送受電用アンテナ及び送電器
【課題】共鳴方式によって電力の伝送の効率を向上させるとともに、薄型化を実現する送受電用アンテナの提供。
【解決手段】電源13と当該電源13から電力を供給されるバッテリ25との間において非接触で電力を送受電するアンテナであって、板状の基板30と、基板30の表面方向に沿って導電性材料を渦巻き状に形成してなるスパイラルパターン43を有し、所定の共鳴周波数の設定された共鳴アンテナ部40と、当該表面方向に沿って導電性材料を環状に形成してなるループパターン63を有し、共鳴アンテナ部40と磁気的に、電源13側又はバッテリ25側と電気的に接続されるループアンテナ部60と、を備える送受電用のアンテナ100とする。これにより、共鳴方式による電力の伝送に要する構成を板状の基板30に形成することができるので、高効率で電力を伝送できる共鳴方式の送受電用アンテナを薄型化できる。
【解決手段】電源13と当該電源13から電力を供給されるバッテリ25との間において非接触で電力を送受電するアンテナであって、板状の基板30と、基板30の表面方向に沿って導電性材料を渦巻き状に形成してなるスパイラルパターン43を有し、所定の共鳴周波数の設定された共鳴アンテナ部40と、当該表面方向に沿って導電性材料を環状に形成してなるループパターン63を有し、共鳴アンテナ部40と磁気的に、電源13側又はバッテリ25側と電気的に接続されるループアンテナ部60と、を備える送受電用のアンテナ100とする。これにより、共鳴方式による電力の伝送に要する構成を板状の基板30に形成することができるので、高効率で電力を伝送できる共鳴方式の送受電用アンテナを薄型化できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源と当該電源から電力を供給される装置との間において非接触で電力を伝送する送受電用アンテナ及び当該アンテナを備える送電器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、非接触での電力を伝送する方式として、電磁誘導を用いた技術が知られている。この電磁誘導方式では、送電側のアンテナで磁界の変動を生じさせるとともに、当該磁界の変動する環境下に受電側のアンテナを配置して当該アンテナに誘導電流を生じさせることで、当該受電側への電力の伝送を実現している。このような電磁誘導方式の送電用又は受電用アンテナの一種として、例えば特許文献1には、ハウジングの内部で当該ハウジングの板厚方向と交差する表面の表面方向に沿って導電性の線材を渦状に巻いてなるコイルを、アンテナとして用いる構成が開示されている。
【0003】
さて、近年、上述した電磁誘導方式とは異なる方式として、電場又は磁場の共振を用いた方式が例えば非特許文献1等により提案されている。この共鳴方式による電力の伝送によれば、送電側及び受電側のアンテナ間を離間させた状態であっても、電磁誘導方式よりも効率の良く電力を伝送することができるのである。
【0004】
非特許文献1に記載の構成では、送電側及び受電側それぞれに、ループ状の銅線と、三次元の螺旋状に形成されて当該ループ状の銅線と磁気的に接続されるコイルと、を備える構成とされている。この構成において送電側及び受電側のコイルの共鳴周波数は、互いに同一となるよう設定されるとともに、送電側のループ状の銅線に電源から印加される交流電流の周波数に対応した値に設定される。
【0005】
以上説明した共鳴方式の構成では、送電側のループ状の銅線に電源から印加された交流電流による磁界の変動が、当該ループ状の銅線に磁気的に接続されたコイルに誘導電流を生じさせる。そして、当該誘導電流は、送電側のコイル周囲の磁場及び電場を共鳴周波数で振動させることとなる。ここで、送電側及び受電側のコイルの共鳴周波数が互いに同一であるため、これら各コイルは電場又は磁場を介して伝播する振動によって共鳴する。故に、互いに離間して設置された送電側のコイルから受電側のコイルへの電力の伝送が実現することとなる。そして、受電側のコイルに生じた電流による磁界の変動によれば、当該コイルに磁気的に接続された受電側のループ状の銅線に誘導電流が誘起される。したがって、当該ループ状の銅線に電気的に接続された装置への電力の供給が実現されるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−323352号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Andre Kurs、外 5名、「Wireless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances」、Science <URL: http://www.sciencemag.org/>、VOL 317、2007年 7月 6日、p.83−86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、非特許文献1に記載の共鳴方式の構成では、送電側及び受電側のアンテナは、電源又は装置に接続されるループ状の銅線に加えて、当該ループ状の銅線とは別のコイルを要する。加えて、所定の共鳴周波数に対応させてその全長が設定される必要があるコイルは、当該全長を短縮することによって小型化を図ることが困難である。そしてさらに、三次元の螺旋状を呈することによれば、コイルはアンテナを大型化させる要因となっていたのである。以上によれば、共鳴方式による電力の伝送では、送電側及び受電側の各アンテナの間隔を離間させた状態あっても電力の伝送効率を獲得し得る一方で、アンテナ構成が大型化するという問題が生じていたのである。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、共鳴方式によって電力の伝送の効率を向上させるとともに、薄型化を実現する送受電用アンテナ及び当該アンテナを備える送電器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、電源と当該電源から電力を供給される装置との間において非接触で電力を送電又は受電する送受電用アンテナであって、板状の基材と、基材の板厚方向と交差する表面の表面方向に沿って基材に導電性材料を渦巻き状に形成してなる渦巻き状部を有し、所定の共鳴周波数の設定される共鳴アンテナ部と、表面方向に沿って基材に導電性材料を環状に形成してなる環状部を有し、共鳴アンテナ部と磁気的に接続されるとともに電源側又は装置側と電気的に接続されるループアンテナ部と、を備えることを特徴とする送受電用アンテナとする。
【0011】
この発明によれば、基材の板厚方向と交差する表面の表面方向に沿って基材に導電性材料を渦巻き状に形成してなる渦巻き状部を有する共鳴アンテナ部は、所定の共鳴周波数を得る為に要する当該渦巻き状部全長を維持しつつ、基材の板厚方向に沿った厚みが低減される。そして、共鳴アンテナ部とともに、ループアンテナ部の有する環状部も基材の表面方向に沿って導電性材料を環状に形成してなることによれば、共鳴方式による電力の伝送に要する構成を、板状である基材にともに形成することができる。したがって、電源と装置との間において高い電力の伝送効率を獲得し得る共鳴方式の送受電用アンテナの薄型化を実現することができるのである。
【0012】
ここで一般に、環状に形成されたアンテナは、環状に囲われた領域の面積を広げるほど感度の向上を図ることができる。しかし、ループアンテナ部と共鳴アンテナ部とが薄型化のために同一の基材に形成され、環状の領域内に共鳴アンテナ部の渦巻き状部が形成されている場合、当該領域を通過する磁束の発生が渦巻き状部によって妨げられるおそれが生じる。そこで、請求項2に記載の発明では、渦巻き状部は、環状部に囲われた領域の外周側に形成されることを特徴とする。この発明によれば、環状部に囲われた領域に発生する磁束が渦巻き状部で妨げられることがない。故に、ループアンテナ部と共鳴アンテナ部との間における電磁誘導による電力の授受の効率をさらに向上させることができる。したがって、薄型化した共鳴方式の送受電用アンテナにおける電力の伝送効率をさらに向上させることができるのである。
【0013】
請求項3に記載の発明では、共鳴アンテナ部は、渦巻き状部の内周側の端部と外周側の端部とを接続する接続部を有し、接続部は、基材の渦巻き状部と対向する表面に形成されることを特徴とする。ここで、共鳴アンテナ部の共鳴周波数は、共鳴アンテナ部の有する誘導係数及び静電容量によって規定される。故に、渦巻き状部の両端部が開放状態である場合、当該両端部間の空間の有する静電容量によって、共鳴アンテナ部の共鳴周波数は変動することとなり、ばらつきを生じ易い。そこで、渦巻き状部の内周側の端部と外周側の端部を接続部によって接続することで、共鳴アンテナ部の共鳴周波数のばらつきを容易に抑制することができる。加えて、渦巻き状部と対向する基材表面に連結部を形成することで、当該連結部は渦巻き状部に干渉することなく、当該渦巻き状部を径方向に跨ぐことができるのである。
【0014】
請求項4に記載の発明では、共鳴アンテナ部は、渦巻き状部に接続され、所定の静電容量の設定される静電容量部を有することを特徴とする。上述したように、共鳴アンテナ部の共鳴周波数を規定する要因として、当該共鳴アンテナ部の有する静電容量がある。渦巻き状部に所定の静電容量の設定された静電容量部を接続する構成によれば、共鳴アンテナ部の共鳴周波数を容易に調整することができる。このように、所定の共鳴周波数を容易に得られる共鳴アンテナ部によれば、離間した送受電用アンテナ間での高い電力の伝送効率を実現する共鳴方式の利点を、効果的に発揮することができるのである。
【0015】
請求項5に記載の発明では、基材の表面に板厚方向に対向して配置され、導電性材料を膜状に形成してなる一対の電極部であることを特徴とする。この発明によれば、板厚方向に対向して配置される一対の電極部に挟まれた領域に電荷を蓄える構成によって、静電容量を有する静電容量部を形成できる。そして、電極部同士が互いに対向している面積に応じて静電容量部の静電容量も変化することによれば、共鳴アンテナ部の共鳴周波数を、当該面積の変更により細かく調整することが可能となる。加えて、膜状の電極部によれば、当該電極部が薄型化を妨げる構成とはなり得ない。以上によれば、薄型化を達成するとともに、所定の共鳴周波数を正確に設定し得る共鳴アンテナ部によって伝送効率の向上も確実に実現する送受電用アンテナを提供することができるのである。
【0016】
請求項6に記載の発明では、電極部の少なくとも一部は、基材の表面から剥離容易に形成されることを特徴とする。この発明によれば、電極部の一部を基材から剥離容易とすることで、当該電極部の一部を剥離させることにより、対向する電極部間に蓄積できる電荷量を低減することができる。このように、静電容量部の静電容量を容易に調整し得る構成によれば、例えば、製造時におけるばらつき又は経年変化等に起因する共鳴コイル部の共鳴周波数の所定周波数からずれを容易に補正することができるのである。したがって、共鳴方式による高い効率を示す電力の伝送を確実に実施できる送受電用アンテナを提供することができるのである。
【0017】
請求項7に記載の発明では、静電容量部は、所定の静電容量を有するコンデンサ素子であることを特徴とする。この発明によれば、静電容量部として所定の静電容量を有するコンデンサ素子を用いることによれば、当該静電容量部を簡素な構成で実現できるとともに、その静電容量のばらつきも抑制し易い。したがって、共鳴方式による高効率の電力伝送を確実に実施できる送受電用アンテナを提供することができるのである。
【0018】
ここで、ループアンテナ部の環状部と共鳴アンテナ部の渦巻き状部との間における電力授受の効率は、共鳴アンテナ部のインダクタンスが大きいほど、並びにループアンテナ部及び共鳴アンテナ部の電気抵抗が小さいほど、向上する。これらのうち共鳴アンテナ部のインダクタンスは、渦巻き状部を形成する導電性材料の渦巻き状の巻き数が多いほど大きくなる。一方、ループアンテナ部及び共鳴アンテナ部の電気抵抗は、渦巻き状部と環状部との間隔、及び渦巻き状に形成された導電性材料において径方向に隣接する当該導電性材料同士の間隔を広げるほど小さくなる。
【0019】
そして、板状の基材の大きさが予め定められていた場合、渦巻き状部の巻き数を増やすためには、渦巻き状部と環状部との間隔及び渦巻き状部を形成する導電性材料同士の径方向における間隔のうち少なくとも一方を狭める必要がある。逆に、これらの間隔を広げると、渦巻き状部の巻き数を減らさなければならない。このように、インダクタンスの増加と電気抵抗の低減は、背反する。
【0020】
そこで、渦巻き状の巻き数、隣接する導電性材料同士の間隔、及び渦巻き状部と環状部との間隔を調整することで、面積の限られた基材において、渦巻き状部と環状部との間における電力授受の効率を最大化し得る。故に、請求項8に記載の発明のように、電力授受の効率が最大となるよう、上述した巻き数及び間隔を定めることにより、薄型化と電力の伝送効率の向上とを共に果たし得る共鳴方式の送受電用アンテナが実現される。
【0021】
上述したように、ループアンテナ部は環状部に囲われる領域の面積を拡大するほど、当該ループアンテナ部の感度を向上させることができる。一方、共鳴アンテナ部は、渦巻き状部に生じる相互誘導を抑制するため、渦巻き状部の径方向の間隔を広げることが望ましい。そこで請求項9に記載の発明では、環状部は、渦巻き状部の最内周と板厚方向に重畳する位置に形成されることを特徴とする。この発明によれば、送受電用アンテナの面積を一定とした場合において、環状部に囲われる領域の面積と、共鳴アンテナ部の渦巻き状部の径方向の間隔とがともに最大限確保できることとなる。故に、限られた面積内で高い伝送効率を実現する送受電用アンテナとして、請求項9に記載の配置は好適なのである。
【0022】
請求項10に記載の発明では、環状部及び渦巻き状部は、基材の異なる表面に形成されることを特徴とする。この発明によれば、同一の基材に共鳴アンテナ部及びループアンテナ部をともに備える送受電用アンテナであっても、各アンテナ部の有する環状部及び渦巻き状部を基材の異なる表面に形成することで、当該各アンテナ部の配置上での干渉を防止するとともに、構成を簡素化し得る。したがって、高い電力の伝送効率と薄型化とを実現する送受電用アンテナの提供を容易に実施することができるのである。
【0023】
請求項11に記載の発明では、基材の表面方向に沿って配列される複数の環状部のそれぞれに、互いに異なる位相の交流電流を印加する。この交流電流によって生じる磁界の磁力線は、複数の環状部のうちの一つに囲まれた領域から放射され、他の環状部に囲まれた領域に入射するループ状となり得る。故に、受電側のアンテナにおいて共鳴アンテナ部の渦巻き状部の軸方向が送電側アンテナの基材の表面方向に沿っていても、送電側のアンテナから放射されるループ状の磁力線は、受電側の渦巻き状部によって囲まれた領域を貫通し得る。故に、受電側の共鳴アンテナ部及び送電側の共鳴アンテナ部は、磁場を介して伝播する振動によって共鳴できる。以上により、送電側のアンテナから受電側のアンテナへの送電が可能になる。
【0024】
したがって、電源と接続される複数の環状部のそれぞれに異なる位相の交流電流を印加する電源を備えることで、送電器は、送電側のアンテナに対する受電側のアンテナの向きにかかわらず、非接触で電力を送電することができる。
【0025】
請求項12に記載の発明において、電源が複数の環状部のそれぞれに同位相の交流電流を印加している場合では、当該交流電流によって生じる磁界の磁力線は、複数の環状部に囲まれた領域から基材の板厚方向に沿い無限遠に向かって放射されるものが支配的となる。故に、送電器の備える送電側のアンテナに対して受電側のアンテナが正対している場合、当該受電側の渦巻き状部により囲まれた領域を高密度の磁力線が貫通する。故に、受電側の共鳴アンテナ部及び送電側の共鳴アンテナ部は、磁場を介して伝播する振動によって強く共鳴できる。これにより、送電側のアンテナから受電側のアンテナへの高効率な送電が可能になる。
【0026】
一方、電源が複数の環状部のそれぞれに互いに異なる位相の交流電流を印加している場合では、上述したようなループ状の磁力線が形成される。このようなループ状の磁力線によれば、受電側の渦巻き状部の軸方向が送電側アンテナの基材の表面方向に沿っている場合であっても、送電側のアンテナから受電側のアンテナへの送電が可能になる。
【0027】
これらのように、複数の環状部のそれぞれに、互いに異なる位相の交流電流と同位相の交流電流とを交互に印加する電源を備えることで、送電器は、送電側のアンテナに対する受電側のアンテナの向きにかかわらず、高効率且つ確実な送電を行うことができる。
【0028】
請求項13に記載の発明のように、複数の環状部のうち少なくとも一組の環状部のそれぞれに印加される交流電流の位相が、互いに半周期異なっている場合について説明する。一組の環状部のうちの一方に印加された交流電流によって当該環状部により囲まれた領域に生じる磁界の磁力線の方向は、一組の環状部のうちの他方に印加された交流電流によって当該環状部により囲まれた領域に生じる磁界の磁力線の方向と逆向きとなる。故に、一組の環状部のうちの一方の環状部に囲まれた領域から放射され、他方の環状部に囲まれた領域に入射するループ状の磁力線が確実に形成される。これにより、受電側の渦巻き状部の軸方向が送電側アンテナの基材の表面方向に沿っている場合であっても、磁力線は、当該受電側の渦巻き状部によって囲まれた領域を確実に貫通できる。故に、受電側の共鳴アンテナ部及び送電側の共鳴アンテナ部は、磁場を介して伝播する振動によって確実に共鳴できる。したがって、送電側のアンテナに対する受電側のアンテナの向きにかかわらず、送電器は、送電側のアンテナから受電側のアンテナへの送電を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明によるアンテナを用いた非接触の電力伝送を説明するための模式図である。
【図2】本発明の第一実施形態によるアンテナの機械的構成を説明する図であって、(a)アンテナのおもて面側、(b)アンテナの裏面側、を示す図である。
【図3】本発明によるアンテナの周囲に形成される磁界の様子を説明するための図であって、(a)〜(c)第一実施形態によるアンテナについて、(d)〜(f)第二実施形態によるアンテナについて、説明する図である。
【図4】本発明の第一実施形態によるアンテナにおいて、ループアンテナ部に入力される交流電流の周波数と、当該ループアンテナ部から共鳴アンテナ部に伝達されるエネルギーとの関係を示す図である。
【図5】本発明による第二実施形態によるアンテナの機械的構成を説明する図であって、(a)アンテナのおもて面側、(b)アンテナの裏面側、を示す図である。
【図6】本発明による第三実施形態によるアンテナの機械的構成を説明する図であって、(a)アンテナのおもて面側、(b)アンテナの裏面側、を示す図である。
【図7】静電容量部の具備する電極パターンの一部を剥離させた状態のアンテナを説明する図であって、(a)アンテナのおもて面側、(b)アンテナの裏面側、を示す図である。
【図8】静電容量部の具備する電極パターンを全て剥離させた状態のアンテナを説明する図であって、(a)アンテナのおもて面側、(b)アンテナの裏面側、を示す図である。
【図9】電極パターンの面積と、共鳴アンテナ部の共鳴周波数との関係を説明するための図である。
【図10】本発明の第四実施形態によるアンテナの機械的構成を説明するための図である。
【図11】スパイラルパターンの巻き数を減らすことにより、ループパターンとスパイラルパターンとの間隔を広げたアンテナの構成を説明するための図である。
