説明

逆台形状の断面を有する導波路を備えた熱アシスト磁気記録ヘッド

【課題】近接場光生成光学系の光利用効率を高めることが可能な熱アシスト磁気記録ヘッドを提供する。
【解決手段】このヘッドは、書き込み磁界を発生させる磁極と、表面プラズモンを励起するための光が伝播する導波路と、磁極の媒体対向面側の端面の近傍に位置する近接場光発生端面から近接場光を発生させる近接場光発生素子とを備えている。また、導波路の伸長方向に沿った端辺に垂直な面による導波路の断面が、少なくとも近接場光発生素子と対向又は接触した導波路部分において、実質的に近接場光発生素子側の端辺が平行な対辺のうちの長辺となる台形状となっている。これにより、近接場光発生素子における光と表面プラズモンモードで結合する結合部分を、導波路からしみ出た光の有効分布範囲内に位置させることが可能となる。その結果、導波路からしみ出た光と近接場光発生素子との表面プラズモンモードでの結合を十分に強いものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路を伝播する光を近接場光に変換して、磁気記録媒体にこの近接場光を照射し、磁気記録媒体の異方性磁界を低下させてデータの記録を行う熱アシスト磁気記録に用いるヘッドに関し、さらに、このようなヘッドを備えた磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置に代表される磁気記録装置の高記録密度化に伴い、薄膜磁気ヘッド及び磁気記録媒体のさらなる性能の向上が要求されている。この記録密度を高めるためには、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性微粒子をより小さくして、記録ビットの境界の凹凸を減少させ、微小な記録ビットを確実に形成しなければならない。しかしながら、これら磁性微粒子を小さくすると、体積減少に伴う磁化の熱安定性の低下が問題となる。この問題への対処として、磁性微粒子の磁気異方性エネルギーKを大きくすることが考えられるが、このKの増加は、磁気記録媒体の異方性磁界(保磁力)の増大をもたらす。その結果、この異方性磁界が、ヘッドから発生する書き込み磁界の強度の上限により決まる許容値を超えると、書き込みが不可能となってしまう。
【0003】
現在、この磁化の熱安定性の問題を解決する1つの方法として、いわゆる熱アシスト磁気記録技術が提案されている。熱アシスト磁気記録技術においては、磁化が安定するように磁気異方性エネルギーKの大きな磁性材料で形成された磁気記録媒体を用いる一方で、この磁気記録媒体の書き込むべき部分を加熱することによって磁気記録媒体の異方性磁界を低下させ、その直後に書き込み磁界を印加して書き込みを行う。
【0004】
この熱アシスト磁気記録方式においては、照射されたレーザ光によって励起されたプラズモンから近接場光を生成する金属片である近接場光発生素子、いわゆるプラズモン・アンテナを用いる方法が一般に知られている。例えば、特許文献1及び特許文献2は、金属の散乱体に光を照射して光の振動数と金属中に発生するプラズモンの共鳴周波数とを一致させ、近接場光を発生させる技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−255254号公報
【特許文献2】特開2003−114184号公報
【特許文献3】米国特許第7330404号明細書
【特許文献4】米国特許第7454095号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】E. Kretschmann他, “Radiative Decay of Non Radiative Surface PlasmonsExcited by Light”, 1968年, Z. Naturforsch, 第23a巻, p2135−2136
【非特許文献2】Michael Hochberg 他, "Integrated Plasmon and dielectricwaveguides" OPTICS EXPRESS,2004年,第12巻,第22号, p.5481−5486
【非特許文献3】Otto, “Excitation of Nonradiative Surface Plasma Waves in Silver bythe Method of Frustrated Total Reflection”, 1968年, Zeitschrift fur Physik, 第216巻,p398−410
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように従来、近接場光発生素子を用いた熱アシスト磁気記録方式が提案されているが、本願発明者等は、レーザ光を近接場光発生素子に直接照射するのではなく、導波路を伝播するレーザ光(導波路光)と近接場光発生素子とを表面プラズモンモードで結合させ、励起させた表面プラズモンを媒体対向面にまで伝播させて近接場光を得る近接場光発生素子を考案している。以後、この近接場光発生素子を表面プラズモン発生素子と呼ぶ。この表面プラズモン発生素子においては、導波路光が直接表面プラズモン発生素子に照射されないので、表面プラズモン発生素子の温度が過度に上昇しない。その結果、近接場光発生素子が熱膨張して読み出しヘッド素子の媒体対向面に達した端が相対的に磁気記録媒体から遠ざかってしまい、サーボ信号を良好に読み出すことが困難となる事態が回避され得る。また、近接場光発生素子内の自由電子の熱擾乱が大きくなって、光利用効率、すなわち導波路に入射するレーザ光の強度に対する近接場光発生素子から放射される近接場光の強度の比を低下させてしまう事態も回避され得る。
【0008】
この本願発明者等による表面プラズモン発生素子と、レーザ光が伝播する導波路とが構成する近接場光生成のための光学系では、上述した光利用効率を如何により高めるかが1つの重要なポイントとなる。ここで、表面プラズモン発生素子には、導波路光と表面プラズモンモードで結合する部分が存在する。具体的には、この部分において、導波路光の導波路からのしみ出し分に相当するエバネッセント光と、表面プラズモン発生素子の表面に励起される電荷のゆらぎとが結合する形で表面プラズモンモードが誘起され、表面プラズモンが励起されるのである。従って、上述した近接場光生成光学系の光利用効率を高めるためには、このエバネッセント光を表面プラズモン発生素子の所望の部分に如何にして到達させることができるかが重要となる。このためには、表面プラズモン発生素子の構造のみならず、導波路を含めた近接場光生成光学系の構成に工夫が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明について説明する前に、本明細書において用いられる用語の定義を行う。本発明による磁気記録ヘッドのスライダ基板の素子形成面に形成された積層構造若しくは素子構造において、基準となる層又は素子から見て、基板側を「下方」とし、その反対側を「上方」とする。また、本発明による磁気ヘッドの実施形態において、必要に応じ、いくつかの図面中、「X、Y及びZ軸方向」を規定している。ここで、Z軸方向は、上述した「上下方向」であり、+Z側がトレーリング側に相当し、−Z側がリーディング側に相当する。また、Y軸方向をトラック幅方向とし、X軸方向をハイト方向とする。
【0010】
また、磁気記録ヘッド内に設けられた導波路の「側面」とは、導波路を取り囲む端面のうち、導波路を伝播する光の伝播方向(−X方向)に垂直な端面以外の端面を指すものとする。従って、「上面」又は「下面」もこの「側面」の1つであり、この「側面」は、コアに相当する導波路において伝播する光が全反射し得る面となる。
【0011】
本発明によれば、媒体対向面側の端面から書き込み磁界を発生させる磁極と、
表面プラズモンを励起するための光が伝播する導波路と、
この光と表面プラズモンモードで結合し、媒体対向面の一部を成しており磁極の媒体対向面側の端面の近傍に位置する近接場光発生端面から近接場光を発生させる近接場光発生素子とを備えた熱アシスト磁気記録ヘッドであって、
導波路の伸長方向に沿った端辺に垂直な面による導波路の断面が、少なくとも近接場光発生素子と対向又は接触した導波路部分において、実質的に近接場光発生素子側の端辺が平行な対辺のうちの長辺となる台形状である、熱アシスト磁気記録ヘッドが提供される。
【0012】
この本発明による熱アシスト磁気記録ヘッドにおいては、導波路の断面の形状が実質的に等脚台形であって、長辺とその隣辺との間の角θTZが鋭角となっていることが好ましい。ここで、導波路を伝播する光のエネルギーの実質的にすべてを含む範囲、すなわち導波路内の強度中心位置から導波路の側面に垂直な方向での±3σ内の範囲(約99.7%の光エネルギーを含む範囲)のうち、導波路外であって近接場光発生素子が存在する側の範囲を、導波路をしみ出た光の有効分布範囲とする。上述した断面が逆台形状である導波路を用いることによって、近接場光発生素子における上述した光と表面プラズモンモードで結合する結合部分を、このしみ出た光の有効分布範囲内に位置させることが可能となる。その結果、導波路からしみ出た光と近接場光発生素子との表面プラズモンモードでの結合を十分に強いものとすることができる。これにより、これら導波路及び近接場光発生素子を含む近接場光生成光学系の光利用効率を高めることが可能となる。なお、上述した長辺とその隣辺との間の角θTZは、45度(°)以上であって89.5°以下であることが好ましい。
【0013】
