説明

透明ポリプロピレンシートの製造方法および透明ポリプロピレンシート

【課題】透明性を確保しつつ、耐衝撃性、剛性を備え、かつ、二次加工としての折り曲げ加工時の白化のない透明ポリプロピレンシートの製造方法および透明ポリプロピレンシートを提供することにある。
【解決手段】製造装置1は、原料を溶融混練してシート状に押し出すシート成形手段11と、シート20を冷却固化する第一の冷却手段12と、冷却したシート20を再加熱する予熱手段13と、シート20を熱処理してシート21とする熱処理手段14と、熱処理後のシート21の冷却を行う第二の冷却手段15とを備えている。この原料は、(A)アイソタクチックペンタッド分率が0.85〜0.99、メルトインデックスが2〜10g/10分のポリプロピレン樹脂60〜97質量%、および(B)ラセミペンタッド分率が0.15〜0.50、メルトインデックスが2〜10g/10分のポリプロピレン樹脂40〜3質量%とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ポリプロピレンシートの製造方法および透明ポリプロピレンシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、透明シート分野で多用されているポリ塩化ビニル樹脂が、使用されてきたが、近年の環境問題等への意識の高まりとともに、ポリ塩化ビニル樹脂に変わる新しい透明シートが要求されている。これらのシートとして、ポリプロピレンからなるシートが用いられるようになっている。しかしながら、用途によっては、透明性だけでなく、他の物性、特に耐衝撃性のより優れたシートが望まれている。
【0003】
透明なポリプロピレンシートの耐衝撃性の改良方法としては、(1)低結晶性のエチレン−ブテン−1共重合体を配合するHPP(ホモポリプロピレン)樹脂組成物を用いる急冷方法(特許文献1参照)、(2)低密度のエチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体および核剤配合HPP樹脂組成物を用いる急冷方法、この場合には、PPとして、HPPにRPP(ランダムポリプロピレン)を配合する(特許文献2参照)方法、(3)エチレン−プロピレンゴム及びエチレン−αオレフィン共重合体を配合したHPPを用いる急冷方法等が知られている。
【0004】
さらに、透明なポリプロピレンシートの剛性、透明性の改良方法としては、(4)ポリプロピレンの原料に、造核剤や石油樹脂などの透明化剤を配合する方法が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−227722号公報
【特許文献2】特開平1−306448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、(1)、(2)および(3)の方法では、耐衝撃性の改良は期待できるものの、シートの剛性の低下を伴うとともに、透明性も犠牲となる。さらに、シートのリサイクル時のゲルの発生による透明性、外観不良、印刷適性の低下、折り曲げ加工時の白化など新たな問題点が発生する。また、(4)の方法では、耐衝撃性の低下が問題となる。
【0007】
本発明の目的は、透明性を確保しつつ、耐衝撃性、剛性を備え、かつ、二次加工としての折り曲げ加工時の白化のない透明ポリプロピレンシートの製造方法および透明ポリプロピレンシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前述の好ましい性質を有する透明ポリプロピレンシートを開発すべく、鋭意検討を重ねた結果、特定の組成を有するポリプロピレン樹脂からなる樹脂組成物より、透明性を確保しつつ、耐衝撃性、剛性を備え、かつ、二次加工としての折り曲げ加工時の白化のない透明ポリプロピレンシートが得られることを見いだした。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明の透明ポリプロピレンシートの製造方法は、(A)アイソタクチックペンタッド分率が0.85〜0.99、かつ、ラセミペンタッド分率[rrrr/(1−mmmm)]が0.15未満または0.50を超え、メルトインデックスが2〜10g/10分のポリプロピレン樹脂60〜97質量%、および(B)ラセミペンタッド分率[rrrr/(1−mmmm)]が0.15〜0.50、かつ、アイソタクチックペンタッド分率が0.85未満または0.99を超え、メルトインデックスが2〜10g/10分のポリプロピレン樹脂40〜3質量%を含む樹脂組成物をシート状に溶融押し出しする成形工程と、溶融押し出しされたシート状体を急冷する冷却工程と、冷却されたシート状体を、70℃以上、前記ポリプロピレン樹脂の融点以下で熱処理する熱処理工程とを備えていることを特徴とする。
【0010】
ポリプロピレン樹脂(A)の成分比は、樹脂組成物全体の60〜97質量%、好ましくは、70〜95質量%である。 また、ポリプロピレン樹脂(B)の成分比は、樹脂組成物全体の40〜3質量%、好ましくは、30〜5質量%である。
