説明

送電用鉄塔の補強方法

【課題】山岳地に設置された送電用鉄塔が地震、集中豪雨などによって引き起こされた斜面崩壊によって破損したり倒壊したりするのを防止する。また、所有地内での工事で済むとともに、基礎と鉄塔とを同時に補強が行えるものとする。
【解決手段】山岳地に建設されるとともに、鉄塔トラス2とこれを支持する4つの逆T型基礎3A〜3Dとからなる送電用鉄塔1の補強方法であって、前記送電用鉄塔1が構築された所有地内の内、例えば前記4つの逆T型基礎に囲まれた領域内に深礎基礎5を構築し、この深礎基礎5と鉄塔トラス2とを連結する補強鋼材6,6…を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳地に設置された送電用鉄塔が地震、集中豪雨などによって引き起こされた斜面崩壊によって、破損したり倒壊したりするのを防止するための鉄塔の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に示されるように、送電用鉄塔50が山岳地に建設される場合、一般的には支持地盤が比較的浅い位置から出現するため、逆T型基礎51が多く採用されてきた。この逆T型基礎51は、経済性や施工性の面で優れる反面、地震や集中豪雨によって斜面崩壊が起きると、基礎が変位したり、地山が地滑りによって流亡した場合は基礎としての機能を完全に失い、鉄塔が破損したり最悪の場合は鉄塔が倒壊する危険性があった。
【0003】
一方、斜面の崩壊を防止する地滑り対策工として、従来よりアンカー法枠工法や、抑止杭工法などが知られている。前者のアンカー法枠工法は、図8に示されるように、地山面に法枠52を構築するとともに、この法枠52を多数のアンカー53,53…によって地山に固定するものであり、後者の抑止杭工法は、図9に示されるように、送電用鉄塔50の谷側地山に多数の抑止杭54,54を列設するものである。
【0004】
他方、送電用鉄塔に対応した補強方法も種々提案されている。例えば、下記特許文献1では、送電用鉄塔を嵩上げによって基礎の補強が必要になった場合に、鉄塔の脚を支持するため、該脚先端位置の四角形の頂点位置にそれぞれ設けられた4個の基礎を有する送電線用鉄塔において、前記四角形の対角線上で前記基礎の外側位置に補助基礎を設け、該補助基礎に前記鉄塔を補強する補助脚を支持させた送電線用鉄塔の補強方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−300872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記地滑り対策工は、民地境界線を越えた外側の広範囲に亘って対策工を講じる必要があり、施工コストが膨大となる、土地所有者との交渉が難航する場合がある、新たな伐採や土地改変を伴うため他の二次災害が懸念されるなどの問題があった。また、これらは地山に地滑り対策を施すものであり、基礎を直接的に補強するものではないため、地山補強、鉄塔補強の一体として効果が把握しづらいなどの問題があった。
【0007】
また、前記特許文献1に係る補強方法は、基礎の補強と鉄塔の補強とが同時に行える点で望ましいものであるが、補助基礎として逆T型基礎を設けるものであり、斜面崩壊に対する補強としての効果が期待できない。また、追加された補助脚や補助基礎は、現存の鉄塔に対して新たに増加された分の荷重に対してのみ機能するものであり、工事規模の割りに補強効果が低い。更に、山岳地の斜面に建設された基礎の場合、谷側の基礎の外側に新たに直接基礎を構築することは支持層との関係で実質的に不可能か困難である場合が多いとともに、既設基礎の外側に直接基礎を構築する場合は、民地境界線を越えることとなり土地所有者との交渉が必要になるなどの問題があった。
【0008】
そこで本発明の主たる課題は、山岳地に設置された送電用鉄塔が地震、集中豪雨などによって引き起こされた斜面崩壊によって破損したり倒壊したりするのを防止することにある。また、所有地内での工事で済むとともに、基礎と鉄塔とを同時に補強が行える送電用鉄塔の補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、山岳地に建設されるとともに、鉄塔トラスとこれを支持する4つの逆T型基礎とからなる送電用鉄塔の補強方法であって、