さらに、上述した本発明による熱アシスト磁気記録ヘッドにおいて、近接場光発生素子は、導波路と接面した対導波路接触面と、近接場光発生素子においてこの対導波路接触面とは反対側に位置しており近接場光発生端面まで伸長した伝播エッジであって、光によって励起される表面プラズモンを伝播させるための伝播エッジとを備えており、この伝播エッジの少なくとも一部分が、光と表面プラズモンモードで結合する部分として、導波路からしみ出た光の有効分布範囲内に位置していることも好ましい。これら導波路と近接場光発生素子とを含む光学系は、後述するクレッチマン(Kretschmann)配置をなしている。
【0014】
このクレッチマン配置は、エバネッセント光を用いて表面プラズモンを励起するための光学系の一配置であり、光が入射する側から、第1の誘電体領域、金属領域、及び第1の誘電体領域の屈折率よりも小さな屈折率を有する第2の誘電体領域が、隣同士互いに接して順次並んだ配置である。このようなクレッチマン配置を利用した熱アシスト磁気記録ヘッドの光学系の構成においては、近接場光発生端面上における導波路側の端辺の位置に発生する近接場光の強度を著しく低減することができ、近接場光発生端面上の磁極側の位置に、より集中して近接場光を発生させることが可能となる。
【0015】
さらにまた、上述した本発明による熱アシスト磁気記録ヘッドにおいて、近接場光発生素子は、導波路と所定の間隔をもって対向した導波路対向面と、近接場光発生素子においてこの導波路対向面とは反対側に位置しており近接場光発生端面まで伸長した伝播エッジであって、光によって励起される表面プラズモンを伝播させるための伝播エッジとを備えており、この伝播エッジの少なくとも一部分が、光と表面プラズモンモードで結合する部分として、導波路からしみ出た光の有効分布範囲内に位置していることも好ましい。これら導波路と近接場光発生素子とを含む光学系は、後述するオットー(Otto)配置をなしている。
【0016】
このオットー配置は、クレッチマン配置と同じくエバネッセント光を用いて表面プラズモンを励起するための光学系の一配置であり、光が入射する側から、第1の誘電体領域、第1の誘電体領域の屈折率よりも小さな屈折率を有する第2の誘電体領域、及び金属領域が、隣同士互いに接して順次並んだ配置である。このようなオットー配置を利用した熱アシスト磁気記録ヘッドの光学系の構成においては、導波路と表面プラズモン発生素子との間に緩衝部が存在するので、導波路を伝播する光の波数Kに大きな影響を与えることなく表面プラズモンを励起することを可能とする。その結果、光と表面プラズモンとの結合を高いレベルに保つことが容易になる。
【0017】
さらにまた、上述した本発明による熱アシスト磁気記録ヘッドにおいて、近接場光発生素子は、導波路と所定の間隔をもって対向しており近接場光発生端面まで伸長した伝播エッジであって、光によって励起される表面プラズモンを伝播させるための伝播エッジを備えており、この伝播エッジの少なくとも一部分が、光と表面プラズモンモードで結合する部分として、導波路からしみ出た光の有効分布範囲内に位置していることも好ましい。これら導波路と近接場光発生素子とを含む光学系も、オットー配置をなしている。
【0018】
さらにまた、上述した本発明による熱アシスト磁気記録ヘッドにおいては、近接場光発生素子が導波路と前記磁極との間に設けられていることが好ましい。また、近接場光発生素子の周囲を、導波路を構成する材料の屈折率よりも低い屈折率を有する材料が覆っていることが好ましい。さらに、近接場光発生素子から見て磁極とは反対側に、磁気シールドが設けられていることが好ましい。
【0019】
本発明によれば、さらに、上述した熱アシスト磁気記録ヘッドと、この熱アシスト磁気記録ヘッドを支持するサスペンションとを備えているヘッドジンバルアセンブリ(HGA)が提供される。
【0020】
本発明によれば、さらにまた、上記の少なくとも1つのHGAと、少なくとも1つの磁気記録媒体と、この少なくとも1つの磁気記録媒体に対して熱アシスト磁気記録ヘッドが行う書き込み動作を制御するための記録回路とを備えている磁気記録装置であって、この記録回路が、表面プラズモンを励起するための光を発生させる光源の動作を制御するための発光制御回路をさらに備えている磁気記録装置が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、熱アシスト磁気記録ヘッドにおいて、近接場光発生素子における光と表面プラズモンモードで結合する結合部分を、導波路からしみ出た光の有効分布範囲内に位置させることが可能となる。その結果、導波路からしみ出た光と近接場光発生素子との表面プラズモンモードでの結合を十分に強いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による磁気記録装置及びHGAの一実施形態を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明による熱アシスト磁気記録ヘッドの一実施形態を示す斜視図である。
【図3】本発明による熱アシスト磁気記録ヘッドの要部の構成を概略的に示す、図2のA面による断面図である。
【図4】導波路、表面プラズモン発生素子及び主磁極の構成を概略的に示す斜視図である。
【図5】導波路、表面プラズモン発生素子及び電磁変換素子のヘッド端面上での端面の形状を示す平面図である。
【図6A】本発明に係る表面プラズモンモードを利用した熱アシスト磁気記録を説明するための概略図である。
【図6B】本発明に係る表面プラズモンモードを利用した熱アシスト磁気記録を説明するための概略図である。
【図7】本発明に係る近接場光生成光学系及び主磁極における他の実施形態を示す概略図である。
【図8】本発明に係る近接場光生成光学系及び主磁極におけるさらなる他の実施形態を示す概略図である。
【図9】導波路からはみ出た光のしみ出し長dEVを調べるシミュレーションに用いた実験系を示す断面図であり、さらにシミュレーションによって計算された導波路の断面形状(角θTZ)と、しみ出し長dEV及び表面プラズモン発生素子からの近接場光出力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一の要素は、同一の参照番号を用いて示されている。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0024】
図1は、本発明による磁気記録装置及びHGAの一実施形態を概略的に示す斜視図である。ここで、HGAの斜視図においては、HGAの磁気記録媒体表面に対向する側が上になって表示されている。
【0025】
図1に示した磁気記録装置としての磁気ディスク装置は、スピンドルモータ11の回転軸の回りを回転する、磁気記録媒体としての複数の磁気ディスク10と、複数の駆動アーム14が設けられたアセンブリキャリッジ装置12と、各駆動アーム14の先端部に取り付けられており、薄膜磁気ヘッドである熱アシスト磁気記録ヘッド21を備えたヘッドジンバルアセンブリ(HGA)17と、ヘッド21の書き込み及び読み出し動作を制御し、さらに、後述する熱アシスト磁気記録用のレーザ光を発生させる光源であるレーザダイオードの発光動作を制御するための記録再生及び発光制御回路13とを備えている。本実施形態において、磁気ディスク10は、垂直磁気記録用であり、ディスク基板に、軟磁性裏打ち層、中間層及び磁気記録層(垂直磁化層)が順次積層された構造を有している。アセンブリキャリッジ装置12は、熱アシスト磁気記録ヘッド21を、磁気ディスク10に形成されており記録ビットが並ぶトラック上に位置決めするための装置である。同装置内において、駆動アーム14は、ピボットベアリング軸16に沿った方向にスタックされており、ボイスコイルモータ15によってこの軸16を中心にして角揺動可能となっている。なお、本発明に係る磁気ディスク装置の構造は、以上に述べた構造に限定されるものではない。磁気ディスク10、駆動アーム14、HGA17及びヘッド21は、単数であってもよい。
【0026】
同じく図1によれば、HGA17において、サスペンション20は、ロードビーム200と、このロードビーム200に固着されており弾性を有するフレクシャ201と、ロードビーム200の基部に設けられたベースプレート202とを備えている。また、フレクシャ201上には、リード導体及びその両端に電気的に接続された接続パッドからなる配線部材203が設けられている。熱アシスト磁気記録ヘッド21は、各磁気ディスク10の表面に対して所定の間隔(浮上量)をもって対向するように、サスペンション20の先端部であってフレクシャ201に固着されている。さらに、配線部材203の一端が、熱アシスト磁気記録ヘッド21の端子電極に電気的に接続されている。なお、サスペンション20の構造も、以上に述べた構造に限定されるものではない。図示されていないが、サスペンション20の途中にヘッド駆動用ICチップが装着されていてもよい。
【0027】
図2は、本発明による熱アシスト磁気記録ヘッド21の一実施形態を示す斜視図である。
【0028】
