説明

透光性α−アルミナ膜及びその製造方法

【課題】 簡単な塗布法により高透過率及び高耐食性を有するα−アルミナ膜を形成することができる方法、この方法における塗布液として使用するための組成物、この方法により得られるα−アルミナ膜を提供する。
【解決手段】ベーマイトゾルと、焼成によりSiO2を生成する成分とを含む焼結体原料を、水又は水と有機溶媒との混合溶媒中に分散させてなる組成物を基板上に塗布する工程と、この塗布膜を1200〜1400℃で焼成する工程とを含むα−アルミナ膜の製造方法。α−アルミナ膜の含量が85重量%以上であり、膜厚が0.6μm以上であり、かつ膜厚1.0μmの場合の波長550nmにおける光の透過率が90%以上であるα−アルミナ膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオードディスプレイ、ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイのようなフラットパネルディスプレイ;集積回路;蛍光灯などの耐食保護膜や絶縁膜として用いられる透光性α−アルミナ膜、このα-アルミナ膜を形成するための組成物、及びこのα−アルミナ膜の形成方法に関する。
また本発明は、α−アルミナ膜が形成された半導体基板、及びこれを用いた半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス、特にアルミナセラミックスは、絶縁性、耐食性、熱特性、電気的特性、機械的特性に優れることから、これらの特性を生かしてエレクトロニクス分野で大量に使用されている。また、素子の小型化、高密度化に伴い、アルミナセラミックスの信頼性の向上が求められている。
【0003】
一般に、多結晶セラミックスが光を透過させるためには、表面が滑らかであること、粒界に不純物層がないこと、及び結晶粒子径を均一にすることにより、光の散乱源である閉塞気孔を排除すること等が必要である。気孔の排出は、粒成長の過程で粒界を通して行われるが、気孔が排出される前に粒子成長してしまうと、成長した結晶内部に気孔が取り込まれてしまい、高い透光性を有する焼結体が得られ難い。
【0004】
透光性アルミナ焼結体は、最も一般的には、焼結助剤として酸化マグネシウム(MgO)を使用して製造されている。例えば、米国特許第3,026,210号は、アルミナ粉末にMgOを0.5重量%以下の比率で添加して真空中、又は水素雰囲気中で1750〜1900℃で焼成することにより、透光性を有し高密度なアルミナ質焼結体が得られたことを開示している。MgOを添加する場合、高温で焼成を行っても異常粒成長が生じず、結晶粒子が均一で気孔の少ない焼結体が得られることが知られている。MgOの添加による結晶粒界での粒成長の抑制効果は、結晶粒界でスピネル相を形成することによるとされている。
【0005】
また、マグネシウム成分を添加しない方法が、特開平8−301666号に開示されている。同公報の方法では、Al23、Sc23、及びLa23からなる粉末セラミックス原料を含むスラリーを鋳込み成形し、さらに仮焼、塩酸処理、一次焼結(本焼)、二次焼結(熱間静水圧プレス処理)を行うことにより、透光性アルミナセラミックス製品を得ている。
【0006】
しかし、この方法は、高価な遷移金属元素酸化物や熱間静水圧プレス装置を必要とし、また工程が複雑であることからもコスト高になる。
【0007】
また、アルミナ焼結体については、酸、アルカリ、イオンプラズマ等に対する高い耐食性が要求されている。
【0008】
アルミナ焼結体に残留気孔や不純物が多く存在すると、酸溶液、アルカリ溶液、又はイオンプラズマにより侵食を受け易くなる。透光性の高いアルミナ焼結体の場合は、残留気孔が少なくなるため、不純物量が耐食性に大きな影響を与える。前述したように、透光性アルミナの焼結には焼結助剤としてMgOを用いるのが一般的である。このため、焼結体中にマグネシウム成分が残留して、酸、アルカリ、イオンプラズマ等に対する耐久性が低下することが知られている(特開平8−245259号、照明学会誌、第74巻(1990年)第9号、第34項など)。
【0009】
すなわち、アルミナ焼結体がイオンプラズマ、酸溶液、又はアルカリ溶液と接触する環境下で使用されると、粒界部分に存在するマグネシウムがこれらと化学反応し、その結果アルミナ組織が脱落したり、化学反応により生じた物質が焼結体内に沈着する。このため、例えば半導体製造装置部材の表面の平滑性が失われて精度が低下したり、ウェハーが汚染されるなどの難点がある。
【0010】
例えば、特許文献1は、ベーマイトゾルにSiO2成分、MgO成分、CaO成分を添加した原料を使用し、焼結することにより、透光性アルミナを製造する方法を開示しているが、この方法により得られた透光性アルミナは耐食性が悪い。
【0011】
焼結助剤として添加したマグネシウム以外にも、アルカリ金属元素(特に、Li、Na、K)、アルカリ土類金属元素(特に、Ca)がイオンプラズマ、酸溶液、アルカリ溶液と化学反応する。従って、これらの元素を含む物質を原料として使用しないことが透光性アルミナの耐久性を高める上で重要である。
【0012】
アルミナの中でも、アルミナ薄膜については、その形成方法として、スパッタリング法、蒸着法などの気相法がよく用いられている。しかし、これらの方法は複雑であり、また真空設備などの大掛かりな装置を必要とするため、コスト高になる。
【0013】
