説明

透明伝導性酸化膜のカソードを備える有機電界発光素子及びその製造方法

【課題】透明伝導性酸化膜であるカソードを備える有機電界発光素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】素子基板10上に位置するアノードAと、アノード上に位置し、少なくとも有機発光層14を備える有機機能膜Fと、有機機能膜上に位置し、透明伝導性酸化膜であるカソードCと、を備える有機電界発光素子である。これにより、有機電界発光素子の共振効果を除去しうる。その結果、角度による輝度変化及び色転移が除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子及びその製造方法に係り、さらに詳細には、透明伝導性酸化膜のカソードを備える有機電界発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な有機電界発光素子は、アノード、前記アノード上に位置する有機発光層及び前記有機発光層上に位置するカソードを備える。前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加すれば、正孔は、前記アノードから前記有機発光層内に注入され、電子は、前記カソードから前記有機発光層内に注入される。前記有機発光層内に注入された正孔及び電子は、再結合してエキシトンを生成し、このようなエキシトンが励起状態から基底状態に転移しつつ、光を放出する。
【0003】
このような有機電界発光素子は、前記有機発光層から放出された光が下部基板を通じて透過される背面発光型と、上部基板を通じて透過される前面発光型とに大別される。前記前面発光型有機電界発光素子は、前記背面発光型有機電界発光素子に比べて、開口率が高いという長所がある。
【0004】
このような前面発光型有機電界発光素子の光透過電極であるカソードは、電子注入特性のために低い仕事関数を有する金属膜、例えば、MgAg膜で形成される。しかし、このような金属カソードは、可視光線領域の光に対して高い反射度を表す。したがって、前記金属カソードを備える前面発光型有機電界発光素子は、必然的に共振(マイクロキャビティ)構造を有する。このような共振構造は、視野角による輝度変化と色転移とを誘発する。また、このような共振構造によって、有機発光層をはじめとする色々な有機機能膜の厚さを2%以下の厳格な均一度内で制御せねばならない。これは、有機電界発光素子の量産に致命的な欠点となる恐れがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする技術的課題は、前記従来の技術の問題点を解決するためのものであって、共振特性を有していない前面発光型有機電界発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するために、本発明の一側面では、有機電界発光素子を提供する。前記有機電界発光素子は、素子基板上に位置するアノードを備える。前記アノード上に少なくとも有機発光層を備える有機機能膜が位置する。前記有機機能膜上に透明伝導性酸化膜であるカソードが位置する。
【0007】
前記透明伝導性酸化膜は、プラズマ支援熱蒸発法(プラズマ アシステッド サーマル エバポレーション)を使用して形成した膜でありうる。
【0008】
前記透明伝導性酸化膜は、インジウム酸化(IO)膜、インジウムスズ酸化(ITO)膜、スズ酸化(TO)膜、インジウム亜鉛酸化(IZO)膜、アルミニウム亜鉛酸化(AZO)膜、アルミニウムスズ酸化(ATO)膜またはアルミニウムインジウム酸化(AIO)膜でありうる。
【0009】
前記有機機能膜と前記カソードとの間に電子注入強化層が位置しうる。前記電子注入強化層は、表面深さ未満の厚さを有する金属層でありうる。前記電子注入強化層は、Mg、CaまたはInを含有する膜でありうる。
【0010】
前記アノードは、金(Au)または白金(Pt)を含有しうる。これとは異なり、前記アノードは、透明伝導性酸化物質に絶縁酸化物質がドーピングされた膜でありうる。前記透明伝導性酸化物質は、インジウム酸化物、インジウムスズ酸化物、スズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、アルミニウム亜鉛酸化物、アルミニウムスズ酸化物またはアルミニウムインジウム酸化物であり、前記絶縁酸化物質は、ランタン酸化物、イットリウム酸化物、ベリリウム酸化物、チタン酸化物、シリコン酸化物、ガリウム酸化物、パラジウム酸化物またはサマリウム酸化物でありうる。
【0011】
前記課題を達成するために本発明の他の一側面では、有機電界発光素子の製造方法を提供する。まず、素子基板上にアノードを形成する。前記アノード上に少なくとも有機発光層を備える有機機能膜を形成する。前記有機機能膜上に透明伝導性酸化膜であるカソードを形成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第一に、有機機能膜上に位置するカソードを透明伝導性酸化膜で形成することにより、有機電界発光素子の共振効果を除去しうる。その結果、視野角による輝度変化及び色転移が除去される。