図2によれば、熱アシスト磁気記録ヘッド21は、スライダ22及び光源ユニット23を備えている。スライダ22は、アルチック(Al−TiC)等から形成されており、適切な浮上量を得るように加工された媒体対向面である浮上面(ABS)2200を有するスライダ基板220と、ABS2200とは垂直な素子形成面2202上に形成されたヘッド素子部221とを備えている。また、光源ユニット23は、アルチック(Al−TiC)等から形成されており、接着面2300を有するユニット基板230と、接着面2300とは垂直な光源設置面2302に設けられた光源としてのレーザダイオード40とを備えている。ここで、スライダ22と光源ユニット23とは、スライダ基板220の背面2201とユニット基板230の接着面2300とを接面させて、互いに接着されている。ここで、スライダ基板220の背面2201は、スライダ基板220のABS2200とは反対側の端面のことである。なお、熱アシスト磁気記録ヘッド21は、光源ユニット23を用いずに、レーザダイオード40がスライダ22に直接搭載された形態であってもよい。
【0029】
スライダ22のスライダ基板220の素子形成面2202上に形成されたヘッド素子部221は、磁気ディスクからデータを読み出すためのMR素子33と磁気ディスクにデータを書き込むための電磁変換素子34とから構成されるヘッド素子32と、光源ユニット23に備えられたレーザダイオード40からのレーザ光を媒体対向面側に導くための導波路35と、導波路35と共に近接場光生成光学系を構成する近接場光発生素子としての表面プラズモン発生素子36と、MR素子33、電磁変換素子34、導波路35及び表面プラズモン発生素子36を覆うように素子形成面2202上に形成された保護層38と、保護層38の上面に露出しておりMR素子33に電気的に接続された一対の端子電極370と、同じく保護層38の上面に露出しており電磁変換素子34に電気的に接続された一対の端子電極371とを備えている。これらの端子電極370及び371は、フレクシャ201(図1)に設けられた配線部材203の接続パッドに電気的に接続される。
【0030】
MR素子33、電磁変換素子34及び表面プラズモン発生素子36の一端は、ヘッド素子部221の媒体対向面であるヘッド端面2210に達している。ここで、ヘッド端面2210とABS2200とが熱アシスト磁気記録ヘッド21全体の媒体対向面をなしている。実際の書き込み又は読み出し時においては、熱アシスト磁気記録ヘッド21が回転する磁気ディスク表面上において流体力学的に所定の浮上量をもって浮上する。この際、MR素子33及び電磁変換素子34の端が、磁気ディスクの磁気記録層の表面と適当なマグネティックスペーシングを介して対向することになる。この状態において、MR素子33が磁気記録層からのデータ信号磁界を感受して読み出しを行い、電磁変換素子34が磁気記録層にデータ信号磁界を印加して書き込みを行う。ここで、書き込みの際、光源ユニット23のレーザダイオード40から導波路35を通って伝播してきたレーザ光(導波路光)が、表面プラズモンモードで表面プラズモン発生素子36に結合し、表面プラズモン発生素子36に表面プラズモンを励起する。この表面プラズモンが、表面プラズモン発生素子36に設けられた後述する伝播エッジを、ヘッド端面2210に向けて伝播することにより、表面プラズモン発生素子36のヘッド端面2210側の端において、近接場光が発生する。この近接場光が磁気ディスク表面に達し、磁気ディスクの磁気記録層部分を加熱し、これにより、その部分の異方性磁界(保磁力)が書き込みを行うことが可能な値にまで低下する。この異方性磁界が低下した部分に書き込み磁界を印加することによって、熱アシスト磁気記録を行うことが可能となる。
【0031】
図3は、熱アシスト磁気記録ヘッド21の要部の構成を概略的に示す、図2のA面による断面図である。
【0032】
図3によれば、MR素子33は、MR積層体332と、対となってMR積層体332及び絶縁層381を挟む位置に配置されている下部シールド層330及び上部シールド層334とを含み、素子形成面2202上に形成された絶縁層380上に形成されている。上下部シールド層334及び330は、MR積層体332が雑音となる外部磁界を受けることを防止する。また、MR積層体332は、MR効果を利用して信号磁界を感受する感磁部であり、例えば、面内通電型巨大磁気抵抗(CIP-GMR)効果積層体、垂直通電型巨大磁気抵抗(CPP-GMR)効果積層体、又はトンネル磁気抵抗(TMR)効果積層体であってよい。いずれの積層体においても、高い感度で磁気ディスクからの信号磁界を感受する。なお、MR積層体332がCPP−GMR積層体又はTMR積層体である場合、上下部シールド層334及び330は、電極としての役割も果たす。
【0033】
同じく図3によれば、電磁変換素子34は、垂直磁気記録用であって、上部ヨーク層340と、主磁極3400と、書き込みコイル層343と、コイル絶縁層344と、下部ヨーク層345と、下部シールド3450とを備えている。
【0034】
主磁極3400は、Al(アルミナ)等の絶縁材料からなる絶縁層385内に形成されており、上部ヨーク層340は、コイル絶縁層344を覆うように形成されている。これら主磁極3400及び上部ヨーク層340は、互いに磁気的に接続されており、書き込みコイル層343に書き込み電流を印加することによって発生した磁束を、書き込みがなされる磁気ディスク10の磁気記録層(垂直磁化層)まで収束させながら導くための導磁路となっている。このうち、主磁極3400は、ヘッド端面2210に達しており、主磁極3400のヘッド端面2210の一部をなす端面3400eにおいて、下部シールド3450に最も近い(最もリーディング側の)端辺(LEG:図4と図5)が、書き込み磁界を発生させる位置となっている。この端辺LEGは、トラック幅方向(Y軸方向)の微小な幅W(図5)を有しており、これにより、高記録密度化に対応した微細な書き込み磁界が発生可能となる。幅Wは、例えば0.05〜0.5μm(マイクロメートル)程度である。主磁極3400は、上部ヨーク層340よりも高い飽和磁束密度を有する軟磁性材料から形成されていることが好ましく、例えば、Feが主成分である鉄系合金材料である、FeNi、FeCo、FeCoNi、FeN又はFeZrN等の軟磁性材料から形成される。主磁極3400の厚さは、例えば0.1〜0.8μmである。
【0035】
書き込みコイル層343は、絶縁層385上に形成されたAl(アルミナ)等の絶縁材料からなる絶縁層3421上において、1ターンの間に少なくとも下部ヨーク層345と上部ヨーク層340との間を通過するように形成されており、バックコンタクト部3402を中心として巻回するスパイラル構造を有している。この書き込みコイル層343は、例えばCu(銅)等の導電材料から形成されている。ここで、例えば加熱キュアされたフォトレジスト等の絶縁材料からなる書き込みコイル絶縁層344が、書き込みコイル層343を覆っており、書き込みコイル層343と上部ヨーク層340との間を電気的に絶縁している。書き込みコイル層343は、本実施形態において1層であるが、2層以上でもよく、又は上部ヨーク層340を間に挟むように配置されたヘリカルコイルでもよい。さらに、巻き数も図3での数に限定されるものではなく、例えば、2〜7ターンに設定され得る。
【0036】
なお、バックコンタクト部3402には、X軸方向に伸長した貫通孔が設けられており、この貫通孔の中を、導波路35及び導波路35を被覆する絶縁層が通り抜けている。この貫通孔内においては、バックコンタクト部3402の内壁と導波路35とが所定の距離、例えば少なくとも1μm離隔している。これにより、バックコンタクト部3402による導波路光の吸収が防止される。
【0037】
下部ヨーク層345は、Al(アルミナ)等の絶縁材料からなる絶縁層383上に形成されており、磁気ディスク10の磁気記録層(垂直磁化層)の下に設けられた軟磁性裏打ち層から戻ってきた磁束を導く導磁路としての役割を果たす。下部ヨーク層345は軟磁性材料から形成されており、その厚さは、例えば、0.5〜5μm程度である。また、下部シールド3450は、下部ヨーク層345と磁気的に接続されていてヘッド端面2210に達した磁気シールドである。下部シールド3450は、表面プラズモン発生素子36から見て主磁極3400とは反対側に設けられており、表面プラズモン発生素子36を介して主磁極3400と対向しており、主磁極3400から発して広がった磁束を取り込む役割を果たす。この下部シールド3450は、主磁極3400よりも格段に大きなトラック幅方向の幅を有している。このような下部シールド3450を設けることによって、下部シールド3450の端部と主磁極3400との間において磁界勾配がより急峻になる。この結果、信号出力のジッタが小さくなって読み出し時のエラーレートが低減可能となる。この下部シールド3450は、高飽和磁束密度を有する、NiFe(パーマロイ)又は主磁極3400と同様の鉄系合金材料等から形成されることが好ましい。
【0038】
同じく図3によれば、導波路35及び表面プラズモン発生素子36は、下部ヨーク層345(下部シールド3450)と上部ヨーク層340(主磁極3400)との間に設けられており、ヘッド素子部221内の近接場光生成用の光学系をなす。ここで、導波路35は、素子形成面2202と平行であってヘッド後端面2212の一部をなす後端面352から、ヘッド端面2210の一部をなす端面350まで伸長している。なお、端面350は、ヘッド端面2210に達せずにヘッド端面2210から+X方向に後退した位置にあってもよい。また、表面プラズモン発生素子36は、導波路35と主磁極3400との間に位置しており、本実施形態において導波路35と接面した対導波路接触面361と、表面プラズモン発生素子36においてこの対導波路接触面361とは反対側(トレーリング側:+Z側)に位置している伝播エッジ360とを備えている。この伝播エッジ360は、ヘッド端面2210の一部をなしており近接場光が発生する近接場光発生端面36aまで伸長しており、導波路35を伝播してきたレーザ光(導波路光)によって励起される表面プラズモンを、近接場光発生端面36aまで伝播させる役割を果たす。