【0011】
メルトインデックス(MI)は、JIS K7210に準拠した方法で測定することができる。ポリプロピレン樹脂(A)のメルトインデックスは、2〜10g/10分、好ましくは、2〜5g/10分である。ポリプロピレン樹脂(B)のメルトインデックスは、2〜10g/10分、好ましくは、2〜5g/10分である。
【0012】
ここで、アイソタクチックペンタッド分率とは、樹脂の分子鎖中のペンタッド単位(プロピレンモノマーが5個連続してアイソタクチック結合したもの)でのアイソタクチック分率である。すなわち、ホモポリプロピレンの立体規則性について13C−NMRを用いて測定したペンタッド分率において、mmmmの割合(PI 値)のことをいう。
このmmmm(00000 )又は(11111 )は、アイソタクチックペンタッドを意味する。mはアイソタクチックヤードを示し、0、1 はポリマー鎖に沿った個々のモノマー単位のコンフィギュレーションを示し、0がある1つのコンフィギュレーションを表し、1はその反対のコンフィギュレーションを表す。
【0013】
このアイソタクチックペンタッド分率の測定法については、マクロモレキュールズ(Macromolecules)6925(1973 )に発表されている。
ポリプロピレン樹脂(A)のアイソタクチックペンタッド分率は、0.85〜0.99、好ましくは、0.87〜0.96である。アイソタクチックペンタッド分率が0.85未満の場合には、弾性率や他の強度が低下する。0.99を超えると、急冷工程での内部ヘイズが悪下し、透明ポリプロピレンシートとしての使用が困難になる。
【0014】
ここで、ラセミペンタッド分率[rrrr/(1−mmmm)]のrrrrとは任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素−炭素結合による主鎖に対して、側鎖である5つのメチル基が交互に反対方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味し、mmmmとは任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素−炭素結合による主鎖に対して、側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。
【0015】
ポリプロピレン樹脂(B)のラセミペンタッド分率は、0.15〜0.50、好ましくは、0.20〜0.45である。この値が0.15未満では衝撃強度、透明性が不足し、折り曲げ加工時の白化も悪化し、また0.50を超えると、引張弾性率が不充分となる。透明ポリプロピレンシートの特性のバランスの面から、好ましいrrrr/(1−mmmm)は0.20〜0.40の範囲である。
【0016】
なお、このrrrr/(1−mmmm)は、具体的には、次のようにして測定した値である。すなわち、JNM−FX−200(日本電子社製,13C−核共鳴周波数50.1MHz)を用い、測定モード:プロトン完全デカップリング法,パルス幅:6.9μs(45°),パルス繰り返し時間:3s,積算回数:10000回,溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン/重ベンゼン(90/10容量%),試料濃度250mg/2.5ミリリットル溶媒,測定温度:130℃の条件にて、13C−NMR測定を行い、メチル基の立体規則性によるケミカルシフトの違いにより、すなわち、22.5〜19.5ppm領域に現れるmmmm〜mrrmの各ピークの面積強度比から、ペンタッド分率を測定し、rrrr/(1−mmmm)の値を求めた。
mmmm:21.86ppm
mmmr:21.62ppm
mmrr:21.08ppm
mmrm+rrmr:20.89ppm
rrrr:20.36ppm
mrrm:19.97ppm
【0017】
上記の組成の樹脂組成物には、4質量%以下の公知のシート成形用の他のオレフィン含有共重合体を配合してもよく、公知のシート成形用の添加剤、帯電防止剤、着色剤等を添加してもよい。
【0018】
成形工程により、樹脂組成物を、シート状に成形する。成形工程の溶融押し出し方法としては、Tダイ押し出し法が好ましい。冷却工程により、シート状の樹脂組成物は、一旦形状を固定される。冷却工程の冷却方法としては、水冷、空冷、エンドレスベルトまたはロール等による冷却方法を挙げることができる。
【0019】
熱処理工程により、一旦シート状体に固化された樹脂組成物の表面をきれいに仕上げることができる。この熱処理工程において、エンドレスベルトやロール等を用いて、熱処理を行うことができる。前記樹脂組成物を70℃以上、前記ポリプロピレン樹脂の融点以下で熱処理することにより、樹脂組成物が完全に溶融する前に表面の成形を行うことができるので、シート形状を保ったまま、樹脂組成物表面を平坦、鏡面化等きれいに仕上げることができる。