一方、原料の塗布及び焼成によりアルミナ薄膜を形成する方法は、大掛かりな装置を必要とせず、簡単、かつ大量生産を行える等の利点がある。
【0014】
しかし、塗布法として、オクチル酸アルミニウム等の有機酸アルミニウムを原料として含む塗布液を用いる場合には、焼成後の膜内に有機酸由来の炭素が残存し易く、そのため高品質なアルミナ膜が得られ難い。
【0015】
またゾル−ゲル法により、アルミナ膜を形成する場合は、通常、アルミニウムのメトキシド、エトキシド、プロポキシドなどの金属アルコキシドに、必要に応じて安定化剤を添加した塗布液を使用する。
【0016】
しかし、アルミニウムアルコキシドは、加水分解し易いため、不活性ガス雰囲気中で取り扱う必要があり、作業性が悪い。また、基板上にアルミニウムアルコキシドを塗布した後、長時間放置したり、作業雰囲気の湿度が高い場合は、アルミニウムアルコキシドが加水分解し易いため、その結果、膜の均一性が阻害されて、高品質のアルミナ膜を得ることは困難である。
しかも、有機酸アルミニウムやアルミニウムアルコキシドを原料として用いた場合、1回の塗布及び焼成によって得られるアルミナ薄膜の膜厚は0.2μm以下程度と非常に薄く、そのためピンホール等の欠陥が生じ易い。耐食保護膜や絶縁膜として信頼性の高い透光性アルミナ膜とするためには、通常1μm以上の膜厚が求められており、従来の塗布法では、このような信頼性の高い膜を簡単に得ることは困難である。
【特許文献1】特開平6−211569号(請求項1など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、簡単な塗布法により高透過率及び高耐食性を有するα−アルミナ膜を形成することができる方法、この方法における塗布液として使用するための組成物、この方法により得られるα−アルミナ膜、並びに、このようなα−アルミナ膜を備える半導体基板及び半導体素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) ベーマイトゾルと、焼成によりSiO2を生成する成分とを含む焼結体原料を、水又は水と有機溶媒との混合溶媒中に分散させてなる分散液を基板上に塗布し、1200〜1400℃で焼成することにより、極めて透光性が高く、かつ耐食性にも優れたα-アルミナ膜が簡単に得られる。
(ii) 上記方法により、1回の塗布で実用上十分な信頼性を有する膜厚のα-アルミナ膜が得られる。
【0019】
本発明は前記知見に基づき完成されたものであり、以下のα−アルミナ膜形成用組成物、α-アルミナ膜形成方法、α-アルミナ膜、半導体基板、及び半導体素子を提供する。
【0020】
項1. ベーマイトゾルと、焼成によりSiO2を生成する成分とを含む焼結体原料を、水又は水と有機溶媒との混合溶媒中に分散させてなるα−アルミナ膜形成用組成物。
【0021】
項2. 組成物を焼成することにより得られる膜中に、α−アルミナが85〜99.95重量%、焼成によりSiO2が0.05〜15重量%含まれるように、ベーマイト及び焼成によりSiO2を生成する成分が含まれる項1に記載の組成物。
【0022】
項3. ベーマイトが、アルミナ換算で組成物の全量に対して2〜30重量%含まれる項1又は2に記載の組成物。
【0023】
項4. ベーマイトの一次粒子の平均粒径が100nm以下である項1、2又は3に記載の組成物。
【0024】
項5. 焼成によりSiO2を生成する成分が、水および/または有機溶媒に分散性のシリカ、アルコキシシラン化合物、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物、アクリル基含有アルコキシシラン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【0025】
項6. さらに、α−アルミナ粉末を、組成物を焼成した後の膜中にα-アルミナ粉末由来のアルミナ含量が10重量%以下になるように含む項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【0026】
項7. さらに、重合性成分及び光重合開始剤を含む項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【0027】
項8. 項1〜7のいずれかに記載の組成物を基板上に塗布する工程と、この塗布膜を1200〜1400℃で焼成する工程とを含むα−アルミナ膜の形成方法。
【0028】
項9. α−アルミナ膜の含量が85重量%以上であり、膜厚が0.6μm以上であり、かつ膜厚1.0μmの場合の波長550nmにおける光の透過率が90%以上であるα−アルミナ膜。
【0029】
項10. 実質的にα−アルミナ及びSiO2のみ含む項9に記載のα−アルミナ膜。
【0030】
項11. 原料組成物の塗布及び焼成により得られたものである項9又は10に記載のα−アルミナ膜。
【0031】
項12. 基板上の一部又は全部に、項9〜11のいずれかに記載のα−アルミナ膜が形成されてなる半導体基板。
項13. 項12に記載の半導体基板と、この半導体基板上の一部又は全部に形成された化合物半導体層とを備える半導体素子。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、高い透過性及び高い耐食性を兼ね備えるα−アルミナ膜を簡単な塗布法で得ることができる。また1回の塗布により、耐食保護膜や絶縁膜として十分な信頼性を示す膜厚のα−アルミナ膜が得られる。さらに、大気中で比較的低温で焼成することにより、高透過性及び高耐食性を有するα−アルミナ膜が得られる。以上より、製造コストを低く抑えることができる。