【図12】ループパターンとスパイラルパターンとの間隔を変更したことにより生じるアンテナの共振特性の変化を示す図である。
【図13】ループパターン及びスパイラルパターン間の間隔と、共振特性との相関を説明するための図である。
【図14】スパイラルパターンの線間隔を狭めることにより、ループパターンとスパイラルパターンとの間隔を広げたアンテナの構成を説明するための図である。
【図15】当該ループアンテナ部から共鳴アンテナ部に伝達されるエネルギーが、線間隔を狭めることによって変化することを説明するための図である。
【図16】本発明の第五実施形態によるアンテナの機械的構成を説明するための図である。
【図17】本発明の第五実施形態によるアンテナの近傍に形成される磁界の様子を説明するための図であって、(a)同位相の交流電流が一組のループパターンに印加された場合について、(b)半周期分の位相差を与えられた交流電流が一組のループパターンに印加された場合について、それぞれ説明するための図である。
【図18】本発明の第六実施形態によるアンテナの機械的構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0031】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態によるアンテナ100を備える送電器10及び受電器20の構成例を示している。送電器10は、アンテナ100に加えて駆動回路15を有している。駆動回路15は、電源13及びアンテナ100に電気的に接続されており、当該電源13から供給される電力に基づいて正弦波の交流電流を生成し、アンテナ100へ印加する。受電器20は、アンテナ100に加えて整流回路23を有している。整流回路23は、アンテナ100、及び電力を消費する例えばプロセッサ等の負荷又は電力を蓄積するバッテリ等25に電気的に接続されており、アンテナ100側から伝達された交流電流を直流電流に変換し、当該負荷又はバッテリ等25に印加する。この整流回路23は、具体的にはダイオード等の整流素子を主体に構成されており、整流した直流電流を負荷又はバッテリ等25に印加することで、当該負荷の駆動やバッテリの充電を実施する。尚、第一実施形態において、駆動回路15によって生成される正弦波の周波数は10メガヘルツ(MHz)とする。また、整流回路23によって電流が印加される負荷又はバッテリ等25は、電力を用いるものであれば、例えば直流モーターや照明素子等何ら限定されない。
【0032】
以上説明した全体構成において、送電器10及び受電器20のそれぞれが備えるアンテナ100によって、電源13と当該電源13から電力を供給される負荷又はバッテリ等25との間で、非接触での電力の伝送が実現されている。まず、アンテナ100の構成について詳細に説明する。
【0033】
図2(a)及び(b)に示すようにアンテナ100は、基板30、共鳴アンテナ部40、及びループアンテナ部60等によって構成されている。基板30は、例えばガラス繊維を含有するエポキシ樹脂からなり、矩形板状に形成されている。この基板30は、単層基板であって、その両面には導電性材料である銅箔等からなる配線パターンが形成されている。尚、第一実施形態における基板30は、一辺の長さが270ミリメートル(mm)の正方形であって、その板厚は約1.6mmである。
【0034】
共鳴アンテナ部40は、無給電アンテナであって、スパイラルパターン43、接続部45、及びチップコンデンサ50を有している。スパイラルパターン43及び接続部45は、基板30に形成されている配線パターンである。スパイラルパターン43は、板厚方向と交差する表面の表面方向に沿って当該基板30に、径方向に一定の間隔で渦巻き状に形成されている。第一実施形態のスパイラルパターン43は、基板30の外形形状に倣い、矩形状にうずを巻いている。尚、このスパイラルパターン43が形成されている基板30の面(図2(b))を便宜的に裏面側とする。
【0035】
チップコンデンサ50は、所定の静電容量の設定された素子であって、基板30の裏面(図2(b))のスパイラルパターン43の外周側に実装されている。このチップコンデンサ50は、一端でスパイラルパターン43の外周側の端部43bと接続されており、他端でスパイラルパターン43の内周側の端部43cと接続部45を介して接続されている。チップコンデンサ50とスパイラルパターン43とを接続させる接続部45は、端部43cからスルーホール等の構成により一旦基板30のおもて面に延出している(図2(a))。接続部45は、基板30のおもて面で当該基板30の外縁側に向かうよう形成されることでスパイラルパターン43と干渉することなく当該パターン43を跨ぎ、スルーホール等の構成によって再び裏面へ戻されている。そして接続部45は、基板30の裏面でスパイラルパターン43の最外周に沿ってチップコンデンサ50へ向かい、当該コンデンサ50に接続されている。
【0036】
また共鳴アンテナ部40には、所定の共鳴周波数が設定されている。この共鳴周波数は、駆動回路15がアンテナ100に印加する交流電流の周波数に対応している。具体的には、駆動回路15によって印加される交流電流の周波数が10MHzである場合、当該交流電流によってループアンテナ部60の周囲に生じる電磁波は、30メートル(m)程度の波長を備える正弦波となる。この正弦波の半波長分となる15m程度の長さに共鳴アンテナ部40のスパイラルパターン43及び接続部45の全長を設定することにより、上述した電磁波によって共振を生じ易い構成となる。
【0037】
さらに、共鳴アンテナ部40の共鳴周波数は、当該共鳴アンテナ部40の誘導係数をL、静電容量をCとした場合、1/(2π√(LC))によって与えられる値となる。この静電係数Lは、上述したように設定されたスパイラルパターン43の長さに関連している。一方、静電容量Cは主にスパイラルパターン43の形態に起因する浮遊容量に関連している。この浮遊容量とは、スパイラルパターン43の径方向に隣接するパターン間で生じる静電容量、及び当該パターン43の両端間に生じる静電容量である。第一実施形態では、基板30上の配線パターンとしてスパイラルパターン43を形成することで、隣接するパターン間の間隔を一定に保ち、その静電容量のばらつきを抑制している。また、スパイラルパターン43の両端をチップコンデンサ50及び接続部45によって接続することで、当該パターン43の両端間に生じる静電容量のばらつきを抑制している。これらにより、共鳴アンテナ部40は、簡素な構成を維持しつつ、所定の共鳴周波数を安定的に獲得することができる。
【0038】
ループアンテナ部60は、給電アンテナであって、共鳴アンテナ部40と磁気的に接続されるとともに、電源13側の駆動回路15、又は負荷又はバッテリ等25側の整流回路23(図1参照)と電気的に接続されている。このループアンテナ部60は、ループパターン63及び給電点65を有している。ループパターン63は、スパイラルパターン43とは異なる面である基板30のおもて面に形成されている配線パターンである(図2(a))。このループパターン63は、基板30の表面方向に沿って当該基板30に矩形環状に形成されている。加えてループパターン63は、その平面方向の中心位置がスパイラルパターン43の平面方向の中心位置とほぼ同じ位置となるよう配置され、スパイラルパターン43の最内周43aと板厚方向に重畳している。このループパターン63の配置によれば、ループパターン63に囲われた領域67の外周側にスパイラルパターン43は形成されることとなる。給電点65は、このように形成されたループパターン63の一対の端部である。給電点65は、駆動回路15又は整流回路23と配線等で電気的に接続されており、電力の入力又は出力を行う箇所である。
【0039】
次に、これまで説明したアンテナ100を備える送電器10及び受電器20によって実現される、所謂共鳴方式による非接触の電力伝送の原理について以下説明する。
【0040】
この共鳴方式による電力の伝送によれば、送電器10及び受電器20のアンテナ間を離間させた状態であっても、従来の例えば電磁誘導方式よりも効率の良く電力を伝送することができる。具体的には、送電器10側のアンテナ100において、駆動回路15からの交流電流の印加によって、ループアンテナ部60は、アンテナ100周囲の磁界を交流電流の周波数と同一の周波数で変動させる。この磁界の変動は、共鳴アンテナ部40の主にスパイラルパターン43に誘導電流を生じさせる。そして当該誘導電流は、送電器10側の共鳴アンテナ部40周囲の磁場及び電場を共鳴周波数で振動させることとなる。ここで、送電器10側及び受電器20側の共鳴アンテナ部40の共鳴周波数が互いに同一であるため、これら各共鳴アンテナ部40は電場又は磁場を介して伝播する振動によって共鳴する。故に、互いに離間して設置された送電器10側の共鳴アンテナ部40から受電器20側の共鳴アンテナ部40への電力の伝送が実現することとなる。そして、受電器20側のコイルに生じた電流による磁界の変動により、受電側のループアンテナ部60に誘導電流が誘起される。したがって、このループアンテナ部60に整流回路23を介して接続された負荷又はバッテリ等25への電力の供給が実現されるのである。
【0041】
次に、上述したループアンテナ部60への交流電流の印加によって生じるアンテナ100周囲の磁界の状態を、図3(a)〜(c)に基づいて以下説明する。
【0042】
ループパターン63がスパイラルパターン43の内周側に配置されたアンテナ100において(図3(a))、当該ループパターン63に電流を印加すると、領域67を基板30の板厚方向(図3(b)のZ方向)に貫通する磁束が形成される(図3(b)二点鎖線内)。一方、ループパターン63の外周側では、板厚方向への磁束の貫通はスパイラルパターン43によって妨げられている。これは、スパイラルパターン43の径方向の間隔が印加された交流電流の波長よりも短いためである。そして、アンテナ100周囲において磁界の強さが同じ領域を結んだものを図3(c)に実線で示す。このループアンテナ部60への電流の印加によれば、図3(c)に示す態様の磁界がアンテナ100の周囲に形成されることとなる。
【0043】
ここで、第一実施形態のように、スパイラルパターン43をループパターン63の外周側に配置したアンテナ100の周囲に形成される磁界の強さと、後述する第二実施形態によるアンテナ200の周囲に形成される磁界の強さ(図3(f)参照)とを比較する。ここで、第二実施形態におけるアンテナ200では、ループパターン263がスパイラルパターン43の外周側に配置されている(図3(d)参照)。これら第一実施形態におけるアンテナ100と第二実施形態によるアンテナ200とに同一の交流電流を印加した場合、アンテナ100において基板30から特定の磁界の強さを示す位置までの距離D1は、アンテナ200において基板30から当該特定の磁界の強さを示す位置までの距離D2よりも1.5倍程度になることが判明したのである。これは、ループパターン63の外周側にスパイラルパターン43を配置する形態により、当該ループパターン63に囲われた領域67に発生する磁束が当該スパイラルパターン43によって妨げられ難いためである。これにより、ループアンテナ部60は強度の高い磁界を形成できる。
【0044】
次に、ループアンテナ部60に印加する交流電流の周波数と、ループアンテナ部60から共鳴アンテナ部40へ伝達される電力との関係を図4に基づいて説明する。この図4の縦軸(Return Loss)は、アンテナ100での反射電力特性を示すSパラメータによる値であって、ループアンテナ部60に入力した電力が、どれだけ戻ってきたかを示している。ループアンテナ部60から共鳴アンテナ部40へ電力が伝達された場合、戻り分の電力が小さくなることから、Sパラメータは負の値をとる。具体的に第一実施形態によるアンテナ100では、共鳴アンテナ部40に設定された共鳴周波数である10MHzの交流電流が印加された場合に、ループアンテナ部60から共鳴アンテナ部40への電力の伝達が最大で生じることとなる。
【0045】
ここまで説明した第一実施形態では、図2に示すように基板30の表面方向に沿ってスパイラルパターン43を形成することで、所定の共鳴周波数を得る為に要するスパイラルパターン43の全長を維持しつつ、共鳴アンテナ部40の板厚方向に沿った厚みを低減することができる。加えて、ループパターン63もスパイラルパターン43と同様に基板30の表面方向に沿って形成することによれば、共鳴方式による電力の伝送に要する共鳴アンテナ部40及びループアンテナ部60を、矩形板状である基板30にともに形成することができるのである。
【0046】
加えて第一実施形態では、ループパターン63の外周側にスパイラルパターン43を配置する形態により、ループアンテナ部60が形成する磁界の強度を高められる。(図3(c)参照)。故に、ループアンテナ部60と共鳴アンテナ部40とが薄型化のために同一の基板30に形成される形態であっても、当該ループアンテナ部60と共鳴アンテナ部40との間での電力の授受の効率を向上させることができるのである。
【0047】
また、ループアンテナ部60は、ループパターン63による領域67の面積を拡大するほど、感度の向上を図り得る。一方、共鳴アンテナ部40では、スパイラルパターン43を通過する電流が、当該パターン43の周囲に磁界を生じさせる。渦巻き状を呈するスパイラルパターン43においては、径方向に隣接するパターン同士で、相互に電流の流れを妨げる磁界を形成してしまうこととなる。故に、スパイラルパターン43の径方向の間隔は広げることが望ましい。そこで、ループパターン63をスパイラルパターン43の最内周43aと板厚方向に重畳させる配置によれば、一定の限られた面積内において、ループパターン63の領域67の面積と、スパイラルパターン43の径方向の間隔とがともに最大限確保できることとなる。故に、設置のための面積が限られ易いアンテナ100において、高い伝送効率を実現するための形態として本発明は特に好適なのである。加えて、この配置によれば、ループパターン63は、スパイラルパターン43を跨ぐため、おもて面に形成されることを要する接続部45と、基板30上で干渉しない。
【0048】
さらに第一実施形態では、共鳴アンテナ部40は、スパイラルパターン43の両端部43b,43c間を、チップコンデンサ50及び接続部45を介して接続することで、誘導係数L及び静電容量Cによって規定される当該共鳴アンテナ部40の共鳴周波数のばらつきを簡素な構成で抑制している。このように、所定の共鳴周波数を確実に示し得る構成とされた共鳴アンテナ部40は、ループアンテナ部60との間で最大限の電力量を授受することができるとともに、離間している送電側又は受電側のアンテナ100間でも高い電力の伝送効率を示すことができる。以上によれば、共鳴アンテナ部40にチップコンデンサ50を設ける構成によって、共鳴方式による電力伝送の利点を効果的に発揮するアンテナ100とすることができる。
【0049】
したがって、板状の基板30に共鳴方式の電力伝送に要する構成を集約することで薄型化を実現したうえで、高い電力の伝送効率を獲得するアンテナ100を提供することができるのである。加えて、ループパターン63及びスパイラルパターン43を基材の異なる表面に形成する配置によれば、配置上での干渉を防止したうえで、構成を簡素化し得る。故に、高い電力の伝送効率と薄型化とをともに実現するアンテナを容易に提供することができるのである。
【0050】
尚、第一実施形態において、負荷又はバッテリ等25が請求項に記載の「装置」に、基板30が請求項に記載の「基材」に、スパイラルパターン43が請求項に記載の「渦巻き状部」に、チップコンデンサ50が請求項に記載の「静電容量部」及び「コンデンサ素子」に、ループパターン63が請求項に記載の「環状部」に、アンテナ100が請求項に記載の「送受電用アンテナ」に、それぞれ相当する。
【0051】
(第二実施形態)
図5(a)及び(b)に示す本発明の第二実施形態によるアンテナ200は、第一実施形態によるアンテナ100の変形例である。このアンテナ200では、共鳴アンテナ部240の有するスパイラルパターン43は、ループアンテナ部260の有するループパターン263によって囲まれる領域267内に配置されている。加えてループパターン263は、スパイラルパターン43の最外周43dと板厚方向に重畳している。また、共鳴アンテナ部240の有する接続部245は、第一実施形態における接続部45と実質的には同一であって、ループアンテナ部260の形成面において基板30の幅方向(図5(a)における左右方向とする)中央付近に形成されている。以上の構成において、スパイラルパターン43の最外周43dと板厚方向に重畳するループパターン263は、第一実施形態の最内周43aと重畳するループパターン63と同様に、接続部245と基板30上で干渉しない。
【0052】
以下、スパイラルパターン43に対するループパターン263の配置の違いが、ループアンテナ部260に交流電流を印加した際に当該ループアンテナ部260が生じさせる磁界の分布に与える影響について、図3(a)〜(c)を参照しつつ、同図(d)〜(f)に基づいて説明する。
【0053】
ループパターン263によって囲われる領域267と板厚方向に重畳するようスパイラルパターン43を配置した場合(図3(d))、磁束は、スパイラルパターン43を板厚方向に貫通することができない(図3(e))。これらの磁束は、スパイラルパターン43の最内周43aの内側の領域247であって、第一実施形態の領域67(図3(b))と同程度となる面積の領域247を板厚方向に貫通するのみとなる(図3(e)二点鎖線内)。加えて、ループパターン263によって生じた磁界によりスパイラルパターン43に誘起された誘導電流は、当該磁界を打ち消す磁界を生じさせることとなる。故に、ループパターン263によってアンテナ200の周囲に生じる磁界は(図3(f))、アンテナ100の周囲に形成される磁界(図3(c)参照)よりも弱いものとなる。
【0054】
ここまで説明した図5示す第二実施形態によるアンテナ200では、ループアンテナ部260と共鳴アンテナ部240との間での電力の授受の効率が、第一実施形態における当該効率よりも低下することとなる。しかしながら、ループアンテナ部260及び共鳴アンテナ部240間での電力の授受は充分に可能である。加えて、共鳴方式による電力の伝送に要する共鳴アンテナ部240及びループアンテナ部260を、矩形板状である基板30にともに形成することができる。
【0055】
したがって、第一実施形態と同様に、共鳴方式の電力伝送に要する構成を集約することで薄型化を実現したうえで、高い電力の伝送効率を獲得するアンテナ200を実現することができるのである。
【0056】
尚、第一実施形態において、ループパターン263が請求項に記載の「環状部」に、アンテナ200が請求項に記載の「送受電用アンテナ」に、それぞれ相当する。
【0057】
(第三実施形態)
図6(a)及び(b)に示す本発明の第三実施形態によるアンテナ300は、第二実施形態によるアンテナ200の変形例である。第三実施形態によるアンテナ300は、第二実施形態のアンテナ200のチップコンデンサ50(図5(b)参照)に変えて、静電容量部350を有している。以下、第三実施形態によるアンテナ300の構成について、図6に基づいて詳細に説明する。
【0058】
アンテナ300は、基板330、ループアンテナ部260、及び共鳴アンテナ部340等によって構成されている。基板330には、第二実施形態の基板30の特定方向(図6の上下方向、以下当該方向を長手方向とする)の長さを延長することによって、スパイラルパターン43及びループパターン263のいずれも配置されていない領域333が形成されている。尚、第二実施形態と実質的に同一の構成であるループアンテナ部260の配置された側を、基板330のおもて面側とする(図6(a))。