【0013】
第二に、有機機能膜上に位置するカソードをプラズマ支援熱蒸発法を使用して透明伝導性酸化膜で形成することにより、前記有機機能膜に熱的な損傷及び物理的な損傷を生じることなく、透光率及び伝導性の良好な透明伝導性酸化膜であるカソードを形成しうる。
【0014】
第三に、前記有機機能膜と前記透明伝導性酸化膜であるカソードとの間に電子注入強化層をさらに形成することにより、前記有機機能膜への電子注入を強化できて追加的な電子注入層を形成しない。
【0015】
第四に、4.8ないし5.2eVの仕事関数を有する透明伝導性酸化膜であるカソードを使用することにより、アノードの仕事関数を5.5ないし6.0eVに上向きにシフトさせうる。このような高い仕事関数を有するアノードは、有機機能膜への正孔注入力が大きいので、格別に追加的な正孔注入層を形成しなくてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をさらに具体的に説明するために、本発明による望ましい実施形態を添付された図面を参照してさらに詳細に説明する。しかし、本発明は、ここで説明される実施形態に限定されず、他の形態に具体化されることもある。図面において、層の異なる層または基板“上”にあると述べられる場合に、それは、他の層または基板上に直接形成されるか、またはそれらの間に第3の層が介在されることもある。明細書全体にわたって、同じ参照番号は、同じ構成要素を表す。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態による有機電界発光素子を示す断面図である。
【0018】
図1を参照すれば、素子基板10上にアノードAが位置する。前記素子基板10は、前記アノードAに接続する少なくとも一つの薄膜トランジスタ(図示せず)を備えうる。
【0019】
前記アノードAの仕事関数は、4.8ないし6.0eVでありうる。望ましくは、前記アノードAの仕事関数は、5.5ないし6.0eVである。前記アノードAは、光透過電極または光反射電極でありうる。
【0020】
前記アノードAが光反射電極であり、仕事関数が5.5ないし6.0eVである場合、前記アノードAは、金(Au)膜または白金(Pt)膜でありうる。
【0021】
これとは異なり、前記アノードAが光透過電極であり、仕事関数が5.5ないし6.0eVである場合、前記アノードAは、絶縁酸化物がドーピングされた透明伝導性酸化膜でありうる。前記透明伝導性酸化物は、一般的に、4.8ないし5.2eVの仕事関数を有する物質であって、インジウム酸化物(IO)、インジウムスズ酸化物(ITO)、スズ酸化物(TO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、アルミニウムスズ酸化物(ATO)またはアルミニウムインジウム酸化物(AIO)でありうる。また、前記絶縁酸化物は、前記透明伝導性酸化物に比べて、仕事関数が高い物質であって、ランタン酸化物、イットリウム酸化物、ベリリウム酸化物、チタン酸化物、シリコン酸化物、ガリウム酸化物、パラジウム酸化物またはサマリウム酸化物でありうる。絶縁酸化物がドーピングされた透明伝導性酸化膜の場合、前記透明伝導性酸化物と前記絶縁酸化物との比を調節すれば、適切な透光度及び電気的伝導性が得られる。
【0022】
前記アノードAは、スパッタリング法、蒸発法もしくは蒸着法(デポジション)、イオンビーム蒸着法、電子ビーム蒸着法またはレーザアブレーション法を使用して形成しうる。
【0023】
前記アノードA上に少なくとも有機発光層14を備える有機機能膜Fが位置する。前記有機機能膜Fは、前記有機発光層14と前記アノードAとの間に位置する正孔輸送層13をさらに備えうる。前記アノードAの仕事関数が5.5ないし6.0eVである場合、前記正孔輸送層13を構成する物質の選択幅は、非常に広くなりうる。すなわち、前記正孔輸送層13の価電子帯(HOMO)エネルギー範囲が5.1ないし6.5eVに非常に広くなりうる。一例として、前記有機発光層14を構成するホスト物質を使用して、前記正孔輸送層13を形成することもある。また、前記アノードAの仕事関数が5.5ないし6.0eVに非常に高い場合、前記アノードAと前記正孔輸送層13との間に追加的な正孔注入層を形成せずとも、有機電界発光素子は、低い駆動電圧特性及び高い発光効率特性を表せる。すなわち、前記アノードAと前記正孔輸送層13とは、直接的に接触しうる。
【0024】