ここで、70℃未満ならば、樹脂組成物が軟化しにくく、表面仕上げが困難になる場合がある。前記ポリプロピレン樹脂の融点より高いならば、樹脂組成物が完全に溶融し、シート形状を保ったまま熱処理工程を行うことが困難になる場合がある。
【0020】
このような本発明によれば、上記のような組成の樹脂組成物を成形、冷却、熱処理をすることにより、透明性を確保しつつ、耐衝撃性、剛性を備え、かつ、二次加工としての折り曲げ加工時の白化のない透明ポリプロピレンシートが得られる。
【0021】
本発明の透明ポリプロピレンシートの製造方法では、前記冷却工程は、冷却水が流下するスリットに前記シート状体を通過させることにより、前記シート状体を冷却することが好ましい。
【0022】
これによれば、前記冷却工程は、冷却水が流下するスリットに前記シート状体を通過させることにより、スリットをシート状体が通過しながら、冷却水が直接水冷することになるから、シート状体のシート形状に歪み等を生じさせずに、シート状体を冷却固化することができる。
【0023】
本発明の透明ポリプロピレンシートの製造方法では、前記熱処理工程は、鏡面を有する金属製エンドレスベルトおよび/または金属ロールで、前記シート状体の表裏面を挟持して加熱することより、実施されることが好ましい。
【0024】
これによれば、前記熱処理工程は、鏡面を有する金属製エンドレスベルトおよび/または金属ロールで、前記シート状体の表裏面を挟持して、加熱することより、実施されることにより、シート状体と当接する面が鏡面であるので、シート状体の表面を鏡面加工することができる。
【0025】
本発明の透明ポリプロピレンシートは、(A)アイソタクチックペンタッド分率が0.85〜0.99、かつ、ラセミペンタッド分率[rrrr/(1−mmmm)]が0.15未満または0.50を超え、メルトインデックスが2〜10g/10分のポリプロピレン樹脂60〜97質量%、および(B)ラセミペンタッド分率[rrrr/(1−mmmm)]が0.15〜0.50、かつ、アイソタクチックペンタッド分率が0.85未満または0.99を超え、メルトインデックスが2〜10g/10分のポリプロピレン樹脂40〜3質量%を含み、押し出し成形方向(MD方向)の引張弾性率が、1700MPa以上、シート厚みをt[mm]とすると、全ヘイズHが、
【0026】
【数1】

【0027】
上記の式の範囲以下であることを特徴とする。
【0028】
ここで、透明ポリプロピレンシートの厚みとしては、150〜1000μm、好ましくは、200〜600μmである。
【0029】
また、引張弾性率は、JIS K7113に準拠した方法等により、測定することができる。ここで、押し出し成形方向(MD方向)の引張弾性率が1700MPa未満であると、強度の面で実用的でない場合がある。
全ヘイズHは、JIS K7105に準拠した方法等により測定することができる。全ヘイズHが、
【0030】
【数2】

【0031】
上記の式の以下の範囲であれば、透明性に優れた透明ポリプロピレンシートを得ることができる。
【0032】
このような本発明によれば、上記のような組成のポリプロピレン樹脂からなることにより、透明性を確保しつつ、耐衝撃性、剛性を備え、かつ、二次加工としての折り曲げ加工時の白化のない透明ポリプロピレンシートとなる。
【0033】
本発明の透明ポリプロピレンシートでは、5℃における衝撃強度が、2000J/m以上であることが好ましく、より好ましくは、2000〜3000J/mである。
ここで、衝撃強度が、2000J/m未満ならば、包装材料や、クリアファイル等の実用に要求される衝撃強度を満たさない場合がある。
【0034】
本発明の透明ポリプロピレンシートでは、前記ポリプロピレン樹脂(A)、(B)は、造核剤を含まないことが好ましい。
【0035】
これによれば、造核剤は、結晶化速度を速める造核効果があるため、再加熱して、成形する場合に、所定の形状に至るまでに結晶化し、形状を固定化してしまう。これに対して、ポリプロピレン樹脂(A)、(B)は、造核剤を含まないので、成形性を劣化させることがない。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、透明性を確保しつつ、耐衝撃性、剛性を備え、かつ、二次加工としての折り曲げ加工時の白化のない透明ポリプロピレンシートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
図1には、本発明の第1実施形態に係る透明ポリプロピレンシートの製造装置1が示されている。
製造装置1は、原料を溶融混練してシート状に押し出すシート成形手段11と、シート20を冷却固化する第一の冷却手段12と、冷却したシート20を再加熱する予熱手段13と、シート20を熱処理してシート21とする熱処理手段14と、熱処理後のシート21の冷却を行う第二の冷却手段15とを備えている。
【0038】
シート成形手段11は、例えば、単軸押出機或いは多軸押出機などの既存の押出機111を有し、押出機111の先端にはシート成形用のTダイ112を備えている。
