説明

逃げ面内部給油孔付き超高圧焼結体工具

【課題】少なくとも刃先にcBN焼結体やダイヤモンド焼結体を有する超高圧焼結体工具の冷却構造を工夫することで、焼入鋼、耐熱合金、難削鋳鉄などの難削材の高速切削に利用する工具の長寿命化を図り、同時に、加工変質層の生成を抑制して加工面品位を向上させることを課題としている。
【解決手段】超硬基材のコーナ部にcBN焼結体又はダイヤモンド焼結体からなる超高圧焼結体4を有し、その超高圧焼結体4に切れ刃5が形成された超高圧焼結体工具に、噴出口6bが工具の刃先コーナ部直下の逃げ面8に開口する給油孔6を設け、その給油孔の噴出口6bから切れ刃5までの距離を0.3mm以上、3mm以下、逃げ面8に対する噴出口の傾き角を20°以上、70°以下に設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、立方晶窒化硼素(以下、cBN)又はダイヤモンド焼結体を刃先に有する超高圧焼結体工具、詳しくは、焼入鋼や耐熱合金や難削鋳鉄に代表される難削材の高速切削において長寿命を発揮し、同時に加工面品位も向上させる内部給油孔付き超高圧焼結体工具とそれを用いた切削加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
cBN焼結体は、化学的安定性や鉄との低親和性に富む。また、高硬度で耐摩耗性に優れることから、これを材料にした切削工具は、超硬工具と比較して加工能率に優れ、長寿命を発揮する。また、塑性加工用の工具と比べて加工の自由度が高く、研削工具と比べて環境への負荷が小さい。その点が評価されて、鉄系難削材の加工では、従来工具とcBN焼結体工具の置き換えが進んでいる。
【0003】
一方、焼入れ鋼の仕上げ切削において、近年、加工能率向上の観点から、切削速度Vc=200m/min以上の高速切削が試みられるようになってきた。ところが、切削速度
が早まるにつれて工具摩耗が促進され、工具寿命が極端に短くなる。
【0004】
また、高速切削条件下では、切削熱によって刃先だけでなく加工面も高温に曝される。そして、高温になった加工面が刃先通過後に空冷され、或いは、クーラント液(切削液)により急冷される。その結果、加工面に再焼入れマルテンサイト層(白層)や高温焼き戻し層などの加工変質層(熱影響層)が発生し、製品の疲労強度や耐摩耗性が低下するといった問題が発生している。
【0005】
ここで、刃先温度を低下させるために、クーラント液を外部から刃先に供給することや、クーラント液を高圧で刃先に供給して冷却効果を高める手法が通常採られている。しかしながら、これまでのクーラント液供給方法では、満足な冷却効果が得られず、工具摩耗の抑制が十分に行えていないのが現状である。
【0006】
刃先の冷却が満足になされない理由は、切削時には切れ刃近傍は局所的に超高圧状況にあると考えられ、それが原因で刃先が被削材と接触する領域までクーラント液が効果的に到達していないのではないかと推測される。
【0007】
このような状況に鑑み、特許文献1,2に記載されているように、工具の内部に工具の逃げ面に開口する貫通孔を設け、その貫通孔から切削部にクーラント液を供給して刃先温度を下げることが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−301104号公報
【特許文献2】特開2001−198708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の切削工具は、工具の全域が超硬合金やサーメットからなるため、焼入鋼や耐熱合金を高速で切削する用途では、硬度が不足し、塑性変形や欠損が生じて満足のいく寿命が得られない。
【0010】
また、特許文献2の切削工具は、冷却液として超微粒ミストを使用するが、刃先温度が1000℃以上になる焼入鋼や耐熱合金の高速切削では液量が不足し、工具摩耗の低減と加工物の白層低減には満足できる効果が得られず、顧客の要求を満たすことができない。
【0011】
そこで、この発明は、少なくとも刃先にcBN焼結体やダイヤモンド焼結体を有する超高圧焼結体工具の冷却構造を工夫することで、焼入鋼、耐熱合金、難削鋳鉄などの難削材の高速切削に利用する工具の長寿命化を図り、同時に、加工変質層の生成を抑制して加工面品位を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明においては、刃先に超高圧焼結体を有する超高圧焼結体工具を以下の通りに構成した。すなわち、切削に関与する刃先コーナ部(ノーズR部)直下の逃げ面に噴出口が開口する給油孔を内部に有し、その給油孔の前記噴出口から切れ刃までの距離が0.3mm以上、3mm以下であり、前記逃げ面に対して、前記噴出口の向きが20°以上、70°以下の角度を有するものにした。