前記送電用鉄塔が構築された所有地内に深礎基礎又は杭基礎を構築し、この深礎基礎又は杭基礎と鉄塔トラスとを連結する補強鋼材を設けることを特徴とする送電用鉄塔の補強方法が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明は、送電用鉄塔が構築された所有地内に深礎基礎又は杭基礎を構築し、この深礎基礎又は杭基礎と鉄塔トラスとを連結する補強鋼材を設けるものである。従って、地震や集中豪雨により既設基礎に変位が生じると、応力的均衡を取るように前記補強鋼材に応力が導入されるとともに、深礎基礎又は杭基礎に荷重が伝達され、送電用鉄塔の破損や倒壊を防止するように機能する。前記深礎基礎は地滑り抑止杭としても効果も期待することができるとともに、斜面崩壊が発生しても大きく変位したりすることがないため、鉄塔の破損や倒壊を確実に防止することができる。更に、本対策工は、所有地内に深礎基礎又は杭基礎を構築するものであるから、周知の土地所有者との調整も不要か工事中の一時的借用で済むようになる。更に、地山と共に鉄塔を同時に補強できるため、補強効果も把握し易くなる。
【0011】
請求項2に係る本発明として、前記深礎基礎又は杭基礎は、前記4つの逆T型基礎に囲まれた領域内に構築する請求項1記載の送電用鉄塔の補強方法が提供される。
【0012】
請求項3に係る本発明として、前記深礎基礎又は杭基礎は、前記4つの逆T型基礎の内、谷側に位置する2つの逆T型基礎に対し、その谷側に構造的に一体的に挙動するように構築する請求項1記載の送電用鉄塔の補強方法が提供される。
【0013】
請求項4に係る本発明として、前記深礎基礎又は杭基礎は、前記4つの逆T型基礎の内、谷側に位置する2つの逆T型基礎の中間付近に構築する請求項1記載の送電用鉄塔の補強方法が提供される。
【0014】
請求項5に係る本発明として、前記深礎基礎又は杭基礎は、前記4つの逆T型基礎の内、谷側に位置する1つの逆T型基礎に対し、該逆T型基礎を跨ぐように左右対で構築する請求項1記載の送電用鉄塔の補強方法が提供される。
【0015】
請求項6に係る本発明として、前記深礎基礎又は杭基礎は、前記4つの逆T型基礎の各中間位置に構築する請求項1記載の送電用鉄塔の補強方法が提供される。
【0016】
上記請求項1〜6記載の各発明は、各実施態様例を具体的に示したものである。これらの各補強方法は送電用鉄塔の建設状況や地山状況などを総合的に勘案した上で適切な方法が選択される。
【0017】
請求項7に係る本発明として、前記深礎基礎又は杭基礎の頭部と、前記4つの逆T型基礎の頂部とを結合する梁鋼材を設ける請求項2記載の送電用鉄塔の補強方法が提供される。
【0018】
上記請求項7記載の方法は、前記深礎基礎又は杭基礎の頭部と、前記4つの逆T型基礎の頂部とを結合する梁鋼材を設けるようにするものであり、これによって、各逆T型基礎3C〜3Dを一体的に補強できるとともに、地山が軟弱な場合に、変位抑制、加速度増加に対して効果が期待できる。
【発明の効果】
【0019】
以上詳説のとおり本発明によれば、山岳地に設置された送電用鉄塔が地震、集中豪雨などによって引き起こされた斜面崩壊によって、破損したり倒壊したりするのを防止できる。また、所有地内での工事で済むとともに、基礎と鉄塔とを同時に補強が行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1形態例に係る補強態様を示す、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図2】本発明の第1形態例に係る補強態様を示す、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図3】本発明の第1形態例に係る補強態様を示す、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図4】本発明の第1形態例に係る補強態様を示す、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図5】本発明の第1形態例に係る補強態様を示す、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図6】本発明の第1形態例に係る補強態様を示す、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図7】山岳地送電用鉄塔の斜面崩壊を示す側面図である。
【図8】地滑り対策工(その1)を示す施工図である。
【図9】地滑り対策工(その2)を示す施工図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0022】