【0033】
また、本発明の組成物中にさらにα−アルミナ粉末が含まれる場合は、α−アルミナの結晶粒径が粗大になりすぎず、一層高い光透過性を有し、また機械的強度に優れるα−アルミナ膜が得られる。
【0034】
また、本発明の組成物中にさらに重合性成分及び光重合開始剤が含まれる場合は、組成物の塗布、重合性成分の硬化によるパターン形成、現像、及び焼成という簡単な工程により、α−アルミナ膜からなるパターンを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。
(I)α−アルミナ膜形成用組成物
本発明のα-アルミナ膜形成用組成物は、ベーマイトゾルと、焼成によりSiO2を生成する成分とを含む焼結体原料を、水又は水と有機溶媒との混合溶媒中に分散させてなる組成物である。
ベーマイトゾル
本発明において、ベーマイトは、Al23・xH2O(式中、Xは1〜2である)で表されるアルミナ水和物であり、当業界において一般に擬ベーマイトと称されているものも含む。
【0036】
ベーマイトの一次粒子の平均粒径は小さいほど緻密な膜が得られるため好ましく、例えば100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。上記範囲であれば、緻密な焼結体が得られ、実用上十分な透光性を有するα−アルミナ膜が得られる。
【0037】
本発明において、平均粒径は動的光散乱法により測定した値である。
【0038】
ベーマイトゾルは、常法に従い得ることができ、例えば、ベーマイトを水中に分散させ、酢酸、硝酸、塩酸のような公知の解膠剤を用いて解膠することにより調製することができる。また、ベーマイトゾルは市販されており、市販品を使用してもよい。ベーマイトゾルの市販品として、アルミナゾル−520(日産化学工業株式会社製)、アルミナクリアーゾル、アルミゾル−10、アルミゾルCSA−110AD(以上、川研ファインケミカル株式会社製)、カタロイドAS−2(触媒化成工業株式会社製)などが挙げられる。
【0039】
ベーマイトゾルの濃度は、組成物中のベーマイト濃度が、アルミナ換算で2〜30重量%程度になる濃度であることが好ましく、5〜25重量%程度になる濃度であることがより好ましい。
【0040】
上記ベーマイト濃度範囲であれば、1回の塗布によりピンホールのような欠陥を有さずかつ良好な均一性を示す膜が得られるとともに、粘度が高くなり過ぎず均一に塗布でき、さらに塗布膜の焼成後に膜に亀裂が発生し難い組成物が得られる。
【0041】
ベーマイトの純度は高い方が好ましいが、例えば99.9%以上が好ましく、99.99%以上がより好ましい。上記範囲であれば、不純物が極めて少ない、結晶性に優れたα−アルミナ薄膜が得られる。
【0042】
ベーマイトゾルは、得られるα-アルミナ膜中のアルミナ含量が通常85〜99.95重量%程度、好ましくは90〜99.5重量%程度になる比率で本発明の組成物中に含まれていればよい。
焼成によりSiO2を生成する成分
本発明の組成物は、焼結助剤としてSiO2を生成する成分を含む。特に、焼結助剤として実質的に、焼成によりSiO2を生成する成分のみ含むことが、耐食性の点で好ましい。
【0043】
焼成によりSiO2を生成する成分は、焼結及び粒成長に作用する。このSiO2成分は、得られるα-アルミナ膜中のSiO2含量が通常0.05〜15重量%程度、好ましくは0.5〜10重量%程度になる比率で本発明の組成物中に含まれていればよい。上記の範囲であれば、焼結中に膜中の気孔が十分に除去されて緻密な、ひいては高い透光性を有するα-アルミナ膜が形成される。また上記範囲であれば、膜中のムライト相(Al6Si213)が多くなりすぎることがなく、その結果耐薬品性、耐食性に優れた膜となる。さらに、膜中のα−アルミナ含量が少なくなりすぎることがなく、その結果例えばα−アルミナ膜を化合物半導体用基板に使用する場合に、膜上に形成される化合物半導体相の結晶性が低下することがない。
【0044】
焼成によりSiO2を生成するゾル又は塩の純度は、高い方が好ましく、例えば99.9%以上が好ましく、99.99%以上がより好ましい。上記範囲であれば不純物が極めて少ない、結晶性に優れたα−アルミナ薄膜が得られる。
【0045】
焼成によりSiO2を生成する成分としては、焼成によりSiO2を生成するゾル又は塩が挙げられる。
【0046】
このようなゾルとしては、水および/または有機溶媒に分散性のシリカが挙げられる。本発明における水および/または有機溶媒に分散性のシリカとは、一次粒子の平均粒子径が通常1〜100nm程度のアモルファスSiO2の離散微粒子が水および/または有機溶媒中に分散したゾルを指す。水および/または有機溶媒に分散性のシリカは、一次粒子の平均粒子径が小さい方が緻密な膜が得られるため好ましく、例えば1〜50nm程度のものが好ましく、1〜30nm程度のものがより好ましい。
【0047】
また、水および/または有機溶媒に分散性のシリカは市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば、スノーテックスO、スノーテックスOXS、メタノールシリカゾル、IPA−ST(以上、日産化学工業株式会社製)、Cataloid−SN(触媒化成工業株式会社製)等が挙げられる。
【0048】