【0039】
なお、導波路35、表面プラズモン発生素子36及び主磁極3400の構成については、後に図4を用いて詳細に説明を行う。なお、本実施形態のように、MR素子33と電磁変換素子34との間に、絶縁層382及び383に挟まれた素子間シールド層39が設けられていてもよい。この素子間シールド層39は、軟磁性材料で形成されていることが好ましく、電磁変換素子34より発生する磁界からMR素子33をシールドする役割を果たす。
【0040】
同じく図3によれば、光源ユニット23は、ユニット基板230と、ユニット基板230の光源設置面2302に設けられたレーザダイオード40と、レーザダイオード40の下面401をなす電極に電気的に接続された端子電極410と、レーザダイオード40の上面403をなす電極に電気的に接続された端子電極411とを備えている。これらの端子電極410及び411は、フレクシャ201(図1)に設けられた配線部材203の接続パッドに電気的に接続されている。この両電極410及び411を介してレーザダイオード40に所定の電圧を印加すると、レーザダイオード40の発光面400に位置する発光中心4000からレーザ光が放射される。ここで、図3に示されるようなヘッド構造において、レーザダイオード40が発生させるレーザ光の電場の振動方向が、活性層40eの積層面に対して垂直(Z軸方向)であることが好ましい。すなわち、レーザダイオード40が発生させるレーザ光がTMモードの偏光であることが好ましい。これにより、導波路35を伝播するレーザ光が、表面プラズモンモードで表面プラズモン発生素子36に結合可能となる。
【0041】
レーザダイオード40としては、InP系、GaAs系、GaN系等の、通信用、光学系ディスクストレージ用又は材料分析用等として通常用いられているものが使用可能であり、放射されるレーザ光の波長λは、例えば375nm(ナノメートル)〜1.7μmの範囲内の値に設定され得る。レーザダイオード40は、本実施形態において端面発光型であり、上部電極40aと、活性層40eと、下部電極40iとを含む多層構造を有している。この多層構造の劈開面の前後には、全反射による発振を励起するための反射層が形成されており、反射層42には、発光中心4000を含む活性層40eの位置に、開口が設けられている。ここで、レーザダイオード40の厚みTLAは、例えば60〜200μm程度とすることができる。
【0042】
また、このレーザダイオード40の駆動においては、磁気ディスク装置内の電源が使用可能である。実際、磁気ディスク装置は、通常、例えば2〜5V程度の電源を備えており、レーザ発振動作には十分な電圧が供給可能である。なお、レーザダイオード40及び駆動端子電極410及び411は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、レーザダイオード40において電極の上下を逆にし、n電極40aがユニット基板230の光源設置面2302に接着されてもよい。また、熱アシスト磁気記録ヘッド21の素子形成面2202上にレーザダイオードを設置して、このレーザダイオードと導波路35とを光学的に接続することも可能である。また、熱アシスト磁気記録ヘッド21がレーザダイオード40を備えておらず、磁気ディスク装置内に設けられたレーザダイオードの発光中心と導波路35の後端面352とが、例えば光ファイバ等を用いて接続されていてもよい。
【0043】
また、スライダ22及び光源ユニット23の大きさは任意であるが、例えば、スライダ22は、トラック幅方向(Y軸方向)の幅700μm×(Z軸方向の)長さ850μm×(X軸方向の)厚み230μmの、いわゆるフェムトスライダであってもよい。この場合、光源ユニット23は、これよりも一回り小さい大きさ、例えば、トラック幅方向の幅425μm×長さ300μm×厚み300μmとすることができる。
【0044】
以上に述べた光源ユニット23とスライダ22とを接続することによって、熱アシスト磁気記録ヘッド21が構成される。この接続においては、ユニット基板230の接着面2300とスライダ基板220の背面2201とを接面させるが、その際、レーザダイオード40の発光中心4000から放射されたレーザ光が導波路35の後端面352に丁度入射するように、ユニット基板230及びスライダ基板220の位置が決定される。
【0045】
図4は、導波路35、表面プラズモン発生素子36及び主磁極3400の構成を概略的に示す斜視図である。同図においては、書き込み磁界及び近接場光が磁気記録媒体に向かって放射される位置を含むヘッド端面2210が、左側に位置している。
【0046】
図4によれば、近接場光発生用のレーザ光53を伝播させるための導波路35と、この導波路35を伝播するレーザ光(導波路光)53によって励起される表面プラズモンを伝播させ、近接場光を発生させる表面プラズモン発生素子36とが設けられている。表面プラズモン発生素子36は、本実施形態において導波路35と接面した対導波路接触面361と、表面プラズモン発生素子36においてこの対導波路接触面361とは反対側(トレーリング側:+Z側)に位置している伝播エッジ360と、ヘッド端面2210に達しており近接場光が発生する近接場光発生端面36aとを備えている。すなわち、表面プラズモン発生素子36と導波路35とは互いに接面している。伝播エッジ360は、近接場光発生端面36aまで伸長しており、導波路光53によって表面プラズモン発生素子36に励起される表面プラズモンを、近接場光発生端面36aまで伝播させる役割を果たす。なお、本実施形態においては、表面プラズモン発生素子36は、実質的にX軸方向に伸長する三角柱の形状を有しており、対導波路接触面361は、この三角柱の1つの側面(平面)であって、伝播エッジ360は、この1つの側面と対向する側辺となっている。なお、ここで、「実質的に」とは、表面プラズモン発生素子36の形成方法に依存して、例えば側面が若干の曲面となった素子形状や、側辺の角が丸められていて所定の曲率半径を有する素子形状をも三角柱の形状として含む意味である。
【0047】
さらに、表面プラズモン発生素子36は、対導波路接触面361を除いて、導波路35を構成する材料の屈折率よりも低い屈折率を有する絶縁層385(図3)で周囲を覆われている。すなわち、この絶縁層385は、導波路35とは反対側に位置する伝播エッジ360をも覆っており、導波路35と主磁極3400との間にも介在しているのである。導波路35を伝播してきた導波路光は、この絶縁層385を緩衝部とすることによって、表面プラズモン発生素子36、特に伝播エッジ360と表面プラズモンモードで結合することが可能となる。さらに、絶縁層385は、絶縁層384とともに、コアの役割を果たす導波路35の少なくともヘッド端面2210近傍の部分を覆っており、クラッドの役割を果たす。また、本実施形態においては、緩衝部として、保護層38の一部である絶縁層385を用いているが、この絶縁層385とは別に、新たな層を緩衝部として設けてもよい。
【0048】
ここで、導波路35の上面(側面)の一部と表面プラズモン発生素子36の対導波路接触面361とは接面しており、導波路35と、表面プラズモン発生素子36と、絶縁層385の部分とは、クレッチマン(Kretschmann)配置をなしている。クレッチマン配置は、エバネッセント光を用いて表面プラズモンを励起するための光学系の一配置であり、レーザ光が入射する側から、第1の誘電体領域、金属領域、及び第1の誘電体領域の屈折率よりも小さな屈折率を有する第2の誘電体領域が、隣同士互いに接して順次並んだ配置である。このクレッチマン配置は、例えば、非特許文献1において詳細に解説されている。
【0049】
図4に示したクレッチマン配置の構成においては、近接場光発生端面36a上における導波路35側の端辺361aの位置に発生する近接場光の強度を、著しく低減することができる。すなわち、所望の位置である主磁極3400側の頂点NFPに、より集中して近接場光を発生させることが可能となる。
【0050】
同じく図4によれば、導波路35は、表面プラズモン発生素子36の−Z側(リーディング側)、すなわち導波路35から見て主磁極3400とは反対側に設けられている。このような構成においては、書き込み磁界を発生させる主磁極3400の端面3400eと近接場光を発生させる近接場光発生端面36aとが互いに近接している状態においても、導波路35を、主磁極3400から離隔させることが可能となる。その結果、導波路光53の一部が金属からなる主磁極3400に吸収されてしまって近接場光に変換される光量が低減してしまう事態を回避することができる。
【0051】
導波路35の形状については、トラック幅方向(Y軸方向)の幅が一定であってもよいが、図4に示すように、ヘッド端面2210側の部分のトラック幅方向(Y軸方向)の幅が狭くなっていてもよい。導波路35のヘッド端面2210とは反対側の後端面352側の部分におけるトラック幅方向(Y軸方向)の幅WWG1は、例えば0.5〜200μm程度とすることができ、端面350側の部分におけるトラック幅方向(Y軸方向)の幅WWG2は、例えば0.3〜100μm程度とすることができ、(Z軸方向の)厚さTWGは、例えば0.1〜4μm程度とすることができ、(X軸方向の)高さ(長さ)HWGは、例えば10〜300μm程度とすることができる。
【0052】