【0013】
なお、cBN焼結体は、体積比含有率が30〜99%の立方晶窒化硼素粒子と残部結合相で構成されるものが、また、ダイヤモンド焼結体は、体積比含有率が40%以上のダイヤモンド粒子と結合相で構成されるものが、それぞれ工具用として一般的に用いられている。この発明で言う超高圧焼結体は、その一般的なcBN焼結体やダイヤモンド焼結体を指す。
【0014】
上記のように構成したこの発明の逃げ面内部給油孔付き超高圧焼結体工具の好ましい形態を以下に列挙する。
【0015】
(i)前記給油孔の噴出口の断面積(開口面積)が0.1mm以上、2mm以下である。
この断面積が2mmを超えると、刃先強度が低下して工具の欠損寿命が低下する。また、その断面積が、0.1mm未満であると、既存の供給設備ではクーラント液の供給が不十分になって期待する冷却効果を得にくい。
【0016】
(ii)工具が超硬基材とその超硬基材に接合した超高圧焼結体とからなり、前記給油孔の噴出口が前記超硬基材に形成され、その噴出口から前記超高圧焼結体までの距離が1mm以下である。ここで、基材は超硬合金が好ましいが、製造コストを考慮してサーメット、焼結合金などを採用しても構わない。
【0017】
給油孔の噴出口を工具の超硬基材に形成することで、靭性に劣る超高圧焼結体にその噴出口を設ける形態で懸念される超高圧焼結体の切削応力による割れを防止することができる。また、その噴出口から超高圧焼結体までの距離を1mm以下となすことで、給油孔から刃先までの距離が長くなることを回避してクーラント液の供給量と供給圧力を適正化することができる。
【0018】
(iii)ホルダ又は敷板のクーラント供給孔の開口部が接する前記工具の基材面に給油孔の断面積を急激に増加させる急拡大管を有し、ホルダ又は敷板と接する前記急拡大管の断面積をA、ホルダ又は敷板のクーラント供給孔の開口部の断面積をB、給油孔の噴出口の断面積Cとしたとき、A>B>Cの関係を満たす。同急拡大管を有することにより、ホルダ又は敷板を経由して供給されるクーラント液を整流させ、各接続箇所での圧力損失を低減する効果がある。さらに、前記急拡大管と噴出口へと繋がる給油管の接続箇所が、ホルダ又は敷板のクーラント供給孔の開口部の延長線上に無い設計とすることで、急拡大管部で一旦整流されたクーラント液がスムーズに噴出口へと繋がる給油管に供給され、噴出口の圧力が高まる効果が得られる。また、同接続箇所とホルダ又は敷板のクーラント供給孔の開口部との距離が1mm以上あると好ましい。
【0019】
(iv)前記超高圧焼結体がcBN焼結体である場合、そのcBN焼結体の熱伝導率が70W/m・K以上であり、そのcBN焼結体の表面に、4a、5a,6a族元素及びAlの中から選択される少なくとも1種以上の元素と、C、N、Oの中から選択される少なくとも1種以上の元素の化合物からなる0.5μm〜12μmの厚みを有する耐熱硬質被膜が施されている。
【0020】
また、耐熱硬質被膜は、膜厚が0.5μm未満であると耐摩耗性向上の効果が期待できず、さらに、その膜厚が12μmを越えると、その耐熱硬質被膜の熱伝導率が超高圧焼結体の熱伝導率よりも低くなって刃先の放熱を阻害する。従って、耐熱硬質被膜の膜厚は0.5μm〜12μmの範囲に設定するのがよい。
【0021】
超高圧焼結体は、熱伝導率が高いものほど放熱作用に優れ、刃先温度が低下しやすい。
そのことを考えると、cBN焼結体は熱伝導率が70W/m・K以上あるものが、また、ダイヤモンド焼結体は熱伝導率が200W/m・K以上あるものが好ましい。
【0022】
この発明は、上記超高圧焼結体工具とともに、その工具を使用して、切削速度:200m/min以上、給油孔から噴射されるクーラント液の流速:20m/s以上の条件で焼入鋼や耐熱合金や難削鋳鉄などを切削し、切削直後の被削材の加工面を、前記給油孔の逃げ面に開口した噴出口からクーラント液を噴出させて直接冷却する切削加工方法も併せて提供する。なお、この方法での切り込み量aと送り量fは、a:0.3mm以下、f:0.2mm/rev以下とする。