これらにより、溶融混練されたシート組成物がTダイ112より押し出されて面状に成形され、シート成形が行われる。
【0039】
なお、このシート組成物は、(A)アイソタクチックペンタッド分率が0.85〜0.99、かつ、ラセミペンタッド分率[rrrr/(1−mmmm)]が0.15未満または0.50を超え、メルトインデックスが2〜10g/10分のポリプロピレン樹脂60〜97質量%、および(B)ラセミペンタッド分率[rrrr/(1−mmmm)]が0.15〜0.50、かつ、アイソタクチックペンタッド分率が0.85未満または0.99を超え、メルトインデックスが2〜10g/10分のポリプロピレン樹脂40〜3質量%を含む樹脂組成物である。
【0040】
また、シート組成物とされる原料の形態は、粉末、顆粒、ペレット状など任意であり、シート組成物が前記比率となるように、混合されている。
なお、上記の樹脂組成物には、4質量%以下の公知のシート成形用の他のオレフィン含有共重合体を配合してもよく、公知のシート成形用の添加剤、帯電防止剤、着色剤等を添加してもよいが、造核剤は含まない。
【0041】
第一の冷却手段12は、大型水槽120と、大型水槽120内で対向配置されてシート20を挟み込む第一のロール121および第二のロール122と、これらのロール121、122よりも大型水槽120の底面寄りに設置された第三のロール123と、予熱手段13側の大型水槽120周縁近傍に設けられた第四のロール124と、大型水槽120の上側に配置された小型水槽125とにより構成されている。
【0042】
小型水槽125の底面の略中央部分には、図2に示すように、Tダイ112の開口に対応した位置および大きさにスリット126が形成されている。このスリット126は、小型水槽125の底面に対して垂直に形成されているが、スリット126の下側にいくにしたがって、縮径する形状でもよい。
【0043】
スリット126の間隔は、スリット126の入口側で、1〜20mm、好ましくは、3〜10mmである。一方、スリット126の出口側では、少なくともシート20よりも厚く、かつ、0.5mm以上、好ましくは、1.0mm以上である。なお、スリット126は、通常、厚みが1〜10mm、長さが30〜70mm程度の壁状のものである。さらに、スリット126とTダイ112との距離は、通常30〜250mm程度である。
なお、図は略したが、小型水槽125内には、外部から、シート20を冷却するための冷却水等が絶えずポンプ等により、供給できるようになっている。
【0044】
これらにより、成形手段11で成形されたシート20は、小型水槽125に絶えず供給されている冷却水とともに、スリット126を通って流下し、その後、ロール121、122、123の回転に伴って大型水槽120内に導入され、冷却固化されるようになっている。
【0045】
予熱手段13は、略同じ高さに平行に設けられた第一と第三の予熱ロール131、133と、予熱ロール131、133の間に挟まれる位置にやや下方にずらして設置された第二の予熱ロール132と、第三の予熱ロール133に周面が圧接転動されてシート20を上下から挟み込む圧接補助ロール134とにより構成されている。
なお、予熱ロール131、132、133は、電熱ヒータ等が内蔵され、それぞれ周面が所望の温度となるように加熱されている。
また、第一の予熱ロール131と第四のロール124との間には、必要に応じて水切り設備を設置してもよい。
これらにより、冷却固化されたシート20は、予熱ロール131、132、133の周面に圧接され、予熱されるようになっている。
【0046】
熱処理手段14は、第一、第二、第三の加熱ロール141、142、143と、冷却ロール144と、エンドレスベルト145と、圧接補助ロール146と、引き剥がしロール147とで構成されている。
【0047】
第一、第二の加熱ロール141、142および冷却ロール144は、略同じ高さに平行に設けられており、第三の加熱ロール143は、加熱ロール142の直下に平行に設けられている。
これら第一〜第三の加熱ロール141、142、143の周面は、電熱ヒータ等が内蔵されることにより、それぞれ70℃以上、ポリプロピレン樹脂(A)、(B)の融点以下(例えば、約175℃)に設定され、加熱されており、一方、冷却ロール144の周面は、冷却水等が循環するような構造になっており、所望の温度に冷却されている。
【0048】
エンドレスベルト145は、第一および第三の加熱ロール141、143と、冷却ロール144が内側に配置されるようにしてこれらの周囲に巻装されている。これにより、エンドレスベルト145は、第二の加熱ロール142により外側から内側へ押し込まれた状態に張られている。
なお、エンドレスベルト145は、外側表面が鏡面仕上げされたものであり、厚さは0.1〜3.0mmの範囲内であればよく、好ましくは0.4〜1.5mmである。
また、エンドレスベルト145の材質は、SUS301、SUS304、SUS316、もしくは相当の材質であることが好ましく、炭素銅やチタン材などの金属も利用できる。