【0059】
共鳴アンテナ部340は、スパイラルパターン43、所定の静電容量が設定された静電容量部350、及び接続部345を有している。静電容量部350は、基板330の両面に板厚方向に対向して配置され、導電性材料を膜状に形成してなる一対の電極パターン353a,353bを有している。電極パターン353a,353bは、互いに同一の形状であって、基板330の長手方向と直交する幅方向を長手方向とする矩形形状に形成されている。おもて面に形成されている電極パターン353aは、スパイラルパターン43の内周側の端部43cと、接続部345を介して接続されている。接続部345は、基板330の両面にわたって形成されている配線パターンである。接続部345は、端部43cからスルーホール等の構成によっておもて面に延出している。この位置から基板330の長手方向に沿って外周側へ向かって形成された接続部345は、おもて面に配置されたループパターン263を避けるため、スルーホール等によって裏面を迂回して、表面に戻されている。そして、接続部345は電極パターン353aに当該電極パターン353aの長手方向中央付近で接続されている。また、電極パターン353bは、基板330の裏面で、近接する当該基板330の外縁形状に沿って延長されたスパイラルパターン43の端部43bと接続されている。さらに、これら電極パターン353a,353bは、基板330の表面から剥離容易に形成されている。
【0060】
これらの一対の電極パターン353a,353bに挟まれた領域は、電荷を蓄えることができるので、静電容量を備える静電容量部350を構成することとなる。この静電容量部350の静電容量は、電極パターン353a,353bが板厚方向に対向している面積に応じて変化することとなる。故に、一定の間隔で予め設定された所定の静電容量の値を有するものから、所望する静電容量に近い値を有するものを選択するしかないコンデンサ素子と比較して、静電容量部350は所望の静電容量に厳密に近い値を設定されることができる。以上によれば、共鳴アンテナ部340の共鳴周波数を正確に設定することができるのである。
【0061】
さらに、剥離容易な構成とされた電極パターン353a,353bの一部を剥離させることによれば、当該電極パターン353a,353b間に蓄積できる電荷量を低減する調整が可能である。この構成によれば、アンテナ300の製造後であっても、静電容量部350の静電容量の調整は容易である。以下、図6〜図9に基づいて、電極パターン353a,353bの一部の剥離によって生じる共鳴アンテナ部340の共鳴周波数の変化について詳細に説明する。尚、電極パターン353a,353bの全てが剥離されることなく残留している状態(図6)での共鳴周波数はほぼ10MHzである。
【0062】
具体的には、基板330のおもて面に形成されている電極パターン353aの半分程度を剥離させた場合(図7(a))、静電容量部350の静電容量の値は低下する。これにより、上述した式で与えられる共鳴アンテナ部340の共鳴周波数は僅かに高くなる。この共鳴周波数の上昇は、図9に一点鎖線で示す相関からも読み取れる。このような調整構造を備えるアンテナ300とすることによれば、例えば製造時におけるばらつき又は経年変化等に起因する共鳴アンテナ部340の共鳴周波数の所定周波数からずれを容易に補正することができるのである。
【0063】
尚、電極パターン353a,353bの全てを剥離させた場合(図8(a)及び(b))、静電容量部350の静電容量値の大幅な低下によって共鳴アンテナ部340の共鳴周波数は著しく高い値となる(図9破線)。
【0064】
以上説明した第三実施形態によれば、膜状の電極パターン353a,353bの形成によってアンテナ300の厚さを抑制したまま、当該アンテナ300の共鳴周波数を所定の周波数に容易に設定及び補正することができる。したがって、第一及び第二実施形態と同様に薄型化を達成するともに、共鳴による電力の伝送が効率よく且つ確実に行うことができるアンテナ300の提供を実現することができるのである。
【0065】
尚、第三実施形態において、基板330が請求項に記載の「基材」に、電極パターン353a,353bが請求項に記載の「電極部」に、アンテナ300が請求項に記載の「送受電用アンテナ」に、それぞれ相当する。
【0066】
(第四実施形態)
図10に示す本発明の第四実施形態によるアンテナ400は、第一実施形態によるアンテナ100の別の変形例である。このアンテナ400では、共鳴アンテナ部440の有するスパイラルパターン443と、ループアンテナ部460の有するループパターン463との間に、スペースが確保されている。この共鳴アンテナ部440は、第一実施形態の共鳴アンテナ部40と同様に、ループアンテナ部460に印加される交流電流の周波数において共振する特性を備えている。
【0067】
第四実施形態において、スパイラルパターン443は、ループパターン463との間における電力授受の効率が最大となるよう形成されている。具体的にはアンテナ400では、スパイラルパターン443の渦巻き状の配線パターンの巻き数Nと、当該配線パターンの径方向に隣接する部分同士の線間隔Sと、スパイラルパターン443及びループパターン463との間の間隔Xが最適化されている。これら巻き数N、線間隔S、間隔Xを最適化することにより、共鳴アンテナ部440とループアンテナ部460との間の共振特性は向上する。故に、スパイラルパターン443及びループパターン463間で、効率良く電力の授受を行い得るようになる。
【0068】
このようなループパターン463とスパイラルパターン443との間における電力授受の効率に係わる共鳴アンテナ部440とループアンテナ部460との共振特性は、Q値によって示される。このQ値は、以下の数式1によって与えられる。
【0069】
【数1】
【0070】
以上の数式1において、ωは交流電流の角速度、Lは共鳴アンテナ部440のインダクタンス、Rはループアンテナ部460及び共鳴アンテナ部440に係わる電気抵抗を表している。数式1から明らかなように、共振特性は、共鳴アンテナ部440のインダクタンスLが大きいほど、並びに電気抵抗Rが小さいほど、向上する。
【0071】
これらのうち共鳴アンテナ部440のインダクタンスLは、以下の数式2によって与えられる。
【0072】
【数2】
【0073】
尚、上式においてAは以下の数式3により表される。
【0074】
【数3】
【0075】
ここで、数式2及び数式3において、D0はスパイラルパターン443の外縁における一辺の長さ、D1はスパイラルパターン443の内縁における一辺の長さ、Wはスパイラルパターン443を形成する配線パターンの線幅、Sはスパイラルパターン443において径方向に隣接する配線パターン同士の線間隔、Nはスパイラルパターン443の巻き数を表している。以上の数式2によれば、スパイラルパターン443において渦巻き状の配線パターンの巻き数Nが多いほど、共鳴アンテナ部440のインダクタンスLは大きくなる。
【0076】
一方、ループアンテナ部460及び共鳴アンテナ部440に係わる電気抵抗Rは、スパイラルパターン443とループパターン463と間の間隔X、及びスパイラルパターン443の線間隔Sを広げるほど小さくなる。尚、これらの間隔X及び線間隔Sと、電気抵抗Rとの相関についての詳細は、後述する。
【0077】
基板30の大きさが予め定められていた場合、スパイラルパターン443の巻き数Nを増やすためには、間隔X及び線間隔Sのうち少なくとも一方を狭める必要がある。逆に、これらの間隔X及び線間隔Sを広げようとすると、巻き数Nを減らさなければならない。このように、インダクタンスLの増加と電気抵抗Rの低減は、背反する。
【0078】
以上の相関を踏まえて、予め基板30の大きさが定められたアンテナ400において、巻き数N及び間隔Xを変更した場合の共振特性の変化について、図11〜図13に基づいて説明する。
【0079】
図11の(a)〜(f)には、スパイラルパターン443において隣接する部分同士の線間隔Sを一定とし、巻き数Nを減らすことにより、間隔Xを拡大したアンテナが示されている。具体的に、図11(a)に示すアンテナは、図11の(a)〜(f)に示すアンテナのうちで、スパイラルパターン443とループパターン463とが最も近接している。そして図11(a)に示すアンテナに対し、巻き数Nを一周分ずつ減らしたものが、図11(b)〜(f)に順に示されている。尚、図11に示すアンテナでは、スパイラルパターン443の一周分の削除により、間隔XはDL/8ずつ(DLは、ループパターン463の一辺の長さ)増加する。
【0080】
図12に示すように、巻き数Nを減らすことにより共振特性を示すQ値は向上し、図11(a)に示すアンテナに対して四周分の配線パターンを削除した図11(e)示すアンテナ400において最大となる。そして、図11(e)に示すアンテナ400からさらに配線パターンを削除すると、アンテナの共振特性は悪化する。図12には、シミュレーションによる値と、実測値とが示されている。これらのシミュレーション値及び実測値によれば、図11(e)に示すアンテナ400は、図11(a)に示すアンテナに対して2倍程度のQ値を示す。
【0081】
このような巻き数N及び間隔Xの変更に起因した共振特性の変化について、図13に基づいてさらに詳しく説明する。この図13には、Q値、インダクタンスL、及びループパターン463を流れる電流量Iが示されている。図13において、これらQ値、インダクタンスL、及び電流量Iは、それぞれの最大値で正規化されている。
【0082】
図13において、図11(a)〜(f)に示すアンテナにおけるインダクタンスLは、破線で示されている。共鳴アンテナ部440において、スパイラルパターン443によるインダクタンスLは、上述した数式2にからも明らかなように、巻き数Nの減少にともなって低下する。
【0083】
一方、図13において、図11(a)〜(f)に示すアンテナにおける電流量Iは、一点鎖線で示されている。ループアンテナ部460において、ループパターン463を流れる電流量Iは、間隔Xの拡大に伴って増加する。このように、間隔Xの拡大により電流量Iが増加する理由について説明する。
【0084】
ループパターン463に電流が流れると、当該ループパターン463の近傍に磁界が生じる。この磁界により、ループパターン463と隣接するスパイラルパターン443には、ループパターン463を流れる電流とは逆向きに流れる逆電流が誘起される。スパイラルパターン443とループパターン463との間隔Xを狭めることによれば、スパイラルパターン443に作用する磁界の強度は高まる。故に、スパイラルパターン443には、強い逆電流が誘起される。
【0085】
このように、ループパターン463を流れていた電流のエネルギーが磁界を介してスパイラルパターン443に伝達されることにより、当該ループパターン463を流れる電流量Iは低下する。スパイラルパターン443に誘起される逆電流が強くなるほど電流量Iの低下は大きくなるので、間隔Xが狭いアンテナほど電流量Iは小さくなる。
【0086】
そして数式1に示したように、アンテナのQ値は、インダクタンスLと電気抵抗Rの逆数の積に対応している。上述したように、間隔Xを広げるほどインダクンタンスLは減少する。一方、間隔Xを広げるほどループパターン463を電流が流れ易くなるので、電気抵抗Rの逆数は増加する。したがって、これらの積が最も大きくなるよう間隔Xを定めることにより、共振特性に優れた、例えば図11(e)に示すアンテナ400を得ることができる。
【0087】
次に、予め基板30の大きさが定められたアンテナ400において、スパイラルパターン443の巻き数Nを一定とし、線間隔Sを狭めることにより、間隔Xを拡大した場合の共振特性の変化について、図14及び図15に基づいて説明する。
【0088】
図14の(a)〜(d)には、スパイラルパターン443の巻き数Nを一定とし、スパイラルパターン443の線間隔Sを減らすことにより、間隔Xを拡大したアンテナが示されてる。具体的に、図14(a)に示すアンテナ400は、スパイラルパターン443の線間隔が最も広い形態(例えば、S=6ミリメートル)である。この図14(a)に示すアンテナ400対して線間隔Sを所定の値(例えば1ミリメートル)ずつ減らしたものが、図14(b)〜(d)に示すアンテナである。
【0089】
図15に示すように、線間隔Sを狭めると共振特性を示すQ値は悪化する。このような線間隔S及び間隔Xの変更に起因した、共振特性の変化についてさらに詳しく説明する。尚、図15の縦軸(Return Loss)は、図4と同様に、アンテナ400での反射電力特性を示すSパラメータによる値である。共鳴アンテナ部440とループアンテナ部460との共振特性が良好であり、Q値の高い形態のアンテナでは、ループアンテナ部460から共鳴アンテナ部440に電力の伝達が効率よく行われるので、戻り分の電力が小さくなる。即ち、Sパラメータの値は、小さくなる。
【0090】
共鳴アンテナ部440において、スパイラルパターン443によるインダクタンスLは、巻き数Nが一定であることから、線間隔Sを変更しても僅かな変化しか生じない。
【0091】
一方、共鳴アンテナ部440の電気抵抗Rは、線間隔Sの縮小にともなって増加する。詳しく説明すると、スパイラルパターン443を形成する配線パターンにおいて、径方向に隣接する部分の一方に流れる電流は、当該電流と逆方向の電流を他方に誘起する。すると、この逆方向に流れる逆電流は、スパイラルパターン443を流れる正規の電流と干渉し、当該スパイラルパターン443において電気抵抗として作用することとなる。そして、径方向に隣接する配線パターン同士の線間隔Sを狭めることによれば、高い強度の磁界が隣接する配線パターン間で互いに作用し合うこととなるので、逆電流の増加が引き起こされる。故に、共鳴アンテナ部440の電気抵抗Rは増加する。したがって、スパイラルパターン443の線間隔Sが確保されるよう間隔Xを定めることにより、共振特性に優れた、例えば図14(a)に示すアンテナ400を得ることができる。
【0092】
尚、線間隔Sを狭めるほど、共振する周波数が、低周波周領域に推移する。これは、スパイラルパターン443が、基板30の外周側に寄ったことにより、当該スパイラルパターン443全長が延びるためである。
【0093】
以上のように、巻き数N、線間隔S、及び間隔Xを調整することにより、面積の限られた基板30において、ループパターン463とスパイラルパターン443との間における電力授受の効率は最大化され得る。このように、電力授受の効率が最大となる、即ち共振特性が向上するよう、上述した巻き数N、間隔X、及び線間隔Sを定めることにより、薄型化と電力の伝送効率の向上とを共に果たし得る共鳴方式のアンテナ400が実現される。
【0094】
尚、第四実施形態において、スパイラルパターン443が請求項に記載の「渦巻き状部」に、ループパターン463が請求項に記載の「環状部」に、アンテナ400が請求項に記載の「送受電用アンテナ」に、それぞれ相当する。
【0095】
(第五実施形態)
図16に示す本発明の第五実施形態によるアンテナ500は、第四実施形態によるアンテナ400の変形例である。上記実施形態のように、ループパターンが一つである場合、当該ループパターンに電流を印加することにより発生する磁界の磁力線は、基板30においてループパターンに囲まれた領域から、基板30の板厚方向に沿って放射され無限遠に向かうものが支配的となる。故に、受電側のアンテナにおいて共鳴アンテナ部のスパイラルパターンの軸方向が送電側のアンテナの基板30の表面方向に沿っていると、送電側のアンテナから放射される磁力線は、受電側のアンテナのスパイラルパターンを貫通することができなくなる。この場合、送電側のアンテナによる磁界の振動が送電側のアンテナに伝わらないので、受電側の共鳴アンテナ部及び送電側の共鳴アンテナ部は、磁場を介して伝播する振動により共鳴することができなくなる。故に、非接触での電力を送電ができなくなるおそれがある。
【0096】
そこでアンテナ500は、基板30の表面方向に沿って配列される一組のループパターン563a,563bを有している。このアンテナ500を備える送電器において、当該アンテナ500に電力を供給する電源13(図1参照)は、駆動回路(図示しない)等を介して一組のループパターン563a,563bのそれぞれに接続されている。そして電源13は、互いに異なる位相の交流電流と、同位相の交流電流とを、駆動回路等を介して一組のループパターン563a,563bに交互に印加する。この電源13により一組のループパターン563a,563bに印加される交流電流に与えられた位相差は、半周期(180°)である。
【0097】
アンテナ500において、ループアンテナ部560は、上述したような一組のループパターン563a,563bと、ループパターン563a,563bの双方に設けられる給電点565a,565bを有している。ループパターン563a,563bは、第四実施形態のループパターン463(図10参照)を二分割したような構成であり、配線パターンによって矩形の領域564a,564bを囲んでいる。給電点565a,565bは、ループパターン563a,563bのそれぞれに形成される一対の端部である。給電点565a,565bは、駆動回路(図示しない)に配線等で電気的に接続されており、電源13(図1参照)から交流電力を受ける。
【0098】
次に、各ループパターン563a,563bの給電点565a,565bに、電源13(図1参照)が、同位相の交流電流と、互いに異なる位相の交流電流とを交互に印加することにより、アンテナ500の近傍に生じる磁界の様子について、図17に基づいて説明する。
【0099】
図17(a)は、各給電点565a,565b(図16参照)に印加される交流電流が同位相である場合において、アンテナ500の近傍に生じる磁界の様子を示している。各給電点565a,565b(図16参照)に同位相の交流電流が印加されている場合では、当該交流電流によって生じる磁界の主な磁力線は、一組の領域564a,564bから基板30の板厚方向に沿い無限遠に向かって放射される。同位相の交流電流が各給電点565a,565b(図16参照)に印加されることにより形成される磁界の様子は、ループパターンが一つであるアンテナの近傍に生じる磁界の様子と実質的に同一なものとなる。
【0100】
アンテナ500に対して受電側のアンテナ500aが正対して配置されている場合、当該アンテナ500aのスパイラルパターン(図示しない)により囲まれた領域を高密度の磁力線が貫通する。故に、送電側であるアンテナ500の共鳴アンテナ部540及び受電側のアンテナ500aの共鳴アンテナ部(図示しない)は、磁場を介して伝播する振動によって強く共鳴できる。これにより、送電側であるアンテナ500から受電側であるアンテナ500aへの高効率な送電が可能になる。
【0101】
一方、図17(b)は、各給電点565a,565b(図16参照)に印加される交流電流に半周期(180°)分の位相差が与えられている場合において、アンテナ500の近傍に生じる磁界の様子を示している。各給電点565a,565b(図16参照)に印加されている交流電流に半周期分の位相差が与えられている場合、領域564aに生じる磁界の磁力線の方向は、領域564bに生じる磁界の磁力線の方向と逆向きとなる。故に、一方の領域564aから放射され、他方の領域564bに入射するループ状の磁力線が確実に形成される。
【0102】
