制限を施すものである。この帯域制限によって、分割された各サブスペクトラムのサイドローブが低下する。
【0080】
並列/直列変換器18は、畳み込み演算が施されたブロックBLKM_mを畳み込みフィルタ17から受け、その受けたブロックBLKM_mを並列配列からDA変換に適した直列データに変換する。
【0081】
より具体的には、並列/直列変換器18は、ブロックBLKM_mの各々の要素を並列配列からDA変換に適した直列データに変換し、その変換したブロックBLKM_m(図7の(b)参照)からなるベースバンド出力信号を生成する。
【0082】
ベースバンド出力信号をy(t)とし、上述した畳み込みフィルタ17の出力の第m番目のFFTブロック(フーリエ変換器13に入力されるブロック)に対応する第k(kは−LN/2〜(LN/2)−1を満たす整数)サンプル値をym,kとすると、次の式(2)〜(5)が得られる。
【0083】
【数2】

【0084】
【数3】

【0085】
【数4】

【0086】
【数5】

【0087】
ここで、h=h(kTs/L),h(t)は、畳み込みフィルタ17(=帯域制限フィルタ)のインパルス応答であり、Tsは、シンボル周期である。また、sm,kは、第m番目のFFTブロック(フーリエ変換器13に入力されるブロック)に対する第k番目の逆フーリエ変換器16の出力である。更に、Sm,k’は、第k’番目の逆フーリエ変換器17の周波数インデックスである。更に、Dm,nは、第m番目のFFTブロック(フーリエ変換器13に入力されるブロック)に対する第n周波数インデックスのフーリエ変換器13の出力である。M’は、畳み込みフィルタ17のインパルス応答hの長さに応じたブロック数であり、同インパルス応答長は、NM’Tsに等しい。
【0088】
以下、この発明の実施の形態では、M’を3以上の奇数とする。畳み込みフィルタ17は、演算の対象となる第mブロックに対し、該ブロックと前後(M’−1)/2個のブロックの計M’個のブロック分の逆フーリエ変換器16の出力データを格納するバッファメモリを有し、そのM’個のブロック分のデータに対し、式(2)の演算を施す。
【0089】
具体的には、M’=3〜5に選ぶ。なお、M’は、偶数であってもよく、この場合、同バッファメモリおよび演算は、第mブロックと前(M’/2)−1個のブロックと、後M’/2個のブロックとの計M’個のブロック、あるいは、該ブロックと、前M’/2個のブロックと、後(M’/2)−1個のブロックとの計M’個のブロックに対して行なえばよい。
【0090】
従って、フーリエ変換器13は、i(iは正の整数)番目の送信シンボルの変調複素振幅であるdを変調器11から受け、その受けた変調複素振幅dを式(5)に代入してDm,nを演算し、その演算したDm,nをマッピング器14へ出力する。
【0091】
マッピング器14は、検出手段15から受けた複数の空き通信帯域および制限(a)〜(c)に基づいて式(1)に示すマッピング行列<P>を生成し、その生成したマッピング行列<P>と、フーリエ変換器13から受けたDm,nとを式(4)に代入してSを演算し、その演算したSを逆フーリエ変換器16へ出力する。
【0092】
逆フーリエ変換器16は、マッピング器14から受けたSを式(3)に代入してsm,kを演算し、その演算したsm,kを畳み込みフィルタ17へ出力する。畳み込みフィルタ17は、逆フーリエ変換器17から受けたsm,kを式(2)に代入して畳み込み演算を行い、ym,kを並列/直列変換器18へ出力する。並列/直列変換器18は、ym,kを並列配列から直列配列に変換してベースバンド出力信号y(t)を送信手段19へ出力する。
【0093】
そして、送信手段19は、ベースバンド出力信号y(t)をデジタル信号からアナログ信号に変換し、アナログ信号からなるベースバンド出力信号y(t)をアンテナ20を介して受信機2へ送信する。
【0094】
なお、上記においては、N=8、L=2、J=4の場合、マッピング行列<P>は、式(1)からなると説明したが、マッピング行列<P>は、一般的には、次式からなる。
【0095】
【数6】