【0049】
圧接補助ロール146は、第一の加熱ロール141の上方から周面に圧接転動されている。
引き剥がしロール147は、エンドレスベルト145からシート20を引き剥がすものであり、冷却ロール144近傍に所定間隔をあけて設けられている。
これらにより、予熱されたシート20は、加熱ロール141、142、143および冷却ロール144の回転によりエンドレスベルト145に圧接され、所望の温度に加熱されるとともに表面成形されるようになっている。
【0050】
第二の冷却手段15は、略同じ高さに平行に設けられてそれぞれに冷却された第一、第二、第三の冷却ロール151、152、153と、第三の冷却ロール153に圧接転動されてシート20を挟み込む圧接補助ロール154とで構成されている。
但し、冷却ロール151、152、153の周面温度は冷却ロール144よりも低温であることが好ましい。
これらにより、表面成形されたシート20は、冷却ロール151、152、153の周面に当接され、移動しながら冷却されるようになっている。
【0051】
このように構成された本実施の形態においては、先ず、シート成形手段11により、Tダイ112からシート組成物を面状に押し出し成形してシート20を成形する(成形工程)。
【0052】
次に、このシート20は第一の冷却手段12へ導入され、冷却固化される。
すなわち、シート20は、小型水槽125に絶えず供給されている冷却水とともに、スリット126を通って流下し、その後、大型水槽120内へ導かれ、第一のロール121と第二のロール122の間に挟み込まれて第三のロール123へ送られ、第四のロール124により大型水槽120外へ導かれる。シート20は、この大型水槽120内を移動する間に冷却固化される(第1冷却工程)。
【0053】
次に、冷却固化されたシート20は予熱手段13へ導入され、所定温度に予熱される。
すなわち、シート20は、第四のロール124から第一の予熱ロール131の上方の周面に導かれ、第二の予熱ロール132の下方の周面を介して第三の予熱ロール133の上方の周面に送られ、圧接補助ロール134により挟まれて送り出される。
シート20は、このように上下に蛇行されることで充分に予熱ロール131、132、133の周面に圧接されることで、効率よく所定温度まで一様に予熱される(予熱工程)。
【0054】
次に、予熱されたシート20は熱処理手段14へ導入され、表面を平滑に成形される。
すなわち、シート20は、予熱ロール133から第一の加熱ロール141の上方の周面に導かれ、圧接補助ロール146により、エンドレスベルト145とともに挟まれて圧接され、エンドレスベルト145に密着される。
シート20は、エンドレスベルト145とともに第二の加熱ロール142の下方の周面に導かれ、第二の加熱ロール142により、再びエンドレスベルト145に圧接される。
【0055】
引き続き、シート20は、エンドレスベルト145とともに冷却ロール144の上方に送られ、冷却ロール144により冷却され、引き剥がしロール147に導かれてエンドレスベルト145から剥離される。
これらにより、シート20は、70℃以上、樹脂組成物の融点以下に加熱された状態で鏡面加工されたエンドレスベルト145に充分に圧接され、圧接された面が平滑に表面成形されたシート21が得られる(熱処理工程)。
【0056】
次に、表面成形を施したシート21は第二の冷却手段15へ導入され、所定温度まで冷却される。
すなわち、シート21は、引き剥がしロール147から第一の冷却ロール151の上方の周面に導かれ、第二の冷却ロール152の下方の周面を介して、第三の冷却ロール153に送られて圧接補助ロール154により圧接される。
このように、シート21は、充分に各冷却ロール151、152、153に当接されて冷却される(第2冷却工程)。
以上により、本実施形態の透明ポリプロピレンシート21が得られる。
【0057】
上述のような本実施形態によれば、次のような効果がある。
(1)透明性を確保しつつ、耐衝撃性、剛性を備え、かつ、二次加工としての折り曲げ加工時の白化のない透明ポリプロピレンシート21が得られる。
(2)樹脂組成物であるシート20を70℃以上、樹脂組成物の融点以下の範囲内の温度で熱処理することにより、樹脂組成物が完全に溶融する前に表面の成形を行うことができるので、シート形状を保ったまま、樹脂組成物表面を平坦、鏡面化等きれいに仕上げることができる。
【0058】
(3)第1冷却工程は、冷却水が流れるスリット126をシート状体であるシート20を冷却水と一緒に通過させ、シート20を冷却することにより、スリット126をシート20が通過しながら、冷却水が直接水冷することになるから、シート20のシート形状に歪み等を生じさせずに、シート20を冷却固化することができる。
(4)熱処理工程は、鏡面を有するエンドレスベルト145が、シート状体であるシート20の表裏面を挟持して、加熱することより、実施されることにより、シート20と当接する面が鏡面であるので、透明ポリプロピレンシート21の表面を鏡面加工することができる。
