説明

透光性イットリア含有ジルコニア焼結体及びその製造方法並びにその用途

【課題】従来のイットリア含有ジルコニア焼結体では、透光性と強度を両立するものがなかったため、義歯、歯列矯正ブラケット用途に十分でなかった。
【解決手段】4モル%を超え7モル%以下のイットリアを含有するジルコニアからなり、焼結体粒径が2.0μm以下、相対密度99.5%以上の焼結体では、1mm厚みにおける波長600nmの可視光に対する全光線透過率が40%以上、3点曲げ強度が500MPa以上であり強度と透光性の双方を両立し、義歯、歯列矯正ブラケット等の歯科材料用途に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強度が高く、透光性に優れるジルコニア焼結体に関する。特に歯科用途で使用されるジルコニア焼結体、例えば義歯、歯列矯正用ブラケット及びそれらに加工するミルブランクとして適するものである。
【背景技術】
【0002】
透光性ジルコニア焼結体としては、人工宝石などに用いられる単結晶のキュービックジルコニアがある。キュービックジルコニアは、ルツボ内に酸化ジルコニウムの粉末を入れ、これに10〜20%のYを安定化剤として加えた後、高周波加熱し酸化ジルコニウムを溶融する所謂スカルメルト法によって製造されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかし、キュービックジルコニアは単結晶であり、ジルコニアの融点を超える2000℃以上の温度で製造されるものであり、得られた透光性ジルコニアは所望の形状にするため、焼結体を切削加工が施さなくてはならず、工業プロセスとして不向きであった。
【0004】
また、多結晶体の透明ジルコニア焼結体としてはジルコニアに8〜10%以上のイットリアと5〜10%以上のTiOを添加した成形体を1500℃以上の高温中で熱間静水圧プレス(HIP)により製造する方法が知られている。(例えば、特許文献2参照)その様な焼結体では、直線透過率が40%を超える高い透光性を示す透明な焼結体が得られることが開示されている。
【0005】
しかし、この様な異種元素の添加によって透光性を高めたジルコニア焼結体では、200MPa程度の機械的強度しかなく、高強度を必要とする用途には適用できなかった。
【0006】
一方、イットリアを少量含有する多結晶のジルコニア焼結体(Y−TZP)は、高強度、高靭性であることからエンジン材料、切断工具、ダイス、シール材、ベアリングなどの機械構造用材料や歯骨材料等の生体材料として広く利用されている。高強度のY−TZPはジルコニアにイットリアが2〜4mol%添加され、正方晶ジルコニアの安定領域である1350〜1600℃の温度で焼結することにより高強度化が実現していた。例えば、イットリア濃度2〜3mol%ジルコニア焼結体を加圧焼結させることにより、1500MPaを超える高強度な焼結体が得られている。(非特許文献1参照)しかし、Y−TZPでは焼結体が透光性を示さないという問題があった。
【0007】
近年CAD/CAMシステムを使った精密加工技術の進歩によりジルコニア焼結体ブロックから義歯を製作する方法が行われている。例えば、CADシステムを用いて低焼結のY−TSZブロックから所望の義歯形状に研削後、1300℃程度の温度で焼成して高密度の焼結体を得ている。このようにして製作された焼結体では、強度が1200MPaと高いが透光性が低いという問題があり、これまで義歯用途としては、審美性を特に必要としない奥歯用として使用されるにとどまっていた。前歯用としては、より透光性の高い材料、例えば、リューサイトやリチウムシリケートなどのガラスセラミックスが主に用いられている。しかしこれらのガラスセラミックスでは、透光性の指標である隠蔽率が約60%と高く透光性という観点では自然の歯に近い審美性が達成されていたが、強度が曲げ強度で100〜300MPa、破壊靭性で1.0〜3.0MPa・m0.5程度しかなく、義歯材料としては機械的強度が低く、使用時に欠けや割れが発生しやすいという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開平06−172031号公報
【特許文献2】特開昭62−91467号公報
【非特許文献1】Ceramics Bulletin第64巻、310頁(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高強度でなおかつ透光性に優れたイットリア含有ジルコニア焼結体、及びその製造方法、並びにそれらの用途を提供するものである。
【0010】