【0096】
式(6)において、OM,Nは、M行N列の零行列であり、Iは、M次の単位行列である。また、Mは、第j番目(j=1,2,・・・,J)のサブスペクトラムの帯域幅に比例する周波数インデックスであり、M’は、1番目のサブスペクトラムの下側のヌル周波数インデックス数であり、M’は、j番目のサブスペクトラムの上側のヌル周波数インデックス数であり、M’は、第j番目と第j+1番目(ただし、1≦j≦J−1)とのサブスペクトラムの間のヌル周波数インデックス数である。そして、M’およびM’は、次式を満たす。
【0097】
【数7】

【0098】
次に、受信機2における動作について説明する。まず、受信機2における動作を概念的に説明する。受信機2においては、AD変換器22は、アンテナ21から受けたベースバンド信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、デジタル信号からなるベースバンド信号(図7の(c)参照)を直列/並列変換器23へ出力する。
【0099】
直列/並列変換器23は、ベースバンド信号を構成するM個のブロックBLKM_1〜BLKM_Mを直列配列から並列配列に変換し、並列配列からなるブロックBLKM_1〜BLKM_M(図7の(b)参照)を畳み込みフィルタ24へ出力する。
【0100】
畳み込みフィルタ24は、直列/並列変換器23からブロックBLKM_1〜BLKM_Mを受け、1ブロックの出力に付き、M’個のブロック分の入力データに対し、式(9)の畳み込み演算を施す。
【0101】
フーリエ変換器25は、畳み込み演算が施されたブロックBLKM_1〜BLKM_Mの各々のLN個の周波数成分を高速フーリエ変換し、ブロックBLKM_1_f〜BLKM_M_f(図7の(a)参照)をデマッピング器27へ出力する。
【0102】
デマッピング器27は、デマッピング行列<P>を用いてブロックBLKM_1_f〜BLKM_M_fの各々に対して、後述する方法によって、等化を周波数軸で行なうとともに、その等化後のブロックBLKM_1_f〜BLKM_M_fにデマッピング行列<P>を乗算してLN個の周波数成分からなるブロックBLKM_1_f〜BLKM_M_fをN個の周波数成分からなるブロックBLK_1_f〜BLK_M_f(図5の(d)参照)に変換する。
【0103】
逆フーリエ変換器28は、デマッピング器27から受けたブロックBLK_1_f〜BLK_M_fの各々のN個の周波数成分を逆高速フーリエ変換し、その変換後のブロックBLK_1〜BLK_M(図5の(c)参照)をシンボル判定器29へ出力する。
【0104】
これによって、シンボル判定器29は、送信機1においてブロック化されたブロックBLK_1〜BLK_Mを受ける。従って、シンボル判定器29は、ブロックBLK_1〜BLK_Mの各々の成分を判定することによって受信データを得る。
【0105】
受信機2によって受信された受信信号の複素ベースバンド信号をr(t)とし、同信号の第mブロックの第k番目のサンプル値をrm,kとすると、サンプル値rm,kは、次式によって表わされる。
【0106】
【数8】