また、導波路35の断面であって、導波路35の伸長方向(X軸方向)に沿った端辺35l(図4では上面354の端辺)に垂直な面(YZ面)による導波路35の断面は、少なくとも表面プラズモン発生素子36と対向又は接触した導波路部分において、実質的に、表面プラズモン発生素子36側の端辺が平行な対辺のうちの長辺となる台形状、好ましくは等脚台形状となっている。なお、ここで、「実質的に」とは、導波路35の形成方法に依存して、この断面の端辺が若干曲がっていたり、この断面の角が若干丸められていたりする形状をも台形状として含む意味である。
【0053】
このように、導波路35の断面を、長辺が表面プラズモン発生素子36側である逆台形状にすることによって、後に詳細に説明するように、表面プラズモン発生素子36における導波路光53と表面プラズモンモードで結合する結合部分を、導波路35からしみ出た光の有効分布範囲内に位置させることが可能となる。なお、導波路35の(等脚)台形状の断面において、表面プラズモン発生素子36側である長辺とその隣辺との間の角θTZは鋭角となるが、この鋭角は、後述するように、45度(°)以上であって89.5°以下であることが好ましい。このような角θTZの設定によって、表面プラズモン発生素子36の結合部分を、導波路35からしみ出た光の有効分布範囲内に確実に位置させることが可能となる。
【0054】
また、導波路35の側面、すなわち上面354、下面353、及びトラック幅方向(Y軸方向)の両側面351は、表面プラズモン発生素子36の対導波路接触面361と接面した部分を除いて、保護層38(図2)、すなわち絶縁層384及び385(図3)と接面している。ここで、導波路35は、保護層38の構成材料の屈折率nOCよりも高い屈折率nWGを有する、例えばスパッタリング法等を用いて形成された誘電材料から構成されている。従って、表面プラズモン発生素子36は、対導波路接触面361を除いて、導波路35を構成する材料の屈折率nWGよりも低い屈折率nOCを有する絶縁層385(図3)で周囲を覆われていることになる。例えば、レーザ光53の波長λが600nmであって、保護層38が、Al(n=1.63)から形成されている場合、導波路35は、SiO(n=1.7〜1.85)、Ta(n=2.16)、Nb(n=2.33)、TiO(n=2.3〜2.55)から形成されていてもよい。導波路35をこのような材料で構成することによって、材料そのものが有する良好な光学特性によってレーザ光53の伝播損失が低く抑えられる。さらに、導波路35がコアとして働く一方、保護層38がクラッドとしての機能を果たし、全側面での全反射条件が整うことになる。これにより、より多くのレーザ光53が表面プラズモン発生素子36の対導波路接触面361と対向する位置に達し、導波路35の伝播効率が向上する。なお、導波路35を伝播する導波路光の波数Kを安定させ、表面プラズモンを確実に励起するために、導波路35は、シングルモードの導波路であることが好ましい。ここで、シングルモードの導波路とは、導波路内を伝播するレーザ光のビーム断面が円形又は楕円形であって、その断面内での光強度分布が単峰性の分布、特にガウス分布で表される導波路をいう。シングルモードの導波路を伝播するレーザ光は、例えばビーム径を絞られた場合でも安定して所望の強度のレーザ光となるという特徴を有する。
【0055】
さらに、表面プラズモン発生素子36は、銀(Ag)、又はAgを主成分とする合金で形成されていることが好ましい。この合金は、特に、パラジウム(Pd)、金(Au)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)及びイリジウム(Ir)のグループから選択された少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。表面プラズモン発生素子36をこのようなAg合金材料で形成することによって、理論的に最高の近接場光発生効率を示す材料であるAgに次ぐ、高い近接場光発生効率を実現した上で、クラック、チッピング(欠け)等の欠陥の発生が十分に抑制された伝播エッジ360が得られる。
【0056】
同じく図4に示すように、表面プラズモン発生素子36の(Z軸方向の)厚さTNF、すなわち伝播エッジ360と対導波路接触面361との距離は、レーザ光53の波長よりも十分に小さいことが好ましい。また、対導波路接触面361におけるトラック幅方向(Y軸方向)の幅WNFも、レーザ光53の波長よりも十分に小さいことが好ましい。さらにまた、表面プラズモン発生素子36の(X軸方向の)長さHNFは、例えば0.3〜6.0μm程度とすることができる。この長さHNFは、本実施形態において、表面プラズモン発生素子36の表面プラズモンモードでの結合部分の長さでもあり、レーザ光53の波長λよりも大きいことが好ましい。この場合、この結合部分は、例えばレーザ光を緩衝部及び近接場光発生素子に集光させ表面プラズモンモードで結合させる場合の、いわゆる「焦点領域」に比べると、格段に広い領域となっており、非常に安定した表面プラズモンモードによる結合が可能となる。
【0057】
図5は、導波路35、表面プラズモン発生素子36及び電磁変換素子34のヘッド端面2210上での端面の形状を示す平面図である。
【0058】
図5に示すように、電磁変換素子34においては、主磁極3400と下部シールド3450とがヘッド端面2210に達している。主磁極3400のヘッド端面2210上における端面3400eの形状は、例えば、長方形、正方形又は台形である。ここで、上述した幅Wは、この端面3400eにおける下部シールド3450に最も近い(最もリーディング側の)端辺LEGのトラック幅方向(Y軸方向)の長さであり、発生する書き込み磁界のトラック幅方向の幅を規定する。幅Wは、例えば0.05〜0.5μm程度とすることができる。
【0059】
また、ヘッド端面2210上において、表面プラズモン発生素子36の近接場光発生端面36aは、主磁極3400の端面3400eの近傍にあって、端面3400eのリーディング側(−Z側)に位置している。さらに、近接場光発生端面36aは、本実施形態において、ヘッド端面2210上で、底辺361aを導波路35側(リーディング側:+Z側)に持ち、伝播エッジ360の端を主磁極3400側(リーディング側:−Z側)の頂点NFPとする二等辺三角形となっている。ここで、頂点NFPと底辺361aとの間の距離、すなわち表面プラズモン発生素子36の(Z軸方向の)厚さTNFは、例えば70〜140nmとすることができる。
【0060】
さらに、近接場光の発生ポイントである頂点NFPは、以上に述べたように伝播エッジ360が導波路35とは反対側に設けられているので、主磁極3400側に位置することになる。その結果、近接場光の発生ポイントを、書き込み磁界の発生個所となる端辺LEGの極近傍に配置することができる。この頂点NFPと端辺LEGとのヘッド端面2210上での間隔をDN−Pとすると、間隔DN−Pは、100nm以下の十分に小さい値に設定されることが好ましい。本発明による熱アシスト磁気記録においては、この頂点NFPが主要な加熱作用部分となり、端辺LEGが書き込み部分となるので、このように間隔DN−Pを設定することによって、磁気ディスクの磁気記録層において十分に加熱した部分に、十分に大きな勾配を有する書き込み磁界を印加することができる。これにより、熱アシストによる安定した書き込み動作が確実に実施可能となる。なお、近接場光発生端面36aの頂点NFPでの頂角θNFは、例えば10〜50度(°)に設定される。また、伝播エッジ360の角は、表面プラズモンが伝播エッジ360から離脱して光利用効率が低下する現象を防止するために丸められており、この角の頂点半径(曲率半径)rNFは、例えば7.5〜18nmに設定される。
【0061】
同じく図5によれば、導波路35のトラック幅方向(Y軸方向)の幅WWG2は、上述したように例えば0.3〜100μm程度であるが、表面プラズモン発生素子36の対導波路接触面361におけるトラック幅方向の幅WNFよりも格段に大きくなるように設定される。これにより、導波路35からしみ出た光の有効分布範囲をトラック幅方向(Y軸方向)において十分に広くし、表面プラズモン発生素子36のプラズモンモードで結合する結合部分としての伝播エッジ360を、確実にこの導波路35からしみ出た光の有効分布範囲内に位置させることが可能となる。
【0062】
図6Aと図6Bは、本発明に係る表面プラズモンモードを利用した熱アシスト磁気記録を説明するための概略図である。ここで、図6Aは、ZX面による断面図となっており、図6Bは、YZ面による断面図となっている。また、図6Aにおいては、図4に示した形態に対する変更態様として、導波路35の端面350が、ヘッド端面2210に達せずにヘッド端面2210から+X方向に後退した位置に設けられている。しかしながら、以下に説明する熱アシスト磁気記録の原理は、図4及び図6Aに示した形態それぞれに当てはまる。
【0063】
図6Aによれば、電磁変換素子34による磁気ディスク10の磁気記録層への書き込みの際、最初に、光源ユニット23のレーザダイオード40から放射されたレーザ光53が、導波路35を伝播する。次いで、表面プラズモン発生素子36の対導波路接触面361の近傍まで進行したレーザ光(導波路光)53は、屈折率nWGを有する導波路35と、屈折率nOCを有する緩衝部(絶縁層385)と、金属等の導電材料からなる表面プラズモン発生素子36との光学的構成と結びついて、表面プラズモン発生素子36の伝播エッジ360に表面プラズモンモードを誘起する。すなわち、表面プラズモンモードで表面プラズモン発生素子36に結合する。この表面プラズモンモードの誘起は、表面プラズモン発生素子36における対導波路接触面361以外の伝播エッジ360を含む部分を覆っている緩衝部(絶縁層385)の屈折率nOCを、導波路35の屈折率nWGよりも小さく(nOC<nWG)設定することによって可能となる。