SiO2成分として水および/または有機溶媒に分散性のシリカを用いる場合は、適切な濃度のベーマイトゾルと水および/または有機溶媒に分散性のシリカとを混合するだけで組成物を調製することができ、或いは、さらに水や有機溶媒を添加して組成物を調製してもよい。
【0049】
また、焼成によりSiO2を生成する塩としては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランのようなアルコキシシラン化合物;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシジクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランのようなアクリル基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0050】
焼成によりSiO2を生成する成分としては、緻密な膜が形成されやすい点で、アルコキシシラン化合物、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物、アクリル基含有アルコキシシラン化合物、並びに水および/または有機溶媒に分散性のシリカが好ましく、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物、アクリル基含有アルコキシシラン化合物、並びに水および/または有機溶媒に分散性のシリカがより好ましい。
溶媒
溶媒としては、水又は水と有機溶媒との混合溶媒を用いる。本発明において用いる溶媒は焼結体原料を分散させるためのものであるため、溶媒として必ずしも有機溶媒を使用しなくてもよい。本発明の組成物に含まれる各物質の種類、本発明の組成物が塗布される基板の材料、及び塗布方法等の組み合わせによって異なるが、溶媒として水のみを用いて組成物を調製すると、その表面張力が大きく基板上に塗布膜を均一に形成できない場合もある。このような場合に、溶媒に有機溶媒を添加すればよい。
【0051】
組成物に含まれる各物質の種類、ベーマイトと溶媒との比率、基板の材料、及び塗布方法等によって異なるが、全溶媒に対する水の割合を10〜100重量%程度とするのが好ましく、20〜100重量%程度とするのがより好ましく、25〜100重量%程度とするのがさらにより好ましい。上記範囲であれば、極めて優れた分散体となる。但し、全溶媒に占める水の割合はこの範囲には限定されず、有機溶媒の水に対する溶解度も考慮して適宜定めればよい。
【0052】
有機溶媒としては、水と相溶する溶媒を使用できる。具体的には、有機溶媒としては、20℃における水に対する溶解度が1重量%以上の有機溶媒を使用することができ、水との混合量を上記範囲内で調整することにより均一溶媒を得ることができる。
【0053】
このような溶解性を有する有機溶媒の種類は特に限定されず、例えばアルコール、カルボン酸、エステル、ケトン、エーテル、アミド化合物、窒素化合物等のそれ自体公知の有機溶媒から選択して使用できる。
【0054】
このようなアルコール系溶媒としては、メタノール、エタノ−ル、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール(以上、20℃における水に対する溶解度が無限大である溶媒即ち水と無限に相溶する溶媒)、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、(以上、20℃における水に対する溶解度が約10重量%の溶媒)のようなアルカノール類;シクロヘキサノール(20℃における水に対する溶解度が約4重量%の溶媒)のようなシクロアルカノール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(以上、20℃における水に対する溶解度が無限大である溶媒)のようなアルキレングリコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20℃における水に対する溶解度が無限大である溶媒)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(20℃における水に対する溶解度が約23重量%である溶媒)のようなアルキレングリコールアセテート類などが挙げられる。
【0055】
このようなカルボン酸系溶媒としては、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、α−メチル酪酸、i−吉草酸などが挙げられる。
【0056】
このようなエステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n−ブチルなどが挙げられる。
【0057】
このようなケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0058】
このようなエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテルのような鎖式エーテル;テトラヒドロフラン、ジオキサンのような環式エーテルが挙げられる。
【0059】
このようなアミド化合物系溶媒としては、ホルムアミド、N−メチルホルムアミドなどが挙げられる。
【0060】
このような窒素化合物系溶媒としてはN−メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0061】