【0107】
そして、次の式(9)〜(12)が得られる。
【0108】
【数9】

【0109】
【数10】

【0110】
【数11】

【0111】
【数12】

【0112】
なお、行列<W>は、周波数軸等化ウエイトであり、例えば、最小2乗誤差法(MMSE:Minimum Mean Square Error)の規範に基づいて決定される(非特許文献6)。
【0113】
受信機2において、直列/並列変換器23は、rm,kをAD変換器22から受け、その受けたrm,kを直列配列から並列配列に変換して畳み込みフィルタ24へ出力する。
【0114】
そして、畳み込みフィルタ24は、直列/並列変換器23から受けたrm,kを式(9)に代入して畳み込み演算を行い、その畳み込み演算を行ったqm,kをフーリエ変換器25へ出力する。
【0115】
なお、M’が奇数であるとき、各ブロックに対する出力は、式(9)のように該ブロックと前後(M’−1)/2個のブロックとの計M’個のブロック分の入力データから演算される。従って、畳み込みフィルタ24は、畳み込みフィルタ17と同様にM’個のブロック分の入力データを格納するバッファメモリを有する。M’は、偶数でもよく、この場合、同バッファメモリおよび演算は、第mブロックと、前(M’/2)−1個のブロックと、後M’/2個のブロックとの計M’個のブロック、あるいは、該ブロックと、前M’/2個のブロックと、後(M’/2)−1個のブロックとの計M’個のブロックに対して行なえばよい。
【0116】
フーリエ変換器25は、畳み込みフィルタ24から受けたqm,kを式(10)に代入して高速フーリエ変換し、その変換後のQm,k’をデマッピング器27へ出力する。
【0117】
デマッピング器27は、フーリエ変換器25から受けたQm,k’を式(12)に代入してZを演算し、その演算したZを逆フーリエ変換器28へ出力する。
【0118】
逆フーリエ変換器28は、デマッピング器27から受けたZを式(11)に代入してzm,nを演算し、その演算したzm,nをシンボル判定器29へ出力する。
【0119】
シンボル判定器29は、逆フーリエ変換器28から受けたzm,nを判定して受信データを得る。
【0120】
デマッピング器27が式(12)を用いて行う等化は、オーバーラップFDE(Frequency Domain Equalizer)と言われるものである。図8は、オーバーラップFDEの概念図である。
【0121】
デマッピング器27は、ブロックBLKM_1_f〜BLKM_M_f(図7の(a)参照)をフーリエ変換器25から受けるので、連続する3個のブロックをBLKM_t_f,BLKM_t+1_f,BLKM_t+2_fと表す。
【0122】
そうすると、デマッピング器27は、対象とするブロック(BLKM_t_f,BLKM_t+1_f,BLKM_t+2_fのいずれか)をポイントFFT区間の中央に配置し、周波数領域等化(FDE)を行う。そして、デマッピング器27は、得られたFDE後のブロックから中央のブロックのみを取り出し、次のブロックを等化するためにFFT区間をオーバーラップさせながら周波数領域等化(FDE)を行う。デマッピング器27は、これを繰り返し行い、ブロックBLKM_1_f〜BLKM_M_fを等化する。
【0123】
図9は、図1に示す送信機1の概念図である。また、図10は、送信信号の概念図である。図9を参照して、送信機1は、概念的には、バンドパスフィルタBPF1〜BPF4と、乗算器MP1〜MP4と、加算器SUM1とを備える。
【0124】