前記正孔輸送層13は、1,3,5−トリカルバゾリルベンゼン、4,4’−ビスカルバゾリルビフェニル、ポリビニルカルバゾール、m−ビスカルバゾリルフェニル、4,4’−ビスカルバゾリル−2,2’−ジメチルビフェニル、4,4’,4”−トリ(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン、1,3,5−トリ(2−カルバゾリルフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリス(2−カルバゾリル−5−メトキシフェニル)ベンゼン、ビス(4−カルバゾリルフェニル)シラン、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(1−ナフチル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(NPB)のような低分子材料またはポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−co−N−(4−ブチルフェニル)ジフェニルアミン)(TFB)、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−co−ビス−N,N’−(4−ブチルフェニル)−ビス−N,N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミン(PFB)、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−co−ビス−N,N−(4−ブチルフェニル)−ビス−N,N−フェニルベンジジン(BFE)のような高分子材料を使用して形成しうる。前記正孔輸送層13は、気相蒸着(ベーパーデポジション)法、スピンコーティング法、インクジェットプリント法またはレーザ熱転写法を使用して形成しうる。
【0025】
前記有機発光層14は、燐光発光層または蛍光発光層でありうる。前記有機発光層14が蛍光発光層である場合、前記有機発光層14は、ジスチリルアリーレン(DSA)、ジスチリルアリーレン誘導体、ジスチリルベンゼン(DSB)、ジスチリルベンゼン誘導体、DPVBi(4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−1,1’−ビフェニル)、DPVBi誘導体、スピロ−DPVBi及びスピロ−6Pからなる群から選択される一つの物質を含みうる。さらに、前記有機発光層14は、スチリルアミン系、フェリレン系及びDSBP(Distyrylbiphenyl:ジスチリルビフェニール)系からなる群から選択される一つのドーパント物質をさらに含みうる。
【0026】
これとは異なり、前記有機発光層14が燐光発光層である場合、前記有機発光層14は、ホスト物質としてアリルアミン系、カルバゾール系及びスピロ系からなる群から選択される一つの物質を含みうる。望ましくは、前記ホスト物質は、CBP(4,4−N,N−ジカルバゾール−ビフェニル)、CBP誘導体、mCP(N,N−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン)、mCP誘導体、及びスピロ系誘導体からなる群から選択される一つの物質である。これに加えて、前記有機発光層14は、ドーパント物質としてIr、Pt、Tb、及びEuからなる群から選択される一つの中心金属を有する燐光有機金属錯体を含みうる。さらに、前記燐光有機金属錯体は、PQIr、PQIr(acac)、PQ2Ir(acac)、PIQIr(acac)及びPtOEPからなる群から選択される一つでありうる。
【0027】
フルカラー有機電界発光素子の場合、前記有機発光層14は、高解像度マスクを使用した真空蒸着(ベーパーデポジション)法、インクジェットプリント法またはレーザ熱転写法を使用して形成しうる。
【0028】
前記有機発光層14上に正孔阻止層(図示せず)が位置しうる。前記正孔阻止層は、有機電界発光素子の駆動過程において、前記有機発光層14で生成されたエキシトン(励起子)が広がることを抑制する役割を行う。このような正孔阻止層は、Balq、BCP、CF−X、TAZまたはスピロ−TAZを使用して形成しうる。
【0029】
前記有機機能膜Fは、前記有機発光層14上に位置する電子輸送層15をさらに備えうる。前記電子輸送層15の伝導帯(LUMO)のエネルギーは、約2.8ないし3.5eVでありうる。このような前記電子輸送層15は、前記有機発光層14への電子の輸送を容易にする層であって、例えば、PBD、TAZ、スピロ−PBDのような高分子材料またはAlq3、BAlq、SAlqのような低分子材料を使用して形成しうる。前記電子輸送層15は、真空蒸着法、スピンコーティング法、インクジェットプリント法またはレーザ熱転写法を使用して形成しうる。
【0030】
前記有機機能膜F上に透明伝導性酸化膜であるカソードCが位置する。したがって、前記有機発光層14内で放出された光は、前記カソードCを通じてほとんど透過されることによって、共振効果が除去される。その結果、視野角による輝度変化及び色転移が除去される。前記カソードCは、インジウム酸化膜、インジウムスズ酸化膜、スズ酸化膜、インジウム亜鉛酸化膜、アルミニウム亜鉛酸化膜、アルミニウムスズ酸化膜またはアルミニウムインジウム酸化膜でありうる。このようなカソードCは、4.8ないし5.2eVの仕事関数を有しうる。
【0031】
前記カソードCは、プラズマ支援熱蒸発法(プラズマ アシステッド サーマル デポジション)を使用して形成しうる。一般的な熱蒸発法は、坩堝に固体材料を入れ、坩堝に固体材料の融点や昇華点以上の温度を加えて前記固体材料を蒸発させ、前記蒸発された材料を基板上に積層する方法である。一般的な熱蒸発法を使用して透明伝導性酸化膜であるカソードCを形成する場合、適切な透光率及び伝導性を得るために、基板温度を250ないし300℃に維持せねばならない。250ないし300℃ほどの高い温度は、前記有機機能膜Fを熱損傷させる恐れがある。