本発明に係る送電用鉄塔の補強方法は、例えば図1に示されるように、山岳地に建設されるとともに、鉄塔トラス2とこれを支持する4つの逆T型基礎3A〜3Dとからなる送電用鉄塔1を対象として、前記送電用鉄塔1が構築された所有地内に深礎基礎5を構築し、この深礎基礎5と鉄塔トラスとを連結する補強鋼材6,6…を設けるものである。
【0023】
以下、更に具体的に詳述する。
【0024】
同図1に示されるように、山岳地に建設される送電用鉄塔1の場合は、支持層が比較的浅い位置に存在していることが多く、鉄塔トラス2を支持する4つの基礎3A〜3Dの形式としては、逆T型基礎が多く採用されてきた。そのため、地震や集中豪雨によって斜面崩壊が発生し、これらの逆T型基礎3A〜3Dを支持している地山が流亡して逆T型基礎3B、3Cが大きく変位することが懸念されていた。逆T型基礎3B、3Cが大きく変位すると、鉄塔トラス2に過大な応力が発生し、座屈や変形が起こったり、最悪の場合は逆T型基礎3B、3Cが転倒して送電用鉄塔1が倒壊し、大きな停電被害を被ることになる。
【0025】
そこで本発明では、このような山岳地に建設された送電用鉄塔1を対象として、仮に斜面崩壊が発生しても、送電用鉄塔1の倒壊を防止し、被害を最小限に抑えるようにするとともに、特に地震時は基礎にも大きな加速度が働き、鉄塔1が地山とは別の挙動をすることが考えられるため、鉄塔と基礎とを同時に補強するものとする。また、逆T型基礎3A〜3Dから外側に約1〜2mの範囲は、自己所有地内(民地境界4の内側)となっており、この所有地を越えた範囲に補強工を施す場合は、土地所有者からの譲渡又は借地契約が必要となり、交渉が難航したりすることが考えられるとともに、新たな伐採や土地改変に伴い他の二次災害が懸念される場合があるため、所有地内での補強工とするものである。
【0026】
上記補強方針の下、本補強方法では、前記送電用鉄塔1が構築された所有地内に深礎基礎5を構築し、この深礎基礎5と鉄塔トラス2とを連結する補強鋼材6,7を設けるものである。
【0027】
本補強方法では、常時の状態では、新たに構築した前記深礎基礎5や追加した補強鋼材6,7には、荷重はほとんど導入されないが、地震や集中豪雨により既設基礎3に変位が生じると、応力的均衡を取るように前記補強鋼材6,7に応力が導入されるとともに、深礎基礎5に荷重が伝達され、送電用鉄塔2の破損や倒壊を防止するように機能する。この場合、前記深礎基礎5は地滑り抑止杭としても効果も期待することができる。
【0028】
前記補強鋼材6,7としては、鉄塔トラス部材2の部材剛性よりも断面寸法が大きい高剛性のものを使用するのが望ましい。また、補強鋼材6,7の端部は鉄塔トラス2の節点部に対して接続する。なお、鉄塔トラス2自体を補強するように設けたトラス補強鋼材7については、省略することも可能である。
【0029】
また、深礎基礎5と補強鋼材6との接続は、深礎基礎5の上部に支圧板付の主柱材又は金具8を埋設しておき、この支圧板付の主柱材又は金具8の上部と補強鋼材6の下端部とを溶接やボルト連結するようにするのが望ましい。
【0030】
以下、更に図面に基づいて、補強形態例別に具体的に詳述する。
【0031】
<第1形態様>
図1に示される第1形態例では、前記深礎基礎8を前記4つの逆T型基礎3A〜3Dに囲まれた領域内に構築し、この深礎基礎8と鉄塔トラス2の節点部とを補強鋼材6,6…で連結するものである。また、前記補強鋼材6のトラス側接続端部には、水平方向に沿って周方向に囲むようにトラス補強鋼材7,7…を設けている。
【0032】
前記深礎基礎5の位置は、図示例ではほぼ中央としたが、斜面崩壊方向を考慮した上で、中央から偏倚した位置に構築するようにしてもよい。斜面崩壊方向にシフトした位置に構築することで、より効果的に斜面崩壊に対応することが可能となる。
【0033】
本第1形態例は、地山全体が軟弱な場合に、加速度増加に対して効果が期待することができる。
【0034】
<第2形態例>
図2に示される第2形態例は、前記深礎基礎5を、前記4つの逆T型基礎3A〜3Dの内、谷側に位置する2つの逆T型基礎3B、3Cに対し、その谷側に構造的に一体的に挙動するように構築するものである。ここで、「構造的に一体的に挙動する」とは、逆T型基礎3B、3Cと深礎基礎5とが一部で結合されており、逆T型基礎3B、3Cと深礎基礎5とが構造的に外力に対して一体的に挙動し得る状態をいう。なお、補強鋼材6は、鉄塔トラス2の外側から節点部に対して接続するように設けられる。
【0035】