バンドパスフィルタBPF1〜BPF4の各々は、隣接チャネル(隣接する周波数帯域)へのサイドローブが低いバンドパスフィルタからなる。そして、バンドパスフィルタBPF1〜BPF4は、無線通信空間における複数の空き通信帯域のうちのできる限り少ない個数の空き通信帯域に送信スペクトラムを分割するバンドパスフィルタである。
【0125】
より具体的には、バンドパスフィルタBPF1は、変調シンボルaを用いて表される送信信号Σδ(t−nTs)aを受け、その受けた送信信号Σδ(t−nTs)aを伝達関数H(ω)によって帯域分割し、その帯域分割した分割送信スペクトラムDVS1を乗算器MP1へ出力する。
【0126】
また、バンドパスフィルタBPF2は、送信信号Σδ(t−nTs)aを受け、その受けた送信信号Σδ(t−nTs)aを伝達関数H(ω)によって帯域分割し、その帯域分割した分割送信スペクトラムDVS2を乗算器MP2へ出力する。
【0127】
更に、バンドパスフィルタBPF3は、送信信号Σδ(t−nTs)aを受け、その受けた送信信号Σδ(t−nTs)aを伝達関数H(ω)によって帯域分割し、その帯域分割した分割送信スペクトラムDVS3を乗算器MP3へ出力する。
【0128】
更に、バンドパスフィルタBPF4は、送信信号Σδ(t−nTs)aを受け、その受けた送信信号Σδ(t−nTs)aを伝達関数H(ω)によって帯域分割し、その帯域分割した分割送信スペクトラムDVS4を乗算器MP4へ出力する。
【0129】
この場合、バンドパスフィルタBPF1〜BPF4は、上述した畳み込み演算によってそれぞれ分割送信スペクトラムDVS1〜DVS4の帯域を制限する。
【0130】
乗算器MP1は、バンドパスフィルタBPF1から受けた分割送信スペクトラムDVS1にejω1tを乗算し、その乗算結果である分割送信スペクトラムDVS1’(図10参照)を加算器SUM1へ出力する。
【0131】
また、乗算器MP2は、バンドパスフィルタBPF2から受けた分割送信スペクトラムDVS2にejω2tを乗算し、その乗算結果である分割送信スペクトラムDVS2’(図10参照)を加算器SUM1へ出力する。
【0132】
更に、乗算器MP3は、バンドパスフィルタBPF3から受けた分割送信スペクトラムDVS3にejω3tを乗算し、その乗算結果である分割送信スペクトラムDVS3’(図10参照)を加算器SUM1へ出力する。
【0133】
更に、乗算器MP4は、バンドパスフィルタBPF4から受けた分割送信スペクトラムDVS4にejω4tを乗算し、その乗算結果である分割送信スペクトラムDVS4’(図10参照)を加算器SUM1へ出力する。
【0134】
このように、乗算器MP1〜MP4は、それぞれ、分割送信スペクトラムDVS1〜DVS4の周波数を周波数ω/(2π)〜ω/(2π)だけ変換して分割送信スペクトラムDVS1’〜DVS4’(図10参照)を加算器SUM1へ出力する。
【0135】
乗算器MP1〜MP4によって分割送信スペクトラムDVS1〜DVS4の周波数を変換するのは、分割送信スペクトラムDVS1〜DVS4が隣接する分割送信スペクトラムとの間でオーバーラップしないようにするためである。
【0136】
加算器SUM1は、乗算器MP1〜MP4から4個の分割送信スペクトラムDVS1’〜DVS4’を受け、その受けた4個の分割送信スペクトラムDVS1’〜DVS4’を直列に配列してベースバンド信号を生成する。
【0137】
この場合、伝達関数H(ω)〜H(ω)の通過帯域の合計は、シンボル周期Tsに対する通常の連続スペクトラムのシングルキャリア変調の帯域幅Wに等しく、次式を満たす。そして、伝達関数H(ω)〜H(ω)の各々は、ルートコサインロールオフ特性を有する。
【0138】
【数13】