本発明のジルコニア焼結体は、高強度で透光性に優れた多結晶のジルコニア焼結体であるため、歯科材料用セラミックス、特に前歯用途としての義歯、或いは歯列矯正用ブラケット、或いはその材料であるミルブランクとして優れた性能を有するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、Yを含有するジルコニアの焼結による強度と透光性の両立について鋭意検討を重ねた結果、ある特定のYを有するジルコニア焼結体を特定の焼結結晶系に制御することにより高い透光性と強度が達成されることを見出し、そのようなジルコニア焼結体では、義歯や歯列矯正ブラケット等の歯科材料用途に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明を以下詳細に説明する。
【0013】
本発明の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体中のY含有量は4モル%を超え7モル%以下である。
【0014】
一般に透光性を発現させるためには、結晶の光学異方性を低減させるために結晶粒径を大きくし、単位厚みあたりの結晶粒界の数を減らすことが重要であると言われている。ジルコニア焼結体において、Y含有量が4モル%未満では、焼結体強度は高いが、結晶構造は主に正方晶からなる結晶構造となり、それに基づく光散乱のため透光性が低下する。一方、Y含有量が7モル%を超える場合、光の直線透過率は高い焼結体となるが、強度が低下する。
【0015】
含有量が4モル%を超え7モル%以下では、焼結体の結晶系は正方晶と立方晶の結晶構造が混在となる。異なる結晶系の界面では屈折増大により透光性が低下する場合があるが、本発明の焼結体では、本発明のY含有量において2μm以下の微細な焼結体とする事により、透光性と強度を両立したジルコニア焼結体となる。
【0016】
本発明の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体の焼結粒径は2μm以下であり、特に1μm以下、さらには0.6μm以下であることが好ましい。2μmを超えるような結晶粒子径では、正方晶の結晶相分率が小さくなり強度の低下が大きくなると共に、結晶粒界での光散乱による光吸収散乱係数が増大し直線透過率が低下する。結晶粒径の下限は特に限定されないが、0.4μm以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体の密度は、相対密度で99.5%以上、特に好ましくは99.9%以上である。相対密度が99.5%を下回ると焼結体中に存在する気孔の光散乱により、波長600nmにおける隠蔽率が60%を越えるため、高い透光性を達成することができなくなる。
【0018】
本発明の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体の1mm厚みにおける波長600nmの可視光に対する全光線透過率が40%以上のものである。全光透過率が40%未満では、審美性が十分でない。
【0019】
含有量が本発明の範囲より小さい場合、全光透過率が低下する。本発明の焼結体は1mmの厚みにおいても40%以上の全光透過率を有し、0.5mm厚みにおいては少なくとも45%以上の全光透過率に相当する。
【0020】
本発明の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体の1mm厚みにおける波長600nmに対する隠蔽率が60%以下であることが好ましく、さらに600nmの可視光に対する吸収散乱係数が4.0mm−1以下であることが好ましい。隠蔽率や光散乱係数が大きい焼結体は、単に透光性が低いだけでなく、光の屈折散乱を起こすため、義歯や歯列矯正ブラケットとして用いた場合、装着していることが目立つという問題があり、これらの数値は小さい方が好ましい。
【0021】
本発明の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体の強度は3点曲げ強度において500MPa以上であり、特に900MPa以上、さらに1000MPa以上であることが好ましい。強度が低いと、加工時や歯科材料として用いた際に、割れの問題がある。
【0022】
さらに本発明の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体は、破壊靭性が3.5MPa・m0.5以上であることが好ましい。特に義歯や歯列矯正ブラケット等の歯科材料用途においては、曲げ強度だけでなく破壊靱性が重要であり、特に4.0MPa・m0.5以上であることが好ましい。
【0023】
本発明の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体は、曲げ強度と全光透過率のバランスが重要である。曲げ強度と全光透過率はそれぞれ相反する傾向にあるが、本発明の焼結体では、特に1mm厚における全光透過率が40〜42%以上、3点曲げ強度が1000〜1200MPa以上を両立することが可能である。
【0024】
本発明の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体の結晶相は、正方晶蛍石型結晶相と立方晶蛍石型結晶相からなり、正方晶蛍石型結晶相の分率が30%〜80%であることが好ましい。正方晶蛍石型結晶相の分率が30%を下回ると破壊靭性が低下するため高い強度が得られない。一方、正方晶蛍石型結晶相の分率が80%を超えると結晶異方性に伴う粒界散乱が増大するため透光性が低下する。