【0032】
しかし、前記プラズマ支援熱蒸発法は、前記蒸発された材料に比較的弱い強度を有するプラズマを加えてイオン化させた後、基板上に積層する方法である。前記プラズマ支援熱蒸発法を使用して透明伝導性酸化膜であるカソードCを形成するとき、前記基板10は、約100℃、具体的には、約80℃以下の低い温度を維持しうる。したがって、低い熱的安定性を有する前記有機機能膜Fに対する熱損傷が避けられる。前記プラズマ支援熱蒸発法を使用して形成した透明伝導性酸化膜であるカソードCは、可視光線波長範囲全体にわたって85%以上の高い透過度を表し、20〜70Ω/□の低いシート抵抗を表す。前記プラズマは、酸素プラズマまたは非活性ガスプラズマでありうる。前記非活性ガスは、Arでありうる。前記材料が金属である場合、前記プラズマは、酸素を必須的に含む。このようなプラズマ支援熱蒸発法は、0.1〜0.5mTorrの真空度、5〜30sccmの非活性ガス、3〜40sccmの酸素ガス条件で行われる。
【0033】
ところで、前記カソードCを形成する他の方法である一般的なスパッタリング法の場合、蒸発されていない固体材料にプラズマを加えて前記材料の表面から原子または分子をスパッタさせた後、前記スパッタされた原子または分子を有機機能膜F上に積層する方法である。このときの前記プラズマの強度は、非常に高くて、前記有機機能膜Fを物理的に損傷させる。一方、プラズマ支援熱蒸発法の場合、熱とプラズマとを共に使用して、固体材料からイオン化された蒸気を得るために、比較的低い強度のプラズマを適用しうる。したがって、プラズマ支援熱蒸発法を使用して透明伝導性酸化膜であるカソードCを形成する場合、前記有機機能膜Fは、物理的に損傷されない。
【0034】
結論的に、プラズマ支援熱蒸発法を使用して透明伝導性酸化膜であるカソードCを形成することによって、前記有機機能膜Fに熱的損傷及び物理的損傷を与えることなく透光率及び伝導性の良好な透明伝導性酸化膜であるカソードCを形成しうる。
【0035】
前記有機機能膜Fと前記カソードCとの間に電子注入強化層17がさらに位置しうる。前記電子注入強化層17は、前記カソードCに比べて仕事関数が低い膜であって、前記有機機能膜Fへの電子注入を強化させうる膜である。具体的には、前記電子注入強化層17は、3.6ないし3.7eVの仕事関数を有する金属層であって、表面深さ或いは表皮厚(スキンデプス)未満の厚さを有しうる。前記表面深さ未満の厚さは、ほぼ100%の透光度を有する薄い厚さを意味する。その結果、前記電子注入強化層17は、全体透光度を低下させずに、前記有機機能膜Fへの電子注入を強化させうる。これにより、前記電子輸送層15と前記電子注入強化層17との間に追加的な電子注入層を形成せずとも、有機電界発光素子は、低い駆動電圧特性及び高い発光効率特性を表せる。すなわち、前記電子注入強化層17は、前記電子輸送層15と直接的に接触するように形成される。前記電子注入強化層17は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)またはインジウム(In)を含み、その厚さは、約70Å(約7nm)でありうる。望ましくは、前記電子注入強化層17は、Mg層、Ca層またはIn層でありうる。
【0036】
図2A及び図2Bは、それぞれ一般的なスパッタリング法を使用して形成したインジウム酸化膜と、プラズマ支援蒸発法を使用して形成したインジウム酸化膜との走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)写真である。参考として、前記スパッタリング法で、基板温度は200℃に維持され、前記プラズマ支援蒸発法で、基板温度は80℃に維持され、ITO膜の厚さは、何れも1000Å(100nm)であった。
【0037】
図2A及び図2Bを参照すれば、スパッタリング法を使用して形成したインジウム酸化膜(図2A)は、結晶粒子が非常に大きくて不均一である一方、プラズマ支援蒸発法を使用して形成したインジウム酸化膜(図2B)は、結晶粒子が小さくて均一に形成された。これと共に、前記スパッタリング法を使用して形成したインジウム酸化膜のシート抵抗は、400Ω/□であり、前記プラズマ支援蒸発法を使用して形成したインジウム酸化膜のシート抵抗は、31.7Ω/□であった。
【0038】
図3は、プラズマ支援蒸発法を使用して形成したインジウム酸化膜の波長に対する透過度を示すグラフである。
【0039】
図3を参照すれば、可視光線の波長範囲全体にわたって85%以上の透過度を示した。
【0040】
以下、本発明の理解を助けるために、望ましい実験例を提示し、透明伝導性酸化膜であるカソードを備える有機電界発光素子の特性評価について説明する。但し、下記の実験例は、本発明の理解を助けるためのものに過ぎず、本発明が下記の実験例によって限定されるものではない。
【0041】
・透明伝導性酸化膜であるカソードを備える有機電界発光素子の特性評価:
<製造例>