溶媒は1種を単独で又は2種以上を混合して使用できる。
【0062】
有機溶媒としては特にアルコール系溶媒、アミド系溶媒、窒素化合物系溶媒が好ましい。中でも、20℃における水に対する溶解度が約10重量%以上の溶媒が好ましく、前記溶解度が約20重量%以上の溶媒がより好ましく、さらには前記溶解度が無限大である溶媒が最も好ましい。
【0063】
20℃における水に対する溶解度が無限大である溶媒としては、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルのようなアルコール系溶媒;ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドのようなアミド化合物系溶媒;N−メチルピロリドンのような窒素化合物系溶媒等が挙げられる。
その他の成分
本発明の組成物には、薄膜形成用塗布液に通常含まれる添加剤が含まれていてよい。添加剤は水溶性の添加剤であってもよく、水難溶性の添加剤であってもよい。水に溶解し難い添加剤を用いる場合は、均一な薄膜を形成する上では、溶媒として水と有機溶媒との混合溶媒を用いることによりその添加剤を溶解させることが望ましい。
【0064】
本発明の組成物には、成膜助剤が含まれていてもよい。成膜助剤は、水に分散又は溶解させることができるポリマーやポリマーエマルジョンからなる公知の成膜助剤を使用できる。成膜助剤を添加することにより、組成物の粘度を調整して、基板と組成物との濡れ性、及び焼成後の膜と基板との密着性を向上させることができる。
【0065】
このような公知の成膜助剤としては、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、水溶性エポキシ樹脂、ウレタン系エマルジョン、アクリル系エマルジョン等が挙げられる。中でも、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
【0066】
成膜助剤を添加する場合のその比率は、組成物中に0.5〜10重量%程度であることが好ましい。上記の範囲であれば、その効果が十分に得られるとともに、塗布膜の焼成時に膜に亀裂が生じてα―アルミナ膜の均一性が低下したり、焼成後の膜内に成膜助剤由来の炭素が残存してα−アルミナ膜の光透過率が低下したりすることがない。
【0067】
また本発明の組成物には、低温焼成における緻密化促進剤として、α−アルミナ粉末が含まれていてもよい。α−アルミナの一次粒子の平均粒径は、小さい方が好ましく、例えば100nm以下であることが好ましい。この範囲であれば、焼成により得られる膜中のα−アルミナの結晶粒径が粗大になりすぎず透光性及び機械的強度に優れた膜が得られる。
【0068】
α−アルミナ粉末の配合比率は、得られるα−アルミナ膜中のα−アルミナ粉末由来のアルミナ含量が好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下になる量とすればよい。上記の範囲であれば、高い透光性を保ちつつ、膜を緻密にして機械的強度に優れたα−アルミナ膜が得られる。
【0069】
さらに本発明の組成物には、その使用目的に応じて、重合性成分及び光重合開始剤が含まれていてもよい。
【0070】
エレクトロニクスデバイスにアルミナ薄膜を形成するときは、回路として所定のパターン状にアルミナ薄膜が形成される場合がある。従来は、蒸着やスパッタリングのような気相法でアルミナ薄膜を形成した後、その上にフォトレジスト膜を設け、リソグラフィ技術により所定のパターンのフォトレジストを形成し、次いで、ウェットエッチング、ドライエッチング、又はプラズマエッチングなどにより所望のパターンのアルミナ薄膜を形成するのが一般的である。しかし、この方法は、工程数が多く複雑であるため、コスト及び量産性に劣る。
【0071】
この点、本発明のα−アルミナ膜形成用組成物中に、重合性成分及び光重合開始剤を添加することにより、簡単かつ安価にα−アルミナ膜のパターンを形成することができる。すなわち、本発明の組成物を基板上に塗布し、塗布膜にフォトマスクを介して光照射するか、エレクトロンビームにより描画して感光部を硬化させる。その後、溶剤を用いて現像することにより、未感光部の重合性成分及び光重合開始剤が溶解除去され、それに伴い未感光部の焼結体原料が除去されて、感光部が残ったネガ型のパターンが形成される。このパターンは、重合体網中に焼結体原料が取り込まれたものからなっており、さらに焼成することによりパターン状のα−アルミナ膜が得られる。
重合性成分は、感光性樹脂組成物の成分として公知の重合性成分を使用できる。このような重合性成分として、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートのような単官能(メタ)アクリロイル化合物;ポリオール(メタ)アクリレート、ポリエステルポリ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタンポリ(メタ)アクリレートのような多官能(メタ)アクリロイル化合物などが挙げられる。中でも、硬化性に優れている多官能(メタ)アクリロイル化合物が好ましく、多官能(メタ)アクリロイル化合物と単官能(メタ)アクリロイル化合物との組合せがより好ましい。
【0072】
重合性成分は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。2種以上を組合せる場合、その配合割合は、硬化性と基板との密着性、柔軟性と硬度の関係、溶媒との相溶性等により適宜定めることができる。