図17(b)において、受電側のアンテナ500aはアンテナ500に対して直交している。このような配置により、アンテナ500aのスパイラルパターン(図示しない)の軸方向がアンテナ500の基板30の表面方向に沿っていても、アンテナ500から放射される磁力線は、受電側のスパイラルパターンによって囲まれた領域を貫通し得る。故に、送電側であるアンテナ500の共鳴アンテナ部540及び受電側のアンテナ500aの共鳴アンテナ部(図示しない)は、磁場を介して伝播する振動によって共鳴できる。以上により、送電側のアンテナ500から受電側のアンテナ500aへの送電が可能になる。
【0103】
ここまで説明した第五実施形態では、一組のループパターン563a,563bのそれぞれに、互い異なる位相の交流電流と同位相の交流電流とを交互に印加することで、受電側のアンテナ500aの相対的な向きにかかわらず、高効率且つ確実な送電が可能になる。
【0104】
加えて第五実施形態では、一組のループパターン563a,563bに印加される交流電流の位相差が半周期分であることにより、確実にループ状の磁界を形成することができる。故に、受電側のアンテナ500aにおいて、スパイラルパターンの軸方向が送電側のアンテナ500の基板30の表面方向に沿っている場合であっても、磁力線は、受電側のスパイラルパターンによって囲まれた領域を確実に貫通できる。したがって、送電側のアンテナ500に対する受電側のアンテナ500aの向きにかかわらず、送電側のアンテナ500から受電側のアンテナ500aへの送電は確実に行われ得る。
【0105】
尚、第五実施形態において、ループパターン563a及びループパターン563bが請求項に記載の「環状部」に、アンテナ500が請求項に記載の「送受電用アンテナ」に、それぞれ相当する。
【0106】
(第六実施形態)
図18に示す本発明の第六実施形態によるアンテナ600は、第五実施例の変形例である。アンテナ600のループアンテナ部660は、四つのループパターン663a,663b,663c,663d、及び四つの給電点665a,665b,665c,665dを有している。
【0107】
四つのループパターン663a,663b,663c,663dは、基板30の平面方向であるX方向及びY方向に沿って配列されている。これらループパターン663a,663b,663c,663dは、第五実施形態のループパターン563a,563b(図16参照)のそれぞれを、さらに分割したような構成である。ループパターン663aは、ループパターン663bとX方向に並んでいる。ループパターン663cは、ループパターン663dとX方向に並んでいる。また、ループパターン663aは、ループパターン663cとY方向に並んでいる。ループパターン663bはループパターン663dとY方向に並んでいる。これら各ループパターン663a,663b,663c,663dによって囲まれた矩形の領域を、それぞれ領域664a,664b,664c,664dとする。
【0108】
四つの給電点665a,665b,665c,665dは、ループパターン663a,663b,663c,663dのそれぞれに形成される配線パターンの一対の端部である。給電点665a,665b,665c,665dは、駆動回路(図示しない)に配線等で電気的に接続されており、交流電力の入力を受ける。
【0109】
第六実施形態において電源13(図1参照)は、異なる三つのモードで、各給電点665a,665b,665c,665dに交流電流を印加する。電源13は、三つのモードを繰り返す。三つのモードのうちの一つは、全ての給電点665a,665b,665c,665dに同位相の交流電流を印加するものである。三つのモードのうちの残りの二つは、位相の異なる交流電流を各給電点665a,665b,665c,665dに印加するものである。以下、各給電点665a,665b,665c,665dに印加される交流電流と、当該交流電流によってアンテナ500の近傍に生じる磁界について説明する。
【0110】
各給電点665a,665b,665c,665dに印加される交流電流が全て同位相である場合、領域664a,664b,664c,664dから放射される磁界の磁力線の方向は、全ての基板30の板厚方向に沿って同じ方向を向いている。同位相の交流電流が各給電点665a,665b,665c,665dに印加されることにより形成される磁界の様子は、ループパターンが一つであるアンテナの近傍に生じる磁界の様子と実質的に同一なものとなる。
【0111】
送電側であるアンテナ600に対して受電側のアンテナが正対して配置されている場合(図示しない)、当該アンテナのスパイラルパターンにより囲まれた領域を高密度の磁力線が貫通する。故に、送電側であるアンテナ600の共鳴アンテナ部640及び受電側のアンテナの共鳴アンテナ部(図示しない)は、磁場を介して伝播する振動によって強く共鳴できる。これにより、送電側であるアンテナ600から受電側であるアンテナへの高効率な送電が可能になる。
【0112】
次のモードでは電源13(図1参照)は、給電点665a及び給電点665bに同位相の交流電流を印加する。加えて電源13は、給電点665c及び給電点665dに同位相の交流電流を印加する。しかし、給電点665a,665bに印加される交流電流の位相は、給電点665c,665dに印加される交流電流の位相に対して、半周期(180°)分ずらされている。この場合、領域664a,664bに生じる磁界の磁力線の方向は、領域664c,664dに生じる磁界の磁力線の方向と逆向きとなる。故に、一方の領域664a,664bから放射され、他方の領域664c,664dに入射するループ状の磁力線が確実に形成される。
【0113】
以上のようなループ状の磁力線が形成されることによれば、受電側のアンテナ600aの板厚方向がアンテナ600のY方向に向けられていた場合でも、当該アンテナ600aへの送電が可能である。詳記すると、領域664a,664bと領域664a,664dとをループ状に周回する磁界の磁力線は、アンテナ600aが有するスパイラルパターン(図示しない)よって囲まれた領域を貫通し得る。故に、送電側であるアンテナ600の共鳴アンテナ部640及び受電側のアンテナ600aの共鳴アンテナ部(図示しない)は、磁場を介して伝播する振動によって共鳴できる。以上により、送電側のアンテナ600から受電側のアンテナ600aへの送電が可能になる。
【0114】
さらに次のモードでは電源13(図1参照)は、給電点665a及び給電点665cに同位相の交流電流を印加する。加えて電源13は、給電点665b及び給電点665dに同位相の交流電流を印加する。しかし、給電点665a,665cに印加される交流電流の位相は、給電点665b,665dに印加される交流電流の位相に対して、半周期(180°)分ずらされている。この場合、領域664a,664cに生じる磁界の磁力線の方向は、領域664b,664dに生じる磁界の磁力線の方向と逆向きとなる。故に、一方の領域664a,664cから放射され、他方の領域664b,664dに入射するループ状の磁力線が確実に形成される。
【0115】
以上のようなループ状の磁力線が形成されることによれば、受電側のアンテナ600bの板厚方向が、アンテナ600のX方向に向けられていた場合でも、当該アンテナ600bへの送電は可能になる。詳記すると、領域664a,664cと領域664b,664dとをループ状に周回する磁界の磁力線は、アンテナ600bが有するスパイラルパターン(図示しない)よって囲まれた領域を貫通し得る。故に、送電側であるアンテナ600の共鳴アンテナ部640及び受電側のアンテナ600bの共鳴アンテナ部(図示しない)は、磁場を介して伝播する振動によって共鳴できる。以上により、送電側のアンテナ600から受電側のアンテナ600bへの送電が可能になる。
【0116】
ここまで説明した第六実施形態では、四つのループパターン663a,663b,663c,663dにおいて、位相の異なる交流電流を印加する組み合わせを順に変更することにより、アンテナ600近傍に形成される磁界の磁力線の向きが自在に変更される。これにより、送電側であるアンテナ600に対する受電側のアンテナの相対的な向きにかかわらず、高効率且つ確実な送電が可能になる。
【0117】
尚、第六実施形態において、ループパターン663a,663b,663c,663dが請求項に記載の「環状部」に、アンテナ600が請求項に記載の「送受電用アンテナ」に、それぞれ相当する。
【0118】
(他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0119】
上記実施形態では、ガラス繊維を含有するエポキシ樹脂を主体としてなり、両面に配線パターンを形成可能な両面基板を用いることで、ループアンテナ部のループパターン及び共鳴アンテナ部のスパイラルパターンを基板の異なる面に形成していた。しかし、紙とフェノール樹脂又はエポキシ樹脂等とを主体としてなり、片面にのみ配線パターンを形成可能な片面基板を用いる等によって、ループパターン及びスパイラルパターンを基板の同じ配線面に形成してもよい。具体的には、配線面の中央付近に、両端が電線等によって電源等に接続されたループパターンを有するループアンテナ部を形成する。このループアンテナ部の外周側に渦巻き状のスパイラルパターンを有する共鳴アンテナ部を形成する。そして、スパイラルパターンの両端を電線等によって結線する。以上の構成を適用して片面基板の採用を実現することで、上記実施形態に相当する性能を示し得るアンテナを低コストで提供できる。
【0120】
また、複数の絶縁層及び配線層を積層してなる多層基板を用いたアンテナであってもよい。具体的には、スパイラルパターンを複数の配線層に形成し、これらをピアホールによって板厚方向に電気的に接続することで、共鳴アンテナ部を構成させる。そして、スパイラルパターンの形成されていない配線層にループパターンを形成することでループアンテナ部を設ける。以上によれば、スパイラルパターン及びループパターンの配置の自由度の高いアンテナを実現できる。
【0121】
加えて、基板の材料は、上述したものに何ら限定されるものではなく、絶縁性を備えるものであれば例えばポリイミド等であってもよい。このポリイミド製の膜材料を用いることによれば、フレキシブル基板を基材とする可撓性を備えたアンテナを構成し得る。さらに、基板の形状も何ら限定されるものではなく、上記実施形態の基板のような矩形板状以外の形状、例えば円盤状、楕円板状、又は、基板の配置される周囲の空間に倣って不規則な多角形状等に形成されていてもよい。或いは、湾曲した板状の基板、屈曲された板状の基板、孔部を有する基板等を基材として用いてもよい。
【0122】
上記第一実施形態では、ループパターン63は共鳴アンテナ部40のスパイラルパターン43の最内周43aと板厚方向に重畳する位置に配置され、また上記第二及び第三実施形態では、ループパターン263はスパイラルパターン43の最外周43dと板厚方向に重畳するよう配置されていた。しかし、ループアンテナ部と共鳴アンテナ部とが磁気的に接続され、且つともに基板に形成される構成であれば、ループパターン及びスパイラルパターンの配置される位置は何ら限定されない。例えば、上記実施形態では、ループパターン及びスパイラルパターンは、それぞれの図心位置がほぼ同じ位置となるよう配置されていたが、各パターンの中心位置をずらして配置されていてもよい。また、ループパターンは、スパイラルパターンの最内周から最外周までのいずれかの箇所と板厚方向に重畳して配置されていてもよい。この配置では、ループパターンがスパイラルパターンの最内周又は最外周と板厚方向に重畳する上記実施形態と異なり、ループパターンとスパイラルパターンの両端を接続する接続部との干渉が基板のおもて面上で生じ得る。そこで、接続部がループパターンの一対の端部の間を通過させる形態とすることで、上述した配置を成立させることができる。
【0123】
上記実施形態では、スパイラルパターン及びループパターンは、基板の外形形状に倣い、矩形状に渦巻きする形状及び矩形環状に形成されていた。また、電極パターン353a,353bは、矩形形状に形成されていた。しかし、これら各配線パターンの形状は、上記の形状に限定されるものではない。例えば、スパイラルパターン及びループパターンが円周状及び円環状に形成されたアンテナであってもよい。また、電極パターンは板厚方向に対向する配置であれば、L字型又はT字型等に形成されていてもよい。
【0124】
上記第一及び第二実施形態では、共鳴アンテナ部には静電容量部としてチップコンデンサが設けられていた。しかし、所定の静電容量を備えていれば、静電容量部はチップコンデンサ以外のコンデンサ素子であってもよい。また上記第三実施形態では、共鳴アンテナ部に一対の電極パターンを具備する静電容量部350を設け、当該電極パターンを基板から剥離することで、当該共鳴アンテナ部の共鳴周波数を調整容易にしていた。このような構成以外であっても、例えば、いずれか一方の電極パターンを予め複数の区画に分割して形成し、特定の一つの区画をスパイラルパターンの端部と接続するとともに、当該区画とそれ以外の区画とをスイッチ等の電気的な接続及び遮断を切り替え自在とする構成を介して接続し、当該スイッチの切り替えによって静電容量の値を増減させ、共鳴周波数の調整を可能とする構成としてもよい。さらには、静電容量部に相当する構成を有しない共鳴アンテナ部であってもよい。
【0125】
上記実施形態では、電力の伝送に用いる周波数を10MHzと規定して説明したが、この周波数は限定されるものではなく、法規等で認可されている電磁波の周波数域内であれば、所望の周波数を適宜選択してよい。例えば、10MHzよりも高い周波数帯を用いて電力の伝送をすることによれば、スパイラルパターンの全長短縮によるアンテナの小型化を実現できる。
【0126】
上記実施形態では、基板には、ループアンテナ部及び共鳴アンテナ部のみが形成されていた。しかし、例えば基板に送電器の構成として用いられている駆動回路や、受電器の構成として用いられている整流回路等をあわせて形成してもよい。或いは、電力の供給を受ける装置を構成する基板の一部を、当該ループアンテナ部及び共鳴アンテナ部の基材として用いてもよい。この場合、ループアンテナ部による磁界の形成が周囲の構成に妨げられ難いよう、その配置は配慮されることが望ましい。
【0127】
上記第五及び第六実施形態では、一組又は二組のループパターンに位相の異なる交流電流を印加することにより、受電側のアンテナの向きにかかわらず送電可能な構成について説明した。しかし、ループパターンの個数は、上述したような一組又は二組に限定されるものではない。加えて、複数のループパターンに印加される交流電流に与えられる位相差は、受電側のアンテナを貫通するような磁力線を持った磁界をアンテナ近傍に生させることができれば、半周期に限定されるものではない。
【0128】
そして、上記実施形態では、本発明によるアンテナを備える送電器及び受電器について説明したが、これら送電器の設置場所及び受電器の搭載される機器は、それぞれ限定されるものではない。送電器は、例えば住居、自動車、電車、船舶、航空機等の室内等に設置されることが考えられる。また受電器は、例えば携帯電話やコンピュータ等の端末機器の充電や駆動に用いられることが考えられる。或いは、例えば送電気を駐車場に敷設し、受電器を車両側に搭載させることで、電気モーターを動力源とする電気自動車又はハイブリッド自動車等の充電に用いてもよいのである。
【符号の説明】
【0129】
10 送電器、13 電源、15 駆動回路、20 受電器、23 整流回路、25 負荷又はバッテリ等(装置)、30,330 基板(基材)、333 領域、40,240,340,440,540,640 共鳴アンテナ部、43,443 スパイラルパターン(渦巻き状部)、43a 最内周、43b 端部、43c 端部、43d 最外周、45,245,345 接続部、247 領域、50 チップコンデンサ(静電容量部,コンデンサ素子)、350 静電容量部、353a,353b 電極パターン(電極部)、60,260,460 ループアンテナ部、63,263,463,563a,563b,663a,663b,663c,663d ループパターン(環状部)、564a,564b,664a,664b,664c,664d 領域、65,565a,565b,665a,665b,665c,665d 給電点、67,267 領域、100,200,300,400,500,600 アンテナ(送受電用アンテナ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源と当該電源から電力を供給される装置との間において非接触で電力を伝送する送受電用アンテナ及び当該アンテナを備える送電器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、非接触での電力を伝送する方式として、電磁誘導を用いた技術が知られている。この電磁誘導方式では、送電側のアンテナで磁界の変動を生じさせるとともに、当該磁界の変動する環境下に受電側のアンテナを配置して当該アンテナに誘導電流を生じさせることで、当該受電側への電力の伝送を実現している。このような電磁誘導方式の送電用又は受電用アンテナの一種として、例えば特許文献1には、ハウジングの内部で当該ハウジングの板厚方向と交差する表面の表面方向に沿って導電性の線材を渦状に巻いてなるコイルを、アンテナとして用いる構成が開示されている。
【0003】
さて、近年、上述した電磁誘導方式とは異なる方式として、電場又は磁場の共振を用いた方式が例えば非特許文献1等により提案されている。この共鳴方式による電力の伝送によれば、送電側及び受電側のアンテナ間を離間させた状態であっても、電磁誘導方式よりも効率の良く電力を伝送することができるのである。
【0004】
非特許文献1に記載の構成では、送電側及び受電側それぞれに、ループ状の銅線と、三次元の螺旋状に形成されて当該ループ状の銅線と磁気的に接続されるコイルと、を備える構成とされている。この構成において送電側及び受電側のコイルの共鳴周波数は、互いに同一となるよう設定されるとともに、送電側のループ状の銅線に電源から印加される交流電流の周波数に対応した値に設定される。
【0005】
以上説明した共鳴方式の構成では、送電側のループ状の銅線に電源から印加された交流電流による磁界の変動が、当該ループ状の銅線に磁気的に接続されたコイルに誘導電流を生じさせる。そして、当該誘導電流は、送電側のコイル周囲の磁場及び電場を共鳴周波数で振動させることとなる。ここで、送電側及び受電側のコイルの共鳴周波数が互いに同一であるため、これら各コイルは電場又は磁場を介して伝播する振動によって共鳴する。故に、互いに離間して設置された送電側のコイルから受電側のコイルへの電力の伝送が実現することとなる。そして、受電側のコイルに生じた電流による磁界の変動によれば、当該コイルに磁気的に接続された受電側のループ状の銅線に誘導電流が誘起される。したがって、当該ループ状の銅線に電気的に接続された装置への電力の供給が実現されるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−323352号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Andre Kurs、外 5名、「Wireless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances」、Science <URL: http://www.sciencemag.org/>、VOL 317、2007年 7月 6日、p.83−86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、非特許文献1に記載の共鳴方式の構成では、送電側及び受電側のアンテナは、電源又は装置に接続されるループ状の銅線に加えて、当該ループ状の銅線とは別のコイルを要する。加えて、所定の共鳴周波数に対応させてその全長が設定される必要があるコイルは、当該全長を短縮することによって小型化を図ることが困難である。そしてさらに、三次元の螺旋状を呈することによれば、コイルはアンテナを大型化させる要因となっていたのである。以上によれば、共鳴方式による電力の伝送では、送電側及び受電側の各アンテナの間隔を離間させた状態あっても電力の伝送効率を獲得し得る一方で、アンテナ構成が大型化するという問題が生じていたのである。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、共鳴方式によって電力の伝送の効率を向上させるとともに、薄型化を実現する送受電用アンテナ及び当該アンテナを備える送電器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、電源と当該電源から電力を供給される装置との間において非接触で電力を送電又は受電する送受電用アンテナであって、板状の基材と、基材の板厚方向と交差する表面の表面方向に沿って基材に導電性材料を渦巻き状に形成してなる渦巻き状部を有し、所定の共鳴周波数の設定される共鳴アンテナ部と、表面方向に沿って基材に導電性材料を環状に形成してなる環状部を有し、共鳴アンテナ部と磁気的に接続されるとともに電源側又は装置側と電気的に接続されるループアンテナ部と、を備えることを特徴とする送受電用アンテナとする。