【0064】
なお、これら屈折率nWGを有する誘電材料からなる導波路35と、金属等の導電材料からなる表面プラズモン発生素子36と、屈折率nOC(nOC<nWG)を有する誘電材料からなる絶縁層385の部分とが順次積層された構成は、クレッチマン(Kretschmann)配置をなしており、同配置の原理に基づいて、表面プラズモンが励起される。実際、図6Bに示すように、絶縁層385内(及び表面プラズモン発生素子36内)に、導波路光53の界面(側面354)からのしみ出し分に相当するエバネッセント光60が励起され、側面354から離れるように伝播する。このエバネッセント光60と、表面プラズモン発生素子36の絶縁層385に対する界面に励起される電荷のゆらぎとが結合する形で、伝播エッジ360の位置を中心に表面プラズモンモードが誘起され、表面プラズモンが励起される。従って、表面プラズモン発生素子36においては、伝播エッジ360の長さLBF(図6A)の部分を、導波路光53と表面プラズモンモードで結合する結合部分とすることができる。なお、正確には、この系においては素励起である表面プラズモンが電磁波と結合することになるので、励起されるのは表面プラズモン・ポラリトンである。しかしながら以後、省略して、表面プラズモン・ポラリトンを表面プラズモンと呼ぶ。
【0065】
ここで、図6Bに示す断面図において、導波路35のYZ断面は、表面プラズモン発生素子36側を長辺とする等脚台形状となっている。この際、表面プラズモン発生素子36側である長辺(側面354)とその隣辺(側面351)との間の角θTZは鋭角となるが、この鋭角は、後述するように、45°以上であって89.5°以下であることが好ましい。このように導波路35の断面を設定することによって、後述するように導波路35からしみ出た光60の有効分布範囲を、界面(側面354)から+Z方向に広げることができる。なお、この導波路35からしみ出た光60の有効分布範囲を、導波路35を伝播する光のエネルギーの実質的にすべてを含む範囲、すなわち導波路35内の強度中心530位置から側面354に垂直な方向(Z軸方向)での±3σ内の範囲(約99.7%の光エネルギーを含む範囲)のうち、導波路35外であって表面プラズモン発生素子36が存在する側の範囲と定義する。ここで、σは、導波路35を伝播する光の側面354に垂直な方向(Z軸方向)におけるエネルギー分布の標準偏差である。このしみ出し光60の有効分布範囲を拡大させることによって、表面プラズモンモードで結合する結合部分である伝播エッジ360を、従って本実施形態においては表面プラズモン発生素子36全体を、しみ出し光60の有効分布範囲内に位置させることが十分に可能となるのである。このしみ出し光60の有効分布範囲の、界面(側面354)からのZ軸方向での大きさ(長さ)をしみ出し長dEVとすると、次式が成り立つ。
【0066】
(1) dEV≧TNF
ここで、TNFは、表面プラズモン発生素子36の(Z軸方向の)厚さTNF、すなわち伝播エッジ360と導波路対向面361との距離である。このように、表面プラズモン発生素子36がしみ出し光60の有効分布範囲内に位置していることによって、このしみ出し光60と、表面プラズモン発生素子36において界面(側面354)から最も遠い位置にある伝播エッジ360に励起される電荷のゆらぎとが結合可能となる。その結果、表面プラズモンが伝播するべき伝播エッジ360に、表面プラズモンモードが誘起されて表面プラズモンが十分に励起可能となる。すなわち、導波路35とは反対側に位置する伝播エッジ360に表面プラズモンを確実に励起することが可能となるのである。なお、伝播エッジ360は、表面プラズモン発生素子36の角部であって電場が集中しやすいので、本来、表面プラズモンが励起されやすい。ここで、導波路35の上面(側面)354と接面した表面プラズモン素子36(対導波路接触面361)の長さLBFも、この表面プラズモンモードの誘起における重要なパラメータの1つとなる。また、この本発明におけるクレッチマン配置を利用した構成においては、表面プラズモンモードの誘起が、導波路35を伝播するレーザ光(導波路光)の波数Kに対する影響を与える点を考慮して、導波路光の周波数と表面プラズモンの共鳴周波数とを一致させる光学的設計を行うことになる。
【0067】
図6Aに戻って、励起された表面プラズモン61は、表面プラズモン発生素子36の伝播エッジ360上を矢印62の方向に伝播する。伝播エッジ360は近接場光発生端面36aの頂点NFPを行き着く先としており、伝播エッジ360を伝播する表面プラズモン61、すなわち電場は、この頂点NFPに集中する。この結果、この頂点NFPから近接場光63が発生する。この近接場光63が磁気ディスク10の磁気記録層に向けて照射され、磁気ディスク10の表面に達し、磁気ディスク10の磁気記録層部分を加熱する。これにより、その部分の異方性磁界(保磁力)が書き込みを行うことが可能な値にまで低下する。その直後、この部分に、主磁極3400から発生する書き込み磁界64を印加して書き込みを行う。以上、熱アシスト磁気記録を行うことが可能となる。
【0068】
以上に述べたクレッチマン配置を利用した、導波路35と表面プラズモン発生素子36とが接面している構成においては、緩衝部が、導波路35の上面(側面)354と対導波路接触面361との間に存在しない。その結果、対導波路接触面361上に励起され同面上を伝播する表面プラズモンの量は、所定の光学的な界面条件が整わないので大幅に抑制される。これにより、近接場光発生端面36aの端辺361aの位置、特に端辺361aの両端に発生する近接場光の強度を著しく低減することができる。すなわち、主磁極3400側の頂点NFPに、より集中して近接場光63を発生させることが可能となる。
【0069】
また、本発明による熱アシスト磁気記録においては、表面プラズモンモードを利用しており、表面プラズモン61をヘッド端面2210に向かって伝播させることによって近接場光63を発生させている。これにより、近接場光発生端面36aにおける近接場光発生時の温度が例えば約100℃前後となり、金属片のプラズモン・アンテナを用いて近接場光を発生させる場合に比べて大幅に低減する。その結果、近接場光発生端面36aの磁気ディスク10に向かう方向の突出が抑制され、良好な熱アシスト磁気記録が可能となる。なお、表面プラズモンモードの誘起については、例えば、非特許文献2、特許文献3及び特許文献4に記載されている。
【0070】
図7は、本発明に係る近接場光生成光学系及び主磁極における他の実施形態を示す概略図である。ここで、図7(A)は、前面がヘッド端面2210となっている斜視図であり、図7(B)は、YZ面による断面図となっている。
【0071】
図7(A)によれば、導波路70、表面プラズモン発生素子71及び主磁極72は、導波路70及び表面プラズモン発生素子71が互いに離隔している点を除いて、図4と図5に示した導波路35、表面プラズモン発生素子36及び主磁極3400の構成と同様の構成を有している。ここで、表面プラズモン発生素子71の導波路対向面711が、導波路70の上面(側面)704と所定の間隔DBFをもって対向している。この図7(A)の構成においては、導波路70と、導波路70及び表面プラズモン発生素子71の間に介在する絶縁層部分730と、表面プラズモン発生素子71とは、エバネッセント光を用いて表面プラズモンを励起するための光学系の一配置であるオットー(Otto)配置をなしている。オットー配置は、レーザ光が入射する側から、第1の誘電体領域、第1の誘電体領域の屈折率よりも小さな屈折率を有する第2の誘電体領域、及び金属領域が、隣同士互いに接して順次並んだ配置である。このオットー配置と、図4と図5に示したクレッチマン配置とは、表面プラズモンの励起の原理において互いに異なっており、その結果、これらの配置は、互いに異なった光学的構成を実現し、互いに異なった表面プラズモンの分散関係を提供する。なお、オットー配置は、例えば、非特許文献3において詳細に解説されている。
【0072】
図7(A)の実施形態においては、表面プラズモン発生素子71の導波路対向面711の近傍まで進行したレーザ光(導波路光)は、屈折率nWGを有する導波路70と、屈折率nOC(nOC<nWG)を有する緩衝部(絶縁層部分730、及び素子71を覆う絶縁層73(図7(B))と、金属等の導電材料からなる表面プラズモン発生素子71との光学的構成と結びついて、表面プラズモン発生素子36に表面プラズモンモードを誘起する。すなわち、導波路70からのしみ出し光74(図7(B))と表面プラズモン発生素子71の表面に励起される電荷のゆらぎとが結合する形で表面プラズモンモードが誘起され、表面プラズモンが励起される。
【0073】