【0073】
本発明の組成物に重合性成分が含まれる場合、その比率は、組成物全体の1〜10重量%程度が好ましく、3〜8重量%程度がより好ましい。上記範囲であれば、溶剤による現像後に良好なα−アルミナ膜パターンが得られるとともに、現像時に未感光部分の溶解及び剥離を十分に行うことができ、さらに焼成後に重合性成分由来の炭素が膜内に残存し難い。
【0074】
光重合開始剤としては、紫外線のような活性光線により活性化されて重合を開始する公知の光重合開始剤を使用することができる。このような公知の光重合開始剤としては、ベンジル、メチルベンゾイルホルメートのようなα−ジケトン類;2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンのようなアセトフェノン類;ベンゾインメチルエーテルのようなベンゾインエーテル類;ベンゾフェノンのようなベンゾフェノン類;チオキサントン,2−イソプロピルチオキサントンのようなチオキサントン類;ジ−t−ブチルパーオキサイド、過酸化ベンゾイルのような過酸化物;テトラメチルチウラムジスルフフィドのような硫黄化合物;アゾビスイソブチロニトリルのようなアゾ化合物などが挙げられる。
【0075】
光重合開始剤は、重合反応を開始させ易い波長域、α−アルミナ膜パターンを形成し易い適度な硬化速度、分散液との相溶性などを勘案して適宜選択すればよい。光重合開始剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0076】
また、光重合開始剤には増感剤を併用しても構わない。光重合開始剤及び増感剤の使用量は、重合性成分の種類などに応じて適宜定めることができる。
(II)α−アルミナ膜の形成方法
本発明のα−アルミナ膜の形成方法は、1)前述した本発明のα−アルミナ膜形成用組成物(塗布液)を基板に塗布する工程と、2)塗布膜を1200〜1400℃で焼成する工程とを含む方法である。
基板
基板としては、α−アルミナ膜が形成される基板材料として公知の材料の中で、1400℃程度の焼成によっても変質しない材料からなるものを使用できる。このような基板材料としては、Al23、AlN、Si、SiC、GaAs、InP、GaP、GaN、ZnO、MgO、LiGaO2、LiAlO2、スピネル等を用途に応じて選択して用いることができる。
【0077】
基板の形状は、特に限定されず、用途に応じて、フィルム(薄膜)状、厚膜状、塊状等の何れであってもよい。本発明方法は塗布法であるため、成型品等の曲面にも容易にα−アルミナ膜を形成できる。
塗布工程
本発明の組成物の基板表面への塗布方法は、特に限定されず、例えばスクリーン印刷法、ロールコート法、ディップコ−ト法、スピンコート法等の公知の塗布方法を採用できる。また、インクジェット法のように塗布と同時にパターン形成を行える方法も印刷法に含まれ、採用できる。特に、ディップコート法、スピンコート法又はインクジェット法が好ましい。塗布時の膜厚は、用途に応じて適宜設定すればよい。
焼成工程
焼成温度は、通常1200〜1400℃程度、好ましくは1250〜1350℃程度とすることができる。上記温度範囲であれば、X線解析に供する場合にα−アルミナによる反射を十分に示す膜となるとともに、結晶粒の異常成長が起こらず高透過性を示す膜となる。
【0078】
焼成時間は、例えば1分間〜10時間程度、好ましくは5分間〜3時間程度とすることができる。上記の範囲であれば、実用的な製造時間内で高結晶性のα−アルミナ膜が得られる。
【0079】
焼成時の雰囲気は、特に限定されず、例えば大気中、酸素雰囲気中などの種々の雰囲気とすることができる。大気中で焼成することにより十分に高い光透過率を有するα−アルミナ膜が得られる。
硬化工程・現像工程
本発明方法に使用する塗布液(本発明のα−アルミナ膜形成用組成物)が重合性成分及び光重合開始剤を含む場合は、本発明方法は、上記塗布工程と焼成工程との間に、所定のパターン状に重合性成分を硬化させる工程と、溶剤を用いて現像する工程とを含んでいればよい。現像は、重合性成分を溶解する溶媒を用いて、硬化膜が形成された基板を洗浄することにより行えばよい。
(III)α−アルミナ膜
上述した本発明方法により形成されたα−アルミナ膜は、α−アルミナ含有量が85重量%以上であり、膜厚が0.6μm以上であり、かつ膜厚1.0μmのときの波長550nmの光の透過率が90%以上であるα−アルミナ膜である。このα−アルミナ膜は、上記説明した本発明方法、すなわち原料組成物の塗布及び焼成によりα−アルミナ膜を形成する方法において、原料組成物の1回塗布及び焼成により得られる。
【0080】
α−アルミナ含有量は好ましくは90重量%以上、99.95重量%以下、好ましくは99.5重量%以下である。
【0081】
また本発明のα−アルミナ膜には、SiO2が含まれており、その含有量は通常0.05〜15重量%程度、好ましくは0.5〜10重量%程度である。
【0082】
本発明のα−アルミナ膜には、実質的に、α−アルミナ及びSiO2のみ含まれていることが好ましい。
【0083】
α−アルミナ及びSiO2の含有量は、塗布液(本発明の組成物)中のアルミナ含量及びSiO2含量から算出される。
【0084】
膜厚は、好ましくは1μm以上であり、その上限は通常3μm程度である。膜厚は反射率分光法により測定した値である。
【0085】