(5)造核剤は、結晶化速度を速める造核効果があるため、再加熱して、成形する場合に、所定の形状に至るまでに結晶化し、形状を固定化してしまう。これに対して、ポリプロピレン樹脂(A)、(B)は、造核剤を含まないので、成形性を劣化させることがない。
【0059】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態を説明する。なお、以下の説明では既に説明した部分、部材と同一のものは同一符号を付してその説明を簡略する。
図3を参照して第2実施形態に係る透明ポリプロピレンシートの製造装置2を説明する。第1実施形態の製造装置1では、シート20を冷却固化する第一の冷却手段12では、大型水槽120及びスリット126を有する小型水槽125を備えていた。
【0060】
これに対して、第2実施形態の製造装置2では、第一の冷却手段22は、第1の冷却ロール213と第2の冷却ロール214との間に巻装された金属製のエンドレスベルト215と、シート20と金属製のエンドレスベルト215を介して第1の冷却ロール213と接触する第3の冷却ロール216と、第2の冷却ロール214の近傍に設けられた第4のロール217とを備えて構成されている点が異なる。
【0061】
なお、図1に鎖線で示したように、第1のロール213の前に別の冷却ロール215A を設け、エンドレスベルト215の内側から接触させることで、エンドレスベルト215を更に冷却するようにしてもよい。
【0062】
第1の冷却ロール213は、その表面にフッ素ゴム等の弾性材218が被覆されている。この弾性材218は、その硬度(JIS K6301 A 形に準拠)が60度以下、厚さが3mm以上のものである。
金属製のエンドレスベルト215は、ステンレス等よりなり、表面粗さが0.5S以下の鏡面を有している。
第1と第2の冷却ロール213、214の少なくとも一方は、その回転軸219が回転駆動手段(図示せず)と連結されている。
【0063】
第3の冷却ロール216も、表面粗さが0.5 S以下の鏡面を有している。そして、この冷却ロール216は、シート20と金属製エンドレスベルト215を介して第1の冷却ロール213と接触し、しかもエンドレスベルト215でこの冷却ロール216側に押圧されたシート20を抱き込むようにして設けられている。即ち、金属製エンドレスベルト215とこのエンドレスベルト215と接触しているシート20は、第3の冷却ロール216の周面の一部に巻き付くようにして蛇行している。
【0064】
第4のロール217は、シート20がエンドレスベルト215を介して第2の冷却ロール214に圧接されるようにシート20をガイドするものである。
前記各冷却ロール213、214、216には、表面の温度調整を可能とする水冷式等の温度調整手段(図示せず)が設けられている。
【0065】
第1実施形態と同様に、シート成形手段11を用いて成形工程を行った後、このシート20は、第一の冷却手段22へ導入され、冷却固化される。
具体的には、先ず、シート20と直接接触しているエンドレスベルト215及び第3の冷却ロール216の表面温度が50℃以下、露点以上に保たれるように、各冷却ロール213,214,216の温度制御をしておく。
【0066】
そして、押出機のTダイ112より押出されたシート20を、第1の冷却ロール213と接触しているエンドレスベルト215と、第3の冷却ロール216とに略同時に接触するようにして第1と第3の冷却ロール213、216の間に導入し、第1と第3の冷却ロール213、216 とでシート20を圧接して50℃以下に冷却する。
【0067】
この際、第1と第3の冷却ロール213,216 間の押圧力で弾性材218が圧縮されるようにして弾性変形し、弾性材218が弾性変形している両ロール213、216 の中心からの角度θ1 部分においてシート20は、両ロール213、216による面状圧接となっている。この際の面圧は、0.1MPa〜20.0MPaである。
【0068】
引き続き、このシート20を前記鏡面のエンドレスベルト215で第3の冷却ロール216に対して圧接して50℃以下に冷却する。エンドレスベルト215でこの冷却ロール216側に押圧されたシート20は、冷却ロール216の中心からの角度θ2 で冷却ロール216に抱き込まれ、シート20は、この抱き角度θ2部分においてエンドレスベルト215と第3の冷却ロール216により面状に圧接されている。この際の面圧は、0.01MPa 〜0.5MPaである。
【0069】
次に、シート20をエンドレスベルト215に重なるように沿わせた状態でエンドレスベルト215の回動と共に第2の冷却ロール214に移動させ、このシート20をエンドレスベルト215を介して第2の冷却ロール214に対して圧接して50℃以下に冷却する。第4のロール217でガイドされてこの冷却ロール214側に押圧されたシート20は、冷却ロール214の中心からの角度θ3部分においてエンドレスベルト215に面状に圧接されている。この際の面圧は、0.01MPa 〜0.5MPaである(第1冷却工程)。