【0025】
次に本発明の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体の製造法を説明する。
【0026】
本発明の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体は、4モル%を超え7モル%以下のYを含有するイットリア含有ジルコニア粉末からなる成形体を1250〜1500℃で一次焼成し、ついでこの一次焼結体を1250℃以上、圧力50MPa以上の条件でHIP処理する方法で製造することができる。
【0027】
一次焼結体は相対密度が95〜99.9%、平均結晶粒径が1.0μm以下であることが好ましい。相対密度が95%を下回ると焼結体中の気孔がオープンポア(開気孔)として存在するため、HIP焼結しても緻密な焼結体を得る事ができない。一方、相対密度が99.9%を超えると気孔が結晶粒子内に取り残されやすくなり、HIP処理により気孔の除去が難しくなるため透光性や強度が低下するため、一次焼結体の相対密度は99.5%以下がさらに好ましい。
【0028】
1250℃で95%以上に緻密化させるには、原料であるジルコニア粉末はBET比表面積が5〜20m/g、一次粒子の平均粒径が10〜70nm以下のものを用いることが好ましい。
【0029】
焼結雰囲気としては、大気、酸素、真空、ヘリウムなどいずれの方法も適用可能であるが、大気中が最も簡便かつ工業的である。
【0030】
本発明で用いる一次焼結体は平均結晶粒径が1.0μm以下であるため、微細結晶が高圧下で超塑性流動を起こし易く、粒子が粒界すべりでスムーズに移動できるため、強度や透過率に悪影響を及ぼす気孔が効率的に埋められ消滅すると考えられる。このような一次焼結体を得るための焼成温度は1250℃を下回ると開放気孔が残存するためHIP処理しても緻密な焼結体が得られない。高強度と高透光性を達成する達成するための一次焼結温度は1300℃〜1350℃が好ましい。
【0031】
HIP処理は1250℃以上、圧力50MPa以上が必要である。温度1250℃未満では気孔消滅をもたらす圧力作用を十分なものとできず、所望の強度や透光性の達成が困難となる。HIP温度の上限は特にないが、500MPaを超える高い曲げ強度と透光性を兼ね備えた焼結体を得る為のHIP温度は、1250〜1500℃が好ましく、更に好ましくは1250〜1400℃である。
【0032】
HIP圧力媒体としては通常用いられるアルゴンガスが適用でき、それ以外の窒素、酸素なども用いることができる。HIP圧力としては100〜200MPaが好ましく、圧力50MPa未満では圧力不足のため所望の高い透光性が得られず、また200MPaを超えても何ら弊害ももたらさないと予想されるが、通常の装置では実現できないので工業的ではない。
【0033】
本発明ではHIP処理を、HIP処理装置中に半密閉状態の容器を配し、当該容器中に一次焼結体を配してHIP処理することが特に好ましい。半密閉状態としては、開口部を有するセラミックス製容器の開口部にセラミックス製平板を置いた容器内に一次焼結体を配して処理することにより形成でき、これによりHIP装置の内壁材質である炭素カーボン成分の飛散による焼結体への汚染を抑制し、焼結体の黒色化を防止する効果がある。特に一次焼結体をいれる容器の開口部にセラミックス製の平板を置いて半密閉容器としたHIP処理では、得られる焼結体の透光性に悪影響のある炭素による汚染を防止する観点で有効である。
【発明の効果】
【0034】
本発明の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体は、強度と全光透過率を両立した焼結体であるため、義歯、歯列矯正ブラケット等の強度と審美性の双方を要求される用途において優れた性能を発揮する。
【実施例】
【0035】
以下に本発明を実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本発明の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体の特性評価は以下の方法で行った。
(1)相対密度
得られたジルコニア焼結体の相対密度(R)は、電子天秤(メトラー社製、型式:AT261)を使用して、アルキメデス法によりその密度を測定し以下の式より算出した。なお、理論焼結体密度(Dtheo)はYモル%(Y)毎に算出した。
【0036】
R(%)=Dobs/Dtheo x 100
theo = −0.2Y +6.15
P:相対密度(%) Dobs:焼結体密度(実測値)(g/cm
theo:焼結体密度(理論値)、Y:Yモル%
(2)曲げ強度
曲げ強度の測定は、島津製作所製万能試験機オートグラフDCS−2000を用い、JIS R 1601「ファインセラミックスの曲げ強さ試験方法」に記載されている方法に基づいて3点曲げ強度で測定した。なお、曲げ強度は、試験片10本の平均値である。