ここで、図7(B)に示す断面図において、導波路70のYZ断面は、実質的に、表面プラズモン発生素子71側を長辺とする等脚台形状となっている。この際、表面プラズモン発生素子71側である長辺(側面704)とその隣辺(側面701)との間の角θTZは鋭角となるが、この鋭角は、後述するように、45°以上であって89.5°以下であることが好ましい。このように導波路70の断面を設定することによって、後述するようにしみ出し光74の有効分布範囲を、界面(側面704)から+Z方向に広げることができる。その結果、表面プラズモン発生素子71における表面プラズモンモードで結合する結合部分を、しみ出し光74の有効分布範囲内に位置させることが十分に可能となるのである。ここで、この結合部分には、表面プラズモン発生素子71の形状及びサイズにも依存するが、導波路対向面(底面)711、さらには表面プラズモン発生素子71の側面71sの部分も含まれ得る。これら導波路対向面711及び側面71sに励起された表面プラズモンも、近接場光発生端面71aに向かう方向(−X軸方向)に進行する際に、最も小さな鋭角をなす角を有する伝播エッジ710に表面プラズモンモードを誘起する。従って、このような場合には、必ずしも伝播エッジ710をしみ出し光74の有効分布範囲内に位置させる必要はない。しかしながら、表面プラズモンが伝播するべき伝播エッジ710を、表面プラズモンモードで結合する結合部分としてしみ出し光74の有効分布範囲内に位置させることがより好ましい。この場合は、表面プラズモン発生素子71全体がしみ出し光74の有効分布範囲内に位置することになる。本実施形態においては、このようにして励起された表面プラズモンは、伝播エッジ710を伝播して近接場光発生端面71aに至り、その結果、主磁極72の端面72e側の頂点NFP71から集中して近接場光が発生するのである。
【0074】
この本実施形態におけるオットー配置を利用した構成は、導波路70と表面プラズモン発生素子71との間に緩衝部としての絶縁層部分730が存在するので、導波路70を伝播するレーザ光(導波路光)の波数Kに大きな影響を与えることなく表面プラズモンを励起することを可能とする。その結果、導波路光と表面プラズモンとの結合を高いレベルに保つことが容易になる。なお、導波路70と表面プラズモン発生素子71との間の表面プラズモンモードでの結合の強さは、両者の間隔DBFに強く依存するので、間隔DBFは、できるだけばらつきを抑えられて所定値に設定される。
【0075】
以上、図7に示した実施形態においても、導波路70の断面を逆台形状とすることによって、表面プラズモン発生素子71における表面プラズモンモードで結合する結合部分(伝播エッジ710)を、しみ出し光74の有効分布範囲内に位置させることが十分に可能となる。その結果、表面プラズモン発生素子71における導波路70とは反対側の伝播エッジ710に表面プラズモンを励起させ、この伝播エッジ710に集中して表面プラズモンを伝播させることができる。これにより、この表面プラズモン発生素子71から見て導波路70とは反対側に設けられた主磁極72の近傍の微小領域に、近接場光を集中的に発生させることが可能となる。その結果、良好な熱アシスト磁気記録を実施することができる。
【0076】
図8は、本発明に係る近接場光生成光学系及び主磁極におけるさらなる他の実施形態を示す概略図である。ここで、図8(A)は、前面がヘッド端面2210となっている斜視図であり、図8(B)は、YZ面による断面図となっている。
【0077】
図8(A)によれば、導波路80、表面プラズモン発生素子81及び主磁極82は、導波路80及び表面プラズモン発生素子81が互いに離隔しており、さらに表面プラズモン発生素子81の形状が異なる点を除いて、図4と図5に示した導波路35、表面プラズモン発生素子36及び主磁極3400の構成と同様の構成を有している。ここで、表面プラズモン発生素子81は、導波路80の上面(側面)804と所定の間隔DBF′をもって対向しており近接場光発生端面81aまで伸長した伝播エッジ810であって、導波路光によって励起される表面プラズモンを伝播させるための伝播エッジ810を備えている。
【0078】
この図8(A)の構成においても、導波路80と、導波路80及び表面プラズモン発生素子81の間に介在する絶縁層部分830と、表面プラズモン発生素子81とは、図7に示した実施形態と同じく、オットー配置をなしている。ここで、表面プラズモン発生素子81の伝播エッジ810の近傍まで進行したレーザ光(導波路光)は、屈折率nWGを有する導波路80と、屈折率nOC(nOC<nWG)を有する緩衝部(絶縁層部分830、及び素子81を覆う絶縁層83(図8(B))と、金属等の導電材料からなる表面プラズモン発生素子81との光学的構成と結びついて、表面プラズモン発生素子81の伝播エッジ810に表面プラズモンモードを誘起する。すなわち、導波路80からのしみ出し光84(図8(B))と、表面プラズモン発生素子81の表面、特に、導波路80に最も近く電場が集中しやすい角をなす伝播エッジ810に励起される電荷のゆらぎとが結合する形で表面プラズモンモードが誘起され、表面プラズモンが伝播エッジ810に励起される。
【0079】
ここで、図8(B)に示す断面図において、導波路80のYZ断面は、実質的に、表面プラズモン発生素子81側を長辺とする等脚台形状となっている。この際、表面プラズモン発生素子81側である長辺(側面804)とその隣辺(側面801)との間の角θTZは鋭角となるが、この鋭角は、後述するように、45°以上であって89.5°以下であることが好ましい。このように導波路80の断面を設定することによって、後述するようにしみ出し光84の有効分布範囲を、界面(側面704)から+Z方向に広げることができる。その結果、表面プラズモン発生素子81における表面プラズモンモードで結合する結合部分としての伝播エッジ810を、しみ出し光84の有効分布範囲内に位置させることが十分に可能となるのである。この場合、励起された表面プラズモンは、伝播エッジ810を伝播して近接場光発生端面81aに至る。ここで、近接場光発生端面81aの形状、サイズを調整することによって、主磁極82の端面82e側の端辺NFEから集中して近接場光を発生させることができるのである。
【0080】
この図8(B)の実施形態においては、必ずしも表面プラズモン発生素子81の全体を、しみ出し光84の有効分布範囲内に位置させる必要はない。伝播エッジ810が、しみ出し光84の有効分布範囲、すなわち、しみ出し光のエネルギー分布85の3σの範囲内に入っていれば、Z軸方向において伝播エッジ810の位置をピークとしたエネルギー分布86のように分布した近接場光が、生成可能となるのである。
【0081】
以上、図8に示した実施形態においても、導波路80の断面を逆台形状とすることによって、表面プラズモンモードで結合する結合部分である伝播エッジ810(表面プラズモン発生素子81全体)を、しみ出し光84の有効分布範囲内に位置させることが十分に可能となる。その結果、表面プラズモン発生素子81の伝播エッジ810に、表面プラズモンを励起させ集中して伝播させることができる。これにより、この表面プラズモン発生素子81から見て導波路80とは反対側に設けられた主磁極82の近傍の微小領域に、近接場光を集中的に発生させることが可能となる。その結果、良好な熱アシスト磁気記録を実施することができる。
【0082】
以下、本発明に係る、断面が台形状である導波路からしみ出た光の有効分布範囲及び表面プラズモン発生素子からの近接場光出力を、シミュレーションによって解析した実施例を示す。
【0083】
図9(A)は、導波路からしみ出た光のしみ出し長dEVを調べるシミュレーションに用いた実験系を示す断面図である。
【0084】
図9(A)に示すように、本実施例においては最初に、導波路90からしみ出た光の有効分布範囲、すなわち、導波路90の上面(側面)904からの(Z軸方向の)しみ出し長dEVを電磁場解析である3次元の時間領域差分法(Finite-Difference Time-Domain method: FDTD method)を用いたシミュレーション解析実験によって計算した。
【0085】
導波路90に入射したレーザ光は、波長λが825nmであって、TM偏光(レーザ光の電場の振動方向が上面904に垂直:Z軸方向)を有するガウシアンビームであった。また、このレーザ光の強度IINは、1.0(V/m)であった。しみ出し長dEVは、図6Bを用いて説明したように、導波路90からしみ出た光の有効分布範囲の、上面904からのZ方向での大きさ(長さ)であった。導波路90の上面904でのトラック幅方向の幅WWG2は500nmであり、(Z軸方向の)厚さTWGも500nmであった。また、導波路90のYZ断面は等脚台形状であり、上面904と側面901とのなす角θTZを、45度(°)から100°までの範囲で変化させた。
【0086】
また、表面プラズモン発生素子91の導波路接触面911と導波路90の上面904とは接面しており、表面プラズモン発生素子91は、上面904上のトラック幅方向(Y軸方向)における中央に位置していた。表面プラズモン発生素子81の(Z軸方向の)頂角θNFは40°であり、厚さTNFは140nmであった。なお、この厚さTNFは、表面プラズモン発生素子91の波数が導波路90を伝播する導波路光の波数と一致する厚さとして決定された。さらに、導波路90はTaO(屈折率nWG=2.15)で形成されており、表面プラズモン発生素子91はAuで形成されていた。このAuにおいては、屈折率の実数部が0.223であって虚数部が5.080であった。さらに、導波路90及び表面プラズモン発生素子91は、緩衝部兼クラッドの役割を果たすAl(アルミナ:屈折率nOC=1.65)で周囲を覆われていた。
【0087】
表1は、以上に説明したシミュレーションによって計算された、導波路90の断面形状(角θTZ)と、しみ出し長dEV及び表面プラズモン発生素子91からの近接場光出力との関係を示している。また、図9(B)は、表1に示したシミュレーション実験結果を示すグラフである。ここで、表1及び図9(B)に示された近接場光出力は、表面プラズモン発生素子91の近接場光発生端面位置での値であり、また、角θTZ=45°の場合の出力値を基準(0dB)として規格化され、デシベル表示されている。