【0011】
この発明によれば、基材の板厚方向と交差する表面の表面方向に沿って基材に導電性材料を渦巻き状に形成してなる渦巻き状部を有する共鳴アンテナ部は、所定の共鳴周波数を得る為に要する当該渦巻き状部全長を維持しつつ、基材の板厚方向に沿った厚みが低減される。そして、共鳴アンテナ部とともに、ループアンテナ部の有する環状部も基材の表面方向に沿って導電性材料を環状に形成してなることによれば、共鳴方式による電力の伝送に要する構成を、板状である基材にともに形成することができる。したがって、電源と装置との間において高い電力の伝送効率を獲得し得る共鳴方式の送受電用アンテナの薄型化を実現することができるのである。
【0012】
ここで一般に、環状に形成されたアンテナは、環状に囲われた領域の面積を広げるほど感度の向上を図ることができる。しかし、ループアンテナ部と共鳴アンテナ部とが薄型化のために同一の基材に形成され、環状の領域内に共鳴アンテナ部の渦巻き状部が形成されている場合、当該領域を通過する磁束の発生が渦巻き状部によって妨げられるおそれが生じる。そこで、請求項2に記載の発明では、渦巻き状部は、環状部に囲われた領域の外周側に形成されることを特徴とする。この発明によれば、環状部に囲われた領域に発生する磁束が渦巻き状部で妨げられることがない。故に、ループアンテナ部と共鳴アンテナ部との間における電磁誘導による電力の授受の効率をさらに向上させることができる。したがって、薄型化した共鳴方式の送受電用アンテナにおける電力の伝送効率をさらに向上させることができるのである。
【0013】
請求項3に記載の発明では、共鳴アンテナ部は、渦巻き状部の内周側の端部と外周側の端部とを接続する接続部を有し、接続部は、基材の渦巻き状部と対向する表面に形成されることを特徴とする。ここで、共鳴アンテナ部の共鳴周波数は、共鳴アンテナ部の有する誘導係数及び静電容量によって規定される。故に、渦巻き状部の両端部が開放状態である場合、当該両端部間の空間の有する静電容量によって、共鳴アンテナ部の共鳴周波数は変動することとなり、ばらつきを生じ易い。そこで、渦巻き状部の内周側の端部と外周側の端部を接続部によって接続することで、共鳴アンテナ部の共鳴周波数のばらつきを容易に抑制することができる。加えて、渦巻き状部と対向する基材表面に連結部を形成することで、当該連結部は渦巻き状部に干渉することなく、当該渦巻き状部を径方向に跨ぐことができるのである。
【0014】
請求項4に記載の発明では、共鳴アンテナ部は、渦巻き状部に接続され、所定の静電容量の設定される静電容量部を有することを特徴とする。上述したように、共鳴アンテナ部の共鳴周波数を規定する要因として、当該共鳴アンテナ部の有する静電容量がある。渦巻き状部に所定の静電容量の設定された静電容量部を接続する構成によれば、共鳴アンテナ部の共鳴周波数を容易に調整することができる。このように、所定の共鳴周波数を容易に得られる共鳴アンテナ部によれば、離間した送受電用アンテナ間での高い電力の伝送効率を実現する共鳴方式の利点を、効果的に発揮することができるのである。
【0015】
請求項5に記載の発明では、基材の表面に板厚方向に対向して配置され、導電性材料を膜状に形成してなる一対の電極部であることを特徴とする。この発明によれば、板厚方向に対向して配置される一対の電極部に挟まれた領域に電荷を蓄える構成によって、静電容量を有する静電容量部を形成できる。そして、電極部同士が互いに対向している面積に応じて静電容量部の静電容量も変化することによれば、共鳴アンテナ部の共鳴周波数を、当該面積の変更により細かく調整することが可能となる。加えて、膜状の電極部によれば、当該電極部が薄型化を妨げる構成とはなり得ない。以上によれば、薄型化を達成するとともに、所定の共鳴周波数を正確に設定し得る共鳴アンテナ部によって伝送効率の向上も確実に実現する送受電用アンテナを提供することができるのである。
【0016】
請求項6に記載の発明では、電極部の少なくとも一部は、基材の表面から剥離容易に形成されることを特徴とする。この発明によれば、電極部の一部を基材から剥離容易とすることで、当該電極部の一部を剥離させることにより、対向する電極部間に蓄積できる電荷量を低減することができる。このように、静電容量部の静電容量を容易に調整し得る構成によれば、例えば、製造時におけるばらつき又は経年変化等に起因する共鳴コイル部の共鳴周波数の所定周波数からずれを容易に補正することができるのである。したがって、共鳴方式による高い効率を示す電力の伝送を確実に実施できる送受電用アンテナを提供することができるのである。
【0017】
請求項7に記載の発明では、静電容量部は、所定の静電容量を有するコンデンサ素子であることを特徴とする。この発明によれば、静電容量部として所定の静電容量を有するコンデンサ素子を用いることによれば、当該静電容量部を簡素な構成で実現できるとともに、その静電容量のばらつきも抑制し易い。したがって、共鳴方式による高効率の電力伝送を確実に実施できる送受電用アンテナを提供することができるのである。
【0018】
ここで、ループアンテナ部の環状部と共鳴アンテナ部の渦巻き状部との間における電力授受の効率は、共鳴アンテナ部のインダクタンスが大きいほど、並びにループアンテナ部及び共鳴アンテナ部の電気抵抗が小さいほど、向上する。これらのうち共鳴アンテナ部のインダクタンスは、渦巻き状部を形成する導電性材料の渦巻き状の巻き数が多いほど大きくなる。一方、ループアンテナ部及び共鳴アンテナ部の電気抵抗は、渦巻き状部と環状部との間隔、及び渦巻き状に形成された導電性材料において径方向に隣接する当該導電性材料同士の間隔を広げるほど小さくなる。
【0019】
そして、板状の基材の大きさが予め定められていた場合、渦巻き状部の巻き数を増やすためには、渦巻き状部と環状部との間隔及び渦巻き状部を形成する導電性材料同士の径方向における間隔のうち少なくとも一方を狭める必要がある。逆に、これらの間隔を広げると、渦巻き状部の巻き数を減らさなければならない。このように、インダクタンスの増加と電気抵抗の低減は、背反する。
【0020】
そこで、渦巻き状の巻き数、隣接する導電性材料同士の間隔、及び渦巻き状部と環状部との間隔を調整することで、面積の限られた基材において、渦巻き状部と環状部との間における電力授受の効率を最大化し得る。故に、請求項8に記載の発明のように、電力授受の効率が最大となるよう、上述した巻き数及び間隔を定めることにより、薄型化と電力の伝送効率の向上とを共に果たし得る共鳴方式の送受電用アンテナが実現される。
【0021】
上述したように、ループアンテナ部は環状部に囲われる領域の面積を拡大するほど、当該ループアンテナ部の感度を向上させることができる。一方、共鳴アンテナ部は、渦巻き状部に生じる相互誘導を抑制するため、渦巻き状部の径方向の間隔を広げることが望ましい。そこで請求項9に記載の発明では、環状部は、渦巻き状部の最内周と板厚方向に重畳する位置に形成されることを特徴とする。この発明によれば、送受電用アンテナの面積を一定とした場合において、環状部に囲われる領域の面積と、共鳴アンテナ部の渦巻き状部の径方向の間隔とがともに最大限確保できることとなる。故に、限られた面積内で高い伝送効率を実現する送受電用アンテナとして、請求項9に記載の配置は好適なのである。
【0022】
請求項10に記載の発明では、環状部及び渦巻き状部は、基材の異なる表面に形成されることを特徴とする。この発明によれば、同一の基材に共鳴アンテナ部及びループアンテナ部をともに備える送受電用アンテナであっても、各アンテナ部の有する環状部及び渦巻き状部を基材の異なる表面に形成することで、当該各アンテナ部の配置上での干渉を防止するとともに、構成を簡素化し得る。したがって、高い電力の伝送効率と薄型化とを実現する送受電用アンテナの提供を容易に実施することができるのである。
【0023】
請求項11に記載の発明では、基材の表面方向に沿って配列される複数の環状部のそれぞれに、互いに異なる位相の交流電流を印加する。この交流電流によって生じる磁界の磁力線は、複数の環状部のうちの一つに囲まれた領域から放射され、他の環状部に囲まれた領域に入射するループ状となり得る。故に、受電側のアンテナにおいて共鳴アンテナ部の渦巻き状部の軸方向が送電側アンテナの基材の表面方向に沿っていても、送電側のアンテナから放射されるループ状の磁力線は、受電側の渦巻き状部によって囲まれた領域を貫通し得る。故に、受電側の共鳴アンテナ部及び送電側の共鳴アンテナ部は、磁場を介して伝播する振動によって共鳴できる。以上により、送電側のアンテナから受電側のアンテナへの送電が可能になる。
【0024】
したがって、電源と接続される複数の環状部のそれぞれに異なる位相の交流電流を印加する電源を備えることで、送電器は、送電側のアンテナに対する受電側のアンテナの向きにかかわらず、非接触で電力を送電することができる。
【0025】
請求項12に記載の発明において、電源が複数の環状部のそれぞれに同位相の交流電流を印加している場合では、当該交流電流によって生じる磁界の磁力線は、複数の環状部に囲まれた領域から基材の板厚方向に沿い無限遠に向かって放射されるものが支配的となる。故に、送電器の備える送電側のアンテナに対して受電側のアンテナが正対している場合、当該受電側の渦巻き状部により囲まれた領域を高密度の磁力線が貫通する。故に、受電側の共鳴アンテナ部及び送電側の共鳴アンテナ部は、磁場を介して伝播する振動によって強く共鳴できる。これにより、送電側のアンテナから受電側のアンテナへの高効率な送電が可能になる。
【0026】
一方、電源が複数の環状部のそれぞれに互いに異なる位相の交流電流を印加している場合では、上述したようなループ状の磁力線が形成される。このようなループ状の磁力線によれば、受電側の渦巻き状部の軸方向が送電側アンテナの基材の表面方向に沿っている場合であっても、送電側のアンテナから受電側のアンテナへの送電が可能になる。
【0027】
これらのように、複数の環状部のそれぞれに、互いに異なる位相の交流電流と同位相の交流電流とを交互に印加する電源を備えることで、送電器は、送電側のアンテナに対する受電側のアンテナの向きにかかわらず、高効率且つ確実な送電を行うことができる。
【0028】
請求項13に記載の発明のように、複数の環状部のうち少なくとも一組の環状部のそれぞれに印加される交流電流の位相が、互いに半周期異なっている場合について説明する。一組の環状部のうちの一方に印加された交流電流によって当該環状部により囲まれた領域に生じる磁界の磁力線の方向は、一組の環状部のうちの他方に印加された交流電流によって当該環状部により囲まれた領域に生じる磁界の磁力線の方向と逆向きとなる。故に、一組の環状部のうちの一方の環状部に囲まれた領域から放射され、他方の環状部に囲まれた領域に入射するループ状の磁力線が確実に形成される。これにより、受電側の渦巻き状部の軸方向が送電側アンテナの基材の表面方向に沿っている場合であっても、磁力線は、当該受電側の渦巻き状部によって囲まれた領域を確実に貫通できる。故に、受電側の共鳴アンテナ部及び送電側の共鳴アンテナ部は、磁場を介して伝播する振動によって確実に共鳴できる。したがって、送電側のアンテナに対する受電側のアンテナの向きにかかわらず、送電器は、送電側のアンテナから受電側のアンテナへの送電を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明によるアンテナを用いた非接触の電力伝送を説明するための模式図である。
【図2】本発明の第一実施形態によるアンテナの機械的構成を説明する図であって、(a)アンテナのおもて面側、(b)アンテナの裏面側、を示す図である。
【図3】本発明によるアンテナの周囲に形成される磁界の様子を説明するための図であって、(a)〜(c)第一実施形態によるアンテナについて、(d)〜(f)第二実施形態によるアンテナについて、説明する図である。
【図4】本発明の第一実施形態によるアンテナにおいて、ループアンテナ部に入力される交流電流の周波数と、当該ループアンテナ部から共鳴アンテナ部に伝達されるエネルギーとの関係を示す図である。
【図5】本発明による第二実施形態によるアンテナの機械的構成を説明する図であって、(a)アンテナのおもて面側、(b)アンテナの裏面側、を示す図である。
【図6】本発明による第三実施形態によるアンテナの機械的構成を説明する図であって、(a)アンテナのおもて面側、(b)アンテナの裏面側、を示す図である。
【図7】静電容量部の具備する電極パターンの一部を剥離させた状態のアンテナを説明する図であって、(a)アンテナのおもて面側、(b)アンテナの裏面側、を示す図である。
【図8】静電容量部の具備する電極パターンを全て剥離させた状態のアンテナを説明する図であって、(a)アンテナのおもて面側、(b)アンテナの裏面側、を示す図である。
【図9】電極パターンの面積と、共鳴アンテナ部の共鳴周波数との関係を説明するための図である。
【図10】本発明の第四実施形態によるアンテナの機械的構成を説明するための図である。
【図11】スパイラルパターンの巻き数を減らすことにより、ループパターンとスパイラルパターンとの間隔を広げたアンテナの構成を説明するための図である。
【図12】ループパターンとスパイラルパターンとの間隔を変更したことにより生じるアンテナの共振特性の変化を示す図である。
【図13】ループパターン及びスパイラルパターン間の間隔と、共振特性との相関を説明するための図である。
【図14】スパイラルパターンの線間隔を狭めることにより、ループパターンとスパイラルパターンとの間隔を広げたアンテナの構成を説明するための図である。
【図15】当該ループアンテナ部から共鳴アンテナ部に伝達されるエネルギーが、線間隔を狭めることによって変化することを説明するための図である。
【図16】本発明の第五実施形態によるアンテナの機械的構成を説明するための図である。
【図17】本発明の第五実施形態によるアンテナの近傍に形成される磁界の様子を説明するための図であって、(a)同位相の交流電流が一組のループパターンに印加された場合について、(b)半周期分の位相差を与えられた交流電流が一組のループパターンに印加された場合について、それぞれ説明するための図である。
【図18】本発明の第六実施形態によるアンテナの機械的構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0031】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態によるアンテナ100を備える送電器10及び受電器20の構成例を示している。送電器10は、アンテナ100に加えて駆動回路15を有している。駆動回路15は、電源13及びアンテナ100に電気的に接続されており、当該電源13から供給される電力に基づいて正弦波の交流電流を生成し、アンテナ100へ印加する。受電器20は、アンテナ100に加えて整流回路23を有している。整流回路23は、アンテナ100、及び電力を消費する例えばプロセッサ等の負荷又は電力を蓄積するバッテリ等25に電気的に接続されており、アンテナ100側から伝達された交流電流を直流電流に変換し、当該負荷又はバッテリ等25に印加する。この整流回路23は、具体的にはダイオード等の整流素子を主体に構成されており、整流した直流電流を負荷又はバッテリ等25に印加することで、当該負荷の駆動やバッテリの充電を実施する。尚、第一実施形態において、駆動回路15によって生成される正弦波の周波数は10メガヘルツ(MHz)とする。また、整流回路23によって電流が印加される負荷又はバッテリ等25は、電力を用いるものであれば、例えば直流モーターや照明素子等何ら限定されない。
【0032】
以上説明した全体構成において、送電器10及び受電器20のそれぞれが備えるアンテナ100によって、電源13と当該電源13から電力を供給される負荷又はバッテリ等25との間で、非接触での電力の伝送が実現されている。まず、アンテナ100の構成について詳細に説明する。
【0033】
図2(a)及び(b)に示すようにアンテナ100は、基板30、共鳴アンテナ部40、及びループアンテナ部60等によって構成されている。基板30は、例えばガラス繊維を含有するエポキシ樹脂からなり、矩形板状に形成されている。この基板30は、単層基板であって、その両面には導電性材料である銅箔等からなる配線パターンが形成されている。尚、第一実施形態における基板30は、一辺の長さが270ミリメートル(mm)の正方形であって、その板厚は約1.6mmである。
【0034】
共鳴アンテナ部40は、無給電アンテナであって、スパイラルパターン43、接続部45、及びチップコンデンサ50を有している。スパイラルパターン43及び接続部45は、基板30に形成されている配線パターンである。スパイラルパターン43は、板厚方向と交差する表面の表面方向に沿って当該基板30に、径方向に一定の間隔で渦巻き状に形成されている。第一実施形態のスパイラルパターン43は、基板30の外形形状に倣い、矩形状にうずを巻いている。尚、このスパイラルパターン43が形成されている基板30の面(図2(b))を便宜的に裏面側とする。
【0035】
チップコンデンサ50は、所定の静電容量の設定された素子であって、基板30の裏面(図2(b))のスパイラルパターン43の外周側に実装されている。このチップコンデンサ50は、一端でスパイラルパターン43の外周側の端部43bと接続されており、他端でスパイラルパターン43の内周側の端部43cと接続部45を介して接続されている。チップコンデンサ50とスパイラルパターン43とを接続させる接続部45は、端部43cからスルーホール等の構成により一旦基板30のおもて面に延出している(図2(a))。接続部45は、基板30のおもて面で当該基板30の外縁側に向かうよう形成されることでスパイラルパターン43と干渉することなく当該パターン43を跨ぎ、スルーホール等の構成によって再び裏面へ戻されている。そして接続部45は、基板30の裏面でスパイラルパターン43の最外周に沿ってチップコンデンサ50へ向かい、当該コンデンサ50に接続されている。
【0036】