【0070】
その後、シート20は、第1実施形態と同様に、予熱手段13による予熱工程、熱処理手段14による熱処理工程、第二の冷却手段15による第2冷却工程を経て、透明ポリプロピレンシートが得られる。
【0071】
上述のような本実施形態によれば、前述の第1実施形態の効果((3)を除く)に加えて次のような効果がある。
(6)弾性材218が弾性変形している第1と第3のロール213、216 の角度θ1 部分における両ロール213、216によるシート20の面状圧接と冷却、抱き角度θ2部分における金属製エンドレスベルト215と第3の冷却ロール216によるシート20の面状圧接と冷却及び角度θ3 部分におけるエンドレスベルト215と第2の冷却ロール214によるシート20の面状圧接と冷却によって、高透明性のシート20を高速度で製造することができる。
【0072】
なお、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は、本発明に含まれるものである。例えば、熱処理工程としては、前記各実施形態では、エンドレスベルト145を用いていたが、これに限られず、金属ロール等で、熱処理工程を実施してもよい。
その他、本発明を実施する際の具体的な構造および形状等は、本発明の目的を達成できる範囲内で他の構造等としてもよい。
【実施例1】
【0073】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。
第1実施形態の製造装置1(図1参照)を用い、具体的条件を以下の記載及び表1の条件で、透明ポリプロピレンシート21を製造した。
【0074】
ポリプロピレン樹脂(A)
HPP−1(ホモポリプロピレン):アイソタクチックペンタッド分率0.90
:MI 3.0g/10分
HPP−2(ホモポリプロピレン):アイソタクチックペンタッド分率0.92
:MI 2.0g/10分
【0075】
ポリプロピレン樹脂(B)
TPO(Thermo Plastic Olefin elastmer)
:ラセミペンタッド分率[rrrr/(1−mmmm)] 0.24
:アイソタクチックペンタッド分率 0.76
:MI 2.8g/10分
:融点[DSC法による測定] 158.7℃
:融解エンタルピー[ΔH] 81J/g
【0076】
上記のアイソタクチックペンタッド分率及びラセミペンタッド分率[rrrr/(1−mmmm)])は、具体的には、次のようにして測定した値である。すなわち、JNM−FX−200(日本電子社製,13C−核共鳴周波数50.1MHz)を用い、測定モード:プロトン完全デカップリング法,パルス幅:6.9μs(45°),パルス繰り返し時間:3s,積算回数:10000回,溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン/重ベンゼン(90/10容量%),試料濃度250mg/2.5ミリリットル溶媒,測定温度:130℃の条件にて、13C−NMR測定を行い、メチル基の立体規則性によるケミカルシフトの違いにより、すなわち、22.5〜19.5ppm領域に現れるmmmm〜mrrmの各ピークの面積強度比から、ペンタッド分率を測定し、rrrr/(1−mmmm)の値を求めた。
mmmm:21.86ppm
mmmr:21.62ppm
mmrr:21.08ppm
mmrm+rrmr:20.89ppm
rrrr:20.36ppm
mrrm:19.97ppm
【0077】
ランダムポリプロピレン
RPP :エチレン含有量 3wt%
:MI 5.0g/10分
【0078】
直鎖状低密度ポリエチレン
LLDPE :密度 907kg/m3
:MI 3.0g/10分
【0079】
樹脂組成物の温度 :240℃
Tダイ112の開口部付近の温度:280℃
予熱工程の予熱ロール131、132、133の温度:110℃
表面成形工程の加熱ロール141、142、143の温度:145℃
エンドレスベルト145の周回速度:15〜25m/分
【0080】
【表1】

【0081】
ここで、できあがった透明ポリプロピレンシート21の各特性を評価した。評価結果は表1に示す。引張弾性率は、JIS K7113に準拠した方法により測定した。なお、TDとは、MD方向(成形押し出しの方向)の垂直方向のことをいう。
【0082】
全ヘイズ、内部ヘイズは、JIS K7105に準拠し、ヘイズ測定機(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。光沢度は、JIS K7105に準拠し、自動式測色色差計(スガ試験機(株)製)を用いて、測定した。
また、衝撃強度は、フィルムインパクトテスター((株)東洋精機製作所)を用い、試験荷重 30kg、1インチヘッドの条件で、23℃、5℃、−5℃で測定した。なお、表1中のNBとは、測定限界値10000J/mで、測定時に材料破壊が発生しなかったことを示す。
【0083】