(3)全光線透過率
全光線透過率は、日本分光製の分光光度計(V−650)を用いて測定した。試料はその両面を鏡面研磨加工した厚み1.0mmの円盤形状ものを用い、試料を通過する可視光を積分球で集光した時の可視光強度(I)と試料を置かずに測定した時の可視光強度(I)の比率(=I/I)より算出した。
(4)隠蔽率
隠蔽率は、試料に可視光を照射し、その反射率を測定する方法で東京電色製カラーアナライザーTC−1800MK−IIを用いて測定した。試料はその両面を鏡面研磨加工した厚み1mmの円盤形状ものを用い、600nmの波長の可視光を試料に照射し、試料の背面に可視光反射率が0%である黒色板をおいた時の試料の分光反射率(R1)と試料背面に常用標準白色板をおいて測定した時の分光反射率(R2)を計測し、その比率(R1/R2)から隠蔽率を算出した。
(5)吸収散乱係数
吸収散乱係数(α)は日立製220形ダブルビーム分光光度計を用いて直線透過率を測定し、波長600nmの直線透過率の値を用いて以下の式から算出した。
【0037】
α・t=−ln(T/(1−R)
α:吸収散乱係数(mm−1)、t:試料厚さ(mm)、T:直線透過率
R:反射率(波長600nmの値として、0.140を代入)
(6)結晶相の測定
焼結体の結晶相の測定はXRD測定によるリートベルト解析により実施した。XRD測定は、粉末X線回折装置マックサイエンスMXP3(マックサイエンス製)を用い焼結体の焼き肌面について、2θ=20〜90°、ステップ幅:0.04°、各ステップでの測定時間:20秒の条件で測定した。またリートベルト解析は、プログラムRietan−2000を用い、各焼結体の結晶相、分率を決定した。
(7)平均結晶粒径
本発明の透光性ジルコニア焼結体の平均結晶粒径は、焼結体の研磨エッチング面の走査電子顕微鏡観察から測定する、J. Am. Ceram. Soc., 52[8]443−6(1969)に記載されている方法に従い、以下の式により求めた。
【0038】
D=1.56L
D:平均結晶粒径 L:任意の直線を横切る粒子の平均長さ
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1
比表面積15m/g、一次結晶粒子径30nmの5.0mol%のYを含むジルコニア粉末(東ソー製TZ−5Y)を金型プレスとラバープレスを用い、プレートに成形し、それを電気炉に入れ、大気中、1300℃で2時間保持して一次焼結体を得た。
【0040】
当該一次焼結体の密度は、相対密度96.8%(5.86g/cm)、結晶平均粒径は、0.37μmであった。次にこの一次焼結体をアルミナ製容器内に充填後その開口部にアルミナ製開板をおいて半密閉状態とし、1350℃、150MPaのArガス雰囲気中で1時間HIP焼結した。得られた焼結体の全光線透過率は42%、隠蔽率は57%、吸収散乱係数は4.0mm−1、曲げ強度は1016MPa、破壊靭性4.0MPa・m0.5であった。また平均結晶粒径は0.49μmであり、結晶相は正方晶蛍石型結晶相と立方晶蛍石型結晶相のみからなり、このうち正方晶蛍石型結晶相の分率は53.0%であった。
【0041】
実施例2〜5
実施例1と同様な原料粉末を用いて成形後、一次焼結条件及びHIP焼結条件を変えて実施例1と同様な方法でHIP焼結した。焼結条件、及び得られた焼結体の特性を表1、2に示す。
【0042】
実施例6
比表面積16m/g、1次結晶粒子径28nmの6.0mol%のYを含むジルコニア粉末(東ソー製TZ−6Y)を金型プレスとラバープレスを用い、プレートに成形し、それを電気炉に入れ、大気中、1300℃で2時間保持して一次焼結体を得た。
【0043】
一次焼結体の密度は相対密度98.9%(5.96g/cm)、結晶平均粒径は、0.41μmであった。次にこの一次焼結体をアルミナ製容器内に充填後その開口部にアルミナ製開板をおいて半密閉状態とし、1350℃、150MPaのArガス雰囲気中で1時間HIP焼結した。得られた焼結体の全光線透過率は44%、隠蔽率は53%、吸収散乱係数は2.9mm−1で、曲げ強度は684MPaであった。また平均結晶粒径は0.85μmで、結晶相は正方晶蛍石型結晶相と立方晶蛍石型結晶相のみからなり、このうち正方晶蛍石型結晶相の分率は36.4%であった。
【0044】
実施例7〜10
実施例6と同様な原料粉末を用いて成形後、表1に示すように一次焼結条件及びHIP焼結条件を変えて実施例6と同様な方法でHIP焼結した。得られた焼結体の特性を評価した結果を表2に示す。
【0045】
いずれの実施例も隠蔽率が60%以下と高い透光性を達成しており、なおかつ曲げ強度が600MPa以上と十分に高い強度を保有する焼結体を得た。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
比較例1