また共鳴アンテナ部40には、所定の共鳴周波数が設定されている。この共鳴周波数は、駆動回路15がアンテナ100に印加する交流電流の周波数に対応している。具体的には、駆動回路15によって印加される交流電流の周波数が10MHzである場合、当該交流電流によってループアンテナ部60の周囲に生じる電磁波は、30メートル(m)程度の波長を備える正弦波となる。この正弦波の半波長分となる15m程度の長さに共鳴アンテナ部40のスパイラルパターン43及び接続部45の全長を設定することにより、上述した電磁波によって共振を生じ易い構成となる。
【0037】
さらに、共鳴アンテナ部40の共鳴周波数は、当該共鳴アンテナ部40の誘導係数をL、静電容量をCとした場合、1/(2π√(LC))によって与えられる値となる。この静電係数Lは、上述したように設定されたスパイラルパターン43の長さに関連している。一方、静電容量Cは主にスパイラルパターン43の形態に起因する浮遊容量に関連している。この浮遊容量とは、スパイラルパターン43の径方向に隣接するパターン間で生じる静電容量、及び当該パターン43の両端間に生じる静電容量である。第一実施形態では、基板30上の配線パターンとしてスパイラルパターン43を形成することで、隣接するパターン間の間隔を一定に保ち、その静電容量のばらつきを抑制している。また、スパイラルパターン43の両端をチップコンデンサ50及び接続部45によって接続することで、当該パターン43の両端間に生じる静電容量のばらつきを抑制している。これらにより、共鳴アンテナ部40は、簡素な構成を維持しつつ、所定の共鳴周波数を安定的に獲得することができる。
【0038】
ループアンテナ部60は、給電アンテナであって、共鳴アンテナ部40と磁気的に接続されるとともに、電源13側の駆動回路15、又は負荷又はバッテリ等25側の整流回路23(図1参照)と電気的に接続されている。このループアンテナ部60は、ループパターン63及び給電点65を有している。ループパターン63は、スパイラルパターン43とは異なる面である基板30のおもて面に形成されている配線パターンである(図2(a))。このループパターン63は、基板30の表面方向に沿って当該基板30に矩形環状に形成されている。加えてループパターン63は、その平面方向の中心位置がスパイラルパターン43の平面方向の中心位置とほぼ同じ位置となるよう配置され、スパイラルパターン43の最内周43aと板厚方向に重畳している。このループパターン63の配置によれば、ループパターン63に囲われた領域67の外周側にスパイラルパターン43は形成されることとなる。給電点65は、このように形成されたループパターン63の一対の端部である。給電点65は、駆動回路15又は整流回路23と配線等で電気的に接続されており、電力の入力又は出力を行う箇所である。
【0039】
次に、これまで説明したアンテナ100を備える送電器10及び受電器20によって実現される、所謂共鳴方式による非接触の電力伝送の原理について以下説明する。
【0040】
この共鳴方式による電力の伝送によれば、送電器10及び受電器20のアンテナ間を離間させた状態であっても、従来の例えば電磁誘導方式よりも効率の良く電力を伝送することができる。具体的には、送電器10側のアンテナ100において、駆動回路15からの交流電流の印加によって、ループアンテナ部60は、アンテナ100周囲の磁界を交流電流の周波数と同一の周波数で変動させる。この磁界の変動は、共鳴アンテナ部40の主にスパイラルパターン43に誘導電流を生じさせる。そして当該誘導電流は、送電器10側の共鳴アンテナ部40周囲の磁場及び電場を共鳴周波数で振動させることとなる。ここで、送電器10側及び受電器20側の共鳴アンテナ部40の共鳴周波数が互いに同一であるため、これら各共鳴アンテナ部40は電場又は磁場を介して伝播する振動によって共鳴する。故に、互いに離間して設置された送電器10側の共鳴アンテナ部40から受電器20側の共鳴アンテナ部40への電力の伝送が実現することとなる。そして、受電器20側のコイルに生じた電流による磁界の変動により、受電側のループアンテナ部60に誘導電流が誘起される。したがって、このループアンテナ部60に整流回路23を介して接続された負荷又はバッテリ等25への電力の供給が実現されるのである。
【0041】
次に、上述したループアンテナ部60への交流電流の印加によって生じるアンテナ100周囲の磁界の状態を、図3(a)〜(c)に基づいて以下説明する。
【0042】
ループパターン63がスパイラルパターン43の内周側に配置されたアンテナ100において(図3(a))、当該ループパターン63に電流を印加すると、領域67を基板30の板厚方向(図3(b)のZ方向)に貫通する磁束が形成される(図3(b)二点鎖線内)。一方、ループパターン63の外周側では、板厚方向への磁束の貫通はスパイラルパターン43によって妨げられている。これは、スパイラルパターン43の径方向の間隔が印加された交流電流の波長よりも短いためである。そして、アンテナ100周囲において磁界の強さが同じ領域を結んだものを図3(c)に実線で示す。このループアンテナ部60への電流の印加によれば、図3(c)に示す態様の磁界がアンテナ100の周囲に形成されることとなる。
【0043】
ここで、第一実施形態のように、スパイラルパターン43をループパターン63の外周側に配置したアンテナ100の周囲に形成される磁界の強さと、後述する第二実施形態によるアンテナ200の周囲に形成される磁界の強さ(図3(f)参照)とを比較する。ここで、第二実施形態におけるアンテナ200では、ループパターン263がスパイラルパターン43の外周側に配置されている(図3(d)参照)。これら第一実施形態におけるアンテナ100と第二実施形態によるアンテナ200とに同一の交流電流を印加した場合、アンテナ100において基板30から特定の磁界の強さを示す位置までの距離D1は、アンテナ200において基板30から当該特定の磁界の強さを示す位置までの距離D2よりも1.5倍程度になることが判明したのである。これは、ループパターン63の外周側にスパイラルパターン43を配置する形態により、当該ループパターン63に囲われた領域67に発生する磁束が当該スパイラルパターン43によって妨げられ難いためである。これにより、ループアンテナ部60は強度の高い磁界を形成できる。
【0044】
次に、ループアンテナ部60に印加する交流電流の周波数と、ループアンテナ部60から共鳴アンテナ部40へ伝達される電力との関係を図4に基づいて説明する。この図4の縦軸(Return Loss)は、アンテナ100での反射電力特性を示すSパラメータによる値であって、ループアンテナ部60に入力した電力が、どれだけ戻ってきたかを示している。ループアンテナ部60から共鳴アンテナ部40へ電力が伝達された場合、戻り分の電力が小さくなることから、Sパラメータは負の値をとる。具体的に第一実施形態によるアンテナ100では、共鳴アンテナ部40に設定された共鳴周波数である10MHzの交流電流が印加された場合に、ループアンテナ部60から共鳴アンテナ部40への電力の伝達が最大で生じることとなる。
【0045】
ここまで説明した第一実施形態では、図2に示すように基板30の表面方向に沿ってスパイラルパターン43を形成することで、所定の共鳴周波数を得る為に要するスパイラルパターン43の全長を維持しつつ、共鳴アンテナ部40の板厚方向に沿った厚みを低減することができる。加えて、ループパターン63もスパイラルパターン43と同様に基板30の表面方向に沿って形成することによれば、共鳴方式による電力の伝送に要する共鳴アンテナ部40及びループアンテナ部60を、矩形板状である基板30にともに形成することができるのである。
【0046】
加えて第一実施形態では、ループパターン63の外周側にスパイラルパターン43を配置する形態により、ループアンテナ部60が形成する磁界の強度を高められる。(図3(c)参照)。故に、ループアンテナ部60と共鳴アンテナ部40とが薄型化のために同一の基板30に形成される形態であっても、当該ループアンテナ部60と共鳴アンテナ部40との間での電力の授受の効率を向上させることができるのである。
【0047】
また、ループアンテナ部60は、ループパターン63による領域67の面積を拡大するほど、感度の向上を図り得る。一方、共鳴アンテナ部40では、スパイラルパターン43を通過する電流が、当該パターン43の周囲に磁界を生じさせる。渦巻き状を呈するスパイラルパターン43においては、径方向に隣接するパターン同士で、相互に電流の流れを妨げる磁界を形成してしまうこととなる。故に、スパイラルパターン43の径方向の間隔は広げることが望ましい。そこで、ループパターン63をスパイラルパターン43の最内周43aと板厚方向に重畳させる配置によれば、一定の限られた面積内において、ループパターン63の領域67の面積と、スパイラルパターン43の径方向の間隔とがともに最大限確保できることとなる。故に、設置のための面積が限られ易いアンテナ100において、高い伝送効率を実現するための形態として本発明は特に好適なのである。加えて、この配置によれば、ループパターン63は、スパイラルパターン43を跨ぐため、おもて面に形成されることを要する接続部45と、基板30上で干渉しない。
【0048】
さらに第一実施形態では、共鳴アンテナ部40は、スパイラルパターン43の両端部43b,43c間を、チップコンデンサ50及び接続部45を介して接続することで、誘導係数L及び静電容量Cによって規定される当該共鳴アンテナ部40の共鳴周波数のばらつきを簡素な構成で抑制している。このように、所定の共鳴周波数を確実に示し得る構成とされた共鳴アンテナ部40は、ループアンテナ部60との間で最大限の電力量を授受することができるとともに、離間している送電側又は受電側のアンテナ100間でも高い電力の伝送効率を示すことができる。以上によれば、共鳴アンテナ部40にチップコンデンサ50を設ける構成によって、共鳴方式による電力伝送の利点を効果的に発揮するアンテナ100とすることができる。
【0049】
したがって、板状の基板30に共鳴方式の電力伝送に要する構成を集約することで薄型化を実現したうえで、高い電力の伝送効率を獲得するアンテナ100を提供することができるのである。加えて、ループパターン63及びスパイラルパターン43を基材の異なる表面に形成する配置によれば、配置上での干渉を防止したうえで、構成を簡素化し得る。故に、高い電力の伝送効率と薄型化とをともに実現するアンテナを容易に提供することができるのである。
【0050】
尚、第一実施形態において、負荷又はバッテリ等25が請求項に記載の「装置」に、基板30が請求項に記載の「基材」に、スパイラルパターン43が請求項に記載の「渦巻き状部」に、チップコンデンサ50が請求項に記載の「静電容量部」及び「コンデンサ素子」に、ループパターン63が請求項に記載の「環状部」に、アンテナ100が請求項に記載の「送受電用アンテナ」に、それぞれ相当する。
【0051】
(第二実施形態)
図5(a)及び(b)に示す本発明の第二実施形態によるアンテナ200は、第一実施形態によるアンテナ100の変形例である。このアンテナ200では、共鳴アンテナ部240の有するスパイラルパターン43は、ループアンテナ部260の有するループパターン263によって囲まれる領域267内に配置されている。加えてループパターン263は、スパイラルパターン43の最外周43dと板厚方向に重畳している。また、共鳴アンテナ部240の有する接続部245は、第一実施形態における接続部45と実質的には同一であって、ループアンテナ部260の形成面において基板30の幅方向(図5(a)における左右方向とする)中央付近に形成されている。以上の構成において、スパイラルパターン43の最外周43dと板厚方向に重畳するループパターン263は、第一実施形態の最内周43aと重畳するループパターン63と同様に、接続部245と基板30上で干渉しない。
【0052】
以下、スパイラルパターン43に対するループパターン263の配置の違いが、ループアンテナ部260に交流電流を印加した際に当該ループアンテナ部260が生じさせる磁界の分布に与える影響について、図3(a)〜(c)を参照しつつ、同図(d)〜(f)に基づいて説明する。
【0053】
ループパターン263によって囲われる領域267と板厚方向に重畳するようスパイラルパターン43を配置した場合(図3(d))、磁束は、スパイラルパターン43を板厚方向に貫通することができない(図3(e))。これらの磁束は、スパイラルパターン43の最内周43aの内側の領域247であって、第一実施形態の領域67(図3(b))と同程度となる面積の領域247を板厚方向に貫通するのみとなる(図3(e)二点鎖線内)。加えて、ループパターン263によって生じた磁界によりスパイラルパターン43に誘起された誘導電流は、当該磁界を打ち消す磁界を生じさせることとなる。故に、ループパターン263によってアンテナ200の周囲に生じる磁界は(図3(f))、アンテナ100の周囲に形成される磁界(図3(c)参照)よりも弱いものとなる。
【0054】
ここまで説明した図5示す第二実施形態によるアンテナ200では、ループアンテナ部260と共鳴アンテナ部240との間での電力の授受の効率が、第一実施形態における当該効率よりも低下することとなる。しかしながら、ループアンテナ部260及び共鳴アンテナ部240間での電力の授受は充分に可能である。加えて、共鳴方式による電力の伝送に要する共鳴アンテナ部240及びループアンテナ部260を、矩形板状である基板30にともに形成することができる。
【0055】
したがって、第一実施形態と同様に、共鳴方式の電力伝送に要する構成を集約することで薄型化を実現したうえで、高い電力の伝送効率を獲得するアンテナ200を実現することができるのである。
【0056】
尚、第一実施形態において、ループパターン263が請求項に記載の「環状部」に、アンテナ200が請求項に記載の「送受電用アンテナ」に、それぞれ相当する。
【0057】
(第三実施形態)
図6(a)及び(b)に示す本発明の第三実施形態によるアンテナ300は、第二実施形態によるアンテナ200の変形例である。第三実施形態によるアンテナ300は、第二実施形態のアンテナ200のチップコンデンサ50(図5(b)参照)に変えて、静電容量部350を有している。以下、第三実施形態によるアンテナ300の構成について、図6に基づいて詳細に説明する。
【0058】
アンテナ300は、基板330、ループアンテナ部260、及び共鳴アンテナ部340等によって構成されている。基板330には、第二実施形態の基板30の特定方向(図6の上下方向、以下当該方向を長手方向とする)の長さを延長することによって、スパイラルパターン43及びループパターン263のいずれも配置されていない領域333が形成されている。尚、第二実施形態と実質的に同一の構成であるループアンテナ部260の配置された側を、基板330のおもて面側とする(図6(a))。
【0059】
共鳴アンテナ部340は、スパイラルパターン43、所定の静電容量が設定された静電容量部350、及び接続部345を有している。静電容量部350は、基板330の両面に板厚方向に対向して配置され、導電性材料を膜状に形成してなる一対の電極パターン353a,353bを有している。電極パターン353a,353bは、互いに同一の形状であって、基板330の長手方向と直交する幅方向を長手方向とする矩形形状に形成されている。おもて面に形成されている電極パターン353aは、スパイラルパターン43の内周側の端部43cと、接続部345を介して接続されている。接続部345は、基板330の両面にわたって形成されている配線パターンである。接続部345は、端部43cからスルーホール等の構成によっておもて面に延出している。この位置から基板330の長手方向に沿って外周側へ向かって形成された接続部345は、おもて面に配置されたループパターン263を避けるため、スルーホール等によって裏面を迂回して、表面に戻されている。そして、接続部345は電極パターン353aに当該電極パターン353aの長手方向中央付近で接続されている。また、電極パターン353bは、基板330の裏面で、近接する当該基板330の外縁形状に沿って延長されたスパイラルパターン43の端部43bと接続されている。さらに、これら電極パターン353a,353bは、基板330の表面から剥離容易に形成されている。
【0060】
これらの一対の電極パターン353a,353bに挟まれた領域は、電荷を蓄えることができるので、静電容量を備える静電容量部350を構成することとなる。この静電容量部350の静電容量は、電極パターン353a,353bが板厚方向に対向している面積に応じて変化することとなる。故に、一定の間隔で予め設定された所定の静電容量の値を有するものから、所望する静電容量に近い値を有するものを選択するしかないコンデンサ素子と比較して、静電容量部350は所望の静電容量に厳密に近い値を設定されることができる。以上によれば、共鳴アンテナ部340の共鳴周波数を正確に設定することができるのである。
【0061】
さらに、剥離容易な構成とされた電極パターン353a,353bの一部を剥離させることによれば、当該電極パターン353a,353b間に蓄積できる電荷量を低減する調整が可能である。この構成によれば、アンテナ300の製造後であっても、静電容量部350の静電容量の調整は容易である。以下、図6〜図9に基づいて、電極パターン353a,353bの一部の剥離によって生じる共鳴アンテナ部340の共鳴周波数の変化について詳細に説明する。尚、電極パターン353a,353bの全てが剥離されることなく残留している状態(図6)での共鳴周波数はほぼ10MHzである。
【0062】
具体的には、基板330のおもて面に形成されている電極パターン353aの半分程度を剥離させた場合(図7(a))、静電容量部350の静電容量の値は低下する。これにより、上述した式で与えられる共鳴アンテナ部340の共鳴周波数は僅かに高くなる。この共鳴周波数の上昇は、図9に一点鎖線で示す相関からも読み取れる。このような調整構造を備えるアンテナ300とすることによれば、例えば製造時におけるばらつき又は経年変化等に起因する共鳴アンテナ部340の共鳴周波数の所定周波数からずれを容易に補正することができるのである。
【0063】
尚、電極パターン353a,353bの全てを剥離させた場合(図8(a)及び(b))、静電容量部350の静電容量値の大幅な低下によって共鳴アンテナ部340の共鳴周波数は著しく高い値となる(図9破線)。
【0064】
以上説明した第三実施形態によれば、膜状の電極パターン353a,353bの形成によってアンテナ300の厚さを抑制したまま、当該アンテナ300の共鳴周波数を所定の周波数に容易に設定及び補正することができる。したがって、第一及び第二実施形態と同様に薄型化を達成するともに、共鳴による電力の伝送が効率よく且つ確実に行うことができるアンテナ300の提供を実現することができるのである。
【0065】
尚、第三実施形態において、基板330が請求項に記載の「基材」に、電極パターン353a,353bが請求項に記載の「電極部」に、アンテナ300が請求項に記載の「送受電用アンテナ」に、それぞれ相当する。
【0066】
(第四実施形態)
図10に示す本発明の第四実施形態によるアンテナ400は、第一実施形態によるアンテナ100の別の変形例である。このアンテナ400では、共鳴アンテナ部440の有するスパイラルパターン443と、ループアンテナ部460の有するループパターン463との間に、スペースが確保されている。この共鳴アンテナ部440は、第一実施形態の共鳴アンテナ部40と同様に、ループアンテナ部460に印加される交流電流の周波数において共振する特性を備えている。
【0067】