【0023】
この発明では、工具刃先の効果的冷却による発熱抑制と逃げ面の摩擦低減を図ることで焼入鋼、耐熱合金、難削鋳鉄などの難削材を高速で切削する際の逃げ面の摩耗を抑制して長寿命化を実現する。
【0024】
また、被削材の加工直後の面を直接急冷することで加工変質層の抑制と、高い残留応力の付与を可能となして加工面品位を向上させる。
【0025】
逃げ面の摩耗抑制に関しては、硬度の比較的低い鋼や鋳鉄を加工する場合には、すくい面から刃先に直接高圧でクーラント液を噴射してすくい面を冷却し、それにより逃げ面も間接的に冷却することが行われており、この方法で、クレータ摩耗だけでなく逃げ面の摩耗も抑制することができた。
【0026】
しかしながら、硬度の高い焼入鋼や耐熱合金や難削鋳鉄などを切削速度200m/min以上で切削する場合には、逃げ面の摩耗抑制が満足になされない。発明者らは、特許文献1,2に記載されているように、給油孔を工具の逃げ面に開口させて逃げ面から給油することも試みたが、この方法でも逃げ面の摩耗抑制には効果がなかった。
【0027】
そこで、冷却効果に対しては、給油の方向と給油孔から刃先までの距離が影響するとの仮説を立て、焼入鋼の切削加工におけるクーラント噴出位置、噴出圧力、噴出流量と切削性能及び加工面の性状の相関を詳細に調査した。
【0028】
その結果、従来一般的であったすくい面からの給油では逃げ面の摩耗抑制効果が全く得られないのに対し、逃げ面に給油孔を設けたものでは、顕著な摩耗抑制効果が得られた。そして、その摩耗抑制の効果は、給油孔から刃先までの距離と給油孔の角度に強く依存すること、及びこの発明で規定した距離と角度がその摩耗抑制に有効なことを見出した。
【0029】
さらに、興味深い結果として、すくい面からの給油に比べ、逃げ面側からの給油では切削抵抗が低減するという新たな知見を得た。また、切削後の加工面の加工変質層がすくい面からの給油に比べて減少し、加工面に高い圧縮残留応力が付与されることも見出して本発明を完成するに至った。
【0030】
給油孔を工具の逃げ面の適切な位置に設けることによって、逃げ面摩耗が抑制される理由として、次のようなメカニズムが考えられる。
【0031】
この発明の工具では、逃げ面に開口した給油孔から高圧のクーラント液が噴射され、それが加工直後の面に衝突した後に被削材の表面に沿って放射状に拡散する。これにより、刃先近傍の逃げ面と被削材との間に効率的にクーラント液が供給されるが、クーラント液が放射状に拡散するため、給油孔から刃先までの距離が長くなるとクーラント液の供給量と供給圧力が不足する。
【0032】
また、給油孔を刃先に近づけすぎると、クーラントの拡散領域が狭くなって切削に関与する領域の逃げ面全体を冷却する効果が得られない。このことから最適な距離が存在すると推測し、その推測に基づいた実験を行い、経済性も考慮して数値範囲を求めた結果、噴出口から切れ刃までの距離は0.3mm以上、3mm以下、前記逃げ面に対する前記噴出口の角度は20°以上、70°以下が適当であることを見出した。
【0033】
本願において、従来行われているすくい面からの給油よりも切削抵抗が低減される理由は、逃げ面に高圧で給油されることで逃げ面の潤滑性が高まって被削材との摩擦抵抗が減少し、切削抵抗の低減に寄与していると思われる。
【0034】
一般に、焼入鋼や耐熱合金や難削鋳鉄を切削速度200m/min以上で切削すると、刃先の温度が上昇して加工面が高温に曝される。また、その加工面は、刃先通過後に空冷又は切削液により急冷される。そのために、加工面に対して再焼入れマルテンサイトや高温焼き戻し層などの加工変質層が発生し、被削材の疲労強度や耐摩耗性が低下する等の問題が起こる。本願発明品を使用すると、効果的冷却により加工面の昇温が抑えられて加工変質層が減少し、かつ、高い圧縮の残留応力が付与される利点が得られる。
【0035】
本発明の工具によれば、切削直後の加工面が逃げ面側からのクーラント供給によって直接冷却されるために逃げ面側で被削材の温度が低下する。また、従来のクーラント使用での切削やドライ切削と比べると冷却速度が著しく速いために加工変質層も薄くなると思われる。
【0036】
