説明

逆止弁作用のある気道を形成した合成樹脂フィルム製の風船体

【課題】フィルム製の逆止弁部品を用いることなく、かつ、製作プロセスを単純化し、高品質の風船体を歩留まりよく低コストで量産する。
【解決手段】気道から送給された気体により2枚重ねフィルム1が膨張した際、膨張空間における前記気道の周辺部分(鎖骨部3Bおよび喉部3Cにより形づけられる部分)が膨張空間の内方に陥没した凹み部を形成する。この凹み部が生じることに伴って、溶着シール線3の途切れた気道最隘路4の間隔を拡げる方向に2枚重ねフィルム1を引っ張る張力が作用するとともに、最隘路4より上方の、ストロー案内線5の周辺の2枚重ねフィルム1が弛緩し、気道の2枚重ねフィルム1が密着して膨張空間内の気体が封止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリエチレン等の合成樹脂フィルム製の袋に空気を入れて風船のように膨らまして封止できるとともに排気も可能にした風船体に関し、風船体の合成樹脂フィルムとは別部品の逆止弁を用いることなく、風船体の合成樹脂フィルムのみにより構成され、これに逆止弁作用のある気道を形成したものに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、合成樹脂フィルム製の袋に空気やヘリウムガスを入れて風船のように膨らまして封止したものは、空気枕として使用されたり、梱包用の緩衝材として使用されたり、オモチャや広告宣伝用品あるいはスポーツ応援用グッズなどとして使用されている。この種の風船体に関しては、できるだけ安価に製造できるようにすることが重要であり、また、封入した空気が抜けにくいことも重要である。
【0003】
特開昭47−46063号公報、特表平3−502058号公報、特開平5−31260号公報、特開平9−285648号公報、特開2001−30996号公報、特開2009−281565号公報に記載されているように、一般に広く普及しているこの種の風船体の多くは、2枚重ねフィルムにより構成される風船体に、別部品であるフィルム製の逆止弁部品を組み合わせた構成となっている。そのため製作プロセスが煩雑でコスト低減の障害要因のひとつとなっていた。
【0004】
上記の一般的な逆止弁構造とは異なり、風船体の合成樹脂フィルムとは別部品の逆止弁を用いることなく、風船体の合成樹脂フィルムのみにより構成され、これに逆止弁作用のある気道を形成した構成も知られている。それは、特開2005−218795号公報に記載された発明である(これを先行発明と称する)。
【0005】
この先行発明においては、風船体を構成する2枚重ねフィルムの縁部の一部をそれぞれ内側に折り曲げて4枚重ね部分を作り、その4枚重ねフィルムの多くの部分を溶着してシールし、4枚重ねフィルムのごく一部を溶着シールせずに送排気用の気道として残した構成としている。気道部分の4枚重ねフィルムの内側の2枚が、上記の一般的な構成におけるフィルム製の逆止弁と同様に機能する。
【0006】
上記先行発明に係る風船体の構成は、フィルム製の逆止弁部品を用いないという点において一般的な構成より優れているのであるが、2枚重ねフィルムの縁部の一部をそれぞれ内側に折り曲げて4枚重ね部分を作るプロセスと、気道部分を除いて4枚重ねフィルムを溶着シールするプロセスが相当に煩雑であり、製作コストの面においてフィルム製の逆止弁部品を用いるものより有利とはいえなかった。また4枚重ねフィルムの溶着シール線のパターンにより気道を形成することの精度上の問題もあり、高品質の風船体を歩留まりよく量産することが難しく、上記先行発明の構成は普及していない。
【発明の開示】
【0007】
この発明は、上記先行発明と同様にフィルム製の逆止弁部品を用いることなく、かつ、上記先行発明よりも製作プロセスを単純化し、高品質の風船体を歩留まりよく低コストで量産できるようにすることを目的として創作された。
【0008】
この発明の風船体の核心とするところは、その一実施例を示す図1〜図3から理解できるように、つぎの事項(1)〜(5)により特定されるものである。
(1)合成樹脂のフィルムが2枚重なり、送排気用の気道を除いて周縁部分が気密に一体化され、前記2枚重ねフィルム間に気体を溜める空間が形成されること
(2)前記気道から送給された気体により前記空間が膨張した際、膨張空間における前記気道の周辺部分が膨張空間の内方に陥没した凹み部を形成すること
(3)前記凹み部は、前記2枚重ねフィルムを接合する溶着シール線のパターンに従った形態で陥没すること
(4)前記凹み部の最深部において前記溶着シール線が途切れており、その途切れた部分が前記気道の最隘路となっていること
(5)膨張空間内の気体圧力により膨張空間の内方に陥没する前記凹み部が生じることに伴って、前記溶着シール線の途切れた前記気道最隘路の間隔を拡げる方向に前記2枚重ねフィルムを引っ張る張力が作用するとともに、前記最隘路より外側の前記気道周辺の前記2枚重ねフィルムが弛緩し、前記気道における前記2枚重ねフィルムが密着して膨張空間内の気体を封止すること