【0139】
図11は、図1に示す受信機2の概念図である。また、図12は、整合フィルタの出力信号の概念図である。図11を参照して、受信機2は、概念的には、整合フィルタMTHF1〜MTHF4と、乗算器MP5〜MP6と、加算器SUM2とを備える。
【0140】
整合フィルタMTHF1〜MTHF4の各々は、上述した方法によるオーバーラップ周波数領域等化を行う整合フィルタからなる。
【0141】
そして、整合フィルタMTHF1は、受信信号を受け、その受けた受信信号のうち、分割受信スペクトラムDVS1”(図12の(a)参照)だけを乗算器MP5へ通過させる。
【0142】
また、整合フィルタMTHF2は、受信信号を受け、その受けた受信信号のうち、分割受信スペクトラムDVS2”(図12の(a)参照)だけを乗算器MP6へ通過させる。
【0143】
更に、整合フィルタMTHF3は、受信信号を受け、その受けた受信信号のうち、分割受信スペクトラムDVS3”(図12の(a)参照)だけを乗算器MP7へ通過させる。
【0144】
更に、整合フィルタMTHF4は、受信信号を受け、その受けた受信信号のうち、分割受信スペクトラムDVS4”(図12の(a)参照)だけを乗算器MP8へ通過させる。
【0145】
この場合、整合フィルタMTHF1〜MTHF4は、上述したオーバーラップ周波数領域等化によって周波数軸で等化を行う。
【0146】
乗算器MP5は、整合フィルタMTHF1から受けた分割受信スペクトラムDVS1”にe−jω1tを乗算し、その乗算結果である分割受信スペクトラムDVS1’’’(図12の(b)参照)を加算器SUM2へ出力する。
【0147】
また、乗算器MP6は、整合フィルタMTHF2から受けた分割受信スペクトラムDVS2”にe−jω2tを乗算し、その乗算結果である分割受信スペクトラムDVS2’’’(図12の(b)参照)を加算器SUM2へ出力する。
【0148】
更に、乗算器MP7は、整合フィルタMTHF3から受けた分割受信スペクトラムDVS3”にe−jω3tを乗算し、その乗算結果である分割受信スペクトラムDVS3’’’(図12の(b)参照)を加算器SUM2へ出力する。
【0149】
更に、乗算器MP8は、整合フィルタMTHF4から受けた分割受信スペクトラムDVS4”にe−jω4tを乗算し、その乗算結果である分割受信スペクトラムDVS4’’’(図12の(b)参照)を加算器SUM2へ出力する。
【0150】
このように、乗算器MP5〜MP8は、それぞれ、分割受信スペクトラムDVS1”〜DVS4”の周波数を周波数−ω〜−ωだけ変換して分割受信スペクトラムDVS1’’’〜DVS4’’’(図12の(b)参照)を加算器SUM2へ出力する。
【0151】
乗算器MP5〜MP8によって分割受信スペクトラムDVS1”〜DVS4”の周波数を変換するのは、送信機1においてオーバーラップしないように変換された周波数を元に戻すためである。
【0152】
加算器SUM2は、乗算器MP5〜MP8から4個の分割受信スペクトラムDVS1’’’〜DVS4’’’を受け、その受けた4個の分割受信スペクトラムDVS1’’’〜DVS4’’’を直列に配列して受信ベースバンド信号を得る。
【0153】
なお、図9に示す送信機1においては、4個のバンドパスフィルタBPF1〜BPF4が示されているが、これは、送信スペクトラムを4個の空き通信帯域へ分割するからであり、送信スペクトラムを4個以外の空き通信帯域へ分割する場合、送信機1は、送信スペクトラムの分割数に応じたバンドパスフィルタおよび乗算器を備える。
【0154】
また、同様の理由により、図11に示す受信機2も、送信スペクトラムの分割数に応じた整合フィルタおよび乗算器を備える。
【0155】
この発明の実施の形態による送信機は、図2に示す構成に限らず、一般的には、図9に示す構成からなっていればよい。また、この発明の実施の形態による受信機は、図3に示す構成に限らず、一般的には、図11に示す構成からなっていればよい。
【0156】
上述したように、送信機1は、無線通信空間における複数の空き通信帯域のうちのできる限り少ない個数からなるj(j=1〜J)個の空き通信帯域に送信スペクトラムを分割し、かつ、その分割したj個の分割送信スペクトラムの各々に対して畳み込み演算を施して帯域を制限し、その帯域を制限したj個の分割送信スペクトラムを受信機2へ送信する。
【0157】
その結果、送信スペクトラムをできる限り少ない個数の空き通信帯域に分割することにより、つまり、送信スペクトラムの分割数をできる限り少なくすることにより、各分割された分割送信スペクトラムは、一種のパーシャルレスポンス信号になり、平均電力に対するピーク電力は、送信スペクトラムの分割数の減少に伴って低くなる。
【0158】
また、j個の分割送信スペクトラムの各々に対して畳み込み演算を施して帯域を制限することにより、各分割送信スペクトラムのサイドローブが低くなる。
【0159】
従って、この発明によれば、隣接チャネルへの漏洩電力を抑制でき、かつ、平均電力に対するピーク電力を低くできる。
【0160】
なお、上記においては、4個の空き通信帯域に送信スペクトラムを分割して送信する場合について説明したが、この発明の実施の形態においては、これに限らず、4個の空き通信帯域以外の空き通信帯域に送信スペクトラムを分割して送信する場合も、送信スペクトラムは、上述した方法によって分割されて送信機1から受信機2へ送信される。
【0161】
また、上記においては、無線通信によってデータを送信する場合について説明したが、この発明の実施の形態においては、これに限らず、上述した通信システム10は、有線通信によってデータを送信する場合にも適用でき、特に、電力線搬送通信に適用可能である。