圧縮応力については、本来、焼入鋼の切削では、刃先の押し付け効果により圧縮残留応力が付与されるが、切削速度が速くなると、刃先が加工面を通過する際に少なくとも共析鋼のオーステナイト変態温度である727℃以上の高温に曝される。そのために、被削材の最表面で局所的な塑性変形が生じて加工面の圧縮残留応力を消失させる熱緩和メカニズムが働き、加えて、切削速度200m/min以上の高速条件下では引っ張り応力が残留することがあることから、加工する部品の用途によっては、疲労強度の低下が起こると思われる。
【0037】
本発明品を使用すると、逃げ面側における被削材の温度低下により前記の熱緩和メカニズムの影響が小さくなるため、本来の高い圧縮応力を維持することが可能になったと推測される。
本発明品は、噴出孔が工具逃げ面に開いているのに加えて、工具すくい面にも噴出孔が開いている形態も含まれる。
【発明の効果】
【0038】
この発明の超高圧焼結体工具は、冷却構造を工夫して切削直後の加工面が逃げ面側からのクーラント供給によって直接冷却されるようにしたので、逃げ面が効率的に冷却されてその面の温度上昇が効果的に抑制され、このことが有効に寄与して焼入鋼や耐熱合金の高速切削用途での長寿命化が実現される。
【0039】
また、逃げ面側からの給油によって加工変質層の生成が抑制され、加工面品位が向上する。さらに、逃げ面側からの給油により、逃げ面の潤滑性も高まって切削抵抗が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の工具の一形態を示す斜視図
【図2】図1の工具の平面図
【図3】図1の工具の刃先側コーナを表す側面図
【図4】図2のX−X線に沿った断面図
【図5】図1の工具の刃先側コーナの一部を拡大した図
【図6】cBN焼結体の表面の耐熱硬質被膜を示す断面図
【図7】この発明の工具をホルダに装着したバイトの斜視図
【図8】図7のバイトのホルダを、工具を外した状態にして示す斜視図
【図9】この発明の工具の他の形態を示す斜視図
【図10】図9の工具の平面図
【図11】図10のY−Y線に沿った断面図
【図12】図10の工具の刃先側コーナの一部を拡大した図
【図13】この発明の工具のさらに他の形態を示す斜視図
【図14】図13の工具の断面図
【図15】図13の工具の刃先側コーナの一部を拡大した図
【図16】ホルダ又は敷板のクーラント供給孔の開口部が接する工具の基材面に急拡大管を設置した例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、添付図面の図1〜図16に基づいて、この発明の超高圧焼結体工具の実施の形態を説明する。
【0042】
図1〜図5は、菱形のネガティブタイプのcBN刃先交換式チップにこの発明を適用したものである。このcBN刃先交換式チップ1は、超硬基材(超硬合金の基材)2のコーナにcBN焼結体4を接合し、そのcBN焼結体4に切れ刃5を形成し、さらに、超硬基材2の内部にクーラント液を供給する給油孔6を設けてなる。
【0043】
cBN焼結体4は、体積比含有率が30〜99%の立方晶窒化硼素粒子と残部結合相(TiCNセラミックス)などで構成された熱伝導率が70W/m・K以上の焼結体である。
【0044】
給油孔6は、一端(入口6a)が超硬基材2の底面に開口し、他端(噴出口6b)がチップの刃先コーナ部の直下の逃げ面8に開口している。その給油孔6の噴出口6bは、cBN焼結体4までの距離が1mm以下に保たれる位置に形成されている。
【0045】
また、その噴出口6bから切れ刃(刃先稜線)5までの図4、図5に示す距離Lが0.3mm以上、3mm以下に設定され、なおかつ、その噴出口6bの逃げ面8に対する傾き角θが20°以上、70°以下に設定されている。切れ刃5は、すくい面7と逃げ面8の交差した位置の稜線で構成されるものであって、この刃には必要に応じて面取りや丸ホーニングによる強化処理が施される。
【0046】
さらに、噴出口6bは、断面積(開口面積)が0.1mm以上、2mm以下に設定されている(図示のチップは、噴出口6bの直径d(図5参照)がφ1.0mm)。
【0047】
cBN焼結体4の表面には、4a、5a,6a族元素及びAlの中から選択される少なくとも1種以上の元素と、C、N、Oの中から選択される少なくとも1種以上の元素の化合物からなる0.5μm〜12μmの厚みを有する耐熱硬質被膜9(図6参照)が施されている。
【0048】
このように構成したcBN刃先交換式チップ1は、図7に示すように、バイトホルダ10に装着して使用する。
【0049】