【0088】
【表1】

【0089】
表1及び図9(B)によれば、導波路90の上面904と側面901とのなす角θTZが90°未満である場合、すなわち断面が逆台形の場合、しみ出し長dEVは、導波路の波数と一致させる条件を満たすように設定されたTNF値(140nm)以上の値となり、しみ出し光の有効分布範囲は、少なくとも伝播エッジ910に達しており、表面プラズモン発生素子91をその中に含んでいることが分かる。ここで、角θTZをより小さく設定するほど、しみ出し長dEVは増大し、角θTZ=45°ではdEV=256nmに達する。これに対して、角θTZ≧90°である場合、すなわち断面が長方形(正方形)又は正台形の場合、しみ出し長dEVは、TNF値(140nm)未満の値となり、表面プラズモン発生素子91(伝播エッジ910)は、しみ出し光の有効分布範囲から外れてしまう。
【0090】
さらに、角θTZが45°以上であって89.5°以下である場合、近接場光出力は、角θTZ=45°(逆台形)の場合を基準(0dB)として0〜−0.04dBの範囲内で、安定して高い値を維持しており、角θTZ=100°(正台形)の場合に比べて、約1.5dB高い値となっている。これらの高出力値は、入射レーザ光の強度に対する近接場光強度の比である光利用効率が向上していることを示している。
【0091】
以上の結果から、しみ出し光の有効分布範囲を確実に表面プラズモン発生素子91(伝播エッジ910)に及ばせるために、角θTZは90°未満(θTZ<90°)であることが好ましいことが分かる。すなわち、導波路90のYZ断面は、逆台形であることが好ましいことが理解される。また、近接場光の安定した高出力、すなわち高い光利用効率を得るために、角θTZは45°以上であって89.5°以下であることがより好ましいことが理解される」。
【0092】
以上、本発明によれば、導波路からしみ出た光を、表面プラズモン発生素子の所望の部分(表面プラズモンモードで結合する結合部分)に十分に到達させることができる。その結果、これら導波路及び表面プラズモン発生素子を含む近接場光生成光学系の光利用効率を高めることが可能となる。これにより、十分な強度の近接場光を磁気記録媒体に照射することができ、書き込み位置を適切に加熱することが可能な熱アシスト磁気記録が実現し得る。
【0093】
なお、以上に述べた実施形態は全て、本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は、他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0094】
10 磁気ディスク
11 スピンドルモータ
12 アセンブリキャリッジ装置
13 記録再生及び発光制御回路
14 駆動アーム
15 ボイスコイルモータ(VCM)
16 ピボットベアリング軸
17 HGA
20 サスペンション
21 熱アシスト磁気記録ヘッド
22 スライダ
220 スライダ基板
2200 ABS
2201 背面
2202 素子形成面
221 ヘッド部
2210、2212 ヘッド部端面
23 光源ユニット
230 ユニット基板
2300 接着面
2302 光源設置面
32 ヘッド素子
33 磁気抵抗(MR)素子
34 電磁変換素子
340 主磁極層
3400、72 主磁極
3400e、72e 端面
3402 バックコンタクト部
345 下部ヨーク層
3450 下部シールド
35、70、80、90 導波路
350、700、800 端面
354、704、804、904 側面
36、71、81、91 表面プラズモン発生素子
360、710、810、910 伝播エッジ
361、911 対導波路接触面
36a、71a、81a 近接場光発生端面
370、371、410、411 端子電極
38 保護層
385 絶縁層
39 素子間シールド層
40 レーザダイオード
400 発光面
4000 発光中心
40a 上部(n)電極
40e 活性層
40i 下部電極
53 レーザ光
60 エバネッセント光
61 表面プラズモン
63 近接場光
64 書き込み磁界
711 導波路対向面
LEG 主磁極の端辺
NFE 表面プラズモン発生素子の端辺
NFP 頂点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体対向面側の端面から書き込み磁界を発生させる磁極と、
表面プラズモンを励起するための光が伝播する導波路と、
前記光と表面プラズモンモードで結合し、媒体対向面の一部を成しており前記磁極の媒体対向面側の端面の近傍に位置する近接場光発生端面から近接場光を発生させる近接場光発生素子と
を備えた熱アシスト磁気記録ヘッドであって、
前記導波路の伸長方向に沿った端辺に垂直な面による該導波路の断面が、少なくとも前記近接場光発生素子と対向又は接触した導波路部分において、実質的に前記近接場光発生素子側の端辺が平行な対辺のうちの長辺となる台形状である
ことを特徴とする熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項2】
前記導波路の断面の形状が実質的に等脚台形であって、前記長辺とその隣辺との間の角が鋭角となっている、請求項1に記載の熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項3】
前記長辺とその隣辺との間の角は、45度以上であって89.5度以下である、請求項2に記載の熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項4】
前記近接場光発生素子の前記光と表面プラズモンモードで結合する部分が、前記導波路からしみ出た光の有効分布範囲内に位置している、請求項1から3のいずれか1項に記載の熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項5】
前記近接場光発生素子は、前記導波路と接面した対導波路接触面と、該近接場光発生素子において該対導波路接触面とは反対側に位置しており前記近接場光発生端面まで伸長した伝播エッジであって、前記光によって励起される表面プラズモンを伝播させるための伝播エッジとを備えており、該伝播エッジの少なくとも一部分が、前記光と表面プラズモンモードで結合する部分として、前記導波路からしみ出た光の有効分布範囲内に位置している、請求項1から3のいずれか1項に記載の熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項6】
前記近接場光発生素子は、前記導波路と所定の間隔をもって対向した導波路対向面と、該近接場光発生素子において該導波路対向面とは反対側に位置しており前記近接場光発生端面まで伸長した伝播エッジであって、前記光によって励起される表面プラズモンを伝播させるための伝播エッジとを備えており、該伝播エッジの少なくとも一部分が、前記光と表面プラズモンモードで結合する部分として、前記導波路からしみ出た光の有効分布範囲内に位置している、請求項1から3のいずれか1項に記載の熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項7】
前記近接場光発生素子は、前記導波路と所定の間隔をもって対向しており前記近接場光発生端面まで伸長した伝播エッジであって、前記光によって励起される表面プラズモンを伝播させるための伝播エッジを備えており、該伝播エッジの少なくとも一部分が、前記光と表面プラズモンモードで結合する部分として、前記導波路からしみ出た光の有効分布範囲内に位置している、請求項1から3のいずれか1項に記載の熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項8】
前記近接場光発生素子は、前記導波路と前記磁極との間に設けられている、請求項1から7のいずれか1項に記載の熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項9】
前記近接場光発生素子の周囲を、前記導波路を構成する材料の屈折率よりも低い屈折率を有する材料が覆っている、請求項1から8のいずれか1項に記載の熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項10】
前記近接場光発生素子から見て前記磁極とは反対側に、磁気シールドが設けられている、請求項1から9のいずれか1項に記載の熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の熱アシスト磁気記録ヘッドと、該熱アシスト磁気記録ヘッドを支持するサスペンションとを備えていることを特徴とするヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項12】
請求項11に記載の少なくとも1つのヘッドジンバルアセンブリと、少なくとも1つの磁気記録媒体と、該少なくとも1つの磁気記録媒体に対して前記熱アシスト磁気記録ヘッドが行う書き込み動作を制御し、さらに前記表面プラズモンを励起するための光を発生させる光源の動作を制御するための記録及び発光制御回路とを備えていることを特徴とする磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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