【0162】
この発明の実施の形態においては、直列/並列変換器12、フーリエ変換器13、マッピング器14および逆フーリエ変換器16は、「分割フィルタ」を構成する。
【0163】
また、この発明の実施の形態においては、畳み込みフィルタ17および並列/直列変換器18は、「帯域制限フィルタ」を構成する。そして、帯域制限フィルタは、ルートコサインロールオフフィルタからなる。
【0164】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0165】
この発明は、隣接チャネルへの電力漏洩を抑制し、かつ、平均電力に対するピーク電力を低減可能な送信機に適用される。また、この発明は、隣接チャネルへの電力漏洩を抑制し、かつ、平均電力に対するピーク電力を低減可能な送信機を備えた通信システムに適用される。
【符号の説明】
【0166】
1 送信機、2 受信機、10 通信システム、11 変調器、12,23 直列/並列変換器、13,25 フーリエ変換器、14 マッピング器、15,26 検出手段、16,28 逆フーリエ変換器、17,24 畳み込みフィルタ、18 並列/直列変換器、19 送信手段、20,21 アンテナ、27 デマッピング器、29 シンボル判定器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空いている通信帯域を用いてデータを送信する送信機であって、
前記データの通信に用いられていない通信帯域である複数の空き通信帯域を検出する検出手段と、
送信データを周波数変調した送信スペクトラムを前記複数の空き通信帯域のうちのできる限り少ない個数の空き通信帯域からなるj(jは正の整数)個の空き通信帯域に分割する分割フィルタと、
前記j個の空き通信帯域に分割されたj個の分割送信スペクトラムに対して畳み込み演算を行うことにより帯域制限処理を行う帯域制限フィルタと、
前記帯域制限処理が行われたj個の分割送信スペクトラムを送信する送信手段とを備える送信機。
【請求項2】
前記帯域制限フィルタは、ルートコサインロールオフフィルタからなる、請求項1に記載の送信機。
【請求項3】
前記j個の空き通信帯域は、前記複数の空き通信帯域から帯域幅が広い順に選択された空き通信帯域からなる、請求項1に記載の送信機。
【請求項4】
前記分割フィルタは、前記送信スペクトラムの離散的な複数の周波数成分の順序を維持し、かつ、前記複数の周波数成分ができる限り連続するように前記送信スペクトラムを前記複数の空き通信帯域に含まれる空き通信帯域に分割することにより前記送信スペクトラムを前記j個の空き通信帯域に分割する、請求項3に記載の送信機。
【請求項5】
前記分割フィルタは、
前記送信スペクトラムを各々がN(Nは2以上の整数)個のシンボルからなる複数のブロックに分割し、前記複数のブロックを直列配列から並列配列に変換する直列/並列変換器と、
前記複数のブロックを高速フーリエ変換するフーリエ変換器と、
前記フーリエ変換器の出力信号にLN行×N列(Lは2以上の2のべき乗の整数)からなるマッピング行列を乗算するマッピング器と、
前記マッピング器の出力信号を逆高速フーリエ変換する逆フーリエ変換器とを含み、
前記帯域制限フィルタは、
前記逆フーリエ変換器の出力信号を畳み込み演算して前記出力信号の帯域を制限する畳み込みフィルタと、
前記畳み込みフィルタによる演算結果を並列配列から直列配列に変換する並列/直列変換器を含み、
前記マッピング行列の各列は、前記フーリエ変換器からの出力信号の周波数成分に対応し、
前記マッピング行列の各行は、前記逆フーリエ変換器への入力周波数成分に対応し、
前記マッピング器は、前記逆フーリエ変換器の両端の周波数成分をヌルスペクトラムにし、前記フーリエ変換器から受ける離散スペクトラムの順序を維持し、更に、前記離散スペクトラムの周波数成分ができる限り連続するように前記離散スペクトラムをマッピングする、請求項4に記載の送信機。
【請求項6】
空いている通信帯域を用いてデータを送受信する通信システムであって、
前記データの通信に用いられていない通信帯域である複数の空き通信帯域のうちのできる限り少ない個数の空き通信帯域からなるj(jは正の整数)個の空き通信帯域に送信データを周波数変調した送信スペクトラムを分割するとともに、前記j個の空き通信帯域に分割されたj個の分割送信スペクトラムに対して畳み込み演算を行うことにより帯域制限処理を行い、前記帯域制限処理が行われたj個の分割送信スペクトラムを送信する送信機と、
前記送信機から送信されたj個の分割送信スペクトラムを受信し、その受信したj個の分割送信スペクトラムを周波数軸で等化して受信信号を得る受信機とを備える通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−232857(P2010−232857A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76897(P2009−76897)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、支出負担行為担当官、総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「同一周波数帯における複数無線システム間無線リソース制御技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】