バイトホルダ10には、チップ座11の座底面に開口するクーラント供給孔12(図8参照)が設けられている。そのクーラント供給孔12に対してチップの内部の給油孔6がチップをチップ座11に着座させた状態で連通し、バイトの使用中にクーラント供給孔12、給油孔6経由で逃げ面8側から切削部にクーラント液を供給することができる。
【0050】
そのクーラント液によって逃げ面8が直接冷却されてその面の温度上昇が効果的に抑制され、焼入鋼や耐熱合金の高速切削用途での長寿命化が実現される。また、逃げ面8側からの給油による加工変質層の抑制作用で加工面品位が向上し、さらに、逃げ面側からの給油による逃げ面の潤滑性向上によって切削抵抗が低減される。なお、チップは、ホルダのチップ座11に敷板(図示せず)を介して着座させることがある。その場合には、クーラント供給孔12の開口が敷板に形成される。
【0051】
図9〜図12は、給油孔6の設置形態を変化させたものである。このように、給油孔6
の噴出口6bを横並びの状態に点在させて複数設けてもよい。この構造によれば、噴出口6bからのクーラント液の噴射領域が広がり、逃げ面と加工直後の面の冷却がより効果的になされる。
【0052】
図13〜図15も、給油孔6の設置形態を変化させたものである。この形態は、給油孔6の噴出口6bを横長の開口にしたものであって、この構造でも、噴出口6bからのクーラント液の噴射領域を広げることができる。なお、この構造では、彎曲した噴出口6bの幅方向中央における中心から切れ刃5までの距離を0.3mm以上、3mm以下にする。
【0053】
図16は、必要に応じて工具の基材面に設ける急拡大管13の概要を示している。その急拡大管13の断面積をA、ホルダ又は敷板のクーラント供給孔の開口部の断面積をB、給油孔の噴出口の断面積Cとして、A>B>Cの条件を満たす。給油孔の断面積を急激に増大させるこの急拡大管13は、ホルダや敷板に形成されるクーラント供給孔12の開口から流入したクーラントを整流し、給油孔6に流れやすくする。この急拡大管13による整流作用で、供給されるクーラントの圧力が一旦弱まる。これにより、チップの着座面の界面からの液漏れが抑制され、給油孔6の噴出口から噴射されるクーラントの圧力が高まる。
【0054】
なお、例示の工具はいずれも菱形ネガティブチップであるが、この発明は、三角形、四角形のチップやポジティブ型チップにも適用される。
【実施例1】
【0055】
この発明を適用した菱形ネガティブcBN刃先交換式チップ:ISO型番CNGA120408(一辺の長さ12.7mm、コーナ角80°、全体厚み4.76mm)をホルダに装着して構成されるバイトを使用して、切削速度:200m/min、切り込み量a:0.2mm、送り量f:0.1mm/rev、給油孔から噴射されるクーラント液の流速:20m/sの条件でSCM415H(硬度60HRC)の焼入鋼を切削した。
【0056】
使用したチップは、超硬合金製基材2のコーナ部にcBN焼結体4を接合してそれに切れ刃5を形成し、さらに、給油孔6の噴出口6bの直径をφ1.0mm、噴出口6bの中心から切れ刃5までの距離Lを1.95mm、逃げ面8に対する噴出口6bの傾き角θを60°に設定したものであって、cBN焼結体4は、表面に厚さ2μmの耐熱硬質被膜9を有し、cBN含有率が70体積%、残りがTiNを主成分とするセラミックス結合材で構成される。
【0057】
逃げ面に開口した給油孔の噴出口からクーラント液を噴出させて切削直後の被削材の加工面を直接冷却する方法で切削を実施したところ、すくい面側からの給油による切削に比べて逃げ面の摩耗量が小さくなった。
すくい面側からの給油では、総切削長3000mの時点での逃げ面摩耗量が227μmに対し、発明品を使用した方法では、総切削長3000mの時点での逃げ面摩耗量が140μmに抑制された。
【実施例2】
【0058】
給油孔の噴出口から切れ刃までの距離Lと、逃げ面に対する前記噴出口の角度θを表1に示す通りに設定し、その他の条件は実施例1と同じ仕様のcBN刃先交換式チップをホルダに装着したバイトを使用して切削速度:300m/min、切り込み量a:0.2mm、送り量f:0.1mm/revで、インコネル718(硬度HRC50)の耐熱合金を切削した。cBN焼結体4は、cBN含有率が90体積%、残りがCoを主成分とする結合材で構成される。
この評価試験での総切削長1000mの時点での逃げ面摩耗量を表1に併せて示す。
【0059】
【表1】

【実施例3】
【0060】