前記深礎基礎5が、谷側にある逆T型基礎3B、3Cの更にその谷側に構築されることで、逆T型基礎3B、3Cの谷側向への変位を効果的に抑えることができる。また、深礎基礎5は、地滑り抑止杭としての効果が期待できる。
【0036】
<第3形態例>
図3に示される第3形態例は、前記深礎基礎5を、前記4つの逆T型基礎3A〜3Dの内、谷側に位置する2つの逆T型基礎3B、3Cの中間付近であって平面視で鉄塔トラス2の外側に構築するものである。補強鋼材6は、鉄塔トラス2の外側からトラス節点部に対して接続するように設けられる。
【0037】
前記深礎基礎5が、谷側にある逆T型基礎3B、3Cの中間に構築されることで、逆T型基礎3B、3Cの谷側方向への変位・転倒を効果的に抑えることができる。また、深礎基礎5は、地滑り抑止杭としての効果が期待できる。
【0038】
<第4形態例>
図4に示される第4形態例は、前記深礎基礎5を、前記4つの逆T型基礎3C〜3Dの内、谷側に位置する1つの逆T型基礎3Bに対し、該逆T型基礎3Bを跨ぐように左右対で構築するものである。補強鋼材6は、鉄塔トラス2の外側からトラス節点部に対して接続するように設けられる。
【0039】
前記深礎基礎5が、谷側にある逆T型基礎3Bを跨ぐようにその両側に構築されることで、逆T型基礎3Bの谷側方向への変位・転倒を効果的に抑えることができる。また、深礎基礎5は、地滑り抑止杭としての効果が期待できる。
【0040】
<第5形態例>
図5に示される第5形態例は、前記深礎基礎5を、前記4つの逆T型基礎3C〜3Dの各中間位置であって平面視で鉄塔トラス2の外側に構築するものである。補強鋼材6は、鉄塔トラス2の外側からトラス節点部に対して接続するように設けられる。
【0041】
前記深礎基礎5が、逆T型基礎3C〜3Dの各中間位置に構築されることで、地山全体の補強効果に加え、地震の地表加速度を減少させることができる。また、深礎基礎5は、地滑り抑止杭としての効果が期待できる。
【0042】
<第6形態例>
図6に示される第6形態例は、第1形態例の下で、前記深礎基礎5の頭部と、前記4つの逆T型基礎3C〜3Dの頂部とを鋼材又はRC梁9,9…で結合するようにしたものである。各逆T型基礎3C〜3Dを一体的に補強できるとともに、地山が軟弱な場合に、変位抑制、加速度増加に対して効果が期待できる。
【0043】
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、深礎基礎5を構築するようにしたが、これに代えて、低空頭で施工できる杭を構築するようにしてもよい。また、それらの杭を斜杭とし、曲げに対してより有効に作用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…送電用鉄塔、2…鉄塔トラス、3…逆T型基礎、5…深礎基礎、6…補強鋼材、7…トラス補強鋼材、8…支圧板付の主柱材又は金具、9…鋼材又はRC梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳地に建設されるとともに、鉄塔トラスとこれを支持する4つの逆T型基礎とからなる送電用鉄塔の補強方法であって、
前記送電用鉄塔が構築された所有地内に深礎基礎又は杭基礎を構築し、この深礎基礎又は杭基礎と鉄塔トラスとを連結する補強鋼材を設けることを特徴とする送電用鉄塔の補強方法。
【請求項2】
前記深礎基礎又は杭基礎は、前記4つの逆T型基礎に囲まれた領域内に構築する請求項1記載の送電用鉄塔の補強方法。
【請求項3】
前記深礎基礎又は杭基礎は、前記4つの逆T型基礎の内、谷側に位置する2つの逆T型基礎に対し、その谷側に構造的に一体的に挙動するように構築する請求項1記載の送電用鉄塔の補強方法。
【請求項4】
前記深礎基礎又は杭基礎は、前記4つの逆T型基礎の内、谷側に位置する2つの逆T型基礎の中間付近に構築する請求項1記載の送電用鉄塔の補強方法。
【請求項5】
前記深礎基礎又は杭基礎は、前記4つの逆T型基礎の内、谷側に位置する1つの逆T型基礎に対し、該逆T型基礎を跨ぐように左右対で構築する請求項1記載の送電用鉄塔の補強方法。
【請求項6】
前記深礎基礎又は杭基礎は、前記4つの逆T型基礎の各中間位置に構築する請求項1記載の送電用鉄塔の補強方法。
【請求項7】
前記深礎基礎又は杭基礎の頭部と、前記4つの逆T型基礎の頂部とを結合する梁鋼材を設ける請求項2記載の送電用鉄塔の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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