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施例の膨らんでいない状態の正面図
【図2】第1実施例の膨らんだ状態その1
【図3】第1実施例の膨らんだ状態その2
【図4】第1実施例の寸法図
【図5】肩部3A・鎖骨部3B・喉部3Cからなる溶着シール線3およびストロー案内線5のパターンの他の3例を示す。
【図6】溶着シール線3における鎖骨部3Bおよび喉部3Cのパターンの他の3例を示す。
【実施例】
【0010】
図1〜図4は第1実施例を示している。これはポリエチレンフィルムを用いている。長方形の2枚重ねフィルム1は筒状の押し出し成型品であり、2枚重ねフィルム1の左辺と右辺はもともと一体になっている。2枚重ねフィルム1の下辺部分は溶着シール線2により気密に一体化されている。2枚重ねフィルム1の上辺部分に、この発明の核心をなす特殊パターンの溶着シール線3が形成されている。この溶着シール線3の中央に以下に説明する気道が形成され、2枚重ねフィルム1の間は気体を溜める空間となり、気道から注入される空気により2枚重ねフィルム1は図2、図3のように膨らむ。
【0011】
溶着シール線3のパターンは左右対称である。溶着シール線3のパターンは、便宜的に肩部3A、鎖骨部3B、喉部3Cと名付けた各部により形成されている。肩部3Aは、2枚重ねフィルム1の上辺と平行な左右両端部分を指す。鎖骨部3Bは、肩部3Aの端部から中央に向けて下方に傾斜した部分を指す。喉部3Cは、鎖骨部3Bの端部から中央に向けて肩部3Aと平行に伸びた部分を指す。左右の喉部3Cは繋がっておらず、途切れている。この途切れた部分が気道の最隘路4である。
【0012】
溶着シール線3のパターンに付随して、やはり左右対称パターンをなす溶着シール線によりストロー案内線5およびカーブ誘導線6が形成されている。2本のストロー案内線5は、気道最隘路4より少し左右に開いた位置にて喉部3Cに接続して上方に平行に伸び、さらに上方にテーパー状に開いて伸びている。2本のカーブ誘導線6は、肩部3Aと鎖骨部3Bの境界の角部から、少し中央側に傾いて上方に伸びている。ただしカーブ誘導線6は溶着シール線3に接続してはいない。これら溶着シール線3・ストロー案内線5・カーブ誘導線6は、ヒートシール機のポンチにより一度に形成される。
【0013】
この風船体を膨らませるにはストローを使用する。2枚重ねフィルム1の上辺中央を引き剥がすようにしてフィルム間にストローを差し入れ、ストロー案内線5に導かれるようにしてストローの先端を気道最隘路4に通して最隘路4の下方まで挿入する。そうしてストローから空気を注入すると、2枚重ねフィルム1が図2、図3に示すように膨張する。充分に膨張させたならばストローを抜く。ストローを抜いた後、何もしなくても空気は抜けない。なお空気を抜くにはストローを再び挿入すればよい。
【0014】
ここで注目すべきことは、気道から送給された気体により2枚重ねフィルム1が膨張した際、膨張空間における前記気道の周辺部分(鎖骨部3Bおよび喉部3Cにより形づけられる部分)が膨張空間の内方に陥没した凹み部を形成する点である。
【0015】
膨張空間内の気体圧力により膨張空間の内方に陥没する前記凹み部が生じることに伴って、溶着シール線3の途切れた気道最隘路4の間隔を拡げる方向に2枚重ねフィルム1を引っ張る張力が作用するとともに、最隘路4より上方の、ストロー案内線5の周辺の2枚重ねフィルム1が弛緩し、気道における2枚重ねフィルム1が密着して膨張空間内の気体が封止される。カーブ案内線6は、気道最隘路4の上方の2枚重ねフィルム1を図3のように緩やかにカーブさせて弛緩させるのに役立っている。この弛緩は、気道最隘路4に前記張力を集中させるのに効果的であるとともに、気道周辺の溶着シール部分の耐久性を高めるのに効果的である。
【0016】
背景技術の欄で示した従来の風船体における逆止弁は、いずれも、膨張空間内の気体圧力が逆止弁をなす2枚のフィルムに対してフィルム厚み方向に作用し、2枚のフィルムを密着させて弁を閉塞するものである。これに対してこの発明においては、気道最隘路4の2枚重ねフィルム1が内部の気体圧力によりフィルム面方向に引っ張られ、この張力により2枚重ねフィルム1が気密に密着して逆止弁として機能するものである。
【0017】
この発明と前記した特開2005−218795号公報の先行発明とを対比すると、風船体を構成する2枚重ねフィルム1の一部に逆止弁作用のある気道を形成したという点においては共通するところ、逆止弁作用のある気道を形成するための構成、および、逆止弁作用のメカニズムにおいて、両発明は明確に相違している。前述したように、肩部3A・鎖骨部3B・喉部3Cからなる溶着シール線3と、ストロー案内線5と、カーブ誘導線6は、ヒートシール機のポンチにより一度に形成できるので、その製作プロセスは一般のポリエチレン袋を製作するのと何ら変わるところがない。したがって、この発明の風船体は、歩留まりよく安価に量産することが容易である。