また、できあがった透明ポリプロピレンシート21を折り曲げた際の折り曲げ白化性も評価した。
◎:白化しない。
○:白化軽度、肉眼で、うっすらと確認できる。
△:白化する、肉眼で確認できる。
【0084】
表1からもわかるように、ポリプロピレン樹脂(B)を含有せず、RPPやLLDPEを含有している比較例1、2と比較して、ポリプロピレン樹脂(B)を含有している実施例1〜3は、透明性を確保しつつ、耐衝撃性、剛性を備え、かつ、二次加工としての折り曲げ加工時の白化のない透明ポリプロピレンシートであることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の第1実施形態の製造装置を示す概略図である。
【図2】図1の実施形態における小型水槽の部分拡大図である。
【図3】本発明の第2実施形態の製造装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0086】
1、2 製造装置
11 シート成形手段
12、22 冷却手段
14 熱処理手段
20 シート
21 透明ポリプロピレンシート
111 押出機
112 Tダイ
120 大型水槽
125 小型水槽
126 スリット
141、142、143 加熱ロール
144 冷却ロール
145 エンドレスベルト
213、214、216 冷却ロール
215 エンドレスベルト
215A 冷却ロール
216 冷却ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アイソタクチックペンタッド分率が0.85〜0.99、かつ、ラセミペンタッド分率[rrrr/(1−mmmm)]が0.15未満または0.50を超え、メルトインデックスが2〜10g/10分のポリプロピレン樹脂60〜97質量%、および(B)ラセミペンタッド分率[rrrr/(1−mmmm)]が0.15〜0.50、かつ、アイソタクチックペンタッド分率が0.85未満または0.99を超え、メルトインデックスが2〜10g/10分のポリプロピレン樹脂40〜3質量%を含む樹脂組成物をシート状に溶融押し出しする成形工程と、
溶融押し出しされたシート状体を急冷する冷却工程と、
冷却されたシート状体を、70℃以上、前記ポリプロピレン樹脂の融点以下で熱処理する熱処理工程とを備えていることを特徴とする透明ポリプロピレンシートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の透明ポリプロピレンシートの製造方法において、
前記冷却工程は、冷却水が流下するスリットに前記シート状体を通過させることにより、前記シート状体を冷却することを特徴とする透明ポリプロピレンシートの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の透明ポリプロピレンシートの製造方法において、
前記熱処理工程は、鏡面を有する金属製エンドレスベルトおよび/または金属ロールで、前記シート状体の表裏面を挟持して加熱することより、実施されることを特徴とする透明ポリプロピレンシートの製造方法。
【請求項4】
(A)アイソタクチックペンタッド分率が0.85〜0.99、かつ、ラセミペンタッド分率[rrrr/(1−mmmm)]が0.15未満または0.50を超え、メルトインデックスが2〜10g/10分のポリプロピレン樹脂60〜97質量%、および(B)ラセミペンタッド分率[rrrr/(1−mmmm)]が0.15〜0.50、かつ、アイソタクチックペンタッド分率が0.85未満または0.99を超え、メルトインデックスが2〜10g/10分のポリプロピレン樹脂40〜3質量%を含み、
押し出し成形方向(MD方向)の引張弾性率が、1700MPa以上、
シート厚みをt[mm]とすると、全ヘイズHが、
【数1】

以下であることを特徴とする透明ポリプロピレンシート。
【請求項5】
請求項4に記載の透明ポリプロピレンシートにおいて、
5℃における衝撃強度が、2000J/m以上であることを特徴とする透明ポリプロピレンシート。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の透明ポリプロピレンシートにおいて、
前記ポリプロピレン樹脂(A)、(B)は、造核剤を含まないことを特徴とする透明ポリプロピレンシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−18731(P2008−18731A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262366(P2007−262366)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【分割の表示】特願2001−375060(P2001−375060)の分割
【原出願日】平成13年12月7日(2001.12.7)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】