膜厚1.0μmのときの波長550nmの光の透過率は、好ましくは90%以上である。この透過率は分光光度計を用いて測定した値である。
(IV)半導体基板・半導体素子
上記説明した本発明のα−アルミナ膜は、半導体素子、例えば半導体発光素子等に使用することができる。
すなわち、本発明の半導体基板は、基板上の一部又は全部に、本発明のα−アルミナ膜が形成されてなる半導体基板である。本発明の半導体基板には、α−アルミナ膜がパターンニングされたものと、パターンニングされていないものの双方が含まれる。また、本発明の半導体素子は、この半導体基板と、この半導体基板上の一部又は全部に形成された化合物半導体層とを備える半導体素子である。ここでいう化合物半導体層にはバッファー層も含まれる。
詳述すれば、上記説明したようにして基板上にα−アルミナ膜形成用組成物を塗布し、通常、UV照射後現像し、焼成することにより所定のパターンを有する半導体基板を形成することができる。
上記のように所定のパターンが施されたα−アルミナ膜が形成された半導体基板上の一部又は全部に、場合によりバッファー層を介して化合物半導体を積層することにより半導体発光素子のような半導体素子を製造することができる。
【0086】
ここで、半導体素子用の基板の材質は特に限定されず、公知の半導体素子用基板を使用できる。このような公知の基板としては、サファイア基板、GaN基板、GaAs基板、AlN基板、Al23基板、Si基板、SiC基板、スピネル基板、InP基板、GaP基板、ZnO基板、MgO基板、LiGaO2基板、LiAlO2基板等が挙げられる。結晶性の良い窒化物半導体を量産性よく形成させるためには、サファイア基板が好ましい。
【0087】
このα−アルミナ膜を形成したサファイア基板上に、HVPE法やMOCVD法などの公知の方法で例えば窒化物半導体を形成させることができる。この場合、通常、サファイア基板上にGaN、AlN、GaAIN等を低温で成長させることにより非単結晶となるバッファー層を形成し、その上にpn接合を有する窒化物半導体を形成させる。半導体発光素子の材料として、BN、SiC、ZnSeやGaN、InGaN、InAlGaN、AlGaN、BAlGaN、BInAlGaN、AlInGaPなど種々の半導体を挙げることができる。特に、紫外領域から可視光の短波長を効率よく発光可能な発光層の材料として、AlやGaを含む窒化物半導体、InやGaを含む窒化物半導体などの窒化物半導体が好適に挙げられ、InXAlYGa1-X-YN、0≦X<1、0≦Y<1、X+Y≦1がより好適に挙げられる。
【0088】
また、α−アルミナ膜が凹凸の形状を繰り返したパターンで形成されている場合には、得られた基板を用いて発光素子を形成した際に、光の散乱または回折の効率を良好とすることができるため、外部量子効率をさらに向上させることができる。
実施例
以下に、本発明を実施例及び試験例を示してより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
以下の例において、ベーマイトゾル、並びに水及び/又は有機溶媒に分散性のシリカの平均粒径は動的光散乱法により測定した値である。
被験α−アルミナ膜の波長550nmにおける透過率は、分光光度計を用いて測定した値である。
【0090】
膜厚は、反射率分光法により測定した値である。膜の厚みバラツキは、膜厚測定値から0.2%以内である。
【0091】
α−アルミナ膜中のアルミナ含量及びSiO2含量は、塗布液中のアルミナ含量及びSiO2含量から算出した値である。
【実施例1】
【0092】
水を分散媒として硝酸で解膠したアルミナ換算濃度15重量%のベーマイトゾル(一次粒子の平均粒径10nm)100gに、SiO2成分としてシリカ濃度20重量%の水分散性シリカ(一次粒子の平均粒径10nm)3.95gを添加混合し、水分散体を調製する。
【0093】
この場合、焼成後の膜中に、アルミナとSiO2との合計量に対して、アルミナが95重量%、SiO2が5重量%含まれることとなる。
【0094】
得られる水分散体をサファイア基板上に大気雰囲気下、2000回転で15秒間、スピンコーターを用いて塗布した後、電気炉に入れて大気雰囲気中1300℃で30分間焼成する。
【0095】
得られるα−アルミナ薄膜の膜厚は1.5μmであり、550nmにおける波長光の透過率は91%である。
【実施例2】
【0096】
実施例1と同様のベーマイトゾル100gに、SiO2成分としての3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン3.11g、及び有機溶媒としてのメタノール15gを添加混合し、水とメタノールとの混合溶媒を分散媒とする分散体を調製する。
【0097】
この場合、焼成後の膜中に、アルミナとSiO2との合計量に対して、アルミナが95重量%、SiO2が5重量%含まれることとなる。また、全溶媒に対する水の割合は85%である。
【0098】
得られる分散体をサファイア基板上に大気雰囲気下、2000回転で15秒間、スピンコーターを用いて塗布した後、電気炉に入れて大気雰囲気中1300℃で30分間焼成する。
【0099】
得られるα−アルミナ薄膜の膜厚は1.3μmであり、550nmにおける波長光の透過率は92%である。
【実施例3】
【0100】
実施例1と同様のベーマイトゾル100g、及び実施例1と同様の水分散性シリカ8.33gに、有機溶媒としてジメチルホルムアミド40gを混合して分散体を調製し、この分散体を60〜70℃で加熱することにより濃縮し、水を40g留去する。この組成物に含まれる全溶媒に対する水の割合をガスクロマトグラフィーにより分析すると56.4%である。