ホルダ又は敷板のクーラント供給孔の開口部が接する工具の基材面に急拡大管を有し、その急拡大管の断面積をA、ホルダ又は敷板のクーラント供給孔の開口部の断面積をB、給油孔の噴出口の断面積Cとして、そのA,B,Cの値を表2の通りに設定した実施例1と同様のチップと被削材SUJ2(硬度62HRC)を用いて切削評価を実施した。この試験での総切削距離1km時点での逃げ面摩耗量を表2に併せて示す。なお、同急拡大管と噴出口へと繋がる給油管の接続箇所は、ホルダ又は敷板のクーラント供給孔の開口部の延長線上に無く、かつ同接続箇所とホルダ又は敷板のクーラント供給孔の開口部との距離は2.5mmであった。
【0061】
【表2】

【符号の説明】
【0062】
1 cBN刃先交換式チップ
2 超硬基材
4 cBN焼結体
5 切れ刃
6 給油孔
6a 入口
6b 噴出口
7 すくい面
8 逃げ面
9 耐熱硬質被膜
10 バイトホルダ
11 チップ座
12 クーラント供給孔
13 急拡大管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも刃先にcBN焼結体又はダイヤモンド焼結体からなる超高圧焼結体(4)を有する超高圧焼結体工具であって、噴出口が工具の刃先コーナ部直下の逃げ面に開口した給油孔を内部に有し、その給油孔の前記噴出口から切れ刃までの距離が0.3mm以上、3mm以下であり、前記逃げ面に対して、前記噴出口の向きが20°以上、70°以下の角度を有することを特徴とする逃げ面内部給油孔付き超高圧焼結体工具。
【請求項2】
前記給油孔の噴出口の断面積が0.1mm以上、2mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の超高圧焼結体工具。
【請求項3】
工具が超硬基材(2)のコーナ部に超高圧焼結体(4)を接合して構成されており、前記給油孔の噴出口(6b)が前記超硬基材(2)に形成され、その噴出口が前記超高圧焼結体(4)から1mm以下の距離を保った位置に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の超高圧焼結体工具。
【請求項4】
ホルダ又は敷板のクーラント供給孔の開口部が接する工具の基材面に給油孔の断面積を急激に増大させる急拡大管(13)を有し、その急拡大管(13)の断面積をA、ホルダ又は敷板のクーラント供給孔(12)の開口部の断面積をB、給油孔(6)の噴出口(6b)の断面積Cとして、A>B>Cの関係を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の超高圧焼結体工具。
【請求項5】
前記急拡大管(13)と噴出口へと繋がる給油管の接続箇所が、ホルダ又は敷板のクーラント供給孔の開口部の延長線上に無く、かつ同接続箇所とホルダ又は敷板の開口部との距離が1mm以上あることを特徴とする請求項4に記載の超高圧焼結体工具。
【請求項6】
前記超高圧焼結体(4)がcBN焼結体であり、このcBN焼結体の熱伝導率が70W/m・K以上であって、同焼結体の表面が4a、5a,6a族元素及びAlの中から選択される少なくとも1種以上の元素と、C、N、Oの中から選択される少なくとも1種以上の元素の化合物からなる0.5μm〜12μmの厚みを有する耐熱硬質被膜(9)で被覆されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の超高圧焼結体工具。
【請求項7】
前記超高圧焼結体(4)がダイヤモンド焼結体であり、そのダイヤモンド焼結体の熱伝導率が200W/m・K以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の超高圧焼結体工具。
【請求項8】
前記超高圧焼結体(4)としてcBN焼結体を用いた請求項1〜6のいずれかに記載の超高圧焼結体工具を使用して、切削速度:200m/min以上、切り込み量a:0.3mm以下、送り量f:0.2mm/rev以下、給油孔から噴射されるクーラント液の流速:20m/s以上の条件で焼入鋼又は耐熱合金を切削し、切削直後の被削材の加工面を、前記給油孔の逃げ面に開口した噴出口からクーラント液を噴出させて直接冷却する切削加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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