3.0mol%のYを含むジルコニア粉末(東ソー製TZ−3Y)を用い、それ以外は実施例3と同様な方法で成形焼結させ、特性を評価した。表3にはその焼結条件を、また得られた焼結体の特性を表4に示す。
【0049】
平均結晶粒径は、0.39μm、全光線透過率37%、隠蔽率63%、吸収散乱係数は6.4mm−1、曲げ強度2045MPaで、強度は高いが透光性が不十分であった。
【0050】
また結晶相は、正方晶蛍石型結晶相と立方晶蛍石型結晶相のみからなり、このうち正方晶蛍石型結晶相の分率は88.7%であった。
【0051】
比較例2
10.0mol%のYを含むジルコニア粉末(東ソー製TZ−10Y)を用い、一次焼結温度を1350℃とした以外は比較例1と同様な方法で焼結体を作成し、特性を評価した。(表3、4参照)
濃度が高いため、透光性は比較的高いが、曲げ強度が371MPaしかなく、500MPaを大きく下回っていた。
【0052】
比較例3
実施例6と同様に5.0mol%のYを含むジルコニア粉末(東ソー製TZ−5Y)を用い、HIP温度を1650℃とした以外は比較例1と同様な方法で焼結体を作成し、特性を評価した。(表3、4参照)
得られた焼結体の平均結晶粒径は6.3μmとなり、透光性は比較的高かったが、曲げ強度が488MPaと低く、HIP温度が高く結晶粒径が5μmを超える場合には、高い強度と透光性を両立するものが得られなかった。
【0053】
【表3】

【0054】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
4モル%を超え7モル%以下のイットリアを含有するジルコニアからなり、焼結体粒径が2.0μm以下、相対密度99.5%以上、1mm厚みにおける波長600nmの可視光に対する全光線透過率が40%以上の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体。
【請求項2】
1mm厚みにおける波長600nmに対する隠蔽率が60%以下である請求項1に記載の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体。
【請求項3】
波長600nmの可視光に対する吸収散乱係数が4.0mm−1以下の請求項1〜2記載の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体。
【請求項4】
3点曲げ強度が500MPa以上の請求項1〜3に記載の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体。
【請求項5】
破壊靭性強度が3.5MPa・m0.5以上の請求項1〜4に記載の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体。
【請求項6】
イットリア含有ジルコニア焼結体の結晶相が正方晶蛍石型結晶相と立方晶蛍石型結晶相からなり、正方晶蛍石型結晶相の分率が30%〜80%の請求項1〜5に記載の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体。
【請求項7】
4モル%を超え7モル%以下のイットリアを含有するジルコニアの成形体を1250〜1500℃で一次焼結し、さらに1250℃以上、圧力50MPa以上で熱間静水圧プレス(HIP)処理する方法において、HIP処理装置中に半密閉状態の容器を配し、当該容器中に一次焼結体を配してHIP処理することを特徴とする透光性イットリア含有ジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項8】
一次焼結温度を1250〜1350℃として相対密度95〜99.5%、平均粒径1.0μm以下の結晶からなる焼結体とし、さらに1250〜1500℃、圧力の50〜200MPa条件下で熱間静水圧プレス(HIP)処理することを特徴とする請求項7記載の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項9】
半密閉状態が、開口部を有するセラミックス製容器の開口部にセラミックス製平板を置いて形成してなる請求項7〜8に記載の製造方法。
【請求項10】
BET比表面積が5〜20m/g、一次粒子の平均粒径が10〜70nm以下のジルコニア粉末を用いることを特徴とする請求項8〜9記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜6記載の透光性イットリア含有ジルコニア焼結体焼結体を用いた歯科材料。
【請求項12】
義歯又は歯列矯正用器具のいずれかである請求項11の歯科材料。
【請求項13】
ミルブランクである請求項11〜12のいずれかに記載の歯科材料。

【公開番号】特開2008−222450(P2008−222450A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58592(P2007−58592)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】