基板上に金(Au)を使用してアノードを形成し、前記アノード上にNPDを50nmの厚さに積層することによって、正孔輸送層を形成した。前記正孔輸送層上にDSA(distyrylarylene)100重量部とTBPe(テトラ(t−ブチル)ペリーレン)3重量部とを共蒸着することによって、厚さが30nmである青色発光層を形成した。前記発光層上にBalq(ビス(2−メチル−8−キノラート)−(p−フェニルフェノラート)−アルミニウム)を5nmの厚さに積層して正孔阻止層を形成した。前記正孔阻止層上にBebq2を20nmの厚さに積層して電子輸送層を形成した。前記電子輸送層上にLiFを1nmの厚さに積層して電子注入層を形成した。前記電子注入層上にプラズマ支援熱蒸発法を使用してインジウム酸化膜を積層してカソードを形成した。
【0042】
<比較例1>
電子注入層上にスパッタリング法を使用してインジウム酸化膜を積層してカソードを形成したことを除いては、製造例と同じ方法を使用して有機電界発光素子を製造した。
【0043】
<比較例2>
基板上にインジウムスズ酸化膜を積層してアノードを形成し、前記アノード上にCuPcを60nmの厚さに積層することによって正孔注入層を形成し、前記正孔注入層上にNPDを30nmの厚さに積層することによって正孔輸送層を形成した。前記正孔輸送層上にDSA 100重量部とTBPe 3重量部とを共蒸着することによって、厚さが25nmである青色発光層を形成した。前記発光層上にBalqを5nmの厚さに積層して正孔阻止層を形成し、前記正孔阻止層上にAlq3を20nmの厚さに積層して電子輸送層を形成し、前記電子輸送層上にLiFを1nmの厚さに積層して電子注入層を形成し、前記電子注入層上に熱蒸発(サーマルエバポレーション)法を使用してアルミニウムを積層してカソードを形成した。
【0044】
図4は、製造例及び比較例1による有機電界発光素子の電流密度−電圧特性を示すグラフである。
【0045】
図4を参照すれば、比較例1による有機電界発光素子は、逆バイアス領域で比較的大きい漏れ電流を表す。したがって、スパッタリング法を使用して透明伝導性酸化膜であるカソードを形成した場合、有機膜の有機結合が破壊されたか、または損傷されたということが分かる。一方、製造例による有機電界発光素子は、逆バイアス領域で10−5mA以下の低い電流密度を表す。
【0046】
図5は、製造例及び比較例2による有機電界発光素子の電流密度−電圧特性を示すグラフである。前記比較例2による有機電界発光素子は、4.8eVの仕事関数を有するインジウムスズ酸化膜であるアノード及び4.3eVの仕事関数を有するアルミニウム膜であるカソードを備える商用化された素子である。一方、製造例による有機電界発光素子は、5.6eVの仕事関数を有する金膜であるアノードと、4.8eVの仕事関数を有するインジウム酸化膜であるカソードとを備えている。言い換えると、前記製造例による有機電界発光素子の電極の仕事関数は、前記比較例2における電極の仕事関数よりもより高いレベルにシフトされている。しかし、図5を参照すれば、製造例による有機電界発光素子と比較例2による有機電界発光素子とは、ほぼ類似した電流密度−電圧特性を表す。したがって、前記製造例のように仕事関数が上向きに高いレベルにシフトされた電極を備える有機電界発光素子も安定的に作動するということが分かる。
【0047】
以上、本発明を望ましい実施形態を例として詳細に説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されず、本発明の技術的思想及び範囲内で当業者によって多様な変形及び変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、有機電界発光素子関連の技術分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態による有機電界発光素子を示す断面図である。
【図2A】一般的なスパッタリング法を使用して形成したインジウム酸化膜のSEM写真である。
【図2B】プラズマ支援蒸発法を使用して形成したインジウム酸化膜のSEM写真である。
【図3】プラズマ支援蒸発法を使用して形成したインジウム酸化膜の波長に対する透過度を示すグラフである。
【図4】製造例及び比較例1による有機電界発光素子の電流密度−電圧特性を示すグラフである。
【図5】製造例及び比較例2による有機電界発光素子の電流密度−電圧特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
10 素子基板
13 正孔輸送層
14 有機発光層
15 電子輸送層
17 電子注入強化層
A アノード
C カソード
F 有機機能膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子基板上に位置するアノードと、
前記アノード上に位置し、少なくとも有機発光層を備える有機機能膜と、
前記有機機能膜上に位置し、透明伝導性酸化膜であるカソードと、