【0018】
図4には図1の実施例の具体的な寸法を示した。この実施例が一例にすぎないことはいうまでもない。発明者は様々な形状・寸法の風船体にこの発明を適用できることを多くの実証実験により確認している。スポーツ観戦の際に応援グッズとして多用されているような、細長い長方形の2枚重ねフィルム1からなる風船体の場合、その短辺部分に図1と同じパターンの肩部3A・鎖骨部3B・喉部3Cからなる溶着シール線3と、ストロー案内線5と、カーブ誘導線6を形成し、良好な性能を実現できた。また、円形の2枚重ねフィルムの周囲の一部に同様な溶着シール線を形成した風船体についても良好な性能を実現できた。
【0019】
この発明の核心は、気道から送給された気体により2枚重ねフィルム1が膨張した際、膨張空間における前記気道の周辺部分(鎖骨部3Bおよび喉部3Cにより形づけられる部分)が膨張空間の内方に陥没した凹み部を形成することと、この凹み部が喉部3Cにより形成された気道最隘路4に逆止弁作用をもたらすことにある。この部分についての他の実施形態を以下に説明する。
【0020】
図5には、肩部3A・鎖骨部3B・喉部3Cからなる溶着シール線3およびストロー案内線5のパターンの3例を示している。この3例と図1の実施例との違いは、気道最隘路4の両側の溶着シール線の幅寸法を大きくするとともに最隘路4の上下寸法を大きくし、気道最隘路4の周辺の耐久性を高めた点である。
【0021】
図6には、溶着シール線3における鎖骨部3Bおよび喉部3Cのパターンの3例を示している。このパターンにより風船体を膨張させたときの前記凹み部の形態が変わる。凹み部が緩やかな曲面を描くようにすると、凹み部に作用する変形力が局部集中しないので、凹み部周辺の溶着シール部の耐久性が向上する。また、凹み部に作用する変形力を気道最隘路4に集中させるようにすると、逆止弁作用が高くなる。これらの関係を考慮して最適化の設計を行うことが望ましい。
【0022】
また、フィルムの組成および厚みによっても、この発明における逆止弁作用の性能および最隘路周辺の溶着シール部の耐久性が変わる。好適なフィルムの構成の1つは、メタセロン直鎖状低密度ポリエチレン(C6−LLDPE)80重量%と、高密度ポリエチレン(HDPE)20重量%の混合原料を用いた、100ミクロンの厚みの単一層フィルムである。溶着シール部の形成には上下熱シール製袋機を用い、特殊形状圧着板側(上型)を170℃とし、下側熱板(下型)50℃として熱シールすることが望ましい。
【符号の説明】
【0023】
1…2枚重ねフィルム、2…下辺の溶着シール線、3…上辺の溶着シール線、3A…肩部、3B…鎖骨部、3C…喉部、4…気道最隘路、5…ストロー案内線、6…カーブ誘導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂のフィルムが2枚重なり、送排気用の気道を除いて周縁部分が気密に一体化され、前記2枚重ねフィルム間に気体を溜める空間が形成され、
前記気道から送給された気体により前記空間が膨張した際、膨張空間における前記気道の周辺部分が膨張空間の内方に陥没した凹み部を形成し、
前記凹み部は、前記2枚重ねフィルムを接合する溶着シール線のパターンに従った形態で陥没し、
前記凹み部の最深部において前記溶着シール線が途切れており、その途切れた部分が前記気道の最隘路となっており、
膨張空間内の気体圧力により膨張空間の内方に陥没する前記凹み部が生じることに伴って、前記溶着シール線の途切れた前記気道最隘路の間隔を拡げる方向に前記2枚重ねフィルムを引っ張る張力が作用するとともに、前記最隘路より外側の前記気道周辺の前記2枚重ねフィルムが弛緩し、前記気道における前記2枚重ねフィルムが密着して膨張空間内の気体を封止する
風船体。
【請求項2】
前記最隘路より外側の前記気道部分において前記2枚重ねフィルムを接合する溶着シール線により一対のストロー案内線が形成されている請求項1に記載の風船体。
【請求項3】
前記凹み部を誘導する溶着シール線パターンの両肩部分において前記2枚重ねフィルムを接合する溶着シール線により一対のカーブ誘導線が形成されている請求項1または2に記載の風船体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−148780(P2012−148780A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−5141(P2011−5141)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【特許番号】特許第4885315号(P4885315)
【特許公報発行日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【出願人】(511011780)和弘プラスチック工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】