第四実施形態において、スパイラルパターン443は、ループパターン463との間における電力授受の効率が最大となるよう形成されている。具体的にはアンテナ400では、スパイラルパターン443の渦巻き状の配線パターンの巻き数Nと、当該配線パターンの径方向に隣接する部分同士の線間隔Sと、スパイラルパターン443及びループパターン463との間の間隔Xが最適化されている。これら巻き数N、線間隔S、間隔Xを最適化することにより、共鳴アンテナ部440とループアンテナ部460との間の共振特性は向上する。故に、スパイラルパターン443及びループパターン463間で、効率良く電力の授受を行い得るようになる。
【0068】
このようなループパターン463とスパイラルパターン443との間における電力授受の効率に係わる共鳴アンテナ部440とループアンテナ部460との共振特性は、Q値によって示される。このQ値は、以下の数式1によって与えられる。
【0069】
【数1】
【0070】
以上の数式1において、ωは交流電流の角速度、Lは共鳴アンテナ部440のインダクタンス、Rはループアンテナ部460及び共鳴アンテナ部440に係わる電気抵抗を表している。数式1から明らかなように、共振特性は、共鳴アンテナ部440のインダクタンスLが大きいほど、並びに電気抵抗Rが小さいほど、向上する。
【0071】
これらのうち共鳴アンテナ部440のインダクタンスLは、以下の数式2によって与えられる。
【0072】
【数2】
【0073】
尚、上式においてAは以下の数式3により表される。
【0074】
【数3】
【0075】
ここで、数式2及び数式3において、D0はスパイラルパターン443の外縁における一辺の長さ、D1はスパイラルパターン443の内縁における一辺の長さ、Wはスパイラルパターン443を形成する配線パターンの線幅、Sはスパイラルパターン443において径方向に隣接する配線パターン同士の線間隔、Nはスパイラルパターン443の巻き数を表している。以上の数式2によれば、スパイラルパターン443において渦巻き状の配線パターンの巻き数Nが多いほど、共鳴アンテナ部440のインダクタンスLは大きくなる。
【0076】
一方、ループアンテナ部460及び共鳴アンテナ部440に係わる電気抵抗Rは、スパイラルパターン443とループパターン463と間の間隔X、及びスパイラルパターン443の線間隔Sを広げるほど小さくなる。尚、これらの間隔X及び線間隔Sと、電気抵抗Rとの相関についての詳細は、後述する。
【0077】
基板30の大きさが予め定められていた場合、スパイラルパターン443の巻き数Nを増やすためには、間隔X及び線間隔Sのうち少なくとも一方を狭める必要がある。逆に、これらの間隔X及び線間隔Sを広げようとすると、巻き数Nを減らさなければならない。このように、インダクタンスLの増加と電気抵抗Rの低減は、背反する。
【0078】
以上の相関を踏まえて、予め基板30の大きさが定められたアンテナ400において、巻き数N及び間隔Xを変更した場合の共振特性の変化について、図11〜図13に基づいて説明する。
【0079】
図11の(a)〜(f)には、スパイラルパターン443において隣接する部分同士の線間隔Sを一定とし、巻き数Nを減らすことにより、間隔Xを拡大したアンテナが示されている。具体的に、図11(a)に示すアンテナは、図11の(a)〜(f)に示すアンテナのうちで、スパイラルパターン443とループパターン463とが最も近接している。そして図11(a)に示すアンテナに対し、巻き数Nを一周分ずつ減らしたものが、図11(b)〜(f)に順に示されている。尚、図11に示すアンテナでは、スパイラルパターン443の一周分の削除により、間隔XはDL/8ずつ(DLは、ループパターン463の一辺の長さ)増加する。
【0080】
図12に示すように、巻き数Nを減らすことにより共振特性を示すQ値は向上し、図11(a)に示すアンテナに対して四周分の配線パターンを削除した図11(e)示すアンテナ400において最大となる。そして、図11(e)に示すアンテナ400からさらに配線パターンを削除すると、アンテナの共振特性は悪化する。図12には、シミュレーションによる値と、実測値とが示されている。これらのシミュレーション値及び実測値によれば、図11(e)に示すアンテナ400は、図11(a)に示すアンテナに対して2倍程度のQ値を示す。
【0081】
このような巻き数N及び間隔Xの変更に起因した共振特性の変化について、図13に基づいてさらに詳しく説明する。この図13には、Q値、インダクタンスL、及びループパターン463を流れる電流量Iが示されている。図13において、これらQ値、インダクタンスL、及び電流量Iは、それぞれの最大値で正規化されている。
【0082】
図13において、図11(a)〜(f)に示すアンテナにおけるインダクタンスLは、破線で示されている。共鳴アンテナ部440において、スパイラルパターン443によるインダクタンスLは、上述した数式2にからも明らかなように、巻き数Nの減少にともなって低下する。
【0083】
一方、図13において、図11(a)〜(f)に示すアンテナにおける電流量Iは、一点鎖線で示されている。ループアンテナ部460において、ループパターン463を流れる電流量Iは、間隔Xの拡大に伴って増加する。このように、間隔Xの拡大により電流量Iが増加する理由について説明する。
【0084】
ループパターン463に電流が流れると、当該ループパターン463の近傍に磁界が生じる。この磁界により、ループパターン463と隣接するスパイラルパターン443には、ループパターン463を流れる電流とは逆向きに流れる逆電流が誘起される。スパイラルパターン443とループパターン463との間隔Xを狭めることによれば、スパイラルパターン443に作用する磁界の強度は高まる。故に、スパイラルパターン443には、強い逆電流が誘起される。
【0085】
このように、ループパターン463を流れていた電流のエネルギーが磁界を介してスパイラルパターン443に伝達されることにより、当該ループパターン463を流れる電流量Iは低下する。スパイラルパターン443に誘起される逆電流が強くなるほど電流量Iの低下は大きくなるので、間隔Xが狭いアンテナほど電流量Iは小さくなる。
【0086】
そして数式1に示したように、アンテナのQ値は、インダクタンスLと電気抵抗Rの逆数の積に対応している。上述したように、間隔Xを広げるほどインダクンタンスLは減少する。一方、間隔Xを広げるほどループパターン463を電流が流れ易くなるので、電気抵抗Rの逆数は増加する。したがって、これらの積が最も大きくなるよう間隔Xを定めることにより、共振特性に優れた、例えば図11(e)に示すアンテナ400を得ることができる。
【0087】
次に、予め基板30の大きさが定められたアンテナ400において、スパイラルパターン443の巻き数Nを一定とし、線間隔Sを狭めることにより、間隔Xを拡大した場合の共振特性の変化について、図14及び図15に基づいて説明する。
【0088】
図14の(a)〜(d)には、スパイラルパターン443の巻き数Nを一定とし、スパイラルパターン443の線間隔Sを減らすことにより、間隔Xを拡大したアンテナが示されてる。具体的に、図14(a)に示すアンテナ400は、スパイラルパターン443の線間隔が最も広い形態(例えば、S=6ミリメートル)である。この図14(a)に示すアンテナ400対して線間隔Sを所定の値(例えば1ミリメートル)ずつ減らしたものが、図14(b)〜(d)に示すアンテナである。
【0089】
図15に示すように、線間隔Sを狭めると共振特性を示すQ値は悪化する。このような線間隔S及び間隔Xの変更に起因した、共振特性の変化についてさらに詳しく説明する。尚、図15の縦軸(Return Loss)は、図4と同様に、アンテナ400での反射電力特性を示すSパラメータによる値である。共鳴アンテナ部440とループアンテナ部460との共振特性が良好であり、Q値の高い形態のアンテナでは、ループアンテナ部460から共鳴アンテナ部440に電力の伝達が効率よく行われるので、戻り分の電力が小さくなる。即ち、Sパラメータの値は、小さくなる。
【0090】
共鳴アンテナ部440において、スパイラルパターン443によるインダクタンスLは、巻き数Nが一定であることから、線間隔Sを変更しても僅かな変化しか生じない。
【0091】
一方、共鳴アンテナ部440の電気抵抗Rは、線間隔Sの縮小にともなって増加する。詳しく説明すると、スパイラルパターン443を形成する配線パターンにおいて、径方向に隣接する部分の一方に流れる電流は、当該電流と逆方向の電流を他方に誘起する。すると、この逆方向に流れる逆電流は、スパイラルパターン443を流れる正規の電流と干渉し、当該スパイラルパターン443において電気抵抗として作用することとなる。そして、径方向に隣接する配線パターン同士の線間隔Sを狭めることによれば、高い強度の磁界が隣接する配線パターン間で互いに作用し合うこととなるので、逆電流の増加が引き起こされる。故に、共鳴アンテナ部440の電気抵抗Rは増加する。したがって、スパイラルパターン443の線間隔Sが確保されるよう間隔Xを定めることにより、共振特性に優れた、例えば図14(a)に示すアンテナ400を得ることができる。
【0092】
尚、線間隔Sを狭めるほど、共振する周波数が、低周波周領域に推移する。これは、スパイラルパターン443が、基板30の外周側に寄ったことにより、当該スパイラルパターン443全長が延びるためである。
【0093】
以上のように、巻き数N、線間隔S、及び間隔Xを調整することにより、面積の限られた基板30において、ループパターン463とスパイラルパターン443との間における電力授受の効率は最大化され得る。このように、電力授受の効率が最大となる、即ち共振特性が向上するよう、上述した巻き数N、間隔X、及び線間隔Sを定めることにより、薄型化と電力の伝送効率の向上とを共に果たし得る共鳴方式のアンテナ400が実現される。
【0094】
尚、第四実施形態において、スパイラルパターン443が請求項に記載の「渦巻き状部」に、ループパターン463が請求項に記載の「環状部」に、アンテナ400が請求項に記載の「送受電用アンテナ」に、それぞれ相当する。
【0095】
(第五実施形態)
図16に示す本発明の第五実施形態によるアンテナ500は、第四実施形態によるアンテナ400の変形例である。上記実施形態のように、ループパターンが一つである場合、当該ループパターンに電流を印加することにより発生する磁界の磁力線は、基板30においてループパターンに囲まれた領域から、基板30の板厚方向に沿って放射され無限遠に向かうものが支配的となる。故に、受電側のアンテナにおいて共鳴アンテナ部のスパイラルパターンの軸方向が送電側のアンテナの基板30の表面方向に沿っていると、送電側のアンテナから放射される磁力線は、受電側のアンテナのスパイラルパターンを貫通することができなくなる。この場合、送電側のアンテナによる磁界の振動が送電側のアンテナに伝わらないので、受電側の共鳴アンテナ部及び送電側の共鳴アンテナ部は、磁場を介して伝播する振動により共鳴することができなくなる。故に、非接触での電力を送電ができなくなるおそれがある。
【0096】
そこでアンテナ500は、基板30の表面方向に沿って配列される一組のループパターン563a,563bを有している。このアンテナ500を備える送電器において、当該アンテナ500に電力を供給する電源13(図1参照)は、駆動回路(図示しない)等を介して一組のループパターン563a,563bのそれぞれに接続されている。そして電源13は、互いに異なる位相の交流電流と、同位相の交流電流とを、駆動回路等を介して一組のループパターン563a,563bに交互に印加する。この電源13により一組のループパターン563a,563bに印加される交流電流に与えられた位相差は、半周期(180°)である。
【0097】
アンテナ500において、ループアンテナ部560は、上述したような一組のループパターン563a,563bと、ループパターン563a,563bの双方に設けられる給電点565a,565bを有している。ループパターン563a,563bは、第四実施形態のループパターン463(図10参照)を二分割したような構成であり、配線パターンによって矩形の領域564a,564bを囲んでいる。給電点565a,565bは、ループパターン563a,563bのそれぞれに形成される一対の端部である。給電点565a,565bは、駆動回路(図示しない)に配線等で電気的に接続されており、電源13(図1参照)から交流電力を受ける。
【0098】
次に、各ループパターン563a,563bの給電点565a,565bに、電源13(図1参照)が、同位相の交流電流と、互いに異なる位相の交流電流とを交互に印加することにより、アンテナ500の近傍に生じる磁界の様子について、図17に基づいて説明する。
【0099】
図17(a)は、各給電点565a,565b(図16参照)に印加される交流電流が同位相である場合において、アンテナ500の近傍に生じる磁界の様子を示している。各給電点565a,565b(図16参照)に同位相の交流電流が印加されている場合では、当該交流電流によって生じる磁界の主な磁力線は、一組の領域564a,564bから基板30の板厚方向に沿い無限遠に向かって放射される。同位相の交流電流が各給電点565a,565b(図16参照)に印加されることにより形成される磁界の様子は、ループパターンが一つであるアンテナの近傍に生じる磁界の様子と実質的に同一なものとなる。
【0100】
アンテナ500に対して受電側のアンテナ500aが正対して配置されている場合、当該アンテナ500aのスパイラルパターン(図示しない)により囲まれた領域を高密度の磁力線が貫通する。故に、送電側であるアンテナ500の共鳴アンテナ部540及び受電側のアンテナ500aの共鳴アンテナ部(図示しない)は、磁場を介して伝播する振動によって強く共鳴できる。これにより、送電側であるアンテナ500から受電側であるアンテナ500aへの高効率な送電が可能になる。
【0101】
一方、図17(b)は、各給電点565a,565b(図16参照)に印加される交流電流に半周期(180°)分の位相差が与えられている場合において、アンテナ500の近傍に生じる磁界の様子を示している。各給電点565a,565b(図16参照)に印加されている交流電流に半周期分の位相差が与えられている場合、領域564aに生じる磁界の磁力線の方向は、領域564bに生じる磁界の磁力線の方向と逆向きとなる。故に、一方の領域564aから放射され、他方の領域564bに入射するループ状の磁力線が確実に形成される。
【0102】
図17(b)において、受電側のアンテナ500aはアンテナ500に対して直交している。このような配置により、アンテナ500aのスパイラルパターン(図示しない)の軸方向がアンテナ500の基板30の表面方向に沿っていても、アンテナ500から放射される磁力線は、受電側のスパイラルパターンによって囲まれた領域を貫通し得る。故に、送電側であるアンテナ500の共鳴アンテナ部540及び受電側のアンテナ500aの共鳴アンテナ部(図示しない)は、磁場を介して伝播する振動によって共鳴できる。以上により、送電側のアンテナ500から受電側のアンテナ500aへの送電が可能になる。
【0103】
ここまで説明した第五実施形態では、一組のループパターン563a,563bのそれぞれに、互い異なる位相の交流電流と同位相の交流電流とを交互に印加することで、受電側のアンテナ500aの相対的な向きにかかわらず、高効率且つ確実な送電が可能になる。
【0104】
加えて第五実施形態では、一組のループパターン563a,563bに印加される交流電流の位相差が半周期分であることにより、確実にループ状の磁界を形成することができる。故に、受電側のアンテナ500aにおいて、スパイラルパターンの軸方向が送電側のアンテナ500の基板30の表面方向に沿っている場合であっても、磁力線は、受電側のスパイラルパターンによって囲まれた領域を確実に貫通できる。したがって、送電側のアンテナ500に対する受電側のアンテナ500aの向きにかかわらず、送電側のアンテナ500から受電側のアンテナ500aへの送電は確実に行われ得る。
【0105】
尚、第五実施形態において、ループパターン563a及びループパターン563bが請求項に記載の「環状部」に、アンテナ500が請求項に記載の「送受電用アンテナ」に、それぞれ相当する。
【0106】
(第六実施形態)
図18に示す本発明の第六実施形態によるアンテナ600は、第五実施例の変形例である。アンテナ600のループアンテナ部660は、四つのループパターン663a,663b,663c,663d、及び四つの給電点665a,665b,665c,665dを有している。
【0107】
四つのループパターン663a,663b,663c,663dは、基板30の平面方向であるX方向及びY方向に沿って配列されている。これらループパターン663a,663b,663c,663dは、第五実施形態のループパターン563a,563b(図16参照)のそれぞれを、さらに分割したような構成である。ループパターン663aは、ループパターン663bとX方向に並んでいる。ループパターン663cは、ループパターン663dとX方向に並んでいる。また、ループパターン663aは、ループパターン663cとY方向に並んでいる。ループパターン663bはループパターン663dとY方向に並んでいる。これら各ループパターン663a,663b,663c,663dによって囲まれた矩形の領域を、それぞれ領域664a,664b,664c,664dとする。
【0108】
四つの給電点665a,665b,665c,665dは、ループパターン663a,663b,663c,663dのそれぞれに形成される配線パターンの一対の端部である。給電点665a,665b,665c,665dは、駆動回路(図示しない)に配線等で電気的に接続されており、交流電力の入力を受ける。
【0109】
第六実施形態において電源13(図1参照)は、異なる三つのモードで、各給電点665a,665b,665c,665dに交流電流を印加する。電源13は、三つのモードを繰り返す。三つのモードのうちの一つは、全ての給電点665a,665b,665c,665dに同位相の交流電流を印加するものである。三つのモードのうちの残りの二つは、位相の異なる交流電流を各給電点665a,665b,665c,665dに印加するものである。以下、各給電点665a,665b,665c,665dに印加される交流電流と、当該交流電流によってアンテナ500の近傍に生じる磁界について説明する。
【0110】
各給電点665a,665b,665c,665dに印加される交流電流が全て同位相である場合、領域664a,664b,664c,664dから放射される磁界の磁力線の方向は、全ての基板30の板厚方向に沿って同じ方向を向いている。同位相の交流電流が各給電点665a,665b,665c,665dに印加されることにより形成される磁界の様子は、ループパターンが一つであるアンテナの近傍に生じる磁界の様子と実質的に同一なものとなる。
【0111】
送電側であるアンテナ600に対して受電側のアンテナが正対して配置されている場合(図示しない)、当該アンテナのスパイラルパターンにより囲まれた領域を高密度の磁力線が貫通する。故に、送電側であるアンテナ600の共鳴アンテナ部640及び受電側のアンテナの共鳴アンテナ部(図示しない)は、磁場を介して伝播する振動によって強く共鳴できる。これにより、送電側であるアンテナ600から受電側であるアンテナへの高効率な送電が可能になる。
【0112】