を備えることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記透明伝導性酸化膜は、プラズマ支援熱蒸発法を使用して形成したことを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記透明伝導性酸化膜は、インジウム酸化膜、インジウムスズ酸化膜、スズ酸化膜、インジウム亜鉛酸化膜、アルミニウム亜鉛酸化膜、アルミニウムスズ酸化膜またはアルミニウムインジウム酸化膜であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記有機機能膜と前記カソードとの間に位置する電子注入強化層をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記電子注入強化層は、表面深さ未満の厚さを有する金属層であることを特徴とする請求項4に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記電子注入強化層は、Mg、CaまたはInを含有することを特徴とする請求項4に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記アノードは、AuまたはPtを含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記アノードは、透明伝導性酸化物質に絶縁酸化物質がドーピングされた膜であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記透明伝導性酸化物質は、インジウム酸化物、インジウムスズ酸化物、スズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、アルミニウム亜鉛酸化物、アルミニウムスズ酸化物またはアルミニウムインジウム酸化物であり、
前記絶縁酸化物質は、ランタン酸化物、イットリウム酸化物、ベリリウム酸化物、チタン酸化物、シリコン酸化物、ガリウム酸化物、パラジウム酸化物またはサマリウム酸化物であることを特徴とする請求項8に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
素子基板上にアノードを形成する工程と、
前記アノード上に少なくとも有機発光層を備える有機機能膜を形成する工程と、
前記有機機能膜上に透明伝導性酸化膜のカソードを形成する工程と、
を含むことを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記透明伝導性酸化膜は、プラズマ支援熱蒸発法を使用して形成することを特徴とする請求項10に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記透明伝導性酸化膜は、インジウム酸化膜、インジウムスズ酸化膜、スズ酸化膜、インジウム亜鉛酸化膜、アルミニウム亜鉛酸化膜、アルミニウムスズ酸化膜またはアルミニウムインジウム酸化膜であることを特徴とする請求項10に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記カソードを形成する前に、前記有機機能膜上に電子注入強化層を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項14】
前記電子注入強化層は、表面深さ未満の厚さを有する金属層で形成することを特徴とする請求項13に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項15】
前記電子注入強化層は、Mg、CaまたはInを含有することを特徴とする請求項14に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項16】
前記アノードは、AuまたはPtを含有することを特徴とする請求項10に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項17】
前記アノードは、透明伝導性酸化物質に絶縁酸化物質がドーピングして形成することを特徴とする請求項10に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項18】
前記透明伝導性酸化物質は、インジウム酸化物、インジウムスズ酸化物、スズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、アルミニウム亜鉛酸化物、アルミニウムスズ酸化物またはアルミニウムインジウム酸化物であり、
前記絶縁酸化物質は、ランタン酸化物、イットリウム酸化物、ベリリウム酸化物、チタン酸化物、シリコン酸化物、ガリウム酸化物、パラジウム酸化物またはサマリウム酸化物であることを特徴とする請求項17に記載の有機電界発光素子の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2008−258157(P2008−258157A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65866(P2008−65866)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】