【0101】
分散体中のアルミナ含量をキレート滴定法により分析すると13.8%である。この場合、得られる膜中にアルミナとSiO2の合計量に対して、アルミナが90重量%、SiO2が10重量%含まれることになる。
【0102】
得られた分散体をサファイア基板上に大気雰囲気下、2000回転で15秒間、スピンコーターを用いて塗布した後、電気炉に入れて大気雰囲気中1300℃で30分間焼成する。
【0103】
得られるα−アルミナ薄膜の膜厚は1.1μmであり、550nmにおける波長光の透過率は92%である。
【比較例1】
【0104】
SiO2成分を使用しない場合
実施例1と同様のベーマイトゾルをサファイア基板上に大気雰囲気下、2000回転で15秒間、スピンコーターを用いて塗布した後、電気炉に入れて大気雰囲気中1300℃で30分間焼成する。
【0105】
得られるα−アルミナ薄膜の膜厚は1.6μmであり、550nmにおける波長光の透過率は61%である。
【比較例2】
【0106】
焼成温度が高すぎる場合
実施例2と同様にして調製した分散体を、サファイア基板上に大気雰囲気下、2000回転で15秒間、スピンコーターを用いて塗布した後、電気炉に入れて大気雰囲気中1700℃で30分間焼成する。
【0107】
得られるα−アルミナ薄膜の膜厚は1.3μmであり、550nmにおける波長光の透過率は70%である。
【0108】
実施例1〜3および比較例1、2により得られる各α−アルミナ薄膜のアルミナ含量、シリカ含量、膜厚、550nmの波長光の透過率、焼成温度を以下の表1に示す。
【0109】
【表1】

表1から明らかなように、本発明の実施例1〜3では、透過率90%以上という著しく光透過性に優れたα−アルミナ薄膜が得られる。
【0110】
これに対して、SiO2を生成するゾル又は塩を含まない、ベーマイトゾルからなる塗布膜を焼成した比較例1では、焼成後の膜が白濁しており光透過性に優れたα−アルミナ薄膜を得ることができない。
【0111】
また焼成温度が1700℃と高温である比較例2でも、光透過率が低く、これは結晶の異常粒成長が進行して内部に気孔が発生したためと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーマイトゾルと、焼成によりSiO2を生成する成分とを含む焼結体原料を、水又は水と有機溶媒との混合溶媒中に分散させてなるα−アルミナ膜形成用組成物。
【請求項2】
組成物を焼成することにより得られる膜中に、α−アルミナが85〜99.95重量%、焼成によりSiO2が0.05〜15重量%含まれるように、ベーマイト及び焼成によりSiO2を生成する成分が含まれる請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ベーマイトが、アルミナ換算で組成物の全量に対して2〜30重量%含まれる請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
ベーマイトの一次粒子の平均粒径が100nm以下である請求項1、2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
焼成によりSiO2を生成する成分が、水および/または有機溶媒に分散性のシリカ、アルコキシシラン化合物、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物、アクリル基含有アルコキシシラン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
さらに、α−アルミナ粉末を、組成物を焼成した後の膜中にα-アルミナ粉末由来のアルミナ含量が10重量%以下になるように含む請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
さらに、重合性成分及び光重合開始剤を含む請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の組成物を基板上に塗布する工程と、この塗布膜を1200〜1400℃で焼成する工程とを含むα−アルミナ膜の形成方法。
【請求項9】
α−アルミナ膜の含量が85重量%以上であり、膜厚が0.6μm以上であり、かつ膜厚1.0μmの場合の波長550nmにおける光の透過率が90%以上であるα−アルミナ膜。
【請求項10】
実質的にα−アルミナ及びSiO2のみ含む請求項9に記載のα−アルミナ膜。
【請求項11】
原料組成物の塗布及び焼成により得られたものである請求項9又は10に記載のα−アルミナ膜。
【請求項12】
基板上の一部又は全部に、請求項9〜11のいずれかに記載のα−アルミナ膜が形成されてなる半導体基板。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体基板と、この半導体基板上の一部又は全部に形成された化合物半導体層とを備える半導体素子。


【公開番号】特開2006−56738(P2006−56738A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239382(P2004−239382)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】