次のモードでは電源13(図1参照)は、給電点665a及び給電点665bに同位相の交流電流を印加する。加えて電源13は、給電点665c及び給電点665dに同位相の交流電流を印加する。しかし、給電点665a,665bに印加される交流電流の位相は、給電点665c,665dに印加される交流電流の位相に対して、半周期(180°)分ずらされている。この場合、領域664a,664bに生じる磁界の磁力線の方向は、領域664c,664dに生じる磁界の磁力線の方向と逆向きとなる。故に、一方の領域664a,664bから放射され、他方の領域664c,664dに入射するループ状の磁力線が確実に形成される。
【0113】
以上のようなループ状の磁力線が形成されることによれば、受電側のアンテナ600aの板厚方向がアンテナ600のY方向に向けられていた場合でも、当該アンテナ600aへの送電が可能である。詳記すると、領域664a,664bと領域664a,664dとをループ状に周回する磁界の磁力線は、アンテナ600aが有するスパイラルパターン(図示しない)よって囲まれた領域を貫通し得る。故に、送電側であるアンテナ600の共鳴アンテナ部640及び受電側のアンテナ600aの共鳴アンテナ部(図示しない)は、磁場を介して伝播する振動によって共鳴できる。以上により、送電側のアンテナ600から受電側のアンテナ600aへの送電が可能になる。
【0114】
さらに次のモードでは電源13(図1参照)は、給電点665a及び給電点665cに同位相の交流電流を印加する。加えて電源13は、給電点665b及び給電点665dに同位相の交流電流を印加する。しかし、給電点665a,665cに印加される交流電流の位相は、給電点665b,665dに印加される交流電流の位相に対して、半周期(180°)分ずらされている。この場合、領域664a,664cに生じる磁界の磁力線の方向は、領域664b,664dに生じる磁界の磁力線の方向と逆向きとなる。故に、一方の領域664a,664cから放射され、他方の領域664b,664dに入射するループ状の磁力線が確実に形成される。
【0115】
以上のようなループ状の磁力線が形成されることによれば、受電側のアンテナ600bの板厚方向が、アンテナ600のX方向に向けられていた場合でも、当該アンテナ600bへの送電は可能になる。詳記すると、領域664a,664cと領域664b,664dとをループ状に周回する磁界の磁力線は、アンテナ600bが有するスパイラルパターン(図示しない)よって囲まれた領域を貫通し得る。故に、送電側であるアンテナ600の共鳴アンテナ部640及び受電側のアンテナ600bの共鳴アンテナ部(図示しない)は、磁場を介して伝播する振動によって共鳴できる。以上により、送電側のアンテナ600から受電側のアンテナ600bへの送電が可能になる。
【0116】
ここまで説明した第六実施形態では、四つのループパターン663a,663b,663c,663dにおいて、位相の異なる交流電流を印加する組み合わせを順に変更することにより、アンテナ600近傍に形成される磁界の磁力線の向きが自在に変更される。これにより、送電側であるアンテナ600に対する受電側のアンテナの相対的な向きにかかわらず、高効率且つ確実な送電が可能になる。
【0117】
尚、第六実施形態において、ループパターン663a,663b,663c,663dが請求項に記載の「環状部」に、アンテナ600が請求項に記載の「送受電用アンテナ」に、それぞれ相当する。
【0118】
(他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0119】
上記実施形態では、ガラス繊維を含有するエポキシ樹脂を主体としてなり、両面に配線パターンを形成可能な両面基板を用いることで、ループアンテナ部のループパターン及び共鳴アンテナ部のスパイラルパターンを基板の異なる面に形成していた。しかし、紙とフェノール樹脂又はエポキシ樹脂等とを主体としてなり、片面にのみ配線パターンを形成可能な片面基板を用いる等によって、ループパターン及びスパイラルパターンを基板の同じ配線面に形成してもよい。具体的には、配線面の中央付近に、両端が電線等によって電源等に接続されたループパターンを有するループアンテナ部を形成する。このループアンテナ部の外周側に渦巻き状のスパイラルパターンを有する共鳴アンテナ部を形成する。そして、スパイラルパターンの両端を電線等によって結線する。以上の構成を適用して片面基板の採用を実現することで、上記実施形態に相当する性能を示し得るアンテナを低コストで提供できる。
【0120】
また、複数の絶縁層及び配線層を積層してなる多層基板を用いたアンテナであってもよい。具体的には、スパイラルパターンを複数の配線層に形成し、これらをピアホールによって板厚方向に電気的に接続することで、共鳴アンテナ部を構成させる。そして、スパイラルパターンの形成されていない配線層にループパターンを形成することでループアンテナ部を設ける。以上によれば、スパイラルパターン及びループパターンの配置の自由度の高いアンテナを実現できる。
【0121】
加えて、基板の材料は、上述したものに何ら限定されるものではなく、絶縁性を備えるものであれば例えばポリイミド等であってもよい。このポリイミド製の膜材料を用いることによれば、フレキシブル基板を基材とする可撓性を備えたアンテナを構成し得る。さらに、基板の形状も何ら限定されるものではなく、上記実施形態の基板のような矩形板状以外の形状、例えば円盤状、楕円板状、又は、基板の配置される周囲の空間に倣って不規則な多角形状等に形成されていてもよい。或いは、湾曲した板状の基板、屈曲された板状の基板、孔部を有する基板等を基材として用いてもよい。
【0122】
上記第一実施形態では、ループパターン63は共鳴アンテナ部40のスパイラルパターン43の最内周43aと板厚方向に重畳する位置に配置され、また上記第二及び第三実施形態では、ループパターン263はスパイラルパターン43の最外周43dと板厚方向に重畳するよう配置されていた。しかし、ループアンテナ部と共鳴アンテナ部とが磁気的に接続され、且つともに基板に形成される構成であれば、ループパターン及びスパイラルパターンの配置される位置は何ら限定されない。例えば、上記実施形態では、ループパターン及びスパイラルパターンは、それぞれの図心位置がほぼ同じ位置となるよう配置されていたが、各パターンの中心位置をずらして配置されていてもよい。また、ループパターンは、スパイラルパターンの最内周から最外周までのいずれかの箇所と板厚方向に重畳して配置されていてもよい。この配置では、ループパターンがスパイラルパターンの最内周又は最外周と板厚方向に重畳する上記実施形態と異なり、ループパターンとスパイラルパターンの両端を接続する接続部との干渉が基板のおもて面上で生じ得る。そこで、接続部がループパターンの一対の端部の間を通過させる形態とすることで、上述した配置を成立させることができる。
【0123】
上記実施形態では、スパイラルパターン及びループパターンは、基板の外形形状に倣い、矩形状に渦巻きする形状及び矩形環状に形成されていた。また、電極パターン353a,353bは、矩形形状に形成されていた。しかし、これら各配線パターンの形状は、上記の形状に限定されるものではない。例えば、スパイラルパターン及びループパターンが円周状及び円環状に形成されたアンテナであってもよい。また、電極パターンは板厚方向に対向する配置であれば、L字型又はT字型等に形成されていてもよい。
【0124】
上記第一及び第二実施形態では、共鳴アンテナ部には静電容量部としてチップコンデンサが設けられていた。しかし、所定の静電容量を備えていれば、静電容量部はチップコンデンサ以外のコンデンサ素子であってもよい。また上記第三実施形態では、共鳴アンテナ部に一対の電極パターンを具備する静電容量部350を設け、当該電極パターンを基板から剥離することで、当該共鳴アンテナ部の共鳴周波数を調整容易にしていた。このような構成以外であっても、例えば、いずれか一方の電極パターンを予め複数の区画に分割して形成し、特定の一つの区画をスパイラルパターンの端部と接続するとともに、当該区画とそれ以外の区画とをスイッチ等の電気的な接続及び遮断を切り替え自在とする構成を介して接続し、当該スイッチの切り替えによって静電容量の値を増減させ、共鳴周波数の調整を可能とする構成としてもよい。さらには、静電容量部に相当する構成を有しない共鳴アンテナ部であってもよい。
【0125】
上記実施形態では、電力の伝送に用いる周波数を10MHzと規定して説明したが、この周波数は限定されるものではなく、法規等で認可されている電磁波の周波数域内であれば、所望の周波数を適宜選択してよい。例えば、10MHzよりも高い周波数帯を用いて電力の伝送をすることによれば、スパイラルパターンの全長短縮によるアンテナの小型化を実現できる。
【0126】
上記実施形態では、基板には、ループアンテナ部及び共鳴アンテナ部のみが形成されていた。しかし、例えば基板に送電器の構成として用いられている駆動回路や、受電器の構成として用いられている整流回路等をあわせて形成してもよい。或いは、電力の供給を受ける装置を構成する基板の一部を、当該ループアンテナ部及び共鳴アンテナ部の基材として用いてもよい。この場合、ループアンテナ部による磁界の形成が周囲の構成に妨げられ難いよう、その配置は配慮されることが望ましい。
【0127】
上記第五及び第六実施形態では、一組又は二組のループパターンに位相の異なる交流電流を印加することにより、受電側のアンテナの向きにかかわらず送電可能な構成について説明した。しかし、ループパターンの個数は、上述したような一組又は二組に限定されるものではない。加えて、複数のループパターンに印加される交流電流に与えられる位相差は、受電側のアンテナを貫通するような磁力線を持った磁界をアンテナ近傍に生させることができれば、半周期に限定されるものではない。
【0128】
そして、上記実施形態では、本発明によるアンテナを備える送電器及び受電器について説明したが、これら送電器の設置場所及び受電器の搭載される機器は、それぞれ限定されるものではない。送電器は、例えば住居、自動車、電車、船舶、航空機等の室内等に設置されることが考えられる。また受電器は、例えば携帯電話やコンピュータ等の端末機器の充電や駆動に用いられることが考えられる。或いは、例えば送電気を駐車場に敷設し、受電器を車両側に搭載させることで、電気モーターを動力源とする電気自動車又はハイブリッド自動車等の充電に用いてもよいのである。
【符号の説明】
【0129】
10 送電器、13 電源、15 駆動回路、20 受電器、23 整流回路、25 負荷又はバッテリ等(装置)、30,330 基板(基材)、333 領域、40,240,340,440,540,640 共鳴アンテナ部、43,443 スパイラルパターン(渦巻き状部)、43a 最内周、43b 端部、43c 端部、43d 最外周、45,245,345 接続部、247 領域、50 チップコンデンサ(静電容量部,コンデンサ素子)、350 静電容量部、353a,353b 電極パターン(電極部)、60,260,460 ループアンテナ部、63,263,463,563a,563b,663a,663b,663c,663d ループパターン(環状部)、564a,564b,664a,664b,664c,664d 領域、65,565a,565b,665a,665b,665c,665d 給電点、67,267 領域、100,200,300,400,500,600 アンテナ(送受電用アンテナ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と前記電源から電力を供給される装置との間において非接触で電力を送電又は受電する送受電用アンテナであって、
板状の基材と、
前記基材の板厚方向と交差する表面の表面方向に沿って当該基材に導電性材料を渦巻き状に形成してなる渦巻き状部を有し、所定の共鳴周波数の設定される共鳴アンテナ部と、
前記表面方向に沿って前記基材に導電性材料を環状に形成してなる環状部を有し、前記共鳴アンテナ部と磁気的に接続されるとともに前記電源側又は前記装置側と電気的に接続されるループアンテナ部と、を備えることを特徴とする送受電用アンテナ。
【請求項2】
前記渦巻き状部は、前記環状部に囲われた領域の外周側に形成されることを特徴とする請求項1に記載の送受電用アンテナ。
【請求項3】
前記共鳴アンテナ部は、前記渦巻き状部の内周側の端部と外周側の端部とを接続する接続部を有し、
前記接続部は、前記基材の前記渦巻き状部と対向する表面に形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の送受電用アンテナ。
【請求項4】
前記共鳴アンテナ部は、前記渦巻き状部に接続され、所定の静電容量の設定される静電容量部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の送受電用アンテナ。
【請求項5】
前記静電容量部は、前記基材の表面に前記板厚方向に対向して配置され、導電性材料を膜状に形成してなる一対の電極部であることを特徴とする請求項4に記載の送受電用アンテナ。
【請求項6】
前記電極部の少なくとも一部は、前記基材の表面から剥離容易に形成されることを特徴とする請求項5に記載の送受電用アンテナ。
【請求項7】
前記静電容量部は、所定の静電容量の設定されるコンデンサ素子であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の送受電用アンテナ。
【請求項8】
前記渦巻き状部は、前記環状部との間における電力授受の効率が最大となるよう、前記導電性材料よりなる渦巻き状の巻き数と、渦巻き状に形成される前記導電性材料において径方向に隣接する当該導電性材料同士の間隔と、前記環状部との間の間隔が定められた形状であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の送受電用アンテナ。
【請求項9】
前記環状部は、前記渦巻き状部の最内周と板厚方向に重畳する位置に形成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の送受電用アンテナ。
【請求項10】
前記環状部及び前記渦巻き状部は、前記基材の対向する表面に形成されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の送受電用アンテナ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の送受電用アンテナと、
前記送受電用アンテナに接続される前記電源と、を備える送電器であって、
前記ループアンテナ部は、前記表面方向に沿って配列される複数の前記環状部を有し、
前記電源は、前記複数の環状部のそれぞれに接続され、互いに異なる位相の交流電流を当該複数の環状部のそれぞれに印加することを特徴とする送電器。
【請求項12】
前記電源は、前記複数の環状部のそれぞれに、互いに異なる位相の交流電流と同位相の交流電流とを交互に印加することを特徴とする請求項11に記載の送電器。
【請求項13】
前記電源は、前記複数の環状部のうち少なくとも一組の前記環状部のそれぞれに、互いに半周期の位相差が与えられた交流電流を印加することを特徴とする請求項11又は12に記載の送電器。
【請求項1】
電源と前記電源から電力を供給される装置との間において非接触で電力を送電又は受電する送受電用アンテナであって、
板状の基材と、
前記基材の板厚方向と交差する表面の表面方向に沿って当該基材に導電性材料を渦巻き状に形成してなる渦巻き状部を有し、所定の共鳴周波数の設定される共鳴アンテナ部と、
前記表面方向に沿って前記基材に導電性材料を環状に形成してなる環状部を有し、前記共鳴アンテナ部と磁気的に接続されるとともに前記電源側又は前記装置側と電気的に接続されるループアンテナ部と、を備えることを特徴とする送受電用アンテナ。
【請求項2】
前記渦巻き状部は、前記環状部に囲われた領域の外周側に形成されることを特徴とする請求項1に記載の送受電用アンテナ。
【請求項3】
前記共鳴アンテナ部は、前記渦巻き状部の内周側の端部と外周側の端部とを接続する接続部を有し、
前記接続部は、前記基材の前記渦巻き状部と対向する表面に形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の送受電用アンテナ。
【請求項4】
前記共鳴アンテナ部は、前記渦巻き状部に接続され、所定の静電容量の設定される静電容量部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の送受電用アンテナ。
【請求項5】
前記静電容量部は、前記基材の表面に前記板厚方向に対向して配置され、導電性材料を膜状に形成してなる一対の電極部であることを特徴とする請求項4に記載の送受電用アンテナ。
【請求項6】
前記電極部の少なくとも一部は、前記基材の表面から剥離容易に形成されることを特徴とする請求項5に記載の送受電用アンテナ。
【請求項7】
前記静電容量部は、所定の静電容量の設定されるコンデンサ素子であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の送受電用アンテナ。
【請求項8】
前記渦巻き状部は、前記環状部との間における電力授受の効率が最大となるよう、前記導電性材料よりなる渦巻き状の巻き数と、渦巻き状に形成される前記導電性材料において径方向に隣接する当該導電性材料同士の間隔と、前記環状部との間の間隔が定められた形状であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の送受電用アンテナ。
【請求項9】
前記環状部は、前記渦巻き状部の最内周と板厚方向に重畳する位置に形成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の送受電用アンテナ。
【請求項10】
前記環状部及び前記渦巻き状部は、前記基材の対向する表面に形成されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の送受電用アンテナ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の送受電用アンテナと、
前記送受電用アンテナに接続される前記電源と、を備える送電器であって、
前記ループアンテナ部は、前記表面方向に沿って配列される複数の前記環状部を有し、
前記電源は、前記複数の環状部のそれぞれに接続され、互いに異なる位相の交流電流を当該複数の環状部のそれぞれに印加することを特徴とする送電器。
【請求項12】
前記電源は、前記複数の環状部のそれぞれに、互いに異なる位相の交流電流と同位相の交流電流とを交互に印加することを特徴とする請求項11に記載の送電器。
【請求項13】
前記電源は、前記複数の環状部のうち少なくとも一組の前記環状部のそれぞれに、互いに半周期の位相差が与えられた交流電流を印加することを特徴とする請求項11又は12に記載の送電器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
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【図11】
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【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−45045(P2011−45045A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138695(P2010−138695)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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